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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】撮像装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 7/34 20210101AFI20241107BHJP
   G03B 13/36 20210101ALI20241107BHJP
   H04N 23/68 20230101ALI20241107BHJP
   H04N 25/70 20230101ALI20241107BHJP
   H04N 25/704 20230101ALI20241107BHJP
【FI】
G02B7/34
G03B13/36
H04N23/68
H04N25/70
H04N25/704
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020140748
(22)【出願日】2020-08-24
(65)【公開番号】P2022036505
(43)【公開日】2022-03-08
【審査請求日】2023-07-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】菊地 幸大
(72)【発明者】
【氏名】船津 良平
(72)【発明者】
【氏名】安江 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】冨岡 宏平
(72)【発明者】
【氏名】松原 智樹
(72)【発明者】
【氏名】山下 誉行
【審査官】藏田 敦之
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-236411(JP,A)
【文献】特開2013-229764(JP,A)
【文献】特開2012-141585(JP,A)
【文献】特開2016-028265(JP,A)
【文献】特開2016-099416(JP,A)
【文献】特開2018-18032(JP,A)
【文献】特開2019-45725(JP,A)
【文献】特開2020-3686(JP,A)
【文献】国際公開第2017/175579(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/146996(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0182896(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 7/28 - 7/40
G03B 3/00 - 3/12
G03B 13/30 -13/36
G03B 21/53
H04N 23/67
H04N 25/70 -25/705
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズを介して撮像を行う撮像装置であって、
特定色の画素に、開口状態が異なる2種類の位相差検出画素を配置したイメージセンサと、
前記イメージセンサから、前記開口状態が同じ種類の位相差検出画素の画素値をそれぞれ読み出して、位相差情報となる2つの位相差画像を生成する位相差情報読み出し部と、
前記2つの位相差画像の位相差を検出する位相差検出部と、
前記特定色に応じた開口偏心を補正する補正係数により位相差を補正し、補正した位相差からフォーカスずれ量を算出するフォーカスずれ量算出部と、
を備えることを特徴とする撮像装置。
【請求項2】
前記位相差検出部は、前記2つの位相差画像をブロックマッチングした相対位置ベクトルを前記位相差として検出することを特徴とする請求項1に記載の撮像装置。
【請求項3】
前記位相差検出部は、前記位相差検出画素の2種類の異なる開口の配置方向にブロックマッチングを行うことを特徴とする請求項2に記載の撮像装置。
【請求項4】
前記フォーカスずれ量算出部で算出されたフォーカスずれ量に応じた距離を駆動量として、前記レンズのフォーカス位置を制御するフォーカス制御部をさらに備えることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の撮像装置。
【請求項5】
前記2つの位相差画像から、それぞれ、予め設定された、または、外部から指定された注目領域を切り出して、前記位相差検出部で位相差を検出するための画像を生成する注目領域切り出し部をさらに備えることを特徴とする請求項1または請求項4のいずれか一項に記載の撮像装置。
【請求項6】
前記位相差検出部の前段に、前記位相差を検出する画像間の感度のピーク値がマッチングするように感度差を補正する感度補正部をさらに備えることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の撮像装置。
【請求項7】
前記位相差検出画素の画素値を、前記位相差検出画素の周辺の前記特定色の画素の画素値で補間する画素補間部をさらに備えることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、像面位相差検出技術を用いた撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、撮像装置に対し、オートフォーカス機能や画像と同時に奥行き情報を取得する機能を付加するニーズが増えている。これら機能の実現には、撮像した映像から任意の被写体に対する合焦状態を検出する技術、および、検出した合焦状態からレンズフォーカス位置と被写体位置との差分に応じた距離情報(フォーカスずれ量)を正確に見積もるための技術が重要となる。
【0003】
撮像した映像から被写体の合焦状態を検出する手法として、像面位相差検出技術がよく知られている。像面位相差検出技術は、形状が互いに異なる2つ以上の射出瞳に応じた入射光感度を持つ画素(位相差検出画素)からなるイメージセンサを用いて、合焦状態に応じて入射光感度が変化する結像面上の相対距離ベクトル、すなわち、位相差を求める手法である(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1に記載の手法は、像面位相差検出技術を用いたオートフォーカスの手法の一例である。特許文献1に記載の手法は、射出瞳を領域で分割した複数の像面位相差画素を用いて、それぞれの画素から生成される画像の空間的ずれ量から位相差(文献ではデフォーカス量と定義)を算出し、その位相差からレンズフォーカスの駆動量を決定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-99416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1には、像面位相差画素の画像から算出した位相差から、フォーカスずれ量を算出する手順や、レンズフォーカスの駆動量を決定する手順は明示されていない。一般に、像面位相差検出技術で得られる位相差は、位相差画素の入射光感度が持つ波長依存性により、誤差を含むことが知られている。
そのため、従来の手法では、正確なフォーカスずれ量を検出することが困難であるという問題がある。
【0007】
本発明は、このような従来の問題点に鑑みてなされたもので、正確なフォーカスずれ量を検出することが可能な撮像装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明に係る撮像装置は、レンズを介して撮像を行う撮像装置であって、イメージセンサと、位相差情報読み出し部と、位相差検出部と、フォーカスずれ量算出部と、を備える構成とした。
【0009】
かかる構成において、撮像装置は、位相差情報読み出し部によって、特定色の画素に、開口状態が異なる2種類の位相差検出画素を配置したイメージセンサから、開口状態が同じ種類の位相差検出画素の画素値をそれぞれ読み出して、2つの位相差画像を生成する。この2つの位相差画像は、同じ被写体に対して、異なる開口で撮像された画像であるため、位相差が生じている。
そして、撮像装置は、位相差検出部によって、2つの位相差画像の位相差を、ブロックマッチング等によって検出する。
【0010】
また、撮像装置は、フォーカスずれ量算出部によって、特定色に応じた開口偏心を補正する補正係数により位相差を補正し、補正した位相差からフォーカスずれ量を算出する。なお、特定色は波長が特定されており、その波長に応じて開口偏心を補正する補正係数は、予め測定により求めることができる。
【0011】
このように、撮像装置は、特定色の画素に、開口状態が異なる2種類の位相差検出画素を配置したイメージセンサを用いることで、特定色の波長のみに依存した開口偏心を特定することができる。これによって、撮像装置は、位相差とフォーカスずれ量との関係を幾何モデルとして特定することが可能になり、位相差から精度よくフォーカスずれ量を算出することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、以下に示す優れた効果を奏するものである。
本発明によれば、特定色の波長のみに依存した幾何モデルで、位相差からフォーカスずれ量を算出することができるため、他の色の波長の影響を受けずに、精度よくフォーカスずれ量を算出することができる。
これによって、本発明は、精度よくフォーカスの合った被写体像を撮像することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態に係る撮像装置の構成を示すブロック図である。
図2図1の撮像装置のイメージセンサの構成を示す図であって、(a)は正面図、(b)は側面図である。
図3図1の撮像装置のイメージセンサにおける位相差検出画素に対応する画素単位の構造図であって、(a)は左側半分に開口を備えた画素構造、(b)は右側半分に開口を備えた画素構造を示す。
図4】位相差検出画素をG画素の一部に形成し、イメージセンサに撮像される撮像面の色構造の例を示す図である。
図5】フォーカスずれ量を算出するための幾何モデルを説明するための説明図である。
図6】光の入射角と位相差画素の感度との関係を測定したグラフ図である。
図7】フォーカス位置と、イメージセンサへの入射角範囲との関係を示す模式図である。
図8】予め測定により求めた入射角範囲と補正係数との関係の一例を示すグラフ図である。
図9】入射角範囲と補正係数との対応関係をイメージセンサの複数の領域で区分したルックアップテーブルの構成例を示す図である。
図10】本発明の実施形態に係る撮像装置の動作を示すフローチャートである。
図11】実際のフォーカスずれ量と算出したフォーカスずれ量との関係を示すグラフ図で、(a)は補正係数を使用しない場合、(b)は補正係数を使用した場合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[撮像装置の構成]
まず、図1を参照して、本発明の実施形態に係る撮像装置1の構成について説明する。
撮像装置1は、レンズ10を介して撮像を行うものである。特に、撮像装置1は、フォーカスのずれ量を検出して、精度よく被写体を撮像するものである。
図1に示すように、撮像装置1は、レンズ10と、イメージセンサ11と、位相差情報読み出し部12と、感度補正部13と、位相差検出部14と、フォーカスずれ量算出部15と、フォーカス制御部16と、画素補間部17と、画像処理部18と、を備える。
【0015】
レンズ10は、被写体の物体像をイメージセンサ11の撮像面に結像させるものである。レンズ10は、1または複数の光学レンズで構成された一般的なカメラレンズを用いることができる。なお、レンズ10は、撮像装置1と分離可能な構成であってもよい。
ここでは、レンズ10は、レンズドライバ10aを備える。
【0016】
レンズドライバ10aは、レンズ10のフォーカス位置を駆動するものである。レンズドライバ10aは、後記するフォーカス制御部16から出力される駆動量に応じて、レンズ10のフォーカス位置を光軸方向に移動させる。
【0017】
イメージセンサ11は、特定色の画素に、開口状態が異なる像面位相差検出を行うための少なくとも2種類の位相差検出画素を配置したものである。ここで、開口状態とは、開口の位置、形状、もしくはその両方である。
このイメージセンサ11は、レンズ10を介して入射される光を画像に変換する。なお、ここでは、単板撮像方式のイメージセンサの例で説明する。
【0018】
ここで、図2および図3を参照して、イメージセンサ11の構造について説明する。
図2に示すように、イメージセンサ11は、マイクロレンズアレイ11aと、カラーフィルタ11bと、開口を有する配線層11cと、フォトダイオード11dと、を備える。
【0019】
マイクロレンズアレイ11aは、マイクロレンズ(凸レンズ)を二次元に配列したレンズ群である。マイクロレンズアレイ11aは、個々のマイクロレンズが画素に対応し、マイクロレンズの焦点距離に配置したフォトダイオード11dに入射光を照射する。
【0020】
カラーフィルタ11bは、特定色の波長の光を透過させる狭帯域の透過スペクトルを有すフィルタである。ここでは、カラーフィルタ11bを、赤(R)、緑(G)、青(B)を1:2:1の比率としたRGBのベイヤ配列のフィルタとするが、その他の色や配列であっても構わない。
【0021】
配線層11cは、フォトダイオード11dの電圧の入出力等を行う配線を形成した層である。この配線層11cにおいて、配線を形成しない透過領域が有効画素領域であって、入射光をフォトダイオード11dに導く。
【0022】
フォトダイオード11dは、入射光を電気信号に変換するものである。このフォトダイオード11dの入射面が、像を撮像する撮像面となる。
なお、ここでは、予め定めた位置に対応する位相差検出画素に対して、配線層11cの開口状態を変え、フォトダイオード11dへの光を部分的に遮光する。
【0023】
例えば、図3に示すように、配線層11cによって、左右それぞれの光を50%遮光する。図3(a)は、フォトダイオード11dの左側Lの開口Hにより光が照射するように配線層11cを形成した例、図3(b)は、フォトダイオード11dの右側Rの開口Hにより光が照射するように配線層11cを形成した例である。なお、遮光領域を形成するためには、専用の遮光板を設けてもよいが、配線層11cを利用するほうが、構造上効率的である。
なお、位相差検出画素は、撮像面において、同じ色、例えばG画素の一部または全部とする。もちろん、R画素、B画素を位相差検出画素としてもよい。また、ここでは、水平方向に開口位置を変えたが、垂直方向に開口位置を変えてもよい。
【0024】
図4に、位相差検出画素を撮像面のG画素の一部に形成し、イメージセンサ11に撮像される撮像面の色構造の例を示す。
図4は、G(G)画素の一部を位相差検出画素として配置し、左右それぞれの入射光を遮光した位相差検出画素(左目位相差検出画素Lおよび右目位相差検出画素R)を、交互に所定間隔で二次元配列したときの撮像面の例である。
このように、イメージセンサ11は、入射光から、各色の画素および位相差検出画素の画素値で構成された撮像画像を生成する。
図1に戻って、撮像装置1の構成について説明を続ける。
イメージセンサ11は、撮像画像を位相差情報読み出し部12に出力する。
【0025】
位相差情報読み出し部12は、イメージセンサ11から、開口状態が同じ種類の位相差検出画素の画素値をそれぞれ読み出して、位相差情報となる2つの位相差画像を生成するものである。
ここでは、位相差情報読み出し部12は、注目領域切り出し部12aを備える。
【0026】
注目領域切り出し部12aは、位相差情報読み出し部12で読み出す2つの位相差画像から、それぞれ注目領域を切り出すものである。
注目領域は、特に限定するものではないが、例えば、外部から人手を介して指定される領域である。この場合、操作者は、図示を省略したモニタを介して撮像装置1の出力画像を認識し、操作者が特にフォーカスを合わせたい被写体等を矩形領域等で指定する。もちろん、この注目領域は、人物、物体検出等の既存の機械学習済のモデルを用いて特定することとしてもよい。あるいは、注目領域は、撮像画像の中央等の予め設定された領域としてもよい。
【0027】
注目領域切り出し部12aは、撮像画像の注目領域から、位相差検出画素の画像をそれぞれ切り出して位相差画像(左目位相差画像L,右目位相差画像R)を生成する。
例えば、イメージセンサ11が、図4に示した画素構造の場合、注目領域切り出し部12aは、撮像画像から、注目領域内の左目位相差検出画素Lのみで構成される画像を左目位相差画像Lとして切り出す。また、注目領域切り出し部12aは、右目位相差検出画素Rのみで構成される画像を右目位相差画像Rとして切り出す。
注目領域切り出し部12aは、生成した左目位相差画像Lおよび右目位相差画像Rを感度補正部13に出力する。
また、位相差情報読み出し部12は、イメージセンサ11で撮像された画像のうち、位相差検出画素を欠落画素とする画像を、画素補間部17に出力する。
【0028】
感度補正部13は、位相差情報読み出し部12(注目領域切り出し部12a)で生成された位相差画像(左目位相差画像L,右目位相差画像R)間の感度差(輝度差、コントラスト差)を補正するものである。
【0029】
例えば、感度補正部13は、左目位相差画像Lおよび右目位相差画像Rのそれぞれの感度のピーク値(最大値、最小値)がマッチング(一致)するように、各画像を正規化する。あるいは、感度補正部13は、一般的なヒストグラムマッチング手法を用いて、左目位相差画像Lおよび右目位相差画像Rの感度差を補正してもよい。あるいは、感度補正部13は、位相差検出画素の予め設計あるいは測定された遮光率、画素感度等から求められる感度を一致させる係数を乗算することで、左目位相差画像Lおよび右目位相差画像Rの感度差を補正してもよい。
感度補正部13は、補正後の左目位相差画像L′および右目位相差画像R′を、位相差検出部14に出力する。
【0030】
位相差検出部14は、感度を補正した左目位相差画像L′および右目位相差画像R′の画像間の位相差Pdifを検出するものである。この画像間の位相差Pdifは、相対位置ベクトルの大きさとして求めることができる。
【0031】
例えば、位相差検出部14は、左目位相差画像L′と右目位相差画像R′とをブロックマッチングすることで相対位置ベクトルの大きさを求める。なお、ブロックマッチングのブロックの探索方向は、開口の配置方向(遮光方向)に準じることとする。例えば、ここでは、位相差画像は、図4に示したように、左目位相差検出画素Lと右目位相差検出画素Rとで、水平方向に開口位置が異なる。そこで、位相差検出部14は、ブロックマッチングの探索方向を水平方向とする。
【0032】
また、位相差検出部14は、ブロックマッチングを行う際に、探索単位を画素よりも小さいサブピクセル単位とする。これによって、位相差検出部14は、イメージセンサ11の画素単位よりも、さらに微細に精度よく位相差を検出することができる。
位相差検出部14は、検出した位相差Pdifを、フォーカスずれ量算出部15に出力する。
【0033】
フォーカスずれ量算出部15は、特定色に応じた開口偏心を補正する補正係数により、位相差検出部14で検出された位相差Pdifを補正し、補正した位相差からフォーカスずれ量を算出するものである。
このフォーカスずれ量算出部15は、レンズフォーカス距離と実際の被写体までの距離とのずれ量を表した幾何モデルと、位相差検出画素の入射光感度で規定される補正係数と、位相差とを用いて、フォーカスずれ量を算出する
【0034】
ここで、図5を参照して、フォーカスずれ量算出部15におけるフォーカスずれ量の算出手法について説明する。
図5は、紙面上下方向の下半分が遮光された位相差画素を用いた場合のレンズフォーカス距離と実際の被写体までの距離(被写体距離)とのずれ量を模式的に表した幾何モデルを示す図である。ここで、レンズ10は、光学系を模式的に凸レンズとして表している。
フォーカスずれ量算出部15は、図5の幾何モデルにより、フォーカスずれ量Xを、以下の式(1)により算出する。
【0035】
【数1】
【0036】
図5の幾何モデルは、レンズ10の射出瞳(絞りによって決まる有効口径)の開口偏心を通過した被写体Oの光線がイメージセンサ11の撮像面の像高が“0”、すなわち、中央に結像するまでの光路を示すモデルである。なお、イメージセンサ11の位相差画素は、レンズ10の半分が50%遮光されることと等価である。また、レンズ10の開口形状(位相差画素の開口形状)で一意に定まる理想的な開口偏心をA、光線の波長に依存して生じる開口偏心の誤差を補正するための補正係数をCとする。すなわち、A×Cは、補正後の開口偏心を示す。
【0037】
前記式(1)~(4)において、Lはフォーカスが合った状態の被写体Oからイメージセンサ11の撮像面までのレンズフォーカス距離、Tはフォーカスが合っていない状態の被写体O′からイメージセンサ11の撮像面までの被写体距離を示す。
また、Lobjは被写体Oからレンズ10の主点までの距離、Tobjは被写体O′からレンズ10の主点までの距離を示す。
また、Limgはレンズ10の主点からイメージセンサ11の撮像面までの距離、Timgはレンズ10の主点から被写体光がレンズ10の光軸に達するまでの距離を示す。
また、fはレンズ10の焦点距離を示す。
【0038】
また、前記式(3)におけるDは、被写体O′からレンズ10の開口偏心を通過した光線のイメージセンサ11の撮像位置である。
このDは、位相差検出部14で検出された位相差Pdifと、位相差画素の画素ピッチPとから、前記式(4)で算出することができる。なお、位相差画素の画素ピッチPは、予め設定された既知の情報である。
【0039】
また、前記式(3)における開口偏心A×Cのうち、Aはレンズ10の開口領域の重心であって、本実施形態の例では50%遮光であるため、理想的にはA=0.25×f/Fである。ただし、開口偏心は、光の波長によって変動する。そこで、ここでは、開口偏心の誤差を補正するための補正係数Cを用いる。この補正係数Cは、特定の光(ここでは、G光)の開口偏心の誤差を補正する予め測定された係数であって、0以上1以下の実数である。なお、F値は、レンズ10の焦点距離と射出瞳(有効口径)との比である。
【0040】
(補正係数について)
以下、補正係数Cについて、具体的に説明する。
図6は、R画素、G画素、B画素をそれぞれ位相差検出画素とした場合の光の入射角[deg.]と位相差画素の感度[a.u.]との関係を測定したグラフ図である。図6に示すように、光の入射角および波長によって、イメージセンサ11の感度は異なる。
ただし、撮像装置1は、位相差検出画素を特定の色の画素(ここでは、G画素)に限定しているため、特定の色の波長のみを考慮すればよいことになる。
【0041】
イメージセンサ11に対する光の入射角範囲は、イメージセンサ11のF値(Fナンバー)およびフォーカス位置により決まる。
図7は、F値およびフォーカス位置と、イメージセンサ11への入射角範囲との関係を示す模式図である。ここで、入射角範囲θは、以下の式(5)で求めることができる。なお、無限遠の被写体を撮影した場合の最大入射角範囲θmaxは、f=Timgであるため、以下の式(6)となる。
【0042】
【数2】
【0043】
実際の撮像系では、f/Timgがほぼ“1”となり、値の変動もアークタンジェント(tan-1)の変分に対して十分に小さいため、入射角範囲は、前記式(6)によりF値のみで特定してもよい。この場合、F=2.2であれば、入射角範囲θmaxはおおよそ-12~+12(deg.)となる。
そして、図6に示した入射角と感度とに基づいて、入射角範囲θ(例えば、-12~+12)に対応する感度重心角度(θ,θ,θ)と、理想的な感度重心角度(0.5×θ)との比から、以下の式(7)により、入射角範囲θの開口偏心に対応する補正係数(C,C,C)を求める。ここで、理想的な感度重心角度は、位相差画素の感度が、感光側(左目位相差検出画素の場合、正の入射角範囲)で一定の値を持ち、遮光側(左目位相差検出画素の場合、負の入射角範囲)で“0”となる場合を仮定する。
【0044】
【数3】
【0045】
図8に、予め測定により求めた入射角範囲と補正係数との関係の一例を示す。
例えば、F=2.2であれば、入射角範囲は約±12度となるため、位相差検出画素にR画素を用いる場合、補正係数Cを“0.24”、G画素を用いる場合、補正係数Cを“0.36”、B画素を用いる場合、補正係数Cを“0.60”とする。
このF値別の入射角範囲と補正係数との対応関係は、予め図示を省略したメモリにルックアップテーブル(LUT)として予め記憶し、フォーカスずれ量算出部15が参照することとすればよい。
【0046】
なお、入射角に対する感度は、イメージセンサ11の中心部と周辺部とで異なるため、イメージセンサ11を、複数の領域に区分して、それぞれ個別のLUTを設けてもよい。例えば、図4に示した左右で遮光が異なる位相差検出画素を用いた場合、図9に示すように、イメージセンサ11の中心部用のLUT、その左右の周辺用のLUT、LUT、LUTのように、イメージセンサ11を左右の複数の領域に区分した複数のLUTを準備すればよい。
【0047】
図1に戻って、撮像装置1の構成について説明を続ける。
フォーカスずれ量算出部15は、前記式(1)で算出したフォーカスずれ量Xを、フォーカス制御部16に出力する。
【0048】
フォーカス制御部16は、フォーカスずれ量算出部15で算出されたフォーカスずれ量に基づいて、レンズ10のフォーカスを制御するものである。
フォーカス制御部16は、フォーカスずれ量に応じた距離をレンズフォーカスの駆動量として、レンズドライバ10aに出力する。これによって、フォーカスずれが解消する方向に、レンズ10のフォーカス位置が移動する。
【0049】
画素補間部17は、位相差情報読み出し部12から位相差検出画素を欠落画素とする画像を入力し、位相差検出画素を補間するものである。
図4で説明したように、画素補間部17に入力される画像は、位相差検出画素の信号が欠落した欠落画像となっている。そこで、画素補間部17は、補間処理で周辺画素から欠落画素(位相差検出画素)を補間する。なお、補間処理には、公知の一般的な手法を用いればよい。
例えば、図4で示したように、イメージセンサ11の画素構造がベイヤ配列で、G画素を位相差検出画素としている場合、画素補間部17は、欠落画素を、周辺の欠落していないG画素の重み付き平均値により算出する。
画素補間部17は、欠落画素を補間した画像を画像処理部18に出力する。
【0050】
画像処理部18は、画素補間部17で欠落画素を補間された画像から、出力画像を生成するものである。この画像処理部18は、一般的なプロセス回路で構成される。
この画像処理部18は、例えば、ベイヤ配列の画素構造の画像から、RGB各色の画像を生成する。この場合、画像処理部18は、例えば、R画像を生成する場合、ベイヤ配列のR以外の画素を、周辺のR画素で補間することで、R画像を生成する。G画像、B画像についても同様である。
また、画像処理部18は、ホワイトバランス調整、ゲイン調整等、一般的な画像処理を行うこととしてもよい。
画像処理部18は、画像処理後の画像を、撮像装置1の出力画像として出力する。
【0051】
以上説明したように構成することで、撮像装置1は、像面位相差検出において、特定の波長の光のみから、フォーカスずれ量を検出することができる。これによって、撮像装置1は、特定色以外の波長に影響を受けずに、精度よくフォーカスが合った画像を撮像することができる。
【0052】
[撮像装置の動作]
次に、図10を参照(構成については適宜図1参照)して、本発明の実施形態に係る撮像装置1の動作について説明する。
【0053】
ステップS1において、イメージセンサ11は、レンズ10を介して入射される光を撮像する。このイメージセンサ11は、位相差検出画素付きイメージセンサであって、特定の色(ここでは、G)の画素の一部を左目位相差検出画素、右目位相差検出画素として、左右の半分を遮光する。
【0054】
ステップS2において、位相差情報読み出し部12は、ステップS1で撮像された画像から、それぞれ異なる位相差検出画素の画素値を読み出して、位相差画像(左目位相差画像L,右目位相差画像R)を生成する。なお、ここでは、位相差情報読み出し部12は、注目領域切り出し部12aによって、予め設定された注目領域の画像のみを切り出して位相差画像とする。
位相差画像については、ステップS3以降で、位相差検出画素を欠落画素とする撮像画像については、ステップS7以降で、それぞれ並列で処理される。
【0055】
ステップS3において、感度補正部13は、ステップS2で生成された位相差画像(左目位相差画像L,右目位相差画像R)間の感度差を補正する。
ステップS4において、位相差検出部14は、ステップS3で補正された左目位相差画像L′および右目位相差画像R′の画像間の位相差Pdifを、ブロックマッチング等により検出する。
【0056】
ステップS5において、フォーカスずれ量算出部15は、ステップS4で検出された位相差Pdifと、位相差画像の色(ここでは、G)の波長に応じた補正係数で補正した開口偏心とに基づいて、前記式(1)により、フォーカスずれ量を算出する。
ステップS6において、フォーカス制御部16は、ステップS5で算出されたフォーカスずれ量に応じた距離をレンズフォーカスの駆動量として、レンズドライバ10aを制御し、レンズ10のフォーカス位置を移動させる。
【0057】
一方、ステップS7において、画素補間部17は、ステップS2で撮像された位相差検出画素を欠落画素とする撮像画像の欠落画素を周辺画素により補間する。
ステップS8において、画像処理部18は、ステップS7で欠落画素を補間された画像から、出力画像を生成する。ここでは、画像処理部18は、ベイヤ配列の画像からRGB画像を生成したり、ホワイトバランス調整を行ったり、ゲイン調整を行ったり等、一般的な画像処理を行う。
なお、本動作は、撮像を行う間、順次繰り返して実行される。
【0058】
[評価結果]
次に、図11を参照して、撮像装置1におけるフォーカスずれ量の検出性能の評価結果について説明する。図11は、光軸中心で、かつ、イメージセンサ11から2mの距離に設置した白色点光源をレンズ10のフォーカス位置を変えながら撮像した場合のフォーカスずれ量の測定結果を示す。図11の横軸は実際のフォーカスずれ量、縦軸はフォーカスずれ量算出部15で算出したフォーカスずれ量である。なお、ここでは、位相検出画素を、R画素、G画素、B画素とした場合のそれぞれの測定結果を示している。
【0059】
なお、図11(a)は、補正を行わない場合(補正係数C=1)、図11(b)は、位相検出画素の色の波長に応じた補正係数を用いて補正を行った場合を示す。具体的には、位相検出画素をR画素とし場合、C=0.24、位相検出画素をG画素とし場合、C=0.36、位相検出画素をB画素とし場合、C=0.60である。
【0060】
図11(a)に示すように、実際のフォーカスずれ量と算出したフォーカスずれ量とは、誤差が生じている。また、この測定結果では、フォーカスずれ量に波長依存性があることもわかる。入射光の波長が長いほど、例えば、位相検出画素として、B画素よりもG画素、G画素よりもR画素を用いたほうが、誤差が大きくなっている。
これに対し、図11(b)に示すように、位相検出画素の色の波長に応じた補正係数を用いて補正を行うことで、フォーカスずれ量の誤差は小さくなり、精度よくフォーカスずれ量を算出することができる。
【0061】
[変形例]
以上、本発明の実施形態に係る撮像装置1について説明したが、本発明は、この実施形態に限定されるものではない。
【0062】
(変形例1)
ここでは、同じ色の左目位相差検出画素と右目位相差検出画素とから位相差を検出することとしたが、異なる色の位相差検出画素から位相差を検出してもよい。
例えば、左目の色をR、右目の色をBとした場合、フォーカスずれ量算出部15では、得られた位相差に対し(C+C)/2の補正係数を乗ずればよい。
【0063】
(変形例2)
ここでは、イメージセンサ11を、単板撮像方式のイメージセンサとした。
しかし、イメージセンサ11として、3板撮像方式等の多板撮像方式のイメージセンサを用いてもよい。この場合、レンズ10からの入射光を分光プリズム等で各色光に分光し、各色に対応するイメージセンサで撮像を行う。例えば、3板撮像方式の場合、RGBの各イメージセンサのいずれか一つを位相差検出画素付きイメージセンサとすればよい。
【0064】
(変形例3)
ここでは、イメージセンサ11の位相差検出画素を、左半分または右半分を遮光した開口を有する画素とした。
しかし、この開口は、左右に限定されず、上下に設けてもよい。この場合も、予め測定により、補正係数を求めておけばよい。
【0065】
(変形例4)
ここでは、撮像装置1は、位相差からフォーカスずれ量を算出することとしたが、位相差検出部14は、検出した位相差を奥行き情報としてそのまま出力してもよい。
また、ここでは、位相差情報読み出し部12は、撮像画像全体、または、注目領域切り出し部12aで切り出された撮像画像中の注目領域の画像の1つの画像において、位相差を検出した。
しかし、位相差情報読み出し部12は、公知の物体認識技術を用いて、1以上の被写体を検出し、撮像画像を被写体の領域ごとに切り出して、位相差検出部14が被写体ごとに位相差を検出し、奥行き情報として出力してもよい。
なお、撮像装置1を、フォーカスずれ量を算出して、レンズ10のフォーカス位置を制御するように動作するか、複数の被写体の奥行きを出力するように動作するかは、外部から動作モードを切り替えることとすればよい。
【0066】
(その他)
ここでは、撮像装置1は、フォーカス制御部16を備え、自動でレンズ10のフォーカスを制御することとした。しかし、フォーカスずれ量算出部15で算出されるフォーカスずれ量を、図示を省略したモニタ等に表示し、操作者が、そのずれ量に応じて、レンズ10のフォーカスをマニュアル操作してもよい。この場合、撮像装置1から、レンズドライバ10a、フォーカス制御部16を省略して構成することができる。
【0067】
また、ここでは、撮像装置1は、感度補正部13を備える構成とした。しかし、精度の高いイメージセンサ11を用いる場合、必ずしも構成として必要ではなく省略してもよい。もちろん、精度をより高めるため、感度補正部13を備えることが好ましい。
【0068】
また、ここでは、注目領域切り出し部12aを、位相差情報読み出し部12の内部に備える構成としたが、位相差情報読み出し部12から分離して構成してもよい。その場合、位相差情報読み出し部12が、イメージセンサ11から画像全体で位相差検出画素の画素値を読み出して位相差画像を生成し、注目領域切り出し部12aが、その位相差画像から注目領域の画像を切り出せばよい。
【符号の説明】
【0069】
1 撮像装置
10 レンズ
10a レンズドライバ
11 イメージセンサ
12 位相差情報読み出し部
12a 注目領域切り出し部
13 感度補正部
14 位相差検出部
15 フォーカスずれ量算出部
16 フォーカス制御部
17 画素補間部
18 画像処理部
左目位相差検出画素
右目位相差検出画素
,H 開口
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11