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特許7583599半導体単結晶の製造方法および半導体単結晶の製造装置
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  • 特許-半導体単結晶の製造方法および半導体単結晶の製造装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】半導体単結晶の製造方法および半導体単結晶の製造装置
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/06 20060101AFI20241107BHJP
   C30B 15/14 20060101ALI20241107BHJP
   C30B 15/20 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
C30B29/06 502J
C30B15/14
C30B15/20
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020205347
(22)【出願日】2020-12-10
(65)【公開番号】P2022092506
(43)【公開日】2022-06-22
【審査請求日】2023-11-14
(73)【特許権者】
【識別番号】312007423
【氏名又は名称】グローバルウェーハズ・ジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100193378
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 明生
(72)【発明者】
【氏名】仮屋崎 弘昭
(72)【発明者】
【氏名】安部 吉亮
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-327486(JP,A)
【文献】特開2006-225194(JP,A)
【文献】特開2016-204231(JP,A)
【文献】特開平09-208377(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 15/00-15/36;29/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チョクラルスキー法を用いて、原材料の融液から単結晶を育成しながら引き上げる半導体単結晶の製造方法であって、
前記単結晶の径を一定に保つようにヒーターを用いて前記融液を加熱し、
前記単結晶を引き上げる引上速度に前記ヒーターの出力の周期変動の同周期かつ逆位相であり、かつ遅れ時間t[min]を付加したものである周期変動を付与し、
前記ヒーターの出力の変動周期をTH[min]とし、前記ヒーターの出力に対するヒーターの温度の変動周期の遅れ時間をt1[min]としたとき、t1≦t≦TH/4の範囲で前記引上速度に付与する周期変動の遅れ時間t[min]を制御する、半導体単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記引上速度に付与する周期変動の変動幅を±0.1[mm/min]の範囲内で制御する、請求項1に記載の単結晶の製造方法。
【請求項3】
チョクラルスキー法を用いて、原材料の融液から単結晶を育成しながら引き上げる半導体単結晶の製造装置であって、
前記単結晶を引き上げる引上機と、
前記単結晶の径を一定に保つように前記融液を加熱するヒーターと、
前記引上機の引上速度に前記ヒーターの出力の周期変動の同周期かつ逆位相であり、かつ遅れ時間t[min]を付加したものである周期変動を付与する制御部と、
を備え
前記ヒーターの出力の変動周期をTH[min]とし、前記ヒーターの出力に対するヒーターの温度の変動周期の遅れ時間をt1[min]としたとき、前記制御部は、t1≦t≦TH/4の範囲で前記引上速度に付与する周期変動の遅れ時間t[min]を制御する半導体単結晶の製造装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記引上速度に付与する周期変動の変動幅を±0.1[mm/min]の範囲内で制御する、請求項に記載の単結晶の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体単結晶の製造方法および半導体単結晶の製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
チョクラルスキー法は、半導体デバイス用のシリコン単結晶(いわゆるシリコンインゴット)の代表的な製造方法である。このチョクラルスキー法によるシリコンインゴットの育成では、無欠陥単結晶が求められるが、無欠陥単結晶を製造することができる製造条件は極めて狭い。この製造条件の例として引上速度と温度勾配の比がある。
【0003】
温度勾配とは、固液界面付近における単結晶の高さ方向の単位長さ当たりの温度変化であり、引上速度とは、単結晶を引き上げる速度である。引上速度をVとし、温度勾配をGとしたとき、単結晶の製造時に形成される欠陥は、引上速度Vと温度勾配Gの比(V/G)に応じて敏感に変化する。例えば、引上速度Vと温度勾配Gの比(V/G)が大き過ぎる場合、空孔型欠陥(ボイド欠陥)が形成されてしまい、逆に、引上速度Vと温度勾配Gの比(V/G)が小さ過ぎる場合、格子間Si型欠陥(転位ループ)が形成されてしまう。
【0004】
したがって、安定した品質の単結晶を得るためには、引上速度Vと温度勾配Gの比(V/G)を高精度に制御することが必要となる(例えば、特許文献1参照)。そして、引上速度Vは機械的な精密制御が可能であるので、安定した結晶品質と計画生産を両立するためには、引上速度Vを一定するように制御を行う単結晶の製造方法が一般に行われている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平8-337490号公報
【文献】特開平5-43386号公報
【文献】特開2000-327486号公報
【文献】特開2000-281478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、引上速度Vを一定とする制御では、結晶長方向に品質がバラつくことがあった。これは、引上げ過程で温度勾配Gが一定ではなく変動しているためである。伝熱計算による温度勾配Gの予測も行われているが(例えば、特許文献3参照)、実際の引上げ過程における温度状況は様々な要因で随時変動しているため、制御上のリアルタイム性に困難があった。
【0007】
そのため、温度センサにより温度勾配Gを測定する取組みも行われているが(例えば、特許文献4参照)、実際には、温度センサによる検出感度の個体差が大きく、有転位化率の装置間差が大きいという問題があった。また、センサユニットを新たに具備する必要があるため、設置方法によっては温度測定箇所を調整できないなど、応用上の融通が利かないということもあった。そのため、引上過程におけるV/Gの制御は依然として困難であった。
【0008】
本発明の目的は、簡便で汎用性の高い方法で引上過程における引上速度Vと温度勾配Gの比(V/G)の制御を行う半導体単結晶の製造方法および半導体単結晶の引上装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様の半導体単結晶の製造方法は、チョクラルスキー法を用いて、原材料の融液から単結晶を育成しながら引き上げる半導体単結晶の製造方法であって、前記単結晶の径を一定に保つようにヒーターを用いて前記融液を加熱し、前記単結晶を引き上げる引上速度に前記ヒーターの出力の周期変動の同周期かつ逆位相であり、かつ遅れ時間t[min]を付加したものである周期変動を付与し、前記ヒーターの出力の変動周期をTH[min]とし、前記ヒーターの出力に対するヒーターの温度の変動周期の遅れ時間をt1[min]としたとき、t1≦t≦TH/4の範囲で前記引上速度に付与する周期変動の遅れ時間t[min]を制御する。
【0010】
半導体単結晶の引上過程における安定成長期には、温度勾配Gに周期変動が見られる。本発明の一態様の半導体単結晶の製造方法は、引上速度Vに周期変動を付与することで、この温度勾配Gの周期変動を相殺し、欠陥の発生に大きく影響する引上速度Vと温度勾配Gの比(V/G)の制御を行う。
【0011】
また、本発明の一態様の半導体単結晶の製造方法は、前記単結晶の径を一定に保つようにヒーターを用いて前記融液を加熱し、前記周期変動は、前記ヒーターの出力の周期変動の同周期かつ逆位相である。半導体単結晶の製造方法では、結晶径が一定になるようにヒーターの出力を制御すると、温度勾配Gも変動するという関係がなりたつ。本発明の一態様の半導体単結晶の製造方法は、結晶径が一定になるようにヒーターの出力を制御することで生じる温度勾配Gの変動を相殺するために、ヒーターの出力の周期変動の同周期かつ逆位相の周期変動を引上速度に付与する。
【0012】
また、本発明の一態様の半導体単結晶の製造方法は、前記単結晶の径を一定に保つようにヒーターを用いて前記融液を加熱し、前記周期変動は、前記ヒーターの出力の周期変動の同周期かつ逆位相に遅れ時間を付加したものである。ヒーターの出力とインゴットの結晶径は連動しているが、時間差を有している。したがって、引上速度に付与する周期変動に、この遅れ時間を付加する。
【0013】
また、本発明の一態様の半導体単結晶の製造方法は、前記ヒーターの出力の変動周期をTH[min]とし、前記ヒーターの出力に対するヒーターの温度の変動周期の遅れ時間をt1[min]とし、前記引上速度に付与する周期変動の遅れ時間をt[min]としたとき、t1≦t≦TH/4の範囲で前記引上速度に付与する周期変動の遅れ時間t[min]を制御することが好ましい。この範囲内であれば、温度勾配の変化に追従することが出来るからである。また、前記引上速度に付与する周期変動の変動幅を±0.1[mm/min]の範囲内で制御することが好ましい。この範囲内であれば、インゴットの引上速度の変化による界面形状の影響を受けずに済むからである。
【0014】
さらに、本発明の一態様の半導体単結晶の製造装置は、チョクラルスキー法を用いて、原材料の融液から単結晶を育成しながら引き上げる半導体単結晶の製造装置であって、前記単結晶を引き上げる引上機と、前記単結晶の径を一定に保つように前記融液を加熱するヒーターと、前記引上機の引上速度に前記ヒーターの出力の周期変動の同周期かつ逆位相であり、かつ遅れ時間t[min]を付加したものである周期変動を付与する制御部とを備え、前記ヒーターの出力の変動周期をTH[min]とし、前記ヒーターの出力に対するヒーターの温度の変動周期の遅れ時間をt1[min]としたとき、前記制御部は、t1≦t≦TH/4の範囲で前記引上速度に付与する周期変動の遅れ時間t[min]を制御する。
【0015】
このような半導体単結晶の製造装置を用いれば、引上速度Vに周期変動を付与することで、この温度勾配Gの周期変動を相殺し、欠陥の発生に大きく影響する引上速度Vと温度勾配Gの比(V/G)の制御を行うことができる。
【0016】
また、本発明の一態様の半導体単結晶の製造装置では、前記単結晶の径を一定に保つようにヒーターを用いて前記融液を加熱し、前記周期変動は、前記ヒーターの出力の周期変動の同周期かつ逆位相である。本発明の一態様の半導体単結晶の製造装置は、結晶径が一定になるようにヒーターの出力を制御することで生じる温度勾配Gの変動を相殺するために、ヒーターの出力の周期変動の同周期かつ逆位相の周期変動を引上速度に付与する。
【0017】
また、本発明の一態様の半導体単結晶の製造装置では、前記単結晶の径を一定に保つようにヒーターを用いて前記融液を加熱し、前記周期変動は、前記ヒーターの出力の周期変動の同周期かつ逆位相に遅れ時間を付加したものである。ヒーターの出力とインゴットの結晶径は連動しているが、時間差を有している。したがって、引上速度に付与する周期変動に、この遅れ時間を付加する。
【0018】
また、本発明の一態様の半導体単結晶の製造装置では、前記ヒーターの出力の変動周期をTH[min]とし、前記ヒーターの出力に対するヒーターの温度の変動周期の遅れ時間をt1[min]とし、前記引上速度に付与する周期変動の遅れ時間をt[min]としたとき、t1≦t≦TH/4の範囲で前記引上速度に付与する周期変動の遅れ時間t[min]を制御することが好ましい。この範囲内であれば、温度勾配の変化に追従することが出来るからである。また、前記引上速度に付与する周期変動の変動幅を±0.1[mm/min]の範囲内で制御することが好ましい。この範囲内であれば、インゴットの引上速度の変化による界面形状の影響を受けずに済むからである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、簡便で汎用性の高い方法で引上過程における引上速度Vと温度勾配Gの比(V/G)の制御を行う半導体単結晶の製造方法および半導体単結晶の引上装置を提供することにある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、半導体単結晶の製造装置の概略構成を示す図である。
図2図2は、原料融液の温度制御を示す図である。
図3図3は、ヒーターの出力と引上速度の関係を示す図である。
図4図4は、従来例および実施例の良品率の検査結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。ただし、以下に説明する実施形態により本発明が限定されるものではない。また、各図面において、同一または対応する要素には適宜同一の符号を付している。さらに、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率などは、現実のものとは異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0022】
図1は、半導体単結晶の製造装置の概略構成を示す図である。図1に示す半導体単結晶の製造装置10は、一般にチョクラルスキー法と呼ばれる方法で半導体単結晶を製造するための装置である。図1に示すように、炉体11と、炉体11内の中央に配置されたルツボ12と、ルツボ12内の原料融液を加熱するヒーター13と、ルツボ12内の原料融液から半導体単結晶(いわゆるインゴット14)を吊るすワイヤーを巻き上げる巻き上げ機15とを備える。また、半導体単結晶の製造装置10には、育成されたインゴット14の径を測定するセンサ16が設けられている。
【0023】
さらに、半導体単結晶の製造装置10は、半導体単結晶の製造装置10における各種センサから取得した情報およびオペレータが入力した設定に従い、半導体単結晶の製造装置10における各種の製造条件を制御する制御部17を備えている。例えば、制御部17は、センサ16が測定した育成されたインゴット14の径を一定に保つために、ヒーター13の出力を調整する。また、制御部17は、巻き上げ機15がインゴット14を引き上げる引上速度を制御する。
【0024】
その他、半導体単結晶の製造装置10は、ルツボ12を回転可能に構成してある。すなわち、ルツボ12は、回転・昇降機構18の上に設置され、所望の回転速度で回転し、常にシールド下端と液面との距離を一定に保持し得るように構成されている。また、半導体単結晶の製造装置10は、ルツボ12内の原料融液の対流を精密に制御するために原料融液に磁界を印加する、いわゆるMCZ法(磁場印加チョクラルスキー法)を適用することが可能に構成されている。
【0025】
図2は、原料融液の温度制御を示すである。図2に示されるように、ヒーター13がルツボ12内の原料融液を直接加熱することはできず、ヒーター13の出力を変化させても、その変化が原料融液の温度変化に反映されるには時間差が存在する。具体的には、ルツボ12は、黒鉛ルツボ12aと石英ルツボ12bとに分かれており、ヒーター13の熱は、黒鉛ルツボ12aと石英ルツボ12bとを順次加熱することで、石英ルツボ12b内の原料融液を加熱するので、ヒーター13の出力の変化から原料融液の温度変化までに時間を要する。
【0026】
そして、時間差は、安定した品質の単結晶を得るために悪影響を及ぼす。すなわち、単結晶の育成時に発生する欠陥は、引上速度Vと温度勾配Gの比(V/G)に敏感に影響し、引上速度Vと温度勾配Gの比(V/G)が大き過ぎても、小さすぎても欠陥が発生してしまう。しかしながら、温度勾配Gは、上述したように、ヒーター13の出力の変化から原料融液の温度変化までに時間を要するので、引上速度Vと温度勾配Gの比(V/G)を一定の範囲内に保つのが難しい。
【0027】
そこで、本発明の実施形態に係る半導体単結晶の製造方法では、インゴット14を引き上げる引上速度に周期変動を付与する。例えば、半導体単結晶の製造装置10では、制御部17が巻き上げ機15を制御する際に、本来の制御目標の引上速度に周期変動を付与することで実現する。引上速度に付与する周期変動は、例えば以下のように決定することができる。
【0028】
図3は、ヒーター13の出力と引上速度の関係を示す図である。図3における(a)は、上からヒーター13の出力とヒーター13の温度と結晶径を表している。そして、図3における(b)は、引上速度を表している。これら図3に示されるグラフは、半導体単結晶の安定成長期に見られる周期変動を例示したものである。
【0029】
図3(a)に示されるように、半導体単結晶の安定成長期のヒーター13の出力は周期変動を有している。そして、このヒーター13の出力の周期変動に従って、ルツボ12内の原料融液の温度も変動することになる。この時、原料融液の温度が高くなれば、温度勾配Gは小さくなり、原料融液の温度が低くなれば、温度勾配Gは大きくなる。
【0030】
したがって、引上速度Vと温度勾配Gの比(V/G)を一定に保つことを目標とする場合、引上速度Vに付与する周期変動は、ヒーター13の出力の周期変動の同周期かつ逆位相である。すなわち、ヒーター13の出力が高くときに、引上速度Vを遅くし、ヒーター13の出力が低いときに、引上速度Vを早くする。
【0031】
また、図3(a)に示されるように、ヒーター13の出力とインゴット14の結晶径は、時間差を有しながら連動している。この性質を用いて、結晶径が一定になるように、ヒーター13の出力を制御することが行われている。具体的にはセンサ16を用いて、インゴット14の結晶径をモニターし、センサ16を用いて測定されるインゴット14の結晶径が一定になるように、ヒーター13の出力を制御する。すなわち、インゴット14の結晶径を一定に保つようにヒーター13を用いて原料融液を加熱し、引上速度Vに付与する周期変動は、この時のヒーター13の出力の周期変動の同周期かつ逆位相である。
【0032】
一方、ヒーター13の出力とインゴット14の結晶径は連動しているが、時間差を有している。したがって、引上速度Vに付与する周期変動は、この時のヒーター13の出力の周期変動の同周期かつ逆位相に遅れ時間を付加したものである。このような観点から、引上速度Vに付与する周期変動は、以下のような範囲内になるように制御することが好ましい。
【0033】
まず、ヒーター13の出力の変動周期をTH[min]とし、ヒーター13の出力に対するヒーター13の温度の変動周期の遅れ時間をt1[min]とし、引上速度Vに付与する周期変動の遅れ時間をt[min]とする。このような設定の下、t1≦t≦TH/4の範囲で引上速度Vに付与する周期変動の遅れ時間t[min]を制御する。引上速度Vに付与する周期変動の遅れ時間t[min]をt1≦t≦TH/4の範囲で制御することで、温度勾配Gの変化に追従することが出来る。また、引上速度Vに付与する周期変動の変動幅を±0.1[mm/min]の範囲内で制御することが好ましい。引上速度Vに付与する周期変動の変動幅が±0.1[mm/min]の範囲内であれば、インゴット14の引上速度の変化による界面形状の影響を受けずに済むからである。
【0034】
以上のように、引上速度Vに付与する周期変動を制御することで、温度勾配Gの変動を引上速度Vにより相殺し、引上速度Vと温度勾配Gの比(V/G)を一定に保つこと可能になる。このことは、引上速度Vと温度勾配Gの比(V/G)に敏感に影響して発生する欠陥の形成を防ぎ、安定した品質の半導体単結晶の製造方法を実現することができる。
【0035】
(従来例および実施例)
ここで、上記説明した半導体単結晶の製造方法を実施した従来例および実施例における効果の検証実験について説明する。
【0036】
従来例および実施例に共通する製造条件としては、φ300mmの半導体単結晶を350[kg]チャージで育成するものとして、輻射シールド下端と液面との距離を50[mm]とし、炉内雰囲気をアルゴン(Ar)流量90[L/min]とし、炉内圧65[torr]とし、結晶回転数10.0[rpm]とし、坩堝回転数0.5[rpm]とし、横磁場の磁場強度を3000[Gauss]とする。
【0037】
まず、従来例の製造方法として、引上速度をV=0.55[mm/min](一定)とし、連続して5本の半導体単結晶を製造した。その際、ヒーターの出力の変動周期はTH=86[min]であり、ヒーターの出力に対するヒーターの温度の変動周期の遅れ時間はt1=11[min]であることが得られた。
【0038】
その後、実施例1の製造方法として、引上速度V=0.55[mm/min]に対して、付与する周期変動の周期Tをヒーターの出力の変動周期TH=86[min]と同じT=86[min]とし、周期変動の遅れ時間をt=0[min]とし、周期変動の変動幅をV=±0.05[mm/min]の範囲内として、同様に連続して5本の半導体単結晶を製造した。なお、この周期変動は、ヒーターの出力の変動周期の同位相かつ逆位相であることを満たし、周期変動の変動幅が±0.1[mm/min]の範囲を満たしている。
【0039】
さらにその後、実施例2の製造方法として、引上速度V=0.55[mm/min]に対して、付与する周期変動の周期Tをヒーターの出力の変動周期TH=86[min]と同じT=86[min]とし、周期変動の遅れ時間をt=16[min]とし、周期変動の変動幅をV=±0.05[mm/min]の範囲内として、同様に連続して5本の半導体単結晶を製造した。なお、ヒーターの出力の変動周期の同位相かつ逆位相であることを満たし、この周期変動は、周期変動の遅れ時間がt1≦t≦TH/4の範囲を満たし、周期変動の変動幅が±0.1[mm/min]の範囲を満たしている。
【0040】
そして、従来例および実施例1、2の合計15本の半導体単結晶について、良品率の検査を行った。ここで、良品率は、製造された半導体単結晶の直胴部全長から無欠陥結晶が取得できた領域の割合とした。図4は、従来例および実施例1、2の良品率の検査結果を示す図である。
【0041】
図4に示されるように、従来例の半導体単結晶の製造方法を用いて製造された半導体単結晶は良品率の平均が60%であるのに対し、実施例1の半導体単結晶の製造方法を用いて製造された半導体単結晶は良品率の平均が69%、実施例2の半導体単結晶の製造方法を用いて製造された半導体単結晶は良品率の平均が83%であった。すなわち、本発明の実施に係る半導体単結晶の製造方法は、簡便で汎用性の高い方法で引上過程における引上速度Vと温度勾配Gの比(V/G)の制御を行うことができ、この半導体単結晶の製造方法で製造された半導体単結晶は、結晶長方向に安定した品質を有している。
【0042】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明してきたが、本発明は上記の実施形態よって限定されるものではない。例えば、引上速度Vの目標値は一定であることに限定されず、引上速度の制御を行う場合においても、当該目標値の引上速度Vに周期変動を与えることができる。
【符号の説明】
【0043】
10 半導体単結晶の製造装置
11 炉体
12 ルツボ
13 ヒーター
14 インゴット
15 巻き上げ機
16 センサ
17 制御部
18 回転・昇降機構
図1
図2
図3
図4