(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 48/305 20190101AFI20241107BHJP
C08L 51/04 20060101ALI20241107BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20241107BHJP
G02B 1/04 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
B29C48/305
C08L51/04
C08J5/18 CEY
G02B1/04
(21)【出願番号】P 2021022023
(22)【出願日】2021-02-15
【審査請求日】2023-12-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】出井 宏明
【審査官】正木 裕也
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-049416(JP,A)
【文献】特開2000-319458(JP,A)
【文献】特開2021-003873(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 48/305
C08L 51/04
C08J 5/18
G02B 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェニル基を有し、25℃における粘度が0.005~2.0[Pa・s]である化合物(I)を塗布したTダイリップから、溶融状態の熱可塑性樹脂組成物(II)を押し出す工程を含むフィルムの製造方法であり、
前記化合物(I)の粘度及び前記熱可塑性樹脂組成物(II)の粘度が下記関係式(1)及び(2)を満たすことを特徴とする、熱可塑性樹脂フィルムの製造方法であって、
P
II>P
I-1 (1)
P
II>P
I-2 (2)
P
I-1:Tダイ温度で24時間加熱した後の前記化合物(I)の粘度
P
I-2:Tダイ温度より30℃低い温度で48時間加熱した後の前記化合物(I)の粘度
P
II :Tダイ温度における前記熱可塑性樹脂組成物(II)の粘度
前記化合物(I)がシリコーンオイルであり、前記フェニル基が前記シリコーンオイルの末端以外の珪素原子に直接結合しており、
前記P
II
及び前記P
I-1
が、P
II
/P
I-1
>100の関係を満たし、
前記熱可塑性樹脂組成物(II)が(メタ)アクリル系樹脂(A)を含み、
前記熱可塑性樹脂組成物(II)が多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体粒子(B)を含み、
前記熱可塑性樹脂組成物(II)の270℃、せん断速度122/秒における粘度が200~2,000Pa・sである、
熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融押出法による熱可塑性樹脂フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂フィルムは、高い透明性や低複屈折率等の光学特性に優れると共に、溶融成形によるフィルム製膜も容易なことから、光学用途や加飾用途に使用されている。熱可塑性樹脂フィルムの一般的な成形方法の1つに、原料となる熱可塑性樹脂組成物をホッパーから押出機に供給して加熱溶融した後、ダイから押出すことによりフィルムを成形する方法がある。しかしながら、この方法の場合、フィルムの流れ方向にスジが発生するという問題があった。フィルムにスジが発生すると表面状態が損なわれるばかりでなく、光学用途や加飾用途においてフィルム表面にコーティング層を付与した場合に外観不良の原因となる。
【0003】
このようなスジの発生を抑制する方法として、特許文献1には、Tダイリップを特定の形状にすることによりリップへの樹脂の付着を防止し、スジの発生を抑制する方法が提案されている。また、特許文献2には、口金にシリコーンオイルを塗布することで、熱可塑性樹脂に起因する低分子量物が、口金下面に付着しスジの原因となるのを低減すると示されている。また特許文献3には、スタティックミキサーを用いた黒スジ(間接反射光により黒色に観察されるスジ)やダイラインの抑制方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-255453号公報
【文献】特開2002-307523号公報
【文献】特開2017-185760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前述の従来技術ではTダイを分解し、リップ掃除を繰り返すたびに、リップ形状が変形して長期的にリップへの樹脂付着を防止することが難しかった。また、シリコーンオイルを塗布するだけでは、シリコーンオイルの変質により、塗布したシリコーンオイルそのものがスジの原因になることがあった。
この結果、フィルムの流れ方向に発生する白スジ(間接反射光により白色に観察されるスジ)を改善することができなかった。
本発明は、これらの状況に鑑みてなされたものであって、長時間の連続生産においてもフィルムの流れ方向に発生する白スジを抑制することができる熱可塑性樹脂フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決すべく検討を重ねた結果、フェニル基を含み、特定の熱特性を有する化合物をTダイに塗布することによって、長時間の連続生産においても白スジの発生を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明は下記[1]~[6]を要旨とするものである。
[1]フェニル基を有し、25℃における粘度が0.005~2.0[Pa・s]である化合物(I)を塗布したTダイリップから、溶融状態の熱可塑性樹脂組成物(II)を押し出す工程を含むフィルムの製造方法であり、
前記化合物(I)の粘度及び前記熱可塑性樹脂組成物(II)の粘度が下記関係式(1)及び(2)を満たすことを特徴とする、熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
PII>PI-1 (1)
PII>PI-2 (2)
PI-1:Tダイ温度で24時間加熱した後の前記化合物(I)の粘度
PI-2:Tダイ温度より30℃低い温度で48時間加熱した後の前記化合物(I)の粘度
PII :Tダイ温度における前記熱可塑性樹脂組成物(II)の粘度
【0008】
[2]前記化合物(I)がシリコーンオイルであり、前記フェニル基が前記シリコーンオイルの末端以外の珪素原子に直接結合している、前記[1]に記載のフィルムの製造方法。
[3]前記PII及び前記PI-1が、PII/PI-1>100の関係を満たす、前記[1]又は[2]に記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
[4]前記熱可塑性樹脂組成物(II)が(メタ)アクリル系樹脂(A)を含む、前記[1]~[3]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【0009】
[5]前記熱可塑性樹脂組成物(II)が多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体粒子(B)を含む、前記[1]~[4]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
[6]前記熱可塑性樹脂組成物(II)の270℃、せん断速度122/秒における粘度が200~2,000Pa・sである、前記[1]~[5]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、長時間の連続生産においてもフィルムの流れ方向に発生する白スジを抑制することができる熱可塑性樹脂フィルムの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法の一態様を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法は、フェニル基を有し、25℃における粘度が0.005~2.0[Pa・s]である化合物(I)を塗布したTダイリップから、溶融状態の熱可塑性樹脂組成物(II)を押し出す工程を含むフィルムの製造方法であり、前記化合物(I)の粘度及び前記熱可塑性樹脂組成物(II)の粘度が下記関係式(1)及び(2)を満たすことを特徴とするものである。
PII>PI-1 (1)
PII>PI-2 (2)
PI-1:Tダイ温度で24時間加熱した後の前記化合物(I)の粘度
PI-2:Tダイ温度より30℃低い温度で48時間加熱した後の前記化合物(I)の粘度
PII :Tダイ温度における前記熱可塑性樹脂組成物(II)の粘度
【0013】
本発明者らは、フェニル基を有する化合物を化合物(I)として用いることによって、Tダイへの塗布性が向上すると共に、化合物(I)が長時間、Tダイリップ上で変質しにくくなることを見出した。
そしてその中でも更に、Tダイ温度で24時間加熱した後の化合物(I)の粘度をTダイ温度における熱可塑性樹脂組成物(II)の粘度よりも小さくし、Tダイ温度よりも30℃低い温度で48時間加熱した後の化合物(I)の粘度を熱可塑性樹脂組成物(II)の粘度より低くすることによって、化合物(I)の固化を抑制しやすく、Tダイリップから吐出された熱可塑性樹脂組成物(II)と化合物(I)とが接触してもフィルムの表面が変形せず、白スジの発生を抑制することができ、製膜を継続した際の白スジの発生を抑制することができることを見出した。
なお、本発明において「Tダイ温度」とは、Tダイの設定温度(押出機の設定温度)を指す。
【0014】
<化合物(I)>
本発明においては化合物(I)として、フェニル基を有し、25℃における粘度が0.005~2.0[Pa・s]である化合物を用いる。化合物(I)がフェニル基を有する化合物であることによりTダイへの塗布性が向上し、また、長時間、Tダイリップ上で変質せずに存在するため、白スジの発生を抑制しながら長時間フィルムを製造することが可能になる。
なお、化合物(I)はTダイに塗布されるため離型剤としての役割を有するものが好ましい。離型剤としての性質を有することにより、熱可塑性樹脂組成物(II)中に含まれる低分子量成分がTダイリップに付着することを防止できる。また、製膜開始時において樹脂吐出量が一定でない条件であっても、熱可塑性樹脂組成物(II)がTダイリップへ付着することを抑制することができるため、より一層、白スジの発生を抑制できる。
【0015】
化合物(I)の25℃における粘度は0.005~2.0[Pa・s]である。前記粘度が2.0[Pa・s]より大きいと25℃程度の室温におけるハンドリング性が低下し、その結果、Tダイリップへ均一に塗布することが難しくなる。一方、前記粘度が0.005[Pa・s]より小さいとハンドリング性は確保できるが、製膜時に揮発し白スジ抑制の効果が長時間発揮できなという問題や、引火点が低くなり安全性の確保が難しくなるという問題がある。これらの観点から、化合物(I)の25℃における粘度は0.01~1.5[Pa・s]であることが好ましく、0.02~1.0[Pa・s]であることがより好ましく、0.03~0.6[Pa・s]であることが更に好ましい。
なお、本発明における化合物(I)の粘度は、せん断速度100[1/s]での粘度を指し、具体的には実施例に記載の方法で測定することができる。
【0016】
本発明は、更に化合物(I)と、熱可塑性樹脂組成物(II)とが下記関係式(1)及び(2)を満たすことを特徴とするものである。
PII>PI-1 (1)
PII>PI-2 (2)
PI-1:Tダイ温度で24時間加熱した後の前記化合物(I)の粘度
PI-2:Tダイ温度より30℃低い温度で48時間加熱した後の前記化合物(I)の粘度
PII :Tダイ温度における前記熱可塑性樹脂組成物(II)の粘度
【0017】
本発明においては、PIIとPI-1とが、PII>PI-1〔関係式(1)〕を満たすことにより、長時間フィルムを製造し続けた場合であっても化合物(I)の粘度が上昇せず、フィルムとして吐出された熱可塑性樹脂組成物(II)に対して白スジが発生することを抑制することができる。この観点から、PII及びPI-1は、PII/PI-1>100の関係を満たすことが好ましく、PII/PI-1>500の関係を満たすことがより好ましく、PII/PI-1>1,000の関係を満たすことが更に好ましく、PII/PI-1>10,000の関係を満たすことがより更に好ましく、PII/PI-1>30,000の関係を満たすことが特に好ましい。PII/PI-1が前記下限値超であると、化合物(I)の粘度が十分に低くなるため、製造するフィルムに白スジが発生することをより効果的に抑制することができる。PII/PI-1の上限は特に制限はないが、100,000であってもよいし、500,000であってもよい。
【0018】
また、本発明においては、PIIとPI-2とが、PII>PI-2を満たすことにより、Tダイから吐出された熱可塑性樹脂組成物(II)がTダイに塗布された化合物(I)によって傷つけられることが抑制される。この観点から、PII及びPI-2は、PII/PI-2>100の関係を満たすことが好ましく、PII/PI-2>500の関係を満たすことがより好ましく、PII/PI-2>1,000の関係を満たすことが更に好ましく、PII/PI-2>10,000の関係を満たすことがより更に好ましく、PII/PI-2>30,000の関係を満たすことが特に好ましい。PII/PI-2の上限は特に制限はないが、100,000であってもよいし、500,000であってもよい。
【0019】
前記化合物(I)をTダイリップに塗布する方法に特に制限はないが、前記化合物(I)をウエス等に染み込ませて塗布してもよく、前記化合物(I)をスプレーすることにより塗布してもよい。また、溶媒と混合した後に上記の方法で塗布し、溶媒を揮発除去させてもよい。
【0020】
化合物(I)の塗布量は、Tダイリップの塗布面を基準として、0.03~3mg/cm2であることが好ましく、0.03~2mg/cm2であることがより好ましい。塗布量が前記下限値以上であることにより、白スジの抑制効果が十分に得られる。一方、塗布量が前記上限値以下であることにより、製造コストと得られる効果とのバランスが向上する。
【0021】
前記化合物(I)は、製造工程の安全性の観点等から、その引火点(Ta)とTダイ温度(Tt)との関係において、Ta≧Tt+20(℃)であるものを選択することが好ましく、Ta≧Tt+30(℃)であるものを選択ことがより好ましい。
【0022】
化合物(I)は、前記性質を満たすものであれば特に制限はないが、例えばフッ素系樹脂及びシリコーンオイル等が挙げられ、中でも、シリコーンオイルが好ましい。
フェニル基を有するシリコーンオイルとしては、フェニル変性シリコーン、アルキル変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、カルボキシ変性シリコーン等を使用することができるが、特にフェニル変性シリコーンが好ましく、中でも、フェニル基がシリコーンオイルの末端以外の珪素原子に直接結合しているものがより好ましい。フェニル基がシリコーンオイルの末端以外の珪素原子に直接結合しているシリコーンオイルは、特にTダイへの塗布性に優れると共に、長時間Tダイリップ上に存在しやすいため、白スジの抑制効果を長時間得ることができる。
【0023】
フェニル変性シリコーンとしては、フェニル変性率が3~50%であるものが好ましい。フェニル変性率が前記範囲内であるとTダイリップ上に化合物(I)が長時間存在しやすくなる。この観点からフェニル変性率は10~50%であるものがより好ましく、10~40%であるものが更に好ましい。フェニル変性率は、珪素原子に結合したフェニル基とメチル基の総数に対するフェニル基の数を百分率で表したものである。
【0024】
化合物(I)の市販品としては、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製の「TSF4300」、「TSF437」、「TSF433」、「TSF431」、デュポン・東レ・スペシャルティ・マテリアル株式会社製の「SH510」、信越化学工業株式会社製の「KF-50」、「KF-54」、「KF-56A」、旭化成ワッカーシリコーン株式会社製の「WACKER SILICONE FLUID AP 100~1000」等が挙げられる。
【0025】
<熱可塑性樹脂組成物(II)>
本発明に用いる熱可塑性樹脂組成物(II)は熱可塑性樹脂を含むものであれば特に制限はないが、ダイラインの発生を抑制しやすくする観点、及び光学用途等に好適なフィルムを製造する観点から、非晶性熱可塑性樹脂組成物であることが好ましく、中でも(メタ)アクリル系樹脂(A)を含む樹脂組成物、すなわち、(メタ)アクリル系樹脂組成物であることが特に好ましい。
なお、本発明において「(メタ)アクリル」とは、アクリル及び/又はメタクリルを意味する。
【0026】
本発明において用いる(メタ)アクリル系樹脂(A)に特に制限はないが、メチルメタクリレートに由来する構造単位と、必要に応じてアクリル酸エステルに由来する構造単位とを含有することが好ましい。(メタ)アクリル系樹脂(A)に用いることができるアクリル酸エステルとしては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、s-ブチルアクリレート、t-ブチルアクリレート、アミルアクリレート、イソアミルアクリレート、n-へキシルアクリレート、2-エチルへキシルアクリレート、ペンタデシルアクリレート、ドデシルアクリレート、シクロへキシルアクリレート、ノルボルネニルアクリレート、イソボニルアクリレート、ベンジルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-エトキシエチルアクリレート、グリシジルアクリレート、アリルアクリレート、フェニルアクリレート等を挙げることができる。これらのうち、アルキル基の炭素数が1~6であるアルキルアクリレートが好ましい。
【0027】
(メタ)アクリル系樹脂(A)中のメチルメタクリレートに由来する構造単位の量は、熱可塑性樹脂フィルムの機械強度を向上する観点から、好ましくは85~100質量%であり、より好ましくは90~100質量%である。
また、(メタ)アクリル系樹脂(A)がアクリル酸エステルに由来する構造単位を含有する場合、その量は、熱可塑性樹脂フィルムの厚み精度を向上させる観点から、(メタ)アクリル系樹脂(A)中に、好ましくは0.01~15質量%であり、より好ましくは0.1~10質量%である。
【0028】
本発明において用いられる(メタ)アクリル系樹脂(A)のガラス転移温度は、好ましくは95℃以上であり、より好ましくは100℃以上であり、更に好ましくは105℃以上である。ガラス転移温度が前記下限値以上であることによって熱可塑性樹脂フィルムの厚み精度が向上する。本発明において用いられる(メタ)アクリル系樹脂(A)のガラス転移温度は通常130℃以下である。
なお、(メタ)アクリル系樹脂(A)のガラス転移温度は、JIS K7121:2012に準拠して測定することができる。
(メタ)アクリル系樹脂(A)が複数のガラス転移温度を有する場合、それらのうち少なくとも1つのガラス転移温度が上記範囲を満足すればよく、複数のガラス転移温度が上記範囲を満足することが好ましく、全てのガラス転移温度が上記範囲を満足することがより好ましい。
【0029】
(メタ)アクリル系樹脂(A)の重量平均分子量は60,000~150,000であることが好ましい。重量平均分子量が前記下限値以上であると機械物性が高くなり、前記上限値以下であると粘度が低くなり加工性が向上する。重量平均分子量は、前記観点から、より好ましくは70,000~120,000であり、更に好ましくは80,000~100,000である。
なお、(メタ)アクリル系樹脂(A)の重量平均分子量は実施例に記載の方法で測定することができる。
【0030】
前記(メタ)アクリル系樹脂(A)の製造方法は特に制限されず、例えば、ラジカル重合法、アニオン重合法等の公知の重合法によって製造することができる。製造条件に特に制限はなく、重合温度、重合時間、連鎖移動剤の種類や量、重合開始剤の種類や量等を適宜調整することにより所望の(メタ)アクリル系樹脂(A)を得ることができる。
【0031】
本発明における熱可塑性樹脂組成物(II)中の(メタ)アクリル系樹脂(A)の含有量は、熱可塑性樹脂フィルムの透明性を向上させる観点から、好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上であり、更に好ましくは75質量%以上である。
【0032】
<多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体粒子(B)>
本発明において用いる熱可塑性樹脂組成物(II)は、多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体粒子(B)(以下、単に「重合体粒子(B)」ともいう。)を含有することが好ましい。
本発明においては、熱可塑性樹脂組成物(II)が多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体粒子(B)を含む場合、特に本発明の効果が得られやすい。その理由は、以下のとおりであると推測される。
Tダイリップ上において、多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体粒子(B)を含む熱可塑性樹脂組成物(II)に由来する小さな塊(溶融状態の場合もある)が発生した場合、その塊の中には重合体粒子(B)が比較的高濃度で含まれていることから、これらの重合体粒子(B)は経時的に凝集し、これが白スジの原因になるものと推測されるが、本発明においては、Tダイに塗布された化合物(I)が重合体粒子(B)を取り囲むように存在するようになり、その結果、重合体粒子(B)の凝集を防ぐことができると考えられる。これにより、熱可塑性樹脂組成物(II)上での白スジの発生をより効果的に抑制することができると推測される。
【0033】
多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体粒子(B)は、多層構造を有するものであれば特に制限はなく、例えば、コアシェル多層構造を有するアクリル系重合体を挙げることができる。また、多層構造を構成する層の数に特に制限はなく、2層でも3層以上でもよい。
これらの中でも、熱可塑性樹脂フィルムの耐衝撃性を向上させる観点から、重合体粒子(B)は、コアシェル多層構造を有するアクリル系重合体が好ましく、より具体的には、コア(内層)、インナーシェル(中間層)、及びアウターシェル(外層)の3層からなるコアシェル多層構造を有するアクリル系重合体が好ましい。
なお、本発明において3層からなるコアシェル多層構造を有するアクリル系重合体とは、コアとインナーシェル、インナーシェルとアウターシェルが各々異なる重合体で構成されたものを指す。
なお、前記の3層からなるコアシェル多層構造を有するアクリル系重合体は、これを含む樹脂組成物を溶融混練した場合に、前記アウターシェルの全部又は一部が(メタ)アクリル系樹脂(A)と融着、合一してマトリックスを形成し、該マトリックスがコアとインナーシェルの2層からなるコアシェル粒子を含有するようになる。
【0034】
以下、コア(内層)、インナーシェル(中間層)、及びアウターシェル(外層)の3層からなるコアシェル多層構造を有するアクリル系重合体について詳細に説明する。なお、コアを構成する重合体を「重合体(a)」、インナーシェルを構成する重合体を「重合体(b)」、及びアウターシェルを構成する重合体を「重合体(c)」として説明する。
【0035】
〔重合体(a):コアを構成する重合体〕
重合体(a)は、メチルメタクリレートに由来する構造単位、アルキルアクリレートに由来する構造単位、グラフト化剤に由来する構造単位、及び必要に応じて架橋剤に由来する構造単位を含む重合体であることが好ましい。なお、本発明においてグラフト化剤とは、異なる重合性基を2個以上有する単量体を意味し、架橋剤とは、同種の重合性基を2個以上有する単量体(ただし、前記グラフト化剤を除く)を意味する。
【0036】
重合体(a)に用いるアルキルアクリレートに特に制限はないが、アルキル基の炭素数が好ましくは1~8であり、より好ましくは1~6である。アルキルアクリレート中のアルキル基の炭素数が前記範囲内であることによって、多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体粒子(B)の耐熱分解性が向上すると共に熱可塑性樹脂フィルムの耐温水白化性や耐沸水白化性が向上する。具体的なアルキルアクリレートとしては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、s-ブチルアクリレート、t-ブチルアクリレート、n-ブチルメチルアクリレート、n-ヘプチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、n-オクチルアクリレート等が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの中でも前記の観点から、メチルアクリレートが特に好ましい。
【0037】
重合体(a)は、重合体(a)と重合体(b)とを化学的に結合させることを目的として、また、重合体(a)の架橋構造の形成を補助することを目的として、グラフト化剤に由来する構造単位を含むことが好ましい。
重合体(a)に用いるグラフト化剤としては、例えば、アリルメタクリレート、アリルアクリレート、モノ-又はジ-アリルマレエート、モノ-又はジ-アリルフマレート、クロチルアクリレート、及びクロチルメタクリレート等を挙げることができる。これらのグラフト化剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの中でも、重合体(a)と重合体(b)との間の結合能を向上させ、熱可塑性樹脂フィルムの耐応力白化性及び透明性を向上させる観点から、アリルメタクリレートが好ましい。
【0038】
重合体(a)は、重合体(a)中で架橋構造を形成することを目的として、また、重合体(a)と重合体(b)との間でグラフト構造を形成することを目的として、架橋剤に由来する構造単位を含んでいてもよい。
重合体(a)に用いる架橋剤としては、例えば、ジアクリル化合物、ジメタクリル化合物、ジアリル化合物、ジビニル化合物、ジエン化合物、トリビニル化合物等が挙げられる。より具体的には、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、エチレングリコールジアリルエーテル、プロピレングリコールジアリルエーテル、ブタジエン等を挙げることができる。これらの架橋剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0039】
重合体(a)におけるメチルメタクリレートに由来する構造単位の量は、重合体(a)の全構造単位中に、好ましくは40~98.99質量%であり、より好ましくは45~96.9質量%である。メチルメタクリレートに由来する構造単位の量が前記下限値以上であることによって熱可塑性樹脂フィルムの耐候性が向上し、前記上限値以下であることによって熱可塑性樹脂フィルムの耐衝撃性が向上する。
【0040】
重合体(a)におけるアルキルアクリレートに由来する構造単位の量は、重合体(a)の全構造単位中に、好ましくは1~59質量%であり、より好ましくは3~55質量%である。アルキルアクリレートに由来する構造単位の量が前記下限値以上であることによって多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体粒子(B)の耐熱分解性が向上し、前記上限値以下であることによって熱可塑性樹脂フィルムの耐温水白化性や耐沸水白化性が向上する。
【0041】
重合体(a)におけるグラフト化剤に由来する構造単位の量は、重合体(a)の全構造単位中に、好ましくは0.01~1質量%であり、より好ましくは0.1~0.5質量%である。グラフト化剤に由来する構造単位の量が前記下限値以上であることによって、重合体(a)と重合体(b)との結合力が向上し、また前記上限値以下であることによって熱可塑性樹脂フィルムの耐衝撃性が向上する。
【0042】
重合体(a)における架橋剤に由来する構造単位の量は、重合体(a)の全構造単位中に、好ましくは0~0.5質量%であり、より好ましくは0~0.2質量%である。架橋剤に由来する構造単位の量が前記範囲内であることによって熱可塑性樹脂フィルムの耐衝撃性が向上する。
【0043】
重合体(a)及び後述する重合体(b)は、アセトン等の溶媒に不溶なもの、すなわち、グラフト化されたものであることが好ましい。重合体(a)及び重合体(b)がグラフト化されたものであると、後述する重合体(c)のマトリックス中に重合体(a)及び重合体(b)が2層構造の粒子として存在するようになり、熱可塑性樹脂フィルムの耐衝撃性を向上させるため好ましい。
【0044】
〔重合体(b):インナーシェルを構成する重合体〕
重合体(b)は、アルキルアクリレートに由来する構造単位、グラフト化剤に由来する構造単位、及び必要に応じて芳香族ビニル化合物に由来する構造単位、架橋剤に由来する構造単位を含む重合体であることが好ましい。
【0045】
重合体(b)に用いるアルキルアクリレートとしては、前記重合体(a)で例示したアルキルアクリレートを挙げることができ、多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体粒子(B)の耐熱分解性が向上すると共に熱可塑性樹脂フィルムの耐温水白化性や耐沸水白化性を向上させる観点から、n-ブチルアクリレートが特に好ましい。
【0046】
重合体(b)に用いる芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、m-メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物を挙げることができ、多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体粒子(B)の耐熱分解性を向上させる観点から、スチレンが好ましい。
【0047】
また、重合体(b)に用いるグラフト化剤としては、前記重合体(a)で例示したグラフト化剤を挙げることができ、重合体(a)と重合体(b)との間の結合能を向上させ、熱可塑性樹脂フィルムの耐応力白化性及び透明性を向上させる観点から、アリルメタクリレートが好ましい。
【0048】
重合体(b)に用いる架橋剤としては、前記重合体(a)で例示した架橋剤を挙げることができ、重合体(b)中で架橋構造を形成する観点、及び重合体(a)と重合体(b)との間で架橋構造を形成する観点から、ジアクリル化合物、ジメタクリル化合物、ジアリル化合物、ジビニル化合物等が好ましい。
【0049】
重合体(b)におけるアルキルアクリレートに由来する構造単位の量は、重合体(b)の全構造単位中に、好ましくは70~99.5質量%であり、より好ましくは80~99質量%である。アルキルアクリレートに由来する構造単位が前記下限値以上であることによって熱可塑性樹脂フィルムの耐衝撃性が向上し、前記上限値以下であることによって熱可塑性樹脂フィルムの耐応力白化性及び透明性が向上する。
【0050】
重合体(b)における芳香族ビニル化合物に由来する構造単位の量は、重合体(b)の全構造単位中に、好ましくは0~29質量%であり、より好ましくは0~20質量%である。メチルメタクリレートに由来する構造単位の量が前記範囲内であることによって熱可塑性樹脂フィルムの耐衝撃性が向上する。
【0051】
重合体(b)におけるグラフト化剤に由来する構造単位の量は、重合体(b)の全構造単位中に、好ましくは0.5~5質量%であり、より好ましくは1~4質量%である。グラフト化剤に由来する構造単位の量が前記下限値以上であることによって熱可塑性樹脂フィルムの耐応力白化性が向上する。一方、前記上限値以下であることによって熱可塑性樹脂フィルムの耐衝撃性が向上する。
【0052】
重合体(b)における架橋剤に由来する構造単位の量は、重合体(b)の全構造単位中に、好ましくは0~5質量%であり、より好ましくは0~2質量%である。架橋剤に由来する構造単位の量が前記範囲内であることによって熱可塑性樹脂フィルムの耐衝撃性が向上する。
【0053】
本発明において、重合体(b)は、重合体(a)及び重合体(c)よりも軟らかいことが好ましい。重合体(b)が、重合体(a)及び重合体(c)よりも軟らかいことによって耐衝撃性が向上する。
【0054】
〔重合体(c):アウターシェルを構成する重合体〕
重合体(c)は、メチルメタクリレートに由来する構造単位、及びアルキルアクリレートに由来する構造単位を含む重合体であることが好ましい。
重合体(c)に用いるアルキルアクリレートとしては、前記重合体(a)で例示したアルキルアクリレートを挙げることができ、多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体粒子(B)の耐熱分解性が向上すると共に熱可塑性樹脂フィルムの耐温水白化性や耐沸水白化性を向上させる観点から、メチルアクリレートが特に好ましい。
【0055】
重合体(c)におけるメチルメタクリレートに由来する構造単位の量は、重合体(c)の全構造単位中に、好ましくは80~99質量%であり、より好ましくは85~98質量%である。メチルメタクリレートに由来する構造単位の量が前記下限値以上であることによって熱可塑性樹脂フィルムの耐応力白化性が向上する。一方、前記上限値以下であることによって熱可塑性樹脂フィルムの耐熱分解性が向上する。
【0056】
重合体(c)におけるアルキルアクリレートに由来する構造単位の量は、重合体(c)の全構造単位中に、好ましくは1~19質量%であり、より好ましくは2~15質量%である。アルキルアクリレートに由来する構造単位の量が前記下限値以上であることによって多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体粒子(B)の耐熱分解性が向上し、前記下限値以上であることによって熱可塑性樹脂フィルムの耐応力白化性が向上する。
【0057】
重合体(c)はアセトン等の溶剤に可溶なものであること、すなわち、架橋されていないことが好ましい。重合体(c)が架橋されていない場合、重合体(a)、重合体(b)及び重合体(c)からなる多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体粒子(B)を用いた際に、重合体(c)がマトリックスを形成し、その中に重合体(a)及び重合体(b)からなる粒子が存在するようになり、熱可塑性樹脂フィルムの製造容易性が向上する。
【0058】
〔重合体(a)、重合体(b)及び重合体(c)の質量比〕
多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体粒子(B)中の重合体(a)の量は、好ましくは1~50質量%であり、より好ましくは5~45質量%であり、更に好ましくは10~40質量%である。重合体(a)の量が前記下限値以上であることによって熱可塑性樹脂フィルムの熱安定性及び生産性が向上する。一方、重合体(a)の量が前記上限値以下であることによって熱可塑性樹脂フィルムの耐衝撃性及び柔軟性が向上する。
【0059】
多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体粒子(B)中の重合体(b)の量は、好ましくは20~60質量%であり、より好ましくは25~55質量%であり、更に好ましくは30~50質量%である。重合体(b)の量が前記下限値以上であることによって熱可塑性樹脂フィルムの熱安定性及び生産性が向上する。一方、重合体(b)の量が前記上限値以下であることによって熱可塑性樹脂フィルムの耐衝撃性及び柔軟性が向上する。
【0060】
多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体粒子(B)中の重合体(c)の量は、好ましくは5~40質量%であり、より好ましくは10~35質量%であり、更に好ましくは15~30質量%である。重合体(c)の量が前記下限値以上であることによって多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体粒子(B)の流動性及び熱可塑性樹脂フィルムの成形性が向上する。重合体(c)の量が前記上限値以下であることによって熱可塑性樹脂フィルムの耐衝撃性及び耐応力白化性が向上する。
【0061】
〔多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体粒子(B)の製造方法〕
本発明に用いられる多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体粒子(B)の製造方法に特に制限はないが、例えば1次重合にて重合体(a)、2次重合にて重合体(b)、及び3次重合にて重合体(c)を順次、シード乳化重合法によって形成させることによりラテックスとして得ることができる。
【0062】
多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体粒子(B)の製造に用いる重合開始剤に特に制限はないが、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の水溶性の無機系開始剤;無機系開始剤に亜硫酸塩又はチオ硫酸塩等を併用してなるレドックス開始剤;有機過酸化物に第一鉄塩又はナトリウムスルホキシレート等を併用してなるレドックス開始剤等を挙げることができる。
重合開始剤は重合開始時に一括して反応系に添加してもよいし、反応速度等を勘案して重合開始時と重合途中とに分割して反応系に添加してもよい。重合開始剤の使用量は、例えば、多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体粒子(B)の平均粒子径が後述の範囲になるように適宜設定できる。
【0063】
多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体粒子(B)をラテックスとして得る観点から乳化剤を用いることが好ましい。乳化剤に特に制限はないが、例えば、長鎖アルキルスルホン酸塩、スルホコハク酸アルキルエステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩等のアニオン系乳化剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のノニオン系乳化剤;ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレントリデシルエーテル酢酸ナトリウム等のアルキルエーテルカルボン酸塩等のノニオン・アニオン系乳化剤を挙げることができる。乳化剤の使用量は、例えば、多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体粒子(B)の平均粒子径が後述の範囲になるように適宜設定できる。
【0064】
本発明においては、多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体粒子(B)の分子量を調整することを目的として、各重合において連鎖移動剤を使用することができる。特に第3次重合において、連鎖移動剤を反応系に添加することにより重合体(c)の分子量を調節することができる。
多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体粒子(B)の製造に用いる連鎖移動剤に特に制限はないが、例えば、n-オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、n-ヘキサデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタン類;ジメチルキサントゲンジスルフィド、ジエチルキサントゲンジスルフィド等のキサントゲンジスルフィド類;テトラチウラムジスルフィド等のチウラムジスルフィド類;四塩化炭素、臭化エチレン等のハロゲン化炭化水素等を挙げることができる。
【0065】
連鎖移動剤の使用量は、各重合において重合体を所定の分子量に調節できる範囲で適宜設定できる。第3次重合において使用される連鎖移動剤の量は、第3次重合に使用する重合開始剤の量等によって変わるが、第3次重合において使用する単量体、具体的にはメチルメタクリレート及びアルキルアクリレートの合計量100質量部に対して、好ましくは0.05~2質量部であり、より好ましくは0.08~1質量部である。
【0066】
前記製造方法において、第1次重合、第2次重合及び第3次重合は一つの重合槽中で順次行ってもよいし、第1次重合、第2次重合、及び第3次重合の度に重合槽を変えて順次行ってもよいが、各重合を一つの重合槽中で順次行うことが好ましい。また、重合を行っている間の反応系の温度は、好ましくは30~120℃であり、より好ましくは50~100℃である。
【0067】
前記各重合は、前記の単量体、具体的にはメチルメタクリレート、アルキルアクリレート、グラフト化剤及び架橋剤を前記の割合で混ぜ合わせて反応系に供給することにより行うことができる。前記単量体を反応系に供給する速度に特に制限はないが、各重合において使用される単量体の合計量に対して、好ましくは0.05~10質量%/分であり、より好ましくは0.1~8質量%/分であり、更に好ましくは0.2~7質量%/分になるような速度で供給することが好ましい。前記速度で供給することによって、望ましくない重合体凝集物の生成や重合体スケールの反応槽への付着を防ぐことができ、重合体凝集物や重合体スケールの混入で生じることがあるフィッシュアイ等の外観不良を生じさせないようにすることができる。
【0068】
前記の方法により得られたラテックスの凝固は、公知の方法で行うことができる。凝固法としては、凍結凝固法、塩析凝固法、酸析凝固法等を挙げることができる。これらのうち、多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体粒子(B)にとって不純物となる凝固剤の添加を要しない点から、凍結凝固法が好ましい。
【0069】
凝固によって得られたスラリーの洗浄及び脱水は十分に行うことが好ましい。スラリーの洗浄及び脱水によって、乳化剤や触媒等の水溶性成分をスラリーから除去できる。スラリーの洗浄及び脱水は、例えば、フィルタープレス、ベルトプレス、ギナ型遠心分離機、スクリューデカンタ型遠心分離機等で行うことができる。生産性、洗浄効率の観点からスクリューデカンタ式遠心分離機を用いることが好ましい。スラリーの洗浄及び脱水は、少なくとも2回行うことが好ましい。洗浄及び脱水の回数が多いほど水溶性成分の残存量が下がる。生産性の観点から、洗浄及び脱水の回数は、3回以下であることが好ましい。
【0070】
更に得られたスラリーは乾燥することが好ましい。スラリーの乾燥は、前記の方法によって得られた多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体粒子(B)の水分率が、好ましくは0.2質量%未満、より好ましくは0.1質量%未満になるように行うことが好ましい。水分率が高いほど溶融押出成形の際に多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体粒子(B)にエステル加水分解反応が起き、分子鎖にカルボキシル基が生成する傾向があり、その結果、熱可塑性樹脂フィルムのスジの発生を招きやすい。
【0071】
多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体粒子(B)の平均粒子径は、好ましくは0.01μm以上であり、より好ましくは0.04μm以上であり、更に好ましくは0.05μm以上であり、特に好ましくは0.07μm以上であり、好ましくは0.35μm以下であり、より好ましくは0.30μm以下である。平均粒子径が大きすぎると熱可塑性樹脂フィルムの耐応力白化性は低下する傾向がある。平均粒子径は、光散乱法に基づいて実施例に記載の方法により求められる。
【0072】
多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体粒子(B)の含有量は、熱可塑性樹脂フィルムの機械強度と加工性とを向上させる観点から、(メタ)アクリル系樹脂(A)100質量部に対して好ましくは5~50質量部であり、より好ましくは10~40質量部であり、更に好ましくは15~30質量部である。
【0073】
<任意成分>
本発明に用いる熱可塑性樹脂組成物(II)は、必要に応じて紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、可塑剤、高分子加工助剤、滑剤、染料、顔料等の公知の添加剤を含んでいてもよい。
熱可塑性樹脂組成物(II)が添加剤を含有する場合、その含有量は熱可塑性樹脂組成物(II)中に20質量%以下であることが好ましい。
添加剤は、例えば、フィルム成形機内で溶融している熱可塑性樹脂組成物(II)に添加してもよいし、ペレット化された熱可塑性樹脂組成物(II)にドライブレンドしてもよいし、多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体粒子(B)及び/又は(メタ)アクリル系樹脂(A)をペレット化する際に添加してもよい(マスターバッチ法)。
【0074】
本発明に用いる熱可塑性樹脂組成物(II)は、紫外線吸収剤を含むことが好ましい。紫外線吸収剤としては、例えば2,2’-メチレンビス[4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール]を挙げることができる。紫外線吸収剤の含有量は、(メタ)アクリル系樹脂(A)及び重合体粒子(B)の合計量100質量部に対して、好ましくは0.05~5質量部である。
【0075】
本発明に用いる熱可塑性樹脂組成物(II)の270℃、せん断速度122/秒における粘度は、200~2,000Pa・sであることが好ましい。前記粘度は、250Pa・s以上であることがより好ましく、300Pa・s以上であることが更に好ましい。また、1,500Pa・s以下であることがより好ましく、1,200Pa・s以下であることが更に好ましい。熱可塑性樹脂組成物(II)の粘度が前記範囲内であることにより、溶融押出成形において良好な溶融張力を保持することができ、良好なフィルムを容易に得ることができ、得られたフィルムの破断強度などの力学物性を良好に保つことができる。
なお、熱可塑性樹脂組成物(II)の粘度は実施例に記載の方法で測定した値を指す。
【0076】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法は、例えば、
図1に示す装置により実施することができる。
図1の装置においては、まず原料樹脂である熱可塑性樹脂組成物(II)を押出機1にて溶融する。次いで、溶融した熱可塑性樹脂組成物(II)はギアポンプ2を経て、ポリマーフィルター3にてろ過され、スタティックミキサー4を経て、Tダイ5からシート状に吐出される。吐出された溶融樹脂は、ロール6とロール7とに挟圧されて所望の厚みに成形される。その後、熱可塑性樹脂フィルムは、例えばロール状に巻き取られる。
【0077】
<押出機>
熱可塑性樹脂組成物(II)を溶融し、押し出すための押出機としては、例えば単軸押出機、二軸押出機又は多軸押出機等を用いることができる。本発明においては、熱可塑性樹脂組成物(II)を混合する際に発生する揮発分を除去するため、押出機はベント機構を備えることが好ましい。
押出機のスクリューとしてはバリアフライトやミキシングセクション付きスクリュー等を用いることができる。スクリューのL/D(Lは押出機のシリンダー長さ、Dはシリンダー内径を表す)は、熱可塑性樹脂組成物(II)の充分な可塑化や混合状態を得る観点から、好ましくは10以上であり、より好ましくは20以上であり、更に好ましくは25以上であり、そして、好ましくは100以下であり、より好ましくは50以下であり、更に好ましくは40以下である。L/Dが前記下限値以上であることにより熱可塑性樹脂組成物(II)の十分な可塑化や混合状態が得られる。また、L/Dが前記上限値以下であることにより、剪断発熱による熱可塑性樹脂組成物(II)の分解を抑制しつつ混合が可能である。
【0078】
溶融状態にする場合における押出機の温度(シリンダーの設定温度)は、使用する熱可塑性樹脂の種類、組成、ガラス転移温度等にもよるが、好ましくは150℃以上であり、より好ましくは180℃以上であり、そして、好ましくは310℃以下であり、より好ましくは280℃以下である。シリンダー温度が前記下限値以上であることにより熱可塑性樹脂組成物(II)を十分に溶融することができる。一方、シリンダー温度が前記上限値以下であることにより、熱可塑性樹脂組成物(II)の熱劣化による分解によって発生する低沸点の分解物、ヤケ、ゲル化等を抑制することができる。
【0079】
<ギアポンプ>
本発明においては、後述するポリマーフィルターやスタティックミキサーでの圧力損失を補うため、押出機の後にギアポンプを設置してもよい。ギアポンプとしては特に制限はないが、インバータ制御のギアポンプが好ましい。インバータ制御のギアポンプを用いることにより、押出機より吐出される溶融樹脂流量の脈動を抑制することができる。
ギアポンプ入口の樹脂圧は10MPa以下であることが好ましく、8MPa以下であることがより好ましい。ギアポンプ入口の樹脂圧が前記上限値以下であるとスタティックミキサーのエレメント数が増加した場合でも押出不良が発生しにくくなる。樹脂圧の下限値は、1MPa以上であることが好ましく、3MPa以上であることがより好ましい。ギアポンプ入口の樹脂圧が前記下限値以上であると、ギアポンプの樹脂吐出量変動が小さくなる。
【0080】
<ポリマーフィルター>
本発明においては、ギアポンプとスタティックミキサーとの間にポリマーフィルターを用いることが好ましい。ポリマーフィルターとしては熱可塑性樹脂組成物(II)をろ過するフィルターエレメント部と、溶融樹脂が導入及び排出されるハウジング部とからなることが好ましい。
フィルターエレメントとしては、ディスク型や筒型のものが挙げられるが、1エレメント当たりのろ過面積を大きくとれ、コスト面で優れることから、筒型のものを用いることが好ましい。
筒型のフィルターエレメントは通常、外周面から流体をろ過するろ過部、ろ過された流体が流れる中空部、この中空部から流体を排出する端部の排出部、及びフィルターエレメントの先端部を備える。筒型のフィルターエレメントとしては、例えばチューブタイプ、キャンドルタイプ等が挙げられ、中でも、キャンドルタイプのフィルターエレメントが好ましい。
キャンドルタイプのフィルターエレメントの形状に特に制限はなく、波型又はプリーツ型等が使用できる。前記プリーツ型におけるプリーツは、フィルターエレメントの半径方向に延びたものでもよいし、半径方向に対して斜めに延び、湾曲した断面形状又はアーチ型の断面形状を有する、いわゆるスパイラルプリーツであってもよい。
【0081】
フィルターエレメントのろ過精度は、好ましくは5μm以上であり、より好ましくは8μm以上であり、そして、好ましくは50μm以下であり、より好ましくは30μm以下である。ろ過精度が前記範囲内であることにより、生産性と異物混入の抑制とのバランスを向上させることができる。特にろ過精度が前記下限値以上であることにより、溶融状態の熱可塑性樹脂組成物(II)を通過させる際の剪断発熱による熱劣化を抑制できる。一方、ろ過精度が前記上限値以下であることにより、異物の効果的な除去が可能となる。
【0082】
<スタティックミキサー>
本発明においては、圧力損失を小さくしつつ、層流により高粘度の流体(ペースト)を効率的に撹拌混合することを目的としてスタティックミキサーを用いる。
本発明においては、スタティックミキサーにおいてエレメントとよばれる単位混合要素の数(エレメント数)を9~30とすることが好ましい。エレメント数が前記下限値未満である場合、熱可塑性樹脂組成物(II)の温度の均一性や、各配合成分の均一性が低下する可能性がある。また、エレメント数が前記上限値を超えるとエレメントの表面積が増え、劣化した樹脂がエレメント表面に付着することでフィルムの品質低下につながる場合がある。これらの観点から、前記エレメント数は、より好ましくは10以上であり、さらに好ましくは11以上であり、そして、より好ましくは28以下であり、さらに好ましくは25以下であり、よりさらに好ましくは20以下である。
エレメントの配置は、パイプ内に四角形状の板を右方向に180゜ねじり曲げて構成した右エレメントと、パイプ内に四角形状の板を左方向に180゜ねじり曲げて構成した左エレメントとを交互に配置したスタティックミキサーが好ましい。各エレメントの配置を上記のようにすることにより剪断を極力抑制しつつ効果的に混合できる。
【0083】
本発明のスタティックミキサーのエレメント1つあたりの長さLeは、実施するスケールにもよるが一般的には、熱可塑性樹脂組成物(II)の滞留による熱劣化を抑制する観点から、好ましくは30mm以上であり、より好ましくは40mm以上であり、そして、好ましくは160mm以下であり、より好ましくは100mm以下である。また、同様の観点から、スタティックミキサーのエレメント1つあたりの径Deは、好ましくは25mm以上であり、より好ましくは30mm以上であり、そして、好ましくは110mm以下であり、より好ましくは80mm以下である。
更に、本発明のスタティックミキサーのエレメント1つあたりの長さLeと径Deとの比Le/Deは、熱可塑性樹脂組成物(II)の滞留による熱劣化を抑制する観点から、好ましくは1.2以上であり、より好ましくは1.3以上であり、そして、好ましくは1.8以下であり、より好ましくは1.7以下である。
【0084】
スタティックミキサーは全エレメントを連続して接続する必要はなく、複数の配管に分割して接続してもよいが、分割数を多くするとスタティックミキサーによる混合効果が低下するため、少なくとも5つのエレメントは連続して設置することが望ましい。
【0085】
スタティックミキサーに入る直前の熱可塑性樹脂組成物(II)の温度及びスタティックミキサーを通過した直後の熱可塑性樹脂組成物(II)の温度は、使用する熱可塑性樹脂のガラス転移温度にもよるが、好ましくは230℃以上であり、より好ましくは250℃以上であり、そして、好ましくは300℃以下であり、より好ましくは280℃以下である。熱可塑性樹脂組成物(II)の温度を前記下限値以上にすることにより、熱可塑性樹脂組成物(II)の粘度が小さくなり圧力損失を小さくすることができる。一方、熱可塑性樹脂組成物(II)の温度を前記上限値以下にすることにより、せん断発熱による樹脂の分解を抑制することが可能になる。
【0086】
<Tダイ>
本発明に用いるTダイは、特に限定されず、公知のものを用いることができ、例えばマニホールドダイ、フィッシュテールダイ、コートハンガーダイ等を用いることができる。なお、厚みを安定化させるため、製膜したフィルムの厚みを測定して、リップ開度のボルトを自動で調整する機構を備える自動調整ダイを用いることが好ましい。
【0087】
Tダイ温度は、熱可塑性樹脂のガラス転移温度よりも100~200℃高い温度であることが好ましい。上記範囲であることによって、溶融樹脂がロールと接触した際に平滑に成形できる効果が得られる。これらの観点から、Tダイ温度は熱可塑性樹脂のガラス転移温度よりも110~190℃高い温度であることがより好ましく、熱可塑性樹脂のガラス転移温度よりも120~180℃高い温度であることが更に好ましい。
【0088】
<ロール>
本発明の製造方法においては、熱可塑性樹脂フィルムの表面平滑性及び厚み精度を向上させる観点から、Tダイから押出された溶融物を、好ましくは金属製の鏡面ロール又は鏡面ベルトを用いて引き取り、挟圧することが好ましい。金属製の鏡面ロールとしては、金属弾性ロールや金属剛体ロール等が挙げられるが、熱可塑性樹脂フィルムの表面平滑性を向上させる観点から、金属弾性ロールと金属剛体ロールを組み合わせて用いることが好ましい。
鏡面ロール又は鏡面ベルトを用いる場合、その押付圧は、熱可塑性樹脂フィルムの表面平滑性を向上させる観点から、好ましくは0.5MPa以上であり、より好ましく1.0MPa以上である。押付圧の上限は、通常5.0MPaである。
【0089】
また、鏡面ロール又は鏡面ベルトを用いる場合、その表面温度は、熱可塑性樹脂フィルムの表面平滑性、ヘーズ及び外観等を向上させる観点から、好ましくは50~130℃であり、より好ましくは60~100℃である。
【0090】
<厚み>
本発明によれば、例えば、厚み20~200μmの熱可塑性樹脂フィルムを白スジの発生を抑制しつつ得ることができる。更に、熱可塑性樹脂フィルムのハンドリング性の向上やコストを低く抑える観点から、熱可塑性樹脂フィルムの厚みは、好ましくは25~180μmであり、より好ましくは30~150μm、更に好ましくは35~100μmである。厚みが前記下限値以上であることによって剛性が高くなり、熱可塑性樹脂フィルムのハンドリング性が向上する。また、厚みが前記上限値以下であることによって、熱可塑性樹脂フィルムの強度と製造コストとのバランスが向上する。
【0091】
<熱可塑性樹脂フィルムの用途>
本発明の製造方法により製造した熱可塑性樹脂フィルムは、以下の各種用途に使用することができる。例えば、自動車内外装、パソコン内外装、携帯電話内外装、太陽電池内外装、太陽電池バックシート、道路標識、浴室設備、床材、道路透光板、ペアガラス用レンズ、採光窓、カーポート、照明カバー、建材用サイジング等の建築・建材分野、電子レンジ調理容器(食器)、家電製品のハウジング、玩具、サングラス、文房具等に使用することができる。また、転写箔シートを使用した成形品の代替用途としても使用できる。
また、光学用フィルムに好適であり、携帯電話、スマートフォン、タブレット等の端末の液晶画面の前面板;液晶用導光板、拡散板、バックシート、反射シート、偏光フィルム透明樹脂シート、位相差フィルム、光拡散フィルム、プリズムシート、光学的等方フィルム、偏光子保護フィルム、透明導電フィルム等の液晶ディスプレイ用フィルム等として液晶表示装置周辺;表面保護フィルム等の情報機器分野;有機EL用フィルムとして有機EL装置周辺等の公知の用途に適用できる。
【実施例】
【0092】
以下、実施例に基づき本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、本実施例における測定方法等は以下のとおりである。
【0093】
[測定方法及び評価方法]
<重量平均分子量(Mw)>
(メタ)アクリル系樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により標準ポリスチレン換算分子量で求めた。測定装置及び条件は、以下のとおりである。
・装置 :東ソー株式会社製GPC装置「HLC-8320」
・分離カラム :東ソー株式会社製「TSKgel SuperMultipore HZM-M」と「SuperHZ4000」を直結
・検出器 :東ソー株式会社製「RI-8020」
・溶離液 :テトラヒドロフラン
・溶離液流量 :0.35ml/分
・サンプル濃度:8mg/10ml
・カラム温度 :40℃
【0094】
<ガラス転移温度(Tg)>
(メタ)アクリル系樹脂(A)及び熱可塑性樹脂組成物(II)のガラス転移温度は、JIS K7121:2012に準拠して測定した。すなわち、試料を200℃まで一度昇温し、次いで30℃以下まで冷却し、その後30℃から200℃までを10℃/分で昇温させる条件にて、示差走査熱量測定法にてDSC曲線を測定し、2回目の昇温時に測定されるDSC曲線から求められる中間点ガラス転移温度を本発明におけるガラス転移温度とした。
【0095】
<平均粒子径>
多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体粒子(B)の平均粒子径は、試料粒子を含むラテックスを水で200倍に希釈し、レーザー回折散乱式粒子径分布測定装置(株式会社堀場製作所製、装置名「LA-950V2」)を用いて25℃で係る希釈液を分析し、粒子径を測定した。この際、試料粒子及び水の絶対屈折率をそれぞれ、1.4900、1.3333とした。
【0096】
<化合物(I)の加熱後の粘度(シリコーンオイルの加熱、及び粘度)>
(1)シリコーンオイルの加熱
金属製トレイ(幅140mm・長さ187mm)に実施例及び比較例で用いたシリコーンオイルをそれぞれ30g加え、送風定温恒温器(ヤマト科学株式会社製、装置名「DN410H」)にて空気雰囲気下、Tダイ温度(設定温度)にて24時間加熱した。次いで、Tダイ温度条件にて下記方法にしたがって粘度(PI-1)を測定した。
更に、前記と同様の方法でシリコーンオイルを準備し、Tダイ温度(設定温度)から30℃低い温度にて48時間加熱した。次いで、Tダイ温度から30℃低い温度にて下記方法にしたがって粘度(PI-2)を測定した。結果を表1に示す。
【0097】
(2)粘度の測定方法
粘度は、回転型レオメータ(TAインスツルメント製、装置名「ARES」)を用い、温度をそれぞれの条件にしたがって設定し、せん断速度100[1/s]にて粘度を測定した。
【0098】
<化合物(I)の25℃における粘度>
化合物(I)の粘度は、25℃の条件で前記化合物(I)の加熱後の粘度(シリコーンオイルの粘度)の測定方法に準じて測定した。
【0099】
<熱可塑性樹脂組成物(II)のTダイ温度における粘度>
熱可塑性樹脂組成物(II)のTダイ温度における粘度(PII)は、キャピログラフ(株式会社東洋精機製作所製 型式1D、キャピラリー 直径1mm、長さ40mm)を用いて、270℃(Tダイの設定温度)、せん断速度122[1/秒]の条件で測定した。
【0100】
<白スジの発生量>
後述の方法で製造した300m巻のフィルムを巻き終わりから1m抜出し、これを評価試料とした。暗室内において、前記評価試料の一方の面に黒色ネル布を吊るし、他方の面からポラリオンライト(ポラリオン社製、PS-NP1:HID光源、35W)の間接反射光を照射した。そして、間接反射光により白色に観察されるフィルムの流れ方向のスジを白スジとして観察し、以下の基準にしたがって評価した。なお、製膜を開始してから4時間後に製造したフィルムと、製膜を開始してから24時間経過後に製造したフィルムとの2種の評価試料について評価を行った。
〔評価基準〕
1(良い):白スジが2本以下
2(普通):白スジが3~5本
3(悪い):白スジが6本以上
【0101】
<製造例1:(メタ)アクリル系樹脂(A)の製造>
メチルメタクリレート99.3質量部及びメチルアクリレート0.7質量部に重合開始剤〔2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)、水素引抜能:1%、1時間半減期温度:83℃〕0.008質量部、及び連鎖移動剤(n-オクチルメルカプタン)0.26質量部を加え、溶解させて3,000kgの原料液を得た。
イオン交換水100質量部、硫酸ナトリウム0.03質量部、及びポリメタクリル酸カリウム0.45質量部を混ぜ合わせて6,000kgの混合液を得た。耐圧重合槽に、当該混合液と前記原料液(合計9,000kg)を仕込み、窒素雰囲気下で撹拌しながら、温度を70℃にして重合反応を開始させた。重合反応開始後、3時間経過時に、温度を90℃に上げ、撹拌を引き続き1時間行うことによりビーズ状共重合体が分散した液を得た。なお、重合槽壁面あるいは撹拌翼にポリマーが若干付着したが、泡立ちもなく、円滑に重合反応が進んだ。
得られた共重合体分散液を適量のイオン交換水で洗浄し、バケット式遠心分離機により、ビーズ状共重合体を取り出し、80℃の熱風乾燥機で12時間乾燥し、ビーズ状の(メタ)アクリル系樹脂(A)を得た。
得られた(メタ)アクリル系樹脂(A)は、メチルメタクリレート単位の含有量が99.3質量%、メチルアクリレート単位の含有量が0.7質量%であり、重量平均分子量(Mw)が92,000、ガラス転移温度は120℃であった。
【0102】
<製造例2:多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体粒子(B)の製造>
以下の手順にしたがって、コア(内層)、インナーシェル(中間層)、及びアウターシェル(外層)の3層からなるコアシェル多層構造を有するアクリル系重合体を製造した。
(1)内層の合成
撹拌機、温度計、窒素ガス導入管、単量体導入管及び還流冷却器を備えた反応器内に、イオン交換水1,050質量部、ポリオキシエチレントリデシルエーテル酢酸ナトリウム0.3質量部及び炭酸ナトリウム0.7質量部(合計2,100kg)を仕込み、反応器内を窒素ガスで十分に置換した。次いで内温を80℃にし、過硫酸カリウム0.25質量部を投入し、5分間撹拌した。これに、メチルメタクリレート95.4質量%、メチルアクリレート4.4質量%及びアリルメタクリレート0.2質量%からなる単量体混合物245質量部を60分間かけて連続的に滴下した。滴下終了後、重合転化率が98%以上になるように更に30分間重合反応を行った。
【0103】
(2)中間層の合成
次いで、同反応器内に、過硫酸カリウム0.32質量部を投入して5分間撹拌した。その後、n-ブチルアクリレート80.5質量%、スチレン17.5質量%及びアリルメタクリレート2質量%からなる単量体混合物315質量部を60分間かけて連続的に滴下した。滴下終了後、重合転化率が98%以上になるように更に30分間重合反応を行った。
【0104】
(3)外層の合成
次に、同反応器内に、過硫酸カリウム0.14質量部を投入して5分間撹拌した。その後、メチルメタクリレート95.2質量%、メチルアクリレート4.4質量%及びn-オクチルメルカプタン0.4質量%からなる単量体混合物140質量部を30分間かけて連続的に滴下した。滴下終了後、重合転化率が98%以上になるように更に60分間重合反応を行った。
【0105】
以上の操作によって、多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体粒子(B)を含むラテックスを得た後、多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体粒子(B)を含むラテックスを凍結して凝固させた。次いで水洗、及び乾燥して多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体粒子(B)を得た。当該粒子の平均粒子径は0.23μmであった。
【0106】
<実施例1>
図1の装置を用いて熱可塑性樹脂フィルムを作成した。
具体的には、まず製造例1で製造した(メタ)アクリル系樹脂(A)80質量部、製造例2で製造した多層構造を有する(メタ)アクリル系重合体粒子(B)20質量部及び紫外線吸収剤としてアデカスタブLA-31(株式会社アデカ製)2質量部をヘンシェルミキサーで混合した。次いで、押出機の設定温度(シリンダーの設定温度)が260℃であり、スクリュー径が58mmであるベント付きの二軸押出機を用いて混合を行って熱可塑性樹脂組成物(II)を得た。なお、熱可塑性樹脂組成物(II)のガラス転移温度は120℃であった。
この熱可塑性樹脂組成物(II)を265℃に設定されたスクリュー径90mm(L/D=34)、ベント付きの単軸押出機(温度はシリンダーの設定温度)を用いて溶融状態とし、180kg/hの吐出速度でリップ幅1850mm、リップ開度0.6mmのTダイ(温度270℃:設定温度)よりフィルム状にして押出し、2本のロール(温度:90℃、圧力1.6MPa)により挟圧してライン速度20m/minで厚さ75μm、幅1500mm、300m巻きの熱可塑性樹脂フィルム((メタ)アクリル系樹脂フィルム)を得た。ギアポンプは、平歯の外接ギアポンプ(東芝機械株式会社製)を使用し、入口圧力5MPaで送り出した。
ポリマーフィルターはろ過精度10μmのキャンドルフィルターを4本並列に設置した。スタティックミキサーはエレメント数16であり、Le/Deが1.5(Le=57mm、De=38mm)であるものを用いた。
化合物(I)として、下記式(1)で表されるシリコーンオイル(メチルフェニルシリコーン、信越化学工業株式会社製、製品名:KF-54)2mlをウエスに浸み込ませダイリップに塗布した。
スタティックミキサーに入る直前の熱可塑性樹脂組成物(II)の温度及びスタティックミキサーを通過した直後の熱可塑性樹脂組成物(II)の温度のいずれもが270℃になるように調整し、更にその後のTダイまでの温度も270℃に設定してフィルムを製造した。製造したフィルムについて前記方法により白スジを評価した。なお、得られた熱可塑性樹脂フィルムの厚みは75μmであった。
【0107】
【化1】
式(1)中、x及びyは整数を表す(以下、同じ)。
【0108】
<比較例1>
実施例1で用いたシリコーンオイルの代わりに、下記式(2)で表されるシリコーンオイル(ジメチルシリコーン、信越化学工業株式会社製、製品名:KF96-100CS)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法でフィルムを製膜した。評価結果を表1に示す。
【0109】
【0110】
<比較例2>
実施例1で用いたシリコーンオイルの代わりに、下記式(3)で表されるシリコーンオイル(アラルキル変性シリコーン、信越化学工業株式会社製、製品名:KF410)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法でフィルムを製膜した。評価結果を表1に示す。
本化合物は、Tダイ温度から30℃低い温度にて48時間加熱後に固化した(PII<PI-2)ことから、フィルム製膜に用いると、ダイラインが発生すると想定する。
【0111】
【0112】
<比較例3>
実施例1で用いたシリコーンオイルの代わりに、下記式(4)で表されるシリコーンオイル(両末端フェノール変性シリコーン、信越化学工業株式会社製、製品名:KF2201)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法でフィルムを製膜した。評価結果を表1に示す。本化合物は、Tダイ温度から30℃低い温度にて48時間加熱後に固化した(PII<PI-2)ことから、フィルム製膜に用いると、ダイラインが発生すると想定する。
なお、式(4)中、Rはアルキレン鎖を表す。
【0113】
【0114】
【0115】
なお、表1中の記載の詳細は以下のとおりである。
PI-1:Tダイ温度で24時間加熱した後の前記化合物(I)の粘度
PI-2:Tダイ温度より30℃低い温度で48時間加熱した後の前記化合物(I)の粘度
PII :Tダイ温度における前記熱可塑性樹脂組成物(II)の粘度
【0116】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法によれば、フィルムの流れ方向に発生する白スジの発生を抑制することができる。
【符号の説明】
【0117】
1 押出機
2 ギアポンプ
3 ポリマーフィルター
4 スタティックミキサー
5 Tダイ
6 ロール(1)
7 ロール(2)