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特許7583669表面処理方法、基板表面の領域選択的製膜方法及び表面処理剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】表面処理方法、基板表面の領域選択的製膜方法及び表面処理剤
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/316 20060101AFI20241107BHJP
   H01L 21/318 20060101ALI20241107BHJP
   C23C 16/04 20060101ALI20241107BHJP
   C23C 16/455 20060101ALI20241107BHJP
   C09K 3/18 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
H01L21/316 X
H01L21/318 B
C23C16/04
C23C16/455
C09K3/18 102
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021078033
(22)【出願日】2021-04-30
(65)【公開番号】P2022171414
(43)【公開日】2022-11-11
【審査請求日】2024-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000220239
【氏名又は名称】東京応化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】中村 泰司
(72)【発明者】
【氏名】関 健司
(72)【発明者】
【氏名】飯岡 淳
【審査官】宇多川 勉
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/202418(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/139043(WO,A1)
【文献】特開2021-014631(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/316
H01L 21/318
C23C 16/04
C23C 16/455
C09K 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面に対する表面処理方法であって、
前記表面が、2以上の領域を含み、
2以上の前記領域が、少なくとも1つの金属領域と、少なくとも1つの絶縁体領域とを含み、
2以上の前記領域のうちの、少なくとも1つの前記金属領域と、少なくとも1つの絶縁体領域とが近接し、
前記金属領域が金属からなり、前記絶縁体領域が、酸化物、窒化物、炭化物、炭窒化物、酸窒化物、酸炭窒化物、及び絶縁性樹脂からなる群より選ばれる1種以上の化合物からなり、
下記一般式(P-1):
-P(=O)(OR)(OR) ・・・(P-1)
[式中、Rは、アルキル基、アルコキシ基、フッ素化アルキル基又は置換基を有してもよい芳香族炭化水素基であり、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、フッ素化アルキル基、又は置換基を有してもよい芳香族炭化水素基である。]
で表される化合物(P)及び、
塩基性含窒素化合物(B)と、
前記領域との反応によって、前記金属領域の水の接触角を、前記金属領域に近接する前記絶縁体領域の水の接触角よりも10°以上高くする、表面処理方法。
【請求項2】
前記塩基性含窒素化合物(B)が、第四級アンモニウム化合物、ピリジニウムハロゲン化物、ピロリジニウムハロゲン化物、ビピリジニウムハロゲン化物、及びpKbが2.5以下のアミン若しくはその塩からなる群より選ばれる、請求項1に記載の表面処理方法。
【請求項3】
前記金属が、銅、コバルト、アルミニウム、銀、ニッケル、チタン、金、クロム、モリブデン、タングステン、ルテニウム、窒化チタン、及び窒化タンタルからなる群より選ばれる1種以上であり、前記絶縁体が、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化タンタル、酸化ケイ素、フッ素含有酸化ケイ素、炭素含有酸化ケイ素、窒化ケイ素、窒化ホウ素、炭化ケイ素、炭窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、及び酸炭窒化ケイ素からなる群より選ばれる1種以上である、請求項1又は2に記載の表面処理方法。
【請求項4】
前記反応後の、前記金属領域の水の接触角が70°以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の表面処理方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の表面処理方法により前記基板の前記表面を処理することと、
表面処理された前記基板の表面に、原子層成長法により膜を形成することとを含み、
前記絶縁体領域上に、前記金属領域上よりも前記膜の材料を多く堆積させる、前記基板表面の領域選択的製膜方法。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載の表面処理方法において用いられる表面処理剤であって、
下記一般式(P-1):
-P(=O)(OR)(OR) ・・・(P-1)
[式中、Rは、アルキル基、アルコキシ基、フッ素化アルキル基又は置換基を有してもよい芳香族炭化水素基であり、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、フッ素化アルキル基、又は置換基を有してもよい芳香族炭化水素基である。]
で表される化合物(P)と、
塩基性含窒素化合物(B)と、
溶剤と、
を含有する一液型表面処理剤。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか1項に記載の表面処理方法において用いられる表面処理剤であって、
下記一般式(P-1):
-P(=O)(OR)(OR) ・・・(P-1)
[式中、Rは、アルキル基、アルコキシ基、フッ素化アルキル基又は置換基を有してもよい芳香族炭化水素基であり、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、フッ素化アルキル基、又は置換基を有してもよい芳香族炭化水素基である。]
で表される化合物(P)と、溶剤と、を含む第一の表面処理剤と、
塩基性含窒素化合物(B)と、溶剤と、を含む第二の表面処理剤と、
を備える二液型表面処理剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理方法、基板表面の領域選択的製膜方法及び表面処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイスの高集積化、微小化の傾向が高まっている。これにともない、マスクとなるパターニングされた有機膜やエッチング処理により作製されたパターニングされた無機膜の微細化が進んでいる。このため、半導体基板上に形成する有機膜や無機膜については、原子層レベルの膜厚制御が求められている。
基板上に原子層レベルで薄膜を形成する方法として原子層成長法(ALD(Atomic Layer Deposition)法;以下、単に「ALD法」ともいう。)が知られている。ALD法は、一般的なCVD(Chemical Vapor Deposition)法と比較して高い段差被覆性(ステップカバレッジ)と膜厚制御性とを併せ持つことが知られている。
【0003】
ALD法は、形成しようとする膜を構成する元素を主成分とする2種類のガスを基板上に交互に供給し、基板上に原子層単位で薄膜を形成することを複数回繰り返して所望の厚さの膜を形成する薄膜形成技術である。
ALD法では、原料ガスを供給している間に1層又は数層の原子層が形成される程度の原料ガスの成分だけが基板表面に吸着される一方で、余分な原料ガスは成長に寄与しないという、成長の自己制御機能(セルフリミット機能)を利用する。
例えば、基板上にAl膜を形成する場合、TMA(TriMethyl Aluminum)からなる原料ガスとOを含む酸化ガスが用いられる。また、基板上に窒化膜を形成する場合、酸化ガスの代わりに窒化ガスが用いられる。
【0004】
近年、ALD法を利用して基板表面を領域選択的に製膜する方法が試みられてきている(特許文献1及び非特許文献1参照)。
これに伴い、ALD法による基板上での領域選択的な製膜に好適に適用し得るように領域選択的に改質された表面を有する基板が求められてきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2003-508897号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】J.Phys.Chem.C 2014,118,10957-10962
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上の状況に鑑みてなされたものであり、近接する金属領域と絶縁体領域とを含む基板表面に対して、金属領域を撥水化でき、絶縁体領域の撥水化を抑制できる表面処理方法、当該表面処理方法を含む、基板表面の領域選択的製膜方法、及び前述の表面処理方法に好適に用いられる表面処理剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、基板の表面に対する表面処理方法であって、前記表面が、2以上の領域を含み、2以上の前記領域が、少なくとも1つの金属領域と、少なくとも1つの絶縁体領域とを含み、2以上の前記領域のうちの、少なくとも1つの前記金属領域と、少なくとも1つの絶縁体領域とが近接し、前記金属領域が金属からなり、前記絶縁体領域が、酸化物、窒化物、炭化物、炭窒化物、酸窒化物、酸炭窒化物、及び絶縁性樹脂からなる群より選ばれる1種以上の化合物からなり、特定の構造のリン化合物である化合物(P)及び塩基性含窒素化合物(B)と、前記領域との反応による表面処理方法を用いることにより、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
本発明の第1の態様は、基板の表面に対する表面処理方法であって、
上記表面が、2以上の領域を含み、
2以上の上記領域が、少なくとも1つの金属領域と、少なくとも1つの絶縁体領域とを含み、
2以上の上記領域のうちの、少なくとも1つの上記金属領域と、少なくとも1つの絶縁体領域とが近接し、
上記金属領域が金属からなり、上記絶縁体領域が、酸化物、窒化物、炭化物、炭窒化物、酸窒化物、酸炭窒化物、及び絶縁性樹脂からなる群より選ばれる1種以上の化合物からなり、
下記一般式(P-1):
-P(=O)(OR)(OR) ・・・(P-1)
[式中、Rは、アルキル基、フッ素化アルキル基、アルコキシ基又は置換基を有してもよい芳香族炭化水素基であり、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、フッ素化アルキル基、又は置換基を有してもよい芳香族炭化水素基である。]
で表される化合物(P)及び、
塩基性含窒素化合物(B)と、
上記領域との反応によって、上記金属領域の水の接触角を、上記金属領域に近接する上記絶縁体領域の水の接触角よりも10°以上高くする、表面処理方法である。
【0010】
本発明の第2の態様は、第1の態様に係る表面処理方法により上記基板の上記表面を処理することと、
表面処理された上記基板の表面に、原子層成長法により膜を形成することとを含み、
上記絶縁体領域上に、上記金属領域上よりも前記膜の材料を多く堆積させる、上記基板表面の領域選択的製膜方法である。
【0011】
本発明の第3の態様は、第1の態様に係る表面処理方法において用いられる表面処理剤であって、
下記一般式(P-1):
-P(=O)(OR)(OR) ・・・(P-1)
[式中、Rは、アルキル基、フッ素化アルキル基、アルコキシ基又は置換基を有してもよい芳香族炭化水素基であり、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、フッ素化アルキル基、又は置換基を有してもよい芳香族炭化水素基である。]
で表される化合物(P)と、
塩基性含窒素化合物(B)と、
溶剤と、
を含有する一液型表面処理剤である。
【0012】
本発明の第4の態様は、第1の態様に係る表面処理方法において用いられる表面処理剤であって、
下記一般式(P-1):
-P(=O)(OR)(OR) ・・・(P-1)
[式中、Rは、アルキル基、フッ素化アルキル基、アルコキシ基又は置換基を有してもよい芳香族炭化水素基であり、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、フッ素化アルキル基、又は置換基を有してもよい芳香族炭化水素基である。]
で表される化合物(P)と、溶剤と、を含む第一の表面処理剤と、
塩基性含窒素化合物(B)と、溶剤と、を含む第二の表面処理剤と、
を備える二液型表面処理剤である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、近接する金属領域と絶縁体領域とを含む基板表面に対して、金属領域を撥水化でき、絶縁体領域の撥水化を抑制できる表面処理方法、当該表面処理方法を含む、基板表面の領域選択的製膜方法、及び前述の表面処理方法に好適に用いられる表面処理剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<表面処理方法>
表面処理方法は、基板の表面に対する表面処理方法である。基板の表面は、2以上の領域を含む。2以上の領域は、少なくとも1つの金属領域と、少なくとも1つの絶縁体領域とを含む。2以上の上記領域のうちの、少なくとも1つの上記金属領域と、少なくとも1つの上記絶縁体領域とが近接している。ここで、近接とは、少なくとも1つの上記金属領域と、少なくとも1つの上記絶縁体領域とが境界線を共有して隣接する場合、又は、境界線を共有せず隣や離間した位置に構成される場合を含む。
表面処理方法において、後述する化合物(P)及び塩基性含窒素化合物(B)と、上記領域との反応によって、上記金属領域の水の接触角を、上記金属領域に近接する上記絶縁体領域の水の接触角よりも10°以上高くする。
【0015】
(基板及び基板表面)
表面処理方法において、表面処理の対象となる「基板」としては、半導体デバイス作製のために使用される基板が例示される。かかる基板としては、例えば、ケイ素(Si)基板、窒化ケイ素(SiN)基板、シリコン酸化膜(Ox)基板、タングステン(W)基板、コバルト(Co)基板、ゲルマニウム(Ge)基板、アルミニウム(Al)基板、ニッケル(Ni)基板、ルテニウム(Ru)基板、銅(Cu)基板、窒化チタン(TiN)基板、窒化タンタル(TaN)基板、シリコンゲルマニウム(SiGe)基板等が挙げられる。
「基板の表面」とは、基板自体の表面のほか、基板上に設けられたパターン化された無機層及びパターン化されていない無機層の表面が挙げられ、パターン化された無機層の表面として、実質、パターンの側面も表面に含まれるものとする。
【0016】
基板上に設けられたパターン化された無機層としては、フォトレジスト法により基板に存在する無機層の表面にエッチングマスクを作製し、その後、エッチング処理することにより形成されたパターン化された無機層、原子層成長法(ALD法)により基板の表面に形成されたパターン化された無機層が例示される。なお、当該ALD法により基板の表面に形成されたパターン化された無機層を得る場合においても、本発明の表面処理剤を用いることができる。本発明の表面処理剤を用いることで、無機層として金属領域に相当する領域と絶縁体領域に相当する領域との選択性を確保できる。無機層としては、基板自体の他、基板を構成する元素の酸化膜、基板の表面に形成した窒化ケイ素(SiN)、シリコン酸化膜(SiOx)、タングステン(W)、コバルト(Co)、ゲルマニウム(Ge)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、ルテニウム(Ru)、銅(Cu)、銀(Ag)、チタン(Ti)、金(Au)、クロム(Cr)モリブデン(Mo)、酸化アルミニウム(Al)、酸化チタン(TiO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化ハフニウム(HfO)、酸化タンタル(Ta)、窒化チタン(TiN)、窒化タンタル(TaN)、シリコンゲルマニウム(SiGe)、酸化ケイ素(SiO)等の無機物の膜ないし層等が例示される。
このような膜や層としては、特に限定されないが、半導体デバイスの作製過程において形成される無機物の膜や層等が例示される。
基板上に設けられたパターン化されていない無機層としては、基板上に設けられたパターン化された上記無機層と同じ材質からなる無機物の膜ないし層等が例示される。
【0017】
(金属領域及び絶縁体領域)
金属領域は金属からなる。金属領域は後述の絶縁体領域に対し導電体領域と定義してもよい。金属としては、上記無機物のうち、銅(Cu)、コバルト(Co)、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、金(Au)、クロム(Cr)モリブデン(Mo)、タングステン(W)、ルテニウム(Ru)、窒化チタン(TiN)、窒化タンタル(TaN)等が好ましい。
絶縁体領域は、酸化物、窒化物、炭化物、炭窒化物、酸窒化物、酸炭窒化物、及び絶縁性樹脂からなる群より選択される1種以上の化合物からなり、酸化物、窒化物、炭化物、炭窒化物、酸窒化物又は酸炭窒化物が好ましい。酸化物としては、酸化アルミニウム(Al)、酸化チタン(TiO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化ハフニウム(HfO)、酸化タンタル(Ta)、酸化ケイ素(SiOx(1≦X≦2))、フッ素含有酸化ケイ素(SiOF)、炭素含有酸化ケイ素(SiOC)が好ましい。窒化物としては、例えば、窒化ケイ素(SiN)、窒化ホウ素(BN)が好ましい。炭化物としては、炭化ケイ素(SiC)が好ましい。炭窒化物としては、炭窒化ケイ素(SICN)が好ましい。酸窒化物としては、酸窒化ケイ素(SiON)、が好ましい。酸炭窒化物としては、酸炭窒化ケイ素(SiOCN)が好ましい。絶縁性樹脂としては、ポリイミド、ポリエステル、プラスチック樹脂等が挙げられる。
【0018】
表面処理方法では、上記金属領域の水の接触角が、上記金属領域に近接する上記絶縁体領域の水の接触角よりも10°以上高められる。このことは、金属領域が撥水化され、絶縁体領域の撥水化が抑制されることを示している。
【0019】
(基板表面が2つの領域からなる態様)
2つの領域からなる基板表面の態様としては、例えば、上記2つの領域のうちの1つの領域を第1の領域である金属領域とし、それに近接する領域を第2の領域である絶縁体領域であとする態様が挙げられる。ここで、第1の領域及び第2の領域は、それぞれ複数の領域に分割されていてもされていなくてもよい。
第1の領域及び第2の領域の例としては、例えば、
基板自体の表面を第1の領域である金属領域とし、基板の表面に形成した絶縁体からなる層を第2の領域である絶縁体領域とする態様、
基板自体の表面を第1の領域である絶縁体領域とし、基板の表面に形成した金属からなる層を第2の領域である金属領域とする態様、
基板の表面に形成した金属からなる層を第1の領域である金属領域とし、基板の表面に形成した絶縁体からなる層を第2の領域である絶縁体領域とする態様、
絶縁体である基板の表面の一部を第1の領域である金属領域とし、当該金属領域でない基板の表面の少なくとも一部に形成した絶縁体からなる層及び/又は当該金属領域でない基板表面の少なくとも一部(又は金属領域でない基板表面全部)を第2の領域である絶縁体領域とする態様等が挙げられる。
【0020】
(基板表面が3つ以上の領域からなる態様)
3つ以上の領域からなる基板表面の態様としては、例えば、上記2以上の領域のうちの1つの領域を第1の領域である金属領域とし、それに近接する領域を第2の領域である絶縁体領域とし、更に第2の絶縁体領域に近接する領域を第3の領域である金属領域とする態様、上記2以上の領域のうちの1つの領域を第1の領域である絶縁体領域とし、それに近接する領域を第2の領域である金属領域とし、更に第2の金属領域に近接する領域を第3の領域である絶縁体領域とする態様が挙げられる。
ここで、第1の領域と第3の領域とでは材質が相違する。
また、第1の領域、第2の領域及び第3の領域は、それぞれ複数の領域に分割されていてもされていなくてもよい。
第1の領域、第2の領域及び第3の領域の例としては、例えば、基板自体の表面を第1の領域である金属領域とし、該基板に近接し、該基板の表面に形成した絶縁体領域の表面を第2の領域とし、第2の領域に近接し、該基板の表面に形成した金属領域の表面を第3の領域とする態様、基板自体の表面を第1の領域である絶縁体領域とし、該基板に近接し、該基板の表面に形成した金属領域の表面を第2の領域とし、第2の領域に近接し、該基板の表面に形成した絶縁体領域の表面を第3の領域とする態様等が挙げられる。
第4以上の領域が存在する場合についても同様の考え方が適用し得る。
材質が相違する領域数の上限値としては本発明の効果が損なわれない限り特に限定されないが、例えば、7以下又は6以下であり、典型的には5以下である。
【0021】
(化合物(P))
表面処理方法は、下記一般式(P-1)で表される化合物(P)を上記領域と反応させる。
【0022】
-P(=O)(OR)(OR) ・・・(P-1)
[式中、Rは、アルキル基、アルコキシ基、フッ素化アルキル基、又は置換基を有してもよい芳香族炭化水素基であり、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、フッ素化アルキル基、又は置換基を有してもよい芳香族炭化水素基である。]
【0023】
式(P-1)で表される化合物(P)において、Rのアルキル基としては、炭素原子数8以上の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基が好ましく、炭素原子数12以上の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基がより好ましい。
【0024】
としてのアルキル基の好適な具体例としては、例えば、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、イソトリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、イソヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、及びドコシル基、並びにこれらのアルキル基と構造異性の関係にあるアルキル基が挙げられる。
【0025】
式(P-1)で表される化合物(P)において、Rのアルコキシ基としては、炭素原子数8以上の直鎖又は分岐鎖状のアルコキシ基が好ましく、炭素原子数12以上の直鎖又は分岐鎖状のアルコキシ基がより好ましい。
【0026】
としてのアルコキシ基の好適な具体例としては、例えば、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基、ウンデシルオキシ基、ドデシルオキシ基、トリデシルオキシ基、イソトリデシルオキシ基、テトラデシルオキシ基、ペンタデシルオキシ基、ヘキサデシルオキシ基、イソヘキサデシルオキシ基、ヘプタデシルオキシ基、オクタデシルオキシ基、ノナデシルオキシ基、イコシルオキシ基、ヘンイコシルオキシ基、及びドコシルオキシ基、並びにこれらのアルコキシ基と構造異性の関係にあるアルコキシ基が挙げられる。
【0027】
式(P-1)で表される化合物(P)において、Rのフッ素化アルキル基としては、炭素原子数8以上の直鎖又は分岐鎖状のフッ素化アルキル基が好ましく、炭素原子数12以上の直鎖又は分岐鎖状のフッ素化アルキル基がより好ましい。
【0028】
としてのフッ素化アルキル基の好適な具体例としては、上記で例示されたRのアルキル基の水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換された基が挙げられる。
【0029】
式(P-1)で表される化合物(P)において、Rの置換基を有してもよい芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、p-メチルフェニル基、p-tert-ブチルフェニル基、p-アダマンチルフェニル基、トリル基、キシリル基、クメニル基、メシチル基、ビフェニル基、フェナントリル基、2,6-ジエチルフェニル基、2-メチル-6-エチルフェニル基が挙げられる。
【0030】
式(P-1)で表される化合物(P)において、Rの上述した置換基が有する炭素原子数の上限は特に限定されないが、例えば45以下である。
【0031】
式(P-1)で表される化合物(P)において、R及びRのアルキル基としては、炭素原子数8以上の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基が好ましい。
【0032】
及びRとしてのアルキル基の好適な具体例としては、例えば、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、イソトリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、イソヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、及びドコシル基、並びにこれらのアルキル基と構造異性の関係にあるアルキル基が挙げられる。
【0033】
式(P-1)表される化合物(P)において、R及びRのフッ素化アルキル基としては、炭素原子数8以上の直鎖又は分岐鎖状のフッ素化アルキル基が好ましい。
【0034】
及びRとしてのフッ素化アルキル基の好適な具体例としては、上記で例示されたR及びRのアルキル基の水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換された基が挙げられる。
【0035】
式(P-1)で表される化合物(P)において、R及びRの置換基を有してもよい芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、p-メチルフェニル基、p-tert-ブチルフェニル基、p-アダマンチルフェニル基、トリル基、キシリル基、クメニル基、メシチル基、ビフェニル基、フェナントリル基、2,6-ジエチルフェニル基、2-メチル-6-エチルフェニル基が挙げられる。
【0036】
なかでも、R及Rとしては、水素原子が好ましい。
【0037】
化合物(P)は1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0038】
(塩基性含窒素化合物(B))
表面処理方法は、塩基性含窒素化合物(B)を上記領域と反応させる。
【0039】
塩基性含窒素化合物(B)とは、化合物(P)による絶縁体領域の撥水化を抑制する化合物を意味する。塩基性含窒素化合物(B)のこのような性質は、定かではないものの、塩基性含窒素化合物(B)のカチオン種が絶縁体領域に吸着し、化合物(P)の絶縁体領域への吸着を阻害することに起因するものと推測される。塩基性含窒素化合物(B)としてはこのような性質を有する限り特に限定されないが、例えば、第四級アンモニウム化合物、ピリジニウムハロゲン化物、ピロリジニウムハロゲン化物、ビピリジニウムハロゲン化物、又はpKが2.5以下のアミン若しくはその塩(以下、「低pKアミン」とも称する。)が挙げられる。
【0040】
第四級アンモニウム化合物としては、例えば、下記式(b1)で表される第四級アンモニウム塩が挙げられる。
【化1】
【0041】
式(b1)中、Ra1~Ra4は、それぞれ独立に炭素数1~16のアルキル基、炭素数6~16のアリール基、炭素数7~16のアラルキル基、又は炭素数1~16のヒドロキシアルキル基を示す。Ra1~Ra4の少なくとも2つは、互いに結合して環状構造を形成していてもよく、特に、Ra1とRa2との組み合わせ及びRa3とRa4との組み合わせの少なくとも一方は、互いに結合して環状構造を形成していてもよい。
式(b1)中、Xは、水酸化物イオン、塩化物イオン、フッ化物イオン、フッ素を有していてもよい有機カルボン酸イオンを示す。フッ素を有していてもよい有機カルボン酸イオンとしては、酢酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン等が挙げられる。
【0042】
式(b1)で表される化合物の中でも、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、メチルトリプロピルアンモニウム、メチルトリブチルアンモニウム、エチルトリメチルアンモニウム、ジメチルジエチルアンモニウム塩、ベンジルトリメチルアンモニウム、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、(2-ヒドロキシエチル)トリメチルアンモニウム、及びスピロ-(1,1’)-ビピロリジニウムの、水酸化物、塩化物、又はフッ化物が、入手しやすさの点から好ましく、本発明の効果の点で、水酸化物又はフッ化物がより好ましく、テトラメチルアンモニウム、及びベンジルトリメチルアンモニウムの、水酸化物又はフッ化物がさらに好ましい。
ピリジニウムハロゲン化物としては、ピリジニウムの塩化物又はフッ化物が挙げられ、フッ化物が好ましい。
ピロリジニウムハロゲン化物としては、ピロリジニウムの塩化物又はフッ化物が挙げられ、フッ化物が好ましい。
ビピリジニウムハロゲン化物としては、ビピリジニウムの塩化物又はフッ化物が挙げられ、フッ化物が好ましい。
【0043】
低pKアミンのpKとしては、2.0以下が好ましく、1.5以下がより好ましい。低pKアミンとしては、例えば、グアニジン誘導体が挙げられる。
【0044】
グアニジン誘導体としては、例えば、メチルグアニジン、ジメチルグアニジン、トリメチルグアニジン、テトラメチルグアニジン又はそれらの塩化物塩若しくはフッ化物塩が挙げられる。これらの中では、テトラメチルグアニジン又はそのフッ化物塩が好ましい。
【0045】
(反応)
表面処理方法は、化合物(P)及び塩基性含窒素化合物(B)を、上記金属領域及び上記絶縁体領域を含む基板の表面と反応させる。これらの化合物を反応させる方法としては、化合物(P)と、塩基性含窒素化合物(B)と、溶剤と、を含有する一液型表面処理剤を用いる方法や、化合物(P)と、溶剤と、を含む第一の表面処理剤と、塩基性含窒素化合物(B)と、溶剤と、を含む第二の表面処理剤と、を備える二液型表面処理剤を用いる方法が挙げられる。表面処理方法としては、該表面処理剤を、例えば浸漬法、又はスピンコート法、ロールコート法及びドクターブレード法等の塗布法等の手段によって基板の表面に曝露する方法が挙げられる。
【0046】
一液型表面処理剤中の化合物(P)の含有量は、金属領域を撥水化する観点から、一液型表面処理剤の全質量に対し、0.001質量%以上5質量%以下が好ましく、0.005質量%以上4質量%以下がより好ましく、0.01質量%以上3質量%以下が更に好ましく、0.03質量%以上3質量%以下が特に好ましい。
二液型表面処理剤における第一の表面処理剤中の化合物(P)の含有量は、金属領域を撥水化する観点から、第一の表面処理剤の全質量に対し、0.001質量%以上5質量%以下が好ましく、0.005質量%以上4質量%以下がより好ましく、0.01質量%以上3質量%以下が更に好ましく、0.03質量%以上3質量%以下が特に好ましい。
【0047】
一液型表面処理剤中の塩基性含窒素化合物(B)の含有量は、絶縁体領域の撥水化を抑制する観点から、一液型表面処理剤の全質量に対し、0.0001質量%以上5質量%以下が好ましく、0.001質量%以上4質量%以下がより好ましく、0.005質量%以上3質量%以下が更に好ましく、0.01質量%以上3質量%以下が特に好ましい。
二液型表面処理剤における第二の表面処理剤中の塩基性含窒素化合物(B)の含有量は、絶縁体領域の撥水化を抑制する観点から、第二の表面処理剤の全質量に対し0.0001質量%以上5質量%以下が好ましく、0.001質量%以上4質量%以下がより好ましく、0.005質量%以上3質量%以下が更に好ましく、0.01質量%以上3質量%以下が特に好ましい。
【0048】
溶剤としては、例えば、スルホキシド類、スルホン類、アミド類、ラクタム類、イミダゾリジノン類、ジアルキルグリコールエーテル類、モノアルコール系溶媒、(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテル類、(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、他のエーテル類、ケトン類、他のエステル類、ラクトン類、直鎖状、分岐鎖状、又は環状の脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、テルペン類等が挙げられる。
【0049】
スルホキシド類としては、ジメチルスルホキシドが挙げられる。
【0050】
スルホン類としては、例えば、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ビス(2-ヒドロキシエチル)スルホン、テトラメチレンスルホンが挙げられる。
【0051】
アミド類としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミドが挙げられる。
【0052】
ラクタム類としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、N-プロピル-2-ピロリドン、N-ヒドロキシメチル-2-ピロリドン、N-ヒドロキシエチル-2-ピロリドンが挙げられる。
【0053】
イミダゾリジノン類としては、例えば、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、1,3-ジエチル-2-イミダゾリジノン、1,3-ジイソプロピル-2-イミダゾリジノンが挙げられる。
【0054】
ジアルキルグリコールエーテル類としては、例えば、ジメチルグリコール、ジメチルジグリコール、ジメチルトリグリコール、メチルエチルジグリコール、ジエチルグリコール、トリエチレングリコールブチルメチルエーテルが挙げられる。
【0055】
モノアルコール系溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、n-ぺンタノール、イソペンタノール、2-メチルブタノール、sec-ぺンタノール、tert-ぺンタノール、3-メトキシブタノール、3-メチル-3-メトキシブタノール、n-ヘキサノール、2-メチルペンタノール、sec-ヘキサノール、2-エチルブタノール、sec-へプタノール、3-へプタノール、1-オクタノール、2-エチルヘキサノール、sec-オクタノール、n-ノニルアルコール、2,6-ジメチル-4-へプタノール、n-デカノールsec-ヴンデシルアルコール、トリメチルノニルアルコール、sec-テトラデシルアルコール、sec-へプタデシルアルコール、フェノール、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、3,3,5-トリメチルシクロヘキサノール、ベンジルアルコール、フェニルメチルカルビノール、ジアセトンアルコール、クレゾールが挙げられる。
【0056】
(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテル類としては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテルが挙げられる。
【0057】
(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類としては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートが挙げられる。
【0058】
他のエーテル類としては、例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジイソアミルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフランが挙げられる。
【0059】
ケトン類としては、例えば、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、2-へプタノン、3-へプタノンが挙げられる。
【0060】
他のエステル類としては、例えば、2-ヒドロキシプロピオン酸メチル、2-ヒドロキシプロピオン酸エチル等の乳酸アルキルエステル類;2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸エチル、3-メトキシプロピオン酸メチル、3-メトキシプロピオン酸エチル、3-エトキシプロピオン酸メチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、エトキシ酢酸エチル、ヒドロキシ酢酸エチル、2-ヒドロキシ-3-メチルブタン酸メチル、3-メトキシブチルアセテート、3-メチル-3-メトキシ-1-ブチルアセテート、3-メチル-3-メトキシブチルプロピオネート、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸n-ペンチル、酢酸n-ヘキシル、酢酸n-へプチル、酢酸n-オクチル、ギ酸n-ぺンチル、酢酸イソペンチル、プロピオン酸n-ブチル、酪酸エチル、酪酸n-プロピル、酪酸イソプロピル、酪酸n-ブチル、n-オクタン酸メチル、デカン酸メチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、ピルビン酸n-プロピル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、2-オキソブタン酸エチル、アジピン酸ジメチル、プロピレングリコールジアセテートが挙げられる。
【0061】
ラクトン類としては、例えば、プロピロラクトン、γ-ブチロラクトン、6-ペンチロラクトンが挙げられる。
【0062】
直鎖状、分岐鎖状、又は環状の脂肪族炭化水素類としては、例えば、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、n-ノナン、メチルオクタン、n-デカン、n-ヴンデカン、n-ドデカン、2,2,4,6,6-ぺンタメチルヘプタン、2,2,4,4,6,8,8-ヘプタメチルノナン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンが挙げられる。
【0063】
芳香族炭化水素類としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、1,3,5-トリメチルベンゼン、ナフタレンが挙げられる。
【0064】
テルペン類としては、例えば、p-メンタン、ジフェニルメンタン、リモネン、テルピネン、ボルナン、ノルボルナン、ピナンが挙げられる。
【0065】
これらのなかでも、溶剤としては、3-メチル-3-メトキシ-1-ブチルアセテート、酢酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、1-オクタノール、メチルエチルケトンが好ましく、プロピレングリコールモノメチルエーテル、1-オクタノールがより好ましい。
【0066】
表面処理剤に配合し得る他の成分としては、例えば、pH調整剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、粘度調製剤、消泡剤が挙げられる。
【0067】
一液型表面処理剤のpH及び二液型表面処理剤における第二の表面処理剤のpHとしては、5以上が好ましく、8以上がより好ましい。本発明で使用する塩基性含窒素化合物(B)を含有すれば、一液型表面処理剤のpH及び二液型表面処理剤における第二の表面処理剤のpHは、上記好適なpH範囲を有する。そのため、上記好適なpHに調整するために、上記必須成分以外の成分は、通常必要としない。
【0068】
曝露温度としては、例えば、10℃以上90℃以下、好ましくは20℃以上80℃以下、より好ましくは20℃以上70℃以下、更に好ましくは20℃以上30℃以下である。
上記曝露時間としては、金属領域を撥水化し、絶縁体領域の撥水化を抑制する観点から、20秒以上が好ましく、30秒以上がより好ましく、45秒以上が更に好ましい。
上記曝露時間の上限値としては特に限定されないが、例えば、2時間以下等であり、典型的には1時間以下であり、15分以下が好ましく、5分以下が更に好ましく、2分以下が特に好ましい。
上記曝露後に必要に応じ洗浄、及び/又は乾燥を行ってもよい。洗浄は、例えば、水リンス、活性剤リンス等により行われる。乾燥は窒素ブロー等により行われる。
【0069】
上記領域との反応によって、近接する金属領域及び絶縁体領域のうち、金属領域に対して選択的に化合物(P)を吸着させることができる。その結果、金属領域の水の接触角を、上記金属領域に近接する上記絶縁体領域の水の接触角よりも10°以上、好ましくは15°以上、より好ましくは20°以上、更に好ましくは25°以上高くすることができる。
表面処理剤に曝露した後の基板表面の水に対する接触角は、例えば、50°以上140°以下とすることができる。
基板表面の材質、表面処理剤の種類及び使用量、並びに曝露条件等を制御することにより、水に対する接触角は50°以上とすることができ、60°以上が好ましく、70°以上がより好ましく、90°以上が更に好ましい。上記接触角の上限値としては特に限定されないが、例えば、140°以下、典型的には130°以下である。
より具体的には、金属領域の水の接触角は、70°以上が好ましく、80°以上がより好ましく、90°以上がより好ましく、100°以上が更に好ましい。上記接触角の上限値としては特に限定されないが、例えば、140°以下である。
絶縁体領域の水の接触角は、70°以下が好ましく、65°以下がより好ましく、60°以下がより好ましい。上記接触角の下限値としては特に限定されないが、例えば、50°以上である。
【0070】
<基板表面の領域選択的製膜方法>
次に、上記の表面処理方法を用いた基板表面の領域選択的製膜方法について説明する。
基板表面の領域選択的製膜方法は、上記表面処理方法により上記基板の上記表面を処理することと、表面処理された上記基板の表面に、原子層成長法(ALD法)により膜を形成することとを含み、上記絶縁体領域上に、上記金属領域上よりも上記膜の材料を多く堆積させる。
【0071】
上記表面処理の結果、金属領域の水の接触角を、上記金属領域に近接する上記絶縁体領域の水の接触角よりも10°以上高くすることができる。水の接触角が、絶縁体領域よりも大きい金属領域には、ALD法による膜形成材料が、基板表面上の上記領域に吸着し難くなる。その結果、ALDサイクルを繰り返すことにより、上記絶縁体領域上を選択的に厚膜化することができる。
【0072】
(ALD法による膜形成)
ALD法による膜形成方法としては特に限定されないが、少なくとも2つの気相反応物質(以下単に「前駆体ガス」という。)を用いた吸着による薄膜形成方法であることが好ましい。前駆体ガスを用いた吸着は、好ましくは化学吸着である。
具体的には、下記工程(a)及び(b)を含み、所望の膜厚が得られるまで下記工程(a)及び(b)を少なくとも1回(1サイクル)繰り返す方法等が挙げられる。
(a)上記第2の態様に係る方法による表面処理された基板を、第1前駆体ガスのパルスに曝露する工程、及び
(b)上記工程(a)に次いで、基板を第2前駆体ガスのパルスに曝露する工程。
【0073】
上記工程(a)の後上記工程(b)の前に、プラズマ処理工程、第1前駆体ガス及びその反応物をキャリアガス、第2前駆体ガス等により除去ないし排気(パージ)する工程等を含んでいてもいなくてもよい。
上記工程(b)の後、プラズマ処理工程、第2前駆体ガス及びその反応物をキャリアガス等により除去ないしパージする工程等を含んでいてもいなくてもよい。
キャリアガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガスが挙げられる。
【0074】
各サイクル毎の各パルス及び形成される各層は自己制御的であることが好ましく、形成される各層が単原子層であることがより好ましい。
上記単原子層の膜厚としては、例えば、5nm以下とすることができ、好ましくは3nm以下とすることができ、より好ましくは1nm以下とすることができ、更に好ましくは0.5nm以下とすることができる。
【0075】
第1前駆体ガスとしては、有機金属、金属ハロゲン化物、金属酸化ハロゲン化物等が挙げられ、具体的には、タンタルペンタエトキシド、テトラキス(ジメチルアミノ)チタン、ぺンタキス(ジメチルアミノ)タンタル、テトラキス(ジメチルアミノ)ジルコニウム、テトラキス(ジメチルアミノ)ハフニウム、テトラキス(ジメチルアミノ)シラン、コッパーヘキサフルオロアセチルアセトネートビニルトリメチルシラン、Zn(C、Zn(CH、TMA(トリメチルアルミニウム)、TaCl、WF、WOCl、CuCl、ZrCl、AlCl、TiCl、SiCl、HfCl等が挙げられる。
【0076】
第2前駆体ガスとしては、第1前駆体を分解させることができる前駆体ガス又は第1前駆体の配位子を除去できる前駆体ガスが挙げられ、具体的には、HO、H、O、NH、HS、HSe、PH、AsH、C、又はSi等が挙げられる。
【0077】
工程(a)における曝露温度としては特に限定されないが、例えば、100℃以上800℃以下であり、好ましくは150℃以上650℃以下であり、より好ましくは200℃以上500℃以下であり、更に好ましくは225℃以上375℃以下である。
【0078】
工程(b)における曝露温度としては特に限定されないが、工程(a)における曝露温度と実質的に等しいか又はそれ以上の温度が挙げられる。
ALD法により形成される膜としては特に限定されないが、純元素を含む膜(例えば、Si、Cu、Ta、W)、酸化物を含む膜(例えば、SiO、GeO、HfO、ZrO、Ta、TiO、Al、ZnO、SnO、Sb、B、In、WO)、窒化物を含む膜(例えば、Si、TiN、AlN、BN、GaN、NbN)、炭化物を含む膜(例えば、SiC)、硫化物を含む膜(例えば、CdS、ZnS、MnS、WS、PbS)、セレン化物を含む膜(例えば、CdSe、ZnSe)、リン化物を含む膜(GaP、InP)、砒化物を含む膜(例えば、GaAs、InAs)、又はそれらの混合物等が挙げられる。
【0079】
<表面処理剤>
次に、上記の表面処理方法において用いられる表面処理剤について説明する。
表面処理剤は、下記一般式(P-1)で表される化合物(P)と、塩基性含窒素化合物(B)と、溶剤と、を含有する一液型表面処理剤である。
また、別の態様として、表面処理剤は、下記一般式(P-1)で表される化合物(P)と、溶剤と、を含む第一の表面処理剤と、塩基性含窒素化合物(B)と、溶剤と、を含む第二の表面処理剤と、を備える二液型表面処理剤である。
一液型表面処理剤及び二液型表面処理剤のいずれを用いて、基板の表面を表面処理した場合でも、金属領域を撥水化し、絶縁体領域の撥水化を抑制することができる。
また、上記表面処理剤は、所望する効果が得られる限りにおいて、化合物(P)、塩基性含窒素化合物(B)、及び溶剤以外の成分(以下、「他の成分」とも称する。)を含んでいてもよい。以下、一液型表面処理剤と二液型表面処理剤が含み得る、必須、又は任意の成分について説明する。
【0080】
(化合物(P))
化合物(P)は、下記一般式(P-1)で表される。
【0081】
-P(=O)(OR)(OR) ・・・(P-1)
[式中、Rは、アルキル基、アルコキシ基、フッ素化アルキル基、又は置換基を有してもよい芳香族炭化水素基であり、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、フッ素化アルキル基、又は置換基を有してもよい芳香族炭化水素基である。]
【0082】
上記式(P-1)で表される化合物(P)は、上記表面処理方法において用いられる表面処理剤に含まれる上述した化合物(P)と同様である。
【0083】
化合物(P)は1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
一液型表面処理剤中の化合物(P)の含有量は、金属領域を撥水化する観点から、一液型表面処理剤の全質量に対し、0.001質量%以上5質量%以下が好ましく、0.005質量%以上4質量%以下がより好ましく、0.01質量%以上3質量%以下が更に好ましく、0.03質量%以上3質量%以下が特に好ましい。
二液型表面処理剤における第一の表面処理剤中の化合物(P)の含有量は、金属領域を撥水化する観点から、第一の表面処理剤の全質量に対し、0.001質量%以上5質量%以下が好ましく、0.005質量%以上4質量%以下がより好ましく、0.01質量%以上3質量%以下が更に好ましく、0.03質量%以上3質量%以下が特に好ましい。
【0084】
(塩基性含窒素化合物(B))
塩基性含窒素化合物(B)は、上記表面処理方法において用いられる表面処理剤に含まれる上述した塩基性含窒素化合物(B)と同様である。
【0085】
塩基性含窒素化合物(B)は1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
一液型表面処理剤中の塩基性含窒素化合物(B)の含有量は、絶縁体領域の撥水化を抑制する観点から、一液型表面処理剤の全質量に対し、0.0001質量%以上5質量%以下が好ましく、0.001質量%以上4質量%以下がより好ましく、0.005質量%以上3質量%以下が更に好ましく、0.01質量%以上3質量%以下が特に好ましい。
二液型表面処理剤における第二の表面処理剤中の塩基性含窒素化合物(B)の含有量は、絶縁体領域の撥水化を抑制する観点から、第二の表面処理剤の全質量に対し、0.0001質量%以上5質量%以下が好ましく、0.001質量%以上4質量%以下がより好ましく、0.005質量%以上3質量%以下が更に好ましく、0.01質量%以上3質量%以下が特に好ましい。
【0086】
(溶剤)
溶剤としては、上記表面処理方法において用いられる表面処理剤に含まれる上述した溶剤と同様である。
【0087】
(他の成分)
他の成分としては、例えば、pH調整剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、粘度調製剤、消泡剤が挙げられる。
【0088】
表面処理剤は、上述した化合物(P)、化合物(S)、溶剤、必要に応じて他の成分を公知の方法で混合して得られる。
【0089】
一液型表面処理剤のpH及び二液型表面処理剤における第二の表面処理剤のpHとしては、5以上が好ましく、8以上がより好ましい。本発明で使用する塩基性含窒素化合物(B)を含有すれば、一液型表面処理剤のpH及び二液型表面処理剤における第二の表面処理剤のpHは、上記好適なpH範囲を有する。そのため、上記好適なpHに調整するために、上記必須成分以外の成分は、通常必要としない。
【0090】
一液型表面処理剤の使用方法としては、例えば、一液型表面処理剤を、上記金属領域及び上記絶縁体領域を含む基板の表面と反応させる方法が挙げられる。反応方法としては、一液型表面処理剤を、例えば浸漬法、又はスピンコート法、ロールコート法及びドクターブレード法等の塗布法等の手段によって基板の表面に曝露する方法が挙げられる。暴露温度等の反応条件については、上述した表面処理方法における条件と同じである。
二液型表面処理剤の使用方法としては、例えば、上記第二の表面処理剤を、上記金属領域及び上記絶縁体領域を含む基板の表面と反応させ、次いで、上記第一の表面処理剤を、上記金属領域及び上記絶縁体領域を含む基板の表面と反応させる方法が挙げられる。以上の方法により、金属領域を撥水化し、絶縁体領域の撥水化を抑制することができる。
【実施例
【0091】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0092】
[実施例1~4及び比較例1~3]
(表面処理剤の調製)
下記溶剤に、下記化合物(P)及び下記塩基性含窒素化合物(B)を下記表1に記載の含有量で均一に混合して、実施例1~4及び比較例1~3の表面処理剤を調製した。
化合物(P)として、下記P1を用いた。
P1:オクタデシルホスホン酸
塩基性含窒素化合物(B)として、下記B1~B6を用いた。
B2:トリエチルアミン(pK=3.85)
B3:ピロリジン(pK=3.03)
B4:1,1,3,3-テトラメチルグアニジン(pK=1.24)
B5:テトラメチルアンモニウム水酸化物
B6:ベンジルトリメチルアンモニウム水酸化物
なお、実施例2では、B5を15質量%含むプロピレングリコール溶液、実施例3では、B5を25質量%含む水溶液、実施例4では、B6を40質量%含むエタノール溶液を用いた。
溶剤として、下記A1を用いた。
A1:プロピレングリコールモノメチルエーテル
【0093】
(前処理、表面処理)
得られた実施例1~4及び比較例1~3の表面処理剤を用いて、以下の方法にしたがって、Al基板及びCu基板の表面処理を行った。
具体的には、各基板を濃度25ppmのHF水溶液に25℃で10秒間浸漬させて前処理を行った。上記前処理後、各基板を脱イオン水で1分間洗浄した。水洗後の各基板を窒素気流により乾燥させた。
乾燥後の各基板を上記各表面処理剤に25℃で1分間浸漬させて、各基板の表面処理を行った。表面処理後の各基板を、イソプロパノールで1分間洗浄した後、脱イオン水による洗浄を1分間行った。洗浄された各基板を、窒素気流により乾燥させて、表面処理された各基板を得た。
【0094】
(水の接触角の測定)
上記表面処理後の各基板について水の接触角を測定した。
水の接触角の測定は、Dropmaster700(協和界面科学株式会社製)を用い、各基板の表面に純水液滴(2.0μL)を滴下して、滴下2秒後における接触角として測定した。また、Cu基板の水接触角からAl基板の水接触角を引いて得られる「水接触角の差」を算出した。結果を表1に示す。
【0095】
【表1】
【0096】
表1から、比較例1~3の表面処理剤で各基板を表面処理した場合、水接触角の差が最大でも比較例2の1.0°しかなかった。一方、実施例1の表面処理剤を用いた場合、水接触角の差が10°を超えた。また、実施例1と比較例1~3との間で、Cuの水接触角は概ね同程度であった。これらの実験結果から、塩基性含窒素化合物(B)として、pKbが2.5以下のアミンを化合物(P)と併用することで、水接触角の差が10°以上となり、絶縁体領域であるAl基板の撥水化が選択的に抑制されることが分かる。
また、実施例2~4の表面処理剤で各基板を表面処理した場合、水接触角の差が最小でも実施例2の32.3°となった。これらの実験結果から、塩基性含窒素化合物(B)として第四級アンモニウム化合物を用いることで、Al基板の撥水化が、より抑制されることが分かる。
【0097】
[実施例5A~5C]
(表面処理剤の調製)
下記溶剤に、下記化合物(P)及び下記塩基性含窒素化合物(B)を下記表4に記載の含有量で均一に混合し、pHを調整するために、シュウ酸(100%固体)を0.001質量%、0.005質量%、0.010質量%、それぞれ添加して、pHがそれぞれ10.97、10.69、及び10.10である実施例5A~5Cの表面処理剤を調製した。
化合物(P)として、下記P1を用いた。
P1:オクタデシルホスホン酸
塩基性含窒素化合物(B)として、下記B4を用いた。
B4:1,1,3,3-テトラメチルグアニジン
溶剤として、下記A1を用いた。
A1:プロピレングリコールモノメチルエーテル
【0098】
(水の接触角の測定)
得られた各表面処理剤を用いて、実施例1~4及び比較例1~3と同様に、Al基板及びCu基板に対してHF水溶液による前処理及び各表面処理剤による各基板の表面処理を行い、表面処理後の各基板について水の接触角を測定した。また、Cu基板についての水接触角とAl基板についての水接触角の差を算出した。結果を表4に示す。
【0099】
(エッチングレートの測定)
各表面処理剤による各基板の表面処理前後の各基板の膜厚の変化から、Al基板及びCu基板のエッチングレート(nm/min)を求め、±0.5nm/min以下の変化の場合を、「〇」として評価した。結果を表2に示す。
【0100】
【表2】
【0101】
表2の水接触角の結果から、実施例1をベースとする表面処理剤では、pHが10.10~10.97の領域で、水接触角の差が10°以上になることが分かる。
また、表2のエッチングレートの結果から、各基板へのダメージが抑えられることが分かり、基板ダメージによって、水接触角の差が表れているのではないことがわかる。
【0102】
[実施例6~7]
(表面処理剤の調製)
下記溶剤に、下記化合物(P)及び下記塩基性含窒素化合物(B)を下記表3に記載の含有量で均一に混合して、実施例6~7の表面処理剤を調製した。
化合物(P)として、下記P1を用いた。
P1:オクタデシルホスホン酸
塩基性含窒素化合物(B)として、下記B7~B8を用いた。
B7:テトラメチルアンモニウムフッ化物
B8:テトラブチルアンモニウムフッ化物
溶剤として、下記A1を用いた。
A1:プロピレングリコールモノメチルエーテル
【0103】
(水の接触角の測定)
得られた各表面処理剤を用いて、実施例1~4及び比較例1~3と同様に、Al基板及びCu基板に対してHF水溶液による前処理及び各表面処理剤による各基板の表面処理を行い、表面処理後の各基板について水の接触角を測定した。また、Cu基板についての水接触角とAl基板についての水接触角の差を算出した。結果を表3に示す。
【0104】
【表3】
【0105】
表3の結果から、実施例6~7の表面処理剤で各基板を表面処理した場合、水接触角の差が、最小でも実施例7の72.9°もあった。これらの実験結果から、塩基性含窒素化合物(B)として第四級アンモニウム化合物のフッ化物塩を用いることで、Al基板の撥水化が極めて選択的に抑制されることが分かる。
【0106】
[表面処理及びALD成膜による試験1及び比較試験1~2]
水接触角の差が大きかった実施例6の表面処理剤を用いて、下記手順で、SiO基板およびCu基板に対して表面処理とALD成膜による試験1を行った。各試験片の結果を、金属領域と絶縁体領域とを同一基板上に含む場合の結果とみなして評価した。実施例6の表面処理剤の代わりに比較例1の表面処理剤を用いたこと以外は、上記試験1と同様の手順で、表面処理及びALD成膜を行ったものを比較試験1とした。また、比較試験1において、下記手順3の表面処理剤への浸漬を、最初のALDサイクル処理前の1回だけとしたものを比較試験2とした。
(手順)
1.SiO領域とCu領域を有する試験片を希フッ酸で1分間洗浄処理した。
2.処理後の試験片を、純水でリンスした後、窒素ブローした。
3.ブロー後の試験片を実施例6の表面処理剤に1分間浸漬した後、イソプロパノールで1分間拡販洗浄し、純水でリンスした後、窒素ブローした。
4.以下の条件で、18回、ALDサイクル処理を行った。
・原子層堆積(ALD)装置:AT-410(Anric Technologies社製)
・チャンバー温度:150℃
・プレカーサー:トリメチルアルミニウム及びH
5.18サイクル処理ごとに、上記2~4の手順を繰り返し、トータルで144回(18回×8)のALDサイクルを施した。
6.18回、36回、144回のサイクル処理後の各試験片について、それぞれ、蛍光X線分析により、Alがどのくらい堆積しているかを確認した。結果を表4に示す。
【0107】
【表4】
【0108】
表4に示すとおり、144サイクル後においても、実施例6の表面処理剤による処理を行うことで、ALD成膜の選択性が良好に保持されており、10nm近くものコントラストをつけることが可能なことが示唆される。一方、比較例1の組成では、サイクルを重ねても厚膜化できず、表面処理条件を変えてもコントラストが失われる結果となった。
これらの試験結果から、本発明に係る表面処理剤を用いることで、例えば、Cu領域(パターン)とAl領域(パターン)を有するパターン基板に対し選択的なALD成膜が可能となるだけでなく、Cu領域とSiO領域を有するパターン基板に対し、選択的にAlの厚膜化が可能となる。