(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】ポリビニルアルコールフィルム及び偏光フィルム
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20241107BHJP
G02F 1/1335 20060101ALI20241107BHJP
B29C 55/06 20060101ALI20241107BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
G02B5/30
G02F1/1335 510
B29C55/06
C08J5/18 CEX
(21)【出願番号】P 2021567597
(86)(22)【出願日】2020-12-24
(86)【国際出願番号】 JP2020048365
(87)【国際公開番号】W WO2021132435
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2023-04-17
(31)【優先権主張番号】P 2019237550
(32)【優先日】2019-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110002206
【氏名又は名称】弁理士法人せとうち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大橋 亘
(72)【発明者】
【氏名】鷹取 洋平
(72)【発明者】
【氏名】小林 晋三
(72)【発明者】
【氏名】馬場 正博
(72)【発明者】
【氏名】藤井 結稀
【審査官】小西 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-245442(JP,A)
【文献】国際公開第2015/020046(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/020044(WO,A1)
【文献】特開2006-089595(JP,A)
【文献】国際公開第2019/004352(WO,A1)
【文献】特開2009-108305(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108587290(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示されるアセタール構造を含み、アセタール化度が1~6モル%であるアセタール変性ポリビニルアルコールを含有する、偏光フィルム。
【化1】
[式(1)中、Rは水素原子又は炭素数1~6の1価の脂肪族基である。]
【請求項2】
単体透過率が43.95%以上であり、かつ偏光度が99.9%以上である、請求項1に記載の偏光フィルム。
【請求項3】
下記式(1)で示されるアセタール構造を含み、アセタール化度が1~6モル%であるアセタール変性ポリビニルアルコールを含有し、膨潤度が160~240%であ
り、レターデーションが10~40nmである、ポリビニルアルコールフィルム。
【化2】
[式(1)中、Rは水素原子又は炭素数1~6の1価の脂肪族基である。]
【請求項4】
下記式(1)で示されるアセタール構造を含み、アセタール化度が1~6モル%であるアセタール変性ポリビニルアルコールを含有し、膨潤度が160~240%であ
り、
下記(A)、(B)及び(C)の処理がこの順で行われた後に測定される、波長295nmにおける吸光度が厚み10μmあたり0.3以上であり、かつ波長330nmにおける吸光度が厚み10μmあたり0.2以上である、ポリビニルアルコールフィルム。
【化3】
[式(1)中、Rは水素原子又は炭素数1~6の1価の脂肪族基である。]
(A)前記フィルムを30℃の純水に60秒間浸漬しつつ2倍に長さ方向に一軸延伸する
(B)前記フィルムをヨウ素0.04質量%及びヨウ化カリウム0.92質量%を含有する32℃の水溶液に120秒間浸漬しつつ1.2倍に長さ方向に一軸延伸することにより、前記フィルムにヨウ素を吸着させる
(C)前記フィルムを25℃にて風乾させる
【請求項5】
前記アセタール変性ポリビニルアルコールの重合度が1,000~4,000であり、けん化度が99~99.99モル%である、請求項3
又は4に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項6】
厚みが10~60μmである、請求項3
~5のいずれかに記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項7】
光学用である、請求項3~
6のいずれかに記載のポリビニルアルコールフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は特定のアセタール構造を含むアセタール変性ポリビニルアルコールを含有する偏光フィルム、およびその原反フィルムとなるアセタール変性ポリビニルアルコールフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
光の透過および遮蔽機能を有する偏光板は、光のスイッチング機構を有する液晶とともに、液晶ディスプレイ(LCD)の基本的な構成要素である。偏光板は、一般にポリビニルアルコール(以下、「PVA」と略称することがある)フィルムを膨潤処理した後、一軸延伸および染色することにより製造した偏光フィルムの両面に、三酢酸セルロース(TAC)膜等の保護膜を貼り合わせることにより製造される。
【0003】
近年、液晶テレビ、液晶プロジェクター、ワープロ用ディスプレイ、パソコン用ディスプレイ、OA機器端末ディスプレイ、航空機や自動車のインパネ用ディスプレイ等のLCDの画質の向上を図るため、偏光フィルムの偏光性能の向上が求められている。
【0004】
例えば特許文献1には、重合度が2,500以上、好ましくは6,000~10,000のPVAを用いた偏光フィルムが光学特性に優れていたと記載されている。重合度が高いPVAを用いることによって偏光性能は向上するものの、工業的な実施は困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は偏光性能に優れ、かつ工業的な製造も可能である偏光フィルムを提供することを目的とする。また、本発明はこのような偏光フィルムを得ることができるポリビニルアルコールフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、下記式(1)で示されるアセタール構造を含み、アセタール化度が1~6モル%であるアセタール変性PVAを含有する偏光フィルムを提供することによって解決される。
【0008】
【0009】
[式(1)中、Rは水素原子又は炭素数1~6の1価の脂肪族基である。]
【0010】
このとき、偏光フィルムの単体透過率が43.95%以上であり、かつ偏光度が99.9%以上であることが好ましい。
【0011】
上記課題は、下記式(1)で示されるアセタール構造を含み、アセタール化度が1~6モル%であるアセタール変性PVAを含有し、膨潤度が160~240%である、PVAフィルムを提供することによっても解決される。
【0012】
【0013】
[式(1)中、Rは水素原子又は炭素数1~6の1価の脂肪族基である。]
【0014】
このとき、前記アセタール変性PVAの重合度が1,000~4,000であり、けん化度が99~99.99モル%であることが好ましい。また、前記PVAフィルムの厚みが10~60μmであることも好ましい。さらに、前記PVAフィルムのレターデーションが10~40nmであることも好ましい。
【0015】
また、前記PVAフィルムに下記(A)、(B)及び(C)の処理がこの順で行われた後に測定される、波長295nmにおける吸光度が厚み10μmあたり0.3以上であり、かつ波長330nmにおける吸光度が厚み10μmあたり0.2以上であることが好ましい。
(A)前記フィルムを30℃の純水に60秒間浸漬しつつ2倍に長さ方向に一軸延伸する
(B)前記フィルムをヨウ素0.04質量%及びヨウ化カリウム0.92質量%を含有する32℃の水溶液に120秒間浸漬しつつ1.2倍に長さ方向に一軸延伸することにより、前記フィルムにヨウ素を吸着させる
(C)前記フィルムを25℃にて風乾させる
【0016】
また、前記PVAフィルムは光学用であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明のアセタール変性PVAを含有する偏光フィルムは高い偏光性能を有する。したがって、本発明の偏光フィルムを用いることにより、画質の優れたLCDパネルを得ることができる。また、本発明のアセタール変性PVAフィルムを用いることにより、このような偏光フィルムを得ることができる。しかも当該PVAフィルムは工業的に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の偏光フィルムは下記式(1)で示されるアセタール構造を含み、アセタール化度が1~6モル%であるアセタール変性PVAを含有するものである。
【0019】
【0020】
[式(1)中、Rは水素原子又は炭素数1~6の1価の脂肪族基である。]
【0021】
前記アセタール変性PVAは、アルデヒドを用いてPVAをアセタール化する方法等により製造することができる。アセタール化に供されるPVAは、ビニルエステルを重合して得られるポリビニルエステルをけん化することにより製造することができる。ビニルエステルとしては、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ビパリン酸ビニル、バーサティック酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル等を例示することができ、これらの中から1種または2種以上を選択する。これらの中でも酢酸ビニルが、入手の容易性、PVA製造の容易性、コスト等の点から好ましく用いられる。重合温度に特に制限はないが、メタノールを重合溶媒として使用する場合は、重合温度はメタノールの沸点に近い60℃前後であることが好ましい。
【0022】
本発明の効果を損なわない範囲であれば、前記ポリビニルエステルは、ビニルエステルと、これと共重合可能な他の単量体との共重合体であってもよいが、単量体としてビニルエステルのみを用いて得られたものが好ましい。このとき使用されるビニルエステルは2種以上でもよいが1種が好ましい。
【0023】
前記ビニルエステルと共重合可能な他の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブテン等の炭素数2~30のα-オレフィン;(メタ)アクリル酸またはその塩;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸i-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸i-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルへキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル等の(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリルアミド;N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸またはその塩、(メタ)アクリルアミドプロピルジメチルアミンまたはその塩、N-メチロール(メタ)アクリルアミドまたはその誘導体等の(メタ)アクリルアミド誘導体;N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルピロリドン等のN-ビニルアミド;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、i-プロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、i-ブチルビニルエーテル、t-ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等のビニルエーテル;(メタ)アクリロニトリル等のシアン化ビニル;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニル;酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物;マレイン酸またはその塩、エステルもしくは酸無水物;イタコン酸またはその塩、エステルもしくは酸無水物;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;不飽和スルホン酸またはその塩などを挙げることができる。前記ポリビニルエステルは、前記他の単量体に由来する構造単位を1種または2種以上有することができる。
【0024】
前記ポリビニルエステルに占める他の単量体に由来する構造単位の割合は、ポリビニルエステルを構成する全構造単位のモル数に基づいて、15モル%以下であることが好ましく、10モル%以下であることがより好ましく、5モル%以下であることが更に好ましい。
【0025】
アセタール化に使用されるアルデヒドとして、従来公知の炭素数1~7のアルデヒドが用いられる。前記アルデヒドの炭素数は2以上が好ましく、3以上がより好ましく、4以上がさらに好ましい。一方、前記炭素数は6以下が好ましく、5以下がより好ましい。中でも前記アルデヒドとして、炭素数4のアルデヒドが特に好ましく、n-ブチルアルデヒドが最も好ましい。本発明においては、アルデヒドを2種類以上併用して得られるアセタール変性PVAを使用することもできる。
【0026】
前記PVAをアセタール化する方法は特に限定されず、沈殿法や固液反応法等が挙げられる。沈殿法は、水やアセトン等の溶媒にPVAを溶解させた後、得られた溶液に酸などの触媒とアルデヒドを加えてアセタール化反応を行い、生成したアセタール変性PVAを沈澱させ、さらに触媒として用いた酸を中和することにより、固体粉末として得る方法である。固液反応法は、変性前のPVAが溶解しない溶媒を使用する点が異なるだけで、その他は、沈澱法と同様に行い得る。いずれの方法においても、得られるポリビニルアセタールの粉末の中には、未反応のアルデヒド及び中和によって生じた塩等の不純物が含まれる。これらの不純物が可溶な溶媒を用いて抽出又は蒸発除去することで純度の高いアセタール変性PVAを得ることができる。中でも生産性の観点から固液反応法が好ましい。
【0027】
酸触媒として、公知の酸を用いることができ、例えば、硫酸、塩酸、硝酸等の無機酸、及びパラトルエンスルホン酸などの有機酸が挙げられる。酸触媒の添加量は特に限定されないが、通常反応液中の最終的な酸濃度が0.5~5.0質量%となるように調整される。これらの酸触媒は、所定量を一度に添加してもよいが、沈澱法の場合、比較的細かいアセタール変性PVA粒子を析出沈澱させるために、適当な回数に分割して添加するのが好ましい。一方、固液反応法の場合は、所定量を反応のはじめに一括して添加するのが反応効率の点から好ましい。
【0028】
本発明のアセタール変性PVAは、下記式(1)で示されるアセタール構造を含む。
【0029】
【0030】
式(1)中、Rは水素原子又は炭素数1~6の1価の脂肪族基である。前記脂肪族基は直鎖であっても分岐鎖であってもよいが、直鎖であることが好ましい。前記脂肪族基の炭素数は2以上が好ましく、3以上がより好ましい。一方、前記脂肪族基の炭素数が6を超えると、アセタール変性PVAの水に対する溶解性が悪くなり、製膜が困難になる。前記脂肪族基の炭素数は5以下が好ましく、4以下がより好ましい。前記脂肪族基の炭素数が3であることが特に好ましく、前記脂肪族基がn-プロピル基であることが最も好ましい。
【0031】
本発明のアセタール変性PVAのアセタール化度は1~6モル%であることが必要である。アセタール化度が上記範囲であることにより、光学性能に優れた偏光フィルムが得られる。光学性能が向上し、かつ収縮応力も低減する点からは、前記アセタール化度は、2モル%以上が好ましく、3.5モル%以上がより好ましい。一方、アセタール化度が6モル%を超えると、水に対する溶解性が悪くなり、PVAフィルムの製膜が困難となる。前記アセタール化度は5.5モル%以下が好ましい。なお、アセタール化度は、前記アセタール変性PVA中の単量体単位(ビニルアルコール単位、酢酸ビニル単位などであり、アセタール構造を形成しているビニルアルコール単位も含む)の合計に対する、上記式(1)で示されるアセタール構造を形成しているビニルアルコール単位の割合(モル%)であり、具体的には、アセタール変性PVAをサンプルとして用いて、実施例に記載の方法により算出される。上記式(1)で示されるアセタール構造には2つの単量体単位(ビニルアルコール単位)が含まれる。
【0032】
本発明のアセタール変性PVAのけん化度は99~99.99モル%であることが好ましい。けん化度が99モル%未満であると、偏光フィルムの製造工程でPVAが溶出してフィルムに付着することにより、偏光フィルムの性能が低下するおそれや歩留まりが低下するおそれがある。前記けん化度は、99.3モル%以上がより好ましい。なお、けん化度は、アセタール化する前のPVAをサンプルとして用いて、実施例に記載の方法により算出される。
【0033】
本発明のアセタール変性PVAの重合度は1,000~4,000であることが好ましい。重合度が1,000未満であると、偏光フィルムの製造工程でアセタール変性PVAが溶出してフィルムが切れるおそれがある。重合度は、1,500以上がより好ましく、2,000以上がさらに好ましい。一方、重合度が4,000を超えると、PVAの生産性が低下するだけでなく、偏光フィルムの製造工程でPVAフィルムの延伸性が悪化することにより、破断し易くなるおそれがある。重合度は、3,500以下がより好ましく、3,000以下がさらに好ましい。なお、重合度は、アセタール化する前のPVAをサンプルとして用いて、実施例に記載の方法により算出される。
【0034】
本発明のアセタール変性PVAフィルムは、上記式(1)で示されるアセタール構造を含み、アセタール化度が1~6モル%である前記アセタール変性PVAを含有し、膨潤度が160~240%であるものである。当該アセタール変性PVAフィルムは、光学用に好適に用いられ、具体的には、光学フィルムの製造に使用される原反フィルムとして好適に使用される。前記光学フィルムとして偏光フィルムが好ましい。
【0035】
取り扱い性や延伸性等が向上する点から、前記アセタール変性PVAフィルムが可塑剤を含むことが好ましい。可塑剤としては、多価アルコールが好ましく用いられ、具体的にはエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジグリセリン、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパンなどが挙げられる。PVAフィルムはこれらの可塑剤の1種または2種以上を含むことができる。これらのうちでもアセタール変性PVAフィルムの延伸性がさらに向上する観点からグリセリンが好ましい。
【0036】
前記アセタール変性PVAフィルムにおける可塑剤の含有量は、前記アセタール変性PVA100質量部に対して、3~20質量部であることが好ましく、5~17質量部であることがより好ましく、7~14質量部であることが更に好ましい。当該含有量が3質量部以上であることにより、アセタール変性PVAフィルムの取り扱い性及び延伸性がさらに向上する。一方、前記含有量が20質量部以下であることにより、表面に可塑剤がブリードアウトすることによりアセタール変性PVAフィルムの取り扱い性が低下するのを抑制することができる。
【0037】
前記アセタール変性PVAフィルムにおける、前記アセタール変性PVAの含有率は、50~100質量%が好ましい。当該含有量は80質量%以上がより好ましく、85質量%以上が更に好ましい。
【0038】
前記アセタール変性PVAフィルムの厚みは10~60μmであることが好ましい。前記アセタール変性PVAフィルムが薄すぎると偏光フィルムの製造時に、延伸切れが発生しやすくなる。一方、前記アセタール変性PVAフィルムが厚すぎると、偏光フィルムの製造時に延伸斑が発生しやすくなる。なお、アセタール変性PVAフィルムは単層フィルムであることが好ましいが、アセタール変性PVA層と、熱可塑性樹脂フィルム等の他の層とを積層させた積層体であってもよい。積層体の場合にはアセタール変性PVA層の厚みが上記範囲であることが好ましい。
【0039】
前記アセタール変性PVAフィルムの膨潤度は160~240%であることが必要である。膨潤度が160%未満であると、偏光フィルムの製造工程において延伸時の張力が大きくなりすぎて、フィルムを十分に延伸できない。膨潤度は170%以上が好ましく、185%以上がより好ましい。一方、膨潤度が240%を超えると、PVAフィルムの吸水性が高すぎるために、偏光フィルムの製造工程においてフィルムに皺や端部カールが発生しやすくなる。このような皺や端部カールは延伸時のフィルムの破断の原因となる。膨潤度は235%以下が好ましく、230%以下がより好ましい。膨潤度を所定の範囲に制御するためには、例えば、製膜後のPVAフィルムを熱処理する際の温度や時間を下記の範囲に調整すればよい。
【0040】
前記アセタール変性PVAフィルムのレターデーションは、10~40nmであることが好ましい。レターデーションが10nm未満であると、偏光フィルムを製造する際の染色速度が遅くなるため染色斑が発生し易くなる。レターデーションは、13nm以上がより好ましく、17nm以上がさらに好ましい。一方、レターデーションが40nmを超えると、低い延伸倍率でもフィルムの切断が発生しやすくなる。レターデーションは、37nm以下がより好ましく、33nm以下がさらに好ましく、30nm以下が特に好ましい。PVAフィルムのレターデーションは、後述する実施例に記載された方法により測定することができる。
【0041】
前記アセタール変性PVAフィルムのレターデーションを所定の範囲に制御する方法は特に限定されないが、後述するPVAフィルムを調湿した後に熱処理する方法や、PVAフィルムを公知の方法で延伸する方法が挙げられ、中でも、発生したレターデーションを固定する観点から、前者が好ましい。
【0042】
前記アセタール変性PVAフィルムに下記(A)、(B)及び(C)の処理がこの順で行われた後に測定される、波長295nmにおける吸光度は厚み10μmあたり0.3以上であり、かつ波長330nmにおける吸光度は厚み10μmあたり0.2以上であることが好ましい。各波長の吸光度が上記値以上であることにより、得られる偏光フィルムの偏光度の低下が抑制される。波長295nmにおける吸光度は厚み10μmあたり0.35以上であることがより好ましい。また、波長330nmにおける吸光度は厚み10μmあたり0.25以上であることがより好ましい。
(A)前記フィルムを30℃の純水に60秒間浸漬しつつ2倍に長さ方向に一軸延伸する
(B)前記フィルムをヨウ素0.04質量%及びヨウ化カリウム0.92質量%を含有する32℃の水溶液に120秒間浸漬しつつ1.2倍に長さ方向に一軸延伸することにより、前記フィルムにヨウ素を吸着させる
(C)前記フィルムを25℃にて風乾させる
【0043】
前記アセタール変性PVAフィルムの製造に用いられる製膜原液としては、アセタール変性PVA、必要に応じて可塑剤、界面活性剤、その他の成分が液体媒体に溶解した製膜原液や、アセタール変性PVA、必要に応じて可塑剤、界面活性剤、その他の成分、液体媒体を含み、アセタール変性PVAが溶融した製膜原液を用いて製造することができる。当該製膜原液中の各成分が均一に混合されていることが好ましい。
【0044】
製膜性が向上して得られるPVAフィルムの厚み斑の発生が抑制されるとともに、金属ロールやベルトからのPVAフィルムの剥離性が向上する点から、前記製膜原液に界面活性剤を含有させることが好ましい。界面活性剤を含有する製膜原液を用いてPVAフィルムを製造した場合には、得られるPVAフィルム中に界面活性剤が含有されることがある。前記界面活性剤の種類は特に限定されないが、金属ロールやベルトからPVAフィルムを剥離し易くなる観点から、アニオン性界面活性剤およびノニオン性界面活性剤が好ましく、アニオン性界面活性剤がより好ましい。これらの界面活性剤は単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0045】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、ラウリン酸カリウム等のカルボン酸型;ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸塩、オクチルサルフェート等の硫酸エステル型;ド
デシルベンゼンスルホネート等のスルホン酸型などが好適である。
【0046】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のアルキルエーテル型;ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル等のアルキルフェニルエーテル型;ポリオキシエチレンラウレート等のアルキルエステル型;ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル等のアルキルアミン型;ポリオキシエチレンラウリン酸アミド等のアルキルアミド型;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテル等のポリプロピレングリコールエーテル型;ラウリン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド等のアルカノールアミド型;ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテル等のアリルフェニルエーテル型などが好適である。
【0047】
前記アセタール変性PVAフィルムの製膜方法は特に限定されないが、厚みや幅が均一なフィルムが得られる点から、キャスト製膜法、押出製膜法、湿式製膜法、ゲル製膜法などが好ましく、キャスト製膜法、押出製膜法がより好ましい。中でも、厚みおよび幅が均一であり、なおかつ物性も良好なアセタール変性PVAフィルムが得られる点から、キャスト製膜法が特に好ましい。
【0048】
製膜原液に使用される液体媒体としては、例えば、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミンを挙げることができ、これらのうちの1種または2種以上を使用することができる。これらの中でも、環境に与える負荷が小さい点や回収性の点から水が好ましい。
【0049】
製膜原液の揮発分率は、製膜方法や前記アセタール変性PVAの分子量によって適宜調整すればよいが、50~95質量%が好ましく、60~95質量%がより好ましく、70~95質量%がさらに好ましい。揮発分率が50質量%未満であると、製膜原液の粘度が高くなり過ぎて、調製時の濾過や脱泡が困難となり、得られるアセタール変性PVAフィルムに異物や欠点が生じるおそれがある。一方、揮発分率が95質量%を超えると、製膜原液の粘度が低くなり過ぎて、前記アセタール変性PVAフィルムの厚みを目標値に調整することや、高い精度で調整することが困難になるおそれがある。
【0050】
前記PVAフィルムの膨潤度やレターデーションを上記範囲に調整し易い点から、アセタール変性PVAを製膜して得られたアセタール変性PVAフィルムを熱処理することが好ましい。熱処理温度は100~170℃が好ましい。熱処理時間は1~30分が好ましい。製膜後乾燥したアセタール変性PVAフィルムを調湿して水分率(含水率)を5~15質量%に調整した後、フィルムの一軸のみを固定した状態で熱処理を行ってもよい。このとき、アセタール変性PVAフィルムの流れ方向を固定することが好ましい。このようにフィルムの一軸のみを固定して熱処理を行った場合、フィルム中の水分の減少によって生じる応力によって、フィルムに緩やかな延伸を加えるのと同様の効果が得られる。そして、一軸のみを固定して熱処理を行うことによってレターデーションが発生しやすくなる。熱処理後のフィルムの水分率は、1~15質量%であることが好ましく、1~10質量%がより好ましく、2~6質量%であることがさらに好ましい。
【0051】
本発明の偏光フィルムの製造方法は特に限定はされないが、上記方法によって得られたアセタール変性PVAフィルムに対して、染色工程及び一軸延伸工程を行う方法が好ましく、前記アセタール変性PVAフィルムに対して、膨潤工程、染色工程及び一軸延伸工程を行う方法がより好ましい。これらの工程に加えて、アセタール変性PVAフィルムに対して、さらに架橋工程、固定処理工程、乾燥工程、熱処理工程などを行ってもよい。各工程の順序は特に制限されず、1つまたは2つ以上の工程を同時に行うこともできる。また、各工程の1つまたは2つ以上を2回以上行うこともできる。以下、各処理について具体的に説明する。
【0052】
前記膨潤工程は、前記アセタール変性PVAフィルムを水に浸漬することにより行うことができる。このときの水の温度は、20~40℃が好ましく、25~35℃がより好ましい。また、水に浸漬する時間としては、0.1~5分間が好ましく、0.5~3分間がより好ましい。なお、水は純水に限定されず、各種成分が溶解した水溶液であってもよいし、水と水溶性有機溶媒の混合物であってもよい。膨潤工程は染色工程の前に行うことが好ましい。
【0053】
前記染色工程は、アセタール変性PVAフィルムに対して二色性色素を接触させることにより行うことができる。二色性色素としてはヨウ素系色素が好適に用いられる。染色工程は、後述する一軸延伸工程の前に行ってもよいし、一軸延伸工程の後に行ってもよいが、前者が好ましい。染色方法として、一般的な方法、具体的には、アセタール変性PVAフィルムを染色浴中に浸漬させる方法が好適に採用される。染色浴として、ヨウ素-ヨウ化カリウムを含有する溶液(特に水溶液)が用いられる。当該溶液におけるヨウ素の濃度は0.01~0.5質量%が好ましく、ヨウ化カリウムの濃度は0.01~10質量%が好ましい。また、染色浴の温度は20~50℃が好ましく、25~40℃がより好ましい。アセタール変性PVAフィルムを染色浴に浸漬する時間としては、0.1~10分間が好ましく、0.2~5分間がより好ましい。
【0054】
前記架橋工程は、架橋剤を含む水溶液にアセタール変性PVAフィルムを浸漬させることにより行うことができる。これにより、高温で湿式延伸する際にアセタール変性PVAが水へ溶解するのをより効果的に防止することができる。この観点から架橋工程は一軸延伸工程の前に行うことが好ましい。また、架橋工程を染色工程の後に行うことも好ましい。前記架橋剤としては、ホウ酸、ホウ砂等のホウ酸塩などのホウ素化合物の1種または2種以上を使用することができる。前記水溶液における架橋剤の濃度は1~15質量%が好ましく、2~7質量%がより好ましい。架橋剤の濃度が上記範囲にあることで十分な延伸性を維持することができる。架橋剤を含む水溶液にはヨウ化カリウム等の助剤を含有させても良い。架橋剤を含む水溶液の温度は、20~50℃が好ましく、25~40℃がより好ましい。温度が上記範囲であることで効率良くアセタール変性PVAが架橋する。
【0055】
後述する一軸延伸工程とは別に、上述した各工程中や工程間において、アセタール変性PVAフィルムを一軸延伸してもよい。このような延伸(前延伸)をすることにより、アセタール変性PVAフィルムにしわが入るのを防ぐことができる。総延伸倍率(各工程における延伸倍率を掛け合わせた倍率)は、偏光性能の観点から、延伸前の原反のPVAフィルムの元長に基づいて、4倍以下であることが好ましい。膨潤工程における延伸倍率としては、1.05~3倍が好ましく、染色工程における延伸倍率としては、3倍以下が好ましく、架橋工程における延伸倍率としては、2倍以下が好ましい。
【0056】
前記アセタール変性PVAフィルムに対する一軸延伸工程は、湿式延伸法または乾式延伸法を用いて、フィルムを一軸延伸することにより行うことができる。湿式延伸法の場合は、ホウ酸を含む水溶液中で行うこともできるし、上記した染色浴中や後述する固定処理浴中で行うこともできる。また乾式延伸法の場合は、室温のまま延伸を行ってもよいし、加熱しながら延伸してもよいし、吸水後のアセタール変性PVAフィルムを用いて空気中で行うこともできる。これらの中でも、湿式延伸法が好ましく、ホウ酸を含む水溶液中で一軸延伸するのがより好ましい。前記水溶液中のホウ酸濃度は0.5~6.0質量%が好ましく、1.0~5.0質量%がより好ましく、1.5~4.5質量%が特に好ましい。また、ホウ酸水溶液はヨウ化カリウムを含有してもよく、その濃度は0.01~10質量%が好ましい。
【0057】
得られる偏光フィルムの延伸方向の収縮力が大幅に低下して、寸法安定性がさらに向上する観点から、一軸延伸工程における延伸温度は30~90℃が好ましく、40~80℃がより好ましく、50~70℃が特に好ましい。同様の観点から、湿式延伸法を用いることも好ましい。
【0058】
偏光フィルムの偏光性能等の点から、延伸工程における延伸倍率は1.2倍以上であることが好ましく、1.5倍以上であることがより好ましく、2倍以上であることが更に好ましい。また、上記した前延伸の延伸倍率も含めた総延伸倍率(各工程における延伸倍率を掛け合わせた倍率)は、延伸前の原反のアセタール変性PVAフィルムの元長に基づいて5.8倍以上であることが好ましい。総延伸倍率の上限に特に制限はないが、延伸切れを防ぐためには7倍以下であることが好ましい。
【0059】
長尺のアセタール変性PVAフィルムを一軸延伸する場合における延伸の方向に特に制限はなく、長さ方向(アセタール変性PVAフィルムの製造時に流れ方向)や、幅方向(横一軸延伸)に延伸することができる。偏光性能がさらに向上する点からは、長さ方向に延伸することが好ましい。長さ方向への一軸延伸は、互いに平行な複数のロールを備える延伸装置を使用して、各ロール間の周速を変えることにより行うことができる。一方、横一軸延伸はテンター型延伸機を用いて行うことができる。
【0060】
延伸工程の後に、アセタール変性PVAフィルムに対して固定処理を施してもよい。これにより、アセタール変性PVAフィルムに対する二色性色素の吸着が強固になる。固定処理に使用する固定処理浴としてはホウ酸、ホウ砂等のホウ素化合物の1種または2種以上を含む水溶液を使用することができる。また必要に応じて、固定処理浴中にヨウ素化合物や金属化合物を添加してもよい。固定処理浴におけるホウ素化合物の濃度は、0.5~15質量%が好ましい。このような範囲とすることで二色性色素の吸着をより強固にすることができる。固定処理浴の温度は、15~60℃であることが好ましい。
【0061】
前記アセタール変性PVAフィルムに対して乾燥工程を行う場合における乾燥温度は30~150℃が好ましく、50~130℃がより好ましい。前記アセタール変性PVAフィルムの乾燥を行い、その水分率が10質量%以下になった時点で当該フィルムに張力を掛けつつ、80~140℃で1~15分間熱処理を行ってもよい。
【0062】
こうして得られた偏光フィルムは、その両面または片面に、光学的に透明で且つ機械的強度が高い保護フィルムを貼り合わせることにより偏光板として使用される。保護膜としては、三酢酸セルロース(TAC)フィルム、酢酸・酢酸セルロース(CAB)フィルム、アクリル系フィルム、ポリエステル系フィルムなどが使用される。このとき使用される接着剤としては、PVA系接着剤やウレタン系接着剤などを挙げることができるが、中でもPVA系接着剤が好適である。
【0063】
本発明の偏光フィルムの単体透過率は43.95%以上であり、かつ偏光度は99.9%以上であることが好ましい。単体透過率と偏光度が上記範囲であることにより、画質の優れたLCDパネルを得ることができる。また、得られるLCDパネルの反りを低減させる観点から、前記偏光フィルムの収縮応力は59N/mm2以下が好ましく、54N/mm2以下がより好ましく、50N/mm2以下がさらに好ましい。
【0064】
上記のようにして得られた偏光板は、アクリル系等の粘着剤をコートした後、ガラス基板に貼り合わせてLCDの部品として使用することができる。同時に位相差フィルムや視野角向上フィルム、輝度向上フィルム等と貼り合わせても良い。
【実施例】
【0065】
以下に、本発明を実施例等により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0066】
[アセタール化度]
アセタール変性PVAを、N-メチルピロリドン(NMP)とジメチルスルホキシド-d6(DMSO-d6)との混合溶液(N-メチルピロリドン:DMSO-d6=9:1、質量比)に溶解してこれにクロムアセチルアセテートを添加した。測定機器として、超伝導核磁気共鳴装置(「Lambda500」、日本電子株式会社製)を用いて、共鳴周波数13C、125MHz及び温度80℃の条件下で測定した。上記式(1)で示されるアセタール構造中のRと結合しているメチン炭素(95ppm、103ppm)に由来するピーク強度と、ビニルアルコール単位、ビニルエステル単位、及びビニルアセタール単位の主鎖中の各メチレン炭素(62~75ppm)に由来するピーク強度からアセタール化度を求めた。
【0067】
[重合度及びけん化度]
JIS-K6726に従ってポリビニルアルコール(アセタール変性PVAのアセタール化する前の樹脂)の重合度及びけん化度を測定し、アセタール変性PVAの重合度およびけん化度とした。
【0068】
[フィルム膨潤度]
アセタール変性PVAフィルムを1.5gとなるようにカットし、30℃の蒸留水1000g中に浸漬した。30分間浸漬後にフィルムを取り出し、濾紙で表面の水を吸い取った後、その質量(We)を測定した。続いてそのフィルムを、乾燥機を用いて、105℃で16時間乾燥した後、その質量(Wf)を測定した。得られた質量WeおよびWfから、以下の式によって、PVAフィルムの膨潤度を求めた。
膨潤度(%)=(We/Wf)×100
【0069】
[アセタール変性PVAフィルムのレターデーションRe]
大塚電子社製の光学材料検査装置RETS-1100を用いて、幅方向に50mmピッチで全幅にわたって測定波長550nmにおけるレターデーションReを測定し、その平均値を求めた。このとき、アセタール変性PVAフィルムから長方形のサンプル(幅方向5cm、流れ方向10cm)を幅方向に連続的に採取して測定に供した。
【0070】
[ヨウ素の吸着性]
厚み30μmのアセタール変性PVAフィルム(原反)の幅方向中央部から、幅方向に5cm、流れ方向に5cmの部分を一軸延伸できるように幅方向5cm、流れ方向9cmの長方形のフィルムを採取した。(A)このフィルムを30℃の純水に60秒間浸漬しつつ2倍に流れ方向に一軸延伸して、膨潤処理した。(B)続いて前記フィルムをヨウ素0.04質量%及びヨウ化カリウム0.92質量%を含有する32℃の水溶液(染色処理浴)に120秒間浸漬しつつ1.2倍(全体で2.4倍)に流れ方向に一軸延伸してヨウ素を吸着させた。(C)その後前記フィルムを25℃にて風乾させた。株式会社日立製作所製紫外可視分光光度計「U-4100」を用いて、前記フィルムの波長200~800nmの吸光スペクトルを測定した。I3
-イオンに由来する波長295nmの吸光度の測定値又はI2・I3
-イオンに由来する波長330nmの吸光度の測定値を用いて下記式により、原反の厚み10μmあたりの吸光度を算出した。
原反の厚み10μmあたりの吸光度=(a/b)×10
a:(A)~(C)の処理が行われたフィルムの波長295nm又は330nmにおける吸光度の測定値
b:原反の厚み(μm)
【0071】
[偏光フィルムの光学性能]
(1)透過率Tsの測定
偏光フィルムの中央部から、延伸方向に2cm、幅方向に1.5cmの長方形のサンプルを2枚採取し、積分球付き分光光度計(日本分光株式会社製「V7100」)を用いて、JIS Z8722(物体色の測定方法)に準拠し、C光源、2°視野の可視光領域の視感度補正を行い、1枚のサンプルについて、延伸方向に対して+45°傾けた場合の光の透過率と-45°傾けた場合の光の透過率を測定して、それらの平均値Ts1(%)を求めた。もう1枚のサンプルについても同様にして、+45°傾けた場合の光の透過率と-45°傾けた場合の光の透過率を測定して、それらの平均値Ts2(%)を求めた。その後、下記式によりTs1とTs2を平均し、偏光フィルムの透過率Ts(%)とした。
Ts=(Ts1+Ts2)/2
【0072】
(2)偏光度Vの測定
(1)の透過率Tsの測定で採取した2枚のサンプルを、その延伸方向が平行になるように重ねた場合の光の透過率T∥(%)、延伸方向が直交するように重ねた場合の光の透過率T⊥(%)を、上記「(1)透過率Tsの測定」の場合と同様にして測定し、下記式により偏光度V(%)を求めた。
V={(T∥-T⊥)/(T∥+T⊥)}1/2×100
【0073】
[フィルムの収縮応力]
偏光フィルムの収縮力を島津製作所製の恒温槽付きオートグラフ「AG-X」とビデオ式伸び計「TR ViewX120S」を用いて測定した。測定には20℃/20%RHで18時間調湿した偏光フィルムを使用した。オートグラフ「AG-X」の恒温槽を20℃にした後、偏光フィルム[延伸方向15cm、幅方向1.5cm]をチャック(チャック間隔5cm)に取り付け、引張り開始と同時に、80℃へ恒温槽の昇温を開始した。偏光フィルムを1mm/minの速さで引張り、張力が2Nに到達した時点で引張りを停止し、その状態で4時間後までの張力を測定した。このとき、熱膨張によってチャック間の距離が変わるため、チャックに標線シールを貼り、ビデオ式伸び計「TR ViewX120S」を用いてチャックに貼り付けた標線シールが動いた分だけチャック間の距離を修正できるようにして測定を行った。なお、測定初期(測定開始10分以内)に張力の極小値が生じるため、4時間後の張力の測定値から張力の極小値を差し引き、その差を偏光フィルムの収縮力(N)とし、その値(N)をサンプル断面積(mm2)で除した値を収縮応力(N/mm2)と定義した。
【0074】
実施例1
<PVAフィルムの製造>
n-ブチルアルデヒドを用いて変性したPVA(アセタール化度が1.6モル%、上記式(1)中のRはプロピル基(炭素数3)、けん化度99.5モル%、重合度2400)100質量部、可塑剤としてグリセリン10質量部、並びに界面活性剤としてラウリン酸ジエタノールアミド0.16質量部及びポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム0.08質量部を含み、アセタール変性PVAの含有率が10質量%である水溶液を製膜原液として用いた。これを60℃の金属ロール上に流延してから乾燥させ、得られたフィルムを熱風乾燥機中で157℃で10分間熱処理をすることにより膨潤度及びレターデーションReを調整して、厚みが30μmのアセタール変性PVAフィルムを製造した。得られたアセタール変性PVAフィルムの膨潤度、吸光度及びレターデーションReの測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0075】
<偏光フィルムの製造>
こうして得られたアセタール変性PVAフィルムの幅方向中央部から、幅方向5cm、流れ方向5cmの部分を一軸延伸できるように幅方向5cm、流れ方向9cmの長方形のフィルムを採取した。このフィルムを30℃の純水に60秒間浸漬しつつ2倍に流れ方向に一軸延伸して、膨潤処理した。続いてヨウ素0.04質量%及びヨウ化カリウム0.92質量%を含有する32℃の水溶液(染色処理浴)に120秒間浸漬しつつ1.2倍(全体で2.4倍)に流れ方向に一軸延伸してヨウ素を吸着させた(染色処理)。次いで、ホウ酸を2.6質量%を含有する32℃の水溶液(ホウ酸架橋処理浴)に浸漬しつつ1.25倍(全体で3倍)に流れ方向に一軸延伸した(ホウ酸架橋処理)。さらにホウ酸を2.8質量%及びヨウ化カリウムを5質量%含有する59℃の水溶液(一軸延伸処理浴)に浸漬しつつ、全体で6.0倍まで流れ方向に一軸延伸した(延伸処理)。最後に80℃で4分間乾燥して偏光フィルムを製造した。得られた偏光フィルムの光学性能の評価を行った。結果を表1に示す。
【0076】
実施例2
n-ブチルアルデヒドを用いて変性した、アセタール化度が5モル%であるPVA(上記式(1)中のRはプロピル基(炭素数3)、けん化度99.5モル%、重合度2400)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、アセタール変性PVAフィルム及び偏光フィルムを作製して、各測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0077】
実施例3
n-プロピルアルデヒドを用いてアセタール変性したPVA(アセタール化度が4モル%、上記式(1)中のRはエチル基(炭素数2)、けん化度99.5モル%、重合度2400)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、アセタール変性PVAフィルム及び偏光フィルムを作製して、各測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0078】
比較例1
未変性のPVA(けん化度99.5モル%、重合度2400)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、アセタール変性PVAフィルム及び偏光フィルムを作製して、各測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0079】
比較例2
n-オクチルアルデヒドを用いてアセタール変性されたPVA(アセタール化度が3.9モル%、上記式(1)中のRはへプチル基(炭素数7)、けん化度99.5モル%、重合度2400)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、アセタール変性PVAフィルム及び偏光フィルムを作製して、各測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0080】
【0081】
上記式(1)で示されるアセタール構造を含むアセタール変性PVAを用いて得られた実施例1~3の偏光フィルムは単体透過率が43.97~43.99%の時の偏光度が99.9%以上であり、未変性PVAを用いて得られた比較例1の偏光フィルムと比較して偏光度が高かった。上記式(1)中のRが、炭素数が6を超える1価の脂肪族基(へプチル基)であるアセタール変性PVA(比較例2)は水に溶解せず製膜原液を製造できなかったため、アセタール変性PVAフィルムを製膜することができなかった。