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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】注射デバイス
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/44 20060101AFI20241107BHJP
   A61M 5/31 20060101ALI20241107BHJP
   A61M 5/20 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
A61M5/44 520
A61M5/31 520
A61M5/20
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022559895
(86)(22)【出願日】2021-03-31
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-12
(86)【国際出願番号】 EP2021058499
(87)【国際公開番号】W WO2021198368
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2024-02-07
(31)【優先権主張番号】20315112.1
(32)【優先日】2020-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504456798
【氏名又は名称】サノフイ
【氏名又は名称原語表記】SANOFI
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】ウーヴェ・ダスバッハ
(72)【発明者】
【氏名】カイ・シャイネルト
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル・オールンハンマー
(72)【発明者】
【氏名】フローリアーン・シャーデルナ
(72)【発明者】
【氏名】トーマス・マーク・ケンプ
(72)【発明者】
【氏名】ティム・シュラー
(72)【発明者】
【氏名】ロビー・ウィルソン
(72)【発明者】
【氏名】マイケル・ノーブル
(72)【発明者】
【氏名】ライアン・アントニー・マッギンリー
【審査官】立花 啓
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0333330(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0305504(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/44
A61M 5/31
A61M 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬物送達デバイスであって:
外面と;
薬剤容器を受け入れるための領域であって、受け入れられた薬剤容器に接触して支持するための少なくとも1つの内面を有する領域と;
少なくとも1つの内面と外面との間に延びて、内面と外面との間で熱を伝導するサーマルブリッジであって、10W/mk以上の熱伝導率を有するサーマルブリッジと、
を含む前記薬物送達デバイス。
【請求項2】
内面および外面は、内面と外面との間に途切れのない伝導経路を提供するためにサーマルブリッジと一体形成される、請求項1に記載の薬物送達デバイス。
【請求項3】
前記外面は、ハウジングの外面である、請求項2に記載の薬物送達デバイス。
【請求項4】
サーマルブリッジは、ハウジングの一部として一体形成され
ーマルブリッジは、壁厚が増加したハウジングの領域を含み、壁厚が増加した前記領域の内径は、受け入れられる薬剤容器の外径と実質的に同じである、
請求項3に記載の薬物送達デバイス。
【請求項5】
ハウジングは、第1および第2の部材を含み、サーマルブリッジは、第1の部材に一体形成される、請求項3に記載の薬物送達デバイス。
【請求項6】
サーマルブリッジは、ハウジングの第1および第2の部材の間に配設されたカラーを含み、該カラーは、受け入れられる薬剤容器の外径と実質的に同じ内径を有する円筒形セクションを含む、請求項1または2に記載の薬物送達デバイス。
【請求項7】
サーマルブリッジは、70W/mKよりも大きい熱伝導率を有する材料を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の薬物送達デバイス。
【請求項8】
サーマルブリッジは、締まり嵌めによってハウジングに対して固定された位置に薬剤容
器を保持するように構成される、請求項1~7のいずれか1項に記載の薬物送達デバイス。
【請求項9】
薬剤容器をさらに含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の薬物送達デバイス。
【請求項10】
サーマルブリッジは、薬剤容器をハウジングに対して固定された位置に保持し、サーマルブリッジは、2W/mKよりも大きい熱伝導率を有する接着剤によって薬剤容器に結合される、請求項9に記載の薬物送達デバイス。
【請求項11】
薬剤容器は、10W/mKよりも大きい熱伝導率を有する材料を含む、請求項9または10に記載の薬物送達デバイス。
【請求項12】
サーマルブリッジの温度に応じて色が変わるように構成されたサーモクロミック材料を含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の薬物送達デバイス。
【請求項13】
デバイスの外面は、サーマルブリッジが注射温度に達したときのサーモクロミック材料の色に対応する着色領域を含む、請求項12に記載の薬物送達デバイス。
【請求項14】
ヒータと、請求項1~13のいずれか1項に記載のデバイスとを含むシステムであって、ヒータは、デバイスが加熱されるドッキング面に配置されるときにデバイスの外面に接触するように構成された加熱されるドッキング面を含む、前記システム。
【請求項15】
薬物送達デバイスの作動方法であって、薬物送達デバイスは:
外面と;
薬剤容器と;
薬剤容器と外面との間に延びるサーマルブリッジであって、10W/mk以上の熱伝導率を有するサーマルブリッジと;を含み、
ここで、該方法は、
薬剤送達デバイスの外面熱源と接触した後熱源が薬剤容器内の薬剤を保管温度から注射温度に加熱することを含む、
前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤用の注射デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
注射デバイス、たとえば自動注射器は、典型的には、薬剤の封止容器と、薬剤を患者に注射するための針とを有する。注射中、駆動機構がプランジャを薬剤容器内に変位させて、針を通して薬剤を投薬する。
【0003】
多くの場合、薬剤を適切な保管温度に保つために、注射デバイスを冷蔵庫に保管する必要がある。保管温度は体温よりもかなり低く、これは、注射中に患者に不快感を与える可能性がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明によれば、注射デバイスを含む薬物送達デバイスであって:外面と;薬剤容器を受け入れるための領域であって、受け入れられた薬剤容器に接触して支持するための少なくとも1つの内面を有する領域と;少なくとも1つの内面と外面との間に延びて、内面と外面との間で熱を伝導するサーマルブリッジであって、10W/mk以上の熱伝導率を有するサーマルブリッジと、を含む薬物送達デバイスが提供される。
【0005】
したがって、デバイスは、冷蔵庫から取り出された後、薬剤がより適切な注射温度までより迅速に温まるように構成される。
【0006】
内面および外面は、内面と外面との間に途切れのない伝導経路を提供するためにサーマルブリッジと一体形成される。
【0007】
したがって、内面と外面との間の伝熱が最大にされる。
【0008】
上記外面は、ハウジングの外面でよい。
【0009】
したがって、デバイスが取り扱われるときに薬剤がより効率的に加熱され、外面は、使用者の手から熱を伝導する。
【0010】
サーマルブリッジは、ハウジングの一部として一体形成される。したがって、デバイスは単純に構成される。
【0011】
サーマルブリッジは、壁厚が増加したハウジングの領域を含むことがあり、壁厚が増加した上記領域の内径は、受け入れられる薬剤容器の外径と実質的に同じである。
【0012】
したがって、サーマルブリッジは、薬剤容器の全周に延びて、薬剤容器とサーマルブリッジとの間の伝熱のための接触面積を最大にする。
【0013】
ハウジングは、第1および第2の部材を含むことがあり、サーマルブリッジは、第1の部材に一体形成される。
【0014】
したがって、ハウジングの第1の部材のみが、10W/mkを超える熱伝導率を有する材料を含めばよく、これにより、デバイスの製造コストが削減される。
【0015】
サーマルブリッジは、ハウジングの第1および第2の部材の間に配設されたカラーを含むことがあり、カラーは、受け入れられる薬剤容器の外径と実質的に同じ内径を有する円筒形セクションを含む。
【0016】
したがって、カラーのみが、10W/mkを超える熱伝導率を有する材料を含めばよく、これにより、デバイスの製造コストが削減される。さらに、触れたときに、より熱伝導性の高い材料ほどには冷たくない従来のプラスチック材料からハウジングの第1および第2の部材を作ることができ、冷蔵庫から取り出されたときにデバイス10をより快適に取り扱うことができる。
【0017】
サーマルブリッジは、70W/mKよりも大きい熱伝導率を有する材料を含むことがある。
【0018】
したがって、内面と外面との間でさらにより迅速に熱が伝導される。
【0019】
サーマルブリッジは、薬剤容器の外面の20%と接触して延びることがある。
【0020】
したがって、効率の良い伝熱のために、薬剤容器とサーマルブリッジとの間に大きい接触面積が提供される。
【0021】
サーマルブリッジは、締まり嵌めによってハウジングに対して固定された位置に薬剤容器を保持することがある。
【0022】
サーマルブリッジは、薬剤容器をハウジングに対して固定された位置に保持することがあり、サーマルブリッジは、2W/mKよりも大きい熱伝導率を有する接着剤によって薬剤容器に結合される。
【0023】
薬剤容器は、10W/mKよりも大きい熱伝導率を有する材料を含むことがある。
【0024】
サーマルブリッジは、サーマルブリッジの温度に応じて色が変わるように構成されたサーモクロミック材料を含むことがある。
【0025】
したがって、使用者はデバイスが温まっているかどうかを確認することができる。
【0026】
デバイスの外面は、サーマルブリッジが所定の温度に達したときのサーモクロミック材料の色に対応する着色領域を含むことがある。
【0027】
したがって、使用者は、薬剤が快適な注射温度に達する程度までデバイスが温まっているかどうかを確認することができる。
【0028】
また、本発明によれば、ヒータと、請求項1~13のいずれか1項に記載のデバイスとを含むシステムであって、ヒータは、デバイスを受け入れるためのU字形チャネルを含み、U字形チャネルの加熱面は、デバイスが受け入れられるときにデバイスの外面に接触する、システムが提供される。
【0029】
また、本発明によれば、薬物送達デバイスを作動させる方法であって、薬物送達デバイスは:
外面と;
薬剤容器と;
薬剤容器と外面との間に延びるサーマルブリッジであって、10W/mk以上の熱伝導率を有するサーマルブリッジと;を含み、
ここで、該方法は、
薬剤送達デバイスの外面を熱源と接触させて、薬剤容器内の薬剤を保管温度から注射温度に加熱することを含む、方法が提供される。
【0030】
ヒータにより、デバイスを快適な注射温度までより迅速に上げることができるようになる。
【0031】
次に、本発明の実施形態を、添付図面を参照して単に例として述べる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1A】本発明を具現化する注射デバイスおよび着脱可能なキャップの概略側面図である。
図1B】キャップがハウジングから取り外された状態での、図1Aの注射デバイスの概略側面図である。
図2】本発明の一実施形態の断面図である。
図3】本発明の別の実施形態の断面図である。
図4】本発明の別の実施形態の断面図である。
図5】本発明の別の実施形態の断面図である。
図6】本発明によるシステムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本明細書で述べる薬物送達デバイスは、薬剤を患者に注射するように構成される。たとえば、送達は、皮下、筋肉内、または静脈内であり得る。そのようなデバイスは、患者、または看護師や医師などの治療奉仕者が操作することができ、様々なタイプの安全シリンジ、ペン型注射器、または自動注射器を含むことができる。デバイスは、使用前に、封止されているアンプルに穿孔する必要があるカートリッジベースのシステムを含むことができる。これらの様々なデバイスによって送達される薬剤の体積は、約0.5ml~約3mlの範囲であり得る。別のデバイスは、デバイスのハウジング内に充填済みシリンジを含むこともある。シリンジは、ハウジング内に固定されていても、ハウジング内でたとえば後退位置から動作伸長位置に可動でもよい。
【0034】
特定の薬剤との組合せで、ここで述べるデバイスを所要の仕様内で動作するようにカスタマイズすることもできる。たとえば、特定の期間(たとえば自動注射器に関しては約3~約20秒)内に薬剤を注射するようにデバイスをカスタマイズすることができる。他の仕様には、低もしくは最小レベルの不快感、または人的要因、寿命、有効期限、生体適合性、環境への配慮などに関連する特定の条件が含まれることがある。そのような変動は、たとえば約3cP~約50cPまでの範囲内の粘度の薬物など、様々な要因により生じ得る。したがって、薬物送達デバイスは、サイズが約25~約31ゲージの範囲内の中空針を含むことが多い。一般的なサイズは17および29ゲージである。
【0035】
本明細書で述べる送達デバイスは、1つまたはそれ以上の自動化機能を含むこともできる。たとえば、針とカートリッジとの組合せ、針挿入、薬剤注射、および針後退のうちの1つまたはそれ以上を自動化することができる。1つまたはそれ以上の自動化ステップのためのエネルギーは、1つまたはそれ以上のエネルギー源によって提供することができる。エネルギー源は、たとえば、機械的、空気圧的、化学的、または電気的エネルギーを含むことができる。たとえば、機械的エネルギー源には、エネルギーを貯蔵もしくは解放するために、ばね、てこ、エラストマー、または他の機械的機構が含まれることがある。1つまたはそれ以上のエネルギー源を単一のデバイスに組み合わせることができる。デバイスはさらに、エネルギーをデバイスの1つまたはそれ以上の構成要素の動きに変換するために、ギア、弁、または他の機構を含むことができる。
【0036】
自動注射器の1つまたはそれ以上の自動化機能はそれぞれ、起動機構によって起動することができる。そのような起動機構は、アクチュエータ、たとえば、ボタン、レバー、ニードルスリーブ、または他の起動構成要素のうちの1つまたはそれ以上を含むことができる。自動化機能の起動は、1ステップまたはマルチステッププロセスでよい。すなわち、使用者は、自動化機能を引き起こすために、1つまたはそれ以上の起動構成要素を起動する必要があり得る。たとえば、1ステッププロセスでは、使用者は、薬剤の注射を引き起こすためにニードルスリーブを自分の身体に対して押し下げることができる。他のデバイスは、自動化機能のマルチステップ起動を必要とすることがある。たとえば、使用者は、注射を引き起こすために、ボタンを押し下げてニードルシールドを後退させる必要があり得る。
【0037】
さらに、1つの自動化機能の起動により、1つまたはそれ以上の後続の自動化機能を起動させることができ、それにより起動シーケンスが形成される。たとえば、第1の自動化機能の起動は、針とカートリッジの組合せ、針挿入、薬剤注射、および針後退のうちの少なくとも2つを起動させることができる。いくつかのデバイスは、1つまたはそれ以上の自動化機能を生じさせるために、ステップの特定のシーケンスを必要とすることもある。他のデバイスは、独立したステップのシーケンスで動作することがある。
【0038】
いくつかの送達デバイスは、安全シリンジ、ペン型注射器、または自動注射器の1つまたはそれ以上の機能を含むことがある。たとえば、送達デバイスは、薬剤を自動的に注射するように構成された機械的エネルギー源(典型的には自動注射器において見られる)と、用量設定機構(典型的にはペン型注射器において見られる)とを含むことができる。
【0039】
本開示のいくつかの実施形態によれば、例示的な薬物送達デバイス10が図1Aおよび1Bに示されている。デバイス10は、上述したように、患者の体内に薬剤を注射するように構成される。デバイス10は、注射予定の薬剤を含むリザーバを画成する薬剤容器18を含むハウジング11と、送達プロセスの1つまたはそれ以上のステップを容易にするために必要とされる構成要素とを含む。薬剤容器18は、カートリッジまたは充填済みシリンジであり得る。
【0040】
デバイス10は、ハウジング11に取り外し可能に取り付けることができるキャップ12を含むこともできる。典型的には、デバイス10を操作できるようにするには、使用者はハウジング11からキャップ12を取り外さなければならない。
【0041】
図示されるように、ハウジング11は実質的に円筒形であり、長手方向軸A-Aに沿って実質的に一定の直径を有する。ハウジング11は、遠位領域Dおよび近位領域Pを有する。「遠位」という用語は、注射部位に比較的近い位置を表し、「近位」という用語は、注射部位から比較的離れた位置を表す。
【0042】
デバイス10は、ハウジング11に対するニードルスリーブ19の動きを可能にするようにハウジング11に連結されたニードルスリーブ19を含むこともできる。たとえば、スリーブ19は、長手方向軸A-Aに平行な長手方向に動くことができる。具体的には、近位方向へのスリーブ19の動きは、針17がハウジング11の遠位領域Dから延びることを可能にすることができる。
【0043】
針17の挿入は、いくつかの機構によって行うことができる。たとえば、針17は、ハウジング11に対して固定して位置し、最初は、伸長されたニードルスリーブ19内に位置する。スリーブ19の遠位端を患者の身体に配置し、ハウジング11を遠位方向に移動させることによるスリーブ19の近位運動により、針17の遠位端が露出される。そのような相対運動により、針17の遠位端が患者の体内に延びることが可能になる。そのような挿入は、患者がスリーブ19に対してハウジング11を手で動かすことによって針17が手動で挿入されるので、「手動」挿入と呼ばれる。
【0044】
別の挿入形態は「自動化」であり、この場合、針17がハウジング11に対して動く。そのような挿入は、スリーブ19の動きによって、またはたとえばボタン13などの別の起動形態によってトリガすることができる。図1Aおよび1Bに示されるように、ボタン13はハウジング11の近位端に位置する。しかし、他の実施形態では、ボタン13はハウジング11の側面に位置することができる。
【0045】
他の手動または自動化構成は、薬物注射もしくは針後退、またはそれら両方を含むことができる。注射は、栓またはピストン14がカートリッジ18のリザーバ内の近位位置からより遠位の位置に動かされて、カートリッジ18から針17を通して薬剤を押し出すプロセスである。いくつかの実施形態では、(図2~5に示される)駆動機構20が起動されて、カートリッジ18から薬剤を押し出す。駆動機構20は、駆動ばね21を含む。駆動ばね21は、駆動機構20が起動される前には圧縮下にある。駆動ばね21の近位端は、ハウジング11の近位領域P内に固定することができ、駆動ばね21の遠位端は、ピストン14の近位面に圧縮力を加えるように構成することができる。起動後、駆動ばね21に蓄えられたエネルギーの少なくとも一部を、ピストン14の近位面に加えることができる。この圧縮力は、ピストン14に作用して、ピストン14を遠位方向に動かすことができる。そのような遠位運動は、カートリッジ18内の液体薬剤を圧縮するように作用し、液体薬剤を針17から押し出す。
【0046】
注射後、針17は、スリーブ19またはハウジング11内に後退させることができる。後退は、使用者がデバイス10を患者の身体から取り外す際にスリーブ19が遠位方向に動くときに生じ得る。これは、針17がハウジング11に対して固定して位置するままであるときに生じ得る。スリーブ19の遠位端が針17の遠位端を越えて動き、針17が覆われた後、スリーブ19をロックすることができる。そのようなロックは、ハウジング11に対するスリーブ19の近位運動をロックすることを含むことができる。
【0047】
針17がハウジング11に対して動かされる場合、別の形での針後退が生じ得る。そのような動きは、ハウジング11内のカートリッジ18がハウジング11に対して近位方向に動かされる場合に生じ得る。この近位運動は、遠位領域Dに位置する引戻しばね(図示せず)を使用することによって実現することができる。圧縮された引戻しばねは、起動されるとき、カートリッジ18に十分な力を供給してカートリッジを近位方向に動かすことができる。十分な後退後、針17とハウジング11との相対運動を、ロッキング機構によってロックすることができる。さらに、ボタン13またはデバイス10の他の構成要素を必要に応じてロックすることができる。
【0048】
図2は、本発明の一実施形態の注射デバイス10を示しており、同様の構成には同じ参照番号が付されている。
【0049】
デバイス10は、薬剤カートリッジ18とデバイス10の外面24との間で熱を伝導するように構成されたサーマルブリッジ22を含む。したがって、デバイス10の外面24に加えられた熱は、薬剤カートリッジ18に伝導されて、内部に保持されている薬剤を加熱する。
【0050】
使用時、薬剤を保管温度で保つためにデバイス10は冷蔵庫に保管される。保管温度は、体温よりもかなり低い。保管温度は様々であるが、通常は-4~4℃である。
【0051】
注射中の患者の痛みは、注射される薬剤の温度に対応することが知られている。保管温度で注射される薬剤は、より高い温度で注射される薬剤に比べて痛みを強めることがある。理想的には、痛みを最小限に抑えるために、薬剤は注射中にほぼ体温である。
【0052】
したがって、デバイス10の外面24と薬剤カートリッジ18との間にサーマルブリッジ22を提供することによって、外面24に熱を加えることによって薬剤をより迅速に加熱することが可能である。周囲温度が保管温度よりも高い場合、デバイス10を冷蔵庫から出すだけで受動的に熱が加えられる。代替として、使用者がデバイス10を握るときに、使用者の手によって熱が加えられる。図6を参照して以下でさらに説明するように、デバイスを能動的に加熱するためにドック40が提供されることも想定される。
【0053】
図2によって示される実施形態では、サーマルブリッジ22は、ハウジング11と一体形成され、ハウジング11の内面25から直立し、薬剤カートリッジ18の外面26と接触する。図2は、デバイス10を通して取られた断面を示す。サーマルブリッジ22はハウジング11と一体形成されるので、サーマルブリッジ22は、薬剤カートリッジ18の外面26とハウジング11の外面24との間に途切れのない伝導経路を提供する。
【0054】
図示される実施形態では、サーマルブリッジ22は、壁厚が増加したハウジング11の領域を含み、上記領域の内径は、ハウジング11の残りの部分に比べて減少されている。この内径は、薬剤カートリッジ18の外径と実質的に同じであり、したがって、上記領域の内面25は、薬剤カートリッジ18の外面26に密に当接する。したがって、サーマルブリッジ22は、カートリッジ18の全周に延びて、サーマルブリッジ22とカートリッジ18との間の大きな接触面積を保証する。これにより、伝熱のためのできるだけ大きい面積が提供され、その重要性は、フーリエの法則から当業者には容易に理解されよう。
【0055】
有利には、サーマルブリッジ22は、スリーブ引戻しばね28の近位端を支持するためのショルダ27を提供する。ショルダ27は、サーマルブリッジ22を形成するためにハウジング11の内径が段状に狭まる場所に提供される。スリーブ引戻しばね28は、ハウジング11の遠位端からスリーブ19を付勢して針17を隠す。
【0056】
キャップ12は、スリーブ19に被さって位置する。さらなる安全性のために針17を取り囲むために、ニードルシールド29も設けられる。ニードルシールド29は、キャップ12から延びる壁30によって把持され、したがってニードルシールド29はキャップ12と同時に取り外される。
【0057】
ハウジング11の外面24とカートリッジ18の外面26との間の伝熱を最大にするために、サーマルブリッジ22は、好ましくは比較的高い熱伝導率の材料から作られる。比較的高いとは、注射デバイス用のハウジングを形成するために使用される通常の種類のプラスチックと比較しての意味合いである。本明細書で述べる実施形態では、サーマルブリッジ22は、10W/mKよりも大きい熱伝導率を有する。
【0058】
図3に示される別の実施形態(同様の構成には同じ参照番号が付されている)では、ハウジング11は、第1および第2の部材11aおよび11bに分割されている。第1の部材11aは、デバイス10の遠位領域Dを形成し、薬剤カートリッジ18を収容し、第2の部材11bは、デバイス10の近位領域Pを形成し、駆動機構20を収容する。
【0059】
この実施形態では、サーマルブリッジ22は、ハウジング11の第1の部材11aと一体形成され、ハウジング11の第1の部材11aの内面25aから直立し、薬剤カートリッジ18の外面26と接触する。図3は、デバイス11を通して取られた断面を示す。図2の実施形態と同様に、サーマルブリッジ22はハウジング11と一体形成されるので、サーマルブリッジ22は、薬剤カートリッジ18の外面26とハウジング11の外面24との間に途切れのない伝導経路を提供する。
【0060】
サーマルブリッジ22は、壁厚が増加したハウジング11の第1の部材11aの領域を含み、上記領域の内径は、ハウジング11の残りの部分に比べて減少されている。図2の実施形態と同様に、この内径は、薬剤カートリッジ18の外径と実質的に同じであり、したがって、上記領域の内面25aは、薬剤カートリッジ18の外面26に密に当接する。
【0061】
ハウジング11の第1の部材11aは、ねじ連結部31によってハウジング11の第2の部材11bに取り付けられる。図示される実施形態では、ハウジング11の第1および第2の部材11a、11bを取り付けるために、ハウジング11の第1の部材11aは雄ねじ付端部31aを含み、雄ねじ付端部31aは、ハウジング11の第2の部材11bの雌ねじ付端部31bと協働する。
【0062】
ハウジング11の第1および第2の部材11a、11bを分割する利点は、ハウジング11の第1の部材11a、したがってサーマルブリッジ22を、ハウジング11の第2の部材11bとは異なるより熱伝導性の高い材料、たとえば10W/mKよりも大きい熱伝導率を有する材料から作ることができることである。したがって、より熱伝導性の高い材料がより高い単位原価を有する場合に、デバイス10のコストが抑制される。
【0063】
図4に示される本発明の別の実施形態(同様の構成には同じ参照番号が付されている)では、ハウジング11は、第1および第2の部材11c、11dと、第1および第2の部材11c、11dを分離するカラー32とを含む。ハウジング11の第1の部材11cは、デバイス10の遠位端Dを形成し、ハウジング11の第2の部材11dは、デバイス10の近位端Pを形成する。図4の実施形態では、第1および第2の部材11c、11dは直接取り付けられておらず、それぞれねじ連結部33によってカラー32の両端に取り付けられている。カラー32は、カートリッジ18に被せて配設される。カラー32は、カラー32の内面が薬剤カートリッジ18の外面に密に当接するように、薬剤カートリッジ18の外径と実質的に同じ内径を有する円筒形セクションを含む。カラー32の外面34は、ハウジング11の第1および第2の部材11c、11dの外面と共線上にあり、デバイス10の外面24の一部を形成する。したがって、カラー32は、サーマルブリッジ22と、薬剤カートリッジ18の外面26とデバイス10の外面24との間に途切れのない伝導経路を提供する。
【0064】
図示される実施形態では、カラー32の各端部には雌ねじ33aが設けられて、ハウジング11の第1および第2の部材11c、11dの対応する雄ねじ付端部33bと協働する。この実施形態の利点は、カラー32、したがってサーマルブリッジ22を、ハウジング11の第1および第2の部材11c、11dとは異なるより熱伝導性の高い材料、たとえば10W/mKよりも大きい熱伝導率を有する材料から作ることができることである。したがって、より熱伝導性の高い材料がより高い単位原価を有する場合に、デバイス11のコストが抑制される。別の利点は、触れたときに、より熱伝導性の高い材料ほどには冷たくない従来のプラスチック材料からハウジング11の第1および第2の部材11c、11dを作ることができ、冷蔵庫から取り出されたときにデバイス10をより快適に取り扱うことができることである。
【0065】
図5に示される本発明の別の実施形態(同様の構成には同じ参照番号が付されている)では、サーマルブリッジ22は、ハウジング11と薬剤カートリッジ18との間に配設されたインサート50を含む。インサート50の内面51は、薬剤カートリッジ18の外面26に位置し、インサート50の外面52は、ハウジング11の内面25に位置する。したがって、インサート50は、薬剤カートリッジ18とハウジング11との間に伝導経路を提供する。好ましくは、インサート50は円筒形であり、インサートはカートリッジ18の全周に延び、カートリッジ18と接触する表面積を最大にする。しかし、インサート50は、材料費を節約するために、個々のブリッジ部分に分割されてもよい。
【0066】
インサート50は、インサート50の内面および外面51、52と、それぞれカートリッジ18およびハウジング11の対応する表面26、25との間の締まり嵌めによって、カートリッジ18をハウジング11に対して固定関係で保持することができる。代替として、熱伝導性接着剤を使用して、インサート50の内面および外面51、52を、それぞれカートリッジ18およびハウジング11の対応する表面26、25に結合することができる。
【0067】
上述した実施形態では、サーマルブリッジ22は、カートリッジ18の全周に延びて、サーマルブリッジ22とカートリッジ18との間の大きな接触面積を保証する。上で論じたように、これにより、伝熱のためのできるだけ大きい面積が提供される。好ましくは、サーマルブリッジ22は、カートリッジ18の薬剤含有部分23の少なくとも50%と接触するように、カートリッジ18の長さに沿って延びる。
【0068】
また、好ましくは、サーマルブリッジ22は、ハウジング11に対して固定関係で薬剤カートリッジ18を保持するように構成される。サーマルブリッジ22は、摩擦によって薬剤容器18を保持することができる。たとえば、薬剤カートリッジ18は、締まり嵌めによってサーマルブリッジ22内に保持される。代替として、サーマルブリッジ22と薬剤カートリッジ18の外面26との間で接着剤が使用されることもある。2W/mKを超える熱伝導率など、比較的高い熱伝導率を有する接着剤を選択することができる。
【0069】
本発明の目的は、薬剤を適切な温度まで上昇させる速度を高めることであるので、薬剤カートリッジ18自体も、比較的伝導性が高い材料で作られる。比較的伝導性が高いとは、ガラスまたは通常の種類のポリマーなど、カートリッジを作成するための従来の材料と比較しての意味合いである。たとえば、カートリッジ18は、ステンレス鋼から作られる。
【0070】
また、本発明の実施形態では、デバイス10の外面24の領域は、温度の変化に応答して色が変わるように構成されることもある。たとえば、デバイス10の外面24に、(図6に示されるように)サーモクロミック材料35のストリップを設けることができる。したがって、デバイス10が温まると、外面24の色が変化して、この温度変化を使用者に示す。好ましくは、デバイス10の外面24は、サーマルブリッジ22が所定の温度に達したときのサーモクロミック材料の色に対応する着色基準ストリップ36を含む。所定の温度は、薬剤をより快適に患者に注射することができる温度である。使用者は、外面24のサーモクロミック部分の色を着色領域と比較して、デバイスが使用可能状態であることを決定することができる。適切なサーモクロミック材料は、液晶材料またはロイコ染料を含むことがある。
【0071】
薬剤の温度の上昇は、薬剤の粘度の対応する低下を引き起こすことを理解されたい。有利には、所与の力がピストン14に加えられた場合、薬剤の粘度の低下は、薬剤がデバイス10から排出される速度の対応する増加をもたらす。
【0072】
患者は、注射が迅速に行われることを好むことがある。したがって、本発明は、患者またはデバイス10の使用者が好ましい速度で薬剤を注射することができるように、薬剤をその保管温度からより迅速に加熱することを可能にする。
【0073】
一実施形態では、着色基準ストリップ36はカラースケールを表し、スケールの一意に着色された増分は、異なる注射速度でのサーモクロミックストリップ35の色に対応する。各注射速度は、対応する増分に隣接してラベルを付けられている。代替として、着色基準ストリップ36は連続的なスケールでもよく、より遅い注射速度を表す1つの色からより速い注射速度を表す別の色へとフェードする。連続的なスケールには、「高速」や「低速」などの対応するラベルが付けられる。
【0074】
また、本発明によれば、上述した注射デバイス10を加熱するためのドック40を含むシステムが提供される。ドック40(本明細書では以後、単に「ヒータ40」と呼ぶ)が図6に示されている。ヒータ40は、冷蔵庫から注射デバイス10を取り出した後に注射デバイス10を加熱するように構成されたシステムの独立構成要素である。ヒータ40は、ヒータを水平面に立てるためのベース41と、ヒータ40の内部構成要素を取り囲むハウジング42とを含む。ハウジング42には、デバイス10を受け入れるためのU字形チャネル43またはドッキング面が設けられている。U字形チャネル43は、ベース41と平行に延び、それにより、注射デバイス10は、受け入れられたときに安定して支持される。ヒータ40は、U字形チャネル43を加熱するためのヒータ要素(図示せず)を含む。ヒータ要素は、ハウジング42の内部にある。任意の適切な電子加熱要素を使用することができる。ヒータ要素は、デバイス10がU字形チャネル43に受け入れられるとき、圧力スイッチによって自動的に起動される。代替として、ヒータ40は、使用者がU字形チャネル43に注射デバイス10を配置した後にヒータ40を手動で起動するために、ハウジング42内にスイッチ44を備えることがある。他の実施形態では、ドッキング面はU字形である必要はなく、ヒータ40と注射デバイス10との間の効果的な伝熱を可能にする任意の形状でよいことを理解されたい。たとえば、ドッキング面は、注射デバイス10が受け入れられたときに注射デバイス10を囲むように環状でもよい。
【0075】
以下の表は、サーマルブリッジを形成するために使用することができる例示的な材料およびそれらの熱伝導率を示す。すべての熱伝導率が、室温での対応する材料について記載されている。
【0076】
【表1】
【0077】
本明細書で述べる注射デバイスの実施形態は、薬剤のカートリッジまたは薬剤を充填済みのシリンジのいずれかを受け入れるように構成される。本明細書では、「薬剤容器」という用語は、薬剤のカートリッジと充填済みシリンジとの両方を包含することを意図されている。
【0078】
「薬物」または「薬剤」という用語は、本明細書では1つまたはそれ以上の薬学的に活性な化合物を記述するために使用される。以下に記載されるように、薬物または薬剤は、1つもしくはそれ以上の疾患の治療のために各種タイプの製剤中に少なくとも1つの低分子もしくは高分子またはそれらの組合せを含み得る。例示的な薬学的に活性な化合物としては、低分子、ポリペプチド、ペプチド、およびタンパク質(たとえば、ホルモン、成長因子、抗体、抗体フラグメント、および酵素)、炭水化物および多糖、ならびに核酸、二本鎖または一本鎖DNA(ネイキッドおよびcDNAを含む)、RNA、アンチセンス核酸たとえばアンチセンスDNAおよびRNA、低分子干渉RNA(siRNA)、リボザイム、遺伝子、ならびにオリゴヌクレオチドが挙げられ得る。核酸は、ベクター、プラスミド、またはリポソームなどの分子送達システムに取り込み可能である。これらの薬物の1つまたはそれ以上の混合物も企図される。
【0079】
「薬物送達デバイス」という用語は、薬物が人体または動物体に投薬されるように構成されたあらゆるタイプのデバイスまたはシステムを包含するものである。限定されることなく、薬物送達デバイスは、注射器デバイス(たとえば、シリンジ、ペン型注射器、自動注射器、大容量デバイス、ポンプ、かん流システム、または眼内送達、皮下送達、筋肉内送達、もしくは血管内送達用に構成された他のデバイス)、皮膚パッチ(たとえば、浸透圧性、化学的、マイクロニードル)、吸入器(たとえば、鼻用または肺用)、埋め込み物(たとえば、コーティングされたステント、カプセル)、または胃腸管用の供給システムであり得る。ここに記載される薬物は、針、たとえば小ゲージ針を含む注射器デバイスで特に有用であり得る。
【0080】
薬物または薬剤は、薬物送達デバイスでの使用に適合化された一次パッケージまたは「薬物容器」に包含可能である。薬物容器は、たとえば、1つもしくはそれ以上の薬学的に活性な化合物の収納(たとえば、短期または長期の収納)に好適なチャンバを提供するように構成されたカートリッジ、シリンジ、リザーバ、または他のベッセルであり得る。たとえば、いくつかの場合には、チャンバは、少なくとも1日間(たとえば、1日間~少なくとも30日間)にわたり薬物を収納するように設計可能である。いくつかの場合には、チャンバは、約1カ月~約2年間にわたり薬物を収納するように設計可能である。収納は、室温(たとえば、約20℃)または冷蔵温度(たとえば、約-4℃~約4℃)で行うことが可能である。いくつかの場合には、薬物容器は、薬物製剤の2つ以上の成分(たとえば、薬物と希釈剤、または2つの異なるタイプの薬物)を各チャンバに1つずつ個別に収納するように構成されたデュアルチャンバカートリッジであり得るか、またはそれを含み得る。かかる場合には、デュアルチャンバカートリッジの2つのチャンバは、人体もしくは動物体への投薬前および/または投薬中に薬物もしくは薬剤の2つ以上の成分間の混合が可能になるように構成可能である。たとえば、2つのチャンバは、互いに流体連通するように(たとえば、2つのチャンバ間の導管を介して)かつ所望により投薬前にユーザによる2つの成分の混合が可能になるように構成可能である。代替的または追加的に、2つのチャンバは、人体または動物体への成分の投薬時に混合が可能になるように構成可能である。
【0081】
本発明に記載の薬物送達デバイスおよび薬物は、多くの異なるタイプの障害の治療および/または予防のために使用可能である。例示的な障害としては、たとえば、糖尿病または糖尿病に伴う合併症たとえば糖尿病性網膜症、血栓塞栓障害たとえば深部静脈血栓塞栓症または肺血栓塞栓症が挙げられる。さらなる例示的な障害は、急性冠症候群(ACS)、アンギナ、心筋梗塞、癌、黄斑変性、炎症、枯草熱、アテローム硬化症および/または関節リウマチである。
【0082】
糖尿病または糖尿病に伴う合併症の治療および/または予防のための例示的な薬物としては、インスリン、たとえば、ヒトインスリン、もしくはヒトインスリンアナログもしくは誘導体、グルカゴン様ペプチド(GLP-1)、GLP-1アナログもしくはGLP-1レセプターアゴニスト、もしくはそのアナログもしくは誘導体、ジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP4)阻害剤、もしくはそれらの薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物、またはそれらのいずれかの混合物が挙げられる。本明細書で用いられる場合、「誘導体」という用語は、元の物質と実質的に同様の機能性または活性(たとえば、治療効果)を有するように、構造的に十分同様である任意の物質を指す。
【0083】
例示的なインスリンアナログは、Gly(A21)、Arg(B31)、Arg(B32)ヒトインスリン(インスリングラルギン);Lys(B3)、Glu(B29)ヒトインスリン;Lys(B28)、Pro(B29)ヒトインスリン;Asp(B28)ヒトインスリン;位置B28のプロリンがAsp、Lys、Leu、ValまたはAlaに置き換えられたうえに位置B29のLysがProに置き換えられていてもよいヒトインスリン;Ala(B26)ヒトインスリン;Des(B28-B30)ヒトインスリン;Des(B27)ヒトインスリンおよびDes(B30)ヒトインスリンである。
【0084】
例示的なインスリン誘導体は、たとえば、B29-N-ミリストイル-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-パルミトイル-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-ミリストイルヒトインスリン;B29-N-パルミトイルヒトインスリン;B28-N-ミリストイルLysB28ProB29ヒトインスリン;B28-N-パルミトイル-LysB28ProB29ヒトインスリン;B30-N-ミリストイル-ThrB29LysB30ヒトインスリン;B30-N-パルミトイル-ThrB29LysB30ヒトインスリン;B29-N-(N-パルミトイル-ガンマ-グルタミル)-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-(N-リトコリル-ガンマ-グルタミル)-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-(ω-カルボキシヘプタデカノイル)-des(B30)ヒトインスリンおよびB29-N-(ω-カルボキシヘプタデカノイル)ヒトインスリンである。例示的なGLP-1、GLP-1アナログおよびGLP-1レセプターアゴニストは、たとえば、リキシセナチド/AVE0010/ZP10/リキスミア、エキセナチド/エキセンジン-4/バイエッタ/ビデュリオン/ITCA650/AC-2993(ヒラモンスターの唾液腺により産生される39アミノ酸ペプチド)、リラグルチド/ビクトーザ、セマグルチド、タスポグルチド、シンクリア/アルビグルチド、デュラグルチド、rエキセンジン-4、CJC-1134-PC、PB-1023、TTP-054、ラングレナチド/HM-11260C、CM-3、GLP-1エリゲン、ORMD-0901、NN-9924、NN-9926、NN-9927、ノデキセン、ビアドール-GLP-1、CVX-096、ZYOG-1、ZYD-1、GSK-2374697、DA-3091、MAR-701、MAR709、ZP-2929、ZP-3022、TT-401、BHM-034、MOD-6030、CAM-2036、DA-15864、ARI-2651、ARI-2255、エキセナチド-XTENおよびグルカゴン-Xtenである。
【0085】
例示的なオリゴヌクレオチドは、たとえば、家族性高コレステロール血症の治療のためのコレステロール低下アンチセンス治療剤ミポメルセン/キナムロである。
【0086】
例示的なDPP4阻害剤は、ビダグリプチン、シタグリプチン、デナグリプチン、サキサグリプチン、ベルベリンである。
【0087】
例示的なホルモンとしては、脳下垂体ホルモンもしくは視床下部ホルモンまたはレギュラトリー活性ペプチドおよびそれらのアンタゴニスト、たとえば、ゴナドトロピン(フォリトロピン、ルトロピン、コリオンゴナドトロピン、メノトロピン)、ソマトロピン(Somatropine)(ソマトロピン(Somatropin))、デスモプレシン、テルリプレシン、ゴナドレリン、トリプトレリン、リュープロレリン、ブセレリン、ナファレリン、およびゴセレリンが挙げられる。
【0088】
例示的な多糖としては、グルコサミノグリカン、ヒアルロン酸、ヘパリン、低分子量ヘパリンもしくは超低分子量ヘパリンもしくはそれらの誘導体、もしくは硫酸化多糖たとえばポリ硫酸化形の上述した多糖、および/またはそれらの薬学的に許容可能な塩が挙げられる。ポリ硫酸化低分子量ヘパリンの薬学的に許容可能な塩の例は、エノキサパリンナトリウムである。ヒアルロン酸誘導体の例は、ハイランG-F20/シンビスク、ヒアルロン酸ナトリウムである。
【0089】
本明細書で用いられる「抗体」という用語は、イムノグロブリン分子またはその抗原結合部分を指す。イムノグロブリン分子の抗原結合部分の例としては、抗原への結合能を保持するF(ab)およびF(ab’)2フラグメントが挙げられる。抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、組換え抗体、キメラ抗体、脱免疫化もしくはヒト化抗体、完全ヒト抗体、非ヒト(たとえばネズミ)抗体、または一本鎖抗体であり得る。いくつかの実施形態では、抗体は、エフェクター機能を有するとともに補体を固定可能である。いくつかの実施形態では、抗体は、Fcレセプターへの結合能が低減されているか、または結合能がない。たとえば、抗体は、Fcレセプターへの結合を支援しない、たとえば、Fcレセプター結合領域の突然変異もしくは欠失を有するアイソタイプもしくはサブタイプ、抗体フラグメントまたは突然変異体であり得る。
【0090】
「フラグメント」または「抗体フラグメント」という用語は、完全長抗体ポリペプチドを含まないが依然として抗原に結合可能な完全長抗体ポリペプチドの少なくとも一部分を含む抗体ポリペプチド分子由来のポリペプチド(たとえば、抗体重鎖および/または軽鎖ポリペプチド)を指す。抗体フラグメントは、完全長抗体ポリペプチドの切断部分を含み得るが、この用語は、かかる切断フラグメントに限定されるものではない。本発明に有用な抗体フラグメントとしては、たとえば、Fabフラグメント、F(ab’)2フラグメント、scFv(一本鎖Fv)フラグメント、線状抗体、単一特異的または多重特異的な抗体フラグメント、たとえば、二重特異的、三重特異的、および多重特異的抗体(たとえば、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ)、ミニボディ、キレート化組換え抗体、トリボディまたはビボディ、イントラボディ、ナノボディ、小モジュール免疫医薬(SMIP)、結合ドメインイムノグロブリン融合タンパク質、ラクダ化抗体、およびVHH含有抗体が挙げられる。抗原結合抗体フラグメントの追加の例は当技術分野で公知である。
【0091】
「相補性決定領域」または「CDR」という用語は、特異的抗原認識を媒介する役割を主に担う、重鎖および軽鎖の両方のポリペプチドの可変領域内の短いポリペプチド配列を指す。「フレームワーク領域」という用語は、CDR配列でないかつ抗原結合が可能になるようにCDR配列の適正配置を維持する役割を主に担う、重鎖および軽鎖の両方のポリペプチドの可変領域内のアミノ酸配列を指す。フレームワーク領域自体は、典型的には抗原結合に直接関与しないが、当技術分野で公知のように、ある特定の抗体のフレームワーク領域内のある特定の残基は、抗原結合に直接関与し得るか、またはCDR内の1つもしくはそれ以上のアミノ酸と抗原との相互作用能に影響を及ぼし得る。
【0092】
例示的な抗体は、抗PCSK-9 mAb(たとえば、アリロクマブ)、抗IL-6 mAb(たとえば、サリルマブ)、および抗IL-4 mAb(たとえば、デュピルマブ)である。
【0093】
本明細書に記載の化合物は、(a)化合物またはその薬学的に許容可能な塩、および(b)薬学的に許容可能な担体を含む医薬製剤に使用可能である。化合物は、1つもしくはそれ以上の他の活性医薬成分を含む医薬製剤、または本化合物もしくはそれらの薬学的に許容可能な塩が唯一の活性成分である医薬製剤にも使用可能である。したがって、本開示の医薬製剤は、本明細書に記載の化合物と薬学的に許容可能な担体を混合することによって作られる任意の製剤を包含する。
【0094】
本明細書に記載のいずれの薬物の薬学的に許容可能な塩も、薬物送達デバイスで使用することが企図される。薬学的に許容可能な塩は、たとえば、酸付加塩および塩基性塩である。酸付加塩は、たとえば、HClまたはHBr塩である。塩基性塩は、たとえば、アルカリもしくはアルカリ土類金属、たとえば、Na+、もしくはK+、またはCa2+、またはアンモニウムイオンN+(R1)(R2)(R3)(R4)、(式中、R1からR4は互いに独立して:水素、場合により置換されたC1~C6-アルキル基、場合により置換されたC2~C6-アルケニル基、場合により置換されたC6~C10-アリール基、または場合により置換されたC6~C10-ヘテロアリール基を意味する)から選択されるカチオンを有する塩である。薬学的に許容可能な塩のさらなる例は当業者には公知である。
【0095】
薬学的に許容可能な溶媒和物は、たとえば、水和物またはメタノラート(methanolate)もしくはエタノラート(ethanolate)などのアルカノラート(alkanolate)である。
【0096】
本発明の完全な範囲および精神から逸脱することなく、本明細書で述べる物質、製剤、装置、方法、システム、および実施形態の様々な構成要素の修正(追加および/または除去)を施すことができることを当業者は理解されよう。本発明は、そのような修正およびそのあらゆる均等形態を包含する。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6