(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-06
(45)【発行日】2024-11-14
(54)【発明の名称】ホウ素含有官能基を有する水添共役ジエン変性重合体を含む水添重合体組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08C 19/26 20060101AFI20241107BHJP
C08L 15/00 20060101ALI20241107BHJP
C08L 29/04 20060101ALI20241107BHJP
C08C 19/02 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
C08C19/26
C08L15/00
C08L29/04 C
C08C19/02
(21)【出願番号】P 2022580636
(86)(22)【出願日】2022-02-08
(86)【国際出願番号】 JP2022004954
(87)【国際公開番号】W WO2022172925
(87)【国際公開日】2022-08-18
【審査請求日】2023-08-03
(31)【優先権主張番号】P 2021021143
(32)【優先日】2021-02-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福原 忠仁
(72)【発明者】
【氏名】稲富 敦
(72)【発明者】
【氏名】唐木田 拓朗
(72)【発明者】
【氏名】太田 さとみ
(72)【発明者】
【氏名】俊成 謙太
(72)【発明者】
【氏名】藤田 明士
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-176788(JP,A)
【文献】国際公開第2014/088092(WO,A1)
【文献】特開2017-137397(JP,A)
【文献】特開平07-025918(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0326161(US,A1)
【文献】国際公開第2022/044633(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08C 19/00-19/44
C08F 6/00-246/00、301/00
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン重合可能な活性金属又は活性金属化合物存在下で、共役ジエンを含む単量体をアニオン重合することで、活性末端重合体(Z)を製造する工程(1)と、
工程(1)で得られた活性末端重合体(Z)と
、ホウ酸化合物
である下記式(XII)で表されるホウ酸エステルを反応させてホウ素含有官能基を有する未水添共役ジエン変性重合体を得る工程(2)と、
工程(2)で得られた未水添共役ジエン変性重合体に含有される共役ジエン単位に含まれる少なくとも一部の炭素-炭素二重結合を水添する工程(3)とを含む、ホウ素含有官能基を有する水添共役ジエン変性重合体を含む水添重合体組成物の製造方法。
【化1】
(
上記式(XII)中、R
16
、R
17
及びR
18
はイソプロピル基又はn-ブチル基を示す。)
【請求項2】
前記工程(2)において、極性化合物を前記ホウ酸化合物に対して混合した後、活性末端重合体(Z)に添加して反応させる、請求項1に記載の水添重合体組成物の製造方法。
【請求項3】
下記式(II)で示されるボロン酸基を含む水添共役ジエン変性重合体、下記式(III)で示されるボロン酸エステル基を含む水添共役ジエン変性重合体、及び下記式(IV)で示されるボロン酸塩基を含む水添共役ジエン変性重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種のボロン酸系水添共役ジエン変性重合体(A)65~99質量%と、下記式(V)又は(VI)で示されるボリン酸基を含む水添共役ジエン変性重合体、下記式(VII)又は(VIII)で示されるボリン酸エステル基を含む水添共役ジエン変性重合体、及び下記式(IX)又は(X)で示されるボリン酸塩基を含む水添共役ジエン変性重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種のボリン酸系水添共役ジエン変性重合体(B)1~35質量%を含む、水添重合体組成物。
【化2】
(上記式中、P
1、P
2及びP
3は、水添共役ジエン単位を含む重合体鎖を示し、R
1及びR
2は、それぞれ独立して、
炭素数1~12のアルキル基かつTaftの立体パラメーターEs値が-0.30以下である基を示し、R
3、R
4及びR
5は、それぞれ独立して、
炭素数1~12のアルキル基かつTaftの立体パラメーターEs値が-0.30以下である基を示す。Mは、アルカリ金属1個、又はアルカリ土類金属1/2個を示す。)
【化3】
(上記式中、P
4、P
5、P
6、P
7、P
8、P
9、P
10、P
11及びP
12は、水添共役ジエン単位を含む重合体鎖を示し、R
6、R
7、R
8及びR
9は、それぞれ独立に、
炭素数1~12のアルキル基かつTaftの立体パラメーターEs値が-0.30以下である基を示し、R
10及びR
11は、それぞれ独立して、
炭素数1~12のアルキル基かつTaftの立体パラメーターEs値が-0.30以下である基を示し、R
12は
炭素数1~12のアルキル基かつTaftの立体パラメーターEs値が-0.30以下である基を示し、R
13及びR
14は、それぞれ独立して、
炭素数1~12のアルキル基かつTaftの立体パラメーターEs値が-0.30以下である基を示し、Mはアルカリ金属1個、又はアルカリ土類金属1/2個を示す。)
【請求項4】
上記R
1
及びR
2
と、上記R
3
、R
4
及びR
5
と、上記R
6
、R
7
、R
8
及びR
9
と、上記R
10
及びR
11
と、上記R
12
と、上記R
13
及びR
14
とが、それぞれ独立に、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、i-ブチル基、およびシクロヘキシル基からなる群より選ばれる少なくとも1つの基である、請求項3に記載の水添重合体組成物。
【請求項5】
上記R
1
及びR
2
と、上記R
3
、R
4
及びR
5
と、上記R
6
、R
7
、R
8
及びR
9
と、上記R
10
及びR
11
と、上記R
12
と、上記R
13
及びR
14
とが、それぞれ独立に、イソプロピル基、又はn-ブチル基である、請求項4に記載の水添重合体組成物。
【請求項6】
ビニルアルコール系重合体と請求項
3~5のいずれか1項に記載の水添重合体組成物を含む樹脂組成物。
【請求項7】
前記ビニルアルコール系重合体がエチレン-ビニルアルコール共重合体である請求項
6に記載の樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホウ素含有官能基を有する水添共役ジエン変性重合体を含む水添重合体組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アニオン重合によって末端に様々な官能基を有する重合体を合成する方法が研究されている。例えば、重合体末端へのホウ素含有官能基の一例であるボロン酸基を導入する方法が検討されており、ホウ素含有官能基であるボロン酸基又はボリン酸基を末端に有する重合体はエチレン-ビニルアルコール共重合体等の側鎖に水酸基を有する熱可塑性樹脂の相容化剤等の樹脂改質剤として有用であることが明らかにされている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、具体的には、共役ジエンに由来する構造単位(以下、「共役ジエン単位」ともいう)を有するアニオン重合の活性末端重合体の末端とホウ酸トリメチルを反応させた後に共役ジエン単位に含まれる少なくとも一部の炭素-炭素二重結合を水素添加(以下、「水添」ともいう)することで、末端にボロン酸を有する水添共役ジエン変性重合体を得ることを検討している。しかしながら、本発明者らの検討によれば、特許文献1の製造法により末端にボロン酸を有する水添共役ジエン変性重合体は得られるものの、その製造法では、ホウ酸エステルの反応性が十分ではなく、ボロン酸基を有しない未変性重合体が多く含まれ得ることが判明した。そのため、特許文献1で得られた重合体を用いて、樹脂改質などを行ったとしても、ボロン酸基を有する重合体の割合が少ないため、ボロン酸基と反応性を有する基を有する重合体と反応することができない重合体が数多く存在し、グラフト効率が十分ではない、樹脂中での分散性が不足する、ブリードアウト成分が増加するなどの問題が生じる場合があった。
【0005】
本発明は、上記の実情に鑑みてなされたものであり、極性材料の改質や無機材料の分散など種々の材料の改質に好適なホウ素含有官能基を有する水添共役ジエン変性重合体が高収率で得られる製造方法、及び種々の極性官能基に対する高い反応性と熱可塑性重合体、典型的にはビニルアルコール系重合体中での優れた分散性を有するホウ素含有官能基を有する水添共役ジエン変性重合体を含む水添重合体組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らが鋭意検討を行った結果、ホウ素含有官能基を有する水添共役ジエン変性重合体を製造する工程において、所定の共役ジエン単位を含有するアニオン重合活性末端重合体と、所定のパラメーターを満足するホウ酸化合物を使用して官能基変性を行い、さらに共役ジエン単位に含まれる少なくとも一部の炭素-炭素二重結合を水添することによって、高収率で所望の水添共役ジエン変性重合体が得られることを見出した。さらに、所定のボロン酸エステル基を含む水添共役ジエン変性重合体と所定のボリン酸基を含む水添共役ジエン変性重合体とを含む、特定の水添重合体組成物が、極性官能基への反応性及び熱可塑性重合体、典型的にはビニルアルコール系重合体中での優れた分散性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下の[1]~[5]を提供するものである。
[1]アニオン重合可能な活性金属又は活性金属化合物存在下で、共役ジエンを含む単量体をアニオン重合することで、活性末端重合体(Z)を製造する工程(1)と、工程(1)で得られた活性末端重合体(Z)と、下記式(I)で表される部分構造を少なくとも2つ以上有し、かつ、該部分構造に含まれる酸素原子と結合するRの少なくとも1つのTaftの立体パラメーターEs値が-0.30以下である、ホウ酸化合物を反応させてホウ素含有官能基を有する未水添共役ジエン変性重合体を得る工程(2)と、工程(2)で得られた未水添共役ジエン変性重合体に含有される共役ジエン単位に含まれる少なくとも一部の炭素-炭素二重結合を水添する工程(3)とを含む、ホウ素含有官能基を有する水添共役ジエン変性重合体を含む水添重合体組成物の製造方法。
B-O-R (I)
(式(I)中、Bはホウ素原子、Oは酸素原子、Rは有機基を示す。)
[2]前記工程(2)において、極性化合物を前記ホウ酸化合物に対して混合した後、活性末端重合体(Z)に添加して反応させる、[1]に記載の水添重合体組成物の製造方法。
[3]下記式(II)で示されるボロン酸基を含む水添共役ジエン変性重合体、下記式(III)で示されるボロン酸エステル基を含む水添共役ジエン変性重合体、及び下記式(IV)で示されるボロン酸塩基を含む水添共役ジエン変性重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種のボロン酸系水添共役ジエン変性重合体(A)65~99質量%と、下記式(V)又は(VI)で示されるボリン酸基を含む水添共役ジエン変性重合体、下記式(VII)又は(VIII)で示されるボリン酸エステル基を含む水添共役ジエン変性重合体、及び下記式(IX)又は(X)で示されるボリン酸塩基を含む水添共役ジエン変性重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種のボリン酸系水添共役ジエン変性重合体(B)1~35質量%を含む、水添重合体組成物。
【0008】
【化1】
(上記式中、P
1、P
2及びP
3は、水添共役ジエン単位を含む重合体鎖を示し、R
1及びR
2は、それぞれ独立して、水素原子、又は、炭素数1~12のアルキル基を示し、R
1及びR
2のうち、少なくとも1つは、炭素数1~12のアルキル基であり、あるいはR
1とR
2は結合して炭素数2~24のアルキレン鎖を形成しており、R
3、R
4及びR
5は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~12のアルキル基、又は、水添共役ジエン単位を含む重合体鎖を示し、R
3、R
4及びR
5のうち少なくとも1つは、炭素数1~12のアルキル基、又は水添共役ジエン単位を含む重合体鎖であり、あるいは、R
3とR
4、R
3とR
5、又はR
4とR
5は、結合して炭素数2~24のアルキレン鎖を形成していてもよく、R
3、R
4及びR
5が結合して炭素数3~36の3価の飽和炭化水素鎖を形成していてもよい。Mはアルカリ金属1個、又はアルカリ土類金属1/2個を示す。)
【0009】
【化2】
(上記式中、P
4、P
5、P
6、P
7、P
8、P
9、P
10、P
11及びP
12は、水添共役ジエン単位を含む重合体鎖を示し、R
6、R
7、R
8及びR
9は、それぞれ独立に、炭素数1~12のアルキル基を示し、R
10及びR
11は、それぞれ独立して、水素原子、又は、炭素数1~12のアルキル基であり、R
10及びR
11のうち、少なくとも1つは、炭素数1~12のアルキル基であり、あるいはR
10とR
11は結合して炭素数2~24のアルキレン鎖を形成しており、R
12は炭素数1~12のアルキル基を示し、R
13及びR
14は、それぞれ独立して、水素原子、又は、炭素数1~12のアルキル基であり、R
13及びR
14のうち、少なくとも1つは、炭素数1~12のアルキル基であり、あるいはR
13及びR
14は結合して炭素数2~24のアルキレン鎖を形成しており、Mはアルカリ金属1個、又はアルカリ土類金属1/2個を示す。)
[4]ビニルアルコール系重合体と[3]に記載の水添重合体組成物を含む樹脂組成物。
[5]前記ビニルアルコール系重合体がエチレン-ビニルアルコール共重合体である[4]に記載の樹脂組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、極性官能基への高い反応性と熱可塑性重合体、典型的にはビニルアルコール系重合体中での優れた分散性を有するボロン酸エステル基を含む水添共役ジエン変性重合体とボリン酸基を含む水添変性共役ジエン重合体とを含む水添重合体組成物及び、該水添重合体組成物の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の水添重合体組成物は、下記式(II)で示されるボロン酸基を含む水添共役ジエン変性重合体、下記式(III)で示されるボロン酸エステル基を含む水添共役ジエン変性重合体、及び下記式(IV)で示されるボロン酸塩基を含む水添共役ジエン変性重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種のボロン酸系水添共役ジエン変性重合体(A)65~99質量%と、下記式(V)又は(VI)で示されるボリン酸基を含む水添共役ジエン変性重合体、下記式(VII)又は(VIII)で示されるボリン酸エステル基を含む水添共役ジエン変性重合体、及び下記式(IX)又は(X)で示されるボリン酸塩基を含む水添共役ジエン変性重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種のボリン酸系水添共役ジエン変性重合体(B)1~35質量%を含む。
【0012】
本発明においてボロン酸基を含む水添共役ジエン変性重合体とは下記式(II)で示されるものである。
【0013】
【0014】
式(II)中、P1は水添共役ジエン単位を含む重合体鎖を示す。
【0015】
本発明においてボロン酸エステル基を含む水添共役ジエン変性重合体とは下記式(III)で示されるものである。
【0016】
【0017】
式(III)中、P2は水添共役ジエン単位を含む重合体鎖を示し、R1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子、又は、炭素数1~12のアルキル基を示し、R1及びR2のうち、少なくとも1つは、炭素数1~12のアルキル基であり、あるいはR1とR2は結合して炭素数2~24のアルキレン鎖を形成している。
上記R1及びR2のうち、少なくとも1つは、Taftの立体パラメーターEs値が-0.30以下であることが好ましく、-3.00~-0.30であることがより好ましく、-1.55~-0.39であることがさらに好ましい。また、R1及びR2のすべてが、上記Es値を満たすことが好ましい一態様である。上記R1及びR2のうち少なくとも1つは、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、i-ブチル基、シクロヘキシル基であることが好ましく、イソプロピル基、n-ブチル基であることがより好ましく、イソプロピル基であることがさらに好ましい。また、上記R1及びR2のすべてが、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、i-ブチル基、又はシクロヘキシル基であることが好ましく、イソプロピル基、又はn-ブチル基であることがより好ましく、イソプロピル基であることがさらに好ましい。なお、Taftの立体パラメーターEs値については、以下、水添重合体組成物の好適製造方法の工程(2)の部分で説明する。
【0018】
本発明においてボロン酸塩基を含む水添共役ジエン変性重合体とは下記式(IV)で示されるものである。
【0019】
【0020】
式(IV)中、P3は水添共役ジエン単位を含む重合体鎖を示し、R3、R4及びR5は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~12のアルキル基、又は、水添共役ジエン単位を含む重合体鎖を示し、R3、R4及びR5のうち少なくとも1つは、炭素数1~12のアルキル基、又は水添共役ジエン単位を含む重合体鎖であり、あるいは、R3とR4、R3とR5、又はR4とR5は、結合して炭素数2~24のアルキレン鎖を形成していてもよく、R3、R4及びR5が結合して炭素数3~36の3価の飽和炭化水素鎖を形成していてもよい。
上記R3、R4及びR5のうち、少なくとも1つは、Taftの立体パラメーターEs値が-0.30以下であることが好ましく、-3.00~-0.30であることがより好ましく、-1.55~-0.39であることがさらに好ましい。また、R3、R4及びR5のすべてが、上記Es値を満たすことが好ましい一態様である。上記R3、R4及びR5のうち少なくとも1つは、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、i-ブチル基、シクロヘキシル基であることが好ましく、イソプロピル基、n-ブチル基であることがより好ましく、イソプロピル基であることがさらに好ましい。また、上記R3、R4及びR5のすべてが、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、i-ブチル基、又はシクロヘキシル基であることが好ましく、イソプロピル基、又はn-ブチル基であることがより好ましく、イソプロピル基であることがさらに好ましい。Mはアルカリ金属1個、又はアルカリ土類金属1/2個であり、リチウム、ナトリウム、カリウムであることが好ましく、リチウムであることがより好ましい。なお、アルカリ金属1個とは、式(IV)中、括弧で示される1価のアニオン基1個に対して、アルカリ金属のカチオンは1価であるので、該アニオン基の価数に対応して、アルカリ金属は1個という意味である。同様に、アルカリ土類金属1/2個とは、式(IV)中、括弧で示される1価のアニオン基1個に対して、アルカリ土類金属のカチオンの価数は2価であるので、該アニオン基の価数に対応して、アルカリ土類金属は1/2個という意味である。
【0021】
本発明においてボリン酸基を含む水添共役ジエン変性重合体とは下記式(V)もしくは式(VI)で示されるものである。
【0022】
【0023】
式(V)中、P4及びP5は水添共役ジエン単位を含む重合体鎖を示す。
【0024】
【0025】
式(VI)中、P6は水添共役ジエン単位を含む重合体鎖を示し、R6は炭素数1~12のアルキル基を示す。上記R6は、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、i-ブチル基、シクロヘキシル基であることが好ましく、イソプロピル基、n-ブチル基であることがより好ましく、イソプロピル基であることがさらに好ましい。
【0026】
本発明においてボリン酸エステル基を含む水添共役ジエン変性重合体とは下記式(VII)又は式(VIII)で示されるものである。
【0027】
【0028】
式(VII)中、P7及びP8は水添共役ジエン単位を含む重合体鎖を示し、R7は炭素数1~12のアルキル基を示す。上記R7は、Taftの立体パラメーターEs値が-0.30以下であることが好ましく、-3.00~-0.30であることがより好ましく、-1.55~-0.39であることがさらに好ましい。上記R7は、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、i-ブチル基、シクロヘキシル基であることが好ましく、イソプロピル基、n-ブチル基であることがより好ましく、イソプロピル基であることがさらに好ましい。
【0029】
【0030】
式(VIII)中、P9は水添共役ジエン単位を含む重合体鎖を示し、R8は、炭素数1~12のアルキル基であり、R9は、炭素数1~12のアルキル基である。上記R9は、Taftの立体パラメーターEs値が-0.30以下であることが好ましく、-3.00~-0.30であることがより好ましく、-1.55~-0.39であることがさらに好ましい。上記R9は、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、i-ブチル基、シクロヘキシル基であることが好ましく、イソプロピル基、n-ブチル基であることがより好ましく、イソプロピル基であることがさらに好ましい。
上記R8は、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、i-ブチル基、シクロヘキシル基であることが好ましく、イソプロピル基、n-ブチル基であることがより好ましく、イソプロピル基であることがさらに好ましい。
【0031】
本発明においてボリン酸塩基を含む水添共役ジエン変性重合体とは下記式(IX)又は式(X)で示されるものである。
【0032】
【0033】
式(IX)中、P10及びP11は水添共役ジエン単位を含む重合体鎖を示し、R10及びR11は、それぞれ独立して、水素原子、又は、炭素数1~12のアルキル基であり、R10及びR11のうち、少なくとも1つは、炭素数1~12のアルキル基であり、あるいはR10とR11は結合して炭素数2~24のアルキレン鎖を形成しており、Mはアルカリ金属1個、又はアルカリ土類金属1/2個を示す。
上記R10及びR11のうち、少なくとも1つは、Taftの立体パラメーターEs値が-0.30以下であることが好ましく、-3.00~-0.30であることがより好ましく、-1.55~-0.39であることがさらに好ましい。また、R10及びR11のすべてが、上記Es値を満たすことが好ましい一態様である。上記R10及びR11のうち少なくとも1つは、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、i-ブチル基、シクロヘキシル基であることが好ましく、イソプロピル基、n-ブチル基であることがより好ましく、イソプロピル基であることがさらに好ましい。また、上記R10及びR11のすべてが、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、i-ブチル基、又はシクロヘキシル基であることが好ましく、イソプロピル基、又はn-ブチル基であることがより好ましく、イソプロピル基であることがさらに好ましい。Mはアルカリ金属1個、又はアルカリ土類金属1/2個であり、リチウム、ナトリウム、カリウムであることが好ましく、リチウムであることがより好ましい。
【0034】
【0035】
式(X)中、P12は水添共役ジエン単位を含む重合体鎖を示し、R12は炭素数1~12のアルキル基を示し、R13及びR14は、それぞれ独立して、水素原子、又は、炭素数1~12のアルキル基であり、R13及びR14のうち、少なくとも1つは、炭素数1~12のアルキル基であり、あるいはR13及びR14は結合して炭素数2~24のアルキレン鎖を形成しており、Mはアルカリ金属1個、又はアルカリ土類金属1/2個を示す。
上記R13及びR14のうち、少なくとも1つは、Taftの立体パラメーターEs値が-0.30以下であることが好ましく、-3.00~-0.30であることがより好ましく、-1.55~-0.39であることがさらに好ましい。また、R13及びR14のすべてが、上記Es値を満たすことが好ましい一態様である。上記R13及びR14のうち少なくとも1つは、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、i-ブチル基、シクロヘキシル基であることが好ましく、イソプロピル基、n-ブチル基であることがより好ましく、イソプロピル基であることがさらに好ましい。また、上記R13及びR14のすべてが、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、i-ブチル基、又はシクロヘキシル基であることが好ましく、イソプロピル基、又はn-ブチル基であることがより好ましく、イソプロピル基であることがさらに好ましい。
上記R12は、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、i-ブチル基、シクロヘキシル基であることが好ましく、イソプロピル基、n-ブチル基であることがより好ましく、イソプロピル基であることがさらに好ましい。上記Mは、リチウム、ナトリウム、カリウムであることが好ましく、リチウムであることがより好ましい。
【0036】
上記式(II)~(X)には、上述のとおり、P1~P12で表される水添共役ジエン単位を含む重合体鎖が含まれる。
【0037】
P1~P12に含まれる水添共役ジエン単位は、共役ジエンを重合して共役ジエン単位を含む重合体鎖を得た後、その重合体鎖に含まれる共役ジエン単位の炭素-炭素二重結合を水素添加(水添)することによって得られる。その共役ジエンとしては例えば、ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチルブタジエン、2-フェニルブタジエン、1,3-ペンタジエン、2-メチル-1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、1,3-オクタジエン、1,3-シクロヘキサジエン、2-メチル-1,3-オクタジエン、1,3,7-オクタトリエン、ミルセン、ファルネセン、及びクロロプレン等が挙げられる。これら共役ジエンの中でも、ブタジエン及びイソプレンが好ましく、ブタジエンがより好ましい。上記共役ジエンは1種単独で用いられても、2種以上併用されてもよい。水添の詳細については、以下、製造方法の部分で述べる。
【0038】
P1~P12には、水添共役ジエン単位以外の未水添の共役ジエン単位、他の単量体に由来する構造単位が含まれていてもよい。他の単量体に由来する構造単位の好ましい一形態は、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位(以下、「芳香族ビニル化合物単位」ともいう)である。
P1~P12に含まれ得る芳香族ビニル化合物単位となる、芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、4-プロピルスチレン、4-t-ブチルスチレン、4-シクロヘキシルスチレン、4-ドデシルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、2,4-ジイソプロピルスチレン、2,4,6-トリメチルスチレン、2-エチル-4-ベンジルスチレン、4-(フェニルブチル)スチレン、1-ビニルナフタレン、2-ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、N,N-ジエチル-4-アミノエチルスチレン、ビニルピリジン、4-メトキシスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、及びジビニルベンゼンなどが挙げられる。これら芳香族ビニル化合物の中でも、スチレン、α-メチルスチレン、及び4-メチルスチレンが好ましい。上記芳香族ビニル化合物単位となる芳香族ビニル化合物は1種単独で用いられても、2種以上併用されてもよい。
【0039】
P1~P12となる重合体鎖を構成する全単量体単位のうち、30質量%以上がブタジエン及びイソプレンからなる群より選ばれる少なくとも1つの共役ジエンに由来する未水添の共役ジエン単位又はその共役ジエン単位を水添して得られる水添共役ジエン単位であることが好ましい一態様である。ブタジエン及びイソプレンからなる群より選ばれる少なくとも1つの単量体に由来する共役ジエン単位及びその共役ジエンの水添共役ジエン単位の合計含有量は、P1~P12となる重合体鎖の全単量体単位に対して30~100質量%であることが好ましく、40~100質量%であることがより好ましく、50~100質量%であることがさらに好ましく、60~100質量%であることがよりさらに好ましく、70~100質量%であることが特に好ましい。
【0040】
P1~P12となる重合体鎖を構成する全単量体単位のうち、ブタジエン及びイソプレンからなる群より選ばれる少なくとも1つの共役ジエンに由来する未水添の共役ジエン単位及びその共役ジエンの水添共役ジエン単位以外の他の単量体単位の含有量は、70質量%以下であることが好ましく、60質量%以下がより好ましい。
【0041】
P1~P12となる重合体鎖としては、少なくとも1つの共役ジエンの単独重合体鎖若しくは共重合体鎖(ランダム共重合体鎖、ブロック共重合体鎖)又は共役ジエンと該共役ジエン以外の単量体の共重合体鎖(ランダム共重合体鎖、ブロック共重合体鎖)に含有される共役ジエン単位に含まれる少なくとも一部の炭素-炭素二重結合を水添した重合体鎖が挙げられる。
【0042】
P1~P12となる重合体鎖の重量平均分子量(Mw)は1,000以上1,000,000以下であることが好ましい一態様であり、2,000以上500,000以下であることがより好ましく、3,000以上100,000以下であることがさらに好ましい。また、本発明の水添重合体組成物の重量平均分子量(Mw)も上記範囲にあることが好ましい。上記重合体鎖のMwが前記範囲内であると、製造時の工程通過性に優れ、経済性が良好となる傾向にある。なお、本発明において、特に断りがない限り、Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定から求めた標準ポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0043】
P1~P12となる重合体鎖の分子量分布(Mw/Mn)は1.0~20.0が好ましく、1.0~10.0がより好ましく、1.0~5.0がさらに好ましく、1.0~2.0がよりさらに好ましく、1.0~1.5が特に好ましく、1.0~1.2がより特に好ましい。Mw/Mnが前記範囲にあると、得られる水添共役ジエン変性重合体の粘度のばらつきが小さくなるため好ましい。また、本発明の水添重合体組成物の分子量分布(Mw/Mn)も粘度のばらつきが小さくなる点から、上記範囲にあることが好ましい。なお、本発明において、Mnは数平均分子量を意味し、MnはGPCの測定から求めた標準ポリスチレン換算の数平均分子量である。また、分子量分布(Mw/Mn)は、GPCの測定により求めた標準ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)を意味する。
【0044】
P1~P12となる重合体鎖のビニル含量は特に制限されないが、0.01~90モル%であることが好ましい一態様であり、0.1~80モル%であることがより好ましく、1~80モル%であることがさらに好ましい。また、本発明の水添重合体組成物のビニル含量も上記範囲にあることが好ましい。本発明において、「ビニル含量」とは、水添前の重合体鎖又は重合体に含まれる、共役ジエン単位の合計100モル%中、1,2-結合、3,4-結合(ファルネセン以外の場合)、及び3,13-結合(ファルネセンの場合)で結合をしている共役ジエン単位(1,4-結合(ファルネセン以外の場合)及び1,13-結合(ファルネセンの場合)以外で結合をしている共役ジエン単位)の合計モル%を意味する。ビニル含量は、1H-NMRを用いて1,2-結合、3,4-結合(ファルネセン以外の場合)、及び3,13-結合(ファルネセンの場合)で結合をしている共役ジエン単位由来のピークと1,4-結合(ファルネセン以外の場合)及び1,13-結合(ファルネセンの場合)で結合をしている共役ジエン単位に由来するピークの面積比から算出する。
【0045】
P1~P12となる重合体鎖の重合体のビニル含量は目的に応じて設計することが可能であり、例えば、ビニル含量が70モル%未満であると、重合体のガラス転移温度(Tg)が低くなり、得られる水添重合体組成物の流動性や低温特性が優れる傾向がある。得られる水添重合体組成物の流動性及び/又は低温特性が重視される実施態様では、P1~P12となる重合体鎖の重合体のビニル含量は1~60モル%であることが好ましく、2~55モル%であることがより好ましく、3~50モル%であることがさらに好ましい。また、本発明の水添重合体組成物は、好ましい一態様として、前記水添重合体組成物以外の他の重合体(β)と混合して用いられ得るが(詳細は後述する)、その場合、他の重合体(β)はより好ましくは熱可塑性重合体(β1)である。前記(β1)として、例えばビニルアルコール系重合体及びポリプロピレンを含む場合などには、水添重合体組成物とこれら熱可塑性重合体(β1)との分散性をより良好にする観点からは、P1~P12となる重合体鎖の重合体のビニル含量は45~90モル%であることが好ましく、50~85モル%であることがより好ましく、55~80モル%であることがさらに好ましい。
【0046】
なお、上記ビニル含量は、例えば、後述する方法により、本発明の水添重合体組成物を製造する場合には、工程(1)の際に使用する溶媒の種類、必要に応じて使用される極性化合物、重合温度などを制御することにより所望の値とすることができる。
【0047】
P1~P12となる重合体鎖のガラス転移温度(Tg)は、水添ブタジエン単位、水添イソプレン単位及び水添ブタジエン単位、水添イソプレン単位以外の水添共役ジエン単位のビニル含量、水添共役ジエン単位の種類、水添ジエン以外の単量体に由来する構造単位の含量などによって変化し得るが、-150~50℃が好ましく、-130~50℃がより好ましく、-130~30℃がさらに好ましい。Tgが上記範囲であると、例えば、粘度が高くなるのを抑えることができ取り扱いが容易になる。また、本発明の重合体組成物のガラス転移温度(Tg)も取り扱いの容易さの点から、上記範囲にあることが好ましい。なお、本発明において、Tgは示差走査熱量測定(DSC)測定により求めた、DDSC(DSCの微分曲線)のピークトップの値である。
【0048】
本発明の水添重合体組成物は、その組成物に含まれる全重合体の質量に対して、上記式(II)で示されるボロン酸基を含む水添共役ジエン変性重合体、上記式(III)で示されるボロン酸エステル基を含む水添共役ジエン変性重合体、及び下記式(IV)で示されるボロン酸塩基を含む水添共役ジエン変性重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種のボロン酸系水添共役ジエン変性重合体(A)65~99質量%と、上記式(V)又は(VI)で示されるボリン酸基を含む水添共役ジエン変性重合体、上記式(VII)又は(VIII)で示されるボリン酸エステル基を含む水添共役ジエン変性重合体、及び上記式(IX)又は(X)で示されるボリン酸塩基を含む水添共役ジエン変性重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種のボリン酸系水添共役ジエン変性重合体(B)1~35質量%を含むことに特徴がある。
本発明の水添重合体組成物に、上記割合で、ボロン酸系水添共役ジエン変性重合体(A)とボリン酸系水添共役ジエン変性重合体(B)とが含まれることにより、極性官能基への反応性及び熱可塑性重合体、典型的にはビニルアルコール系重合体中での分散性を高めることができる。
【0049】
なお、本発明の水添重合体組成物は、典型的には、ホウ素含有官能基によって変性された重合体と、この官能基変性によっても変性されない未変性の重合体の混合物を意味する。したがって、本発明の水添重合体組成物は、ホウ素含有官能基によって変性された重合体と、官能基変性によっても変性されない未変性の重合体の混合物のみからなることが好ましい一態様である。
【0050】
水添重合体組成物中のボロン酸系水添共役ジエン変性重合体(A)及びボリン酸系水添共役ジエン変性重合体(B)の含有量は、水添重合体組成物中のホウ素濃度と11B-NMRスペクトルから求められる。ホウ素濃度を求める方法としては、ICP発光分析により求めることができ、11B―NMRスペクトルでのシグナルの面積比から(A)及び(B)の含有量が算出される。また、ホウ酸エステル化合物を用いて、水添重合体組成物を得る場合、(B)が(A)よりも分子量が大きくなることから、GPCチャートの面積比からも(A)及び(B)の含有量が算出される。ピークの分離度が低い場合、ガウス分布ピークとしてピークを分離して面積比を算出する。
【0051】
熱可塑性重合体、典型的にはビニルアルコール系重合体中での優れた分散性をより高める観点からは、本発明の水添重合体組成物中のボロン酸系水添共役ジエン変性重合体(A)及びボリン酸系水添共役ジエン変性重合体(B)の含有割合は、ボロン酸系水添共役ジエン変性重合体(A)65~99質量%及びボリン酸系水添共役ジエン変性重合体(B)1~35質量%であることが好ましく、ボロン酸系水添共役ジエン変性重合体(A)80~99質量%及びボリン酸系水添共役ジエン変性重合体(B)1~20質量%であることがより好ましい。
【0052】
本発明の水添重合体組成物中のボロン酸系水添共役ジエン変性重合体(A)及びボリン酸系水添共役ジエン変性重合体(B)の含有割合は、例えば、後述する水添共役ジエン変性重合体の製造方法において、Taftの立体パラメーターEs値、反応温度、極性化合物量等により制御することができる。
【0053】
ボロン酸系水添共役ジエン変性重合体(A)のMwは2,000以上200,000以下であることが好ましく、4,000以上100,000以下であることがより好ましい。
ボリン酸系水添共役ジエン変性重合体(B)のMwは4,000以上400,000以下であることが好ましく、8,000以上200,000以下であることがより好ましい。
【0054】
また、本発明の水添重合体組成物は、水添重合体組成物の反応性を損なわない範囲で、下記式(XI)で示されるホウ素架橋三量体(C)及び、ホウ素含有官能基を有しない未変性重合体(D)のうち少なくとも1つをさらに含んでいてもよい。前記水添重合体組成物中の(C)及び(D)の含有量は、それぞれ20質量%以下であることが好ましい。
【0055】
【0056】
上記式(XI)中、P13、P14及びP15は、P1~P12と同様に水添共役ジエン単位を含む重合体鎖を示す。
【0057】
水添重合体組成物中の、ホウ素含有官能基を有する水添共役ジエン変性重合体(典型的にはホウ素含有官能基を末端に有する水添共役ジエン変性重合体)の含有量は、その組成物に含まれる全重合体の質量に対して、60質量%以上であることが好ましく、65質量%以上であることがより好ましい。
【0058】
水添重合体組成物中のホウ素含有量は、ICP(高周波誘導結合プラズマ)発光分析によって水添重合体組成物の重量あたりのホウ素含有量を定量することで求めることができる。
【0059】
極性官能基への反応性及び熱可塑性重合体、典型的にはビニルアルコール系重合体中での優れた分散性の観点からは、重合体組成物中のホウ素含有量は、0.001~5質量%であることが好ましく、0.003~2質量%であることがより好ましい。
【0060】
本発明の水添重合体組成物に含まれる、ボロン酸系水添共役ジエン変性重合体(A)及びボリン酸系水添共役ジエン変性重合体(B)、並びに場合によって含まれ得る、上記式(XI)で示されるホウ素架橋三量体(C)及び末端にホウ素原子を有しない未変性重合体(D)では、これら重合体に含有される共役ジエン単位に含まれる少なくとも一部の炭素-炭素二重結合が水添されている。
本発明の水添重合体組成物のこれら重合体では、耐熱性及び耐候性の観点から、水素添加前(未水添)の重合体中の共役ジエン単位に含まれる炭素-炭素二重結合の水素添加率(水添率)は、50モル%以上であることが好ましく、80モル%以上であることがより好ましく、90モル%以上であることがさらに好ましい。また水添率は通常100モル%以下である。さらに、水添率は実質100モル%(すなわち実質完全水添)であってもよい。なお、水添率は、1H-NMRを用いて、重合体中の共役ジエン単位に含まれる炭素-炭素二重結合の含有量を、水添の前後それぞれにおいて算出し、これら含有量から求めた値である。
【0061】
本発明のホウ素含有官能基を有する水添共役ジエン変性重合体を含む水添重合体組成物の製造方法としては、下記工程(1)、工程(2)及び工程(3)を含む製造方法が好ましい。
【0062】
工程(1);アニオン重合可能な活性金属又は活性金属化合物存在下で、共役ジエンを含む単量体をアニオン重合することで、活性末端重合体(以下、活性末端重合体(Z)とも称する。)を製造する工程。
【0063】
活性末端重合体(Z)を構成する単量体に由来する構造単位となる単量体の具体例及び好適態様等の説明、並びに活性末端重合体(Z)に含まれる単量体に由来する構造単位の具体例及び好適態様の説明は、上述した水添重合体組成物における、P1~P12で表される水添共役ジエン単位を構成するための共役ジエン単位及び必要に応じて含まれる未水添の共役ジエン単位、芳香族ビニル化合物単位などの共役ジエン以外の他の単量体に由来する構造単位を含む重合体鎖に関する説明と同様である。
【0064】
アニオン重合活性末端を有する活性末端重合体(Z)は、公知の重合方法を用いて製造することができる。例えば、重合末端に不活性な溶媒中、アニオン重合可能な活性金属又は活性金属化合物を開始剤として、必要に応じて極性化合物の存在下で、単量体をアニオン重合させることにより、活性末端重合体(Z)を得ることができる。
【0065】
アニオン重合可能な活性金属又は活性金属化合物としては、有機アルカリ金属化合物が好ましく、有機リチウム化合物がより好ましい。
【0066】
上記アニオン重合可能な活性金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属;ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等のアルカリ土類金属;ランタン、ネオジム等のランタノイド系希土類金属等が挙げられる。これらの中でもアルカリ金属及びアルカリ土類金属が好ましく、アルカリ金属がより好ましい。
【0067】
上記アニオン重合可能な活性金属化合物として好適に用いられる有機アルカリ金属化合物としては、例えば、メチルリチウム、エチルリチウム、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、tert-ブチルリチウム、ペンチルリチウム、ヘキシルリチウム、フェニルリチウム、スチルベンリチウム等の有機モノリチウム化合物;ジリチオメタン、ジリチオナフタレン、1,4-ジリチオブタン、1,4-ジリチオ-2-エチルシクロヘキサン、1,3,5-トリリチオベンゼン等の多官能性有機リチウム化合物;ナトリウムナフタレン、カリウムナフタレン等が挙げられる。これら有機アルカリ金属化合物の中でも有機リチウム化合物が好ましい。上記有機リチウム化合物としては、例えば、メチルリチウム、エチルリチウム、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、tert-ブチルリチウム、ペンチルリチウムなどが挙げられる。
【0068】
上記溶媒としては、例えば、n-ブタン、n-ペンタン、イソペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、イソオクタン等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素などが挙げられる。
【0069】
上記アニオン重合の際には、極性化合物を添加してもよい。極性化合物は、アニオン重合において、通常、反応を失活させず、共役ジエン単位のミクロ構造(ビニル含量)を調整するため用いられる。極性化合物としては、例えば、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジエチルエーテル等のエーテル化合物;テトラメチルエチレンジアミン、トリメチルアミン等の3級アミン;アルカリ金属アルコキシド、ホスフィン化合物などが挙げられる。極性化合物は、有機アルカリ金属化合物1モルに対して、通常0.01~1000モルの量で使用される。
【0070】
上記アニオン重合の温度は、通常-80~150℃の範囲、好ましくは0~100℃の範囲、より好ましくは10~90℃の範囲である。重合様式は回分式あるいは連続式のいずれでもよい。
【0071】
工程(2);前記活性末端重合体(Z)と、下記式(I)で表される部分構造(以下、その構造を部分構造(I)とも称する。)を少なくとも2つ以上有し、かつ、該部分構造(I)に含まれる酸素原子と結合するRの少なくとも1つのTaftの立体パラメーターEs値が-0.30以下である、ホウ酸化合物を反応させてホウ素含有官能基を有する未水添共役ジエン変性重合体を得る工程。
B-O-R (I)
(式(I)中、Bはホウ素原子、Oは酸素原子、Rは有機基を示す)
【0072】
ここで、Taftの立体パラメーターEs値とは、置換カルボン酸の酸性下エステル化反応速度におけるメチル基の置換基効果を基準にした相対速度であり、置換基の立体的嵩高さを表す一般的な指標である。本発明では、Tetrahedron,1978,Vol.34,3553~3562頁に記載の表1に記載されているEs(Taft)値、及び上記文献に記載の方法に準拠した方法で測定された値を含む。この値は、例えば、水素原子の値が1.24であり、メチル基の値が0.0であり、エチル基の値が-0.08、n-プロピル基の値-0.36、イソプロピル基の値が-0.47、n-ブチル基の値が-0.39、sec-ブチル基の値が-1.13、i-ブチル基の値が-0.93、t-ブチル基の値が-1.54、シクロヘキシル基の値が-0.79である。
【0073】
Taftの立体パラメーターEs値が-3.00~-0.30であることが好ましく、-1.55~-0.39であることがより好ましい。
【0074】
部分構造(I)に含まれるRの少なくとも1つのTaftの立体パラメーターEs値が-0.30以下となるような嵩高いホウ酸化合物は、立体障害によりホウ酸化合物からなるクラスター構造を形成しにくくなるため、求電子性が高く、活性末端との反応率が向上し、最終的にボロン酸系水添共役ジエン変性重合体(A)の含有割合が高い重合体組成物を得ることができる。また、反応率をより向上させる観点からは、部分構造(I)に含まれる酸素原子と結合するRのすべてが、上記Es値を満たすことが好ましい一態様である。
【0075】
上記Es値を満たすRとしては、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、i-ブチル基、シクロヘキシル基が好ましく、イソプロピル基、n-ブチル基がより好ましく、イソプロピル基がさらに好ましい。
【0076】
上記ホウ酸化合物は、アニオン重合により得られる活性末端重合体(Z)の活性末端と反応性を有するホウ酸化合物である。これらの中でも、下記式(XII)で表されるホウ酸エステルが好ましい。
【0077】
【0078】
上記式(XII)中、R16、R17及びR18は炭素数1~12の炭化水素基を示す。
上記R16、R17及びR18のうち、少なくとも1つは、Taftの立体パラメーターEs値が-0.30以下であることが好ましく、-3.00~-0.30であることがより好ましく、-1.55~-0.39であることがさらに好ましい。また、上記R16、R17及びR18のすべてが、上記Es値を満たすことが好ましい一態様である。上記R16、R17及びR18の少なくとも1つは、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、i-ブチル基、シクロヘキシル基であることが好ましく、イソプロピル基、n-ブチル基であることがより好ましく、イソプロピル基であることがさらに好ましい。また、上記R16、R17及びR18のすべてが、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、i-ブチル基、又はシクロヘキシル基であることが好ましく、イソプロピル基、又はn-ブチル基であることがより好ましく、イソプロピル基であることがさらに好ましい。
【0079】
上記式(XII)で表されるホウ酸エステルとしては、例えば、ホウ酸トリn-プロピルエステル、ホウ酸トリn-ブチルエステル、ホウ酸トリイソプロピルエステル、ホウ酸トリsec-ブチルエステル、ホウ酸トリi-ブチルエステル、ホウ酸トリシクロヘキシルエステルなどが挙げられる。これらの中でも、ホウ酸トリn-プロピルエステル、ホウ酸トリn-ブチルエステル、ホウ酸トリイソプロピルエステルが好ましい。
【0080】
工程(2)において、上記ホウ酸化合物は、活性末端重合体(Z)1モルに対して、好ましくは0.5~10モル、より好ましくは1~5モルの量で使用される。
【0081】
工程(2)において、上記ホウ酸化合物に対して極性化合物を混合した後、この混合物を上記活性末端重合体(Z)と反応させることが好ましい。
【0082】
上記極性化合物としては、例えば、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジエチルエーテル等のエーテル化合物;テトラメチルエチレンジアミン、トリメチルアミン等の3級アミン;アルカリ金属アルコキシド、ホスフィン化合物などが挙げられる。極性化合物は、工程(2)で使用されるホウ酸化合物に対して、通常0.01~1000モルの量で使用される。極性化合物を添加することによって、ホウ酸化合物の分子会合を解離させることができ、反応性を高めることができる。
【0083】
上記工程(2)の活性末端重合体(Z)とホウ酸化合物の反応温度は、通常-80~150℃の範囲、好ましくは0~100℃の範囲、より好ましくは10~90℃の範囲である。
【0084】
上記工程(2)の活性末端重合体(Z)とホウ酸化合物を反応させてホウ素含有官能基を有する未水添共役ジエン変性重合体を得た後、さらに、活性末端重合体(Z)に対する重合停止剤を添加してもよい。このように重合停止剤を添加することにより、ホウ酸化合物との反応を経た後に残存する活性末端重合体(Z)に含まれる活性末端に由来する副反応を確実に抑制できる。重合停止剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール等のアルコールが挙げられる。
【0085】
工程(2)の反応様式は回分式あるいは連続式のいずれでもよい。
【0086】
工程(3);工程(2)で得られた未水添共役ジエン変性重合体に含有される共役ジエン単位に含まれる少なくとも一部の炭素-炭素二重結合を水素添加(水添)工程。
【0087】
この工程(3)により、共役ジエン単位に含まれる炭素-炭素二重結合の少なくとも一部に水素が付加されることになる。
本発明の水添重合体組成物を得るために、未水添共役ジエン変性重合体を水添する方法には特に制限は無く、例えば公知の方法を用いることができる。上記工程(1)及び工程(2)と水添は引き続いて行ってもよいし、工程(2)で得たホウ素含有官能基を有する未水添共役ジエン変性重合体を含む組成物を一旦単離してから水添してもよい。未水添共役ジエン変性重合体を含む組成物を単離する方法は、後述する工程(3)で得られた反応生成物からの水添重合体組成物の回収方法と同様である。
【0088】
工程(3)の水添反応に用いる触媒としては、オレフィン化合物などに含まれる炭素-炭素二重結合が水添され得る触媒が使用可能である。このような触媒としては、通常、不均一系触媒、均一系触媒などが挙げられる。
【0089】
上記不均一系触媒は特に限定されないが、その具体例としては、スポンジニッケル、スポンジコバルト、スポンジ銅などのスポンジメタル触媒;ニッケルシリカ、ニッケルアルミナ、ニッケルゼオライト、ニッケル珪藻土、パラジウムシリカ、パラジウムアルミナ、パラジウムゼオライト、パラジウム珪藻土、パラジウムカーボン、パラジウム炭酸カルシウム、白金シリカ、白金アルミナ、白金ゼオライト、白金珪藻土、白金カーボン、白金炭酸カルシウム、ルテニウムシリカ、ルテニウムアルミナ、ルテニウムゼオライト、ルテニウム珪藻土、ルテニウムカーボン、ルテニウム炭酸カルシウム、イリジウムシリカ、イリジウムアルミナ、イリジウムゼオライト、イリジウム珪藻土、イリジウムカーボン、イリジウム炭酸カルシウム、コバルトシリカ、コバルトアルミナ、コバルトゼオライト、コバルト珪藻土、コバルトカーボン、コバルト炭酸カルシウムなどの担持金属触媒が挙げられる。
これら不均一系触媒は、活性向上、選択性向上、安定性を目的に、鉄、モリブデン、マグネシウムなどで変性されていてもよい。また、これら不均一系触媒は1種単独で用いられても、2種以上混合して用いられてもよい。
【0090】
上記均一系触媒は特に限定されないが、その具体例としては、遷移金属化合物と、アルキルアルミニウム又はアルキルリチウムからなる触媒などの、チーグラー系触媒;チタン、ジルコニウム、ハフニウム等の遷移金属のビス(シクロペンタジエニル)化合物と、リチウム、ナトリウム、カリウム、アルミニウム、亜鉛又はマグネシウム等の金属の有機金属化合物からなる触媒などのメタロセン系触媒が挙げられる。
チーグラー系触媒に用いる遷移金属化合物の具体例としては、酢酸ニッケル、オクチル酸ニッケル、ネオデカン酸ニッケル、ナフテン酸ニッケル、ニッケルアセチルアセトナートなどのニッケル塩;酢酸コバルト、オクチル酸コバルト、ネオデカン酸コバルト、ナフテン酸コバルト、コバルトアセチルアセトナートなどのコバルト塩;チタノセンジクロライド、ジルコノセンジクロライドが挙げられる。
チーグラー系触媒に用いるアルキルアルミニウムの具体例としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリオクチルアルミニウムが挙げられる。
チーグラー系触媒に用いるアルキルリチウムの具体例としては、メチルリチウム、エチルリチウム、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、t-ブチルリチウムが挙げられる。
これら均一系触媒は1種単独で用いられても、2種以上混合して用いられてもよい。また、均一系触媒は、不均一系触媒と混合して用いても構わない。
【0091】
これら触媒の中でも反応性の点からは、均一系触媒が好ましく、チーグラー系触媒がより好ましく、遷移金属化合物とアルキルアルミニウムからなるチーグラー系触媒がさらに好ましく、チタノセンジクロライドとアルキルアルミニウムからなるチーグラー系触媒が特に好ましい。
一方、工程(3)の水添反応では、重合体を水添するため、低分子化合物に対して反応活性が一般的に低くなる。そのため、反応条件として比較的高温、高圧条件が好ましい場合が多い。この場合、水添反応に用いる触媒として、触媒活性の熱安静を重視する実施態様では、熱安定性の高い不均一系触媒で水添反応を行うことが好ましい。水素化活性の面から、水素化活性をもつ金属としてニッケル又はパラジウムを用いることが好ましい。また、水添反応中の望ましくない副反応を抑制するために、担体として、炭酸カルシウム、カーボン担体を用いることが好ましく、カーボン担体を用いることがさらに好ましい。
【0092】
水添反応は、通常、溶媒中で行われる。かかる溶媒は、特に限定されるものではなく、例えば上記工程(1)において例示したアニオン重合で使用される溶媒を用いることができる。
【0093】
上記水添反応は、例えば、上記工程(1)の際に使用した溶媒中にホウ素含有官能基を有する未水添共役ジエン変性重合体が存在する状態のまま、特に溶媒に処理を施すことなく、行ってもよいし、その溶媒の一部を蒸留などの方法により除去した後、残存する溶媒中で行ってもよく、また別途溶媒で希釈した後、その溶媒中で行ってもよい。また、上記工程(2)終了後、一旦ホウ素含有官能基を有する未水添共役ジエン変性重合体を含む組成物を取り出し、この未水添共役ジエン変性重合体を含む組成物を溶媒中に投入し、その溶媒中で水添反応を行ってもよい。
【0094】
水添反応を溶媒中で行う場合、溶媒の使用量は、反応液中の工程(2)を経た未水添共役ジエン変性重合体を含む重合体全体に対する濃度として、1質量%以上、30質量%以下となる量であることが好ましい。1質量%未満で水添反応をおこなうと、生産性が著しく低下する場合があり、30質量%超の場合、粘度が著しく高まり、混合効率が低下してしまう場合がある。
【0095】
水添反応の反応圧力は、使用する触媒などに応じて適宜設定すればよいが、全圧として、通常0.1MPa~20MPa、好ましくは0.5MPa~15MPa、より好ましくは0.5MPa~5MPaである。
【0096】
水添反応は、水素ガス存在下で実施するが、水素ガス以外の水添反応に不活性なガスと混合したガスの存在下で実施してもよい。水添反応に不活性なガスの具体例としては、窒素、ヘリウム、アルゴン、二酸化炭素が挙げられる。また、反応条件によっては、反応に使用する溶媒がガス成分として有意な割合で分圧を有する場合があるが、水添反応が進行する限り、そのような状況は、通常問題はない。
【0097】
水添反応の反応温度は、使用する触媒に応じて適宜設定すればよいが、通常20℃~250℃、好ましくは50℃~180℃、より好ましくは60℃~180℃である。一般的に不均一系触媒は均一系に比べて、より高い温度で反応することが望ましい場合がある。
水添反応の反応時間は、使用する触媒種、触媒量、反応温度に応じて適宜設定すればよいが、通常0.1~100時間、好ましくは1~50時間である。反応時間が短すぎる場合、所望する水添率を得ることができない場合がある。また、反応時間が長すぎる場合、望まない副反応の進行が顕著になり、所望する物性の水添共役ジエン変性重合体を含む組成物が得られない場合がある。
【0098】
水添反応の反応様式は特に制限はなく、反応に使用する触媒の種類などに応じて適宜設定すればよい。その反応様式としては、例えば、バッチ反応様式、セミ連続反応様式(セミバッチ反応様式)、連続反応様式が挙げられる。好適な連続反応様式としては、プラグフロー様式(PFR)、連続流通撹拌様式(CSTR)などが挙げられる。
不均一系触媒を用いる場合、固定床反応槽を用いて水添反応できる。
積極的な混合条件下で水添反応を行う場合、その混合方法としては、撹拌による混合方法、ループ形式により反応液を循環させる混合方法が挙げられる。
混合条件下で不均一系触媒を用いる場合、懸濁床による反応となり、気-液-固の反応場となる。また、混合条件下で均一系触媒を用いる場合、気-液二相系反応場となる。
反応槽中での水添反応を一旦終了し、反応液を抜き取り、その抜き取った反応液の少なくとも一部を、同一又は異なる反応槽に投入して、水添反応をさらに行う反応形式で水添反応を行ってもよい。このような反応形式で水添反応を行うことにより、水添反応に伴う発熱の局所化の回避が可能となる場合、水添率が向上する場合がある。
水添反応は、1種単独の反応形式で行ってもよく、同一又は異なる2以上の反応形式を組み合わせて、行ってもよい。
より高い水添率を目指す場合、固定床反応槽を用い、プラグフロー形式で反応させる工程を含む水添反応工程であることが望ましい場合がある。
【0099】
水添反応の触媒使用量は、使用する触媒の種類、工程(2)を経た未水添共役ジエン変性重合体を含む重合体全体の濃度、反応形式などに応じて適宜設定すればよいが、不均一系触媒を用い懸濁床により水添反応を行う場合、工程(2)を経た未水添共役ジエン変性重合体を含む反応液100質量部あたりの触媒使用量は、通常0.01~20質量部、好ましくは、0.05~15質量部、より好ましくは0.1~10質量部である。触媒使用量が少なすぎる場合、水添反応に長時間必要となる場合があり、また、触媒使用量が多すぎる場合、不均一触媒を混合する動力がより多く必要となる場合がある。また、固定床で水添反応を行う場合、工程(2)を経た未水添共役ジエン変性重合体を含む反応液あたりの触媒使用量を規定することが困難であり、使用する反応槽の種類などに応じて適宜設定すればよい。
均一系触媒としてチーグラー系触媒;メタロセン系触媒を用いる場合は、工程(2)を経た未水添共役ジエン変性重合体を含む反応液中の遷移金属化合物の濃度として、通常0.001ミリモル/リットル~100ミリモル/リットル、好ましくは0.01ミリモル/リットル~10ミリモル/リットルである。
【0100】
水添反応に使用した触媒は、水添反応終了後に、必要に応じ、ホウ素含有官能基を有する水添共役ジエン変性重合体を含む液から分離すればよい。分離する方法は触媒を分離できる限り特に制限はない。不均一系触媒を使用した場合は、例えば、連続式又はバッチ式濾過、遠心分離、静置による沈降及びデカンテーションにより前記触媒が分離できる。均一系触媒を用いた場合は、例えば、凝集沈澱、吸着、洗浄及び水相抽出により前記触媒が分離できる。
これらの分離する方法により、使用後の触媒を分離したとしても、触媒に由来する微量の金属成分がホウ素含有官能基を有する水添共役ジエン変性重合体を含む液に残留していることがある。この場合も、金属成分がその液に残存していることとなるため、前述の通り、凝集沈澱、吸着、洗浄及び水相抽出などの分離する方法により残留する金属成分を分離できる。
分離により回収された触媒は、必要に応じて、その一部を除去する、あるいは新規触媒を追加するなどした後に、再び水添反応に使用できる。
【0101】
本発明の製造方法により得られた水添重合体組成物は上記工程(3)で得られた反応生成物から回収する。水添重合体組成物の回収方法は特に制限はないが、反応生成物が水添重合体組成物を含む溶液として工程(3)で得られている場合は、例えば、得られた溶液をメタノール等の貧溶媒に注いで、水添重合体組成物を析出させる;得られた溶液をスチームと共に熱水中に注いで溶媒を共沸によって除去(スチームストリッピング)する;あるいは、重合体溶液を水で洗浄し、分離後、乾燥することにより上記重合体組成物を単離する;ことにより回収できる。この時、洗浄に酸性水溶液を用いることでさらに洗浄効率を高めることができる。用いる酸としては、例えば、塩酸、硝酸、硫酸等の一価又は多価の強酸; 酢酸、プロピオン酸、コハク酸、クエン酸等の一価又は多価カルボン酸; 炭酸、リン酸等の一価又は多価の弱酸が好ましい。
【0102】
本発明の樹脂組成物は、ボロン酸系水添共役ジエン変性重合体(A)及びボリン酸系水添共役ジエン変性重合体(B)を含み、任意にホウ素架橋三量体(C)及び末端にホウ素原子を有しない未変性重合体(D)を含む水添重合体組成物(以下、水添重合体組成物(α)とも称する。)を含む。本発明の樹脂組成物は、水添重合体組成物(α)に含まれる重合体以外の他の重合体(β)を含んでもよい。他の重合体(β)は、熱可塑性重合体(β1)であっても、硬化性重合体(β2)であってもよい。
【0103】
上記熱可塑性重合体(β1)としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル及び(メタ)アクリル酸エステル重合体又は共重合体などのアクリル系樹脂;ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレン、ポリブテン-1、ポリ-4-メチルペンテン-1、ポリノルボルネン等のオレフィン系樹脂;エチレン系アイオノマー;ポリスチレン、スチレン-無水マレイン酸共重合体、ハイインパクトポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂、AES樹脂、AAS樹脂、ACS樹脂、MBS樹脂等のスチレン系樹脂;スチレン-メタクリル酸メチル共重合体;スチレン-メタクリル酸メチル-無水マレイン酸共重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸等のポリエステル樹脂;ナイロン6、ナイロン66、ポリアミドエラストマー等のポリアミド;ポリカーボネート;ポリ塩化ビニル;ポリ塩化ビニリデン;ポリ酢酸ビニル;ポリビニルアルコール部分ケン化体、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体等のビニルアルコール系重合体;ポリアセタール;ポリフッ化ビニリデン;ポリウレタン;変性ポリフェニレンエーテル;ポリフェニレンスルフィド;シリコーンゴム変性樹脂;アクリル系ゴム;シリコーン系ゴム;SEPS、SEBS、SIS等のスチレン系熱可塑性エラストマー;IR、EPR、EPDM等のオレフィン系ゴムなどが挙げられる。これら中でも、本発明で得られる水添重合体組成物(α)に対する分散性により優れることなどから、ビニルアルコール系重合体が好ましく、ポリビニルアルコール部分ケン化体、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体がより好ましく、エチレン-ビニルアルコール共重合体であることがさらに好ましい。熱可塑性重合体(β1)は、1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0104】
上記エチレン-ビニルアルコール共重合体は、エチレンに由来する構造単位(エチレン単位)とビニルエステルに由来する構造単位(ビニルエステル単位)を含むエチレン-ビニルエステル共重合体のけん化物である。エチレン-ビニルアルコール共重合体のエチレン単位の含有量は特に制限はないが、通常10~99モル%の範囲であり、15~60モル%が好ましく、20~60モル%がより好ましく、25~55モル%がさらに好ましい。
また、エチレン-ビニルアルコール共重合体のビニルエステル単位のけん化度は特に制限はないが、通常10~100モル%の範囲であり、50~100モル%が好ましく、80~100モル%がより好ましく、95~100モル%がさらに好ましく、99~100モル%が特に好ましい。けん化度はあまり低すぎると結晶化度を低下させたり、また溶融成形時の熱安定性が悪化する場合があるので、けん化度は高い方が好ましい。ここでビニルエステルとしては酢酸ビニルが代表例として挙げられるが、その他にプロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステルも挙げられる。これらのビニルエステルは1種又は2種以上混合して使用してもよい。
また、上記エチレン-ビニルアルコール共重合体として、異なるエチレン-ビニルアルコール共重合体を2種以上混合した物を使用してもよい。
【0105】
エチレン-ビニルアルコール共重合体には、本発明の目的が阻害されない範囲で、上述したエチレン単位、ビニルエステル単位、けん化されたビニルエステル単位以外の他の単量体に由来する構造単位を含有させてもよい。かかる他の単量体としては、プロピレン、1-ブテン、イソブテン等のオレフィン系単量体;アクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド等のアクリルアミド系単量体;メタクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミド等のメタクリルアミド系単量体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、i-プロピルビニルエーテル、t-ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル等のビニルエーテル系単量体;アリルアルコール;ビニルトリメトキシシラン;N-ビニル-2-ピロリドン等が挙げられる。
【0106】
上記エチレン-ビニルアルコール共重合体のJIS K 7210:2014に準拠したメルトフローレート(以下、単に「MFR」と略称することがある)(温度210℃、荷重2160g)は0.1g/10分以上が好ましく、0.5g/10分以上がより好ましく、1g/10分以上がさらに好ましい。一方、エチレン-ビニルアルコール共重合体のMFRは50g/10分以下が好ましく、30g/10分以下がより好ましく、15g/10分以下がさらに好ましい。エチレン-ビニルアルコール共重合体のMFRをこの範囲の値とすることで、溶融成形性が向上する。
【0107】
硬化性重合体(β2)としては、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ(メタ)アクリレート樹脂、エステル(メタ)アクリレート樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、熱硬化性ウレタン樹脂、ケイ素樹脂、イミド樹脂、フラン樹脂、アルキド樹脂、アリル樹脂、ジアリルフタレート樹脂が挙げられる。これらの中でも、入手性及び硬化物の基本物性の観点や、また、気泡の抜け性、得られる硬化物の靱性により一層優れる樹脂組成物が得られるなどの観点から、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂及びエポキシ(メタ)アクリレート樹脂が好ましく、中でも、エポキシ樹脂及び不飽和ポリエステル樹脂がより好ましく、エポキシ樹脂であることがさらに好ましい。硬化性重合体(β2)は、1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0108】
本発明の樹脂組成物に上記重合体(β)が含まれる場合、水添重合体組成物(α)と他の重合体(β)との質量比(α)/(β)が、50/50~1/99であることが好ましく、40/60~2/98であることがより好ましく、30/70~3/97であることがさらに好ましく、20/80~3/97であることがよりさらに好ましく、15/85~3/97であることが特に好ましい。
【0109】
また、本発明の樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない程度に、種々の添加剤を添加してもよい。例えば、他の重合体(β)が熱可塑性重合体(β1)の場合、かかる添加剤としては、例えば、炭酸カルシウム、シリカ、カーボンブラック、ガラス繊維、クレーなどの補強剤又は充填剤、プロセスオイル、ポリエチレングリコール、グリセリン、フタル酸エステルなどの可塑剤を添加剤として用いることができる。また、その他の添加剤として、例えば、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、顔料、滑剤、界面活性剤などが挙げられる。さらに、該添加剤として発泡剤が挙げられ、発泡剤と熱可塑性重合体(β1)を含む重合体組成物からは発泡体を作製することが可能である。
例えば、他の重合体(β)が硬化性重合体(β2)の場合、かかる添加剤としては、硬化剤、硬化促進剤、公知のゴム、熱可塑性エラストマー、コア-シェル粒子等の衝撃改質剤、充填剤(シリカ、タルク、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム等の無機粒子など)、難燃剤、消泡剤、顔料、染料、酸化防止剤、耐候剤、滑剤、離型剤などが挙げられる。
【0110】
本発明の水添重合体組成物(α)への他の重合体(β)の混合方法は、各成分の組成比等に応じ、通常の高分子物質の混合方法により調製できる。
【0111】
他の重合体(β)が熱可塑性重合体(β1)の場合、例えば、押出機、ミキシングロール、バンバリーミキサー、ニーダー等の混合装置により本発明の樹脂組成物が作製できる。特に本発明においては、これら混合装置を用いて、溶融混練する方法が好ましい一態様である。
【0112】
他の重合体(β)が硬化性重合体(β2)の場合、例えばミキサーなどで十分混合し、次いでミキシングロール、押出し機等によって溶融混練したあと、冷却、粉砕する方法により本発明の樹脂組成物は作製できる。
【実施例】
【0113】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例において水添重合体組成物の物性は次の方法により評価した。
【0114】
(1)重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、分子量分布(Mw/Mn)
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって、重合体の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、及び分子量分布(Mw/Mn)を標準ポリスチレン換算で求めた。
装置:東ソー株式会社製 GPC装置「HLC-8220」
分離カラム:東ソー株式会社製 「TSKgel SuperMultiporeHZ-M(カラム径=4.6mm、カラム長=15cm)」(2本を直列に繋いで使用)
溶離液:テトラヒドロフラン
溶離液流量:0.35mL/分
カラム温度:40℃
検出方法:示差屈折率(RI)
注入量:10μL
濃度:1mg/1mL(重合体/THF)
【0115】
(2)ビニル含量、水添率
1H-NMRによって、水添共役ジエン変性重合体、及びその製造の各段階における重合体のビニル含量を算出した。なお、ビニル含量は、水添反応前の未水添重合体について算出した値であり、そのビニル含量は得られたスペクトルのビニル化された共役ジエン単位由来の二重結合のシグナルと、ビニル化されていない共役ジエン単位由来の二重結合のシグナルとの面積比から算出した。また、水添前後で共役ジエン単位由来の二重結合に由来するシグナルが減少するため、水添率は、水添前の重合体における、共役ジエン単位由来の二重結合に由来するシグナルと水添により変化しない適当なシグナル(スチレンに由来する芳香環のシグナル、開始剤由来の末端メチルのシグナル等)の面積比を、水添後の重合体の同シグナルの面積比とで比較することで算出した。
装置:日本電子株式会社製核磁気共鳴装置 「JNM-ECX400」
溶媒:重クロロホルム
測定温度:50℃
積算回数:1024回
【0116】
(3)ホウ素含有官能基導入率(質量%)
ホウ酸化合物と活性末端重合体の反応によるホウ素含有官能基の重合体末端への導入率(ホウ素含有官能基導入率)は、水洗によって未反応のホウ酸化合物を除去した、以下の各実施例等で得られた重合体組成物をマイクロ波分解装置で分解した後、ICP(高周波誘導結合プラズマ)発光分析によるホウ素原子含有量とGPC測定による重合体成分の成分比から算出した。ホウ素含有官能基導入率は、各実施例等で得られた重合体組成物全体の質量から未変性物の質量を除いたボロン酸系水添共役ジエン変性重合体(A)とボリン酸系水添共役ジエン変性重合体(B)の総和から求められる。
<マイクロ波分解>
装置:MILESTONE社製ETHOS UP
溶媒:硝酸
分解温度:210℃
分解時間:30分
<ICP発光分析>
装置:ThermoFisher社製iCAP7400 Duo
【0117】
(4)重合体組成物中のボロン酸系水添共役ジエン変性重合体(A)及びボリン酸系水添共役ジエン変性重合体(B)の含有量(質量%)
以下の各実施例等で得られる重合体組成物においては、ボリン酸系水添共役ジエン変性重合体(B)は、ボロン酸系水添共役ジエン変性重合体(A)及びホウ酸化合物で変性されていない、未変性重合体よりも分子量が大きくなる。また、ボロン酸系水添共役ジエン変性重合体(A)と未変性重合体の分子量は同じになる。
これらのことから、まずGPCによって得られる面積比から、重合体組成物中の、ボリン酸系水添共役ジエン変性重合体(B)の含有量(質量%)と、ボロン酸系水添共役ジエン変性重合体(A)及び未変性重合体を合わせた含有量(質量%)とをそれぞれ算出した。
その後、上述のようにして得られたホウ素含有官能基導入率と、上述のGPCの結果から得られる含有量から、以下の様にして、重合体組成物中のボロン酸系水添共役ジエン変性重合体(A)の含有量を算出した。
(ボロン酸系水添共役ジエン変性重合体(A)の含有量(質量%))=(ホウ素含有官能基導入率(質量%))-(ボリン酸系水添共役ジエン変性重合体(B)の含有量(質量%))
【0118】
(5)反応性
実施例等で得られた水添共役ジエン変性重合体のホウ素含有官能基の反応性は、1H-NMRによって、重合体の重溶媒溶液にカテコールを各実施例又は比較例の工程(1)における重合体開始末端と当モル量添加した際のシグナルの変化から以下の指標で評価した。重合体開始末端量は1H-NMRによって、水添前の重合体からアルキルリチウム由来のアルキル基の積分比と共役ジエン単位由来の二重結合のシグナルの積分比から算出した。
A:シグナルがシフトしたカテコール量 70モル%以上
B:シグナルがシフトしたカテコール量 50モル%以上、70モル%未満
C:シグナルがシフトしたカテコール量 25モル%以上、50モル%未満
D:シグナルがシフトしたカテコール量 25モル%未満
【0119】
(6)分散性
実施例等で得られた重合体の熱可塑性重合体中での分散性を以下のようにして評価した。熱可塑性重合体としてはビニルアルコール系重合体を用いた。
ビニルアルコール系重合体中での分散性は、エチレン単位含有量32モル%、けん化度99.9モル%のエチレン-ビニルアルコール共重合体:95質量部に対し、水添重合体組成物:5質量部をラボプラストミル(装置名4M150、(株)東洋精機製作所製)を用い、200℃、10分、100rpmの条件下で混練して得られた樹脂組成物を200℃でプレスし、厚さ125μmのフィルムとした後、その断面における分散ドメインの分散径を光学顕微鏡で確認した。評価は以下の指標で実施した。
A:断面における分散ドメイン中、最大のものの直径が3μm未満
B:断面における分散ドメイン中、最大のものの直径が3μm以上5μm未満
C:断面における分散ドメイン中、最大のものの直径が5μm以上7μm未満
D:断面における分散ドメイン中、最大のものの直径が7μm以上
【0120】
(7)Taftの立体パラメーターEs値
以下の実施例及び比較例で用いたホウ酸化合物中の酸素原子と結合する有機基のTaftの立体パラメーターEs値は、上述の発明を実施する形態に記載の方法により算定した。
【0121】
[実施例1]
(工程(1))
十分に乾燥した5Lオートクレーブを窒素置換し、シクロヘキサン606g、テトラヒドロフラン4.51g及びsec-ブチルリチウム(1.3Mシクロヘキサン溶液)5.40gを仕込み、50℃に昇温した後、撹拌条件下、重合温度を50℃となるように制御しながらブタジエン140gを10mL/分で逐次添加した。ブタジエン添加後1時間加熱して重合を完了し、活性末端を有するブタジエン重合体を含む重合液を得た。
【0122】
(工程(2))
工程(1)で得られた重合液にホウ酸トリイソプロピル1.69gを添加してブタジエン重合体の重合末端にボロン酸を導入し、重合体組成物を含む液を得た。得られた重合体組成物のビニル含量は47モル%であった。
【0123】
(工程(3))
工程(2)で得られた重合体組成物を含む液に水添触媒としてμ-クロロ-μ-メチレン[ビス(シクロペンタジエニル)チタン]ジメチルアルミニウム(Tebbe触媒)を重合体組成物に含まれる全重合体のブタジエン単位に含まれる炭素-炭素二重結合に対して、該水添触媒中のTiの量として0.0001モル%添加し、85℃、水素圧1MPa下、水添率が96モル%になるまで水添反応を行った。得られた水添重合体組成物を含む液を5倍量のメタノール中に投入し、重合体成分を析出させたのち回収、乾燥した。得られた水添重合体組成物の末端官能基導入率は90質量%であった。また、得られた水添重合体組成物中のボロン酸系水添共役ジエン変性重合体(A)の含有量は86質量%、ボリン酸系水添共役ジエン変性重合体(B)の含有量は4質量%であり、ボロン酸系水添共役ジエン変性重合体(A)の重量平均分子量は30,000、Mw/Mnは1.05であった。
【0124】
[実施例2]
(工程(1))
十分に乾燥した5Lオートクレーブを窒素置換し、シクロヘキサン606g及びsec-ブチルリチウム(1.3Mシクロヘキサン溶液)5.40g、テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)0.65gを仕込み、40℃に昇温した後、撹拌条件下、重合温度を40℃となるように制御しながら、ブタジエン140gを10mL/分で逐次添加した。ブタジエン添加後1時間加熱して重合を完了し、活性末端を有するブタジエン重合体を含む重合液を得た。
【0125】
(工程(2))
工程(1)で得られた重合液にホウ酸トリイソプロピル1.69gを添加してブタジエン重合体の重合末端にボロン酸を導入し、重合体組成物を含む液を得た。得られた重合体組成物のビニル含量は75モル%であった。
【0126】
(工程(3))
工程(2)で得られた重合体組成物を含む液に水添触媒としてTebbe触媒を重合体組成物に含まれる全重合体のブタジエン単位に含まれる炭素-炭素二重結合に対して該水添触媒中のTiの量として0.0001モル%添加し、85℃、水素圧1MPa下、水添率が96モル%になるまで水添反応を行った。得られた水添重合体組成物を含む液を5倍量のメタノール中に投入し、重合体成分を析出させたのち回収、乾燥した。得られた水添重合体組成物の末端官能基導入率は90質量%であった。また、得られた水添重合体組成物中のボロン酸系水添共役ジエン変性重合体(A)の含有量は88質量%、ボリン酸系水添共役ジエン変性重合体(B)の含有量は2質量%であり、ボロン酸系水添共役ジエン変性重合体(A)の重量平均分子量は30,000、Mw/Mnは1.04であった。
【0127】
[実施例3]
(工程(1))
十分に乾燥した5Lオートクレーブを窒素置換し、シクロヘキサン606g及びsec-ブチルリチウム(1.3Mシクロヘキサン溶液)5.40g、テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)0.65gを仕込み、40℃に昇温した後、撹拌条件下、重合温度を40℃となるように制御しながら、ブタジエン140gを10mL/分で逐次添加した。ブタジエン添加後1時間加熱して重合を完了し、活性末端を有するブタジエン重合体を含む重合液を得た。
【0128】
(工程(2))
工程(1)で得られた重合液にTMEDA0.65gとホウ酸トリイソプロピル1.69gの混合物を添加してブタジエン重合体の重合末端にボロン酸を導入し、重合体組成物を含む液を得た。得られた重合体組成物のビニル含量は75モル%であった。
【0129】
(工程(3))
工程(2)で得られた重合体組成物を含む液に水添触媒としてTebbe触媒を重合体組成物に含まれる全重合体のブタジエン単位に含まれる炭素-炭素二重結合に対して該水添触媒中のTiの量として0.0001モル%添加し、85℃、水素圧1MPa下、水添率が96モル%になるまで水添反応を行った。得られた水添重合体組成物を含む液を5倍量のメタノール中に投入し、重合体成分を析出させたのち回収、乾燥した。得られた水添重合体組成物の末端官能基導入率は98質量%であった。また、得られた水添重合体組成物中のボロン酸系水添共役ジエン変性重合体(A)の含有量は95質量%、ボリン酸系水添共役ジエン変性重合体(B)の含有量は3質量%であり、ボロン酸系水添共役ジエン変性重合体(A)の重量平均分子量は30,000、Mw/Mnは1.04であった。
【0130】
[実施例4]
各工程における化合物の種類及び添加量を表1のように変更した以外は、実施例3と同様に行い、水添共役ジエン変性重合体を含む水添重合体組成物を得た。
【0131】
[実施例5]
各工程における化合物の種類及び添加量を表1のように変更した以外は、実施例1と同様に行い、水添共役ジエン変性重合体を含む水添重合体組成物を得た。
【0132】
[実施例6]
(工程(1))
十分に乾燥した5Lオートクレーブを窒素置換し、シクロヘキサン606g及びsec-ブチルリチウム(1.3Mシクロヘキサン溶液)4.19gを仕込み、50℃に昇温した後、撹拌条件下、重合温度を50℃となるように制御しながらイソプレン137gを10mL/分で逐次添加した。イソプレン添加後1時間加熱して重合を完了し、活性末端を有するイソプレン重合体を含む重合液を得た。
【0133】
(工程(2))
工程(1)で得られた重合液にホウ酸トリイソプロピル1.31gを添加してイソプレン重合体の重合末端にボロン酸を導入し、重合体組成物を含む液を得た。得られた重合体組成物のビニル含量は8モル%であった。
【0134】
(工程(3))
工程(2)で得られた重合体組成物を含む液に水添触媒としてオクチル酸ニッケル及びトリエチルアルミニウムから形成されるチーグラー系水添触媒を重合体組成物に含まれる全重合体のイソプレン単位に含まれる炭素-炭素二重結合に対して該水添触媒中のNiの量として0.1モル%添加し、85℃、水素圧1MPa下、水添率が96モル%になるまで水添反応を行った。得られた水添重合体組成物を含む液を5倍量のメタノール中に投入し、重合体成分を析出させたのち回収、乾燥した。得られた水添重合体組成物の末端官能基導入率は85質量%であった。また、得られた水添重合体組成物中のボロン酸系水添共役ジエン変性重合体(A)の含有量は73質量%、ボリン酸系水添共役ジエン変性重合体(B)の含有量は12質量%であり、ボロン酸系水添共役ジエン変性重合体(A)の重量平均分子量は30,000、Mw/Mnは1.05であった。
【0135】
[実施例7]
(工程(1))
十分に乾燥した5Lオートクレーブを窒素置換し、シクロヘキサン606g及びsec-ブチルリチウム(1.3Mシクロヘキサン溶液)4.49g、TMEDA0.54gを仕込み、50℃に昇温した後、撹拌条件下、重合温度を50℃となるように制御しながらブタジエン93gを10mL/分で逐次添加した。ブタジエン添加後1時間加熱して、続けてイソプレン30gを10mL/分で逐次添加した。イソプレン添加後1時間加熱して重合を完了し、活性末端を有するブタジエン重合体ブロック-イソプレン重合体ブロックからなるブロック共重合体を含む重合液を得た。
【0136】
(工程(2))
工程(1)で得られた重合液にTMEDA0.54gとホウ酸トリイソプロピル1.41gの混合物を添加してイソプレン重合体ブロックの重合末端にボロン酸を導入し、重合体組成物を含む液を得た。得られた重合体組成物全体でのビニル含量は69モル%であった。
【0137】
(工程(3))
工程(2)で得られた重合体組成物を含む液に水添触媒としてオクチル酸ニッケル及びトリエチルアルミニウムから形成されるチーグラー系水添触媒を重合体組成物に含まれる全重合体のブタジエン単位及びイソプレン単位に含まれる炭素-炭素二重結合に対して該水添触媒中のNiの量として0.1モル%添加し、85℃、水素圧1MPa下、水添率が96モル%になるまで水添反応を行った。得られた水添重合体組成物を含む液を5倍量のメタノール中に投入し、重合体成分を析出させたのち回収、乾燥した。得られた水添重合体組成物の末端官能基導入率は95質量%であった。また、得られた水添重合体組成物中のボロン酸系水添共役ジエン変性重合体(A)の含有量は83質量%、ボリン酸系水添共役ジエン変性重合体(B)の含有量は12質量%であり、ボロン酸系水添共役ジエン変性重合体(A)の重量平均分子量は30,000、Mw/Mnは1.05であった。
【0138】
[実施例8]
(工程(1))
十分に乾燥した5Lオートクレーブを窒素置換し、シクロヘキサン606g及びsec-ブチルリチウム(1.3Mシクロヘキサン溶液)3.30g、TMEDA0.39gを仕込み、40℃に昇温した後、撹拌条件下、重合温度を40℃となるように制御しながらブタジエン47gを10mL/分で逐次添加した。ブタジエン添加後1時間加熱して、続けてスチレン74gを10mL/分で逐次添加した。スチレン添加後1時間加熱して重合を完了し、活性末端を有するブタジエン重合体ブロック-スチレン重合体ブロックからなるブロック共重合体を含む重合液を得た。
【0139】
(工程(2))
工程(1)で得られた重合液にTMEDA0.39gとホウ酸トリイソプロピル1.03gの混合物を添加してスチレン重合体ブロックの重合末端にボロン酸を導入した。得られた重合体組成物のビニル含量は76モル%であった。
【0140】
(工程(3))
工程(2)で得られた重合体組成物を含む液に水添触媒としてTebbe触媒を重合体組成物に含まれる全重合体のブタジエン単位に含まれる炭素-炭素二重結合に対して該水添触媒中のTiの量として0.0001モル%添加し、85℃、水素圧1MPa下、水添率が96モル%になるまで水添反応を行った。得られた水添重合体組成物を含む液を5倍量のメタノール中に投入し、重合体成分を析出させたのち回収、乾燥した。得られた水添重合体組成物の末端官能基導入率は95質量%であった。また、得られた水添重合体組成物中のボロン酸系水添共役ジエン変性重合体(A)の含有量は85質量%、ボリン酸系水添共役ジエン変性重合体(B)の含有量は10質量%であり、ボロン酸系水添共役ジエン変性重合体(A)の重量平均分子量は30,000、Mw/Mnは1.06であった。
【0141】
[比較例1]
表1に記載されるように、工程(2)におけるホウ酸トリイソプロピルに代えてホウ酸トリメチル0.93gを添加したこと以外は、実施例1と同様に行い、水添共役ジエン変性重合体を含む水添重合体組成物を得た。
【0142】
[比較例2]
表1に記載されるように、工程(2)におけるホウ酸化合物の添加を行わなかったこと以外は、実施例1と同様に行い水添重合体組成物を得た。
【0143】
[比較例3]
表1に記載されるように、工程(2)におけるホウ酸トリイソプロピルに代えてフェニルボロン酸無水物2.78gを添加したこと以外は、実施例1と同様に行い、末端にボリン酸を導入した水添共役ジエン変性重合体を含む水添重合体組成物を得た。
【0144】
【0145】
実施例1~8及び比較例1~3で得られた水添共役ジエン重合体を含む水添重合体組成物の物性を表2に示す。
【0146】
【0147】
なお、表2におけるRとは、工程(1)で使用されるホウ酸化合物の酸素原子と結合する有機基であり、式(I)中のRのことである。
【0148】
表2より実施例1~8に示したTaftの立体パラメーターEs値が-0.30以下となる置換基を有するホウ酸化合物を反応させることで、末端官能基導入率が高く、極性官能基との反応性に優れ、熱可塑性重合体(ビニルアルコール系重合体)中での優れた分散性を有する、ホウ素含有官能基を有する水添共役ジエン変性重合体を含む水添ジエン系重合体が得られることがわかる。一方で、Taftの立体パラメーターEs値が-0.30を超える置換基を有するホウ酸化合物を反応させた比較例1においては末端官能基導入率が低く、反応性及び熱可塑性重合体(ビニルアルコール系重合体)中での分散性に劣る。また、ホウ酸化合物を反応させていない比較例2においては、極性官能基と反応せず、熱可塑性重合体(ビニルアルコール系重合体)中での分散性も悪かった。さらにボリン酸化合物のみ含む比較例3においては、反応性には優れていたが熱可塑性重合体(ビニルアルコール系重合体)中での分散性に劣っており、反応性と熱可塑性重合体(ビニルアルコール系重合体)中での分散性の両立が困難であった。
【産業上の利用可能性】
【0149】
本発明の製造方法によって、極性材料の改質や無機材料の分散などに好適な、ボロン酸系水添共役ジエン変性重合体(A)が高収率で得られる。また、本発明で得られるボロン酸系水添共役ジエン変性重合体とボリン酸系水添共役ジエン変性重合体を特定の割合で含む水添重合体組成物は、極性官能基に対する高い反応性と熱可塑性重合体、典型的にはビニルアルコール系重合体中での優れた分散性を有している。したがって、本発明の水添重合体組成物及びその重合体組成物を含む樹脂組成物は、自動車用内外装品、電気・電子部品、包装材料、スポーツ用品、日用雑貨、ラミネート材、伸縮材料、各種ゴム製品、医療用品、各種接着剤、各種塗装プライマーなど幅広い分野において、有効に使用することができる。