IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 出光興産株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-固体電解質及びその製造方法 図1
  • 特許-固体電解質及びその製造方法 図2
  • 特許-固体電解質及びその製造方法 図3
  • 特許-固体電解質及びその製造方法 図4
  • 特許-固体電解質及びその製造方法 図5
  • 特許-固体電解質及びその製造方法 図6
  • 特許-固体電解質及びその製造方法 図7
  • 特許-固体電解質及びその製造方法 図8
  • 特許-固体電解質及びその製造方法 図9
  • 特許-固体電解質及びその製造方法 図10
  • 特許-固体電解質及びその製造方法 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】固体電解質及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 13/00 20060101AFI20241108BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20241108BHJP
   H01B 1/10 20060101ALI20241108BHJP
   H01B 1/08 20060101ALI20241108BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20241108BHJP
   C01B 25/14 20060101ALI20241108BHJP
   C01D 15/04 20060101ALN20241108BHJP
【FI】
H01B13/00 Z
H01B1/06 A
H01B1/10
H01B1/08
H01M10/0562
C01B25/14
C01D15/04
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021546971
(86)(22)【出願日】2020-09-18
(86)【国際出願番号】 JP2020035418
(87)【国際公開番号】W WO2021054433
(87)【国際公開日】2021-03-25
【審査請求日】2023-04-11
(31)【優先権主張番号】P 2019172112
(32)【優先日】2019-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019226488
(32)【優先日】2019-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金原 弘成
(72)【発明者】
【氏名】戸塚 翔太
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 淳
(72)【発明者】
【氏名】増田 直也
(72)【発明者】
【氏名】八百 篤史
【審査官】小林 秀和
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-029058(JP,A)
【文献】国際公開第2019/003986(WO,A1)
【文献】特開2018-203569(JP,A)
【文献】特開2017-224474(JP,A)
【文献】国際公開第2019/176895(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/067631(WO,A1)
【文献】特開2018-206630(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 13/00
H01B 1/06
H01B 1/10
H01B 1/08
H01M 10/0562
C01B 25/14
C01D 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム(Li)、リン(P)、硫黄(S)、酸素(O)及びハロゲン(X)が、下記式(11)~(14)を満たすように原料を混合する混合工程及び前記混合工程により得られた混合物を加熱する加熱工程を有する、アルジロダイト型結晶構造を有する固体電解質の製造方法。
4.8≦Li/P≦5.3 ・・・(11)
3.8≦S/P≦4.4 ・・・(12)
0.05≦O/P≦0.20 ・・・(13)
1.0<X/P≦2.0 ・・・(14)
(式(11)はPに対するLiのモル比であり、式(12)はPに対するSのモル比であり、式(13)はPに対するOのモル比であり、式(14)はPに対するハロゲン(X)のモル比である。)
【請求項2】
前記原料としてLiO及びLiOHのいずれか一つ以上を用いる請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記原料としてLiSを用いる、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記原料としてPを用いる、請求項1~3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記原料としてLiX(Xはハロゲンである。)及び単体ハロゲンの少なくとも一つを用いる、請求項1~4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記原料としてLiPS、LiO及びLiX(Xはハロゲンである。)を用いる、請求項1~5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記ハロゲン(X)が塩素(Cl)及び臭素(Br)を含む、請求項1~6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
前記混合工程を溶媒中で実施する、請求項1~7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
前記混合工程にビーズミルを使用する、請求項1~8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
リチウム(Li)、リン(P)、硫黄(S)、酸素(O)及びハロゲン(X)を含むアルジロダイト型結晶構造を有する固体電解質であって、
前記固体電解質中の全結晶に占めるLiPO結晶構造の割合が0.1質量%以上3.0質量%以下であり、下記式(21)~(23)を満たす、固体電解質。
4.8≦Li/P≦5.3 ・・・(21)
3.8≦S/P≦4.4 ・・・(22)
1.0<X/P≦2.0 ・・・(23)
(式(21)はPに対するLiのモル比であり、式(22)はPに対するSのモル比であり、式(23)はPに対するハロゲン(X)のモル比である。)
【請求項11】
前記固体電解質中の全結晶に占めるアルジロダイト型結晶構造の割合が90質量%以上である、請求項10に記載の固体電解質。
【請求項12】
前記固体電解質中の全結晶に占めるβ-LiPS結晶構造の割合が5.0質量%以下である、請求項10又は11に記載の固体電解質。
【請求項13】
前記固体電解質が、CuKα線を使用した粉末X線回折測定において、2θ=25.2±0.5deg及び29.7±0.5degに回折ピークを有する、請求項10~12のいずれかに記載の固体電解質。
【請求項14】
前記ハロゲン(X)がフッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)及びヨウ素(I)からなる群より選ばれる一つ以上である、請求項10~13のいずれかに記載の固体電解質。
【請求項15】
前記ハロゲン(X)が塩素(Cl)及び臭素(Br)から選ばれる一つ以上である、請求項10~13のいずれかに記載の固体電解質。
【請求項16】
前記アルジロダイト型結晶構造の格子定数が9.820Å以下である、請求項10~15のいずれかに記載の固体電解質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硫化物固体電解質は、空気中の水分により劣化することが知られている。これに対し、例えば、特許文献1にはアルジロダイト(Argyrodite)型結晶構造からなるLi7-aPS6-aHa(Haはハロゲンを示す。aは0.2<a≦1.8である。)及びLiPSを含有し、X線回折法(XRD)により測定して得られたX線回折パターンにおいて、Argyrodite型結晶構造に由来する回折角2θ=24.9~26.3°の位置に出現するピーク強度に対する、LiPSに由来する回折角2θ=26.0~28.8°の位置に出現するピーク強度の比率が0.04~0.3であることを特徴とする固体電解質が開示されている。特許文献2には、固体電解質にアルカリ性化合物が混合されており、固体電解質に含まれるLiのモル量に対する前記アルカリ性化合物に含まれるアルカリ金属のモル量の比が1/1000以上1/25以下である硫化物固体電解質が開示されている。
【0003】
また、特許文献3及び4にはリチウム、リン、硫黄及びハロゲンを含み、立方晶系Argyrodite型結晶構造を有する硫化物系固体電解質粒子や、表面が、リチウム、リン及び硫黄を含む非Argyrodite型結晶構造を有する化合物で被覆されているリチウム二次電池用硫化物系固体電解質が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2019/131725号
【文献】特開2017-120728号公報
【文献】国際公開第2019/176895号
【文献】特許第6293383号
【発明の概要】
【0005】
特許文献1~4の固体電解質では、硫化水素発生の抑制とイオン伝導性の両立が不十分であり、さらなる改善が求められる。
本発明の目的は、硫化水素の発生を抑えつつ、且つ、高いイオン伝導性を有する固体電解質及びその製造方法を提供することである。
【0006】
本発明の一実施形態によれば、リチウム(Li)、リン(P)、硫黄(S)、酸素(O)及びハロゲン(X)が、下記式(11)~(14)を満たすように原料を混合する混合工程及び前記混合工程により得られた混合物を加熱する加熱工程を有する、アルジロダイト型結晶構造を有する固体電解質の製造方法が提供される。
4.8≦Li/P≦5.3 ・・・(11)
3.8≦S/P≦4.4 ・・・(12)
0<O/P≦0.8 ・・・(13)
1.0<X/P≦2.0 ・・・(14)
(式(11)はPに対するLiのモル比であり、式(12)はPに対するSのモル比であり、式(13)はPに対するOのモル比であり、式(14)はPに対するハロゲン(X)のモル比である。)
【0007】
また、本発明の一実施形態によれば、リチウム(Li)、リン(P)、硫黄(S)、酸素(O)及びハロゲン(X)を含むアルジロダイト型結晶構造を有する固体電解質であって、前記固体電解質中の全結晶に占めるLiPO結晶構造の割合が0.1質量%以上3.0質量%以下であり、下記式(21)~(23)を満たす、固体電解質が提供される。
4.8≦Li/P≦5.3 ・・・(21)
3.8≦S/P≦4.4 ・・・(22)
1.0<X/P≦2.0 ・・・(23)
(式(21)はPに対するLiのモル比であり、式(22)はPに対するSのモル比であり、式(23)はPに対するハロゲン(X)のモル比である。)
【0008】
本発明によれば、硫化水素の発生を抑えつつ、且つ、高いイオン伝導性を有する固体電解質及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】硫化水素発生量を測定する試験装置の概略構成図である。
図2】実施例1で得た固体電解質のX線回折(XRD)パターンである。
図3】実施例2で得た固体電解質のXRDパターンである。
図4】実施例3で得た固体電解質のXRDパターンである。
図5】実施例4で得た固体電解質のXRDパターンである。
図6】比較例1で得た固体電解質のXRDパターンである。
図7】比較例2で得た固体電解質のXRDパターンである。
図8】比較例3で得た固体電解質のXRDパターンである。
図9】比較例4で得た固体電解質のXRDパターンである。
図10】比較例5で得た固体電解質のXRDパターンである。
図11】実施例5で得た固体電解質のXRDパターンである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[第一実施形態]
本発明の一実施形態に係る固体電解質の製造方法は、下記の混合工程と、加熱工程と、を有し、アルジロダイト型結晶構造を有する固体電解質を製造する。
混合工程:リチウム(Li)、リン(P)、硫黄(S)、酸素(O)及びハロゲン(X)が、下記式(11)~(14)を満たすように原料を混合する工程
4.8≦Li/P≦5.3 ・・・(11)
3.8≦S/P≦4.4 ・・・(12)
0<O/P≦0.8 ・・・(13)
1.0<X/P≦2.0 ・・・(14)
(式(11)はPに対するLiのモル比であり、式(12)はPに対するSのモル比であり、式(13)はPに対するOのモル比であり、式(14)はPに対するハロゲン(X)のモル比である。)
加熱工程:混合工程により得られた混合物を加熱する工程
【0011】
本実施形態では、出発原料の組成を式(11)~(14)に調整することにより、従来のアルジロダイト型結晶構造とは異なり、結晶内の硫黄イオン(S2-)の量が減少し、ハロゲンイオン(Cl、Br等)が増加しているアルジロダイト型結晶構造が形成されると推定される。
アルジロダイト型結晶構造は、PS 3-構造を骨格の主たる単位構造とし、その周辺にあるサイトを、Liで囲まれたS2-及び任意にハロゲンイオンが占有している構造である。一般的なアルジロダイト型結晶構造は、空間群F-43Mで示される結晶構造である。該結晶構造は、結晶学的には、PS 3-構造の周辺に4aサイトと4dサイトが存在し、イオン半径の大きい元素は4aサイトを占有し易く、イオン半径の小さい元素は4dサイトを占有し易い。
【0012】
アルジロダイト型結晶構造の単位格子には、4aサイト及び4dサイトが合わせて8個ある。本願の発明者等は、アルジロダイト型結晶構造中のサイトを占有するS2-が、硫化水素発生の原因であると想定し、アルジロダイト型結晶構造におけるS2-の含有率を相対的に低くすることで、硫化水素の発生を低減できることを見出した。
一方、出発原料におけるSの量を、単純に少なくすると、加熱工程において一部の元素はアルジロダイト型結晶構造ではなく、β-LiPS等、アルジロダイト型結晶以外の結晶相を生成し、結果として、イオン伝導性が大きく低下することが確認された。
本発明者らが本課題の解決に向けて鋭意検討した結果、驚くべきことに上記式(11)~(14)の組成とし、出発原料にOを含ませることにより、加熱工程におけるβ-LiPS等のアルジロダイト型結晶以外の結晶相の生成が抑制され、結晶内のS2-の量が減少したアルジロダイト型結晶構造の量を増加することができ、その結果として、硫化水素の発生量を十分に抑制しつつ、イオン伝導性の高い固体電解質が得られることを見出した。
【0013】
混合工程における上記式(11)~(14)は、下記式を満たすことが好ましい。
4.85≦Li/P≦5.25
3.9≦S/P≦4.3
0.01≦O/P≦0.7
1.2≦X/P≦1.9
より好ましくは、混合工程における上記式(11)~(14)は、下記式を満たす。
4.9≦Li/P≦5.2
4.0≦S/P≦4.2
0.05≦O/P≦0.6
1.4≦X/P≦1.8
【0014】
本実施形態で使用する原料は、製造する固体電解質が必須として含む元素を所定のモル比で含むように、2種以上の化合物及び/又は単体を組み合わせて使用する。具体的に、Li、P、S、O及びハロゲン(X)を全体として含む2種以上の化合物及び単体を組み合わせて使用する。
【0015】
リチウムを含む原料としては、例えば、硫化リチウム(LiS)、酸化リチウム(LiO)、炭酸リチウム(LiCO)、水酸化リチウム(LiOH)等のリチウム化合物、及びリチウム金属単体等が挙げられる。中でも、原料の取り扱いやすさや反応容易性の観点からリチウム化合物が好ましく、LiSがより好ましい。
【0016】
リンを含む原料としては、例えば、三硫化二リン(P)、五硫化二リン(P)等の硫化リン、リン酸ナトリウム(NaPO)等のリン化合物、及びリン単体等が挙げられる。これらの中でも、取り扱いやすさや反応容易性の観点から硫化リンが好ましく、五硫化二リン(P)がより好ましい。五硫化二リン(P)等のリン化合物、リン単体は、工業的に製造され、販売されているものであれば、特に限定なく使用することができる。
【0017】
ハロゲン(X)を含む原料としては、例えば、式(M-X)で表される、ハロゲン化合物及び単体ハロゲンの少なくとも一つを用いることが好ましい。
式中、Mは、ナトリウム(Na)、リチウム(Li)、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、リン(P)、硫黄(S)、ゲルマニウム(Ge)、ヒ素(As)、セレン(Se)、スズ(Sn)、アンチモン(Sb)、テルル(Te)、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)、又はこれらの元素に酸素元素、硫黄元素が結合したものを示し、Li又はPが好ましく、Liがより好ましい。
Xは、F、Cl、Br及びIから選択されるハロゲン元素である。
また、lは1又は2の整数であり、mは1~10の整数である。mが2~10の整数の場合、すなわち、Xが複数存在する場合は、Xは同じであってもよいし、異なっていてもよい。例えば、後述するSiBrClは、mが4であって、XはBrとClという異なる元素からなるものである。
【0018】
ハロゲン化合物としては、具体的には、NaI、NaF、NaCl、NaBr等のハロゲン化ナトリウム;LiF、LiCl、LiBr、LiI等のハロゲン化リチウム;BCl、BBr、BI等のハロゲン化ホウ素;AlF、AlBr、AlI、AlCl等のハロゲン化アルミニウム;SiF、SiCl、SiCl、SiCl、SiBr、SiBrCl、SiBrCl、SiI等のハロゲン化ケイ素;PF、PF、PCl、PCl、POCl、PBr、POBr、PI、PCl、P等のハロゲン化リン;SF、SF、SF、S10、SCl、SCl、SBr等のハロゲン化硫黄;GeF、GeCl、GeBr、GeI、GeF、GeCl、GeBr、GeI等のハロゲン化ゲルマニウム;AsF、AsCl、AsBr、AsI、AsF等のハロゲン化ヒ素;SeF、SeF、SeCl、SeCl、SeBr、SeBr等のハロゲン化セレン;SnF、SnCl、SnBr、SnI、SnF、SnCl、SnBr、SnI等のハロゲン化スズ;SbF、SbCl、SbBr、SbI、SbF、SbCl等のハロゲン化アンチモン;TeF、Te10、TeF、TeCl、TeCl、TeBr、TeBr、TeI等のハロゲン化テルル;PbF、PbCl、PbF、PbCl、PbBr、PbI等のハロゲン化鉛;BiF、BiCl、BiBr、BiI等のハロゲン化ビスマス等が挙げられる。
【0019】
中でも、塩化リチウム(LiCl)、臭化リチウム(LiBr)、ヨウ化リチウム(LiI)等のハロゲン化リチウム、五塩化リン(PCl)、三塩化リン(PCl)、五臭化リン(PBr)、三臭化リン(PBr)等のハロゲン化リンが好ましく挙げられる。中でも、ハロゲン化リチウム又はPBrが好ましく、取り扱いやすさの観点からハロゲン化リチウムがより好ましく、イオン伝導度をより高める観点からLiClとLiBrがさらに好ましい。
ハロゲン化合物は、上記の化合物の中から一種を単独で用いてもよく、また、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
本実施形態において、上記原料が反応して得られる化合物を使用してもよい。例えば、LiSとPからLiPSを合成し、LiPS、LiO及びLiXを原料として用いてもよい。なお、LiPSは結晶でも非晶質でもよく、また、結晶と非晶質の混合物であってもよい。
【0021】
一実施形態では、原料としてLiO及びLiOHのいずれか一つ以上を用いることが好ましい。さらに、原料としてLiS、LiO、P及びLiX(Xはハロゲンである。)を用いることが好ましい。例えば、原料として、LiS、LiO、P及びLiXを使用する場合には、投入原料のモル比を、LiS:LiO:P:LiX=1.5~1.9:0.01~0.8:0.5:1.0~2.0とすることができる。
【0022】
混合工程では、上述した原料を混合する。
混合方法は特に限定はなく、公知の方法を採用できる。
本実施形態においては、上記の原料に機械的応力を加えて、混合すると同時に反応させてもよく、また、混合とともに粉砕してもよい。ここで、「機械的応力を加える」とは、機械的にせん断力や衝撃力等を加えることである。機械的応力を加える手段としては、例えば、遊星ボールミル、振動ミル、転動ミル、ビーズミル等の粉砕機や、一軸混錬機、多軸混錬機等の混練機を挙げることができる。
混合工程は、溶媒の存在下で実施してもよく(湿式混合)、また、溶媒を使用せずに実施してもよい(乾式混合)。
【0023】
乾式混合の場合、粉砕混合の条件としては、例えば、粉砕機として遊星ボールミルを使用した場合、回転速度を数十~数百回転/分とし、0.5時間~100時間処理すればよい。より具体的に、本願実施例で使用した遊星ボールミル(フリッチュ社製:型番P-7)の場合、遊星ボールミルの回転数は350rpm以上400rpm以下が好ましく、360rpm以上380rpm以下がより好ましい。
粉砕メディアであるボールは、例えば、ジルコニア製ボールを使用した場合、その直径は0.2~20mmが好ましい。
【0024】
一実施形態では、β-LiPSの生成を抑制できる可能性があるため、湿式混合が好ましい。
溶媒としては、有機溶媒を用いることができ、好ましくは非極性溶媒、極性溶媒又はこれらの混合溶媒が使用できる。非極性溶媒、又は、非極性溶媒を主成分とする溶媒、例えば、有機溶媒全体の95質量%以上が非極性溶媒であることが好ましい。
【0025】
非極性溶媒としては、炭化水素系溶媒が好ましい。炭化水素系溶媒としては、飽和炭化水素、不飽和炭化水素又は芳香族炭化水素が使用できる。
飽和炭化水素としては、ヘキサン、ペンタン、2-エチルヘキサン、ヘプタン、デカン、トリデカン、シクロヘキサン等が挙げられる。
不飽和炭化水素としては、ヘキセン、ヘプテン、シクロヘキセン等が挙げられる。
芳香族炭化水素としては、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、デカリン、1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン等が挙げられる。
これらのうち、トルエン又はキシレンが好ましい。
【0026】
炭化水素系溶媒は、あらかじめ脱水されていることが好ましい。具体的には、水分含有量として100質量ppm以下が好ましく、特に30質量ppm以下であることが好ましい。
【0027】
一実施形態では、有機溶媒がニトリル化合物及びエーテル化合物の少なくとも一方を含むことが好ましい。
エーテル化合物としては、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等が挙げられる。
ニトリル化合物としては、R(CN)で表されるニトリル化合物が好ましい。式中、Rは、炭素数が1以上10以下のアルキル基、又は環形成炭素数が6以上18以下の芳香環を有する基である。nは、1又は2である。
【0028】
例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル、3-クロロプロピオニトリル、ベンゾニトリル、4-フルオロベンゾニトリル、ターシャリーブチロニトリル、イソブチロニトリル、シクロヘキシルニトリル、カプロニトリル、イソカプロニトリル、マロノニトリル、フマルニトリルが挙げられる。好ましくはプロピオニトリル、イソカプロニトリル、イソブチロニトリルである。
例えば、ニトリル化合物はトルエンと共沸するため、乾燥時にトルエンとともに処理物から除去しやすいため好ましい。
有機溶媒に含まれるニトリル化合物及びエーテル化合物の量は、0.01~5質量%であることが好ましく、さらに、0.1~3質量%であることが好ましく、特に0.3~1質量%であることが好ましい。
【0029】
湿式混合ではビーズミルを使用することが好ましい。ビーズミルで混合粉砕することにより、各原料の粉砕粒径をより小さくできるため、加熱工程における各元素の拡散経路が縮まり、各元素がアルジロダイト型結晶構造を生成するために使用されやすくなり、その結果、LiPS結晶構造等の異相の生成が抑制されると考えられる。
【0030】
ビーズミルを使用した湿式混合後の処理物から、溶媒を除去して得られる原料の混合物は、主に微粒結晶により形成されている。原料を混合粉砕することにより、原料の微粒化が進行し、各原料の微粒結晶からなる混合物が得られる。
【0031】
原料の混合物は仮焼してもよい。一実施形態では、上記のように溶媒を除去して原料の混合物を得て、仮焼することから、粉体状の仮焼物が得られる。仮焼における加熱温度及び時間は、仮焼物の組成等を考慮して、適宜調整することができる。例えば、加熱温度は150℃~300℃が好ましく、さらに160℃~280℃が好ましく、特に170℃~250℃が好ましい。加熱時間は0.1~8時間が好ましく、さらに、0.2~6時間が好ましく、特に0.25~4時間が好ましい。
【0032】
仮焼で使用する加熱装置は特に限定はない。例えば、FMミキサ、ナウタミキサ等の剪断式の乾燥機、ハースキルン等の静置式の炉、ロータリーキルン等の回転式の炉が挙げられる。なお、仮焼前に乾燥を行ってよく、乾燥と仮焼を同時に行ってもよい。仮焼の雰囲気は特に限定しないが、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下が好ましい。
【0033】
原料の混合物を溶媒中で仮焼する場合、仮焼に用いる溶媒としては、上述した非極性溶媒、極性溶媒又はこれらの混合溶媒が使用できる。混合物が溶媒に分散されたスラリーに対して加熱を行う。仮焼に用いる溶媒としては、原料の混合等で用いた溶媒と、同じものを用いてもよく、また、異なるものを用いてもよい。同じものを用いる場合は、溶媒を除去する工程が不要であるため好ましい。
【0034】
仮焼における加熱温度及び時間は、原料の組成等を考慮して、適宜調整することができる。例えば、加熱温度は150℃~300℃が好ましく、160℃~280℃がより好ましく、さらに170℃~270℃が好ましく、特に180℃~260℃が好ましい。上記の温度範囲とすることにより、PS構造が形成され、ハロゲンがアルジロダイト型結晶構造中に取り込まれやすくなる。微粒結晶の原料混合物を溶液中で仮焼することから、比較的低温でPS構造を含む結晶を形成することが可能となる。
加熱時間は10分~6時間が好ましく、さらに、10分~3時間が好ましく、特に30分~2時間が好ましい。
仮焼で使用する加熱装置は特に限定はないが、加熱温度が使用する溶媒の沸点を超える場合は、オートクレーブを使用することが好ましい。
【0035】
仮焼に用いたスラリーから溶媒を除去して仮焼物を回収する。溶媒除去の方法は特に限定されないが、常圧下又は減圧下にて溶媒を留去することができる。また、より生産性を上げるために、ろ過を併用することも可能である。
【0036】
加熱工程により、混合工程で得た混合物又は仮焼物を加熱することで、固体電解質が得られる。加熱温度及び時間は、混合物及び仮焼物の組成等を考慮して、適宜調整することができる。例えば、加熱温度は300℃~470℃が好ましく、300℃を超えて460℃以下がより好ましく、より320℃~450℃が好ましく、さらに350℃~440℃が好ましく、特に380℃~430℃が好ましい。
加熱時間は1~360分が好ましく、さらに、5~120分が好ましく、特に10~60分が好ましい。
加熱時の雰囲気は特に限定しないが、好ましくは硫化水素気流下ではなく、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下である。加熱工程には、静置式のハースキルン、回転式のロータリーキルン等の焼成炉を用いることができる。
仮焼物を加熱する場合、加熱に用いる溶媒としては、上述した非極性溶媒、極性溶媒又はこれらの混合溶媒が使用できる。仮焼物が溶媒に分散されたスラリーに対して加熱を行う。加熱に用いる溶媒としては、仮焼等で用いた溶媒と、同じものを用いてもよく、また、異なるものを用いてもよい。同じものを用いる場合は、加熱前に溶媒の置換や除去を行う工程が不要であるため好ましい。また、仮焼と同様に、加熱温度が使用する溶媒の沸点を超える場合は、オートクレーブを使用することが好ましい。
【0037】
本実施形態の製法で得られる固体電解質が、アルジロダイト型結晶構造を含むことは、CuKα線を使用した粉末X線回折測定において、2θ=25.2±0.5deg及び29.7±0.5degに回折ピークを有することで確認できる。
2θ=25.2±0.5deg及び29.7±0.5degの回折ピークは、アルジロダイト型結晶構造に由来するピークである。
アルジロダイト型結晶構造の回折ピークは、例えば、2θ=15.3±0.5deg、17.7±0.5deg、31.1±0.5deg、44.9±0.5deg、47.7±0.5degにも現れることがある。固体電解質は、これらのピークを有していてもよい。
【0038】
なお、本願において回折ピークの位置は、中央値をAとした場合、A±0.5deg又はA±0.4degで判定しているが、A±0.3degであることが好ましい。例えば、上述した2θ=25.2±0.5degの回折ピークの場合、中央値Aは25.2degであり、2θ=25.2±0.3degの範囲に存在することが好ましい。本願における他のすべての回折ピーク位置の判定についても同様である。
【0039】
固体電解質は、上記のようなアルジロダイト型結晶構造のX線回折パターンを有していれば、その一部に非晶質成分が含まれていてもよい。非晶質成分は、X線回折測定においてX線回折パターンが実質的に原料由来のピーク以外のピークを示さないハローパターンを示す。また、アルジロダイト型結晶構造以外の結晶構造や原料を含んでいてもよい。
【0040】
[第二実施形態]
本実施形態に係る固体電解質は、構成元素として、リチウム(Li)、リン(P)、硫黄(S)、酸素(O)及びハロゲン(X)を含むアルジロダイト型結晶構造を有し、前記固体電解質中の全結晶に占めるLiPO結晶構造の割合が0.1質量%以上3.0質量%以下であり、下記式(21)~(23)を満たす。
4.8≦Li/P≦5.3 ・・・(21)
3.8≦S/P≦4.4 ・・・(22)
1.0<X/P≦2.0 ・・・(23)
(式(21)はPに対するLiのモル比であり、式(22)はPに対するSのモル比であり、式(23)はPに対するハロゲン(X)のモル比である。)
【0041】
上記式(21)~(23)は、下記式を満たすことが好ましい。
4.85≦Li/P≦5.25
3.9≦S/P≦4.3
1.2≦X/P≦1.9
より好ましくは、上記式(21)~(23)は、下記式を満たす。
4.9≦Li/P≦5.2
4.0≦S/P≦4.2
1.4≦X/P≦1.8
【0042】
固体電解質中の全結晶に占めるLiPO結晶構造の割合は0.1質量%以上3.0質量%以下である。この範囲であれば、高いイオン伝導度を維持しつつ、硫化水素の発生を抑制することが可能である。
LiPO結晶構造の割合は0.3質量%以上であることが好ましく、さらに、0.5質量%以上であることが好ましい。また、LiPO結晶構造の割合は2.0質量%以下であることが好ましく、さらに、1.5質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以下であることがより好ましい。
【0043】
一実施形態では、固体電解質中の全結晶に占めるアルジロダイト型結晶構造の割合は90質量%以上である。これにより、高いイオン伝導度を発現することが可能となる。
アルジロダイト型結晶構造の割合は93質量%以上であることが好ましく、さらに、95質量%以上であることが好ましく、96質量%以上であることがより好ましく、特に、97質量%以上であることが好ましい。
【0044】
一実施形態では、固体電解質中の全結晶に占めるβ-LiPS結晶構造の割合が5.0質量%以下である。好ましくは4.0質量%以下であり、より好ましくは3.0質量%以下である。
【0045】
固体電解質中の全結晶に占めるアルジロダイト型結晶構造、LiPO結晶構造及びβ-LiPS結晶構造の割合は、評価例のように放射光分析により求めた値である。
【0046】
本実施形態の式(21)~(23)の組成は、原料の配合を調整することにより実現できる。例えば、硫化リチウム(LiS)の配合量を減らすことによりSのモル比を下げ、酸化リチウム(LiO)を配合することでLi及びOのモル比を調整できる。
本実施形態に係る固体電解質は、例えば、上述した第一実施形態の製造方法により得られる。
【0047】
本実施形態の固体電解質において、ハロゲン(X)としては、F、Cl、Br、I等が挙げられる。固体電解質に含まれるハロゲン(X)の種類は、1種でもよく、また、2種以上でもよいが、2種であることがより好ましい。
Xのうち少なくとも1種がCl又はBrであることが好ましく、さらに、XがCl及びBrを含むことが好ましい。
【0048】
一実施形態の固体電解質では、上記Li、P、S、O及びハロゲン(X)の他に、H、Si、Ge、Sn、Pb、B、Al、Ga、As、Sb及びBiからなる群より選択される1以上の元素を、発明の効果を損なわない程度において含有することができる。
【0049】
一実施形態において、固体電解質は下記式(A)で表される組成を有する。
Li ・・・(A)
(式中、Xはハロゲンであり、a~eは各元素の組成比を示し、4.8≦a≦5.3、b=1、3.8≦c≦4.4、0<d≦0.8、1<e≦2.0を満たす。)
【0050】
式(A)のXは、F、Cl、Br及びIからなる群から選択される1種でもよく、また、2種以上(x、・・・、x:nは2以上4以下の整数)でもよい。Xは、2種(x、x)からなることがより好ましい。各元素のモル比は特に限定されない。
式(A)のXは、Cl及びBrであることが好ましい。
【0051】
本願において、固体電解質における各元素のモル比や組成は当業者にとって知られている種々の手法により測定することが可能であるが、分析困難である等の特別な事情を除いて、ICP発光分析法で測定することができる。例えば、本願記載の固体電解質の場合、酸素以外の元素のモル比や組成は、ICP発光分析法で測定することが可能である。
各元素のモル比は、原料における各元素の含有量を調整することにより制御できる。
【0052】
一実施形態に係る固体電解質においては、アルジロダイト型結晶構造の格子定数は硫化水素発生をより抑制する観点から好ましくは9.820Å以下、より好ましくは9.815Å以下、さらに好ましくは9.811Å以下、特に好ましくは9.810Å以下である。格子定数が上記範囲にあれば、アルジロダイト型結晶構造における4a及び4dサイト中の硫黄元素が十分に低減され、よりイオン半径の小さいハロゲン元素により置換されていることを示していると推測される。
なお、格子定数は実施例に記載の放射光分析により測定することができる。
【0053】
一実施形態に係る固体電解質においては、イオン伝導性をより高める観点から、アルジロダイト型結晶構造に由来する2θ=25.2±0.5degの回折ピークに対する、LiPS結晶構造に由来する回折ピークのピーク強度の比率が、0.04未満であることが好ましい。
これは、アルジロダイト型結晶構造と比較して、LiPSのイオン伝導性が低いため、固体電解質におけるLiPS結晶構造の含有率が下がるほど、イオン伝導性の低下を抑制できるからである。
【0054】
既に述べた通り、通常、硫化水素発生を抑制するために固体電解質の原料におけるLiS量を低減すると、アルジロダイト型結晶構造を生成するために必要な硫黄元素が欠乏し、LiPS等、他の結晶相が生成しやすくなるが、本発明者らは、特定の比率で原料を混合することにより、LiPSの生成量を抑えてアルジロダイト型結晶構造自体の硫黄元素含有量を低減することに成功し、硫化水素発生の抑制とイオン伝導性をより高い次元で両立することを可能とした。
【0055】
この点、特許文献1に記載の発明においては、LiSを低減したことによりLiPSに由来するピーク強度比が増大しており、本発明の一実施形態のようにアルジロダイト型結晶構造自体から硫黄元素が低減しているのではなく、元素が低減した分がアルジロダイト型結晶構造ではなくLiPS等、他の結晶構造に変化しているものと考えられる。
【0056】
また、硫黄元素の含有量を低減して硫化水素の発生量を低減しつつ、加熱工程において酸素元素を存在させることでアルジロダイト型結晶構造を保ち、高いイオン伝導性を発現させている。特許文献2においては、加熱によりアルジロダイト型結晶構造を生成した後にLiOを添加しているにすぎず、第一実施形態のようにアルジロダイト型結晶構造を形成する加熱工程において酸素元素が存在するわけではない。そのため、第一実施形態のように、硫化水素の発生量を低減しつつ高いイオン伝導性を発現することは困難である。
【0057】
本発明の固体電解質は、リチウムイオン電池等に使用できる。具体的には、電池の固体電解質層、正極、負極等に用いることができる。
一実施形態において、リチウムイオン電池用電極は固体電解質の他に、公知の活物質、導電助剤等を配合できる。また、結着剤を配合してもよい。
一実施形態に係るリチウムイオン電池は、本発明の固体電解質を含む。
一実施形態において、リチウムイオン電池は全固体電池である。
一実施形態において、全固体電池は、正極集電体、正極、電解質層、負極及び負極集電体をこの順に含む積層体を含む。リチウムイオン電池は、正極、電解質層及び負極からなる群から選ばれる1以上が本発明の固体電解質を含むことが好ましい。
【実施例
【0058】
以下、本発明を実施例により、さらに詳細に説明する。
なお、評価方法は以下のとおりである。
【0059】
(1)固体電解質の硫化水素(HS)発生量
試験装置の概略構成図を図1に示す。
試験装置1は、窒素を加湿するフラスコ10と、加湿した窒素と加湿しない窒素とを混合するスタティックミキサー20と、混合した窒素の水分を測定する露点計30(VAISALA社製M170/DMT152)と、測定試料を設置する二重反応管40と、二重反応管40から排出される窒素の水分を測定する露点計50と、排出された窒素中に含まれる硫化水素濃度を測定する硫化水素計測器60(AMI社製 Model3000RS)とを、主な構成要素とし、これらを管(図示せず)にて接続した構成としてある。フラスコ10の温度は冷却槽11により10℃に設定されている。
なお、各構成要素を接続する菅には直径6mmのテフロン(登録商標)チューブを使用した。本図では管の表記を省略し、代わりに窒素の流れを矢印で示してある。
【0060】
評価の手順は以下のとおりとした。
露点を-80℃とした窒素グローボックス内で、粉末試料41を約1g秤量し、石英ウール42で挟むように反応管40内部に設置し密封した。なお、反応管40内部は室温(25℃)程度に保持した。
【0061】
窒素源(図示せず)から0.02MPaで窒素を装置1内に供給した。供給された窒素は、二又分岐管BPを通過して、一部はフラスコ10に供給され加湿される。その他は加湿しない窒素としてスタティックミキサー20に直接供給される。なお、窒素のフラスコ10への供給量はニードルバルブVで調整される。
【0062】
加湿しない窒素及び加湿した窒素の流量を、ニードルバルブ付きフローメーターFMで調整することにより露点を制御する。具体的に、加湿しない窒素の流量を800mL/min、加湿した窒素の流量を10~30mL/minで、スタティックミキサー20に供給し、混合して、露点計30にて混合ガス(加湿しない窒素及び加湿した窒素の混合物)の露点を確認した。
【0063】
露点を-30℃に調整した後、三方コック43を回転して、混合ガスを反応管40内部に2時間流通させた。試料41を通過した混合ガスに含まれる硫化水素量を、硫化水素計測器60で測定し、固体電解質1g当たりの硫化水素発生量(cc/g)を算出した。なお、硫化水素量は15秒間隔で記録した。また、参考のため曝露後の混合ガスの露点を露点計50で測定した。測定後の窒素から硫化水素を除去するため、アルカリトラップ70を通過させた。
【0064】
(2)固体電解質のイオン伝導度測定
試料を錠剤成形機に充填し、22MPaの圧力を加え成形体とした。電極としてカーボンを成形体の両面に乗せ、再度錠剤成形機にて圧力を加えることで、測定用の成形体(直径約10mm、厚み0.1~0.2cm)を作製した。この成形体について交流インピーダンス測定によりイオン伝導度を測定した。伝導度の値は25℃における数値を採用した。
【0065】
(3)X線回折(XRD)測定
各例で製造したアルジロダイト型固体電解質の粉末を、直径20mm、深さ0.2mmの溝にガラスを用いて溝に均一に充填し試料とした。この試料を、XRD用カプトンフィルムで空気に触れさせずに測定した。回折ピークの2θ位置は、XRD解析プログラムRIETAN-FPを用いてLe Bail解析にて決定した。
株式会社BRUKERの粉末X線回折測定装置D2 PHASERを用いて以下の条件にて実施した。
なお、粉末X線回折測定装置は25℃に温度管理をした部屋に設置した。
管電圧:30kV
管電流:10mA
X線波長:Cu-Kα線(1.5418Å)
光学系:集中法
スリット構成:ソーラースリット4°、発散スリット1mm、
Kβフィルター(Ni板)使用
検出器:半導体検出器
測定範囲:2θ=10-60deg
ステップ幅、スキャンスピード:0.05deg、0.05deg/sec
測定結果より結晶構造の存在を確認するためのピーク位置の解析では、XRD解析プログラムRIETAN-FPを用い、11次のルジャンドル直交多項式にてベースラインを補正し、ピーク位置を求めた。
【0066】
(4)ICP測定
各例で製造した固体電解質の粉末を秤量し、アルゴン雰囲気中で、バイアル瓶に採取した。バイアル瓶にKOHアルカリ水溶液を入れ、硫黄分の捕集に注意しながらサンプルを溶解し、適宜希釈、測定溶液とした。これを、パッシェンルンゲ型ICP-OES装置(SPECTRO社製SPECTRO ARCOS)にて測定し、組成を決定した。
検量線溶液は、Li、P、SはICP測定用1000mg/L標準溶液を、Cl、Brはイオンクロマトグラフ用1000mg/L標準溶液を用いて調製した。
各試料で2つの測定溶液を調整し、各測定溶液で5回の測定を行い、平均値を算出した。その2つの測定溶液の測定値の平均で組成を決定した。
【0067】
製造例1
[硫化リチウム(LiS)の製造]
LiSの製造及び精製は、下記のように行った。
非水溶性媒体としてトルエン(住友商事株式会社製)を脱水処理し、カールフィッシャー水分計にて測定し水分量が100ppmとなったもの303.8kgを窒素気流下で500Lステンレス製反応釜に加え、続いて無水水酸化リチウム33.8kg(本荘ケミカル株式会社製)を投入し、ツインスター撹拌翼にて131rpmで撹拌しながら、95℃に保持した。
スラリー中に硫化水素(住友精化株式会社製)を100L/minの供給速度で吹き込みながら104℃まで昇温した。反応釜からは、水とトルエンの共沸ガスが連続的に排出された。この共沸ガスを、系外のコンデンサで凝縮させることにより脱水した。この間、留出するトルエンと同量のトルエンを連続的に供給し、反応液レベルを一定に保持した。
凝縮液中の水分量は徐々に減少し、硫化水素導入後24時間で水の留出は認められなくなった。なお、反応の間は、トルエン中に固体が分散して撹拌された状態であり、トルエンから分層した水分は無かった。
この後、硫化水素を窒素に切り替え100L/minで1時間流通した。
得られた固形分をろ過及び乾燥して、白色粉末であるLiSを得た。
【0068】
実施例1
出発原料として、製造例1のLiS、P、LiBr(本荘ケミカル社製)、LiCl(本荘ケミカル社製)及びLiO(富士フイルム和光純薬(株)製)を出発原料に用いた。ピンミルにより粗粉砕した出発原料のmol比(LiS:P:LiCl:LiBr:LiO)が1.65:0.5:1.0:0.6:0.05となるように、各原料を混合した。具体的には、LiS 0.402g、P 0.589g、LiCl 0.225g、LiBr 0.276g、LiO 0.008gを混合した。
混合物と、直径10mmのジルコニア製ボール30gとを、遊星ボールミル(フリッチュ社製:型番P-7)のジルコニア製ポット(45mL)に入れ、完全密閉した。ポット内は窒素雰囲気とした。遊星ボールミルで回転数を150rpmにして10分処理(プレミキシング)した。その後、370rpmで15時間処理(メカニカルミリング)し、原料混合物の粉末を得た。
原料混合物約1.5gをAr雰囲気下のグローブボックス内で、タンマン管(PT2、東京硝子機器株式会社製)内に詰め、電気炉内に入れ加熱した。具体的には、室温から380℃まで1時間で昇温し、そこから430℃まで30分間で昇温し、430℃で2時間保持した。その後、電気炉から取り出し放冷し、固体電解質を得た。
【0069】
原料のモル比、各元素のモル比、得られた固体電解質の硫化水素発生量及びイオン伝導度を表1に示す。
固体電解質のXRDパターンを図2に示す。2θ=15.6deg、18.1deg、25.6deg、30.1deg、31.5deg、45.1degにアルジロダイト型結晶構造の回折ピークが観測された。
【0070】
実施例2~4、比較例1~5
出発原料のモル比を表1に示すように変更した他は、実施例1と同様にして固体電解質を作製し評価した。結果を表1に示す。実施例2~4及び比較例1~5で得た固体電解質のXRDパターンをそれぞれ図3~10に示す。
実施例2では、2θ=15.6deg、18.1deg、25.6deg、30.1deg、31.5deg、45.1degにアルジロダイト型結晶構造の回折ピークが観測された。実施例2の固体電解質ではLiPOに由来する回折ピークも観測された。
実施例3では、2θ=15.7deg、18.1deg、25.6deg、30.1deg、31.5deg、45.1degにアルジロダイト型結晶構造の回折ピークが観測された。
実施例4では、2θ=15.7deg、18.1deg、25.7deg、30.2deg、31.6deg、45.1degにアルジロダイト型結晶構造の回折ピークが観測された。
実施例2,4及び比較例1,2,5について、ICP測定により固体電解質の組成を求めた結果を表2に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【0073】
実施例5
実施例1と同じLiS、P、LiCl及びLiBrと、LiOH(本荘ケミカル(株)製の水酸化リチウム・一水和物を、乾燥して水酸化リチウムとしたもの)を出発原料に用いた。ピンミルにより粗粉砕した出発原料のmol比(LiS:P:LiCl:LiBr:LiOH)が1.6:0.5:1.0:0.6:0.2となるように、各原料を混合した。具体的には、LiS 0.3884g、P 0.5871g、LiCl 0.224g、LiBr 0.2753g、LiOH 0.0253gを混合した。
以下、実施例1と同様に、遊星ボールミルで処理して原料の混合物とし、混合物を熱処理することにより固体電解質を得た。評価結果を表3に示す。
固体電解質のXRDパターンを図11に示す。2θ=15.6deg、18.0deg、25.6deg、30.1deg、31.5deg、45.0degにアルジロダイト型結晶構造の回折ピークが観測された。
【0074】
【表3】
【0075】
表1において、比較例1~3ではLiSの仕込み量により、固体電解質におけるSのモル比を変化させている。比較例1はアルジロダイト型結晶構造を有する固体電解質のなかでも、イオン伝導度の高いものに属する。イオン伝導度は優れているが、硫化水素発生量が多いことが分かる。実施例1~4及び比較例4、5では、LiSの仕込み量を減らす一方で、LiOを添加している。その結果、比較例2と固体電解質のS量(モル比が4.1)が同じであるにも関わらず、実施例2ではイオン伝導度が十分に高く、かつ、硫化水素発生量も大幅に抑制できた。実施例4と比較例3からも同様な傾向が確認できる。
一方、さらにLiOを添加した比較例4及び5では、硫化水素発生量が多くなった。従って、固体電解質におけるSの含有率をLiSの使用量を減らすことで低下させる場合、所定量のLiOを添加することが有効であることが確認できた。
また、LiOを添加する代わりにLiOHを添加した実施例5でも、実施例2と同様の効果が得られており、いずれの原料も用いることが可能であることが確認できた。
【0076】
評価例
実施例2、4及び比較例1、4、5について、放射光分析を実施し、アルジロダイト型結晶構造の格子定数、固体電解質中の全結晶に占める、アルジロダイト型結晶構造、LiPO結晶構造及びβ-LiPS結晶構造の割合を分析した。具体的に、以下の条件で測定を行った。
実施例2、4、比較例1、4及び5で製造した固体電解質の粉末を、グローボックス内にて0.3mmΦキャピラリーに装填し、キャピラリー先端を硬化性樹脂にて封止し、放射光分析用の試料とした。
【0077】
SPring-8の粉末回折測定用ビームライン「BL19B2」を用いて以下の条件にて測定を実施した。なお、測定の際はリガク社製窒素ガス吹付型試料冷却装置を用いて前記試料に100Kの窒素ガスを1分間吹き付け、その状態を保ったまま測定した。
X線エネルギー:25keV
光学系:透過法
検出器:1次元固体Si検出器MYTHEN(12連)
検出器閾値:19keV
測定範囲:2θ=4-60deg
ステップ幅:0.005deg
露光時間:30秒×2回
【0078】
測定データはBL19B2専用のスクリプトを用いて0.005°間隔にデータ補正し、そのデータを用いて解析した。
結晶構造を確認するためのピーク位置の解析では、リガク社製XRD解析プログラムPDXL2(Version 2.7.3.0)を用い、PDXL自動プロファイル処理により求めた。結晶構造の格子定数及び存在割合を決定するための解析では、リガク社製XRD解析プログラムPDXL2(Version 2.7.3.0)を用い、リートベルト解析にて以下の関数を用いて結晶構造の格子定数及び存在割合を求めた。
ピーク形状:分割型擬Voigt関数
バックグラウンド:β-スプライン関数
ピークシフト:装置関数(Δ2θ=Z+Dcosθ+Tsin2θ)
【0079】
なお、格子定数の解析においては、X線エネルギーの値を補正した上で解析を行った。具体的には、上記の測定条件のうち、温度を300K、露光時間を20秒に変更してCeOを測定し、当該測定結果を上記の解析条件でリートベルト解析し、格子定数が5.41165ÅとなるようX線エネルギーの値を補正した。
また、ピーク形状の解析においては、アルジロダイト型結晶構造に用いたプロファイル関数と同一の関数を、アルジロダイト型結晶構造以外の結晶にも適用して解析した。
また、リートベルト解析においては、Rwp値が10%以下になることを結果の妥当性の目安とした。
結果を表4に示す。
【0080】
【表4】
【0081】
表4から、比較例と比べて、実施例2、4の格子定数が小さくなっていることが確認できる。これは、実施例のアルジロダイト型結晶構造の内部において、イオン半径の大きい硫黄イオン(S2-)が欠落し、代わりに、イオン半径の小さいハロゲンイオンが4a又は4dサイトの一つ以上を占めたため、格子定数が小さくなったと推定できる。
【0082】
上記に本発明の実施形態及び/又は実施例を幾つか詳細に説明したが、当業者は、本発明の新規な教示及び効果から実質的に離れることなく、これら例示である実施形態及び/又は実施例に多くの変更を加えることが容易である。従って、これらの多くの変更は本発明の範囲に含まれる。
この明細書に記載の文献、及び本願のパリ条約による優先権の基礎となる出願の内容を全て援用する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11