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特許7584253油脂加工澱粉組成物、揚げ物衣材用ミックス粉及び揚げ物並びにこれらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】油脂加工澱粉組成物、揚げ物衣材用ミックス粉及び揚げ物並びにこれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 29/212 20160101AFI20241108BHJP
   A23L 7/157 20160101ALI20241108BHJP
   A23L 5/10 20160101ALI20241108BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20241108BHJP
【FI】
A23L29/212
A23L7/157
A23L5/10 E
A23L5/00 N
A23L5/00 L
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020136238
(22)【出願日】2020-08-12
(65)【公開番号】P2022032448
(43)【公開日】2022-02-25
【審査請求日】2023-06-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000231637
【氏名又は名称】株式会社ニップン
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100215670
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 直毅
(72)【発明者】
【氏名】河内 良太
(72)【発明者】
【氏名】臼井 千聡
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-160312(JP,A)
【文献】特開2018-171050(JP,A)
【文献】国際公開第2016/010060(WO,A1)
【文献】特許第6697658(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 29/212
A23L 7/157
A23L 5/10
A23L 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂加工澱粉、油脂及び乳化剤を含む粉体混合物であり
前記油脂及び前記乳化剤の合計量に対する前記油脂の含有割合が22~97質量%であり、
前記油脂及び前記乳化剤の合計量が前記油脂加工澱粉100質量部に対して0.05~17質量部である、
油脂加工澱粉組成物。
【請求項2】
前記油脂及び前記乳化剤の合計量が前記油脂加工澱粉100質量部に対して0.5~5質量部である、
請求項1に記載の粉体混合物である油脂加工澱粉組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の油脂加工澱粉組成物を含有する、揚げ物衣材用ミックス粉。
【請求項4】
請求項1若しくは2に記載の油脂加工澱粉組成物又は請求項に記載の揚げ物衣材用ミックス粉を使用してなる、揚げ物。
【請求項5】
油脂及び乳化剤を混合して、前記油脂を22~97質量%含む油脂-乳化剤混合物を得る工程、及び
油脂加工澱粉100質量部に対して0.05~17質量部の前記油脂-乳化剤混合物を混合する工程を含む、
粉体混合物である油脂加工澱粉組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項に記載の方法によって得られた油脂加工澱粉組成物を使用する、揚げ物衣材用ミックス粉の製造方法。
【請求項7】
請求項に記載の方法によって得られた油脂加工澱粉組成物又は請求項に記載の方法によって得られた揚げ物衣材用ミックス粉を使用する、揚げ物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油脂加工澱粉組成物、揚げ物衣材用ミックス粉及び揚げ物並びにこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フライやから揚げ等の揚げ物は、揚げ種をバッター等の衣材で被覆した後、適度に加熱した油槽で油ちょう(乾熱加熱)することにより製造される。揚げ種と衣との結着性が低い場合、しばしば揚げ物から衣が剥がれることがあり、これは外観や食感等の品質が低下する原因の一つとなる。従って、揚げ物には、揚げ種と衣との結着性が高く、衣が揚げ種から剥がれにくいことが求められている。このような問題を解決するために、油脂加工澱粉を衣材に使用して、揚げ種からの衣剥がれを抑制することが提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2)。
【0003】
油脂加工澱粉とは、澱粉の表面に油脂を付着させた後、加熱熟成して得られる加工澱粉である。そのため、油脂加工澱粉の表面は疎水的な性質を有している。このような油脂加工澱粉を揚げ物用バッター液に用いる場合、油脂加工澱粉の水分に対する分散性が悪いために、バッター調製時においてダマが出来やすくなり、その結果バッターのロット間で粘性が安定し難く、揚げ種への衣材の付着量にムラが生じる等、作業性が悪くなることがあった。これらの問題を解決するために、油脂加工澱粉の製造において、油脂と乳化剤の両方を用いて澱粉を処理する方法が検討されている。例えば、特許文献3には、原料澱粉に食用油脂及び乳化剤を添加及び混合した後、40℃以上に加温して油脂加工澱粉を製造することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-174535号公報
【文献】特開2019-195305号公報
【文献】特開2005-73506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このようにして得られる油脂加工澱粉は、乳化剤を使用せず油脂のみを使用して得られる油脂加工澱粉よりも水分への分散性がある程度改善されるものの、分散性、揚げ種との結着性、揚げ物の食感に関して更なる改良が求められている。
【0006】
本発明の目的は、バッターを調製する際に、水分への分散性に優れ、ダマが出来難く、かつ揚げ種との結着性を良好にし、揚げ物の食感を良好にすることができる油脂加工澱粉組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、油脂加工澱粉、油脂及び乳化剤を含む油脂加工澱粉組成物において、油脂及び乳化剤の合計量に対する油脂の含有割合を特定の割合とし、油脂及び乳化剤の合計量を特定の量とすることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の態様を包含する。
[1]油脂加工澱粉、油脂及び乳化剤を含み、
前記油脂及び前記乳化剤の合計量に対する前記油脂の含有割合が22~97質量%であり、
前記油脂及び前記乳化剤の合計量が前記油脂加工澱粉100質量部に対して0.05~17質量部である、
油脂加工澱粉組成物。
[2][1]に記載の油脂加工澱粉組成物を含有する、揚げ物衣材用ミックス粉。
[3][1]に記載の油脂加工澱粉組成物又は[2]に記載の揚げ物衣材用ミックス粉を使用してなる、揚げ物。
[4]油脂及び乳化剤を混合して、前記油脂を22~97質量%含む油脂-乳化剤混合物を得る工程、及び
油脂加工澱粉100質量部に対して0.05~17質量部の前記油脂-乳化剤混合物を混合する工程を含む、
油脂加工澱粉組成物の製造方法。
[5][4]に記載の方法によって得られた油脂加工澱粉組成物を使用する、揚げ物衣材用ミックス粉の製造方法。
[6][4]に記載の方法によって得られた油脂加工澱粉組成物又は[5]に記載の方法によって得られた揚げ物衣材用ミックス粉を使用する、揚げ物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、バッターを調製する際に、水分への分散性に優れ、ダマが出来難く、かつ揚げ種との結着性を良好にし、揚げ物の食感を良好にすることができる油脂加工澱粉組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。
【0011】
〔油脂加工澱粉組成物〕
本発明の油脂加工澱粉組成物は、油脂加工澱粉、油脂及び乳化剤を含む。本発明において、油脂及び乳化剤は、油脂加工澱粉に由来するものを含まないものとする。すなわち、本発明の油脂加工澱粉組成物は、油脂及び乳化剤が、油脂加工澱粉に対して外割で含まれている。本発明の油脂加工澱粉組成物は、バッターを調製する際に、水分への分散性に優れ、ダマが出来難く、かつ揚げ種との結着性を良好にし、揚げ物の食感を良好にすることができるため、揚げ物バッター用油脂加工澱粉組成物であることが好ましい。
【0012】
〔油脂加工澱粉〕
本発明において、油脂加工澱粉とは、澱粉及び食用油脂を混合して澱粉の表面に油脂を付着させた後、任意に乾燥し、加熱熟成(油脂加工)して得られるものをいう。
油脂加工澱粉の原料となる澱粉としては、特に限定されず、一般に食用に供される澱粉であればいずれも好適に使用することができ、例えば、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、小麦澱粉、米澱粉、甘藷澱粉、緑豆澱粉、サゴ澱粉等、並びにこれらのワキシー種及びハイアミロース種の未変性澱粉、並びにその未変性澱粉にα化、エーテル化、エステル化、架橋、酸化等の変性処理から選択される1種以上の変性処理を施した変性澱粉が挙げられる。上記澱粉は、これらのうちの1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0013】
油脂加工澱粉の原料となる油脂としては、特に限定されず、一般に食用に供される油脂であればいずれも好適に使用することができ、例えば、大豆油、菜種油、サフラワー油、エゴマ油、シソ油、コーン油、ヒマワリ油、綿実油、ゴマ油、オリーブ油、ヤシ油、米油、亜麻仁油、パーム油等の植物性油脂、魚油、牛脂、豚脂(ラード油)、鶏脂等の動物性油脂、これらを2種類以上組み合わせた混合油脂、及びこれらの油脂のうち1種又は2種以上の組み合わせに分別操作、エステル交換、水素添加等の加工処理を行った加工油脂等が挙げられる。上記油脂は、これらのうちの1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0014】
油脂加工澱粉の製造において、油脂の使用量は、澱粉100質量部に対して0.005~10質量部であることが好ましく、0.01~1質量部であることがより好ましい。また、油脂の代わりに、前記植物性油脂を分離精製する前の油糧種子を粉砕した油糧種子粉砕物を使用してもよい。この場合、澱粉に対する油脂の割合は、油糧種子に含まれる油脂の割合から適宜換算して求めることができる。
【0015】
澱粉の表面に油脂を付着させる手法としては、特に限定されず、例えば、ミキサー等で機械的に澱粉を撹拌しながら油脂を徐々に添加して撹拌混合する手法、澱粉を気流中に均一分散させて油脂をスプレー噴射する手法等、公知の手法を用いることができる。
【0016】
表面に油脂を付着させた澱粉を加熱熟成する手法としては、特に限定されず、例えば、樹脂製容器に密封して恒温室内に静置する等、公知の手法を用いることができる。加熱熟成は、通例、30~130℃で1時間~25日間程度行われるが、使用する澱粉と油脂の性状及び加熱熟成中の状態変化を鑑みて、適宜加熱温度や熟成時間を調節することができる。
【0017】
上記油脂加工澱粉は、澱粉を油脂と油脂以外の他の任意成分との存在下で油脂加工したものであってもよい。上記任意成分としては、各種HLB値の乳化剤;アミラーゼ、セルラーゼ、リパーゼ、リポキシゲナーゼ等の酵素製剤;小麦蛋白、卵白及び/又は卵黄由来の卵蛋白、乳蛋白、大豆蛋白、緑豆蛋白等の蛋白質材料;小麦粉、大麦粉、米粉、大豆粉等の穀粉;有機酸及びその塩、アスコルビン酸及びその塩等のpH調整剤等が挙げられる。中でも、上記油脂加工澱粉は、バッター作製時のダマの発生を効果的に抑制する観点からは、澱粉を油脂と乳化剤との存在下で油脂加工したものであることが好ましい。
【0018】
上記油脂加工澱粉は、市販のものを使用することもできる。市販されている油脂加工澱粉としては、例えば、ミルフィクスD(王子コーンスターチ株式会社製)、バッター用澱粉BT-800(三和澱粉工業株式会社製)、日食バッタースターチ#500(日本食品化工株式会社製)等が挙げられる。
【0019】
〔油脂〕
本発明の油脂加工澱粉組成物に含まれる油脂は、特に限定されず、食用に供される油脂であればいずれも好適に使用することができ、例えば、大豆油、菜種油、サフラワー油、エゴマ油、シソ油、コーン油、ヒマワリ油、綿実油、ゴマ油、オリーブ油、ヤシ油、米油、亜麻仁油、パーム油等の植物性油脂、魚油、牛脂、豚脂(ラード油)、鶏脂等の動物性油脂、これらを2種類以上組み合わせた混合油脂、及びこれらの油脂のうち1種又は2種以上の組み合わせに分別操作、エステル交換、水素添加等の加工処理を行った加工油脂等が挙げられる。上記油脂は、これらのうちの1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記油脂は、大豆油、菜種油、ゴマ油、パーム油、豚脂及びこれらの組み合わせから選択される1種以上であることが好ましく、大豆油、菜種油、ゴマ油及びこれらの組み合わせから選択される1種以上であることがより好ましい。
【0020】
上記油脂は、室温で固体状の油脂及び室温で液状の油脂のいずれであってもよいが、液状にする作業上の手間を考慮すると、室温で液状の油脂を使用することが好ましい。また、油脂の代わりに、前記植物性油脂を分離精製する前の油糧種子を粉砕した油糧種子粉砕物を使用してもよい。この場合、澱粉に対する油脂の割合は、油糧種子に含まれる油脂の割合から適宜換算して求めることができる。
【0021】
〔乳化剤〕
本発明において、乳化剤とは、1分子中に親油性基(疎水基)及び親水性基を含む両親媒性化合物をいう。親油性基は油脂に馴染みやすく、親水性基は水に馴染みやすい性質を有する。乳化剤は、レシチン(大豆、卵黄等に由来)、サポニン(キラヤやダイズ等に由来)、カゼインナトリウム(牛乳由来)等の天然乳化剤と合成乳化剤とに大別される。食品利用できる合成乳化剤は、親油性基が炭素数8~22の飽和脂肪酸及び/又は不飽和脂肪酸で構成され、親水性基がグリセリン、ポリグリセリン、ショ糖、プロピレングリコール、ソルビタン等で構成される。HLB値は、乳化剤の疎水性と親水性とのバランスを示す数値であり、低いHLB値を有する乳化剤は疎水性が高く、高いHLB値を有する乳化剤は親水性が高い。
【0022】
本発明の油脂加工澱粉組成物に含まれる乳化剤は、特に限定されず、食用に供される乳化剤であればいずれも好適に使用することができ、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、有機酸ジグリセリド、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、レシチン等が挙げられる。上記乳化剤は、ショ糖ステアリン酸エステル、ショ糖パルミチン酸、グリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン、及びこれらの組み合わせから選択される1種以上であることが好ましい。上記乳化剤は、これらのうちの1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
乳化剤のHLB値は、特に限定されないが、3~18であることが好ましい。
【0023】
〔油脂加工澱粉組成物の製造方法〕
本発明の油脂加工澱粉組成物の製造方法としては、油脂加工澱粉、油脂及び乳化剤を均質に混合することができれば特に限定されないが、予め油脂と乳化剤の混合物(以下、「油脂-乳化剤混合物」という)を調製し、得られた油脂-乳化剤混合物を油脂加工澱粉に徐々に添加して混合することが好ましい。具体的には、油脂及び乳化剤をミキサーに投入して均質になるまで撹拌して油脂-乳化剤混合物を調製し、油脂加工澱粉を別のミキサーに投入して撹拌しながら、得られた油脂-乳化剤混合物を徐々に添加し、均質になるまで撹拌混合することにより油脂加工澱粉組成物を得ることが好ましい。なお、混合(撹拌)手法としては、ミキサー(リボンミキサー、ナウターミキサー、カスケードミキサー、ドラムミキサー、V字ミキサー等)を用いてもよく、手混ぜによって行ってもよい。
【0024】
上記乳化剤としてHLB値の高い親水性の乳化剤を使用する場合、油脂-乳化剤組成物の調製中に乳化剤が次第に沈降して油脂中に乳化剤の密度勾配が生じるため、油脂-乳化剤混合物を調製後、15分以内に次の工程で使用することが好ましい。15分以上静置して油脂中に乳化剤の密度勾配が生じたとしても、適宜混合して密度勾配を解消して使用することができる。また、油脂-乳化剤混合物を調製する際、30~80℃に加温して乳化剤を油脂中に均一に溶解又は分散させることが好ましいが、室温で調製してもよい。
【0025】
本発明の油脂加工澱粉組成物の製造において、油脂加工澱粉及び油脂-乳化剤混合物の混合温度及びその後の保持温度は、室温(例えば15~30℃)であってもよく、油脂加工澱粉の加熱熟成に相当する温度であってもよい。
【0026】
本発明の油脂加工澱粉組成物における油脂-乳化剤混合物の含有量は、油脂加工澱粉100質量部に対して0.05~17質量部である。0.05質量部未満であると、バッター調製時にダマの発生を十分に抑制することができず、17質量部を超えると、揚げ種と衣との間がねちゃついた食感となる。油脂加工澱粉組成物における油脂-乳化剤混合物の含有量は、油脂加工澱粉100質量部に対して0.1~16質量部であることが好ましく、0.5~15質量部であることがより好ましく、1~10質量部であることが更に好ましい。
【0027】
バッター作製時におけるダマの発生を抑制する観点からは、油脂加工澱粉組成物における油脂の含有量は、油脂加工澱粉100質量部に対して0.05~14質量部であることが好ましく、0.08~12質量部であることがより好ましく、0.2~10質量部であることが更に好ましい。
【0028】
また、バッター作製時におけるダマの発生を抑制する観点からは、油脂加工澱粉組成物における乳化剤の含有量は、油脂100質量部に対して3~350質量部であることが好ましく、5~300質量部であることがより好ましく、11~233質量部であることが更に好ましい。
【0029】
食感に優れた揚げ物を得る観点からは、上記油脂-乳化剤混合物における油脂の含有量は、上記油脂加工澱粉100質量部に対して13.5質量部以下であることが好ましく、12質量部以下であることがより好ましく、10質量部以下であることが更に好ましい。
【0030】
本発明の油脂加工澱粉組成物において、油脂-乳化剤混合物の合計量に対する油脂の含有割合は、22~97質量%である。上記油脂の含有割合が22質量%未満又は97質量%を超えると、バッター調製時にダマの発生を十分に抑制することが出来ない。上記油脂の含有割合は、25~95質量%であることが好ましく、40~90質量%であることがより好ましく、50~80質量%であることが更に好ましい。
【0031】
〔揚げ物衣材用ミックス粉〕
本発明の揚げ物衣材用ミックス粉は、上記油脂加工澱粉組成物を含有する。本発明の揚げ物衣材用ミックス粉は、上記油脂加工澱粉組成物を使用して製造される。上記揚げ物衣材用ミックス粉は、上記油脂加工澱粉組成物以外に、本発明の効果を損なわない範囲で他の成分を含有してもよい。上記他の成分としては、例えば、小麦粉、大麦粉、デュラム小麦粉、ライ麦粉、米粉、大豆粉、緑豆粉、コーンフラワー等の穀物粉;タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、小麦澱粉、米澱粉、甘藷澱粉、緑豆澱粉、サゴ澱粉等、並びにこれらのワキシー種及びハイアミロース種の未変性澱粉、並びにその未変性澱粉にα化、エーテル化、エステル化、架橋、酸化等の変性処理から選択される1種以上の変性処理を施した変性澱粉;キサンタンガム、ローカストビーンガム、ジェランガム、ペクチン、カラギーナン、グアガム、タマリンドガム、アラビアガム等の増粘多糖類;メチルセルロース等のセルロース誘導体;小麦蛋白、卵蛋白、乳蛋白、大豆蛋白、緑豆蛋白等の蛋白質素材;ブドウ糖、果糖、乳糖、砂糖、イソマルトース等の糖類;卵黄、卵白、全卵及びそれらを粉末化したものやその他の卵に由来する成分である卵成分;粉乳、脱脂粉乳、大豆粉乳等の乳成分;ショートニング、ラード、マーガリン、バター、液状油等の油脂類;乳化剤;膨張剤;食塩等の無機塩類;保存料;香料;香辛料;ビタミン;カルシウム等の強化剤等の通常揚げ物衣材用ミックス粉の製造に用いる副原料が挙げられる。
【0032】
本発明の揚げ物衣材用ミックス粉は、揚げ物用バッターミックスとして使用できるほか、単独又は小麦粉等の穀粉や澱粉等と混合して打ち粉として使用したり、揚げ種に直接まぶして使用したり、調味料及び任意に小麦粉等の穀粉や澱粉等と混合してマリネードミックスとして使用したりすることもできる。
【0033】
〔揚げ物〕
本発明の揚げ物は、上記油脂加工澱粉組成物又は上記揚げ物衣材用ミックス粉を使用してなる。本発明の揚げ物は、上記油脂加工澱粉組成物又は上記揚げ物衣材用ミックス粉を使用する以外は、公知の手法を用いて製造することができる。例えば、事前に任意に下味をつけ及び/又は任意に打ち粉をまぶした揚げ種を用い、上記揚げ物衣材用ミックス粉を水溶きした揚げ物用バッター液に浸漬又は付着させ、任意にパン粉、粗く砕いた穀物粉、あられ、適当なサイズに砕いた乾麺等の固形衣材を付着させ、160~200℃に予熱した油槽で油ちょうする手法等が挙げられる。油ちょうする代わりに、衣付けした揚げ種を、油を薄く引いたフライパンで加熱してもよく、オーブン加熱して揚げ物様食品を得てもよい。上記揚げ物用バッター液は、例えば、上記油脂加工澱粉組成物100質量部に対し、50~500質量部の水を加えて混合することで調製することができる。上記揚げ物としては、天ぷら、から揚げ、カツ、フライ、フリッター等が挙げられる。
【0034】
上記油ちょうに使用する食用油としては、特に限定されず、例えば、菜種油、ごま油、大豆油、コーン油、紅花油、オリーブ油、米油、綿実油、ひまわり油、サラダ油、オリーブ油、ショートニング、ラード油等が挙げられる。
上記揚げ種としては、特に限定されず、揚げ物として通常使用される食材を使用することができ、例えば、畜肉、魚介、野菜、山菜等が挙げられる。
【実施例
【0035】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0036】
〔製造例1:油脂加工澱粉組成物の製造〕
(1)80質量部の油脂(日清サラダ油、日清オイリオグループ株式会社、大豆油及び菜種油の混合油)及び20質量部の乳化剤(リョートーシュガーエステルS-1670、三菱ケミカルフーズ株式会社製、ショ糖ステアリン酸エステル、HLB値:16)をミキサー(MX-X501、パナソニック株式会社製)を用いて、室温で均一になるまで混合して油脂-乳化剤混合物を調製した。
(2)100質量部の油脂加工澱粉(日食バッタースターチ#500、日本食品化工株式会社製)をFM型ミキサー(日本コークス工業株式会社製)に投入し、油脂加工澱粉を室温で撹拌しながら、(1)で得られた油脂-乳化剤混合物1質量部を、油脂-乳化剤混合物を調製してから15分以内に徐々に添加し、均一になるまで撹拌混合して油脂加工澱粉組成物を調製した。
【0037】
〔製造例2:揚げ物(トンカツ)の製造〕
(1)製造例1で得られた油脂加工澱粉組成物100質量部及び冷水300質量部をスリーワンモーター(新東科学株式会社製、撹拌翼かい十字を先端に取り付けた撹拌棒を使用)を用いて1200rpmで3分間撹拌混合することにより、揚げ物用バッター液を調製した。
(2)厚さ1.5cmの豚肉塊100gを(1)で得られた揚げ物用バッター液で満遍なく被覆し、更に生パン粉を満遍なく付着させて衣付き揚げ種を調製した。バッター被覆直後及びパン粉付着直後に揚げ種を重量測定(n=10)したところ、各々平均110g、125gであった。
(3)食用油を170℃に予熱した油槽に(2)の衣付き揚げ種を投入し、反転含めて5分間油ちょうしてトンカツを得た。
【0038】
〔評価例1:油脂加工澱粉組成物の分散性〕
粉体を水分に溶いた場合に、粉体の分散性が悪いとダマが形成される。この形成されたダマを定量化することにより、粉体の水分への分散性を評価することができる。
製造例2(1)で得られた揚げ物用バッター液を目開き1mmのメッシュに通し、メッシュを通過しメッシュ下部に付着した揚げ物用バッター液をゴムベラで十分にぬぐい取り、メッシュを上皿天秤に乗せて重量を測定した。未使用時のメッシュの重量を差し引いて、メッシュを通過しない揚げ物用バッター(ダマ)の重量を算出した。メッシュを通過しない揚げ物用バッターの重量を、メッシュに供した揚げ物用バッター液全量の重量で除した値を、ダマの割合と算出することにより、油脂加工澱粉組成物の水分への分散性を評価した。例えば、400gの揚げ物用バッター液をメッシュに通し、メッシュを通過しない揚げ物用バッターが80g存在する場合、ダマの割合を20%とする。
【0039】
〔評価例2:トンカツの食感評価〕
油ちょうしたトンカツを油切りバットに上げて油切りし、短手方向に約2cmに切断し、熟練パネラー10名により下記評価表1に従って評価し、平均点を求めた。
評価表1 食感評価
【0040】
〔評価例3:衣の結着性評価〕
フライしたトンカツを油切りバットに上げて油切りし、短手方向に約2cm幅に切断し、豚肉と衣との接着部分の剥がれの程度を目視で確認し、下記評価表2に従って評価した。なお、各試験区に対して10枚のトンカツを用いて評価し、衣剥がれ(豚肉の全表面積に対する衣が剥がれている部分の豚肉の表面積)が10%未満を合格とした。
評価表2 結着性評価
【0041】
〔試験例1:油脂加工澱粉及び油脂-乳化剤混合物の割合の検討〕
油脂及び乳化剤の合計量に対する油脂の含有割合を80質量%に固定し、油脂-乳化剤混合物の配合量を下記表1に記載の通りにしたこと以外は、製造例1及び2に従ってトンカツを製造し、評価例1~3に従って評価した。結果を表1に示す。なお*印は、油脂加工澱粉100質量部に対する油脂-乳化剤混合物における油脂及び乳化剤の添加量(質量部)であることを表す。
【0042】
【表1】
【0043】
表1より、油脂加工澱粉のみを使用した比較例1では、ダマの割合が15%を超え、水分への分散性が悪かった。一方、油脂-乳化剤混合物を含む油脂加工澱粉組成物を使用した場合は、油脂-乳化剤混合物の配合量が増加するに従ってダマの割合が減少し、15質量部加えた実施例6では、ダマがほとんど発生しなかった。油脂-乳化剤混合物の配合量が多い比較例2では、ダマの発生は抑制されたが、衣と豚肉の間の食感が悪かった。衣の豚肉への結着性は、実施例及び比較例共に衣剥がれが少なく、いずれも合格レベルであった。
【0044】
〔試験例2:油脂-乳化剤混合物における油脂及び乳化剤の割合の検討〕
油脂-乳化剤混合物における油脂及び乳化剤の割合を下記表2及び3に記載の通りにしたこと以外は、実施例3と同様にしてトンカツを製造し(油脂加工澱粉100質量部に対して油脂-乳化剤混合物が1質量部)、評価例1~3に従って評価した。結果を表2及び3に示す。
【0045】
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
表2及び3より、油脂加工澱粉に油脂のみを添加した比較例3及び油脂加工澱粉に乳化剤のみを添加した比較例6は、何も添加しない比較例1に比べると、若干ダマの割合を抑制されているが、合格レベルには達しなかった。油脂-乳化剤混合物における油脂の含有割合が99質量%である比較例4及び20%である比較例5は、比較例3と比較してダマの割合が抑制されているが、依然としてダマの割合が10%を超えており、油脂加工澱粉組成物の水分への分散性が悪かった。一方、油脂-乳化剤混合物における油脂の含有割合が95質量%である実施例7では、ダマの割合が10%以下となり、油脂の含有割合が少なくなるほどダマの割合が減少し、油脂の含有割合が70質量%のとき(実施例10)に最もダマの割合が少なくなった。更に油脂の含有割合を少なくすると、ダマの割合は増加していったが、いずれも合格レベルであった(実施例11、12)。
【0048】
〔試験例3:油脂-乳化剤混合物における油脂の種類の検討〕
油脂-乳化剤混合物の製造に際して使用される油脂の種類を下記表4に記載の通りにしたこと以外は、実施例3と同様にしてトンカツを製造し、評価例1~3に従って評価した。なお、常温で固体の油脂(パーム油及びラード油)は、加温して完全に融解した状態で使用した。結果を表4に示す。
【0049】
【表4】
【0050】
表4より、油脂の種類がいずれのものであっても、トンカツの食感及び衣の豚肉に対する結着性を良好に維持しつつ、バッターを調製する際のダマの発生を効果的に抑制することができた。
【0051】
〔試験例4:油脂-乳化剤混合物における乳化剤の種類の検討〕
油脂-乳化剤混合物の製造に際して使用される乳化剤の種類を下記表5に記載の通りにしたこと以外は、実施例3と同様にしてトンカツを製造し、評価例1~3に従って評価した。なお、表5に記載の乳化剤1~7は、以下の通りである。
乳化剤1:三菱ケミカルフーズ株式会社製、リョートーシュガーエステルS-1670(HLB値:16)
乳化剤2:三菱ケミカルフーズ株式会社製、リョートーシュガーエステルS-1170(HLB値:11)
乳化剤3:三菱ケミカルフーズ株式会社製、リョートーシュガーエステルS-370(HLB値:3)
乳化剤4:三菱ケミカルフーズ株式会社製、リョートーシュガーエステルP-1670(HLB値:16)
乳化剤5:太陽化学株式会社製、サンソフトQ-185SP(HLB値:4.5)
乳化剤6:理研ビタミン株式会社製、リケマールPS-100(HLB値:3.7)
乳化剤7:太陽化学株式会社製、サンレシチンA-1
乳化剤1~3は、ショ糖ステアリン酸エステルであり、乳化剤4は、ショ糖パルミチン酸エステルであり、乳化剤5は、グリセリン脂肪酸エステルであり、乳化剤6は、プロピレングリコール脂肪酸エステルであり、乳化剤7は、レシチンである。
【0052】
【表5】
【0053】
表5より、乳化剤の種類がいずれのものであっても、トンカツの食感及び衣の豚肉に対する結着性を良好に維持しつつ、バッターを調製する際のダマの発生を効果的に抑制することができた。
【0054】
〔試験例5:油脂加工澱粉の種類の検討〕
油脂加工澱粉の種類を下記表6に記載の通りにしたこと以外は、実施例3と同様にしてトンカツを製造し(油脂-乳化剤混合物に対する油脂の含有割合は80質量%)、評価例1~3に従って評価した。結果を表6に示す。なお、表6に記載の油脂加工澱粉1~5は、以下の通りである。
油脂加工澱粉1:日本食品化工株式会社製、日食バッタースターチ#500(乳化剤不含)
油脂加工澱粉2:王子コーンスターチ株式会社製、ミルフィクスD(乳化剤不含)
油脂加工澱粉3:東海デキストリン株式会社製、OC-2(乳化剤不含)
油脂加工澱粉4:日本食品化工株式会社製、日食バッタースターチ#200N(乳化剤含有)
油脂加工澱粉5:三和澱粉工業株式会社製、バッター用澱粉BT-800(乳化剤含有)
【0055】
【表6】
【0056】
表6より、いずれの油脂加工澱粉を使用しても、油脂-乳化剤混合物を添加することにより油脂加工澱粉組成物を水溶きしてバッターを調製する際のダマの発生を抑制し、得られたトンカツの食感及び衣の豚肉に対する結着性が良好に維持されていた。
油脂加工澱粉4及び5は乳化剤を使用して製造されたものであり、これらを単独で使用した(油脂-乳化剤混合物を添加しない)比較例9及び10では、乳化剤を使用せずに製造された油脂加工澱粉1~3を単独で使用した比較例1、7及び8よりもダマの発生が抑制されているが、合格レベルには達しなかった。一方、油脂加工澱粉4及び5に油脂-乳化剤混合物を添加して油脂加工澱粉組成物とした実施例26及び27では、ダマの発生が7%未満と低い値を示した。