(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】えんどう豆粉を用いた竜田揚げ用衣材及びそれを用いた竜田揚げ
(51)【国際特許分類】
A23L 7/157 20160101AFI20241108BHJP
A23L 5/10 20160101ALI20241108BHJP
【FI】
A23L7/157
A23L5/10 E
(21)【出願番号】P 2020136600
(22)【出願日】2020-08-13
【審査請求日】2023-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000231637
【氏名又は名称】株式会社ニップン
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100156982
【氏名又は名称】秋澤 慈
(72)【発明者】
【氏名】河内 良太
(72)【発明者】
【氏名】梁田 健一
(72)【発明者】
【氏名】臼井 千聡
【審査官】二星 陽帥
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/151242(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/065933(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/049076(WO,A1)
【文献】特開平07-177856(JP,A)
【文献】特開2015-149979(JP,A)
【文献】特開2011-135809(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 5/10 - 7/157
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
馬鈴薯澱粉100質量部に対してえんどう豆粉を8~150質量部含む竜田揚げ
用まぶし粉(ただし、豆類澱粉を25質量%以上含み、かつアミロース含量が10~60質量%である原料澱粉を油脂処理して得られる油脂処理澱粉を含む場合を除く)。
【請求項2】
請求項1に記載の竜田揚げ
用まぶし粉が付着されている、竜田揚げ
用揚げ種。
【請求項3】
請求項1に記載の竜田揚げ
用まぶし粉を揚げ種に付着させて油ちょうする工程を含む、竜田揚げの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、えんどう豆粉を用いた竜田揚げ用衣材及びそれを用いた竜田揚げに関する。
【背景技術】
【0002】
天ぷら、唐揚げ、フライなどの揚げ物は、サクサク感のある歯切れのよい食感を有する揚げ衣が好まれる。
まぶしタイプの唐揚げは一般的にサクサクとした食感が好まれており、例えば、ガリガリとした硬さやひきがなく、軽く、サクミがあり、かつ口溶けが良好な衣を得るために馬鈴薯澱粉を主体とするから揚げ粉であって、馬鈴薯澱粉の95重量%以上が粒径20μm以上であることを特徴とするから揚げ粉が知られている(特許文献1)。
竜田揚げはから揚げの一種であり、から揚げが食材、粉、下味等の種類を問わないのに対して、竜田揚げは肉や魚に醤油、みりん、生姜等を用いて下味をつけて、片栗粉すなわち馬鈴薯澱粉をまぶし粉として付着させた後に油ちょうすることに特徴がある。一般的なから揚げの外観とは異なる粒状・塊状の白い粉を吹いたような外観(粉吹き感)を呈する。この粉吹きは馬鈴薯澱粉を利用したときにのみ生じ、コーンスターチや小麦粉を同様にまぶしても粉吹きを生じないことが知られている。この馬鈴薯澱粉を用いたまぶし粉は時間と共に油っぽさが出てきて、好ましくない食感となることが課題として挙げられる。
粉吹きが得られ、調理後の食感の経時変化耐性にも優れた竜田揚げを得ることができる竜田揚げ用まぶし粉及び竜田揚げとして、特定のエステル化タピオカ澱粉を含有する方法などが挙げられている(特許文献2)。しかしながらこの方法では粉吹きが得られるものの、馬鈴薯澱粉をまぶし粉とした場合と比べると十分なものでは無い。
また、具材に対する付着性が良好で、厚みのある好ましい外観と、サクサクした歯もろさのある良好な食感とを有する衣を備え、且つ揚げてから時間が経過しても品質の低下が少ない竜田揚げを製造し得る竜田揚げ用ミックスとして、澱粉及びソルガム粉を含有し、ソルガム粉の含有量が1~30質量%であり、澱粉の含有量は好ましくは40質量%以上である竜田揚げ用ミックスが知られている(特許文献3)。しかしながらこの竜田揚げ用ミックスを使用した場合、馬鈴薯澱粉をまぶし粉とした場合と比べると付着性が不十分である。
さらには、小麦粉からなる衣材、ガルバンゾー、チャナダル、レンズ豆、ムングダル、エンドウから選ばれる少なくとも1種類の粉砕物および水から主になることを特徴とする揚げ物用衣組成物では、揚げ物本来の食感(サクサク感やカリカリ感)が高く、かつ油の吸収が少ない揚げ物を調理することができる新規な揚げ物用衣が挙げられている(特許文献4)。しかしながらこの揚げ物用衣組成物では、馬鈴薯澱粉をまぶし粉とした場合の様な粉吹き感を得ることが出来ない。
従って、良好な粉吹き感を得ることが出来ると同時に、衣の付着性(竜田揚げをトングで持った時の表面の衣の脱落具合)が良好な竜田揚げ用衣材が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-350561号公報
【文献】特開2012-235752号公報
【文献】特開2015-149979号公報
【文献】特開2011-135809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、良好な粉吹き感を得ることが出来ると同時に、衣の付着性(竜田揚げをトングで持った時の表面の衣の脱落具合)が良好な竜田揚げを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、馬鈴薯澱粉100質量部に対してえんどう豆粉を8~150質量部以上含む竜田揚げ衣材を使用すると、良好な粉吹き感を得ることが出来ると同時に、衣の付着性(竜田揚げをトングで持った時の表面の衣の脱落具合)が良好な竜田揚げを提供することができることを見いだし、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、以下の態様を包含する。
[1]馬鈴薯澱粉100質量部に対してえんどう豆粉を8~150質量部含む竜田揚げ衣材。
[2]前記[1]に記載の竜田揚げ衣材を用いて製造された竜田揚げ。
[3]前記[1]に記載の竜田揚げ衣材を揚げ種に付着させて油ちょうする工程を含む、竜田揚げの製造方法
【発明の効果】
【0007】
本発明の竜田揚げ衣材を使用して竜田揚げを製造することで、良好な粉吹き感を得ることが出来ると同時に、衣の付着性(竜田揚げをトングで持った時の表面の衣の脱落具合)が良好な竜田揚げを提供することができる。ここで粉吹き感とは粉状・塊状の白い粉を吹いたような独特な外観を言う。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<竜田揚げ衣材>
本発明における「竜田揚げ」は、から揚げの一種であり、から揚げが中具(揚げ種)、粉、下味等の種類を問わないのに対して、竜田揚げは畜肉や魚介類等の中具に醤油、みりん、生姜等を用いて下味をつけて、片栗粉すなわち馬鈴薯澱粉をまぶし粉として付着させた後に油ちょうすることに特徴がある。一般的なから揚げの外観とは異なる粒状・塊状の白い粉を吹いたような、粉吹き感ともいうような独特な外観を呈する。
【0009】
「竜田揚げ衣材」とは一般には竜田揚げに使用される衣材であり、馬鈴薯澱粉を主体とする粉体組成物をそのまま中具に付着させるもので、まぶし粉と称される。本発明の竜田揚げ衣材は、まぶし粉として使用することができる。
【0010】
本発明の竜田揚げ衣材は、馬鈴薯澱粉100質量部に対してえんどう豆粉を8~150質量部含む。
本発明において「馬鈴薯澱粉」は馬鈴薯由来の澱粉であり、生澱粉、加工澱粉を問わない。好ましくは生澱粉である。
【0011】
「えんどう豆粉」とはエンドウマメの粉砕物である。エンドウマメは、さやから豆だけを取り出し、生のまままたは、乾燥させたものを粉砕することができるが、水分値が15%以下に自然乾燥したものが望ましい。乾燥させる方法は自然乾燥以外にオーブンで焼成するなど特に方法は問わない。
粉砕方法は特に限定されず、例えば衝撃式粉砕、気流式粉砕、磨砕、切断といった方法で行うことができる。粉砕物の粒度は特に限定されないが、目開き850μmの篩を通過する粉砕物が好ましい。
「えんどう豆粉」の原料のエンドウマメは、Pisum sativumの種子であり、品種は特に限定されず、例えばグリーンスプリットやサヤエンドウを使用することができる。好ましくはサヤエンドウである。
市販されているえんどう豆粉としては日本クラシアフードサプライ社製の「青えんどう豆パウダー」等を使用することができる。
【0012】
えんどう豆粉の含有量は、竜田揚げ衣材に含まれる馬鈴薯澱粉100質量部に対してえんどう豆粉を8~150質量部であり、好ましくは8~70質量部、より好ましくは8~25質量部である。馬鈴薯澱粉を主体とし馬鈴薯澱粉100質量部に対してえんどう豆粉を8~150質量部含む竜田揚げ衣材を使用すれば、良好な粉吹き感を得ることが出来ると同時に、衣の付着性(竜田揚げをトングで持った時の表面の衣の脱落具合)が良好な竜田揚げを得ることができる。馬鈴薯澱粉に対するえんどう豆粉の割合が高くなるほど付着性が向上する傾向にあり、えんどう豆粉の割合が高くなるほど粉吹き感が低下する傾向にある。また馬鈴薯澱粉100質量部に対するえんどう豆粉の質量部が150質量部を超えると、えんどう豆粉の緑色が衣の色に強く反映されて見栄えが悪く、またエンドウマメ特有の苦みが顕著になる傾向にある。
【0013】
本発明の竜田揚げ衣材は、馬鈴薯澱粉とえんどう豆粉以外に、えんどう豆粉及び馬鈴薯澱粉(加工馬鈴薯澱粉含む)の量を上回らない範囲で一般に竜田揚げを製造するために使用する原料として通常使用されるものを含むことができる。そのような原料として、小麦粉(例えば、薄力粉、中力粉、強力粉、全粒粉、デュラムセモリナ、デュラム小麦粉など)及び小麦粉以外の穀粉(例えば、大麦粉、ライ麦粉、燕麦粉、米粉、コーンフラワー、そば粉、ホワイトソルガム粉、大豆粉、緑豆粉など)、澱粉(例えば、コーンスターチ、小麦澱粉、タピオカ澱粉、サツマイモ澱粉など、及びこれらを化学的、酵素的、物理的に加工した加工澱粉)、調味料(例えば、砂糖、食塩、グルタミン酸ナトリウム、カツオパウダー、粉末醤油、粉末味噌、粉末ソース、粉末ケチャップ、粉末エキス、香辛料など)、膨張剤(例えば、ベーキングパウダー)、蛋白質(小麦蛋白、乳蛋白、卵蛋白など)、卵粉(全卵粉、卵白粉、卵黄粉)、油脂、食物繊維、香料、着色料などを挙げることが出来る。
【0014】
<竜田揚げ及び竜田揚げの製造方法>
本発明の竜田揚げは、上記竜田揚げ衣材を揚げ種に付着させて油ちょうする工程を含む以外は常法に従って製造することが出来る。例えば揚げ種に、粉末調味料あるいは粉末調味料及び/又は液体調味料を含有する調味液で下味をつけ、上記竜田揚げ衣材を付着し、60~190℃に熱した食用油の中で油ちょうすることによって製造される。
【0015】
本発明の竜田揚げの製造においては、上記竜田揚げ衣材以外に、通常竜田揚げの製造に使用されるものであれば何れも使用することができる。例えば、調味料(例えば、砂糖、食塩、グルタミン酸ナトリウム、カツオパウダー、醤油、味噌、ソース、ケチャップ、エキス、だし汁、ハチミツ、香辛料など)、保水剤(リン酸塩、加工澱粉など)等を例示することができる。
また本発明の竜田揚げの製造方法において、油ちょうに使用する食用油としては、菜種油、ごま油、大豆油、コーン油、紅花油、オリーブ油、米油、綿実油、ひまわり油、サラダ油、オリーブ油、ショートニング、ラードなどを使用できる。
また本発明の竜田揚げの製造方法において、具材(揚げ種)は畜肉や魚介類等の食材が挙げられるがこれに限定されるものではない。
【0016】
油ちょう工程において、加熱温度や加熱時間に特に制限はないが、具材(揚げ種)の種類によって適宜変えることができる。
【実施例】
【0017】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0018】
<製造例1 鶏竜田揚げの製造>
ぶつ切りした鶏もも肉25質量部を調味液でタンブリング処理して味付けした後、生馬鈴薯澱粉を前記鶏もも肉25質量部に対して5質量部まぶし、170℃のサラダ油で4分間揚げて鶏竜田揚げを得た(対照例1)。
【0019】
<試験例1 竜田揚げ衣材としてえんどう豆粉を使用した場合の付着性及び粉吹き感についての馬鈴薯澱粉、コーンフラワーとの比較>
表1に記載の配合を竜田揚げ衣材とし、生馬鈴薯澱粉の代わりに使用した以外は製造例1に従って鶏竜田揚げを製造した。
得られた鶏竜田揚げを室温で静置し粗熱をとり、「付着性」と「粉吹き感」について下記の評価基準で10名のパネラーにより評価した。従来、竜田揚げを作る際には生馬鈴薯澱粉を衣材として使用しているため、生馬鈴薯澱粉を使用して製造した竜田揚げ(製造例1、対照例1)についてフライ直後(室温で静置し粗熱をとったもの)の付着性を2点とし、粉吹き感を5点とし、付着性、粉吹き感の平均点が、3点以上であるものを合格とした。結果を表1に示す。なお以下の表1中、評価は点数を付けた人数と平均点を示している。
えんどう豆粉を衣材として使用した参考例1では生馬鈴薯澱粉を衣材として使用した対照例1と比較して付着性の大きな改善が観られた。またコーンフラワーを衣材として使用した参考例2でも生馬鈴薯澱粉を衣材として使用した対照例1と比較して付着性の改善が観られたが、その程度はえんどう豆粉を衣材として使用した場合よりも小さかった。また参考例1、参考例2のいずれの場合も粉吹き感が得られなかった。
【0020】
【0021】
【0022】
<試験例2 えんどう豆粉と馬鈴薯澱粉の比率の評価>
表2に記載の配合を竜田揚げ衣材とし、生馬鈴薯澱粉の代わりに使用した以外は製造例1に従って鶏竜田揚げを製造した。 得られた鶏竜田揚げを室温で静置し粗熱をとり、試験例1と同様に「付着性」と「粉吹き感」について評価基準に従い10名のパネラーにより評価した。結果を表2に示す。なお以下の表2中、評価は点数を付けた人数と平均点を示している。
えんどう豆粉の割合が高くなるほど付着性が向上したが、えんどう豆粉の割合が高くなるほど粉吹き感が低下する傾向にあった。馬鈴薯澱粉100質量部に対するえんどう豆粉の質量部が8~150質量部である実施例1~3では、良好な粉吹き感を得ることが出来ると同時に、衣の付着性も良好であった。馬鈴薯澱粉100質量部に対するえんどう豆粉の質量部が8質量部未満である比較例1は粉吹き感は良好であるが付着性が十分ではなかった。また馬鈴薯澱粉100質量部に対するえんどう豆粉の質量部が150質量部を超える比較例2及び3ではえんどう豆粉の緑色が衣の色に強く反映されて見栄えが悪く、またえんどう豆特有の苦みが顕著になり好ましくなかった。
【0023】
【0024】
<試験例3 えんどう豆粉と加工馬鈴薯澱粉(リン酸架橋澱粉)の評価>
表3に記載の配合を竜田揚げ衣材とし、生馬鈴薯澱粉の代わりに使用した以外は製造例1に従って鶏竜田揚げを製造した。なお馬鈴薯澱粉として加工馬鈴薯澱粉(リン酸架橋澱粉)を使用した。
得られた鶏竜田揚げを室温で静置し粗熱をとり、試験例1と同様に「付着性」と「粉吹き感」について評価基準に従い10名のパネラーにより評価した。結果を表3に示す。なお以下の表3中、評価は点数を付けた人数と平均点を示している。
生馬鈴薯澱粉の場合と同様に、えんどう豆粉の割合が高くなるほど付着性が向上したが、えんどう豆粉の割合が高くなるほど粉吹き感が低下する傾向にあった。馬鈴薯澱粉100質量部に対するえんどう豆粉の質量部が8~150質量部である実施例4~6では、良好な粉吹き感を得ることが出来ると同時に、衣の付着性も良好であった。馬鈴薯澱粉100質量部に対するえんどう豆粉の質量部が8質量部未満である比較例4及び5は粉吹き感は良好であるが付着性が十分ではなかった。またデータは示さないが、馬鈴薯澱粉100質量部に対するえんどう豆粉の質量部が150質量部を超えると、えんどう豆粉の緑色が衣の色に強く反映されて見栄えが悪く、またえんどう豆特有の苦みが顕著になり好ましくなかった。
【0025】
表3 えんどう豆粉と加工馬鈴薯澱粉(リン酸架橋澱粉)の比率