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特許7584257ピザ類用小麦粉組成物及びピザ類の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】ピザ類用小麦粉組成物及びピザ類の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/10 20160101AFI20241108BHJP
   A21D 6/00 20060101ALI20241108BHJP
   A21D 13/41 20170101ALI20241108BHJP
【FI】
A23L7/10 H
A21D6/00
A21D13/41
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020146650
(22)【出願日】2020-09-01
(65)【公開番号】P2022041445
(43)【公開日】2022-03-11
【審査請求日】2023-06-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000231637
【氏名又は名称】株式会社ニップン
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100156982
【弁理士】
【氏名又は名称】秋澤 慈
(72)【発明者】
【氏名】七里 和俊
(72)【発明者】
【氏名】大塚 好美
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-188206(JP,A)
【文献】特開2015-033362(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 7/10
A21D 6/00
A21D 13/41
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
GA-SX小麦粉を小麦粉全量に対して5質量%以上含有する、ピザを製造する際のリタード工程を短縮するためのピザ類用小麦粉組成物であって、前記GA-SX小麦粉は、GBSSI-A1の酵素活性を欠損しておらず、GBSSI-B1及びGBSSI-D1の酵素活性を欠損し、かつ、SSIIa-A1、SSIIa-B1及びSSIIa-D1のうちのいずれか2つの酵素活性を欠損したコムギの収穫物(GA-SX小麦穀粒)を製粉して得られる小麦粉であ
前記ピザ類用小麦粉組成物を使用してピザを製造する際のリタード工程が、GA-SX小麦粉以外の小麦粉のみを使用してピザを製造する際のリタード工程を基準として1/7~1/5に短縮される、
前記ピザ類用小麦粉組成物。
【請求項2】
前記GA-SX小麦粉が、GA-SA小麦粉である、請求項1記載のピザ類用小麦粉組成物。
【請求項3】
GA-SX小麦粉を穀粉の全量に対して5質量%以上含有する、ピザを製造する際のリタード工程を短縮するためのピザ類用プレミックス粉であって、前記GA-SX小麦粉は、GBSSI-A1の酵素活性を欠損しておらず、GBSSI-B1及びGBSSI-D1の酵素活性を欠損し、かつ、SSIIa-A1、SSIIa-B1及びSSIIa-D1のうちのいずれか2つの酵素活性を欠損したコムギの収穫物(GA-SX小麦穀粒)を製粉して得られる小麦粉であり、
前記ピザ類用プレミックス粉を使用してピザを製造する際のリタード工程が、GA-SX小麦粉以外の小麦粉のみを使用してピザを製造する際のリタード工程を基準として1/7~1/5に短縮される、
前記ピザ類用プレミックス粉
【請求項4】
GA-SX小麦粉がGA-SA小麦粉である、請求項3記載のピザ類用プレミックス粉。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載のピザ類用小麦粉組成物ないしは請求項3又は請求項4に記載のピザ類用プレミックス粉を使用する、リタード工程が短縮されたピザ類の製造方法であって、前記ピザ類用小麦粉組成物ないしは前記ピザ類用プレミックス粉を使用してピザを製造する際のリタード工程が、GA-SX小麦粉以外の小麦粉のみを使用してピザを製造する際のリタード工程を基準として1/7~1/5に短縮されている、前記製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピザ類用小麦粉組成物及びピザ類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ピザ類は、小麦粉、食塩、油脂、イースト及び糖類などの副資材を含む原料に水分を加えて混捏し、得られた生地を平たく伸ばしてピザ生地とし、チーズやソース等の具材を載置してから加熱することにより製造される。一般に、ピザ生地を得る際、生地を伸ばす前にリタードという工程が取られる。リタードとは、低温条件下で一晩程度生地を休ませることである。リタード工程により、低温で生地の発酵を抑制しつつ、生地作成におけるミキシング工程などで痛んだグルテンネットワークを修復させ、硬くなった生地を緩和させて柔らかくするいわゆる緩和熟成を長時間行うことが出来る。リタードを行うことにより、生地の伸展性が良好になり、伸ばした生地の収縮が抑制され、更には加熱したピザ類の生地に由来するクラスト部表面がサックリ感のあるクリスピーな食感で内層がもっちりした食感になる。
ピザ類は、糖類、乳化剤、増粘剤、乳成分、卵成分等の副資材を含まない或いは比較的少量含むリーンな原料構成であるため、リタード工程を行わないと生地の伸展性が悪く、伸ばしたピザ生地が収縮し、加熱したピザの食感も満足できるものではない。このようにピザを製造する上でリタード工程は必須ではあるが、冷蔵設備を必要とする上にその運転コストが発生し、ピザ生地を得るまでに時間がかかるという問題がある。
このような問題を解決するために種々検討されている。例えば特許文献1では、水溶性大豆多糖類を含有するピザ生地が開示されており、ピザ生地の製造時に於いてリタード工程を省略できることが記載されている。また、一般的にリタード工程を短縮するために乳化剤等の生地改良剤や不活性酵母等が使用されることがある。何れも優れた技術ではあるが、更なる改良が求められていた。
一方、特許文献2及び特許文献3には、GBSSI-A1、GBSSI-B1及びGBSSI-D1のうちのいずれか2つの酵素活性を欠損し、かつ、SSIIa-A1、SSIIa-B1及びSSIIa-D1のうちのいずれか2つの酵素活性を欠損したコムギの収穫物を製粉して得られた小麦粉を使用して製造された食品及び前記小麦粉を原材料として用いて製造された品質劣化が抑制されたコムギ加工食品が開示されており、そのような食品にはピザ類も含まれることが記載されている。しかしながら、ピザ生地を製造するために行うリタードに関する記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】WO2014/087737
【文献】特開2013-188206号公報
【文献】特開2015-33362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、リタード時間を短縮しても、作業性が良好であり、クラスト部表面がサックリとしていてクリスピーな食感を有しかつ内層がもっちりとした食感を有するピザ類を得ることができる、ピザ類用小麦粉組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、ピザ類の製造において、GBSSI-A1の酵素活性を欠損しておらず、GBSSI-B1及びGBSSI-D1の酵素活性を欠損し、かつ、SSIIa-A1、SSIIa-B1及びSSIIa-D1のうちのいずれか2つの酵素活性を欠損したコムギの収穫物を製粉して得られた小麦粉(以下、「GA-SX小麦粉」と称する場合がある)を小麦粉全量に対して5質量%以上使用すると、サックリ感のあるクリスピーなクラスト部表面及びもっちりとした内層を有するピザ類を得ることができ、また、リタード時間を短縮しても生地の伸展性が良好で、延展したピザ生地の収縮を抑制することができ、効率的にピザ類を製造することができることを見いだした。
【0006】
すなわち、本発明は、以下の態様を包含する。
〔1〕GA-SX小麦粉を小麦粉全量に対して5質量%以上含有する、ピザ類用小麦粉組成物であって、前記GA-SX小麦粉は、BSSI-A1の酵素活性を欠損しておらず、GBSSI-B1及びGBSSI-D1の酵素活性を欠損し、かつ、SSIIa-A1、SSIIa-B1及びSSIIa-D1のうちのいずれか2つの酵素活性を欠損したコムギの収穫物(GA-SX小麦穀粒)を製粉して得られる小麦粉である、前記ピザ類用小麦粉組成物。
〔2〕前記GA-SX小麦粉が、GA-SA小麦粉である、〔1〕記載のピザ類用小麦粉組成物。
〔3〕GA-SX小麦粉を穀粉の全量に対して5質量%以上含有する、ピザ類用プレミックス粉。
〔4〕GA-SX小麦粉がGA-SA小麦粉である、〔3〕記載のピザ類用プレミックス粉。
〔5〕〔1〕又は〔2〕に記載のピザ類用小麦粉組成物ないしは〔3〕又は〔4〕に記載のピザ類用プレミックス粉を含むピザ生地。
〔6〕〔1〕又は〔2〕に記載のピザ類用小麦粉組成物ないしは〔3〕又は〔4〕に記載のピザ類用プレミックス粉を使用する、ピザ類の製造方法。
〔7〕〔5〕記載のピザ生地を使用する、ピザ類の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明のピザ類用小麦粉組成物を使用すれば、リタード時間を短縮しても、生地の伸展性が良好であるため容易にピザ生地に延展することができ、延展したピザ生地の収縮を抑制することができ、効率的にピザを製造することができる。ピザ生地を加熱して得られたピザ類においては、クラスト部表面がクリスピーで内層がもっちりとしており、良好な食感になる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
一般的にピザ生地は、小麦粉、食塩、油脂、イースト及び糖類などの副資材を含む原料に水分を加えて混捏し、分割、平たく圧延成型(展延)して製造される。その上にチーズや他の具材をトッピングして必要により生地を折りたたんで加熱されたものがピザ、生地に由来する部位がピザクラストである。
本発明において「ピザ類」は、ピザ生地にチーズやソース等の具材を載置してから必要により生地を折りたたみ加熱することにより製造されるもの、ピザ生地を加熱してピザクラストとし、このピザクラストに具材を載置して再度加熱することにより製造されるもの、ピザ生地又はピザクラストに具材を載置し、必要により生地を折りたたみ、冷蔵又は冷凍保存の後加熱して得られるものを含む。
一般にピザ類は、ピザ生地の厚さ及び形状、載置する具材、調理方法等により各地の風土や嗜好性に合わせて多様な種類が知られている。
本発明においてもピザ生地の厚さ、ピザ生地の形状、具材などに特に限定はなく、このようなピザ類としては、ナポリ風ピザ、ミラノ風ピザ、ローマ風ピザ、カルツォーネ、スフィンチョーネ、アル・パデリーノ、ピゾーロ、スカッチャ、ピッツァッタ・ディ・レッコ、パンツェロッティ等が挙げられる。
【0009】
<ピザ類用小麦粉組成物>
本発明のピザ類用小麦粉組成物は、GBSSI-A1の酵素活性を欠損しておらず、GBSSI-B1及びGBSSI-D1の酵素活性を欠損し、かつ、SSIIa-A1、SSIIa-B1及びSSIIa-D1のうちのいずれか2つの酵素活性を欠損したコムギの収穫物を製粉して得られた小麦粉(GA-SX小麦粉)を含んでいる。
普通系コムギは、異質6倍体であり、その染色体には同祖染色体であるA、B、Dの3つのゲノムがそれぞれ1~7番まで存在する(1A~7A、1B~7B、1D~7D)。
「GBSSI」とは、アミロースの合成に関与する顆粒結合性澱粉合成酵素であり、GBSSI-A1、GBSSI-B1、GBSSI-D1が、それぞれ7A、4A、7D染色体上に座乗する遺伝子によってコードされている。
「SSIIa」とは、アミロペクチンの分岐鎖合成に関与する澱粉合成酵素であり、SSIIa-A1、SSIIa-B1、SSIIa-D1が、それぞれ7A、7B、7D染色体上に座乗する遺伝子によってコードされている。
【0010】
「酵素活性を欠損する」とは、コムギ植物体内で正常な酵素活性を有するタンパク質が機能していないこと、好ましくは正常な酵素活性を有するタンパク質が発現していないことをいう。具体的には、遺伝子配列の変異(一つ又は複数の塩基の置換、欠失、挿入、逆位、転座などの変異をいい、遺伝子領域全体の欠失も含む)、mRNA転写の欠損、タンパク質翻訳の欠損、コムギ植物体内での酵素活性の阻害などの態様が挙げられ、野生型の酵素活性の10%未満、好ましくは5%未満、より好ましくは1%未満にまで酵素活性が低下ないし欠失していれば、いずれの態様であってもよい。
【0011】
GA-SX小麦粉としては、酵素活性を欠損した2種類のSSIIaの組み合わせにより、以下の小麦粉が挙げられる。
GA-SA小麦粉:GBSSI-A1の酵素活性を欠損しておらず、GBSSI-B1及びGBSSI-D1の酵素活性を欠損し、かつ、SSIIa-A1の酵素活性を欠損しておらず、SSIIa-B1及びSSIIa-D1の酵素活性を欠損したコムギの収穫物を製粉して得られた小麦粉;
GA-SB小麦粉:GBSSI-A1の酵素活性を欠損しておらず、GBSSI-B1及びGBSSI-D1の酵素活性を欠損し、かつ、SSIIa-B1の酵素活性を欠損しておらず、SSIIa-A1及びSSIIa-D1の酵素活性を欠損したコムギの収穫物を製粉して得られた小麦粉;
GA-SD小麦粉:GBSSI-A1の酵素活性を欠損しておらず、GBSSI-B1及びGBSSI-D1の酵素活性を欠損し、かつ、SSIIa-D1の酵素活性を欠損しておらず、SSIIa-A1及びSSIIa-B1の酵素活性を欠損したコムギの収穫物を製粉して得られた小麦粉。
これらのうち、GA-SA小麦粉が好ましい。
GA-SX小麦粉は、公知の方法、例えば、特開2013-188206号記載の方法に従って、製造することができる。
【0012】
本発明のピザ類用小麦粉組成物は、GA-SX小麦粉と、GA-SX小麦粉以外の小麦粉とを含み、小麦粉からなる。GA-SX小麦粉以外の小麦粉としてはGA-SX小麦以外のコムギの収穫物を製粉して得られた小麦粉であれば特に限定はない。例えば、GBSSI(GBSSI-A1、GBSSI-B1及びGBSSI-D1)及びSSIIa(SSIIa-A1,SSIIa-B1及びSSIIa-D1)の6種の酵素活性の欠損の組み合わせ(ただし、GA-SXを除く)で酵素活性を欠損したコムギ並びにGBSSI及びSSIIaの何れの酵素活性も欠損していないコムギの収穫物から製粉して得られた小麦粉が挙げられる。あるいは一般に使用される、強力粉、中力粉、薄力粉、及びそれらの混合物であってよい。
【0013】
GA-SX小麦粉の含有量は、ピザ類用小麦粉組成物の全質量(小麦粉全質量)に対して、5質量%以上であり、好ましくは10~95質量%であり、より好ましくは20~90質量%であり、更に好ましくは30~80質量%である。5質量%以上であれば、サックリ感のあるクリスピーなクラスト部表面及びもっちりとした内層を有するピザ類を得ることができ、また、リタード時間を短縮しても生地の伸展性が良好で、延展したピザ生地の収縮を抑制することができ、効率的にピザ類を製造することができる。
【0014】
<ピザ類用プレミックス粉>
本発明において、上記GA-SX小麦粉を含む、ピザ類用プレミックス粉を用いてもよい。一般にプレミックス粉は、その使用用途に応じて、GA-SX小麦粉に、GA-SX小麦粉以外の小麦粉あるいは小麦粉以外の穀粉、化学膨張剤、調味料、香料、色素等の粉末原料、油脂類などを混合したものをいう。
本発明のピザ類用プレミックス粉は、GA-SX小麦粉の他に、GA-SX小麦粉以外の小麦粉、ライ麦粉、コーンフラワー、大麦粉、米粉などの穀粉類;小麦ふすま、米ぬか等の糠類;イースト;イーストフード;穀類、イモ類、豆類、樹幹等並びにそれらのワキシー種から分離精製された澱粉類(例えば、小麦澱粉、コーンスターチ、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、緑豆澱粉、サゴ澱粉等並びにそれらのワキシー澱粉)及びこれらにα化、エーテル化、エステル化、アセチル化、架橋処理等を行った加工澱粉類;難消化性澱粉等の水不溶性食物繊維;ポリデキストロース、大麦βグルカン、難消化性デキストリン等の水溶性食物繊維;デキストリン等の澱粉分解物;ペクチン、カラギーナン、キサンタンガム、グアーガム、タラガム、ローカストビーンガム、イヌリン等の増粘多糖類;メチルセルロース類等のセルロース誘導体;ブドウ糖、果糖、乳糖、砂糖、イソマルトースなどの糖類;卵黄、卵白、全卵及びそれらを粉末化したものやその他の卵に由来する成分である卵成分;粉乳、脱脂粉乳、大豆粉乳等の乳成分;グルテン、大豆蛋白、小麦蛋白、えんどう豆蛋白等のタンパク質類;ショートニング、ラード、マーガリン、バター、オリーブ油、ダイズ油等の固形状ないし液状の油脂類;グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン、カゼインナトリウム等の乳化剤;食塩等の無機塩類;保存料;香料;香辛料;ビタミン;カルシウム等の強化剤などの通常ピザの製造に用いる副原料を含むことができる。
本発明のピザ類用プレミックス粉として、ピザ類用プレミックス粉に含まれる穀粉全体の質量に対するGA-SX小麦粉の割合は5質量%以上であり、好ましくは20~90質量であり、より好ましくは50質量%以上であり、さらに好ましくは75質量%以上、最も好ましくは90質量%以上である。
【0015】
<ピザ類用生地>
本発明のピザ類用生地は、少なくとも上記ピザ類用小麦粉組成物または上記ピザ類用プレミックス粉を含む。なお、本発明のピザ類用生地とは、原料を混捏して得られる生地、その生地を分割して丸めを行った玉生地、玉生地を延展して得られるシート状のピザ生地等を含む、ピザ類を製造するための各種の生地形態を総称する用語として使用する。単にピザ生地と記した場合はシート状のピザ生地のことを指す。
【0016】
本発明のピザ類用生地は、プレミックス粉を使用しない場合には、ピザ類用小麦粉組成物以外に、さらに他の原料として、通常ピザ類の製造に使用される原料であれば何れも配合することができる。例えば、ライ麦粉、コーンフラワー、大麦粉、米粉などの穀粉類;小麦ふすま、米ぬか等の糠類;イースト;イーストフード;穀類、イモ類、豆類、樹幹等並びにそれらのワキシー種から分離精製された澱粉類(例えば、小麦澱粉、コーンスターチ、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、緑豆澱粉、サゴ澱粉等並びにそれらのワキシー澱粉)及びこれらにα化、エーテル化、エステル化、アセチル化、架橋処理等を行った加工澱粉類;難消化性澱粉等の水不溶性食物繊維;ポリデキストロース、大麦βグルカン、難消化性デキストリン等の水溶性食物繊維;デキストリン等の澱粉分解物;ペクチン、カラギーナン、キサンタンガム、グアーガム、タラガム、ローカストビーンガム、イヌリン等の増粘多糖類;メチルセルロース類等のセルロース誘導体;ブドウ糖、果糖、乳糖、砂糖、イソマルトースなどの糖類;卵黄、卵白、全卵及びそれらを粉末化したものやその他の卵に由来する成分である卵成分;粉乳、脱脂粉乳、大豆粉乳等の乳成分;グルテン、大豆蛋白、小麦蛋白、えんどう豆蛋白等のタンパク質類;ショートニング、ラード、マーガリン、バター、オリーブ油、ダイズ油等の固形状ないし液状の油脂類;グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン、カゼインナトリウム等の乳化剤;食塩等の無機塩類;保存料;香料;香辛料;ビタミン;カルシウム等の強化剤などを配合することができる。
【0017】
本発明のピザ類用生地中の油脂類の使用量は、特に制限されるものではないが、穀粉100質量部に対して1~5質量部以下であり、より好ましくは2~4質量部である。油脂の種類は特に限定されるものではないが、好ましくはオリーブ油、キャノーラ油、大豆油、ひまわり油であり、より好ましくはオリーブ油である。
【0018】
本発明のピザ類用生地は、上記原料及び副材料(又は上記ピザ用プレミックス粉)に水分を加えて混捏して製造される。
【0019】
<ピザ類の製造方法>
本発明のピザ類は、GA-SX小麦粉を含む、前記ピザ類用小麦粉組成物又は前記ピザ類用プレミックス粉を使用する以外は常法に従って製造することが出来る。
例えば、前記ピザ類用小麦粉組成物又は前記ピザ類用プレミックス粉及び任意に各種の副資材を含む原料に水分を加えて混捏し、得られた生地を適宜発酵させ、リタードを行い、生地を延展してシート状のピザ生地とし、チーズやソース等の具材を載置してから加熱することにより製造される。あるいは、シート状の生地を加熱してピザクラストとし、このピザクラストに具材を載置して再度加熱することによりピザ類を製造することもできる。また、シート状のピザ生地又はピザクラストは、任意に具材を載置し、冷蔵又は冷凍保存の後にピザ類の製造に供することもできる。
ピザ類の製造方法におけるリタードとは、低温条件下で生地を保持する(休ませる)ことであり、その目的は生地の状態を延展に適したものにすることである。リタードを行うことにより、生地の伸展性が良好になり、延展したシート状のピザ生地の収縮を抑制することができる。原料配合や製造するピザ類にもよるが、一般的に保持温度(リタード温度)は0~10℃であり、保持時間(リタード時間)は15分~24時間である。リーンな原料配合である場合には、もっぱら12~24時間程度のリタード時間を必要とする。
本発明のピザ類の製造方法ではリタード時間を短縮しても、生地の伸展性が良好であるため容易にピザ生地に延展することができ、延展したピザ生地の収縮を抑制することができ、効率的にピザを製造することができる。標準的なリタード時間により得られるピザ類と同等の品質を得る為に必要なリタード時間はおおむね1/7~1/5程度に短縮され、例えば、リーンな配合のピザ生地についてリタード時間を2~4時間以上とすることにより標準的な12~24時間程度のリタード時間により得られるものと同等の又はそれ以上の品質のピザ類を得ることができる。
また、パン生地の製法として知られているストレート法は通常リタード工程を含まず、充分な緩和熟成を行うことが出来ないためにピザ生地の製造には適さないとされるところ、本発明のピザ類の製造方法によれば、ストレート法によりピザ生地を製造してもリーンな配合のピザ生地について標準的な12~24時間程度のリタード時間を含む製法で得られるピザ類と同等の又はそれ以上の品質のピザ類を製造することができる。
本発明において、ピザ生地の厚さは特に限定されるものではないが、概ね1~10mmであり、好ましくは2~5mmである。ピザ生地の形状は特に限定されるものではなく、上面視で略円形、楕円形、四方形、多方形であり、好ましくは略円形である。ピザ生地又はピザクラストに載置する具材はピザ類の製造に使用される具材であれば何れも使用することができ、トマトソース、ジェノベーゼソース等のソース類;モッツアレラ、ゴルゴンゾーラ等のチーズ類;ソーセージ、生ハム等の畜肉加工品;イカ、貝等の魚介類、オレガノ、バジル等の香草類;パプリカ、ほうれん草等の野菜類;ジャガイモ等の塊茎類;オリーブ等の果実類等が挙げられる。加熱方法についても特に限定されるものではなく、シート状のピザ生地に具材を載置して加熱してもよく、シート状のピザ生地と具材を交互に重層して加熱してもよく、シート状のピザ生地で具材を挟み込んで加熱してもよく、半加熱したシート状のピザ生地の内部に具材を詰めて仕上げ加熱してもよい。加熱手段は特に限定されるものではなく、固定釜による焼成、油浴中でのフライ、蒸し器によるスチーミングであってもよい。
【実施例
【0020】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0021】
製造例1 リタード工程を含むピザの製造
(1)配合表1記載の原料をミキサーに投入し、低速4分、中速5分ミキシングした。捏ね上げ温度は24℃であった。
(2)20分間生地を休ませた後、1個200gに分割して丸め、玉生地を得た。
(3)玉生地を樹脂製袋で密封し、庫内温度5℃の冷蔵庫で18時間休ませた(リタード)。
(4)玉生地の芯温が18℃になるまで室温で復温させた後、麺棒を用いて直径25cmの略円形に丸く延ばして成形してピザ生地を得た。
(5)ピザ生地の上にピザソース30gを満遍なく広げ、チーズ25gをムラなく散りばめ、400℃に予熱した固定釜に投入し、400℃で2分30秒間焼成してピザを得た。
【0022】
配合表1
小麦粉には、標準的な小麦粉としてFナポレオン(日本製粉株式会社)を使用した。
【0023】
評価例1 ピザの生地性及び食感評価
玉生地からピザ生地へ成形する際の生地の伸展性と収縮性、及びピザ生地を焼成した後5分間室温静置して粗熱を取ったピザの食感を、熟練パネラー10名により評価基準表1に従って評価した。なお、製造例1に従って製造したピザ(比較例1)における生地の伸展性、収縮性及び食感を3点とした。
【0024】
評価基準表1
【0025】
試験例1 GA-SA小麦粉配合比の検討
標準的な小麦粉としてFナポレオン(日本製粉株式会社)を使用し、表1記載の小麦粉の配合(質量部)にした以外は製造例1に従ってピザを製造し、評価例1に従って評価した。
その結果、リタード時間を18時間にした実施例1~6において、GA-SA小麦粉の割合が高くなるにつれて生地の伸展性が良好になり、伸ばした生地の収縮が抑制され、玉生地をピザ生地へ成形し易くなった。焼成後粗熱を取ったピザの食感は、GA-SA小麦粉の割合が高くなるにつれて外皮のサックリ感と内層のモッチリ感が良好になり、GA-SA小麦粉が70質量%の実施例4において最も良好であった。GA-SA小麦粉の割合が70質量%以上の実施例1及び2では、GA-SA小麦粉の割合が増加するにつれて内層がネチャつき、口溶けの悪い食感になった。実施例1では、外層のサックリとしたクリスピーな食感と内層の食感とのバランスが比較例1よりもわずかに劣ったが、総合的には良好であった。
【0026】
表1
【0027】
試験例2 リタード時間の検討
標準的な小麦粉としてFナポレオン(日本製粉株式会社)を使用し、表2記載の配合及びリタード時間にした以外は製造例1に従ってピザを製造し、評価例1に従って評価した。
その結果、標準的な小麦粉のみを使用した比較例1~6では、リタード時間が短くなるにしたがって、生地が硬くなって伸展性が悪くなり、伸ばした生地が収縮しやすくなり、外皮、内相が硬く、ヒキの強い食感となった。それに対して、GA-SA小麦粉を70質量%使用した実施例7~11では、リタード時間が短くなるに従って実施例3よりも評価が低くなったが、3時間のリタードにより比較例1よりも生地の伸展性と収縮性が良好で成形し易く、外皮がサックリとして内層がモッチリとした良好な食感であった。GA-SA小麦粉を10質量%使用した実施例12~16では、何れもリタード時間が対応する比較例2~6よりも評価点が良好であり、少なくとも3時間のリタードにより標準的なピザである比較例1とほぼ同等の生地の伸展性と収縮性及び食感であった。以上のことから、GA-SA小麦粉を小麦粉全量に対して10質量%以上使用することにより、リタード時間を1/6に短縮できることが分かった。
【0028】
表2

【0029】
製造例2 ストレート法によるピザの製造
(1)配合表1記載の原料をミキサーに投入し、低速4分、中速5分ミキシングした。捏ね上げ温度は27℃であった。
(2)27℃、相対湿度75%で60分間発酵させた。
(3)1個あたり200gに分割して丸めを行って玉生地を得た。
(4)25分間ベンチタイムをとった後、麺棒を用いて直径25cmの略円形に丸く延ばして成形してピザ生地を得た。
(5)ピザ生地の上にピザソース30gを満遍なく広げ、チーズ25gをムラなく散りばめ、400℃に予熱した固定釜に投入し、400℃で2分30秒間焼成してピザを得た。
【0030】
試験例3 ピザのストレート製法におけるGA-SA小麦粉配合比の検討
標準的な小麦粉としてFナポレオン(日本製粉株式会社)を使用し、表3記載の配合割合にした以外は製造例2に従ってストレート法によるピザを製造し、評価例1に従って評価した。
その結果、標準的な小麦粉のみを使用した比較例7では、生地が硬いために伸展性が悪く、伸ばした生地が収縮し、外皮、内相ともに硬く、ヒキのある食感であった。それに対して、GA-SA小麦粉を使用した実施例17~22では、GA-SA小麦粉の配合割合の増加に従って生地の伸展性と収縮性及び食感共に良好になり、少なくとも10質量%のGA-SA小麦粉を使用することにより比較例1(標準的な小麦粉のみを使用し、標準的なリタードをして製造したピザ)とほぼ同等の評価になった。GA-SA小麦粉のみを使用した実施例17では、内層がわずかにネチャつき、口溶けの悪い食感であったが、総合的には良好であった。
【0031】
表3