(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】エッチング液、及び半導体素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/308 20060101AFI20241108BHJP
【FI】
H01L21/308 B
(21)【出願番号】P 2020180113
(22)【出願日】2020-10-28
【審査請求日】2023-07-13
(31)【優先権主張番号】P 2019233655
(32)【優先日】2019-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000220239
【氏名又は名称】東京応化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179833
【氏名又は名称】松本 将尚
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【氏名又は名称】宮本 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(72)【発明者】
【氏名】和田 幸久
(72)【発明者】
【氏名】森 大二郎
【審査官】小▲高▼ 孔頌
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-303305(JP,A)
【文献】特開2003-183652(JP,A)
【文献】特開2007-227602(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0242015(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/308
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式Si
1-xGe
xで表される化合物(ただし、xは0超1未満である。)をエッチング処理するためのエッチング液であって、
フッ化水素酸と、硝酸と、水とを含み、
前記エッチング液全体における前記フッ化水素酸の含有割合が0.02質量%以上0.1質量%以下であり、
前記エッチング液全体における前記硝酸の含有割合が10質量%以上40質量%以下であり、
前記エッチング液全体における前記水の含有割合が9.9質量%以上40質量%以下であり、
さらに、極性溶媒として酢酸を含む、エッチング液。
【請求項2】
さらにリン酸及び/又はその誘導体を含む、請求項
1に記載のエッチング液。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載のエッチング液を用いて、一般式Si
1-xGe
xで表される化合物を含む被処理体をエッチング処理する工程を含む、半導体素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エッチング液、及び半導体素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、集積回路内の構成のスケーリングは、半導体チップ上の機能ユニットの高密度化を可能にしてきた。例えば、トランジスタサイズの縮小は、より多くのメモリ素子をチップ上に取り込むことを可能にし、容量が増えた製品の製造につながる。
【0003】
集積回路デバイスのための電界効果トランジスタ(FET)の製造において、シリコン以外の半導体結晶材料としては、Geが用いられている。Geは、高い電荷キャリア(正孔)移動度、バンドギャップオフセット、異なる格子定数、及びシリコンとの合金になって、SiGeの半導体二元合金を生成する能力など、場合によってはシリコンに比べて有利ないくつかの特徴を持つ。
【0004】
Ge材料(特に一般式Si1-xGexで表される化合物。ただし、xは0超1未満である。以下、単に「SiGe化合物」という場合がある。)に対する選択性の高いエッチング液が種々提案されている。
例えば、フッ化水素酸(DHF)と硝酸とを含有するエッチング液は、SiやSiO2等に対してSiGe化合物のエッチング比が高いことが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
一方、フッ化水素酸(DHF)と硝酸とを含有するエッチング液は、例えばSi/SiGe/Siからなる積層構造のうちのSiGeのみを選択的にエッチングする際に長時間エッチングを続けると、SiGe層のエッチングが途中で止まってしまう(いわゆるエッチングストップが起こる)という不具合があった。このため、SiGe除去時に、Si層のエッチングが意図せず進んでしまい、安定した形状が得られず、トランジスタ特性のバラツキを引き起こし、更に歩留まりが悪化する、という問題があった。
【0006】
上記問題を解決するために、特許文献1には、下記の方法が提案されている。
(方法1)
SiGe層を備える基板を回転させながら、フッ硝酸溶液を数十秒程度の短時間噴きつけSiGe層をエッチングする。ついで基板を回転させながらフッ硝酸溶液の噴きつけを一旦止める。その後、基板を回転させながら新液からなるフッ硝酸溶液を再び噴きつける。
(方法2)
エッチング槽に貯えられたフッ硝酸溶液にSiGe層を備える基板を浸けて、SiGe層を1分程度の短時間ウェットエッチングする。ついで、エッチング槽から取り出し、水洗槽に浸けて水洗処理を行う。その後、基板を再度エッチング槽に貯えられたフッ硝酸溶液に浸けて、1分程度の短時間ウェットエッチングする。このようにエッチング処理と水洗処理とを複数回繰り返す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載されているような方法では、製造プロセスにおける工程数が増えるため、生産効率及び製造コストの面で実用的ではないという問題があった。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、Si、Ge、及びこれらの酸化物に対して一般式Si1-xGexで表される化合物を選択的にエッチング処理可能で、かつ、エッチングストップを起こしづらいエッチング液、及び該エッチング液を用いた半導体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明は以下の構成を採用した。
【0010】
本発明の第1の態様は、Si、Ge、及びこれらの酸化物に対して一般式Si1-xGexで表される化合物(ただし、xは0超1未満である。)を選択的にエッチング処理するためのエッチング液であって、フッ化水素酸と、硝酸と、水とを含み、前記エッチング液全体における前記フッ化水素酸の含有割合が0.002質量%以上1.0質量%以下であり、前記エッチング液全体における前記硝酸の含有割合が10質量%以上であり、前記エッチング液全体における前記水の含有割合が40質量%以下である、エッチング液である。
【0011】
本発明の第2の態様は、前記エッチング液を用いて、一般式Si1-xGexで表される化合物を含む被処理体をエッチング処理する工程を含む、半導体素子の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のエッチング液によれば、Si、Ge、及びこれらの酸化物に対して一般式Si1-xGexで表される化合物を、エッチングストップを抑制しつつ選択的にエッチング処理ができる。
また、本発明の半導体の製造方法によれば、Si、Ge、及びこれらの酸化物に対して一般式Si1-xGexで表される化合物が選択的にエッチング処理された半導体を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(エッチング液)
本発明の第1の態様にかかるエッチング液は、フッ化水素酸と、硝酸と、水とを含む。本態様にかかるエッチング液は、Si、Ge、及びこれらの酸化物に対して一般式Si1-xGexで表される化合物(ただし、xは0超1未満である。)(以下、単に「SiGe化合物」という場合がある。)を選択的にエッチング処理するために用いられる。
【0014】
<フッ化水素酸>
本実施形態にかかるエッチング液は、フッ化水素酸(DHF)を含む。
エッチング液全体におけるフッ化水素酸の含有割合が0.002質量%以上1.0質量%以下であり、好ましくは0.005質量%以上0.9質量%以下であり、より好ましくは0.001質量%以上0.8質量%以下であり、更に好ましくは0.01質量%以上0.7質量%以下であり、更に好ましくは0.02質量%以上0.6質量%以下である。
フッ化水素酸の含有量が前記範囲内であると、SiGe化合物に対するエッチングレートが向上する。
【0015】
<硝酸>
本実施形態にかかるエッチング液は、硝酸(HNO3)を含む。
エッチング液全体における硝酸の含有割合は10質量%以上であり、好ましくは10質量%以上55質量%以下であり、より好ましくは11質量%以上55質量%以下であり、更に好ましくは12質量%以上54質量%以下であり。更に好ましくは15質量%以上54質量%以下である。
硝酸の含有量が前記範囲内であると、SiGe化合物を酸化しやすくなり、SiGe化合物に対するエッチングレートが向上する。
【0016】
<水>
本実施形態のエッチング液は、水を含む。
水は、不可避的に混入する微量成分を含んでいてもよい。本実施形態のエッチング液に用いられる水は、蒸留水、イオン交換水、及び超純水などの浄化処理を施された水が好ましく、半導体製造に一般的に使用される超純水を用いることがより好ましい。
エッチング液全体における水の含有割合が40質量%以下であり、好ましくは5質量%以上40質量%以下であり、より好ましくは6質量%以上38質量%以下であり、更に好ましくは7質量%以上36質量%以下であり、更に好ましくは8質量%以上35質量%以下である。
水の含有量が前記範囲内であると、SiGeのエッチングレートを制御することができる。
【0017】
<他の成分>
本実施形態のエッチング液は、本発明の効果を損なわない範囲で、上記成分に加えて他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、溶媒、リン酸及び/又はその誘導体、pH調整剤、パッシベーション剤、界面活性剤等が挙げられる。
【0018】
・溶媒
本実施形態のエッチング液は、フッ化水素酸、硝酸、水及びその他の任意成分を溶媒に混合して調製することができる。
溶媒としては特に限定されず、極性有機溶媒等が挙げられる。
【0019】
・極性有機溶媒
本実施形態のエッチング液は、本発明の効果を損なわない範囲で、極性有機溶媒を含有ししてもよい。極性有機溶媒としては、有機カルボン酸系溶媒(例えば、酢酸、ギ酸等)、アルコール系溶媒(例えば、メタノール、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、フルフリルアルコール、及び2-メチル-2,4-ペンタンジオール等)、ジメチルスルホキシド、エーテル系溶媒(例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル)等が挙げられる。
なかでも、極性有機溶媒としては、有機カルボン酸系溶媒が好ましく、酢酸がより好ましい。
【0020】
本実施形態のエッチング液において、極性有機溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本実施形態のエッチング液が極性有機溶媒を含む場合、極性有機溶媒の含有量は、例えば、エッチング液の全質量に対し、10~90質量%が例示され、11~85質量%が好ましく、12~80質量%がより好ましい。
【0021】
・リン酸及び/又はその誘導体
本実施形態のエッチング液は、本発明の効果を損なわない範囲で、溶媒としてリン酸及び/又はその誘導体を含有ししてもよい。リン酸及び/又はその誘導体としては、下記一般式(1)で表される化合物が挙げられる。
【0022】
【化1】
[式中、各Rはそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~20のアルキル基である。]
【0023】
前記式(1)中、Rにおける炭素数1~20のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、イソトリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、イソヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、上記アルキル基の各異性体等が挙げられる。
なかでも、Rとしては、水素原子又は炭素数1~10のアルキル基が好ましく、水素原子がより好ましい。
【0024】
本実施形態のエッチング液において、リン酸及び/又はその誘導体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本実施形態のエッチング液がリン酸及び/又はその誘導体を含む場合、リン酸及び/又はその誘導体の含有量は、例えば、エッチング液の全質量に対し、1~40質量%が例示され、2~38質量%が好ましく、3~37質量%がより好ましく、5~35質量%がさらに好ましい。
【0025】
・pH調整剤
本実施形態のエッチング液は、SiGe化合物に対するエッチングレートを更に向上させるために、pH調整剤を含んでいてもよい。
pH調整剤としては、酸及びその塩からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。具体的には、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、シュウ酸二水和物、クエン酸、酒石酸、ピコリン酸、コハク酸、酢酸、乳酸、スルホコハク酸、安息香酸、プロピオン酸、ギ酸、ピルビン酸、マレイン酸、マロン酸、フマル酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、マンデル酸、ヘプタン酸、酪酸、吉草酸、グルタル酸、フタル酸、次亜リン酸、サリチル酸、5-スルホサリチル酸、塩酸、エタンスルホン酸、ブタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ジクロロ酢酸、ジフルオロ酢酸、モノクロロ酢酸、モノフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、臭化水素酸(62重量%)、硫酸、酢酸アンモニウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸テトラメチルアンモニウム及び他の酢酸テトラアルキルアンモニウム、酢酸ホスホニウム、酪酸アンモニウム、トリフルオロ酢酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸、リン酸水素ジアンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素ビス(テトラメチルアンモニウム)、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素ジテトラアルキルアンモニウム、リン酸二水素ジテトラアルキルアンモニウム、リン酸水素ジホスホニウム、リン酸二水素ホスホニウム、ホスホン酸アンモニウム、ホスホン酸テトラアルキルアンモニウム、ホスホン酸ナトリウム、ホスホン酸カリウム、ホスホン酸ホスホニウム、エチドロン酸これらの塩等が挙げられる。
なかでも、酢酸アンモニウム又は硫酸アンモニウムが好ましい。
【0026】
また、本実施形態のエッチング液は、pH調整剤として、塩基性化合物を含んでいてもよい。このような塩基性化合物としては、有機アルカリ性化合物および無機アルカリ性化合物を用いることができ、有機アルカリ化合物としては、有機第四級アンモニウム水酸化物をはじめとする四級アンモニウム塩、トリメチルアミン及びトリエチルアミンなどのアルキルアミン及びその誘導体の塩、が好適な例として挙げられる。
また、無機アルカリ性化合物は、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属を含む無機化合物及びその塩が挙げられる。例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム及び水酸化セシウムなどが挙げられる。
【0027】
本実施形態のエッチング液において、pH調整剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本実施形態のエッチング液がpH調整剤を含む場合、pH調整剤の含有量は、例えば、エッチング液の全質量に対し、0.01~10質量%が例示され、0.02~4.5質量%が好ましく、0.03~4質量%がより好ましく、0.05~3質量%がさらに好ましい。pH調整剤の含有量が前記範囲内であると、SiGe化合物に対するエッチングレートがより向上しやすい。
【0028】
・パッシベーション剤
本実施形態のエッチング液は、ゲルマニウムのためのパッシベーション剤を含んでいてもよい。
パッシベーション剤としては、アスコルビン酸、L(+)-アスコルビン酸、イソアスコルビン酸、アスコルビン酸誘導体、ホウ酸、二ホウ酸アンモニウム、ホウ酸塩(例えば、五ホウ酸アンモニウム、四ホウ酸ナトリウム及び二ホウ酸アンモニウム)、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グルタミン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化ルビジウム、臭化マグネシウム、臭化カルシウム、式NR1R2R3R4Br(式中、R1、R2、R3及びR4は、互いに同じであることも、又は異なることもできて、水素、及び分岐鎖又は直鎖のC1-C6アルキル(例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル)からなる群から選択される。)を有する臭化アンモニウム等が挙げられる。
【0029】
本実施形態のエッチング液において、パッシベーション剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本実施形態のエッチング液がパッシベーション剤を含む場合、例えば、エッチング液の全質量に対し、0.01~5質量%が好ましく、0.1~1質量%がより好ましい。
【0030】
・界面活性剤
本実施形態のエッチング液は、被処理体に対するエッチング液の濡れ性の調整の目的等のために、界面活性剤を含んでいてもよい。界面活性剤としては、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、又は両性界面活性剤を用いることができ、これらを併用してもよい。
【0031】
ノニオン界面活性剤としては、例えば、ポリアルキレンオキサイドアルキルフェニルエーテル系界面活性剤、ポリアルキレンオキサイドアルキルエーテル系界面活性剤、ポリエチレンオキサイドとポリプロピレンオキサイドからなるブロックポリマー系界面活性剤、ポリオキシアルキレンジスチレン化フェニルエーテル系界面活性剤、ポリアルキレントリベンジルフェニルエーテル系界面活性剤、アセチレンポリアルキレンオキサイド系界面活性剤等が挙げられる。
【0032】
アニオン界面活性剤としては、例えば、アルキルスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸、脂肪酸アミドスルホン酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテルプロピオン酸、アルキルホスホン酸、脂肪酸の塩等が挙げられる。「塩」としてはアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、テトラメチルアンモニウム塩等が挙げられる。
【0033】
カチオン界面活性剤としては、例えば、第4級アンモニウム塩系界面活性剤、又はアルキルピリジウム系界面活性剤等が挙げられる。
【0034】
両性界面活性剤としては、例えば、ベタイン型界面活性剤、アミノ酸型界面活性剤、イミダゾリン型界面活性剤、アミンオキサイド型界面活性剤等が挙げられる。
【0035】
これらの界面活性剤は一般に商業的に入手可能である。界面活性剤は、1種を単独で用いてもよく。2種以上を併用してもよい。
【0036】
<被処理体>
本実施形態のエッチング液は、SiGe化合物のエッチングのために用いられるものであり、SiGe化合物を含む被処理体をエッチング処理の対象とする。被処理体は、SiGe化合物を含むものであれば特に限定さないが、SiGe化合物含有層(SiGe化合物含有膜)を有する基板等が挙げられる。前記基板は、特に限定されず、半導体ウエハ、フォトマスク用ガラス基板、液晶表示用ガラス基板、プラズマ表示用ガラス基板、FED(Field Emission Display)用基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板等の各種基板が挙げられる。前記基板としては、半導体デバイス作製のために使用される基板が好ましい。前記基板は、SiGe化合物含有層及び基板の基材以外に、適宜、種々の層や構造、例えば、金属配線、ゲート構造、ソース構造、ドレイン構造、絶縁層、強磁性層、及び非磁性層等を有していてもよい。また、基板のデバイス面の最上層がSiGe化合物含有層である必要はなく、例えば、多層構造の中間層がSiGe化合物含有層であってもよい。
基板の大きさ、厚さ、形状、層構造等は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0037】
前記SiGe化合物含有層は、SiGe化合物を含有する層であることが好ましく、SiGe化合物膜であることがより好ましい。基板上のSiGe化合物含有層の厚さは、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。SiGe化合物含有層の厚さとしては、例えば、1~200nmや1~20nmの範囲が挙げられる。
【0038】
前記被処理体は、SiGe化合物以外に、Si、Ge、及びこれらの酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよく、SiO2を含んでいることが好ましい。
【0039】
本実施形態のエッチング液は、基板におけるSiGe化合物含有層の微細加工を行うために用いられてもよく、基板に付着したSiGe化合物含有付着物を除去するために用いられてもよく、表面にSiGe化合物含有層を有する被処理体からパーティクル等の不純物を除去するために用いられてもよい。
【0040】
以上説明した本実施形態のエッチング液によれば、フッ化水素酸と、硝酸と、水とを特定量含むため、Si、Ge、及びこれらの酸化物に対して一般式Si1-xGexで表される化合物(SiGe化合物)を選択的にエッチング処理し、かつ、SiGe化合物のエッチングストップを抑制することが可能である。その理由は定かではないが、以下のように推測される。本実施形態のエッチング液を、SiGe化合物を含む被処理体と接触させると、硝酸によりSiGe化合物が酸化される。SiGe化合物の酸化物は、フッ化水素酸中のフッ化物イオン(F-)によってエッチングされる。具体的には、下記式(1)の電気化学反応によってSiGeが除去される。
Si(Ge)+HNO3+6HF→H2Si(Ge)F6+HNO2+H2O+H2…(1)
上記式(1)に示されるように、フッ化水素酸と硝酸とを含有するエッチング液を用いてSiGe化合物を長時間エッチングすると、硝酸や亜硝酸によるGeの酸化速度がSiより速いためエッチング中の最表面のGe濃度が下がり、SiGe層のエッチングが途中で止まってしまう、いわゆるエッチングストップが起こるおそれがある。
しかしながら、本実施形態のエッチング液は、フッ化水素酸、硝酸及び水の含有量が特定範囲内となっているため、SiとGeの酸化速度が等しくなり、SiGe化合物のエッチングストップを抑制しつつ、SiGe化合物)を選択的にエッチングできると推測される。
【0041】
(半導体素子の製造方法)
本発明の第2の態様にかかる半導体素子の製造方法は、上記第1の態様にかかるエッチング液を用いて、SiGe化合物を含む被処理体をエッチング処理する工程を含むことを特徴とする。
【0042】
SiGe化合物を含む被処理体としては、上記「(エッチング液)」における「<被処理体>」で説明したものと同様のものが挙げられ、SiGe化合物含有層を有する基板が好ましく例示される。基板上にSiGe化合物含有層を形成する方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。かかる方法としては、例えば、スパッタリング法、化学気相成長(CVD:Chemical Vapor Deposition)法、エピタキシャル成長(epitaxial growth)法、及び原子層堆積法(ALD:Atomic layer deposition)等が挙げられる。基板上にSiGe化合物含有層を形成する際に用いるSiGe化合物含有層の原料も、特に限定されず、成膜方法に応じて適宜選択することができる。
前記被処理体は、SiGe化合物以外に、Si、Ge、及びこれらの酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよく、SiO2を含んでいることが好ましい。
【0043】
<被処理体をエッチング処理する工程>
本工程は、上記第1の態様にかかるエッチング液を用いてSiGe化合物を含む被処理体をエッチング処理する工程であり、前記エッチング液を前記被処理体に接触させる操作を含む。エッチング処理の方法は、特に限定されず、公知のエッチング方法を用いることができる。かかる方法としては、例えば、スプレー法、浸漬法、液盛り法等が例示されるが、これらに限定されない。
スプレー法では、例えば、被処理体を所定の方向に搬送もしくは回転させ、その空間に上記第1の態様にかかるエッチング液を噴射して、被処理体に前記エッチング液を接触させる。必要に応じて、スピンコーターを用いて基板を回転させながら前記エッチング液を噴霧してもよい。
浸漬法では、上記第1の態様にかかるエッチング液に被処理体を浸漬して、被処理体に前記エッチング液を接触させる。
液盛り法では、被処理体に上記第1の態様にかかるエッチング液を盛って、被処理体と前記エッチング液とを接触させる。
これらのエッチング処理の方法は、被処理体の構造や材料等に応じて適宜選択することができる。スプレー法、又は液盛り法の場合、被処理体への前記エッチング液の供給量は、被処理体における被処理面が、前記エッチング液で十分に濡れる量であればよい。
【0044】
エッチング処理の目的は特に限定されず、被処理体のSiGe化合物を含む被処理面(例えば、基板上のSiGe化合物含有層)の微細加工であってもよく、被処理体(例えば、SiGe化合物含有層を有する基板)に付着するSiGe化合物含有付着物の除去であってもよく、被処理体のSiGe化合物を含む被処理面(例えば、基板上のSiGe化合物含有層)の洗浄であってもよい。
【0045】
エッチング処理を行う温度は、特に限定されず、前記エッチング液にSiGe化合物が溶解する温度であればよい。エッチング処理の温度としては、例えば、15~60℃が挙げられる。スプレー法、浸漬法、及び液盛り法のいずれの場合も、エッチング液の温度を高くすることで、エッチングレートは上昇するが、エッチング液の組成変化を小さく抑えることや、作業性、安全性、コスト等も考慮し、適宜、処理温度を選択することができる。
【0046】
エッチング処理を行う時間は、エッチング処理の目的、エッチングにより除去されるSiGe化合物の量(例えば、SiGe化合物含有層の厚さ、SiGe化合物付着物の量など)、及びエッチング処理条件に応じて、適宜、選択すればよい。
【0047】
<他の工程>
本実施形態の半導体素子の製造方法は、上記エッチング処理工程に加えて、他の工程を含んでいてもよい。他の工程は、特に限定されず、半導体素子を製造する際に行われる公知の工程が挙げられる。かかる工程としては、例えば、チャネル形成、High-K/メタルゲート形成、金属配線、ゲート構造、ソース構造、ドレイン構造、絶縁層、強磁性層、及び非磁性層等の各構造の形成工程(層形成、上記エッチング処理以外のエッチング、化学機械研磨、変成等)、レジスト膜形成工程、露光工程、現像工程、熱処理工程、洗浄工程、検査工程等が挙げられるが、これらに限定されない。これらの他の工程は、必要に応じ、上記エッチング処理工程の前又は後に、適宜行うことができる。
【0048】
以上説明した本実施形態の半導体素子の製造方法によれば、フッ化水素酸と、硝酸と、水とを特定量含む上記第1の態様にかかるエッチング液を用いて、被処理体のエッチング処理を行う。当該エッチング液は、Si、Ge、及びこれらの酸化物に対して一般式Si1-xGexで表される化合物(SiGe化合物)を選択的にエッチング処理し、かつ、SiGe化合物のエッチングストップを抑制することが可能である。そのため、本実施形態の半導体素子の製造方法によれば、Si、Ge、及びこれらの酸化物は実質的な影響を受けることなく、SiGe化合物が選択的にエッチングされた半導体素子を得ることができる。また、本実施形態の半導体素子の製造方法によれば、SiGe化合物のエッチングストップが抑制されるため、従来よりも長時間(例えば3分以上)SiGe化合物を選択的にエッチング処理できる。そのため、本実施形態の半導体素子の製造方法は、煩雑なエッチング工程を必要とせず、面内のエッチング均一性が改善するだけでなく処理時間も短くなり低コストとなり、実用性が高い。
【実施例】
【0049】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0050】
<エッチング液の調製(1)>
(実施例1~6、比較例1~6)
表1に示す各成分を混合し、各例のエッチング液を調製した。
【0051】
【0052】
表1中、各略号はそれぞれ以下の意味を有する。
DHF:フッ化水素酸
HNO3:硝酸
AcOH:酢酸
DIW:水
【0053】
<被処理体のエッチング処理(1)>
シリコン基板上にSiGe膜をエピタキシャル成長させ、SiGe膜が形成された被処理体(1)を得た。得られた被処理体(1)から試験片を切り取り、蛍光X線分析によりSiGe膜の膜厚を測定したところ、膜厚は50nmであった。
各例のエッチング液をビーカーに入れ、室温(23℃)で5分間前記試験片を各例のエッチング液に浸漬することによりエッチング処理を行った。前記エッチング処理後、試験片を窒素ブローにより乾燥し、蛍光X線分析によりSiGe膜の膜厚を測定した。エッチング処理前後のSiGe膜の膜厚から、SiGeに対するエッチングレート(nm/min)を算出した。結果を表2に示す。
【0054】
<被処理体のエッチング処理(2)>
シリコン基板上に熱酸化によりシリコン酸化膜を製膜し、被処理体(2)を得た。得られた被処理体(2)から試験片を切り取り、分光エリプソメトリーによりシリコン酸化膜の膜厚を測定したところ、膜厚は100nmであった。
各例のエッチング液をビーカーに入れ、室温(23℃)で5分間前記試験片を各例のエッチング液に浸漬することによりエッチング処理を行った。前記エッチング処理後、試験片を窒素ブローにより乾燥し、分光エリプソメトリーによりシリコン酸化膜の膜厚を測定した。エッチング処理前後のシリコン酸化膜の膜厚から、SiO
2
に対するエッチングレート(nm/min)を算出した。結果を表2に示す。
【0055】
<被処理体のエッチング処理(3)>
SOI(100)基板から試験片を切り取り、被処理体(3)を得た。得られた被処理体(3)を、分光エリプソメトリーによりSi膜の膜厚を測定したところ、膜厚は100nmであった。
各例のエッチング液をビーカーに入れ、室温(23℃)で5分間前記試験片を各例のエッチング液に浸漬することによりエッチング処理を行った。前記エッチング処理後、試験片を窒素ブローにより乾燥し、分光エリプソメトリーによりSi膜の膜厚を測定した。エッチング処理前後のSi膜の膜厚から、Siに対するエッチングレート(nm/min)を算出した。結果を表2に示す。
【0056】
<エッチング選択比の評価(1)>
上記の「被処理体のエッチング処理(1)」、「被処理体のエッチング処理(2)」及び「被処理体のエッチング処理(3)」で得られたエッチングレートの結果に基づいて、被処理体(1)/被処理体(2)のエッチング選択比及び被処理体(1)/被処理体(3)のエッチング選択比を算出した。結果を表2に示す。
【0057】
<エッチングストップの評価(1)>
上記の「被処理体のエッチング処理(1)」において、得られたSiGeエッチングレート(nm/min)に応じて、エッチング処理時間を下記に変更したときのSiGeに対するエッチングレート(nm/min)を算出し、下記の基準で評価した。
・SiGeエッチングレートが10nm/min以下の場合
エッチング処理時間を1分、3分、5分で比較し、下記評価基準にしたがって評価した。
◎:1分間のエッチング処理後のSiGeに対するエッチングレート(nm/min)が、5分間のエッチング処理後のSiGeに対するエッチングレートからの変動率が20%以内。
△:1分間のエッチング処理後のSiGeに対するエッチングレート(nm/min)が、5分間のエッチング処理後のSiGeに対するエッチングレートからの変動率が20%超
×:5分間のエッチング処理後のSiGeに対するエッチングレートが0.6nm/min以下
・SiGeエッチングレートが10nm/min超20nm/min以下
エッチング処理時間を30秒、90秒、150秒で比較し、下記評価基準にしたがって評価した。
◎:30秒間のエッチング処理後のSiGeに対するエッチングレート(nm/min)が、150秒間のエッチング処理後のSiGeに対するエッチングレートからの変動率が20%以内。
△:30秒間のエッチング処理後のSiGeに対するエッチングレート(nm/min)が、150秒間のエッチング処理後のSiGeに対するエッチングレートからの変動率が20%超
×:5分間のエッチング処理後のSiGeに対するエッチングレートが0.6nm/min以下
・SiGeエッチングレートが20nm/min超50nm/min以下
エッチング処理時間を20秒、40秒、60秒で比較し、下記評価基準にしたがって評価した。
◎:20秒間のエッチング処理後のSiGeに対するエッチングレート(nm/min)が、60秒間のエッチング処理後のSiGeに対するエッチングレートからの変動率が20%以内。
△:20秒間のエッチング処理後のSiGeに対するエッチングレート(nm/min)が、60秒間のエッチング処理後のSiGeに対するエッチングレートからの変動率が20%超
×:5分間のエッチング処理後のSiGeに対するエッチングレートが0.6nm/min以下
【0058】
【0059】
表2に示す結果から、実施例1~6のエッチング液は、比較例1~6のエッチング液と比べて、SiGeエッチング選択比が高く、かつ、SiGeのエッチングストップが抑制されていることが確認された。
【0060】
(実施例7~10、比較例7)
表3に示す各成分を混合し、各例のエッチング液を調製した。
【0061】
【0062】
表3中、各略号はそれぞれ以下の意味を有する。
DHF:フッ化水素酸
HNO3:硝酸
AcOH:酢酸
H3PO4:リン酸
DIW:水
【0063】
<被処理体のエッチング処理(4)>
比較例7及び実施例7~10のエッチング液を用いた以外は、上記の「<被処理体のエッチング処理(1)>」と同様にしてSiGeに対するエッチングレート(nm/min)を算出した。結果を表4に示す。
【0064】
<被処理体のエッチング処理(5)>
比較例7及び実施例7~10のエッチング液を用いた以外は、上記の「<被処理体のエッチング処理(2)>」と同様にしてSiに対するエッチングレート(nm/min)を算出した。結果を表4に示す。
【0065】
<被処理体のエッチング処理(6)>
比較例7及び実施例7~10のエッチング液を用いた以外は、上記の「<被処理体のエッチング処理(3)>」と同様にしてSiに対するエッチングレート(nm/min)を算出した。結果を表4に示す。
<エッチング選択比の評価(2)>
上記の「被処理体のエッチング処理(4)」、「被処理体のエッチング処理(5)」及び「被処理体のエッチング処理(6)」で得られたエッチングレートの結果に基づいて、被処理体(4)/被処理体(5)のエッチング選択比及び被処理体(4)/被処理体(6)のエッチング選択比を算出した。結果を表4に示す。
【0066】
<エッチングストップの評価(2)>
上記の「被処理体のエッチング処理(4)」において、得られたSiGeエッチングレート(nm/min)に応じて、エッチング処理時間を上記の「<エッチングストップの評価(1)>」と同様に変更したときのSiGeに対するエッチングレート(nm/min)を算出し、上記の「<エッチングストップの評価(1)>」と同じ基準で評価した。結果を表4に示す。
【0067】
【0068】
表4に示す結果から、実施例7~10のエッチング液は、比較例7のエッチング液と比べて、SiGeエッチング選択比が高く、かつ、SiGeのエッチングストップが抑制されていることが確認された。