(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】被加工物のレーザー加工方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/301 20060101AFI20241108BHJP
B23K 26/02 20140101ALI20241108BHJP
B23K 26/53 20140101ALI20241108BHJP
H01L 21/683 20060101ALI20241108BHJP
H01L 21/68 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
H01L21/78 B
B23K26/02 A
B23K26/53
H01L21/78 N
H01L21/78 C
H01L21/68 P
H01L21/68 F
(21)【出願番号】P 2020187558
(22)【出願日】2020-11-10
【審査請求日】2023-09-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 圭
【審査官】宮久保 博幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-087026(JP,A)
【文献】特開2010-205900(JP,A)
【文献】特開2008-060164(JP,A)
【文献】特開2011-049454(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
B23K 26/02
B23K 26/53
H01L 21/683
H01L 21/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物を吸引保持するチャックテーブルと、
該チャックテーブルに保持された被加工物にレーザービームを照射する集光器を備えたレーザービーム照射ユニットと、
該チャックテーブルと該レーザービーム照射ユニットとを加工送り方向に相対的に移動する加工送りユニットと、
該チャックテーブルと該レーザービーム照射ユニットとを割り出し送り方向に相対的に移動する割り出し送りユニットと、
各構成要素を制御する制御ユニットと、
を備えたレーザー加工装置を用いて、
表面に複数のストリートが設定された被加工物に該ストリートに沿ってレーザー加工を施す被加工物のレーザー加工方法であって、
被加工物の表面または裏面に保護部材を貼着する保護部材貼着ステップと、
被加工物の該保護部材側を該チャックテーブルで吸引保持する吸引保持ステップと、
該ストリートの延びる方向が加工送り方向と平行になるように位置付ける位置付けステップと、
該位置付けステップを実施した後に、
該被加工物の割り出し送り方向における一方の縁から中央までの一方の半面領域に設定された複数のストリートのうち、未加工でありかつ最も外側にあるストリートに対して該レーザービームの集光点を位置づけ、
該被加工物と該レーザービームの集光点とを加工送り方向に相対的に移動する加工送りと、該被加工物と該レーザービームの集光点とを加工送り方向と直交する割り出し送り方向に相対的に移動する割り出し送りとを順次繰り返して、
該一方の半面領域に設定された複数のストリートのうち、未加工でありかつ最も外側にあるストリートから内側に向かって所定の本数分のストリートに対してレーザー加工を施す第一のレーザー加工ステップと、
該第一のレーザー加工ステップを実施した後に、
該被加工物の割り出し送り方向における他方の縁から中央までの他方の半面領域に設定された複数のストリートのうち、未加工でありかつ最も外側にあるストリートに対して該レーザービームの集光点を位置づけ、
該被加工物と該レーザービームの集光点とを加工送り方向に相対的に移動する加工送りと、該被加工物と該レーザービームの集光点とを加工送り方向と直交する割り出し送り方向に相対的に移動する割り出し送りとを順次繰り返して、
該他方の半面領域に設定された複数のストリートのうち、未加工でありかつ最も外側にあるストリートから内側に向かって所定の本数分のストリートに対してレーザー加工を施す第二のレーザー加工ステップと、
を含み、
該第一のレーザー加工ステップおよび該第二のレーザー加工ステップを交互に繰り返して該被加工物に設定された全てのストリートに対してレーザー加工を施
し、
該第一のレーザー加工ステップおよび該第二のレーザー加工ステップを実施した後に、
該チャックテーブルによる該被加工物の吸引保持を解除して、該被加工物に生じた圧縮応力を解放する吸引保持解除ステップと、
該吸引保持解除ステップの後に、
該被加工物を再び該チャックテーブルで吸引保持する再吸引保持ステップと、
を更に有することを特徴とする、被加工物のレーザー加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物のレーザー加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウェーハ等の板状の被加工物を分割してチップを形成する方法として、被加工物に対して透過性を有するレーザービームを被加工物の内部に集光照射して改質層を形成し、外力を付与することで分割する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような加工方法では、被加工物に形成されたストリートに沿って改質層を形成した際に、ストリートが延びる方向と直交する方向に被加工物が僅かに膨張する。この結果、レーザービームの集光点とストリートとの位置関係に累積的な位置ズレが生じていくため、加工途中でこの位置ズレを補正するためのアライメント作業を実施しなければならず、生産性が低下するという課題があった。
【0004】
この課題を解決するため、ストリートに沿って改質層またはレーザー加工溝を形成する際に面積が相対的に小さいほうに被加工物が膨張する現象を利用して、面積が最も大きい中央領域を最後に加工するレーザー加工方法が提案されている(特許文献2参照)。この方法を用いれば、被加工物の膨張に起因する位置ズレの補正(アライメント作業)を少なくすることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3408805号公報
【文献】特開2008-60164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、近年の小チップ化に伴い、加工済の領域から生じる未加工領域への圧縮応力の影響が無視できなくなっている。すなわち、特許文献2のように被加工物の外側から中央に向かって加工する方法を用いると、加工済の領域と未加工領域との対称性の崩れによって未加工領域のストリートが湾曲して加工時にデバイスを損傷する可能性がある。また、被加工物の中央領域にかかった圧縮応力により改質層の形成が妨げられ、被加工物の中央領域で未分割が起きやすいという問題もある。
【0007】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、ストリートの湾曲によるデバイスの損傷および被加工物の未分割を抑制することができる被加工物のレーザー加工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の被加工物のレーザー加工方法は、被加工物を吸引保持するチャックテーブルと、該チャックテーブルに保持された被加工物にレーザービームを照射する集光器を備えたレーザービーム照射ユニットと、該チャックテーブルと該レーザービーム照射ユニットとを加工送り方向に相対的に移動する加工送りユニットと、該チャックテーブルと該レーザービーム照射ユニットとを割り出し送り方向に相対的に移動する割り出し送りユニットと、各構成要素を制御する制御ユニットと、を備えたレーザー加工装置を用いて、表面に複数のストリートが設定された被加工物に該ストリートに沿ってレーザー加工を施す被加工物のレーザー加工方法であって、被加工物の表面または裏面に保護部材を貼着する保護部材貼着ステップと、被加工物の該保護部材側を該チャックテーブルで吸引保持する吸引保持ステップと、該ストリートの延びる方向が加工送り方向と平行になるように位置付ける位置付けステップと、該位置付けステップを実施した後に、該被加工物の割り出し送り方向における一方の縁から中央までの一方の半面領域に設定された複数のストリートのうち、未加工でありかつ最も外側にあるストリートに対して該レーザービームの集光点を位置づけ、該被加工物と該レーザービームの集光点とを加工送り方向に相対的に移動する加工送りと、該被加工物と該レーザービームの集光点とを加工送り方向と直交する割り出し送り方向に相対的に移動する割り出し送りとを順次繰り返して、該一方の半面領域に設定された複数のストリートのうち、未加工でありかつ最も外側にあるストリートから内側に向かって所定の本数分のストリートに対してレーザー加工を施す第一のレーザー加工ステップと、該第一のレーザー加工ステップを実施した後に、該被加工物の割り出し送り方向における他方の縁から中央までの他方の半面領域に設定された複数のストリートのうち、未加工でありかつ最も外側にあるストリートに対して該レーザービームの集光点を位置づけ、該被加工物と該レーザービームの集光点とを加工送り方向に相対的に移動する加工送りと、該被加工物と該レーザービームの集光点とを加工送り方向と直交する割り出し送り方向に相対的に移動する割り出し送りとを順次繰り返して、該他方の半面領域に設定された複数のストリートのうち、未加工でありかつ最も外側にあるストリートから内側に向かって所定の本数分のストリートに対してレーザー加工を施す第二のレーザー加工ステップと、を含み、該第一のレーザー加工ステップおよび該第二のレーザー加工ステップを交互に繰り返して該被加工物に設定された全てのストリートに対してレーザー加工を施し、該第一のレーザー加工ステップおよび該第二のレーザー加工ステップを実施した後に、該チャックテーブルによる該被加工物の吸引保持を解除して、該被加工物に生じた圧縮応力を解放する吸引保持解除ステップと、該吸引保持解除ステップの後に、該被加工物を再び該チャックテーブルで吸引保持する再吸引保持ステップと、を更に有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本願発明は、ストリートの湾曲によるデバイスの損傷および被加工物の未分割を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施形態に係るレーザー加工装置の構成例を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係るレーザー加工方法の流れを示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、
図2に示す保護部材貼着ステップの一例を示す斜視図である。
【
図4】
図4は、
図2に示す第一のレーザー加工ステップの一状態を示す側面図である。
【
図6】
図6は、
図2に示す第一のレーザー加工ステップの後の状態を示す側面図である。
【
図8】
図8は、
図2に示す第二のレーザー加工ステップの一状態における被加工物の平面図である。
【
図9】
図9は、
図2に示す第二のレーザー加工ステップの後の状態における被加工物の平面図である。
【
図10】
図10は、
図2に示す吸引保持解除ステップの前の被加工物の断面の圧縮応力の分布を示す図である。
【
図11】
図11は、
図2に示す吸引保持解除ステップの後の被加工物の断面の圧縮応力の分布を示す図である。
【
図12】
図12は、
図2に示す再吸引保持ステップの後の第一のレーザー加工ステップの一状態における被加工物の平面図である。
【
図13】
図13は、
図2に示す再吸引保持ステップの後の第二のレーザー加工ステップの一状態における被加工物の平面図である。
【
図14】
図14は、
図2に示す再吸引保持ステップの後の第二のレーザー加工ステップの後の状態における被加工物の平面図である。
【
図15】
図15は、第1比較例に係るレーザー加工方法を模式的に示すダミーウェーハの平面図である。
【
図17】
図17は、第2比較例に係るレーザー加工方法を模式的に示すダミーウェーハの平面図である。
【
図19】
図19は、実施形態に係るレーザー加工方法を模式的に示すダミーウェーハの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。更に、以下に記載した構成は適宜組み合わせることが可能である。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲で構成の種々の省略、置換または変更を行うことができる。
【0013】
〔実施形態〕
まず、本発明の実施形態に係るレーザー加工方法に用いるレーザー加工装置1の構成について図面に基づいて説明する。
図1は、実施形態に係るレーザー加工装置1の構成例を示す斜視図である。以下の説明において、X軸方向は、水平面における一方向である。Y軸方向は、水平面において、X軸方向に直交する方向である。Z軸方向は、X軸方向およびY軸方向に直交する方向である。Z軸方向は、X軸方向およびY軸方向に直交する方向である。実施形態のレーザー加工装置1は、加工送り方向がX軸方向であり、割り出し送り方向がY軸方向である。
【0014】
図1に示すように、レーザー加工装置1は、チャックテーブル10と、レーザービーム照射ユニット20と、加工送りユニット40と、割り出し送りユニット50と、集光点位置調整ユニット60と、撮像ユニット70と、表示ユニット80と、制御ユニット90と、を備える。実施形態に係るレーザー加工装置1は、チャックテーブル10に保持された被加工物100に対して、レーザービーム照射ユニット20によってレーザービーム21を照射することにより、被加工物100を加工する装置である。レーザー加工装置1による被加工物100の加工は、例えば、ステルスダイシングによって被加工物100の内部に改質層を形成する改質層形成加工である。
【0015】
被加工物100は、シリコン(Si)、サファイア(Al
2O
3)、ガリウムヒ素(GaAs)または炭化ケイ素(SiC)等を基板101(
図3参照)とする円板状の半導体デバイスウェーハ、光デバイスウェーハ等のウェーハである。なお、被加工物100は実施形態に限定されず、本発明では円板状でなくともよい。被加工物100は、実施形態において、保護部材110および環状のフレーム111に支持された状態で、チャックテーブル10に保持される。
【0016】
チャックテーブル10は、被加工物100を保持面11で保持する。保持面11は、ポーラスセラミック等から形成された円板形状である。保持面11は、実施形態において、水平方向と平行な平面である。保持面11は、例えば、真空吸引経路を介して真空吸引源と接続している。チャックテーブル10は、保持面11上に載置された被加工物100を吸引保持する。チャックテーブル10の周囲には、被加工物100を支持するフレーム111を挟持するクランプ部12が複数配置されている。
【0017】
チャックテーブル10は、回転ユニット13によりZ軸方向と平行な軸心回りに回転される。回転ユニット13は、X軸方向移動プレート14に支持される。回転ユニット13およびチャックテーブル10は、X軸方向移動プレート14を介して、加工送りユニット40によりX軸方向に移動される。回転ユニット13およびチャックテーブル10は、X軸方向移動プレート14、加工送りユニット40およびY軸方向移動プレート15を介して、割り出し送りユニット50によりY軸方向に移動される。
【0018】
レーザービーム照射ユニット20は、チャックテーブル10に保持された被加工物100に対してパルス状のレーザービーム21を照射するユニットである。レーザービーム照射ユニット20は、少なくとも、チャックテーブル10に保持された被加工物100に対してレーザービーム21を集光照射する集光器を備える。
【0019】
加工送りユニット40は、チャックテーブル10と、レーザービーム照射ユニット20とを加工送り方向であるX軸方向に相対的に移動させるユニットである。加工送りユニット40は、実施形態において、チャックテーブル10をX軸方向に移動させる。加工送りユニット40は、実施形態において、レーザー加工装置1の装置本体2上に設置されている。
【0020】
加工送りユニット40は、X軸方向移動プレート14をX軸方向に移動自在に支持する。加工送りユニット40は、周知のボールねじ41と、周知のパルスモータ42と、周知のガイドレール43と、を含む。ボールねじ41は、軸心回りに回転自在に設けられる。パルスモータ42は、ボールねじ41を軸心回りに回転させる。ガイドレール43は、X軸方向移動プレート14をX軸方向に移動自在に支持する。ガイドレール43は、Y軸方向移動プレート15に固定して設けられる。
【0021】
割り出し送りユニット50は、チャックテーブル10と、レーザービーム照射ユニット20とを割り出し送り方向であるY軸方向に相対的に移動させるユニットである。割り出し送りユニット50は、実施形態において、チャックテーブル10をY軸方向に移動させる。割り出し送りユニット50は、実施形態において、レーザー加工装置1の装置本体2上に設置されている。
【0022】
割り出し送りユニット50は、Y軸方向移動プレート15をY軸方向に移動自在に支持する。割り出し送りユニット50は、周知のボールねじ51と、周知のパルスモータ52と、周知のガイドレール53と、を含む。ボールねじ51は、軸心回りに回転自在に設けられる。パルスモータ52は、ボールねじ51を軸心回りに回転させる。ガイドレール53は、Y軸方向移動プレート15をY軸方向に移動自在に支持する。ガイドレール53は、装置本体2に固定して設けられる。
【0023】
集光点位置調整ユニット60は、レーザービーム照射ユニット20の集光器によって集光されたレーザービーム21の集光点22を、チャックテーブル10の保持面11に垂直な光軸方向に移動させるユニットである。より詳しくは、集光点位置調整ユニット60は、チャックテーブル10と、レーザービーム照射ユニット20とを集光点位置調整方向であるZ軸方向に相対的に移動させる。集光点位置調整ユニット60は、実施形態において、レーザービーム照射ユニット20の集光器をZ軸方向に移動させる。集光点位置調整ユニット60は、実施形態において、レーザー加工装置1の装置本体2から立設した柱3に設置されている。
【0024】
集光点位置調整ユニット60は、レーザービーム照射ユニット20のうち少なくとも集光器をZ軸方向に移動自在に支持する。集光点位置調整ユニット60は、周知のボールねじ61と、周知のパルスモータ62と、周知のガイドレール63と、を含む。ボールねじ61は、軸心回りに回転自在に設けられる。パルスモータ62は、ボールねじ61を軸心回りに回転させる。ガイドレール63は、レーザービーム照射ユニット20をZ軸方向に移動自在に支持する。ガイドレール63は、柱3に固定して設けられる。
【0025】
撮像ユニット70は、例えば、レーザービーム照射ユニット20の集光器の直上から下方を撮像するように配置されている。撮像ユニット70は、同軸カメラ、CCD(Charge Coupled Device)カメラまたは赤外線カメラを含む。
【0026】
表示ユニット80は、液晶表示装置等により構成される表示部である。表示ユニット80は、撮像ユニット70が撮像した画像、加工条件の設定画面、加工動作の状態等を表示する表示面を含む。表示面がタッチパネルを含む場合、表示ユニット80は、入力部を含んでもよい。入力部は、オペレータが加工内容情報を登録する等の各種操作を受付可能である。入力部は、キーボード等の外部入力装置であってもよい。表示ユニット80は、表示面に表示される情報や画像が入力部等からの操作により切り換えられる。表示ユニット80は、報知部を含んでもよい。報知部は、音および光の少なくとも一方を発してレーザー加工装置1のオペレータに予め定められた報知情報を報知する。報知部は、スピーカーまたは発光装置等の外部報知装置であってもよい。
【0027】
制御ユニット90は、レーザー加工装置1の上述した各構成要素をそれぞれ制御して、被加工物100に対する加工動作をレーザー加工装置1に実行させる。制御ユニット90は、チャックテーブル10、レーザービーム照射ユニット20、加工送りユニット40、割り出し送りユニット50、集光点位置調整ユニット60、撮像ユニット70、および表示ユニット80を制御する。
【0028】
制御ユニット90は、演算手段としての演算処理装置と、記憶手段としての記憶装置と、通信手段としての入出力インターフェース装置と、を含むコンピュータである。演算処理装置は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等のマイクロプロセッサを含む。記憶装置は、ROM(Read Only Memory)またはRAM(Random Access Memory)等のメモリを有する。演算処理装置は、記憶装置に格納された所定のプログラムに基づいて各種の演算を行う。演算処理装置は、演算結果に従って、入出力インターフェース装置を介して各種制御信号を上述した各構成要素に出力し、レーザー加工装置1の制御を行う。
【0029】
次に、実施形態に係る被加工物100のレーザー加工方法について説明する。
図2は、実施形態に係るレーザー加工方法の流れを示すフローチャートである。被加工物100のレーザー加工方法は、保護部材貼着ステップ201と、吸引保持ステップ202と、位置付けステップ203と、第一のレーザー加工ステップ204と、第二のレーザー加工ステップ205と、吸引保持解除ステップ206と、終了判定ステップ207と、再吸引保持ステップ208と、を含む。
【0030】
(保護部材貼着ステップ201)
図3は、
図2に示す保護部材貼着ステップ201の一例を示す斜視図である。保護部材貼着ステップ201は、被加工物100の表面102または裏面105に保護部材110を貼着するステップである。実施形態の保護部材貼着ステップ201では、被加工物100の裏面105に保護部材110を貼着する。
【0031】
まず、実施形態の被加工物100について、より詳しく説明する。
図3に示すように、被加工物100は、基板101の表面102に格子状に設定されたストリート103と、ストリート103によって区画された領域に形成されたデバイス104と、を有している。デバイス104は、例えば、IC(Integrated Circuit)、またはLSI(Large Scale Integration)等の集積回路、CCD、またはCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等のイメージセンサである。
【0032】
実施形態において、被加工物100は、ストリート103に沿って改質層120(
図6参照)が形成される。被加工物100は、ストリート103に形成された改質層120に沿って個々のデバイス104に分割されて、チップに個片化される。なお、実施形態の被加工物100は、外径が8インチであり、厚みが100μmである。また、チップは、実施形態では正方形状であるが、本発明では長方形状であってもよい。
【0033】
保護部材貼着ステップ201では、まず、保護部材110を、フレーム111の裏面側に貼着する。フレーム111は、被加工物100の外径より大きな開口を有する。次に、被加工物100を、フレーム111の開口の所定の位置に位置決めし、裏面105を保護部材110に貼着させる。これにより、被加工物100を、保護部材110およびフレーム111に固定させる。
【0034】
保護部材110は、例えば、合成樹脂で構成された基材層と、基材層に積層されかつ粘着性を有する合成樹脂で構成された糊層と、を含む。保護部材110は、エキスパンド性を有していてもよい。この場合、被加工物100にストリート103に沿って改質層120(
図6参照)を形成した後、保護部材110を面方向にエキスパンドさせることによって、被加工物100に外力を付与し、個々のチップに分割することができる。
【0035】
(吸引保持ステップ202)
吸引保持ステップ202は、被加工物100の保護部材110側をチャックテーブル10で吸引保持するステップである。実施形態の吸引保持ステップ202では、まず、被加工物100の裏面105側を、保護部材110を介して、
図1に示すレーザー加工装置1のチャックテーブル10の保持面11で保持する。次に、被加工物100を支持するフレーム111をクランプ部12で挟持する。次に、保持面11に真空吸引経路を介して接続する真空吸引源によって負圧を作動させて、保持面11上に載置された被加工物100を吸引保持する。
【0036】
(位置付けステップ203)
位置付けステップ203は、ストリート103が延びる方向が、加工送り方向(X軸方向)と平行になるように位置付けるステップである。ここで、加工送り方向と平行にするストリート103は、被加工物100の表面102に設定された格子状の複数のストリート103のうち、実施形態の加工方法によって改質層120を形成するストリート103である。実施形態において、ストリート103が延びる方向の位置合わせは、回転ユニット13によって、チャックテーブル10を鉛直方向軸回りに回転させることで行う。位置付けステップ203を完了すると、第一のレーザー加工ステップ204に移行する。
【0037】
(第一のレーザー加工ステップ204)
図4は、
図2に示す第一のレーザー加工ステップ204の一状態を示す側面図である。
図5は、
図4における被加工物100の平面図である。
図6は、
図2に示す第一のレーザー加工ステップ204の後の状態を示す側面図である。
図7は、
図6における被加工物100の平面図である。
【0038】
第一のレーザー加工ステップ204は、位置付けステップ203を実施した後に実施される。第一のレーザー加工ステップ204は、加工送り方向と平行なストリート103に対して、割り出し方向の一方向に向かって所定の本数分、レーザー加工を施すステップである。実施形態の第一のレーザー加工ステップ204では、割り出し方向の一方向に向かって所定の本数分の加工送り方向と平行なストリート103に、改質層120を形成する。
【0039】
改質層120とは、密度、屈折率、機械的強度またはその他の物理的特性が周囲のそれとは異なる状態になった領域のことを意味する。改質層120は、例えば、溶融処理領域、クラック領域、絶縁破壊領域、屈折率変化領域、およびこれらの領域が混在した領域等である。改質層120は、被加工物100の他の部分よりも機械的な強度等が低い。
【0040】
第一のレーザー加工ステップ204では、まず、撮像ユニット70で被加工物100を撮像することによって、ストリート103を検出する。ストリート103が検出されたら、
図5に示すように、被加工物100のストリート103-1とレーザービーム21の集光点22を位置づけるアライメントを遂行する。ストリート103-1は、被加工物100の割り出し送り方向(Y軸方向)における一方の縁(
図5における上端)から中央までの一方の半面領域106に設定された複数のストリート103のうち、未加工でありかつ最も外側にあるストリート103-1である。
【0041】
第一のレーザー加工ステップ204では、次に、
図6に示すように、レーザービーム照射ユニット20からパルス状のレーザービーム21を被加工物100の内部に集光して照射させる。レーザービーム21は、被加工物100に対して透過性を有する波長のレーザービームである。
【0042】
次に、被加工物100とレーザービーム21の集光点22とを加工送り方向に相対的に移動する加工送りと、被加工物100とレーザービーム21の集光点22とを加工送り方向と直交する割り出し送り方向に相対的に移動する割り出し送りとを順次繰り返す。すなわち、レーザービーム照射ユニット20に対してチャックテーブル10を相対的に移動させながら、被加工物100のストリート103-1から内側(
図5における下方)に向かって所定の本数分のストリート103-2(
図7参照)に対応する部分にレーザービーム21を照射させる。
【0043】
これにより、
図7に示すように、被加工物100の割り出し送り方向における一方の縁から中央までの一方の半面領域106に設定された複数のストリート103のうち、未加工でありかつ最も外側にあるストリート103-1から内側に向かって所定の本数分のストリート103-2に対して、レーザー加工を施して、改質層120を形成する。第一のレーザー加工ステップ204を完了すると、第二のレーザー加工ステップ205に移行する。
【0044】
(第二のレーザー加工ステップ205)
図8は、
図2に示す第二のレーザー加工ステップ205の一状態における被加工物100の平面図である。
図9は、
図2に示す第二のレーザー加工ステップ205の後の状態における被加工物100の平面図である。
【0045】
第二のレーザー加工ステップ205は、第一のレーザー加工ステップ204を実施した後に実施される。第二のレーザー加工ステップ205は、加工送り方向と平行なストリート103に対して、割り出し方向の他方向に向かって所定の本数分、レーザー加工を施すステップである。実施形態の第二のレーザー加工ステップ205では、割り出し方向の他方向に向かって所定の本数分の加工送り方向と平行なストリート103に、改質層120を形成する。
【0046】
第二のレーザー加工ステップ205では、まず、
図8に示すように、被加工物100のストリート103-3とレーザービーム21の集光点22を位置づけるアライメントを遂行する。ストリート103-3は、被加工物100の割り出し送り方向(Y軸方向)における他方の縁(
図5における下端)から中央までの他方の半面領域107に設定された複数のストリート103のうち、未加工でありかつ最も外側にあるストリート103-3である。
【0047】
第二のレーザー加工ステップ205では、次に、レーザービーム照射ユニット20からパルス状のレーザービーム21を被加工物100の内部に集光して照射させる(
図6等参照)。次に、被加工物100とレーザービーム21の集光点22とを加工送り方向に相対的に移動する加工送りと、被加工物100とレーザービーム21の集光点22とを加工送り方向と直交する割り出し送り方向に相対的に移動する割り出し送りとを順次繰り返す。すなわち、レーザービーム照射ユニット20に対してチャックテーブル10を相対的に移動させながら、被加工物100のストリート103-3から内側(
図8における上方)に向かって所定の本数分のストリート103-4(
図9参照)に対応する部分にレーザービーム21を照射させる。
【0048】
これにより、
図9に示すように、被加工物100の割り出し送り方向における他方の縁から中央までの他方の半面領域107に設定された複数のストリート103のうち、未加工でありかつ最も外側にあるストリート103-3から内側に向かって所定の本数分のストリート103-4に対して、レーザー加工を施して、改質層120を形成する。なお、第二のレーザー加工ステップ205でレーザー加工を施すストリート103の本数は、第一のレーザー加工ステップ204でレーザー加工を施すストリート103の本数と同一であることが好ましい。第二のレーザー加工ステップ205を完了すると、吸引保持解除ステップ206に移行する。
【0049】
(吸引保持解除ステップ206)
図10は、
図2に示す吸引保持解除ステップ206の前の被加工物100の断面の圧縮応力の分布を示す図である。
図11は、
図2に示す吸引保持解除ステップ206の後の被加工物100の断面の圧縮応力の分布を示す図である。吸引保持解除ステップ206は、第一のレーザー加工ステップ204および第二のレーザー加工ステップ205を実施した後に実施される。吸引保持解除ステップ206は、チャックテーブル10による被加工物100の吸引保持を解除して、被加工物100に生じた圧縮応力を解放するステップである。
【0050】
第一のレーザー加工ステップ204および第二のレーザー加工ステップ205においてストリート103-2、103-4に改質層120を形成したことにより、被加工物100は、割り出し送り方向(Y軸方向)に膨張する。これにより、
図10に示すように、ストリート103に改質層120が形成されていない基板101の中央領域101-1において、圧縮応力が大きくなる。
【0051】
吸引保持解除ステップ206では、チャックテーブル10の保持面11に接続する真空吸引源を制御して、保持面11上に載置された被加工物100の吸引保持を解除する。これにより、
図11に示すように、ストリート103に改質層120が形成されていない基板101の中央領域101-1において生じていた圧縮応力を解放する。吸引保持解除ステップ206を完了すると、終了判定ステップ207に移行する。
【0052】
(終了判定ステップ207)
終了判定ステップ207は、
図2のフローチャートに示す実施形態の加工方法を終了するか否かを判定するステップである。具体的には、実施形態の加工方法によって改質層120を形成するストリート103の全てに対して改質層120の形成が完了したか否かを判定する。全てのストリート103に改質層120を形成している場合、
図2に示すフローチャートの工程を終了する。被加工物100の中央部に改質層120を形成していないストリート103が残っている場合、再吸引保持ステップ208に移行する。
【0053】
(再吸引保持ステップ208)
再吸引保持ステップ208は、吸引保持解除106ステップの後、被加工物100の中央部に改質層120を形成していないストリート103が残っている場合に実施される。再吸引保持ステップ208は、被加工物100を再びチャックテーブル10で吸引保持するステップである。
【0054】
再吸引保持ステップ208では、チャックテーブル10の保持面11に真空吸引経路を介して接続する真空吸引源によって負圧を作動させて、保持面11上に載置された被加工物100を再び吸引保持する。再吸引保持ステップ208を完了すると、第一のレーザー加工ステップ204に戻る。なお、実施形態では被加工物100を支持するフレーム111をクランプ部12で挟持しているが、吸引保持解除ステップ206において被加工物100がチャックテーブル10に対して水平方向にズレてしまう場合は、位置付けステップ203に戻って、位置合わせを再度実施する。
【0055】
例えば、チャックテーブル10の真空吸引経路が保持面11の複数の領域毎に区分けされている場合、領域毎に保持面11を吸引可能である。すなわち、第一のレーザー加工ステップ204および第二のレーザー加工ステップ205においてレーザー加工を施した領域に対応するチャックテーブル10の領域のみ、吸引保持解除ステップ206で吸引保持を解除し、再吸引保持ステップ208で再び吸引保持してもよい。このような方法によると、未加工であるストリート103を含む領域の吸引保持が維持されて、水平方向のズレが抑制されるため、位置ズレを補正するアライメント作業を省略できる。
【0056】
(再吸引保持ステップ208の後の第一のレーザー加工ステップ204)
図12は、
図2に示す再吸引保持ステップ208の後の第一のレーザー加工ステップ204の一状態における被加工物100の平面図である。
【0057】
再吸引保持ステップ208の後の第一のレーザー加工ステップ204では、まず、
図12に示すように、被加工物100のストリート103-5とレーザービーム21の集光点22を位置づけるアライメントを遂行する。ストリート103-5は、被加工物100の一方の半面領域106に設定された複数のストリート103のうち、未加工でありかつ最も外側にあるストリート103-5である。すなわち、ストリート103-5は、前回の第一のレーザー加工ステップ204で加工したストリート103-2より1つ内側のストリート103-5である。
【0058】
再吸引保持ステップ208の後の第一のレーザー加工ステップ204では、次に、前回の第一のレーザー加工ステップ204と同様に、レーザービーム照射ユニット20からパルス状のレーザービーム21を被加工物100の内部に集光して照射させる。次に、被加工物100とレーザービーム21の集光点22とを加工送り方向に相対的に移動する加工送りと、被加工物100とレーザービーム21の集光点22とを加工送り方向と直交する割り出し送り方向に相対的に移動する割り出し送りとを順次繰り返す。すなわち、レーザービーム照射ユニット20に対してチャックテーブル10を相対的に移動させながら、被加工物100のストリート103-5から内側(
図12における下方)に向かって所定の本数分のストリート103-6(
図13参照)に対応する部分にレーザービーム21を照射させる。
【0059】
これにより、一方の半面領域106に設定された複数のストリート103のうち、未加工でありかつ最も外側にあるストリート103-5から内側に向かって所定の本数分のストリート103-6に対して、レーザー加工を施して、改質層120を形成する(
図13参照)。第一のレーザー加工ステップ204を完了すると、第二のレーザー加工ステップ205に移行する。
【0060】
(再吸引保持ステップ208の後の第二のレーザー加工ステップ205)
図13は、
図2に示す再吸引保持ステップ208の後の第二のレーザー加工ステップ205の一状態における被加工物100の平面図である。
図14は、
図2に示す再吸引保持ステップ208の後の第二のレーザー加工ステップ205の後の状態における被加工物100の平面図である。
【0061】
再吸引保持ステップ208の後の第二のレーザー加工ステップ205では、まず、
図13に示すように、被加工物100のストリート103-7とレーザービーム21の集光点22を位置づけるアライメントを遂行する。ストリート103-7は、被加工物100の他方の半面領域107に設定された複数のストリート103のうち、未加工でありかつ最も外側にあるストリート103-7である。すなわち、ストリート103-7は、前回の第二のレーザー加工ステップ205で加工したストリート103-4より1つ内側のストリート103-7である。
【0062】
再吸引保持ステップ208の後の第二のレーザー加工ステップ205では、次に、前回の第二のレーザー加工ステップ205と同様に、レーザービーム照射ユニット20からパルス状のレーザービーム21を被加工物100の内部に集光して照射させる。次に、被加工物100とレーザービーム21の集光点22とを加工送り方向に相対的に移動する加工送りと、被加工物100とレーザービーム21の集光点22とを加工送り方向と直交する割り出し送り方向に相対的に移動する割り出し送りとを順次繰り返す。すなわち、レーザービーム照射ユニット20に対してチャックテーブル10を相対的に移動させながら、被加工物100のストリート103-7から内側(
図13における上方)に向かって所定の本数分のストリート103-8に対応する部分にレーザービーム21を照射させる。
【0063】
これにより、
図14に示すように、他方の半面領域107に設定された複数のストリート103のうち、未加工でありかつ最も外側にあるストリート103-7から内側に向かって所定の本数分のストリート103-8に対して、レーザー加工を施して、改質層120を形成する。第二のレーザー加工ステップ205を完了すると、再び吸引保持解除ステップ206に移行する。
【0064】
このように、実施形態の被加工物100の加工方法は、第一のレーザー加工ステップ204および第二のレーザー加工ステップ205を交互に繰り返して、被加工物100に設定された全てのストリート103に対してレーザー加工を施す。終了判定ステップ207において、全てのストリート103に対してレーザー加工を完了したと判定されると、
図2に示すフローチャートの工程を終了する。
【0065】
以上説明したように、実施形態に係る被加工物100のレーザー加工方法は、被加工物100の一方の端部側からの加工(第一のレーザー加工ステップ204)と、他方の端部側からの加工(第二のレーザー加工ステップ205)と、を交互に行う。これにより、加工済みのストリート103から生じる圧縮応力のバランス(対称性)が保たれるため、ストリート103の湾曲が抑制でき、結果としてデバイス104の損傷を抑制することができる。また、未加工領域のストリート103の一方向へのズレを抑制できるので、位置ズレを補正するアライメント作業を省略できる、またはアライメント作業の頻度を低減できるという効果を奏する。
【0066】
また、被加工物100のストリート103を所定の本数分加工した後に、チャックテーブル10による被加工物100の吸引保持を解除することによって、被加工物100の中央領域101-1にかかった圧縮応力を解放するようにしてもよい。これにより、改質層120の形成を妨げる圧縮応力を排除することができるので、チップに分割する際に、未分割になることを抑制できる。
【0067】
従来では、未分割の領域を分割するためにスキージ等で押圧することで被加工物の分割をアシストする作業を行っていたが、未分割を抑制することによって、この作業工程を省略することができるため、工数削減および省スペース化を実現でき、更に、スキージで押圧する際のパーティクルの発生を抑制できる。
【0068】
次に、実施形態の効果について検証する。
図15は、第1比較例に係るレーザー加工方法を模式的に示すダミーウェーハ300の平面図である。
図16は、
図15に示されたダミーウェーハ300の湾曲状態を示す図である。
図17は、第2比較例に係るレーザー加工方法を模式的に示すダミーウェーハ300の平面図である。
図18は、
図17に示されたダミーウェーハ300の湾曲状態を示す図である。
図19は、実施形態に係るレーザー加工方法を模式的に示すダミーウェーハ300の平面図である。
図20は、
図19に示されたダミーウェーハ300の湾曲状態を示す図である。
【0069】
本発明の発明者らは、
図15、
図17および
図19に示す第1比較例、第2比較例、および本発明品のダミーウェーハ300にレーザー加工を施して、実施形態に係るレーザー加工方法の効果を確認した。ダミーウェーハ300は、デバイス(例えば、
図3に示す被加工物100のデバイス104)が形成されていない、すなわち基板301のみで形成されたウェーハであり、実験では、外径が8インチであり、厚みが100μmのものを用いた。
【0070】
また、実験では、第一の位置400および第二の位置500の表面の加工送り方向(X軸方向)における各位置のY軸方向の位置を測定することによって、ダミーウェーハ300の湾曲状態を確認した。第一の位置400は、ダミーウェーハ300の割り出し送り方向(Y軸方向)における一方の縁(
図15等における上端)から中央までの一方の半面領域306において、一方の縁から中央に向かって50mmの位置であり、図中では実線で示す。第二の位置500は、ダミーウェーハ300の割り出し送り方向(Y軸方向)における他方の縁(
図15等における下端)から中央までの他方の半面領域307において、他方の縁から中央に向かって50mmの位置であり、図中では一点鎖線で示す。
【0071】
また、
図16、
図18および
図20に示すグラフにおいて、横軸は、加工送り方向(X軸方向)の各位置を示し、縦軸は、ダミーウェーハ300の表面のY軸方向の位置を示す。また、縦軸は、レーザー加工前のダミーウェーハ300の表面のY軸方向の位置をゼロとし、レーザー加工前の位置よりも上方をプラス、下方をマイナスで示している。
【0072】
図15にレーザー加工方法および
図16に湾曲状態を示す第1比較例では、他方の半面領域307の他方の縁から一方の半面領域306の一方の縁に向かって、前述した第一の位置400位置まで、インデックス送りを0.2mmとしてレーザー加工を施した。
【0073】
図17にレーザー加工方法および
図18に湾曲状態を示す第2比較例では、一方の半面領域306の一方の縁から前述した位置400位置まで、インデックス送りを0.2mmとしてレーザー加工を施し、その後、他方の半面領域107の他方の縁からダミーウェーハ300の中央まで、インデックス送りを0.2mmとしてレーザー加工を施した。
【0074】
図19にレーザー加工方法および
図20に湾曲状態を示す実施形態の例では、一方の半面領域306の一方の縁からダミーウェーハ300の中央に向かってインデックス送りを0.2mmとした第一のレーザー加工ステップ204と、他方の半面領域307の他方の縁からダミーウェーハ300の中央に向かってインデックス送りを0.2mmとした第二のレーザー加工ステップ205とを交互に5回ずつ繰り返して、前述した第一の位置400および第二の位置500まで、実施形態に示されたレーザー加工方法のレーザー加工を施した。
【0075】
図16に湾曲状態を示す第1比較例では、第一の位置400の最大の湾曲量401が約12μmであり、第二の位置500の最大の湾曲量501が約4.5μmであった。
図18に湾曲状態を示す第2比較例では、第一の位置400の最大の湾曲量402が約6μmであり、第二の位置500の最大の湾曲量502が約3μmであった。
【0076】
これら第1比較例および第2比較例に対して、
図20に湾曲状態を示す実施形態の例では、第一の位置400の最大の湾曲量403が約3μmであり、第二の位置500の最大の湾曲量503が約3μmであった。
【0077】
したがって、
図16、
図18および
図20に示すように、実施形態の加工方法で加工したダミーウェーハ300は、各比較例の加工方法で加工したダミーウェーハ300よりも加工後の湾曲が少ないという実験結果を得た。すなわち、被加工物100の一方の端部側からの加工(第一のレーザー加工ステップ204)と、他方の端部側からの加工(第二のレーザー加工ステップ205)と、を交互に行うことによって、ストリート103の湾曲が抑制でき、結果としてデバイス104の損傷を抑制することができることが明らかとなった。
【0078】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。すなわち、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。例えば、吸引保持解除ステップ206および再吸引保持ステップ208は、必ずしも含まなくてもよい。また、実施形態の説明で使用した各図面において、被加工物100のデバイス104、すなわち分割後のチップは、正方形状であるが、本発明では長方形状であってもよい。
【0079】
例えば、割り出し送り方向のインデックス量が大きくなるストリート103には、本発明の加工方法を用いず、割り出し送り方向のインデックス量が小さくなるストリート103には、本発明の加工方法を用いるようにしてもよい。例えば、チップサイズが、0.223mm×10mmである場合、レーザー加工装置1は、第一のチャンネルで本発明の加工方法を用いずに10mmの大インデックス側を加工し、第二のチャンネルで本発明の加工方法を用いて0.223mmの小インデックス側を加工してもよい。
【0080】
この場合、第二のチャンネルでは、被加工物100の端部から、例えば、12.5mmずつの第一のレーザー加工ステップ204および第二のレーザー加工ステップ205と、吸引保持解除ステップ206と、を繰り返して加工を施すことにより、エキスパンドのみで個々のチップに分割することが可能である。
【0081】
なお、割り出し送り方向の一方の縁から中央に向かって、中央より一方の縁側の所定の位置までのストリートの加工を施した後、他方の縁から一方の縁に向かって残りのストリートの加工を施した場合の分割率は、約50%である。また、50mmずつの第一のレーザー加工ステップ204および第二のレーザー加工ステップ205と、吸引保持解除ステップ206と、を繰り返して加工を施した場合の分割率は、約70%である。また、25mmずつの第一のレーザー加工ステップ204および第二のレーザー加工ステップ205と、吸引保持解除ステップ206と、を繰り返して加工を施した場合の分割率は、約75%である。
【0082】
また、レーザー加工装置1は、第一のレーザー加工ステップ204および第二のレーザー加工ステップ205においてそれぞれ何mmずつ加工するか、すなわち加工方向の切り替えのタイミングを、制御ユニット90によって自動的に判断させてもよい。制御ユニット90は、例えば、被加工物100の中心に設定したターゲットの位置を撮像ユニット70等から取得し、ターゲットが所定量(例えば、2μm)以上ズレた場合に、加工方向を切り替える制御を行ってもよい。
【0083】
被加工物100の中心に設定するターゲットは、例えば、被加工物100の表面102のパターン面に含まれる要素であってもよいし、裏面105に存在する研削痕または保護部材110の表面に含まれる要素等であってもよい。ターゲットがチャックテーブル10に対面している場合には被加工物100の下方から可視光カメラを用いて観察し、ターゲットが設定されている面とは逆の面がチャックテーブル10に対面している場合には被加工物100の下方からIR(赤外線)カメラを用いて観察する。
【0084】
なお、ターゲットが設定されている面とは逆の面がチャックテーブル10に対面している場合、被加工物100の上方から可視光カメラを用いて撮像してもよい。被加工物100の上方から撮像する場合は、被加工物100の下方から撮像するために撮像ユニットを追加する必要がなくなるため、コストの削減に寄与できる。
【0085】
一方で、被加工物100の下方から撮像する場合は、加工しながらターゲットのズレを常時監視することができるため、ズレ確認のための時間が不要となり歩留まりの向上に貢献する。
【0086】
上述のように加工方向の切り替えを自動で制御することによって、定量的に被加工物100の位置ズレを判断し、適切なタイミングで加工方向を切り替えることができる。これにより、未加工領域のストリート103の一方向へのズレを抑制できるので、位置ズレを補正するアライメント作業を省略できる、またはアライメント作業の頻度を低減できる。
【0087】
また、加工方向の切り替えの自動制御によって、位置ズレを抑制可能である最小限のY軸方向の補正距離を算出することができる。これにより、加工方向の切り換えに伴うY軸方向の移動処理が増加することによるスループットの低下を抑制することができる。
【0088】
更に、量産工程において、同じ厚さかつ同じチップサイズとなるウェーハである複数の被加工物100を次々に加工する場合、加工方向を切り替える適切なタイミングがほぼ同等であると推定できる。したがって、1枚目の被加工物100の加工時に算出した切り替えタイミングのデータを、2枚目以降の被加工物100の加工に適用してもよい。これにより、更に加工時間の短縮に寄与する。
【符号の説明】
【0089】
1 レーザー加工装置
10 チャックテーブル
20 レーザービーム照射ユニット
21 レーザービーム
22 集光点
40 加工送りユニット
50 割り出し送りユニット
90 制御ユニット
100 被加工物
101 基板
102 表面
103 ストリート
104 デバイス
105 裏面
106、107 半面領域
110 保護部材
111 フレーム
120 改質層