(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】無アルカリガラス
(51)【国際特許分類】
C03C 3/091 20060101AFI20241108BHJP
C03C 3/087 20060101ALI20241108BHJP
G02F 1/1333 20060101ALI20241108BHJP
G11B 5/73 20060101ALI20241108BHJP
G11B 5/84 20060101ALI20241108BHJP
G11B 7/2531 20130101ALI20241108BHJP
G11B 7/26 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
C03C3/091
C03C3/087
G02F1/1333 500
G11B5/73
G11B5/84 Z
G11B7/2531
G11B7/26
(21)【出願番号】P 2020515494
(86)(22)【出願日】2019-04-23
(86)【国際出願番号】 JP2019017280
(87)【国際公開番号】W WO2019208584
(87)【国際公開日】2019-10-31
【審査請求日】2022-02-14
【審判番号】
【審判請求日】2023-08-07
(31)【優先権主張番号】P 2018086580
(32)【優先日】2018-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(72)【発明者】
【氏名】▲徳▼永 博文
(72)【発明者】
【氏名】小野 和孝
(72)【発明者】
【氏名】広瀬 元之
【合議体】
【審判長】深草 祐一
【審判官】宮澤 尚之
【審判官】増山 淳子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/175215(WO,A1)
【文献】特開2005-97090(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C1/00-14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歪点が650℃以上であり、50~350℃での平均熱膨張係数が30×10
-7~45×10
-7/℃であり、ガラス粘度が10
2dPa・sとなる温度T
2が1500℃~1800℃であって、
酸化物基準のモル%表示で
SiO
2 :62~70%、
Al
2O
3 :9~16%、
B
2O
3 :
1.3~8.5%、
MgO :3~10%、
CaO :
5.4~12%、
SrO :0~6%、
Fe
2O
3 :0.004~0.04%を含み、
MgO+CaO+SrO+BaOが12~25%であり、
β-OH値が0.35~0.85/mmである、
無アルカリガラス。
【請求項2】
下記式Aで表される値が7~30である、請求項1に記載の無アルカリガラス。
式Aにおいて、[Fe
2O
3]はFe
2O
3に換算した全鉄のモル%の数値、[β-OH]は/mm単位表示の数値である。
式A:
(3.119×10
-4T
2
2-0.2014T
2-17.38)[Fe
2O
3]+(6.434×10
-7T
2
2+0.0144T
2-7.842)[β-OH]
【請求項3】
ガラス粘度が10
2dPa・sとなる温度T
2における有効熱伝導率が40~65W/m・Kである、請求項1または2に記載の無アルカリガラス。
【請求項4】
波長300nmにおける板厚0.5mm換算の透過率が50%以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の無アルカリガラス。
【請求項5】
ガラス板の形状であり、厚さが0.05mm~3mmである、請求項1~4のいずれか一項に記載の無アルカリガラス。
【請求項6】
溶融ガラスをフロート法またはフュージョン法で成形する工程を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の無アルカリガラスの製造方法。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか一項に記載の無アルカリガラスを有するディスプレイパネル。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか一項に記載の無アルカリガラスを有する半導体デバイス。
【請求項9】
請求項1~5のいずれか一項に記載の無アルカリガラスを有する情報記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無アルカリガラスに関する。より詳細には、各種電子装置の製品中または製造過程中に用いられるガラス基板または支持ガラス基板として適した、紫外線透過性の無アルカリガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、紫外線透過率の高いガラス基板へのニーズが高まっている。そのような基板の例としては、二枚のガラス基板が紫外線硬化性樹脂を用いて貼り合わされた構造を含む液晶フラットパネルディスプレイ等におけるガラス基板、および、支持ガラス基板上に積層されて製造される有機発光ダイオード(OLED)(例えばポリイミド層を含むフレキシブルOLED)等の製造用の支持ガラス基板が挙げられる。後者の例においては、OLEDの製造工程後に、紫外線照射を通じて支持ガラス基板上の接着層が非接着化され、支持ガラス基板はOLEDから剥離される。軽量化、薄型化、あるいはフレキシブル化で特徴付けられる装置に関しては、製造工程のあいだ必要な強度を確保しておくためにこのような支持ガラス基板が有用となる。
【0003】
これらのガラス基板は、アルカリ金属酸化物を含有していると、基板上に成膜される薄膜中にそのアルカリ金属イオンが拡散して膜特性を劣化させてしまう。したがってこれらのガラス基板は、実質的にアルカリ金属イオンを含まない無アルカリガラスであることが求められる。
【0004】
特許文献1~3には、波長300nmにおける紫外線透過率が厚み0.5mm換算で40~85%または50~85%である無アルカリガラス基板が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2014/175215号
【文献】日本国特開2006-36625号公報
【文献】日本国特開2006-36626号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、大量生産されるガラスは原料や製造工程由来の鉄を含有する。鉄は、ガラス中でFe2+もしくはFe3+として存在し、特にFe3+は波長300nm以下の範囲に吸収を持つため、無アルカリガラス(以下、単に「ガラス」ともいう)の紫外線透過率を高くするためには、ガラス中の鉄量を低減させることが考えられる。しかしながら、ガラスの鉄量を低くすると、溶融工程においてFe2+による赤外線吸収量が低下し、結果的にガラスの熱伝導率が増加してしまう。そうすると、窯内でバーナー炎の熱線によってガラス素地を熱してガラスを製造する際に、窯内の溶融ガラス素地の温度分布が小さくなってしまうため、対流速度が低下し、最終製品の泡品質や均質性が悪化しやすくなる。清澄(泡の除去)や均質性の達成は十分な対流の存在に依存するからである。
【0007】
本発明は、高い紫外線透過率を有しながら熱伝導率を適切に調整できる無アルカリガラスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ガラスのβ-OHを増加させることによって、低鉄量および高紫外線透過率を維持したまま赤外線吸収を向上させる、すなわち熱伝導率を下げられることを見出した。ただし、熱伝導率を下げすぎると、窯の底に位置する溶融ガラス素地が冷えすぎて却って流動しにくくなるため、鉄量とβ-OHとの調整により熱伝導率を最適な範囲に収めることが重要である。
【0009】
本発明には、以下の実施形態が含まれる。
[1]
歪点が650℃以上であり、50~350℃での平均熱膨張係数が30×10-7~45×10-7/℃であり、ガラス粘度が102dPa・sとなる温度T2が1500℃~1800℃であって、
酸化物基準のモル%表示で
SiO2 :62~70%、
Al2O3 :9~16%、
B2O3 :0~12%、
MgO :3~10%、
CaO :4~12%、
SrO :0~6%、
Fe2O3 :0.001~0.04%を含み、
MgO+CaO+SrO+BaOが12~25%
であり、
β-OH値が0.35~0.85/mmである、
無アルカリガラス。
[2]
下記式Aで表される値が7~30である、[1]に記載の無アルカリガラス。
式Aにおいて、[Fe2O3]はFe2O3に換算した全鉄のモル%の数値、[β-OH]は/mm単位表示の数値である。
式A:
(3.119×10-4T2
2-0.2014T2-17.38)[Fe2O3]+(6.434×10-7T2
2+0.0144T2-7.842)[β-OH]
[3]
ガラス粘度が102dPa・sとなる温度T2における有効熱伝導率が40~65W/m・Kである、[1]または[2]に記載の無アルカリガラス。
[4]
波長300nmにおける板厚0.5mm換算の透過率が50%以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の無アルカリガラス。
[5]
ガラス板の形状であり、厚さが0.05mm~3mmである、[1]~[4]のいずれかに記載の無アルカリガラス。
[6]
溶融ガラスをフロート法またはフュージョン法で成形する工程を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の無アルカリガラスの製造方法。
[7]
[1]~[5]のいずれかに記載の無アルカリガラスを有するディスプレイパネル。
[8]
[1]~[5]のいずれかに記載の無アルカリガラスを有する半導体デバイス。
[9]
[1]~[5]のいずれかに記載の無アルカリガラスを有する情報記録媒体。
【発明の効果】
【0010】
本発明の無アルカリガラスは、高い紫外線透過率を有しながら、所望の値に調整された熱伝導率を有している。従って、バーナー炎などの加熱手段によって加熱効率よく製造することができ、薄型ディスプレイや有機EL等の各種電子装置用のガラス基板または支持ガラス基板として適した高品質の無アルカリガラスを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態において「無アルカリ」ガラスとは、Na2O、K2O等のアルカリ金属酸化物を実質的に含有しないガラスを意味する。「実質的に含有しない」とは、不純物として不可避的に含有されるものを除きその成分は添加されないことを意味する。本発明において、アルカリ金属酸化物を実質的に含有しないとは、例えば、アルカリ金属酸化物の含有量が0.5%以下であり、好ましくは0.2%以下、より好ましくは0.1%以下、より好ましくは0.08%以下、さらに好ましくは0.05%以下、最も好ましくは0.03%以下である(酸化物基準でのモル%)。
【0012】
本実施形態による無アルカリガラスは、ガラスの骨格を形成するSiO2、Al2O3に加え、所定量の金属酸化物成分を含む。以下、本実施形態による無アルカリガラスにおける各成分の酸化物基準での含有量について説明する。以下において、特に断りがない限り、「%」は「モル%」を意味する。
【0013】
SiO2の含有量は62~70%である。SiO2の含有量は63%以上が好ましく、64%以上がより好ましく、65%以上がさらに好ましく、65.5%以上が特に好ましい。SiO2の含有量が下限値未満であると、歪点が低く、熱膨張係数および比重が高くなり、さらに、耐フッ酸性が悪くなる傾向がある。なお、フッ酸およびバッファードフッ酸(BHF:フッ酸とフッ化アンモニウムの混合液)は、半導体形成や薄板化に関連するエッチング処理に通常使用される薬品である。一方、SiO2の含有量は69%以下が好ましく、68.5%以下がより好ましく、68%以下がさらに好ましく、67.5%以下が特に好ましい。SiO2の含有量が上限値を超えると、ガラス粘度が102ポアズ(dPa・s)となる温度(T2)が高くなる等、溶解性が悪くなり、失透温度が上昇する傾向がある。
【0014】
Al2O3の含有量は9~16%である。Al2O3の含有量は10%以上が好ましく、10.5%以上がより好ましく、10.8%以上がさらに好ましく、11%以上が特に好ましい。Al2O3の含有量が下限値未満であると、分相制御が難しくなり、歪点が低下し、熱膨張係数が高くなる傾向がある。一方、Al2O3の含有量は15%以下が好ましく、14%以下がより好ましく、13.8%以下がさらに好ましく、13.5%以下が特に好ましい。Al2O3の含有量が上限値を超えると、T2が上昇して溶解性が悪くなり、失透温度も高くなる傾向がある。
【0015】
B2O3の含有量は0~12%である。B2O3は必須ではないが、製造時におけるガラスの溶解反応性をよくし、失透温度を低下させ、耐BHF性を改善するため含有できる。B2O3の含有量は0.5%以上が好ましく、0.8%以上がより好ましく、1%以上がさらに好ましく、1.2%以上が特に好ましい。一方、B2O3の含有量は11%以下が好ましく、10%以下がより好ましく、9%以下がさらに好ましく、8.5%以下が特に好ましい。B2O3の含有量が上限値を超えると、歪点が低下する傾向がある。
【0016】
MgOの含有量は3~10%である。MgOの含有量は4%以上が好ましく、4.5%以上がより好ましく、5%以上がさらに好ましく、5.5%以上が特に好ましい。MgOは、他のアルカリ土類と比べて熱膨張係数を高くすることなく、溶解性を向上させ、比重を低下させ、さらに耐フッ酸性を向上させる効果があるが、その含有量が下限値未満であるとこれらの効果を十分に得ることが難しい。一方、MgOの含有量は9.7%以下が好ましく、9.5%以下がより好ましく、9.3%以下がさらに好ましく、9.1%以下が特に好ましい。MgOの含有量が上限値を超えると、失透温度が高くなるおそれがある。
【0017】
CaOの含有量は4~12%である。CaOの含有量は4.2%以上が好ましく、4.5%以上がより好ましく、4.7%以上がさらに好ましく、5%以上が特に好ましい。CaOも、アルカリ土類の中ではMgOに次いで熱膨張係数を高くすることなく、かつ歪点を過大には低下させないという特徴を有し、MgOと同様に溶解性も向上させる。その含有量が下限値未満であると、これらの効果を十分に得ることが難しい。一方、CaOの含有量は11.5%以下が好ましく、11%以下がより好ましく、10.5%以下がさらに好ましく、10%以下が特に好ましい。CaOの含有量が上限値を超えると、熱膨張係数が高くなる傾向がある。また、CaOの含有量が上限値を超えると、失透温度が高くなるおそれがある。
【0018】
SrOの含有量は、0~6%である。SrOは、ガラスの失透温度を上昇させず、ガラス製造時における溶解性を向上させるため含有できる。SrOの含有量は0.1%以上が好ましく、0.5%以上がより好ましく、1%以上がさらに好ましく、1.2%以上が特に好ましい。一方、SrOの含有量は5.8%以下が好ましく、5.5%以下がより好ましく、5.3%以下がさらに好ましく、5.0%以下が特に好ましい。SrOの含有量が上限値を超えると、比重および熱膨張係数が高くなり、耐フッ酸性も悪くなる傾向がある。
【0019】
BaOは必須成分ではないが、ガラスの失透温度を上昇させず、溶解性を向上させるため含有させることができる。しかし、BaOを多く含有すると比重が大きくなり、平均熱膨張係数が大きくなりすぎる傾向がある。そのため、BaOの含有量は1%以下が好ましく、0.5%以下がより好ましく、0.1%以下がさらに好ましい。BaOを実質的に含有しないことが特に好ましい。
【0020】
本実施形態による無アルカリガラスは、アルカリ土類金属酸化物の合計量、即ちMgO+CaO+SrO+BaO(以下「RO」ともいう)が12~25%である。ROは13%以上が好ましく、14%以上がより好ましく、15%以上がさらに好ましく、15.5%以上が特に好ましい。ROが下限値未満であると、ガラスの溶解性が悪くなる。また、ROが下限値未満では、失透温度が上昇するおそれがある。一方、ROは23%以下が好ましく、21%以下がより好ましく、20.5%以下がさらに好ましく、20%以下が特に好ましい。ROが上限値を超えると歪点が低くなり、比重が高くなり、熱膨張係数が高くなり、耐フッ酸性が低くなる傾向がある。
【0021】
本実施形態による無アルカリガラスにおける鉄の含有量はFe2O3換算で0.001~0.04%である。Fe2O3は0.002%以上が好ましく、0.003%以上がより好ましく、0.0035%以上がさらに好ましく、0.004%以上が特に好ましい。また、Fe2O3は0.03%以下が好ましく、0.02%以下がより好ましく、0.018%以下がさらに好ましく、0.016%以下が特に好ましい。
上述したように、Fe2O3の含有量は紫外線透過率の低下に寄与するため、紫外線透過性が求められるガラスにおいては低含量にすることが好ましいと考えられるが、ガラスのFe2O3含量を低くすると、結果的に赤外線吸収能も低下し、熱伝導率が増加してしまう。本実施形態では、後述するβ-OHとのバランスを詳細に検討した結果、上記のFe2O3含量範囲が見出された。
【0022】
上記各成分に加え、本実施形態によるガラスは、その溶解性、清澄性、成形性等を向上させるため、ZrO2、ZnO、SO3、F、Cl、およびSnO2のいずれかを、単独でまたは組み合わせて、総量で2%以下、好ましくは1%以下、より好ましくは0.5%以下で含有してもよい。
【0023】
一方、本実施形態によるガラスは、ガラス板表面に設ける金属または酸化物等の薄膜の特性劣化を生じさせないために、P2O5を実質的に含有しないことが好ましい。さらに、ガラスのリサイクルを容易にするため、PbO、As2O3、Sb2O3を実質的に含有しないことが好ましい。
【0024】
本実施形態による無アルカリガラスは、水分量の指標であるβ-OH値が0.35~0.85/mmである。β-OH値は0.40/mm以上が好ましく、0.45/mm以上がより好ましく、0.48/mm以上がさらに好ましく、0.50/mm以上が特に好ましい。また、β-OH値は0.8/mm以下が好ましく、0.77/mm以下がより好ましく、0.75/mm以下がさらに好ましく、0.7/mm以下が特に好ましい。
β-OH値を上昇させると、紫外線透過率を下げることなく、熱伝導率を下げることができる。ただし、熱伝導率を下げすぎると上述のような弊害も生じ得る。本発明者らは、異なる鉄量とβ-OH値との組合せを用いて溶融温度付近での熱伝導率の低下における両者の貢献度を分析することにより、高紫外線透過性無アルカリガラスの製造に特に適した上記のβ-OH値範囲を見出した。
【0025】
当業者に知られる方法を使用して、無アルカリガラスにおけるβ-OH値を調節することができる。例えば、ガラス原料(特にMgまたはCaの供給源)として水酸化物を使用すること、または、溶融雰囲気の水蒸気分圧もしくは露点を上げることによってβ-OH値をより高く調節し得る。
【0026】
本実施形態による無アルカリガラスは、歪点が650℃以上である。歪点が650℃より低いと、電子デバイスの製造に必要な熱処理の際に熱収縮を起こし、歩留まりの低下をもたらし得る。歪点は655℃以上が好ましく、660℃以上がより好ましく、663℃以上がさらに好ましく、665℃以上が特に好ましい。歪点が高過ぎると、それに応じて成形装置の温度を高くする必要があり、成形装置の寿命が低下する傾向があるため、歪点は770℃以下が好ましく、750℃以下がより好ましく、740℃以下がさらに好ましく、730℃以下が特に好ましい。
【0027】
本実施形態による無アルカリガラスは、50~350℃での平均熱膨張係数が30×10-7/℃~45×10-7/℃である。50~350℃での平均熱膨張係数は33×10-7/℃以上が好ましく、35×10-7/℃以上がより好ましく、36×10-7/℃以上がさらに好ましく、37×10-7/℃以上が特に好ましい。例えば、フラットパネルディスプレイのTFT側基板の製造においては、無アルカリガラス上に銅などのゲート金属膜、および窒化ケイ素などのゲート絶縁膜が順に積層されることがあるが、平均熱膨張係数が下限値未満であると、ゲート絶縁膜とガラスとの間の膨張率差が小さくなりすぎる。そのため、ゲート金属膜の成膜によって生じるガラスの反りが、ゲート絶縁膜によってキャンセルされる効果が小さくなってしまう。その結果、基板の反りが大きくなり、搬送上の不具合が生じたり、露光時のパターンずれが大きくなってしまうなどの問題が生じるおそれがある。一方、50~350℃での平均熱膨張係数は43×10-7/℃以下が好ましく、42×10-7/℃以下がより好ましく、40×10-7/℃以下がさらに好ましく、39×10-7/℃以下が特に好ましい。平均熱膨張係数が上限値以下であるガラスは、熱衝撃に強く、高い歩留まりを達成することができる。
【0028】
本実施形態による無アルカリガラスは、粘度が102ポイズ(dPa・s)となる温度T2が1500~1800℃である。T2は1550℃以上が好ましく、1570℃以上がより好ましく、1580℃以上がより好ましく、1600℃以上が特に好ましい。T2が下限値未満であると、ガラスの溶解温度と清澄温度が乖離してしまいガラスの清澄性が悪くなるおそれがある。また、T2が下限値未満であると、低粘度となった溶融液による溶解炉の浸食が進みやすくなり製造装置の寿命が短くなるおそれがある。一方、T2は1750℃以下が好ましく、1730℃以下がより好ましく、1700℃以下がさらに好ましく、1660℃以下が特に好ましい。T2が上限値を超えると、ガラスの溶解性が悪く、高温を要するため製造装置への負担が高まる。
【0029】
本実施形態による無アルカリガラスは、粘度が104ポイズ(dPa・s)となる温度T4が1400℃以下であることが好ましく、1370℃以下であることがより好ましく、1350℃以下であることがさらに好ましく、1320℃以下であることが特に好ましい。これらのT4を有するガラスはフロート法による成形に好適である。T4が高いと、フロートバスの筐体構造物やヒーターの寿命を極端に短くする恐れがある。
【0030】
本実施形態による無アルカリガラスは、好ましくは、ガラス粘度が102dPa・sとなる温度T2におけるガラスの有効熱伝導率が40~65W/m・Kである。T2における有効熱伝導率はより好ましくは45W/m・K以上、さらに好ましくは50W/m・K以上、特に好ましくは55W/m・K以上である。また、T2におけるガラスの有効熱伝導率はより好ましくは63W/m・K以下であり、さらに好ましくは60W/m・K以下であり、特に好ましくは57W/m・K以下である。
有効熱伝導率とは、定常法(J.Am.Cer.Soc.44,1961,pp.333-339)によって測定される熱伝導率であり、「見かけの熱伝導率」と呼ばれることもある。温度T2において上記の有効熱伝導率を有することにより、加熱によるガラス溶融の際に最適な対流速度が生じ、加熱が効率的になり、ひいては泡品質および均質性の優れたガラス製品を提供できる。
【0031】
本実施形態による無アルカリガラスは、式Aで表される値が7~30であることが好ましい。
式A:
(3.119×10-4T2
2-0.2014T2-17.38)[Fe2O3]+(6.434×10-7T2
2+0.0144T2-7.842)[β-OH]
ここで、[Fe2O3]は、Fe2O3に換算した全鉄のモル%の数値であり、[β-OH]は/mm単位表示の数値である。
上記の式Aは、異なる温度においてFe2O3量およびβ-OH値がそれぞれ熱伝導率の低下にどれだけ貢献するかを詳細に分析することにより導かれたものである。
式Aで表される値は、無アルカリガラスが水分も鉄も含まない場合と比べて熱伝導率がどれだけ下がるかを表す指標であり、式Aの値が大きいほど熱伝導率の下げ幅が大きいことを意味する。式Aの値は、より好ましくは10以上であり、さらに好ましくは12以上であり、特に好ましくは14以上である。また、式Aの値は、より好ましくは25以下であり、さらに好ましくは20以下であり、特に好ましくは17以下である。
【0032】
本実施形態による無アルカリガラスは、好ましくは、波長300nmにおける板厚0.5mm換算の透過率が50%以上である。これにより、各種電子デバイス用の基板または支持基板として好適な紫外線透過性が確保される。上記透過率はより好ましくは60%以上であり、さらに好ましくは70%以上であり、特に好ましくは80%以上である。
【0033】
本実施形態による無アルカリガラスは、ガラス板の形状であることが好ましい。ガラス板の厚さは、好ましくは3mm以下、より好ましくは2mm以下、より好ましくは1.5mm以下、さらに好ましくは1.2mm以下、特に好ましくは0.8mm以下である。また、ガラス板の厚さは、好ましくは0.05mm以上、より好ましくは0.1mm以上、より好ましくは0.15mm以上、さらに好ましくは0.2mm以上、特に好ましくは0.3mm以上である。
【0034】
本実施形態による無アルカリガラスは、当業者に知られる手法を適宜組み合わせて製造することができる。例えば、上記各成分の原料を上記所定の組成となるように調合し、これを溶解炉に連続的に投入し、1500~1800℃に加熱して溶解して溶融ガラスを得る。得られた溶融ガラスを、成形装置にて所定の板厚のガラスリボンに成形し、このガラスリボンを徐冷後、切断する。
【0035】
本実施形態のガラスおよびガラス板の製造方法は特に限定されず、各種方法を適用できる。たとえば、各成分の原料を目標組成となるように調合し、これをガラス溶融窯で加熱溶融する。バブリング、撹拌、清澄剤の添加等によりガラスを均質化し、フロート法、プレス法、フュージョン法またダウンドロー法などの方法により所定の厚さのガラス板に成形する。徐冷後必要に応じて研削、研磨などの加工を行った後、所定の寸法・形状のガラス基板としてもよい。フュージョン法を用いることにより、ガラス転移点付近の平均冷却速度が速くなり、得られたガラス板をフッ酸エッチング処理によりさらに薄膜化する際に、エッチング処理した側の面におけるガラス板の表面粗さがより小さくなる。
【0036】
大型の板ガラス(例えば一辺が1800mm以上)を安定して生産するという観点からは、フロート法を用いることが好ましい。
【0037】
大型基板とは、例えば少なくとも一辺が1800mm以上のガラス板であり、具体的な例としては、長辺1800mm以上、短辺1500mm以上のガラス板に好適である。本実施形態の無アルカリガラスは、少なくとも一辺が2400mm以上のガラス板、例えば、長辺2400mm以上、短辺2100mm以上のガラス板により好ましく、少なくとも一辺が3000mm以上のガラス板、例えば、長辺3000mm以上、短辺2800mm以上のガラス板にさらに好ましく、少なくとも一辺が3200mm以上のガラス板、例えば、長辺3200mm以上、短辺2900mm以上のガラス板に特に好ましく、少なくとも一辺が3300mm以上のガラス板、例えば、長辺3300mm以上、短辺2950mm以上のガラス板に最も好ましく用いられる。
【0038】
次に、本発明の一実施形態に係るディスプレイパネルを説明する。
本実施形態のディスプレイパネルは、上述した実施形態の無アルカリガラスをガラス基板として有する。上記実施形態の無アルカリガラスを有する限り、ディスプレイパネルは特に限定されず、液晶ディスプレイパネル、有機ELディスプレイパネルなど、各種ディスプレイパネルであってよい。
【0039】
薄膜トランジスタ液晶ディスプレイ(TFT-LCD)の場合を例にとると、その表面にゲート電極線およびゲート絶縁用酸化物層が形成され、さらに該酸化物層表面に画素電極が形成されたディスプレイ面電極基板(アレイ基板)と、その表面にRGBのカラーフィルタおよび対向電極が形成されたカラーフィルタ基板とを有し、互いに対をなす該アレイ基板と該カラーフィルタ基板との間に液晶材料が挟み込まれてセルが構成される。液晶ディスプレイパネルは、このようなセルに加えて、周辺回路等の他の要素を含む。本実施形態の液晶ディスプレイパネルは、セルを構成する1対の基板のうち、少なくとも一方に上記実施形態の無アルカリガラスが使用されている。
【0040】
次に、本発明の一実施形態に係る半導体デバイスは、上述した実施形態の無アルカリガラスをガラス基板として有する。具体的には、例えば、MEMS、CMOS、CIS等のイメージセンサ用のガラス基板として、上記実施形態の無アルカリガラスを有する。また、プロジェクション用途のディスプレイデバイス用のカバーガラス、例えばLCOS(Liquid Cristyal ON Silicon)のカバーガラスとして、上記実施形態の無アルカリガラスを有する。
【0041】
次に、本発明の一実施形態に係る情報記録媒体は、上述した実施形態の無アルカリガラスをガラス基板として有する。具体的には、例えば、磁気記録媒体用、または光ディスク用のガラス基板として上記実施形態の無アルカリガラスを有する。磁気記録媒体としては、例えば、エネルギーアシスト方式の磁気記録媒体や垂直磁気記録方式の磁気記録媒体がある。
【実施例】
【0042】
以下、実施例および比較例により本発明の実施形態をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0043】
各成分の原料を、ガラス組成が表1および2に示す目標組成(単位:モル%)になるように調合し、白金坩堝を用いて1650℃の温度でスターラーで撹拌しながら6時間溶解した。溶解後、カーボン板上に流し出し、ガラス転移点+30℃にて60分保持後、毎分1℃で室温まで冷却し、得られた無アルカリガラスを鏡面研磨してガラス板として、各種評価を行った。例1~4、7~10は本発明の実施例であり、例5、6、11、12は比較例である。
【0044】
蛍光X線装置(XRF)(リガク社製、ZSX100e)を用いて、上記で得られたガラスの表面における各成分のX線強度を測定して定量分析を行い、組成を確認した。
【0045】
50℃~350℃の平均熱膨張係数(単位:×10-7/℃)は、JIS R3102(1995年)に規定されている方法に従い、示差熱膨張計(TMA)を用いて測定した。歪点(単位:℃)は、JIS R3103-2(2001年)に規定されている方法に従い、繊維引き伸ばし法により測定した。T2およびT4は回転粘度計により測定した。熱伝導率は、定常法(J.Am.Cer.Soc.44,1961,pp.333-339)に従って、ガラスの有効熱伝導率(以下、Keffともいう)を測定した。
【0046】
温度T2におけるガラスの有効熱伝導率(Keff)は、有効熱伝導率測定用の坩堝で各例のガラスを温度T2で溶解してガラス融液としてから評価した。
有効熱伝導率(Keff)は、ガラス融液を入れた坩堝の熱伝導率をKr、前記坩堝の底面の厚みをdr、前記坩堝内のガラス融液の深さをdg、ガラス融液表面の温度をTs、ガラス融液と坩堝内底面の界面における坩堝内底面温度をTb、坩堝外底面における坩堝外底面温度をTr、としてそれぞれを測定し、式Bを用いて得た。
式B: Keff = Kr{(Tb-Tr)/(Ts-Tb)}(dg/dr) 坩堝の熱伝導率Krは、表3に示す有効熱伝導率が既知のガラス1、2を用いて、坩堝の底面の厚みdr、ガラス融液の深さdg、ガラス融液表面の温度Ts、ガラス融液と坩堝内底面の界面温度Tb、坩堝外底面の温度Trをそれぞれ測定し、式Bを用いて求めた。
紫外線透過率は、ISO-9050:2003に従い、日立分光光度計U-4100で測定した。波長300nmにおいて、板厚0.5mm換算の透過率を求めた。
【0047】
β-OH値は、板厚0.70~2.0mmとなるようにガラス試料の両面鏡面研磨を行った後、FT-IRを用いて波数4000~2000cm-1の範囲で透過率測定を行い求めた。波数4000cm-1における透過率をτ1[%]、波数3600cm-1付近の透過率の極小値をτ2[%]、ガラスの板厚をX[mm]とし、次式によりβ-OH値を求めた。なお、ガラス試料の板厚はτ2が20~60%の範囲に入るように調整した。
β-OH[mm-1]=(1/X)log10(τ1/τ2)
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
表1、2に示されているとおり、例1~4、7~10のガラスは、各成分の含量、特にFe2O3とβ-OH値とが、規定の範囲内に収まっており、高い紫外線透過率を維持しながら、適度に低い熱伝導率を確保している。従ってこれらは泡品質および均質性に優れた無アルカリガラスとして製造できる。各種電子デバイス用の基板または支持基板として適した物性も確保されている。
【0052】
それに対し、例5および11のガラスは、Fe2O3の含量が多いため、熱伝導率が低くなっている一方、必要な紫外線透過率が確保できていない。例6および12のガラスは、低鉄化によって、高い紫外線透過率を達成してはいるが、熱伝導率も高くなりすぎている。例6および12のガラスは、熱伝導率が高く、最終製品の泡品質や均質性に劣る。例6および12のガラスのこの欠点は、例1~4、7~10のガラスではβ-OH値によって補われていることが理解される。
【0053】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは、当業者にとって明らかである。
本出願は、2018年4月27日出願の日本特許出願2018-086580に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の実施形態に係る無アルカリガラスは、電子デバイス全般を含む様々な用途に使用することができ、特に、薄型ディスプレイ装置や有機EL装置用のガラス基板または支持ガラス基板など、高い紫外線透過率が求められる用途に好適に用いることができる。