(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】全固体リチウムイオン電池用正極活物質、全固体リチウムイオン電池用正極活物質の前駆体、全固体リチウムイオン電池用正極、全固体リチウムイオン電池、全固体リチウムイオン電池用正極活物質の前駆体の製造方法及び全固体リチウムイオン電池用正極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20241108BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20241108BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20241108BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20241108BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
H01M10/0562
(21)【出願番号】P 2021047833
(22)【出願日】2021-03-22
【審査請求日】2023-08-16
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】川橋 保大
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/202602(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01M10/00-10/39
H01G11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式:Li
aNi
xCo
yMn
1-x-yO
2
(前記式において、1.00≦a≦1.03、0.8≦x≦0.9、0≦y≦0.16である。)
で表され、50%累積体積粒度D50が3.0~7.0μmであり、タップ密度が1.9~2.5g/ccであり、円形度が0.90~0.93であ
り、
50%累積体積粒度D50×π(A)と、平均粒子周囲長(B)との比(B)/(A)が0.91~0.98である、全固体リチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項2】
前記正極活物質の表面に、更にLiとNbとの酸化物である被覆層を有する、請求項1に記載の全固体リチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項3】
組成式:Ni
xCo
yMn
1-x-y(OH)
2
(前記式において、0.8≦x≦0.9、0≦y≦0.16である。)
で表され、50%累積体積粒度D50が2.0~7.0μmであり、タップ密度が1.6~2.0g/ccであり、円形度が0.87~0.97であ
り、
50%累積体積粒度D50×π(A)と、平均粒子周囲長(B)との比(B)/(A)が0.86~1.06である、全固体リチウムイオン電池用正極活物質の前駆体。
【請求項4】
請求項1
または2に記載の全固体リチウムイオン電池用正極活物質を含む、全固体リチウムイオン電池用正極。
【請求項5】
請求項
4に記載の全固体リチウムイオン電池用正極で構成された正極層と、負極層と、固体電解質層と、を含む、全固体リチウムイオン電池。
【請求項6】
(a)ニッケル塩、(b)コバルト塩、(c)マンガン塩、及び、(d)アンモニア水とアルカリ金属との塩基性水溶液、を含有する水溶液を反応液とし、前記反応液中のpHを10.8~11.4、アンモニウムイオン濃度を10~22g/L、液温を55~65℃に制御しながら晶析反応を行う工程を含む、請求項
3に記載の全固体リチウムイオン電池用正極活物質の前駆体の製造方法。
【請求項7】
請求項
6に記載の全固体リチウムイオン電池用正極活物質の前駆体の製造方法で製造された前駆体と、リチウム源とを、Ni、Co及びMnからなる金属の原子数の和(Me
n)とリチウムの原子数(Li
n)との比(Li
n/Me
n)が1.01~1.03となるように混合して、リチウム混合物を形成する工程と、
前記リチウム混合物を、酸素雰囲気中、450~520℃で2~15時間焼成した後、さらに680~850℃で2~15時間焼成する工程と、
を含む、全固体リチウムイオン電池用正極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体リチウムイオン電池用正極活物質、全固体リチウムイオン電池用正極活物質の前駆体、全固体リチウムイオン電池用正極、全固体リチウムイオン電池、全固体リチウムイオン電池用正極活物質の前駆体の製造方法及び全固体リチウムイオン電池用正極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年におけるパソコン、ビデオカメラ、及び携帯電話等の情報関連機器や通信機器等の急速な普及に伴い、その電源として利用される電池の開発が重要視されている。該電池の中でも、エネルギー密度が高いという観点から、リチウムイオン電池が注目を浴びている。また、車載用等の動力源やロードレベリング用といった大型用途におけるリチウム二次電池についても、エネルギー密度や電池特性の向上が求められている。
【0003】
ただ、リチウムイオン電池の場合は、電解液は有機化合物が大半であり、たとえ難燃性の化合物を用いたとしても火災に至る危険性が全く無くなるとは言いきれない。こうした液系リチウムイオン電池の代替候補として、電解質を固体とした全固体リチウムイオン電池が近年注目を集めている。その中でも、固体電解質としてLi2S-P2S5などの硫化物やそれにハロゲン化リチウムを添加した全固体リチウムイオン電池が主流となりつつある。
【0004】
全固体リチウムイオン電池に用いられる正極活物質として、例えば、特許文献1には、一次粒子が凝集して形成された二次粒子と、前記二次粒子とは独立して存在する単粒子と、から構成されたリチウム金属複合酸化物粉末であって、下記組成式(1)で表され、下記要件(A)、(B)及び(C)を満たすことを特徴とする、リチウム金属複合酸化物粉末が開示されている。
Li[Lix(Ni(1-y-z-w)CoyMnzMw)1-x]O2 (1)
(ただし、MはFe、Cu、Ti、Mg、Al、W、B、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga及びVからなる群より選択される1種以上の元素であり、-0.1≦x≦0.2、0<y≦0.4、0≦z≦0.4、0≦w≦0.1を満たす。)
(A)前記リチウム金属複合酸化物粉末のBET比表面積が2m2/g未満である。
(B)前記リチウム金属複合酸化物粉末は、下記式(2)により求められる円形度の個数基準の円形度分布において2つ以上のピークを有する。
円形度=4πS/L2 (2)
(Sは前記粒子の投影画像の投影面積であり、Lは前記粒子の周囲長である。)
(C)前記リチウム金属複合酸化物粉末の平均粒子径D50が2μm以上20μm以下である。
【0005】
特許文献2には、スピネル構造を有し、ニッケル及びマンガンを含むリチウム遷移金属複合酸化物を含み、前記リチウム遷移金属複合酸化物は、ニオブが固溶する表面領域を有し、前記表面領域におけるニッケルとマンガンの総量に対するニオブ量のモル比が、表面から深さ方向への距離0.3nmまでの領域において表面から深さ方向への距離に応じて減少する非水電解質二次電池用正極活物質が開示されている。
【0006】
特許文献3には、一般式LizNi1-x-yCoxMyO2(ただし、0.01≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0.97≦z≦1.20、Mは添加元素であり、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表され、一次粒子および一次粒子が凝集して構成された二次粒子からなるリチウム金属複合酸化物粉末と、ランタンニオブ酸リチウム粉末との混合物を含むことを特徴とする非水系電解質二次電池用正極材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2020-083750号公報
【文献】特開2019-067506号公報
【文献】特開2018-077937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
発火、漏えい、爆発の恐れのある非水系電解液を使用しない全固体電池は、安全性は向上する。しかしながら、正極層での固体電解質と正極活物質との接触が不良となることがあり、電池性能が低下する場合があった。
【0009】
また、全固体電池では正極活物質をLiNbO3で表面を一様にコートすることで、正極活物質-固体電解質間の界面抵抗を下げてLiイオンの移動を担保することがある。しかしながら、LiNbO3は充放電容量には寄与しないため、正極活物質が凹凸のある形状を有する場合、一様にコートするためのLiNbO3の必要量が多くなるため、LiNbO3の厚みが増し、正極活物質の比率が下がり充放電容量が低下してしまう問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、良好な充放電容量を有する全固体リチウムイオン電池用正極活物質、全固体リチウムイオン電池用正極活物質の前駆体、全固体リチウムイオン電池用正極活物質の前駆体の製造方法及び全固体リチウムイオン電池用正極活物質の製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、当該全固体リチウムイオン電池用正極活物質を用いた全固体リチウムイオン電池用正極、全固体リチウムイオン電池を提供することを別の目的とする。
【0011】
上記知見を基礎にして完成した本発明は以下の(1)~(8)のように規定される。
(1)組成式:LiaNixCoyMn1-x-yO2
(前記式において、1.00≦a≦1.03、0.8≦x≦0.9、0≦y≦0.16である。)
で表され、50%累積体積粒度D50が3.0~7.0μmであり、タップ密度が1.9~2.5g/ccであり、円形度が0.90~0.93である、全固体リチウムイオン電池用正極活物質。
(2)前記正極活物質の表面に、更にLiとNbとの酸化物である被覆層を有する、(1)に記載の全固体リチウムイオン電池用正極活物質。
(3)前記正極活物質の50%累積体積粒度D50×π(A)と、平均粒子周囲長(B)との比(B)/(A)が0.91~0.98である、(1)または(2)に記載の全固体リチウムイオン電池用正極活物質。
(4)組成式:NixCoyMn1-x-y(OH)2
(前記式において、0.8≦x≦0.9、0≦y≦0.16である。)
で表され、50%累積体積粒度D50が2.0~7.0μmであり、タップ密度が1.6~2.0g/ccであり、円形度が0.87~0.97である、全固体リチウムイオン電池用正極活物質の前駆体。
(5)前記前駆体の50%累積体積粒度D50×π(A)と、平均粒子周囲長(B)との比(B)/(A)が0.86~1.06である、(4)に記載の全固体リチウムイオン電池用正極活物質の前駆体。
(6)(1)~(3)のいずれかに記載の全固体リチウムイオン電池用正極活物質を含む、全固体リチウムイオン電池用正極。
(7)(6)に記載の全固体リチウムイオン電池用正極で構成された正極層と、負極層と、固体電解質層と、を含む、全固体リチウムイオン電池。
(8)(a)ニッケル塩、(b)コバルト塩、(c)マンガン塩、及び、(d)アンモニア水とアルカリ金属との塩基性水溶液、を含有する水溶液を反応液とし、前記反応液中のpHを10.8~11.4、アンモニウムイオン濃度を10~22g/L、液温を55~65℃に制御しながら晶析反応を行う工程を含む、(4)または(5)に記載の全固体リチウムイオン電池用正極活物質の前駆体の製造方法。
(9)(8)に記載の全固体リチウムイオン電池用正極活物質の前駆体の製造方法で製造された前駆体と、リチウム源とを、Ni、Co及びMnからなる金属の原子数の和(Men)とリチウムの原子数(Lin)との比(Lin/Men)が1.01~1.03となるように混合して、リチウム混合物を形成する工程と、
前記リチウム混合物を、酸素雰囲気中、450~520℃で2~15時間焼成した後、さらに680~850℃で2~15時間焼成する工程と、
を含む、全固体リチウムイオン電池用正極活物質の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、良好な充放電容量を有する全固体リチウムイオン電池用正極活物質、全固体リチウムイオン電池用正極活物質の前駆体、全固体リチウムイオン電池用正極活物質の前駆体の製造方法及び全固体リチウムイオン電池用正極活物質の製造方法を提供することができる。また、本発明は、当該全固体リチウムイオン電池用正極活物質を用いた全固体リチウムイオン電池用正極、全固体リチウムイオン電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に本発明を実施するための形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0015】
(全固体リチウムイオン電池用正極活物質)
本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池用正極活物質は、組成式:LiaNixCoyMn1-x-yO2(前記式において、1.00≦a≦1.03、0.8≦x≦0.9、0≦y≦0.16である。)で表される。正極活物質は、組成式においてリチウム組成を示すaが1.00≦a≦1.03に制御されている。リチウム組成を示すaが1.00以上であるため、リチウム欠損によるニッケルの還元を抑制することができる。また、リチウム組成を示すaが1.03以下であるため、電池とした際の抵抗成分となり得る、正極活物質粒子表面に存在する、炭酸リチウムや、水酸化リチウム等の残留アルカリ成分を抑制することができる。
【0016】
本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池用正極活物質は、組成式においてニッケル組成を示すxが、0.8≦x≦0.9に制御されており、いわゆるハイニッケル組成である。ニッケル組成を示すxが0.8以上であるため、全固体リチウムイオン電池の良好な電池容量を得ることができる。
【0017】
本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池用正極活物質は、組成式においてコバルト組成を示すy及びマンガン組成を示す1-x-yの合計が1-xであり、0.8≦x≦0.9であることから、コバルト組成及びマンガン組成の合計が0.1~0.2に制御されているため、サイクル特性が向上し、充放電に伴うリチウムの挿入・脱離による結晶格子の膨張収縮挙動を低減することができる。コバルト組成及びマンガン組成の合計が0.1未満になると、上記のサイクル特性や膨張収縮挙動の効果を得ることが困難となり、コバルト組成及びマンガン組成の合計が0.2を超えると、コバルト及びマンガンの添加量が多過ぎて初期放電容量の低下が大きくなる、或いは、コスト面で不利になるおそれがある。
【0018】
本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池用正極活物質は、大部分が複数の一次粒子が凝集した二次粒子の形態を有しており、部分的に二次粒子として凝集しない状態の一次粒子が含まれる形態であってもよい。二次粒子を構成する一次粒子、及び、単独で存在する一次粒子の形状については特に限定されず、例えば、略球状、略楕円状、略板状、略針状等の種々の形状であってもよい。また、複数の一次粒子が凝集した形態についても特に限定されず、例えば、ランダムな方向に凝集する形態や、中心部からほぼ均等に放射状に凝集して略球状や略楕円状の二次粒子を形成する形態等の種々の形態であってもよい。
【0019】
本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池用正極活物質は、製造工程等で生じた余剰リチウムである水酸化リチウムが含まれる場合、当該水酸化リチウムの含有量が1.5質量%以下であるのが好ましく、1.0質量%以下であるのがより好ましい。正極活物質において、水酸化リチウム含有量が1.5質量%を超えると、正極活物質が高温環境下で充電される場合、水酸化リチウムが酸化分解し、ガスが発生し易くなる。
【0020】
本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池用正極活物質は、製造工程等で生じた余剰リチウムである炭酸リチウムが含まれる場合、当該炭酸リチウムの含有量が1.5質量%以下であるのが好ましく、1.0質量%以下であるのがより好ましい。正極活物質において、炭酸リチウム含有量が1.5質量%を超えると、正極活物質が高温環境下で充電される場合、炭酸リチウムが酸化分解し、ガスが発生し易くなる。
【0021】
本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池用正極活物質に含まれる水酸化リチウム及び炭酸リチウムの含有量は、中和滴定法により求めることができる。リチウム金属複合酸化物粒子の表面等に存在する余剰リチウムとしての水酸化リチウム及び炭酸リチウムは、水に溶解することでそれぞれ水酸化物イオン及び炭酸イオンがリチウムイオンから電離する。電離したこれら陰イオンは、無機酸などで滴定することができ、これによって水酸化リチウム及び炭酸リチウムを分別定量することが可能となる。
【0022】
本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池用正極活物質に含まれる水分は0.10質量%以下であるのが好ましく、0.05質量%以下であるのがより好ましい。正極活物質に含まれる水分が0.10質量%を超えると、正極を構成する金属元素にダメージを与え、種々の電池特性を劣化させるおそれがある。正極活物質に含まれる水分の測定方法としては、乾燥重量法、カールフィッシャー滴定法、蒸留法等を用いることができる。
【0023】
本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池用正極活物質は、50%累積体積粒度D50が3.0~7.0μmである。ここで、50%累積体積粒度D50は、体積基準の累積粒度分布曲線において、50%累積時の体積粒度である。全固体リチウムイオン電池用正極活物質の50%累積体積粒度D50が3.0μm以上であると、比表面積が抑えられLiとNbとの酸化物の被覆量を抑えることができる。全固体リチウムイオン電池用正極活物質の50%累積体積粒度D50が7.0μm以下であると、比表面積が過剰に小さくなることを抑制することができる。全固体リチウムイオン電池用正極活物質の50%累積体積粒度D50は、3.0~6.0μmであるのがより好ましく、4.0~5.0μmであるのが更により好ましい。上記50%累積体積粒度D50は、Microtrac社製レーザー回折型粒度分布測定装置「MT3300EXII」により測定することができる。
【0024】
本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池用正極活物質は、タップ密度が1.9~2.5g/ccである。正極活物質のタップ密度が1.9g/cc以上であると、体積当たりのエネルギー密度が高い電池を構成することができる。正極活物質のタップ密度は、2.1~2.5g/ccであるのが好ましく、2.3~2.5g/ccであるのがより好ましい。正極活物質のタップ密度は、例えば、正極活物質(粉末)5gを、10ccのメスシリンダーに投入し、株式会社セイシン企業製の粉体密度測定器「KYT-4000K」に設置し、ストローク長55mmのタップを1500回行った後、メスシリンダーの目盛を読み取る。次に、「サンプル投入量(5g)/メスシリンダーの目盛り読み値(cc)」を算出し、これをタップ密度(g/cc)とする。
【0025】
本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池用正極活物質は、円形度が0.90~0.93である。円形度とは、粒子の形状がどの程度球に近いかを表す指標であり、例えば、真球の粒子の円形度はその上限である1.00である。正極活物質の円形度が0.90以上であると、固体電解質と正極活物質との接触面積が大きくなり、正極活物質と固体電解質との間のLiイオンの伝導性が良好となる。このため、高容量の全固体リチウムイオン電池の作製が可能となる。当該円形度は、0.91~0.93であるのが好ましく、0.92~0.93であるのがより好ましい。正極活物質の円形度は、例えば、Malvern社製の粒子画像分析装置「Morphologi G3」により測定することができる。具体的には、当該粒子画像分析装置にて、取得した2万個以上の粒子の光学画像から、「solidity=0.93」のパラメータを用いてフィルタ処理を行い、円形度を測定する。当該粒子画像分析装置は、まず、試料(正極活物質)をサンプルカートリッジに投入した後に分散ユニットにセットする。分散ユニットに窒素ガス導入ラインを接続し、窒素ガスを吹き付けることで、試料をガラスプレート上に分散させる。ガラスプレート上の分散された試料を粒子画像の撮影と画像解析とを連続的に行う。その後、撮影した個々の粒子(18000個以上)の投影面積と周長から、下記の式を用いて、円形度を算出する。なお、円形度の平均値は、測定したすべての正極活物質の粒子の円形度の平均をいう。
【0026】
円形度=4πS/L2・・・(式)
(上記式中、Sは粒子の投影面積であり、Lは粒子投影像の周長であり、πは円周率である。)
【0027】
本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池用正極活物質は、正極活物質の表面に、更にLiとNbとの酸化物である被覆層を有していてもよい。このような構成の被覆層を正極活物質の表面に被覆することで、正極活物質と固体電解質との界面で生じる反応が抑制される。このため、正極活物質の劣化等を抑制することができる。被覆層を構成するLiとNbとの酸化物としては、LiNbO3等が挙げられる。本発明の実施形態に係る正極活物質は、円形度が高く、正極活物質の表面に被覆させるLiNbO3等の厚みを低減することができ、これによって正極活物質中のLi複合酸化物の割合が高まり、高容量の正極活物質が得られる。
【0028】
本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池用正極活物質は、50%累積体積粒度D50×π(A)と、平均粒子周囲長(B)との比(B)/(A)が0.91~0.98であるのが好ましい。50%累積体積粒度D50×π(A)は、D50から算出される略真円の円周を示している。一方、平均粒子周囲長(B)は正極活物質の周囲長を実際に測定して出した平均値を示している。従って、当該比(B)/(A)が0.91~0.98であると、正極活物質と固体電解質との接触面積が大きくなり、正極活物質と固体電解質との間のLiイオンの伝導性が良好となる。当該比(B)/(A)は、0.93~0.98であるのがより好ましい。平均粒子周囲長(B)は、例えば、正極活物質の粒子をMalvern社製の粒子画像分析装置「Morphologi G3」を用いて画像解析することで、正極活物質の平均粒子周囲長を測定することができる。また、当該比(B)/(A)は、前述の測定で得られた正極活物質の50%累積体積粒度D50(A)と、当該正極活物質の平均粒子周囲長(B)との比(B)/(A)を算出することで得られる。
【0029】
(全固体リチウムイオン電池用正極活物質の前駆体)
本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池用正極活物質の前駆体は、組成式:NixCoyMn1-x-y(OH)2(前記式において、0.8≦x≦0.9、0≦y≦0.16である。)で表される。また、本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池用正極活物質の前駆体は、50%累積体積粒度D50が2.0~7.0μmであり、タップ密度が1.6~2.0g/ccであり、円形度が0.87~0.97である。このような構成に係る前駆体を用いて正極活物質を作製することで、上述の小粒径でタップ密度の高い本発明の実施形態に係る正極活物質を得ることができる。
【0030】
本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池用正極活物質の前駆体は、50%累積体積粒度D50×π(A)と、平均粒子周囲長(B)との比(B)/(A)が0.86~1.06であるのが好ましい。50%累積体積粒度D50×π(A)は、D50から算出される略真円の円周を示している。一方、平均粒子周囲長(B)は前駆体の周囲長を実際に測定して出した平均値を示している。従って、当該比(B)/(A)が0.86~1.06であると、焼成後の正極活物質と固体電解質との接触面積が大きくなり、正極活物質と固体電解質との間のLiイオンの伝導性が良好となる。当該比(B)/(A)は、0.90~1.05であるのがより好ましく、0.95~1.03であるのが更により好ましい。平均粒子周囲長(B)は、例えば、前駆体の粒子をMalvern社製の粒子画像分析装置「Morphologi G3」を用いて画像解析することで、前駆体の平均粒子周囲長を測定することができる。また、当該比(B)/(A)は、前述の測定で得られた前駆体の50%累積体積粒度D50(A)と、当該前駆体の平均粒子周囲長(B)との比(B)/(A)を算出することで得られる。
【0031】
(全固体リチウムイオン電池用正極活物質の前駆体の製造方法)
次に、本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池用正極活物質の前駆体の製造方法について詳述する。本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池用正極活物質の前駆体の製造方法は、まず、(a)ニッケル塩、(b)コバルト塩、(c)マンガン塩、及び、(d)アンモニア水とアルカリ金属との塩基性水溶液、を含有する水溶液を準備する。(a)ニッケル塩としては、硫酸ニッケル、硝酸ニッケルまたは塩酸ニッケル等が挙げられる。(b)コバルト塩としては、硫酸コバルト、硝酸コバルトまたは塩酸コバルト等が挙げられる。(c)マンガン塩としては、硫酸マンガン、硝酸マンガンまたは塩酸マンガン等が挙げられる。(d)アンモニアを含む塩基性水溶液としては、アンモニア水溶液、硫酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、塩酸アンモニウム等が挙げられる。アルカリ金属の塩基性水溶液は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸塩等の水溶液であってもよい。また、当該炭酸塩の水溶液としては、例えば、炭酸ナトリウム水溶液、炭酸カリウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液、炭酸水素カリウム水溶液などの炭酸基の塩を用いた水溶液が挙げられる。
【0032】
また、当該水溶液の組成は、製造する前駆体の組成によって適宜調整することができるが、(a)45~110g/Lのニッケルイオンを含む水溶液、(b)4~20g/Lのコバルトイオンを含む水溶液、(c)1~4g/Lのマンガンイオンを含む水溶液、(d)10~28質量%のアンモニア水、及び、アルカリ金属濃度10~30質量%の塩基性水溶液であることが好ましい。
【0033】
次に、上述の(a)ニッケル塩、(b)コバルト塩、(c)マンガン塩、及び、(d)アンモニア水及びアルカリ金属の塩基性水溶液、を含有する水溶液を反応液とし、反応液中のpHを10.8~11.4、アンモニウムイオン濃度を10~22g/L、液温を55~65℃に制御しながら晶析反応を行う。このとき、ニッケル塩、コバルト塩及びマンガン塩の混合水溶液を入れたタンク、アンモニア水を入れたタンク、及び、アルカリ金属との塩基性水溶液を入れたタンクの3つのタンクから、それぞれ薬液を反応槽に送液してもよい。平均粒子の小さな前駆体水酸化物の共沈反応で析出した微粒子同士は、凝集して粗大粒子が発生するが、共沈反応時の反応液pHを10.8~11.4、アンモニウムイオン濃度を10~22g/L、液温を55~65℃に制御しながら晶析反応を行うことで、上述の、小粒径で、タップ密度が高く、円形度の高い本発明の実施形態に係る、組成式:NixCoyMn1-x-y(OH)2(前記式において、0.8≦x≦0.9、0≦y≦0.16である。)で表される正極活物質の前駆体を製造することができる。
【0034】
(全固体リチウムイオン電池用正極活物質の製造方法)
次に、本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池用正極活物質の製造方法について詳述する。本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池用正極活物質の製造方法は、まず、全固体リチウムイオン電池用正極活物質の前駆体に、リチウム源を、Ni、Co及びMnからなる金属の原子数の和(Men)とリチウムの原子数(Lin)との比(Lin/Men)が1.01~1.03となるように混合して、リチウム混合物を形成する。リチウム源としては、炭酸リチウムまたは水酸化リチウム等が挙げられる。混合方法としては、各原料の混合割合を調整してヘンシェルミキサー、自動乳鉢またはV型混合器等で乾式混合することが好ましい。
【0035】
次に、リチウム混合物を、酸素雰囲気中、450~520℃で2~15時間焼成した後、さらに680~850℃で2~15時間焼成する。その後、必要であれば、焼成体を、例えば、パルベライザー等を用いて解砕することにより正極活物質の粉末を得ることができる。
【0036】
また、正極活物質の表面に被覆層を設ける場合は、以下の方法に示す被覆処理を行うことができる。まず、正極活物質の粉末の表面に、被覆液をコーティングする。このとき、被覆液としては、例えば、被覆層をニオブ酸リチウムで構成する場合は、LiOC2H5とNb(OC2H5)5とを含む溶液等が挙げられる。また、コーティング方法は、転動流動層コーティング装置等の、公知のコーティング装置を用いることができる。このようにして、正極活物質の表面を、ニオブ酸リチウム等によって被覆することができる。
【0037】
(全固体リチウムイオン電池用正極及び全固体リチウムイオン電池)
本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池用正極活物質によって正極を形成し、当該正極を正極層とし、当該正極層と、固体電解質層と、負極層とを含む全固体リチウムイオン電池を作製することができる。本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池を構成する固体電解質層及び負極層は、特に限定されず、公知の材料で形成することができ、
図1に示すような公知の構成とすることができる。
【0038】
リチウムイオン電池の正極層は、本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池用正極活物質と、固体電解質とを混合してなる正極合材を層状に形成したものを用いることができる。正極層における正極活物質の含有量は、例えば、50質量%以上99質量%以下であることが好ましく、60質量%以上90質量%以下であることがより好ましい。
【0039】
正極合材は、さらに導電助剤を含んでもよい。当該導電助剤としては、炭素材料、金属材料、または、これらの混合物を用いることができる。導電助剤は、例えば、炭素、ニッケル、銅、アルミニウム、インジウム、銀、コバルト、マグネシウム、リチウム、クロム、金、ルテニウム、白金、ベリリウム、イリジウム、モリブデン、ニオブ、オスニウム、ロジウム、タングステン及び亜鉛からなる群より選択される少なくとも1種の元素を含んでもよい。導電助剤は、好ましくは、導電性が高い炭素単体、炭素、ニッケル、銅、銀、コバルト、マグネシウム、リチウム、ルテニウム、金、白金、ニオブ、オスニウム又はロジウムを含む金属単体、混合物又は化合物である。炭素材料としては、例えば、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、デンカブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック、黒鉛、炭素繊維、活性炭等を用いることができる。
【0040】
リチウムイオン電池の正極層の平均厚みについては特に限定されず、目的に応じて適宜設計することができる。リチウムイオン電池の正極層の平均厚みは、例えば、1μm~100μmであってもよく、1μm~10μmであってもよい。
【0041】
リチウムイオン電池の正極層の形成方法については特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。リチウムイオン電池の正極層の形成方法としては、例えば、正極活物質粒子を圧縮成形する方法などが挙げられる。
【0042】
リチウムイオン電池の負極層は、公知の全固体リチウムイオン電池用負極活物質を層状に形成したものであってもよい。また、当該負極層は、公知のリチウムイオン電池用負極活物質と、固体電解質とを混合してなる負極合材を層状に形成したものであってもよい。負極層における負極活物質の含有量は、例えば、10質量%以上99質量%以下であることが好ましく、20質量%以上90質量%以下であることがより好ましい。
【0043】
負極層は、正極層と同様に、導電助剤を含んでもよい。当該導電助剤は、正極層において説明した材料と同じ材料を用いることができる。負極活物質としては、例えば、炭素材料、具体的には、人造黒鉛、黒鉛炭素繊維、樹脂焼成炭素、熱分解気相成長炭素、コークス、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、フルフリルアルコール樹脂焼成炭素、ポリアセン、ピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維、天然黒鉛及び難黒鉛化性炭素等、または、その混合物を用いることができる。また、負極材としては、例えば、金属リチウム、金属インジウム、金属アルミ、金属ケイ素等の金属自体や他の元素、化合物と組み合わせた合金を用いることができる。
【0044】
リチウムイオン電池の負極層の平均厚みについては特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。リチウムイオン電池の負極層の平均厚みは、例えば、1μm~100μmであってもよく、1μm~10μmであってもよい。
【0045】
リチウムイオン電池の負極層の形成方法については特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。リチウムイオン電池の負極層の形成方法としては、例えば、負極活物質粒子を圧縮成形する方法、負極活物質を蒸着する方法などが挙げられる。
【0046】
固体電解質は、公知の全固体リチウムイオン電池用固体電解質を用いることができる。固体電解質として、酸化物系固体電解質または硫化物系固体電解質等を用いることができる。
【0047】
酸化物系固体電解質としては、例えば、LiTi2(PO4)3、Li2O-B2O3-P2O5、Li2O-SiO2、Li2O-B2O3、およびLi2O-B2O3-ZnOなどが挙げられる。
【0048】
硫化物系固体電解質としては、例えば、LiI-Li2S-P2S5、LiI-Li2S-B2S3、Li3PO4-Li2S-Si2S、Li3PO4-Li2S-SiS2、LiPO4-Li2S-SiS、LiI-Li2S-P2O5、LiI-Li3PO4-P2S5、Li3PS4、およびLi2S-P2S5などが挙げられる。
【0049】
リチウムとニオブ、タンタル、ケイ素、リンおよびホウ素から選ばれる少なくとも1種の元素とを含むリチウム含有化合物を用いた固体電解質としては、例えば、LiNbO3、あるいはLi1.3Al0.3Ti0.7(PO4)3、Li1+x+yAxTi2-xSiyP3-yO12(A=Al又はGa、0≦x≦0.4、0<y≦0.6)、[(B1/2Li1/2)1-zCz]TiO3(B=La、Pr、Nd、Sm、C=Sr又はBa、0≦x≦0.5)、Li5La3Ta2O12、Li7La3Zr2O12、Li6BaLa2Ta2O12、Li3PO(4-3/2w)Nw(w<1)、およびLi3.6Si0.6P0.4O4など、およびLiI、LiI-Al2O3、LiN3、Li3N-LiI-LiOHなどが挙げられる。
【0050】
リチウムイオン電池の固体電解質層の平均厚みについては特に限定されず、目的に応じて適宜設計することができる。リチウムイオン電池の固体電解質層の平均厚みは、例えば、50μm~500μmであってもよく、50μm~100μmであってもよい。
【0051】
リチウムイオン電池の固体電解質層の形成方法については特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。リチウムイオン電池の固体電解質層の形成方法としては、例えば、固体電解質のターゲット材料を用いたスパッタリング、または、固体電解質を圧縮成形する方法などが挙げられる。
【0052】
リチウムイオン電池を構成するその他の部材については特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、正極集電体、負極集電体、及び、電池ケースなどが挙げられる。
【0053】
正極集電体の大きさ及び構造については特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。
正極集電体の材質としては、例えば、ダイス鋼、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン合金、銅、金、ニッケルなどが挙げられる。
正極集電体の形状としては、例えば、箔状、板状、メッシュ状などが挙げられる。正極集電体の平均厚みとしては、例えば、10μm~500μmであってもよく、50μm~100μmであってもよい。
【0054】
負極集電体の大きさ及び構造については特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。
負極集電体の材質としては、例えば、ダイス鋼、金、インジウム、ニッケル、銅、ステンレス鋼などが挙げられる。
負極集電体の形状としては、例えば、箔状、板状、メッシュ状などが挙げられる。
負極集電体の平均厚みとしては、例えば、10μm~500μmであってもよく、50μm~100μmであってもよい。
【0055】
電池ケースについては特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、従来の全固体電池で使用可能な公知のラミネートフィルムなどが挙げられる。ラミネートフィルムとしては、例えば、樹脂製のラミネートフィルム、樹脂製のラミネートフィルムに金属を蒸着させたフィルムなどが挙げられる。
電池の形状については特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、円筒型、角型、ボタン型、コイン型、扁平型などが挙げられる。
【実施例】
【0056】
以下、本発明及びその利点をより良く理解するための実施例を提供するが、本発明はこれらの実施例に限られるものではない。
【0057】
(実施例1)
まず、Ni:Co:Mn=90:7:3となるように硫酸ニッケル、硫酸コバルト及び硫酸マンガンを所定量秤量して1.5mol/Lの混合金属塩溶液を調製した。
次に、撹拌翼付属の反応槽へ混合金属塩溶液と、アンモニア水と20質量%の水酸化ナトリウム水溶液を反応槽内のpHが10.8、アンモニウムイオン濃度が18.3g/Lになるように反応槽へ送液した。これにより、ニッケル-コバルト-マンガンの複合水酸化化合物を沈殿させた。このとき、反応槽内の温度が60℃で保持されるように、ウォータージャケットにて保温した。
また、反応で生成する共沈物の酸化を防止するために反応槽へ窒素ガスを導入した。反応槽へ導入するガスはヘリウム、ネオン、アルゴン、炭酸ガスなどの酸化を促進しないガスであれば、上記の窒素ガスに限らず使用することができる。
次に、得られた沈殿物を吸引ろ過した後、水洗して、箱型乾燥機を用いて、120℃にて12時間乾燥した。これによって、正極活物質の前駆体を製造した。
次に、正極活物質の前駆体のNi、Co、Mnからなる金属の原子数の和をMeとした場合、リチウム(Li)原子数との比(Li/Me)が1.01となるように水酸化リチウムと正極活物質の前駆体とを混合して、自動乳鉢で30分間混合し、混合粉を得た。次に、混合粉をアルミナこう鉢に充填し、マッフル炉にて、酸素雰囲気下、500℃で4時間焼成した後、720℃まで加熱し、当該温度で8時間保持することで焼成を行い、正極活物質を得た。
【0058】
次に、正極活物質の表面を、LiOC2H5とNb(OC2H5)5を含む溶液で、転動流動層コーティング装置を用いて、LiNbO3を1.0mol%被覆した。その後、LiNbO3で被覆した粉体に対し、300℃で1時間の熱処理を行い、ニオブ酸リチウムが表面に被覆した正極活物質を得た。
【0059】
(実施例2)
Ni:Co:Mn=82:13.5:4.5となるように硫酸ニッケル、硫酸コバルト及び硫酸マンガンを所定量秤量して1.5mol/Lの混合金属塩溶液を調製した。晶析反応条件において、アンモニウムイオン濃度を17.9g/L、pH11.2とした以外は、実施例1と同様にして正極活物質の前駆体を作製した。続いて、焼成条件において、焼成温度を740℃とした以外は、実施例1と同様にして正極活物質を作製した。
【0060】
(実施例3)
Ni:Co:Mn=82:12:6となるように硫酸ニッケル、硫酸コバルト及び硫酸マンガンを所定量秤量して1.5mol/Lの混合金属塩溶液を調製した。晶析反応条件において、アンモニウムイオン濃度を14.6g/L、pH11.2とした以外は、実施例1と同様にして正極活物質の前駆体を作製した。続いて、焼成条件において、焼成温度を740℃とした以外は、実施例1と同様にして正極活物質を作製した。
【0061】
(実施例4)
Ni:Co:Mn=82:15:3となるように硫酸ニッケル、硫酸コバルト及び硫酸マンガンを所定量秤量して1.5mol/Lの混合金属塩溶液を調製した。晶析反応条件において、アンモニウムイオン濃度を14.4g/L、pH11.3とした以外は、実施例1と同様にして正極活物質の前駆体を作製した。続いて、実施例1と同様にして正極活物質を作製した。
【0062】
(実施例5)
晶析反応条件において、反応温度を55℃、アンモニウムイオン濃度を10.8g/L、pH11.4とした以外は、実施例4と同様にして正極活物質の前駆体を作製した。続いて、Li/Meが1.03となるように水酸化リチウムと混合した以外は、実施例1と同様にして正極活物質を作製した。
【0063】
(実施例6)
晶析反応条件において、反応温度を65℃、アンモニウムイオン濃度を21.3g/L、pH11.3とした以外は、実施例4と同様にして正極活物質の前駆体を作製した。続いて、焼成条件において、焼成温度を740℃とした以外は、実施例1と同様にして正極活物質を作製した。
【0064】
(比較例1)
晶析反応条件において、アンモニウムイオン濃度を7.9g/L、pH11.0とした以外は、実施例1と同様にして正極活物質の前駆体を作製した。続いて、実施例1と同様にして正極活物質を作製した。
【0065】
(比較例2)
晶析反応条件において、アンモニウムイオン濃度を20.4g/L、pH11.5とした以外は、実施例4と同様にして正極活物質の前駆体を作製した。続いて、焼成条件において、焼成温度を740℃とした以外は、実施例4と同様にして正極活物質を作製した。
【0066】
(正極活物質の組成)
得られた各正極活物質のサンプル(粉末)を規定量はかり取り、アルカリ溶融法で分解後、日立ハイテク社製の誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-OES)「PS7800」を用いて、組成分析を行った。
【0067】
(50%累積体積粒度D50)
得られた各正極活物質のサンプル(粉末)100mgを、Microtrac社製レーザー回折型粒度分布測定装置「MT3300EXII」を用いて、50%流速中、40Wの超音波を60秒間照射して分散後、粒度分布を測定し、体積基準の累積粒度分布曲線を得た。得られた累積粒度分布曲線において、50%累積時の体積粒度を、正極活物質の粉末の50%累積体積粒度D50とした。
また、各正極活物質の前駆体のサンプル(粉末)についても同様の方法によって、50%累積体積粒度D50を測定した。
【0068】
(タップ密度)
得られた各正極活物質のサンプル(粉末)5gを、10ccのメスシリンダーに投入し、株式会社セイシン企業製の粉体密度測定器「KYT-4000K」に設置し、ストローク長55mmのタップを1500回行った後、メスシリンダーの目盛を読み取った。次に、「サンプル投入量(5g)/メスシリンダーの目盛り読み値(cc)」を算出し、これをタップ密度(g/cc)とした。
また、各正極活物質の前駆体のサンプル(粉末)についても同様の方法によって、タップ密度を測定した。
【0069】
(円形度)
得られた各正極活物質のサンプル(粉末)について、Malvern社製の粒子画像分析装置「Morphologi G3」にて測定した。具体的には、当該粒子画像分析装置にて、取得した2万個以上の粒子の光学画像から、「solidity=0.93」のパラメータを用いてフィルタ処理を行い、円形度を測定した。
当該粒子画像分析装置は、まず、試料(正極活物質)をサンプルカートリッジに投入した後に分散ユニットにセットした。次に、分散ユニットに窒素ガス導入ラインを接続し、窒素ガスを吹き付けることで、試料をガラスプレート上に分散させた。ガラスプレート上の分散された試料を粒子画像の撮影と画像解析とを連続的に行った後、撮影した個々の粒子(18000個以上)の投影面積と周長から、下記の式を用いて、円形度を算出した。なお、円形度の平均値は、測定したすべての正極活物質の粒子の円形度の平均をいう。
【0070】
円形度=4πS/L2・・・(式)
(上記式中、Sは粒子の投影面積であり、Lは粒子投影像の周長であり、πは円周率である。)
【0071】
また、各正極活物質の前駆体のサンプル(粉末)についても同様の方法によって、円形度を測定した。
【0072】
(前駆体の50%累積体積粒度D50×πと平均粒子周囲長との比)
前駆体の粒子をMalvern社製の粒子画像分析装置「Morphologi G3」を用いて画像解析することで、前駆体の平均粒子周囲長を測定した。次に、前述の測定で得られた前駆体の50%累積体積粒度D50(A)と、当該前駆体の平均粒子周囲長(B)との比(B)/(A)を算出した。
また、各正極活物質のサンプル(粉末)についても同様の方法によって、50%累積体積粒度D50×πと平均粒子周囲長との比を測定した。
【0073】
(電池特性)
以下、全固体電池セルの作製はアルゴン雰囲気下のグローブボックス内にて行った。
まず、をそれぞれLiOC2H5とNb(OC2H5)5にて被覆した後に、酸素雰囲気にて400℃で1時間焼成し、ニオブ酸リチウムのアモルファス層にて表面を被覆した正極活物質を作製した。
次に、当該表面を被覆した正極活物質75mgと硫化物固体電解質材料Li3PS425mgとを混合し、正極合材を得た。
また、硫化物固体電解質材料Li3PS480mgを、ペレット成形機を用いて5MPaの圧力でプレスし、固体電解質層を形成した。当該固体電解質層の上に正極合材10mgを投入し、30MPaの圧力でプレスして合材層を作製した。
次に、得られた固体電解質層と正極活物質層との合材層の上下を裏返し、固体電解質層側に、SUS板にLi箔(5mm径×厚み0.1mm)を貼り合わせたものを設け、20MPaの圧力でプレスしてLi負極層とした。これによって、正極活物質層、固体電解質層及びLi負極層がこの順で積層された積層体を作製した。
次に、当該積層体をSUS304製の電池試験セルに入れて拘束圧をかけて全固体二次電池とし、25℃電池初期特性(充電容量、放電容量、充放電特性)を測定した。なお、充放電条件は、充電条件:CC/CV 4.2V、0.1C、放電条件:CC 0.05C、3.0Vまでとした。
上記製造条件及び試験結果を表1及び2に示す。
【0074】
【0075】
【0076】
(評価結果)
実施例1~6に係る正極活物質は、いずれも、組成式:LiaNixCoyMn1-x-yO2(前記式において、1.00≦a≦1.03、0.8≦x≦0.9、0≦y≦0.16である。)を満たし、50%累積体積粒度D50が3.0~7.0μmであり、タップ密度が1.9~2.5g/ccであり、円形度が0.90~0.93であったため、放電容量が良好であった。
比較例1は、タップ密度が1.9~2.5g/ccの範囲外であり、円形度が0.90~0.93の範囲外であったため、放電容量が不良であった。
比較例2は、50%累積体積粒度D50が3.0~7.0μmの範囲外であり、タップ密度が1.9~2.5g/ccの範囲外であり、円形度が0.90~0.93の範囲外であったため、放電容量が不良であった。