(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】レーザ加工装置及びチップの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/301 20060101AFI20241108BHJP
B23K 26/53 20140101ALI20241108BHJP
【FI】
H01L21/78 B
B23K26/53
(21)【出願番号】P 2021550394
(86)(22)【出願日】2020-08-07
(86)【国際出願番号】 JP2020030465
(87)【国際公開番号】W WO2021065207
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2023-08-01
(31)【優先権主張番号】P 2019180676
(32)【優先日】2019-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100156395
【氏名又は名称】荒井 寿王
(72)【発明者】
【氏名】爲本 広昭
(72)【発明者】
【氏名】山本 稔
(72)【発明者】
【氏名】関本 祐介
(72)【発明者】
【氏名】杉尾 良太
(72)【発明者】
【氏名】中村 都美則
【審査官】鈴木 孝章
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-142702(JP,A)
【文献】特開2018-134649(JP,A)
【文献】特開2018-120986(JP,A)
【文献】特開2016-107334(JP,A)
【文献】特開2018-52814(JP,A)
【文献】特開2019-50367(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
B23K 26/53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
C面を主面とするサファイア基板を含む加工対象物にレーザ光を集光することにより、切断予定ラインに沿って前記加工対象物に改質領域を形成するレーザ加工装置であって、
前記レーザ光を出射するレーザ光源と、
前記レーザ光源で出射した前記レーザ光を変調する空間光変調器と、
前記空間光変調器で変調した前記レーザ光を前記加工対象物に集光する集光光学系と、を備え、
前記空間光変調器は、
前記レーザ光の集光位置で発生する球面収差を打ち消すように収差補正した状態を理想集光状態とし、当該理想集光状態での収差補正量を理想収差補正量としたとき、
前記サファイア基板のa軸方向に沿う第1切断予定ラインに沿って前記改質領域を形成する場合には、前記理想収差補正量よりも小さい第1収差補正量で収差補正を行い、
前記サファイア基板のm軸方向に沿う第2切断予定ラインに沿って前記改質領域を形成する場合には、前記理想収差補正量よりも小さく且つ前記第1収差補正量とは異なる第2収差補正量で収差補正を行う、レーザ加工装置。
【請求項2】
前記第1収差補正量は、前記第2収差補正量よりも小さい、請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
前記第1切断予定ラインは、前記加工対象物を厚さ方向から見て、前記加工対象物のオリエンテーションフラットと垂直である、請求項1又は2に記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
前記第2切断予定ラインは、前記加工対象物を厚さ方向から見て、前記加工対象物のオリエンテーションフラットと平行である、請求項1~3の何れか一項に記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
前記加工対象物の表面側には、デバイス層が設けられており、
前記加工対象物の裏面は、前記レーザ光の入射面である、請求項1~4の何れか一項に記載のレーザ加工装置。
【請求項6】
C面を主面とするサファイア基板を含む加工対象物を準備する工程と、
レーザ光源から出射したレーザ光を空間光変調器により変調し、前記空間光変調器により変調した前記レーザ光を集光光学系により前記サファイア基板に集光することで、前記サファイア基板に改質領域を形成する工程と、を備え、
前記空間光変調器による前記レーザ光の変調においては、
前記レーザ光の集光位置で発生する球面収差を打ち消すように収差補正した状態を理想集光状態とし、当該理想集光状態での収差補正量を理想収差補正量としたとき、
前記サファイア基板のa軸方向に沿う第1切断予定ラインに沿って前記改質領域を形成する場合には、前記理想収差補正量よりも小さい第1収差補正量で収差補正を行い、
前記サファイア基板のm軸方向に沿う第2切断予定ラインに沿って前記改質領域を形成する場合には、前記理想収差補正量よりも小さく且つ前記第1収差補正量とは異なる第2収差補正量で収差補正を行う、チップの製造方法。
【請求項7】
前記第1収差補正量は、前記第2収差補正量よりも小さい、請求項6に記載のチップの製造方法。
【請求項8】
前記第1切断予定ラインは、前記加工対象物を厚さ方向から見て、前記加工対象物のオリエンテーションフラットと垂直である、請求項6又は7に記載のチップの製造方法。
【請求項9】
前記第2切断予定ラインは、前記加工対象物を厚さ方向から見て、前記加工対象物のオリエンテーションフラットと平行である、請求項6~8の何れか一項に記載のチップの製造方法。
【請求項10】
前記加工対象物の表面側には、デバイス層が設けられており、
前記加工対象物の裏面は、前記レーザ光の入射面である、請求項6~9の何れか一項に記載のチップの製造方法。
【請求項11】
前記第1切断予定ラインに沿って前記改質領域を形成する場合において、前記レーザ光のパルスエネルギが、9.0μJ以上12.0μJ以下の範囲であり、且つ、前記第1収差補正量が、前記理想収差補正量の25%以上75%以下の範囲である、請求項6~10の何れか一項に記載のチップの製造方法。
【請求項12】
前記第1切断予定ラインに沿って前記改質領域を形成する場合において、前記レーザ光のパルスエネルギが、8.5μJ以上12.0μJ以下の範囲であり、且つ、前記第1収差補正量が、前記理想収差補正量の50%以上62.5%以下の範囲である、請求項6~10の何れか一項に記載のチップの製造方法。
【請求項13】
前記第2切断予定ラインに沿って前記改質領域を形成する場合において、前記レーザ光のパルスエネルギが、8.0μJ以上12.0μJ以下の範囲であり、且つ、前記第2収差補正量が、前記理想収差補正量の75%以上100%未満の範囲である、請求項6~12の何れか一項に記載のチップの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一側面は、レーザ加工装置及びチップの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ加工装置として、加工対象物にレーザ光を集光することに起因して集光位置で発生する球面収差を補正して、加工対象物にレーザ光を集光する装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような技術では、レーザ光のパルスエネルギが大きくなると、加工対象物にダメージが出やすい。よって、近年、レーザ光のパルスエネルギが小さいレーザ加工の実現が期待されている。
【0005】
本発明の一側面は、レーザ光のパルスエネルギが小さいレーザ加工を実現できるレーザ加工装置及びチップの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面に係るレーザ加工装置は、C面を主面とするサファイア基板を含む加工対象物にレーザ光を集光することにより、切断予定ラインに沿って加工対象物に改質領域を形成するレーザ加工装置であって、レーザ光を出射するレーザ光源と、レーザ光源で出射したレーザ光を変調する空間光変調器と、空間光変調器で変調したレーザ光を加工対象物に集光する集光光学系と、を備え、空間光変調器は、レーザ光の集光位置で発生する球面収差を打ち消すように収差補正した状態を理想集光状態とし、当該理想集光状態での収差補正量を理想収差補正量としたとき、サファイア基板のa軸方向に沿う第1切断予定ラインに沿って改質領域を形成する場合には、理想収差補正量よりも小さい第1収差補正量で収差補正を行い、サファイア基板のm軸方向に沿う第2切断予定ラインに沿って改質領域を形成する場合には、理想収差補正量よりも小さく且つ第1収差補正量とは異なる第2収差補正量で収差補正を行う。
【0007】
サファイア基板のa軸方向に沿う第1切断予定ラインに沿って改質領域を形成する場合には、理想収差補正量よりも小さい第1収差補正量で収差補正を行うことで、理想収差補正量で収差補正を行う場合に比べて、サファイア基板の厚さ方向における亀裂の伸展性が向上し、小さいパルスエネルギでも第1切断予定ラインに沿って加工対象物を切断できることが見出される。また、サファイア基板のm軸方向に沿う第2切断予定ラインに沿って改質領域を形成する場合には、理想収差補正量よりも小さく且つ第1収差補正量とは異なる第2収差補正量で収差補正を行うことで、理想収差補正量で収差補正を行う場合に比べて、サファイア基板の厚さ方向における亀裂の伸展性が向上し、小さいパルスエネルギでも第2切断予定ラインに沿って加工対象物を切断できることが見出される。したがって、本発明の一側面によれば、レーザ光のパルスエネルギが小さいレーザ加工を実現することが可能となる。
【0008】
本発明の一側面に係るレーザ加工装置では、第1収差補正量は、第2収差補正量よりも小さくてもよい。この場合、サファイア基板の厚さ方向における亀裂の伸展性が一層向上し、一層小さいパルスエネルギでも加工対象物を切断できることが可能となる。
【0009】
本発明の一側面に係るレーザ加工装置では、第1切断予定ラインは、加工対象物を厚さ方向から見て、加工対象物のオリエンテーションフラットと垂直であってもよい。これにより、加工対象物のオリエンテーションフラットを基準に、レーザ光のパルスエネルギが小さいレーザ加工を実現することが可能となる。
【0010】
本発明の一側面に係るレーザ加工装置では、第2切断予定ラインは、加工対象物を厚さ方向から見て、加工対象物のオリエンテーションフラットと平行であってもよい。これにより、加工対象物のオリエンテーションフラットを基準に、レーザ光のパルスエネルギが小さいレーザ加工を実現することが可能となる。
【0011】
本発明の一側面に係るレーザ加工装置では、加工対象物の表面側には、デバイス層が設けられており、加工対象物の裏面は、レーザ光の入射面であってもよい。この場合には、上述したようにレーザ光のパルスエネルギが小さいレーザ加工を実現できることから、サファイア基板を透過したレーザ光によるデバイス層へのダメージ(いわゆる抜け光ダメージ)が大きくなることを抑制することが可能となる。
【0012】
本発明の一側面に係るチップの製造方法では、C面を主面とするサファイア基板を含む加工対象物を準備する工程と、レーザ光源から出射したレーザ光を空間光変調器により変調し、空間光変調器により変調したレーザ光を集光光学系によりサファイア基板に集光することで、サファイア基板に改質領域を形成する工程と、を備え、空間光変調器によるレーザ光の変調においては、レーザ光の集光位置で発生する球面収差を打ち消すように収差補正した状態を理想集光状態とし、当該理想集光状態での収差補正量を理想収差補正量としたとき、サファイア基板のa軸方向に沿う第1切断予定ラインに沿って改質領域を形成する場合には、理想収差補正量よりも小さい第1収差補正量で収差補正を行い、サファイア基板のm軸方向に沿う第2切断予定ラインに沿って改質領域を形成する場合には、理想収差補正量よりも小さく且つ第1収差補正量とは異なる第2収差補正量で収差補正を行う。
【0013】
本発明の一側面に係るチップの製造方法では、第1収差補正量は、第2収差補正量よりも小さくてもよい。
【0014】
本発明の一側面に係るチップの製造方法では、第1切断予定ラインは、加工対象物を厚さ方向から見て、加工対象物のオリエンテーションフラットと垂直であってもよい。
【0015】
本発明の一側面に係るチップの製造方法では、第2切断予定ラインは、加工対象物を厚さ方向から見て、加工対象物のオリエンテーションフラットと平行であってもよい。
【0016】
本発明の一側面に係るチップの製造方法では、加工対象物の表面側には、デバイス層が設けられており、加工対象物の裏面は、レーザ光の入射面であってもよい。
【0017】
本発明の一側面に係るチップの製造方法では、第1切断予定ラインに沿って改質領域を形成する場合において、レーザ光のパルスエネルギが、9.0μJ以上12.0μJ以下の範囲であり、且つ、第1収差補正量が、理想収差補正量の25%以上75%以下の範囲であってもよい。この場合、チップの製造を歩留まりよく行うことができる。
【0018】
本発明の一側面に係るチップの製造方法では、第1切断予定ラインに沿って改質領域を形成する場合において、レーザ光のパルスエネルギが、8.5μJ以上12.0μJ以下の範囲であり、且つ、第1収差補正量が、理想収差補正量の50%以上62.5%以下の範囲であってもよい。この場合、チップの製造を歩留まりよく行うことができる。
【0019】
本発明の一側面に係るチップの製造方法では、第2切断予定ラインに沿って改質領域を形成する場合において、レーザ光のパルスエネルギが、8.0μJ以上12.0μJ以下の範囲であり、且つ、第2収差補正量が、理想収差補正量の75%以上100%未満の範囲であってもよい。この場合、チップの製造を歩留まりよく行うことができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の一側面によれば、レーザ光のパルスエネルギが小さいレーザ加工を実現できるレーザ加工装置及びチップの製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、実施形態のレーザ加工装置の構成図である。
【
図2】
図2(a)は、加工対象物の平面図である。
図2(b)は、加工対象物の一部の側断面図である。
【
図3】
図3は、オリエンテーションフラットと垂直な第1切断予定ラインに沿ったレーザ加工の評価結果を示すグラフである。
【
図4】
図4は、オリエンテーションフラットと平行な第2切断予定ラインに沿ったレーザ加工の評価結果を示すグラフである。
【
図5】
図5は、オリエンテーションフラットと垂直な第1切断予定ラインに沿ったレーザ加工の評価結果を示すグラフである。
【
図6】
図6(a)は、収差補正無しの集光状態を説明する図である。
図6(b)は、収差補正量が理想収差補正量よりも小さいことにより弱補正の集光状態となっていることを説明する図である。
図6(c)は、理想集光状態を説明する図である。
図6(d)は、収差補正量が理想収差補正量よりも大きいことにより補正過剰の集光状態となっていることを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
[レーザ加工装置の構成]
【0023】
図1に示されるように、レーザ加工装置1は、ステージ2と、レーザ光源3と、空間光変調器4と、集光レンズ(集光光学系)7と、制御部6と、を備えている。レーザ加工装置1は、加工対象物20にレーザ光Lを照射することにより、切断予定ラインに沿って加工対象物20に改質領域12を形成する装置である。以下、第1水平方向をX方向といい、第1水平方向に垂直な第2水平方向をY方向という。また、鉛直方向をZ方向という。
【0024】
ステージ2は、例えば加工対象物20に貼り付けられたフィルムを吸着することにより、加工対象物20を支持する。本実施形態では、ステージ2は、X方向及びY方向のそれぞれに沿って移動可能である。また、ステージ2は、Z方向に沿った軸を中心に回転可能である。レーザ光源3は、例えばパルス発振方式によって、加工対象物20に対して透過性を有するレーザ光Lを出射する。空間光変調器4は、レーザ光源3で出力したレーザ光Lを変調する。空間光変調器4は、例えば反射型液晶(LCOS:Liquid Crystal on Silicon)の空間光変調器(SLM:Spatial Light Modulator)である。集光レンズ7は、空間光変調器4で変調したレーザ光Lを加工対象物20に集光する。
【0025】
ステージ2に支持された加工対象物20の内部にレーザ光Lが集光されると、レーザ光Lの集光点Cに対応する部分においてレーザ光Lが特に吸収され、加工対象物20の内部に改質領域12が形成される。改質領域12は、密度、屈折率、機械的強度、その他の物理的特性が周囲の非改質領域とは異なる領域である。改質領域12としては、例えば、溶融処理領域、クラック領域、絶縁破壊領域、屈折率変化領域等がある。
【0026】
一例として、加工対象物20に対してレーザ光Lを照射しながら、ステージ2をX方向に沿って移動させ、加工対象物20に対して集光点CをX方向に沿って相対的に移動させると、複数の改質スポット13がX方向に沿って1列に並ぶように形成される。1つの改質スポット13は、1パルスのレーザ光Lの照射によって形成される。1列の改質領域12は、1列に並んだ複数の改質スポット13の集合である。隣り合う改質スポット13は、加工対象物20に対する集光点Cの相対的な移動速度及びレーザ光Lの繰り返し周波数によって、互いに繋がる場合も、互いに離れる場合もある。
【0027】
制御部6は、ステージ2、レーザ光源3、空間光変調器4及び集光レンズ7を制御する。制御部6は、プロセッサ、メモリ、ストレージ及び通信デバイス等を含むコンピュータ装置として構成されている。制御部6では、メモリ等に読み込まれたソフトウェア(プログラム)が、プロセッサによって実行され、メモリ及びストレージにおけるデータの読み出し及び書き込み、並びに、通信デバイスによる通信が、プロセッサによって制御される。これにより、制御部6は、各種機能を実現する。
【0028】
図2(a)及び
図2(b)に示されるように、加工対象物20は、C面を主面(表面11a及び裏面11b)とするサファイア基板11と、サファイア基板11の表面11a(一方の主面)に形成された複数の機能素子15と、を備える。加工対象物20は、円板状を呈する。加工対象物20には、オリエンテーションフラット25が形成されている。オリエンテーションフラット25は、加工対象物20の外周面の一部に形成された平面である。オリエンテーションフラット25は、加工対象物20の側面の一部を構成する。
【0029】
サファイア基板11は、六方晶系の材料であるサファイアで形成された円板状(板状)の基板である。C面は、(0001)面である。機能素子15は、フォトダイオード等の受光素子やレーザダイオード、発光ダイオード等の発光素子、或いは回路として形成された回路素子等である。複数の機能素子15は、サファイア基板11の表面11a上にマトリックス状に配列されている。このように、加工対象物20は、その表面21側に、複数の機能素子15を含むデバイス層16が設けられたものである。なお、加工対象物20及びサファイア基板11の形状は、特に限定されない。
【0030】
レーザ加工装置1において実施されるレーザ加工方法は、加工対象物20を機能素子15ごとに切断することにより複数のチップを製造するチップの製造方法として用いられる。そのため、レーザ加工装置1では、加工対象物20に対して、隣り合う機能素子15の間のストリート領域17を通るように(加工対象物20の厚さ方向(Z方向)から見た場合に、ストリート領域17の幅の中を通るように)複数の切断予定ライン5が格子状に設定される。へき開性を有するa軸に沿って割断する場合には、斜めに割れる量(へき開量)を考慮し、レーザ光Lの照射位置を意図的にずらして(オフセットして)、レーザ照射してもよい。オフセットすることにより、サファイア基板11の亀裂がストリート領域17からはみ出して、機能素子15となる領域の内部に及ぶことを抑制することができる。そして、サファイア基板11の裏面11bでもある加工対象物20の裏面22から入射させられたレーザ光Lが集光され、各切断予定ライン5に沿って加工対象物20に改質領域12が形成される。裏面22は、レーザ光Lの入射面を構成する。切断予定ライン5は、仮想的なラインであるが、実際に引かれたラインであってもよい。切断予定ライン5は、座標指定されたものであってもよい。
【0031】
空間光変調器4は、レーザ光Lが入射される液晶層(表示部)を有する。空間光変調器4は、改質領域12を形成する際、液晶層に所定の変調パターンを表示させてレーザ光Lを変調することで、収差補正を実行する。表示させる変調パターンは、例えば、改質領域12の形成を予定する深さ位置(Z方向の位置)、レーザ光Lの波長、加工対象物20の材料、並びに、集光レンズ7及び加工対象物20の屈折率等の少なくとも何れかに基づいて、予め導出されて記憶されている。空間光変調器4における変調パターンの表示等の動作は、制御部6により制御される。
【0032】
変調パターンは、球面収差を軽減する球面収差補正パターンを含む。球面収差は、レーザ光Lを構成する各光線が、1点に収束せずにばらつく(ボケる)現象である。球面収差は、レーザ光Lの集光領域(レーザ光Lを構成する各光線が集光される領域)をZ方向に長尺化させてしまう。なお、球面収差補正パターンに加えて、変調パターンは、加工点を分岐させるパターン、及び、レーザ加工装置1に生じる個体差を補正するための個体差補正パターン等の少なくとも何れかを含んでいてもよい。
【0033】
空間光変調器4は、複数の切断予定ライン5のうちの第1切断予定ライン5aに沿って改質領域12を形成する場合には、理想集光状態での理想収差補正量よりも小さい第1収差補正量で収差補正を行う。空間光変調器4は、複数の切断予定ライン5のうちの第2切断予定ライン5bに沿って改質領域12を形成する場合には、理想集光状態での理想収差補正量よりも小さく且つ第1収差補正量とは異なる第2収差補正量で収差補正を行う。
【0034】
理想集光状態とは、レーザ光Lの集光位置で発生する球面収差を打ち消すように収差補正した状態であって、媒質がないと仮定した場合の集光状態に近くなるまで収差が軽減された集光状態のことである。理想収差補正量とは、媒質中での理想集光状態になる収差補正量である。レーザ光Lの集光位置は、技術常識により特定することができる。例えばレーザ光Lの集光位置は、
図1の集光点Cの位置に対応する。例えばレーザ光Lの集光位置は、レーザ光Lの集光領域の中心付近の位置に対応する。
【0035】
第1切断予定ライン5aは、サファイア基板11のa軸方向に沿うラインである。第1切断予定ライン5aは、Z方向から見て、加工対象物20のオリエンテーションフラット25と垂直である。第2切断予定ライン5bは、サファイア基板11のm軸方向に沿うラインである。第2切断予定ライン5bは、Z方向から見て、加工対象物20のオリエンテーションフラット25と平行である。第1収差補正量は、第2収差補正量よりも小さい。m軸は、m面に垂直な軸である。a軸は、a面に垂直な軸である。
【0036】
図3は、オリエンテーションフラット25と垂直な第1切断予定ライン5aに沿ったレーザ加工の評価結果を示すグラフである。加工条件としては、レーザ光Lの波長を1030nm、パルス幅を6ps、パルスエネルギを9.5μJ、デフォーカス40μm、スキャン速度を400mm/s、繰り返し周波数を50kHzとした。このとき、走査速度と繰り返し周波数とより算出されるパルスピッチは、8μmである。レーザ光Lの入射面は裏面22である。このときの理想収差補正量をH0とする。スキャン速度は、切断予定ライン5に沿って走査するレーザ光Lの相対速度である。デフォーカスとは、対物レンズと加工対象媒質入射面の距離について、加工用レーザ集光点を加工対象媒質入射表面で最も集光した時を基準にどれくらい近づけたかを距離で表したものである(以下、同じ)。
【0037】
a軸方向に沿う第1切断予定ライン5aの加工条件としては、パルス幅を0.1ps~10ps、パルスエネルギを8.5μJ~12μJ、デフォーカス量を32μm~50μmとしてもよい。繰り返し周波数と走査速度から決まるパルスピッチは、5μm~10μmとしてもよい。
【0038】
横軸は、収差補正量である。ここでの収差補正量は、理想収差補正量H0を100%とし、収差補正を行わない場合を0%としている(以下、同じ)。なお、収差補正量の表現(単位)は特に限定されない。収差補正量が理想収差補正量H0よりも大きいと、補正過剰とされる。収差補正量が理想収差補正量H0よりも小さいと、弱補正とされる。縦軸は、亀裂伸展率の軸を含む。例えば、Z方向から見て、加工対象物20の所定領域(例えば全域)にレーザ加工を施した場合には、「亀裂伸展率」は、「改質領域12からの亀裂が十分に伸展していると評価できる領域」/「レーザ加工を施した所定領域」である(下記参照)。改質領域12からの亀裂が十分に伸展しているか否かの評価は、種々の評価方法により実施できる。例えば、改質領域12から伸展する亀裂がサファイア基板11の表面11a及び裏面11bの両方に到達している場合について改質領域12からの亀裂が十分に伸展していると評価できる。亀裂伸展率が100%に近いほど、Z方向における改質領域12からの亀裂の伸展が良好である。亀裂伸展率が0%に近いほど、Z方向における改質領域12からの亀裂の伸展が悪い。亀裂伸展率は、目視により確認することも可能である。グラフ中の折れ線が、亀裂伸展率である。また、縦軸は、へき開量を含む。へき開量とは、a軸方向に沿うレーザ加工により形成される改質領域12から伸展する亀裂のm軸方向に沿う長さである。
亀裂伸展率=Z方向視における改質領域12からの亀裂が十分に伸展していると評価できる領域/Z方向視における加工対象物20にレーザ加工を施した所定領域
【0039】
図6(a)は、収差補正無しの集光状態を説明する図である。
図6(b)は、収差補正量が理想収差補正量よりも小さいことにより弱補正の集光状態となっていることを説明する図である。
図6(c)は、理想集光状態を説明する図である。
図6(d)は、収差補正量が理想収差補正量よりも大きいことにより補正過剰の集光状態となっていることを説明する図である。
図6(a)~
図6(d)は、サファイアで形成された加工対象物20に空気中からレーザ光Lを照射したときの当該加工対象物20の側断面図に対応する。
【0040】
図6(a)に示されるように、収差補正を行わない場合の集光状態では、例えば、レーザ光Lの外側の光線の集光点についての加工対象物20の表面からの距離Z2が、レーザ光Lの内側の光線の集光点についての加工対象物20の表面からの距離Z1よりも大きくなる。この場合、距離Z1,Z2に差ΔZが生じる。
図6(b)に示されるように、弱補正の集光状態では、例えば距離Z2が距離Z1よりも未だ大きく、距離Z1,Z2に差ΔZが生じる。
図6(c)に示されるように、理想集光状態では、例えば距離Z1,Z2等しくなり、距離Z1,Z2に差ΔZが生じない。
図6(d)に示されるように、補正過剰の集光状態では、例えば距離Z2が距離Z1よりも小さくなり、距離Z1,Z2に差ΔZが生じる。
【0041】
図3に示されるように、第1切断予定ライン5aに沿って改質領域12を形成する場合には、次の知見が見出される。すなわち、収差補正量を理想収差補正量よりも小さくする(弱補正側にする)ことで、亀裂伸展率を高められる。収差補正量が37.5%以上75%未満の範囲F1で、亀裂伸展率が良化する傾向にある。範囲F1において、へき開量は約20~約30μmの範囲であった。範囲F1は、
図4の範囲F2よりも広い。範囲F1は、
図4の範囲F2よりも弱補正側の範囲である。収差補正量が理想収差補正量よりも大きくなる(補正過剰になる)と、亀裂伸展率が極端に悪化する。収差補正量が理想収差補正量よりも大きくなると、亀裂の蛇行及びへき開量が増加してしまう。
【0042】
a軸方向に沿う第1切断予定ライン5aのレーザ加工におけるパルスエネルギの範囲は、加工対象物20をチップに切断する際の歩留り向上のため、亀裂伸展率が50%以上になるような範囲としてもよい。パルスエネルギを高く設定し過ぎると、機能素子15にダメージが生じ、特性の悪化を招く可能性がある。また、パルスエネルギを高く設定し過ぎると、改質領域12が大きくなり、改質領域12同士が影響し合うことで、却って亀裂伸展性を悪化させる可能性がある。従って、a軸方向に沿う第1切断予定ライン5aの加工においては、パルスエネルギは上述した8.5μJ以上12.0μJ以下の範囲に設定してもよい。パルスエネルギを上述した8.5μJ以上12.0μJ以下の範囲に設定とすることにより、亀裂伸展率が50%以上の良好な亀裂の伸展とすることができ、且つ、機能素子15のダメージを抑制することが可能である。
【0043】
図4は、オリエンテーションフラット25と平行な第2切断予定ライン5bに沿ったレーザ加工の評価結果を示すグラフである。加工条件としては、レーザ光Lの波長を1030nm、パルス幅を6ps、パルスエネルギを8.0μJ、スキャン速度を400m/s、デフォーカス40μmとした。レーザ光Lの入射面は裏面22である。このときの理想収差補正量をH0とする。横軸は、収差補正量である。縦軸は、亀裂伸展率の軸及び斜裂開量の軸を含む。グラフ中の折れ線が、亀裂伸展率である。斜裂開量とは、m軸方向に沿うレーザ加工によって形成される改質領域12から伸展する亀裂のa軸方向に沿う長さである。斜裂開量はサファイア基板11の特性上、へき開量よりも小さい値になりやすい。従って、m軸方向に沿う亀裂はa軸方向に沿う亀裂よりも伸展しやすい。m軸方向に沿うレーザ加工のパルスエネルギは、切断位置をストリート領域17内に収めやすくするために、斜裂開量が3.0μm以内となる範囲に設定してもよい。
【0044】
m軸方向に沿う第2切断予定ライン5bの加工条件としては、パルス幅を0.1ps~10ps、パルスエネルギを8.0μJ~12μJ、デフォーカス量を30μm~50μmとしてもよい。繰り返し周波数と走査速度とから決まるパルスピッチは、5μm~10μmとしてもよい。
【0045】
m軸方向に沿う第2切断予定ライン5bの加工におけるパルスエネルギの範囲は、加工対象物20をチップに切断する際の歩留り向上のため、亀裂伸展率が50%以上になるような範囲としてもよい。パルスエネルギを高く設定し過ぎると、機能素子15にダメージが生じ、特性の悪化を招く可能性がある。また、パルスエネルギを高く設定し過ぎると、改質領域12が大きくなり、改質領域12同士が影響し合うことで、却って亀裂伸展性を悪化させる可能性がある。従って、m軸方向に沿う第2切断予定ライン5bの加工においては、パルスエネルギは上述した8.0μJ以上12.0μJ以下の範囲に設定してもよい。パルスエネルギを上述した8.0μJ~12.0μJの範囲に設定とすることにより、亀裂伸展率が50%以上の良好な亀裂の伸展とすることができ、かつ、機能素子15のダメージを抑制することが可能である。ここで、m軸方向の亀裂は、a軸方向の亀裂と比較して、低いパルスエネルギで伸展しやすい。従って、m軸方向に沿う第2切断予定ライン5bの加工におけるパルスエネルギは、a軸方向に沿うレーザ加工のパルスエネルギの範囲(8.5μJ以上12.0μJ以下)よりも広い、8.0μJ以上12.0μJ以下の範囲に設定することができる。さらに、m軸方向に沿う第2切断予定ライン5bの加工におけるパルスエネルギが、8.0μJ以上12.0μJ以下の範囲においては、斜裂開量が3.0μm以内の範囲となるので、切断位置が、ストリート領域17内に収まりやすくなる。
【0046】
図4に示されるように、第2切断予定ライン5bに沿って改質領域12を形成する場合には、次の知見が見出される。すなわち、収差補正量を理想収差補正量よりも小さくする(弱補正側にする)ことで、亀裂伸展率を高められる。収差補正量が75%以上100未満の範囲F2で、亀裂伸展率が良化する傾向にある。収差補正量が87.5%のとき、亀裂伸展率が極大点を有する傾向がある。斜裂開量は、収差補正量を理想収差補正量よりも小さくしても問題ない。
【0047】
図5は、オリエンテーションフラット25と垂直な第1切断予定ライン5aに沿ったレーザ加工の評価結果を示すグラフである。
図5の評価結果の加工条件は、
図3の評価結果の加工条件に対して、レーザ光Lのパルスエネルギを低下させ、9.0μJ,8.5μJ,8.0μJとしている。グラフ中の折れ線が、亀裂伸展率である。グラフ中のO1がパルスエネルギを9.0μJとしたときの亀裂伸展率の結果であり、グラフ中のO2がパルスエネルギを8.5μJとしたときの亀裂伸展率の結果であり、グラフ中のO3がパルスエネルギを8.0μJとしたときの亀裂伸展率の結果である。
【0048】
図5に示されるように、第1切断予定ライン5aに沿って改質領域12を形成する場合には、次の知見がさらに見出される。すなわち、レーザ光Lのパルスエネルギを低下させると、亀裂伸展率の極大点が顕著となる。レーザ光Lのパルスエネルギを低下させると、収差補正量が50%以上62.5%未満の範囲F3で、亀裂伸展率が極大点を有する。範囲F3は、
図4の範囲F2よりも弱補正側の範囲である。範囲F3は、
図3の範囲F1よりも狭い。
【0049】
本実施形態のチップの製造方法は、加工対象物20を切断してチップを得る方法であって、上述したレーザ加工装置1を用いて実施される。すなわち、本実施形態のチップの製造方法は、加工対象物20を準備する工程と、レーザ光源3から出射したレーザ光Lを空間光変調器4により変調し、空間光変調器4により変調したレーザ光Lを集光レンズ7によりサファイア基板11に集光することで、サファイア基板11に改質領域12を形成する工程と、を備える。空間光変調器4によるレーザ光Lの変調では、第1切断予定ライン5aに沿って改質領域12を形成する場合には、理想収差補正量よりも小さい第1収差補正量で収差補正を行う一方、第2切断予定ライン5bに沿って改質領域12を形成する場合には、理想収差補正量よりも小さく且つ第1収差補正量とは異なる第2収差補正量で収差補正を行う。
【0050】
ここで、レーザ光Lのパルスエネルギを低下させると、亀裂伸展率の極大点が顕著となる知見から、レーザ光Lのパルスエネルギを増加させると、亀裂伸展率が極大値を有する第1収差補正量の範囲が大きくなると考えられる。従って、亀裂伸展率が50%以上を示す第1収差補正量の範囲においても、レーザ光Lのパルスエネルギを増加させると大きくなると考えられる。つまり、
図5に示される、レーザ光Lのパルスエネルギが9.0μJの場合における、亀裂伸展率が50%以上を示す第1収差補正量の範囲が、少なくとも理想収差補正量の25%以上75%以下の範囲であるという結果は、レーザ光Lのパルスエネルギが、9.0μJ以上の場合においても当てはまると考えられる。ただし、上述したように、パルスエネルギが高すぎると、却って亀裂伸展性に悪影響を及ぼす可能性があるため、レーザ光Lのパルスエネルギの上限は12.0μJであってもよい。つまり、a軸方向に沿う第1切断予定ライン5aに沿って改質領域12を形成する場合、レーザ光Lのパルスエネルギが、9.0μJ以上12.0μJ以下の範囲であり、且つ、第1収差補正量が、理想収差補正量の25%以上75%以下の範囲とすることで、亀裂伸展率が50%以上の良好な亀裂の伸展とすることができる。
【0051】
また、
図5に示される、レーザ光Lのパルスエネルギが8.5μJの場合における、亀裂伸展率が50%以上を示す第1収差補正量の範囲が、50%以上62.5%以下であるという結果は、レーザ光Lのパルスエネルギが、8.5μJ以上の場合においても当てはまると考えられる。ただし、上述したように、レーザ光Lのパルスエネルギの上限は12.0μJであってもよい。つまり、a軸方向に沿う第1切断予定ライン5aに沿って改質領域12を形成する場合、レーザ光Lのパルスエネルギが、8.5μJ以上12.0μJ以下の範囲であり、且つ、第1収差補正量が、理想収差補正量の50%以上62.5%以下の範囲とすることで、亀裂伸展率が50%以上の良好な亀裂の伸展とすることができる。
【0052】
また、
図4に示される、レーザ光Lのパルスエネルギが8.0μJの場合における、亀裂伸展率が50%以上を示す第2収差補正量の範囲が、75%以上100%以下であるという結果は、レーザ光Lのパルスエネルギが、8.0μJ以上の場合においても当てはまると考えられる。ただし、上述したように、レーザ光Lのパルスエネルギの上限は12.0μJであってもよい。つまり、m軸方向に沿う第2切断予定ライン5bに沿って改質領域12を形成する場合、レーザ光Lのパルスエネルギが、8.0μJ以上12.0μJ以下の範囲であり、且つ、第2収差補正量が、理想収差補正量の75%以上100%以下の範囲とすることで、亀裂伸展率が50%以上の良好な亀裂の伸展とすることができる。
【0053】
以上、レーザ加工においては、
図3、
図4及び
図5に示されるように、サファイア基板11のa軸方向に沿う第1切断予定ライン5aに沿って改質領域12を形成する場合には、理想収差補正量よりも小さい第1収差補正量で収差補正を行うことで、理想収差補正量で収差補正を行う場合に比べて、Z方向における亀裂の伸展性が向上することが見出される。この場合、小さいパルスエネルギでも当該第1切断予定ラインに沿って加工対象物20を切断できることが見出される。また、サファイア基板11のm軸方向に沿う第2切断予定ライン5bに沿って改質領域12を形成する場合には、理想収差補正量よりも小さく且つ第1収差補正量とは異なる第2収差補正量で収差補正を行うことで、理想収差補正量で収差補正を行う場合に比べて、Z方向における亀裂の伸展性が向上することが見出される。この場合、小さいパルスエネルギでも当該第2切断予定ラインに沿って加工対象物20を切断できることが見出される。
【0054】
この点、レーザ加工装置1及びチップの製造方法では、第1切断予定ライン5aに沿って改質領域12を形成する際には第1収差補正量で収差補正を行い、第2切断予定ライン5bに沿って改質領域12を形成する際には第2収差補正量で収差補正を行う。したがって、亀裂の伸展性を向上することができ、レーザ光Lのパルスエネルギが小さいレーザ加工を実現することが可能となる。その結果、加工対象物20に与えるダメージを抑制することができる。加工対象物20が厚い場合でも、パルスエネルギの増大を抑制してダメージ抑制しつつ、当該加工対象物20を精度よく切断することが可能となる。
【0055】
レーザ加工装置1及びチップの製造方法では、第1収差補正量は、第2収差補正量よりも小さい。この場合、上述した知見にあるように、亀裂の伸展性を一層向上させ、一層小さいパルスエネルギでも加工対象物20を切断することが可能となる。サファイア基板11のa軸方向に沿う第1切断予定ライン5aと、サファイア基板11のm軸方向に沿う第2切断予定ライン5bと、のそれぞれにおいて、サファイア基板11の厚さ方向に複数列の改質領域12を形成する場合、サファイア基板11の厚さ方向の全ての第1収差補正量は、サファイア基板11の厚さ方向の全ての第2収差補正量よりも小さくてもよい。つまり、第1切断予定ライン5aに沿って複数列の改質領域12を形成する際における全ての第1収差補正量は、第2切断予定ライン5bに沿って複数列の改質領域12を形成する際における全ての第2収差補正量よりも小さくてもよい。
【0056】
レーザ加工装置1及びチップの製造方法では、第1切断予定ライン5aは、Z方向から見て、オリエンテーションフラット25と垂直である。これにより、オリエンテーションフラット25を基準に、パルスエネルギが小さいレーザ加工を実現することが可能となる。
【0057】
レーザ加工装置1及びチップの製造方法では、第2切断予定ライン5bは、Z方向から見て、オリエンテーションフラット25と平行である。これにより、オリエンテーションフラット25を基準に、パルスエネルギが小さいレーザ加工を実現することが可能となる。
【0058】
レーザ加工装置1及びチップの製造方法では、加工対象物20の表面21側には、デバイス層16が設けられており、加工対象物の裏面22がレーザ光Lの入射面である。この場合において、上述したようにレーザ光Lのパルスエネルギが小さいレーザ加工を実現できるために、サファイア基板11を透過したレーザ光Lによるデバイス層16へのダメージ(いわゆる抜け光ダメージ)が大きくなるのを抑制することが可能となる。
【0059】
チップの製造方法では、第1切断予定ライン5aに沿って改質領域12を形成する場合において、レーザ光Lのパルスエネルギが、9.0μJ以上12.0μJ以下の範囲であり、且つ、第1収差補正量が、理想収差補正量の25%以上75%以下の範囲である。この場合、亀裂伸展率を50%以上の範囲とし、チップの製造(加工対象物20の割断)を歩留まりよく行うことができる。
【0060】
チップの製造方法では、第1切断予定ライン5aに沿って改質領域12を形成する場合において、レーザ光Lのパルスエネルギが、8.5μJ以上12.0μJ以下の範囲であり、且つ、第1収差補正量が、理想収差補正量の50%以上62.5%以下の範囲であってもよい。この場合、亀裂伸展率を50%以上の範囲とし、チップの製造を歩留まりよく行うことができる。
【0061】
チップの製造方法では、第2切断予定ライン5bに沿って改質領域12を形成する場合において、レーザ光Lのパルスエネルギが、8.0μJ以上12.0μJ以下の範囲であり、且つ、第2収差補正量が、理想収差補正量の75%以上100%未満の範囲であってもよい。この場合、亀裂伸展率を50%以上の範囲とし、チップの製造を歩留まりよく行うことができる。また、斜裂開量の範囲を、3μm以下の範囲とすることができる。
【0062】
以上、実施形態を説明したが、本発明の一態様は、上述した実施形態に限定されない。
【0063】
本発明の一態様では、ステージ2を移動させることで、加工対象物20に対してレーザ光Lを相対的に移動させたが、これに代えてもしくは加えて、集光レンズ7を移動させることで、加工対象物20に対してレーザ光Lを相対的に移動させてもよい。本発明の一態様では、加工対象物20の裏面22をレーザ光Lの入射面としたが、加工対象物20の表面21をレーザ光Lの入射面としてもよい。本発明の一態様において、「a軸方向及びm軸方向に沿うこと」、「平行」並びに「垂直」は、誤差を含んでいてもよく、実質的にa軸方向及びm軸方向に沿えばよいし、実質的に平行であればよいし、実質的に垂直であればよい。
【0064】
本発明の一態様は、レーザ加工装置、レーザ加工方法、半導体部材製造装置、又は半導体部材製造方法として捉えることができる。上述した実施形態及び変形例における各構成には、上述した材料及び形状に限定されず、様々な材料及び形状を適用することができる。また、上述した実施形態又は変形例における各構成は、他の実施形態又は変形例における各構成に任意に適用することができる。
【符号の説明】
【0065】
1…レーザ加工装置、3…レーザ光源、4…空間光変調器、5…切断予定ライン、5a…第1切断予定ライン、5b…第2切断予定ライン、7…集光レンズ(集光光学系)、11…サファイア基板、11a…表面(主面)、11b…裏面(主面)、12…改質領域、16…デバイス層、20…加工対象物、22…裏面、25…オリエンテーションフラット、L…レーザ光。