(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】電気化学デバイス用炭素質材料およびその製造方法、電気化学デバイス用負極、電気化学デバイス
(51)【国際特許分類】
H01M 4/587 20100101AFI20241108BHJP
C01B 32/05 20170101ALI20241108BHJP
【FI】
H01M4/587
C01B32/05
(21)【出願番号】P 2021551666
(86)(22)【出願日】2020-10-06
(86)【国際出願番号】 JP2020037889
(87)【国際公開番号】W WO2021070825
(87)【国際公開日】2021-04-15
【審査請求日】2023-04-26
(31)【優先権主張番号】P 2019186982
(32)【優先日】2019-10-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【氏名又は名称】森住 憲一
(74)【代理人】
【識別番号】100162710
【氏名又は名称】梶田 真理奈
(72)【発明者】
【氏名】有馬 淳一
(72)【発明者】
【氏名】弘田 恭幸
(72)【発明者】
【氏名】山端 昭典
(72)【発明者】
【氏名】奥野 壮敏
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-269961(JP,A)
【文献】国際公開第2017/073687(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/022486(WO,A1)
【文献】特開2014-089887(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01G11/00-11/86
C01B32/00-32/9919
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
BET法により測定される比表面積が23m
2/g以下であり、かつ、パウダーレオメーターにより測定される通気時流動エネルギー(AE)が40mJ以上210mJ以下である、
非水電解質二次電池の負極用炭素質材料。
【請求項2】
レーザー散乱法により測定される粒度分布において微粒側からの累積容積が50%となる平均粒子径D
50が1μm以上50μm以下であり、かつ、微粒側からの累積体積が10%となる粒子径D
10と平均粒子径D
50による粒度分布指数D
50/D
10が1.9以上である、請求項1に記載の炭素質材料。
【請求項3】
広角X線回折法によるBragg式を用いて算出される(002)面の平均面間隔d
002が0.36nm以上である、請求項1または2に記載の炭素質材料。
【請求項4】
炭素質材料が植物由来である、請求項1~3のいずれかに記載の炭素質材料。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の炭素質材料を含む、
非水電解質二次電池用負極。
【請求項6】
請求項5に記載の
非水電解質二次電池用負極を含む、
非水電解質二次電池。
【請求項7】
炭素前駆体または炭素前駆体の焼成物に一次粉砕を施す工程、
一次粉砕後の炭素前駆体または炭素前駆体の焼成物を分級する工程、および、
分級後の炭素前駆体または炭素前駆体の焼成物に二次粉砕を施す工程、並びに、
炭素前駆体を焼成する工程
を含む、
請求項1~4のいずれかに記載の炭素質材料の製造方法。
【請求項8】
一次粉砕工程において、平均粒子径D
50が2.7μm以上300μm以下となるよう炭素前駆体または炭素前駆体の焼成物を粉砕する、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
分級工程において、1μm以下の粒子径を有する粒子の含有率が6体積%以下となるよう一次粉砕後の炭素前駆体または炭素前駆体の焼成物を分級する、請求項7または8に記載の炭素質材料の製造方法。
【請求項10】
二次粉砕工程において、平均粒子径D
50が1μm以上50μm以下であり、かつ、累積体積が10%となる粒子径D
10と平均粒子径D
50による粒度分布指数D
50/D
10が1.9以上になるよう分級後の炭素前駆体または炭素前駆体の焼成物を粉砕する、請求項7~9のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学デバイス用炭素質材料およびその製造方法、並びに、前記電気化学デバイス用炭素質材料を含む電気化学デバイス用負極および電気化学デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パソコンのような小型携帯端末や電気自動車およびハイブリット自動車等の普及に伴い、種々の電気化学デバイスが開発されている。中でも、リチウムイオン二次電池に代表される炭素質材料を負極として用いた非水電解質二次電池の利用が広がっており、車載用途などに向けて小型・軽量化が進む一方、エネルギー密度の向上が求められている。例えば、特許文献1には、電極密度が高く、入出力特性およびサイクル特性に優れる非水電解質二次電池に用い得る炭素質材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のように炭素質材料の粒子径を小さくすると比表面積が大きくなるため、このような炭素質材料を電極に適用した非水電解質二次電池は不可逆容量が増加しやすく、充放電効率が低下することにより、エネルギー密度の十分な向上には至らなかった。このため、高い電極密度は確保したまま、不可逆容量の小さい電気化学デバイス用電極を得るのに適した炭素質材料の開発が必要とされている。
【0005】
上記課題に鑑み、本発明は、不可逆容量の増加を抑制しながら高い電極密度を確保して、高容量化した電気化学デバイスの電極材料として好適な炭素質材料およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために炭素質材料について詳細に検討を重ねた結果、不可逆容量の増加を抑制しながら高い電極密度を確保するためには、炭素質材料の粒子径の制御に加え、粒度分布、個々の粒子の形状、凝集性、流動性等種々の要素が複合的に関与し、それらがバランスよく制御されていることが重要となり、これらの要素を複合的に反映する指標を見出すことで、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の好適な態様を包含する。
[1]BET法により測定される比表面積が23m2/g以下であり、かつ、パウダーレオメーターにより測定される通気時流動エネルギー(AE)が40mJ以上210mJ以下である、電気化学デバイス用炭素質材料。
[2]レーザー散乱法により測定される粒度分布において微粒側からの累積容積が50%となる平均粒子径D50が1μm以上50μm以下であり、かつ、微粒側からの累積体積が10%となる粒子径D10と平均粒子径D50による粒度分布指数D50/D10が1.9以上である、前記[1]に記載の炭素質材料。
[3]広角X線回折法によるBragg式を用いて算出される(002)面の平均面間隔d002が0.36nm以上である、前記[1]または[2]に記載の炭素質材料。
[4]炭素質材料が植物由来である、前記[1]~[3]のいずれかに記載の炭素質材料。
[5]前記[1]~[4]のいずれかに記載の炭素質材料を含む、電気化学デバイス用負極。
[6]前記[5]に記載の電気化学デバイス用負極を含む、電気化学デバイス。
[7]炭素前駆体または炭素前駆体の焼成物に一次粉砕を施す工程、
一次粉砕後の炭素前駆体または炭素前駆体の焼成物を分級する工程、および、
分級後の炭素前駆体または炭素前駆体の焼成物に二次粉砕を施す工程、並びに、
炭素前駆体を焼成する工程
を含む、炭素質材料の製造方法。
[8]一次粉砕工程において、平均粒子径D50が2.7μm以上300μm以下となるよう炭素前駆体または炭素前駆体の焼成物を粉砕する、前記[7]に記載の製造方法。
[9]分級工程において、1μm以下の粒子径を有する粒子の含有率が6体積%以下となるよう一次粉砕後の炭素前駆体または炭素前駆体の焼成物を分級する、前記[7]または[8]に記載の炭素質材料の製造方法。
[10]二次粉砕工程において、平均粒子径D50が1μm以上50μm以下であり、かつ、累積体積が10%となる粒子径D10と平均粒子径D50による粒度分布指数D50/D10が1.9以上になるよう分級後の炭素前駆体または炭素前駆体の焼成物を粉砕する、前記[7]~[9]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、不可逆容量の増加を抑制しながら高い電極密度を確保して、高容量化した電気化学デバイスの電極材料として好適な炭素質材料およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0010】
〔炭素質材料〕
本発明の炭素質材料のBET比表面積は23m2/g以下である。BET比表面積が23m2/gを超えると、電極材料として用いた場合に電解液と反応する面積が大きくなるため、不可逆容量が増加して放電容量の低下につながる。不可逆容量の増加を効果的に抑制する観点から、BET比表面積は、好ましくは20m2/g以下、より好ましくは18m2/g以下であり、さらに好ましくは16m2/g以下である。炭素質材料を電極材料として用いた場合に電解液との適度な反応面積を確保し、電気化学デバイスに用いた場合の充電容量を高める観点から、BET比表面積は、好ましくは2m2/g以上、より好ましくは3m2/g以上、さらに好ましくは4m2/g以上である。例えば、焼成温度を高くしたり、焼成時間を長くしたりすることにより比表面積は小さくなる傾向にあり、BET比表面積は炭素質材料を与える炭素前駆体の焼成温度や焼成時間等を調整することにより、上記所望の範囲の比表面積に制御できる。
本発明において、BET比表面積は窒素吸着法により算出することができ、例えば、後述の実施例に記載の方法により算出することができる。
【0011】
本発明の炭素質材料のパウダーレオメーターにより測定される通気時流動エネルギーは40mJ以上210mJ以下である。パウダーレオメーターにより測定される通気時流動エネルギー(AE:Aerated Energy、以下、単に「AE」ともいう)は、炭素質材料を充填したときの粉体状態を表しており、炭素質材料のAEが上記上限値以下下限値以上であると、該炭素質材料から得られる電極の密度を高めることができ、体積当たりの容量を増加させることができる。一方、微小粒子が過剰に存在するとAEが上昇する傾向にあるが、AEを上記上限値以下とすることによって負極の塗工性が上がり、良好な充放電効率が得られる。
本発明において、AEは、好ましくは40mJ以上、より好ましくは50mJ以上、さらに好ましくは55mJ以上であり、また、好ましくは210mJ未満であり、より好ましくは205mJ以下であり、さらに好ましくは200mJ以下である。
【0012】
高い電極密度を有しながら、不可逆容量の小さい電気化学デバイス用電極を得るためには、比表面積を適度な範囲に制御した上で電極における炭素質材料の充填量を高めることが有効な一手段となり得る。しかしながら、電極密度は、例えば一般に充填量の指標となり得るタップ密度などによって単純に制御し得るものではなく、炭素質材料の粒径、粒度分布、比表面積、炭素質材料の粒子の形状、凝集性、流動性等種々の要素が複合的に関与し、それらがバランスよく制御されていることが重要となる。このため、上記の個々の要素を指標にしても炭素質材料を充填した際の電極密度を制御することは困難であった。
【0013】
これに対して、本発明は、上記AEが炭素質材料の種々の要素を複合的に反映するものであり、電極密度に密接に相関するパラメータとなることを見出し、これを新たな指標とするものである。これにより、炭素質材料を充填した際の電極密度を正確かつ容易に制御することができ、高い電極密度を有しながら不可逆容量の小さい電気化学デバイス用電極を得るのに適した炭素質材料を提供することができる。言い換えると、AEは、単に炭素質材料の粒度分布、個々の粒子の形状、炭素質材料の表面官能基などに起因する化学的状態、凝集性、流動性等の種々の要素を個別に反映するものではなく、これらの要素に起因する特性を複合的に反映するものである。したがって、例えば、粒度分布のみを調整することによっては困難である電極密度の制御を、AEを指標にして正確かつ容易に行うことができる。
【0014】
本発明において、AEは、粉体流動性分析装置パウダーレオメーターにより測定される。具体的には、装置内に充填された試料粉体について、装置底部より2mm/秒となる通気量で空気を通気した状態で、装置に設置されているブレードを動かすときに必要とする、ブレード高さに応じたブレードの移動をエネルギーの値(J)として測定するものである。例えば、AEの測定装置としては、フリーマンテクノロジー社製のパウダーレオメーターFT4を用いることができる。
【0015】
本発明におけるAEの測定は、例えば、後述の実施例に記載の方法により算出することができる。具体的には、フリーマンテクノロジー社製のパウダーレオメーターFT4による測定は、装置底部より2mm/秒となる通気量で空気を通気し、粉体が充填された容器にブレードを一定の翼先端速度で回転させながら進入させ、装置底部のロードセルにより垂直応力Fを、上部トルク計により回転トルクTを測定することにより行われる。このときの垂直応力F、回転トルクTおよびブレード高さから、ブレードが粉体中を移動する際に要したエネルギーを算出できる。ブレード半径(ブレード翼径ともいう)をR、ブレード先端が移動する螺旋角度をα°とし、ブレード高さに応じたブレードの移動エネルギーを通気時流動エネルギー(AE)とした。すなわち、通気時流動エネルギー(AE)は、下記式:
AE=T/(Rtanα)+F
に従い求められる。なお、フリーマンテクノロジー社製のパウダーレオメーターFT4では、α=5°、R=48mm、粉体を充填する容器の直径50mm、容器の容積160mm3となっている(平村行慶、「粉体のレオロジー評価と流動性に関する考察」、粉体工学会誌、2017年、Vol.54、No.9、p604-608参照)。例えば、かかる容器のすり切りまで粉体を120mL充填して、装置底部より2mm/秒となる通気量で空気を通気し、100mm/秒の翼先端速度で回転させながら進入させることで、通気時流動エネルギー(AE)を算出することができる。
【0016】
本発明の炭素質材料において、AEは、例えば、炭素質材料の製造方法における粉砕工程および分級工程の条件、順番、回数等を調整することにより制御することができる。この場合、例えば、炭素質材料の製造過程において、例えば各粉砕工程や分級工程などの適切な段階でAEを確認しながら粉砕条件や分級条件を制御することができる。また、AEは、比較的小粒径の炭素質材料と比較的大粒径の炭素質材料とを適切な比率で混合することによっても制御することができる。
【0017】
本発明において、炭素質材料のレーザー散乱法により測定される粒度分布において微粒側からの累積容積が50%となる平均粒子径D50は、好ましくは1μm以上50μm以下である。平均粒子径D50が上記範囲内であると、比表面積の増大を抑えて不可逆容量を小さくすることができるとともに、電極化が容易となる。平均粒子径D50は、より好ましくは1.5μm以上、さらに好ましくは2μm以上、特に好ましくは2.5μm以上であり、また、より好ましくは30μm以下、さらに好ましくは15μm以下、特に好ましくは10μm以下、もっとも好ましくは8μm以下である。
本発明において、平均粒子径D50はレーザー散乱法により測定することができ、例えば、後述の実施例に記載の方法により測定、算出することができる。
【0018】
本発明の炭素質材料において、微粒側からの累積体積が10%となる粒子径D10と平均粒子径D50による粒度分布指数D50/D10は、好ましくは1.9以上である。粒度分布指数D50/D10が上記下限値以上であると、炭素質材料のAEが上記特定の範囲内となりやすく、該炭素質材料から得られる電極の密度が高くなりやすく、体積当たりの容量を増加させやすくなる。粒度分布指数D50/D10は、より好ましくは1.9超、さらに好ましくは2.0以上、特に好ましくは2.1以上、とりわけ好ましくは2.5以上であり、また、好ましくは10.0以下、より好ましくは5.0以下、さらに好ましくは4.5以下、特に好ましくは4.0以下である。
粒度分布指数D50/D10はレーザー散乱法により測定・算出したD10とD50から算出することができる。
【0019】
本発明の炭素質材料の広角X線回析法によるBragg式を用いて算出される(002)面の平均面間隔d002は、好ましくは0.36nm以上、より好ましくは0.37nm以上、さらに好ましくは0.38nm以上であり、また、好ましくは0.42nm以下、より好ましくは0.41nm以下、さらに好ましくは0.40nm以下である。(002)面の平均面間隔d002が上記範囲内であると、良好な入力および出力特性を発現する。平均面間隔は、炭素質材料や炭素質材料を与える炭素前駆体の焼成温度を調整することにより制御し得る。
【0020】
〔炭素質材料の製造方法〕
本発明の炭素質材料は、例えば、
炭素前駆体または炭素前駆体の焼成物に一次粉砕を施す工程、
一次粉砕後の炭素前駆体または炭素前駆体の焼成物を分級する工程、および、
分級後の炭素前駆体または炭素前駆体の焼成物に二次粉砕を施す工程、並びに、
炭素前駆体を焼成する工程
を含む方法により製造することができる。したがって、本発明は、上記工程を含む炭素質材料の製造方法も対象とする。
【0021】
粗粒である炭素前駆体または炭素前駆体の焼成物(以下、両者をまとめて「炭素前駆体等」ともいう)を一次粉砕した後、分級により微粉を除去し、次いで所望の粒径まで二次粉砕することにより、炭素質材料のAEを上記所望の範囲に制御し得る。したがって、上記方法において、一次粉砕、分級および二次粉砕の各工程はこの順で行われる。一方、炭素前駆体は焼成によって溶解しないため、炭素前駆体の平均粒子径は焼成の前後で実質的に変化しない。このため、上記粉砕および分級工程と焼成工程とを行う順序は特に限定されず、焼成前の炭素質材料に上記粉砕および分級工程を施してもよいし、焼成後の炭素質材料(すなわち、炭素前駆体の焼成物)に上記粉砕および分級工程を施してもよい。
【0022】
本発明において、炭素前駆体または炭素前駆体の焼成物に一次粉砕を施す工程(以下、「一次粉砕工程」ともいう)は、粗粒である炭素前駆体等を微粒に粉砕する工程である。一次粉砕を施す炭素前駆体等の平均粒子径は、原料とする炭素材や炭素前駆体により適宜決定し得るものであり、特に限定されない。所望の粒子径への制御がしやすく、取扱い性に優れる観点からは、一次粉砕を施す炭素前駆体等の平均粒子径D50は、通常100μm以上10000μm以下であり、好ましくは200μm以上、より好ましくは400μm以上であり、また、好ましくは8000μm以下、より好ましくは5000μm以下である。
なお、一次粉砕を施す炭素前駆体等の平均粒子径D50は、本発明の炭素質材料の平均粒子径D50の測定と同様に、レーザー散乱法により測定することができる。
【0023】
本発明の一態様において、一次粉砕工程で、平均粒子径D50が2.7μm以上300μm以下となるよう炭素前駆体等を粉砕することが好ましい。先に記載したように、炭素質材料のAEは、炭素質材料の粒子径、粒度分布、形状、炭素質材料の表面官能基などに起因する化学的状態など多くの要素を複合的に反映して決まるものであるため、一次粉砕における炭素前駆体等の粒子径の制御が直接的に得られる炭素質材料のAEを決定するわけではないが、一次粉砕後の炭素前駆体等の粒子径を上記範囲とすることにより、これに続く分級および二次粉砕工程を経て40mJ以上210mJ以下の範囲のAEを有する炭素質材料を得やすくなる。本発明において、一次粉砕後の炭素前駆体等の平均粒子径D50は、好ましくは3μm以上、より好ましくは4μm以上であり、また、好ましくは200μm以下、より好ましくは150μm以下である。
【0024】
本発明において、一次粉砕工程は一度に行ってもよく、複数回に分けて行ってもよい。なお、本明細書においては、粉砕が複数回に分けて行われる場合には、粉砕後の炭素前駆体等を分級する一回目の分級工程前に行われる粉砕工程を一次粉砕工程とする。
【0025】
一次粉砕工程に用いる粉砕機は特に限定されず、例えばジェットミル、ボールミル、ビーズミル、ハンマーミルまたはロッドミルなどを使用することができる。粉砕機として1種を用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。ジェットミルに代表されるような粒子同士の接触により粒子を粉砕する方式は、粉砕時間が長くなり、容積効率が低下しやすいため、粉砕効率の観点からは、ボールミルやビーズミルのような粉砕メディア共存下に粉砕する方式が好ましい。ビーズミルは粉砕メディアからの不純物混入を回避し得る点でも好適である。中でも、粉砕されたものから取り出され、炭素前駆体等の過剰な粉砕を抑制しやすいため、分級機構を有する粉砕装置がより好ましい。
【0026】
粉砕機としてボールミルやビーズミルを使用する場合、そのメディア(ボールまたはビーズ)の材質は、特に限定されず、例えばポリアミドなどの有機高分子化合物、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニアなどの無機酸化物を使用することができる。メディアからのコンタミが生じにくく、粉砕時間を短縮しやすい観点から、メディアはアルミナまたはジルコニアであることが好ましい。粉砕機へのメディアの充填率は特に限定されないが、粉砕時の異型化を抑制しやすい観点から、好ましくは10~90%であり、より好ましくは20~80%である。粉砕時間は所望の粒子径に粉砕し得るよう、原料となる炭素前駆体等の粒子径や用いる粉砕機の種類等に応じて適宜決定すればよい。
【0027】
粉砕は、湿式粉砕、乾式粉砕のいずれであってもよい。炭素前駆体等の表面酸化を抑制しやすい観点からは乾式粉砕が好ましい。
【0028】
本発明の炭素質材料の製造方法は、一次粉砕後の炭素前駆体等を分級する工程を含む。該工程は、一次粉砕後の炭素前駆体等から微粉部分を除去し、炭素前駆体等の粒子サイズを制御するための工程である。一次粉砕で生じる平均粒子径から大きく外れるような粒子径を有する粒子、特に、平均粒子径から大きく外れる小さな粒子径を有する微粒子の含有率を低くすることにより、過剰な粉砕を抑制でき、比表面積の増大による不可逆容量の増加を抑制することができる。
【0029】
本発明の一態様において、一次粉砕工程後の分級工程では、1μm以下の粒子径を有する粒子の含有率が6体積%以下となるよう分級することが好ましく、より好ましくは5体積%以下、さらに好ましくは3体積%以下となるよう分級する。一次粉砕後の炭素前駆体等から1μm以下の粒子径を有する粒子を除去することにより、過剰な粉砕を抑制でき、比表面積の増大による不可逆容量の増加を抑制することができる。なお、該分級工程後の1μm以下の粒子径を有する粒子の含有率は、低ければ低いほどよく、0体積%であってよい。
【0030】
分級工程において、炭素前駆体等を分級する(炭素前駆体等の粒子サイズを制御する)方法としては、例えば、一次粉砕後の炭素前駆体等に含まれる粒子径1μm以下の微粒子を除去する方法、平均粒子径がやや大きくなるよう一次粉砕し、所望の平均粒子径となるように一次粉砕後の炭素前駆体等に含まれる大粒子を取出し、該大粒子を再度粉砕し所望の平均粒子径とする操作を繰り返す方法等が挙げられる。後者の方法であると、所定量以上の微粒子を含まない本発明の炭素質材料を、より生産性よく製造することができる。
【0031】
分級方法としては、特に制限されないが、例えば篩を用いた分級、湿式分級、乾式分級を挙げることができる。湿式分級機としては、例えば重力分級、慣性分級、水力分級、遠心分級等の原理を利用した分級機を挙げることができる。乾式分級機としては、沈降分級、機械的分級、遠心分級等の原理を利用した分級機を挙げることができる。経済性の観点から、乾式分級装置を用いることが好ましい。また、一次粉砕および/または後述する二次粉砕工程と分級工程とを1つの装置を用いて行うこともできる。
【0032】
本発明の炭素質材料の製造方法は、上記分級後の炭素前駆体等に二次粉砕を施す工程(以下、「二次粉砕工程」ともいう)を含む。一次粉砕後の炭素前駆体等を分級し、微粉を除去した後の炭素前駆体等を二次粉砕することにより得られる炭素質材料のAEが高くなる傾向にあり、これを用いて作製される電極の密度を向上させることができる。
【0033】
本発明の一態様において、二次粉砕工程では、平均粒子径D50が1μm以上50μm以下であり、かつ、累積体積が10%となる粒子径D10と平均粒子径D50による粒度分布指数D50/D10が1.9以上になるよう分級後の炭素前駆体等を粉砕することが好ましい。炭素質材料のAEは、炭素質材料の粒子径、粒度分布、形状、炭素質材料の表面官能基などに起因する化学的状態など多くの要素に基づき決まるものであるため、二次粉砕における炭素前駆体等の粒子径の制御が直接的に得られる炭素質材料のAEを決定するわけではないが、二次粉砕後の炭素前駆体等の粒子径を上記範囲とすることにより、炭素質材料のAEが高まる傾向にあり、得られる炭素質材料のAEを40mJ以上210mJ以下の範囲に制御しやすくなる。
【0034】
本発明において、二次粉砕工程は一度に行ってもよく、複数回に分けて行ってもよい。なお、本明細書においては、粉砕が複数回に分けて行われる場合には、1回目の分級後に行われる粉砕工程を二次粉砕工程とし、その後さらに分級が行われる場合には該分級前までに行われる粉砕工程を二次粉砕工程とする。二次粉砕工程において用い得る粉砕機、粉砕時間、粉砕条件等は、いずれも一次粉砕工程におけるものと同様のものが挙げられ、所望の粒子径、粒度分布、比表面積、AE等に応じて適宜選択すればよい。
【0035】
本発明の炭素質材料の製造方法は、上記一次粉砕、分級および二次粉砕の各工程に加えて、所望のAEおよび比表面積を得られる限りにおいて、さらなる粉砕および/または分級工程を含んでもよいが、炭素質材料を得るための工程に含まれる粉砕工程および分級工程のうちの最終の工程が粉砕工程であることが好ましい。二次粉砕またはそれ以降の粉砕を施した後、実質的に分級を行わないことにより最終的に得られる炭素質材料が比較的小さな粒子径を有する粒子を含んだ状態となり、粒度分布に適度な広がりを持たせることができる。これにより、炭素質材料のAEが40mJ以上210mJ以下の範囲となりやすく、該炭素質材料を充填する際の充填量を高めることができ、電極密度を向上させることができる。
【0036】
上記一次粉砕、分級および二次粉砕の各工程を経た炭素前駆体を焼成することにより、本発明の炭素質材料を得ることができる。また、上記一次粉砕を施す前の炭素前駆体に焼成を施す場合、焼成後の炭素前駆体(すなわち、炭素前駆体の焼成物)に上記一次粉砕、分級および二次粉砕の各工程を施すことにより本発明の炭素質材料を得ることができる。
【0037】
焼成(以下において「本焼成」とも称する)は、一次粉砕前の炭素前駆体に行う場合も、二次粉砕後の炭素前駆体に行う場合も特に限定されず、通常の焼成手順に従って行うことができる。本焼成を行うことにより、非水電解質二次電池等の電気化学デバイス用の炭素質材料を得ることができる。本焼成工程は、炭素前駆体を加熱し、炭素前駆体に含まれる揮発成分を除去し、炭素骨格を構築するための工程である。
【0038】
本焼成の焼成温度は通常、800~1500℃であり、好ましくは850~1350℃であり、より好ましくは900~1300℃である。本焼成は、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。不活性ガスとしては、窒素、アルゴン等が挙げられ、ハロゲンガスを含有する不活性ガス中で本焼成を行うことも可能である。本焼成を減圧下で行ってもよく、例えば10kPa以下で行ってよい。本焼成の焼成時間は特に限定されないが、例えば0.05~10時間であり、好ましくは0.05~8時間であり、より好ましくは0.05~6時間である。
【0039】
本発明においては、炭素前駆体が植物由来である場合、該炭素前駆体に揮発性有機物を混合して焼成してもよい。炭素前駆体と揮発性有機物との混合物を焼成することにより、得られる炭素質材料の比表面積を低減させることができる。その機構は、詳細には解明されていないが、以下のように考えることができる。しかしながら、本発明は、以下の説明によって限定されるものではない。植物由来の炭素前駆体と、揮発性有機物とを混合して焼成することで、植物由来の炭素前駆体表面に、揮発性有機物の熱処理により得られる炭素質被膜が形成されると考えられる。この炭素質被膜により、植物由来の炭素前駆体から生成する炭素質材料の比表面積が減少し、その炭素質材料とリチウムとの反応によるSEI(Solid Electrolyte Interphase)と呼ばれる被膜の形成反応が抑制されるので、不可逆容量を低減させることが期待できる。また、生成した炭素質被膜もリチウムをドープおよび脱ドープすることができるため、容量が増加する効果も期待できる。
【0040】
揮発性有機物としては、例えば熱可塑性樹脂および低分子有機化合物が挙げられる。具体的には、熱可塑性樹脂としては、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(メタ)アクリル酸、およびポリ(メタ)アクリル酸エステル等を挙げることができる。なお、この明細書において、(メタ)アクリルとは、アクリルとメタクリルの総称である。低分子有機化合物としては、トルエン、キシレン、メシチレン、スチレン、ナフタレン、フェナントレン、アントラセン、およびピレン等を挙げることができる。焼成温度下で揮発し、熱分解した場合に炭素前駆体の表面を酸化賦活しないものが好ましいことから、熱可塑性樹脂としてはポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレンが好ましい。低分子有機化合物としては、さらに安全上の観点から常温下において揮発性が小さいことが好ましく、ナフタレン、フェナントレン、アントラセン、ピレン等が好ましい。
【0041】
本発明の一態様において、熱可塑性樹脂として、オレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、および(メタ)アクリル酸系樹脂を挙げることができる。オレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンとプロピレンのランダム共重合体、エチレンとプロピレンのブロック共重合体等を挙げることができる。スチレン系樹脂としては、ポリスチレン、ポリ(α-メチルスチレン)、スチレンと(メタ)アクリル酸アルキルエステル(アルキル基の炭素数は1~12、好ましくは1~6)との共重合体等を挙げることができる。(メタ)アクリル酸系樹脂としては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、および(メタ)アクリル酸アルキルエステル重合体(アルキル基の炭素数は1~12、好ましくは1~6)等を挙げることができる。
【0042】
本発明の一態様において、低分子有機化合物として、例えば炭素数が1~20の炭化水素化合物を用いることができる。炭化水素化合物の炭素数は、好ましくは2~18、より好ましくは3~16である。炭化水素化合物は、飽和炭化水素化合物または不飽和炭化水素化合物でもよく、鎖状の炭化水素化合物でも、環式の炭化水素化合物でもよい。不飽和炭化水素化合物の場合、不飽和結合は二重結合でも三重結合でもよく、1分子に含まれる不飽和結合の数も特に限定されるものではない。例えば、鎖状の炭化水素化合物は、脂肪族炭化水素化合物であり、直鎖状または分枝状のアルカン、アルケン、またはアルキンを挙げることができる。環式の炭化水素化合物としては、脂環式炭化水素化合物(例えば、シクロアルカン、シクロアルケン、シクロアルキン)または芳香族炭化水素化合物を挙げることができる。具体的には、脂肪族炭化水素化合物としては、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、オクタン、ノナン、デカン、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセンおよびアセチレン等を挙げることができる。脂環式炭化水素化合物としては、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロノナン、シクロプロパン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン、デカリン、ノルボルネン、メチルシクロヘキサン、およびノルボルナジエン等を挙げることができる。さらに、芳香族炭化水素化合物としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、クメン、ブチルベンゼン、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ビニルキシレン、p-tert-ブチルスチレン、エチルスチレン等の単環芳香族化合物、ナフタレン、フェナントレン、アントラセン、ピレン等の3環~6環の縮合多環芳香族化合物を挙げることができるが、好ましくは縮合多環芳香族化合物、より好ましくはナフタレン、フェナントレン、アントラセンまたはピレンである。ここで、前記炭化水素化合物は、任意の置換基を有していてよい。置換基は特に限定されるものではないが、例えば炭素数1~4のアルキル基(好ましくは炭素数1~2のアルキル基)、炭素数2~4のアルケニル基(好ましくは炭素数2のアルケニル基)、炭素数3~8のシクロアルキル基(好ましくは炭素数3~6のシクロアルキル基)を挙げることができる。
【0043】
揮発性有機物は、混合の容易性および偏在の回避の観点から、常温で固体状態であることが好ましく、例えばポリスチレン、ポリエチレンまたはポリプロピレン等の常温で固体の熱可塑性樹脂、または、ナフタレン、フェナントレン、アントラセンまたはピレン等の常温で固体の低分子有機化合物がより好ましい。揮発し、焼成温度下に熱分解した場合に、植物由来の炭素前駆体の表面を酸化賦活しないものが好ましいことから、熱可塑性樹脂としては、オレフィン系樹脂およびスチレン系樹脂が好ましく、ポリスチレン、ポリエチレンおよびポリプロピレンがより好ましい。低分子有機化合物としては、さらに常温下に揮発性が小さいことが安全上好ましいことから、炭素数1~20の炭化水素化合物が好ましく、縮合多環芳香族化合物がより好ましく、ナフタレン、フェナントレン、アントラセンまたはピレンがさらに好ましい。さらに、炭素前駆体との混合し易さの観点から、熱可塑性樹脂が好ましく、オレフィン系樹脂およびスチレン系樹脂がより好ましく、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレンがさらに好ましく、ポリスチレン、ポリエチレンが特に好ましい。
【0044】
揮発性有機物は、焼成機器の安定稼働の観点から、残炭率が好ましくは5質量%未満、より好ましくは3質量%未満である有機物である。本発明における残炭率は、好ましくは800℃で灰化した場合の残炭率である。揮発性有機物は、植物由来のチャーから製造される炭素前駆体の比表面積を低減させることのできる揮発物質(例えば、炭化水素系ガスやタール成分)を発生させるものが好ましい。また、焼成後生成する炭素質材料の性状を維持する観点から、残炭率は5質量%未満が好ましい。残炭率が5%未満であると局所的に性状の異なる炭素質材料が生成しにくい。
【0045】
残炭率は、試料を不活性ガス中で強熱した後の強熱残分の炭素量を定量することにより測定することができる。強熱とは、揮発性有機物およそ1g(この正確な質量をW1(g)とする)を坩堝に入れ、1分間に20リットルの窒素を流しながら坩堝を電気炉にて、10℃/分の昇温速度で常温から800℃まで昇温、その後800℃で1時間強熱する。このときの残存物を強熱残分とし、その質量をW2(g)とする。
【0046】
次いで上記強熱残分について、JIS M8819に定められた方法に準拠して元素分析を行い、炭素の質量割合P1(%)を測定する。残炭率P2(質量%)は以下の式(I)により算出することができる。
【0047】
【0048】
炭素前駆体と揮発性有機物とを混合する場合、混合物における炭素前駆体と揮発性有機物との質量比は、特に限定されるものではないが、好ましくは炭素前駆体と揮発性有機物との質量比が99:1~40:60である。上記混合物における炭素前駆体と揮発性有機物との質量比は、より好ましくは97:3~40:60、さらに好ましくは95:5~60:40、特に好ましくは93:7~80:20である。例えば、揮発性有機物が1質量部以上であると比表面積を十分に低減させることができる。また、揮発性有機物が60質量部以下であると、比表面積の低減効果を飽和させず、揮発性有機物を過剰に消費し難いため、工業的に有利である。
【0049】
炭素前駆体を揮発性有機物と混合する場合、炭素前駆体の焼成前であればいずれの段階で混合してもよく、上記一次粉砕工程の前であってもよく、一次粉砕、分級および二次粉砕を経た後であってもよい。
【0050】
本発明の炭素質材料の原料となる炭素前駆体は、炭素質材料を製造する際に炭素成分を供給する炭素質材料の前駆体であり、植物由来の炭素前駆体、鉱物由来の炭素前駆体、天然素材由来の炭素前駆体および合成素材由来の炭素前駆体などから広く選択することができる。有害不純物を低減する観点、環境保護の観点および商業的な観点からは、本発明の炭素質材料は、植物由来の炭素前駆体に基づくものであることが好ましく、言い換えると、本発明の炭素質材料の原料となる炭素前駆体が植物由来であることが好ましい。
【0051】
鉱物由来の炭素前駆体としては、例えば石油系および石炭系ピッチ、コークスが挙げられる。天然素材由来の炭素前駆体としては、例えば木綿、麻などの天然繊維、レーヨン、ビスコースレーヨンなどの再生繊維、アセテート、トリアセテートなどの半合成繊維の炭化物が挙げられる。合成素材由来の炭素前駆体としては、例えばナイロンなどのポリアミド系、ビニロンなどのポリビニルアルコール系、アクリルなどのポリアクリロニトリル系、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系、ポリウレタン、フェノール系樹脂、塩化ビニル系樹脂の炭化物が挙げられる。
【0052】
植物由来の炭素前駆体は、植物由来の炭素材(以下において「植物由来のチャー」ともいう)を原料として用いて、これに賦活、脱灰処理等を施すことにより製造することができる。
したがって、本発明の炭素質材料の製造方法は、上記粉砕、分級および焼成の各工程に加えて、例えば、
(i)原料となる植物由来の炭素材を賦活処理する工程、および/または
(ii)原料となる植物由来の炭素材等に脱灰処理を施す工程
などを含んでいてもよい。
なお、チャーとは、一般的には、石炭を加熱した際に得られる溶融軟化しない炭素分に富む粉末状の固体を示すが、ここでは、有機物を加熱して得られる溶融軟化しない炭素分に富む粉末状の固体も示す。
【0053】
植物由来のチャーの原料となる植物(以下において「植物原料」とも称する)は、特に制限されない。植物原料としては、椰子殻、珈琲豆、茶葉、サトウキビ、果実(例えば、みかん、バナナ)、藁、籾殻、広葉樹、針葉樹、竹が例示される。この例示は、本来の用途に供した後の廃棄物(例えば、使用済みの茶葉)、あるいは植物原料の一部(例えば、バナナやみかんの皮)を包含する。これらの植物原料を単独で使用してもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。これらの植物原料の中でも、大量入手が容易な観点から椰子殻が好ましい。
【0054】
椰子殻としては、特に限定されないが、例えばパームヤシ(アブラヤシ)、ココヤシ、サラク、オオミヤシ等の椰子殻が挙げられる。これらの椰子殻を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。椰子を、食品、洗剤原料、バイオディーゼル油原料等として利用した後に大量に発生するバイオマス廃棄物であるココヤシおよびパームヤシの椰子殻は、入手容易性の観点から、特に好ましい。
【0055】
植物原料から植物由来のチャーを製造する方法は特に限定されないが、例えば植物原料を、不活性ガス雰囲気下、300℃以上の温度で熱処理(以下において「仮焼成」ともいう)することによって製造することができる。
【0056】
仮焼成の熱処理温度は、300℃以上であれば特に限定されない。仮焼成の熱処理温度が高すぎると、チャーが高結晶化し、続く粉砕が困難になる場合がある。そのため、仮焼成の熱処理温度は、通常300℃~1000℃であり、好ましくは400℃~900℃であり、より好ましくは500℃~800℃である。
【0057】
仮焼成の熱処理時間は特に限定されない。仮焼成の熱処理時間が長すぎると、チャーが高結晶化し、続く粉砕が困難になる場合がある。そのため、仮焼成の熱処理時間は、通常1~24時間であり、好ましくは1.5~20時間であり、より好ましくは2~15時間である。
【0058】
また、植物由来のチャー(例えば椰子殻チャー)の形態で入手することも可能である。
【0059】
植物由来のチャーから製造された炭素質材料は、多量の活物質をドープ可能であることから、非水電解質二次電池などの電気化学デバイス用の炭素質材料として基本的には適している。しかし、植物由来のチャーは、一般に、植物原料に含まれていた金属元素(特に、カリウムや鉄など)を多量に含むことが多く、このような金属元素の含有量が多い炭素質材料を含む電極を電気化学デバイスに用いると、電気化学的な特性や安全性に好ましくない影響を与えることがある。したがって、炭素質材料に含まれるカリウム元素や鉄元素などの含有量は、極力低下させることが好ましい。
【0060】
また、植物由来のチャーは、カリウムや鉄元素以外にも、アルカリ金属(例えば、ナトリウム)、アルカリ土類金属(例えばマグネシウム、またはカルシウム)、遷移金属(例えば、銅)およびその他の元素類(以下において、これらを総称して「灰分」ともいう)を含むことが多い。これらの金属元素類を含有する炭素質材料を含む電極を、例えばリチウムイオン二次電池などの非水電解質二次電池の負極に用いる場合、負極からの脱ドープ時に不純物が電解液中に溶出し、電池性能に好ましくない影響を与え、非水電解質二次電池の信頼性が損なわれる可能性があるため、これらの金属類の含有量も低減させることが好ましい。また、炭素質材料中の灰分を低減することにより、炭素質材料の細孔閉塞を抑制し、電池の充放電容量を向上させやすい。
【0061】
したがって、植物原料または植物由来のチャーにおける灰分(アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、遷移金属元素、およびその他の元素類)の含有量を、炭素質材料を得るために炭素前駆体を焼成する前に低下させておくことが好ましい。ここで、植物原料または植物由来原料のチャーにおける灰分の含有量を低下させることを、以下において「脱灰」ともいう。脱灰方法は特に制限されず、例えば塩酸、硫酸等の鉱酸、酢酸、蟻酸等の有機酸等を含む酸性溶液を用いて金属分を抽出脱灰する方法(液相脱灰)、塩化水素などのハロゲン化合物を含有した高温の気相に暴露させて脱灰する方法(気相脱灰)を用いることができる。
【0062】
液相脱灰は、植物原料または植物由来のチャーのいずれの形態で実施してもよい。液相脱灰は、例えば、植物原料または植物由来のチャーを酸性溶液に浸漬することにより行うことができる。酸性溶液は酸と水性溶液との混合物である。酸としては、特に限定されないが、例えば塩酸、硫酸などの鉱酸、酢酸、酪酸、クエン酸などの有機酸の水溶液が挙げられる。被脱灰物に不要なイオンが残留することが回避される観点から、酸として有機酸を用いることが好ましく、脱灰の効率、酸の価格等の経済性、使用後の廃液処理が比較的容易である観点から、酢酸および/またはクエン酸を用いることがより好ましい。水性溶液としては、水、水と水溶性有機溶媒との混合物などが挙げられる。水溶性有機溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、プロピレングリコール、エチレングリコールなどのアルコールが挙げられる。
【0063】
酸性溶液中の酸濃度は特に限定されないが、酸の濃度に脱灰速度が影響されるため、好ましくは0.001~1Mの範囲であり、より好ましくは0.002~0.9Mの範囲であり、さらに好ましくは0.005~0.5Mの範囲である。酸性溶液の使用量も特に限定されないが、浸漬させる植物原料または植物由来のチャーが酸性溶液に浸る程度であることが好ましく、例えば浸漬させる植物原料または植物由来のチャーの質量に対する酸性溶液の質量は、好ましくは100~1000質量%であり、より好ましくは200~900質量%であり、さらに好ましくは250~800質量%である。
【0064】
液相脱灰の温度は、被脱灰物である植物原料または植物由来のチャーに応じて決定すればよく、例えば10~120℃であってよく、好ましくは20~100℃、より好ましくは25~95℃である。脱灰温度が上記範囲内であると、植物を構成する有機物の加水分解による炭素含量の低下を抑制しながら、効率よく脱灰を行うことができる。
【0065】
液相脱灰の時間は、特に制限されないが、例えば0.1~100時間であってよく、好ましくは0.2~50時間、より好ましくは0.5~20時間である。液相脱灰は、植物原料または植物由来のチャーを酸性溶液に浸漬し続けて行ってもよいし、脱灰に使用する酸性溶液を更新しながら複数回に分けて行ってもよい。複数回に分けて液相脱灰を行う場合には、合計した脱灰時間を液相脱灰の時間とする。
【0066】
液相脱灰に用いる装置は、植物原料または植物由来のチャーを酸性溶液に浸漬することが可能な装置である限り特に限定されない。例えば、ガラスライニング製攪拌漕を用いることができる。
【0067】
気相脱灰は、植物原料または植物由来のチャーのいずれの形態で実施してもよい。気相脱灰は、例えば、植物原料または植物由来のチャーを、ハロゲン化合物を含む気相中で熱処理することにより行うことができる。ハロゲン化合物としては、特に限定されず、例えばフッ素、塩素、臭素、ヨウ素、フッ化水素、塩化水素、臭化水素、臭化ヨウ素、フッ化塩素(ClF)、塩化ヨウ素(ICl)、臭化ヨウ素(IBr)、塩化臭素(BrCl)等が挙げられる。熱分解によりこれらのハロゲン化合物を発生する化合物またはこれらの混合物を用いることもできる。ハロゲン化合物は、供給安定性および使用するハロゲン化合物の安定性の観点から、塩化水素であることが好ましい。
【0068】
気相脱灰は、ハロゲン化合物と不活性ガスとを混合した気相中で行ってよい。不活性ガスは、脱灰温度において被脱灰物(植物原料または植物由来のチャー)および脱灰後の植物原料または植物由来のチャーと反応しないガスであれば特に制限されない。例えば、窒素、ヘリウム、アルゴン、クリプトン、またはそれらの混合ガスが挙げられる。不活性ガスは、供給安定性および経済性の観点から、窒素であることが好ましい。
【0069】
ハロゲン化合物と不活性ガスとを混合した気相中で気相脱灰を行う場合、ハロゲン化合物と不活性ガスとの混合比は、十分な脱灰が達成できる限り特に限定されない。例えば不活性ガスに対するハロゲン化合物の量が、0.01~10.0体積%であることが好ましく、0.05~8.0体積%であることがより好ましく、0.1~5.0体積%であることがさらに好ましい。
【0070】
気相脱灰の温度は、被脱灰物である植物原料または植物由来のチャーに応じて決定すればよく、例えば500~1100℃であってよく、好ましくは600~1050℃、より好ましくは650~1000℃、さらに好ましくは850~1000℃である。脱灰温度が低すぎると、脱灰効率が低下し、十分に脱灰できないことがある。脱灰温度が高すぎると、ハロゲン化合物による賦活が起きることがある。
【0071】
気相脱灰の時間は特に制限されないが、例えば5~300分であり、好ましくは10~200分であり、より好ましくは15~150分である。
【0072】
気相脱灰における気相の供給量(流動量)は特に限定されず、例えば植物原料または植物由来のチャー1g当たり好ましくは1ml/分以上、より好ましくは5ml/分以上、さらに好ましくは10ml/分以上である。
【0073】
気相脱灰に用いる装置は、植物原料または植物由来のチャーとハロゲン化合物を含む気相とを混合しながら加熱できる装置であれば特に限定されない。例えば、流動炉を用い、流動床等による連続式またはバッチ式の層内流通方式の装置を用いることができる。
【0074】
気相脱灰を行う場合、ハロゲン化合物を含む気相中での熱処理の後で、さらに、ハロゲン化合物非存在下での熱処理を行ってもよい。ハロゲン化合物を含む気相中での熱処理によって、通常、植物原料または植物由来のチャーにはハロゲンが含まれる。植物原料または植物由来のチャーに含まれているハロゲンを、ハロゲン化合物非存在下での熱処理によって除去することができる。例えば、前記ハロゲン化合物を含む気相中での熱処理後に、ハロゲン化合物の供給を遮断して熱処理を行うことにより、ハロゲンを除去することができる。具体的には、ハロゲン化合物非存在下での熱処理は、ハロゲン化合物を含まない不活性ガス雰囲気中で500℃~1100℃、好ましくは600~1050℃、より好ましくは650~1000℃、さらに好ましくは850~1000℃で熱処理することによって行ってよい。ハロゲン化合物非存在下での熱処理の温度は、ハロゲン化合物を含む気相中での熱処理の温度と同じか、またはそれよりも高い温度で行うことが好ましい。また、ハロゲン化合物非存在下での熱処理の時間も特に限定されないが、好ましくは5分~300分であり、より好ましくは10分~200分であり、さらに好ましくは10分~100分である。
【0075】
本実施形態における液相脱灰および気相脱灰は、植物原料または植物由来のチャーに含まれているカリウム、鉄等の灰分を除去する処理である。液相脱灰処理後または気相脱灰処理後に得られる炭素前駆体のカリウム元素の含有量は、好ましくは1000ppm(0.1重量%)以下であり、より好ましくは500ppm以下であり、さらに好ましくは300ppm以下である。液相脱灰処理後または気相脱灰処理後に得られる炭素前駆体の鉄元素の含有量は、好ましくは200ppm以下であり、より好ましくは150ppm以下であり、さらに好ましくは100ppm以下である。炭素前駆体のカリウム元素や鉄元素の含有量が上記上限以下であると、得られる炭素質材料を非水電解質二次電池等の電気化学デバイス用電極に用いる場合に、脱ドープ時における不純物の電解液中への溶出を低減でき、電気化学デバイスの性能向上や信頼性向上の点で好ましい。
【0076】
液相脱灰または気相脱灰に植物原料を使用した場合、液相脱灰または気相脱灰処理後の植物原料を、不活性ガス雰囲気下、300℃以上の温度で熱処理する仮焼成によって、液相脱灰または気相脱灰処理後の植物由来のチャーを製造することができる。この場合の仮焼成の熱処理温度や熱処理時間も、上記に述べたとおりである。
【0077】
また、被脱灰物である植物原料または植物由来のチャーの平均粒子径は、特に限定されない。液相脱灰を行う場合、抽出液から脱灰処理後の炭素前駆体を分離しやすい観点から、平均粒子径の下限は、好ましくは500μm以上であり、より好ましくは1mm以上であり、さらに好ましくは2mm以上である。平均粒子径の上限は、好ましくは40mm以下であり、より好ましくは35mm以下であり、さらに好ましくは30mm以下である。気相脱灰を行う場合、平均粒子径が小さすぎると、脱灰により除去されたカリウム等を含む気相と、脱灰処理後の炭素前駆体とを分離することが困難になり得ることから、平均粒子径の下限は、好ましくは100μm以上であり、より好ましくは200μm以上であり、さらに好ましくは400μm以上である。平均粒子径の上限は、好ましくは10000μm以下であり、より好ましくは8000μm以下であり、さらに好ましくは5000μm以下である。
【0078】
このような処理を経て得られた炭素前駆体に、先に説明したような一次粉砕、分級および二次粉砕並びに焼成を施すことにより、本発明の炭素質材料を得ることができる。
【0079】
また、本発明においては、異なる物性(例えば、平均粒子径や粒度分布等)を有する2種類以上の炭素前駆体または炭素質材料を混合することによって、所望のAEを有する本発明の炭素質材料を調製することもできる。2種類以上の炭素前駆体または炭素質材料を混合することによって所望のAEを有する本発明の炭素質材料を調製する場合、所望するAEに応じて、混合する炭素前駆体または炭素質材料の種類やその配合割合を適宜決定すればよい。この場合においても、混合する少なくとも1つの炭素前駆体または炭素質材料が上記一次粉砕、分級および二次粉砕の各工程を経て得られた炭素前駆体または炭素質材料であることが好ましい。少なくとも1つの炭素前駆体または炭素質材料が上記各工程を経て得られたものであることにより、得られる炭素質材料のAEを所望の範囲に制御しやすくなる。
【0080】
2種以上の炭素前駆体または炭素質材料を混合して本発明の炭素質材料を調製する場合、上記一次粉砕、分級および二次粉砕の各工程を経て製造された炭素前駆体または炭素質材料の配合量は、用いる炭素前駆体または炭素質材料の物性等に応じて適宜決定すればよいが、最終的な炭素前駆体または炭素質材料の混合物の総質量に基づき、例えば20質量%以上である。炭素前駆体または炭素質材料の混合物における上記一次粉砕、分級および二次粉砕の各工程を経て製造された炭素前駆体または炭素質材料の配合量の上限は特に限定されるものではなく、それらの全てが上記方法に従い製造された炭素前駆体または炭素質材料であってもよい。
【0081】
〔電気化学デバイス用電極〕
本発明の炭素質材料は、電気化学デバイス用電極、特に電気化学デバイス用負極の材料として好適である。本発明の炭素質材料を用いることにより、得られる電極の密度を高めることができ、かつ、不可逆容量を小さくすることができるため、小型で高容量の電気化学デバイスを得ることができる。本発明の炭素質材料の使用に適する電気化学デバイスとしては、リチウムイオン二次電池、ニッケル水素二次電池、ニッケルカドミウム二次電池等の二次電池および電気二重層キャパシタ等のキャパシタ等を含む。これらのうち、電気化学デバイスは、特に非水電解質二次電池(例えばリチウムイオン二次電池、ナトリウムイオン電池、リチウム硫黄電池、リチウム空気電池、全固体電池、有機ラジカル電池等)であり得、より特にリチウムイオン二次電池であり得る。
【0082】
以下において、本発明の電気化学デバイス用負極について、非水電解質二次電池用負極を例として説明する。本発明の負極は、電極合剤を集電板に塗布し、集電板に電極活物質層を形成させることにより製造することができる。電極合剤は、本発明の炭素質材料に結合剤(バインダー)、場合により導電助剤、ならびに、適当な溶媒を適量添加し、混練して得ることができる。電極活物質層は、例えば、電極合剤を集電板に塗布し、乾燥させた後、加圧成形することにより形成させることができる。集電板としては、例えば金属板を使用してよい。
【0083】
結合剤は、電解液と反応しないものであれば特に限定されず、例えばPVDF(ポリフッ化ビニリデン)、ポリテトラフルオロエチレン、およびSBR(スチレン・ブタジエン・ラバー)とCMC(カルボキシメチルセルロース)との混合物等が挙げられる。これらの中でもPVDFは、活物質表面に付着したPVDFがリチウムイオン移動を阻害することが少なく、良好な入出力特性を得やすいために好ましい。結合剤として、1種類を用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。結合剤の添加量は、使用する結合剤の種類によって適宜選択すればよいが、例えば、好ましくは1~20質量%であり、より好ましくは1~15質量%である。例えばPVDF系の結合剤である場合には、好ましくは3~13質量%であり、より好ましくは3~10質量%である。ここで、結合剤の添加量は、活物質(炭素質材料)量+バインダー量+導電助剤量=100質量%として算出される。結合剤の添加量が上記範囲内であると、得られる電極における抵抗の上昇を抑え、電池の内部抵抗を小さくすることができ、また、電極中の炭素質材料の粒子間の結合、および、炭素質材料と集電材との結合が良好となる。
【0084】
溶媒は、使用する結合剤の種類よって適宜選択してよい。溶媒として、1種類を用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。例えば結合剤としてPVDFを用いる場合、PVDFを溶解させてスラリーを得やすい観点から、N-メチルピロリドン(NMP)等の極性溶媒を用いることが好ましい。結合剤としてSBR等を用いる場合、結合剤を水性エマルジョンの形態で用いてもよい。結合剤としてCMCを用いる場合、結合剤を水などの溶媒に溶解させて用いてもよい。
【0085】
例えば、溶媒として水を使用し、SBRとCMCとの混合物などの2種以上の結合剤を組み合わせて混合して使用することが多い。この態様において、2種以上の結合剤を使用する場合、結合剤の総添加量は、好ましくは0.5~5質量%であり、より好ましくは1~4質量%である。ここで、結合剤の添加量は、活物質(炭素質材料)量+バインダー量+導電助剤量=100質量%として算出される。
【0086】
さらに高い導電性を賦与することを目的として、電極合剤の調製時に、必要に応じて導電助剤を添加してよい。導電助剤としては、導電性のカーボンブラック、気相成長炭素繊維(VGCF)、ナノチューブ等を用いることができる。導電助剤の添加量は、使用する導電助剤の種類によっても異なるが、好ましくは0.5~10質量%であり、より好ましくは0.5~7質量%であり、さらに好ましくは0.5~5質重量%である。ここで、導電助剤の添加量は、活物質(炭素質材料)量+バインダー量+導電助剤量=100質量%として算出される。導電助剤の添加量が上記範囲内であると、導電性が向上しやすく、かつ、電極合剤中での導電助剤の分散も良好となる。
【0087】
電極活物質層は、通常、集電板の両面に形成されるが、必要に応じて集電板の片面に形成されていてもよい。電極活物質層の片面当たりの厚みは、好ましくは10~80μmであり、より好ましくは20~75μmであり、さらに好ましくは20~60μmである。電極活物質層の厚みが上記の下限以上であると、二次電池中の集電板やセパレータ等が占める割合が少なくて済むため、電池を高容量化しやすい観点から好ましい。電極活物質層の厚みが上記の上限以下であると、対極と対向する電極面積が広いほど入出力特性の向上に有利なため、入出力特性を高めやすい観点から好ましい。
【0088】
また、得られた電極活物質層の不可逆容量を低減する目的で、公知の方法でリチウムプレドープを行うこともできる。
【0089】
〔電気化学デバイス〕
本発明の電気化学デバイスは、本発明の電気化学デバイス用負極を含み、高い電極密度を有し、かつ、不可逆容量が小さく、高い容量を有する。
【0090】
例えば、本発明の電気化学デバイスが非水電解質二次電池である場合、正極材料、セパレータおよび電解液などの電池を構成する他の材料は特に限定されず、非水電解質二次電池において従来使用され、あるいは提案されている、種々の材料を使用することが可能である。
【0091】
例えば、正極材料としては、層状酸化物系(LiMO2と表されるもので、Mは金属:例えばLiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、またはLiNixCoyMozO2(ここでx、y、zは組成比を表わす))、オリビン系(LiMPO4で表され、Mは金属:例えばLiFePO4など)、スピネル系(LiM2O4で表され、Mは金属:例えばLiMn2O4など)の複合金属カルコゲン化合物が好ましい。正極材料として、これらのカルコゲン化合物の1種を用いてもよいし、2種以上を必要に応じて混合して用いてもよい。これらの正極材料を適当な結合剤と電極に導電性を付与するための炭素質材料と共に成形して、導電性の集電材上に層を形成することにより、正極を製造することができる。
【0092】
正極および負極と組み合わせて用いられる非水溶媒型の電解液は、一般に非水溶媒に電解質を溶解させて得ることができる。非水溶媒としては、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、γ-ブチルラクトン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、スルホラン、または1,3-ジオキソラン等の有機溶媒が挙げられる。有機溶媒として、1種類の有機溶媒を用いてもよいし、2種以上の有機溶媒を組み合わせて用いてもよい。電解質としては、例えばLiClO4、LiPF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiAsF6、LiCl、LiBr、LiB(C6H5)4、またはLiN(SO3CF3)2等が挙げられる。
【0093】
非水電解質二次電池は、一般に、正極と負極とを、必要に応じてセパレータを介して対向させ、電解液中に浸漬させることにより製造することができる。セパレータとしては、二次電池に通常用いられる不織布、その他の多孔質材料からなる透液性セパレータを用いることができる。セパレータの代わりに、もしくはセパレータと共に、電解液を含浸させたポリマーゲルからなる固体電解質を用いることもできる。
【0094】
本発明の炭素質材料は、例えば自動車などの車両に搭載される電池(典型的には車両駆動用非水電解質二次電池)用の炭素質材料として好適である。本発明において車両とは、通常、電動車両として知られるものや、燃料電池や内燃機関とのハイブリッド車など、特に制限されることなく対象とすることができるが、少なくとも上記電池を備えた電源装置と、該電源装置からの電源供給により駆動する電動駆動機構と、これを制御する制御装置とを備える。車両は、さらに、発電ブレーキや回生ブレーキを備え、制動によるエネルギーを電気に変換して、前記非水電解質二次電池に充電する機構を備えていてもよい。
【実施例】
【0095】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。なお、以下に炭素質材料の物性値の測定法を記載するが、実施例を含めて、本明細書中に記載する物性値は、以下の方法により求めた値に基づく。
【0096】
(1)平均粒子径D50および粒度分布指数D50/D10の測定および算出
炭素前駆体および炭素質材料の平均粒子径D50(粒度分布)は、レーザー散乱法により以下の通りに測定した。後述する実施例および比較例で調製した炭素前駆体および炭素質材料の試料を界面活性剤(和光純薬工業(株)製「ToritonX100」)が0.3質量%含まれた水溶液に投入し、超音波洗浄器で10分以上処理し、水溶液中に分散させた。この分散液を用いて粒度分布を測定した。粒度分布測定は、粒子径・粒度分布測定器(日機装(株)製「マイクロトラックMT3000」)を用いて、溶媒屈折率を1.33、粒子透過性を吸収とし行った。累積体積が50%となる粒子径を、平均粒子径D50とした。
また、累積体積が10%となる粒子径をD10とし、以下式を用いて粒度分布指数D50/D10を算出した。
粒度分布指数D50/D10=平均粒子径D50/D10
【0097】
(2)BET比表面積の測定
本明細書において、炭素質材料および炭素前駆体の比表面積は、BET法(窒素吸着BET3点法)により定められる(BET比表面積)。以下にBETの式から誘導された近似式を記す。
【0098】
【0099】
上記の近似式を用いて、液体窒素温度における、窒素吸着による3点法によりvmを求め、以下の式により試料の比表面積を計算する。
【0100】
【0101】
このとき、vmは試料表面に単分子層を形成するに必要な吸着量(cm3/g)、vは実測される吸着量(cm3/g)、p0は飽和蒸気圧、pは絶対圧、cは定数(吸着熱を反映)、Nはアボガドロ数6.022×1023、a(nm2)は吸着質分子が試料表面で占める面積(分子占有断面積)である。
【0102】
より詳細には、例えば日本BELL社製「BELL Sorb Mini」を用いて、次のようにして液体窒素温度における試料への窒素の吸着量を測定することができる。試料を試料管に充填し、試料管を-196℃に冷却した状態で、一旦減圧し、その後所望の相対圧にて試料に窒素(純度99.999%)を吸着させる。各所望の相対圧にて平衡圧に達した時の試料に吸着した窒素量を吸着ガス量vとする。
【0103】
(3)通気時流動エネルギーAEの測定
フリーマンテクノロジー社製のパウダーレオメーターFT4を用いて測定を行った。測定用容器(直径50mm、容積160mm3)にAEを測定する炭素質材料をすり切りまで充填(120mL)し装置に設置した後、装置底部より2mm/秒となる通気量で空気を通気し、ブレード(半径:48mm)を100mm/秒の翼先端速度で回転させながら進入させた。この際、ブレード先端が移動する螺旋角度αは5°であった。ブレード高さに応じたブレードの移動エネルギーを、下記式:
AE=T/(Rtanα)+F
に従い求め、通気時流動エネルギー(AE)を算出した。
【0104】
(4)X線回析法による(002)面の平均面間隔d
002
「株式会社リガク製MiniFlexII」を用い、炭素質材料粉末を試料ホルダーに充填し、Niフィルターにより単色化したCuKα線を線源とし、X線回折図形を得た。回折図形のピーク位置は重心法(回折線の重心位置を求め、これに対応する2θ値でピーク位置を求める方法)により求め、標準物質用高純度シリコン粉末の(111)面の回折ピークを用いて補正した。CuKα線の波長λを0.15418nmとし、以下に記すBraggの公式(式(IV))によりd002を算出した。
【数4】
【0105】
1.実施例1
(1)炭素前駆体の調製
<調製例1>
気相脱灰:椰子殻を500℃で乾留した後に破砕し、平均粒子径約2mmの椰子殻チャーを得た。この椰子殻チャー100gに対して、塩化水素ガス1体積%を含む窒素ガスを18L/分の流量で供給しながら、900℃で30分間ハロゲン熱処理を実施した。その後、塩化水素ガスの供給のみを停止し、窒素ガスを18L/分の流量で供給しながら、さらに900℃で30分間熱処理することにより気相脱酸処理を実施し、炭素前駆体を得た。
【0106】
(2)炭素質材料の調製
一次粉砕工程:調製例1により得られた炭素前駆体を、ファインミルSF5(日本コークス製)を用いて平均粒子径D50が4.1μmになるよう粉砕した。
分級工程:一次粉砕後の炭素前駆体を、ラボクラッシールN-01(株式会社セイシン企業製)を用いて、1μm以下の体積割合が3.3体積%になるように分級した。
二次粉砕工程:分級後の炭素前駆体を、一次粉砕に用いたのと同じファインミルSF5ルを用いて平均粒子径D50が2.8μmになるよう粉砕し炭素前駆体を得た。その時のD50/D10は3.9であった。
焼成工程:上記で調製した炭素前駆体6.4gと、ポリスチレン(積水化成品工業株式会社製、平均粒子径400μm、残炭率1.2%)0.6gとを混合した。この混合物7gを試料層高さが約3mmとなるよう黒鉛製のサヤに入れ、株式会社モトヤマ製管状炉中において、毎分6Lの窒素流量下、毎分10℃の昇温速度で1250℃まで昇温した後、10分間保持し、自然冷却した。炉内温度が200℃以下に低下したことを確認し、炉内から炭素質材料を取り出した。得られた炭素質材料の平均粒子径D50、D50/D10、BET比表面積、AEおよび平均面間隔d002を測定した。結果を表1に示す。
【0107】
2.実施例2
一次粉砕工程:調製例1により得られた炭素前駆体を、ファインミルSF5(日本コークス製)を用いて平均粒子径D50が8.9μmになるよう粉砕した。
分級工程:一次粉砕後の炭素前駆体を、ラボクラッシールN-01(株式会社セイシン企業製)を用いて、1μm以下の体積割合が0体積%になるように分級した。
二次粉砕工程:分級後の炭素前駆体を、一次粉砕に用いたのと同じボールミルを用いて平均粒子径D50が2.9μmになるよう粉砕し炭素前駆体を得た。その時のD50/D10は3.9であった。
二次粉砕後、実施例1と同様に焼成処理を行い、炭素質材料を得た。得られた炭素質材料の平均粒子径D50、D50/D10、BET比表面積、AEおよび平均面間隔d002を測定した。結果を表1に示す。
【0108】
3.実施例3
一次粉砕工程:調製例1により得られた炭素前駆体を、ファインミルSF5(日本コークス製)を用いて平均粒子径D50が102μmになるよう粉砕した。
分級工程:一次粉砕後の炭素前駆体を、ラボクラッシールN-01(株式会社セイシン企業製)を用いて、1μm以下の体積割合が0体積%になるように分級した。
二次粉砕工程:分級後の炭素前駆体を、一次粉砕に用いたのと同じボールミルを用いて平均粒子径D50が2.8μmになるよう粉砕し炭素前駆体を得た。その時のD50/D10は3.1であった。
二次粉砕後、実施例1と同様に焼成処理を行い、炭素質材料を得た。得られた炭素質材料の平均粒子径D50、D50/D10、BET比表面積、AEおよび平均面間隔d002を測定した。結果を表1に示す。
【0109】
4.比較例1
調製例1により得られた炭素前駆体を、ファインミルSF5(日本コークス製)を用いて平均粒子径2.5μmに粉砕した。
その後分級および二次粉砕を行わず、実施例1と同様に焼成処理を行い、炭素質材料を得た。得られた炭素質材料の平均粒子径D50、D50/D10、BET比表面積、AEおよび平均面間隔d002を測定した。結果を表1に示す。
【0110】
5.比較例2
比較例1の一次粉砕と同様にして得られた炭素前駆体を、ラボクラッシールN-01(株式会社セイシン企業製)を用いて、1μm以下の体積割合が6.1体積%になるように分級した。
次いで、分級後の炭素前駆体を、一次粉砕に用いたのと同じボールミルを用いて平均粒子径D50が1.4μmになるよう粉砕した。その時のD50/D10は2.9であった。二次粉砕後、実施例1と同様に焼成処理を行い、炭素質材料を得た。得られた炭素質材料の平均粒子径D50、D50/D10、BET比表面積、AEおよび平均面間隔d002を測定した。結果を表1に示す。
【0111】
6.比較例3
一次粉砕工程:調製例1により得られた炭素前駆体を、ファインミルSF5(日本コークス製)を用いて平均粒子径D50が310μmになるよう粉砕した。
分級工程:一次粉砕後の炭素前駆体を、ラボクラッシールN-01(株式会社セイシン企業製)を用いて、1μm以下の体積割合が0体積%になるように分級した。
二次粉砕工程:分級後の炭素前駆体を、一次粉砕に用いたのと同じボールミルを用いて平均粒子径D50が2.6μmになるよう粉砕し炭素前駆体を得た。その時のD50/D10は1.9であった。
二次粉砕後、実施例1と同様に焼成処理を行い、炭素質材料を得た。得られた炭素質材料の平均粒子径D50、D50/D10、BET比表面積、AEおよび平均面間隔d002を測定した。結果を表1に示す。
【0112】
7.比較例4
一次粉砕工程:調製例1により得られた炭素前駆体を、ファインミルSF5(日本コークス製)を用いて平均粒子径D50が8.9μmになるよう粉砕した。
分級工程:一次粉砕後の炭素前駆体を、ラボクラッシールN-01(株式会社セイシン企業製)を用いて、1μm以下の体積割合が0体積%になるように分級した。
その後、二次粉砕を行わず、実施例1と同様に焼成処理を行い、炭素質材料を得た。得られた炭素質材料の平均粒子径D50、D50/D10、BET比表面積、AEおよび平均面間隔d002を測定した。結果を表1に示す。
【0113】
8.比較例5
一次粉砕工程:調製例1により得られた炭素前駆体を、ファインミルSF5(日本コークス製)を用いて平均粒子径D50が25μmになるよう粉砕した。
分級工程:一次粉砕後の炭素前駆体を、ラボクラッシールN-01(株式会社セイシン企業製)を用いて、1μm以下の体積割合が0体積%になるように分級した。
その後、二次粉砕を行わず、実施例1と同様に焼成処理を行い、炭素質材料を得た。得られた炭素質材料の平均粒子径D50、D50/D10、BET比表面積、AEおよび平均面間隔d002を測定した。結果を表1に示す。
【0114】
9.比較例6
実施例2で得られた炭素前駆体を、ラボクラッシールN-01(株式会社セイシン企業製)を用いて、D50が3.4μmになるよう分級処理を行った。
その後、実施例1と同様に焼成処理を行い、炭素質材料を得た。得られた炭素質材料の平均粒子径D50、D50/D10、BET比表面積、AEおよび平均面間隔d002を測定した。結果を表1に示す。
【0115】
10.比較例7
比較例5で得られた炭素前駆体を、ラボクラッシールN-01(株式会社セイシン企業製)を用いて、D50が51.0μmになるよう分級処理を行った。
その後、実施例1と同様に焼成処理を行い、炭素質材料を得た。得られた炭素質材料の平均粒子径D50、D50/D10、BET比表面積、AEおよび平均面間隔d002を測定した。結果を表1に示す。
【0116】
11.比較例8
一次粉砕工程:調製例1により得られた炭素前駆体を、ファインミルSF5(日本コークス製)を用いて平均粒子径D50が4.1μmになるよう粉砕した。
分級工程:一次粉砕後の炭素前駆体を、ラボクラッシールN-01(株式会社セイシン企業製)を用いて、1μm以下の体積割合が3.3体積%になるように分級した。
二次粉砕工程:分級後の炭素前駆体を、一次粉砕に用いたのと同じボールミルを用いて平均粒子径D50が0.9μmになるよう粉砕し炭素前駆体を得た。その時のD50/D10は2.2であった。
二次粉砕後、実施例1と同様に焼成処理を行い、炭素質材料を得た。得られた炭素質材料の平均粒子径D50、D50/D10、BET比表面積、AEおよび平均面間隔d002を測定した。結果を表1に示す。
【0117】
12.実施例4
ブレンド:実施例2の炭素前駆体と比較例4の炭素前駆体とを、質量比で1:1になるように混合し、炭素前駆体の混合物を得た。
得られた炭素前駆体の混合物に、実施例1と同様にポリスチレンを加え焼成処理を行い、炭素質材料を得た。得られた炭素質材料の平均粒子径D50、D50/D10、BET比表面積、AEおよび平均面間隔d002を測定した。結果を表1に示す。
【0118】
13.実施例5
ブレンド:実施例2の炭素前駆体と比較例5の炭素前駆体とを、質量比で1:1になるように混合し、炭素前駆体の混合物を得た。
得られた炭素前駆体の混合物に、実施例1と同様にポリスチレンを加え焼成処理を行い、炭素質材料を得た。得られた炭素質材料の平均粒子径D50、D50/D10、BET比表面積、AEおよび平均面間隔d002を測定した。結果を表1に示す。
【0119】
14.実施例6
ブレンド:実施例2の炭素前駆体と比較例7の炭素前駆体とを、質量比で1:1になるように混合し、炭素前駆体の混合物を得た。
得られた炭素前駆体の混合物に、実施例1と同様にポリスチレンを加え焼成処理を行い、炭素質材料を得た。得られた炭素質材料の平均粒子径D50、D50/D10、BET比表面積、AEおよび平均面間隔d002を測定した。結果を表1に示す。
【0120】
15.比較例9
ブレンド:比較例2の炭素前駆体と比較例4の炭素前駆体とを、質量比で1:1になるように混合し、炭素前駆体の混合物を得た。
得られた炭素前駆体の混合物に、実施例1と同様にポリスチレンを加え焼成処理を行い、炭素質材料を得た。得られた炭素質材料の平均粒子径D50、D50/D10、BET比表面積、AEおよび平均面間隔d002を測定した。結果を表1に示す。
【0121】
16.比較例10
一次粉砕工程:調製例1により得られた炭素前駆体を、ファインミルSF5(日本コークス製)を用いて平均粒子径D50が4.1μmになるよう粉砕した。
分級工程:一次粉砕後の炭素前駆体を、ラボクラッシールN-01(株式会社セイシン企業製)を用いて、1μm以下の体積割合が3.3体積%になるように分級した。
二次粉砕工程:分級後の炭素前駆体を、一次粉砕に用いたのと同じボールミルを用いて平均粒子径D50が1.2μmになるよう粉砕し炭素前駆体を得た。その時のD50/D10は2.5であった。
二次粉砕後、実施例1と同様に焼成処理を行い、炭素質材料を得た。得られた炭素質材料の平均粒子径D50、D50/D10、BET比表面積、AEおよび平均面間隔d002を測定した。結果を表1に示す。
【0122】
17.実施例7
ブレンド:比較例4の炭素前駆体と比較例10の炭素前駆体とを、質量比で55:45になるように混合し、炭素前駆体の混合物を得た。
得られた炭素前駆体の混合物に、実施例1と同様にポリスチレンを加え焼成処理を行い、炭素質材料を得た。得られた炭素質材料の平均粒子径D50、D50/D10、BET比表面積、AEおよび平均面間隔d002を測定した。結果を表1に示す。
【0123】
【0124】
実施例および比較例で得られた炭素質材料を用いて、以下の方法に従い電池特性を評価した。各結果を表2に示す。
【0125】
<電極の作成、電極の状態確認>
実施例および比較例で得られた各炭素質材料96.2質量部、導電性カーボンブラック(TIMCAL製「Super-P(登録商標)」)2質量部、CMC1質量部、SBR0.8質量部および水を混合し、スラリーを得た。得られたスラリーをそれぞれ銅箔に塗布し、乾燥後プレスして負極(負極層)を得た。
【0126】
<電極密度>
負極層の厚さは、作製された負極層の厚さを、マイクロメーターにより測定した後に集電板の厚みを差し引いた数値とした。
電極密度(g/cm3)は、負極層を作製する際に、それぞれスラリー中に混合した炭素質材料の質量(g)を、作製された負極層の体積(cm3)で除した数値(g/cm3)とした。なお、負極層の体積は、負極層の厚みと負極層の直径(14mm)を用いて算出した。評価可能な電極が作成できた場合に電極状態を○と評価し、電極作成時にダマ、気泡、負極層の脱落等が発生し評価不可能な電極となった場合に電極状態を×と評価した。
【0127】
<充電容量、放電容量、充放電効率および初期直流抵抗の測定>
上記で作製した各電極を作用極とし、金属リチウムを対極および参照極として使用した。溶媒として、エチレンカーボネートとメチルエチルカーボネートとの混合物(体積比3:7)を用いた。この溶媒に、LiPF6を1mol/L溶解し、電解質として用いた。セパレータにはガラス繊維不織布を使用した。アルゴン雰囲気下のグローブボックス内でコインセルをそれぞれ作製した。
上記構成のリチウムイオン二次電池について、充放電試験装置(東洋システム株式会社製、「TOSCAT」)を用いて充放電試験を行った。初期直流抵抗は、0.5mAを3秒間流したときに発生する抵抗値とした。リチウムのドーピングは、活物質質量に対し70mA/gの速度で行い、リチウム電位に対して1mVになるまでドーピングした。さらにリチウム電位に対して1mVの定電圧を8時間印加して、ドーピングを終了した。このときの容量(mAh/g)を充電容量とした。次いで、活物質質量に対し70mA/gの速度で、リチウム電位に対して2.5Vになるまで脱ドーピングを行い、このとき放電した容量を放電容量とした。放電容量×電極密度を体積容量とした。放電容量/充電容量の百分率を充放電効率とし、電池内におけるリチウムイオンの利用効率の指標とした。
【0128】