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7584438磁場溶融型はんだおよびそれを用いた接合方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】磁場溶融型はんだおよびそれを用いた接合方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/22 20060101AFI20241108BHJP
   B23K 1/00 20060101ALI20241108BHJP
   B23K 1/002 20060101ALI20241108BHJP
   B23K 35/26 20060101ALN20241108BHJP
   C22C 12/00 20060101ALN20241108BHJP
   C22C 13/00 20060101ALN20241108BHJP
   C22C 13/02 20060101ALN20241108BHJP
【FI】
B23K35/22 310B
B23K1/00 330E
B23K1/002
B23K35/26 310A
B23K35/26 310C
C22C12/00
C22C13/00
C22C13/02
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021561347
(86)(22)【出願日】2020-11-18
(86)【国際出願番号】 JP2020043050
(87)【国際公開番号】W WO2021106720
(87)【国際公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-05-20
【審判番号】
【審判請求日】2023-09-14
(31)【優先権主張番号】P 2019213372
(32)【優先日】2019-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000199197
【氏名又は名称】千住金属工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 陽也
(72)【発明者】
【氏名】冨塚 健一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 久彦
(72)【発明者】
【氏名】金澤 賢司
(72)【発明者】
【氏名】植村 聖
(72)【発明者】
【氏名】中村 考志
(72)【発明者】
【氏名】西岡 将輝
【合議体】
【審判長】粟野 正明
【審判官】井上 猛
【審判官】土屋 知久
(56)【参考文献】
【文献】特許第2849208(JP,B2)
【文献】特開平8-46353(JP,A)
【文献】米国特許第5573859(US,A)
【文献】中国特許出願公開第108608130(CN,A)
【文献】特開平11-47977(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/14-35/26
B23K 1/00-1/002
H05K 3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流磁場の作用により溶融する磁場溶融型はんだであって、
はんだ材料と、
フェライトまたはNiからなる磁性体材料と、
を備え、
前記磁場溶融型はんだの全体に対する前記磁性体材料の割合が0.005~5質量%であることを特徴とする磁場溶融型はんだ。
【請求項2】
請求項1に記載の磁場溶融型はんだであって、
前記割合の上限値が0.9質量%である
ことを特徴とする磁場溶融型はんだ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の磁場溶融型はんだであって、
前記割合の下限値が0.1質量%である
ことを特徴とする磁場溶融型はんだ。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1項に記載の磁場溶融型はんだであって、
前記はんだ材料を含むはんだ層と、
前記はんだ層の表面に設けられ、前記磁性体材料を含む磁性体層と、
を備えることを特徴とする磁場溶融型はんだ。
【請求項5】
請求項1~3の何れか1項に記載の磁場溶融型はんだであって、
前記はんだ材料を含むはんだ粒子と、
前記はんだ粒子の内部に設けられ、前記磁性体材料を含む磁性体粒子と、
を備えることを特徴とする磁場溶融型はんだ。
【請求項6】
請求項1~3の何れか1項に記載の磁場溶融型はんだであって、
フラックスを更に含む
ことを特徴とする磁場溶融型はんだ。
【請求項7】
請求項1~6の何れか1項に記載の磁場溶融型はんだを用いた接合方法であって、
基板上の電極と、電子部品の電極との間に前記磁場溶融型はんだを設ける工程と、
前記基板の周囲に交流磁場を発生させて前記磁場溶融型はんだを溶融させることにより、前記基板上の電極と、前記電子部品の電極とを接合する工程と、
を備えることを特徴とする接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流磁場の作用により溶融するはんだおよびそれを用いた接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、磁性体粒子を含むはんだ継手を開示する。このはんだ継手は、次の方法により得られる。まず、はんだ材料と磁性体粒子の混合物が加熱される。これにより、はんだ粒子の溶融マトリックスが形成される。続いて、溶融マトリックスの周囲に磁場が印加される。磁場が印加されると、未溶融状態の磁性体粒子が磁場の方向に整列する。続いて、溶融マトリックスが冷却される。溶融マトリックスの冷却は、磁場の印加の最中、または、磁場の印加の終了後に行われる。これにより、はんだマトリックス内に磁性体粒子が配列されたはんだ継手が得られる。
【0003】
特許文献2は、マイクロ波加熱装置を開示する。この加熱装置は、空洞共振器内にマイクロ波を特定の定在波として発生させる。この加熱装置は、また、マイクロ波の周波数の調整により、空洞共振器内の電場および磁場の分布状態を所望の状態に制御する。分布状態が所望の状態に制御されると、電界強度が極めて低く、且つ、磁界強度の高い領域が空洞共振器の中心軸の位置に作り出される。この加熱装置は、更に、加熱対象を搬送してこの領域を通過させる。加熱対象は、マイクロ波の電界成分の作用を受けることなく、マイクロ波の磁界成分により加熱される。尚、加熱対象としては、はんだが配置された電極パターンが例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本特開平6-277871号公報
【文献】日本特開2019-136771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1において磁場の印加が行われるのは、磁性体粒子の配列がはんだ継手の機械的特性の改善に有効だからである。故に、特許文献1では、はんだ材料が溶融した後に磁場の印加が行われる。この点、特許文献2では、加熱対象の加熱のために磁場の印加が行われる。従って、特許文献1の技術と特許文献2のそれとでは、磁場の利用目的および印加時期において異なる。
【0006】
特許文献2の技術によれば、磁界成分の作用によって直接的または間接的にはんだを加熱して溶融させることが可能である。ただし、特許文献2の技術は、電場および磁場の分布状態の制御に特徴を有するものである。そのため、溶融対象である「はんだ」の観点からの検討が求められる。
【0007】
本発明の目的は、磁場の作用により溶融することが可能な新規なはんだおよびそれを用いた接合方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討を重ねた結果、磁性体材料をはんだ材料に添加することにより、交流磁場が印加されたときのはんだ材料の昇温速度を増加させることができることを見出した。本発明者らは、また、はんだ全体に対する磁性体材料の割合を所定範囲にすることで、はんだの接合機能への影響を抑えながらこの効果を得ることができることを見出した。本発明は、これらの知見に基づき更に検討を重ね、完成されるに至ったものである。
【0009】
第1の発明は、交流磁場の作用により溶融する磁場溶融型はんだであり、次の特徴を有する。
前記磁場溶融型はんだは、
はんだ材料と、フェライトまたはNiからなる磁性体材料と、を備える。
前記磁場溶融型はんだの全体に対する前記磁性体材料の割合は、0.005~5質量%である
【0010】
第2の発明は、第1の発明において更に次の特徴を有する。
前記割合の上限値は、0.9質量%である。
【0011】
第3の発明は、第1または2の発明において更に次の特徴を有する。
前記割合の下限値は、0.1質量%である。
【0013】
の発明は、第1~の発明の何れか1つにおいて更に次の特徴を有する。
前記磁場溶融型はんだは、
前記はんだ材料を含むはんだ層と、
前記はんだ層の表面に設けられ、前記磁性体材料を含む磁性体層と、
を備える。
【0014】
の発明は、第1~の発明の何れか1つにおいて更に次の特徴を有する。
前記磁場溶融型はんだは、
前記はんだ材料を含むはんだ粒子と、
前記はんだ粒子の内部に設けられ、前記磁性体材料を含む磁性体粒子と、
を備える。
【0015】
の発明は、第1~の発明の何れか1つにおいて更に次の特徴を有する。
前記磁場溶融型はんだは、フラックスを更に含む。
【0016】
の発明は、第1~の発明の何れか1つの磁場溶融型はんだを用いた接合方法である。
前記接合方法は、
基板上の電極と、電子部品の電極との間に前記磁場溶融型はんだを設ける工程と、
前記基板の周囲に交流磁場を発生させて前記磁場溶融型はんだを溶融させることにより、前記基板上の電極と、前記電子部品の電極とを接合する工程と、
を備える。
【発明の効果】
【0017】
はんだ材料および磁性体粒子は、交流磁場の作用により発熱する。ただし、磁性体粒子は、交流磁場の作用により素早く発熱するため、周囲のはんだ材料が加熱される。そのため、交流磁場の作用による発熱と、周囲の磁性体粒子による加熱とにより、はんだ材料の昇温が促進される。そして、本発明は、はんだ材料と、磁性体粒子とを含む磁場溶融型のはんだである。従って、本発明によれば、はんだ材料を短時間で溶融させることが可能となる。
【0018】
ただし、磁性体材料によるはんだ本来の接合機能への寄与は低く、磁性体材料の割合が多くなり過ぎると接合機能に支障をきたす。この点、本発明に係る磁場溶融型はんだによれば、はんだ全体に対する磁性体材料の割合が0.005~質量%とされる。従って、接合機能への影響を抑えながら、接合時間を短縮することが可能となる。
【0019】
また、本発明に係る接合方法によれば、基板の周囲に発生させた交流磁場により本発明に係る磁場溶融型はんだを溶融させて、基板上の電極と電子部品の電極とを接合できる。つまり、局所的に発生させた交流磁場により磁場溶融型はんだを短時間で溶融させて、これらの電極の間を電気的に接続することが可能となる。従って、基板および電子部品が受ける熱的な影響を最小限に抑えながら、両者をはんだ接合することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施の形態に係るはんだが適用された成形はんだの断面模式図である。
図2】実施の形態に係るはんだが適用されたはんだボールの断面模式図である。
図3】実施の形態に係るはんだが適用されたはんだペーストの断面模式図である。
図4】実施の形態に係るはんだを用いた第1の接合方法の例を説明する図である。
図5】実施の形態に係るはんだを用いた第2の接合方法の例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
まず、本発明の実施の形態に係るはんだについて説明する。尚、「~」を用いて数値範囲が表される場合、その両端の数値は下限値および上限値として数値範囲に含まれる。
【0022】
1.磁場溶融型はんだ
本実施の形態に係るはんだは、交流磁場の作用により溶融する磁場溶融型はんだである。本実施の形態に係るはんだは、磁性体材料およびはんだ材料を必須成分として含む。
【0023】
1.1 磁性体材料
磁性体材料は、交流磁場に置かれると、少なくともヒステリシス損失により発熱する性質を有する。「少なくともヒステリシス損失」とした理由は、渦電流損失が想定されるためである。磁性体材料が導体の場合、ヒステリシス損失および渦電流損失により磁性体材料が発熱する。磁性体材料は、特に限定されない。磁性体材料としては、強磁性金属、常磁性金属および反磁性金属から選ばれる1種類の金属が例示される。
【0024】
強磁性金属としては、Ni、Co、Fe、Gd、Tbなどが例示される。常磁性金属としては、Y、Mo、Smなどが例示される。反磁性金属としては、Cu、Zn、Biなどが例示される。磁性体材料としては、上述した金属のうちの少なくとも1種類を含む合金、酸化物または窒化物が例示される。強磁性金属酸化物としては、Fe、γ-Fe、Feを主成分とするフェライトなどが例示される。常磁性金属酸化物としては、Nd、Tb、Smなどが例示される。反磁性金属酸化物としては、CoO、NiO、α-Fe、Crなどが例示される。強磁性金属窒化物としては、FeNが例示される。
【0025】
磁性体材料の磁性は、強くなるほどヒステリシス損失が大きくなる。ヒステリシス損失が大きくなるほど単位時間あたりの発熱量が多くなる。単位時間あたりの発熱量が多くなれば、磁性体材料による周囲の加熱が促進される。従って、磁性体材料による加熱を促進する観点からすると、磁性体材料は強磁性を有することが好ましい。具体的に、強磁性金属、その酸化物および窒化物、並びに、強磁性合金、その酸化物および窒化物から選ばれる少なくとも1つが磁性体材料として好ましい。
【0026】
磁性体材料の割合は、0.005~20質量%(wt%)である。この割合は、磁場溶融型はんだの全体を基準として算出される。上限値を20質量%としている理由は、上限値が20質量%よりも大きいと、溶融状態にあるはんだ材料が凝集し難くなり、はんだ本来の接合機能に支障をきたすからである。この接合機能への影響を抑える観点からすると、上限値は、5質量%であることが好ましく、0.9質量%であることがより好ましく、0.5質量%であることが更に好ましい。
【0027】
1.2 はんだ材料
はんだ材料は、交流磁場に置かれると、少なくとも渦電流損失により発熱する性質を有する。「少なくとも渦電流損失」とした理由は、ヒステリシス損失が想定されるためである。はんだ材料が磁性を有する場合、渦電流損失およびヒステリシス損失によりはんだ材料が発熱する。はんだ材料が発熱してその温度が融点(固相線温度または液相線温度をいう。以下同じ。)を超えると、はんだ材料は溶融する。
【0028】
ここで、交流磁場に置かれた磁性体材料は、はんだ材料よりも素早く発熱して高温化する。そのため、はんだ材料が磁性体材料と同一の交流磁場に置かれると、はんだ材料は、周囲の磁性体材料により加熱される。つまり、はんだ材料と磁性体材料が同一の交流磁場に置かれると、はんだ材料が単独で交流磁場に置かれた場合に比べて昇温速度が増加し、短い時間で融点を超えることになる。
【0029】
はんだ材料は特に限定されず、各種のはんだ合金を使用することができる。各種のはんだ合金には、二元系合金および三元系以上の多元系合金が含まれる。二元系合金としては、Sn-Sb系合金、Sn-Pb系合金、Sn-Cu系合金、Sn-Ag系合金、Sn-Bi系合金、Sn-In系合金などが例示される。多元系合金としては、上述した二元系合金に、Sb、Bi、In、Cu、Zn、As、Ag、Cd、Fe、Ni、Co、Au、GeおよびPからなる群から選ばれる1種類以上の金属を添加したものが例示される。
【0030】
1.3 フラックス
本実施の形態に係るはんだは、フラックスを任意成分として含む。フラックスは特に限定されず、一般的なフラックスを使用することができる。フラックスは、樹脂(ベース樹脂)と、溶剤と、各種添加剤とを含む。樹脂としては、ロジン系樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などが例示される。溶剤としては、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノールなどのアルコール類、トルエン、キシレンなどの炭化水素類、酢酸イソプロピル、安息香酸ブチルなどのエステル類、エチレングリコール、ヘキシルジグリコールなどのグリコールエーテル類などが例示される。各種添加剤としては、活性剤、チキソ剤、酸化防止剤、界面活性剤、消泡剤、腐食防止剤などが例示される。
【0031】
本実施の形態に係るはんだがフラックスを含む場合、磁場溶融型はんだの全体に対するフラックスの割合に特に限定はない。フラックスの割合としては、5~95質量%が例示される。
【0032】
2. 磁場溶融型はんだの具体例
2.1 成形はんだ
本実施の形態に係るはんだは、成形はんだに適用される。成形はんだの形状としては、リボン形状、ディスク形状、ワッシャー形状、チップ形状およびリング形状が例示される。図1は、本実施の形態に係るはんだが適用された成形はんだ10の断面模式図である。図1に示されるように、成形はんだ10は、はんだ層11と、磁性体層12とを備える。
【0033】
はんだ層11は、はんだ材料を含み、磁性体材料を含まない。はんだ層11は、当業界において一般的に知られた方法により製造される一般的な成形はんだである。はんだ層11は、その内部にフラックスを有していてもよい。フラックスは特に限定されず、各種のフラックスが使用される。はんだ層11は、その表面がフラックスでコーティングされていてもよい。
【0034】
磁性体層12は、はんだ層11の表面に設けられる。磁性体層12は、磁性体材料およびバインダを含み、はんだ材料を含まない。磁性体層12は、はんだ層11の表面に、磁性体材料とバインダの混合物を塗布することにより形成される。バインダは、磁性体層12がはんだ層11から分離することを抑制するものであれば特に限定されない。バインダとしては、フラックスが例示される。
【0035】
2.2 はんだボール
本実施の形態に係るはんだは、はんだボールにも適用される。はんだボールは、例えばBGA(ボール・グリッド・アレイ)などの半導体パッケージに使用される。はんだボールは、当業界において一般的に知られた方法により製造される。
【0036】
図2は、本実施の形態に係るはんだが適用されたはんだボール20の断面模式図である。図2に示されるように、はんだボール20は、はんだ粒子21と、磁性体粒子22とを含んでいる。はんだ粒子21は、はんだ材料を含み、磁性体材料を含まない。はんだ粒子21は、その表面がフラックスでコーティングされていてもよい。フラックスは特に限定されず、各種のフラックスが使用される。磁性体粒子22は、はんだ粒子21の内部に設けられる。つまり、磁性体粒子22は、はんだボール20のコアを構成する。磁性体粒子22は、磁性体材料を含み、はんだ材料を含まない。
【0037】
2.3 はんだペースト
本実施の形態に係るはんだは、はんだペーストにも適用される。図3は、本実施の形態に係るはんだが適用されたはんだペースト30の断面模式図である。図3に示されるように、はんだペースト30は、はんだ粒子31と、磁性体粒子32と、フラックス33とを含んでいる。はんだ粒子31は、はんだ材料を含み、磁性体材料を含まない。磁性体粒子32は、磁性体材料を含み、はんだ材料を含まない。フラックス33は、はんだ粒子31と磁性体粒子32のバインダとして添加される。フラックス33は特に限定されず、各種のフラックスが使用される。
【0038】
3.磁場溶融型はんだを用いた接合方法の例
3.1 誘導加熱装置による接合
図4は、本実施の形態に係るはんだを用いた第1の接合方法の例を説明する図である。図4に示される誘導加熱装置40は、加熱コイル41と、インバータ回路42と、制御回路43と、コンベヤ44と、温度センサ45とを備えている。尚、本実施の形態に係るはんだは、電子部品ECの電極と、プリント基板PBに印刷された電極パターンとを接合するための「はんだSD」として、電子部品ECとプリント基板PBの間に配置されている。電子部品ECとしては、ICチップが例示される。
【0039】
加熱コイル41は、コンベヤ44の背面に設けられる。加熱コイル41は、はんだSDを含む回路基板CBの全体を、誘導加熱により加熱する。インバータ回路42は、交流電源(不図示)からの電力の供給を受けて、加熱コイル41に高周波電流を供給する。制御回路43は、マイクロコンピュータから構成される。制御回路43は、制御回路43に入力される各種信号に基づいて、インバータ回路42の駆動を制御する。各種信号には、駆動要求信号と、回路基板CBの周辺の温度を示す信号と、が含まれる。コンベヤ44は、回路基板CBを搬送する。温度センサ45は、回路基板CBの周辺の温度を検出する。温度センサ45は、画像処理により温度分布の情報を生成してもよい。
【0040】
図4に示される例では、コンベヤ44の駆動により回路基板CBが加熱コイル41の位置まで搬送される。回路基板CBの搬送をこの位置で停止し、駆動要求信号に基づいてインバータ回路42を駆動する。そうすると、回路基板CBの周囲に交流磁場が発生し、渦電流損失およびヒステリシス損失により、はんだSDに含まれる磁性体材料が発熱する。また、渦電流損失による発熱と、磁性体材料による加熱と、により、はんだSDに含まれるはんだ材料が溶融する。つまり、はんだSDが溶融する。終了条件が満たされる場合、インバータ回路42の駆動が停止され、または、コンベヤ44の再駆動により回路基板CBが加熱コイル41の位置の外側まで搬送される。その後、はんだSDが冷やされると、電子部品ECの電極と、電極パターンとが電気的に接続される。尚、終了条件としては、回路基板CBの周囲の温度がはんだSDの融点に到達してから所定時間が経過することが例示される。
【0041】
3.2 マイクロ波加熱装置による接合
図5は、本実施の形態に係るはんだを用いた第2の接合方法の例を説明する図である。図5に示されるマイクロ波加熱装置50は、空洞共振器51と、マイクロ波供給装置52と、コンベヤ53と、コントローラ54と、電磁波センサ55と、温度センサ56とを備えている。尚、本実施の形態に係るはんだは、図4に示した例と同様に、電子部品ECとプリント基板PBの間に配置されている。
【0042】
空洞共振器51は、マイクロ波が照射される円筒型の内部空間を有する。マイクロ波供給装置52は、この内部空間にマイクロ波を特定の定在波として発生させる。特定の定在波としては、TM110と呼ばれる定在波が例示される。コンベヤ53は、回路基板CBが内部空間を通過するように回路基板CBを搬送する。コントローラ54は、各種信号に基づいて、マイクロ波供給装置52から照射するマイクロ波の周波数を調整する。各種信号には、駆動要求信号と、内部空間に発生した定在波の共振状況を示す信号と、回路基板CBの周辺の温度を示す信号と、が含まれる。電磁波センサ55は、定在波の共振状況を検知する。温度センサ56は、回路基板CBの周辺の温度を検出する。温度センサ56は、画像処理により温度分布の情報を生成してもよい。
【0043】
図5に示される例では、駆動要求信号に基づいてコントローラ54がマイクロ波供給装置52を駆動する。コントローラ54は、定在波の共振状況を示す信号に基づいてマイクロ波の発振周波数の目標値(目標周波数)を計算し、マイクロ波供給装置52に出力する。定在波が形成されたことが確認された場合、コンベヤ53が駆動されて回路基板CBが空洞共振器51内の特定の位置まで搬送される。特定の位置としては、内部空間の中心軸の位置が例示される。コントローラ54による目標周波数の計算は、回路基板CBの搬送中、繰り返し行われる。目標周波数の計算が繰り返されることで、電界強度が極めて低く、且つ、磁界強度の高い領域が特定の位置に作り出される。
【0044】
回路基板CBが特定の位置を通過すると、この位置に発生している交流磁場が回路基板CBに作用し、渦電流損失およびヒステリシス損失により、はんだSDに含まれる磁性体材料が発熱する。また、渦電流損失による発熱と、磁性体材料による加熱と、により、はんだSDに含まれるはんだ材料が溶融する。つまり、はんだSDが溶融する。終了条件が満たされる場合、マイクロ波供給装置52の駆動が停止され、または、コンベヤ53の再駆動により回路基板CBがマイクロ波供給装置52の外側まで搬送される。その後、はんだSDが冷やされると、電子部品ECの電極と、電極パターンとが電気的に接続される。コントローラ54は、回路基板CBの周辺の温度を示す信号に基づいて、マイクロ波の出力を調整する。例えば、コントローラ54は、回路基板CBの周囲の温度が所定温度に到達したら、出力を低下させる。別の例として、コントローラ54は、回路基板CBの周囲の温度がはんだSDの融点に近づくほど出力を大幅に低下させる。
【0045】
4.実施例
次に、本発明を実施例に基づいて詳細に説明する。
【0046】
4.1 実施例1
はんだペースト(千住金属工業株式会社製、組成:Sn-3.0Ag-0.5Cu,融点:217-220℃)および磁性体材料の粉末を擂り鉢にて混合し、サンプルペーストを調製した。次いで、ブレードコート法を用い、ポリイミドフィルム上に所定サイズ(縦1cm×横1cm×厚さ60μm)のサンプルEx.1-6を作製した。サンプルEx.1-6の組成を表1に示す。
【0047】
次いで、サンプルEx.1が形成されたポリイミドフィルムを円筒型の空洞共振器の中心軸の位置に設置した。この空洞共振器は、図5で説明した空洞共振器51である。次いで、空洞共振器内にTM110の定在波を形成し、サンプルEx.1を加熱した。マイクロ波の出力は160Wとした。マイクロ波の照射中、サーモカメラを用いてサンプルEx.1の温度Tを計測し、温度Tがはんだ材料の融点TMに到達するのに要する時間を計測した。昇温速度は、温度Tの初期計測値と融点TMの差を、計測された所要時間で除すことにより算出した。サンプルEx.1と同様の手法により、サンプルEx.2-6の昇温速度も算出した。
【0048】
比較用サンプルとして、はんだペーストのみを用いて1×1cmのサイズのサンプルRe.1を作製した。サンプルEx.1-6と同様の手法により、サンプルRe.1の昇温速度を計算した。
【0049】
各サンプルの昇温速度の算出後、サンプルRe.1の昇温速度を基準とする評価を行った。サンプルRe.1の昇温速度よりも昇温速度の速いサンプルを「A」と評価し、サンプルRe.1の昇温速度よりも昇温速度の遅いサンプルを「F」と評価した。評価結果を表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
表1に示されるように、サンプルEx.1-6の昇温速度は全て、サンプルRe.1のそれよりも速くなった。このことから、はんだ材料に磁性体材料を加えたサンプルは、比較用サンプルに比べて昇温速度が上昇することが分かった。
【0052】
4.2 実施例2
サンプルEx.1と同様の手法により、サンプルEx.7-14を作製した。サンプルEx.7-14の組成を表2に示す。次いで、サンプルEx.1と同様の手法により、サンプルEx.7-14の昇温速度を計算した。なお、マイクロ波の出力は50Wとした。各サンプルの昇温速度の算出後、サンプルRe.1の昇温速度を基準とする評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0053】
【表2】
【0054】
表2に示されるように、サンプルEx.7-14の昇温速度は全てサンプルRe.1のそれよりも速くなった。このことから、昇温速度の上昇効果は、磁性体材料の種類に関係なく得られることが分かった。また、磁性体材料の種類に着目したところ、強磁性を有する磁性体材料(Co、Fe-NiおよびFeN)は、常磁性または反磁性を有する磁性体材料(Y、Nd、Tb、SmおよびCo)に比べて昇温速度が速くなる傾向にあることが分かった。
【0055】
4.3 実施例3
低温系はんだペースト(千住金属工業株式会社製、組成:Sn-58Bi,融点:139℃)、高温系はんだペースト(千住金属工業株式会社製、組成:Sn-10Sb,融点:245-266℃)および磁性体材料を使用し、サンプルEx.1と同様の手法により、サンプルEx.15-36を作製した。また、比較用サンプルとして、はんだペーストのみを用いたサンプルRe.2,3を作製した。サンプルEx.15-36およびサンプルRe.2,3の組成を表3に示す。次いで、これらのサンプルの昇温速度を計算した。各サンプルの昇温速度の算出後、比較用サンプルの昇温速度を基準とする評価を行った。具体的には、サンプルEx.15-30について、サンプルRe.2の昇温速度よりも昇温速度の速いサンプルを「A」と評価し、サンプルRe.2の昇温速度よりも昇温速度の遅いサンプルを「F」と評価した。サンプルEx.31-36については、サンプルRe.3を基準として上記と同様の評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0056】
【表3】
【0057】
表3に示されるように、サンプルEx.15-30の昇温速度は全て、サンプルRe.2のそれよりも速くなった。サンプルEx.31-36の昇温速度は全て、サンプルRe.3のそれよりも速くなった。このことから、昇温速度の上昇効果は、はんだ材料の種類に関係なく得られることが分かった。
【0058】
4.4 実施例4
実施例3で使用した材料と同じ材料を使用し、サンプルEx.1と同様の手法により、磁性体材料の割合を変えたサンプルEx.37-56を作製した。次いで、最高温度および凝集性の観点から評価を行った。最高温度は、マイクロ波の照射を開始してから5秒の間におけるサンプルの温度の最高値である。最高温度がはんだ材料の融点以上のサンプルを「A」と評価し、そうでないサンプルを「F」と評価した。凝集性の評価は、溶融後のサンプルを目視することにより行った。はんだ材料の凝集が実用上問題ないレベルにあると判断されるサンプルを「A」と評価した。また、はんだ材料の凝集が一定レベル以上認められると判断されるサンプルを「C」と評価し、そうでないサンプルを「F」と評価した。評価結果を表4に示す。
【0059】
【表4】
【0060】
表4に示されるように、サンプルEx.40-46,50-56の最高温度は、マイクロ波の照射を開始してから5秒の間に融点に到達した。一方、サンプルEx.37-39,47-49の最高温度は、マイクロ波の照射を開始してから5秒の間に融点に到達しなかった。このことから、磁性体材料の割合が低いと、はんだ材料が短時間で溶融し難くなることが分かった。そこで、マイクロ波の出力条件を変えて最高温度を評価したところ、出力を高くすることで最高温度を所望値に調整できることも分かった。そのため、磁性体材料の種類および割合に応じてマイクロ波の出力を調整することが望ましいことも分かった。
【0061】
また、表4に示されるように、サンプルEx.37-44,47-54では、はんだ材料の凝集が実用上問題ないレベルにあると判断された。一方、サンプルEx.45,46,55,56では、はんだ材料の凝集が一定レベル以上にあると判断された。このことから、磁性体材料の割合が5質量%以下であればはんだ本来の接合機能への影響を抑えながら、昇温速度の上昇効果を得られることが分かった。
【符号の説明】
【0062】
10 成形はんだ
11 はんだ層
12 磁性体層
20 はんだボール
21 はんだ粒子
22 磁性体粒子
30 はんだペースト
31 はんだ粒子
32 磁性体粒子
33 フラックス
40 誘導加熱装置
41 加熱コイル
42 インバータ回路
43 制御回路
44,53 コンベヤ
45,56 温度センサ
50 マイクロ波加熱装置
51 空洞共振器
52 マイクロ波供給装置
54 コントローラ
55 電磁波センサ
EC 電子部品
PB プリント基板
SD 磁場溶融型はんだ
図1
図2
図3
図4
図5