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特許7584798炭素同素体表面が改質された物質の製造方法、炭素同素体表面に官能基が導入された物質の製造方法、クライオ電子顕微鏡用グリッドの製造方法、有機物質、クライオ電子顕微鏡用グリッド
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】炭素同素体表面が改質された物質の製造方法、炭素同素体表面に官能基が導入された物質の製造方法、クライオ電子顕微鏡用グリッドの製造方法、有機物質、クライオ電子顕微鏡用グリッド
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/05 20170101AFI20241111BHJP
   C01B 32/15 20170101ALI20241111BHJP
   C01B 32/156 20170101ALI20241111BHJP
   C01B 32/168 20170101ALI20241111BHJP
   C01B 32/194 20170101ALI20241111BHJP
   C01B 11/02 20060101ALI20241111BHJP
   H01J 37/20 20060101ALI20241111BHJP
【FI】
C01B32/05
C01B32/15
C01B32/156
C01B32/168
C01B32/194
C01B11/02 A
H01J37/20 A
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021509654
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2020014148
(87)【国際公開番号】W WO2020196858
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-12-20
(31)【優先権主張番号】P 2019061938
(32)【優先日】2019-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100115255
【弁理士】
【氏名又は名称】辻丸 光一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100154081
【弁理士】
【氏名又は名称】伊佐治 創
(74)【代理人】
【識別番号】100194515
【弁理士】
【氏名又は名称】南野 研人
(72)【発明者】
【氏名】井上 豪
(72)【発明者】
【氏名】淺原 時泰
(72)【発明者】
【氏名】大久保 敬
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 憲治
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 直幸
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 未果
(72)【発明者】
【氏名】中川 敦史
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 淳一
(72)【発明者】
【氏名】土井 健史
(72)【発明者】
【氏名】安達 宏昭
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-147723(JP,A)
【文献】特表2010-535148(JP,A)
【文献】特表2008-529952(JP,A)
【文献】特開2013-056805(JP,A)
【文献】特表2003-505332(JP,A)
【文献】特開2010-005428(JP,A)
【文献】特開2008-230880(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B
H01J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素同素体表面をハロゲン酸化物ラジカルと反応させる表面処理工程を含み、
前記表面処理工程により、前記炭素同素体表面を改質し、
前記表面処理工程の反応系が、気体反応系であり、
前記表面処理工程において、反応系である気体反応系に光照射することを特徴とする、炭素同素体表面が改質された物質の製造方法。
【請求項2】
前記炭素同素体が、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、グラフェン、カーボンナノチューブ、フラーレン、ナノダイヤモンド、グラファイト、ダイヤモンド、カーボンナノホーン、または炭素繊維である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記表面処理工程により、前記炭素同素体表面を酸化し、
前記炭素同素体表面が改質された物質は、炭素同素体表面が酸化された物質である請求項1または2記載の製造方法。
【請求項4】
前記ハロゲン酸化物ラジカルが、二酸化塩素ラジカルであることを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1からのいずれか一項に記載の製造方法により、前記炭素同素体表面が改質された物質を製造する工程と、
前記改質された表面に官能基を導入する官能基導入工程とを含むことを特徴とする、炭素同素体表面に官能基が導入された物質の製造方法。
【請求項6】
前記官能基が、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アルデヒド基、カルボニル基、エーテル結合、およびエステル結合からなる群から選択される少なくとも一つである請求項記載の製造方法。
【請求項7】
炭素同素体表面をハロゲン酸化物ラジカルと反応させる表面処理工程を含む製造方法により、前記炭素同素体表面が改質された物質を製造する工程と、
前記改質された表面に官能基を導入する官能基導入工程と、
を含む、炭素同素体表面に官能基が導入された物質の製造方法により前記炭素同素体表面に官能基が導入された物質を製造する工程を含み、
前記表面処理工程により、前記炭素同素体表面を改質することを特徴とする、前記炭素同素体表面に官能基が導入された物質により形成されたクライオ電子顕微鏡用グリッドの製造方法。
【請求項8】
請求項1から4のいずれか一項に記載の炭素同素体表面が改質された物質の製造方法により得られる有機物質であり、
前記炭素同素体表面に水酸基、カルボキシ基、およびアルデヒド基からなる群から選択される少なくとも一つの置換基が導入され、さらに、前記置換基が他の官能基に変換された構造を有する有機物質。
【請求項9】
前記炭素同素体が、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、グラフェン、カーボンナノチューブ、フラーレン、ナノダイヤモンド、グラファイト、ダイヤモンド、カーボンナノホーン、または炭素繊維である請求項記載の有機物質。
【請求項10】
前記炭素同素体が、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)であり、前記ダイヤモンドライクカーボン(DLC)表面に官能基が導入されている、請求項1から4のいずれか一項に記載の炭素同素体表面が改質された物質の製造方法により得られる有機物質。
【請求項11】
前記官能基が、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アルデヒド基、カルボニル基、エーテル結合、およびエステル結合からなる群から選択される少なくとも一つである請求項から10のいずれか一項に記載の有機物質。
【請求項12】
炭素同素体表面に水酸基、カルボキシ基、およびアルデヒド基からなる群から選択される少なくとも一つの置換基が導入され、さらに、前記置換基が他の官能基に変換された構造を有する有機物質により形成されたクライオ電子顕微鏡用グリッド。
【請求項13】
ダイヤモンドライクカーボン(DLC)表面に官能基が導入された有機物質により形成されたクライオ電子顕微鏡用グリッド。
【請求項14】
前記官能基が、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アルデヒド基、カルボニル基、エーテル結合、およびエステル結合からなる群から選択される少なくとも一つである請求項12または13記載のクライオ電子顕微鏡用グリッド。
【請求項15】
請求項12から14のいずれか一項に記載のクライオ電子顕微鏡用グリッドに、クライオ電子顕微鏡による構造解析対象物質を結合させたクライオ電子顕微鏡用グリッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素同素体表面が改質された物質の製造方法、炭素同素体表面に官能基が導入された物質の製造方法、クライオ電子顕微鏡用グリッドの製造方法、有機物質、クライオ電子顕微鏡用グリッドに関する。
【背景技術】
【0002】
クライオ電子顕微鏡は、タンパク質等の物質の構造解析に用いられる(特許文献1等)。
【0003】
クライオ電子顕微鏡による構造解析対象物質(例えばタンパク質)の構造解析には、構造解析対象物質を捕捉するために、グラフェンまたはダイヤモンドライクカーボン(DLC)により形成された炭素グリッドが用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-250721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、炭素グリッドでタンパク質等の構造解析対象物質を捕捉した場合、炭素グリッド上で構造解析対象物質の偏在(局在化)、配向性の偏り等が起こり、構造解析に支障を来すおそれがある。
【0006】
そこで、本発明は、クライオ電子顕微鏡による構造解析において、構造解析対象物質の偏在、配向性の偏り等を抑制または防止可能な、炭素同素体表面が改質された物質の製造方法、炭素同素体表面に官能基が導入された物質の製造方法、クライオ電子顕微鏡用グリッドの製造方法、有機物質、クライオ電子顕微鏡用グリッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明による、炭素同素体表面が改質された物質の製造方法は、炭素同素体表面をハロゲン酸化物ラジカルと反応させる表面処理工程を含み、前記表面処理工程により、前記炭素同素体表面を改質することを特徴とする。
【0008】
本発明による、炭素同素体表面に官能基が導入された物質の製造方法は、
本発明による、炭素同素体表面が改質された物質の製造方法により、前記炭素同素体表面が改質された物質を製造する工程と、
前記改質された表面に官能基を導入する官能基導入工程とを含むことを特徴とする。
【0009】
本発明によるクライオ電子顕微鏡用グリッドの製造方法は、本発明による、炭素同素体表面に官能基が導入された物質の製造方法により前記炭素同素体表面に官能基が導入された物質を製造する工程を含むことを特徴とする、前記炭素同素体表面に官能基が導入された物質により形成されたクライオ電子顕微鏡用グリッドの製造方法である。
【0010】
本発明の第1の有機物質は、炭素同素体表面に水酸基、カルボキシ基、およびアルデヒド基からなる群から選択される少なくとも一つの置換基が導入され、さらに、前記置換基が他の官能基に変換された構造を有する有機物質である。
【0011】
本発明の第2の有機物質は、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)表面に官能基が導入された有機物質である。なお、以下において、本発明の第1の有機物質および本発明の第2の有機物質を、まとめて「本発明の有機物質」という場合がある。
【0012】
本発明のクライオ電子顕微鏡用グリッドは、本発明の有機物質により形成されたクライオ電子顕微鏡用グリッドである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、クライオ電子顕微鏡による構造解析において、構造解析対象物質の偏在、配向性の偏り等を抑制または防止可能な、炭素同素体表面が改質された物質の製造方法、炭素同素体表面に官能基が導入された物質の製造方法、クライオ電子顕微鏡用グリッドの製造方法、有機物質、クライオ電子顕微鏡用グリッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、気相中での反応を用いて前記表面処理工程を行う装置の一例を模式的に示す図である。
図2図2は、実施例におけるグラフェンの表面処理工程(酸化反応)前後のXPS測定結果を示すグラフである。
図3図3は、実施例におけるカーボンナノチューブの表面処理工程(酸化反応)前後のXPS測定結果を示すグラフである。
図4図4は、実施例におけるフラーレンの表面処理工程(酸化反応)前後のXPS測定結果を示すグラフである。
図5図5は、実施例におけるナノダイヤモンドの表面処理工程(酸化反応)前後のXPS測定結果を示すグラフである。
図6図6は、実施例におけるダイヤモンドライクカーボンの表面処理工程(酸化反応)前後のXPS測定結果を示すグラフである。
図7図7は、実施例における酸化反応後のフラーレンのMALDI/TOFMASの測定結果示すグラフである。
図8図8は、実施例においてローダミンBを結合させたグラフェンの蛍光強度測定結果を示すグラフである。
図9図9は、実施例においてローダミンBを結合させたナノダイヤモンドの蛍光強度測定結果を示すグラフである。
図10図10は、実施例において、未酸化(酸化反応前)のDLC担持グリッドをSulfo-NHSで処理し、さらにアポフェリチンで処理したもののネガティブ染色TEM画像である。
図11図11は、実施例において、表面処理工程(酸化反応)を10分間行った後のDLC担持グリッドをSulfo-NHSで処理し、さらにアポフェリチンで処理したもののネガティブ染色TEM画像である。
図12図12は、実施例において、未酸化(酸化反応前)のDLC担持グリッドを、エピクロロヒドリンまたはSulfo-NHSで処理せずに、直接アポフェリチンで処理したもののネガティブ染色TEM画像である。
図13図13は、実施例において、未酸化(酸化反応前)のDLC担持グリッドを、エピクロロヒドリンで処理し、さらにアポフェリチンで処理したもののネガティブ染色TEM画像である。
図14図14は、実施例において、表面処理工程(酸化反応)を10分間行った後のDLC担持グリッドをエピクロロヒドリンで処理し、さらにアポフェリチンで処理したもののネガティブ染色TEM画像である。
図15図15は、液体反応系を用いた表面処理工程の一例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について、例を挙げてさらに具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の説明により限定されない。
【0016】
本発明による、炭素同素体表面が改質された物質の製造方法は、例えば、前記炭素同素体が、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、グラフェン、カーボンナノチューブ、フラーレン、ナノダイヤモンド、グラファイト、ダイヤモンド、カーボンナノホーン、または炭素繊維であってもよい。
【0017】
本発明による、炭素同素体表面が改質された物質の製造方法は、例えば、前記表面処理工程により、前記炭素同素体表面を酸化し、前記炭素同素体表面が改質された物質は、炭素同素体表面が酸化された物質であってもよい。
【0018】
本発明による、炭素同素体表面が改質された物質の製造方法は、例えば、前記表面処理工程において、反応系に光照射しなくてもよい。
【0019】
本発明による、炭素同素体表面が改質された物質の製造方法は、例えば、前記表面処理工程の反応系が、気体反応系または液体反応系であってもよい。
【0020】
本発明による、炭素同素体表面が改質された物質の製造方法は、例えば、前記ハロゲン酸化物ラジカルが、二酸化塩素ラジカルであってもよい。
【0021】
本発明による、炭素同素体表面に官能基が導入された物質の製造方法は、例えば、前記官能基が、ヒドロキシ基(水酸基)、カルボキシ基、アルデヒド基(ホルミル基)、カルボニル基、エーテル結合、およびエステル結合からなる群から選択される少なくとも一つであってもよい。
【0022】
本発明の第1の有機物質は、例えば、前記炭素同素体が、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、グラフェン、カーボンナノチューブ、フラーレン、ナノダイヤモンド、グラファイト、ダイヤモンド、または炭素繊維であってもよい。
【0023】
本発明の有機物質は、例えば、前記官能基が、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アルデヒド基、カルボニル基、エーテル結合、およびエステル結合からなる群から選択される少なくとも一つであってもよい。
【0024】
本発明のクライオ電子顕微鏡用グリッドは、例えば、さらに、クライオ電子顕微鏡による構造解析対象物質を結合させたクライオ電子顕微鏡用グリッドであってもよい。
【0025】
本発明のクライオ電子顕微鏡用グリッドは、クライオ電子顕微鏡を用いた構造解析対象物質の構造解析方法に用いることができる。具体的な使用方法は特に限定されないが、例えば、一般的なクライオ電子顕微鏡用グリッドと同様の使用方法でもよい。前記構造解析対象物質も特に限定されないが、例えば、タンパク質、抗体、核酸、ウイルス、リボソーム、ミトコンドリア、イオンチャネル、酵素および酵素複合体からなる群から選択される少なくとも一つであってもよい。
【0026】
本発明において、前記表面処理工程によれば、前記炭素同素体表面を改質できる。本明細書において、前記表面処理工程を「改質処理」または「改質方法」という場合がある。前記表面処理工程により前記炭素同素体を酸化する場合、前記表面処理工程は、前記炭素同素体の酸化方法であるということができる。
【0027】
本発明において、塩とは、特に制限されず、例えば、酸付加塩でも、塩基付加塩でもよい。前記酸付加塩を形成する酸は、例えば、無機酸でも有機酸でもよく、前記塩基付加塩を形成する塩基は、例えば、無機塩基でも有機塩基でもよい。前記無機酸は、特に限定されず、例えば、硫酸、リン酸、フッ化水素酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、次亜フッ素酸、次亜塩素酸、次亜臭素酸、次亜ヨウ素酸、亜フッ素酸、亜塩素酸、亜臭素酸、亜ヨウ素酸、フッ素酸、塩素酸、臭素酸、ヨウ素酸、過フッ素酸、過塩素酸、過臭素酸、および過ヨウ素酸等があげられる。前記有機酸は、特に限定されず、例えば、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、シュウ酸、p-ブロモベンゼンスルホン酸、炭酸、コハク酸、クエン酸、安息香酸および酢酸等があげられる。前記無機塩基は、特に限定されず、例えば、水酸化アンモニウム、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、炭酸塩および炭酸水素塩等があげられ、より具体的には、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、水酸化カルシウムおよび炭酸カルシウム等があげられる。前記有機塩基は、特に限定されず、例えば、エタノールアミン、トリエチルアミンおよびトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン等があげられる。
【0028】
以下、本発明の実施形態について、例を挙げてさらに具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の実施形態に限定されない。
【0029】
[1.炭素同素体表面が改質された物質の製造方法]
本発明による、炭素同素体表面が改質された物質の製造方法は、前述のとおり、炭素同素体表面をハロゲン酸化物ラジカルと反応させる表面処理工程を含み、前記表面処理工程により、前記炭素同素体表面を改質することを特徴とする。
【0030】
(1)炭素同素体
前記炭素同素体は、特に限定されず、例えば、前述のとおり、ダイヤモンドライクカーボン(以下「DLC」と略す場合がある。)、グラフェン、カーボンナノチューブ、フラーレン、ナノダイヤモンド、グラファイト、ダイヤモンド、または炭素繊維であってもよい。前記カーボンナノチューブは、特に限定されないが、例えば、単層カーボンナノチューブであってもよい。後述するクライオ電子顕微鏡用グリッドに用いる場合は、グラフェンまたはDLCが好ましく、DLCが特に好ましい。
【0031】
また、本発明において、前記炭素同素体は、炭素以外の他の元素を含んでいても含んでいなくてもよい。前記他の元素としては、例えば、水素、酸素、窒素、硫黄、ホウ素、ケイ素、リン、各種金属元素等が挙げられる。前記炭素同素体は、例えば、骨格が炭素原子どうしの結合のみで形成され、表面に前記他の原子が結合していてもよい。例えば、前記炭素同素体は、表面に、水酸基、メチル基、カルボキシ基、アルデヒド基、カルボニル基、エーテル結合、エステル結合等の基が存在していてもよい。前記炭素同素体が前記他の元素を含む場合、その含有率は、特に限定されないが、例えば、原子数で、全体の40%以下、20%以下、または5%以下でもよく、例えば、原子数で、全体の0.01%以上、0.1%以上、または1%以上でもよい。
【0032】
本発明の前記表面処理工程によれば、例えば、後述するように、炭素同素体の表面を酸化して水酸基、カルボキシ基等の官能基を導入することができる。このメカニズムは明らかではないが、例えば、前記炭素同素体表面のメチル基等が酸化され、ヒドロキシメチル基、カルボキシ基等に変換されるためと推測される。ただし、この説明は、例示的な推測であり、本発明は、この説明により限定されない。
【0033】
(2)ハロゲン酸化物ラジカル
本発明において、前記ハロゲン酸化物ラジカルは、前記表面処理工程の反応系に含まれる。前記ハロゲン酸化物ラジカルは、例えば、前記反応系において生成させることで、前記反応系に含ませてもよいし、別途生成させた前記ハロゲン酸化物ラジカルを前記反応系に含ませてもよい。前記ハロゲン酸化物ラジカルの発生方法は、特に制限されない。前記ハロゲン酸化物ラジカルの発生は、具体例を後述する。
【0034】
前記ハロゲン酸化物ラジカルは、例えば、いずれか一種類でもよいし、二種類以上を併用してもよい。前記ハロゲン酸化物ラジカルは、例えば、改質する対象の炭素同素体の種類や、反応条件等に応じて、適宜選択できる。
【0035】
前記ハロゲン酸化物ラジカルは、例えば、F(二フッ化酸素ラジカル)、F (二フッ化二酸素ラジカル)、ClO (二酸化塩素ラジカル)、BrO (二酸化臭素ラジカル)、I5 (酸化ヨウ素(V))等のハロゲンの酸化物ラジカル等があげられる。
【0036】
(3)反応系
前記表面処理工程における前記反応系は、前記炭素同素体と前記ハロゲン酸化物ラジカルとを含む反応系である。前記反応系は、前述のとおり、例えば、気体反応系でもよいし、液体反応系でもよい。前記表面処理工程において、前記反応系に、例えば、光照射してもよいし、光照射しなくてもよい。すなわち、前記炭素同素体に光照射をしなくても、前記炭素同素体と前記ハロゲン酸化物ラジカルとを反応させることができる。前記炭素同素体に光照射をしなくてもよいことで、例えば、安全性の向上、コスト節減等の効果が得られる。例えば、前記表面処理工程の反応系とは別のラジカル生成用反応系で光照射によりハロゲン酸化物ラジカルを発生させ、前記表面処理工程の反応系では光照射をしなくてもよい。なお、前記ハロゲン酸化物ラジカルの発生方法自体も、前述のとおり、特に限定されず、光照射してもしなくてもよい。
【0037】
(3A)気体反応系
前記反応系が気体反応系の場合、例えば、前記ハロゲン酸化物ラジカルを含む前記気体反応系中に、前記炭素同素体を配置し、光照射する。ただし、本発明において、前記表面処理工程は、これに限定されない。例えば、前記炭素同素体表面を前記ハロゲン酸化物ラジカルと反応させることができれば、光照射せずに前記表面処理工程を行ってもよい。前記気体反応系は、例えば、前記ラジカルを含んでいればよく、前記気体反応系における気相の種類は、特に制限されず、空気、窒素、希ガス、酸素等である。
【0038】
本発明は、例えば、前記表面処理工程前または前記表面処理工程と同時に、前記気体反応系に対して、前記ハロゲン酸化物ラジカルを導入してもよいし、前記気体反応系に、前記ハロゲン酸化物ラジカルを発生させてもよい。前者の場合、例えば、前記ハロゲン酸化物ラジカルを含むガスを、気相に導入すればよい。後者の場合、例えば、後述するように、液相のラジカル生成用反応系で発生させた前記ハロゲン酸化物ラジカルを、気相に移行させることで導入してもよい。
【0039】
具体例として、前記ハロゲン酸化物ラジカルが前記二酸化塩素ラジカルの場合、例えば、前記気相に、二酸化塩素ガスを導入することによって、前記気相中に前記二酸化塩素ラジカルを存在させることができる。前記二酸化塩素ラジカルは、例えば、電気化学的方法により、前記気相中に発生させてもよい。
【0040】
(3B)液体反応系
前記反応系が液体反応系の場合、例えば、有機相を含む。前記液体反応系は、例えば、前記有機相のみを含む一相反応系でも、前記有機相と水相とを含む二相反応系でもよい。前記有機相のみを含む一相反応系の場合は、例えば、後述するように、前記ハロゲン酸化物ラジカルの発生源を含む水相を別途準備し、前記水相で前記ハロゲン酸化物ラジカルを生成させた後、前記水相に前記有機相を混合し、前記水相の前記ハロゲン酸化物ラジカルを前記有機相に溶解(抽出)させてもよい。
【0041】
(3B-1)有機相
前記有機相には、前述のとおり、前記炭素同素体が配置されており、例えば、前記ハロゲン酸化物ラジカルを含み且つ前記炭素同素体が配置された有機溶媒の相である。
【0042】
前記有機溶媒は、特に限定されない。前記有機溶媒は、例えば、1種類のみ用いてもよいし、複数種類を併用してもよい。本発明において、前記有機溶媒は、例えば、前述のとおり、ハロゲン化溶媒、フルオラス溶媒等があげられる。前記液体反応系が前記二相反応系の場合、前記有機溶媒は、例えば、前記二相系を形成し得る溶媒、すなわち、前記水相を構成する後述する水性溶媒と分離する溶媒、前記水性溶媒に難溶性または非溶性の溶媒が好ましい。
【0043】
「ハロゲン化溶媒」は、例えば、炭化水素の水素原子の全てまたは大部分が、ハロゲンに置換された溶媒をいう。前記ハロゲン化溶媒は、例えば、炭化水素の水素原子数の50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、または90%以上が、ハロゲンに置換された溶媒でもよい。前記ハロゲン化溶媒は、特に限定されず、例えば、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、四臭化炭素、および後述するフルオラス溶媒等があげられる。
【0044】
「フルオラス溶媒」は、前記ハロゲン化溶媒の1種であり、例えば、炭化水素の水素原子の全てまたは大部分がフッ素原子に置換された溶媒をいう。前記フルオラス溶媒は、例えば、炭化水素の水素原子数の50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、または90%以上がフッ素原子に置換された溶媒でもよい。本発明において、前記フルオラス溶媒を使用すると、例えば、前記溶媒自体の反応性が低いため、副反応を、より抑制または防止できるという利点がある。前記副反応は、例えば、前記溶媒の酸化反応、前記ラジカルによる前記溶媒の水素引き抜き反応またはハロゲン化反応(例えば、塩素化反応)、および、原料化合物由来のラジカルと前記溶媒との反応(例えば、前記炭素同素体の側鎖または末端の炭化水素基がエチル基の場合において、エチルラジカルと前記溶媒との反応)等があげられる。前記フルオラス溶媒は、水と混和しにくいため、例えば、前記二相反応系の形成に適している。
【0045】
前記フルオラス溶媒の例は、例えば、下記化学式(F1)~(F6)で表される溶媒等があげられ、中でも、例えば、下記化学式(F1)におけるn=4のCF(CFCF等が好ましい。
【0046】
【化F1-F6】
【0047】
前記有機溶媒の沸点は、特に限定されない。前記有機溶媒は、例えば、前記表面処理工程の温度条件によって、適宜選択可能である。前記表面処理工程において、反応温度を高温に設定する場合、前記有機溶媒として、高沸点溶媒を選択できる。なお、本発明は、例えば、後述するように、加熱が必須ではなく、例えば、常温常圧で行なうことができる。そのような場合、前記有機溶媒は、例えば、高沸点溶媒である必要はなく、取扱い易さの観点から、沸点があまり高くない溶媒が使用できる。
【0048】
前記有機相は、例えば、前記炭素同素体、前記ハロゲン酸化物ラジカルおよび前記有機溶媒のみを含んでもよいし、さらに、他の成分を含んでもよい。前記他の成分は、特に限定されず、例えば、ブレーンステッド酸、ルイス酸、および酸素(O)等があげられる。前記有機相において、前記他の成分は、例えば、前記有機溶媒に溶解した状態でもよいし、溶解していない状態でもよい。後者の場合、前記他の成分は、例えば、前記有機溶媒に、分散された状態でもよいし、沈殿した状態でもよい。
【0049】
前記有機相は、前述のように、前記ハロゲン酸化物ラジカルを含む。前記ハロゲン酸化物ラジカルは、例えば、前記有機相以外で生成させ、前記有機相により抽出することによって、前記有機相に含ませることができる。すなわち、前記反応系が、有機相のみを含む一相反応系の場合、例えば、前記反応系である前記有機相以外で、別途、前記ハロゲン酸化物ラジカルを生成させ、生成した前記ハロゲン酸化物ラジカルを前記有機相により抽出し、抽出した前記ハロゲン酸化物ラジカルを含む前記有機相を、前記反応系として、前記表面処理工程に供することができる。前記ハロゲン酸化物ラジカルの生成は、例えば、後述するように、別途準備した水相中で行うことができる。他方、前記液体反応系が、前記有機相と前記水相とを含む二相系反応系の場合、例えば、前記水相において、前記ハロゲン酸化物ラジカルを生成させ、生成したハロゲン酸化物ラジカルを、前記有機相において前記水相から抽出し、前記水相と前記ハロゲン酸化物ラジカルを含む有機相とを、前記二相反応系として、前記表面処理工程に供することができる。
【0050】
前記炭素同素体は、前記有機相中に配置される。前記炭素同素体が前記成形体の場合、前記成形体は、例えば、後述する反応処理の効率の点から、例えば、表面処理しようとする部分が前記有機相中に浸漬され、前記有機相中から露出しないように、前記有機相中に固定することが好ましい。
【0051】
(3B-2)水相
前記水相は、例えば、水性溶媒の相である。前記水性溶媒は、例えば、前記有機相で使用する溶媒と分離する溶媒である。前記水性溶媒は、例えば、HO、DO等の水があげられる。
【0052】
前記水相は、例えば、後述するように、ルイス酸、ブレーンステッド酸、ラジカル発生源等の任意の成分を含んでもよい。前記水相において、これらの任意の成分は、例えば、前記水性溶媒に溶解した状態でもよいし、溶解していない状態でもよい。後者の場合、前記任意の成分は、例えば、前記水性溶媒に、分散された状態でもよいし、沈殿した状態でもよい。
【0053】
(4) 表面処理工程
前記表面処理工程は、前述のとおり、前記炭素同素体表面を前記ハロゲン酸化物ラジカルと反応させる工程である。前記表面処理工程は、例えば、前記反応の反応系に光照射してもよいし、光照射しなくてもよい。以下、主に、前記反応系に光照射する方法を説明するが、本発明は、これに限定されない。前述のとおり、前記炭素同素体表面を前記ハロゲン酸化物ラジカルと反応させることができればよく、光照射せずに前記表面処理工程を行ってもよい。その場合は、例えば、以下の説明において、光照射を省略して前記表面処理工程を行えばよい。前述のとおり、前記炭素同素体に光照射をしなくてもよいことで、例えば、安全性の向上、コスト節減等の効果が得られる。
【0054】
前記反応系には、前記炭素同素体が配置されており、前記炭素同素体を改質できる。具体的に、本発明によれば、前記ハロゲン酸化物ラジカル存在下で、容易に、前記炭素同素体を改質できる。本発明によれば、例えば、前記ハロゲン酸化物ラジカルの量や、光照射の時間の長さ等の調整により、前記炭素同素体の改質の程度(例えば、酸化等の改変の程度)も容易に調整できる。このため、例えば、過剰な酸化等が原因となる前記炭素同素体の分解も、防止でき、例えば、前記炭素同素体が本来有する特性を損なうことも回避できる。
【0055】
前記表面処理工程において、前記炭素同素体表面にメチル基が存在する場合、メチル基(-CH)は、例えば、ヒドロキシメチル基(-CHOH)、ホルミル基(-CHO)、およびカルボキシル基(-COOH)の少なくともいずれかに酸化される。これは、以下のメカニズムが推測される。すなわち、光照射によって、前記ハロゲン酸化物ラジカル(例えば、二酸化塩素ラジカル)から、前記ハロゲンのラジカル(例えば、塩素ラジカル(Cl))と、前記酸素の分子が発生する。そして、前記炭素同素体表面のメチル基(-CH)は、前記ハロゲンのラジカル(例えば、塩素ラジカル(Cl))が水素引き抜き剤として働きカルボラジカル(-CH )となり、つぎに、前記酸素の分子(例えば、O)が酸化剤として働きヒドロキシメチル基(-CHOH)となる。また、ヒドロキシメチル基(-CHOH)は、さらなる酸化で、ホルミル基(-CHO)、またはカルボキシ基(-COOH)になる。
【0056】
前記表面処理工程において、前記炭素同素体表面にエチル基が存在する場合、エチル基(-CHCH)は、例えば、ヒドロキシエチル基(-CHCHOH)、アセトアルデヒド基(-CHCHO)、カルボキシメチル基(-CHCOOH)に酸化される。
【0057】
また、例えば、前記炭素同素体表面にメチレン基(-CH-)が含まれる場合、例えば、前記メチレン基が、ヒドロキシメチレン基(-CHOH-)、カルボニル基(-CO-)等に酸化される。
【0058】
前記表面処理工程において、光照射の条件は、特に制限されない。照射光の波長は、特に限定されず、下限は、例えば、200nm以上であり、上限は、例えば、800nm以下であり、光照射時間は、特に限定されず、下限は、例えば、1秒以上であり、上限は、例えば、1000時間であり、反応温度は、特に限定されず、下限は、例えば、-20℃以上であり、上限は、例えば、100℃以下、40℃以下であり、範囲は、例えば、0~100℃、0~40℃である。反応時の雰囲気圧は、特に限定されず、下限は、例えば、0.1MPa以上であり、上限は、例えば、100MPa以下、10MPa以下、0.5MPa以下、であり、範囲は、例えば、0.1~100MPa、0.1~10MPa、0.1~0.5MPaである。前記表面処理工程の反応条件としては、例えば、温度0~100℃または0~40℃、圧力0.1~0.5MPaが例示できる。また、前述のとおり、例えば、光照射を省略しても前記表面処理工程を行うことができる。本発明によれば、例えば、加熱、加圧、減圧等を行うことなく、常温(室温)および常圧(大気圧)下で、前記表面処理工程またはそれを含めた全ての工程を行なうこともできる。「室温」とは、特に限定されず、例えば、5~35℃である。このため、前記炭素同素体が、例えば、耐熱性が低い炭素同素体を含んでいても、適用可能である。また、本発明によれば、例えば、不活性ガス置換等を行うことなく、大気中で、前記表面処理工程またはそれを含めた全ての工程を行なうこともできる。
【0059】
前記光照射の光源は、特に限定されず、例えば、太陽光等の自然光に含まれる可視光が利用できる。自然光を利用すれば、例えば、励起を簡便に行うことができる。また、前記光源として、例えば、前記自然光に代えて、または前記自然光に加え、キセノンランプ、ハロゲンランプ、蛍光灯、水銀ランプ、LEDランプ等の光源を使用することもできる。前記光照射においては、例えば、さらに、必要波長以外の波長をカットするフィルターを適宜用いることもできる。
【0060】
本発明は、前記炭素同素体に対して、任意の領域にのみに光照射を行うことで、前記領域のみを改質処理することもできる。このような選択的な光照射の制御方法は、特に制限されず、例えば、任意の領域のみに光照射してもよいし、光照射しない領域のみマスキングして、全体に光照射してもよい。
【0061】
前記反応系が前記液体反応系の場合、前記表面処理工程において、例えば、少なくとも前記有機相に光照射してもよい。前記有機相のみからなる一相反応系の場合、例えば、前記一相反応系に光照射することで、前記表面処理工程を実施できる。前記有機相と前記水相とを含む二相反応系の場合、例えば、有機相のみに光照射してもよいし、前記二相反応系に光照射してもよい。前記液体反応系の場合、例えば、前記液体反応系を空気に接触させながら、前記液体反応系に光照射してもよく、前記二相反応系の場合、前記水相に酸素が溶解した状態で光照射してもよい。
【0062】
本発明によれば、前記表面処理工程において、例えば、前記ハロゲン酸化物ラジカルの存在下で光照射するのみの極めて簡便な方法で、前記ハロゲンのラジカル(例えば、塩素原子ラジカルCl)および酸素分子Oを発生させ、前記炭素同素体に対する反応(例えば、酸化反応)を行い、前記炭素同素体を改質できる。そして、例えば、常温および常圧等の極めて温和な条件下でも、簡便に、前記炭素同素体を効率よく変化させて、改質できる。
【0063】
本発明によれば、例えば、有毒な重金属触媒等を用いずに、前記炭素同素体表面が改質された物質が得られる。このため、前述のように、例えば、極めて温和な条件下で反応が行えることと併せ、環境への負荷がきわめて小さい方法で、前記炭素同素体表面の改質が効率よく行える。
【0064】
炭素同素体の表面の酸化方法としては、例えば、過マンガン酸カリウム(KMnO)等の強力な酸化剤を用いる方法がある。しかし、このような方法は、炭素同素体の表面の酸化に留まらず、骨格の炭素-炭素結合を切断し、前記炭素同素体を分解してしまうおそれがある。これに対し、本発明の前記表面処理工程によれば、前述のとおり温和な反応条件で反応を行えるため、炭素同素体骨格の炭素-炭素結合の切断を抑制または防止できる。また、本発明の前記表面処理工程によれば、反応条件の制御がしやすい。具体的には、例えば、光照射の停止、前記ハロゲン酸化物ラジカルの供給停止等により、任意に前記表面処理工程における反応を停止できる。これにより、例えば、前記炭素同素体骨格の炭素-炭素結合の切断をさらに抑制可能であり、また、例えば、前記炭素同素体表面の反応の進行を制御しやすい。したがって、本発明によれば、例えば、炭素同素体を分解することなく、効率よく前記炭素同素体表面を改質できる。
【0065】
(5) ハロゲン酸化物ラジカル生成工程
本発明は、例えば、さらに、前記ハロゲン酸化物ラジカルを生成させるハロゲン酸化物ラジカル生成工程を含んでもよい。前記ハロゲン酸化物ラジカル生成工程は、例えば、前記表面処理工程の前または前記表面処理工程と同時に行える。前記ハロゲン酸化物ラジカルの生成方法は、特に制限されない。
【0066】
前記ハロゲン酸化物ラジカル生成工程は、例えば、ラジカル生成用反応系を使用して、前記ハロゲン酸化物ラジカルを発生させてもよい。前記表面処理工程における反応系は、例えば、前記気体反応系(気相)でもよいし、前記液体反応系(液相)でもよい。前記ラジカル生成用反応系は、例えば、前記ハロゲン酸化物ラジカルを生成させた後、そのまま、前記表面処理工程における前記液体反応系として使用してもよい。
【0067】
前記表面処理工程の反応系が前記気体反応系の場合、例えば、前記表面処理工程の反応系とは別に、前記ラジカル生成用反応系を用意してもよい。前記ラジカル生成用反応系は、例えば、前記ハロゲン酸化物ラジカルの発生源を含む水相でもよい。前記水相は、例えば、前記ハロゲン酸化物ラジカルの発生源を含み、前記ハロゲン酸化物ラジカル生成工程において、前記ハロゲン酸化物ラジカルの発生源から前記ハロゲン酸化物ラジカルを生成させる。前記水相は、例えば、水性溶媒の相であり、前記水性溶媒は、前述と同様である。前記水相で発生した前記ハロゲン酸化物ラジカルが疎水性の場合、例えば、前記有機相と前記水相とを含む二相反応系とすることで、前記ハロゲン酸化物ラジカルを前記有機相に移行できる。前述のように、前記表面処理工程を前記気体反応系で行う場合、前記ハロゲン酸化物ラジカルの生成用反応系は、例えば、水相のみでもよいし、水相と有機相との二相反応系でもよい。前記ハロゲン酸化物ラジカルが疎水性の場合、例えば、前記水相でラジカルが発生した直接、前記気相に移行できることから、前記ラジカル生成用反応系は、前記水相のみでもよい。
【0068】
前記表面処理工程の反応系および前記ラジカル生成用反応系は、例えば、図1に示す反応系でもよい。具体的には、まず、図1に示すとおり、シャーレ3内にラジカル生成用反応系5を配置する。ラジカル生成用反応系5は、例えば、前記ハロゲン酸化物ラジカルの発生源を含む水相であってもよい。前記ハロゲン酸化物ラジカルの発生源は、特に限定されないが、例えば、後述のとおりである。一方、別のシャーレ4内に炭素同素体6を配置する。これらのシャーレ3および4を、さらに別の大きいシャーレ1に収納し、さらに、シャーレ1に蓋2をかぶせて内部のガスが漏れないようにする。その後、シャーレ3内のラジカル生成用反応系5に光照射する。この光照射により、シャーレ3内でハロゲン酸化物ラジカルの気体が発生し、そのハロゲン酸化物ラジカルの気体がシャーレ4内に流入して炭素同素体6と反応する。このようにして前記表面処理工程を行うことができる。また、図1では、ラジカル生成用反応系5におけるハロゲン酸化物ラジカルの発生源が亜塩素酸ナトリウム水溶液(NaClOaq)および塩酸(HCl)であり、それらの反応により発生するハロゲン酸化物ラジカルが二酸化塩素ラジカル(ClO )である場合を例示している。しかし、前述のとおり、本発明において、ハロゲン酸化物ラジカルの発生源およびハロゲン酸化物ラジカルは、これらに限定されない。
【0069】
前記表面処理工程の反応系が前記液体反応系であり、前記水相を含む場合、例えば、前記水相が前記ラジカル生成用反応系でもよい。前記水相は、例えば、前記表面処理工程の反応系が前記気体反応系である場合の前記ラジカル生成用反応系と同様でもよい。前記水相で発生した前記ハロゲン酸化物ラジカルが疎水性の場合、例えば、前記有機相と前記水相とを含む二相反応系とすることで、前記ハロゲン酸化物ラジカルを前記有機相に移行できる。
【0070】
前記ハロゲン酸化物ラジカルの発生源(ラジカル生成源)は、特に制限されず、例えば、前記ハロゲン酸化物ラジカルの種類によって、適宜選択できる。前記ハロゲン酸化物ラジカルの発生源は、例えば、1種類でも、複数種類を併用してもよい。
【0071】
前記ハロゲン酸化物ラジカルの発生源は、例えば、酸素とハロゲンとを含む化合物であり、具体例として、例えば、亜ハロゲン酸(HXO)またはその塩があげられる。前記亜ハロゲン酸の塩は、特に限定されず、例えば、金属塩があげられ、前記金属塩は、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、希土類塩等があげられる。前記ハロゲン酸化物ラジカルの発生源は、例えば、酸素と、ハロゲンと、1族元素(例えば、H、Li、Na、K、Rb、およびCsからなる群から選択された少なくとも一つ)とを含む化合物でもよく、例えば、前記亜ハロゲン酸またはそのアルカリ金属塩である。前記ハロゲン酸化物ラジカルが前記二酸化塩素ラジカルの場合、その発生源は、特に限定されず、例えば、亜塩素酸(HClO)またはその塩であり、具体的には、例えば、亜塩素酸ナトリウム(NaClO)、亜塩素酸リチウム(LiClO)、亜塩素酸カリウム(KClO)、亜塩素酸マグネシウム(Mg(ClO)、亜塩素酸カルシウム(Ca(ClO)等である。中でも、コスト、取扱い易さ等の観点から、亜塩素酸ナトリウム(NaClO)が好ましい。例えば、他のハロゲン酸化物ラジカルの発生源についても、同様の塩等が採用できる。他の発生源としては、例えば、亜臭素酸ナトリウム等の臭素酸塩類、亜要素酸ナトリウム等の亜ヨウ素酸塩類等があげられる。
【0072】
前記水相において、前記発生源の濃度は、特に限定されない。前記発生源が前記化合物の場合、その濃度は、前記ハロゲン酸化物イオン濃度に換算した場合、例えば、下限が0.0001mol/L以上であり、上限が、1mol/L以下であり、また、その濃度は、前記ハロゲン酸化物イオンのモル数に換算した場合、例えば、下限が、前記原料のモル数の1/100000倍以上であり、上限が、1000倍以下である。前記発生源が亜ハロゲン酸または亜ハロゲン酸塩(例えば、亜塩素酸または亜塩素酸塩)の場合、その濃度は、亜ハロゲン酸イオン(例えば、亜塩素酸イオン(ClO ))濃度に換算した場合、例えば、下限が0.0001mol/L以上であり、上限が、1mol/L以下である。また、前記発生源の濃度は、亜ハロゲン酸イオン(例えば、亜塩素酸イオン(ClO ))のモル数に換算した場合、例えば、下限が、前記原料のモル数の1/100000倍以上であり、上限が、1000倍以下である。他の発生源についても、例えば、前記濃度が援用できる。
【0073】
前記水相は、例えば、さらに、ルイス酸およびブレーンステッド酸の少なくとも一方を含み、これを前記ハロゲン酸化物イオンに作用させて前記ハロゲン酸化物ラジカルを生成させてもよい。前記ルイス酸およびブレーンステッド酸の少なくとも一方は、例えば、前記1族元素を含むルイス酸およびブレーンステッド酸の少なくとも一方である。前記ハロゲン酸化物イオンは、例えば、亜塩素酸イオン(ClO )である。前記水相は、例えば、前記ルイス酸および前記ブレーンステッド酸の一方のみを含んでも、両方を含んでも、1つの物質が、前記ルイス酸および前記ブレーンステッド酸の両方を兼ねてもよい。前記ルイス酸または前記ブレーンステッド酸は、それぞれ1種類のみを用いてもよいし、複数種類を併用してもよい。本発明において、「ルイス酸」は、例えば、前記ハロゲン酸化物ラジカルの発生源に対してルイス酸として働く物質をいう。
【0074】
前記水相において、前記ルイス酸および前記ブレーンステッド酸の少なくとも一方の濃度は、特に限定されず、例えば、前記改質対象の炭素同素体の種類等に応じて、適宜設定できる。前記濃度は、例えば、下限が0.0001mol/L以上であり、上限が1mol/L以下である。
【0075】
前記ブレーンステッド酸は、特に限定されず、例えば、無機酸でもよいし、有機酸でもよく、具体例として、例えば、トリフルオロメタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、酢酸、フッ化水素酸、塩化水素酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、亜硫酸、硝酸、亜硝酸、リン酸、亜リン酸等があげられる。前記ブレーンステッド酸の酸解離定数pKは、例えば、10以下である。前記pKの下限値は、特に限定されず、例えば、-10以上である。
【0076】
前記水相は、例えば、前記ハロゲン酸化物イオンと前記ブレーンステッド酸とを含み、例えば、前記化合物とブレーンステッド酸(例えば塩酸)とが水性溶媒に溶解した水相であることが好ましい。具体例として、前記ハロゲン酸化物ラジカルが二酸化塩素ラジカルの場合、前記水相は、例えば、亜塩素酸イオン(ClO )とブレーンステッド酸とを含み、例えば、前記亜塩素酸ナトリウム(NaClO)と前記ブレーンステッド酸(例えば塩酸)とが水性溶媒に溶解した水相が好ましい。
【0077】
前記水相において、例えば、前記ルイス酸、前記ブレーンステッド酸、前記ラジカル発生源等は、前記水性溶媒に溶解した状態でも、非溶解の状態でもよい。後者の場合、これらは、例えば、水性溶媒に分散した状態でも、沈殿した状態でもよい。
【0078】
前記ハロゲン酸化物ラジカル生成工程は、特に限定されず、例えば、前記水性溶媒に前記ハロゲン酸化物ラジカルの発生源を含有させることによって、前記ハロゲン酸化物イオン(例えば、亜塩素酸イオン)から前記ハロゲン酸化物ラジカル(例えば、二酸化塩素ラジカル)を自然発生できる。前記水相は、例えば、前記発生源が前記水性溶媒に溶解していることが好ましく、また、静置させることが好ましい。前記ハロゲン酸化物ラジカル生成工程において、前記水相は、例えば、さらに、前記ルイス酸および前記ブレーンステッド酸の少なくとも一方を共存させることによって、前記ハロゲン酸化物ラジカルの発生を、さらに促進できる。前記ハロゲン酸化物ラジカル生成工程は、例えば、前記水相に光照射を施すことで、前記ハロゲン酸化物ラジカルを発生させることもできるが、光照射せずに、例えば、単に静置するのみでも、前記ハロゲン酸化物ラジカルを発生させることができる。
【0079】
前記水相において、前記ハロゲン酸化物イオンから前記ハロゲン酸化物ラジカルが発生するメカニズムは、例えば、後述する図15(液相反応系で、有機相と水相との二相系の場合)と同様であると推測される。ただし、この説明は例示であって、本発明をなんら限定しない。
【0080】
前記反応系が前記液体反応系であり、前記有機相と前記水相とを含む二相反応系である場合、前述のようにして、前記ハロゲン酸化物ラジカルを発生させた後、前記液体反応系を、そのまま前述の表面処理工程に供すればよい。前記反応系における前記水相中の前記発生源から発生した前記ハロゲン酸化物ラジカルは、水に難溶であるため、前記反応系における前記有機相中に溶解する。例えば、前記ハロゲン酸化物ラジカルを発生させた前記液体反応系について、さらに、光照射を行うことによって、前記炭素同素体の表面を改質する前記表面処理工程を行うこともできる。この場合、例えば、前記液体反応系に光照射を行うことで、前記ハロゲン酸化物ラジカル生成工程と前記表面処理工程とを連続的に行える。本発明において、前記二相反応系で、前記ハロゲン酸化物ラジカル生成工程と前記表面処理工程とを行うことにより、例えば、より良い反応効率が得られる。
【0081】
他方、前述の表面処理工程における前記反応系が、前記液体反応系であり、前記有機相のみを含む一相反応系である場合、例えば、前記方法により前記水相で前記ハロゲン酸化物ラジカルを発生させ、発生した前記ハロゲン酸化物ラジカルを前記有機相に溶解(抽出)させた後、前記水相を除去し、前記ハロゲン酸化物ラジカルを含む前記有機相を、前記一相反応系として、前記表面処理工程に供すればよい。
【0082】
図15に、前記二相反応系を用いた、前記ハロゲン酸化物ラジカル生成工程および前記表面処理工程の一例を模式的に示す。図15において、前記ハロゲン酸化物ラジカルとして前記二酸化塩素ラジカルを具体例として示すが、本発明は、これらの例には、何ら制限されない。図15に示すとおり、前記反応系は、反応容器中において、水層(前記水相)と有機層(前記有機相)との二層が分離し、互いに界面のみで接触している。上層が、水層(前記水相)12であり、下層が、有機層(前記有機相)11である。図15は、断面図であるが、見やすさのために、水層12および有機層11のハッチは、省略している。図15に示すとおり、水層(水相)12中の亜塩素酸イオン(ClO )が酸と反応して、二酸化塩素ラジカル(ClO )が発生する。二酸化塩素ラジカル(ClO )は、水に難溶であるため、有機層11に溶解する。つぎに、二酸化塩素ラジカル(ClO )を含む有機層11に光照射し、光エネルギーを与えることで、有機層11中の二酸化塩素ラジカル(ClO )が分解して、塩素ラジカル(Cl)および酸素分子(O)が発生する。これにより、有機層(有機相)11中の炭素同素体が酸化され、表面が改質される。ただし、図15は例示であって、本発明をなんら限定しない。
【0083】
図15では、水層12が上層で、有機層11が下層であるが、例えば、有機層11の方が、密度(比重)が低い場合は、有機層11が上層になる。例えば、上層の有機層中に前記炭素同素体が配置されるように、前記反応容器中において固定化してもよい。この場合、前記炭素同素体を固定する固定部は、例えば、前記反応容器中に設けてもよいし、前記反応容器の外部に設けてもよい。後者の場合、例えば、外部から前記炭素同素体を吊るし、前記有機層中に浸漬させる形態等があげられる。
【0084】
図15では、前記二相反応系を例示したが、本発明の製造方法において、前記表面処理工程は、有機相のみの一相反応系で行ってもよい。この場合、例えば、前記ハロゲン酸化物ラジカルの発生源を含む水相を別途準備し、前記水相で前記ハロゲン酸化物ラジカルを生成させた後、前記水相に前記有機相を混合し、前記水相の前記ハロゲン酸化物ラジカルを前記有機相に溶解(抽出)させる。そして、前記水相と前記有機相とを分離し、前記有機相を回収し、前記炭素同素体を配置し、これを一相反応系として、単独で、前記ハロゲン酸化物ラジカルの存在下、前記光照射による前記表面処理工程を行なう。また、前記表面処理工程における反応系が気体反応系である場合は、前述のとおり、前記水相で前記ハロゲン酸化物ラジカルを生成させた後、前記気体反応系で前記表面処理工程を行ってもよい。
【0085】
[2.炭素同素体表面に官能基が導入された物質の製造方法]
本発明による、炭素同素体表面に官能基が導入された物質の製造方法は、前述のとおり、本発明による、炭素同素体表面が改質された物質の製造方法により、前記炭素同素体表面が改質された物質を製造する工程と、前記改質された表面に官能基を導入する官能基導入工程とを含むことを特徴とする。
【0086】
前記官能基を導入することによって、様々な機能を、前記炭素同素体に付与できる。具体的には、例えば、後述の実施例に示すように、前記官能基によって、クライオ電子顕微鏡による構造解析対象物質(例えばタンパク質)を捕捉しやすくなる。その他にも、例えば、前記官能基の種類を適宜選択することにより、その官能基の種類に応じた任意の機能を付与することができる。
【0087】
前記官能基導入工程は、例えば、酸化(改質)されて水酸基、カルボキシ基、アルデヒド基(ホルミル基)等の置換基が導入された炭素同素体表面に、前記水酸基、カルボキシ基、アルデヒド基等の置換基と他の物質との反応(例えば、縮合反応)により、官能基を導入することができる。これによれば、例えば、前記炭素同素体表面に導入された前記置換基(例えば、水酸基、カルボキシ基、アルデヒド基等)との反応により導入しうる任意の官能基を導入することができる。
【0088】
前記官能基導入工程としては、例えば、後述の実施例3のスキームE3の例が挙げられる。具体的には、例えば、スキームE3の左側の反応式に示すとおり、炭素同素体表面に導入されたカルボキシ基の水素をスクシンイミド基で置換することができる。そして、前記反応式に示すとおり、さらに、1H,1H-ウンデカフルオロヘキシルアミンとの縮合反応によりアミド結合を生成させることができる。また、例えば、スキームE3の右側の反応式に示すとおり、炭素同素体表面に導入された水酸基の水素を2,3-エポキシプロピル基で置換することができる。さらに、前記反応基に示すとおり、前記エポキシ基と1H,1H-ウンデカフルオロヘキシルアミンとの間で付加反応を行うことができる。なお、実施例3では炭素同素体としてナノダイヤモンドを用いているが、ナノダイヤモンドに限定されず、他の任意の炭素同素体でもよい。また、1H,1H-ウンデカフルオロヘキシルアミンは、これに限定されず、他の任意のアミンでもよい。前記アミンは、特に限定されないが、例えば、1級アミンでも2級アミンでもよい。
【0089】
また、前記官能基導入工程により導入できる官能基は特に限定されず、例えば、前述のとおり、前記炭素同素体表面に導入された前記置換基(例えば、水酸基、カルボキシ基、アルデヒド基等)との反応により導入しうる任意の官能基を導入することができる。具体的な官能基としては、例えば、スクシンイミジル基、イソチオシアノ基、スルホン酸クロリド基、カルボン酸クロリド基、エチレンオキシド基、アルキルクロリド基、カルボン酸無水物基、マレイミド基、ヒドラジド等の官能基を、前記炭素同素体表面の水酸基、カルボキシ基、アルデヒド基等の置換基と反応させて前記炭素同素体表面に導入できる。このようにして導入した官能基は、例えば、アミノ基、スルフヒドリル基(-SH、メルカプト基、チオール基ともいう。)、アルデヒド基等の基と反応し得るため、これらの基を有する化合物(例えば、タンパク質等)を結合させて捕捉することができる。
【0090】
前記官能基導入工程における反応条件も特に限定されず、任意に設定可能である。前記反応条件は、例えば、既存の同様な、または類似の反応の反応条件と同様またはそれに準じてもよい。例えば、水酸基またはカルボキシ基との反応により官能基を導入する場合、水酸基またはカルボキシ基における既存の反応の反応条件と同様またはそれに準じた反応条件を用いてもよい。
【0091】
[3.有機物質]
本発明の第1の有機物質は、前述のとおり、炭素同素体表面に水酸基、カルボキシ基、およびアルデヒド基からなる群から選択される少なくとも一つの置換基が導入され、さらに、前記置換基が他の官能基に変換された構造を有する有機物質である。また、本発明の第2の有機物質は、前述のとおり、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)表面に官能基が導入された有機物質である。
【0092】
これら本発明の有機物質の製造方法は、特に限定されないが、例えば、前述の、本発明による、炭素同素体表面に官能基が導入された物質の製造方法によって製造することができる。この製造方法は、前述のとおり、前記表面処理工程と、前記官能基導入工程とを含む。
【0093】
また、例えば、前記炭素同素体に対し、前記表面処理工程を省略して前記官能基導入工程を行うことにより、本発明の有機物質を製造することもできる。より具体的には、例えば、前記表面処理工程を行わない前記炭素同素体表面が、水酸基、カルボキシ基等の置換基を有していれば、それらの置換基に対し、前記官能基導入工程を行うことにより、本発明の有機物質を製造できる。
【0094】
[4.クライオ電子顕微鏡用グリッド等]
本発明の有機物質の用途は特に限定されないが、例えば、前述のとおり、本発明のクライオ電子顕微鏡用グリッドに使用可能である。
【0095】
本発明のクライオ電子顕微鏡用グリッドは、例えば、前記官能基にクライオ電子顕微鏡による構造解析対象物質を結合させることで、前記構造解析対象物質の偏在、配向性の偏り等を抑制または防止可能である。前記官能基と前記構造解析対象物質との結合は、特に限定されないが、例えば、共有結合、イオン結合、金属配位結合、ホスト-ゲスト相互作用、水素結合等が挙げられ、結合の強さの観点から共有結合が特に好ましい。
【0096】
従来のクライオ電子顕微鏡用炭素グリッドは、前記グリッドと構造解析対象物質との結合力が弱かったため、前述のとおり、前記炭素グリッド上で前記構造解析対象物質の偏在(局在化)、配向性の偏り等が起こり、構造解析に支障を来すおそれがあった。これに対し、本発明のクライオ電子顕微鏡用グリッドは、前述のとおり、構造解析対象物質を強力に結合させることができる。これにより、前記構造解析対象物質の偏在、配向性の偏り等を抑制または防止可能である。
【0097】
前記官能基に前記構造解析対象物質を結合させる方法は、特に限定されない。例えば、前記官能基と前記構造解析対象物質との組み合わせに応じて、公知の類似した反応の反応条件と同様またはそれに準じた反応条件を適宜設定できる。例えば、前記構造解析対象物質の溶液(例えば水溶液)に、前記官能基を有する本発明のクライオ電子顕微鏡用グリッドを適宜な時間浸漬させてもよいが、この方法には限定されない。
【0098】
前記構造解析対象物質も特に限定されず、例えば、一般的なクライオ電子顕微鏡の構造解析対象物質と同じであってもよいし、異なっていてもよい。前記構造解析対象物質としては、例えば、タンパク質、抗体、核酸、ウイルス、リボソーム、ミトコンドリア、イオンチャネル、酵素および酵素複合体等が挙げられる。前記タンパク質としては、例えば、物性で分類した場合の膜タンパク質、水溶性タンパク質、糖タンパク質や、機能で分類した場合の酵素タンパク質、構造タンパク質、転写因子、輸送タンパク質、貯蔵タンパク質、収縮タンパク質、防御タンパク質等が挙げられ、例えば、解析の標準タンパク質として用いられるアポフェリチンのほか、リボソーム、プロテアソーム、RNAポリメラーゼ、カプシド、GPCR、光化学系複合体、ATP合成酵素、抗体との複合体等が挙げられる。また、これらで構成されたチューブリン等も、本発明における前記構造解析対象物質となり得る。さらに、本発明における前記構造解析対象物質としては、筋肉、コラーゲン、鞭毛といった組織そのものも挙げられる。また、例えば、抗体等をラベル化タンパク質として用いて生命体そのものや組織表面等を本発明における前記構造解析対象物質とすることも可能である。
【0099】
本発明のクライオ電子顕微鏡用グリッドによれば、前述のとおり、前記構造解析対象物質の偏在、配向性の偏り等を抑制または防止可能である。また、本発明のクライオ電子顕微鏡用グリッドによれば、従来のクライオ電子顕微鏡用グリッドでは構造解析が困難であった物質も構造解析が可能である。例えば、膜タンパク質等は、結晶化しにくいため、従来のクライオ電子顕微鏡用グリッドでは三次元構造解析が困難であった。これに対し、本発明のクライオ電子顕微鏡用グリッドは、前記膜タンパク質等の構造解析対象物質を強力に結合して構造を安定化させることができるので、構造解析が可能であり、例えば、三次元構造解析もできる。また、本発明のクライオ電子顕微鏡用グリッドによれば、例えば、タンパク質の単粒子解析等も可能である。
【0100】
本発明のクライオ電子顕微鏡用グリッドの使用方法は、特に限定されないが、例えば、一般的なクライオ電子顕微鏡用グリッドの使用方法と同様でもよい。例えば、一般的なクライオ電子顕微鏡用グリッドと同様に、捕捉した構造解析対象物質を、氷包埋法を用いて顕微鏡観察することで、構造解析ができる。
【0101】
また、本発明の有機物質の用途は、クライオ電子顕微鏡用グリッドに限定されず、任意の広範な用途に使用可能であり、例えば、バイオリアクター、酵素センサー、マイクロリアクター等の用途のほか、抗体や各種タンパク質をビーズ等に連結した場合の検出試薬やアフィニティーカラムクロマトグラフィー等にも使用可能である。
【実施例
【0102】
以下、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は、以下の実施例には限定されない。
【0103】
[実施例1]
以下のとおり、本発明の前記表面処理工程により炭素同素体表面を改質し、炭素同素体表面が改質された物質を製造した。
【0104】
本実施例では、気相中での反応を用いて前記表面処理工程を行った。
【0105】
まず、図1に示すとおり、直径5cmのシャーレ3に脱イオン水20mLを加え、さらに、亜塩素酸ナトリウムNaClO(300mg)および36質量%HCl水溶液(100μL)を溶解させて塩酸酸性NaClO水溶液(ラジカル生成用反応系)5とした。一方、直径3cmのシャーレ4に炭素同素体6を10mg入れた。これらのシャーレ3および4を、直径11cmのシャーレ1に収納した。さらに、シャーレ1に蓋2をかぶせて内部のガスが漏れないようにした。その後、室温で、シャーレ3内の塩酸酸性NaClO水溶液5に対し、シャーレ1の上方から波長365nmのLED光を光量10mW/cmで3分間、10分間、30分間または60分間照射した。この光照射により、シャーレ3内で塩酸とNaClOとが反応してClOラジカルの気体が発生し、そのClOラジカルの気体がシャーレ4内に流入して炭素同素体6と反応した。この表面処理工程によって、炭素同素体6の表面を酸化した。酸化後の炭素同素体6を減圧下で24h乾燥し、目的物(炭素同素体6の表面が改質された物質)を得た。
【0106】
本実施例では、炭素同素体6として、粉末状のグラフェン(富士フイルム和光純薬株式会社:商品名「06-0313」)、カーボンナノチューブ(株式会社名城ナノカーボン:商品名「MEIJO eDIPS」)、フラーレンC60(東京化成工業株式会社:商品名「B1641」)、ナノダイヤモンド(株式会社ダイセル)、およびダイヤモンドライクカーボン(グラフェンを原料とした物理蒸着(Physical Vapor Deposition、PVD)法により調製)をそれぞれ用いて、それぞれの炭素同素体6の表面が改質された物質を製造した。なお、前記カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ(SWNT)であった。
【0107】
前記それぞれの炭素同素体6について、表面処理工程(酸化反応)前と後とで、それぞれX線光電子分光法(XPS)測定を行い、C1s(炭素原子の1s軌道)のエネルギーピーク位置を検出することにより、酸化反応の進行を確認した。図2~6のグラフに、それぞれのXPS測定結果を示す。各図において、横軸は結合エネルギー(eV)であり、縦軸はピーク強度の相対値(cps)である。
【0108】
図2は、グラフェンの表面処理工程(酸化反応)前後のXPS測定結果を示す。図示のとおり、反応30分後には大きな変化がなかったが、反応60分後には、C=C結合ピークの減衰、C-OH結合ピークおよびC-O-C結合ピークの増大が見られたことから、グラフェン表面の酸化が確認された。また、前記XPSによる元素分析結果を、下記表1に示す。表1に示すとおり、酸化反応後はO原子数の比率が増加しており、このことからも、グラフェン表面の酸化が確認された。
【0109】
【表1】
【0110】
また、本実施例における酸化後のグラフェン表面の構造は、例えば、下記化学式E1のようになっていると推測される。ただし、この構造は、推測される構造の一例である。
【0111】
【化E1】
【0112】
図3は、カーボンナノチューブの表面処理工程(酸化反応)前後のXPS測定結果を示す。図示のとおり、反応30分後には、C=C結合ピークの減衰、C-OH結合ピークおよびC-O-C結合ピークの増大が見られたことから、カーボンナノチューブ表面の酸化が確認された。また、前記XPSによる元素分析結果を、下記表2に示す。表2に示すとおり、酸化反応後はO原子数の比率が増加しており、このことからも、カーボンナノチューブ表面の酸化が確認された。
【0113】
【表2】
【0114】
また、本実施例における酸化後のカーボンナノチューブ表面の構造は、例えば、下記化学式E2のようになっていると推測される。ただし、この構造は、推測される構造の一例である。
【0115】
【化E2】
【0116】
図4は、フラーレンの表面処理工程(酸化反応)前後のXPS測定結果を示す。図示のとおり、反応30分後には、C=C結合ピークの減衰、C-OH結合ピークおよびC-O-C結合ピークの増大が見られたことから、フラーレン表面の酸化が確認された。また、前記XPSによる元素分析結果を、下記表3に示す。表3に示すとおり、酸化反応後はO原子数の比率が増加しており、このことからも、フラーレン表面の酸化が確認された。
【0117】
【表3】
【0118】
さらに、酸化反応後のフラーレンのMALDI/TOFMASの測定結果を、図7のグラフに示す。同図において、横軸は、質量(m/z)であり、縦軸は、ピーク強度(相対値)である。図示のとおり、フラーレンC60本来のピーク(m/z=720)に加え、m/zが16または17刻みで増加しているピークが複数見られた。このことからも、フラーレン表面の酸化が推認できる。
【0119】
さらに、酸化反応後のフラーレンは、水にわずかに溶解し薄く褐色に呈色することが確認された。このことから、フラーレン表面が酸化されてわずかに親水性が高くなったことが推認できる。
【0120】
また、本実施例における酸化後のフラーレン表面の構造は、例えば、下記化学式E3のようになっていると推測される。ただし、この構造は、推測される構造の一例である。
【0121】
【化E3】
【0122】
図5は、ナノダイヤモンドの表面処理工程(酸化反応)前後のXPS測定結果を示す。図示のとおり、反応30分後には、C-C結合ピークの減衰、C-OH結合ピークおよびC=O-C結合ピークの増大が見られたことから、ナノダイヤモンド表面の酸化が確認された。また、前記XPSによる元素分析結果を、下記表4に示す。表4に示すとおり、酸化反応後はO原子数の比率が増加しており、このことからも、ナノダイヤモンド表面の酸化が確認された。
【0123】
【表4】
【0124】
また、本実施例における酸化後のナノダイヤモンド表面の構造は、例えば、下記化学式E4のようになっていると推測される。ただし、この構造は、推測される構造の一例である。
【0125】
【化E4】
【0126】
図6は、ダイヤモンドライクカーボンの表面処理工程(酸化反応)前後のXPS測定結果を示す。図示のとおり、反応3分後には大きな変化がなかったが、反応10分後には、C-C結合ピークの減衰、C-OH結合ピークおよびC=O-C結合ピークの増大が見られたことから、ダイヤモンドライクカーボン表面の酸化が確認された。さらに、前記XPSによる元素分析によれば、酸化反応後はO原子数の比率が増加しており、このことからも、ダイヤモンドライクカーボン表面の酸化が確認された。また、本実施例における酸化後のダイヤモンドライクカーボン表面の構造は、例えば、ナノダイヤモンドの酸化後と同様であると推測される。ただし、この構造は、推測される構造の一例である。また、前記XPSによる元素分析結果を、下記表5に示す。表5に示すとおり、酸化反応後はO原子数の比率が増加しており、このことからも、ダイヤモンドライクカーボン表面の酸化が確認された。
【0127】
【表5】
【0128】
また、下記表6に、本実施例におけるグラフェン(GP)、カーボンナノチューブ(SWNT)、フラーレン(C60)およびナノダイヤモンド(ND)の酸化反応前後における酸素含有率の変化を示す。表6に示すとおり、sp結合のみで構成される炭素同素体(GP、SWNTおよびC60)は、曲率半径が大きいものほど、反応後に酸素含有率が大きく上昇したことから、反応性が高いことが示唆された。また、各酸化反応において、前述のXPS測定結果から、spに対してはOH基が、sp炭素に対してはOH基およびCOOH基が、それぞれ導入されたことが推認される。
【0129】
【表6】
【0130】
[実施例2]
実施例1のグラフェンおよびナノダイヤモンドについて、以下の方法でローダミンBを結合させ、さらに、蛍光強度を測定した。
【0131】
まず、試験管内にローダミンBを6mg加えた。つぎに、ここに脱イオン水を2ml加え、さらに、0.1M酢酸水溶液を加えてpHを6.5とした。これらを4つ準備し、それぞれに、酸化反応前のグラフェン、酸化反応60分後のグラフェン、酸化反応前のナノダイヤモンド、および酸化反応30分後のナノダイヤモンドをそれぞれ加え、室温で15分間撹拌を行った。それぞれ反応後は脱イオン水3mLを用いて2回洗浄し、24h減圧乾燥した。その後、それぞれについて、UV-visスペクトル計を用いて555nmを励起光として560~660nmの範囲で蛍光強度を測定した。
【0132】
図8にグラフェンの、図9にナノダイヤモンドの蛍光強度測定結果を、それぞれ示す。図8および9において、横軸は波長(nm)であり、縦軸はピーク強度(相対値)である。図示のとおり、グラフェンおよびナノダイヤモンドのいずれも、酸化反応後の方は、575nm付近のピーク強度が増大していたことから、ローダミンBが結合していたことが確認された。なお、このことから、酸化反応後には、グラフェンおよびナノダイヤモンドの表面に水酸基もしくはカルボキシ基またはそれらの両方が導入されていたことが推認される。
【0133】
[実施例3]
実施例1のナノダイヤモンドに対し、以下の方法で、NHS(N-ヒドロキシスクシンイミド)基および2,3-エポキシプロピル基をそれぞれ導入し、さらに、それらをフルオロアルキルアミノ基で置換した。
【0134】
[N-ヒドロキシスルホスクシンイミドを用いた官能基導入]
実施例1における酸化反応前および酸化反応後のナノダイヤモンドを、それぞれ個別の試験管に入れた。つぎに、続いて100mMの1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩(1-(3-Dimethylaminopropyl)-3-ethylcarbodiimide Hydrochloride、EDCと略すことがある。)水溶液(2mL)を加えて室温で60分間撹拌した。その後、N-ヒドロキシスルホスクシンイミド(N-Hydroxysulfosuccinimide)を80mgを加え、さらに室温で60分間撹拌し、反応させた。これにより、ナノダイヤモンドにNHS(N-ヒドロキシスクシンイミド)基が導入された有機物質を得た。さらに、1H,1H-ウンデカフルオロヘキシルアミン(1H,1H-Undecafluorohexylamine)を40μL加えて60分間撹拌して反応させ、前記NHS基がフルオロアルキルアミノ基で置換された有機物質を得た。得られた有機物質は、脱イオン水を用いて2回洗浄し、減圧下で24h乾燥した。
【0135】
[エピクロロヒドリンを用いた官能基導入]
実施例1における酸化反応前および酸化反応後のナノダイヤモンドを、それぞれ個別の試験管に入れた。つぎに、100mMのエピクロロヒドリン(Epichlorohydrin)水溶液(2mL)を加えて室温で60分間撹拌して反応させた。これにより、ナノダイヤモンドに2,3-エポキシプロピル基が導入された有機物質を得た。さらに、1H,1H-ウンデカフルオロヘキシルアミン(1H,1H-Undecafluorohexylamine)を40μL加えて60分間撹拌して反応させ、ナノダイヤモンドにフルオロアルキルアミノ基が導入された有機物質を得た。得られた有機物質は、脱イオン水を用いて2回洗浄し、減圧下で24h乾燥した。
【0136】
なお、本実施例における官能基導入反応は、下記スキームE3のように推測される。左側の反応式は、N-ヒドロキシスルホスクシンイミド(Sulfo-NHS)を用いた反応を示す。下記のとおり、ナノダイヤモンド表面のカルボキシ基の水素がスクシンイミド基で置換され、さらに、1H,1H-ウンデカフルオロヘキシルアミンとの縮合反応によりアミド結合が生成されたと考えられる。また、右側の反応式は、エピクロロヒドリンを用いた反応を示す。下記のとおり、ナノダイヤモンド表面の水酸基の水素が2,3-エポキシプロピル基で置換され、さらに、エポキシ基と1H,1H-ウンデカフルオロヘキシルアミンとの間で付加反応が起こったと考えられる。
【0137】
【化SE3】
【0138】
さらに、本実施例におけるフルオロアルキルアミノ基導入後のナノダイヤモンドについて、XPS測定を行った。下記表7は、N-ヒドロキシスルホスクシンイミドを用いてフルオロアルキルアミノ基を導入した場合のXPS測定結果を示す。下記表8は、エピクロロヒドリンを用いてフルオロアルキルアミノ基を導入した場合のXPS測定結果を示す。下記表7に示すとおり、酸化反応前および酸化反応後のいずれのナノダイヤモンドでも、1H,1H-ウンデカフルオロヘキシルアミンとの反応後にフッ素原子が導入されていたことから、表面にカルボキシ基が存在していたことが示唆された。しかし、酸化反応後のナノダイヤモンドの方がフッ素原子が多く導入されたことから、酸化反応前よりもカルボキシ基が増加していたことが示唆された。同様に、下記表8から、酸化反応前および酸化反応後のいずれのナノダイヤモンドでも、1H,1H-ウンデカフルオロヘキシルアミンとの反応後にフッ素原子が導入されていたことから、表面に水酸基(ヒドロキシ基)が存在していたことが示唆された。しかし、酸化反応後のナノダイヤモンドの方がフッ素原子が多く導入されたことから、酸化反応前よりも水酸基が増加していたことが示唆された。
【0139】
【表7】
【0140】
【表8】
【0141】
[実施例4]
以下のようにして、クライオ電子顕微鏡用グリッドのダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜を表面処理工程(酸化反応)により改質し、さらに、N-ヒドロキシスルホスクシンイミド(Sulfo-NHS)またはエピクロロヒドリンと反応させて官能基を導入し、クライオ電子顕微鏡用グリッドを製造した。さらに、そのクライオ電子顕微鏡用グリッドを用いてタンパク質を捕捉した。
【0142】
[DLC担持グリッドの製造]
雲母板上に、定法に従い、PVD法により厚み10nm程度のダイヤモンドライクカーボン(DLC)薄膜を蒸着した。その後、底部にQUANTIFOIL(Quantifoil Micro Tools GmbH社の商品名、クライオ電子顕微鏡用グリッド)を並べた水槽の水面に前記DLC薄膜を浮かべ、静かに水を抜くことで、QUANTIFOILがDLCにより被覆されたクライオ電子顕微鏡用グリッド(以下、「DLC担持グリッド」ということがある。)を製造した。このDLC担持グリッドを24時間乾燥させ、次の工程に用いた。
【0143】
[気相でのDLC担持グリッドの酸化]
図1の炭素同素体6として、実施例1の炭素同素体に代えて前記DLC担持グリッドを用いたことと、光照射時間を1分間、3分間または10分間にしたこと以外は図1(実施例1)と同様にして、前記表面処理工程(酸化反応)を行った後に減圧下で24h乾燥し、前記DLC担持グリッドのDLC薄膜表面が酸化された(改質された)クライオ電子顕微鏡用グリッドを製造した。
【0144】
[アポフェリチンを用いたネガティブ染色実験および電子顕微鏡観察]
前記表面処理工程(酸化反応)の前または後の前記DLC担持グリッドに、カップリング反応用の水溶液(カップリング水溶液)として、1質量%エピクロロヒドリン水溶液(2μL)を加えるか、または、1質量%EDC(1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩、1-(3-Dimethylaminopropyl)-3-ethylcarbodiimide Hydrochloride)水溶液および1質量%N-ヒドロキシスルホスクシンイミド(Sulfo-NHS)水溶液を加え、その後、室温で5分間静置した。その後、濾紙を用いて前記カップリング水溶液を除去した。このようにして、エピクロロヒドリンまたはSulfo-NHSにより処理されたDLC担持グリッドを得た。さらに、このDLC担持グリッドに、1質量%アポフェリチン水溶液(20mMリン酸水素二ナトリウム(Disodium phosphate)、150mM NaCl、pH7.0)を添加し、10分間静置した。さらに、2質量%モリブデン酸二アンモニウム(Ammonium molybdate)水溶液で洗浄後、濾紙を用いて前記水溶液を除去した。その後、クライオ電子顕微鏡(株式会社日立製作所、商品名「H-7650」、80kV、mag:80000)を用いて氷包埋法による測定を行い、前記DLC担持グリッドにより捕捉されたアポフェリチンを観察した。
【0145】
図10~14に、前記クライオ電子顕微鏡により撮影したネガティブ染色TEM画像(写真)を示す。
【0146】
図10は、未酸化(酸化反応前)の前記DLC担持グリッドをSulfo-NHSで処理し、さらにアポフェリチンで処理したもののネガティブ染色TEM画像である。図示のとおり、アポフェリチンの像が確認されなかったことから、このDLC担持グリッドでは、クライオ電子顕微鏡による観察に十分なアポフェリチンを捕捉できなかった。これは、DLC表面が未酸化で改質されていなかったことにより、Sulfo-NHSで処理しても官能基を導入できなかったためと考えられる。
【0147】
図11は、前記表面処理工程(酸化反応)を10分間行った後の前記DLC担持グリッドをSulfo-NHSで処理し、さらにアポフェリチンで処理したもののネガティブ染色TEM画像である。図示のとおり、このDLC担持グリッドでは、アポフェリチンの像を確認することができた。これは、DLC表面が前記表面処理工程における酸化反応で改質されたことにより、Sulfo-NHS処理により官能基が導入され、その官能基がアポフェリチンに結合したためと考えられる。また、アポフェリチンの偏在および配向性の偏りも見られなかった。すなわち、このDLC担持グリッドによれば、構造解析対象物質であるアポフェリチン(タンパク質)の偏在、配向性の偏り等を抑制可能であった。
【0148】
図12は、未酸化(酸化反応前)の前記DLC担持グリッドを、エピクロロヒドリンまたはSulfo-NHSで処理せずに、直接アポフェリチンで処理したもののネガティブ染色TEM画像である。図示のとおり、アポフェリチンの像が確認されなかったことから、このDLC担持グリッドでは、クライオ電子顕微鏡による観察に十分なアポフェリチンを捕捉できなかった。
【0149】
図13は、未酸化(酸化反応前)の前記DLC担持グリッドを、エピクロロヒドリンで処理し、さらにアポフェリチンで処理したもののネガティブ染色TEM画像である。図示のとおり、このDLC担持グリッドでは、わずかではあるが、アポフェリチンの像を確認することができた。これは、DLC表面が未酸化で改質されていなくても、わずかに水酸基を有しており、エピクロロヒドリン処理により官能基が導入されたためと推測される。また、アポフェリチンの偏在および配向性の偏りも見られなかった。すなわち、このDLC担持グリッドによれば、構造解析対象物質であるアポフェリチン(タンパク質)の偏在、配向性の偏り等を抑制可能であった。
【0150】
図14は、前記表面処理工程(酸化反応)を10分間行った後の前記DLC担持グリッドをエピクロロヒドリンで処理し、さらにアポフェリチンで処理したもののネガティブ染色TEM画像である。図示のとおり、このDLC担持グリッドでは、画面全体に均等に分散された(偏在していない)アポフェリチンの像を確認することができた。また、アポフェリチンの配向性の偏りも見られなかった。すなわち、このDLC担持グリッドによれば、構造解析対象物質であるアポフェリチン(タンパク質)の偏在、配向性の偏り等を抑制可能であった。
【0151】
[実施例5]
グラフェングリッドを製造し、そのグラフェングリッドを二酸化塩素ラジカルと反応させる表面処理工程を行って表面を改質(酸化)し、表面が改質(酸化)されたグラフェングリッドを製造した。さらに、前記表面が改質(酸化)されたグラフェングリッド表面に官能基を導入する官能基導入工程を行い、官能基が導入されたグラフェングリッドを製造した。さらに、前記官能基が導入されたグラフェングリッドに、クライオ電子顕微鏡による構造解析対象物質であるタンパク質を接合(結合)させた。
【0152】
[グラフェングリッドの製造]
ポリメタクリル酸メチル(PMMA)-グラフェン-Cuの三層から構成されるシートを0.5mol/Lの過硫酸アンモニウム水溶液の水面にCu面が接触するように浮かべ、30分間静置することでCu層を溶解させた。このようにしてCu層を除去して得られたPMMA-グラフェンシートを、超純水に10分間ずつ、計2回浮かべ洗浄を行った。その後、超純水で満たした膜張器(応研商事社製、商品名コロジオン膜張器)の底部にTEM用のMoグリッド(Quantifoil Micro Tools GmbH社製、商品名QUANTIFOIL)およびAuグリッド(Quantifoil Micro Tools GmbH社製、商品名QUANTIFOIL)を並べた。さらに、その膜張器の水面に前記PMMA-グラフェンシートを浮かべ、静かに水を抜いていくことで、前記グリッド上に前記PMMA-グラフェンシートを貼り付けた。このグリッドを室温で1時間乾燥させた後、130℃で20分間加熱処理を行った。その後、前記グリッドを60℃のアセトンに60分間、室温(約25℃)のクロロホルムに30分間、酢酸に3時間、イソプロピルアルコールに10分間ずつ計2回の順序で浸漬させPMMAを除去した。最後に100℃で10分間加熱処理を行い、MoグリッドまたはAuグリッド表面がグラフェンにより被覆されたグラフェングリッドを製造した。
【0153】
[グラフェングリッドと二酸化塩素ラジカルとの反応(表面処理工程)]
前記MoグリッドまたはAuグリッドから製造した前記グラフェングリッドのそれぞれを、130℃で15分間加熱処理した。その加熱処理後のグラフェングリッドを、実施例1および図1で説明した方法と同様の方法で、二酸化塩素ラジカル(ClOラジカル)による表面処理工程(表面の酸化)を行った。ただし、本実施例では、LED光(UV光)が前記グラフェングリッドに直接当たらないように、前記グラフェングリッドをアルミホイルでカバーして前記表面処理工程(表面の酸化)を行った。反応時間(光照射時間)は10分間とし、反応温度は、実施例1と同じく室温とした。表面処理工程前後の前記グラフェングリッドに対し、それぞれ実施例1と同様にXPS測定を行った。これにより、前記表面処理工程後に、C=C結合ピークの減衰、C-OH結合ピークおよびC-O-C結合ピークの増大が見られ、さらに、O原子数の比率が増加していたことから、グラフェン表面の酸化が確認された。
【0154】
[官能基導入工程]
下記スキーム1にしたがって、前記表面処理工程後のグラフェングリッド表面に官能基を導入した(官能基導入工程)。
【化S1】
【0155】
前記官能基導入工程は、具体的には、以下のとおりにして行った。まず、前記表面処理工程後のグラフェングリッドを、2mmol/Lポリエチレングリコール2-アミノエチルエーテル酢酸、Poly(ethylene glycol) 2-aminoethyl ether acetic acid(平均分子量2100)DMSO溶液に浸漬させ、室温で終夜静置した。これにより、前記スキーム1に示すとおり、前記グラフェングリッド表面のエポキシドと前記ポリエチレングリコール2-アミノエチルエーテル酢酸とを反応させて官能基を導入した。
【0156】
さらに、前記官能基導入工程を行ったグラフェングリッドに、クライオ電子顕微鏡による構造解析対象物質であるタンパク質を接合(結合)させた。具体的には、前記グラフェングリッドを、5mmol/LのN-ヒドロキシスルホスクシンイミド(Sulfo-NHS)および5mmol/LのEDCを含む水溶液中に15分間浸漬したのちに、0.2mg/mLのβ-ガラクトシダーゼ(B-gal)を含む水溶液中に60分間浸漬し、前記スキーム1に示すとおり、β-ガラクトシダーゼ(B-gal)中に存在するアミノ基と反応させることにより結合させた。
【0157】
[実施例6]
アモルファスカーボングリッドを製造し、そのアモルファスカーボングリッドを二酸化塩素ラジカルと反応させる表面処理工程を行って表面を改質(酸化)し、表面が改質(酸化)されたアモルファスカーボングリッドを製造した。さらに、前記表面が改質(酸化)されたアモルファスカーボングリッド表面に官能基を導入する官能基導入工程を行い、官能基が導入されたアモルファスカーボングリッドを製造した。さらに、前記官能基が導入されたアモルファスカーボングリッドに、クライオ電子顕微鏡による構造解析対象物質であるタンパク質を接合(結合)させた。
【0158】
[アモルファスカーボングリッドの製造]
超純水で満たした膜張器(応研商事社製、商品名コロジオン膜張器)の底部にTEM用のMoグリッド(Quantifoil Micro Tools GmbH社製、商品名QUANTIFOIL)およびAuグリッド(Quantifoil Micro Tools GmbH社製、商品名QUANTIFOIL)を並べた。雲母板上に成長させたカーボン膜を静かに水中に入れることで、カーボン膜のみを水面上に剥離させ、静かに水を抜いていくことでグリッド上にアモルファスカーボン膜を貼り付けた。このグリッドを室温で終夜乾燥させ、MoグリッドまたはAuグリッド表面がアモルファスカーボンにより被覆されたアモルファスカーボングリッドを製造した。
【0159】
[アモルファスカーボングリッドと二酸化塩素ラジカルとの反応(表面処理工程)]
実施例5の前記グラフェングリッドに代えて、前記MoグリッドまたはAuグリッドから製造した前記アモルファスカーボングリッドを用いることと、反応時間(光照射時間)を5分間としたこと以外は、実施例5と同様の方法で、二酸化塩素ラジカル(ClOラジカル)による表面処理工程(表面の酸化)を行った。表面処理工程前後の前記アモルファスカーボングリッドに対し、それぞれ実施例1と同様にXPS測定を行った。これにより、前記表面処理工程後に、C=C結合ピークの減衰、C-OH結合ピークおよびC-O-C結合ピークの増大が見られ、さらに、O原子数の比率が増加していたことから、アモルファスカーボン表面の酸化が確認された。
【0160】
[官能基導入工程]
下記スキーム2にしたがって、前記表面処理工程後のアモルファスカーボングリッド表面に官能基を導入した(官能基導入工程)。
【化S2】
【0161】
前記官能基導入工程は、具体的には、以下のとおりにして行った。まず、前記表面処理工程後のアモルファスカーボングリッドを200℃で10分間加熱処理した後、10mmol/LのN-ヒドロキシスルホスクシンイミド(Sulfo-NHS)および10mmol/LのEDCを含む水溶液中に浸漬させ、室温で10分間静置した。その後、10mmol/LのNH-PEG8-プロピオン酸を含む水溶液中に浸漬させ、室温で60分間静置した。これにより、前記スキーム2に示すとおり、前記アモルファスカーボングリッド表面のカルボキシ基と前記NH-PEG-プロピオン酸とを反応させて官能基を導入した。
【0162】
さらに、前記β-ガラクトシダーゼ(B-gal)を結合させたアモルファスカーボングリッドに、クライオ電子顕微鏡による構造解析対象物質であるタンパク質を接合(結合)させた。具体的には、前記アモルファスカーボングリッドを、10mmol/LのN-ヒドロキシスルホスクシンイミド(Sulfo-NHS)および10mmol/LのEDCを含む水溶液中に10分間浸漬したのちに、0.2mg/mLのβ-ガラクトシダーゼ(B-gal)を含む水溶液中に60分間浸漬し、前記スキーム2に示すとおり、β-ガラクトシダーゼ(B-gal)中に存在するアミノ基と反応させることにより結合させた。
【0163】
以上、実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をできる。
【産業上の利用可能性】
【0164】
以上のように、本発明によれば、クライオ電子顕微鏡による構造解析において、構造解析対象物質の偏在、配向性の偏り等を抑制または防止可能な、炭素同素体表面が改質された物質の製造方法、炭素同素体表面に官能基が導入された物質の製造方法、クライオ電子顕微鏡用グリッドの製造方法、有機物質、クライオ電子顕微鏡用グリッドを提供することができる。また、本発明の用途は、クライオ電子顕微鏡用に限定されず、任意の広範な用途に使用可能であり、その産業上利用価値は多大である。
【0165】
この出願は、2019年3月27日に出願された日本出願特願2019-061938を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0166】
1 シャーレ
2 蓋
3 シャーレ
4 シャーレ
5 ラジカル生成用反応系
6 炭素同素体
11 有機層(有機相)
12 水層(水相)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15