IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エルジー・ケム・リミテッドの特許一覧

<>
  • 特許-アクリル酸の製造方法 図1
  • 特許-アクリル酸の製造方法 図2
  • 特許-アクリル酸の製造方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】アクリル酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 51/377 20060101AFI20241111BHJP
   C07C 57/07 20060101ALI20241111BHJP
   C07C 51/44 20060101ALI20241111BHJP
【FI】
C07C51/377
C07C57/07
C07C51/44
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022565678
(86)(22)【出願日】2021-10-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-06
(86)【国際出願番号】 KR2021015177
(87)【国際公開番号】W WO2022119127
(87)【国際公開日】2022-06-09
【審査請求日】2022-10-26
(31)【優先権主張番号】10-2020-0167556
(32)【優先日】2020-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ミ・キュン・キム
(72)【発明者】
【氏名】ヘビン・キム
(72)【発明者】
【氏名】ジェイク・イ
(72)【発明者】
【氏名】ウンキョ・キム
【審査官】三須 大樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-189510(JP,A)
【文献】特表2007-522207(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸を反応器に供給して脱水反応させ、アクリル酸を含む反応生成物を製造するステップ;
前記反応生成物を含む反応器の排出ストリームを冷却塔に供給して凝縮させ、凝縮物を含む下部排出ストリームはアクリル酸精製部に移送し、未凝縮物は上部排出ストリームとして排出して蒸留塔に供給するステップ;および
前記蒸留塔にて、アクリル酸を含む下部排出ストリームは冷却塔に循環させ、上部排出ストリームからアセトアルデヒドを除去するステップ
を含み、
前記蒸留塔の運転圧力は10kPa~900kPaであり、冷却塔の運転圧力よりも低く、
前記蒸留塔の下部排出ストリームは、冷却塔に循環される前に、第1冷却器に供給され、冷却塔の下部排出ストリームの一部のストリームと熱交換した後、一部のストリームは冷却塔に循環され、残りのストリームは蒸留塔に還流される、アクリル酸の製造方法。
【請求項2】
前記冷却塔の下部排出ストリームの一部のストリームは、第1冷却器を通過して冷却塔に還流される、請求項1に記載のアクリル酸の製造方法。
【請求項3】
前記第1冷却器を通過した冷却塔の下部排出ストリームの一部のストリームは、第2冷却器をさらに通過して冷却塔に還流される、請求項2に記載のアクリル酸の製造方法。
【請求項4】
前記蒸留塔の運転圧力は、冷却塔の運転圧力よりも20kPa~900kPa低い、請求項1からのいずれか一項に記載のアクリル酸の製造方法。
【請求項5】
前記冷却塔の運転圧力は30kPa~1000kPaである、請求項1からのいずれか一項に記載のアクリル酸の製造方法。
【請求項6】
前記冷却塔の下部排出ストリーム中のアセトアルデヒドの流量は、前記反応器の排出ストリーム中のアセトアルデヒドの流量に対して3%以下である、請求項1からのいずれか一項に記載のアクリル酸の製造方法。
【請求項7】
前記蒸留塔の上部排出ストリーム中のアクリル酸の流量は、前記反応器の排出ストリーム中のアクリル酸の流量に対して3%以下である、請求項1からのいずれか一項に記載のアクリル酸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2020年12月03日付にて韓国特許庁に提出された韓国特許出願第10-2020-0167556号の出願日の利益を主張し、その内容の全ては本明細書に含まれる。
【0002】
本発明は、アクリル酸の製造方法に関し、より詳しくは、乳酸の脱水反応によりアクリル酸を製造するにおいて、副産物として生成されるアセトアルデヒドを効果的に除去するとともにアクリル酸の損失を防止する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
アクリル酸は、繊維、粘着剤、塗料、繊維加工、皮革、建築用材料などに用いられる重合体原料として用いられており、その需要が拡大している。また、前記アクリル酸は、吸水性樹脂の原料としても用いられており、紙オムツ、生理用ナプキンなどの吸水性物品、農園芸用保水剤、および工業用止水材などのように工業的に多く用いられている。
【0004】
従来のアクリル酸の製造方法は、プロピレンを空気酸化する方法が一般的であるが、この方法は、プロピレンを気相接触酸化反応によりアクロレインに変換させ、それを気相接触酸化反応させてアクリル酸を製造する方法であって、副産物として酢酸が生成され、これはアクリル酸と分離し難いという問題がある。また、前記プロピレンを用いたアクリル酸の製造方法は、化石資源である原油を精製して得られたプロピレンを原料とし、近年の原油価格の上昇や地球温暖化などの問題を考慮すると、原料費用や環境汚染の面で問題がある。
【0005】
これに対し、カーボンニュートラルなバイオマス原料からアクリル酸を製造する方法に関する研究が行われた。例えば、乳酸(Lactic Acid、LA)の気相脱水反応によりアクリル酸(Acrylic Acid、AA)を製造する方法が挙げられる。この方法は、一般に300℃以上の高温および触媒の存在下で乳酸の分子内脱水反応によりアクリル酸を製造する方法である。しかし、この場合には、乳酸の脱水反応時、脱水反応の他に副反応が起こり、このため、反応生成物として、アクリル酸の他に、アセトアルデヒド(Acetaldehyde、ACHO)が副産物として生成される。この場合、前記乳酸の脱水反応により生成される副産物であるアセトアルデヒドによりアクリル酸の精製過程で高分子の生成を促進させ、製品の品質および生産性を低下させるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】JP2014-189513 A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、上記の発明の背景となる技術において言及した問題を解決するために、乳酸の脱水反応によりアクリル酸の製造時、副産物であるアセトアルデヒドを効果的に除去し、この過程で失われる酢酸の量を最小化させる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するための本発明の一実施形態によれば、本発明は、乳酸を反応器に供給して脱水反応させ、アクリル酸を含む反応生成物を製造するステップ;前記反応生成物を含む反応器の排出ストリームを冷却塔に供給して凝縮させ、凝縮物を含む下部排出ストリームはアクリル酸精製部に移送し、未凝縮物は上部排出ストリームとして排出して蒸留塔に供給するステップ;および前記蒸留塔にて、アクリル酸を含む下部排出ストリームは冷却塔に循環させ、上部排出ストリームからアセトアルデヒドを除去するステップを含む、アクリル酸の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のアクリル酸の製造方法によれば、アクリル酸を含む反応生成物を冷却塔にて凝縮させ、下部に流出するアセトアルデヒド量を最小化するように前記冷却塔を運転することで、酢酸精製部に移送されるアセトアルデヒド量を減少させることができる。これにより、アセトアルデヒドによりアクリル酸の精製過程における高分子の生成を防止し、製品の品質および生産性を向上させることができる。
【0010】
また、下部に流出するアセトアルデヒド量を最小化するように前記冷却塔を運転するためには、冷却塔の上部に一定量の水を流出させ、この際、アクリル酸の損失が発生することになる。これに対し、本発明においては、冷却塔の上部に蒸留塔を置き、前記蒸留塔の下部にアクリル酸を回収して再び冷却塔に循環させることで、アクリル酸の損失を防止することができる。
【0011】
なお、本発明においては、前記冷却塔および蒸留塔の運転条件を制御することで、前記蒸留塔下部のリボイラーに必要な熱源として前記冷却塔下部の冷却器にて除去される熱を活用し、工程のエネルギー使用量が増加することなくアクリル酸を回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態によるアクリル酸の製造方法の工程フローチャートである。
図2】本発明の一実施形態によるアクリル酸の製造方法の工程フローチャートである。
図3】比較例によるアクリル酸の製造方法の工程フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の説明および請求の範囲で用いられている用語や単語は、通常的もしくは辞書的な意味に限定して解釈してはならず、発明者らは、自分の発明を最善の方法で説明するために、用語の概念を適切に定義することができるという原則に則って、本発明の技術的思想に合致する意味と概念で解釈すべきである。
【0014】
本発明において、用語「上部」は、容器内の装置の全体高さから50%以上の高さに該当する部分を意味し、「下部」は、容器ないし装置の全体高さから50%未満の高さに該当する部分を意味し得る。
【0015】
本発明において、用語「ストリーム(stream)」は、工程中の流体(fluid)の流れを意味し得るし、また、配管内に流れる流体自体を意味し得る。具体的に、前記ストリームは、各装置を連結する配管内に流れる流体自体および流体の流れを同時に意味し得る。また、前記流体は、気体(gas)および液体(liquid)などを意味し得る。前記流体に固体成分(solid)が含まれている場合に対して排除するものではない。
以下、本発明に対する理解を助けるために、図1図2を参照して本発明についてさらに詳しく説明する。
【0016】
本発明によれば、アクリル酸の製造方法が提供される。より具体的に、乳酸を反応器10に供給して脱水反応させ、アクリル酸を含む反応生成物を製造するステップ;前記反応生成物を含む反応器10の排出ストリームを冷却塔20に供給して凝縮させ、凝縮物を含む下部排出ストリームはアクリル酸精製部に移送し、未凝縮物は上部排出ストリームとして排出して蒸留塔30に供給するステップ;および前記蒸留塔30にて、アクリル酸を含む下部排出ストリームは冷却塔20に循環させ、上部排出ストリームからアセトアルデヒドを除去するステップを含むことができる。
【0017】
具体的に、従来のアクリル酸の製造方法は、プロピレンを空気酸化する方法が一般的であるが、この方法は、プロピレンを気相接触酸化反応によりアクロレインに変換させ、それを気相接触酸化反応させてアクリル酸を製造する方法であって、副産物として酢酸が生成され、これはアクリル酸と分離し難いという問題がある。また、前記プロピレンを用いたアクリル酸の製造方法は、化石資源である原油を精製して得られたプロピレンを原料とし、近年の原油価格の上昇や地球温暖化などの問題を考慮すると、原料費用や環境汚染の面で問題がある。
【0018】
前記従来のアクリル酸の製造方法の問題を解決するために、カーボンニュートラルなバイオマス原料からアクリル酸を製造する方法に関する研究が行われた。例えば、乳酸(Lactic Acid、LA)の気相脱水反応によりアクリル酸(Acrylic Acid、AA)を製造する方法が挙げられる。この方法は、一般に高温および触媒の存在下で乳酸の分子内脱水反応によりアクリル酸を製造する方法である。しかし、この場合には、乳酸の脱水反応時、脱水反応の他に副反応が起こり、このため、反応生成物として、アクリル酸の他に、アセトアルデヒド(Acetaldehyde、ACHO)が副産物として生成される。この場合、前記乳酸の脱水反応により生成される副産物であるアセトアルデヒドによりアクリル酸の精製過程で高分子の生成を促進させ、製品の品質および生産性を低下させるという問題があった。したがって、アクリル酸の精製前にアセトアルデヒドを分離するための研究が行われ、この場合、アセトアルデヒドを効果的に分離するためには、冷却塔20の上部に水を流出させなければならず、この過程でアクリル酸が失われるという問題があった。
【0019】
これに対し、本発明においては、乳酸の脱水反応によりアクリル酸を製造するが、この際、前記製造過程で副産物として生成されるアセトアルデヒドを効果的に除去するとともに、アクリル酸の損失を防止して製品の品質および生産性を向上させることができるアクリル酸の製造方法を提供しようとする。
【0020】
本発明の一実施形態によれば、乳酸を反応器10に供給して脱水反応させ、アクリル酸を含む反応生成物を製造することができる。この際、前記乳酸は、水溶液状態で反応器10に投入されることができ、前記脱水反応は、触媒の存在下で気相反応として行われることができる。例えば、前記乳酸は、10質量%~90質量%、または20質量%~80質量%の乳酸が含まれた乳酸水溶液として反応器10に投入されることができる。
【0021】
前記反応器10は、通常の乳酸の脱水反応が可能な反応器であってもよく、例えば、撹拌式反応器、固定床反応器、および流動床反応器などを含むことができる。また、前記反応器10は、触媒が充填された反応管を含むことができ、前記反応管に原料である乳酸水溶液の揮発成分を含む反応ガスを通過させつつ、気相接触反応により乳酸を脱水させてアクリル酸を生成することができる。前記反応ガスは、乳酸の他に濃度を調整するための水蒸気、窒素、および空気のいずれか一つ以上の希釈ガスをさらに含むことができる。
【0022】
前記反応器10の運転条件は、通常の乳酸の脱水反応条件下で行われてもよく、例えば、250℃~500℃、250℃~450℃、または300℃~400℃であってもよい。この際、前記反応器10の運転温度は、反応器10の温度制御のために用いられる熱媒体などの設定温度を意味し得る。また、前記反応器10の運転圧力は30kPa~1000kPa、50kPa~500kPa、または60kPa~300kPaであってもよい。
【0023】
前記乳酸の脱水反応に用いられる触媒は、例えば、硫酸塩系触媒、リン酸塩系触媒、および硝酸塩系触媒からなる群より選択された1種以上を含むことができる。具体的な例として、前記硫酸塩は、NaSO、KSO、CaSO、およびAl(SOを含むことができ、前記リン酸塩は、NaPO、NaHPO、NaHPO、KPO、KHPO、KHPO、CaHPO、Ca(PO、AlPO、CaH、およびCaを含むことができ、前記硝酸塩は、NaNO、KNO、およびCa(NOを含むことができる。また、前記触媒は、担持体に担持されることができる。前記担持体は、例えば、珪藻土、アルミナ、シリカ、二酸化チタン、炭化物、およびゼオライトからなる群より選択された1種以上を含むことができる。
【0024】
前記乳酸の脱水反応により製造される反応生成物は、目的とする生成物であるアクリル酸の他に、水(HO)、アセトアルデヒド(ACHO)、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、希釈ガス、および高沸点物質などの副産物をさらに含むことができる。この際、前記反応生成物中に含まれたアセトアルデヒドの含量は、アクリル酸の含量に対して5%~60%程度であり得る。そこで、前記反応生成物からアクリル酸を分離するために精製する過程が必要である。
【0025】
本発明の一実施形態によれば、前記反応生成物を含む反応器10の排出ストリームをアクリル酸精製部に移送する前に、冷却塔20に供給して冷却させることができる。具体的に、前記反応生成物を含む反応器10の排出ストリームは気相として排出されるため、冷却塔20に供給して冷却により凝縮させることができる。この過程で凝縮された凝縮物は、冷却塔20の下部排出ストリームとしてアクリル酸精製部に移送し、未凝縮物は、上部排出ストリームとして排出して蒸留塔30に供給することができる。この際、前記凝縮物は、アクリル酸と、副産物として水および高沸点物質などを含むことができ、未凝縮物は、アセトアルデヒド、水、一酸化炭素、二酸化炭素、および希釈ガスなどを含むことができる。
【0026】
前記冷却塔20は、下部排出ストリーム中のアセトアルデヒドの含量を最小化する条件で運転されることができる。具体的に、前記冷却塔20の下部排出ストリームは、アクリル酸の精製のためにアクリル酸精製部に移送され、前記アクリル酸の精製過程でアセトアルデヒドにより高分子の生成が促進され、製品の品質および生産性が低下するという問題がある。これに対し、本発明においては、前記冷却塔20の運転条件を制御することで、冷却塔20の下部排出ストリームとして流出するアセトアルデヒドの含量を最小化した。例えば、前記冷却塔20の下部排出ストリーム中のアセトアルデヒドの流量は、前記反応器10の排出ストリーム中のアセトアルデヒドの流量に対して3%以下、0.1%~2.5%、または0.5%~2%であり得る。
【0027】
前記冷却塔20の下部排出ストリーム中のアセトアルデヒドの含量を最小化するためには、前記冷却塔20の上部排出ストリームに水を一定量含ませなければならない。具体的に、前記冷却塔20の上部排出ストリームに水を一定量含ませる場合、水よりも沸点が低いアセトアルデヒドの大半を冷却塔20の上部排出ストリームに含ませることができる。これに対し、冷却塔20の上部排出ストリームに水を含ませることなく大半のアセトアルデヒドを含ませるためには、冷却塔20における分離効率を上げるために段数を増加させるか、またはリボイラーを追加して蒸留塔方式に変更させなければならないため非効率的である。したがって、本発明においては、冷却塔20の上部排出ストリームに水を一定量含ませる効率的な方法で、冷却塔20の下部排出ストリームとして流出するアセトアルデヒドの量を最小化することができる。例えば、前記冷却塔20の上部排出ストリーム中の水の流量は、前記反応器10の排出ストリーム中の水の流量に対して20%~50%、30%~50%、または35%~50%であり得る。
【0028】
また、前記冷却塔20の上部排出ストリームに水を一定量含ませるように冷却塔20を運転する場合、前記冷却塔20の上部排出ストリームとしてアクリル酸が共に流出し得る。例えば、前記冷却塔20の上部排出ストリーム中のアクリル酸の流量は、前記反応器10の排出ストリーム中のアクリル酸の流量に対して5%~50%、20%~50%、または30%~50%であり得る。そこで、従来は、アクリル酸精製部に反応生成物を移送する前に冷却塔20下部のアセトアルデヒドの含量を減少させるためには、上記のように過量のアクリル酸の損失が避けられなかった。これに対し、本発明においては、蒸留塔30をさらに設け、前記冷却塔20の上部排出ストリームを蒸留塔30に供給し、冷却塔20の上部に流出したアクリル酸を回収することができる。
【0029】
前記冷却塔20の運転圧力は、例えば、30kPa~1000kPa、50kPa~500kPa、または60kPa~300kPaであってもよい。前記範囲内で冷却塔20を運転することで、冷却塔20の上部排出ストリームに水を一定量含ませながらも、下部に流出するアセトアルデヒドの含量を最小化することができる。
【0030】
前記冷却塔20の下部排出ストリームの一部のストリームは、1器以上の冷却器を通過して冷却塔20に還流させ、残りのストリームは、アクリル酸精製部に移送することができる。例えば、前記冷却塔20の下部排出ストリームの一部のストリームは、第1冷却器21、または第1冷却器21および第2冷却器22を通過して冷却塔20に還流させることができる。この際、前記第1冷却器21の運転条件、第2冷却器22の運転条件、および冷却塔20下部の還流比は、冷却塔20の運転条件に応じて適宜調節することができる。
【0031】
前記第1冷却器21および第2冷却器22においては、それぞれ冷媒として、例えば、冷却水(cooling water)、低温冷却水(chilled water)、および塩水(brine)から選択された1種以上の冷却水を用いることができる。具体的な例として、前記第1冷却器21および第2冷却器22においては、比較的に安価の冷却水を用いることができる。
【0032】
前記精製部は、例えば、前記冷却塔20の下部排出ストリーム中に含まれた水を除去するための水分離ステップおよび高沸点物質分離ステップを含むことができ、これにより、高純度で分離したアクリル酸を得ることができる。
【0033】
本発明の一実施形態によれば、前記冷却塔20にて凝縮されていない未凝縮物は、冷却塔20の上部排出ストリームとして排出されて蒸留塔30に供給されることができる。この際、前記蒸留塔30は、冷却塔20の上部排出ストリーム中に含まれているアクリル酸を分離して回収するためのものであってもよい。
【0034】
具体的に、前記蒸留塔30にて分離したアクリル酸は、前記蒸留塔30の下部排出ストリームとして排出されて冷却塔20に循環されることができ、アセトアルデヒド、一酸化炭素、二酸化炭素、および希釈ガスなどは、蒸留塔30の上部排出ストリームとして排出することができる。
【0035】
前記蒸留塔30の上部排出ストリームは、凝縮器32を経て、一部のストリームは蒸留塔30に還流させ、残りのストリームは排出することができる。この際、前記蒸留塔30上部の還流比は、蒸留塔30の運転条件に応じて適宜調節することができる。
【0036】
前記蒸留塔30の上部排出ストリームは、必要に応じて追加の精製過程を経ることができ、これにより、前記蒸留塔30の上部排出ストリーム中に含まれたアセトアルデヒドを精製して別に販売することで、アクリル酸の製造費用を下げて競争力を確保することができる。
【0037】
前記蒸留塔30の下部排出ストリームは、冷却塔20に循環される前に、リボイラー31を経て加熱された後、一部のストリームは冷却塔20に循環され、残りのストリームは蒸留塔30に還流されることができる。この際、前記蒸留塔30下部の還流比は、蒸留塔30の運転条件に応じて適宜調節することができる。
【0038】
また、前記蒸留塔30の排出ストリームは、冷却塔20に循環される前に、別のリボイラー31を用いることなく、前記冷却塔20の下部に設けられた1器以上の冷却器にて冷却塔20の下部排出ストリームの一部のストリームと熱交換した後、一部のストリームは冷却塔20に循環され、残りのストリームは蒸留塔30に還流されることができる。具体的な例として、前記蒸留塔30の下部排出ストリームは、冷却塔20に循環される前に、前記第1冷却器21に冷媒として供給され、冷却塔20の下部排出ストリームの一部のストリームと互いに向流(counter-current flow)、並流(co-current flow)、または直交流(cross flow)により熱交換した後、一部のストリームは冷却塔20に循環され、残りのストリームは蒸留塔30に還流されることができる。具体的に、前記冷却塔20の上部に排出されるアクリル酸は、廃水に含まれて工程外に排出されるか、または回収するためには蒸留過程を経なければならないため、エネルギーを追加的に消耗し得るが、上記のように、蒸留塔30下部のリボイラー31に必要な熱源として前記冷却塔20下部の冷却器にて除去される熱を活用し、工程のエネルギー使用量が増加することなくアクリル酸を回収することができる。
【0039】
前記蒸留塔30の運転圧力は、例えば、10kPa~900kPa、30kPa~600kPa、または40kPa~200kPaであってもよい。前記範囲内で蒸留塔30を運転することで、蒸留塔30の下部排出ストリームとしてアクリル酸を最大限回収して冷却塔20に循環させることができる。
【0040】
前記蒸留塔30の上部排出ストリーム中のアクリル酸の流量は、前記反応器10の排出ストリーム中のアクリル酸の流量に対して3%以下、0.1%~3%、または0.1%~1.5%であり得る。このように前記蒸留塔30にてアクリル酸を最大限回収することで、アクリル酸の損失を防止することができる。
【0041】
前記蒸留塔30の下部排出ストリームと冷却塔20の下部排出ストリームの一部のストリームと熱交換させるために、前記蒸留塔30および冷却塔20の運転圧力を制御することができる。例えば、前記蒸留塔30の運転圧力は、冷却塔20の運転圧力よりも低く制御することができる。具体的な例として、前記蒸留塔30の運転圧力は、冷却塔20の運転圧力よりも20kPa~900kPa、30kPa~500kPa、または50kPa~200kPa低く制御することができる。前記範囲内で蒸留塔30および冷却塔20の運転圧力を制御することで、前記蒸留塔30の下部排出ストリームと冷却塔20の下部排出ストリームの一部のストリームの温度差により熱交換が可能であり、これにより、蒸留塔30におけるエネルギー使用量が増加することなくアクリル酸を回収して冷却塔20に循環させることができる。また、前記蒸留塔30の下部排出ストリームと冷却塔20の下部排出ストリームの一部のストリームとの熱交換により、前記冷却器における冷媒使用量を減少させることができる。
【0042】
本発明の一実施形態によれば、前記アクリル酸の製造方法において、必要な場合、蒸留塔、凝縮器、リボイラー、バルブ、ポンプ、分離器、および混合器などの装置をさらに設けることができる。
【0043】
以上、本発明に係るアクリル酸の製造方法を記載および図面に図示したが、上記の記載および図面の図示は、本発明を理解するための核心的な構成だけを記載および図示したものであって、上記の記載および図面に図示した工程および装置の他に、別に記載および図示していない工程および装置は、本発明に係るアクリル酸の製造方法を実施するために適宜応用して利用されてもよい。
【実施例
【0044】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。ただし、下記の実施例は、本発明を例示するためのものであって、本発明の範囲および技術思想の範囲内で多様な変更および修正が可能であることは、通常の技術者にとって明白であり、これらにのみ本発明の範囲が限定されるものではない。
【0045】
実施例
実施例1
図1に示された工程フローチャートに対し、Aspen社のAspen Plusシミュレータを用いて、アクリル酸の製造方法をシミュレーションした。
具体的に、反応器10に、乳酸と、希釈ガスとして窒素(N)を供給し、脱水反応によりアクリル酸(AA)を含む反応生成物を製造し、前記反応生成物を含む反応器10の排出ストリームは冷却塔20に供給した。
【0046】
前記冷却塔20にて、反応器10の排出ストリームを凝縮させ、未凝縮物は上部排出ストリームとして排出して蒸留塔30に供給した。また、前記冷却塔20にて、凝縮物は下部排出ストリームとして117℃の温度で排出し、一部のストリームは第1冷却器21を通過させて冷却塔20に還流させ、残りのストリームはアクリル酸精製部に供給した。この際、前記冷却塔20の運転圧力は200kPaに制御した。
【0047】
前記蒸留塔30においては、アクリル酸を含む113℃の下部排出ストリームをリボイラー31に通過させ、一部のストリームは蒸留塔30に還流させ、残りのストリームは冷却塔20に循環させた。また、前記蒸留塔30にて、アセトアルデヒドを含む上部排出ストリームは凝縮器32を通過し、一部のストリームは蒸留塔30に還流させ、残りのストリームは排出した。この際、前記蒸留塔30の運転圧力は190kPaに制御した。
その結果、各ストリーム中の成分別の流量(kg/hr)を下記表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
前記総計(total)は、Aspen Plusシミュレータにより求められた値を少数点以下1桁まで四捨五入した値である。
前記表1を参照すれば、実施例1の場合、精製部に移送される冷却塔20の下部排出ストリーム中のアセトアルデヒドの量が、反応生成物中に含まれたアセトアルデヒドの約1.4%レベルであって、非常に少ないことを確認することができ、蒸留塔30の上部排出ストリームとして流出するアクリル酸の量が、反応生成物中に含まれたアクリル酸の約1%レベルであって、アクリル酸の損失が非常に少ないことを確認することができた。
【0050】
実施例2
図2に示された工程フローチャートに対し、Aspen社のAspen Plusシミュレータを用いて、アクリル酸の製造方法をシミュレーションした。
【0051】
具体的に、反応器10に、乳酸と、希釈ガスとして窒素(N)を供給し、脱水反応によりアクリル酸(AA)を含む反応生成物を製造し、前記反応生成物を含む反応器10の排出ストリームは冷却塔20に供給した。
【0052】
前記冷却塔20にて、反応器10の排出ストリームを凝縮させ、未凝縮物は上部排出ストリームとして排出して蒸留塔30に供給した。また、前記冷却塔20にて、凝縮物は下部排出ストリームとして117℃の温度で排出し、一部のストリームは第1冷却器21および第2冷却器22を通過させて冷却塔20に還流させ、残りのストリームはアクリル酸精製部に供給した。この際、前記冷却塔20の運転圧力は200kPaに制御した。
【0053】
前記蒸留塔30においては、アクリル酸を含む96℃の下部排出ストリームを第1冷却器21に供給し、前記冷却塔20の下部排出ストリームの一部のストリームと熱交換させた後、一部のストリームは蒸留塔30に還流させ、残りのストリームは冷却塔20に循環させた。また、前記蒸留塔30にて、アセトアルデヒドを含む上部排出ストリームは凝縮器32を通過し、一部のストリームは蒸留塔30に還流させ、残りのストリームは排出した。この際、前記蒸留塔30の運転圧力は110kPaに制御した。
その結果、各ストリーム中の成分別の流量を下記表2に示す。
【0054】
【表2】
【0055】
前記表2を参照すれば、実施例2の場合も、実施例1と同様に、精製部に移送される冷却塔20の下部排出ストリーム中のアセトアルデヒドの量を減少させるとともに、アクリル酸の損失が非常に少ないことを確認することができた。
【0056】
これとともに、前記蒸留塔30の下部排出ストリームと冷却塔20の下部排出ストリームの一部のストリームを第1冷却器21にて熱交換させることで、実施例1の場合にリボイラー31に供給されなければならない熱量を、第1冷却器21にて除去される約33233kcal/hrの熱量を活用することで、冷却塔20の上部に排出されるアクリル酸を追加のエネルギー使用なしに回収することができた。
【0057】
比較例
比較例1
図3に示された工程フローチャートに対し、Aspen社のAspen Plusシミュレータを用いて、アクリル酸の製造方法をシミュレーションした。
具体的に、反応器10に、乳酸と、希釈ガスとして窒素を供給し、脱水反応によりアクリル酸を含む反応生成物を製造し、前記反応生成物を含む反応器10の排出ストリームは冷却塔20に供給した。
【0058】
前記冷却塔20にて、反応器10の排出ストリームを凝縮させ、未凝縮物は上部排出ストリームとして排出し、前記冷却塔20にて、凝縮物は下部排出ストリームとして排出し、一部のストリームは第1冷却器21を通過させて冷却塔20に還流させ、残りのストリームはアクリル酸精製部に供給した。この際、前記冷却塔20の運転圧力は200kPaに制御し、冷却塔20の下部排出ストリームが第1冷却器21を経て再び冷却塔20に循環される循環流量を制御し、冷却塔20の下部排出ストリームとして流出するアセトアルデヒドの量を最小化させた。
その結果、各ストリーム中の成分別の流量を下記表3に示す。
【0059】
【表3】
【0060】
比較例2
前記比較例1において、冷却塔20の下部排出ストリームが第1冷却器21を経て再び冷却塔20に循環される循環流量を増加させたことを除いては、前記比較例1と同様の方法で行った。
その結果、各ストリーム中の成分別の流量を下記表4に示す。
【0061】
【表4】
【0062】
前記表3および表4を参照すれば、比較例1の場合、冷却塔20の下部排出ストリームが第1冷却器21を経て再び冷却塔20に循環される循環流量を調節し、実施例のように冷却塔20の下部排出ストリーム中のアセトアルデヒドの量を最小化したものであり、冷却塔20の上部排出ストリームとして流出するアクリル酸の量が、反応生成物中に含まれたアクリル酸の約5.4%であって、非常に高いことを確認することができた。
【0063】
また、比較例2の場合、前記比較例1と比べて冷却塔20の上部排出ストリームとして流出するアクリル酸の量を最小化する場合、冷却塔20の下部排出ストリーム中のアセトアルデヒドの量が、反応生成物中に含まれたアセトアルデヒドの約12%であって、非常に高いことを確認することができた。
【符号の説明】
【0064】
10 ・・・反応器
20 ・・・冷却塔
21 ・・・第1冷却器
22 ・・・第2冷却器
30 ・・・蒸留塔
31 ・・・リボイラー
32 ・・・凝縮器
図1
図2
図3