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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】アクリル酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 51/377 20060101AFI20241111BHJP
   C07C 57/065 20060101ALI20241111BHJP
   C07C 57/07 20060101ALI20241111BHJP
   C07C 51/44 20060101ALI20241111BHJP
【FI】
C07C51/377
C07C57/065
C07C57/07
C07C51/44
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023534412
(86)(22)【出願日】2022-06-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-20
(86)【国際出願番号】 KR2022008575
(87)【国際公開番号】W WO2023063525
(87)【国際公開日】2023-04-20
【審査請求日】2023-06-06
(31)【優先権主張番号】10-2021-0137933
(32)【優先日】2021-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ビョン・ギル・リュ
(72)【発明者】
【氏名】ミ・キュン・キム
(72)【発明者】
【氏名】ウン・キョ・キム
(72)【発明者】
【氏名】ヘ・ビン・キム
【審査官】藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-189510(JP,A)
【文献】特開2013-159586(JP,A)
【文献】特開2005-247714(JP,A)
【文献】特表2019-508477(JP,A)
【文献】特表2023-523616(JP,A)
【文献】特開2008-162957(JP,A)
【文献】特開2012-77014(JP,A)
【文献】特開2008-162956(JP,A)
【文献】特表2019-514937(JP,A)
【文献】特開2013-193970(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 51/377
C07C 57/045
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸水溶液を反応器に供給して脱水反応させて、アクリル酸を含む反応生成物を製造するステップと、
前記反応生成物を含む反応器排出ストリームを第1冷却塔に供給し、前記第1冷却塔の上部排出ストリームを第2冷却塔に供給するステップと、
前記第2冷却塔の下部から排出される第1アクリル酸水溶液ストリームを抽出塔に供給するステップと、
前記抽出塔の上部排出ストリームと前記第1冷却塔の下部から排出される第2アクリル酸水溶液ストリームを蒸留塔に供給するステップと、
前記蒸留塔の下部排出ストリームからアクリル酸を分離するステップとを含み、
前記第1アクリル酸水溶液ストリームのアクリル酸含量に対する水の含量比は、3.0~4.5である、
アクリル酸の製造方法。
【請求項2】
前記第2アクリル酸水溶液ストリームのアクリル酸含量に対する水の含量比は、1.0~2.1である、請求項1に記載のアクリル酸の製造方法。
【請求項3】
前記抽出塔の上部排出ストリームと前記第2アクリル酸水溶液ストリームは、混合ストリームを形成して蒸留塔に供給される、請求項1に記載のアクリル酸の製造方法。
【請求項4】
前記第2冷却塔の上部にガス成分を分離する、請求項1に記載のアクリル酸の製造方法。
【請求項5】
前記ガス成分は、アセトアルデヒドを含む、請求項4に記載のアクリル酸の製造方法。
【請求項6】
前記抽出塔に抽出剤が供給され、前記抽出剤は、前記抽出塔の上部排出ストリームとして排出されて前記蒸留塔に供給され、前記蒸留塔で上部に分離されて前記抽出塔に循環する、請求項1に記載のアクリル酸の製造方法。
【請求項7】
前記抽出塔の下部排出ストリームとして水を分離する、請求項1に記載のアクリル酸の製造方法。
【請求項8】
前記蒸留塔の側部排出ストリームとして水を分離する、請求項1に記載のアクリル酸の製造方法。
【請求項9】
前記反応生成物内のアクリル酸含量に対する水の含量比は、2.0~3.5である、請求項1に記載のアクリル酸の製造方法。
【請求項10】
前記第1冷却塔および第2冷却塔それぞれの運転温度は40℃~200℃であり、運転圧力は1kg/cm~20kg/cmである、請求項1に記載のアクリル酸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2021年10月15日付けの韓国特許出願第10-2021-0137933号に基づく優先権の利益を主張し、該当韓国特許出願の文献に開示されている全ての内容は、本明細書の一部として組み込まれる。
【0002】
本発明は、アクリル酸の製造方法に関し、より詳細には、乳酸の脱水反応によりアクリル酸を製造する際に、アクリル酸の損失を低減し、且つ、使用されるエネルギーを低減する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
アクリル酸は、繊維、粘着剤、塗料、繊維加工、皮革、建築用材料などに使用される重合体原料として用いられ、その需要は拡大している。また、アクリル酸は、吸水性樹脂の原料としても使用され、紙おむつ、生理用ナプキンなどの吸水物品、農園芸用保水剤および工業用止水材など、工業的に多く用いられている。
【0004】
従来のアクリル酸の製造方法は、プロピレンを空気酸化する方法が一般的であるが、この方法は、プロピレンを気相接触酸化反応によってアクロレインに変換し、これを気相接触酸化反応させてアクリル酸を製造する方法であり、副生成物として酢酸が生成され、これは、アクリル酸との分離が難しい問題がある。また、プロピレンを用いたアクリル酸の製造方法は、化石資源である原油を精製して得られたプロピレンを原料とし、最近の原油価格が高騰や地球温暖化などの問題を考慮すると、原料費や環境汚染の面で問題がある。
【0005】
これに対して、炭素中立のバイオマス原料からアクリル酸を製造する方法に関する研究が進められた。例えば、乳酸(Lactic Acid、LA)の気相脱水反応によりアクリル酸(Acrylic Acid、AA)を製造する方法がある。この方法は、一般的に、300℃以上の高温および触媒の存在下で、乳酸の分子内の脱水反応によりアクリル酸を製造する方法である。この場合、乳酸を高濃度で使用する場合には、二量体、三量体などのオリゴマーが生成されて、反応に参加する乳酸の濃度が低くなる問題があった。また、乳酸の濃度を下げる場合、水の量が非常に多くて、水の除去のためのエネルギー使用量が増加する問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、上記発明の背景技術で言及した問題を解決するために、乳酸の脱水反応によりアクリル酸を製造する時に、水を分離して除去するために必要なエネルギーを低減し、アクリル酸の損失を最小化する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するための本発明の一実施形態によると、本発明は、乳酸水溶液を反応器に供給して脱水反応させて、アクリル酸を含む反応生成物を製造するステップと、前記反応生成物を含む反応器排出ストリームを第1冷却塔に供給し、前記第1冷却塔の上部排出ストリームを第2冷却塔に供給するステップと、前記第2冷却塔の下部から排出される第1アクリル酸水溶液ストリームを抽出塔に供給するステップと、前記抽出塔の上部排出ストリームと前記第1冷却塔の下部から排出される第2アクリル酸水溶液ストリームを蒸留塔に供給するステップと、前記蒸留塔の下部排出ストリームからアクリル酸を分離するステップとを含む、アクリル酸の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のアクリル酸の製造方法によると、アクリル酸を含む反応生成物を2機の冷却塔を用いて、蒸留塔と抽出塔のそれぞれから分離に有利な組成を有する第1アクリル酸水溶液ストリームと第2アクリル酸水溶液ストリームを分離し、それぞれ抽出塔と蒸留塔に供給することで、水分離のためのエネルギー使用量を低減するだけでなく、アクリル酸の損失を減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施例でアクリル酸の製造方法による工程フローチャートである。
図2】比較例でアクリル酸の製造方法による工程フローチャートである。
図3】比較例でアクリル酸の製造方法による工程フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の説明および請求の範囲にて使用されている用語や単語は、通常的もしくは辞書的な意味に限定して解釈してはならず、発明者らは、自分の発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義することができるという原則に則って本発明の技術的思想に合致する意味と概念に解釈すべきである。
【0011】
本発明において、用語「ストリーム(stream)」は、工程内の流体(fluid)の流れを意味し得、また、配管内で流れる流体自体を意味し得る。具体的には、「ストリーム」は、各装置を連結する配管内で流れる流体自体および流体の流れを同時に意味し得る。また、流体は、気体(gas)、液体(liquid)および固体(solid)のいずれか一つ以上の成分を含むことができる。
【0012】
以下、本発明に関する理解を容易にするために、図1を参照して、本発明をより詳細に説明する。
【0013】
本発明によると、アクリル酸の製造方法が提供される。より具体的には、乳酸水溶液を反応器に供給して脱水反応させて、アクリル酸を含む反応生成物を製造するステップと、前記反応生成物を含む反応器排出ストリームを第1冷却塔100に供給し、前記第1冷却塔100の上部排出ストリームを第2冷却塔110に供給するステップと、前記第2冷却塔110の下部から排出される第1アクリル酸水溶液ストリームを抽出塔200に供給するステップと、前記抽出塔200の上部排出ストリームと前記第1冷却塔100の下部から排出される第2アクリル酸水溶液ストリームを蒸留塔300に供給するステップと、前記蒸留塔300の下部排出ストリームからアクリル酸を分離するステップとを含むことができる。
【0014】
具体的には、従来のアクリル酸の製造方法は、プロピレンを空気酸化する方法が一般的であるが、この方法は、プロピレンを気相接触酸化反応によってアクロレインに変換し、これを気相接触酸化反応させてアクリル酸を製造する方法であり、副生成物として酢酸が生成され、これは、アクリル酸との分離が難しい問題がある。また、プロピレンを用いたアクリル酸の製造方法は、化石資源である原油を精製して得られたプロピレンを原料とし、最近の原油価格が高騰や地球温暖化などの問題を考慮すると、原料費や環境汚染の面で問題がある。
【0015】
従来のアクリル酸の製造方法の問題を解決するために、炭素中立のバイオマス原料からアクリル酸を製造する方法に関する研究が進められた。例えば、乳酸(Lactic Acid、LA)の気相脱水反応によりアクリル酸(Acrylic Acid、AA)を製造する方法がある。この方法は、一般的に、高温および触媒の存在下で、乳酸の分子内の脱水反応によりアクリル酸を製造する方法である。しかし、高濃度の乳酸水溶液を原料として使用する場合には、平衡反応によって二量体、三量体などのオリゴマーが形成され、反応に参加する乳酸単量体の含量が低くなる問題があり、乳酸水溶液の濃度を下げて原料として使用する場合には、乳酸脱水反応の反応生成物内の水の含量が、従来のプロピレン酸化反応によるアクリル酸を製造する工程に比べて著しく高く、これにより、水分離のために必要なエネルギー使用量が大きく増加する問題がある。
【0016】
これに対して、本発明では、従来の問題を解決するために、乳酸の脱水反応によりアクリル酸を製造し、この際、水分離のために必要なエネルギー使用量を低減し、さらに、前記アクリル酸の損失を最小化する方法を提供する。
【0017】
本発明の一実施形態によると、乳酸を反応器に供給して脱水反応させて、アクリル酸を含む反応生成物を製造することができる。この際、乳酸は、水溶液状態で反応器に投入されることができ、脱水反応は、触媒の存在下で、気相反応として行われることができる。例えば、乳酸水溶液の乳酸の濃度は、10重量%以上、20重量%以上または30重量%以上および40重量%以下、50重量%以下、60重量%以下または70重量%以下であることができる。
【0018】
反応器は、通常の乳酸の脱水反応が可能な反応器であり得、反応器は、触媒が充填された反応管を含むことができ、反応管に原料である乳酸水溶液の揮発成分を含む反応ガスを通過させながら気相接触反応によって乳酸を脱水させて、アクリル酸を生成することができる。反応ガスは、乳酸以外に、濃度の調整のための水蒸気、窒素および空気のいずれか一つ以上の希釈ガスをさらに含むことができる。
【0019】
反応器の運転条件は、通常の乳酸の脱水反応条件下で行われることができる。ここで、反応器の運転温度は、反応器の温度の制御のために使用される熱媒体などの設定温度を意味し得る。
【0020】
乳酸の脱水反応に使用される触媒は、例えば、硫酸塩系触媒、リン酸塩系触媒および硝酸塩系触媒からなる群から選択される1種以上を含むことができる。具体的な例として、硫酸塩は、NaSO、KSO、CaSOおよびAl(SOを含むことができ、リン酸塩は、NaPO、NaHPO、NaHPO、KPO、KHPO、KHPO、CaHPO、Ca(PO、AlPO、CaHおよびCaを含むことができ、硝酸塩は、NaNO、KNOおよびCa(NOを含むことができる。また、触媒は、担持体に担持されることがある。担持体は、例えば、珪藻土、アルミナ、シリカ、二酸化チタン、炭化物およびゼオライトからなる群から選択される1種以上を含むことができる。
【0021】
乳酸の脱水反応により製造される反応生成物は、目的とする生成物であるアクリル酸以外に、水(HO)、アセトアルデヒド(ACHO)、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、希釈ガス低沸点物質および高沸点物質などの副生成物をさらに含むことができる。
【0022】
反応生成物内のアクリル酸の含量に対する水の含量比は、2.0以上、2.3以上または2.5以上および2.6以下、3.0以下、3.3以下または3.5以下であることができる。前記範囲内のアクリル酸含量に対する水の含量比を有する反応生成物を製造し、本発明による方法により前記反応生成物からアクリル酸を分離する場合、少ないエネルギーを使用して水を効果的に分離し、アクリル酸の損失量を低減して、回収率を高めることができる。
【0023】
本発明の一実施形態によると、反応生成物を含む反応器排出ストリームは、第1冷却塔100に供給して冷却することができる。具体的には、反応生成物を含む反応器排出ストリームは、気相で排出されることから、第1冷却塔100に供給して凝縮することができる。この過程で凝縮された凝縮物は、第1冷却塔100の下部排出ストリームとして排出され、気相成分を含む第1冷却塔100の上部排出ストリームは、第2冷却塔110に供給されることができる。
【0024】
第1冷却塔100の下部排出ストリームの一部ストリームは、冷却器を経て第1冷却塔100に還流し、残りのストリームは、第2アクリル酸水溶液ストリームとして蒸留塔300に供給されることができる。
【0025】
第1冷却塔100の上部排出ストリームは、水、アクリル酸およびガス成分を含むことができ、第2アクリル酸水溶液ストリームは、水およびアクリル酸を含むことができ、第1冷却塔100の上部排出ストリームは、第2アクリル酸水溶液ストリームに比べて水の含量が高く、アクリル酸の含量が低いことができる。
【0026】
第2アクリル酸水溶液ストリームのアクリル酸含量に対する水の含量比は、例えば、1.0以上、1.2以上または1.4以上および1.8以下、1.9以下、2.0以下または2.1以下であることができる。前記範囲内に第2アクリル酸水溶液ストリームの組成を制御することで、抽出塔200を経ずに蒸留塔300に供給して、分離時にエネルギーの面とアクリル酸損失防止の面で有利であることができる。
【0027】
本発明の一実施形態によると、第1冷却塔100の上部排出ストリームは、第2冷却塔110に供給され、第2冷却塔110でガス成分を除去することができる。具体的には、第2冷却塔110に供給される第1冷却塔100の上部排出ストリームは、気相成分として、第2冷却塔110で凝縮することができる。この過程で凝縮された凝縮物は、第1アクリル酸水溶液ストリームとして第2冷却塔110の下部に排出され抽出塔200に供給することができる。具体的には、第1アクリル酸水溶液ストリームの一部のストリームは、冷却器を経て第2冷却塔110に還流され、残りのストリームは、抽出塔200に供給されることができる。
【0028】
また、第2冷却塔110は、上部にガス成分を分離して除去することができ、ガス成分は、水、一酸化炭素、二酸化炭素および希釈ガスとともにアセトアルデヒドを含むことができる。第2冷却塔110の上部にガス成分を分離する場合、少量のアクリル酸がともに分離され得るが、本発明では、アクリル酸を含む反応生成物を2機の冷却塔を用いて分離することで、ガス成分とともに排出されて損失するアクリル酸の含量を最小化した。
【0029】
第2冷却塔110の運転温度は、40℃以上、50℃以上または60℃以上および130℃以下、150℃以下または200℃以下であることができ、運転圧力は、1kg/cm以上、1.5kg/cm以上または2kg/cm以上および5kg/cm以下、10kg/cm以下または20kg/cm以下であることができる。前記範囲内の運転温度および運転圧力で第2冷却塔110の運転条件を制御することで、第2冷却塔110の上部に分離されるガス成分の組成を制御して、アクリル酸の損失を最小化するとともに、希釈ガスとアセトアルデヒドを系外に除去することができ、第2冷却塔110の下部から排出される第1アクリル酸水溶液ストリームの組成を制御することができる。
【0030】
第1アクリル酸水溶液ストリームのアクリル酸含量に対する水の含量比は、例えば、3.0以上、3.1以上、3.2以上または3.3以上および3.8以下、4.0以下または4.5以下であることができる。前記範囲内で第1アクリル酸水溶液ストリームの組成を制御することで、第1アクリル酸水溶液ストリームの組成を、抽出塔200を経た後、蒸留塔300に供給して分離する時に、エネルギーの面とアクリル酸損失防止の面で有利な組成に制御することができる。
【0031】
本発明の一実施形態によると、第1アクリル酸水溶液ストリームは、抽出塔200に供給され、抽出塔200で抽出剤を用いて、アクリル酸と水とを分離することができる。具体的には、抽出塔200には、抽出剤が供給されることができ、抽出剤は、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、n-ヘプタン、シクロヘプタン、シクロヘプテン、1-ヘプテン、エチルベンゼン、メチルシクロヘキサン、n-ブチルアセテート、イソブチルアセテート、イソブチルアクリレート、n-プロピルアセテート、イソプロピルアセテート、メチルイソブチルケトン、2-メチル-1-ヘプテン、6-メチル-1-ヘプテン、4-メチル-1-ヘプテン、2-エチル-1-ヘキセン、エチルシクロペンタン、2-メチル-1-ヘキセン、2,3-ジメチルペンタン、5-メチル-1-ヘキセンおよびイソプロピルブチルエーテルからなる群から選択される1種以上を含むことができる。具体的な例として、抽出剤は、トルエンであることができる。
【0032】
抽出塔200では、第1アクリル酸水溶液ストリームと抽出剤を接触させて、抽出液と抽残液とを分離することができる。例えば、抽出液は、抽出剤にアクリル酸が溶解されたものであることができ、抽出液は、抽出塔200の上部排出ストリームとして排出されることができる。また、抽残液は、水を含む廃水であり、抽出塔200の下部排出ストリームとして分離されることができる。ここで、抽出塔200の下部排出ストリームには、水以外にアクリル酸が少量含まれ得るが、本発明では、アクリル酸を含む反応生成物を2機の冷却塔を用いて、蒸留塔300と抽出塔200それぞれで分離に有利な組成を有する第1アクリル酸水溶液ストリームと第2アクリル酸水溶液ストリームを分離し、それぞれ抽出塔200と蒸留塔300に供給することで、廃水に含まれて排出されるアクリル酸の損失を最小化した。
【0033】
本発明の一実施形態によると、抽出塔200の上部排出ストリームと第1冷却塔100の下部から排出される第2アクリル酸水溶液ストリームを蒸留塔300に供給し、蒸留により成分を分離することができる。
【0034】
抽出塔200の上部排出ストリームと第2アクリル酸水溶液ストリームは、混合ストリームを形成して蒸留塔300に供給されることができる。前記範囲内の流量比を有する混合ストリームを蒸留塔300に供給することで、蒸留塔300で分離のために必要なエネルギー使用量を低減することができ、さらなる共沸剤を使用することなく、抽出塔200の上部排出ストリームに含まれた抽出剤を用いて、水とアクリル酸とを分離することができる。
【0035】
蒸留塔300は、混合ストリームに含まれた抽出剤を上部に分離して抽出塔200に循環させて再使用することができる。また、蒸留塔300は、混合ストリームに含まれたアクリル酸を下部排出ストリームとして分離し、水は、側部排出ストリームとして分離することができる。
【0036】
蒸留塔300の運転温度は、10℃以上、20℃以上または40℃以上および100℃以下、120℃以下または150℃以下であることができ、運転圧力は、10torr以上、50torr以上または100torr以上および200torr以下、300torr以下または500torr以下であることができる。前記範囲内の運転温度および運転圧力で蒸留塔300の運転条件を制御することで、蒸留塔300の上部に抽出剤を、側部に水を、下部にアクリル酸を効果的に分離することができる。
【0037】
蒸留塔300の下部排出ストリームは、アクリル酸と少量の副生成物を含むことができる。したがって、必要な場合、蒸留塔300の下部排出ストリームは精製部に供給して副生成物を除去することで、高純度のアクリル酸を得ることができる。
【0038】
本発明の一実施形態によると、アクリル酸の製造方法において、必要な場合、蒸留塔、凝縮器、再沸器、バルブ、ポンプ、分離器および混合器などの装置をさらに設置することができる。
【0039】
以上、本発明によるアクリル酸の製造方法について記載および図面に図示しているが、前記の記載および図面の図示は、本発明を理解するための核心的な構成のみを記載および図示したものであって、前記記載および図面に図示している工程および装置以外に、別に記載および図示していない工程および装置は、本発明によるアクリル酸の製造方法を実施するために適宜応用されて用いられることができる。
【0040】
以下、実施例を参照して、本発明をより詳細に説明する。しかし、下記の実施例は、本発明を例示するためのものであって、本発明の範疇および技術思想の範囲内で様々な変更および修正が可能であることは、通常の技術者にとって明白であり、これらのみで本発明の範囲が限定されるものではない。
【0041】
実施例
実施例1
図1に図示された工程フローチャートにしたがって、Aspen社製のAspen Plusシミューレータを用いて、アクリル酸製造工程をシミュレーションした。
【0042】
具体的には、反応器に、乳酸水溶液と、希釈ガスとして窒素(N)を供給し、脱水反応によりアクリル酸(AA)を含む反応生成物を製造し、ここで、前記反応生成物内のアクリル酸に対する水の含量が2.5倍になるように調節した。
【0043】
前記反応生成物を含む反応器排出ストリームは、第1冷却塔100に供給し、前記第1冷却塔100の下部排出ストリームのうち一部のストリームは、冷却器を経て前記第1冷却塔100に還流させ、残りのストリーム、すなわち、第2アクリル酸水溶液ストリームは、蒸留塔300に供給した。ここで、前記第1冷却塔100の運転温度は、上部を114℃に、下部を117℃に制御し、運転圧力は2kg/cmに制御した。
【0044】
前記第1冷却塔100で反応器排出ストリームを凝縮させ、前記第1冷却塔100の上部排出ストリームは、第2冷却塔110に供給し、前記第2冷却塔110から上部にガス成分を排出し、前記第2冷却塔110の下部排出ストリームのうち一部のストリームは、冷却器を経て前記第2冷却塔110に還流させ、残りのストリーム、すなわち、第1アクリル酸水溶液ストリームは、抽出塔200に供給した。ここで、前記第2冷却塔110の運転温度は、上部を88℃に、下部を113℃に制御し、運転圧力は2kg/cmに制御した。
【0045】
前記抽出塔200では、抽出剤としてトルエンを使用してアクリル酸を溶解した後、前記抽出塔200の上部排出ストリームとして分離し、下部排出ストリームとして水を分離した。
【0046】
前記抽出塔200の上部排出ストリームと前記第2アクリル酸水溶液ストリームは、混合ストリームを形成して蒸留塔300に供給した。
【0047】
前記蒸留塔300で上部に抽出剤を分離して抽出塔200に還流させ、水を含む側部排出ストリームとアクリル酸を含む下部排出ストリームを分離した。
【0048】
ここで、各ストリーム内の成分別流量(kg/hr)を下記表1に示した。
【0049】
【表1】
【0050】
前記総和は、Aspen Plusシミューレータで求めた値を小数点第一位まで四捨五入した値である。
【0051】
前記表1を参照すると、実施例1の場合第1アクリル酸水溶液ストリームのアクリル酸含量に対する水の含量比が3.6であり、第2アクリル酸水溶液ストリームのアクリル酸含量に対する水の含量比が1.8であり、前記第2冷却塔110の上部にガス成分を分離する時に、アクリル酸の損失量が6.4kg/hrと示され、前記抽出塔200の下部に水を除去する時に、アクリル酸の損失量が4.4kg/hrと示されることを確認することができた。
【0052】
また、前記蒸留塔300で使用されたエネルギー使用量は、0.370Gcal/hrと確認した。
【0053】
また、前記実施例1でのアクリル酸の回収率は、反応器排出ストリームのアクリル酸流量に対する前記蒸留塔300の下部排出ストリームのアクリル酸流量の比率により計算したものであり、前記アクリル酸の回収率は、95.4%と示された。
【0054】
実施例2
図1に図示された工程フローチャートにしたがって、Aspen社製のAspen Plusシミューレータを用いて、アクリル酸製造工程をシミュレーションした。
【0055】
具体的には、反応器に乳酸水溶液を供給して脱水反応によりアクリル酸(AA)を含む反応生成物を製造し、ここで、前記反応生成物内のアクリル酸に対する水の含量が3倍になるように調節した。
【0056】
前記反応生成物を含む反応器排出ストリームは、第1冷却塔100に供給し、前記第1冷却塔100の下部排出ストリームのうち一部のストリームは、冷却器を経て前記第1冷却塔100に還流させ、残りのストリーム、すなわち、第2アクリル酸水溶液ストリームは、蒸留塔300に供給した。ここで、前記第1冷却塔100の運転温度は、上部を126℃に、下部を127℃に制御し、運転圧力は3kg/cmに制御した。
【0057】
前記第1冷却塔100で反応器排出ストリームを凝縮させ、前記第1冷却塔100の上部排出ストリームは、第2冷却塔110に供給し、前記第2冷却塔110から上部にガス成分を排出し、前記第2冷却塔110の下部排出ストリームのうち一部のストリームは、冷却器を経て前記第2冷却塔110に還流させ、残りのストリーム、すなわち、第1アクリル酸水溶液ストリームは、抽出塔200に供給した。ここで、前記第2冷却塔110の運転温度は、上部を109℃に、下部を122℃に制御し、運転圧力は3kg/cmに制御した。
【0058】
前記抽出塔200では、抽出剤としてトルエンを使用してアクリル酸を溶解した後、前記抽出塔200の上部排出ストリームとして分離し、下部排出ストリームとして水を分離した。
【0059】
前記抽出塔200の上部排出ストリームと前記第2アクリル酸水溶液ストリームは、混合ストリームを形成して蒸留塔300に供給した。
【0060】
前記蒸留塔300で上部に抽出剤を分離して抽出塔200に還流させ、水を含む側部排出ストリームとアクリル酸を含む下部排出ストリームを分離した。
【0061】
ここで、各ストリーム内の成分別流量(kg/hr)を下記表2に示した。
【0062】
【表2】
【0063】
前記表2を参照すると、実施例2の場合、第1アクリル酸水溶液ストリームのアクリル酸含量に対する水の含量比が4.0であり、第2アクリル酸水溶液ストリームのアクリル酸含量に対する水の含量比が2.2であり、前記第2冷却塔110の上部にガス成分を分離する時に、アクリル酸の損失量が4.9kg/hrと示され、前記抽出塔200の下部に水を除去する時に、アクリル酸の損失量が5.2kg/hrと示されることを確認することができた。
【0064】
また、前記蒸留塔300で使用されたエネルギー使用量は、0.458Gcal/hrと確認した。
【0065】
また、前記実施例2でのアクリル酸の回収率は、95.5%と示された。
【0066】
比較例
比較例1
図2に図示された工程フローチャートにしたがって、Aspen社製のAspen Plusシミューレータを用いて、アクリル酸製造工程をシミュレーションした。
【0067】
具体的には、反応器に、乳酸水溶液と、希釈ガスとして窒素(N)を供給して脱水反応によりアクリル酸(AA)を含む反応生成物を製造し、ここで、前記反応生成物内のアクリル酸に対する水の含量が2.5倍になるように調節した。
【0068】
前記反応生成物を含む反応器排出ストリームは、冷却塔120に供給し、前記冷却塔120の下部排出ストリームのうち一部のストリームは、冷却器を経て前記冷却塔120に還流させ、残りのストリームは、共沸蒸留塔400に供給し、前記冷却塔120の上部にガス成分を排出した。ここで、前記冷却塔120の運転温度は、上部を89℃に、下部を117℃に制御し、運転圧力は2kg/cmに制御した。
【0069】
前記共沸蒸留塔400では、共沸剤としてトルエンを使用し、上部排出ストリームから共沸剤を分離して前記共沸蒸留塔400に還流させ、残りのストリームとして水を分離し、アクリル酸を含む下部排出ストリームを分離した。
【0070】
ここで、各ストリーム内の成分別流量(kg/hr)を下記表3に示した。
【0071】
【表3】
【0072】
前記表3を参照すると、比較例1の場合、前記共沸蒸留塔400に供給されるストリームのアクリル酸含量に対する水の含量比は2.4と確認され、前記冷却塔120の上部にガス成分を分離する時に、アクリル酸の損失量が8.2kg/hrと示され、前記共沸蒸留塔400の上部に水の除去時に、アクリル酸の損失量が2.0kg/hrと示されることを確認することができた。
【0073】
また、前記共沸蒸留塔400で使用されたエネルギー使用量は、0.697Gcal/hrと確認した。
【0074】
また、前記比較例1でのアクリル酸の回収率は、反応器排出ストリームのアクリル酸流量に対する前記共沸蒸留塔400の下部排出ストリームのアクリル酸流量の比率により計算したものであり、前記アクリル酸の回収率は95.8%と示された。
【0075】
この場合、前記冷却塔120の下部排出ストリームの全量を共沸蒸留塔400に供給して水とアクリル酸を共沸蒸留することで、前記共沸蒸留塔400で使用されたエネルギー使用量が、実施例1~2に比べて増加したことを確認することができた。
【0076】
比較例2
図3に図示された工程フローチャートにしたがって、Aspen社製のAspen Plusシミューレータを用いて、アクリル酸製造工程をシミュレーションした。
【0077】
具体的には、反応器に、乳酸水溶液と、希釈ガスとして窒素(N)を供給して脱水反応によりアクリル酸(AA)を含む反応生成物を製造し、ここで、前記反応生成物内のアクリル酸に対する水の含量が2.5倍になるように調節した。
【0078】
前記反応生成物を含む反応器排出ストリームは、冷却塔120に供給し、前記冷却塔120の下部排出ストリームのうち一部のストリームは、冷却器を経て前記冷却塔120に還流させ、残りのストリームは、第1ストリームと第2ストリームとに分岐し、前記第1ストリームは抽出塔200に供給し、前記第2ストリームは蒸留塔300に供給した。また、前記冷却塔120の上部にガス成分を排出した。ここで、前記冷却塔120の運転温度は、上部を89℃に、下部を117℃に制御し、運転圧力は2kg/cmに制御した。
【0079】
前記抽出塔200では、抽出剤としてトルエンを使用してアクリル酸を溶解した後、前記抽出塔200の上部排出ストリームとして分離し、下部排出ストリームとして水を分離した。
【0080】
前記抽出塔200の上部排出ストリームは、前記第2ストリームとともに蒸留塔300に供給し、前記蒸留塔300で上部に抽出剤を分離して抽出塔200に還流させ、水を含む側部排出ストリームとアクリル酸を含む下部排出ストリームを分離した。
【0081】
ここで、各ストリーム内の成分別流量(kg/hr)を下記表4に示した。
【0082】
【表4】
【0083】
前記表4を参照すると、比較例2の場合、前記抽出塔200に供給されるストリームと前記蒸留塔300に供給されるストリームのアクリル酸含量に対する水の含量比は2.4と同一であることが確認され、前記冷却塔120の上部にガス成分を分離する時に、アクリル酸の損失量が8.2kg/hrと示され、前記抽出塔200の下部に水を除去する時に、アクリル酸の損失量が11.4kg/hrと示されることを確認することができた。
【0084】
また、前記蒸留塔300で使用されたエネルギー使用量は、0.380Gcal/hrと確認した。
【0085】
また、前記比較例2でのアクリル酸の回収率は、反応器排出ストリームのアクリル酸流量に対する前記蒸留塔300の下部排出ストリームのアクリル酸流量の比率により計算したものであり、前記アクリル酸の回収率は91.7%と示された。
【0086】
この場合、前記1機の冷却塔120を使用し、前記冷却塔120の上部にガス成分を除去して、前記冷却塔120でガス成分を除去する時に、アクリル酸損失量が実施例1~2に比べて増加し、前記冷却塔120の下部排出ストリームを分岐して抽出塔200と蒸留塔300に分離供給することで、前記抽出塔200と蒸留塔300に供給されるストリームのアクリル酸含量に対する水の含量比を制御することができず、前記抽出塔200で水を除去する時に、アクリル酸損失量が、実施例1~2に比べて増加したことを確認することができた。
図1
図2
図3