(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】半導体レーザチップ実装サブマウントおよびその製造方法ならびに半導体レーザモジュール
(51)【国際特許分類】
H01S 5/022 20210101AFI20241111BHJP
【FI】
H01S5/022
(21)【出願番号】P 2018226840
(22)【出願日】2018-12-03
【審査請求日】2021-09-22
【審判番号】
【審判請求日】2023-09-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鍛治 栄作
(72)【発明者】
【氏名】大木 泰
【合議体】
【審判長】藤田 年彦
【審判官】芝沼 隆太
【審判官】山村 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-103542(JP,A)
【文献】特開2009-4760(JP,A)
【文献】特開2007-250739(JP,A)
【文献】特開2001-358405(JP,A)
【文献】特開2014-103160(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00-5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向において出射端面と後端面とを有する半導体部を備え、前記出射端面からレーザ光を出射する半導体レーザチップと、
前記半導体レーザチップが半田からなるプリコートによりジャンクションダウンで実装されるサブマウントと、
を備え、前記サブマウントにおける前記半導体レーザチップが実装される側の表面と前記半導体部の出射端面側の底面との距離である第1距離が、前記サブマウントにおける前記半導体レーザチップが実装される側の表面と前記半導体部の後端面側の底面との距離である第2距離よりも小さく形成されていて、
前記第1距離が16μm以下であって前記第1距離と前記第2距離との差が1.5μm以上10μm以下であり、前記半導体レーザチップで発生する熱を、放熱性を有する前記プリコートで前記サブマウントに放熱し、前記半導体レーザチップはジャンクションアップで前記サブマウントに実装される場合よりも前記サブマウントへの放熱性が高いことを特徴とする半導体レーザチップ実装サブマウント。
【請求項2】
前記第1距離が12μm以下であることを特徴とする請求項
1に記載の半導体レーザチップ実装サブマウント。
【請求項3】
前記半導体レーザチップがレーザバーチップであることを特徴とする請求項1
又は請求項2に記載の半導体レーザチップ実装サブマウント。
【請求項4】
前記半導体レーザチップは、共振器長が800μm~6mmであることを特徴とする請求項1~
3のいずれか一つに記載の半導体レーザチップ実装サブマウント。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか一つに記載の半導体レーザチップ実装サブマウントの製造方法であって、
半導体レーザチップを、保持具にて長手方向における中央よりも前記出射端面側を中心として前記サブマウントに押圧し、該サブマウントに実装する工程を含むことを特徴とする半導体レーザチップ実装サブマウントの製造方法。
【請求項6】
前記保持具はコレットであり、該コレットの長手方向において前記半導体レーザチップに当接する両端間の距離であるコレット長さは、前記半導体レーザチップの前記出射端面と前記後端面との距離である共振器長に対する比率が28.5%以上81.9%以下であることを特徴とする請求項
5に記載の半導体レーザチップ実装サブマウントの製造方法。
【請求項7】
前記コレット長さは、前記共振器長に対する比率が44.4%以上75.0%以下であることを特徴とする請求項
6に記載の半導体レーザチップ実装サブマウントの製造方法。
【請求項8】
前記半導体レーザチップがレーザバーチップであることを特徴とする請求項
5~
7のいずれか一つに記載の半導体レーザチップ実装サブマウントの製造方法。
【請求項9】
請求項1~
4のいずれか一つに記載の半導体レーザチップ実装サブマウントを備えていることを特徴とする半導体レーザモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザチップ実装サブマウントおよびその製造方法ならびに半導体レーザモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体レーザチップと、半導体レーザチップと光学結合される光ファイバとを備えている半導体レーザモジュールが知られている。このような半導体レーザモジュールを製造する場合、たとえば以下のような手順で組立が行われる。まず、半導体レーザチップをサブマウントに実装する。このとき、半導体レーザチップを、金-スズ(AuSn)合金などの半田によりサブマウントに接合実装する(特許文献1)。なお、半田に換えて導電性接着剤などの他の接合剤を用いてもよい。このように半導体レーザチップを実装したサブマウント(半導体レーザチップ実装サブマウント)は、チップオンサブマウントとも呼ばれる。
【0003】
つぎに、チップオンサブマウントを、金属製の筐体に、直接的に、または金属製の基台や電子冷却素子等を介して、スズ-ビスマス(SnBi)合金などの半田により接合実装する。さらに、筐体に、レンズなどのその他の光学部品を実装し、半導体レーザチップと光ファイバとの光学結合を行う。
【0004】
半導体レーザチップとしては、端面発光型の半導体レーザチップが多く実用されている。端面発光型の半導体レーザチップは、その長手方向における両端面の一方が、レーザ発振波長における反射率が高いHR(High Reflection)コーティングが形成された後端面とされている。一方、他の端面は、反射率が低いAR(Anti-Reflection)コーティングが形成された出射端面とされている。後端面と出射端面とはレーザ共振器を構成しており、発振したレーザ光は主に出射端面から出射される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的に、半導体レーザチップはダイボンディングによってサブマウントに実装される。ダイボンディングにおいては、コレットで半導体レーザチップを真空チャックし、半田などの接合剤の融点以上の温度に加熱されたサブマウントに半導体レーザチップを実装する。
【0007】
このとき、通常は、半導体レーザチップが長手方向において均一にサブマウントに実装されるように、コレットで半導体レーザチップの長手方向中央付近をチャックし、サブマウントに押圧することが一般的である。
【0008】
一方、近年、半導体レーザチップはますます高光出力化が進んでいる。それに伴って、半導体レーザチップが発する熱を、サブマウントへ効果的に放熱することがますます重要になってきている。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、その目的は、半導体レーザチップが発する熱を、サブマウントへ効果的に放熱することができる半導体レーザチップ実装サブマウントおよびその製造方法ならびに半導体レーザモジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様に係る半導体レーザチップ実装サブマウントは、長手方向において出射端面と後端面とを有する半導体部を備え、前記出射端面からレーザ光を出射する半導体レーザチップと、前記半導体レーザチップが実装されるサブマウントと、を備え、前記サブマウントと前記半導体部の出射端面側との第1距離が、前記サブマウントと前記半導体部の後端面側との第2距離よりも小さいことを特徴とする。
【0011】
本発明の一態様に係る半導体レーザチップ実装サブマウントは、前記第1距離と前記第2距離との差が1.5μm以上であることを特徴とする。
【0012】
本発明の一態様に係る半導体レーザチップ実装サブマウントは、前記第1距離が16μm以下であることを特徴とする。さらに好ましくは、12μm以下である。
【0013】
本発明の一態様に係る半導体レーザチップ実装サブマウントは、前記第1距離と前記第2距離との差が10μm以下であることを特徴とする。
【0014】
本発明の一態様に係る半導体レーザチップ実装サブマウントは、前記半導体レーザチップがレーザバーチップであることを特徴とする。
【0015】
本発明の一態様に係る半導体レーザチップ実装サブマウントの製造方法は、前記半導体レーザチップ実装サブマウントの製造方法であって、半導体レーザチップを、保持具にて長手方向における中央よりも前記出射端面側を中心として前記サブマウントに押圧し、該サブマウントに実装する工程を含むことを特徴とする。
【0016】
本発明の一態様に係る半導体レーザチップ実装サブマウントの製造方法は、前記保持具はコレットであり、該コレットの長手方向において前記半導体レーザチップに当接する両端間の距離であるコレット長さは、前記半導体レーザチップの前記出射端面と前記後端面との距離である共振器長に対する比率が28.5%以上81.9%以下であることを特徴とする。
【0017】
本発明の一態様に係る半導体レーザチップ実装サブマウントの製造方法は、前記コレット長さは、前記共振器長に対する比率が44.4%以上75.0%以下であることを特徴とする。
【0018】
本発明の一態様に係る半導体レーザチップ実装サブマウントの製造方法は、前記半導体レーザチップがレーザバーチップであることを特徴とする。
【0019】
本発明の一態様に係る半導体レーザモジュールは、前記半導体レーザチップ実装サブマウントを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、半導体レーザチップが発する熱を、サブマウントへ効果的に放熱することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、実施形態に係るチップオンサブマウントを備えた半導体レーザモジュールの概略構成を示す模式図である。
【
図2】
図2は、
図1に示すチップオンサブマウントの模式的な平面図である。
【
図3】
図3は、
図2に示すチップオンサブマウントのA-A線断面の一部を示す図である。
【
図4】
図4は、半導体レーザチップのチャック状態の説明図である。
【
図5】
図5は、半導体レーザチップの実装の説明図である。
【
図6】
図6は、半導体レーザチップの実装状態の説明図である。
【
図7】
図7は、実施例1と比較例1とにおける半導体レーザチップの実装状態の説明図である。
【
図8】
図8は、チップオンサブマウントの複数のサンプルにおける実装状態の説明図である。
【
図9】
図9は、実施例1と比較例1とにおける半導体レーザチップの相対的光出力の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態により本発明が限定されるものではない。また、図面の記載において、同一または対応する要素には適宜同一の符号を付している。また、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率等は、現実と異なる場合があることに留意する必要がある。さらに、図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0023】
(半導体レーザモジュールの概略構成)
図1は、実施形態に係るチップオンサブマウントを備えた半導体レーザモジュールの概略構成を示す模式図である。
図1(a)は半導体レーザモジュールの平面図であり、
図1(b)は半導体レーザモジュールの一部切欠側面図である。
【0024】
半導体レーザモジュール100は、蓋1aと底板部1bとを有する、金属からなる筐体1を備えている。また、半導体レーザモジュール100は、底板部1b上に順に実装された、金属からなる階段形状のLD高さ調整板2と、直方体形状を有する6つのサブマウント3と、略直方体形状を有する6つの半導体レーザチップ4とを備えている。なお、
図1(a)では、説明のために蓋1aの図示を省略している。
【0025】
また、半導体レーザモジュール100は、2つのリードピン5を備えている。2つのリードピン5は、各半導体レーザチップ4に、サブマウント3および不図示のボンディングワイヤを介して電気的に接続され、各半導体レーザチップ4に電力を供給する。さらに、半導体レーザモジュール100は、6つの第1レンズ6と、6つの第2レンズ7と、6つのミラー8と、第3レンズ9と、光フィルタ10と、第4レンズ11とを備えている。各第1レンズ6、各第2レンズ7、各ミラー8、第3レンズ9、光フィルタ10、および第4レンズ11は、各半導体レーザチップ4が出射するレーザ光の光路上に、光路に沿って順に配置されている。さらに、半導体レーザモジュール100は、第4レンズ11と対向して配置された光ファイバ12を備えている。光ファイバ12のレーザ光が入射される側の一端は、筐体1の内部に収容され、支持部材13により支持されている。
【0026】
各半導体レーザチップ4は、たとえばヒ化ガリウム(GaAs)またはリン化インジウム(InP)を主材料として構成されており、その材料や組成に応じた波長のレーザ光を出力する。各半導体レーザチップ4の厚さはたとえば0.1mm程度である。各半導体レーザチップ4は、
図1(b)に示すように、各サブマウント3に実装され、かつ各サブマウント3は、LD高さ調整板2に、互いに高さが異なるように実装されている。さらに、各第1レンズ6、各第2レンズ7、各ミラー8は、それぞれ対応する半導体レーザチップ4に対応する高さに配置されている。ここで、サブマウント3とサブマウント3に実装された半導体レーザチップ4とを備えている構成物を、半導体レーザチップ実装サブマウントとしてのチップオンサブマウント16と呼ぶこととする。
【0027】
また、光ファイバ12の筐体1への挿入部には、ルースチューブ15が設けられ、ルースチューブ15の一部と挿入部を覆うように、筐体1の一部にブーツ14が外嵌されている。
【0028】
この半導体レーザモジュール100の動作について説明する。各半導体レーザチップ4は、リードピン5を介して電力を供給され、レーザ光を出力する。各半導体レーザチップ4から出力された各レーザ光は、対応する各第1レンズ6、各第2レンズ7により略コリメート光とされて、対応する各ミラー8により第3レンズ9に向けて反射される。さらに各レーザ光は、第3レンズ9、第4レンズ11により集光され、光ファイバ12の端面に入射され、光ファイバ12中を伝搬する。なお、光フィルタ10は、外部から光ファイバ12を介して上記レーザ光の波長とは別の波長の光が半導体レーザモジュール100に入力された場合、当該光が各半導体レーザチップ4に入力することを防止するためのバンドパスフィルタである。
【0029】
この半導体レーザモジュール100の組立は、たとえば以下の手順で行われる。はじめに、サブマウント3を接合温度である約300℃に加熱し、半導体レーザチップ4を、融点が約280℃のAuSn半田でサブマウント3に接合実装し、6つのチップオンサブマウント16を形成する。つぎに、LD高さ調整板2が実装された筐体1の底板部1bを接合温度である約150℃に加熱し、各チップオンサブマウント16を、融点が約140℃のSnBi半田でLD高さ調整板2に接合実装する。その後、半導体レーザモジュール100の他の構成部品を筐体1に取り付ける。
【0030】
(チップオンサブマウントの概略構成)
つぎに、チップオンサブマウント16について説明する。
図2は、チップオンサブマウント16の模式的な平面図である。上述したように、チップオンサブマウント16は、半導体レーザチップ4と、半導体レーザチップ4が実装されるサブマウント3とを備えている。
【0031】
サブマウント3は、基板3aと、上部被覆層3bを備えている。基板3aは、たとえば窒化アルミニウム(AlN)、アルミナ(Al2O3)、べリリア(BeO)、窒化ホウ素(BN)、ダイヤモンド、炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素(Si3N4)、二酸化ケイ素(SiO2)、ジルコニア(ZrO2)の少なくともいずれか一つを含んで構成することができる。
本実施形態では半導体レーザチップ4はシングルエミッタ型であるが、マルチエミッタ型のレーザバーチップでもよい。半導体レーザチップ4が、レーザバーチップとなる場合、基板3aは、Cuなどの金属としてもよい。本実施形態では、基板3aはAlNからなるものとする。また、基板3aの厚さはたとえば0.3~1.0mm程度である。
【0032】
上部被覆層3bは、厚さがたとえば1μm~80μmの範囲であり、基板3aの半導体レーザチップ4が実装される側の表面に形成されている。上部被覆層3bは金属多層膜からなる。
【0033】
上部被覆層3bは、溝Gで2つの部分に分離している。溝Gは2つの部分を電気的に絶縁するために設けられている。上部被覆層3bの2つの部分の一方は不図示のボンディングワイヤにて半導体レーザチップ4の上面に電気的に接続され、他方は半導体レーザチップ4が実装される。
【0034】
半導体レーザチップ4は、上部被覆層3bを介在させてサブマウント3に接合実装されている。上部被覆層3bの表面には、たとえばAuSn半田からなるプリコート3cが形成されており、これにより半導体レーザチップ4は上部被覆層3bに接合実装される。なお、上部被覆層3bは、プリコート3cと接触する表面に、たとえば白金(Pt)からなるバリアメタル層が形成されていると好適である。バリアメタル層は、プリコート3cのAuSn半田と上部被覆層3bのバリアメタル層よりも下層の金属材料との化学反応を防止するために形成されている。
【0035】
半導体レーザチップ4の底面側(上部被覆層3bに接合する面側)および上面にはそれぞれ電極が形成されており、半導体レーザチップ4はこれらの電極を介してリードピン5から電力を供給される。なお、半導体レーザチップ4がジャンクションダウンで実装される場合には、一般的には上面側にn側電極が形成されている。また、半導体レーザチップ4がジャンクションアップで実装される場合には、一般的には上面側にp側電極が形成されている。なお、半導体レーザチップ4がジャンクションダウンで実装された方がサブマウント3への放熱性は高い。
【0036】
図3は、チップオンサブマウント16のA-A線断面の一部を示す図である。
図3に示すように、半導体レーザチップ4は、主に半導体で構成されている半導体部4aと、主に金属で構成されているメタライズ層4bとを備えている。半導体部4aは、長手方向において出射端面4aaと後端面4abとを有し、出射端面4aaからレーザ光を出射する。出射端面4aaにはレーザ発振波長における反射率がたとえば0.1%~7%程度のARコーティングが形成されている。後端面4abにはレーザ発振波長における反射率がたとえば95%程度のHRコーティングが形成されている。出射端面4aaと後端面4abとはレーザ共振器を構成しており、出射端面4aaと後端面4abとの距離が共振器長である。共振器長はたとえば800μm~6mm程度であるが、特には限定されない。また、半導体レーザチップ4の幅はたとえば100μm~1mmであるが、特には限定されない。
【0037】
また、半導体部4aは、たとえばGaAs基板上に形成されており、シングルモードまたはマルチモードの導波路を構成する。活性層はたとえばレーザ発振波長が900nm~1080nmとなるように組成が設定されている。出射端面4aaから出射されるレーザ光のパワーはたとえば10mW~30Wであるが、特に限定はされない。また、本実施形態では半導体レーザチップ4はシングルエミッタ型であるが、マルチエミッタ型のレーザバーチップでもよい。
【0038】
メタライズ層4bは、たとえば半導体レーザチップ4に電力を供給するための電極や、電極を保護するためのめっき層を含む多層構造となっている。メタライズ層4bの厚さはたとえば1μm~10μmである。
【0039】
プリコート3cのAuSn半田の厚さは、メタライズ層4bと上部被覆層3bとを十分に接合でき、かつ、後述するサブマウント3と半導体部4aの所定部分との距離が所望の値を得られる厚さであれば、特に限定されるものではない。
【0040】
ここで、サブマウント3と半導体部4aの出射端面4aa側との距離(第1距離)をD1とし、サブマウント3と半導体部4aの後端面4ab側との距離(第2距離)をD2とする。D1は、典型的にはサブマウント3と半導体部4aの出射端面4aaとの距離である。しかしながら、D1は、出射端面4aaから半導体部4aの長手方向中央に向かって20μm以内の幅の領域と、サブマウント3との距離としてもよい。同様に、D2は、典型的にはサブマウント3と半導体部4aの後端面4abとの距離である。しかしながら、D1は、後端面4abから半導体部4aの長手方向中央に向かって20μm以内の幅の領域と、サブマウント3との距離としてもよい。
【0041】
このチップオンサブマウント16では、D1はD2よりも小さいため、半導体レーザチップ4が発する熱を、サブマウント3へ効果的に放熱することができる。
【0042】
以下、具体的に説明する。本発明者らが半導体レーザチップの特性について精査したところによれば、半導体レーザチップ4が高光出力化するにつれて、半導体部4aの出射端面4aa側と後端面4ab側とでレーザ光のパワーの差が大きくなる。具体的には出射端面4aa側でよりパワーが大きくなる。これに伴い、出射端面4aa側で局所的に発生する熱量も大きくなる。
【0043】
そこで、本発明者らは、D1をD2よりも小さくすることに想到した。これにより、出射端面4aa側が後端面4ab側よりもサブマウント3に近くなるので、出射端面4aa側で発生する熱が優先的かつ効果的にサブマウント3に放熱される。その結果、半導体レーザチップ4が発する熱を、サブマウント3へ効果的に放熱することができるため、発光効率が向上し、光出力が大きくなる。また、より高温となりやすい出射端面4aa側を効果的に降温できるので、半導体レーザチップ4の信頼性が向上し、たとえば故障率を低減することができる。
【0044】
なお、本発明者らが様々な実験を行ったところ、D1とD2の差を1.5μm以上とすることによって、半導体レーザチップ4の故障率が顕著に低減されることを確認した。ただし、D1とD2の差が大きすぎると、後端面4ab側の放熱性が著しく低下したり、後端面4ab側でプリコート3cの半田の接合性が低下したりする場合があるので、D1とD2の差は10μm以下程度とするのが好ましい。たとえば、1チップあたり10~20Aの電流を注入するような高出力な半導体レーザチップで実験すると、D1とD2の差が10μmより大きい場合、半導体レーザチップが通電時に溶融するような激しい故障が観察された。また、D1を16μm以下、さらに好ましくは12μm以下とすると、出射端面4aa側がサブマウント3に比較的近いので好ましい。
【0045】
また、本実施形態では、
図3に示すように半導体レーザチップ4はメタライズ層4b側に凸となるようなわずかな反りを有しているが、反っておらずに直線状であっても、サブマウント3へ効果的に放熱することができるという効果が得られることは明らかである。
【0046】
(チップオンサブマウントの製造方法)
つぎに、チップオンサブマウント16の製造方法の一例について、従来例と対比させて説明する。
【0047】
本製造方法は、半導体レーザチップ4の長手方向における中央よりも出射端面4aa側を、保持具としてのコレットにてサブマウント3に押圧し、サブマウント3に実装する工程を含むものである。
【0048】
図4は、半導体レーザチップ4のチャック状態の説明図であり、チャックされた半導体レーザチップ4を側面から見た場合と、そのときの半導体レーザチップ4を上面から見た場合を示している。
図4(a)は本製造方法を示し、
図4(b)は従来例を示している。コレット210は、たとえば、金属からなる本体部211とポリイミド樹脂からなる先端部212とを有しており、先端部212が直方体状の形状である平型コレットである。コレット210には、先端部212の先端面で開口し、真空ポンプに繋がっている吸引孔が形成されている。コレット210は、半導体レーザチップ4を吸引孔で吸引して真空チャックすることにより、先端部212にて半導体レーザチップ4を保持可能である。
【0049】
従来例では、半導体レーザチップ4が長手方向において均一にサブマウント3に実装されるように、コレット210の先端部212を、半導体レーザチップ4の長手方向中央付近に当接させて、チャックしている。なお、領域A2は先端部212が半導体レーザチップ4に当接する領域である。
【0050】
これに対して、本製造方法では、コレット210の先端部212を、半導体レーザチップ4の長手方向における中央よりも出射端面4aa側を中心として当接させて、チャックしている。なお、領域A1は先端部212が半導体レーザチップ4に当接する領域である。
【0051】
図4は出射端面4aaとコレット210の先端部212の長手方向の出射端面側の端部とが一致している状態を示しているが、吸着ができれば、コレット210の先端部212の長手方向の出射端面側の端部が半導体レーザチップ4よりも出射端面4aa側に飛び出していても良い。または、出射端面4aa側の距離D1が十分に狭くなればコレット210の先端部212の長手方向の出射端面4aa側の端部が半導体レーザチップ4の長手方向の中心側に引っ込んでいても良い。ただし、コレット210の先端部212の中心が半導体レーザチップ4の長手方向の中心に近づくほど、距離D1を狭くする効果が小さくなる。
【0052】
そして、
図5に示すように、載置台220に載置されて不図示のヒータでプリコート3cが溶融するように加熱されたサブマウント3に、半導体レーザチップ4をコレット210にて押圧し、サブマウント3に実装する。これにより、
図3に示すような、D1がD2よりも小さいチップオンサブマウント16を製造できる。
半導体レーザチップ4とサブマウント3とを接合実装する工程中に、コレット210を半導体レーザチップ4から一時離す工程を含む場合がある。これは、コレット210を経由してヒータからの熱が放散されるのを防ぎ、より効率的に半田を溶かすことを意図している。このような場合でも、コレット210が半導体レーザチップ4を押圧しているいずれかの工程で、半導体レーザチップ4の長手方向における中央よりも出射端面4aa側を押圧していれば、本発明の効果を有する。
【0053】
図6は、半導体レーザチップ4の実装状態の説明図である。横軸は半導体レーザチップ4の長手方向を示し、縦軸はサブマウント3と半導体部4aとの距離を示している。基準位置は、実装状態での半導体部4aの底面の最低位置を示している。線L1が本製造方法による半導体レーザチップ4の実装状態を示し、線L2は従来例による半導体レーザチップ4の実装状態を示している。このように、本製造方法を示す線L1によれば、サブマウント3と半導体部4aの出射端面4aa側との距離が、従来例を示す線L2より小さくできるので、効果的な放熱が可能なチップオンサブマウント16を製造できる。
【0054】
(実施例1、比較例1)
AlNからなる基板に、Ptからなるバリアメタル層を含み、Cuを主成分とする金属多層膜からなる上部被覆層と、AuSn半田からなるプリコート3cとが形成されたサブマウントを用意した。また、GaAs基板上にInGaAsを含む活性層が形成され、共振器長が4.5mmであり、厚さが0.1mm程度の半導体レーザチップを用意した。そして、平型コレットを用いて半導体レーザチップをチャックし、サブマウントに実装し、チップオンサブマウントを作製した。なお、平型コレットのコレット長さは2mmである。ここで、コレット長さとは、半導体レーザチップを保持した状態において、コレットの長手方向において半導体レーザチップに当接する両端間の距離である。したがって、半導体レーザチップに当接する両端間の間に、半導体レーザチップとコレットとが当接しない部分があったとしても、その当接しない部分の存在によってコレット長さが変化するものではない。
【0055】
実施例1では、
図4(a)に示すように、コレットの出射端面側の端部を半導体レーザチップの出射端面と略一致させることによって、コレットを、半導体レーザチップの長手方向における中央よりも出射端面側を中心として当接させてチャックした。一方、比較例1では、
図4(b)に示すように、コレットを、半導体レーザチップの長手方向中央付近に当接させてチャックした。
【0056】
実装後、半導体部の長手方向中央の位置、出射端面から半導体部の長手方向中央に向かって20μm以内の幅の領域、および後端面から半導体部の長手方向中央に向かって20μm以内の幅の領域において、半導体部とサブマウントとの距離を測定した。
【0057】
図7は、実施例1と比較例1とにおける半導体レーザチップの実装状態の説明図であり、中央の位置を基準位置とした、出射端面側および後端面側の距離を示す。
図7(a)は比較例1であり、
図7(b)は実施例1である。比較例1では、出射端面側と後端面側とが略同じ距離となった。これに対して、実施例1では、出射端面側の距離を後端面側の距離よりも4μm程度サブマウントに近づけることができた。
【0058】
つづいて、実施例1、比較例1で用いたものと同様のサブマウントと半導体レーザチップとを42組用意し、半導体レーザチップをサブマウントに実装し、チップオンサブマウントのサンプルを42個作製した。サンプル番号1~18については、比較例1と同様に半導体レーザチップを長手方向中央付近でチャックし、サンプル番号19~42については、実施例1と同様に、半導体レーザチップを、出射端面側を中心にチャックした。
【0059】
図8は、チップオンサブマウントの複数のサンプルにおける実装状態の説明図であり、各サンプルにおいて測定したD2とD1との差(距離D2-距離D1)を示している。
図8に示すように、サンプル番号1~18では(距離D2-距離D1)は0μm付近の値であった。サンプル番号1~18での(距離D2-距離D1)の平均値は-0.3μm、最大値は0.6μm、最小値は-1.9μmであった。一方、サンプル番号19~42では(距離D2-距離D1)は1.5μm以上の値であった。サンプル番号19~42での(距離D2-距離D1)の平均値は2.8μm、最大値は4.5μm、最小値は1.5μmであった。このように、実施例1の方法によれば、(距離D2-距離D1)を1.5μm以上にできる。
【0060】
つづいて、実施例1、比較例1で作製したチップオンサブマウントの半導体レーザチップに供給電流の最大規格値を流し、最大光出力を測定した。測定時には、チップオンサブマウントを30℃に温度調整したステージ上に載せて通電をおこなった。
【0061】
図9は、実施例1と比較例1とにおける半導体レーザチップの相対的光出力の説明図である。
図9では、比較例1における最大光出力を1とした場合の相対的光出力を示している。
図9に示すように、実施例1の場合は比較例1の場合よりも3%以上最大光出力が向上することが確認された。
【0062】
つづいて、実施例2~6として、平型コレットと、先端部の先端面が略円形状の丸型コレットとを用意し、これらを用いて半導体レーザチップをサブマウントに実装し、チップオンサブマウントを各実施例で100組以上作製した。ここで、半導体レーザチップとしては、実施1と同様に共振器長が4.5mmのものと、共振器長がより短い4mmのものとを用意した。また、コレットについても、コレット長さが0.5mm、2mm、3mm、4mmのものを用意した。また、実施例2~6において、実施例1の場合と同様に、コレットの出射端面側の端部を半導体レーザチップの出射端面と略一致させるように当接させてチャックした。
【0063】
表1は、実施例2~6について、共振器長、コレット長さ、比率、濡れ性、故障率、コレットタイプを示す。比率とは、共振器長に対するコレット長さの比率を意味する。なお、丸型コレットの場合は、長手方向は特定できないので、半導体レーザチップの長手方向に沿ってコレット長さを規定した。また、濡れ性とは半導体レーザチップとサブマウント間に半田がまんべんなくいきわたっているかどうかを表しており、目視で評価した。故障率は、チップオンサブマウントの長期通電試験や注入電流を大きくした試験にて評価した。なお、濡れ性や故障率についての記号「〇」は、特性が十分に良好であることを意味し、「△」は、特性が「〇」の場合よりも低いが、場合によっては実用上問題の無い範囲であることを示す。
【0064】
【0065】
表1に示す結果から、共振器長に対するコレット長さの比率が28.5%以上81.9%以下であることが濡れ性や故障率の点で好ましく、44.4%以上75.0%以下がさらに好ましいことが確認された。28.5%と81.9%の由来は、それぞれ実施例3と4、実施例5と6の平均値である。実施例3と6の故障率や濡れ性は、使用する光出力や保証する信頼性によっては許容できる場合があるため、平均値を計算する時にそれらの共振器長とコレット長さの比率を用いた。
【0066】
なお、実施例2、3では、比率が小さいためコレットが半導体レーザチップの後端面側を押さえられないので、(距離D2-距離D1)が大きくなり、後端面側の放熱性が低くなったためと考えられる。
実施例2、3で、D1とD2の差が10μmより大きい場合には、注入電流を大きくした場合に半導体レーザチップが溶融するような激しい故障が観察された。
実施例2~6で、距離D1が16μmよりも大きいチップオンサブマウントの集団を抽出すると、距離D1が16μm以下の集団よりも長期通電試験の故障率が高いことが試験結果の解析の結果分かった。距離D1が12μm以下では、更に故障率が低いことが分かった。実施例4、5では、98%以上のチップオンサブマウントの距離D1が12μm以下になるように、好適に製造できることが分かった。
また、実施例6では、濡れ性がやや低かった。その理由は、比率が大きいためコレットが大型であるので、加熱されたサブマウントからコレットを経由して熱が放散しやすくなり、半田の温度が低下したためであると考えられる。
【0067】
なお、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上述した各実施形態の構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、上記の実施形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0068】
1 筐体
1a 蓋
1b 底板部
2 LD高さ調整板
3 サブマウント
3a 基板
3b 上部被覆層
3c プリコート
4 半導体レーザチップ
4a 半導体部
4aa 出射端面
4ab 後端面
4b メタライズ層
5 リードピン
6 第1レンズ
7 第2レンズ
8 ミラー
9 第3レンズ
10 光フィルタ
11 第4レンズ
12 光ファイバ
13 支持部材
14 ブーツ
15 ルースチューブ
16 チップオンサブマウント
100 半導体レーザモジュール
210 コレット
211 本体部
212 先端部
220 載置台
A1、A2 領域
G 溝