(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】補強スリーブ及び光ファイバ接続部の補強構造
(51)【国際特許分類】
G02B 6/255 20060101AFI20241111BHJP
G02B 6/44 20060101ALI20241111BHJP
【FI】
G02B6/255
G02B6/44 371
G02B6/44 381
(21)【出願番号】P 2021006564
(22)【出願日】2021-01-19
【審査請求日】2023-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】秋山 知広
(72)【発明者】
【氏名】高岡 隆治
(72)【発明者】
【氏名】田邉 明夫
【審査官】野口 晃一
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-297243(JP,A)
【文献】特開2012-159761(JP,A)
【文献】実開昭62-022609(JP,U)
【文献】国際公開第02/039164(WO,A2)
【文献】特開2009-080472(JP,A)
【文献】特開2018-045231(JP,A)
【文献】国際公開第2019/021998(WO,A1)
【文献】実開昭62-022608(JP,U)
【文献】実開昭59-063307(JP,U)
【文献】特開2014-006430(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/24
6/255
6/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
並列された複数の光ファイバ心線の接続部を一括して補強する補強スリーブであって、
熱収縮チューブと、
前記熱収縮チューブに挿入される、抗張力体及び熱溶融部材と、
を具備し、
前記熱溶融部材の長手方向に垂直な断面において、前記熱溶融部材の幅方向の中央部近傍に、他の部位よりも肉厚が厚い厚肉部が形成されることを特徴とする補強スリーブ。
【請求項2】
前記厚肉部は、前記熱溶融部材の前記抗張力体側に形成され、前記熱溶融部材の内面側の形状が、前記熱溶融部材の中心方向に向けて突状に形成されることを特徴とする請求項1記載の補強スリーブ。
【請求項3】
並列された複数の光ファイバ心線の接続部を一括して補強する補強スリーブであって、
熱収縮チューブと、
前記熱収縮チューブに挿入される、抗張力体及び熱溶融部材と、
を具備し、
前記熱溶融部材は、チューブ状の第1の熱溶融部材と、前記第1の熱溶融部材の幅方向の中央部に配置される第2の熱溶融部材とから構成され
、
前記第2の熱溶融部材は、前記第1の熱溶融部材と前記抗張力体との間に配置され、前記第2の熱溶融部材の外形が、前記第1の熱溶融部材の方向に向けて突状に形成されることを特徴とする補強スリーブ。
【請求項4】
請求項1から請求項
3のいずれかに記載の補強スリーブを用いた、光ファイバ接続部の補強構造であって、
並列された複数の光ファイバ心線が長手方向に間欠的に接着された光ファイバリボン線同士の接続部と前記抗張力体とが前記熱溶融部材によって一体化されることを特徴とする光ファイバ接続部の補強構造。
【請求項5】
前記光ファイバリボン線を構成する前記複数の光ファイバ心線の心数が、12心以上であることを特徴とする請求項
4記載の光ファイバ接続部の補強構造。
【請求項6】
前記複数の光ファイバ心線同士のピッチが200μm以下であることを特徴とする請求項
4又は請求項
5記載の光ファイバ接続部の補強構造。
【請求項7】
前記光ファイバ心線のガラスファイバの外径が110μm以下であることを特徴とする請求項
4から請求項
6のいずれかに記載の光ファイバ接続部の補強構造。
【請求項8】
前記光ファイバ心線の外径が200μm以下であることを特徴とする請求項
4から請求項
7のいずれかに記載の光ファイバ接続部の補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補強スリーブ、及びこれを用いた光ファイバ接続部の補強構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば光ファイバ心線同士を融着接続する際には、融着接続部に補強スリーブが設けられて補強される。
【0003】
このような、補強スリーブは各種考案されており、例えば、ホットメルト接着剤チューブと抗張力体とが熱収縮チューブに挿入された補強スリーブがある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、多量のデータを高速で伝送するための光ファイバとして、ケーブルへの収納や作業の簡易化のため、複数本の光ファイバ心線が並列に配置されて接着された光ファイバテープ心線が用いられている。また、並列した光ファイバを全長にわたって樹脂で固着された光ファイバテープ心線の他、並列した複数の光ファイバ心線同士が長手方向に間欠的に接着された光ファイバリボン線がある。光ファイバ心線同士の間欠的な接着は、集線密度の向上や曲げによる伝送ロスの低減、単心化をしやすくするなどの特徴を持つ。以下、光ファイバテープ心線及び光ファイバリボン線を合わせて、単に光ファイバテープ心線等とする。
【0006】
図10(a)~
図10(c)は、補強スリーブを用いて、光ファイバテープ心線等の接続部を補強する工程について示す図である。まず、
図10(a)に示すように、互いに対向して配置されるそれぞれの光ファイバ心線101同士を突き合せて、電極103からの放電によって各光ファイバ心線101同士を融着する。この際、補強スリーブ100は、一方の光ファイバ心線101側に退避させておく。
【0007】
次に、
図10(b)に示すように、補強スリーブ100を光ファイバ心線101同士の接続部に移動させる(図中矢印F)。その後、
図10(c)に示すように、補強スリーブ100を加熱して収縮させて、補強スリーブ100と複数の光ファイバ心線101とを一体化する。以上により、複数の光ファイバ心線101同士の接続部が補強される。
【0008】
図11(a)は、
図10(b)の状態の断面図である。前述したように、補強スリーブ100は、熱溶融部材107と抗張力体109とが熱収縮チューブ105に挿入されて構成される。熱溶融部材107は筒状であり、並列された光ファイバ心線101の接続部は、熱溶融部材107を貫通するように設けられる。なお、熱溶融部材107を貫通する光ファイバ心線101の外被は、接続前に除去されている。
【0009】
図11(b)は、補強スリーブ100を加熱した際の構造を示す理想上の概念図である。熱収縮チューブ105は、加熱によって収縮する。また、熱溶融部材107は熱によって軟化し、収縮後の熱収縮チューブ105の内部の隙間を埋め、複数の光ファイバ心線101及び抗張力体109と一体化する。
【0010】
ここで、抗張力体109の上面(光ファイバ心線101側)には、通常、平坦面が形成される。複数の光ファイバ心線101は、抗張力体109の上面の平坦面に沿って整列し、抗張力体109及び熱溶融部材107と一体化することが望まれる。
【0011】
しかし、実際には、
図11(c)に示すように、熱収縮チューブ105の収縮の際に、熱溶融部材107が周囲から力を受け(図中矢印G)、複数の光ファイバ心線101が側圧を受ける。前述したように、光ファイバ心線101は、抗張力体109の上面の平坦部に沿って、まっすぐに配列することが望まれるが、特に幅方向からの側圧によって、光ファイバ心線101の配列が乱れる。例えば、一部の光ファイバ心線101は、抗張力体109から離れる方向に移動し、中央付近に集まろうとする。
【0012】
このような傾向は、特に、光ファイバ心線101間の距離(ピッチ)が狭くなるほど、また、光ファイバ心線数が増えるほど強くなる。また、光ファイバ素線の径が細くなると剛性が小さくなるため、この傾向が強くなる。また、複数の光ファイバ心線同士が長手方向に間欠的に接着された間欠接着型の光ファイバリボン線の場合には、さらにこの傾向が強くなる。
【0013】
このように、光ファイバ心線101の配列が乱れると、一部の光ファイバ心線101の伝送損失が増加する恐れがある。このため、熱収縮チューブ105の収縮時に、各光ファイバ心線101の配列が乱れずに、常に一定の形態で一体化されることが望まれる。
【0014】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、光ファイバテープ心線等の接続部を効率良く補強することが可能な補強スリーブ等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
第1の発明は、並列された複数の光ファイバ心線の接続部を一括して補強する補強スリーブであって、熱収縮チューブと、前記熱収縮チューブに挿入される、抗張力体及び熱溶融部材と、を具備し、前記熱溶融部材の長手方向に垂直な断面において、前記熱溶融部材の幅方向の中央部近傍に、他の部位よりも肉厚が厚い厚肉部が形成されることを特徴とする補強スリーブである。
【0018】
前記厚肉部は、前記熱溶融部材の前記抗張力体側に形成され、前記熱溶融部材の内面側の形状が、前記熱溶融部材の中心方向に向けて突状に形成されてもよい。
【0019】
第1の発明によれば、熱溶融部材の幅方向の中央部近傍の単位周長当たりの熱溶融部材量を、幅方向の端部近傍における単位周長当たりの熱溶融部材量よりも多くすることで、熱溶融部材が溶融した際に、中央部から端部方向に向けて熱溶融部材の流れを形成することができる。このため、光ファイバ心線を端部方向に分散させることができるため、側圧による配列乱れを抑制することができる。
【0020】
また、厚肉部を内面側に突形状とすることで、光ファイバ心線を配置した際に、この突形状によっても、光ファイバ心線の配列を幅方向の端部側へ分散させやすい。
【0021】
第2の発明は、並列された複数の光ファイバ心線の接続部を一括して補強する補強スリーブであって、熱収縮チューブと、前記熱収縮チューブに挿入される、抗張力体及び熱溶融部材と、を具備し、前記熱溶融部材は、チューブ状の第1の熱溶融部材と、前記第1の熱溶融部材の幅方向の中央部に配置される第2の熱溶融部材とから構成され、前記第2の熱溶融部材は、前記第1の熱溶融部材と前記抗張力体との間に配置され、前記第2の熱溶融部材の外形が、前記第1の熱溶融部材の方向に向けて突状に形成されることを特徴とする補強スリーブである。
【0023】
第2の発明によれば、第2の発明と同様の効果を得ることができる。また、第1の熱溶融部材の幅方向の中央部において、さらに第2の熱溶融部材を配置することで、従来から使用されている熱溶融部材をそのまま第1の熱溶融部材として利用することができる。
【0024】
この際、第2の熱溶融部材を、第1の熱溶融部材と抗張力体との間に配置して、第2の熱溶融部材の外形を、第1の熱溶融部材の方向に向けて突状に形成することで、光ファイバ心線を配置した際に、突形状によっても、光ファイバ心線の配列を幅方向の端部側へ分散させやすい。
【0025】
第3の発明は、第1~第3の発明にかかる補強スリーブを用いた、光ファイバ接続部の補強構造であって、並列された複数の光ファイバ心線が長手方向に間欠的に接着された光ファイバリボン線同士の接続部と前記抗張力体とが前記熱溶融部材によって一体化されることを特徴とする光ファイバ接続部の補強構造である。
【0026】
前記光ファイバリボン線を構成する前記複数の光ファイバ心線の心数が、12心以上であることが望ましい。
【0027】
前記複数の光ファイバ心線同士のピッチが200μm以下であることが望ましい。
【0028】
前記光ファイバ心線のガラスファイバの外径が110μm以下であることが望ましい。
【0029】
前記光ファイバ心線の外径が200μm以下であることが望ましい。
【0030】
第3の発明によれば、光ファイバリボン線を構成する複数の光ファイバ心線が、熱溶融部材の流れによって分散されるため、光ファイバ心線の配列乱れによる光ファイバ心線毎の伝送損失ばらつきを抑制することができる。
【0031】
特に、上記の効果は、光ファイバリボン線を構成する前記複数の光ファイバ心線の心数が12心以上の場合に顕著である。また、上記の効果は、光ファイバ心線同士のピッチが200μm以下である場合に顕著である。また、上記の効果は、前記光ファイバ心線のガラスファイバの外径が110μm以下である場合に顕著である。また、上記の効果は、前記光ファイバ心線の外径が200μm以下である場合に顕著である。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、光ファイバテープ心線等の接続部を効率良く補強することが可能な補強スリーブ等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】(a)は、補強スリーブ1を示す側面図、(b)は、(a)のA-A線断面図。
【
図2】補強スリーブ1を用いた光ファイバ心線11同士の接続部の補強工程を示す図で、(a)は、収縮前の断面図、(b)は、収縮中の断面図、(c)は、収縮後の断面図。
【
図3】(a)は、光ファイバリボン線12を示す図、(b)は、光ファイバリボン線12同士を突き合せた状態を示す図。
【
図4】(a)は、補強スリーブ1aを示す断面図、(b)は補強スリーブ1bを示す断面図。
【
図5】(a)は、収縮前の補強スリーブ1cを示す断面図、(b)は、収縮中の補強スリーブ1cを示す断面図。
【
図6】(a)は、補強スリーブ1dを示す断面図、(b)は補強スリーブ1eを示す断面図。
【
図7】(a)は、補強スリーブ1fを示す側面図、(b)は、(a)のD-D線断面図、(c)は、(a)のE-E線断面図。
【
図8】(a)は、補強スリーブ1gを示す断面図、(b)は補強スリーブ1hを示す断面図。
【
図10】補強スリーブ100を用いた光ファイバ心線101の接続工程を示す図。
【
図11】補強スリーブ100を用いた光ファイバ心線101同士の接続部の補強工程を示す図で、(a)は収縮前の断面図、(b)は収縮後の理想の断面概念図、(c)は、収縮後の実際の断面概念図。
【発明を実施するための形態】
【0034】
(第1実施形態)
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1(a)は、補強スリーブ1の側面図であり、
図1(b)は、
図1(a)のA-A線断面図である。補強スリーブ1は、並列された複数の光ファイバ心線の接続部を一括して補強する部材であり、熱収縮チューブ5、熱溶融部材7、抗張力体9等からなる。
【0035】
熱収縮チューブ5は、断面が略円形の筒状の部材である。熱収縮チューブ5は、例えばポリエチレン系の樹脂製である。
【0036】
熱溶融部材7は、断面が略円形又は楕円形の筒状である。熱溶融部材7は、例えばエチレン酢酸ビニル系の樹脂製である。熱溶融部材7は、熱収縮チューブ5の熱収縮温度よりも低温で溶融することが望ましい。熱溶融部材7の幅方向の中央部近傍には、他の部位よりも肉厚が厚い厚肉部13が設けられる。厚肉部13は、熱溶融部材7の下方(抗張力体9側)に形成さる。また、厚肉部13は、熱溶融部材7の内面側の形状が、熱溶融部材7の中心方向に向けた突状となるように形成される。
【0037】
抗張力体9は、棒状の部材である。抗張力体9は、例えば、鋼製、カーボン製、ガラス製、セラミック製等である。抗張力体9及び熱溶融部材7は、熱収縮チューブ5に挿入される。なお、抗張力体9及び熱溶融部材7の脱落防止のため、熱収縮チューブ5の一部にかしめ部3が形成される。
【0038】
ここで、抗張力体9が断面において傾いた場合、抗張力体9が熱収縮チューブ5の位置に対してずれてしまい、バランスが崩れてしまう場合がある。この場合、光ファイバ心線を抗張力体9に不均等な力で押さえつけることになり光ファイバ心線の整列性が悪化する場合がある。これに対し、かしめ部3は、抗張力体9の傾きを防ぎ、このように抗張力体9と光ファイバ心線との配置を維持するために効果的である。
【0039】
次に、補強スリーブ1を用いた光ファイバ接続部の補強方法について説明する。
図2(a)~
図2(c)は、光ファイバテープ心線等を構成する光ファイバ心線11同士の接続部の補強工程を説明する図である。まず、前述した
図10(a)~
図10(c)で示したのと同様に、光ファイバ心線11の先端部の所定長さの外被を除去し、先端同士を突き合わせて、各光ファイバ心線同士を融着させる。この際、一方の側の複数の光ファイバ心線11を、補強スリーブ1の熱溶融部材7に挿通し、補強スリーブ1は、一方の光ファイバ心線11側に退避させておく。
【0040】
次に、
図2(a)に示すように、補強スリーブ1を複数の光ファイバ心線11同士の接続部を覆うように移動させる。この際、光ファイバ心線11が、厚肉部13の突形状に沿って配置されるため、光ファイバ心線11が幅方向に分散されやすくなる。次に、熱収縮チューブ5と熱溶融部材7とを加熱することで、熱収縮チューブ5を収縮させるとともに熱溶融部材7を溶融させる。
【0041】
図2(b)は、熱収縮チューブ5が収縮し始めて、熱溶融部材7が溶融を開始した状態を示す断面図である。前述したように、熱溶融部材7の幅方向の略中央部には厚肉部13が形成される。このため、熱溶融部材7の長手方向に垂直な断面において、熱溶融部材7の幅方向の中央部近傍の熱溶融部材量が、幅方向の端部近傍における熱溶融部材量よりも多い。このため、熱溶融部材7が溶融する際に、幅方向の中央部近傍から端部側に向かって熱溶融部材7の流れが生じる(図中矢印B)。
【0042】
図2(c)は、熱収縮チューブ5が完全に収縮した状態を示す断面図である。熱溶融部材7は、前述したように、熱収縮チューブ5の収縮時には、光ファイバ心線11に対して側圧がかかる。しかし、熱溶融部材7の溶融時に、光ファイバ心線11は幅方向の端部側に分散していく。このため、熱溶融部材7の流れによって光ファイバ心線11が幅方向の端部側に行こうとする力が、それぞれの光ファイバ心線11への側圧を打ち消し、光ファイバ心線11が抗張力体9から浮き上がるようにして、配列が乱れることを抑制することができる。なお、実際には、光ファイバ心線11は、抗張力体9と接触せずに、光ファイバ心線11と抗張力体9との間には、熱溶融部材7が回り込む。
【0043】
熱溶融部材7が完全に溶融し、熱収縮チューブ5が完全に収縮したら、加熱を止めて冷却し、抗張力体9と光ファイバ心線11の接続部とを熱溶融部材7によって一体化する。以上により、補強スリーブ1を用いた光ファイバ接続部の補強構造を得ることができる。すなわち、光ファイバ接続部の補強構造においては、光ファイバ心線11の接続部が熱溶融部材7によって覆われ、光ファイバテープ心線等を構成する各光ファイバ心線11が、抗張力体9の表面に沿って配置される。
【0044】
なお、光ファイバテープ心線等として、複数の光ファイバ心線が長手方向に間欠的に接着され、隣り合う接着部同士が長手方向に例えば千鳥配置や階段状に配置された間欠接着型の光ファイバリボン線の場合に、特に側圧からの影響で光ファイバ心線11の配列が乱れやすい。
【0045】
図3(a)は、光ファイバリボン線12を示す図である。前述したように、光ファイバリボン線12は、複数の光ファイバ心線11が並列され、長手方向に間欠的に接着部11c接着される。なお、光ファイバ心線11は、内部のガラスファイバ11aの外周に樹脂被覆11bが配置されて構成され、接続時には、先端部の樹脂被覆11bが除される。ここで、光ファイバ心線11のピッチPは、おおむね、光ファイバ心線11の外径と一致する。
【0046】
図3(b)は、このような光ファイバリボン線12同士を突き合わせて融着する際の概念図である。光ファイバリボン線12は、光ファイバ心線11間を固定する接着部分が間欠的であるため、光ファイバ心線11同士が、全長にわたって固定されている従来の光ファイバテープ心線よりも光ファイバ心線11が単独になっている部分が長い。このため、光ファイバ心線11の配列の自由度が高く、ガラスファイバ11a同士を突き合せた際に、光ファイバ心線11(ガラスファイバ11a)の位置ずれを起こしやすい(図中X部)。このため、本実施形態は、並列された複数の光ファイバ心線11が長手方向に間欠的に接着された間欠接着型の光ファイバリボン線の同士を接続する場合に、特に効果的である。
【0047】
また、通常、光ファイバ心線11の外径(樹脂被覆11bの外径)が細い場合に、側圧からの影響で配列が乱れやすい。このため、本実施形態は、光ファイバテープ心線等を構成するそれぞれの光ファイバ心線11の外径が225μm以下の場合に、特に効果的である。さらに光ファイバ心線の外径が200μm以下、170μm以下と狭くなるとより効果的である。
【0048】
さらに樹脂被覆11bを除去したガラスファイバ11aは、従来125μmであるが、このガラスファイバ11aを細くすると、光ファイバ心線11の剛性が小さくなるため、側圧の影響でガラスファイバ11aの配列が乱れやすくなる。このため、本実施形態は、光ファイバテープ心線等を構成するそれぞれのガラスファイバ11aの外径が110μm以下の場合に、特に効果的である。
【0049】
さらに光ファイバ心線11同士のピッチPが従来の250μmより狭くなると、光ファイバ心線11間の乱れをより確実に抑えないと、ガラスファイバ11a同士の接触等が発生しやすくなる。このため、本実施形態は、光ファイバ心線11間のピッチPが225μm以下の場合に、特に効果的である。特に光ファイバ心線11間のピッチPが200μm以下、170μm以下と狭くなるほど、さらにガラスファイバ11a同士の接触や交差の可能性が高くなるため、より効果的である。
【0050】
また、光ファイバテープ心線等を構成する光ファイバ心線11の本数が多くなるほど、側圧からの影響で光ファイバ心線11の配列が乱れやすい。このため、本実施形態は、光ファイバテープ心線等を構成する複数の光ファイバ心線11の心数が8本以上の場合に、特に効果的である。さらに光ファイバ心線が12本以上、16本以上、24本以上と増えるほど、より効果的である。
【0051】
すなわち、本実施形態は、光ファイバ心線11の心数が多く、光ファイバ心線11間のピッチPが狭く、かつ、光ファイバ心線11の外径が小さい間欠接着型の光ファイバリボン線の場合に非常に効果が大きい。
【0052】
以上、第1の実施形態によれば、熱溶融部材7の幅方向の略中央部に厚肉部13を形成し、中央部における熱溶融部材量を端部側の熱溶融部材量よりも多くすることで、光ファイバ心線11を熱溶融部材7の溶融時の流れによって幅方向に分散させることができる。このため、側圧による光ファイバ心線11の配列乱れなどを抑制することができ、それぞれの光ファイバ心線11ごとの伝送損失のばらつきなどを抑制することができる。
【0053】
また、厚肉部を、熱溶融部材7の内面側に突形状となるように形成することで、光ファイバ心線11を厚肉部13の突形状に沿って配置することができる。このため、突形状によっても、光ファイバ心線11を幅方向の端部側に分散配置させることができる。
【0054】
なお、厚肉部13は、熱溶融部材7の内面側に突形状としなくてもよい。例えば、
図4(a)に示す補強スリーブ1aのように、熱溶融部材7の外面側(抗張力体9側)に突形状としてもよい。このようにしても、中央部における熱溶融部材量を端部側の熱溶融部材量よりも多くすることができるため、熱溶融部材7が溶融する際に、光ファイバ心線11を熱溶融部材7の溶融時の流れによって幅方向に分散させることができる。
【0055】
また、熱溶融部材7を幅方向の端部側により効率よく流すため、抗張力体9の上面(熱溶融部材7側)を熱溶融部材7側に突形状としてもよい。このように、抗張力体9の上面に、幅方向の端部に行くにつれて熱溶融部材7から離れる方向の傾斜面を形成することで、より効率よく、熱溶融部材7を幅方向の端部側に流すことができる。なお、図示した例では、直線状の傾斜面が形成されるが、傾斜面は曲面であっても直線状であってもよい。
【0056】
(第2実施形態)
次に、第2の実施形態について説明する。
図5(a)は、補強スリーブ1cの断面図である。なお、以下の説明において、補強スリーブ1等と同様の機能等を奏する構成については、
図1~
図4と同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0057】
補強スリーブ1cは、補強スリーブ1と略同様の構成であるが、熱溶融部材7の形態が異なる。本実施形態では、厚肉部13が、熱溶融部材7の上方(抗張力体9とは逆側)に配置される。より詳細には、熱溶融部材7の上方において、内面側に突形状となるように厚肉部13が形成される。すなわち、熱溶融部材7の下方(抗張力体9側)の形態は、従来の熱溶融部材と同様である。
【0058】
図5(b)は、熱収縮チューブ5が収縮し始めて、熱溶融部材7が溶融を開始した状態を示す断面図である。前述したように、熱溶融部材7の幅方向の略中央部には厚肉部13が形成される。熱溶融部材7が軟化して溶融すると、まず、上方から下方へ熱溶融部材7が流れていき、ある程度下方に熱溶融部材7が流れると、幅方向の端部方向に向けて流れが生じる(図中矢印C)。
【0059】
このように、厚肉部13を抗張力体9とは逆側に形成しても、熱溶融部材7の長手方向に垂直な断面において、熱溶融部材7の幅方向の中央部近傍の熱溶融部材量を、幅方向の端部近傍における熱溶融部材量よりも多くすることができる。
【0060】
なお、厚肉部13は、
図6(a)に示す補強スリーブ1dのように、熱溶融部材7の上方(抗張力体9とは逆側)の外面側に突形状としてもよい。また、
図6(b)に示す補強スリーブ1eのように、抗張力体9の上面側(熱溶融部材7側)を上方に突形状としてもよい。
【0061】
第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。このように、厚肉部13は、熱溶融部材7の下方であっても上方であってもよい。
【0062】
(第3実施形態)
次に、第3の実施形態について説明する。
図7(a)は、補強スリーブ1fの側面図であって、
図7(b)は、
図7(a)のD-D線断面図、
図7(c)は、
図7(a)のE-E線断面図である。補強スリーブ1fは、補強スリーブ1と略同様の構成であるが、熱溶融部材7と熱溶融部材17が用いられる点で異なる。本実施形態では、熱溶融部材が、チューブ状の第1の熱溶融部材である熱溶融部材7と、熱溶融部材7の幅方向の中央部に配置される第2の熱溶融部材である熱溶融部材17とを有する。
【0063】
熱溶融部材17は、熱溶融部材7と抗張力体9との間に配置される。すなわち、熱溶融部材17は、熱溶融部材7の下方に配置される。また、熱溶融部材17は棒状であり、例えば楕円形である。すなわち、熱溶融部材17の外形は、熱溶融部材7の方向に向けて突状に形成される。なお、熱溶融部材17の断面形状は特に限定されない。
【0064】
熱溶融部材17の幅は、熱溶融部材7の幅よりも狭い。また、熱溶融部材17を幅方向の略中央部に配置することで、熱溶融部材7の長手方向に垂直な断面において、幅方向の中央部近傍の熱溶融部材量(熱溶融部材7と熱溶融部材17との和)を、幅方向の端部近傍における熱溶融部材量(熱溶融部材7のみ)よりも多くすることができる。
【0065】
熱溶融部材17は、補強スリーブ1fの全長にわたって配置されてもよいが、補強スリーブ1fの長手方向の略中央の所定の範囲にのみ配置されてもよい。前述したように、光ファイバ心線11同士の接続部においては、ガラスファイバが露出する。当該ガラスファイバの露出部では、ファイバ径が細く、保護層である樹脂被覆が剥離されているため、側圧による影響を受けやすい。
【0066】
このため、このガラスファイバの露出部に対応する部位に対して、熱溶融部材17を配置することで、前述したように、熱溶融部材7、17の溶融時の流れによって、側圧の影響を抑制することができる。また、補強スリーブ1fの長手方向の端部近傍は、ガラスファイバの露出部と比較して樹脂被覆があるため、側圧の影響を受けにくいため、この部位には熱溶融部材17を配置しないことで、熱溶融部材の使用量を削減することができる。
【0067】
なお、熱溶融部材17の配置は、熱溶融部材7と抗張力体9との間には限られない。例えば、
図8(a)に示す補強スリーブ1gのように、熱溶融部材17を熱溶融部材7の内部に配置してもよい。この場合、光ファイバ心線11は、熱溶融部材17の上方に配置されてもよく、下方に配置されてもよい。
【0068】
また、
図8(c)に示す補強スリーブ1hのように、熱溶融部材17を熱溶融部材7の上方(抗張力体9とは逆側)に配置してもよい。さらに、図示を省略するが、前述したように、抗張力体9の上面を、熱溶融部材7、17側に向けて突形状としてもよい。
【0069】
第3の実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。このように、幅方向の中央部の熱溶融部材量を増やすために、複数の熱溶融部材7、17を用いてもよい。
【0070】
(第4実施形態)
次に、第4の実施形態について説明する。
図9は、補強スリーブ1iの断面図である。補強スリーブ1iは、補強スリーブ1と略同様の構成であるが、厚肉部13を形成するのではなく、熱溶融部材7自体の形状を変えたものである。すなわち、チューブ状の熱溶融部材7は、全周にわたって略均一な厚みであるが、抗張力体9側における幅方向の中央部近傍に、内面側に向かって突出する凸部14が形成される。
【0071】
このように、熱溶融部材7自体を予め成形加工して、内面側への突形状となる凸部14を形成することで、例えば補強スリーブ1bと同様の効果を期待できる。また、凸部14の形成に伴う、抗張力体9側における幅方向中央の外面に凹部が形成されることで、熱溶融部材7の回転方向の位置決めが容易である。さらに、補強スリーブ1fのように熱溶融部材17を用いる場合でも、予め形成した外面凹部に嵌るように熱溶融部材17を配置することができるため、位置決めが容易である。
【0072】
第4の実施形態によっても、第1の実施形態等と同様の効果を得ることができる。すなわち、本発明においては、熱溶融部材が、幅方向の中央部近傍から端部近傍に向かって光ファイバ心線を分散させることが可能な構造を有すればよい。例えば、熱溶融部材7の抗張力体側における幅方向中央近傍の内面形状に、成形加工によって、内面側に向かって突出する凸部14を設けてもよい。また、熱溶融部材7の幅方向の中央部近傍において、他の部位よりも肉厚が厚い厚肉部8を形成して、凸部14として機能させてもよい。または、熱溶融部材7の幅方向の略中央近傍に第2の熱溶融部材17配置して、これを凸部14として機能させてもよい。なお、各実施形態における構成は互いに組み合わせることができることは言うまでもない。
【0073】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0074】
1、1a、1b、1c、1d、1e、1f、1g、1h、1i………補強スリーブ
3………かしめ部
5………熱収縮チューブ
7、17………熱溶融部材
9………抗張力体
11………光ファイバ心線
11a………ガラスファイバ
11b………樹脂被覆
11c………接着部
12………光ファイバリボン線
13………厚肉部
14………凸部
100………補強スリーブ
101………光ファイバ心線
103………電極
105………熱収縮チューブ
107………熱溶融部材
109………抗張力体