(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】バイポーラ型蓄電池のリサイクル方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/54 20060101AFI20241111BHJP
【FI】
H01M10/54
(21)【出願番号】P 2021011476
(22)【出願日】2021-01-27
【審査請求日】2023-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005382
【氏名又は名称】古河電池株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100115679
【氏名又は名称】山田 勇毅
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】岩根 典靖
(72)【発明者】
【氏名】田中 広樹
(72)【発明者】
【氏名】中島 康雄
(72)【発明者】
【氏名】須山 健一
(72)【発明者】
【氏名】田中 彰
【審査官】早川 卓哉
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-241750(JP,A)
【文献】特開平10-241748(JP,A)
【文献】特開2001-185130(JP,A)
【文献】特開2001-126781(JP,A)
【文献】特開昭53-044401(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の一方の面に正極が形成され他方の面に負極が形成されてなるバイポーラ電極を備え、
前記正極は、金属材料からなり且つ前記基板の前記一方の面に接着剤を介して接着された集電体と、前記集電体の上に配された正極用活物質と、を備え、
前記負極は、金属材料からなり且つ前記基板の前記他方の面に接着剤を介して接着された集電体と、前記集電体の上に配された負極用活物質と、を備えるバイポーラ型蓄電池のリサイクル方法であって、
前記バイポーラ型蓄電池を解体して前記バイポーラ電極を分離する解体工程と、前記解体工程で得た前記バイポーラ電極の全体を冷却して、前記正極及び前記負極の前記集電体と前記基板と前記接着剤とを分離する冷却工程と、を有し、
前記冷却工程における前記バイポーラ電極の冷却温度は、前記正極及び前記負極において前記集電体と前記接着剤の接着及び前記基板と前記接着剤の接着が前記集電体と前記基板と前記接着剤の線膨張係数の差に起因してそれぞれ剥離する温度であるバイポーラ型蓄電池のリサイクル方法。
【請求項2】
前記正極及び前記負極の前記集電体を形成する前記金属材料が鉛又は鉛合金であり、前記バイポーラ型蓄電池がバイポーラ型鉛蓄電池である請求項1に記載のバイポーラ型蓄電池のリサイクル方法。
【請求項3】
前記基板が樹脂で形成されている請求項1又は請求項2に記載のバイポーラ型蓄電池のリサイクル方法。
【請求項4】
前記冷却工程は、前記バイポーラ電極を液体窒素に浸漬することにより冷却する工程である請求項1~3のいずれか一項に記載のバイポーラ型蓄電池のリサイクル方法。
【請求項5】
前記冷却工程の後に、剥離した前記集電体と前記基板と前記接着剤の混合物から前記集電体を分別する第一分別工程をさらに有する請求項1~4のいずれか一項に記載のバイポーラ型蓄電池のリサイクル方法。
【請求項6】
前記第一分別工程は、前記混合物に気流を吹き付けて飛ばし、前記集電体と前記基板と前記接着剤の比重の差に起因して生じる飛距離の違いによって前記混合物から前記集電体を分別する工程である請求項5に記載のバイポーラ型蓄電池のリサイクル方法。
【請求項7】
前記第一分別工程は、前記混合物を液体中に投入し、前記集電体と前記基板と前記接着剤の比重の差に起因して生じる液体中における沈降深さの違いによって前記混合物から前記集電体を分別する工程である請求項5に記載のバイポーラ型蓄電池のリサイクル方法。
【請求項8】
前記第一分別工程において前記集電体は除去され前記基板と前記接着剤が混在した混合物が得られた場合に、前記基板と前記接着剤の混合物を前記基板と前記接着剤とに分別する第二分別工程を、前記第一分別工程の後にさらに有し、
前記第二分別工程は、前記基板と前記接着剤を帯電させて静電分離法により前記基板と前記接着剤を分別する工程である請求項5~7のいずれか一項に記載のバイポーラ型蓄電池のリサイクル方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイポーラ型蓄電池のリサイクル方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉛蓄電池等の蓄電池では、使用後に金属材料を回収してリサイクルしていた。例えば、鉛蓄電池の場合であれば、鉛からなる集電体を正極及び負極から回収していた。一般的な鉛蓄電池であれば、正極及び負極は主に集電体と活物質で構成されているので、鉛蓄電池の外装材と正極及び負極との接合部分を機械的に破壊して正極及び負極を分離すれば、集電体を容易に回収することができた。
【0003】
しかしながら、バイポーラ型鉛蓄電池の場合には、樹脂等からなる基板の両面に鉛箔からなる集電体が強固に接合されてバイポーラ電極が構成されているので、基板と集電体を分離してバイポーラ電極から集電体を回収することは容易ではなかった。そのため、バイポーラ型鉛蓄電池の場合には、前述の一般的な鉛蓄電池のように容易な方法で集電体を回収することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、バイポーラ型蓄電池のバイポーラ電極から金属材料を容易に回収することができるリサイクル方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係るバイポーラ型蓄電池のリサイクル方法は、基板の一方の面に正極が形成され他方の面に負極が形成されてなるバイポーラ電極を備え、正極は、金属材料からなり且つ基板の一方の面に接着剤を介して接着された集電体と、集電体の上に配された正極用活物質と、を備え、負極は、金属材料からなり且つ基板の他方の面に接着剤を介して接着された集電体と、集電体の上に配された負極用活物質と、を備えるバイポーラ型蓄電池のリサイクル方法であって、バイポーラ型蓄電池を解体してバイポーラ電極を分離する解体工程と、解体工程で得たバイポーラ電極の全体を冷却して、正極及び負極の集電体と基板と接着剤とを分離する冷却工程と、を有し、冷却工程におけるバイポーラ電極の冷却温度は、正極及び負極において集電体と接着剤の接着及び基板と接着剤の接着が集電体と基板と接着剤の線膨張係数の差に起因してそれぞれ剥離する温度であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係るバイポーラ型蓄電池のリサイクル方法は、バイポーラ電極の全体を冷却して正極及び負極の集電体と基板と接着剤とを分離する冷却工程を有し、冷却工程におけるバイポーラ電極の冷却温度は、正極及び負極において集電体と接着剤の接着及び基板と接着剤の接着が集電体と基板と接着剤の線膨張係数の差に起因してそれぞれ剥離する温度であるので、バイポーラ型蓄電池のバイポーラ電極から金属材料を容易に回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】バイポーラ型鉛蓄電池の構造を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一実施形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の一例を示したものである。また、本実施形態には種々の変更又は改良を加えることが可能であり、その様な変更又は改良を加えた形態も本発明に含まれ得る。
【0010】
まず、本実施形態に係るバイポーラ型蓄電池のリサイクル方法が適用可能なバイポーラ型蓄電池の一例であるバイポーラ型鉛蓄電池1の構造を、
図1を参照しながら説明する。
図1に示すバイポーラ型鉛蓄電池1は、負極110を平板状の第一プレート11に固定した第一プレートユニットと、電解層105を枠板状の第二プレート12の内側に固定した第二プレートユニットと、基板111の一方の面に正極120が形成され他方の面に負極110が形成されてなるバイポーラ電極130を枠板状の第三プレート13の内側に固定した第三プレートユニットと、正極120を平板状の第四プレート14に固定した第四プレートユニットと、を有する。基板111は熱可塑性樹脂で形成されている。
【0011】
そして、第二プレートユニット及び第三プレートユニットが第一プレートユニットと第四プレートユニットの間で交互に積層されることによって、略直方体形状をなすバイポーラ型鉛蓄電池1が構成される。積層される第二プレートユニットと第三プレートユニットのそれぞれの個数は、バイポーラ型鉛蓄電池1の蓄電容量が所望の数値になるように設定されている。
【0012】
第一プレート11には負極端子107が固定されており、該第一プレート11に固定された負極110と負極端子107は電気的に接続されている。
第四プレート14には正極端子108が固定されており、該第四プレート14に固定された正極120と正極端子108は電気的に接続されている。
【0013】
電解層105は、例えば、硫酸を含有する電解液が含浸されたガラス繊維マットによって構成されている。
第一~第四プレート11、12、13、14は、例えば周知の成形樹脂によって形成されている。そして、第一~第四プレート11、12、13、14は、電解液の流出が無いように、適宜の方法で内部が密閉状態となるよう互いに固定されている。
【0014】
正極120は、鉛又は鉛合金からなり且つ基板111の前記一方の面に接着剤106を介して接着された集電体101と、集電体101の上に配された正極用活物質103と、を備えている。すなわち、基板111の前記一方の面の上に、接着剤106、集電体101、正極用活物質103が、この記載順に積層されている。なお、上記の鉛又は鉛合金が、本発明の構成要件である金属材料であり、本実施形態においては、鉛又は鉛合金からなる箔により集電体101が構成されている。
【0015】
負極110は、鉛又は鉛合金からなり且つ基板111の前記他方の面に接着剤106を介して接着された集電体102と、集電体102の上に配された負極用活物質104と、を備えている。すなわち、基板111の前記他方の面の上に、接着剤106、集電体102、負極用活物質104が、この記載順に積層されている。なお、上記の鉛又は鉛合金が、本発明の構成要件である金属材料であり、本実施形態においては、鉛又は鉛合金からなる箔により集電体102が構成されている。
これら正極120と負極110は、適宜の方法で電気的に接続されている。
【0016】
このような構成を有する第一実施形態のバイポーラ型鉛蓄電池1においては、前述したように、基板111、正極120の集電体101、正極用活物質103、負極110の集電体102、及び負極用活物質104によって、バイポーラ電極130が構成されている。バイポーラ電極とは、1枚の電極で正極、負極両方の機能を有する電極である。
そして、第一実施形態のバイポーラ型鉛蓄電池1は、正極120と負極110との間に電解層105を介在させてなるセル部材を交互に複数積層して組み付けることにより、セル部材同士を直列に接続した電池構成を有している。
【0017】
基板111を形成する熱可塑性樹脂としては、例えば、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリプロピレンが挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、成形性が優れているとともに耐硫酸性も優れている。よって、基板111に電解液が接触したとしても、基板111に分解、劣化、腐食等が生じにくい。なお、基板111は、熱可塑性樹脂に限らず、熱硬化性樹脂で形成されていてもよい。また、基板111は、セラミックス等の樹脂以外の素材で形成されていてもよい。
【0018】
また、接着剤106としては一般的なものを問題なく用いることができるが、例えば、反応硬化型接着剤を硬化させてなる硬化物を用いることができる。この反応硬化型接着剤の例としては、エポキシ樹脂を含有する主剤とアミン化合物を含有する硬化剤とを混合し、主剤と硬化剤を反応させて硬化させるタイプの接着剤が挙げられる。
【0019】
このような反応硬化型接着剤は、常温(例えば20℃以上40℃以下)で硬化させることが可能であるため、正極120の集電体101及び負極110の集電体102を形成する鉛又は鉛合金の金属組織に影響を与え難い温度で硬化させることができる。さらに、上記反応硬化型接着剤は、基板111を形成する熱可塑性樹脂に対して悪影響を与えにくい。さらに、上記反応硬化型接着剤は、接着性が高い、可使時間が長い等の長所を有している。
【0020】
主剤に含有されるエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂及びビスフェノールF型エポキシ樹脂の少なくとも一方が挙げられる。エポキシ樹脂は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
硬化剤に含有されるアミン化合物としては、例えば、脂肪族ポリアミン化合物、脂環族ポリアミン化合物、芳香族ポリアミン化合物が挙げられる。これらのアミン化合物は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0021】
脂肪族ポリアミン化合物の具体例としては、トリエチレンテトラミン(C6H18N4)等の脂肪族第一級アミン、トリエチレンテトラミン等の脂肪族第二級アミンが挙げられる。脂環族ポリアミン化合物の具体例としては、イソホロンジアミン(C10H22N2)等の脂環族第一級アミンが挙げられる。芳香族ポリアミン化合物の具体例としては、ジアミノジフェニルメタン(C13H14N2)等の芳香族第一級アミンが挙げられる。
【0022】
さらに、本実施形態においては、バイポーラ型蓄電池の例としてバイポーラ型鉛蓄電池を例示したが、バイポーラ型鉛蓄電池以外では、バイポーラ型リチウムイオン蓄電池等に本発明を適用可能である。バイポーラ型リチウムイオン蓄電池の場合には、集電体を形成する金属材料は例えば銅である。
【0023】
次に、本実施形態に係るバイポーラ型蓄電池のリサイクル方法により、上記のようなバイポーラ型鉛蓄電池をリサイクルする方法について説明する。
まず、バイポーラ型鉛蓄電池1を解体して、バイポーラ電極130を分離する(解体工程)。そして、解体工程で得たバイポーラ電極130の全体を冷却して、正極120及び負極110の集電体101、102と基板111と接着剤106とを分離する(冷却工程)。
【0024】
この冷却工程におけるバイポーラ電極130の冷却温度は、正極120及び負極110において集電体101、102と接着剤106の接着及び基板111と接着剤106の接着が集電体101、102と基板111と接着剤106の線膨張係数の差に起因してそれぞれ剥離する温度である。
【0025】
すなわち、バイポーラ電極130の全体を冷却すれば、集電体101、102と基板111と接着剤106が、これらを形成する材料の線膨張係数に応じて収縮する。よって、集電体101、102と基板111と接着剤106の冷却による収縮量が、集電体101、102と接着剤106の接着及び基板111と接着剤106の接着がそれぞれ剥離するような収縮量となる温度に冷却すれば、集電体101、102と基板111と接着剤106とをバラバラに分離することができる。
【0026】
冷却工程における冷却方法の例としては、冷蔵庫、冷凍庫等の冷却装置内にバイポーラ電極130を収容して冷却する方法や、バイポーラ電極130に冷却剤を接触させて冷却する方法が挙げられる。
冷却剤は、気体状であってもよいし、液体状であってもよいし、固体状であってもよい。気体状の冷却剤としては、低温のガスが挙げられる。例えば、低温の空気、窒素ガス、酸素ガス、水素ガス、一酸化炭素、二酸化炭素、ヘリウム、アルゴン、アンモニア、メタン、エタンが挙げられる。気体状の冷却剤を用いた冷却方法としては、気体状の冷却剤中にバイポーラ電極130を静置する方法、気体状の冷却剤をバイポーラ電極130に吹き付ける方法等が挙げられる。
【0027】
液体状の冷却剤としては、低温の液体が挙げられる。例えば、液体空気、液体窒素、液体酸素、液体水素、液体一酸化炭素、液体ヘリウム、液体アルゴン、液体アンモニア、液体メタン、液体エタンが挙げられる。液体状の冷却剤を用いた冷却方法としては、液体状の冷却剤中にバイポーラ電極130を浸漬する方法、液体状の冷却剤をバイポーラ電極130に吹き付ける方法等が挙げられる。
【0028】
固体状の冷却剤としては、低温の塊状物が挙げられる。例えば、低温の金属、セラミックス、ドライアイスが挙げられる。固体状の冷却剤を用いた冷却方法としては、低温の塊状物でバイポーラ電極130の表面の一部又は全部を覆い静置する方法、粒状又は粉状の冷却剤でバイポーラ電極130の表面の一部又は全部を覆い静置する方法、粒状又は粉状の冷却剤をバイポーラ電極130に吹き付ける方法等が挙げられる。
【0029】
このように、バイポーラ型鉛蓄電池1を解体してバイポーラ電極130を冷却すれば、集電体101、102を分離して回収することができるので、本実施形態に係るバイポーラ型蓄電池のリサイクル方法は、バイポーラ型鉛蓄電池1のバイポーラ電極130から金属材料(鉛又は鉛合金)を容易に回収することができる。回収した金属材料は、バイポーラ型鉛蓄電池の製造に再利用してもよいし、他の用途に利用してもよい。
【0030】
また、本実施形態に係るバイポーラ型蓄電池のリサイクル方法によれば、導電性を補助するための金属製の導電補助部材や活物質を付着しやすくするための金属製の導電補助部材が集電体101、102に設けられている場合には、この金属製の導電補助部材も回収することができる。回収した金属製の導電補助部材は、集電体101、102の場合と同様に、バイポーラ型鉛蓄電池の製造に再利用してもよいし、他の用途に利用してもよい。
【0031】
さらに、本実施形態に係るバイポーラ型蓄電池のリサイクル方法によれば、バイポーラ型鉛蓄電池1のバイポーラ電極130から基板111と接着剤106を容易に回収することができる。回収した基板111は、基板111が熱可塑性樹脂で形成されている場合には、融解して再利用することが容易であるので、バイポーラ型鉛蓄電池の製造に再利用してもよいし、他の用途に利用してもよい。
【0032】
さらに、本実施形態に係るバイポーラ型蓄電池のリサイクル方法によれば、バイポーラ型鉛蓄電池1のバイポーラ電極130から正極用活物質103、負極用活物質104を容易に回収することも可能である。バイポーラ型鉛蓄電池1の場合であれば、負極用活物質104である鉛は負極110の集電体102に接合されているので、集電体102とともに回収される。一方、正極用活物質103である酸化鉛は、正極120の集電体101に付着しているので、バイポーラ電極130の冷却等の作業時に正極120の集電体101から剥落する可能性が高い。よって、正極用活物質103である酸化鉛は、冷却工程終了後に、別途回収するとよい。
【0033】
さらに、本実施形態に係るバイポーラ型蓄電池のリサイクル方法は、使用後のバイポーラ型鉛蓄電池1から上記のようにして金属材料等を回収することができるが、未使用のバイポーラ型鉛蓄電池1に対しても適用可能であり、使用後のバイポーラ型鉛蓄電池1の場合と同様に、金属材料等を回収することができる。
【0034】
次に、冷却工程の後の処理について説明する。冷却工程によって、剥離した集電体101、102と基板111と接着剤106の混合物が得られる。そこで、集電体101、102と基板111と接着剤106の混合物から集電体101、102を分別する第一分別工程を冷却工程の後に実施してもよい。第一分別工程においては、集電体101、102と基板111と接着剤106の混合物から集電体101、102のみを分別し、基板111と接着剤106は混合したままとしてもよいし、該混合物を集電体101、102と基板111と接着剤106の3種に分別してもよい。
【0035】
第一分別工程における分別の方法の例としては、分別作業者の手作業による分別方法、マニピュレータ等の分別装置を操作者が操作することによって行う分別方法、集電体101、102と基板111と接着剤106を識別センサが自動的に識別した結果に基づいてマニピュレータ等の分別装置が自動的に行う分別方法等が挙げられる。識別センサが識別する際に用いる識別方法の例としては、蛍光X線分析等の分光分析方法を用いた識別方法や、画像認証による識別方法が挙げられる。
【0036】
さらに、第一分別工程における分別の方法の別の例として、比重の差を利用する乾式の分別方法や、比重の差を利用する湿式の分別方法が挙げられる。まず、乾式の分別方法について詳細に説明する。
乾式の分別方法の第一のステップとして、集電体101、102と基板111と接着剤106の混合物の破砕を行う。このステップにより、集電体101、102と基板111と接着剤106が、いずれも細かく破砕される。
【0037】
次に、乾式の分別方法の第二のステップとして、第一のステップで得られた混合破砕物(すなわち、集電体101、102の破砕物と基板111の破砕物と接着剤106の破砕物の混合物)を、集電体101、102と基板111と接着剤106の比重の差を利用して分別する。具体的には、第一のステップで得られた混合破砕物に気流を吹き付けて飛ばし、集電体101、102と基板111と接着剤106の比重の差に起因して生じる飛距離の違いによって、混合破砕物から集電体101、102の破砕物を分別する。
【0038】
集電体101、102は金属材料で形成されており比重が大きいので、集電体101、102の破砕物は、基板111の破砕物や接着剤106の破砕物に比べて飛距離が短い。基板111の破砕物や接着剤106の破砕物は比重が小さいので飛距離が長いが、基板111と接着剤106との比重の差が十分にあれば飛距離に差が生じるので、飛距離の違いによって基板111の破砕物と接着剤106の破砕物とを分別することが可能である。
【0039】
なお、第一分別工程においては、混合破砕物から集電体101、102の破砕物のみを分別し、基板111の破砕物と接着剤106の破砕物は混合したままとしてもよいし、混合破砕物を集電体101、102の破砕物と基板111の破砕物と接着剤106の破砕物の3種に分別してもよい。基板111の破砕物と接着剤106の破砕物を混合したままとした場合、又は、比重の差が小さいため上記乾式の分別方法では基板111の破砕物と接着剤106の破砕物が分別できなかった場合には、後述する第二分別工程を実施して、基板111の破砕物と接着剤106の破砕物を分別してもよい。
また、上記乾式の分別方法においては、第一のステップを行わずに(破砕を行わずに)、集電体101、102と基板111と接着剤106の混合物を第二のステップに供して、分別を行うことも可能である。
【0040】
次に、上記湿式の分別方法について詳細に説明する。湿式の分別方法においては、乾式の分別方法の場合と同様に、集電体101、102と基板111と接着剤106の混合物を、集電体101、102と基板111と接着剤106の比重の差を利用して分別する。集電体101、102と基板111と接着剤106の混合物をそのまま湿式の分別方法に供してもよいし、乾式の分別方法の場合と同様に、混合破砕物を湿式の分別方法に供してもよい。
【0041】
具体的には、集電体101、102と基板111と接着剤106の混合物を液体中に投入し、集電体101、102と基板111と接着剤106の比重の差に起因して生じる液体中における沈降深さの違いによって、集電体101、102と基板111と接着剤106の混合物から集電体101、102を分別する。
【0042】
集電体101、102は金属材料で形成されており比重が大きいので、集電体101、102は、基板111や接着剤106に比べて沈降深さが深い(沈む)。基板111や接着剤106は比重が小さいので沈降深さは浅いが、基板111と接着剤106との比重の差が十分にあれば沈降深さに差が生じるので、沈降深さの違いによって基板111と接着剤106とを分別することが可能である。
【0043】
上記湿式の分別方法において使用する液体は、集電体101、102の比重と基板111、接着剤106の比重との間の比重を有するものが好ましい。そうすれば、集電体101、102が液体の底部近傍に沈降し、基板111、接着剤106が液体の液面近傍に浮上することになるので、分別を行いやすい。上記湿式の分別方法において使用する液体の例としては、グリセリンが挙げられる。
【0044】
グリセリン等を用いた湿式の分別方法によって、集電体101、102は分別できたものの基板111と接着剤106が分別できず、基板111と接着剤106の混合物が残った場合には、濃度(比重)を適切に調整した塩水を用いた湿式の分別方法に基板111と接着剤106の混合物を供することにより、基板111と接着剤106を分別することができる。
【0045】
なお、湿式の分別方法の場合も、第一分別工程においては、集電体101、102と基板111と接着剤106の混合物から集電体101、102のみを分別し、基板111と接着剤106は混合したままとしてもよいし、集電体101、102と基板111と接着剤106の混合物を集電体101、102と基板111と接着剤106の3種に分別してもよい。基板111と接着剤106を混合したままとした場合、又は、比重の差が小さいため上記湿式の分別方法では基板111と接着剤106が分別できなかった場合には、後述する第二分別工程を実施して、基板111と接着剤106を分別してもよい。
【0046】
次に、前述した第二分別工程について説明する。第一分別工程によって集電体101、102と基板111と接着剤106の混合物から集電体101、102のみが除去され、基板111と接着剤106は分別されず、基板111と接着剤106が混在した混合物が残った場合には、第一分別工程の後に第二分別工程を実施して、基板111と接着剤106の混合物を基板111と接着剤106とに分別してもよい。
【0047】
第二分別工程には静電分離法を用いることが好ましい。静電分離法を用いれば、基板111と接着剤106の比重の差が小さくても分別を行うことができる。具体的には、基板111と接着剤106の混合物を帯電筒等の帯電装置に投入し、帯電させる。そして、帯電した基板111と接着剤106の混合物を、電圧が印加された電極を備える静電選別装置に投入する。すると、帯電した基板111と接着剤106の混合物が、電圧が印加された電極間に位置した際に、混合物のうちプラスに帯電した方はマイナス極に引き寄せられ、マイナスに帯電した方はプラス極に引き寄せられるので、基板111と接着剤106を別々に分別することができる。
【0048】
例えば、基板111がABS樹脂で形成され、接着剤106がエポキシ系の接着剤であった場合には、ABS樹脂の比重が1.05で、エポキシ系の接着剤の比重が1.1~1.2であるため、比重の差による分別が難しい場合がある。その場合は、第一分別工程を実施した後に、静電分離法を用いた第二分別工程を実施すれば、ABS樹脂はプラスに帯電し、エポキシ系の接着剤はマイナスに帯電するので、分別することが可能である。
【0049】
〔実施例〕
使用済みのバイポーラ型鉛蓄電池を解体して、バイポーラ電極を得た。このバイポーラ電極は長さが300mmであり、基板はABS樹脂で形成されており、正極及び負極の集電体はいずれも鉛箔で構成されている。そして、基板と正極及び負極の集電体とは、いずれも接着剤で接着されている。
【0050】
この接着剤は、ナガセケムテックス株式会社製のエポキシ系接着剤であり、主剤であるXNR3114と硬化剤であるXNH3114とを混合して用いる二液タイプの接着剤である。
ABS樹脂の線膨張係数は112ppm/Kであり、鉛の線膨張係数は31ppm/Kであり、上記のエポキシ系接着剤の硬化物の線膨張係数は71ppm/Kである。
【0051】
このバイポーラ電極を、冷却槽に収容された液体窒素中に投入し、液体窒素に浸漬した。すると、基板と集電体と接着剤はいずれも冷却により収縮するが、線膨張係数の差に応じて収縮量がそれぞれ異なるので、正極及び負極の集電体と接着剤の接着、及び、基板と接着剤の接着がそれぞれ剥離して、正極及び負極の集電体と基板と接着剤とがバラバラに分離した。
【0052】
液体窒素の温度は-196℃であるので、25℃のバイポーラ電極を液体窒素に浸漬したとすると、低下する温度は221Kである。よって、バイポーラ電極の長さが300mmであるので、計算上は、集電体の収縮量は2.1mm、基板の収縮量は7.4mm、接着剤の収縮量は4.7mmとなる。収縮量の差が上記の程度であれば、正極及び負極の集電体と基板と接着剤とがバラバラに分離する。
【符号の説明】
【0053】
1・・・バイポーラ型鉛蓄電池
101・・・集電体
102・・・集電体
103・・・正極用活物質
104・・・負極用活物質
105・・・電解層
106・・・接着剤
107・・・負極端子
108・・・正極端子
110・・・負極
111・・・基板
120・・・正極
130・・・バイポーラ電極