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特許7585093光ファイバ母材の製造方法及び光ファイバ母材の製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】光ファイバ母材の製造方法及び光ファイバ母材の製造装置
(51)【国際特許分類】
   C03B 37/014 20060101AFI20241111BHJP
【FI】
C03B37/014 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021034754
(22)【出願日】2021-03-04
(65)【公開番号】P2022135140
(43)【公開日】2022-09-15
【審査請求日】2023-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100114915
【弁理士】
【氏名又は名称】三村 治彦
(74)【代理人】
【識別番号】100125139
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 洋
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 恒夫
(72)【発明者】
【氏名】三宅 裕志
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-008452(JP,A)
【文献】特開2010-090017(JP,A)
【文献】特開2016-204186(JP,A)
【文献】特開平11-223511(JP,A)
【文献】特開平09-067130(JP,A)
【文献】特開2006-284531(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 1/00-5/44
8/00-8/04
19/12-20/00
37/00-37/16
G02B 6/02-6/10
6/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サポート部材が鉛直方向の下端部に露出されている光ファイバ母材を、加熱炉の内部に配置するステップと、
ヒータによって前記光ファイバ母材を加熱する前に、撮影装置によって前記サポート部材の第1画像を取得するステップと、
前記ヒータによって前記光ファイバ母材を加熱した後に、前記撮影装置によって前記サポート部材の第2画像を取得するステップと、
前記第1画像と前記第2画像とに基づいて、前記光ファイバ母材の長さの変化量を算出するステップと、
を備え
前記変化量を算出するステップは、
前記第1画像内における前記サポート部材の第1直径を算出し、前記第1直径と、前記撮影装置の中心軸と前記サポート部材の外縁部分とのなす角度とに基づいて、前記撮影装置と前記サポート部材との間の第1距離を幾何学的に算出するステップと、
前記第2画像内における前記サポート部材の第2直径を算出し、前記第2直径と、前記撮影装置の中心軸と前記サポート部材の外縁部分とのなす角度とに基づいて、前記撮影装置と前記サポート部材との間の第2距離を幾何学的に算出するステップと、
前記第1距離と既知である前記サポート部材の長さとに基づいて、加熱前における前記光ファイバ母材の第1母材長を算出するステップと、
前記第2距離と既知である前記サポート部材の長さとに基づいて、加熱後における前記光ファイバ母材の第2母材長を算出するステップと、
前記第1母材長と前記第2母材長との差分値を前記変化量として算出するステップと、
を含み、
前記第1画像および前記第2画像は、前記加熱炉の底部において前記光ファイバ母材の鉛直下方に設置された透明部材を通して取得される、
ことを特徴とする光ファイバ母材の製造方法。
【請求項2】
前記変化量を算出するステップは、
前記第1画像と前記第2画像との差分値を算出するステップと、
前記差分値に基づいて前記変化量を算出するステップと、
を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ母材の製造方法。
【請求項3】
前記変化量に基づいて前記加熱炉における加熱処理を制御するステップ、
を更に備えることを特徴とする請求項1または2に記載の光ファイバ母材の製造方法。
【請求項4】
前記加熱処理を制御するステップでは、前記変化量が所定の値に達した場合に加熱温度及び加熱時間を含む加熱条件を変更する、
ことを特徴とする請求項に記載の光ファイバ母材の製造方法。
【請求項5】
前記加熱処理を制御するステップでは、加熱される前の前記光ファイバ母材の長さと前記変化量とに基づいて算出した前記光ファイバ母材の伸び率が5%未満となるように前記ヒータを制御する、
ことを特徴とする請求項3または4に記載の光ファイバ母材の製造方法。
【請求項6】
前記光ファイバ母材は、前記加熱炉において前記ヒータよりも内側に設置されたマッフル管の内部空間において加熱される、
ことを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の光ファイバ母材の製造方法。
【請求項7】
光ファイバ母材が搬入される加熱炉と、
前記加熱炉において前記光ファイバ母材を加熱するヒータと、
鉛直方向において前記光ファイバ母材の下端部に露出されているサポート部材を撮影する撮影装置と、
前記ヒータが前記光ファイバ母材を加熱する前に撮影された前記サポート部材の第1画像と、前記光ファイバ母材を加熱した後に撮影された前記サポート部材の第2画像とに基づいて、前記光ファイバ母材の長さの変化量を算出する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、
前記第1画像内における前記サポート部材の第1直径を算出し、前記第1直径と、前記撮影装置の中心軸と前記サポート部材の外縁部分とのなす角度とに基づいて幾何学的に前記撮影装置と前記サポート部材との間の第1距離を算出し、
前記第2画像内における前記サポート部材の第2直径を算出し、前記第2直径と、前記撮影装置の中心軸と前記サポート部材の外縁部分とのなす角度とに基づいて前記撮影装置と前記サポート部材との間の第2距離を幾何学的に算出し、
前記第1距離と既知である前記サポート部材の長さとに基づいて、加熱前における前記光ファイバ母材の第1母材長を算出し、
前記第2距離と既知である前記サポート部材の長さとに基づいて、加熱後における前記光ファイバ母材の第2母材長を算出し、
前記第1母材長と前記第2母材長との差分値を前記変化量として算出し、
前記制御装置は、前記加熱炉の底部に設置された透明部材を更に備え、
前記撮影装置は、前記透明部材を通して前記サポート部材を撮影することを特徴とする光ファイバ母材の製造装置。
【請求項8】
前記制御装置は、前記変化量に基づいて前記ヒータを制御する、
ことを特徴とする請求項7に記載の光ファイバ母材の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ母材の製造方法及び光ファイバ母材の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、加熱炉に設置されているマッフル管の所定領域における温度を放射温度計により測定することで、マッフル管の内部空間における光ファイバ母材の存在の有無を検知する光ファイバ母材の製造装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-90017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されているような従来の装置は、加熱炉内における光ファイバ母材の状態を間接的に把握しているに過ぎない。このため、加熱炉内における光ファイバ母材の長さの変化量を加熱中に正確に把握することは困難であった。
【0005】
そこで、本発明は、上述の問題に鑑み、加熱炉内における光ファイバ母材の長さの変化量を正確に把握できる光ファイバ母材の製造方法及び光ファイバ母材の製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一観点によれば、サポート部材が鉛直方向の下端部に露出されている光ファイバ母材を、加熱炉の内部に配置するステップと、ヒータによって前記光ファイバ母材を加熱する前に、撮影装置によって前記サポート部材の第1画像を取得するステップと、前記ヒータによって前記光ファイバ母材を加熱した後に、前記撮影装置によって前記サポート部材の第2画像を取得するステップと、前記第1画像と前記第2画像とに基づいて、前記光ファイバ母材の長さの変化量を算出するステップと、を備え、前記変化量を算出するステップは、前記第1画像内における前記サポート部材の第1直径を算出し、前記第1直径と、前記撮影装置の中心軸と前記サポート部材の外縁部分とのなす角度とに基づいて、前記撮影装置と前記サポート部材との間の第1距離を幾何学的に算出するステップと、前記第2画像内における前記サポート部材の第2直径を算出し、前記第2直径と、前記撮影装置の中心軸と前記サポート部材の外縁部分とのなす角度とに基づいて、前記撮影装置と前記サポート部材との間の第2距離を幾何学的に算出するステップと、前記第1距離と既知である前記サポート部材の長さとに基づいて、加熱前における前記光ファイバ母材の第1母材長を算出するステップと、前記第2距離と既知である前記サポート部材の長さとに基づいて、加熱後における前記光ファイバ母材の第2母材長を算出するステップと、前記第1母材長と前記第2母材長との差分値を前記変化量として算出するステップと、を含み、前記第1画像および前記第2画像は、前記加熱炉の底部において前記光ファイバ母材の鉛直下方に設置された透明部材を通して取得される、ことを特徴とする光ファイバ母材の製造方法が提供される。
【0007】
本発明の他の観点によれば、光ファイバ母材が搬入される加熱炉と、前記加熱炉において前記光ファイバ母材を加熱するヒータと、鉛直方向において前記光ファイバ母材の下端部に露出されているサポート部材を撮影する撮影装置と、前記ヒータが前記光ファイバ母材を加熱する前に撮影された前記サポート部材の第1画像と、前記光ファイバ母材を加熱した後に撮影された前記サポート部材の第2画像とに基づいて、前記光ファイバ母材の長さの変化量を算出する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記第1画像内における前記サポート部材の第1直径を算出し、前記第1直径と、前記撮影装置の中心軸と前記サポート部材の外縁部分とのなす角度とに基づいて幾何学的に前記撮影装置と前記サポート部材との間の第1距離を算出し、前記第2画像内における前記サポート部材の第2直径を算出し、前記第2直径と、前記撮影装置の中心軸と前記サポート部材の外縁部分とのなす角度とに基づいて前記撮影装置と前記サポート部材との間の第2距離を幾何学的に算出し、前記第1距離と既知である前記サポート部材の長さとに基づいて、加熱前における前記光ファイバ母材の第1母材長を算出し、前記第2距離と既知である前記サポート部材の長さとに基づいて、加熱後における前記光ファイバ母材の第2母材長を算出し、前記第1母材長と前記第2母材長との差分値を前記変化量として算出し、前記制御装置は、前記加熱炉の底部に設置された透明部材を更に備え、前記撮影装置は、前記透明部材を通して前記サポート部材を撮影することを特徴とする光ファイバ母材の製造装置が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、加熱炉内における光ファイバ母材の長さの変化量を加熱中に正確に把握できる光ファイバ母材の製造方法及び製造装置を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一実施形態に係る製造装置の全体構成を示す概略断面図である。
図2】一実施形態に係る製造装置の制御系の概略構成を示すブロック図である。
図3】一実施形態に係る製造装置における制御処理の一例を示すフローチャートである。
図4】一実施形態に係る製造装置におけるサポート部材とカメラとの位置関係を説明する図である。
図5】一実施形態に係る製造装置において光ファイバ母材を加熱する前にサポート部材を撮影した画像を示す図である。
図6】一実施形態に係る製造装置において光ファイバ母材を加熱した後にサポート部材を撮影した画像を示す図である。
図7】一実施形態に係る製造装置が撮影した画像内におけるサポート部材の直径と光ファイバ母材の先端までの距離との対応関係を示す図である。
図8】本発明との比較例における光ファイバ母材の製造工程の条件図である。
図9】本発明との比較例における光ファイバ母材の焼結開始からの経過時間と母材長の変化率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下で説明する図面で、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【0011】
図1は、一実施形態に係る製造装置100の全体構成を示す概略断面図である。図1に示すように、製造装置100は、加熱炉101と、ゲートバルブ102と、回転昇降機構103と、ターゲットロッド104と、マッフル管105と、ヒータ106と、透明部材107と、カメラ108と、ガス供給機構109と、ガス排出機構110と、サポート部材111とを備える。
【0012】
製造装置100において製造される光ファイバ母材(ガラススート母材)10は、出発基材としてのターゲットロッド104の外周に形成され、内側に形成された内側堆積スートと、この内側堆積スートの外側に形成された外側堆積スートからなる。内側堆積スートは、最終製品である光ファイバのコア部に相当する。一方、外側堆積スートは、光ファイバのクラッド部に相当する。
【0013】
ゲートバルブ102は、光ファイバ母材10の加熱炉101内への搬入時及び加熱炉101からの搬出時に開閉する開閉機構である。
【0014】
回転昇降機構103は、出発基材としてのターゲットロッド104に接続されている駆動機構である。回転昇降機構103は、後述の制御部200からの指示に従ってターゲットロッド104の長手方向を回転軸として回転方向Rにターゲットロッド104を回転させる。また、回転昇降機構103は、制御部200からの指示に従ってターゲットロッド104を鉛直方向において昇降する。
【0015】
マッフル管105は、光ファイバ母材10を収納可能な大きさの内部空間を有し、この内部空間(加熱空間)において光ファイバ母材10を均等に加熱するための部材である。マッフル管105は、例えば石英ガラスにより形成される。本実施形態のマッフル管105の下端側には、加熱炉101の外部から光ファイバ母材10のサポート部材111を撮影できるように開口部が形成されている。
【0016】
ヒータ106は、マッフル管105の外周方向において、マッフル管105を取り囲むように設置されている。ヒータ106は、例えばグラファイト等のカーボン材料から形成されている。
【0017】
透明部材107は、加熱炉101の底部において、光ファイバ母材10の鉛直下方向に設置されている。透明部材107は、例えば石英ガラスにより形成されている。
【0018】
カメラ108は、透明部材107を通して加熱炉101の内部を撮影する撮影装置である。カメラ108としては、例えばCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサ、CCD(Charge Coupled Device)イメージセンサ等を用いたデジタルカメラが用いられる。本実施形態では、カメラ108は、撮影範囲内(画角内)に光ファイバ母材10のサポート部材111の底面が含まれるように、加熱炉101の外側の所定位置に設置されている。図1では、光ファイバ母材10の中心軸と、カメラ108の中心軸は、鉛直方向において同一直線上に位置している。
【0019】
ガス供給機構109は、加熱炉101の給気口101aに接続されている。ガス供給機構109は、後述する制御部200からの指示に従い独立に流量制御されたガスを加熱炉101の内部に供給する。
【0020】
ガス排出機構110は、加熱炉101の排気口101bに接続されている。ガス排出機構110は、加熱炉101内の排気を行う。
【0021】
サポート部材111は、鉛直方向において光ファイバ母材10の下端部に露出されており、光ファイバ母材10の下端部を支持する部材である。サポート部材111は、例えば石英ガラスにより形成されている。本実施形態のサポート部材111は、ターゲットロッド103の一部である。なお、サポート部材111は、ターゲットロッド103と連結され、ターゲットロッド103と一体化した別の部材である場合もあり得る。
【0022】
本実施形態において、加熱前における光ファイバ母材10の長さL、サポート部材111の長さLs及びサポート部材111の底面の直径は予め測定され、後述する制御系に予め記録されているものとする。また、加熱前における光ファイバ母材10の最下端部とカメラ108との間の距離d’は、予め定義してもよいし、光ファイバ母材10の搬入後に計算してもよい。
【0023】
図2は、本実施形態に係る製造装置100の制御系の概略構成を示すブロック図である。制御部200は、種々の演算、制御、判別等の処理動作を実行するCPU(Central Processing Unit)201と、CPU201によって実行される様々な制御プログラム等を格納するROM(Read Only Memory)202とを有する制御装置である。
【0024】
また、制御部200は、CPU201の処理動作中のデータや入力データ等を一時的に格納するRAM(Random Access Memory)203と、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)等の不揮発性メモリ204とを更に有する。
【0025】
また、制御部200には、所定の指令あるいはデータ等を入力するキーボードあるいは各種スイッチ等を含む入力操作部205と、製造装置100の入力・設定状態等の種々の情報を表示する表示部206(例えば、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ)とが接続されている。
【0026】
制御部200には、回転昇降機構103、ヒータ106、カメラ108、ガス供給機構109及びガス排出機構110がそれぞれ駆動回路207a~207eを介して接続されている。
【0027】
以下、上述のように構成された製造装置100の動作について図面を参照しながら説明する。
【0028】
図3は、本実施形態に係る製造装置100における制御処理の一例を示すフローチャートである。この処理は、例えば焼結工程及び透明化工程において実行される。なお、図3に示す処理はあくまで一例であり、処理条件や処理順序は任意に変更可能である。
【0029】
先ず、制御部200は、回転昇降機構103を制御し、加熱炉101内に光ファイバ母材10を搬入すると(ステップS101)、加熱炉101内の所定の位置に光ファイバ母材10を配置する(ステップS102)。
【0030】
例えば、制御部200は、回転昇降機構103によって加熱炉101のゲートバルブ102の開口部(不図示)から光ファイバ母材10を搬入し、加熱炉101内を下降させていくと、先端検出センサ(不図示)によって光ファイバ母材10の先端位置を検出する。そして、制御部200は、回転昇降機構103によって光ファイバ母材10を所定位置で停止させる。
【0031】
次に、制御部200は、カメラ108を制御し、透明部材107を通して光ファイバ母材10及びサポート部材111を加熱炉101の底面側から撮影する(ステップS103)。図1においては、サポート部材111の底面部分は、サポート部材111の真下に配置されたカメラ108により撮影される。
【0032】
次に、制御部200は、ステップS103で撮影された加熱前の撮影画像に基づいて、画像内におけるサポート部材111の直径を算出する(ステップS104)。以下、ステップS104で得られた値を「第1直径」と呼ぶ。
【0033】
図4は、本実施形態に係る製造装置100におけるサポート部材111とカメラ108との位置関係を説明する図である。例えば、サポート部材111の先端部(下端部)の実際の直径がDであり、カメラ108の中心軸とサポート部材111の外縁部分とのなす角度がθである場合には、カメラ108とサポート部材111の下端部との間の距離dは、直径D及び角度θに基づいて幾何学的に算出できる。なお、角度θの値は、例えばカメラ108の最大画角の情報、及び撮影画像におけるサポート部材111の大きさ及び位置の情報により算出できる。また、直径D、距離dが既知である場合には、角度θの値は直径D及び距離dより算出できる。
【0034】
図5は、本実施形態に係る製造装置100において光ファイバ母材10を加熱する前にサポート部材111を撮影した画像を示す図である。製造装置100は、例えば撮影画像IMG-01に対して画像処理を施してサポート部材111の先端の境界を強調すると、撮影画像IMG-01内におけるサポート部材111の直径D1を算出する。
【0035】
次に、制御部200は、予め測定されたサポート部材111の実際の直径に基づいて、第1直径の算出値を光ファイバ母材10の先端(下端)とカメラ108の間の距離に換算する(ステップS105)。以下、ステップS105で得られた値を「第1距離」と呼ぶ。
【0036】
次に、制御部200は、換算された第1距離の情報と既知であるサポート部材111の長さ情報とに基づいて、加熱前における光ファイバ母材10の母材長を算出する(ステップS106)。以下、ステップS106で得られた値を「第1母材長」と呼ぶ。
【0037】
次に、制御部200は、ヒータ106を制御し、加熱炉101の内部における光ファイバ母材10の加熱処理を開始する(ステップS107)。
【0038】
次に、制御部200は、カメラ108を制御し、透明部材107を通して光ファイバ母材10及びサポート部材111を底面側から撮影する(ステップS108)。
【0039】
次に、制御部200は、ステップS107で撮影された加熱後の撮影画像に基づいて、画像内におけるサポート部材111の直径を算出する(ステップS109)。以下、ステップS109で得られた値を「第2直径」と呼ぶ。
【0040】
図6は、本実施形態に係る製造装置100において光ファイバ母材10を加熱した後にサポート部材111を撮影した画像を示す図である。製造装置100は、図5の場合と同様に、撮影画像IMG-02に対して画像処理を施してサポート部材111の先端の境界を強調し、撮影画像IMG-02内におけるサポート部材111の直径D2を算出している。破線部Aは、図5に示した撮影画像内におけるサポート部材111の直径を示している。加熱によって光ファイバ母材10が鉛直下方向に伸びると、カメラ108からサポート部材111までの距離は短くなる。このため、撮影画像IMG-02内におけるサポート部材111の直径D2は、加熱前に算出された直径(破線部A)よりも大きくなる。
【0041】
次に、制御部200は、第2直径を光ファイバ母材10の先端(下端)とカメラ108の間の距離に換算する(ステップS110)。以下、ステップS110で得られた値を「第2距離」と呼ぶ。
【0042】
図7は、本実施形態に係る製造装置100が撮影した画像内におけるサポート部材111の直径と光ファイバ母材10の先端までの距離との対応関係を示す図である。図7に示されるように、光ファイバ母材10が鉛直下方向に伸びた場合には、カメラ108から光ファイバ母材10の先端までの距離が短くなるため、画像内におけるサポート部材111の直径は大きくなる。逆に、光ファイバ母材10が収縮した場合には、カメラ108から光ファイバ母材10の先端までの距離が長くなるため、画像内におけるサポート部材111の直径は小さくなる。
【0043】
次に、制御部200は、換算された第2距離の情報とサポート部材111の長さ情報とに基づいて、加熱後における光ファイバ母材10の母材長を算出する(ステップS111)。以下、ステップS111で得られた値を「第2母材長」と呼ぶ。
【0044】
次に、制御部200は、母材長の変化量、すなわち、第1母材長と第2母材長との差分値が所定の閾値に達したか否かを判定する(ステップS112)。
【0045】
ここで、制御部200は、母材長の変化量が所定の閾値に達したと判定した場合(ステップS112:YES)には、処理はステップS113へ移行する。
【0046】
これに対し、制御部200は、母材長の変化量が所定の閾値に達していないと判定した場合(ステップS112:NO)には、処理はステップS114へ移行する。
【0047】
ステップS113において、制御部200は、ヒータ106における加熱を制御する。具体的には、制御部200は、加熱温度や加熱タイミング等の加熱条件を変更する。その後、処理はステップS114へ移行する。
【0048】
ステップS114において、制御部200は、加熱開始時からの経過時間が加熱終了時間に達したか否かを判定する。ここで、制御部200が、経過時間が加熱終了時間に達したと判定した場合(ステップS114:YES)には、処理はステップS115へ移行する。
【0049】
これに対し、制御部200が、経過時間が加熱終了時間に達していないと判定した場合(ステップS114:NO)には、処理はステップS108へ戻る。
【0050】
ステップS115において、制御部200は、ヒータ106を制御し、光ファイバ母材10の加熱処理を終了する。そして、制御部200は、回転昇降機構103を制御し、加熱炉101から光ファイバ母材10を搬出し(ステップS116)、処理を終了する。
【0051】
以上のように、本実施形態に係る製造装置100は、加熱炉101の底部に光ファイバ母材10のサポート部材111の状態を観察するために透明部材107を設置して、透明部材107を通して、加熱炉101の底部から光ファイバ母材10を見上げるようにカメラ108を配置した。カメラ108が光ファイバ母材10の下端部において露出されているサポート部材111を撮影すると、制御部200は撮影画像内におけるサポート部材111の直径を算出する。そして、製造装置100は、算出した直径に基づいて、サポート部材111の最下部からカメラ108までの距離を幾何学的に計算することにより、焼結工程及び透明化工程の実行中に光ファイバ母材10の軸方向における長さを算出できる。
【0052】
この結果、焼結工程及び透明化工程において光ファイバ母材10が縮み過ぎる不具合や、光ファイバ母材10の伸び過ぎる不具合を防止でき、光ファイバ母材10を歩留まり良く製造できる効果を奏する。
【0053】
また、従来の製造装置では、焼結、透明化用の加熱炉101の状態変化、温度測定器の変化、光ファイバ母材10の密度及び大きさ等によって、必要な加熱時間は変化するために、焼結工程及び透明化工程においては加熱時間に基づくヒータ106の加熱制御が必要であった。
【0054】
これに対し、本実施形態に係る製造装置100によれば、高精度で算出した光ファイバ母材10の長さの情報に基づいて加熱炉101内における昇温スピードや加熱時間を制御できる。これにより、製造装置100は、高品質な光ファイバ母材10を製造できる。
【0055】
更に、本実施形態に係る製造装置100は、撮影画像内におけるサポート部材111の直径の算出値を、カメラ108からサポート部材111の下端部までの距離と、光ファイバ母材10の長さに換算できるので、加熱時間に基づくヒータ106の加熱制御は不要になる。
【0056】
[比較例]
図8は、本発明との比較例における光ファイバ母材10の製造工程の条件図である。ここでは、光ファイバ母材10を脱水炉(不図示)内に搬入し、1100℃~1300℃で不活性ガスと脱水剤ガス(この場合は窒素ガスと塩素ガス)を流しながら、8~10時間かけて、脱水工程を行っている。次に、光ファイバ母材10を加熱炉101で、炉内温度を1200℃~1450℃の温度とし、10時間程度の時間をかけて、焼結工程及び透明化工程を連続的に行っている。
【0057】
焼結工程では、光ファイバ母材(多孔質ガラス母材)の粒子同士が接合し、粒子間の隙間が小さくなると同時に、全体が縮小される現象が起きるため、光ファイバ母材は径方向及び軸方向において収縮する。一方、透明化工程では、光ファイバ母材が融点温度に近いため、光ファイバ母材は自重により軸方向に伸びる。
【0058】
焼結工程及び透明化工程では、上述のような現象が加熱炉の内部で起きている。このため、従来はヒータの加熱温度と加熱開始からの経過時間の2つを管理することによって光ファイバ母材の焼結及び透明化を行っていた。
【0059】
また、加熱炉の経時的な状態変化、光ファイバ母材の密度及び大きさ等によって、必要な加熱時間は変化する。このため、比較例では、加熱時間の変化に対する処置として、例えば、焼結工程や透明化工程を一旦終了して、光ファイバ母材を加熱炉から取り出し、常温まで冷却した後に、焼結度や透明度を目視等で確認した上で加熱時間を調節する必要があった。
【0060】
図9は、本発明との比較例における光ファイバ母材10の焼結開始からの経過時間と母材長の変化率との関係を示す図である。ここでは、光ファイバ母材10を脱水処理した後に焼結工程及び透明化工程時に母材の伸縮量を測定した結果を示している。前記の脱水条件に基づいて脱水工程を行った光ファイバ母材10を焼結、透明化用の加熱炉101に搬入してから、焼結工程を開始すると約5時間で母材が縮み始めている。また、約8時間が経過して光ファイバ母材10が縮んだところで、それ以後は光ファイバ母材10の伸びが始まり、約10時間後に開始直後と同等の母材長になっている。
【0061】
また、種々の条件として、加熱時間を変更して、焼結工程及び透明化工程を行った。例えば、焼結工程及び透明化工程における加熱時間を短くして8時間で終了させると、母材長は縮んだ状態になり、焼結度及び透明化がいずれも不十分な状態であった。
【0062】
逆に、焼結工程及び透明化工程における加熱時間を11時間まで伸ばした場合には、焼結度、透明度は充分な状態だったが、母材が伸びでしまい母材の径方向の均一性が悪くなった。このように、比較例では焼結、透明化工程を時間で管理していたが、高品質な光ファイバ母材10を製造することは困難であった。
【0063】
そこで、本発明を適用し、光ファイバ母材10の長手方向における長さを監視することにより、焼結、透明化工程を終了させた。この場合には、母材長の変化率(伸び率)は元の母材長の±5%以下に抑えられた。望ましくは、開始前の値とほぼ同じ長さになるところで焼結、透明化を終了させると好適である。これにより、焼結度及び透明化がいずれも十分であり、かつ、母材の径方向における均一性が良好な光ファイバ母材10が得られた。
【0064】
なお、上述した実施形態は、本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、又はその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【0065】
例えば、上述した実施形態においては、図3に示すように、加熱前の母材長と、加熱後の母材長を一連の処理の中で算出する構成を説明したが、撮影画像内におけるサポート部材111の直径と、カメラ108とサポート部材111の下端部までの距離との対応関係をデータベースに予め記録しておく構成としてもよい。この場合には、新たな撮影画像内におけるサポート部材111の直径をキーとしてデータベースを参照することにより、カメラ108とサポート部材111の下端部までの距離を取得できる。
【0066】
また、制御部200は、加熱処理の実行前における光ファイバ母材10の第1母材長に対する、加熱処理の実行後における光ファイバ母材10の第2母材長の伸び率が5%未満であるようにヒータ106を制御すると好適である。これにより、製造装置100は、焼結度及び透明化がいずれも十分であり、かつ、母材の径方向における均一性が良好な光ファイバ母材10を製造できる。
【0067】
また、上述した実施形態においては、加熱処理の実行前に撮影した第1画像におけるサポート部材111の直径の大きさ(第1サイズ)を第1距離及び第1母材長に換算し、加熱処理の実行後に撮影した第2画像におけるサポート部材111の直径の大きさ(第2サイズ)を第2距離及び第2母材長に換算することによって、加熱に伴う母材長の変化量を算出していた。しかしながら、変化量を算出する方法はこれに限られない。例えば、第1距離及び第2距離から第1母材長及び第2母材長への換算を行わずに、第1距離と第2距離との差分値に基づいて、加熱に伴う母材長の変化量を算出してもよい。この場合には、図3に例示した処理をより簡潔な処理に変更できる。
【0068】
同様に、第1サイズ及び第2サイズから第1距離及び第2距離への換算を行わずに、第1サイズと第2サイズとの差分値や、第1サイズに対する第2サイズの変化率に基づいて加熱に伴う母材長の変化量を算出してもよい。この場合には、図3に例示した処理をより簡潔な処理に変更できる。
【符号の説明】
【0069】
10・・・光ファイバ母材
100・・・製造装置
101・・・加熱炉
102・・・ゲートバルブ
103・・・回転昇降機構
104・・・ターゲットロッド
105・・・マッフル管
106・・・ヒータ
107・・・透明部材
108・・・カメラ
109・・・ガス供給機構
110・・・ガス排出機構
111・・・サポート部材
200・・・制御部
201・・・CPU
202・・・ROM
203・・・RAM
204・・・不揮発性メモリ
205・・・入力操作部
206・・・表示部
207a~207e・・・駆動回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9