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特許7585094導体の接合構造および導体の超音波接合方法
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  • 特許-導体の接合構造および導体の超音波接合方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】導体の接合構造および導体の超音波接合方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/10 20060101AFI20241111BHJP
   H01R 4/02 20060101ALI20241111BHJP
   H01R 43/02 20060101ALI20241111BHJP
【FI】
B23K20/10
H01R4/02 C
H01R43/02 B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021034790
(22)【出願日】2021-03-04
(65)【公開番号】P2022135164
(43)【公開日】2022-09-15
【審査請求日】2023-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】生沼 良樹
(72)【発明者】
【氏名】山田 拓郎
【審査官】山内 隆平
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-069298(JP,A)
【文献】特表2007-503313(JP,A)
【文献】特開2020-136204(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/10
H01R 4/02
H01R 43/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電線の導体同士が超音波接合された接合構造であって、
電線の軸方向に垂直な断面における前記導体の接合部の形状が略四辺形であり、
電線の軸方向から見た際に、超音波接合方向を前記接合部の厚み方向とし、これと直交する方向を前記接合部の幅方向とした際に、前記接合部の厚みが、幅方向の一方の側から他方の側に対して傾斜して変化することを特徴とする導体の接合構造。
【請求項2】
前記接合部の幅方向の対向面が略並行であることを特徴とする請求項1記載の接合構造。
【請求項3】
アルミニウムが主成分の導体からなる電線を少なくとも一本含むことを特徴とする請求項1または2に記載の導体の接合構造。
【請求項4】
アルミニウムが主成分の導体からなる電線が、他の材質が主成分の導体からなる電線よりも多いことを特徴とする請求項記載の導体の接合構造。
【請求項5】
前記接合部の前記幅方向の側面に対して、前記厚み方向の上面及び下面のいずれもが垂直ではないことを特徴とする請求項1から請求項のいずれかに記載の導体の接合構造。
【請求項6】
複数の電線の導体同士の超音波接合方法であって、
アンビルと、前記アンビルと対向配置されるホーンと、前記ホーンの一端に接続され、前記ホーンに振動を与える振動源と、を用い、
複数の電線を集合させた集合体を、前記アンビルと前記ホーンとで挟み込み、加圧しながら振動を与える際に、前記振動源から遠い側の前記アンビルと前記ホーンとの間隔が、前記振動源に近い側の前記アンビルと前記ホーンとの間隔よりも狭く、
前記振動源から遠い側の前記ホーンの高さが、前記振動源に近い側の前記ホーンの高さよりも低くなるように設定されることを特徴とする導体の超音波接合方法。
【請求項7】
複数の電線の導体同士の超音波接合方法であって、
アンビルと、前記アンビルと対向配置されるホーンと、前記アンビルと前記ホーンの両側に配置されるギャザーと、前記ホーンの一端に接続され、前記ホーンに振動を与える振動源と、を用い、
複数の電線を集合させた集合体を、前記アンビルと前記ホーンと一対の前記ギャザーとで前記電線を挟み込み、加圧しながら振動を与える際に、前記電線の軸方向から見て、前記振動源から遠い側の前記アンビルと前記ホーンとの間隔が、前記振動源に近い側の前記アンビルと前記ホーンとの間隔よりも狭いことを特徴とする導体の超音波接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の電線の導体同士が超音波接合された導体の接合構造及び導体の超音波接合方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等に用いられるワイヤハーネスは、複数本の電線が接合されて用いられる。このような電線同士の接合としては、例えば、複数の電線のそれぞれの絶縁被覆を皮剥ぎして芯線を露出し、各芯線の先端を揃えた状態にして重ね合わせ、この状態で、芯線を挟み込むようにして超音波接合等で芯線同士を接合する方法がある(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開公報2019/225492
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図6(a)は、一般的な超音波接合装置100を示す概略図である。超音波接合装置100は、主に、ホーン105、アンビル107、ギャザー109、振動源103等から構成される。アンビル107と対向して配置されるホーン105は、一端が振動源103に接続される。
【0005】
複数の導体111は、アンビル107とホーン105の間に配置される。また、複数の導体111の両側方には、ギャザー109が配置される。なお、導体111は、例えば、複数の素線が撚り合わせられて構成される。
【0006】
次に、図6(b)に示すように、アンビル107上に導体111が配置された状態で、ギャザー109で導体111の両側方を挟み込み、上方からホーン105を降下させて導体111を挟み込む。この状態で、ホーン105によって上方から導体111を押圧しながら(図中矢印X)、振動源103によって振動(超音波振動)を発生させ、ホーン105を介して導体111同士に超音波振動(図中矢印Y)を加えることで、導体111同士が接合され、接合部113が形成される。
【0007】
しかし、ホーン105によって導体111を押圧すると、ホーン105は、導体111から反力を受ける。ここで、ホーン105は、振動源103に対して片持ち梁状態となるため、この反力によって、ホーン105には振動源103から遠い側が上方に持ち上がるような反り(図中矢印Z)が発生する。なお、図では、説明が容易なように、ホーン105が大きく反り上がる図を示すが、実際には肉眼で分からない程度の場合もある。
【0008】
このような反りによれば、振動源103に近い側と遠い側とで、導体111への押圧力の伝達に差が生じる。例えば、振動源103に近い側では、ホーン5の反りの影響が小さく、また、設計通りの押圧力を導体111に伝達することができるが、振動源から遠い側では、導体111に十分な押圧力が伝達されない恐れがある。特に、超音波接合では、導体111同士が互いに押圧された状態で超音波振動を与えることで、超音波振動が導体同士の間で伝播し、両者が一体化するものであるため、押圧力が弱くなると超音波振動が伝播しにくくなり、途端に接合力が低下する。
【0009】
図7は、従来の方法で得られた接合部113を示す概念図である。前述したように、ホーン105の反り量は大きくはないため、一見すると、接合部113は略長方形に見えるが、振動源103から遠い側では、導体111が十分に接合されずに、素線こぼれが生じやすい。このため、製造時の歩留まりの悪化の要因となっている。
【0010】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、超音波接合によって効率良く導体同士を接合することが可能な導体の接合構造および導体の超音波接合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述した目的を達するために第1の発明は、複数の電線の導体同士が超音波接合された接合構造であって、電線の軸方向に垂直な断面における前記導体の接合部の形状が略四辺形であり、電線の軸方向から見た際に、超音波接合方向を前記接合部の厚み方向とし、これと直交する方向を前記接合部の幅方向とした際に、前記接合部の厚みが、幅方向の一方の側から他方の側に対して傾斜して変化することを特徴とする導体の接合構造である。
前記接合部の幅方向の対向面が略並行であることが望ましい。
【0012】
アルミニウムが主成分の導体からなる電線を少なくとも一本含むことが望ましい。
【0013】
アルミニウムが主成分の導体からなる電線が、他の材質が主成分の導体からなる電線よりも多いことがさらに望ましい。
【0014】
前記接合部の前記幅方向の側面に対して、前記厚み方向の上面及び下面のいずれもが垂直ではなくてもよい。
【0015】
第1の発明によれば、電線の軸方向に対して垂直な断面において、超音波接合された接合部が長方形ではなく、幅方向の一方の側から他方の側に対して傾斜して変化するため、厚みの薄い側では、より大きな押圧力を付与することができる。このため、少なくとも厚みの薄い側での素線こぼれを抑制することができる。
【0016】
また、特にアルミニウムが主成分の導体では、導体が容易に変形するため、本発明の効果が大きい。このため、アルミニウムが主成分の導体からなる電線が、他の材質が主成分の導体からなる電線よりも多いことで(例えば、全ての電線がアルミニウムを主成分とした導体で構成される場合)、より大きな効果を得ることができる。
【0017】
また、アンビル側とホーン側のいずれもが押圧方向に垂直ではなく、傾斜した面によって超音波接合がなされることで、上面と下面のいずれもが側面に対して略垂直にならないように形成される。このため、一方の厚みの薄い側において、より大きな押圧力を付与することができ、厚みの薄い側での素線こぼれを抑制することができる。
【0018】
第2の発明は、複数の電線の導体同士の超音波接合方法であって、アンビルと、前記アンビルと対向配置されるホーンと、前記ホーンの一端に接続され、前記ホーンに振動を与える振動源と、を用い、複数の電線を集合させた集合体を、前記アンビルと前記ホーンとで挟み込み、加圧しながら振動を与える際に、前記振動源から遠い側の前記アンビルと前記ホーンとの間隔が、前記振動源に近い側の前記アンビルと前記ホーンとの間隔よりも狭く、前記振動源から遠い側の前記ホーンの高さが、前記振動源に近い側の前記ホーンの高さよりも低くなるように設定されることを特徴とする導体の超音波接合方法である。
【0019】
第3の発明は、複数の電線の導体同士の超音波接合方法であって、アンビルと、前記アンビルと対向配置されるホーンと、前記アンビルと前記ホーンの両側に配置されるギャザーと、前記ホーンの一端に接続され、前記ホーンに振動を与える振動源と、を用い、複数の電線を集合させた集合体を、前記アンビルと前記ホーンと一対の前記ギャザーとで前記電線を挟み込み、加圧しながら振動を与える際に、前記電線の軸方向から見て、前記振動源から遠い側の前記アンビルと前記ホーンとの間隔が、前記振動源に近い側の前記アンビルと前記ホーンとの間隔よりも狭いことを特徴とする導体の超音波接合方法である。
【0021】
第2、3の発明によれば、振動源から遠い側のアンビルとホーンとの間隔が、振動源から近い側のアンビルとホーンとの間隔よりも狭いため、振動源から遠い側において、より確実に導体を押圧して超音波接合をすることができる。このため、素線こぼれ等の発生を抑制して、確実に導体同士を接合することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、超音波接合によって効率良く導体同士を接合することが可能な導体の接合構造および導体の超音波接合方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】接合構造10を示す図。
図2】(a)は、接合部13を示す図、(b)は、(a)のI部拡大図。
図3】(a)、(b)は、導体15の接合方法を示す図。
図4】(a)、(b)は、導体15の他の接合方法を示す図。
図5】(a)は、接合部13aを示す図、(b)は、接合部13bを示す図。
図6】(a)、(b)は、従来の導体111の接合方法を示す図。
図7】従来の接合部113を示す概念図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(第1実施形態)
以下、図面を参照しながら、本発明の第1の実施形態について説明する。図1は、接合構造10を示す概略図である。接合構造10は、複数の電線17の導体15同士が超音波接合されたものである。電線17は、導体15の外周が絶縁被覆で被覆されて構成される。電線17の端部は、所定の範囲の絶縁被覆が除去され、内部の導体15が露出する。導体15は、複数の導体素線が撚り合わせられて構成される。なお、導体15は単線であってもよい。
【0026】
導体15は、アルミニウム系(アルミニウム又はアルミニウム合金)や銅系(銅又は銅合金)などの材質が適用可能であるが、アルミニウム(いわゆる純アルミニウム系)が主成分の導体15からなる電線17を少なくとも一本含むことが望ましく、さらに、アルミニウムが主成分の導体15からなる電線17が、他の材質(例えば、アルミニウム合金や銅又は銅合金)が主成分の導体15からなる電線17よりも多いことが望ましい。例えば、アルミニウム系の導体15の場合には、銅系の材料と比較して比較的軟らかいが、酸化被膜が強固で振動が伝わりにくいと酸化被膜が除去されず接合不足になりやすい。このため、本実施形態では、アルミニウム(特に純アルミニウム系)の材料に対して特に有効である。
【0027】
複数の電線17のそれぞれの導体15が、同一方向に向けて配列され、導体15の先端部において、各導体15が互いに超音波接合された接合部13が形成される。すなわち、接合部13において、導体15は一体化される。なお、電線17の方向は、必ずしも全てが同一方向でなくてもよい。
【0028】
図2(a)は、電線17(接合部13)を軸方向の先端側から見た図である。ここで、詳細は後述するが、図の上下方向が、超音波接合方向であり、この方向を接合部13の厚み方向とし、これと直交する方向(図中左右方向)を接合部13の幅方向とする。この際に、接合部13の厚みが、幅方向の一方の側から他方の側に対して傾斜して変化する。
【0029】
図示した例では、幅方向の一方の側(図中C)から他方の側(図中D)に向けて徐々に(直線的に)厚みが厚くなる。すなわち、接合部13の上下面は平行ではない。なお、接合部13の両側面は互いに略平行である。また、接合部13の上面と側面との角度(図中角度G、H)は、略垂直である。一方、接合部13の下面と側面との角度(図中角度E、F)は、垂直にはならない。すなわち、軸方向に垂直な断面における接合部13の形状は、略台形となる。
【0030】
なお、図2(b)は、図2(a)のI部拡大図である。前述したように、接合部13の図中の上下方向が超音波接合方向であるため、上面と下面がアンビルとホーンとの接触面になる。この際、アンビルとホーンには、細かな凹凸面が形成されるため、図2(b)に示すように、上下面には、幅方向に向けて凹凸が形成される。なお、下面側の図示は省略するが、上面と同様の凹凸形状が形成される。このように、表面に型で形成される凹凸形状が形成される対向面が超音波接合方法となる。
【0031】
ここで、上下面の凹部の底部は、アンビル又はホーンの接触部における型の押し込みによって形成される。一方、上下面の凸部は、型の凹部へ導体の一部が変形して入り込むことで形成される。このため、上下面の凹部の位置(深さ)は、略一定(直線状)になるが、上下面の凸部の高さは必ずしも一定にはならない。したがって、厚みや上下面の角度の基準は、凹凸形状における凹部を基準とすることが望ましい。
【0032】
なお、幅方向の厚みの差(D-C)は、幅Wの10%以上であることが望ましい。すなわち、厚みの薄い側の厚みC=D-W×10%程度とすることが望ましい。なお、本実施形態では、厚みの厚い側Dが1.5mm以下である場合に特に有効である。
【0033】
次に、超音波接合装置を用いた複数の電線17の導体15同士の超音波接合方法について説明する。図3(a)は、導体15同士を超音波接合によって形成するための超音波接合装置1を示す図である。超音波接合装置1は、アンビル7と、アンビル7と対向配置されるホーン5と、ホーン5の一端に接続され、ホーン5に振動を与える振動源3とを有する。
【0034】
まず、複数の電線17の導体15を集合させた集合体を、上下方向に対向するアンビル7とホーン5との間に配置する。また、導体15の集合体の両側にはギャザー9が配置される。すなわち、導体15の集合体は、上下方向をアンビル7とホーン5とで挟まれ、幅方向を一対のギャザー9で挟まれる。
【0035】
次に、集合体の幅方向をギャザー9で挟み込んで規制した状態で、図3(b)に示すように、上下方向からアンビル7とホーン5とで集合体を挟んで一括して加圧しながら(図中矢印A方向)、振動源3からホーン5を介して集合体に超音波振動(図中矢印B方向)を与える。
【0036】
この際、振動源3から遠い側のアンビル7の高さが、振動源3に近い側のアンビル7の高さよりも高くなるように設定される。すなわち、振動源3から遠い側のアンビル7とホーン5との間隔が、振動源3に近い側のアンビル7とホーン5との間隔よりも狭い。したがって、振動源3から遠い側において、導体の集合体をより確実に加圧することができる。
【0037】
なお、前述したように、ホーン5は、振動源3から遠い側がアンビル7から離れる方向に多少の反りが生じる。しかし、この反りによって生じる幅方向の高低差は、アンビル7に形成される傾斜の高低差以下(より望ましくは、アンビル7に形成される傾斜の高低差よりも小さい)である。このため、ホーン5に多少の反りが形成されても(例えば、図2(a)の角度G、Hが垂直ではなく、図中左下がりの傾斜が形成されても)、振動源3から離れた側の導体15を効率よく圧縮して振動を伝播させることができる。
【0038】
以上により、導体15同士が接合されて、接合部13を形成することができる。なお、前述したように、このようにして得られた接合部13は、アンビル7とホーン5で挟まれる方向(すなわち超音波接合方向)が、接合部13の厚み方向となり、これと直交する方向(ギャザー9で挟まれる方向)が接合部13の幅方向となる。
【0039】
以上、第1の実施の形態によれば、複数の電線17を超音波接合によって接合する際に、アンビル7の上面に、ホーン5の支持方向(超音波振動方向)に対して、高さが変わるような傾斜面を形成することで、接合部13の幅方向の端部における素線こぼれを抑制することができる。したがって、超音波接合によって効率良く、信頼性の高い導体接合構造を形成することができる。
【0040】
なお、接合後の接合部13から、幅方向のいずれの向きが、振動源3に近い側か又は遠い側かを直ちに判別することは困難である。しかし、仮に、幅方向に対して、接合部13の厚みの薄い方が振動源3に近い側となると、ホーン5の反りと相まって、ますます振動源3から遠い側の押圧力が小さくなる。この結果、例えば、アンビル7又はホーン5に形成される凹凸の型形状に対して、押圧力が弱い側では、導体15が型の凹部の内部に十分に入り込まず、上下面の凸高さが低くなる傾向にある。したがって、接合部13の上下面において、凸高さが低くなる側が、振動源3から遠い側であると考えられる。
【0041】
なお、凸部の高さが幅方向で略一定である場合には、十分な押圧力が全体に付与されたことを意味する。このため、従来であれば、振動源3から遠い側の凸部の高さが低くなる傾向があるのに対し、全体が略均一に押圧されたということは、接合部13の厚みが薄い側が、振動源3から遠い側であったものと考えられる。
【0042】
また、接合部13の端面を観察すると、元の導体を構成する素線同士の境界(すなわち圧縮後のそれぞれの素線)を把握することができる。ここで、接合部13の厚みが薄い側が振動源3から近い側であると、振動源3から遠い側の押圧力がより小さくなるため、この部位の導体の圧縮量が小さくなる。このため、元の素線が例えば同一径であった場合には、圧縮量が小さい側の圧縮後の素線のサイズが、圧縮量が大きい側の圧縮後の素線のサイズと比較して相対的に大きくなる。したがって、仮に接合部13の厚みが薄い側が振動源3に近い側であったとすると、接合部13の厚みの厚い側の素線の圧縮後のサイズが大きくなる(すなわち圧縮量が小さい)傾向にある。
【0043】
これに対し、接合部13の幅方向に対して均一に圧縮されれば、素線は略均一に圧縮されるため、幅方向に対する圧縮後の素線サイズが略均一となる。このため、従来であれば、振動源3から遠い側の素線サイズが大きくなる傾向があるのに対し、全体が略均一な素線サイズに圧縮されたということは、接合部13の厚みが薄い側が、振動源3から遠い側であったものと考えられる。
【0044】
なお、素線のサイズ略が均一とは、例えば、全ての素線の圧縮率が60~85%の範囲であることとする。ここで、圧縮率とは、圧縮前の素線の断面積に対する圧縮後の素線の断面積とする。断面積は例えば断面の画像解析で算出することができる。前述したように、従来の方法では、振動源3から近い側の素線の圧縮率が上記範囲に入っていても、遠い側の素線の圧縮率が85%を超える場合があるのに対し、略均一に圧縮できれば、全ての素線の圧縮率を上記範囲とすることができる。
【0045】
(第2実施形態)
次に、第2の実施形態について説明する。図4(a)、図4(b)は、第2の実施形態にかかる超音波接合装置1aによって、導体15を超音波接合する工程を示す概略図である。なお、以下の説明において、第1の実施形態と同一の機能を奏する構成については、図1図3と同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0046】
図4(a)に示すように、第2の実施形態では、アンビル7の上面が平坦(ギャザー9に対して略垂直)に形成され、従来のアンビル7をそのまま使用されるが、振動源3から遠い側のホーン5の高さが、振動源3に近い側のホーン5の高さよりも低くなるように設定される。すなわち、ホーン5の下面(アンビル7との対向面)側が、振動源3から遠い側に行くにつれて、アンビル7に近づくように傾斜面を有する。
【0047】
集合体の幅方向をギャザー9で挟み込んで規制した状態で、図4(b)に示すように、上下方向からアンビル7とホーン5とで集合体を挟んで一括して加圧しながら(図中矢印A方向)、振動源3からホーン5を介して集合体に超音波振動(図中矢印B方向)を与える。
【0048】
この際、振動源3から遠い側のホーン5の高さが、振動源3に近い側のホーン5の高さよりも低いため、振動源3に遠い側のアンビル7とホーン5との間隔が、振動源3から近い側のアンビル7とホーン5との間隔よりも狭い。したがって、振動源3に遠い側において、導体の集合体をより確実に加圧することができる。
【0049】
図5(a)は、得られた接合部13aを示す図である。前述したように、図の上下方向が、超音波接合方向であり、この方向が接合部13aの厚み方向となり、これと直交する方向(図中左右方向)が接合部13aの幅方向となる。接合部13aも、厚みが一定ではなく、幅方向の一方の側から他方の側に対して傾斜して厚みが変化する。
【0050】
より詳細には、図示した例では、幅方向の一方の側(振動源3から遠い側であって図中J)から他方の側(振動源3に近い側であって図中K)に向けて徐々に(直線的に)厚みが厚くなる。すなわち、接合部13aの上下面は平行ではない。なお、両側面は互いに略平行であり、下面と側面との角度(図中角度L、M)は、略垂直である。一方、上面と側面との角度(図中角度N、O)は、垂直にはならない。すなわち、軸方向に垂直な断面における接合部13の形状は、略台形となる。
【0051】
前述したように、ホーン5は、振動源3から遠い側がアンビル7から離れる方向に多少の反りが生じる。しかし、この反りによって生じる幅方向の高低差は、ホーン5に形成される傾斜の高低差以下(より望ましくは、ホーン5に形成される傾斜の高低差よりも小さい)である。このため、ホーン5に多少の反りが形成されても、振動源3から離れた側の導体15を効率よく圧縮して振動を伝播させることができる。
【0052】
なお、本実施形態では、ホーン5を傾斜させたが、さらに、第1の実施形態と同様に、アンビル7にも傾斜面を形成してもよい。図5(b)は、アンビル7とホーン5の両方について、振動源3から遠い側が、互いに近づくように傾斜させて超音波接合を行った接合部13bを示す図である。
【0053】
この場合、幅方向の一方の側(振動源3から遠い側であって図中P)から他方の側(振動源3に近い側であって図中Q)に向けて徐々に(直線的に)厚みが厚くなる。また、両側面は互いに略平行であり、下面と側面との角度(図中角度R、S)も、上面と側面との角度(図中角度T、U)も、いずれも垂直にはならない。すなわち、幅方向の側面に対して、厚み方向の上面及び下面のいずれもが垂直ではない。
【0054】
以上、第2の実施の形態によれば、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。すなわち、接合部13a、13bの幅方向の端部における素線こぼれを抑制することができ、超音波接合によって効率良く、信頼性の高い導体接合構造を形成することができる。
【0055】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0056】
たとえば、電線の本数や配置は、導体を構成する素線数などは図示した例には限られない。
【符号の説明】
【0057】
1、1a………超音波接合装置
3………振動源
5………ホーン
7………アンビル
9………ギャザー
10………接合構造
13、13a、13b………接合部
15………導体
17………電線
100………超音波接合装置
103………振動源
105………ホーン
107………アンビル
109………ギャザー
111………導体
113………接合部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7