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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-08
(45)【発行日】2024-11-18
(54)【発明の名称】電気泳動支援方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/447 20060101AFI20241111BHJP
【FI】
G01N27/447 331E
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023543525
(86)(22)【出願日】2021-08-24
(86)【国際出願番号】 JP2021031017
(87)【国際公開番号】W WO2023026366
(87)【国際公開日】2023-03-02
【審査請求日】2023-12-05
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 宏一
(72)【発明者】
【氏名】木村 隆介
(72)【発明者】
【氏名】隅田 周志
(72)【発明者】
【氏名】原浦 功
(72)【発明者】
【氏名】山崎 基博
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-344356(JP,A)
【文献】特開平11-108889(JP,A)
【文献】特開2007-107915(JP,A)
【文献】特開2017-201286(JP,A)
【文献】国際公開第2021/166210(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/447
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送液装置によって、泳動媒体がキャピラリに導入されるプレランと、
前記プレランが行われた後、電源によって、前記キャピラリの両端に電位差が生じることで、前記泳動媒体に加えたサンプルが前記キャピラリに泳動されるランと、
が行われ、
前記ランにおいて、前記電源によって生じる前記キャピラリの前記電位差により、前記サンプルが前記キャピラリの内部を移動する速度の差に応じて前記サンプルの成分分離を行う電気泳動方法において、
処理装置が、
前回の前記ランが終了しており、かつ、前記プレランが行われる前において、前回の前記ランで用いられた前記泳動媒体が前記キャピラリの内部に残留している状態であり、それぞれ別の容器に収容されている泳動用緩衝液が所定の量以上であれば、前記キャピラリの両端が前記泳動用緩衝液に接液する所定の位置に前記キャピラリの両端が位置しており、前記電源によって、前記泳動用緩衝液の少なくとも一方に電圧が印加されることにより、前記キャピラリの両端に生じた前記電位差に基づく前記キャピラリを流れる電流に基づく計測値又は前記キャピラリの両端の電位差に基づく計測値が第1の値以下であるか否かを検出する第1の通電チェックステップと、
前記第1の通電チェックステップによって、前記計測値が前記第1の値以下である場合、出力部から警告を出力する第1の警告ステップと、
が実行されることを特徴とする電気泳動支援方法。
【請求項2】
前記第1の警告ステップでは、前記泳動用緩衝液の水位の確認を促す出力が行われる
ことを特徴とする請求項1に記載の電気泳動支援方法。
【請求項3】
前記泳動用緩衝液の水位の確認を促す出力が行われた後、前記第1の通電チェックステップが再度行われ、
再度行われた前記第1の通電チェックステップの結果、前記計測値が前記第1の値以下の場合、前記キャピラリの内部において乾燥が生じている旨の出力を行う第2の警告ステップ
が実行されることを特徴とする請求項2に記載の電気泳動支援方法。
【請求項4】
前記第1の通電チェックステップにおいて、前記計測値が前記第1の値より大きい場合、前記プレランが行われ、
前記プレランが行われている際に、前記処理装置が、前記計測値が第2の値以下であるか否かを検出する第2の通電チェックステップと、
前記第2の通電チェックステップによって、前記計測値が前記第2の値以下である場合、出力部から警告を出力する第3の警告ステップと、
が実行されることを特徴とする請求項1に記載の電気泳動支援方法。
【請求項5】
前記第3の警告ステップでは、前記プレランで導入される前記泳動媒体が収容されている泳動媒体容器における前記泳動媒体の水位、及び、前記キャピラリの内部における気泡の確認を含む確認を促す出力が行われる
ことを特徴とする請求項4に記載の電気泳動支援方法。
【請求項6】
前記第2の通電チェックステップにおいて、前記計測値が前記第2の値より大きい場合、サンプル容器に収容されているサンプル試薬及びサンプル緩衝液容器に収容され、前記サンプルを前記キャピラリの内部に導入する緩衝液であるサンプル緩衝液が所定の量以上であれば、前記キャピラリの両端のうち、一方が前記サンプル試薬に接液し、他方が前記サンプル緩衝液に接液する所定の位置に前記キャピラリの両端が位置している状態で、
前記処理装置が、
記サンプル試薬、及び、前記サンプル緩衝液の少なくとも一方に対し、前記電源によって電圧が印加されることにより、前記計測値が第3の値以下であるか否かを検出する第3の通電チェックステップと、
前記第3の通電チェックステップにおいて、前記計測値が前記第3の値以下である場合、出力部から警告を出力する第4の警告ステップと、
が実行されることを特徴とする請求項4に記載の電気泳動支援方法。
【請求項7】
前記第4の警告ステップでは、前記サンプル容器におけるサンプル試薬、及び、前記サンプル緩衝液容器に収容されているサンプル緩衝液の水位の確認を促す出力が行われる
ことを特徴とする請求項6に記載の電気泳動支援方法。
【請求項8】
前記第3の通電チェックステップにおいて、前記計測値が前記第3の値より大きい場合、前記ランが行われ、
前記処理装置は、
前記ラン中に前記キャピラリの少なくとも一端に印加されている前記電圧によって生じる前記計測値が第4の値以下であるか否かを検出する第4の通電チェックステップと、
前記第4の通電チェックステップにおいて、前記計測値が前記第4の値以下である場合、出力部から警告を出力する第5の警告ステップと、
が実行されることを特徴とする請求項6に記載の電気泳動支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気泳動支援方法の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気泳動装置として、キャピラリに高分子ゲルやポリマ溶液等の泳動媒体を充填し、電気泳動を行うキャピラリ電気泳動装置が広く用いられている。キャピラリ電気泳動装置は、平板型電気泳動装置に比べて放熱性が高く、また、平板型電気泳動装置より高い電圧を試料に印加することができるため、高速で電気泳動を行うことができるという長所を有する。また、キャピラリ電気泳動装置は、試料が微量で済むことや泳動媒体の自動充填やサンプル自動注入ができる点等、数多くの利点を有している。このようなキャピラリ電気泳動装置は、核酸やタンパク質の解析をはじめ様々な分離分析測定に使用されている。
【0003】
キャピラリ電気泳動装置では、泳動媒体容器やキャピラリの交換が必要である。しかし、これらの交換時には、中継流路ブロックの一部が空気に晒されるため、泳動媒体の流路内に空気が混入する可能性がある。電気泳動時には、数~数十kVもの高電圧が流路の両端間に印加される。このため、流路内に気泡が存在すると、当該気泡によって流路が電気的に遮断される可能性がある。この際、流路が電気的に遮断されていると、遮断箇所に高電圧差が発生し、放電が生じる。この放電の大きさによっては、キャピラリ電気泳動装置が破壊される可能性がある。従って、電気泳動の開始前に、流路内から気泡を取り除く必要がある。
【0004】
特許文献1には「(1)キャピラリに分離媒体を充填する手順(2)試料の電気泳動に先立って、前記分離媒体を含む通電路に試料を電気泳動する際の電圧より小さい電圧を印加し、該通電路に流れる電流を検出する手順(3)検出された前記電流に基づいて、該通電路の状態を判断する手順」を実行する電気泳動装置、及び電気泳動方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3780226号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のキャピラリ電気泳動装置における処理では、サンプルの泳動を開始する前に、流路の通電状態が確認されることで消耗品の試薬量不足を確認するという発想がない。
【0007】
より具体的には、従来のキャピラリ電気泳動装置における処理では、通電異常が発生した場合、原因が泳動媒体、陽極側泳動用緩衝液容器、陰極側泳動用緩衝液容器、あるいはサンプル容器由来の通電異常であるかを特定できなかった。結果として、ユーザはランを途中で中断・停止しなければならない。また、緩衝液であるバッファ、泳動媒体であるポリマ、サンプルを交換した後に改めてランをやり直す必要がある。これらの作業は煩雑であり、ユーザビリティが悪いという課題がある。また、通電異常が発生すると、試薬の再設置が必要となり、加えて、不要な試薬の交換を行う等、ランニングコストの上昇という課題がある。
【0008】
このような背景に鑑みて本発明がなされたのであり、本発明は、効率的な電気泳動の実現を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記した課題を解決するため、本発明は、送液装置によって、泳動媒体がキャピラリに導入されるプレランと、前記プレランが行われた後、電源によって、前記キャピラリの両端に電位差が生じることで、前記泳動媒体に加えたサンプルが前記キャピラリに泳動されるランと、が行われ、前記ランにおいて、前記電源によって生じる前記キャピラリの前記電位差により、前記サンプルが前記キャピラリの内部を移動する速度の差に応じて前記サンプルの成分分離を行う電気泳動方法において、処理装置が、前回の前記ランが終了しており、かつ、前記プレランが行われる前において、前回の前記ランで用いられた前記泳動媒体が前記キャピラリの内部に残留している状態であり、それぞれ別の容器に収容されている泳動用緩衝液が所定の量以上であれば、前記キャピラリの両端が前記泳動用緩衝液に接液する所定の位置に前記キャピラリの両端が位置しており、前記電源によって、前記泳動用緩衝液の少なくとも一方に電圧が印加されることにより、前記キャピラリの両端に生じた前記電位差に基づく前記キャピラリを流れる電流に基づく計測値又は前記キャピラリの両端の電位差に基づく計測値が第1の値以下であるか否かを検出する第1の通電チェックステップと、前記第1の通電チェックステップによって、前記計測値が前記第1の値以下である場合、出力部から警告を出力する第1の警告ステップと、が実行されることを特徴とする。
その他の解決手段は実施形態中において適宜記載する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、効率的な電気泳動の実現が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態におけるキャピラリ電気泳動装置の斜視模式図である。
図2】キャピラリ電気泳動装置の上面図である。
図3A】キャピラリ電気泳動装置の断面模式図である。
図3B】キャピラリの陰極側端部の拡大図である。
図4】キャピラリ電気泳動装置の制御構成を示す図である。
図5】マイコンの構成例を示す図である。
図6A】本実施形態に係る処理の手順を示すフローチャート(その1)である。
図6B】本実施形態に係る処理の手順を示すフローチャート(その2)である。
図7A】警告画面の例を示す図である(その1)。
図7B】警告画面の例を示す図である(その2)。
図7C】警告画面の例を示す図である(その3)。
図7D】警告画面の例を示す図である(その4)。
図7E】警告画面の例を示す図である(その5)。
図8】これまでのキャピラリ電気泳動装置における電気泳動支援方法の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明を実施するための形態(「実施形態」という)について、適宜図1図5を参照しながら詳細に説明する。
【0013】
[キャピラリ電気泳動装置1]
図1は本実施形態に係るキャピラリ電気泳動装置1の斜視模式図である。
図1において、X軸はキャピラリ電気泳動装置1の幅方向に対応し、Y軸はキャピラリ電気泳動装置1の奥行方向に対応し、Z軸はキャピラリ電気泳動装置1の高さ方向に対応している。また、上方向とはオートサンプラユニット100から照射検出/恒温槽ユニット200へ向かう方向であり、下方向とは、その逆方向である。ちなみに、上方向はZ軸の方向でもある。また、前方とは照射検出ユニット201から恒温槽ユニット220へ向かう方向であり、後方とは、それとは逆の方向である。
キャピラリ電気泳動装置1は、オートサンプラユニット100と、オートサンプラユニット100の上部に配置される照射検出/恒温槽ユニット200とを備える。
【0014】
[オートサンプラユニット100]
オートサンプラユニット100は、サンプルトレイ110を備えている。そして、サンプルトレイ110の上には、泳動媒体容器120、陽極側容器130、陰極側容器140、サンプル容器150がユーザによってセットされる。
また、オートサンプラユニット100は、サンプラベース104、Y軸駆動体101、Z軸駆動体102、X軸駆動体103、送液装置105等を備える。
【0015】
泳動媒体容器120にはキャピラリアレイ300を構成するキャピラリ311に充填される泳動媒体120a(図2参照)が収容されている。泳動媒体120aは高分子ゲルやポリマ溶液等である。
陽極側容器130には、電気泳動が行われる際に正電圧が印加される泳動用緩衝液160(図2参照)等が収容されている。陽極側容器130の詳細については後記する。
また、陰極側容器140には、電気泳動が行われる際に負電圧が印加される泳動用緩衝液160(図2参照)等が収容されている。陰極側容器140については後記する。
そして、サンプル容器150には電気泳動による分析対象物であるサンプルが溶存しているサンプル試薬150a(図2参照)が収容されている。
【0016】
サンプル容器150は、サンプルトレイ110に設置されているX軸駆動体103によってX軸方向に移動可能である。なお、サンプルトレイ110に設けられている各容器の中でサンプル容器150のみがX軸方向(左右方向)に移動可能である。
【0017】
サンプラベース104は、キャピラリ電気泳動装置1の全体を支える。
Y軸駆動体101は、図1に示す例ではサンプラベース104の上に搭載されており、サンプルトレイ110をY軸方向に移動させる。
Z軸駆動体102は、図1に示す例ではY軸駆動体101に備えられ、サンプルトレイ110をZ軸方向に移動させる。ちなみに、図1に示す例ではサンプルトレイ110がZ軸駆動体102の上に設置されており、Y軸駆動体101はZ軸駆動体102を介してサンプルトレイ110を移動させる。Y軸駆動体101及びZ軸駆動体102によって、泳動媒体容器120、陽極側容器130、陰極側容器140、サンプル容器150はサンプルトレイ110ごと、Y軸方向(前方、後方)及びZ軸方向(上下方向)に移動可能である。
【0018】
また、送液装置105は、泳動媒体容器120からキャピラリアレイ300を構成するキャピラリ311へ泳動媒体120aを送液する。送液装置105は、泳動媒体容器120の下方に設置されている。なお、図1に示す例では送液装置105はZ軸駆動体102に設置されている。
【0019】
(照射検出/恒温槽ユニット200)
照射検出/恒温槽ユニット200は、恒温槽ユニット220及び照射検出ユニット201を備えている。
恒温槽ユニット220には、キャピラリアレイ300や、電極221等が設けられている。キャピラリアレイ300には、ロードヘッダ301、キャピラリヘッド302、検出部303等が備えられている。
恒温槽ユニット220は恒温槽ドア211を備えており、恒温槽ユニット220の内部を一定の温度に保つことができる。
照射検出ユニット201は恒温槽ユニット220の後方に設けられている。照射検出ユニット201によって電気泳動が行われた際におけるサンプル検出を行うことができる。
【0020】
恒温槽ユニット220にはキャピラリアレイ300がユーザによってセットされている。キャピラリアレイ300は複数のキャピラリ311によって構成される。恒温槽ユニット220の内部でキャピラリアレイ300が恒温に保たれながら電気泳動が行われる。電気泳動の結果は、照射検出ユニット201によって検出される。また、恒温槽ユニット220には、GND(Ground)411(図3A参照)と接続している電極221が設けられている。
なお、ロードヘッダ301及びキャピラリヘッド302については後記する。
【0021】
また、キャピラリアレイ300の中間部には検出部303が備えられている。検出部303の内部では、キャピラリ311が平面状に一定の間隔で配列されている。照射検出ユニット201は、検出部303に配列されているキャピラリ311に光照射を行う。そして、検出部303は、光照射によって、それぞれのキャピラリ311を電気泳動しているサンプルから発生される蛍光等を検出する。
【0022】
前記したように、キャピラリアレイ300は恒温槽ユニット220に固定される。また、前記したように、泳動媒体容器120、陽極側容器130、陰極側容器140、サンプル容器150は、Y軸駆動体101及びZ軸駆動体102によってサンプルトレイ110ごとY軸方向及びZ軸方向に駆動することができる。さらに、前記したように、サンプル容器150のみは、Y軸及びZ軸に加えて、X軸駆動体103によってX軸に駆動することができる。このような移動によって、泳動媒体容器120、陽極側容器130、陰極側容器140、サンプル容器150に収容されている試薬に、恒温槽ユニット220に固定されたキャピラリアレイ300の端部が、任意の位置で接液することができる。なお、詳細は後記するが泳動媒体容器120、陽極側容器130、陰極側容器140、サンプル容器150に収容されているものを試薬と称する。
【0023】
キャピラリ電気泳動装置1では、キャピラリアレイ300の両端に電位差を生じさせ、当該電位差が生じることによってキャピラリ311に生じる電界に基づいてサンプルがキャピラリ311の内部を移動する。そして、サンプルがキャピラリ311の内部を移動する速度によって成分の分離(成分解析)が行われる。
【0024】
図2は、キャピラリ電気泳動装置1の上面図である。なお、図2に示す例では、キャピラリアレイ300がいずれの容器にもアクセスしない位置にサンプルトレイ110が位置している。
また、図2において図1と同様の構成については同一の符号を付して説明を省略する。
サンプルトレイ110にセットされている陽極側容器130は、陽極側洗浄容器131、陽極側泳動用緩衝液容器132、サンプル緩衝液容器133を有している。また、陰極側容器140は、廃液容器141、陰極側洗浄容器142、陰極側泳動用緩衝液容器143を有している。
【0025】
なお、本実施形態ではロードヘッダ301に負電位が印加されるため、ロードヘッダ301の側が陰極側Nとなり、キャピラリヘッド302の側が陽極側Pとなる。本実施形態において負電位とはGND411,412(図3A参照)より低い電位である。
【0026】
陽極側洗浄容器131にはキャピラリヘッド302を洗浄するための陽極側洗浄液131aが収容されている。また、陽極側泳動用緩衝液容器132には電気泳動時に正電位側となる泳動用緩衝液160が収容されている。そして、サンプル緩衝液容器133にはサンプル導入時にサンプルをキャピラリ311の内部に導入する緩衝液であるサンプル緩衝液133aが収容されている。
以降では、陽極側洗浄液131a、陽極側泳動用緩衝液容器132に収容されている泳動用緩衝液160、サンプル緩衝液133aをまとめて陽極側試薬と適宜称する。
【0027】
廃液容器141は泳動媒体120aをキャピラリ311に充填する際に、泳動媒体容器120からキャピラリ311の一端へ吸引され、他端から吐出された泳動媒体120aを受容する。陰極側洗浄容器142にはキャピラリ311の陰極側端部を洗浄するための陰極側洗浄液142aが収容されている。そして、陰極側泳動用緩衝液容器143には電気泳動時に負電位側となる泳動用緩衝液160が収容されている。
なお、陰極側泳動用緩衝液容器143に収容されている泳動用緩衝液160、及び、陰極側洗浄液142aをまとめて陰極側試薬と適宜称する。
【0028】
さらに、前記したように、陽極側試薬と、陰極側試薬と、泳動媒体120aとをまとめて試薬と適宜と称する。
【0029】
また、サンプル容器150には、前記したように、サンプル(本実施形態ではDNA)が溶存している溶液であるサンプル試薬150aが収容されている。
【0030】
泳動媒体容器120、陽極側容器130、陰極側容器140、サンプル容器150は図2に示すような位置関係に配置される。これにより、キャピラリアレイ300との接続の際の陽極側P - 陰極側Nの位置関係は、「泳動媒体容器120 - 廃液容器141」、「陽極側洗浄容器131 - 陰極側洗浄容器142」、「陽極側泳動用緩衝液容器132 - 陰極側泳動用緩衝液容器143」、「サンプル緩衝液容器133 - サンプル容器150」となる。
【0031】
前記した、「泳動媒体容器120 - 廃液容器141」の意味は以下の通りである。まず、陽極側Pには泳動媒体容器120が配置され、陰極側Nには廃液容器141が配置されている。そして、泳動媒体容器120と廃液容器141とはX軸方向に直列に配置されている。また、泳動媒体容器120はサンプルトレイ110の移動によってキャピラリヘッド302が接液できる位置に配置されている。そして、廃液容器141はサンプルトレイ110の移動によってキャピラリ311の陰極側端部が接液できる位置に配置されている。
「陽極側洗浄容器131 - 陰極側洗浄容器142」、「陽極側泳動用緩衝液容器132 - 陰極側泳動用緩衝液容器143」、「サンプル緩衝液容器133 - サンプル容器150」についても同様である。ただし、陽極側洗浄容器131、陽極側泳動用緩衝液容器132は、キャピラリヘッド302と電極221とが同時に接液できるよう構成されている。これに対し、泳動媒体容器120はキャピラリヘッド302のみが接液できるよう配置されている。これは、泳動媒体容器120に収容されている泳動媒体120aは、電位差によってキャピラリ311に導入されるのではなく、送液装置105によって導入されるためである。
【0032】
図3Aは、図2におけるA-A断面図である。
図3Aにおいて、図1及び図2と同様の構成については同一の符号を付して説明を省略する。
図3Aでは、図2におけるキャピラリヘッド302及びキャピラリ311の陰極側端部が泳動媒体容器120及び廃液容器141に接液可能となっている状態を示している。
泳動媒体容器120はサンプルトレイ110に埋設されているガイド121の中に挿入されることでセットされる。また、送液装置105に設けられているプランジャ106が、泳動媒体容器120の下方に位置するように配置されている。プランジャ106が泳動媒体容器120に設けられているシリンダ(不図示)を押し上げることで泳動媒体120aがキャピラリ311に導入される。
【0033】
図3B図3Aにおいて破線丸Bで示される部分の拡大図である。即ち、図3Bはキャピラリ311の陰極側端部を示す図である。
図3Bに示すように、キャピラリアレイ300を構成する個々のキャピラリ311は、それぞれ金属製の中空電極312を通して固定されている。なお、中空電極312はキャピラリ311の一部(陰極側端部からロードヘッダ301まで)に設けられている。
【0034】
また、図3Bに示すように、キャピラリ311の先端が中空電極312から0.5mm程度突出している状態となっている。なお、キャピラリ311の先端において中空電極312が突出している長さは0.5mmに限らない。更に、それぞれのキャピラリ311に備えられている中空電極312のすべては一体となっている状態でロードヘッダ301(図3A参照)に装着される。そして、すべての中空電極312はロードヘッダ301を介して高圧電源402に接続されている。高圧電源402は負電圧を中空電極312に印加するため、電気泳動時やサンプル導入時等、電圧が中空電極312に印加される際に中空電極312は陰極電極となる。
【0035】
図3Aの説明に戻る。
前記したように、電気泳動の際、キャピラリアレイ300に対して、図3における紙面右側が陰極側Nとなり、紙面左側が陽極側Pとなる。また、キャピラリ311のキャピラリ311の陽極側端部は、キャピラリヘッド302により1つに束ねられている。キャピラリヘッド302は、耐圧機密によってキャピラリ311が束としてまとめられている束なり耐圧機密で着脱可能な部材である。
【0036】
以降、図2及び図3Aを参照し、陽極側泳動用緩衝液容器132及び陰極側泳動用緩衝液容器143にキャピラリヘッド302及びキャピラリ311の陰極側端部が接液している場合について説明する。
サンプルの電気泳動が行われる前に、Y軸駆動体101によって、キャピラリ311の陽極側端部、及び、陰極側端部が、陽極側泳動用緩衝液容器132及び陰極側泳動用緩衝液容器143」に接液可能な位置に移動する。なお、キャピラリ311の陽極側端部とはキャピラリヘッド302のことである。そして、Z軸駆動体102によってキャピラリヘッド302及び電極221が陽極側泳動用緩衝液容器132に収容されている泳動用緩衝液160に接液する。また、キャピラリ311の陰極側端部が陰極側泳動用緩衝液容器143に収容されている泳動用緩衝液160に接液する。そして、高圧電源402によりロードヘッダ301を介して中空電極312に高電圧(負電圧)が印加される。なお、前記したように、高圧電源402は-数十キロボルト程度の負電圧を中空電極312に印加する負電源である。
【0037】
これにより、GND411→電極221→陽極側泳動用緩衝液容器132→キャピラリ311→陰極側泳動用緩衝液容器143→高圧電源402(負電源)の順に電流が流れる。つまり、GND411→電極221→陽極側泳動用緩衝液容器132の泳動用緩衝液160→キャピラリ311→陰極側泳動用緩衝液容器143の泳動用緩衝液160→高圧電源402(負電源)が通電路となる。通電路の詳細については後記する。ただし、陽極側泳動用緩衝液容器132の泳動用緩衝液160の代わりにサンプル緩衝液容器133に収容されているサンプル緩衝液133aが通電路となる場合がある。同様に、陰極側泳動用緩衝液容器143の泳動用緩衝液160の代わりにサンプル容器150内のサンプル試薬150aが通電路となる場合がある。
【0038】
これにより、図3Aの矢印A1の方向に負の電荷を有するサンプル(本実施形態の例ではDNA)が泳動される。なお、通電路に流れる電流は第1電流計401及び第2電流計403でモニタすることができる。また、高圧電源402は一方が第1電流計401を介して中空電極312に接続し、他方がGND412に接続している。
【0039】
このように、電気泳動時では、前記したようにキャピラリアレイ300の陰極側Nに高圧電源402によって負電圧が印加され、電流が前記した通電路に流れることで電気泳動が行われる。
【0040】
[制御構成]
図4は、キャピラリ電気泳動装置1の制御構成を示す図である。
キャピラリ電気泳動装置1は、マイコン500,コントローラ600,高圧電源402,第1電流計401、及び、第2電流計403を備える。
マイコン500は、図6A及び図6Bで後記する処理を行うことで通電チェックを行い、通電チェックの結果を入出力装置503に出力する。入出力装置503は、例えば、タッチパネル等で構成されている。
コントローラ600は高圧電源402を制御することによる通電路への電圧の印加、サンプルトレイ110の移動、X軸駆動体103によるサンプル容器150の移動等を制御する。
【0041】
高圧電源402は、第1電流計401を介してロードヘッダ301(図3A参照)及び中空電極312に接続している。また、電極221は第2電流計403を介してGND411と導通している。高圧電源402によって中空電極312に、-数十キロボルトの負電圧が印加されると、キャピラリ311の陽極側端部-陰極側端部に数十キロボルトの電圧(電位差)が生じる。これにより、キャピラリ311内において、電極221から中空電極312の方向に電界が生じる。そして、生じた電界により、前記したように、負に帯電した核酸等のサンプルは、キャピラリ311の陰極側端部からキャピラリヘッド302へ向かって移動する(矢印A1)。
【0042】
この際、第1電流計401は、中空電極312から高圧電源402に流れる電流値を計測し、その電流値をマイコン500に送信する。また、第2電流計403は、GND411から電極221からGND411に流れる電流値を計測し、その電流値をマイコン500に送信する。なお、前記したように、高圧電源402は、GND411,412より低い電圧(負電圧)を発生するため、高圧電源402によって負電圧が印加された際の電流の流れは図4の破線矢印で示す流れとなる。つまり、電流は、前記したように、GND411→第2電流計403→電極221→キャピラリ311→中空電極312→第1電流計401→高圧電源402の順に流れる。前記したように、GND411→第2電流計403→電極221→キャピラリ311→中空電極312→第1電流計401→高圧電源402を通電路と称する。
【0043】
本実施形態において、電流値、及び、その変動のチェックには、第2電流計403が使用される。その理由は、第2電流計403が電気泳動路を流れる電流値を、第1電流計401より直接的に反映しているためである。第1電流計401と第2電流計403との間に(つまり、中空電極312と電極221との間に)漏電等があった場合、第1電流計401が示す値は漏電の電流値も含めているのに対して、第2電流計403が示す電流値(キャピラリ311を流れる電流に基づく計測値)は漏電の電流値は含まれない。
【0044】
つまり、第2電流計403では通電路を流れる正味の電流値(キャピラリ311を流れる電流に基づく計測値)が検出される。第1電流計401と第2電流計403との間は泳動用緩衝液160や、泳動媒体120a等といった金属に比べて比較的抵抗の大きい媒体が介在する部分である。また、更に、第1電流計401と第2電流計403との間の間には、ロードヘッダ301等の接続部が多く存在する。従って、第1電流計401を経由した回路は漏電が発生しやすい部分であるといえる。
【0045】
上記の内容を詳細に説明する。
図4の破線矢印に示すように、第1電流計401による計測では、キャピラリ311や、中空電極312等を介した電流が計測される。すなわち、キャピラリ311等で漏電が発生すると、第1電流計401による電流値に影響が現れる。これに対して、第2電流計403は、GND411と電極221との間の電流を計測している。この計測値(電流値:キャピラリ311を流れる電流に基づく計測値)は、キャピラリ311等における漏電に影響されない。また、泳動用緩衝液160の水位が低下したり、キャピラリ311に気泡が混入したりすることによって、通電路が遮断されると、電極221の電位は直ちにGND411と同電位となり、第2電流計403を流れる電流が0となる。なお、第1電流計401の電流値も通電路の遮断にともない0となるが、前記した漏電の影響などを考慮すると、第2電流計403による電流値を使用することが望ましい。従って、第1電流計401は省略可能である。ただし、第1電流計401を用いて本実施形態における通電チェック(後記)することも可能である。
【0046】
従って、本実施形態における通電チェック(後記)では、第2電流計403が示す電流値(キャピラリ311を流れる電流に基づく計測値)が用いられることとする。
【0047】
本実施形態では、高圧電源402が負電源である場合について記載しているが、サンプルによっては高圧電源402として正電源が用いられ場合もある。このような場合では、第1電流計401の電流値(キャピラリ311を流れる電流に基づく計測値)を用いて、後記する通電チェックが行われるとよい。
【0048】
なお、本実施形態では、第2電流計403(もしくは、第1電流計401)による電流値を基に通電状態の確認が行われている。しかし、これに限らず、第2電流計403(もしくは第1電流計401)の代わりに電圧計が用いられ、電圧計による電圧値を用いて通電状態の確認が行われてもよい。電圧計で計測される電圧値はキャピラリ311の両端に電圧が印加された際、キャピラリ311の両端に生じる電位差に基づく計測値である。また、第1電流計401、第2電流計403れぞれの代わりに電圧計が用いられる場合、かつ、負電圧を印加させる高圧電源402が本実施形態のように配置されている場合が考えられる。このような場合、第2電流計の位置に設置される電圧計の電圧値(計測値)が通電チェックに用いられるとよい。逆に、高圧電源402が正電位を印加する場合、第1電流計の位置に設置される電圧計の電圧値(計測値)が通電チェックに用いられるとよい。
【0049】
なお、本実施形態では、マイコン500、入出力装置503、及び、コントローラ600がキャピラリ電気泳動装置1に内蔵されているものとしている。しかし、これに限らず、マイコン500、入出力装置503、及び、コントローラ600がキャピラリ電気泳動装置1とは別の装置として設けられてもよい。
【0050】
[マイコン500の構成図]
図5は、マイコン500の構成例を示す図である。
マイコン500は、ROM(Read Only Memory)等のメモリ510、CPU(Central Processing Unit)501、RAM(Random Access Memory)等の記憶装置502を有している。また、第1電流計401や、第2電流計403等から情報を受信する通信装置504が備えられている。
【0051】
メモリ510にはプログラムが格納されており、このプログラムがCPU501によって実行されることで、通電チェック部511、出力処理部512が具現化する。
通電チェック部511は、第2電流計403で計測された電流値(キャピラリを流れる電流に基づく計測値)を基に通電チェックを行う。通電チェックについては後記する。
出力処理部512は、通電チェック部511による通電チェックの結果に応じて、入出力装置503に図7A図7Eに示す警告画面701~705等を表示させる。
【0052】
[フローチャート]
図6A及び図6Bは、本実施形態に係る処理の手順を示すフローチャートである。
なお、図6A図6B及び図8において、ランとは高圧電源402によって、キャピラリ311の両端に電位差が生じることで、泳動媒体120aに加えたサンプルがキャピラリ311に泳動されることである。ランの実行中、照射検出ユニット201によるサンプルの検出が行われる。また、図7A図7Eは入出力装置503に出力される警告画面701~705の例である。まず、図6AのステップS101に示す処理は前ラン(前回のラン)が終了しており、かつ、プレランが行われる前に開始されるものとする。前ランとは、現在より前に行われたサンプルの電気泳動である。また、プレランとはサンプルの電気泳動に先立って泳動媒体120aをキャピラリアレイ300に導入することである。
また、適宜、図1図5を参照する。
【0053】
ユーザは分析を開始する際に陽極側容器130の確認を行う(図6AのS101)。ステップS101において、ユーザは陽極側容器130を構成する各容器がキャピラリ電気泳動装置1に設置されているか否かや、陽極側試薬の水位等を目視で確認する。陽極側容器130を構成する各容器とは、陽極側洗浄容器131、陽極側泳動用緩衝液容器132、サンプル緩衝液容器133である。また、陽極側試薬とは、前記したように陽極側洗浄液131a、陽極側泳動用緩衝液容器132に収容されている泳動用緩衝液160、サンプル緩衝液133aをまとめたものである。
【0054】
陽極側容器130を構成する容器の少なくともいずれかが設置されていない場合、ユーザは改めて設置されていない容器を設置する。また、陽極側試薬の水位が低い場合、ユーザは該当する容器を交換する。陽極側試薬の水位が低い場合とは、陽極側試薬が所定の水位より低い場合である。所定の水位より低いか否かは、陽極側容器130を構成する各容器に記されている至適水位を示す線より水位が低いか否か目安にユーザが判断する。
【0055】
一般的には、陽極側容器130について、キャピラリ電気泳動装置1に設置してから2週間以内に使用を完了し、2週間より日数が経過した場合は交換する必要があることがキャピラリ電気泳動装置1の取扱説明書に記載されている。また、一般的に、キャピラリ電気泳動装置1は、図示しないバーコード読取装置を備えている。陽極側容器130の設置時に、バーコード読取装置が陽極側容器130に貼付されているバーコードや、2次元バーコードを読み取ることで、マイコン500が陽極側容器130の使用期限を管理している。そして、陽極側容器130の設置から2週間以上の期日が経過している場合、マイコン500は入出力装置503を介して警告を発する。
【0056】
陽極側容器130は図2で前記したように3つの容器を含む。それらは陽極側洗浄容器131、陽極側泳動用緩衝液容器132、サンプル緩衝液容器133である。前記したように、ステップS201における確認対象となるのは陽極側洗浄容器131、陽極側泳動用緩衝液容器132、サンプル緩衝液容器133のすべてである。
【0057】
次に、ユーザは陰極側容器140を確認する(S102)。ステップS102において、ユーザは陰極側容器140を構成する各容器がキャピラリ電気泳動装置1に設置されているか否かや、陰極側試薬の水位等を目視で確認する。陰極側容器140を構成する容器とは、廃液容器141、陰極側洗浄容器142、陰極側泳動用緩衝液容器143である。また、陰極側試薬とは、前記したように陰極側泳動用緩衝液容器143に収容されている泳動用緩衝液160及び陰極側洗浄液142aをまとめたものである。
【0058】
陰極側容器140を構成する各容器のいずれかが設置されていない場合、ユーザは、改めて新たな容器を設置する。また、陰極側試薬のいずれかの水位が低い場合、ユーザは該当する容器を交換する。陰極側試薬の水位が低い場合とは、陰極側試薬の水位が所定の水位より低い場合である。所定の水位より低いか否かは、陰極側洗浄容器142、陰極側泳動用緩衝液容器143に記されている至適水位を示す線より水位が低いか否か目安にユーザが判断する。
【0059】
一般的に、陰極側容器140はキャピラリ電気泳動装置1に設置してから2週間以内に使用を完了し、2週間より日数が経過した場合は交換する必要があることがキャピラリ電気泳動装置1の取扱説明書に記載されている。また、陰極側容器140の設置時に、キャピラリ電気泳動装置1に設けられているバーコード読取装置(不図示)が、陰極側容器140に貼付されているバーコードや、2次元バーコードを読み取ることで、マイコン500が陰極側試薬の使用期限を管理している。このため、陰極側容器140の設置から2週間以上の期日が経過している場合、出力処理部512は入出力装置503を介して警告を発する。
【0060】
陰極側容器140は図2で示したように3つの容器を含む。それらは廃液容器141、陰極側洗浄容器142、陰極側泳動用緩衝液容器143である。ステップS202における設置の確認対象は、前記したように、廃液容器141、陰極側洗浄容器142、陰極側泳動用緩衝液容器143のすべてである。
【0061】
続いて、ユーザは泳動媒体容器120の確認を行う(S103)。ユーザはキャピラリ電気泳動装置1に泳動媒体容器120が設置されているか否かや、泳動媒体容器120に収容されている泳動媒体120aの水位等を目視で確認する。もし、泳動媒体容器120が設置されていない場合、ユーザは改めて新たな泳動媒体容器120を設置する。また、泳動媒体120aの水位が低い場合、ユーザは泳動媒体容器120を交換する。泳動媒体120aの水位が低い場合とは、泳動媒体120aの水位が所定の水位より低い場合である。所定の水位より低いか否かは、泳動媒体容器120に記されている至適水位を示す線より水位が低いか否か目安にユーザが判断する。
【0062】
一般的に泳動媒体容器120はキャピラリ電気泳動装置1に設置されてから2週間以内に使用を完了し、2週間より日数が経過した場合は交換する必要があることがキャピラリ電気泳動装置1の取扱説明書に記載されている。また、泳動媒体容器120の設置時に、キャピラリ電気泳動装置1に備えられているバーコード読取装置(不図示)が泳動媒体容器120に貼付されているバーコードを読み取ることで、マイコン500は泳動媒体容器120の使用期限を管理している。このため、泳動媒体容器120の設置後2週間以上の期日が経過した場合、マイコン500はユーザに対して入出力装置503を介して警告を発する。
【0063】
前記したように、陽極側試薬、陰極側試薬、泳動媒体120a等の消耗品については明確に使用期限が定められている。しかし、これらの消耗品の使用期限を遵守しないユーザが発せられている警告を無視してランに進むという場合があり得る。また、ユーザが水位の確認を怠ってランに進むこともあり得る。
【0064】
このような場合においては試薬の乾燥が進行し、電極221、キャピラリヘッド302、中空電極312が試薬の液面に接触できなくなる場合があり得る。このような問題を本実施形態では解決することを目的とする。試薬とは、前記したように、陽極側試薬と、陰極側試薬と、泳動媒体120aとをまとめたものである。ちなみに、前記した消耗品は試薬と同義である。
【0065】
ステップS103の後、ユーザはサンプル容器150をキャピラリ電気泳動装置1に設置する。サンプルはラン毎にユーザが調整する(S104)。
そして、ユーザが入出力装置503に表示されている計測開始ボタン(不図示)を押下する(S105)。すると、コントローラ600はサンプルトレイ110を駆動する。これによって、キャピラリヘッド302と電極221とに対して陽極側泳動用緩衝液容器132が、中空電極312に対して陰極側泳動用緩衝液容器143が正常状態において接液する所定の位置まで移動させる。つまり、サンプルトレイ110が移動することにより、陽極側泳動用緩衝液容器132が正常な状態において接液する所定の位置に位置する。同様に、陰極側泳動用緩衝液容器143が所定の位置に位置する。正常な状態において接液する所定の位置とは、泳動用緩衝液160の乾燥等で水位が低下していなければ(指摘水位に達していれば、;泳動用緩衝液160が所定の量以上であれば)、キャピラリヘッド302、電極221、キャピラリ311の陰極側端部(キャピラリ311の両端)が接液する位置である。
【0066】
その上で、高圧電源402により陰極側泳動用緩衝液容器143に収容されている泳動用緩衝液160に負電圧である第1電圧が印加される(S106)。
【0067】
既に、キャピラリ電気泳動装置1には陽極側容器130、陰極側容器140、泳動媒体容器120、及び、サンプル容器150が設置されている。ステップS105において、陽極側泳動用緩衝液容器132及び陰極側泳動用緩衝液容器143に収容されている泳動用緩衝液160の少なくとも一方に印加されていればよい。
【0068】
それぞれの容器が設置された状態で、入出力装置503の計測開始ボタンをユーザが押下することで、図6BのステップS111以下の処理が行われる。これにより、マイコン500はサンプルのインジェクション(図6BのS131)に先立って、試薬(消耗品)、及び、サンプルの通電状態についての確認を開始する。
【0069】
通電チェック部511は、既に前ランにおいてキャピラリアレイ300に充填されている泳動媒体120aを用いて、陽極側泳動用緩衝液容器132、及び、陰極側泳動用緩衝液容器143の通電状態を確認する(図6BのS111:第1の通電チェックステップ)。つまり、通電チェック部511は、キャピラリ311に前ラン(前回のラン)で使用された泳動媒体120aが残留している状態で、ステップS111において陽極側泳動用緩衝液容器132、及び、陰極側泳動用緩衝液容器143の間の通電状態を確認する。
【0070】
ステップS111の結果、通電状態を確認できない場合(S111→エラー)、通電チェック部511は、ステップS111における「エラー」の判定が2回目か否かを判定する(S112)。ステップS112で通電を確認できないとは、第2電流計403が電流を検出しない(電流値が0の)状態(第1の値以下)である(以下の処理でも同様:第2~第3の値以下)。ただし、第2電流計403が所定の値以下の場合に通電チェック部511がステップS111で「エラー」と判定してもよい(以下の処理でも同様)。
【0071】
ステップS111で通電状態が確認できない原因として電流を通すべき回路が形成されないことに起因することが考えられる。具体的には、キャピラリヘッド302や、中空電極312あるいは電極221の少なくともいずれかが泳動用緩衝液160に接液していないためである。かつて、接液できていた泳動用緩衝液160できなくなる主な原因は、乾燥による泳動用緩衝液160の低下である。
【0072】
換言すると、ステップS111で通電状態が確認できない原因として以下の事項が考えられる。つまり、陽極側泳動用緩衝液容器132及び陰極側泳動用緩衝液容器143の少なくとも一方に収容されてている泳動用緩衝液160の水位が乾燥等によって低下する。その結果、発生するキャピラリヘッド302や、中空電極312及び電極221と泳動用緩衝液160との非接触が生じ、通電が阻害されることである。これにより、中空電極312と、電極221との間が絶縁状態となり、電極221がGND411と同電位となる。そのため、第2電流計403が電流を検出しなくなる。
【0073】
従って、ステップS112で「1回目」と判定された場合(S112→1回目)、出力処理部512は、図7Aに示すような警告画面701を入出力装置503に出力する(第1警告出力:S113:第1の警告ステップ)。つまり、出力処理部512は、図7Aの警告画面701に示すように、陽極側泳動用緩衝液容器132及び陰極側泳動用緩衝液容器143における泳動用緩衝液160の水位の確認を促す旨の警告画面701を入出力装置503に出力する。なお、警告画面701は、エラー出力(ビープ音等)とともに表示されるとよい。後記する警告画面702~705も同様である。また、マイコン500は計測を一時中断する。
【0074】
本警告に従ってユーザは陽極側泳動用緩衝液容器132及び陰極側泳動用緩衝液容器143における泳動用緩衝液160の水位を確認する。つまり、ユーザは通電が可能な状態であるか否か、つまり乾燥が進んだことで泳動用緩衝液160の水位が低下していないかを確認する。前記したように、一般的に陽極側泳動用緩衝液容器132の及び陰極側泳動用緩衝液容器143には至適水位を示す線が記されているため、ユーザは、この線を目安として乾燥が進んでいるか否かの判断を行う。乾燥が進んでいる場合、ユーザは乾燥が進んでいる容器を交換する。その後、処理は図6AのステップS105へ戻る。
【0075】
また、一般的にキャピラリ電気泳動装置1が稼働していない状態では、キャピラリヘッド302(キャピラリ311の陽極側端部)は陽極側泳動用緩衝液容器132に収容されている泳動用緩衝液160に浸漬している。同様に、キャピラリ電気泳動装置1が稼働していない状態では、キャピラリ311の陰極側端部は陰極側泳動用緩衝液容器143に収容されている泳動用緩衝液160に浸漬している。しかし、陽極側泳動用緩衝液容器132、及び、陰極側泳動用緩衝液容器143の少なくとも一方における泳動用緩衝液160の乾燥が何らかの状況において進行し、共に水位不足となってしまう場合が想定される。その場合、既に前ランにおいてキャピラリ311に充填されている泳動媒体120a自体が乾燥してしまうという状況も想定される。そして、その結果、キャピラリ311の内部に充填されている泳動媒体120aの乾燥が進んでしまう。そのような場合、陽極側泳動用緩衝液容器132及び陰極側泳動用緩衝液容器143を交換しても正常なランの実施は困難である。つまり、キャピラリ311の内部に充填されている泳動媒体120aの乾燥が進んでしまっている場合、陽極側泳動用緩衝液容器132及び陰極側泳動用緩衝液容器143を交換しても、ステップS111において通電状態でエラーが検出される。
【0076】
従って、通電チェック部511がステップS112で「2回目」と判定した場合(S112→2回目)、出力処理部512は、図7Bに示す警告画面702を入出力装置503に出力する(第2警告出力:S114:第2の警告ステップ)。第2警告出力では、図7Bに示すような、キャピラリ311の内部に乾燥が生じているため、キャピラリアレイ300の交換を促す警告画面702が入出力装置503に出力される。なお、通電チェック部511がステップS112で「2回目」と判定した場合とは以下の場合である。即ち、ステップS113の後、ユーザが陽極側泳動用緩衝液容器132及び陰極側泳動用緩衝液容器143を交換し、再度、ステップS111の処理を行っても、通電が確認できない場合である。ただし、前記したように、陽極側泳動用緩衝液容器132及び陰極側泳動用緩衝液容器143の使用保証期間は14日であり、使用保証期間を過ぎると警告が入出力装置503を介して発せられる。従って、陽極側泳動用緩衝液容器132及び陰極側泳動用緩衝液容器143は使用保証期限前に交換されることが多く、キャピラリ311の内部まで乾燥が発生する状況は極めて稀である。つまり、ステップS112で「2回目」が判定されることは稀である。しかし、ステップS112の処理が行われることで、万が一、陽極側泳動用緩衝液容器132及び陰極側泳動用緩衝液容器143の使用保証期間が過ぎた状態で、キャピラリ311の内部まで乾燥が発生している状況を検知し、警告することができる。
【0077】
ステップS111における通電確認が成功した場合(S111→OK)、泳動媒体容器120がキャピラリ311の陽極側端部に対し所定の位置となるよう、サンプルトレイ110が移動する。通電確認が成功とは第2電流計403で計測された電流値が所定の値以上となった場合である(以下の処理においても同様)。この際、廃液容器141はキャピラリ311の陰極側端部に対して所定の位置となる。所定の位置とは、泳動媒体120aの水位が正常(指摘水位に達していれば;泳動媒体120aが所定の量以上であれば)であれば、キャピラリ311の陽極側端部が泳動媒体容器120の泳動媒体120aに接液する位置である。
【0078】
そして、送液装置105が、これから行うランで使用する泳動媒体120aを改めてキャピラリアレイ300に導入する(S121)。これにより、プレランが行われる。なお、送液装置105は、ステップS121でプレランを行うが、泳動媒体120aの水位が足りなければ泳動媒体1200aはキャピラリ311内に導入されない。また、もし、ステップS121で、新たにキャピラリアレイ300内に送液した泳動媒体120a中に気泡が混入すると、キャピラリ311の通電が阻害される。
【0079】
これを確認するため、通電チェック部511はプレラン通電確認を実施する(S122:第2の通電チェックステップ)。プレランとは、前記したようにサンプルの電気泳動に先立って泳動媒体120aをキャピラリアレイ300に導入することである。プレランでは、送液装置105によって、泳動媒体120aがキャピラリ311に導入される。
【0080】
既に陽極側泳動用緩衝液容器132、及び、陰極側泳動用緩衝液容器143の通電状態はステップS111で確認されている。従って、もし、ステップS122でエラーが発生するとすれば、そのエラーの原因は新たに導入された泳動媒体120a由来であることが確定できる。なお、ステップS122において、高圧電源402は新たに電圧(第1電圧)を印加してもよいし、ステップS106から印加され続けた状態であってもよい(後記するステップS124も同様である)。
【0081】
ステップS122で通電状態を確認できなかった場合(S122→エラー)、出力処理部512は図7Cに示すような警告画面703を表示する(第3警告出力:S123:第3の警告ステップ)。
【0082】
ステップS123において、エラー出力とともに、出力処理部512は、図7Cに示すような、泳動媒体容器120の設置状態、泳動媒体120aの水位、及びキャピラリアレイ300内の気泡の確認を促す警告画面703を入出力装置503に表示する。気泡の確認とは図7Cに示すように気泡の有無等を確認することである。ユーザはステップS123で出力された警告画面703を参考に、泳動媒体容器120の設置状態、泳動媒体120aの水位、あるいはキャピラリアレイ300内の気泡の有無の確認を行う。その後、処理は図6AのステップS105へ戻る。このように、ステップS111の段階で通電状態を確認することで、ステップS122におけるエラーが、新たに導入された泳動媒体120aに由来するものであることが特定できる。
【0083】
ステップS122で通電状態が確認できた場合(S122→OK)、サンプル緩衝液容器133がキャピラリヘッド302、及び、電極221に対し、所定の位置となるようサンプルトレイ110が移動する。この際、サンプル容器150はキャピラリ311の陽極側端末に対して所定の位置となる。所定の位置とは、一般的にサンプルのインジェクションが行われる際の位置である。即ち、所定の位置とは、サンプル試薬150a及びサンプル緩衝液133aが正常な量(所定の量以上)であれば、キャピラリヘッド302、及び、電極221がサンプル緩衝液133aに接液し、キャピラリ311の陰極側端部がサンプル試薬150aに接液する位置である。即ち、所定の位置とは、サンプル試薬150a及びサンプル緩衝液133aが至適水位に達していれば(所定の量以上であれば)、キャピラリ311の端部のうち一方がサンプル試薬150aに接液し、他方がサンプル緩衝液133aに接液する位置である。
そして、サンプル容器150に収容されているサンプル試薬150aに対して第1電圧が印加される。
【0084】
そして、通電チェック部511は、通電状態の確認を行う(S124:第3の通電チェックステップ)。ステップS124で行われる通電状態の確認によって、サンプル試薬150a及びサンプル緩衝液133aの水位の確認が行われる。
【0085】
通電状態が確認できなかった場合(S124→エラー)、通電チェック部511は2つの部位おける接触不良であると判定する。2つの部位とはサンプル容器150と、サンプル緩衝液容器133である。従って、出力処理部512は通電状態の確認を促す情報を入出力装置503に出力する(第4警告出力:S125:第4の警告ステップ)。この際、入出力装置503には、図7Dに示すような、サンプル容器150、サンプル緩衝液容器133の確認を促す警告画面704が表示される。サンプル容器150、サンプル緩衝液容器133の確認とは、サンプル容器150に収容されているサンプル試薬150a、及び、サンプル緩衝液容器133に収容されているサンプル緩衝液133aの水位を確認することである。
このように、ステップS125の段階では、既に原因発生箇所が2箇所(サンプル容器150、及び、サンプル緩衝液容器133)に特定されているため、ユーザはエラーに対して迅速に対応することができる。
【0086】
ステップS124においてサンプル通電確認が成功した場合(S124→OK)、キャピラリ電気泳動装置1はキャピラリアレイ300へのサンプルのインジェクションを行う(S131)。サンプルのインジェクションでは、第1電圧より高電圧の第2電圧が高圧電源402によってサンプル試薬150aに印加されることによって行われる。サンプルの導入は多くの場合、電気泳動を利用した電気的注入法が採用される。続いて、キャピラリ電気泳動装置1はランを開始する(S132)。
【0087】
そして、通電チェック部511はラン中も通電路の通電状態の確認を継続して行う(S133:第4の通電チェックステップ)。
ランが順調に完了すれば、つまり、ステップS133の通電チェックの結果、ラン中において通電状態が確認され続ければ(S133→OK)、マイコン500は電気泳動を終了する。
一方、ラン中において通電が確認できない状態(第4の値以下)となった場合(S133→エラー)、出力処理部512はランエラーが発生した旨の情報を入出力装置503に出力する(S134:第5の警告ステップ)。続いて、出力処理部512はサービスへの連絡を促す情報の出力を行う(S135:第5の警告ステップ)。ステップS133の段階でエラーが生じる原因として、キャピラリ311の破損による放電や、液漏れ、キャピラリ311の内部に目に見えないような気泡等が生じていることが考えられる。このような場合、ユーザが対処することは困難であるため、サービスへの連絡が促される図7Eには、ステップS134で出力される内容と、ステップS135で出力される内容が1つの警告画面705で出力されている例が示されている。ただし、ステップS135では、すべての消耗品の交換を促す表示が行われてもよい。このように、ステップS111、S122,S124で段階的に通電チェックが行われることで、ステップS133の段階でのエラーがキャピラリ311の破損による放電や、液漏れ、キャピラリ311の内部に目に見えないような気泡等によることが特定できる。
【0088】
(比較例)
図8は、これまでのキャピラリ電気泳動装置における電気泳動支援方法(比較例)の手順を示すフローチャートである。
図8において、図6Bと同様の処理については同一のステップ番号を付して説明を省略する。そして、図8では図6Bの処理と異なる処理について説明する。また、図6Aに関する処理は比較例においても同様であるため、比較例での図示を省略する。
図8に示す処理で図6Bと異なる点は以下の点である。
(A1)ステップS111の処理が省略されている。
(A2)ステップS122、S124,S133でエラーが検出されると、ランエラー表示が行われ(S141)、消耗品の点検・交換後、再ランが行われる(S142)ことである。ステップS142での消耗品の交換とは、すべての容器の交換を意味する。
【0089】
図6Bに示されるステップS111の有用な点は、図8に示すフローチャートと比較すると明らかになる。これまでのキャピラリ電気泳動装置では、図8に示されるように図6Bに示すステップS111を行わずに、ステップS121の泳動媒体120aの送液を行っている。そして、図8に示すフローチャートでは、ステップS122のプレラン通電確認が初めての電気的な通電確認となる。ステップS122の時点で異常を検知したとしても、この異常の原因が泳動用緩衝液160に由来するものか、泳動媒体120a由来するものか、キャピラリ311の気泡に由来するものであるかの切り分けが困難である。その理由は、事前に(ステップS121の前に)陽極側泳動用緩衝液容器132、陰極側泳動用緩衝液容器143の通電に異常があるか否かが確認されていないためである。また、図8に示す手法では、泳動媒体120aをキャピラリアレイ300に送液してしまった後にエラーが発覚するため、泳動媒体120aを浪費することなる。泳動媒体120aは電気泳動に関する試薬の中で最も高価であり、ランニングコストを上昇させる。
【0090】
このように、これまでのキャピラリ電気泳動装置は、通電異常が確認されるのは、図8に示すプレラン通電確認(S122)以降である。そして、プレラン通電確認でエラーが検出されても、前記したように、ユーザは泳動用緩衝液160に由来するものか、泳動媒体120a由来や、キャピラリ311の気泡に由来するものであるかを特定することが困難である。そのため、ユーザは陽極側泳動用緩衝液容器132、陰極側泳動用緩衝液容器143、泳動媒体容器120、キャピラリアレイ300のすべてを点検する必要があり、行っているランを完全に停止させる必要がある。また、その点検が長時間に及ぶことがある。さらに、ランを再開する場合、最初から(図6AのステップS101から)開始する必要がある。
【0091】
本実施系形態では、この状況を改善すべく、試薬の通電状態をプレラン通電確認(図6BのステップS122)より前の時点で確認とすることで、試薬の交換是非をマイコン500が判断し、結果として異常な消耗品の確認あるいは交換をユーザに促す手法が提供される。これにより、エラー発生時にはエラーの原因を特定の試薬に絞り込むことが可能となり、その情報を元に該当する試薬のみ交換すればよいため、ランを完全に中止することなく(一時中断のみで)再開することができるという効果を奏する。再開する場合、一時中断した時点から動作を再開することができる。結果としてキャピラリ電気泳動装置1のユーザビリティを大幅に向上することができる。
【0092】
例えは、本実施形態では、ステップS122で入出力装置503がエラーを出力した場合、そのエラーの原因が泳動媒体120a由来であると特定できるため、泳動媒体容器120の設置状態、泳動媒体120aの水位の問題を確認し、修正することで迅速にランを継続することが可能となる。
【0093】
換言すれば、図6Bに示す手法では、通電チェック部511がステップS111,S122,S124において消耗品の通電状態を、その都度確認してから、次ステップに進む。そのため、エラー発生時にエラーの原因となる箇所が限定され、それぞれのエラーについて、異なる警告画面701~705が表示される。このため、エラーの解決が容易となる。図8に示す手法ではエラー発生時に提示される情報はステップS141で出力されるランエラーの1つだけである。仮に、ステップS122,S124,S133でエラーを分けることができるとしても、ステップS122の段階では泳動用緩衝液160に由来するものか、泳動媒体120a由来や、キャピラリ311の気泡に由来するものであるかを特定することが困難である。
【0094】
従って、図8に示す手法では、ユーザはエラーの発生原因を絞り込むことが困難であり、実行しているランを停止させ、エラーの原因を1つ1つ探っていかなければならない。これにより、ユーザはランを断念しなければならない場合があった。これに対して、本実施形態で提案される手法(図6Bに示す手法)を適用することで、ランを完全に中断させるランエラーの発生を大幅に低減することができる。結果としてキャピラリ電気泳動装置1のユーザビリティを大幅に向上することができる。
【0095】
更に、図6Bに示す手法で、特筆すべき効果としては、試薬の中でも最も高価な泳動媒体120aの浪費を防止できるという点を挙げることができる。一般に泳動媒体120aは高価であるが、その高価な泳動媒体120aをキャピラリアレイ300に導入する前、具体的には図6Bに示す手法ではステップS111においての陽極側泳動用緩衝液容器132と、陰極側泳動用緩衝液容器143との間の通電状態が事前に確認される。これにより、泳動媒体120aの送液前には泳動媒体120a以外の通電環境に異常はなく、泳動媒体120aの送液中に異常が発生するとすれば、その異常の原因は泳動媒体120aであるということが限定できる。換言すると、泳動媒体120a以外の試薬が原因で泳動媒体120aを浪費する確率を低減することができる。これにより試薬のランニングコストの低減に寄与することができる。
【0096】
また、図6Bに示す手法では、ステップS122や、ステップS124でエラーが検出されると、ステップS105へ処理が戻っている。つまり、サンプルトレイ110が「陽極側泳動用緩衝液容器132 - 陰極側泳動用緩衝液容器143」まで戻る。このような動作は、図8に示す比較例では行われない。
【0097】
このように、本実施形態では、通電チェック部511が、通電路の通電状態をしかるべきタイミング毎にチェックする。これによりエラーの発生源の特定、及び、即時の対策が可能となる。従って、ユーザはランを完全に中止することなく、入出力装置503に提示された指示に基づきエラーを修正することができる。また、いったん中断したランについて、速やかに再開することができる。また、エラーの原因となる消耗品を特定することができるため、エラーとは無関係である消耗品の交換を回避することができる。これによりランニングコストを低減することができる。
【0098】
また、本実施形態によれば、試薬の中でも貴重な生体サンプルの浪費も回避することができる。検体由来の微量サンプルは、容易に購入できないため、これもユーザビリティに大きく寄与する。
【0099】
なお、泳動用緩衝液160、泳動媒体120a、サンプルの状態を電気信号以外で検出する方法として光学方式がある。しかし、光学方式は、高価で複雑な方式となる。本実施形態で提案される手法では、電気信号のみで試薬の状態を確認することができるため、コスト削減を実現することができる。
【0100】
また、本実施形態では、ステップS111,122,S124,S133で電流値が0となった場合に、エラーが検出されている。しかし、これに限らず、電流値が所定の値以下となったっ場合に、エラーが検出されてもよい。
さらに、本実施形態では、ステップS123の後、ステップS105へ処理が戻っているが、ステップS121へ処理が戻るようにしてもよい。同様に、ステップS125の後、ステップS105へ処理が戻っているが、ステップS124へ処理が戻るようにしてもよい。
【0101】
本発明は前記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明したすべての構成を有するものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0102】
また、前記した各構成、機能、各部511,512、記憶装置502等は、それらの一部又はすべてを、例えば集積回路で設計すること等によりハードウェアで実現してもよい。また、図5に示すように、前記した各構成、機能等は、CPU501等のプロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、ROM(Read Only memory)や、RAM(Random Access Memory)に格納すること以外に、HD(Hard Disk)や、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、又は、IC(Integrated Circuit)カードや、SD(Secure Digital)カード、DVD(Digital Versatile Disc)等の記録媒体に格納することができる。
【0103】
また、各実施形態において、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしもすべての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には、ほとんどすべての構成が相互に接続されていると考えてよい。
【符号の説明】
【0104】
1 キャピラリ電気泳動装置(電気泳動装置、電気泳動システム)
100 オートサンプラユニット
110 サンプルトレイ
120 泳動媒体容器
120a 泳動媒体
130 陽極側容器
131 陽極側洗浄容器
131a 陽極側洗浄液
132 陽極側泳動用緩衝液容器
132a 陽極側泳動用緩衝液
133 サンプル緩衝液容器
133a サンプル緩衝液
140 陰極側容器
141 廃液容器
142 陰極側洗浄容器
143 陰極側泳動用緩衝液容器
160 泳動用緩衝液
150 サンプル容器
150a サンプル試薬(サンプルを含む)
160 泳動用緩衝液
200 照射検出/恒温槽ユニット
201 照射検出ユニット
300 キャピラリアレイ
301 ロードヘッダ
302 キャピラリヘッド
311 キャピラリ
312 中空電極
401 第1電流計
402 高圧電源(電源)
403 第2電流計
411,412 GND
500 マイコン(処理装置)
511 通電チェック部
512 出力処理部
701 警告画面(前記泳動用緩衝液の水位の確認を促す出力)
702 警告画面(キャピラリの内部において乾燥が生じている旨の出力)
703 警告画面(泳動媒体の水位、及び、キャピラリの内部における気泡の確認を促す出力)
704 警告画面(サンプル容器におけるサンプル試薬、及び、サンプル緩衝液槽に収容されているサンプル緩衝液の水位の確認を促す出力)
705 警告画面
S111 通電状態の確認(第1の通電チェックステップ)
S113 第1警告出力(第1の警告ステップ)
S114 第2警告出力(第2の警告ステップ)
S121 泳動媒体の導
S122 プレラン通電確認(第2の通電チェックステップ)
S123 第3警告出力(第3の警告ステップ)
S124 通電状態の確認(第3の通電チェックステップ)
S125 第4警告出力(第4の警告ステップ)
S132 ランの開
S133 通電状態の確認(第4の通電チェックステップ)
S134 ランエラー表示(第5の警告ステップ)
S135 サービスへの連絡表示(第5の警告ステップ)
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E
図8