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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】樹脂組成物およびそれを用いた光学フィルム
(51)【国際特許分類】
   C08L 1/00 20060101AFI20241112BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20241112BHJP
   C08K 5/13 20060101ALI20241112BHJP
   C08K 5/36 20060101ALI20241112BHJP
   C08L 35/04 20060101ALI20241112BHJP
   C08L 37/00 20060101ALI20241112BHJP
   C08L 39/04 20060101ALI20241112BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
C08L1/00
C08J5/18 CEP
C08J5/18 CER
C08K5/13
C08K5/36
C08L35/04
C08L37/00
C08L39/04
G02B5/30
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019175041
(22)【出願日】2019-09-26
(65)【公開番号】P2021050291
(43)【公開日】2021-04-01
【審査請求日】2022-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 正泰
(72)【発明者】
【氏名】藤井 靖芳
(72)【発明者】
【氏名】北川 貴裕
【審査官】前田 孝泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-165794(JP,A)
【文献】特開2019-026678(JP,A)
【文献】特開2019-019303(JP,A)
【文献】国際公開第2018/105561(WO,A1)
【文献】特開2015-157928(JP,A)
【文献】特開2010-241847(JP,A)
【文献】特開2018-135449(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/16
C08J 3/00- 7/18
G02B 1/00- 1/18
G02B 5/00- 5/32
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されるセルロース残基単位からなるセルロース樹脂(A)を50重量%以上98.98重量%以下と、
下記一般式(2)で示されるケイ皮酸エステル残基単位および下記一般式(3)で示される残基単位を含むケイ皮酸エステル共重合体(B)1重量%以上49.98重量%以下と、分子量350以上の酸化防止剤であって、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤からなる群の少なくとも1種である酸化防止剤(C)0.01重量%以上1.0重量%以下含有する樹脂組成物。
【化1】
(式中、R、R、Rはそれぞれ独立して水素原子または炭素数1~12の置換基を示す。)
【化2】
(式中、Rは水素原子または炭素数1~12のアルキル基を示す。R~Rは水素原子、ニトロ基、ブロモ基、ヨード基、シアノ基、クロロ基、スルホン酸基、カルボン酸基、フルオロ基、フェニル基、チオール基、アミド基、アミノ基、水酸基、炭素数1~12のアルコキシ基、または炭素数1~12のアルキル基を示す。Yはニトロ基、ブロモ基、ヨード基、シアノ基、クロロ基、スルホン酸基、カルボン酸基、フルオロ基、チオール基を示す。)
【化3】
(式中、R10はヘテロ原子として窒素原子もしくは酸素原子を1つ以上含む5員環複素環残基またはヘテロ原子として窒素原子もしくは酸素原子を1つ以上含む6員環複素環残基(前記5員環複素環残基および前記6員環複素環残基は他の環状構造と縮合環構造を形成してもよい)を示す。)
【請求項2】
ケイ皮酸エステル共重合体(B)が、前記一般式(2)で示される残基単位および前記一般式(3)で示される残基単位を含み、さらに以下の一般式(4)で表される残基単位を有する請求項1に記載の樹脂組成物。
【化4】
(ここで、R11、R12はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1~12の直鎖状アルキル基、炭素数3~12の分岐状アルキル基、または炭素数3~6の環状アルキル基を示す。)
【請求項3】
ケイ皮酸エステル共重合体(B)において、前記一般式(2)のケイ皮酸エステル残基単位に係る単量体成分の比率が、全単量体成分の合計100mol%に対し21mol%以上50mol%以下である請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1乃至3いずれか一項に記載の樹脂組成物を含むフィルム。
【請求項5】
下記式(5)で示されるレタ-デ-ション(Re)が30nm以上300nm以下であり、下記式(6)で示されるNz係数が0.3以上1.5以下であり、かつ、450nmにおけるレタ-デ-ション(Re(450))と550nmにおけるレタ-デ-ション(Re(550))の比Re(450)/Re(550)が0.60を超え1.05未満である請求項4に記載のフィルム。
Re=(ny-nx)×d (5)
Nz=(ny-nz)/(ny-nx) (6)
(式中、nxはフィルム面内の進相軸方向の屈折率を示し、nyはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率を示し、nzはフィルム面外の屈折率を示し、dはフィルム厚みを示す。)
【請求項6】
厚さ30μm、測定波長500nmから650nmにおける全光線透過率が85%以上である請求項4または5に記載のフィルム。
【請求項7】
黄色度YIが1.7以下である請求項4乃至6いずれか一項に記載のフィルム。
【請求項8】
厚さ30μm、測定波長500nmから650nmにおけるヘーズが3.0%以下である請求項4乃至7いずれか一項に記載のフィルム。
【請求項9】
85℃環境下500時間後におけるYIが1.7以下である請求項4乃至8いずれか一項に記載のフィルム。
【請求項10】
85℃環境下500時間の高温処理後の黄色度YIの変化量が1.0未満である請求項4乃至9いずれか一項に記載のフィルム。
【請求項11】
85℃環境下500時間の高温処理後のヘーズの変化量が2.0%未満である請求項4乃至10いずれか一項に記載のフィルム。
【請求項12】
請求項4乃至11いずれか一項に記載のフィルムを用いた偏光板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物およびそれを用いたフィルムに関するものであり、より詳しくは、位相差特性および波長分散特性並びに耐熱性に優れた液晶ディスプレイおよび有機EL用の光学フィルムに好適な樹脂組成物およびそれを用いた光学フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、種々のディスプレイにおいて、表示性能や耐久性に対する要求がより高くなり、応答速度の向上や、表示画像に対して斜め方向から観察した場合のコントラストやカラーバランスといった視野角をより広範囲で補償することが課題となっている。これらの課題を解決すべく、VA(Vertical Alignment)方式、OCB(Optical Compensated Bend)方式、またはIPS(In-Plane Swiching)方式の表示素子が開発され、それぞれの液晶方式に応じた、様々なレターデーション発現性を有する光学補償フィルム材料が要求されている。
【0003】
従来の光学補償フィルムとしては、セルロース系樹脂、ポリカーボネートや環状ポリオレフィンなどの延伸フィルムが用いられている。特にセルロースアシレートなどのセルロース系樹脂からなる延伸フィルムは、その透明性、強靭性、プロセス上必要である透湿性や低い波長分散性から、液晶表示装置向けの光学補償フィルムとして広く利用されている。
【0004】
しかしながら、セルロ-ス系樹脂からなる光学補償フィルムはいくつかの課題がある。例えば、セルロ-ス系樹脂フィルムは延伸条件を調整することで各種ディスプレイにあわせた位相差値を持つ光学補償フィルムに加工されるが、セルロ-ス系樹脂フィルムの一軸または二軸延伸により得られるフィルムの三次元屈折率は、ny≧nx>nzであり、それ以外の3次元屈折率、例えば、ny>nz>nxや、ny=nz>nxなどの3次元屈折率を有する光学補償フィルムを製造するためには、フィルムの片面または両面に熱収縮性フィルムを接着し、その積層体を加熱延伸処理して、高分子フィルムの厚み方向に収縮力をかけるなど特殊な延伸方法が必要であり屈折率(位相差値)の制御も困難である(例えば、特許文献1~3参照)。ここでnxはフィルム面内の進相軸方向(最も屈折率の小さい方向)の屈折率、nyはフィルム面内の遅相軸方向(最も屈折率の大きい方向)の屈折率、nzはフィルム面外(厚み方向)の屈折率を示す。
【0005】
また、セルロ-ス系樹脂フィルムは一般に溶剤キャスト法により製造されるが、キャスト法により成膜したセルロ-ス系樹脂フィルムはフィルム厚み方向に40nm程度の面外位相差(Rth)を有するため、IPSモ-ドの液晶ディスプレイなどではカラ-シフトが起こるなどの問題がある。ここで面外位相差(Rth)は以下の式で示される位相差値である。
Rth=[(nx+ny)/2-nz]×d
(式中、nxはフィルム面内の進相軸方向の屈折率、nyはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率、nzはフィルム面外の屈折率を示し、dはフィルム厚みを示す。)
また、フマル酸エステル系樹脂からなる位相差フィルム(光学補償フィルム)が提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【0006】
しかしながら、フマル酸エステル系樹脂からなる延伸フィルムの3次元屈折率は、nz>ny>nxであり、上記3次元屈折率を示す光学補償フィルムを得るためには他の光学補償フィルム等との積層などが必要である。
【0007】
そこで、上記3次元屈折率を示す光学補償フィルムとして、樹脂組成物およびそれを用いた光学補償フィルムが提案されている(例えば、特許文献5~特許文献7参照)。特許文献5~特許文献7は光学補償フィルムとして優れた性能を有するものの、より薄い膜で目的とするReを発現させる光学補償フィルムが求められている。
【0008】
ここで、一般に光学補償フィルムは反射型液晶表示装置、タッチパネルや有機ELの反射防止層としても用いられるものであり、該用途では、特に長波長域ほどレタ-デ-ションが大きい光学補償フィルム(以下、「逆波長分散フィルム」という)が求められるものである。例えば、有機EL用円偏光板の光学補償フィルムとして逆波長分散フィルムが用いられる場合、位相差は測定波長λの1/4程度が好ましく、450nmにおけるレタ-デ-ションと550nmにおけるレタ-デ-ションの比Re(450)/Re(550)はディスプレイの構成により異なるが、一般的には0.80~0.86程度が好ましい。そして、表示装置の薄型化を鑑みた場合、使用される逆波長分散フィルムも薄いことが求められる。上記のような要求特性に対し、種々の光学補償フィルムが開発されている。
【0009】
上記3次元屈折率を示し、かつ、逆波長分散フィルムとして用いられる位相差フィルム(光学補償フィルム)としてセルロース系樹脂およびフマル酸エステル重合体を含有する位相差フィルムが提案されている(例えば、特許文献8および特許文献9参照)。しかしながら、特許文献8および特許文献9に記載の位相差フィルムは、エチルセルロースの分解による脆化や着色、芳香族基や多環芳香族基を多く有する負の複屈折を示すエステル系樹脂の着色等により、高温環境に対する耐久性に課題を有し、高温下においてより安定性の高い光学補償フィルムが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特許2818983号公報
【文献】特開平5-297223号公報
【文献】特開平5-323120号公報
【文献】特開2008-64817号公報
【文献】特開2013-28741号公報
【文献】特開2014-125609号公報
【文献】特開2014-125610号公報
【文献】特開2015-157928号公報
【文献】特開2019-19303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、位相差特性および波長分散特性に優れた樹脂組成物を用いたフィルムであって、高温下において安定性の高い光学フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の酸化防止剤を含む樹脂組成物およびそれを用いた光学フィルムが上記課題を解決することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、下記一般式(1)で示されるセルロ-ス樹脂(A)を50重量%以上98.99重量%以下、
下記一般式(2)で示されるケイ皮酸エステル残基単位および下記一般式(3)で示される残基単位を含むケイ皮酸エステル共重合体(B)を1重量%以上49.99重量%以下、
分子量が350以上である酸化防止剤(C)を0.01重量%以上5.0重量%以下含有する樹脂組成物に関するものである。
【0014】
【化1】
(式中、R、R、Rはそれぞれ独立して水素原子または炭素数1~12の置換基を示す。)
【0015】
【化2】
(式中、Rは水素原子または炭素数1~12のアルキル基を示す。R~Rは水素原子、ニトロ基、ブロモ基、ヨード基、シアノ基、クロロ基、スルホン酸基、カルボン酸基、フルオロ基、フェニル基、チオール基、アミド基、アミノ基、水酸基、炭素数1~12のアルキル基または炭素数1~12のアルコキシ基を示す。Yはニトロ基、ブロモ基、ヨード基、シアノ基、クロロ基、スルホン酸基、カルボン酸基、フルオロ基、チオール基、アミド基、エステル基を示す。)
【0016】
【化3】
(式中、R10はヘテロ原子として窒素原子もしくは酸素原子を1つ以上含む5員環複素環残基または6員環複素環残基(前記5員環複素環残基および前記6員環複素環残基は他の環状構造と縮合環構造を形成してもよい)を示す。)
【0017】
以下に、本発明の内容について詳細に説明する。
【0018】
本発明の樹脂組成物は、前記一般式(1)で示されるセルロ-ス樹脂(A)を50重量%以上98.99重量%以下と、
前記一般式(2)で示されるケイ皮酸エステル残基単位および前記一般式(3)で示される残基単位を含むケイ皮酸エステル共重合体(B)を1重量%以上49.99重量%以下と、
分子量が350以上である酸化防止剤(C)を0.01重量%以上5.0重量%以下とを含有する樹脂組成物である。
【0019】
本発明の樹脂組成物が含有するセルロース樹脂(A)は、下記一般式(1)で示される。
【0020】
【化4】
(式中、R、R、Rはそれぞれ独立して水素原子または炭素数1~12の置換基を示す。)
【0021】
セルロ-ス樹脂としては、例えば、セルロース及び/またはセルロース誘導体を例示できる。セルロース誘導体としては、セルロースにおける水酸基の少なくとも一部がエーテル化されたセルロ-スエ-テル、同様に水酸基の少なくとも一部がエステル化されたセルロ-スエ-テルエステル等が挙げられる。そして、本発明の樹脂組成物は、これらのセルロ-ス樹脂を1種または2種以上含有していてもよい。
【0022】
本発明において、セルロース樹脂の置換度(以下、「DS」という。)は、1.5以上2.95以下であることが好ましく、さらに好ましくは1.8以上2.8以下である。これにより、本発明の樹脂組成物は、その溶解性、相溶性、延伸加工性の点でより優れる。ここでDSとは、セルロ-ス誘導体において、セルロースの水酸基が置換されている割合として定義でき、100%置換している場合はDS=3を意味する。DSの測定方法は、第十七改正日本薬局方に記載のように、セルロースを誘導体とする反応後の置換基の脱離後のガスクロマトグラフィーピーク面積から計算することができる。置換基が2種類以上ある場合、それぞれ分けて置換度を表記する。エチルセルロースを用いる場合、DSはエチル基の置換度である。
【0023】
セルロ-ス樹脂は、機械特性に優れ、製膜時の成形加工性に優れたものとなることから、ゲル・パ-ミエイション・クロマトグラフィ-(GPC)により測定した溶出曲線より得られる標準ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が1×10~1×10であることが好ましく、5×10~2×10であることがさらに好ましい。
【0024】
セルロ-ス樹脂は、セルロースエーテルであることが好ましい。これにより、ケイ皮酸エステル共重合体(B)との相溶性の点でより優れ、かつ、得られる組成物の面内位相差Reがより大きく、更に延伸加工性に優れる。
【0025】
セルロ-スエ-テルは、β-グルコース単位が直鎖状に重合した高分子であり、グルコ-ス単位の2位、3位および6位の水酸基の一部または全部をエ-テル化したポリマ-である。
【0026】
式(1)のセルロ-スエ-テルにおいては、R~Rはそれぞれ独立して水素原子または炭素数1~12の置換基を表す。溶解性、相溶性の点から、R~Rは炭素数1~12の置換基であることが好ましい。炭素数1~12の置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デカニル基、ドデカニル基、イソブチル基、t-ブチル基、シクロヘキシル基、フェノニル基、ベンジル基、ナフチル基等を挙げることができる。これらの中でも、溶解性、相溶性の点から、炭素数1~5のアルキル基であるメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基が好ましい。
【0027】
本発明で用いるセルロ-スエーテルの水酸基は、1種類のエーテル基で置換されていてもよく、2種類以上のエ-テル基で置換された、例えばエチルメチルセルロース等でもよい。また、エ-テル基の他にエステル基で置換されていてもよい。
【0028】
セルロ-スエ-テルとしては、例えば、メチルセルロ-ス、エチルセルロ-ス、プロピルセルロ-ス等のアルキルセルロ-ス;ヒドロキシエチルセルロ-ス、ヒドロキシプロピルセルロ-ス等のヒドロキシアルキルセルロ-ス;ベンジルセルロ-ス、トリチルセルロ-ス等のアラルキルセルロ-ス;シアノエチルセルロ-ス等のシアノアルキルセルロ-ス;カルボキシメチルセルロ-ス、カルボキシエチルセルロ-ス等のカルボキシアルキルセルロ-ス;カルボキシメチルメチルセルロ-ス、カルボキシメチルエチルセルロ-ス等のカルボキシアルキルアルキルセルロ-ス;アミノエチルセルロ-ス等のアミノアルキルセルロ-ス等が挙げられる。セルロースエーテルは、メチルセルロース、エチルセルロースまたはプロピルセルロースからなる群の少なくとも1種であることが好ましい。これにより、ケイ皮酸エステル共重合体との相溶性の点でより優れたものとなる。
【0029】
セルロ-スエ-テルは一般に、木材又はコットンより得たセルロ-スパルプをアルカリ分解し、アルカリ分解したセルロ-スパルプをエ-テル化することで合成される。アルカリとしては、リチウム,カリウム,ナトリウムなどのアルカリ金属の水酸化物やアンモニアなどが利用できる。前記アルカリは一般に、水溶液として使用される。そして、アルカリ分解されたセルロ-スパルプは、エ-テル化剤と接触されることによりエ-テル化されるものである。エ-テル化剤としては、例えば、塩化メチル、塩化エチル等のハロゲン化アルキル;ベンジルクロライド、トリチルクロライド等のハロゲン化アラルキル;モノクロロ酢酸、モノクロロプロピオン酸等のハロカルボン酸;エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等のアルキレンオキサイド等が挙げられる。目的とするセルロース誘導体の種類に応じて所望のエーテル化剤を用いればよく、エ-テル化剤は単独又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0030】
例えば、セルロース樹脂をエーテル化する場合には、アルカリ処理後に塩化物等でエーテル化反応を行う方法を例示できる。
【0031】
なお、必要であれば、エーテル化後、粘度調整のため塩化水素、臭化水素、塩酸、及び硫酸等で解重合処理してもよい。
【0032】
本発明の樹脂組成物は、以下の一般式(2)で示されるケイ皮酸エステル残基単位および以下の一般式(3)で示される残基単位を含むケイ皮酸エステル共重合体(B)を含む。
【0033】
【化5】
(式中、Rは水素原子または炭素数1~12のアルキル基を示す。R~Rは水素原子、ニトロ基、ブロモ基、ヨード基、シアノ基、クロロ基、スルホン酸基、カルボン酸基、フルオロ基、フェニル基、チオール基、アミド基、アミノ基、水酸基、炭素数1~12のアルキル基または炭素数1~12のアルコキシ基を示す。Yはニトロ基、ブロモ基、ヨード基、シアノ基、クロロ基、スルホン酸基、カルボン酸基、フルオロ基、チオール基を示す。)
【0034】
【化6】
(式中、R10はヘテロ原子として窒素原子もしくは酸素原子を1つ以上含む5員環複素環残基または6員環複素環残基(前記5員環複素環残基および前記6員環複素環残基は他の環状構造と縮合環構造を形成してもよい)を示す。)
【0035】
ケイ皮酸エステル共重合体(B)は、負の複屈折性を示す。これは前記一般式(2)および前記一般式(3)で示される残基単位を含むことに起因する。
【0036】
ここで、複屈折の正負は以下に示すように定義される。
負の複屈折とは延伸方向が進相軸方向となるものであり、正の複屈折とは延伸方向の垂直方向が進相軸方向となるものである。つまり、一軸延伸すると延伸軸と直交する軸方向の屈折率が小さく(進相軸:延伸方向の垂直方向)なるものを正の複屈折を示す樹脂、一軸延伸すると延伸軸方向の屈折率が小さく(進相軸:延伸方向)なるものを負の複屈折を示す樹脂という。そして、ケイ皮酸エステル共重合体(B)における負の複屈折性の発現性が大きいことにより光学補償フィルムの薄膜化が図れる。
【0037】
一般式(2)におけるRとしては、水素原子または炭素数1~12のアルキル基を示す。炭素数1~12のアルキル基としては、メチル基、エチル基、イソプロキル基、n-プロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、エチルヘキシル基を例示できる。
一般式(2)におけるR~Rとしては、水素原子、ニトロ基、ブロモ基、ヨード基、シアノ基、クロロ基、スルホン酸基、カルボン酸基、フルオロ基、フェニル基、チオール基、アミノ基、水酸基、炭素数1~12のアルキル基または炭素数1~12のアルコキシ基を示す。
一般式(2)におけるYとしては、ニトロ基、ブロモ基、ヨード基、シアノ基、クロロ基、スルホン酸基、カルボン酸基、フルオロ基、チオール基を示す。
【0038】
具体的な一般式(2)で表される残基単位としては、例えば、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸メチル残基単位、α-シアノ-2-ヒドロキシケイ皮酸エチル残基単位、α-シアノ-3-ヒドロキシケイ皮酸エチル残基単位、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸エチル残基単位、α-シアノ-2,4-ジヒドロキシケイ皮酸メチル残基単位等のα-シアノ-ヒドロキシケイ皮酸エステル残基単位;α-シアノ-4-カルボキシケイ皮酸メチル残基単位、α-シアノ-4-カルボキシケイ皮酸エチル残基単位、α-シアノ-2,3-ジカルボキシケイ皮酸メチル残基単位、α-シアノ-2,3-ジカルボキシケイ皮酸エチル残基単位等のα-シアノ-カルボキシケイ皮酸エステル残基単位;α-シアノ-2-カルボキシ-3-ヒドロキシケイ皮酸メチル残基単位、α-シアノ-2-カルボキシ-3-ヒドロキシケイ皮酸エチル残基単位等のα-シアノ-カルボキシ-ヒドロキシケイ皮酸エステル残基単位;ヒドロキシベンジリデンマロン酸ジメチル残基単位、ヒドロキシベンジリデンマロン酸ジエチル残基単位、ヒドロキシベンジリデンマロン酸ジn-プロピル残基単位、ヒドロキシベンジリデンマロン酸ジイソプロピル残基単位等のヒドロキシベンジリデンマロン酸ジエステル残基単位;カルボキシベンジリデンマロン酸ジメチル残基単位、カルボキシベンジリデンマロン酸ジエチル残基単位、カルボキシベンジリデンマロン酸ジn-プロピル残基単位、カルボキシベンジリデンマロン酸ジイソプロピル残基単位等のカルボキシベンジリデンマロン酸ジエステル残基単位;が好ましく、α-シアノ-ヒドロキシケイ皮酸エステル残基単位;α-シアノ-カルボキシケイ皮酸エステル残基単位;カルボキシベンザルマロノニトリル残基単位、ヒドロキシベンジリデンマロン酸ジエステル残基単位、カルボキシベンジリデンマロン酸ジエステル残基単位がさらに好ましい。
【0039】
ケイ皮酸エステル共重合体(B)において、一般式(2)で表される残基単位は前記例示における残基単位を1種含んでいてもよく、2種以上の複数種含んでもよい。
【0040】
一般式(3)におけるR10は、ヘテロ原子として窒素原子もしくは酸素原子を1つ以上含む5員環複素環残基または6員環複素環残基(前記5員環複素環残基および前記6員環複素環残基は他の環状構造と縮合環構造を形成してもよい)を示す。
【0041】
具体的な一般式(3)で表される残基単位としては、例えば、1-ビニルピロール残基単位、2-ビニルピロール残基単位、1-ビニルインドール残基単位、9-ビニルカルバゾール残基単位、2-ビニルキノリン残基単位、4-ビニルキノリン残基単位、N-ビニルフタルイミド残基単位、N-ビニルスクシンイミド残基単位、2-ビニルフラン残基単位、2-ビニルベンゾフラン残基単位、スチレン残基単位、2-ビニルナフタレン残基単位が好ましく、9-ビニルカルバゾール残基単位、N-ビニルフタルイミド残基単位がさらに好ましい。
【0042】
ケイ皮酸エステル共重合体(B)において、前記一般式(2)のケイ皮酸エステル残基単位に係る単量体成分は、全単量体成分の合計100mol%に対し21mol%以上50mol%以下を含むことが好ましい。
【0043】
ケイ皮酸エステル共重合体(B)は、前記一般式(2)および(3)以外に、以下の式(4)で表される残基単位を有することが好ましい。
【0044】
【化7】
(ここで、R11、R12はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1~12の直鎖状アルキル基、炭素数3~12の分岐状アルキル基、または炭素数3~6の環状アルキル基を示す。)
【0045】
一般式(4)で示される残基単位におけるR11、R12はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1~12の直鎖状アルキル基、炭素数3~12の分岐状アルキル基、または炭素数3~6の環状アルキル基を示す。
【0046】
11、R12における炭素数1~12の直鎖状アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基等が挙げられる。
11、R12における炭素数1~12の分岐状アルキル基としては、例えば、イソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等が挙げられる。
11、R12における炭素数3~6の環状アルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0047】
一般式(4)におけるR11、R12としては、光の波長450nmにおける面内位相差(Re)と光の波長550nmにおける面内位相差(Re)の比Re(450)/Re(550)が良好となることから、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、3-ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、イソへキシル基、ネオへキシル基が好ましく、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基がさらに好ましい。
【0048】
一般式(4)で表される残基単位は、アクリル樹脂残基単位であることが好ましい。一般式(4)で表されるアクリル樹脂残基単位の具体的な例示として、アクリル酸残基単位、メタクリル酸残基単位、2-エチルアクリル酸残基単位、2-プロピルアクリル酸残基単位、2-イソプロピルアクリル酸残基単位、2-ペンチルアクリル酸残基単位、2-ヘキシルアクリル酸残基単位、アクリル酸メチル残基単位、アクリル酸エチル残基単位、アクリル酸n-プロピル残基単位、アクリル酸イソプロピル残基単位、アクリル酸n-ブチル残基単位、アクリル酸イソブチル残基単位、アクリル酸sec-ブチル残基単位、アクリル酸n-ペンチル残基単位、アクリル酸イソペンチル残基単位、アクリル酸sec-ペンチル残基単位、アクリル酸3-ペンチル残基単位、アクリル酸ネオペンチル残基単位、アクリル酸n-へキシル残基単位、アクリル酸イソへキシル残基単位、アクリル酸ネオへキシル残基単位、メタクリル酸メチル残基単位、メタクリル酸エチル残基単位、メタクリル酸n-プロピル残基単位、メタクリル酸イソプロピル残基単位、メタクリル酸n-ブチル残基単位、メタクリル酸イソブチル残基単位、メタクリル酸sec-ブチル残基単位、メタクリル酸n-ペンチル残基単位、メタクリル酸イソペンチル残基単位、メタクリル酸sec-ペンチル残基単位、メタクリル酸3-ペンチル残基単位、メタクリル酸ネオペンチル残基単位、メタクリル酸n-へキシル残基単位、メタクリル酸イソへキシル残基単位、メタクリル酸ネオへキシル残基単位、2-エチルアクリル酸メチル残基単位、2-エチルアクリル酸エチル残基単位、2-エチルアクリル酸n-プロピル残基単位、2-エチルアクリル酸イソプロピル残基単位、2-エチルアクリル酸n-ブチル残基単位、2-エチルアクリル酸イソブチル残基単位、2-エチルアクリル酸sec-ブチル残基単位等が挙げられる。
【0049】
このなかでも、光の波長450nmにおける面内位相差(Re)と光の波長550nmにおける面内位相差(Re)の比Re(450)/Re(550)が良好となることから、アクリル酸メチル残基単位、アクリル酸エチル残基単位、アクリル酸n-プロピル残基単位、アクリル酸イソプロピル残基単位、アクリル酸n-ブチル残基単位、アクリル酸イソブチル残基単位、アクリル酸sec-ブチル残基単位、メタクリル酸メチル残基単位、メタクリル酸エチル残基単位、メタクリル酸n-プロピル残基単位、メタクリル酸イソプロピル残基単位、メタクリル酸n-ブチル残基単位、メタクリル酸イソブチル残基単位、メタクリル酸sec-ブチル残基単位、メタクリル酸メチル残基単位、メタクリル酸エチル残基単位、メタクリル酸n-プロピル残基単位、メタクリル酸イソプロピル残基単位、メタクリル酸n-ブチル残基単位、メタクリル酸イソブチル残基単位、メタクリル酸sec-ブチル残基単位が好ましく、メタクリル酸メチル残基単位、メタクリル酸エチル残基単位、メタクリル酸n-プロピル残基単位、メタクリル酸イソプロピル残基単位、メタクリル酸n-ブチル残基単位、メタクリル酸イソブチル残基単位、メタクリル酸sec-ブチル残基単位がさらに好ましい。
【0050】
ケイ皮酸エステル共重合体(B)は、一般式(2)で表されるケイ皮酸エステル残基単位、一般式(3)で表される残基単位および一般式(4)で表される残基単位を含むことが好ましい。ケイ皮酸エステル共重合体(B)は、良好な相溶性を発現し、異種ポリマーとの複合化を容易にするのにより好適なものとなることから、α-シアノ-2-ヒドロキシケイ皮酸エステル-スチレン-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-2-ヒドロキシケイ皮酸エステル-2-ビニルナフタレン-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-2-ヒドロキシケイ皮酸エステル-1-ビニルインドール-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-2-ヒドロキシケイ皮酸エステル-9-ビニルカルバゾール-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-3-ヒドロキシケイ皮酸エステル-スチレン-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-3-ヒドロキシケイ皮酸エステル-2-ビニルナフタレン-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-3-ヒドロキシケイ皮酸エステル-1-ビニルインドール-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-3-ヒドロキシケイ皮酸エステル-9-ビニルカルバゾール-アクリル酸エステル共重合体、4-ヒドロキシ-α-シアノケイ皮酸エステル-スチレン-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸エステル-2-ビニルナフタレン-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸エステル-1-ビニルインドール-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸エステル-9-ビニルカルバゾール-アクリル酸エステル共重合体、2-ヒドロキシ-α-シアノケイ皮酸エステル-スチレン-メタクリル酸エステル共重合体、2-ヒドロキシ-α-シアノケイ皮酸エステル-2-ビニルナフタレン-メタクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-2-ヒドロキシケイ皮酸エステル-1-ビニルインドール-メタクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-2-ヒドロキシケイ皮酸エステル-9-ビニルカルバゾール-メタクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-3-ヒドロキシケイ皮酸エステル-スチレン-メタクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-3-ヒドロキシケイ皮酸エステル-2-ビニルナフタレン-メタクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-3-ヒドロキシケイ皮酸エステル-1-ビニルインドール-メタクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-3-ヒドロキシケイ皮酸エステル-9-ビニルカルバゾール-メタクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸エステル-スチレン-メタクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸エステル-2-ビニルナフタレン-メタクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸エステル-1-ビニルインドール-メタクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸エステル-9-ビニルカルバゾール-メタクリル酸エステル共重合体が好ましい。
【0051】
ケイ皮酸エステル共重合体(B)は、一般式(2)で表される残基単位、一般式(3)で表される残基単位および一般式(4)で表される残基単位を含んでなることにより、より薄膜においても高い位相差を発現することを特徴とする。
【0052】
ケイ皮酸エステル共重合体(B)において、前記一般式(2)のケイ皮酸エステル残基単位に係る単量体成分は、全単量体成分の合計100mol%に対し21mol%以上50mol%以下を含むことが好ましい。一般式(3)で表される残基単位は全単量体成分の合計100mol%に対し21mol%以上65mol%以下を含むことが好ましい。
【0053】
ケイ皮酸エステル共重合体(B)が式(2)及び式(3)の残基単位を含む場合、式(2)に係る単量体成分は、式(2)と式(3)の合計100mol%に対し21mol%以上70mol%以下含むことが好ましく、35mol%以上60mol%以下含むことが好ましい。
【0054】
ケイ皮酸エステル共重合体(B)が式(2)、式(3)及び式(4)の残基単位を含む場合、各残基単位成分の含有量は
式(2) 21mol%以上49mol%以下
式(3) 35mol%以上60mol%以下
式(4) 1mol%以上30mol%以下
であることが好ましい。これにより、本発明の樹脂組成物をフィルムとして使用する際の位相差特性により優れる。
【0055】
ここで、共重合体(B)の組成比は、H-NMRにより測定することができる。
【0056】
ケイ皮酸エステル共重合体(B)は、前記一般式(2)~(4)以外の単量体残基単位を含有してもよい。そのような単量体残基単位としては、例えば、スチレン残基、α-メチルスチレン残基などのスチレン類残基;アクリル酸残基;アクリル酸エステル残基;メタクリル酸残基;メタクリル酸エステル残基;酢酸ビニル残基、プロピオン酸ビニル残基などのビニルエステル類残基;メチルビニルエ-テル残基、エチルビニルエ-テル残基、ブチルビニルエ-テル残基などのビニルエ-テル残基;N-メチルマレイミド残基、N-シクロヘキシルマレイミド残基、N-フェニルマレイミド残基などのN-置換マレイミド残基;アクリロニトリル残基;メタクリロニトリル残基;ケイ皮酸残基;フマル酸エステル残基;フマル酸残基;エチレン残基、プロピレン残基などのオレフィン類残基等の1種または2種以上を挙げることができる。
【0057】
ケイ皮酸エステル共重合体(B)は、特に機械特性に優れ、製膜時の成形加工性に優れたものとなることから、ゲル・パ-ミエイション・クロマトグラフィ-(GPC)により測定した溶出曲線より得られる標準ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が1×10~5×10のものであることが好ましく、5×10~3×10であることがさらに好ましい。
【0058】
ケイ皮酸エステル共重合体(B)の製造方法としては、該共重合体が得られる限りにおいて如何なる方法により製造してもよく、ラジカル重合を行うことにより製造することができる。
【0059】
ラジカル重合の方法としては、例えば、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、沈殿重合法、乳化重合法等のいずれもが採用可能である。
【0060】
本発明の樹脂組成物が含有する酸化防止剤(C)は、その分子量が350以上である。好ましくは酸化防止剤の分子量は500以上である。
【0061】
ここで、本発明の樹脂組成物が酸化防止剤を含有することは、例えば、樹脂組成物のUV-可視吸収スペクトルの測定により判断することができる。
【0062】
酸化防止剤(C)は、ラジカル補足剤、過酸化物分解剤、ラジカル連鎖開始阻害剤として機能するものである。これらは1種または2種以上の混合物を使用することもできる。ラジカル補足剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、ヒンダードアミン系安定剤が挙げられる。過酸化物分解剤としてはリン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤が挙げられる。ラジカル連鎖開始阻害剤としては金属不活性化剤、紫外線吸収剤、クエンチャーが挙げられる。この中でも特に、着色性が少なく、少量での酸化防止効果が大きいことから、フェノール系酸化防止剤およびフェノール系酸化防止剤とリン酸エステルとの併用が好ましい。
【0063】
本発明において、フェノール系酸化防止剤としては、フェノール基を有する分子量350以上の化合物であり、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、セミヒンダード系酸化防止剤、レスヒンダード系酸化防止剤が挙げられる。ヒンダードフェノール系酸化防止剤としてはオクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート、ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]、1,3,5-トリス[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン等が市販品として入手可能である。セミヒンダード系酸化防止剤としてはビス[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオン酸][エチレンビス(オキシエチレン)]、3,9-ビス{2-[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ]-1,1-ジメチルエチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン等が挙げられる。レスヒンダードフェノールとしては1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ブタン等が挙げられる。この中でも特に着色性が少なく、少量での酸化防止効果が大きいことからビス[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオン酸][エチレンビス(オキシエチレン)]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート、ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート)が好ましい。
【0064】
本発明において、リン系酸化防止剤としては、亜リン酸エステル基を有する分子量350以上の化合物であれば特に制限はなく、例えば、亜りん酸トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)、3,9-ビス(オクタデシルオキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチル-フェニル)-2-エチルヘキシルホスファイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニルジホスホナイト等が挙げられる。この中でも特に加水分解の比較的少ない3,9-ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、亜りん酸トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニルジホスホナイトが好ましい。
【0065】
本発明において、ヒンダードアミン系安定剤としては、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン構造を有する分子量350以上の化合物であれば特に制限はなく、セバシン酸ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)、セバシン酸1-メチル10-(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)、コハク酸ジメチル・1-(2-ヒドロキシエチル)-4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジン重合体、セバシン酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)、[6-[(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ]-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル][(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)イミノ]-1,6-ヘキサンジイル(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)イミノ]重合体、ビス(1-ウンデカノキシ-2,2,6,6-テトラメチルピぺリジン-4-イル)カーボネート、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸テトラキス(1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジン-4-イル)、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸テトラキス(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)等が挙げられる。ヒンダードアミン系安定剤の中で、相溶性・着色性が少ないことからセバシン酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)、ビス(1-ウンデカノキシ-2,2,6,6-テトラメチルピぺリジン-4-イル)カーボネートが好ましい。
【0066】
本発明において、硫黄系酸化防止剤としては、チオエーテル基を有する分子量350以上の化合物であれば特に制限はなく、ビス[3-(ドデシルチオ)プロピオン酸]2,2-ビス[[3-(ドデシルチオ)-1-オキソプロピルオキシ]メチル]-1,3-プロパンジイル、3,3'-チオビスプロピオン酸ジトリデシル、ジステアリルチオジプロピオネート等が挙げられる。
【0067】
本発明において、アミン系酸化防止剤としては、芳香族アミンまたはヒドロキシアミン構造を有する分子量350以上の化合物であれば特に制限はなく、ビス(オクタデシル)ヒドロキシルアミン、4,4'-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、ジ(4-オクチルフェニル)アミン等が挙げられる。
【0068】
本発明において、紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール構造、トリアジン構造、ベンゾフェノン構造、シアノアクリレート構造、サリシレート構造のいずれかを有する分子量350以上の化合物であれば特に制限はなく、2,2'-メチレンビス[6-(ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-tert-オクチルフェノール]、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-(ヘキシルオキシ)フェノール、2-ビス{[(2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリロイル)オキシ]メチル}プロパン-1,3-ジイル-ビス(2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリラート)等が挙げられる。
【0069】
本発明において、金属不活性化剤としては、シュウ酸誘導体、サリチル酸誘導体、ヒドラジド誘導体など、金属イオン等をキレート化して無害化する分子量350以上の化合物であれば特に制限はない。
【0070】
本発明において、クエンチャーとしては、Ni等のキレート構造を有する分子量350以上の化合物であれば特に制限はない。
【0071】
本発明の樹脂組成物は、一般式(1)で示されるセルロ-ス樹脂(A)を50重量%以上98.99重量%以下、一般式(2)で示されるケイ皮酸エステル残基単位および一般式(3)で示される残基単位を含むケイ皮酸エステル系樹脂共重合体(B)を1重量%以上49.99重量%以下、分子量が350以上である酸化防止剤(C)を0.01重量%以上5.0重量%以下とを含有する。(C)の含有量が0.01重量%よりも少ないと酸化防止の効果が小さく、5.0重量%よりも多いとブリードおよびブルームや、フィルムの光学特性の安定性低下の要因となる。より好適には(A)を50重量%以上98.98重量%以下、(B)を1重量%以上49.98重量%以下、分子量が350以上である酸化防止剤(C)を0.04重量%以上1.0重量%以下とを含有する。ここで、組成物の比率は(A)~(C)の総量を100重量%とするものである。
【0072】
本発明の樹脂組成物は、(A)~(C)以外に添加剤を含むことができる。その場合、該添加剤の重量比率は、(A)~(C)の総量を100重量%または100重量部に対する値として示せばよい。
【0073】
セルロース樹脂(A)、ケイ皮酸エステル共重合体(B)及び酸化防止剤(C)のブレンドの方法としては、溶融ブレンド、溶液ブレンド等の方法を用いることができる。溶融ブレンド法とは、加熱により樹脂と酸化防止剤を溶融させて混練することにより製造する方法である。溶液ブレンド法とは樹脂と酸化防止剤を溶剤に溶解しブレンドする方法である。溶液ブレンドに用いる溶剤としては、樹脂や酸化防止剤等を溶解できる溶剤であればいかなる溶剤であっても構わないが、製膜工程にて、残溶剤が残りにくい様、溶剤の沸点は200℃以下が好ましく、170℃以下がより好ましい。
【0074】
該溶剤としては、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類;フェノール、クロロフェノールなどのフェノール類; ベンゼン、トルエン、キシレン、メトキシベンゼン、メシチレン、ジメトキシベンゼンなどの芳香族炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘ キサノン、シクロペンタノン、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドンなどのケトン系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒;t-ブチルアルコール、グリセリン、エチレングリコール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、2-メチル-2,4-ペンタンジオールのようなアルコール系溶媒;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドのようなアミド系溶媒;アセトニトリル、ブチロニトリルのようなニトリル系溶媒;ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフランのようなエーテル系溶媒;二硫化炭素、エチルセロソルブ、ブチルセルソルブなどを単独または混合した溶媒が挙げられる。
【0075】
本発明の樹脂組成物を用いたフィルムの製造方法としては、如何なる方法を用いてもよいが、溶液キャスト法により製造することが好ましい。ここで、溶液キャスト法とは、樹脂溶液(一般にはド-プと称する。)を支持基材上に流延した後、加熱することにより溶媒を蒸発させてフィルムを得る方法である。塗工方法は特に制限されず、通常の方法を採用できる。例えば、Tダイ法、ドクタ-ブレ-ド法、バ-コ-タ-法、スロットダイ法、リップコ-タ-法、リバースグラビアコート法、マイクログラビア法、スピンコート法、刷毛塗り法、ロールコート法、フレキソ印刷法などがあげられる。また、用いられる支持基材としては、特に制限はないが、例えばポリエステルやポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレンやポリプロピレン、ポリ塩化ビニルやポリ塩化ビニリデン、トリアセチルセルロースやポリビニルアルコール、ポリイミドやポリアリレート、ポリスルホンやポリエーテルスルホン、エポキシ系樹脂等からなる高分子基材、ガラス板や石英基板などのガラス基材、アルミやステンレスやフェロタイプ等の金属基材、セラミックス基板などの無機基材等が挙げられる。上記基材として好ましくは、高分子基材または金属基材である。
【0076】
本発明のフィルムは、透明性に優れることから、光学フィルムとして好適に用いることができる。
【0077】
本発明の樹脂組成物を用いた光学フィルムを製造する際の樹脂溶液の粘度は、各成分の分子量、濃度、溶媒の種類で調整可能である。樹脂溶液の粘度としては特に制限はないが、フィルム塗工性をより容易にするため、好ましくは100~30000cps、さらに好ましくは300~20000cps、特に好ましくは500~15000cpsである。
【0078】
塗工溶液の乾燥工程における乾燥方法は特に制限されず、通常の加熱手段を採用できる。例えば、熱風器、加熱ロール、遠赤外線ヒーター等があげられる。
【0079】
本発明の樹脂組成物を用いたフィルムの製造方法では、乾燥温度が1段のみの条件でも構わないし、外観保持や乾燥時間短縮のため、1段階目に低温で乾燥し、2段階目以降に高温で乾燥するような多段階乾燥でも構わない。
【0080】
本発明において、ドープに対するセルロース樹脂(A)、ケイ皮酸エステル共重合体(B)および酸化防止剤(C)の濃度は、溶解、製膜が可能な限り特に限定されない。セルロース樹脂(A)、ケイ皮酸エステル共重合体(B)および酸化防止剤(C)の溶解を実施する方法は、溶解する段階で所定の濃度になるように実施してもよく、また予め低濃度溶液として作製した後に濃縮工程で所定の高濃度溶液に調整してもよい。さらに、予めセルロース樹脂(A)及びケイ皮酸エステル共重合体(B)の高濃度の樹脂溶液とした後に、酸化防止剤や種々の添加物を添加することで所定の低濃度の樹脂溶液としてもよい。
【0081】
本発明の光学フィルムは、位相差特性に優れることから、光学補償フィルムとして好適に用いることができる。
【0082】
本発明の樹脂組成物を用いた光学補償フィルムの製造方法は、レターデーションを発現する方法として特に制約はない。光学補償フィルムを延伸する方法としては、ロール延伸による縦一軸延伸法やテンター延伸による横一軸延伸法や斜め延伸法、これらの組み合わせによるアンバランス逐次二軸延伸法やアンバランス同時二軸延伸法等を用いることができる。
【0083】
延伸する前の未延伸フィルムの厚みは、延伸処理のし易さおよび光学部材の薄膜化への適合性の観点から、5~200μmが好ましく、5~150μmがさらに好ましく、5~100μmが特に好ましい。
【0084】
また、延伸後の光学補償フィルムの厚みは、画像表示装置の薄型化のため、5~100μmが好ましく、5~60μmがさらに好ましい。
【0085】
延伸の温度は特に制限はないが、良好な位相差特性が得られることから、好ましくは50~200℃、さらに好ましくは100~200℃である。延伸の延伸倍率は特に制限はないが、良好な位相差特性が得られることから、1.05~4.0倍が好ましく、1.1~3.5倍がさらに好ましい。延伸温度、延伸倍率によりレターデーションを制御することができる。
【0086】
本発明の樹脂組成物を用いた光学補償フィルムにおいては、セルロース樹脂(A)の含有率、含有するセルロース樹脂(A)のDS、置換基の2位、3位、及び6位の置換度分布、並びに延伸倍率によってレターデーションを調整することができる。
【0087】
本発明の樹脂組成物を用いたフィルムは、光学補償フィルムとして用いるのに好適であり、該光学補償フィルムは、優れた位相差特性および優れた波長分散特性を有することを特徴とする。
【0088】
本発明の樹脂組成物を用いた光学補償フィルムの位相差特性は、目的とする光学補償フィルムにより異なるものであり、例えば、下記式(5)で示されるレタ-デ-ション(Re)が好ましくは50~300nm、さらに好ましくは100~300nm、特に好ましくは120~280nmであって、下記式(6)で示されるNz係数が好ましくは0.3~1.0、さらに好ましくは0.4~0.8であるもの等が挙げられる。このときの位相差特性は全自動複屈折計(王子計測機器株式会社製、商品名KOBRA-21ADH)を用い、測定波長589nmの条件で測定されるものである。
【0089】
これらは、従来のセルロ-ス系樹脂からなる光学補償フィルムでは発現が困難な位相差特性を有している。
Re=(ny-nx)×d (5)
Nz=(ny-nz)/(ny-nx) (6)
Rth=[(nx+ny)/2-nz]×d (7)
(式中、nxはフィルム面内の進相軸方向の屈折率を示し、nyはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率を示し、nzはフィルム面外の屈折率を示し、dはフィルム厚みを示す。)
【0090】
本発明の光学フィルムの位相差特性としては、円偏光板用位相差フィルムおよびIPS液晶用位相差フィルムに好適なため、測定波長589nmのレタ-デ-ション(Re)は30nm以上300nm以下が好ましく、65nm以上300nm以下がより好ましく、130nm以上300nm以下が更に好ましい。
【0091】
本発明の光学フィルムの位相差特性としては、円偏光板用位相差フィルムおよびIPS液晶用位相差フィルムに好適なため、測定波長589nmのNz係数は0.3以上1.5以下が好ましく、0.4以上1.1以下がより好ましい。
【0092】
本発明の光学フィルムの波長分散特性としては、色ずれ抑制のため、好ましくは0.60<Re(450)/Re(550)<1.05であり、さらに好ましくは0.70<Re(450)/Re(550)<1.02であり、特に好ましくは0.75<Re(450)/Re(550)<1.00である。
【0093】
本発明のセルロ-ス系樹脂を使用した場合、単独では、低波長分散の光学フィルムを提供することができる。このフィルムに、延伸方向に対して負の複屈折性を示すエステル系樹脂をブレンドした樹脂組成物は、一般的に逆波長分散性を示す光学フィルムを提供することができるものである。
【0094】
これらの位相差特性および波長分散特性を同時に満足することは、一般にセルロ-ス系樹脂を用いた光学補償フィルムでは発現が困難であるが、本発明に係る光学補償フィルムはこれらの特性を同時に満足するものである。
【0095】
本発明の樹脂組成物を用いた光学補償フィルムは、フィルムの取扱い性及び光学部材の薄膜化への適合性の観点から、厚みが5~200μmであることが好ましく、10~100μmがさらに好ましく、20~80μmが特に好ましく、10~60μmがもっとも好ましい。
【0096】
本発明の樹脂組成物を用いた光学補償フィルムは、画像表示装置とした際の色調の変化をさけるため、フィルムにしたときのYIが好ましくは1.7以下、さらに好ましくは1.5以下、より好ましくは1.0以下である。ここでYIは、JIS-K 7373に準拠し、光源としてC光源のハロゲンランプを用い、視野 2°で測定した値を採用した。樹脂組成物により構成されたフィルムの厚さは30μmで測定を行った。
【0097】
本発明の樹脂組成物を用いた光学補償フィルムは、高温の環境における画面表示装置の色調変化をさけ、色調を維持するため、85℃環境下500時間後におけるYIが1.5以下であることがさらに好ましい。
【0098】
本発明の樹脂組成物を用いた光学補償フィルムは、画像表示装置の光量低下を避けるため、フィルムにしたときの透過率が好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上である。ここで光線透過率は全光線透過率を表し、JIS K 7361-1(1997版)に準拠し、白色光源を用い、波長380nmから780nmで測定した値を採用した。樹脂組成物により構成されたフィルムの厚さは30μmで測定を行った。
【0099】
本発明の樹脂組成物を用いた光学補償フィルムは、ヘーズが好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは1.5%以下である。前記範囲にヘーズを制御することにより、位相差フィルムとして表示装置に組み込んだ際に高コントラストの画像が得られる。ここでヘーズは、JIS-K 7136(2000年版)に準拠し、白色光源を用い、波長380nmから780nmで測定した値を採用した。樹脂組成物により構成されたフィルムの厚さは30μmで測定を行った。
【0100】
本発明の樹脂組成物を用いた光学補償フィルムは、高温の環境における画面表示装置の光量低下をさけ、高コントラストの画像を維持するため、85℃環境下500時間後におけるヘーズが3%以下であり、透過率が85%以上であることが好ましく、90%であることがさらに好ましい。
【0101】
本発明の樹脂組成物を用いた光学補償フィルムは、85℃環境下500時間の高温処理後の黄色度YIの変化量が1.0未満であることが好ましい。ここで、黄色度YIの変化量とは、(高温処理後のYI)-(高温処理前のYI)で表すことができる。
【0102】
本発明の樹脂組成物を用いた光学補償フィルムは、85℃環境下500時間の高温処理後のヘーズの変化量が2.0%未満であることが好ましい。ここで、ヘーズの変化量とは、(高温処理後のヘーズ)-(高温処理前のヘーズ)で表すことができる。
【0103】
本発明の樹脂組成物を用いた光学補償フィルムは、必要に応じて他樹脂を含むフィルムと積層することができる。他樹脂としては、例えば、ポリエーテルサルフォン、ポリアリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリナフタレンテレフタレート、ポリカーボネート、環状ポリオレフィン、マレイミド系樹脂、フッ素系樹脂、ポリイミド等が挙げられる。また、液晶層やハードコート層、ガスバリア層、屈折率を制御した層(低反射層)を積層することも可能である。
【0104】
本発明の樹脂組成物を用いた光学補償フィルムは、液晶表示装置用、有機EL表示装置用等の用途に用いられる偏光板において、好適に用いられる。また、該偏光板は画像表示装置として好適に用いられる。
【発明の効果】
【0105】
本発明の樹脂組成物およびそれを用いたフィルムは位相差特性および波長分散性に優れるため、偏光板、液晶表示装置、有機EL表示装置等に好適に用いることができ、優れた表示性能および高温高湿下における高い安定性を発揮することができる。
【実施例
【0106】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0107】
なお、実施例により示す諸物性は、以下の方法により測定した。
<位相差特性の測定>
全自動複屈折計(王子計測機器株式会社製、商品名KOBRA-21ADH)を用いて波長589nmの光を用いて位相差フィルムの位相差特性(Re及びNz係数)を測定した。
<全光線透過率およびヘーズの測定>
作成したフィルムの全光線透過率およびヘーズは、ヘーズメーター(日本電色工業製、商品名:NDH5000、光源:白色LED(5V3W、波長域380nmから780nm、全光線透過率およびヘーズ値はこの範囲の総和値))を使用し、全光線透過率の測定はJIS K 7361-1(1997版)に、ヘーズの測定はJIS-K 7136(2000年版)に、それぞれ準拠して測定した。
<黄色度YIの測定>
作成したフィルムの黄色度YIは、分光色彩計(日本電色工業製、商品名:SD-5000、光源:C光源ハロゲンランプ(12V50W、)、視野:2°)を使用し、JIS-K 7373に準拠して測定した。
<耐熱試験>
ギヤーオーブン(東洋精機製作所製、商品名:STD60P)(置換率3回/min)を用いて85℃の高温環境下とし、500時間後のヘーズと全光線透過率とYIと分子量変化を調べることで耐熱性の測定をした。
分子量変化は、高温環境を曝す前後のフィルムに対して、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)測定を行い、得られた標準ポリスチレン換算の重量平均分子量の差分を変化率とした。ここで、重量平均分子量はフィルムの含有する個々の成分ではなく、組成物そのものに対してGPC測定を行い、得られた測定データを用いた。
<位相差及び波長分散性>
位相差及び波長分散性は、延伸後の光学補償フィルムに対して、全自動複屈折計(王子計測機器株式会社製、商品名KOBRA-21ADH、光源:ハロゲンランプ(12V100W))を用い、測定波長550nm及び450nmの条件でR450/R550を測定した。
【0108】
合成例1(ケイ皮酸エステル共重合体(B-1)(9-ビニルカルバゾール/4-ヒドロキシ-α―シアノケイ皮酸イソブチル/アクリル酸イソブチル)の合成)
容量50mLのガラスアンプルに9-ビニルカルバゾール5.0g(0.026モル)、4-ヒドロキシ-α-シアノケイ皮酸イソブチル3.2g(0.013モル)、アクリル酸イソブチル1.7g(0.013モル)、重合開始剤である2,5-ジメチル-2,5-ジ(2-エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン0.093g(0.00022モル)およびエチルセロソルブ24.6gを入れ、窒素置換と抜圧を繰り返したのち減圧状態で熔封した。このアンプルを47℃の恒温槽に入れ、24時間保持することによりラジカル重合を行った。重合反応終了後、アンプルから重合物を取り出し、テトラヒドロフラン41gを加え、このポリマー溶液を330gのメタノール/水混合溶剤(重量比80/20)中に滴下して析出させ、ろ過した後、ろ過物を45gのメタノール/水混合溶剤(重量比90/10)で5回洗浄、ろ過した。得られた樹脂を80℃で10時間真空乾燥することにより、負の複屈折性を示すケイ皮酸エステル共重合体(B-1)9.2gを得た(収率:94%)。得られたB-1の数平均分子量は77,000であり、残基単位の比率は、9-ビニルカルバゾール残基単位50モル%、4-ヒドロキシ-α-シアノケイ皮酸イソブチル残基単位25モル%、アクリル酸イソブチル残基単位25モル%であった
【0109】
合成例2(ケイ皮酸エステル共重合体(B-2)(4-ヒドロキシ-α-シアノケイ皮酸エチル/9-ビニルカルバゾール共重合体の合成)
容量50mLのガラスアンプルに4-ヒドロキシ-α-シアノケイ皮酸エチル5.0g、9-ビニルカルバゾール4.4g、重合開始剤である2,5-ジメチル- 2,5-ジ(2-エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン0.17gおよびテトラヒドロフラン8.5gを入れ、窒素置換と抜圧を繰り返したのち減圧状態で熔封した。このアンプルを62℃の恒温槽に入れ、48時間保持することによりラジカル重合を行った。重合反応終了後、アンプルから重合物を取り出し、テトラヒドロフラン25gで溶解させた。このポリマー溶液を500mLのメタノール中に滴下して析出させた後、60℃で10時間真空乾燥することにより、負の複屈折性を示すケイ皮酸エステル共重合体(B-2)7.7gを得た(収率:82%)。得られたB-2の数平均分子量は22,000であり、残基単位の比率は9-ビニルカルバゾール残基単位58モル%、4-ヒドロキシ-α-シアノケイ皮酸エチル残基単位42モル%であった。
【0110】
実施例1
セルロース樹脂(A)としてエチルセルロース(ダウ・ケミカル社製 エトセル スタンダード(ETHOCEL standard)100、数平均分子量Mn=58,000、重量平均分子量Mw=180,000、Mw/Mn=3.2、全置換度DS=2.51)31.15g、合成例1により得られたケイ皮酸エステル系樹脂(B-1)8.75g、セミヒンダードフェノール系酸化防止剤Irganox245(BASF製、化合物名:ビス[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオン酸][エチレンビス(オキシエチレン)]、Fw:587)0.10gとを、トルエン/酢酸エチル=8/2(重量比)溶液に溶解させて15重量%の樹脂溶液とした。該溶液をコーターによりポリエチレンテレフタレートフィルム上に流涎し、乾燥温度40℃6分の後、155℃5分にて2段乾燥した後、幅150mm×膜厚39μmのフィルム(樹脂組成物)を得た(セルロース樹脂:77.87重量%、ケイ皮酸エステル共重合体(B-1):21.88重量%、セミヒンダードフェノール系酸化防止剤:0.25重量%)。また、得られたフィルムを50mm角に切り出した後、155℃で2.0倍に一軸延伸し(延伸後の厚み30μm)、光学補償フィルムを得た。得られたフィルムは全光線透過率93%、ヘーズ0.4%、YI0.5であり、耐熱試験後の全光線透過率は93%、ヘーズは0.5%、YIは0.9であった。
得られた光学補償フィルムの全光線透過率、ヘーズ、位相差特性、波長分散特性、耐熱性を測定した。その結果を表1に合わせて示す。
【0111】
【表1】
【0112】
得られた光学補償フィルムの全光線透過率は高く、ヘーズとYIは低く、耐熱性の高いものであった。
【0113】
実施例2
実施例1で用いたエチルセルロース31.15gと合成例2により得られた負の複屈折性を示すケイ皮酸エステル共重合体(B-2)8.75gと、セミヒンダードフェノール系酸化防止剤Irganox245(BASF製、Fw:587)0.05gと亜リン酸エステル系酸化防止剤アデカスタブPEP-36(ADEKA製、化合物名:3,9-ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、Fw:633)0.05gの2種の酸化防止剤を、トルエン/酢酸エチル=8/2(重量比)溶液に溶解して15重量%の樹脂溶液とした。該溶液をコーターによりポリエチレンテレフタレートフィルム上に流涎し、乾燥温度40℃6分の後、155℃5分にて2段乾燥した後、幅150mm×膜厚39μmのフィルム(樹脂組成物)を得た(セルロース系樹脂:77.88重量%、ケイ皮酸エステル共重合体(B-2):21.88重量%、セミヒンダードフェノール系酸化防止剤:0.12重量%、亜リン酸エステル系酸化防止剤:0.12重量%)。また、得られたフィルムを50mm角に切り出した後、157℃で2.0倍に一軸延伸し(延伸後の厚み30μm)、光学補償フィルムを得た。得られたフィルムは全光線透過率92%、ヘーズ0.6%、YI0.5、耐熱試験後の全光線透過率は92%、ヘーズは0.6%、YIは0.9であった。
得られた光学補償フィルムの全光線透過率、ヘーズ、位相差特性、波長分散特性、耐熱性を測定した。その結果を表1に合わせて示す。
得られた光学補償フィルムの全光線透過率は高く、ヘーズとYIは低く、耐熱性の高いものであった。

【0114】
実施例3
実施例1で用いたエチルセルロース31.10gと、実施例1で用いたケイ皮酸エステル共重合体(B-1)8.70gとセミヒンダードフェノール系酸化防止剤Irganox245(BASF製、Fw:587)0.20gとを、トルエン/酢酸エチル=8/2(重量比)溶液に溶解させて15重量%の樹脂溶液とした。該溶液をコーターによりポリエチレンテレフタレートフィルム上に流涎し、乾燥温度40℃6分の後、155℃5分にて2段乾燥した後、幅150mm×膜厚39μmのフィルム(樹脂組成物)を得た(セルロース系樹脂:77.75重量%、ケイ皮酸エステル共重合体(B-1):21.75重量%、セミヒンダードフェノール系酸化防止剤:0.50重量%)。また、得られたフィルムを50mm角に切り出した後、152℃で2.0倍に一軸延伸し(延伸後の厚み30μm)、光学補償フィルムを得た。
得られたフィルムは全光線透過率93%、ヘーズ0.4%、YI0.5、耐熱試験後の全光線透過率は93%、ヘーズは0.5%、YIは0.8であった。
得られた光学補償フィルムの全光線透過率、ヘーズ、位相差特性、波長分散特性、耐熱性を測定した。その結果を表1に合わせて示す。
得られた光学補償フィルムの全光線透過率は高く、ヘーズとYIは低く、耐熱性の高いものであった。
【0115】
実施例4
実施例1で用いたエチルセルロース31.18gと、実施例1で用いたケイ皮酸エステル共重合体(B-1)8.78gとセミヒンダードフェノール系酸化防止剤Irganox245(BASF製、Fw:587)0.04gとをトルエン/酢酸エチル=8/2(重量比)溶液に溶解させて15重量%の樹脂溶液とした。該溶液をコーターによりポリエチレンテレフタレートフィルム上に流涎し、乾燥温度40℃6分の後、155℃5分にて2段乾燥した後、幅150mm×膜厚39μmのフィルム(樹脂組成物)を得た(セルロース系樹脂:77.95重量%、ケイ皮酸エステル共重合体(B-1):21.95重量%、セミヒンダードフェノール系酸化防止剤:0.10重量%)。また、得られたフィルムを50mm角に切り出した後、155℃で2.0倍に一軸延伸し(延伸後の厚み30μm)、光学補償フィルムを得た。
得られたフィルムは全光線透過率93%、ヘーズ0.4%、YI0.5、耐熱試験後の全光線透過率は93%、ヘーズは0.5%、YIは0.9であった。
得られた光学補償フィルムの全光線透過率、ヘーズ、位相差特性、波長分散特性、耐熱性を測定した。その結果を表1に合わせて示す。
得られた光学補償フィルムの全光線透過率は高く、ヘーズとYIは低く、耐熱性の高いものであった。
【0116】
実施例5
実施例1で用いたエチルセルロース31.18gと、実施例1で用いたケイ皮酸エステル共重合体(B-1)8.78gと硫黄系酸化防止剤アデカスタブ AO―412S(ADEKA製、化合物名:ビス[3-(ドデシルチオ)プロピオン酸]2,2-ビス[[3-(ドデシルチオ)-1-オキソプロピルオキシ]メチル]-1,3-プロパンジイル、Fw:1162)0.04gとをトルエン/酢酸エチル=8/2(重量比)溶液に溶解させて15重量%の樹脂溶液とした。該溶液をコーターによりポリエチレンテレフタレートフィルム上に流涎し、乾燥温度40℃5分の後、155℃6分にて2段乾燥した後、幅150mm×膜厚39μmのフィルム(樹脂組成物)を得た(セルロース系樹脂:77.95重量%、ケイ皮酸エステル共重合体(B-1):21.95重量%、硫黄系酸化防止剤:0.10重量%)。また、得られたフィルムを50mm角に切り出した後、155℃で2.0倍に一軸延伸し(延伸後の厚み30μm)、光学補償フィルムを得た。
得られたフィルムは全光線透過率93%、ヘーズ0.4%、YI0.5、耐熱試験後の全光線透過率は93%、ヘーズは0.5%、YIは1.2であった。
得られた光学補償フィルムの全光線透過率、ヘーズ、位相差特性、波長分散特性、耐熱性を測定した。その結果を表1に合わせて示す。
得られた光学補償フィルムの全光線透過率は高く、ヘーズとYIは低く、耐熱性の高いものであった。
【0117】
比較例1
酸化防止剤を含まないほかは実施例1と同様の条件で光学補償フィルムを得た。得られたフィルムは全光線透過率93%、ヘーズ0.4%、YI0.5、耐熱試験後の全光線透過率は93%、ヘーズは0.4%、YIは1.8であった。その結果を表2に示す。
得られた光学補償フィルムのYIは高く、耐熱性の低いものであった。
【0118】
【表2】
【0119】
比較例2
セミヒンダードフェノール系酸化防止剤Irganox245 10重量%を含むほかは実施例1と同様の条件で光学補償フィルムを得た。得られたフィルムは全光線透過率91%、ヘーズ1.3%、YI0.6%、耐熱試験後の全光線透過率は89%、ヘーズは3.5%であった。その結果を表2に示す。
得られた光学補償フィルムのヘーズは高く、耐熱性の低いものであった。
【0120】
比較例3
セミヒンダードフェノール系酸化防止剤Irganox245(BASF製、Fw:587)の代わりに低分子量セミヒンダードフェノール系酸化防止剤スミライザーMDP―S(住友化学製、化合物名:2,2'-メチレンビス(6-tert-ブチル-p-クレゾール)、Fw:341)を用いたほかは実施例1と同様の条件で光学補償フィルムを得た。得られたフィルムは全光線透過率92%、ヘーズ0.5%、YI0.5、耐熱試験後の全光線透過率は92%、ヘーズは0.8%、YIは1.6であった。その結果を表2に示す。
得られた光学補償フィルムのYIは高く、耐熱性の低いものであった。