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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】分散溶媒置換装置
(51)【国際特許分類】
   B03B 5/00 20060101AFI20241112BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20241112BHJP
   B03B 13/00 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
B03B5/00 Z
G01N37/00 101
B03B13/00
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019231871
(22)【出願日】2019-12-23
(65)【公開番号】P2020175378
(43)【公開日】2020-10-29
【審査請求日】2022-11-16
(31)【優先権主張番号】P 2019077946
(32)【優先日】2019-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】秋山 泰之
(72)【発明者】
【氏名】長岡 正人
(72)【発明者】
【氏名】森本 篤史
(72)【発明者】
【氏名】兜坂 健太
【審査官】宮部 裕一
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-541331(JP,A)
【文献】特開2011-013208(JP,A)
【文献】特開2015-058394(JP,A)
【文献】国際公開第2018/056166(WO,A1)
【文献】特開2004-191256(JP,A)
【文献】松田美由紀他,水力学的濾過法を用いた血液細胞の分級,電気学会誌E,日本,電気学会,2008年12月31日,128巻10号,396-401,https://doi.prg/10.1541/ieejsmas.128.396
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B03B 5/00
B01J 19/00
G01N 37/00
B81B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子を含む懸濁液を収容する容器1と、
前記容器1と配管1で接続されたマイクロ流路デバイスの導入口1と、
前記配管1中を流れる液体の物性又は流速を測定する計測器と、
前記容器1から前記導入口1に前記懸濁液を送液可能なポンプ1と、
前記計測器の測定結果に基づいて前記ポンプ1の動作を制御する制御部と、
シース液を収容する容器2と、
前記容器2と配管2で接続されたマイクロ流路デバイスの導入口2と、
前記容器2から前記導入口2に前記シース液を送液可能なポンプ2と、
前記導入口1から導入された前記懸濁液と前記導入口2から導入された前記シース液とを合流させるための合流流路と、
前記合流流路に接続された水力学的濾過法を用いた前記懸濁液中に含まれる粒子を分離させるための分離流路と、
前記分離流路の末端に接続された排出口と、
前記排出口に配管3で接続された容器3と、
を備え、
前記容器1及び前記配管1の一部並びに前記容器2及び前記配管2の一部が圧力容器に気密に収容され、前記圧力容器に一つのポンプが接続されており、前記圧力容器に接続された一つのポンプを前記ポンプ1及び前記ポンプ2として用いて送液する装置を使用して、
前記容器に収容された粒子を含む懸濁液を、前記ポンプを用いてマイクロ流路デバイスの導入口に送液する方法であって、
前記容器に収容された前記懸濁液の上に、前記懸濁液の比重より小さく、前記懸濁液の粘度より大きく、かつ前記懸濁液と混和しない封止液を重層し、
前記ポンプによる送液を、前記懸濁液はマイクロ流路デバイス内へ送液可能な一方、前記封止液はマイクロ流路デバイス内へ送液できない圧力条件下で行ない、前記容器1から前記導入口1への前記懸濁液の送液に用いられることを特徴とする懸濁液送液する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散溶媒置換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
毛細管状の流路を有するマイクロ流路デバイスは、DNA分析デバイスなどの微小分析デバイスに使用できるほか、細胞などの粒子を含む懸濁液の処理方法としても使用可能である(例えば、特許文献1、2)。懸濁液に含まれる粒子が希少もしくは高価な場合又は懸濁液に含まれる粒子を定量的に評価したい場合、懸濁液全量をマイクロ流路デバイスで処理することが求められるが、前記デバイス内に空気が混入すると、懸濁液の送液不良や、懸濁液中に含まれる粒子の評価不良が引き起こされるため、懸濁液と空気との気液界面を当該デバイスの導入口直前で正確に止めることが必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-021465号公報
【文献】特表2007-175684号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】松田美由紀ら、電気学会論文誌E、128(10)、396-401(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、マイクロ流路デバイスへ粒子を含む懸濁液を導入する際、空気などの混入を抑制しながら、前記懸濁液の全量をマイクロ流路デバイスへ送液可能な装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、本発明に到達した。
【0007】
すなわち本発明の一態様は、
粒子を含む懸濁液を収容する容器1と、
前記容器1と配管1で接続されたマイクロ流路デバイスの導入口1と、
前記配管1中を流れる液体の物性又は流速を測定する計測器と、
前記容器1から前記導入口1に前記懸濁液を送液可能なポンプ1と、
前記計測器の測定結果に基づいて前記ポンプ1の動作を制御する制御部と、
シース液を収容する容器2と、
前記容器2と配管2で接続されたマイクロ流路デバイスの導入口2と、
前記容器2から前記導入口2に前記シース液を送液可能なポンプ2と、
前記導入口1から導入された前記懸濁液と前記導入口2から導入された前記シース液とを合流させるための合流流路と、
前記合流流路に接続された水力学的濾過法を用いた前記懸濁液中に含まれる粒子を分離させるための分離流路と、
前記分離流路の末端に接続された排出口と、
前記排出口に配管3で接続された容器3と、
を備えた装置である。
【0008】
また本発明の別態様は、
容器に収容された粒子を含む懸濁液を、ポンプを用いてマイクロ流路デバイスの導入口に送液する方法であって、
前記容器に収容された前記懸濁液の上に、前記懸濁液の比重より小さく、前記懸濁液の粘度より大きく、かつ前記懸濁液と混和しない封止液を重層し、
前記ポンプによる送液を、前記懸濁液は送液可能な一方、前記封止液は送液できない圧力条件下で行なうことを特徴とする。
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
粒子を含む懸濁液について、その粒子は特に限定はなく、一例として、金属やその酸化物などの無機物粒子、ポリマーや脂質などの有機物粒子、細胞や細胞から分泌される小胞体などの生体由来粒子があげられる。粒子が前述した生体由来粒子である場合、粒子を含む懸濁液の具体例として、血液、希釈血液、血清、血漿、髄液、臍帯血、成分採血液、尿、唾液、精液、糞便、痰、羊水、腹水などの生体試料や、肝臓、肺、脾臓、腎臓、皮膚、腫瘍、リンパ節などの組織の一片を懸濁させた組織懸濁液や、前記生体試料又は前記組織懸濁液より分離して得られる、前記生体試料又は前記組織由来の細胞を含む画分や、あらかじめ単離した細胞の培養液、細胞から分泌されるエキソソームやアポトーシス小胞などの細胞外小胞を含む懸濁液があげられる。なお本明細書では、粒子を含む懸濁液を、単に「懸濁液」と記載する場合がある。
【0011】
容器1の大きさとしては、後述する圧力容器よりも小さいサイズであり、さらに懸濁液の液量に応じて適時選択すればよい。懸濁液の液量に対して容器が大き過ぎると懸濁液が容器に接する面積が増えるため、懸濁液に含まれる粒子の容器表面への吸着量が増える。そのため、懸濁液に対する容器の大きさは、50倍以下が好ましく、10倍以下がより好ましく、2倍以下がさらにより好ましい。容器1の材質として制限はないが、容器への粒子の吸着が抑制できる容器表面であるとよい。粒子が生体由来粒子である場合、材質が親水性の容器もしくは親水性物質でコーティングした容器を用いると、生体由来粒子の吸着を抑制できるためよい。容器にコーティングする親水性物質としては、シリコンや、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドンなどの親水性高分子、アルブミン、カゼインなどのタンパク質などが例示できる。容器の形状としては、すべての懸濁液を配管により吸引することが可能な形状であればよく、容器上部から底部に向かって先細りする構造を取っていると好ましい。容器2としては、圧力容器よりも小さいサイズであり、シース液を充填可能な大きさであれば、特に限定されない。容器3としては、容器1と同様に粒子の吸着が抑制可能な容器表面であれば、特に限定されない。
【0012】
容器1は配管1により、容器2は配管2により、後述するマイクロ流路デバイスの導入口1、2にそれぞれ接続されている。配管2は、容器2と導入口2を液密に接続可能であれば、その形状、大きさに特に制限はないが、配管1は懸濁液に含まれる粒子が通過可能な内径を有する必要がある。また、配管1は粒子による閉塞を抑制するためにも粒子の吸着を抑制可能な材質とすることが好ましい。
【0013】
配管1中を流れる液体の物性又は流速を測定する計測器としては、流速計、光学測定計、電気伝導度計が例示できる。計測器は配管1の間に介在していてもよく、配管1の内部又は外部にあってもよい。
【0014】
ポンプ1とポンプ2は同一の種類のものを用いてもよく、異なる種類のものを用いてもよい。ポンプの種類は特に制限はなく、エアポンプ、シリンジポンプ、ペリスタポンプが例示できるが、ポンプ1としてはエアポンプが好ましい。前述の計測器の測定結果に基づいて、ポンプ1の動作は制御部によって制御される。例えば、制御部からポンプ1に対して圧力を印加する時間を調整する信号を送る態様などが挙げられる。
【0015】
また、容器1及び配管1の一部並びに容器2及び配管2の一部が一つの圧力容器内に気密に収容されていれば、ポンプ1とポンプ2をそれぞれ設ける必要はなく、1つのポンプで容器1、2からそれぞれ送液することが可能である。圧力容器としては、容器1、2を収容可能な大きさであり、加圧することで大きく膨張しない密閉可能なものであれば特に制限されない。加圧による圧力容器内部の体積の膨張率は、10%以下であればよい。なお、配管の一部とは容器内に導入する溶液に前記配管の先端が浸っていればよく、圧力容器内に収容する配管の長さに制限はない。
【0016】
マイクロ流路デバイスは、前述した導入口1、2と、懸濁液とシース液とを合流させるための合流流路と、水力学的濾過法を用いた懸濁液中に含まれる粒子を分離させるための分離流路と、排出口を少なくとも備えている。導入口1、2はそれぞれ合流流路の末端と接続されており、合流流路の他端には分離流路が接続されている。分離流路の末端は1以上の排出口を有しており、そのいずれかに容器3が配管3を介して接続されている。分離流路は、水力学的濾過法(非特許文献1参照)を用いた構造であれば特に制限はなく、分岐流路の数や流路の長さ、幅、深さ、径などのスケールのうちいずれか一つ以上を分離する対象の粒子の大きさに合わせて、適宜調整すれば問題ない。なお、マイクロ流路デバイスは、ポリジメチルシロキサン(PDMS)等の樹脂製基板、ガラス製基板等に所定形状をなすマイクロ流路をパターン形成したものに、蓋部を被せて作製すればよい。
【0017】
容器1には懸濁液の上に封止液を重層し、ポンプによる送液を、懸濁液は送液可能な一方、封止液は送液できない圧力条件下で行なうと、懸濁液の蒸発及びマイクロ流路デバイスへの空気の混入も抑制しながら送液可能であるため好ましい。封止液は、懸濁液の比重より小さく、懸濁液の粘度より大きく、かつ懸濁液と混和しないものを選択する。なお、封止液は懸濁液より比重が小さいことから、配管1の先端は容器1の下部に配置することが好ましい。
【0018】
封止液の比重は、懸濁液の比重と比較して、0.1%以上小さいことが好ましく、1%以上小さいことがより好ましい。
【0019】
封止液の粘度は、懸濁液より大きいと、マイクロ流路デバイス内への送液の際、配管1での圧力損失が大きくなり、一定圧力下で送液した場合、流速が懸濁液より遅くなる。したがって、送液圧力を一定に設定することで、懸濁液はマイクロ流路デバイス内へ送液できるが、封止液は送液できない条件を設定できる。具体的には、マイクロ流路デバイス内への懸濁液の送液速度と比較して、封止液の送液速度が1/5以下になれば封止液は送液できないと言える状態であり、封止液の粘度を懸濁液の粘度と比較して、5倍以上大きいことが好ましい。
【0020】
封止液は、懸濁液と混和しないことも必要である。「混和しない」とは、懸濁液及び封止液の混合物が均一な溶液を形成しない比率が存在していることを指す。例えば、懸濁液の溶媒が水の場合、混和しない封止液として、ミネラルオイルやシリコンオイルなどのオイルが挙げられる。
【0021】
また、懸濁液の上に封止液を重層し、ポンプによる送液を、懸濁液は送液可能な一方、封止液は送液できない圧力条件下で行なう際に、マイクロ流路デバイスの構造は上述した構造に限定されず、例えば、シース液の導入がないようなマイクロ流路デバイスであっても問題ない。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、粒子を含む懸濁液全量をマイクロ流路デバイス内へ導入できるため、懸濁液中に含まれる粒子を精度高く測定でき、定量的な評価を行なう上で効果的である。また、懸濁液全量を導入できるため、懸濁液のロスが最小限となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一態様である分散溶媒置換装置、及び当該装置を用いた懸濁液の分散溶媒置換方法を説明する図である。
図2図1に記載の装置に備えた、マイクロ流路デバイスの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一態様である装置を用いてさらに詳細に説明する。
【0025】
図1に示す分散溶媒置換装置100は、
シース液11の導入口31と、懸濁液12の導入口32と、導入した液体の排出口33(33a・33b)と、導入口31・32と排出口33との間を液密に接続可能な流路を設けたマイクロ流路デバイス30と、
シース液11を収容する容器21と、容器21と導入口31とを液密に接続可能な配管41と、懸濁液12と封止液13を収容する容器22と、容器22と導入口32とを液密に接続可能な配管42と、配管42内の液体の物性又は流速の変化を測定する計測器70と、回収容器23と排出口33とを液密に接続可能な配管43と、
容器21・22及び配管41・42の一部を気密に収容した圧力容器50と、加圧配管61を通じて圧力容器50内空間を加圧するエアポンプ60と、エアポンプ60及び計測器70と導線90を介して接続された制御部80と、
を備えている。
【0026】
マイクロ流路デバイス30(図2)は、基板にマイクロ流路がパターン形成された本体部30aと、マイクロ流路に蓋をするように本体部30aに固定された蓋部30bとから構成される。
本体部30aに形成されたマイクロ流路は、
シース液11を導入する導入口31と、
懸濁液12を導入する導入口32と、
排出口33a・33bと、
シース液11と懸濁液12を合流させるための合流流路34と、
合流流路34から排出口33aまで直線状に延びる排出流路35と、
排出流路35から分岐して直線状に延びる複数の分岐流路36と、
全ての分岐流路36が合流し、排出口33bまで直線状に延びる排出流路37と、
から構成されている。
【0027】
なお、排出流路35、複数の分岐流路36及び排出流路37を併せたものが、水力学的濾過法を用いた懸濁液中に含まれる粒子を分離させるための分離流路に該当する。
【0028】
排出口33aは、分岐流路36で分離されなかった残りの成分を排出するための排出口である。図2に示すマイクロ流路デバイス30では、主に懸濁液に含まれていた粒子及びシース液が、排出口33aから排出される。排出口33bは、分岐流路36に流れ込んだ成分を排出するための排出口である。主に懸濁液12に含まれていた粒子を除く溶液及びシース液が、排出口33bから排出される。マイクロ流路デバイス30は、懸濁液に含まれる粒子よりも小さな成分を除去できるよう設計すべきであり、例えば、分岐流路36の寸法を、上流側において相対的に細く、下流側において相対的に太くする等の形状にしておくと好ましい。
【0029】
以下、図1に示す装置100を用いた、懸濁液の分散溶媒の置換方法を詳細に説明する。
【0030】
(1)懸濁液12送液準備
懸濁液12を容器22に、シース液11を容器21に、それぞれ収容し、導入口31と容器11との間を配管41で、導入口32と容器12との間を配管42で、それぞれ液密に接続する。なお、配管41・42は、その先端が各容器の底部となるよう配置する。
シース液11の液量は懸濁液12より十分多い量とし、懸濁液12送液後のシース液11によるマイクロ流路デバイス30内の洗浄時に起こり得る液不足を防止することが好ましい。また、マイクロ流路デバイス30の排出口33aにも液密に配管43を接続し、配管43から流出する、マイクロ流路デバイス30での処理後の溶液14(すなわちシース液に溶媒置換した粒子懸濁液)を回収容器23へ回収できる態様となっており、排出口33aから排出された溶液14を余すことなく回収できる。
懸濁液12を収容した容器22に、封止液13としてミネラルオイルを重層する。配管42内の液体の物性又は流速を計測器70で測定することで、懸濁液12から封止液13への送液の切り替わりを検出できる。
【0031】
(2)懸濁液12送液
懸濁液12の導入には、エアポンプ60を用いる。容器21・22及び配管41・42の一部は圧力容器50内に気密に収容されており、加圧配管61を通じて圧力容器50内空間をエアポンプ60で加圧することで、容器21・22内に収容したシース液11及び懸濁液12をマイクロ流路デバイス30へ送液する。容器21・22は同一の圧力容器50内に収容されているため、シース液11と懸濁液12は同一圧力で送液できる。なお、送液操作前に、配管41・42内の空気を排出する操作を行なうと、マイクロ流路デバイス30内に空気が混入することなく送液できるため、好ましい。
【0032】
(3)懸濁液12送液完了
懸濁液12の送液が完了すると、配管42内は封止液13で満たされる。ただし、図1に示す装置100に備えたポンプ60は、懸濁液12はマイクロ流路デバイス30(導入口32)へ送液可能な一方、封止液13は送液できない圧力を、圧力容器50に印加しているため、封止液13がマイクロ流路デバイス30に送液されることもなく、かつ封止液13により導入口32から空気が入り込むおそれもない。
封止液13がマイクロ流路デバイス30内へ導入されないことにより、送液速度が大幅に低下する。流速の変化又は配管42内の封止液の物性の変化を計測器70により測定し、当該変化に基づき、制御部80から、導線90を介して、エアポンプ60で圧力を印加する時間を調整する信号を送ることで、シース液11の送液時間を制御し、処理完了時間を自動的に決定できる。
【0033】
(4)溶媒置換された溶液14の排出
封止液13による容器22側の送液が停止した後は、シース液11のみを送液し、マイクロ流路デバイス30内に残存した粒子を、排出口33aから排出させ、配管43を通じ、容器23に回収する。シース液のみを送液する時間を、排出口33aから回収容器23に接続された配管43内に含まれる粒子が排出される時間に設定すると、懸濁液12中に含まれる粒子を取りこぼしなく回収できるため好ましい。回収容器23に回収された溶液14に含まれる粒子は、各解析方法に供することができる。
【実施例
【0034】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら例に限定されるものではない。
【0035】
実施例1
図1に示す分散溶媒置換装置100を用いて、細胞懸濁液における分散溶媒置換を試みた。なお、本実施例で使用する図2に記載のマイクロ流路デバイスの寸法としては、すべて高さ50μmであり断面形状が長方形の流路であり、分岐流路36および排出流路37以外の断面形状を幅32μm、導入口32から排出口33aまでの長さが14mmであり、導入口31から合流流路34の末端までの長さが4mmであり、分岐流路36における上流側の細い部分を幅20μm、下流側の太い部分を幅42μm、分岐流路36全体の長さを11mm、排出流路37の幅250μm、長さを10mmとしている。
(1)ヒト肺がん細胞(PC9細胞)を、5%CO2環境下、10%(w/v)FBS(ウシ胎児血清)を含むRPMI-1640培地を用いて、37℃で24から96時間培養後、0.25%トリプシン/1mM EDTAを用いて培地から細胞を剥離し、PBS(Phosphate buffered saline)で溶液置換後、0.04%(w/v)のトリパンブルーを含むPBS1mLで懸濁したものを懸濁液12とした。トリパンブルーを入れることにより配管及びマイクロ流路デバイス内での懸濁液中の細胞の存在が認識しやすくなる。
(2)懸濁液12を容器22に入れ、封止液13としてミネラルオイル(ナカライテスク社製)0.5mLを重層した。
(3)シース液11として、280mMスクロースを含む水溶液5mLを調製した後、容器21に入れ、懸濁液12を入れた容器22と合わせて、エアポンプ60を接続した圧力容器50に入れた。
(4)容器21とマイクロ流路デバイス30に設けたシース液導入口31とを、内径φ0.5mm、長さ20cmのチューブ(配管41)で接続し、容器22と前記デバイスに設けた懸濁液導入口32とを、計測器70として流速計(Blacktrace社製)を介して、内径φ0.5mm、長さ10cmのチューブ(配管42)2本で接続した。またマイクロ流路デバイス30に設けた排出口33aと回収容器23とを、内径φ0.5mm、長さ6cmのチューブ(配管43)で接続した。
(5)エアポンプ60により、400mbarで40分間加圧することで送液した。
(6)(5)で送液した際の配管及びマイクロ流路デバイス30内における、懸濁液12に添加したトリパンブルーの色味の変化を目視で観察し、流速計70の値の変動を計測することで、各液体の送液状態を確認した。
【0036】
実施例1では、送液開始後約35分でトリパンブルーを含む細胞懸濁液全量を送液でき、その後配管42内がミネラルオイルに置換されていく様子がトリパンブルーの色味から確認された。さらにミネラルオイルが導入口32に達した時点で流速が30μL/minから0μL/minへと変化し、流速計(計測器70)上、ミネラルオイルの送液が停止したことを確認した。一方、シース液11は、エアポンプ60による加圧を行なっている間(40分間)そのまま送液を続けることで、マイクロ流路デバイス30(排出口33a)と回収容器23とを接続している配管43内に残存している細胞を排出でき、かつ回収容器23内の懸濁液中に泡及びミネラルオイルが混入していないことを目視で確認した。
【0037】
実施例2
実施例1と同様の分散溶媒置換装置およびマイクロ流路デバイスを用いて、細胞懸濁液における分散溶媒置換を試みた。
(1)PC9細胞を剥離した後、10%(w/v)FBSを含むRPMI-1640培地で溶液置換後、0.04%(w/v)のトリパンブルーと1%(w/v)のデキストランとを含みOptiPrep(Abbott Diagnostics Technologies社)により懸濁液の比重を1.077に調整した前記培地1mLに懸濁したものを懸濁液12とした。懸濁液に含まれる細胞数(セルカウンティングプレートにて測定;ワトソン社製)、電気伝導度(電気伝導率計LAQUAtwin-EC-33Bにて測定;堀場製作所製)およびトリパンブルーの吸収波長である600nmの吸光度(分光光度計NanoDropにて測定;ThermoFisher社製)を測定した。
(2)懸濁液12を容器22に入れ、封止液13としてミネラルオイル(ナカライテスク社製)0.5mLを重層した。
(3)シース液11として1%(w/v)のデキストランと280mMのスクロースとを含みOptiPrepにより比重を1.077に調整した水溶液5mLを調製し、エアポンプ60により1400mbarで30分間加圧した他は、実施例1(3)から(5)と同様な方法で送液した。
(4)(3)で送液した後、排出口33aから排出された溶液14に含まれる細胞数および回収液量を測定した。溶液14の液量をシース液により1mLにマイクロピペットでフィルアップした後、電気伝導度およびトリパンブルーの吸収波長である600nmの吸光度を測定した。
【0038】
分散溶媒置換前の細胞懸濁液に含まれる細胞数1.34×10^6個であり、電気伝導度9.3mS/cm、吸光度1.182であったのに対して、分散溶媒置換後の細胞懸濁液に含まれる細胞数1.29×10^6個、回収液量109μl、電気伝導度0.028mS/cm、吸光度0.019となった。分散溶媒置換後の細胞回収率は96.2%となり、高回収率を示すとことがわかる。また、電気伝導度は1/100以下、吸光度は1/50以下となり、高効率に溶液置換されていることがわかる。
【0039】
実施例3
実施例1と同様の分散溶媒置換装置およびマイクロ流路デバイスを用いて、細胞懸濁液における分散溶媒置換を試みた。
(1)PC9細胞を剥離した後、蛍光染色色素(CFSE、同仁化学研究所社製)で標識し、10%(w/v)FBSを含むRPMI-1640培地で溶液置換後、0.04%(w/v)のトリパンブルーと1%(w/v)のデキストランとを含みOptiPrepにより懸濁液の比重を1.077に調整した前記培地1mLに細胞数が約200個含まれるよう懸濁したものを懸濁液12とした。細胞懸濁液をプレート上に展開させ蛍光顕微鏡を用いて目視で計数した後、プレート上に添加した細胞懸濁液を回収して前記懸濁液に添加した際に、プレート上に残存した細胞数を前記計数した細胞数から減ずることで懸濁液に添加した細胞数を測定した。
(2)懸濁液12を容器22に入れ、封止液13としてミネラルオイル(ナカライテスク社製)0.5mLを重層した。
(3)シース液11として1%(w/v)のデキストランと280mMのスクロースとを含みOptiPrepにより比重を1.077に調整した水溶液5mLを調製し、エアポンプ60により1400mbarで30分間加圧した他は、実施例1(3)から(5)と同様な方法で送液した。
(4)(3)で送液した後、排出口33aから排出された溶液14に含まれる蛍光標識された(1)と同様に細胞数を測定した。
【0040】
分散溶媒置換前の細胞懸濁液に含まれる細胞数153個であったのに対して、分散溶媒置換後の細胞懸濁液に含まれる細胞数139個となった。分散溶媒置換後の細胞回収率は90.8%となり、少数の細胞であっても高効率に回収できることがわかる。
【符号の説明】
【0041】
100:装置
11:シース液
12:懸濁液
13:封止液
14:処理後の懸濁液
21:容器(容器2)
22:容器(容器1)
23:容器(容器3)
30:マイクロ流路デバイス
30a:本体部
30b:蓋部
31:シース液導入口(導入口2)
32:懸濁液導入口(導入口1)
33:排出口
34:合流流路
35:排出流路
36:分岐流路
37:排出流路
41:配管(配管2)
42:配管(配管1)
43:配管(配管3)
50:圧力容器
60:エアポンプ
61:加圧配管
70:計測器
80:制御部
90:導線
図1
図2