(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】ジルコニア焼結体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/486 20060101AFI20241112BHJP
C01G 25/02 20060101ALI20241112BHJP
A61C 13/08 20060101ALI20241112BHJP
A61C 5/70 20170101ALN20241112BHJP
【FI】
C04B35/486
C01G25/02
A61C13/08 Z
A61C5/70
(21)【出願番号】P 2020168154
(22)【出願日】2020-10-05
【審査請求日】2023-09-11
(31)【優先権主張番号】P 2019185075
(32)【優先日】2019-10-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 晶子
(72)【発明者】
【氏名】渡部 綾子
(72)【発明者】
【氏名】畦地 翔
(72)【発明者】
【氏名】永山 仁士
(72)【発明者】
【氏名】藤崎 浩之
【審査官】安積 高靖
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-143178(JP,A)
【文献】特開2018-052806(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/486
C01G 25/02
A61C 13/08
A61C 5/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イットリア及びジルコニアを含有し、イットリア含有量が4.5mol%以上6.5mol%以下、残部がジルコニアであり、試料厚さ1mm、JIS K 7361-1に準じて測定される全光線透過率が
47.4%以上であり、三点曲げ強度が700MPa以上であり、試料厚さ1mm、測定波長400~700nmにおける、全光線透過率の積算値に対する直線透過率の積算値の比が1.3%以下であること、を特徴とするジルコニア焼結体。
【請求項2】
アルミナを含有する請求項1に記載のジルコニア焼結体。
【請求項3】
アルミナ含有量が0.005質量%以上0.2質量%以下である請求項1又は2に記載のジルコニア焼結体。
【請求項4】
平均結晶粒径が0.5μm以上1.8μm以下である請求項1乃至3のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体。
【請求項5】
イットリア濃度が異なる結晶粒子を含む請求項1乃至4のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体。
【請求項6】
イットリア濃度が最大の結晶粒子と、イットリア濃度が最小の結晶粒子の、イットリア濃度の差が2.7mol%以上7mol%以下である請求項1乃至5のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体。
【請求項7】
結晶粒子に占める、イットリア濃度が3.0mol%以上4.0mol%以下の結晶粒子の個数割合が10%以上50%以下である請求項1乃至6のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体。
【請求項8】
イットリア源及びジルコニアを含有し、イットリア源の含有量が4.5mol%以上6.5mol%以下、残部がジルコニアであり、ジルコニアの結晶相に占める正方晶及び立方晶の合計割合が90%以下であり、BET比表面積が7.5m
2/g以上15m
2/g以下であり、平均結晶子径が325Å以上であるジルコニア粉末を含む成形体を焼結する工程、を有することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体の製造方法。
【請求項9】
前記ジルコニア粉末が、イットリア含有量が異なるジルコニア粉末粒子を含む請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記ジルコニア粉末において、一方のジルコニア粉末粒子と、他方のジルコニア粉末粒子とのイットリア含有量の差が3.0mol%を超えている請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記工程における焼結が常圧焼結である請求項8乃至10のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項12】
イットリア源及びジルコニアを含有し、イットリア源の含有量が4.5mol%以上6.5mol%以下、残部がジルコニアであり、ジルコニアの結晶相に占める正方晶及び立方晶の合計割合が90%以下であり、BET比表面積が7.5m
2/g以上15m
2/g以下であり、平均結晶子径が325Å以上であるジルコニア粉末。
【請求項13】
請求項12に記載のジルコニア粉末を使用することを特徴とする仮焼体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
クラウンやブリッジ等の歯科補綴材用途に適用されるジルコニア焼結体は、自然歯と同等な透光性が要求される。この要求に応えるため、安定化剤の含有量の増加によるジルコニア焼結体の透光性の向上が検討されている(特許文献1)。安定化剤の含有量の増加は、ジルコニア焼結体の透光性を向上させる一方、その機械的強度を低下させる。そのため、特許文献1等のジルコニア焼結体は、特に機械的強度が要求される歯科補綴材としての適用が困難であった。
【0002】
特許文献2では、安定化剤の含有量が高いジルコニア焼結体の機械的強度の改善が検討されており、機械的強度の低下が生じうる安定化剤の含有量であるにも関わらず、特に機械的強度が必要とされる歯科補綴材で要求される機械的強度を満足し得るジルコニア焼結体が開示されている。同様に、特許文献3では、焼結雰囲気の制御により、機械的強度の低下が著しい5mol%以上の安定化剤の含有量の範囲であっても、ほとんどの歯科補綴材で要求される機械的強度を満足し得るジルコニア焼結体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-143178号公報
【文献】特開2018-052806号公報
【文献】特開2011-073907号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、歯科補綴材の製造においては、大気雰囲気、かつ、大気圧下で焼結を行う焼結炉が汎用されている。そのため、熱間静水圧プレス(HIP)やマイクロ波焼結等の専用設備を要する焼結や、酸素雰囲気等の雰囲気制御を要する焼結により製造されるジルコニア焼結体は、歯科補綴材に適用するジルコニア焼結体として適用することは困難である。
【0005】
本開示は、大気圧下で焼結を行う焼結炉を使用しても製造することができ、なおかつ、歯科補綴材として要求される機械的強度及び透光性を有するジルコニア焼結体、その製造方法、その前駆体、及び、前駆体の製造方法の少なくともいずれかを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示においては、歯科補綴物の製造においては大気雰囲気かつ大気圧下の焼結が汎用されていることを踏まえ、イットリア含有量が高いジルコニア焼結体の機械的強度と透光性の両立について検討した。その結果、安定化剤の含有量が高いジルコニア焼結体において、透明性が高過ぎず、歯科補綴物に適した透光性を有したまま機械的強度が向上したジルコニア焼結体を見出した。
【0007】
すなわち、本発明は特許請求の範囲に記載の発明に係るものであり、また、本開示の要旨は以下の通りである。
[1] イットリア及びジルコニアを含有し、イットリア含有量が4.5mol%以上6.5mol%以下、残部がジルコニアであり、試料厚さ1mm、JIS K 7361-1に準じて測定される全光線透過率が46.5%以上であり、三点曲げ強度が700MPa以上であり、試料厚さ1mm、測定波長400~700nmにおける、全光線透過率の積算値に対する直線透過率の積算値の比が1.3%以下であること、を特徴とするジルコニア焼結体。
[2] アルミナを含有する上記[1]に記載のジルコニア焼結体。
[3] アルミナ含有量が0.005質量%以上0.2質量%以下である上記[1]又は[2]に記載のジルコニア焼結体。
[4] 平均結晶粒径が0.5μm以上1.8μm以下である上記[1]乃至[3]のいずれかひとつに記載のジルコニア焼結体。
[5] イットリア濃度が異なる結晶粒子を含む上記[1]乃至[4]のいずれかひとつに記載のジルコニア焼結体。
[6] イットリア濃度が最大の結晶粒子と、イットリア濃度が最小の結晶粒子の、イットリア濃度の差が2.7mol%以上7mol%以下である上記[1]乃至[5]のいずれかひとつに記載のジルコニア焼結体。
[7] 結晶粒子に占める、イットリア濃度が3.0mol%以上4.0mol%以下の結晶粒子の個数割合が10%以上50%以下である上記[1]乃至[6]のいずれかひとつに記載のジルコニア焼結体。
[8] イットリア源及びジルコニアを含有し、イットリア源の含有量が4.5mol%以上6.5mol%以下、残部がジルコニアであり、ジルコニアの結晶相に占める正方晶及び立方晶の合計割合が90%以下であり、BET比表面積が7.5m2/g以上15m2/g以下であり、平均結晶子径が325Å以上であるジルコニア粉末を含む成形体を焼結する工程、を有することを特徴とする上記[1]乃至[7]のいずれかひとつに記載のジルコニア焼結体の製造方法。
[9] 前記ジルコニア粉末が、イットリア含有量が異なるジルコニア粉末粒子を含む上記[8]に記載の製造方法。
[10] 前記ジルコニア粉末において、一方のジルコニア粉末粒子と、他方のジルコニア粉末粒子とのイットリア含有量の差が3.0mol%を超えている上記[9]に記載の製造方法。
[11] 前記工程における焼結が常圧焼結である上記[9]乃至[10]のいずれかひとつに記載の製造方法。
[12] イットリア源及びジルコニアを含有し、イットリア源の含有量が4.5mol%以上6.5mol%以下、残部がジルコニアであり、ジルコニアの結晶相に占める正方晶及び立方晶の合計割合が90%以下であり、BET比表面積が7.5m2/g以上15m2/g以下であり、平均結晶子径が325Å以上であるジルコニア粉末。
[13] 上記[12]に記載のジルコニア粉末を使用することを特徴とする仮焼体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本開示により、大気圧下で焼結を行う焼結炉を使用しても製造することができ、なおかつ、歯科補綴材として要求される機械的強度及び透光性を有するジルコニア焼結体、その製造方法、その前駆体、及び、前駆体の製造方法の少なくともいずれかを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1のジルコニア焼結体の表面のSEM観察図
【
図2】ジルコニア焼結体に占める、イットリア濃度3~4mol%の結晶粒子の個数割合と、三点曲げ強度の関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示のジルコニア焼結体について、実施形態の一例を示して説明する。
【0011】
本実施形態のジルコニア焼結体は、イットリア及びジルコニアを含有し、イットリア含有量が4.5mol%以上6.5mol%以下、残部がジルコニアであり、試料厚さ1mm、JIS K 7361-1に準じて測定される全光線透過率が46.5%以上であり、三点曲げ強度が700MPa以上であり、試料厚さ1mm、測定波長400~700nmにおける、全光線透過率の積算値に対する直線透過率の積算値の比が1.3%以下であること、を特徴とするジルコニア焼結体、である。
【0012】
本実施形態において「ジルコニア焼結体」は、ジルコニアを主相とする焼結体であり、焼結体の全組成に占めるジルコニア(ZrO2)の割合が最も高い焼結体である。ジルコニア焼結体は、ジルコニア焼結体の質量に対するジルコニア(ZrO2)の質量割合(ジルコニアが安定化剤を含む場合は、安定化剤及びジルコニアの合計質量割合)が95質量%以上100%質量%以下、更には99質量%以下、また更には99.5質量%以上100質量%以下であること、が挙げられる。
【0013】
本実施形態のジルコニア焼結体は、イットリア及びジルコニアを含有する。イットリア(Y2O3)はジルコニアを着色せずに安定化剤として機能する。そのため、本実施形態のジルコニア焼結体は、イットリア含有ジルコニア焼結体、イットリア固溶ジルコニア焼結体、イットリア安定化ジルコニア焼結体、イットリア部分安定化ジルコニア焼結体、又は部分安定化ジルコニア焼結体、等とみなすことができる。本実施形態のジルコニア焼結体は、イットリア及びジルコニアを、イットリア含有ジルコニアとして含有することが好ましい。また、イットリアは少なくとも一部がジルコニアに固溶しており、さらに、ジルコニアに未固溶のイットリアを含まないことがより好ましい。
【0014】
本実施形態における「未固溶のイットリアを含まない」とは、後述のXRD測定及びXRDパターンの解析において、イットリア(Y2O3)に由来するXRDピークが確認されない状態であり、本実施形態のジルコニア焼結体の特性に影響を与えない程度の未固溶のイットリアを含有することは許容され得る。
【0015】
イットリア含有量は4.5mol%以上6.5mol%以下であり、4.5mol%を超え6.0mol%以下、4.7mol%以上5.8mol%以下、4.8mol%以上5.5mol%以下、又は、5.0mol%以上5.5mol%以下であることが好ましい。別の実施形態において、イットリア含有量は4.5mol%以上、4.5mol%超、4.7mol%以上、4.8mol%以上又は5.0mol%以上であり、また、6.5mol%以下、6.0mol%以下、5.8mol%以下又は5.5mol%以下である。イットリア含有量が4.5mol%未満であると、高い透光性を有するジルコニア焼結体を安定的に得ることが困難になる。一方、イットリア含有量が6.5mol%を超えると、機械的強度が低下する。繰返しの製造においても高い透光性を有するジルコニア焼結体が再現よく得られやすくなるため、イットリア含有量は5.0mol%以上6.0mol%以下、5.0mol%以上5.8mol%以下、又は、5.2mol%以上5.6mol%以下が好ましい。
【0016】
本実施形態のジルコニア焼結体におけるイットリア含有量は、ジルコニア焼結体中のジルコニア(ZrO2)及びイットリア(Y2O3)の合計に対する、イットリア(Y2O3)のモル割合(mol%)であり、{Y2O3[mol]/(ZrO2+Y2O3)[mol]}×100から求められる。
【0017】
本実施形態のジルコニア焼結体は、アルミナ(Al2O3)を含有していてもよく、ジルコニア、イットリア及びアルミナから構成されていてもよい。アルミナ含有量は、0質量%以上0.2質量%以下、0質量%以上0.15質量%以下、又は、0質量%以上0.1質量%未満であることが例示できる。少量のアルミナを含有することで焼結が促進されやすくなるため、アルミナ含有量は0質量%を超え0.2質量%以下、0.005質量%以上0.15質量%以下、0.01質量%以上0.12質量%以下、0.015質量%以上0.1質量%未満、又は、0.02質量%以上0.07質量%以下が例示できる。
【0018】
本実施形態のジルコニア焼結体におけるアルミナ含有量は、ジルコニア焼結体中のジルコニア(ZrO2)、イットリア(Y2O3)及びアルミナ(Al2O3)の合計に対する、アルミナの質量割合(質量%)であり、{Al2O3[g]/(ZrO2+Y2O3+Al2O3)[g]}×100から求められる。
【0019】
本実施形態のジルコニア焼結体の効果が損なわれない範囲であれば、ジルコニアを着色する機能を有する元素(以下、「着色剤」ともいう。)を含んでいてもよい。着色剤は、ジルコニアを着色する機能を有する元素であって、ジルコニアの相転移を抑制する機能を有する元素であってもよい。具体的な着色剤として、遷移金属元素及びランタノイド系希土類元素の少なくともいずれかが例示でき、好ましくは鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、ユーロピウム(Eu)、ガドリウム(Gd)、テルビウム(Tb)、エルビウム(Er)及びイッテルビウム(Yb)の群から選ばれる1種以上、より好ましくは鉄、コバルト、マンガン、プラセオジム、ネオジム、テルビウム及びエルビウムの群から選ばれる1種以上、更に好ましくは鉄、コバルト及びエルビウムの群から選ばれる1種以上が挙げられる。
【0020】
本実施形態のジルコニア焼結体は、ハフニア(HfO2)等、不可避不純物を含んでもよい。不可避不純物としてのハフニアの含有量は2.0質量%以下であることが挙げられる。しかしながら、本実施形態のジルコニア焼結体の効果への影響が大きい元素を含まないことが好ましく、例えば、本実施形態のジルコニア焼結体は、マグネシア(MgO)換算したマグネシウムの含有量が0質量ppm以上500質量ppm以下、シリカ(SiO2)換算したケイ素の含有量が0質量ppm以上500質量ppm以下、及び、チタニア(TiO2)換算したチタンの含有量が0質量ppm以上500質量ppm以下、の少なくともいずれかを満たすことが挙げられ、マグネシウム、ケイ素及びチタンの含有量が、それぞれ、0質量ppm以上500質量ppm以下であることが好ましい。
【0021】
本実施形態のジルコニア焼結体の組成は、一般的な組成分析(例えば、ICP測定)により測定することができる。別の実施形態においては、その製造方法が既知である場合は使用した原料の組成から求めることができる。
【0022】
本実施形態のジルコニア焼結体は、結晶相に正方晶及び立方晶の少なくともいずれかを含むことが好ましく、正方晶及び立方晶を含むことがより好ましい。本実施形態のジルコニア焼結体は、結晶相に正方晶及び立方晶の少なくともいずれかを主相とすることが好ましく、結晶相に占める正方晶及び立方晶の合計割合(以下、「正方晶+立方晶率」ともいう。)が、95%以上、又は、99%以上であることが好ましい。本実施形態において、結晶相に占める正方晶及び立方晶以外の結晶相は単斜晶とみなせばよい。結晶相に占める単斜晶の割合(以下、「単斜晶率」ともいう。)は0%以上又は0.5%以上であり、なおかつ、5%未満、好ましくは1%未満である。
【0023】
正方晶+立方晶率及び単斜晶率は、本実施形態のジルコニア焼結体の表面の粉末X線回折(以下、「XRD」ともいう。)パターンから、以下の式により求められる値である。
【0024】
fT+C=[It(111)+Ic(111)]
/[Im(111)+Im(11-1)+It(111)+Ic(111)]
fM=1-fT+C
上式において、fT+Cは正方晶+立方晶率、fMは単斜晶率、It(111)は正方晶(111)面の面積強度、Ic(111)は立方晶(111)面の面積強度、Im(111)は単斜晶(111)面の面積強度、及び、Im(11-1)は単斜晶(11-1)面の面積強度である。
【0025】
各結晶面の面積強度は、平滑化処理及びバックグラウンド除去処理後のXRDパターンを、分割擬Voigt関数によりプロファイルフィッティングすることで、求めることができる。平滑化処理やバックグラウンド処理、及び、面積強度の算出などのXRDパターンの解析は、X線回折装置付属の解析プログラム(例えば、統合粉末X線解析ソフトウェアPDXL Ver.2.2、RIGAKU社製)などを使用して行うことができる。
【0026】
本実施形態のジルコニア焼結体の表面のXRDパターンは、以下の条件によるXRD測定により得られることが好ましい。
【0027】
線源 : CuKα線(λ=0.15418nm)
測定モード : 連続スキャン
スキャンスピード : 4°/分
ステップ幅 : 0.02°
測定範囲 : 2θ=26°~33°
XRD測定は、一般的なX線回折装置(例えば、MiniFlex、RIGAKU社製)を使用して行うことができる。
【0028】
上述のXRD測定において測定されるジルコニアの各結晶面に相当するXRDピークとして、以下の2θにピークトップを有するXRDピークであることが挙げられる。
【0029】
単斜晶(111)面に相当するXRDピーク : 2θ=31±0.5°
単斜晶(11-1)面に相当するXRDピーク: 2θ=28±0.5°
正方晶(111)面に相当するXRDピーク : 2θ=30±0.5°
立方晶(111)面に相当するXRDピーク : 2θ=30±0.5°
正方晶(111)面に相当するXRDピーク、及び、立方晶(111)面に相当するXRDピークは、重複したひとつのピークとして測定される。そのため、上式におけるIt(111)+Ic(111)は、2θ=30±0.5°にピークトップを有する1つのXRDピークの面積強度から求めればよい。
【0030】
本実施形態のジルコニア焼結体は、相対密度が99.8%以上、又は、99.85%以上であることが好ましい。相対密度は100%以下、更には99.98%以下である。
【0031】
本実施形態における「相対密度」は、理論密度に対する実測密度の割合(%)である。実測密度は質量測定で測定される質量に対する、アルキメデス法で測定される体積の割合(g/cm3)である。また、理論密度、すなわち本実施形態で使用する理論密度、は以下の式(1)~(4)から求められる密度(g/cm3)である。
【0032】
A=0.5080+0.06980X/(100+X) (1)
C=0.5195-0.06180X/(100+X) (2)
ρZ=[124.25(100-X)+225.81X]
/[150.5(100+X)A2C] (3)
ρ0=100/[(Y/3.987)+(100-Y)/ρZ] (4)
式(1)~(4)において、ρ0は理論密度、ρZはジルコニアの理論密度、A及びCは定数、Xはジルコニア(ZrO2)及びイットリア(Y2O3)の合計に対するイットリアのモル割合(mol%)、並びに、Yはジルコニア焼結体中のジルコニア、イットリア及びアルミナの合計に対する、アルミナの質量割合(質量%)である。
【0033】
なお、本実施形態のジルコニア焼結体がジルコニア、イットリア及びアルミナ以外の金属酸化物や希土類酸化物を含む場合、上述の式(4)における「Y」及び「(Y/3.987)」の項を以下のように置換すればよい。
【0034】
Y=Y1+Y2+・・・Yn
(Y/3.987)=(Y1/W1+Y2/W2+・・・Yn/Wn)
ここで、Y1,Y2,・・・,Ynは、ジルコニア及びイットリア以外の各金属酸化物の質量割合(質量%)であり、W1,W2,・・・,Wnは、ジルコニア及びイットリア以外の各金属酸化物又は希土類酸化物の密度(g/cm3)である。なお、式(1)~(4)は不可避不純物が考慮された値であるため、不可避不純物のハフニアについては式(4)を置換しなくてよい。
【0035】
本実施形態のジルコニア焼結体は平均結晶粒径が0.5μm以上1.8μm以下、又は、0.55μm以上1.6μm以下であることが例示できる。ジルコニア焼結体は平均結晶粒径が小さいほど機械的強度が高くなる傾向があるが、本実施形態のジルコニア焼結体は、そのイットリア含有量の範囲において、平均結晶粒子径が0.5μm以上であっても、高い機械的強度を有しやすくなる。平均結晶粒径は0.5μm以上1μm以下、0.55μm以上0.8μm以下、0.6μm以上0.8μm未満、又は、0.7μm以上0.8μm未満であることが好ましい。
【0036】
本実施形態における「平均結晶粒径」は、SEM観察図を使用したプラニメトリック法により求めることができる。すなわち、SEM観察図に面積が既知の円を描き、当該円内の結晶粒子数(Nc)及び当該円の円周上の結晶粒子数(Ni)を計測し、合計の結晶粒子数(Nc+Ni)が250±50個となるようにした上で、以下の式を使用して平均結晶粒径を求めることができる。
【0037】
平均結晶粒径=2/{π×(Nc+(1/2)×Ni)/(A/M2)}0.5
上式において、Ncは円内の結晶粒子数、Niは円の円周上の結晶粒子数、Aは円の面積、及び、Mは走査型電子顕微鏡観察の倍率(例えば、5、000~10,000倍)である。なお、ひとつのSEM観察図における結晶粒子数(Nc+Ni)が200個未満である場合、複数のSEM観察図を用いて(Nc+Ni)を250±50個とすればよい。
【0038】
SEM観察に供するジルコニア焼結体は、表面粗さがRa≦0.02μmであるジルコニア焼結体を熱エッチング処理(例えば、大気中、1400℃~1500℃で処理)したものを使用すればよい。
【0039】
本実施形態のジルコニア焼結体は、大きさの異なる結晶粒子を含んでいてもよく、粗大な結晶粒子と微細な結晶粒子とを含むことが好ましく、粗大な結晶粒子と複数の微細な結晶粒子とが粒界を形成した構造を有することがより好ましい。具体的には、
図1の丸部で示すように、長径(結晶粒子における最長の長さ)が1.0μm以上の結晶粒子の外周を、長径が1.0μm未満の結晶粒子が取り囲むように結晶粒子が分布した構造、を有すること例示できる。
【0040】
本実施形態のジルコニア焼結体は、イットリア濃度が異なる結晶粒子を含むことが好ましく、異なるイットリア濃度を有する結晶粒子から構成されることがより好ましい。一般的に、ジルコニア焼結体は、同程度のイットリア濃度を有する結晶粒子から構成される。これに対し、ジルコニア焼結体が、異なるイットリア濃度を有する結晶粒子から構成されることで、各結晶粒子の特性が相乗的に反映された特性を有する傾向にある。
【0041】
本実施形態のジルコニア焼結体は、例えば、イットリア濃度が最大の結晶粒子と、イットリア濃度が最小の結晶粒子の、イットリア濃度の差(以下、「結晶粒子間濃度差」ともいう。)が2.7mol%以上7mol%以下であることが好ましい。更に、結晶粒子間濃度差が3mol%以上7mol%以下、更には3.2mol%以上5mol%以下であることで、ジルコニア焼結体の機械的強度がより高くなる傾向がある。
【0042】
本実施形態のイットリア含有量の範囲において機械的強度が高くなる傾向があるため、結晶粒子に占める、イットリア濃度が3.0mol%以上4.0mol%以下の結晶粒子の個数割合が10%以上50%以下であることが好ましい。特に機械的強度が高くなる傾向があるため、イットリア濃度が3.0mol%以上4.0mol%以下の結晶粒子の個数割合は25%以上40%以下であることがより好ましい。
【0043】
本実施形態において、結晶粒子のイットリア濃度は、SEM-EDS分析により求めることができる。具体的には、結晶粒子の粒界が確認できる倍率(例えば、倍率10,000倍、好ましくはSEM観察図上に占める結晶粒子が150±25個となる倍率)で観察されたSEM観察図を使用し、結晶粒子を判別した後、SEM観察図上で粒子全体が確認できる各結晶粒子(すなわち、SEM観察図の外周に係る結晶粒子以外の結晶粒子)について、以下の式により求めればよい。
【0044】
C=CY/{CY+(2×CZr)}×100
上式において、Cは結晶粒子のイットリア濃度(mol%)、CYは結晶粒子中のイットリウムのEDSスペクトルの合計強度、及び、CZrは結晶粒子中のジルコニウムのEDSスペクトルの合計強度である。
【0045】
イットリア濃度が3.0mol%以上4.0mol%以下の結晶粒子の個数割合は、上記SEM-EDS分析で観察された(判別された)全結晶粒子の合計個数に対する、イットリア濃度が3.0mol%以上4.0mol%以下の結晶粒子の個数割合から求めることができる。
【0046】
本実施形態において、SEM-EDS分析は、一般的なSEM-EDS装置(例えば、SEM:JSM-7600F、日本電子社製、EDS:NSS312E、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)により測定することができる。結晶粒子の判別や、定量値はEDSスペクトルの元素ごとのピーク強度をもとに、前述の装置や、装置に搭載されている機能(解析プログラム等)により算出すればよい。
【0047】
本実施形態のジルコニア焼結体は、試料厚さ1mm、JIS K 7361-1に準じて測定される全光線透過率(以下、「光透過率」ともいう。)が46.5%以上であり、47%を超え、47.5%以上、又は、48%以上であることが好ましい。光透過率がこれより低いジルコニア焼結体は、前歯用の歯科補綴材等、一部の歯科補綴材への適用が妨げられる。光透過率が48.5%以上、好ましくは49%以上であることで、本実施形態のジルコニア焼結体は、前歯先端等、特に高い透光性が要求される歯科補綴材として適用されやすくなる。本実施形態のジルコニア焼結体のイットリア含有量の範囲における光透過率は54%以下、53%以下、又は、52%以下であることが例示できる。
【0048】
本実施形態において光透過率は、JIS K 7361-1に準じた方法で測定することができる、入射光として白昼光を用いて測定される全光線透過率である。また、本実施形態において直線透過率は、JIS K 7361-1に準じた方法で測定することができる、入射光として白昼光を用いて測定される直線透過率である。光透過率及び直線透過率は、測定試料として、試料厚さ1mm、かつ、両面の表面粗さRa≦0.02μmである円板状のジルコニア焼結体を使用し、測定装置として、光源にD65光源を備えたヘーズメータ(例えば、ヘーズメータ NDH4000、日本電色社製)を使用して測定すること、が例示できる。
【0049】
本実施形態のジルコニア焼結体は、試料厚さ1mm、測定波長400~700nmにおける、全光線透過率の積算値に対する直線透過率の積算値の比(以下、「PT/TT比」ともいう。)が1.3%以下であり、1.2%以下、1.0%以下、0.8%以下、又は0.6%以下であることが好ましい。PT/TT比は、可視光域における直線透過率と全光線透過率の比を示す指標のひとつであり、この範囲のPT/TT比を満たすことで透明性(Transpalency)が抑制された透光性(Tranlucency)を有するジルコニア焼結体となる。これにより、本実施形態のジルコニア焼結体が、より自然歯に近い透光感を備えた歯科補綴材として視認され得る。本実施形態のジルコニア焼結体は、PT/TT比が0%を超え、0.1%以上、又は、0.3%以上であることが好ましい。PT/TT比の範囲として0%を超え1.3%以下、0.1%以上1.0%以下、又は、0.3%以上0.9%以下が例示できる。
【0050】
本実施形態においてPT/TT比は、UV-VISスペクトル測定によって、各波長における直線透過率及び全光線透過率をそれぞれ測定し、その積算値の比を求めることで得られる。UV-VISスペクトルの測定条件として、以下の条件が挙げられる。
【0051】
測定方法 :UV-VIS分光光度測定
測定方式 :ダブルビーム方式
光源 :ハロゲンランプ
測定波長範囲 :400nm~700nm
波長ステップ :0.5nm
PT/TT比の測定は、測定試料として、試料厚さ1mm、かつ、両面の表面粗さRa≦0.02μmである円板状のジルコニア焼結体を使用し、測定装置として、一般的なUV-VIS分光光度計(例えば、分光光度計 V-650、日本分光社製)を使用し、行うことが例示できる。
【0052】
本実施形態のジルコニア焼結体は、上述の光透過率及びPT/TT比を満たすため、透光性ジルコニア焼結体、高透光性ジルコニア焼結体、又は、光透過性ジルコニア焼結体、等とみなすこともできる。
【0053】
本実施形態のジルコニア焼結体は、三点曲げ強度が700MPa以上、715MPa以上、730MPa以上、又は、780MPa以上であることが好ましい。このような三点曲げ強度を満足することで、本実施形態のジルコニア焼結体が、より小さい形状の歯科用補綴物としても適用され得る。さらに、三点曲げ強度が800MPa以上、又は、820MPa以上であることが好ましい。上述の光透過率及びPT/TT比に加え、このような三点曲げ強度を満足することで、本実施形態のジルコニア焼結体が前歯用の歯科補綴材が四連以上のブリッジとして適用され得る。三点曲げ強度は高いほど好ましいが、本実施形態のイットリア含有量を満足する場合、三点曲げ強度は、1200MPa以下、1000MPa以下、又は、900MPa以下であることが例示できる。イットリア含有量が多くなると、三点曲げ強度は低下する傾向があるため、例えば、イットリア含有量が5.0mol%以上の場合、三点曲げ強度は1000MPa以下であることが挙げられる。
【0054】
本実施形態において、三点曲げ強度とは、JIS R 1601に準じた三点曲げ試験により求められる値である。三点曲げ強度の測定は、支点間距離30mmで、幅4mm、厚さ3mmの柱形状の焼結体を測定試料として使用し、10回測定した平均値をもって本実施形態のジルコニア焼結体の三点曲げ強度とすればよい。
【0055】
さらに、本実施形態のジルコニア焼結体は、三点曲げ強度測定後における、破壊源の単斜晶頻度(以下、単に「単斜晶頻度」ともいう。)が40%以上又は50%以上であること、また、80%以下又は75%以下であること、が好ましい。単斜晶頻度は、三点曲げ強度測定で生じた破壊源の光学顕微鏡観察図の顕微ラマン分光分析により得られる値であり、顕微ラマン分光分析における単斜晶率(Vm)が1%以上である測定領域の数の割合である。具体的には、破壊源を含む900μm×600μmの光学顕微鏡観察図を20μm×20μmの格子状の測定領域に区分し、各測定領域におけるラマンスペクトルを測定し、以下の式より、単斜晶率(Vm)を求める。
【0056】
Vm =(a×P2)/(b×P1+a×P2)
上式において、Vmは単斜晶率、P1は149±3cm-1にピークトップを有するピークの面積、P2は179±3cm-1にピークトップを有するピーク及び189±3cm-1にピークトップを有するピークの合計面積、並びに、a及びbはそれぞれ係数(a=0.5及びb=2.2)である。
【0057】
単斜晶頻度は、測定領域の合計数(=1350)に対する、単斜晶率(Vm)が1%以上である測定領域の数の割合として求めることができる。
【0058】
顕微ラマン分光分析は、一般的な顕微ラマン装置(例えば、NRS-5100、日本分光社製)により測定することができ、各測定領域におけるピークのピーク面積は、装置付属の解析ソフト(例えば、スペクトルマネージャー、日本分光社製)を使用して求めることができる。
【0059】
本実施形態のジルコニア焼結体は、JIS R 1607で規定されるSEPB法に準拠して測定される破壊靭性値は5MPa・m1/2以下であること、更には3MPa・m1/2以上5MPa・m1/2以下であることが例示できる。
【0060】
本実施形態のジルコニア焼結体は、常圧焼結により得られる状態の焼結体、いわゆる常圧焼結体、であることが好ましく、大気雰囲気下の常圧焼結(以下、「大気焼結」ともいう。)により得られる状態の大気常圧焼結体であることがより好ましい。これにより、歯科補綴材の製造で汎用されている焼成炉を使用し、簡便に製造しやすくなる。
【0061】
本実施形態のジルコニア焼結体は、歯科材料の中でも歯科補綴材、更には前歯用の歯科補綴材、更には前歯先端用の歯科補綴材として使用することに適している。別の実施形態において、本実施形態のジルコニア焼結体は、クラウン、ブリッジ、インレー、オンレー等の歯科補綴材や、歯列矯正ブラケット等の歯科矯正器具、などの歯科材料としても使用することができる。更に、本実施形態のジルコニア焼結体は、構造材料、装飾材料、光学材料等、その他のジルコニア焼結体の公知の用途に適用することができる。
【0062】
本開示のジルコニア焼結体の他の実施形態として、以下のものが例示できる。
【0063】
イットリア及びジルコニアを含有し、イットリア含有量が4.5mol%以上6.5mol%以下、残部がジルコニアであり、イットリア濃度が異なる結晶粒子を含むことを特徴とするジルコニア焼結体。
【0064】
イットリア及びジルコニアを含有し、イットリア含有量が4.5mol%以上6.5mol%以下、残部がジルコニアであり、結晶粒子に占める、イットリア濃度が3.0mol%以上4.0mol%以下の結晶粒子の個数割合が10%以上50%以下であることを特徴とするジルコニア焼結体。
【0065】
イットリア及びジルコニアを含有し、イットリア含有量が4.5mol%以上6.5mol%以下、残部がジルコニアであり、結晶粒子間濃度差が3mol%以上7mol%以下であることを特徴とするジルコニア焼結体。
イットリア及びジルコニアを含有し、イットリア含有量が4.5mol%以上6.5mol%以下、残部がジルコニアであり、
イットリア濃度が異なる結晶粒子を含むこと、結晶粒子に占める、イットリア濃度が3.0mol%以上4.0mol%以下の結晶粒子の個数割合が10%以上50%以下であること、及び、結晶粒子間濃度差が3mol%以上7mol%以下であること、の少なくとも1つを満たすこと、を特徴とするジルコニア焼結体。
【0066】
次に、本実施形態のジルコニア焼結体の製造方法について説明する。
【0067】
本実施形態のジルコニア焼結体の好ましい製造方法として、イットリア源及びジルコニアを含有し、イットリア源の含有量が4.5mol%以上6.5mol%以下、残部がジルコニアであり、ジルコニアの結晶相に占める正方晶及び立方晶の合計割合が90%以下であり、BET比表面積が7.5m2/g以上15m2/g以下であり、平均結晶子径が325Å以上であるジルコニア粉末を含む成形体を焼結する工程、を有することを特徴とするジルコニア焼結体の製造方法、が挙げられる。
【0068】
本実施形態の製造方法に供する成形体は、イットリア源及びジルコニアを含有し、イットリア源の含有量が4.5mol%以上6.5mol%以下、残部がジルコニアであり、ジルコニアの結晶相に占める正方晶及び立方晶の合計割合が90%以下であり、BET比表面積が7.5m2/g以上15m2/g以下であるジルコニア粉末、を含む。この様なジルコニア粉末を含む成形体を焼結に供することで、焼結時の昇温速度が速い焼結方法(例えば、250℃/時間以上)を適用した焼結や、大気焼結であっても、緻密な焼結体が得られる。
【0069】
ジルコニア粉末は、イットリア源及びジルコニアを含有する。イットリア源は、イットリア及びその前駆体の少なくともいずれかであり、イットリアであることが好ましい。イットリアの前駆体として、例えば、塩化イットリウム及び硝酸イットリウムの少なくともいずれか、好ましくは塩化イットリウムが挙げられる。イットリア源はジルコニアに固溶していることが好ましく、イットリア源が全てジルコニアに固溶していてもよく、また、ジルコニア粉末は、ジルコニアに未固溶のイットリア源を含まないことが好ましい。
【0070】
イットリア源の含有量は、目的とするジルコニア焼結体におけるイットリア含有量と同等であればよい。ジルコニア粉末のイットリア源の含有量は、4.5mol%以上6.5mol%以下、4.5mol%を超え6.0mol%以下、4.7mol%以上5.8mol%以下、又は、4.8mol%以上5.5mol%以下、が例示できる。別の実施形態として、イットリア源の含有量は5.0mol%以上6.0mol%以下、又は、5.0mol%以上5.8mol%以下が例示できる。
【0071】
ジルコニア粉末におけるイットリア源の含有量は、ジルコニア粉末中のジルコニウム(Zr)をZrO2換算し、イットリウム(Y)をY2O3換算した合計値に対する、イットリウム(Y)をY2O3換算した割合(mol%)であり、{Y2O3[mol]/(ZrO2+Y2O3)[mol]}×100から求められる。
【0072】
ジルコニア粉末は、アルミナ源を含有していてもよい。アルミナ源は、アルミナ及びその前駆体の少なくともいずれかであり、アルミナであることが好ましく、α-アルミナであることがより好ましい。ジルコニア粉末のアルミナ源の含有量は、目的とするジルコニア焼結体におけるアルミナ含有量と同等であればよい。ジルコニア粉末のアルミナ源の含有量として、0質量%以上0.2質量%以下、0質量%以上0.15質量%以下、0質量%以上0.1質量%未満、0質量%を超え0.2質量%以下、0.005質量%以上0.15質量%以下、0.01質量%以上0.12質量%以下、又は、0.015質量%以上0.1質量%未満、が挙げられる。
【0073】
ジルコニア粉末におけるアルミナ源の含有量は、ジルコニア粉末中のジルコニウム(Zr)をZrO2換算し、イットリウム(Y)をY2O3換算し、アルミニウム(Al)をAl2O3換算した合計質量に対する、アルミニウム(Al)をAl2O3換算した質量割合(質量%)であり、{Al2O3[g]/(ZrO2+Y2O3+Al2O3)[g]}×100から求められる。
【0074】
ジルコニア粉末は、目的とするジルコニア焼結体を所望の色調とするために着色剤を含んでいてもよい。着色剤は、ジルコニアを着色する機能を有する元素であって、ジルコニアの相転移を抑制する機能を有する元素であってもよい。具体的な着色剤として、遷移金属元素及びランタノイド系希土類元素の少なくともいずれかが例示でき、好ましくは、鉄、コバルト、ニッケル、マンガン、プラセオジム、ネオジム、ユーロピウム、ガドリウム、テルビウム、エルビウム及びイッテルビウムの群から選ばれる1種以上、より好ましくは、鉄、コバルト、マンガン、プラセオジム、ネオジム、テルビウム及びエルビウムの群から選ばれる1種以上、更に好ましくは鉄、コバルト、及びエルビウムの群から選ばれる1種以上が挙げられる。
【0075】
ジルコニア粉末は、ハフニア(HfO2)等の不可避不純物を含んでもよい。不可避不純物としてのハフニアの含有量は2.0質量%以下であることが挙げられる。しかしながら、ジルコニア粉末は、マグネシア(MgO)換算したマグネシウムの含有量が0質量ppm以上500質量ppm以下、シリカ(SiO2)換算したケイ素の含有量が0質量ppm以上500質量ppm以下、及び、チタニア(TiO2)換算したチタンの含有量が0質量ppm以上500質量ppm以下、の少なくともいずれかを満たすことが挙げられ、マグネシウム、ケイ素及びチタンの含有量が、それぞれ、0質量ppm以上500質量ppm以下であることが好ましい。
【0076】
ジルコニア粉末は、結晶相に占める正方晶及び立方晶の合計割合(以下、「T+C相率」ともいう。)が90%以下であり、85%以下、80%以下又は75%以下であることが好ましい。この範囲のT+C相率及び後述の平均結晶子径を満たすことで、焼結後に得られるジルコニア焼結体の機械的強度が高くなる。T+C相率は50%以上、55%以上又は60%以上であることが好ましい。本実施形態において、ジルコニア粉末の結晶相に占めるT+C相率以外の相は単斜晶とみなせばよい。結晶相に占める単斜晶の割合(以下、「M相率」ともいう。)は、10%を超えること、15%を越えること、20%を超えること、又は25%を超えること、また、50%未満、45%未満又は40%未満であることが挙げられる。なお、イットリア含有量が高くなると、T+C相率も高くなりやすくなる。
【0077】
ジルコニア粉末における、T+C相率は、正方晶+立方晶率(fT+C)と同様な方法により求めることができ、M相率は単斜晶率(fM)と同様な方法により求めることができる。また、ジルコニア粉末のXRDパターンは、ジルコニア粉末について、ジルコニア焼結体のXRD測定と同様な条件による測定によって、得られる。
【0078】
ジルコニア粉末は、BET比表面積が7.5m2/g以上15m2/g以下である。上述のイットリア源の含有量において、BET比表面積がこの範囲未満であると、焼結速度が遅くなりすぎ、一方、BET比表面積がこの範囲を超えると、焼結速度が速くなりすぎる。いずれの場合にも常圧焼結、特に大気焼結、において緻密化しにくくなる。昇温速度の速い焼結を適用した場合であっても緻密化が促進される傾向があるため、BET比表面積は8m2/g以上15m2/g以下、9m2/g以上13m2/g以下、又は、9.5m2/g以上11m2/g以下であることが好ましい。別の実施形態において、BET比表面積は9.5m2/g以上又は10m2/g以上であり、また、12m2/g以下、11m2/g以下又は10.5m2/g以下である。
【0079】
本実施形態において、BET比表面積は、JIS Z 8830に準じて測定されるBET比表面積であり、吸着ガスに窒素を使用したキャリアガス法による、BET1点法により測定すればよい。BET比表面積の具体的な測定条件として以下の条件が例示できる。
【0080】
吸着媒体 :N2
吸着温度 :-196℃
前処理条件 :大気中、250℃で30分間の処理
BET比表面積は、一般的な装置(例えば、フローソーブIII2305、島津製作所社製)を使用して測定することができる。
【0081】
ジルコニア粉末は、平均結晶子径が325Å以上であり、330Å以上、335Å以上、又は、340Å以上であることが好ましい。上記のT+C相率に加え、この範囲の平均結晶子径を満たすジルコニア粉末は、焼結時の結晶粒子の成長と気孔排除が効率よく進行しやすく、常圧焼結、更には大気焼結、であっても高い透光性及び機械的強度を有するジルコニア焼結体が得られる。同様な理由より、平均結晶子径は450Å以下、400Å以下、398Å以下又は380Å以下であることが好ましい。なお、イットリア含有量が高くなると、平均結晶子径が大きくなりやすくなる。
【0082】
本実施形態において、平均結晶子径は、ジルコニア粉末のXRDパターンにおける、正方晶(111)面及び立方晶(111)面が重複したXRDピーク(以下、「メインXRDピーク」ともいう。)から求められる結晶子径であり、以下の式から算出される値である。
【0083】
D=κλ/βcosθ
上式において、Dは平均結晶子径(Å)、κはシェーラー定数(κ=1)、λは測定X線の波長(CuKα線を線源とした場合、λ=0.15418nm)、βはメインXRDピークの半値幅(°)、及びθはメインXRDピークのブラッグ角である。なお、βは平滑化処理及びバックグラウンド除去処理後のXRDパターンを、分割擬Voigt関数によるプロファイルフィッティングすることで得られたメインXRDピークの半値幅の値である。プロファイルフィッティングは、X線回折装置付属の解析プログラム(例えば、統合粉末X線解析ソフトウェアPDXL Ver.2.2、RIGAKU社製)などを使用して行うことができる。
【0084】
ジルコニア粉末は、平均粒子径が0.35μm以上0.5μm以下であることが好ましく、0.4μm以上0.45μm以下であることがより好ましい。
【0085】
本実施形態において、平均粒子径は湿式法で測定される粉末の体積粒子径分布におけるD50であり、一般的な装置(例えば、MT3300EXII、マイクロトラック・ベル社製)を使用して測定することができる。測定試料としては、超音波処理などの分散処理により緩慢凝集を除去した粉末を純水に分散させ、スラリーとしたものを使用すればよい。湿式法による体積粒子径分布の測定は、スラリーを酸性(例えばpH=3.0~6.0)にして測定することが好ましい。
【0086】
ジルコニア粉末の製造方法は任意であり、ジルコニアゾル、及びイットリア源、を含む組成物を、950℃以上1250℃以下で熱処理した後、これを粉砕する工程、を含む製造方法、が例示できる。ジルコニアゾルは、水熱合成法又は加水分解法のいずれかで得られるジルコニアゾルであることが好ましく、加水分解法で得られるジルコニアゾルであることがより好ましい。上記の熱処理温度が高いほど、BET比表面積は小さくなる傾向があり、目的とするBET比表面積に合わせて熱処理温度を設定すればよい。
【0087】
ジルコニア粉末の操作性が向上するため、ジルコニア粉末は顆粒化された粉末(以下、「粉末顆粒」ともいう。)であってもよい。粉末顆粒は、顆粒径が30μm以上80μm以下、であることが例示できる。顆粒化は、ジルコニア粉末が緩慢凝集した状態となる方法であればよく、噴霧造粒などの造粒法が例示できる。
【0088】
本実施形態において、顆粒径は乾式法で測定される粉末の体積粒子径分布におけるD50であり、一般的な装置(例えば、MT3100II、マイクロトラック・ベル社製)を使用して測定することができる。測定試料としては、超音波処理などの分散処理を施さず、緩慢凝集の状態の粉末をそのまま使用すればよい。
【0089】
ジルコニア粉末は、イットリア含有量が異なるジルコニア粉末粒子を含むことが好ましく、あるイットリア含有量のジルコニア粉末粒子と、当該ジルコニア粉末粒子とイットリア含有量が異なるジルコニア粉末粒子と、を含むことがより好ましい(以下、ジルコニア粉末において、イットリア含有量が多いジルコニア粉末粒子を「高Y粒子」ともいい、高Y粒子と比較しイットリア含有量が少ないジルコニア粉末粒子を「低Y粒子」ともいう。)。これにより、比較的低い焼結温度による焼結であっても、得られるジルコニア焼結体の透光性が高くなる傾向がある。
【0090】
本実施形態における「イットリア含有量が異なるジルコニア粉末粒子を含む」とは、ジルコニア粉末を構成する一部のジルコニア粉末粒子同士のイットリア含有量が異なっていればよく、ジルコニア粉末を構成する全てのジルコニア粉末粒子のイットリア含有量が互いに異なっている必要はない。
【0091】
別の実施形態においては、ジルコニア粉末は、2以上のジルコニア粉末粒子を含み、なおかつ、第一のジルコニア粉末粒子のイットリア含有量と、第二のジルコニア粉末粒子のイットリア含有量とが異なること、が好ましい。更に他の実施形態においては、ジルコニア粉末は、あるイットリア含有量のジルコニア粉末と、当該ジルコニア粉末とイットリア含有量が異なるジルコニア粉末との混合粉末であること、が好ましい。
【0092】
低Y粒子のイットリア含有量は、1.0mol%以上、1.3mol%以上、1.5mo%以上1.8mol%以上、2.0mol%以上又は2.3mol%以上であり、かつ5.0mol%以下、4.5mol%以下、4.2mol%以下、3.5mol%以下又は3.2mol%以下であることが例示できる。また、高Y粒子のイットリア含有量が5.0mol%超、5.2mo%以上、5.5mol%以上又は6.0mol%以上であり、かつ、10.0mol%以下、9.0mol%以下、8.5mol%以下、8.0mol%以下又は7.0mol%以下であることが例示できる。
【0093】
高Y粒子のイットリア含有量と、低Y粒子とのイットリア含有量の差(以下、「イットリア含有量差」ともいう。)が3.0mol%を超えていることが好ましい。これにより、ジルコニア粉末が上述のT+C相率及び平均結晶子径を満たしやすくなる。イットリア含有量差は、3.3mol%以上、3.5mol%以上、4.0mol%以上又は4.3mol%以上であることが好ましい。イットリア含有量差は7.5mol%以下、7.0mol%以下、又は、6.5mol%以下であることが例示できる。大気雰囲気下の焼結によって得られるジルコニア焼結体の透光性及び機械的強度が高くなる傾向にあるため、イットリア含有量差は3.8mol%以上6.5mol%以下であることが好ましい。
【0094】
本実施形態において、イットリア含有量差はジルコニア粉末のSTEM-EDSにより測定することができる。別の実施形態においては、ジルコニア粉末の製造方法が既知の場合は、製造に使用した各前駆粉末のイットリア含有量の差から求めることができる。
【0095】
ジルコニア粉末のSTEM-EDS測定は、TEM観察図において、ジルコニア粉末粒子同士の重なりがなく観察される粉末粒子に電子線を照射し、各ジルコニア粉末粒子のEDSスペルトルを得る。得られたEDSスペクトルについて、イットリウムのピーク強度及びジルコニウムのピーク強度の合計に対する、イットリウムのピーク強度から、各粉末粒子のイットリア含有量(=Y2O3/(ZrO2+Y2O3):mol%)を測定すればよい。
【0096】
STEM-EDS測定において、十分な数のジルコニア粉末粒子(例えば、10個以上、好ましくは30±5個)のイットリア濃度を得、その最大値と最小値の差をもって、イットリア濃度差とすればよい。
【0097】
本実施形態において、STEM-EDS測定は、市販されている装置(例えば、TEM:JEM-2100F、日本電子社製、EDS:JED-2300T、日本電子社製)により行うことが例示できる。
【0098】
好ましくは、低Y粒子のT+C相率は、0%以上又は1%以上であり、かつ、50%以下、40%以下、20%以下又は10%以下であることが例示でき、また、高Y粒子のT+C相率は50%超、70%以上又は90%以上であり、かつ、100%以下であることが挙げられる。
【0099】
イットリア含有量が異なるジルコニア粉末粒子を含むジルコニア粉末の製造方法は任意であり、本実施形態の製造方法に供するジルコニア粉末の物性となるように、イットリア含有量の異なる2以上のジルコニア粉末(以下、それぞれ「前駆粉末」ともいう。)を混合することが好ましい。これにより、混合粉末からなるジルコニア粉末が得られる。混合方法は、前駆粉末が十分混合する方法であればよく、乾式混合及び湿式混合の少なくともいずれかが例示でき、湿式混合であることが好ましく、水溶媒中で混合することがより好ましい。
【0100】
前駆粉末の混合割合は、前駆粉末及び目的とするジルコニア粉末のイットリア含有量により適宜調整すればよく、1質量%:99質量%から99質量%:1質量%、20質量%:80質量%から80質量%:20質量%、又は、35質量%:65質量%から65質量%:35質量%であることが挙げられる。また、ジルコニア粉末は2種の前駆粉末の混合粉末であればよいが、3種以上の前駆粉末の混合粉末であってもよい。
【0101】
ジルコニア粉末の物性を均質にする観点から、前駆粉末は、それぞれ、目的とするジルコニア粉末と同程度のBET比表面積及び平均粒子径を有していることが好ましく、上述のジルコニア粉末のBET比表面積及び平均粒子径の値を有していればよい。好ましくは、低イットリア粉末と比べ、高イットリア粉末はBET比表面積が大きいこと(例えば、BET比表面積差が0.5m2/g以上2.0m2/g以下であること)が好ましい。
【0102】
成形体は結合剤を含んでいてもよい。結合剤を含むことで、成形体の保形性が高くなる。成形体が含む結合剤は、セラミックスの成形に使用される公知のものを使用することができ、有機結合剤であることが好ましい。有機結合剤として、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラート、ワックス及びアクリル系樹脂の群から選ばれる1種以上、好ましくはポリビニルアルコール及びアクリル系樹脂の1種以上であり、より好ましくはアクリル系樹脂である。本実施形態において、アクリル系樹脂は、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルの少なくともいずれかを含む重合体である。具体的なアクリル系樹脂として、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アクリル酸共重合体及びメタクリル酸共重合体の群から選ばれる1種以上、並びに、これらの誘導体、が例示できる。
【0103】
本実施形態の製造方法に供する成形体の形状は任意である。成形体の形状として、立方体状、直方体状、多面体状、柱状、円柱状、円板状及び略球状の群から選ばれる少なくとも1つや、焼結による熱収縮を考慮した上で、歯科補綴材形状など、目的とするジルコニア焼結体と同様な形状であることが例示できる。
【0104】
成形体は、相対密度が45%以上55%以下、好ましくは48%以上52%以下であることが例示できる。
【0105】
成形体の相対密度は、理論密度に対する実測密度の割合である。これは、実測密度として、寸法測定により得られる寸法から求まる体積に対する質量測定により得られた質量により求まる密度(g/cm3)を使用し、ジルコニア焼結体と同様な方法により測定することができる。
【0106】
本実施形態の製造方法に供する成形体の製造方法は任意であり、公知のセラミックスの成形方法を適用することができる。成形方法として、例えば、一軸プレス、冷間静水圧プレス、スリップキャスティング及び射出成形の群から選ばれる1種以上が例示できる。簡便であるため、成形方法は、一軸プレス及び冷間静水圧プレスの少なくともいずれかであることが好ましく、一軸プレス後、冷間静水圧プレスを行うことがより好ましい。これにより、成形体、すなわち、ジルコニア粉末が物理的に凝集した形状を保持する圧粉体が得られる。一軸プレスの圧力は15MPa以上150MPa以下、及び、冷間静水圧プレスの圧力は90MPa以上400MPa以下を例示することができ、成形における圧力が高くなるほど得られる成形体の密度が高くなりやすい。このような製造方法により得られる成形体は、ジルコニア粉末を含む圧粉体、とみなすこともできる。
【0107】
成形体が結合材を含む場合、焼結に先立ち、結合剤を除去する工程、いわゆる脱バインダー工程、を有していてもよい。結合剤の除去方法は任意であるが、大気中400~900℃未満、の熱処理が例示できる。
【0108】
上述の成形体を焼結する工程(以下、「焼結工程」ともいう。)において、該成形体は焼結初期の構造を有する成形体、いわゆる仮焼体、であってもよい。焼結初期の構造として、例えば、ジルコニア粒子同士がネッキングを形成した構造、が挙げられ、仮焼体は、ジルコニアの融着粒子から構成されていればよい。仮焼体は、CAD/CAM等の加工により任意の形状とすることができ、これにより任意形状のジルコニア焼結体が得られやすくなる。
【0109】
仮焼条件は、ジルコニアの焼結温度未満の温度下の熱処理、例えば、大気雰囲気、900℃以上1200℃未満、0.5時間以上10時間以下、好ましくは大気雰囲気、1000℃以上1150℃以下、1時間以上10時間以下、が挙げられる。
【0110】
仮焼体は、ジルコニア粉末を成形して圧粉体とし、これを熱処理することで得られる。BET比表面積、T+C相率及び結晶子径等は熱処理で変化するため、成形体(圧粉体)と仮焼体との物性は一致しない場合が多い。仮焼体として、例えば、イットリア源及びジルコニアを含有し、イットリア源の含有量が4.5mol%以上6.5mol%以下、残部がジルコニアである仮焼体、更にはイットリア源の含有量が4.5mol%以上6.5mol%以下、残部がジルコニアであり融着粒子から構成される仮焼体、が挙げられる。
【0111】
本実施形態の製造方法で得られる仮焼体は、例えば、エネルギー分散スペクトルの元素の定量分析におけるイットリウム濃度の分布の頻度の最大値(以下、「最大頻度」ともいう。)が30%未満、28%以下又は15%以下であることが挙げられる。また、最大頻度は8%以上又は10%以上であることが例示できる。
【0112】
また、仮焼体は、エネルギー分散スペクトルの元素の定量分析におけるイットリア濃度の最大値及び最小値の差が、3.0mol%超、3.3mol%以上、3.5mol%以上、4.0mol%以上又は4.3mol%以上であること、また、7.5mol%以下、7.0mol%以下、又は、6.5mol%以下であることが例示できる。
【0113】
エネルギー分散スペクトル(以下、「EDSスペクトル」ともいう。)の元素の定量分析は、仮焼体の走査型電子顕微鏡(以下、「SEM」ともいう。)観察図についてEDSスペクトルを得、得られたEDSスペクトルのジルコニウム(Zr)及びイットリウム(Y)の特性X線の強度を定量すればよい。EDSスペクトルの定量はSEM観察図において40,000点以上(好ましくは、50,000±10,000点)について測定すればよい。イットリウム濃度は、ジルコニウムの強度に対するイットリウムの強度の割合(以下、「Y/Zr比」ともいう。)として求めればよい。イットリウム濃度分布は、一定のイットリウム濃度を濃度範囲として区切って示されるイットリウム濃度分布であり、Y/Zr比として0.5原子数%毎の濃度範囲に区切って示されるイットリウム濃度分布であればよい。頻度は、EDSスペクトルの定量における合計測定点数に対する各イットリウム濃度に対応する測定点数の割合(%)である。
【0114】
焼結工程における焼結は、焼結方法として公知の焼結方法、例えば、常圧焼結、加圧焼結及び真空焼結の群から選ばれる1つ以上、が適用できる。しかしながら、歯科補綴材の製造に広く適用されているため、焼結方法は、常圧焼結であることが好ましく、常圧焼結のみであること、すなわち、加圧焼結や真空焼結を使用しない焼結方法、がより好ましい。本実施形態の製造方法に供する成形体からは、焼結方法が常圧焼結のみであっても、いわゆる常圧焼結体として、本実施形態のジルコニア焼結体が得られる。本実施形態において「常圧焼結」とは、焼結時に被焼結物(成形体や仮焼体など)に対して外的な力を加えずに加熱することにより焼結する方法である。
【0115】
焼結条件として、以下の条件が例示できる。焼結温度は1200℃以上1600℃以下であり、1300℃以上1580℃以下、1400℃以上1560℃以下、又は、1430℃以上1560℃以下であることが好ましい。別の実施形態において、焼結温度は1450℃以上1650℃以下であり、1500℃以上1650℃以下、又は、1550℃以上1650℃以下であることが好ましい。焼結温度までの昇温速度は50℃/時間以上800℃/時間以下が挙げられ、100℃/時間以上800℃/時間以下、150℃/時間以上800℃/時間以下、又は、150℃/時間以上700℃/時間以下であることが好ましい。焼結温度での保持時間(以下、「焼結時間」ともいう。)は、焼結温度により異なるが、1時間以上5時間以下、1時間以上3時間以下、又は、1時間以上2時間以下である。焼結雰囲気は、還元性雰囲気以外の雰囲気であることが好ましく、酸素雰囲気又は大気雰囲気の少なくともいずれかであることがより好ましい。酸素雰囲気による焼結は気孔排除が促進されやすく、得られるジルコニア焼結体の直線透過率が高くなり過ぎる場合がある。そのため、焼結雰囲気は大気雰囲気であることが更に好ましい。大気雰囲気とは、主として窒素及び酸素からなり、酸素濃度が18~23体積%程度である雰囲気が例示できる。
【実施例】
【0116】
以下、実施例により本実施形態を具体的に説明する。しかしながら、本実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0117】
(XRD測定)
粉末試料及び焼結体試料のXRDパターンは、以下の条件によるXRD測定により得た。
線源 : CuKα線(λ=0.15418nm)
測定モード : 連続スキャン
スキャンスピード : 4°/分
ステップ幅 : 0.02°
測定範囲 : 2θ=26°~33°
【0118】
XRD測定には、一般的なX線回折装置(装置名:MiniFlex、RIGAKU社製)を使用した。装置付属の解析プログラム(ソフト名:統合粉末X線解析ソフトウェアPDXL Ver.2.2、RIGAKU社製)を使用した。得られたXRDパターンを平滑化処理及びバックグラウンド処理をした後、分割擬Voigt関数によるプロファイルフィッティングによりXRDパターンを解析した。なお、ジルコニア粉末は平均結晶子径が小さく、その算出におけるXRD装置の機械的広がりの影響が微小となるため、機械的広がりの補正をせずにβ値を求めた。
【0119】
(組成分析)
試料の組成はICP分析で測定した。
【0120】
(BET比表面積)
吸着ガスとして窒素を用い、流動式比表面積自動測定装置(装置名:フローソーブIII2305、島津製作所製)により粉末試料のBET比表面積を測定した。BET比表面積の測定に先立ち、粉末試料は大気中、250℃で30分間で脱気処理した。
【0121】
(平均粒子径)
粉末試料の平均粒子径は、マイクロトラック粒度分布計(装置名:MT3300EXII、マイクロトラック・ベル社製)を用いて測定した。
【0122】
前処理として、試料粉末を蒸留水に懸濁させてスラリーとした後、これを超音波ホモジナイザー(装置名:US-150T、日本精機製作所製)を用いて3分間分散処理した。
【0123】
(平均結晶粒径)
ジルコニア焼結体の平均結晶粒径はSEM観察図を使用したプラニメトリック法により求めた。測定試料として、表面粗さがRa≦0.02μmであるジルコニア焼結体を、大気中で、焼結温度より50℃低い温度で処理したものを使用し、結晶粒子が200個程度観察され得る倍率(5000~10000倍)でSEM観察した。
【0124】
得られたSEM観察図に面積が既知の円を描き、当該円内の結晶粒子数(Nc)及び当該円の円周上の結晶粒子数(Ni)を計測し、合計の結晶粒子数(Nc+Ni)が250±50個となるようにした上で、以下の式を使用して平均結晶粒径を求めた。
平均結晶粒径=2/{π×(Nc+(1/2)×Ni)/(A/M2)}0.5
【0125】
(相対密度)
焼結体試料の相対密度は、理論密度に対する実測密度の割合(%)として求めた。実測密度は、電子天秤を使用して測定された質量に対する、アルキメデス法で測定された体積の割合(g/cm3)より求めた。理論密度は上述の式(1)~(4)から求めた。
【0126】
(光透過率及び直線透過率)
光透過率(全光線透過率)及び直線透過率は、ヘーズメータ(装置名:NDH4000、日本電色社製)を用い、D65光源を使用して、JIS K 7361-1に準拠した方法によって測定した。
【0127】
測定試料は、表面粗さRa≦0.02μmとなるように両面研磨した、厚み1mmの円板状の焼結体を使用した。
【0128】
(PT/TT比)
PT/TT比は、測定試料として、試料厚さ1mm、かつ、両面の表面粗さRa≦0.02μmである円板状のジルコニア焼結体を使用し、測定装置として、一般的なUV-VIS分光光度計(例えば、分光光度計 V-650、日本分光社製)を使用し、行った。測定条件を以下に示す。
【0129】
測定方法 :UV-VIS分光光度測定
測定方式 :ダブルビーム方式
光源 :ハロゲンランプ
測定波長範囲 :400nm~700nm
波長ステップ :0.5nm
(三点曲げ強度)
JIS R 1601に準じた方法によって、三点曲げ強度を測定した。測定は10回行い、その平均値を求めた。測定は、幅4mm、厚さ3mmの柱形状の焼結体試料について行い、支点間距離30mmとして実施した。クロスヘッドスピードは0.5mm/minとした。
【0130】
実施例1
オキシ塩化ジルコニウム水溶液を加水分解反応して得られた水和ジルコニアゾルと、イットリアとを混合及び乾燥した後、大気中、1160℃で2時間で熱処理して、イットリア含有量が2.5mol%であるイットリア含有ジルコニア粉末を得た。得られたイットリア含有ジルコニア粉末、平均粒子径0.3μmのα-アルミナ、及び純水を混合し、0.05質量%のアルミナを含み、イットリア含有量が2.5mol%であるジルコニア粉末(前駆粉末1)を含むスラリーとした。得られたジルコニア粉末(前駆粉末1)は、T+C相率が18%、平均結晶子径が196Å及び、BET比表面積が10.0m2/gであった。
【0131】
また、イットリア含有量を8.5mol%としたこと以外は同様な方法によって、0.05質量%のアルミナを含み、イットリア含有量が8.5mol%であるジルコニア粉末(前駆粉末2)を含むスラリーを得た。得られたジルコニア粉末(前駆粉末2)は、T+C相率が100%、平均結晶子径が397Å及び、BET比表面積が11.3m2/gであった。
【0132】
前駆粉末1のスラリーと、前駆粉末2のスラリーとのイットリア含有量差は6.0mol%であった。イットリア含有量が5.2mol%となるように両スラリーを混合した後、乾燥して、0.05質量%のアルミナを含み、イットリア含有量が5.2mol%であるジルコニア粉末を得た。
【0133】
ジルコニア粉末を19.6MPaの圧力で一軸加圧プレス成形及び圧力196MPaでCIP処理して成形体を得た。
【0134】
得られた成形体を、大気雰囲気下、1000℃で1時間仮焼し、仮焼体を得た。得られた仮焼体は最大頻度が12%であり、イットリア濃度の最大値と最小値の差が5.5mol%であった。その後、大気雰囲気下、昇温速度600℃/時間、焼結温度1450℃で2時間焼結し、本実施例のジルコニア焼結体を得た。
【0135】
実施例2
イットリア含有量が2.0mol%となるようにイットリアを混合したこと以外は実施例1の前駆粉末1と同様な方法により、0.05質量%のアルミナを含み、イットリア含有量が2.0mol%であるジルコニア粉末(前駆粉末1)を含むスラリーとした。得られたジルコニア粉末(前駆粉末1)は、T+C相率が4%、平均結晶子径が169Å及び、BET比表面積が8.6m2/gであった。
【0136】
イットリア含有量が6.5mol%となるようにイットリアを混合したこと以外は実施例1の前駆粉末2と同様な方法により、0.05質量%のアルミナを含み、イットリア含有量が6.5mol%であるジルコニア粉末(前駆粉末2)を含むスラリーとした。得られたジルコニア粉末(前駆粉末2)は、T+C相率が100%、平均結晶子径が350Å及び、BET比表面積が10.3m2/gであった。
【0137】
前駆粉末1のスラリーと、前駆粉末2のスラリーとのイットリア含有量差は4.5mol%であった。両スラリーをイットリア含有量が5.2mol%となるように混合した後、乾燥して、0.05質量%のアルミナを含み、イットリア含有量が5.2mol%であるジルコニア粉末を得た。
【0138】
得られたジルコニア粉末を使用したこと以外は、実施例1と同様な方法で成形、仮焼及び焼結し、本実施例のジルコニア焼結体を得た。
【0139】
実施例3
イットリア含有量が1.5mol%となるようにイットリアを混合したこと以外は実施例1の前駆粉末1と同様な方法により、0.05質量%のアルミナを含み、イットリア含有量が1.5mol%であるジルコニア粉末(前駆粉末1)を含むスラリーとした。得られたジルコニア粉末(前駆粉末1)は、T+C相率が0%及び、BET比表面積が7.9m2/gであった。
【0140】
実施例1の前駆粉末2と同様な方法により、0.05質量%のアルミナを含み、イットリア含有量が8.5mol%であるジルコニア粉末(前駆粉末2)を含むスラリーを得た。
【0141】
前駆粉末1のスラリーと、前駆粉末2のスラリーとのイットリア含有量差は7.0mol%であった。両スラリーをイットリア含有量が5.2mol%となるように混合した後、乾燥して、0.05質量%のアルミナを含み、イットリア含有量が5.2mol%であるジルコニア粉末を得た。
【0142】
得られたジルコニア粉末を使用したこと以外は、実施例1と同様な方法で成形、仮焼及び焼結し、本実施例のジルコニア焼結体を得た。
【0143】
実施例4
イットリア含有量が1.5mol%となるようにイットリアを混合したこと、及び、大気中、1130℃で2時間熱処理したこと以外は実施例1の前駆粉末1と同様な方法により、0.05質量%のアルミナを含み、イットリア含有量が1.5mol%であるジルコニア粉末(前駆粉末1)を含むスラリーとした。得られたジルコニア粉末は、T+C相率が0%、及び、BET比表面積が11.4m2/gであった。
【0144】
イットリア含有量が5.5mol%となるようにイットリアを混合したこと以外は実施例1の前駆粉末2と同様な方法により、0.05質量%のアルミナを含み、イットリア含有量が5.5mol%であるジルコニア粉末(前駆粉末2)を含むスラリーとした。得られたジルコニア粉末は、T+C相率が97%、平均結晶子径が340Å及び、BET比表面積が10.0m2/gであった。
【0145】
前駆粉末1のスラリーと、前駆粉末2のスラリーとのイットリア含有量差は4.0mol%であった。両スラリーをイットリア含有量が5.2mol%となるように混合した後、乾燥して、0.05質量%のアルミナを含み、イットリア含有量が5.2mol%であるジルコニア粉末を得た。
【0146】
得られたジルコニア粉末を使用したこと以外は、実施例1と同様な方法で成形、仮焼及び焼結し、本実施例のジルコニア焼結体を得た。得られた仮焼体は最大頻度が26%であり、イットリア濃度の最大値と最小値の差が3.3mol%であった。
【0147】
実施例5
イットリア含有量が3.0mol%となるようにイットリアを混合したこと以外は実施例1の前駆粉末1と同様な方法により、0.05質量%のアルミナを含み、イットリア含有量が3.0mol%であるジルコニア粉末(前駆粉末1)を含むスラリーとした。得られたジルコニア粉末は、T+C相率が42%、平均結晶子径236Å、及び、BET比表面積が9.5m2/gであった。
【0148】
イットリア含有量が6.5mol%となるようにイットリアを混合したこと以外は実施例1の前駆粉末2と同様な方法により、0.05質量%のアルミナを含み、イットリア含有量が6.5mol%であるジルコニア粉末(前駆粉末2)を含むスラリーとした。得られたジルコニア粉末は、T+C相率が100%、平均結晶子径が350Å及び、BET比表面積が10.3m2/gであった。
【0149】
前駆粉末1のスラリーと、前駆粉末2のスラリーとのイットリア含有量差は3.5mol%であった。両スラリーをイットリア含有量が5.2mol%となるように混合した後、乾燥して、0.05質量%のアルミナを含み、イットリア含有量が5.2mol%であるジルコニア粉末を得た。
【0150】
得られたジルコニア粉末を使用したこと以外は、実施例1と同様な方法で成形、仮焼及び焼結し、本実施例のジルコニア焼結体を得た。
【0151】
実施例6
イットリア含有量が2.5mol%となるようにイットリアを混合したこと以外は実施例1の前駆粉末1と同様な方法により、0.05質量%のアルミナを含み、イットリア含有量が2.5mol%であるジルコニア粉末(前駆粉末1)を含むスラリーとした。得られたジルコニア粉末(前駆粉末1)は、BET比表面積が9.1m2/gであった。
【0152】
イットリア含有量が8.5mol%となるようにイットリアを混合したこと以外は実施例1の前駆粉末2と同様な方法により、0.05質量%のアルミナを含み、イットリア含有量が8.5mol%であるジルコニア粉末(前駆粉末2)を含むスラリーとした。得られたジルコニア粉末は、BET比表面積が11.3m2/gであった。
【0153】
前駆粉末1のスラリーと、前駆粉末2のスラリーとのイットリア含有量差は6.0mol%であった。両スラリーをイットリア含有量が5.5mol%となるように混合した後、乾燥して、0.05質量%のアルミナを含み、イットリア含有量が5.5mol%であるジルコニア粉末を得た。
【0154】
得られたジルコニア粉末を使用したこと以外は、実施例1と同様な方法で成形、仮焼及び焼結し、本実施例のジルコニア焼結体を得た。
【0155】
実施例7
イットリア含有量が2.5mol%となるようにイットリアを混合したこと、及び、大気中、1160℃で2時間熱処理したこと以外は実施例1の前駆粉末1と同様な方法により、0.05質量%のアルミナを含み、イットリア含有量が2.5mol%であるジルコニア粉末(前駆粉末1)を含むスラリーとした。得られたジルコニア粉末は、BET比表面積が10.0m2/gであった。
【0156】
イットリア含有量が8.5mol%となるようにイットリアを混合したこと以外は実施例1の前駆粉末2と同様な方法により、0.05質量%のアルミナを含み、イットリア含有量が8.5mol%であるジルコニア粉末(前駆粉末2)を含むスラリーとした。得られたジルコニア粉末は、BET比表面積が11.3m2/gであった。
【0157】
前駆粉末1のスラリーと、前駆粉末2のスラリーとのイットリア含有量差は6.0mol%であった。両スラリーをイットリア含有量が5.5mol%となるように混合した後、乾燥して、0.05質量%のアルミナを含み、イットリア含有量が5.5mol%であるジルコニア粉末を得た。
【0158】
得られたジルコニア粉末を使用したこと以外は、実施例1と同様な方法で成形、仮焼及び焼結し、本実施例のジルコニア焼結体を得た。
【0159】
実施例8
イットリア含有量が1.5mol%となるようにイットリアを混合したこと、及び、大気中、1150℃で2時間熱処理したこと以外は実施例1の前駆粉末1と同様な方法により、0.05質量%のアルミナを含み、イットリア含有量が1.5mol%であるジルコニア粉末(前駆粉末1)を含むスラリーとした。得られたジルコニア粉末は、T+C相率が0%、及び、BET比表面積が10.7m2/gであった。また、実施例4と同様な方法で前駆粉末2を含むスラリーを得た。
【0160】
前駆粉末1のスラリーと、前駆粉末2のスラリーとのイットリア含有量差は4.0mol%であった。両スラリーをイットリア含有量が4.8mol%となるように混合した後、乾燥して、0.05質量%のアルミナを含み、イットリア含有量が4.8mol%であるジルコニア粉末を得た。
【0161】
得られたジルコニア粉末を使用したこと以外は、実施例1と同様な方法で成形、仮焼及び焼結し、本実施例のジルコニア焼結体を得た。
【0162】
実施例9
イットリア含有量が5.0mol%となるように前駆粉末1のスラリーと、前駆粉末2のスラリーを混合したこと以外は実施例8と同様な方法で、0.05質量%のアルミナを含み、イットリア含有量が5.0mol%であるジルコニア粉末を得た。
【0163】
得られたジルコニア粉末を使用したこと以外は、実施例1と同様な方法で成形、仮焼及び焼結し、本実施例のジルコニア焼結体を得た。
【0164】
実施例10
イットリア含有量が5.8mol%となるように前駆粉末1のスラリーと、前駆粉末2のスラリーを混合したこと以外は実施例1と同様な方法で、0.05質量%のアルミナを含み、イットリア含有量が5.8mol%であるジルコニア粉末を得た。
【0165】
得られたジルコニア粉末を使用したこと以外は、実施例1と同様な方法で成形、仮焼及び焼結し、本実施例のジルコニア焼結体を得た。
【0166】
実施例11
大気中、1140℃で2時間熱処理したこと、及び、アルミナを使用しなかったこと以外は実施例1の前駆粉末1と同様な方法により、イットリア含有量が2.5mol%であるジルコニア粉末(前駆粉末1)を含むスラリーとした。得られたジルコニア粉末(前駆粉末1)は、T+C相率が17%、及び、BET比表面積が11.1m2/gであった。 実施例1の前駆粉末2と同様な方法により、0.05質量%のアルミナを含み、イットリア含有量が8.5mol%であるジルコニア粉末(前駆粉末2)を含むスラリーを得た。
【0167】
実施例1と同様な方法で、前駆粉末1のスラリーと、前駆粉末2のスラリーを混合し、0.023質量%のアルミナを含み、イットリア含有量が5.2mol%であるジルコニア粉末を得た。
【0168】
得られたジルコニア粉末を使用したこと以外は、実施例1と同様な方法で成形、仮焼及び焼結し、本実施例のジルコニア焼結体を得た。
【0169】
実施例12
イットリア含有量が2.0mol%となるようにイットリアを混合したこと、大気中、1160℃で2時間熱処理したこと、及び、アルミナを使用しなかったこと以外は実施例1の前駆粉末1と同様な方法により、イットリア含有量が2.0mol%であるジルコニア粉末(前駆粉末1)を含むスラリーとした。得られたジルコニア粉末(前駆粉末1)は、T+C相率が5%、及び、BET比表面積が10.2m2/gであった。
【0170】
大気中、1130℃で2時間熱処理したこと、及び、アルミナを使用しなかったこと以外は実施例1の前駆粉末2と同様な方法により、イットリア含有量が8.5mol%であるジルコニア粉末(前駆粉末2)を含むスラリーとした。得られたジルコニア粉末(前駆粉末2)は、BET比表面積が12.4m2/gであった。
【0171】
前駆粉末1のスラリーと、前駆粉末2のスラリーとのイットリア含有量差は6.5mol%であった。実施例1と同様な方法で、前駆粉末1のスラリーと、前駆粉末2のスラリーを混合し、アルミナを含まず(アルミナ含有量が0質量%)、イットリア含有量が5.2mol%であるジルコニア粉末を得た。
【0172】
得られたジルコニア粉末を使用したこと以外は、実施例1と同様な方法で成形、仮焼及び焼結し、本実施例のジルコニア焼結体を得た。
【0173】
比較例1
イットリア含有量が2.0mol%となるようにイットリアを混合したこと以外は実施例1の前駆粉末1と同様な方法により、0.05質量%のアルミナを含み、イットリア含有量が2.0mol%であるジルコニア粉末(前駆粉末1)を含むスラリーとした。得られたジルコニア粉末は、T+C相率が5%、平均結晶子径が205Å及び、BET比表面積が13.6m2/gであった。
【0174】
イットリア含有量が5.5mol%となるようにイットリアを混合したこと以外は実施例1の前駆粉末2と同様な方法により、0.05質量%のアルミナを含み、イットリア含有量が5.5mol%であるジルコニア粉末(前駆粉末2)を含むスラリーとした。得られたジルコニア粉末は、T+C相率が97%、平均結晶子径が340Å及び、BET比表面積が10.0m2/gであった。
【0175】
前駆粉末1のスラリーと、前駆粉末2のスラリーとのイットリア含有量差は3.5mol%であった。両スラリーをイットリア含有量が5.2mol%となるように混合した後、乾燥して、0.05質量%のアルミナを含み、イットリア含有量が5.2mol%であるジルコニア粉末を得た。
【0176】
得られたジルコニア粉末を使用したこと以外は、実施例1と同様な方法で成形、仮焼及び焼結し、本比較例のジルコニア焼結体を得た。
【0177】
比較例2
イットリア含有量が3.0mol%となるようにイットリアを混合したこと以外は実施例1の前駆粉末1と同様な方法により、0.05質量%のアルミナを含み、イットリア含有量が3.0mol%であるジルコニア粉末(前駆粉末1)を含むスラリーとした。得られたジルコニア粉末は、T+C相率が42%、平均結晶子径が236Å及び、BET比表面積が9.5m2/gであった。
【0178】
イットリア含有量が5.5mol%となるようにイットリアを混合したこと以外は実施例1の前駆粉末2と同様な方法により、0.05質量%のアルミナを含み、イットリア含有量が5.5mol%であるジルコニア粉末(前駆粉末2)を含むスラリーとした。得られたジルコニア粉末は、T+C相率が97%、平均結晶子径が340Å及び、BET比表面積が10.0m2/gであった。
【0179】
前駆粉末1のスラリーと、前駆粉末2のスラリーとのイットリア含有量差は2.5mol%であった。両スラリーをイットリア含有量が5.2mol%となるように混合した後、乾燥して、0.05質量%のアルミナを含み、イットリア含有量が5.2mol%であるジルコニア粉末を得た。
【0180】
得られたジルコニア粉末を使用したこと以外は、実施例1と同様な方法で成形、仮焼及び焼結し、本比較例のジルコニア焼結体を得た。
【0181】
比較例3
イットリア含有量が5.2mol%となるようにイットリアを混合したこと以外は実施例1の前駆粉末1と同様な方法により、0.05質量%のアルミナを含み、イットリア含有量が5.2mol%であるジルコニア粉末を含むスラリーとした。
【0182】
得られたスラリーを乾燥して、0.05質量%のアルミナを含み、イットリア含有量が5.2mol%であるジルコニア粉末を得た。
【0183】
得られたジルコニア粉末を使用したこと以外は、実施例1と同様な方法で成形、仮焼及び焼結し、本比較例のジルコニア焼結体を得た。得られた仮焼体は最大頻度が30%であり、イットリア濃度の最大値と最小値の差が2.2mol%であった。
【0184】
比較例4
イットリア含有量が5.5mol%となるようにイットリアを混合したこと以外は実施例1の前駆粉末1と同様な方法により、0.05質量%のアルミナを含み、イットリア含有量が5.5mol%であるジルコニア粉末を含むスラリーとした。
【0185】
得られたスラリーを乾燥して、0.05質量%のアルミナを含み、イットリア含有量が5.5mol%であるジルコニア粉末を得た。
【0186】
得られたジルコニア粉末を使用したこと以外は、実施例1と同様な方法で成形、仮焼及び焼結し、本比較例のジルコニア焼結体を得た。
【0187】
比較例5
特許文献2の実施例14に準じた方法でジルコニア焼結体を得た。すなわち、イットリア含有量が3.0mol%となるようにイットリアを混合したこと以外は実施例1の前駆粉末1と同様な方法により、0.05質量%のアルミナを含み、イットリア含有量が3.0mol%であるジルコニア粉末(前駆粉末1)を含むスラリーとした。得られたジルコニア粉末は、BET比表面積が13.0m2/gであった。
【0188】
また、イットリア含有量が5.5mol%となるようにイットリアを混合したこと以外は実施例1の前駆粉末2と同様な方法により、0.05質量%のアルミナを含み、イットリア含有量が5.5mol%であるジルコニア粉末(前駆粉末2)を含むスラリーとした。得られたジルコニア粉末は、T+C相率が97%、平均結晶子径が340Å及び、BET比表面積が10.0m2/gであった。
【0189】
前駆粉末1のスラリーと、前駆粉末2のスラリーとのイットリア含有量差は2.5mol%であった。両スラリーをイットリア含有量が4.5mol%となるように混合した後、乾燥して、0.05質量%のアルミナを含み、イットリア含有量が4.5mol%であるジルコニア粉末を得た。
【0190】
得られたジルコニア粉末を使用したこと以外は、実施例1と同様な方法で成形、仮焼及び焼結し、本比較例のジルコニア焼結体を得た。
【0191】
比較例6
特許文献3の実施例40に準じた方法で成形体を得た。すなわち、それぞれ、3.0mol%又は6.0mol%のイットリアを含有する市販のジルコニア粉末を混合し、イットリア含有量が4.2mol%であるジルコニアからなる粉末を得た。
【0192】
得られたジルコニア粉末を使用したこと、及び、焼結温度を1500℃としたこと以外は実施例1と同様な方法で本比較例のジルコニア焼結体を得た。
【0193】
比較例7
特許文献3の実施例42に準じた方法で成形体を得た。すなわち、それぞれ、4.0mol%、5.0mol%又は6.0mol%のイットリアを含有する市販のジルコニア粉末と、アルミナ粉末とマグネシア粉末を混合し、アルミナを0.2質量%、マグネシアを0.2質量%含み、残部がイットリア含有量が5.5mol%であるジルコニアからなる粉末を得た。
【0194】
得られた粉末を使用したこと以外は比較例6と同様な方法で本比較例のジルコニア焼結体を得た。
【0195】
実施例及び比較例のジルコニア粉末の評価結果を表1に、ジルコニア焼結体の評価結果を表2に示す。
【0196】
【0197】
【0198】
実施例及び比較例より、実施例のジルコニア粉末からは、大気雰囲気下の常圧焼結であっても、光透過率が47%を超え、PT/TT比が1.0以下であり、かつ、三点曲げ強度が700MPaを超えるジルコニア焼結体が得られることが確認できる。一方、T+C相率又は平均結晶子径のいずれかが本実施形態の範囲外である場合、三点曲げ強度が低く、更には透明性が高くなることが確認できる。さらに、比較例1及び2より、イットリア含有量の異なる前駆粉末を単に混合しただけでは、本実施形態のジルコニア焼結体が得られないことが確認できる。また、比較例5より、イットリア含有量を小さくした場合、イットリア含有量の異なる前駆粉末を単に混合しただけでは透光性が不十分で、本実施形態のジルコニア焼結体が得られないことが確認できる。さらに、比較例6及び7は、特許文献3において、酸素雰囲気下の焼結で高い透光性を示した焼結体を大気雰囲気で焼結したものであり、実施例に比べ、光透過率は低いことが確認できる。
【0199】
また、単一のジルコニア粉末から得られた比較例3乃至4においては、いずれも三点曲げ強度が700MPa未満となることが確認できる。
【0200】
図1に、実施例1のジルコニア焼結体の表面のSEM写真を示す。実施例1のジルコニア焼結体は、長径が1.0~1.7μmの粗大な結晶粒子と、長径が0.1~0.4μmの微細な結晶粒子と、を含むことが確認できる。
図1の丸部で示すように、当該ジルコニア焼結体は、複数の微細な結晶粒子が粗大な結晶粒子と粒界を形成した構造を有することが確認できる。
【0201】
図2に、実施例及び比較例の、結晶粒子に占める、イットリア濃度が3~4mol%の結晶粒子の個数割合と、三点曲げ強度の関係のグラフを示す。
図2より、当該割合が10%を超え三点曲げ強度が700MPa以上となり、当該割合が25%以上で三点曲げ強度が820MPa以上となっていることが確認できる。
【0202】
また、単一のジルコニア粉末から得られた比較例3のジルコニア焼結体の結晶粒子間濃度差は2.65mol%と3mol%未満であるに対し、三点曲げ強度が800MPa以上の実施例1乃至4のジルコニア焼結体は、結晶粒子間濃度差が、3.55mol%、4.17mol%、4.77mol%、及び3.24mol%と、いずれも3mol%以上であった。また、実施例1と同様な方法で得られたジルコニア粉末を1550℃で焼結して得られたジルコニア焼結体は、結晶粒子間濃度差は3.14mol%であり、実施例1のジルコニア粉末においては、焼結温度の高温度化で結晶粒子間濃度差が小さくなることが確認できた。
【0203】
さらに、代表的な実施例及び比較例について、三点曲げ強度測定後の試料についての単斜晶頻度を測定した。結果を下表に示す。
【0204】
【0205】
三点曲げ強度が800MPa以上の実施例は、いずれも単斜晶頻度が40%以上であり、また、単斜晶頻度が高くなると三点曲げ強度が高くなる傾向があることが確認できる。
【0206】
実施例13
実施例2と同様な方法で得られたジルコニア粉末を使用したこと、及び焼結温度を1550℃としたこと以外は実施例1と同様な方法で、本実施例のジルコニア焼結体を得た。
【0207】
実施例14
実施例4と同様な方法で得られたジルコニア粉末を使用したこと以外は実施例13と同様な方法で、本実施例のジルコニア焼結体を得た。
【0208】
実施例15
実施例5と同様な方法で得られたジルコニア粉末を使用したこと以外は実施例13と同様な方法で、本実施例のジルコニア焼結体を得た。
【0209】
実施例16
実施例8と同様な方法で得られたジルコニア粉末を使用したこと以外は実施例13と同様な方法で、本実施例のジルコニア焼結体を得た。
【0210】
実施例17
実施例9と同様な方法で得られたジルコニア粉末を使用したこと以外は実施例13と同様な方法で、本実施例のジルコニア焼結体を得た。
【0211】
比較例8
比較例1と同様な方法で得られたジルコニア粉末を使用したこと以外は実施例13と同様な方法で、本比較例のジルコニア焼結体を得た。
【0212】
比較例9
比較例2と同様な方法で得られたジルコニア粉末を使用したこと以外は実施例13と同様な方法で、本比較例のジルコニア焼結体を得た。
【0213】
比較例10
比較例3と同様な方法で得られたジルコニア粉末を使用したこと以外は実施例13と同様な方法で、本比較例のジルコニア焼結体を得た。
【0214】
結果を下表に示す。
【0215】
【0216】
比較例3及び10の対比より、従来のジルコニア粉末は焼結温度に伴う、平均結晶粒径の粗大化、及び、これに伴う光透過率の向上が確認できる。これに対し、実施例のジルコニア焼結体は、焼結温度の上昇により平均結晶粒径が粗大化するにも関わらず、光透過率が低下する傾向があることが確認できる。これより、本実施形態のジルコニア粉末は、焼結温度1550℃での常圧焼結と比べ、焼結温度1450℃での常圧焼結の方が、透光性及び機械的強度が高いジルコニア焼結体が得られることが確認できる。