(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】サセプタ及び化学的気相成長装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/205 20060101AFI20241112BHJP
H01L 21/683 20060101ALI20241112BHJP
C23C 16/458 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
H01L21/205
H01L21/68 N
C23C16/458
(21)【出願番号】P 2020193458
(22)【出願日】2020-11-20
【審査請求日】2023-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100137017
【氏名又は名称】眞島 竜一郎
(72)【発明者】
【氏名】梅田 喜一
(72)【発明者】
【氏名】金田一 麟平
【審査官】桑原 清
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-277193(JP,A)
【文献】特表2016-519426(JP,A)
【文献】特開2015-107888(JP,A)
【文献】特開2008-131053(JP,A)
【文献】特開2009-070915(JP,A)
【文献】特開2020-126883(JP,A)
【文献】特開2014-116331(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/205
H01L 21/683
C23C 16/458
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サセプタの下方に配置する下部ヒータを有する化学的気相成長装置に用いられるサセプタであって、
ウェハ
と離間して対向する第1面を有する第1サセプタと、
前記第1サセプタの前記第1面
の上に円環状に配置され、前記ウェハ
の外周を
下方から支持する第2サセプタと、を備え、
前記第2サセプタは、熱伝導率の異方性を有し、
前記第2サセプタの前記熱伝導率が最も高い値を示す方向と、前記第1サセプタの前記第1面に沿う方向との間の角度θが+30度より大きく60度未満の範囲内又は-30度未満で-60度よりも大きい範囲内にあることを特徴とするサセプタ。
【請求項2】
前記第2サセプタは、熱伝導率が最も高い値を示す方向と熱伝導率が最も低い値を示す方向のなす角が90度±10度である請求項1に記載のサセプタ。
【請求項3】
前記第2サセプタは、熱伝導率が最も高い方向の熱伝導率が、熱伝導率が最も低い方向の熱伝導率の100倍以上である請求項1または2に記載のサセプタ。
【請求項4】
前記第2サセプタは異方性黒鉛を含む請求項1から3のいずれか一項に記載のサセプタ。
【請求項5】
前記角度θが、+40度以上+50度以下の範囲内にある請求項1から4のいずれか一項に記載のサセプタ。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載のサセプタを備える化学的気相成長装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サセプタ及び化学的気相成長装置に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)は、シリコン(Si)に比べて絶縁破壊電界が1桁大きく、バンドギャップが3倍大きく、熱伝導率が3倍程度高い等の特性を有する。炭化珪素はこれらの特性を有することから、パワーデバイス、高周波デバイス、高温動作デバイス等への応用が期待されている。このため、近年、上記のような半導体デバイスにSiCエピタキシャルウェハが用いられるようになっている。
【0003】
SiCエピタキシャルウェハは、SiC基板(SiCウェハ)上にSiC半導体デバイスの活性領域となるSiCエピタキシャル膜を成長させることによって製造される。SiCウェハは、昇華法等で作製したSiCのバルク単結晶から加工して得られ、SiCエピタキシャル膜は、化学的気相成長(Chemical Vapor Deposition:CVD)装置によって形成される。
【0004】
サセプタとしては、ウェハを外周部にて支持する構造のものが知られている(例えば、特許文献1を参照)。この特許文献1に示すサセプタは、ウェハの径より小さく、表面にウェハを載置するための凸部を有するインナーサセプタと、中心部に開口部を有し、インナーサセプタを開口部が遮蔽されるように載置するための第1の段部と、この第1の段部の上段に設けられ、ウェハを載置するための第2の段部を有するアウターサセプタとから構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
成膜装置(CVD装置)を用いて、均一な厚みで平滑な膜を成膜するためには、成膜中にウェハの一面(成長面)全体の温度をばらつき無く均一にすることが重要である。ウェハの面内温度が不均一であると、成膜された膜の厚みやドーピング濃度の分布が不均一になったり、ウェハに応力が付与されて反りが大きくなったり、ウェハに応力が付与されて転位などの結晶欠陥が新たに発生する等の懸念がある。
【0007】
また、ウェハをサセプタにベタ置きした場合、高温時にウェハが反ったときに、ウェハとサセプタの接触する領域が面内で不均一になり、ウェハの面内温度の不均一化につながることがある。その対策として特許文献1に示すように、ウェハを外周部にて支持する構造のサセプタが検討とされている。ウェハを外周部にて支持する構造のサセプタでは、ウェハが反ったときには、外周部でのみウェハを支持する。ただし、ウェハを外周部にて支持する場合、ウェハとサセプタが接触する支持部にて熱の移動が発生するので、支持部付近のウェハ温度均一性が悪化しやすい、という課題があった。
【0008】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、ウェハの面内温度を均一に調整することができるサセプタ、および成膜時のウェハの温度を均一に調整することができ、ウェハの表面に均一な厚さで平滑なエピタキシャル膜を成膜することが可能な化学的気相成長装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明者らは検討の結果、サセプタを、ウェハの裏面(エピタキシャル膜を成長させる一方の面とは反対の面)と離間して対向する第1面を有する第1サセプタと、第1サセプタの第1面を囲むように配置され、ウェハを支持する第2サセプタと、を備える構成とし、第2サセプタとして、熱伝導率の異方性を有し、第2サセプタの熱伝導率が最も高い値を示す方向と、第1サセプタの第1面に沿う方向との間の角度θが+30度より大きく60度未満の範囲内又は-30度未満で-60度よりも大きい範囲内にあるものを用いることによって、成膜時のウェハの面内温度の均一性を向上させることが可能となることを見出した。
すなわち、本発明は、前記の課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0010】
[1]化学的気相成長法によって、円板状のウェハの一方の面にエピタキシャル膜を成長させる化学的気相成長装置に用いられるサセプタであって、前記ウェハの他方の面と離間して対向する第1面を有する第1サセプタと、前記第1サセプタの前記第1面を囲むように配置され、前記ウェハを支持する第2サセプタと、を備え、前記第2サセプタは、熱伝導率の異方性を有し、前記第2サセプタの前記熱伝導率が最も高い値を示す方向と、前記第1サセプタの前記第1面に沿う方向との間の角度θが+30度より大きく60度未満の範囲内又は-30度未満で-60度よりも大きい範囲内にあることを特徴とするサセプタ。
【0011】
[2]前記第2サセプタは、熱伝導率が最も高い値を示す方向と熱伝導率が最も低い値を示す方向のなす角が90度±10度である上記[1]に記載のサセプタ。
【0012】
[3]前記第2サセプタは、熱伝導率が最も高い方向の熱伝導率が、熱伝導率が最も低い方向の熱伝導率の100倍以上である上記[1]又は[2]に記載のサセプタ。
【0013】
[4]前記第2サセプタは異方性黒鉛を含む上記[1]から[3]のいずれか一つに記載のサセプタ。
【0014】
[5]前記角度θが、+40度以上+50度以下の範囲内にある上記[1]から[4]のいずれか一つに記載のサセプタ。
【0015】
[6]上記[1]から[5]のいずれか一つに記載のサセプタを備える化学的気相成長装置。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ウェハの面内温度を均一に調整することができるサセプタ、および成膜時のウェハの温度を均一に調整することができ、ウェハの表面に均一な厚さで平滑なエピタキシャル膜を成膜することが可能な化学的気相成長装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るサセプタの平面図である。
【
図4】第1シミュレーションにより算出されたウェハの温度分布を示すグラフである。
【
図5】第1シミュレーションにより算出されたウェハの中心の温度との最大温度差示すグラフである。
【
図6】第2シミュレーションにより算出されたウェハの温度分布を示すグラフである。
【
図7】第2シミュレーションにより算出されたウェハの中心の温度との最大温度差示すグラフである。
【
図8】第3シミュレーションにより算出されたウェハの温度分布を示すグラフである。
【
図9】第3シミュレーションにより算出されたウェハの中心の温度との最大温度差示すグラフである。
【
図10】本発明の第1実施形態に係るサセプタの別の一例の斜視図である。
【
図11】本発明の第2実施形態に係る化学的気相成長装置の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態に係るサセプタおよび化学的気相成長装置について、図面を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材質、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0019】
<第1実施形態(サセプタ)>
図1は、本発明の第1実施形態に係るサセプタの平面図である。
図2は、
図1のII-II線断面図である。
図3は、
図2の部分拡大図である。
本発明の第1実施形態に係るサセプタは、化学的気相成長法によって、円板状のウェハWの一方の面Waにエピタキシャル膜を成長させる化学的気相成長装置に用いられるサセプタである。
図1~
図3に示すように、サセプタ10は、第1サセプタ11と第2サセプタ12とを備える。
【0020】
第1サセプタ11は、互いに対向する第1面11aと第2面11bとを有する円板状とされている。第1面11aおよび第2面11bはそれぞれ平面である。第1面11aは、ウェハWの他方の面Wb(面Waとは反対の面)と離間して対向する。第2面11bの下方には、ウェハWを加熱するヒータが配置される。第1サセプタ11の材料としては、カーボン、SiC、Ta、Mo、W、など、高温に耐えうる基材の無垢、もしくはSiCコート、TaCコートなどの炭化物コーティングを施した材料を用いることができる。第1サセプタ11の厚さTは、例えば、1mm以上5mm以下の範囲内にある(
図2参照)。
【0021】
第2サセプタ12は、円環状とされている。第2サセプタ12は、第1サセプタの第1面11aを囲むように配置される。第2サセプタ12は、ウェハWを支持する。第2サセプタ12の外径φは、例えば、150mm以上300mm以下の範囲内にある(
図2参照)。第2サセプタ12の幅Dは、例えば、1mm以上10mm以下の範囲内にある(
図2参照)。第2サセプタ12の高さHは、例えば、1mm以上10mm以下の範囲内にある(
図2参照)。
【0022】
第2サセプタ12は、熱伝導率の異方性を有する。
図2に示すように、第1サセプタ11の第1面11aに沿う方向をXとし、第1面11aに垂直な方向をYとした場合、第2サセプタ12の熱伝導率が最も高い値を示す方向Aと、第1サセプタ11の第1面11aに沿う方向Xとの間の角度θは+30度より大きく60度未満の範囲内又は-30度未満で-60度よりも大きい範囲内にある。なお、角度θがプラスであることは、第2サセプタ12の熱伝導率が最も高い値を示す方向Aが、第2サセプタ12の内側から外側に向かってウェハW側に延びていることを表す。また、角度θがマイナスであることは、第2サセプタ12の熱伝導率が最も高い値を示す方向Aが、第2サセプタ12の内側から外側に向かって第1サセプタ11側に延びていることを表す。角度θは、+45度付近、具体的には+40度以上+50度以下の範囲内にあることが好ましい。第2サセプタ12の熱伝導率が最も高い値を示す方向Aと第2サセプタ12の熱伝導率が最も低い値を示す方向Cのなす角度は、90度±10度であることが好ましく、90度±5度であることがより好ましく、90度±2度であることが特に好ましい。第2サセプタ12の方向Aの熱伝導率は、方向Cの熱伝導率の100倍以上であることが好ましい。第2サセプタ12の方向Aの熱伝導率は、方向Cの熱伝導率の500倍以下であってもよい。第2サセプタ12の方向Aの熱伝導率は、50W/mK以上400W/mK以下の範囲内にあることが好ましい。第2サセプタ12の方向Cの熱伝導率は、0.5W/mK以上4W/mK以下の範囲内にあることが好ましい。
【0023】
第2サセプタ12は、異方性黒鉛を含むことが好ましい。第2サセプタ12は、異方性黒鉛を単独で含むことが特に好ましい。異方性黒鉛は、(100)面および(200)面に沿った方向に高い熱伝導率を示す。第2サセプタ12は、第1サセプタ11と接する面に沿った方向と、異方性黒鉛の(100)面もしくは(200)面に沿った方向との角度が、+30度より大きく60度未満の範囲内又は-30度未満で-60度よりも大きい範囲内になるように、異方性黒鉛を配向した状態で成形することによって製造することができる。異方性黒鉛としては、グラファイトを用いることができる。
【0024】
本実施形態のサセプタ10は、第2サセプタ12の熱伝導率が最も高い値を示す方向Aと、第1サセプタ11の第1面11aに沿う方向Xとの間の角度θが上記の範囲内にあることによって、ウェハWを高い均一性で加熱することが可能となる。本実施形態のサセプタ10を用いてウェハWを加熱したときのウェハWの温度分布と、ウェハWの中心の温度との最大温度差(ウェハwの中心とその他の部分との温度差の最大値)を、下記の第1~第5シミュレーションによって求めた。なお、以下のシミュレーションでは、第2サセプタ12として、グラファイトの特定の面を配向させた円環状体を用いた場合を想定した。その他の条件は、次のとおりである。
【0025】
(シミュレーションの条件)
(1)有限要素法解析ソフトANSYS Mechanicalを用いた伝熱解析を実施した。解析対象として、中心軸を通る任意の断面の半分の構造を扱う軸対称モデルを採用した。
(2)境界条件:第1サセプタ11の第2面11bの温度を2000℃、ウェハWの上面Waより上部は1500℃の雰囲気とし、Waより1500℃雰囲気へ輻射逃げ
(3)構成
第1サセプタ11
円板状カーボン板にTaCコートしたTaCコートカーボン板 厚さT:3mm
第2サセプタ12
外径φ:150mm
幅D:3mm
高さH:3mm
ウェハW
円板状のSiC板
半径:75mm
厚さ:0.3mm
(4)内部輻射(輻射率)
ウェハW:0.8
第1サセプタ11:0.2
(5)熱伝導率(1500℃以上2000℃以下の温度範囲における熱伝導率)
ウェハW:40W/mK
第1サセプタ11:20W/mK
【0026】
(第1シミュレーション)
第1シミュレーションでは、第2サセプタ12として、最も熱伝導率が高い値を示す方向Aの熱伝導率を100W/mK、それと垂直な方向Xの熱伝導率を1W/mKとした円環状体を想定した。最も熱伝導率が高い値を示す方向Aと、第1サセプタ11の第1面11aに沿う方向Xとの間の角度θ1の角度を変えたときのウェハWの温度分布を算出し、その温度分布からウェハWの中心の温度との最大温度差を求めた。ウェハWの温度分布を示すグラフを
図4に、ウェハWの中心の温度との最大温度差を示すグラフを
図5にそれぞれ示す。なお、
図4のウェハWの温度分布は、角度θ1を+90度、+45度、0度、-45度、-90度としたときと、第1サセプタ及び第2サセプタの材料を等方性カーボン(等方性と表記)としたときの結果を示す。また、
図5のウェハWの中心の温度との最大温度差は、角度θ1を+90度、+75度、+60度、+45度、+30度、+15度、0度、-15度、-30度、-45度、-60度、-75度、-90度、第1サセプタ及び第2サセプタの材料を等方性カーボン(Cと表記)としたときの結果を示す。
【0027】
図4において、横軸は、ウェハWの中心からの距離を表し、縦軸はウェハWの温度を表す。なお、
図4のグラフにおいて、角度θ1が+90度と-90度のときは同じ値となる。
図4の結果から、ウェハWの温度は、中心から離れた場所、すなわち第2サセプタ12に近い場所で変動することがわかる。また、角度θ1が+90度及び-90度のときはウェハWの端部の温度が高くなることがわかる。これは、角度θ1が+90度及び-90度のときは、第2サセプタ12に伝わった熱が第2サセプタ12の上部からウェハWの端部に伝わるためであると考えられる。一方、上記の角度θ1が0度のときはウェハWの端部の温度が低くなることがわかる。これは、第2サセプタ12に伝わった熱が第2サセプタ12の外側に多く放出されることによって第2サセプタ12の上部からウェハWの端部に伝わる熱が少なくなるためであると考えられる。これに対して、角度θ1が+45度及び-45度のときはウェハWの端部の温度が中心部の温度に近くなることがわかる。これは、第2サセプタ12に伝わった熱と、第2サセプタ12の外側に放出される熱のバランスがよく、第2サセプタ12の上部からウェハWの端部に伝わる熱が適正になるためであると考えられる。以上の結果から、ウェハWの端部は、熱が外側に逃げやすく、中心部と比べて温度が下がりやすいことがわかる。よってウェハWの面内温度を均一化するためには、第2サセプタ12の接触部を通じてウェハWに熱を与えることは有効である。ただし、熱を与えすぎると逆にウェハWの端部の温度が上がり過ぎてしまう。
【0028】
図5のグラフから、角度θ1が+30度より大きく60度未満の範囲内又は-30度未満で-60度よりも大きい範囲内にある場合に、ウェハWの中心の温度との最大温度差が小さくなることがわかる。特に、角度が+45度及び-45度の場合は、ウェハWの中心の温度との最大温度差が小さくなることがわかる。
【0029】
(第2シミュレーション)
第2シミュレーションでは、第2サセプタ12として、最も熱伝導率が高い値を示す方向Aの熱伝導率を200W/mK、それと垂直な方向の熱伝導率を1W/mKとした円環状体を想定した。最も熱伝導率が高い値を示す方向Aと、第1サセプタ11の第1面11aに沿う方向Xとの間の角度θ1の角度を変えたときのウェハWの温度分布を算出し、その温度分布からウェハWの中心の温度との最大温度差を求めた。ウェハWの温度分布を示すグラフを
図6に、ウェハWの中心の温度との最大温度差を示すグラフを
図7にそれぞれ示す。
【0030】
図6の結果から、ウェハWの温度は、中心から離れた場所、すなわち第2サセプタ12に近い場所で変動することがわかる。また、角度θ1が、+90度及び-90度のときはウェハWの端部の温度が高くなり、0度のときはウェハWの端部の温度が低くなり、+45度及び-45度のときはウェハWの端部の温度が中心部の温度に近くなることがわかる。
【0031】
また、
図7のグラフから、角度θ1が+30度より大きく60度未満の範囲内又は-30度未満で-60度よりも大きい範囲内にある場合に、ウェハWの中心の温度との最大温度差が小さくなることがわかる。特に、角度θ1が+45度及び-45度の場合は、ウェハWの中心の温度との最大温度差が小さくなることがわかる。以上の結果から、第2サセプタ12が最も熱伝導率が高い値を示す方向Aの熱伝導率を200W/mK、それと垂直な方向の熱伝導率を1W/mKとした円環状である場合においても、ウェハWの端部は、熱が外側に逃げやすく、中心部と比べて温度が下がりやすいことがわかる。
【0032】
(第3シミュレーション)
第3シミュレーションでは、第2サセプタ12として、最も熱伝導率が高い値を示す方向Aの熱伝導率を350W/mK、それと垂直な方向の熱伝導率を2W/mKとした円環状体を想定した。最も熱伝導率が高い値を示す方向Aと、第1サセプタ11の第1面11aに沿う方向Xとの間の角度θ1の角度を変えたときのウェハWの温度分布を算出し、その温度分布からウェハWの中心の温度との最大温度差を求めた。ウェハWの温度分布を示すグラフを
図8に、ウェハWの中心の温度との最大温度差を示すグラフを
図9にそれぞれ示す。
【0033】
図8の結果から、ウェハWの温度は、中心から離れた場所、すなわち第2サセプタ12に近い場所で変動することがわかる。また、角度θ1が、+90度及び-90度のときはウェハWの端部の温度が高くなり、角度θ1が0度のときはウェハWの端部の温度が低くなり、角度θ1が+45度及び-45度のときはウェハWの端部の温度が中心部の温度に近くなることがわかる。
【0034】
また、
図9のグラフから、θ1が、+30度より大きく+60度未満の範囲内又は、-30度未満で-60度よりも大きい範囲内にあれば、等方性の場合よりも温度差が小さくなる。なお、本シミュレーションによれば、30度未満で0度より大きい、あるいは0度未満で-30度よりも大きい範囲内でも、第1サセプタ及び第2サセプタの材料を等方性カーボンとした場合(Cと表記)よりも温度差が小さくなるという結果が得られている。第2サセプタ12の熱伝導率の値によっては、このようなケースもあるが、+30度より大きく+60度未満の範囲内又は-30度未満で-60度よりも大きい範囲内にすることで、熱伝導率の値によらずに、第1サセプタ11及び第2サセプタ12の材料を等方性カーボンとした場合と比較して温度差を小さくすることができる。
【0035】
本実施形態のサセプタ10は、第2サセプタ12は熱伝導率の異方性を有し、第2サセプタ12の熱伝導率が最も高い値を示す方向Aと、第1サセプタ11の第1面11aに沿う方向Xとの間の角度θが+30度より大きく60度未満の範囲内又は-30度未満で-60度よりも大きい範囲内にあるので、第2サセプタ12に伝わった熱と、第2サセプタ12の外側に放出される熱のバランスがよく、第2サセプタ12の上部からウェハWの端部に伝わる熱が適正になる。このため、本実施形態のサセプタ10を用いることによって、ウェハWの面内温度を均一に調整することができる。
【0036】
本実施形態のサセプタ10において、第2サセプタ12は、熱伝導率が最も高い値を示す方向Aと熱伝導率が最も低い値を示す方向Cのなす角が90度±10度であることが好ましい。また、第2サセプタ12は、熱伝導率が最も高い方向Aの熱伝導率が、熱伝導率が最も低い方向Cの熱伝導率の100倍以上であることが好ましい。この場合、第2サセプタ12は熱伝導率の異方性が高くなるので、第2サセプタ12に伝わった熱と、第2サセプタ12の外側に放出される熱のバランスがさらによくなり、第2サセプタ12の上部からウェハWの端部に伝わる熱がさらに適正になる。
【0037】
本実施形態のサセプタ10において、第2サセプタ12は異方性黒鉛を含む場合は、第2サセプタ12は熱伝導率の異方性をより高くすることができる。このため、この第2サセプタ12を用いることによって、ウェハWをより高い均一性で加熱することが可能となる。
【0038】
本実施形態のサセプタ10において、第2サセプタ12の角度θが+40度以上+50度以下の範囲内(+45度付近)にある場合は、第2サセプタ12に伝わった熱と、第2サセプタ12の外側に放出される熱のバランスがより向上し、第2サセプタ12の上部からウェハWの端部に伝わる熱がより適正になるため、ウェハWをさらに高い均一性で加熱することが可能となる。
【0039】
なお、本実施形態のサセプタ10において、第2サセプタ12は円環状体とされている。円環状体の第2サセプタ12は、ウェハWの外周と均一に接触する点で好ましいが、第2サセプタ12は円環状体に限定されるものではない。例えば、第2サセプタは、円環状体を部分的に切断した形状としてもよい。
【0040】
図10は、本発明の第1実施形態に係るサセプタの別の一例の平面図である。
図10においては、第1サセプタ15の上に、円環状体を部分的に切断した形状の第2サセプタ片16が4つウェハWの面中央に対して回転対称位置となる位置に配置されている。
【0041】
<第2実施形態(化学的気相成長装置)>
図2は、本発明の第2実施形態に係る化学的気相成長装置の模式断面図である。
本実施形態の化学的気相成長装置(CVD装置)20は、第1実施形態のサセプタ10を備え、サセプタ10に載置されたウェハWの一方の面Waにエピタキシャル膜を成長させる装置である。
【0042】
化学的気相成長装置20は、炉体21と、ガス供給機構22と、下部ヒータ24と、上部ヒータ25と、回転機構26と、ガス排出部27と、ゲートバルブGとを有する。
ガス供給機構22は、炉体21の上部に備えられている。ガス供給機構22は、炉体21の内部にシリコン原料であるシラン、炭素原料であるプロパン、キャリアガスである水素、ドーパントとなる窒素などの原料ガスを供給する。下部ヒータ24は、サセプタ10の下方に配置されている。下部ヒータ24は、サセプタ10を介してウェハWを下方から加熱する。上部ヒータ25は、炉体21のサセプタ10よりも上方の炉体21の周囲に配置されている。上部ヒータ25は、ウェハWを上方から加熱する。回転機構26は、サセプタ10と下部ヒータ24との間に配置されている。回転機構26は、サセプタ10と共にウェハWを周方向に回転させる。ガス排出部27は、炉体21の下方の側部に備えられている。ガス排出部27は、原料ガスを外部に排気する。ゲートバルブGは、ウェハWを炉体21内に搬入するための開口部である。
【0043】
このような化学的気相成長装置20は、下部ヒータ24および上部ヒータ25によってウェハWを加熱する。次いで、回転機構26によりウェハWを周方向に回転させながら、ガス供給機構22から供給された原料ガスを、ウェハWの表面に接触させる。これにより、ウェハWの一面WaにSiC単結晶エピタキシャル膜を成長させることができる。そして、ウェハWの表面に接触させた原料ガスを、ガス排出部27により外部に排気する。
【0044】
本実施形態の化学的気相成長装置20は、第1実施形態のサセプタ10を備えるので、ウェハWを高い均一性で加熱することが可能となる。このため、本実施形態の化学的気相成長装置20を用いることによって、成膜時のウェハの面内温度が均一となり、均一な厚さで平滑なエピタキシャル膜を成膜することが可能となる。
【0045】
なお、本発明は、上記実施形態のものに必ずしも限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記実施形態のサセプタ10は、第1サセプタ11と第2サセプタの2つの部材から構成されているが、サセプタ10を構成する部材は、第1サセプタ11と第2サセプタに限定されるものではない。例えば、第3サセプタとして、第1サセプタ11と第2サセプタ12とウェハWの位置ずれを防止するために、第1サセプタ11と第2サセプタ12とウェハWの周囲に円環状の第3サセプタを配置してもよい。
【符号の説明】
【0046】
10 サセプタ
11 第1サセプタ
11a 第1面
11b 第2面
12 第2サセプタ
15 第1サセプタ
16 第2サセプタ片
20 化学的気相成長装置
21 炉体
22 ガス供給機構
24 下部ヒータ
25 上部ヒータ
26 回転機構
27 ガス排出部
W ウェハ
G ゲートバルブ