(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】カルボン酸ジハロゲン化物の製造方法、ポリイミド前駆体の製造方法、及び硬化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 73/10 20060101AFI20241112BHJP
C07C 67/307 20060101ALI20241112BHJP
C07C 69/76 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
C08G73/10
C07C67/307
C07C69/76 Z
(21)【出願番号】P 2021021320
(22)【出願日】2021-02-12
【審査請求日】2023-12-11
(73)【特許権者】
【識別番号】398008295
【氏名又は名称】HDマイクロシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】朝田 皓
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/104672(WO,A1)
【文献】特開2000-273172(JP,A)
【文献】特開2016-199662(JP,A)
【文献】特開2018-016554(JP,A)
【文献】特開2009-256313(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G73/00 -73/26
C07C67/307
C07C69/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシ基を2つ以上有する化合物をハロゲン化剤でハロゲン化して、カルボン酸ジハロゲン化物を得ることと、
前記カルボン酸ジハロゲン化物に水を反応させることと、
前記カルボン酸ジハロゲン化物にジアミンを反応させることと、
を含む、ポリイミド前駆体の製造方法。
【請求項2】
前記ハロゲン化剤が、前記カルボキシ基を2つ以上有する化合物に対して、当量比で2.05倍以上添加される、請求項1に記載のポリイミド前駆体の製造方法。
【請求項3】
前記ハロゲン化によって、前記カルボキシ基を2つ以上有する化合物のハロゲン化率が90%以上となる、請求項1又は請求項2に記載のポリイミド前駆体の製造方法。
【請求項4】
前記水との反応によって、前記カルボキシ基を2つ以上有する化合物のハロゲン化率が85%以上98%未満となる、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体の製造方法。
【請求項5】
前記カルボキシ基を2つ以上有する化合物が、下記式(1)で表される化合物を含む、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体の製造方法。
【化1】
式(1)において、Xは、4価の有機基を表し、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、水素原子、下記式(2)で表される基、又は炭素数1~4の脂肪族炭化水素基を表し、R
1及びR
2の少なくとも一方は、下記式(2)で表される基である。
【化2】
式(2)中、R
3~R
5は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~3の脂肪族炭化水素基を表し、qは1~10の整数を表す。
【請求項6】
前記カルボン酸ジハロゲン化物が下記式(3)で表される化合物を含む、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体の製造方法。
【化3】
式(3)において、Xは、4価の有機基を表し、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、水素原子、下記式(2)で表される基、又は炭素数1~4の脂肪族炭化水素基を表し、R
1及びR
2の少なくとも一方は、下記式(2)で表される基であり、X
11及びX
12は、それぞれ独立に、ハロゲン原子を表す。
【化4】
式(2)中、R
3~R
5は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~3の脂肪族炭化水素基を表し、qは1~10の整数を表す。
【請求項7】
前記カルボキシ基を2つ以上有する化合物が、ピロメリット酸二無水物のエステル化物及び4,4’-オキシジフタル酸二無水物のエステル化物からなる群より選択される少なくとも1つを含む、請求項1~請求項6のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体の製造方法。
【請求項8】
前記ハロゲン化剤が塩化チオニル及び塩化オキサリルからなる群より選択される少なくとも1つを含む、請求項1~請求項7のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体の製造方法。
【請求項9】
前記カルボン酸ジハロゲン化物に水を反応させることは、前記水の添加量と、前記カルボキシ基を2つ以上有する化合物のハロゲン化率と、の間の相関関係を決定することを含む、請求項1~請求項8のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体の製造方法。
【請求項10】
請求項1~請求項9のいずれか1項に記載の製造方法によりポリイミド前駆体を得ることと、
前記ポリイミド前駆体と光重合開始剤とを反応させて光重合物を得ることと、
前記光重合物を加熱することと、
を含む硬化物の製造方法。
【請求項11】
カルボキシ基を2つ以上有する化合物をハロゲン化剤でハロゲン化して、カルボン酸ジハロゲン化物を得ることと、
前記カルボン酸ジハロゲン化物に水を反応させることと、
を含む、カルボン酸ジハロゲン化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、カルボン酸ジハロゲン化物の製造方法、ポリイミド前駆体の製造方法、及び硬化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体における絶縁材料として、感光性ポリイミドが広く利用されている。感光性ポリイミドの合成方法は複数種存在する。1つの手法として、カルボキシ基を2つ以上有する化合物又をハロゲン化剤によりハロゲン化し、ジアミンとの重合反応を行って、ポリイミド前駆体であるポリアミック酸を製造する手法が広く用いられている。
【0003】
特許文献1には、ジカルボン酸又はジカルボン酸誘導体をハロゲン化し、ジアミンと反応させることによってポリイミド前駆体を製造する方法が記載されている。特許文献1には、ハロゲン化剤のモル量とハロゲン化剤の反応前の反応系に含まれる水のモル量との差分が、原料のジカルボン酸及びジカルボン酸誘導体の合計モル量の2.10倍以下となるように調整することで、得られるポリイミド前駆体の環化速度を速めることができることが記載されている。具体的には、ハロゲン化剤の反応前の反応系に水を添加し、反応系の水分量を調節することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
カルボキシ基を2つ以上有する化合物のハロゲン化、及び引き続くジアミンとの反応によるポリイミド前駆体の製造において、カルボキシ基のハロゲン化率は、ポリマーの分子量を決定する要素の1つとなる。すなわち、ハロゲン化部位がジアミンとの反応部位となるため、ハロゲン化率が高いほど、生成するポリイミド前駆体の分子量が大きくなる。ポリイミド前駆体の分子量を制御するため、カルボキシ基を2つ以上有する化合物のハロゲン化率を制御することが望まれる。しかしながら、これまでに、カルボキシ基を2つ以上有する化合物のハロゲン化率を簡便に制御し、これによりポリイミド前駆体の分子量を簡便に制御可能な技術に関する知見はない。
【0006】
かかる事情に鑑み、本開示は、ポリイミド前駆体の分子量を簡便に制御可能なカルボン酸ジハロゲン化物の製造方法及びポリイミド前駆体の製造方法、並びに当該製造方法を用いた硬化物の製造方法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段は、以下の態様を含む。
<1> カルボキシ基を2つ以上有する化合物をハロゲン化剤でハロゲン化して、カルボン酸ジハロゲン化物を得ることと、
前記カルボン酸ジハロゲン化物に水を反応させることと、
前記カルボン酸ジハロゲン化物にジアミンを反応させることと、
を含む、ポリイミド前駆体の製造方法。
<2> 前記ハロゲン化剤が、前記カルボキシ基を2つ以上有する化合物に対して、当量比で2.05倍以上添加される、<1>に記載のポリイミド前駆体の製造方法。
<3> 前記ハロゲン化によって、前記カルボキシ基を2つ以上有する化合物のハロゲン化率が90%以上となる、<1>又は<2>に記載のポリイミド前駆体の製造方法。
<4> 前記水との反応によって、前記カルボキシ基を2つ以上有する化合物のハロゲン化率が85%以上98%未満となる、<1>~<3>のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体の製造方法。
<5> 前記カルボキシ基を2つ以上有する化合物が、下記式(1)で表される化合物を含む、<1>~<4>のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体の製造方法。
【0008】
【0009】
式(1)において、Xは、4価の有機基を表し、R1及びR2は、それぞれ独立に、水素原子、下記式(2)で表される基、又は炭素数1~4の脂肪族炭化水素基を表し、R1及びR2の少なくとも一方は、下記式(2)で表される基である。
【0010】
【0011】
式(2)中、R3~R5は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~3の脂肪族炭化水素基を表し、qは1~10の整数を表す。
<6> 前記カルボン酸ジハロゲン化物が下記式(3)で表される化合物を含む、<1>~<5>のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体の製造方法。
【0012】
【0013】
式(3)において、Xは、4価の有機基を表し、R1及びR2は、それぞれ独立に、水素原子、下記式(2)で表される基、又は炭素数1~4の脂肪族炭化水素基を表し、R1及びR2の少なくとも一方は、下記式(2)で表される基であり、X11及びX12は、それぞれ独立に、ハロゲン原子を表す。
【0014】
【0015】
式(2)中、R3~R5は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~3の脂肪族炭化水素基を表し、qは1~10の整数を表す。
<7> 前記カルボキシ基を2つ以上有する化合物が、ピロメリット酸二無水物のエステル化物及び4,4’-オキシジフタル酸二無水物のエステル化物からなる群より選択される少なくとも1つを含む、<1>~<6>のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体の製造方法。
<8> 前記ハロゲン化剤が塩化チオニル及び塩化オキサリルからなる群より選択される少なくとも1つを含む、<1>~<7>のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体の製造方法。
<9> 前記カルボン酸ジハロゲン化物に水を反応させることは、前記水の添加量と、前記カルボキシ基を2つ以上有する化合物のハロゲン化率と、の間の相関関係を決定することを含む、<1>~<8>のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体の製造方法。
<10> <1>~<9>のいずれか1項に記載の製造方法によりポリイミド前駆体を得ることと、
前記ポリイミド前駆体と光重合開始剤とを反応させて光重合物を得ることと、
前記光重合物を加熱することと、
を含む硬化物の製造方法。
<11> カルボキシ基を2つ以上有する化合物をハロゲン化剤でハロゲン化して、カルボン酸ジハロゲン化物を得ることと、
前記カルボン酸ジハロゲン化物に水を反応させることと、
を含む、カルボン酸ジハロゲン化物の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、ポリイミド前駆体の分子量を簡便に制御可能なカルボン酸ジハロゲン化物の製造方法及びポリイミド前駆体の製造方法、並びに当該製造方法を用いた硬化物の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、実施例において水の添加量と酸クロライド化率をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本開示の実施形態について詳細に説明する。但し、本開示の実施形態は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本開示の実施形態を制限するものではない。
【0019】
本開示において「工程」との語には、他の工程から独立した工程に加え、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、当該工程も含まれる。
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、各成分の含有率又は含有量は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
本開示において「(メタ)アクリロイル」とは、アクリロイル及びメタクリロイルの少なくとも一方を意味する。
【0020】
≪ポリイミド前駆体の製造方法≫
本開示のポリイミド前駆体の製造方法は、カルボキシ基を2つ以上有する化合物をハロゲン化剤でハロゲン化して、カルボン酸ジハロゲン化物を得ることと、前記カルボン酸ジハロゲン化物に水を反応させることと、前記カルボン酸ジハロゲン化物にジアミンを反応させることと、を含む。
【0021】
以下に、カルボキシ基を2つ以上有する化合物としてテトラカルボン酸二無水物のエステル化物を用い、ハロゲン化剤として塩化チオニルを用いる場合の、ポリイミド前駆体の合成スキームを概説する。なお、本開示の実施形態は以下の例に限定されない。
【0022】
【0023】
上図中、Rはそれぞれ独立に置換又は非置換のアルキル基を表し、Xはそれぞれ独立に4価の有機基を表し、Yはそれぞれ独立に2価の有機基を表す。
【0024】
上記スキームでは、事前に、テトラカルボン酸二無水物をアルコールでエステル化している。その後、生成したテトラカルボン酸エステル化物に塩化チオニルを反応させて塩素化し、カルボン酸ジクロリドとする。このカルボン酸ジハロゲン化物にジアミンを反応させることによって、ポリイミド前駆体であるポリアミック酸エステルが得られる。このようなカルボン酸の塩素化を伴う手法は酸クロライド法と呼ばれている。
【0025】
本開示のポリイミド前駆体の製造方法では、カルボン酸ジハロゲン化物を得た後に反応系に水を添加する。本開示の方法によれば、カルボキシ基を2つ以上有する化合物のハロゲン化率を高精度で制御可能であり、これによりポリイミド前駆体の分子量の制御が可能であることが見出された。発明者の検討により、カルボキシ基を2つ以上有する化合物のハロゲン化後、反応系に水を添加すると、水の添加量と相関してハロゲン化率が低下することが見出された。このため、例えば、まず所望のハロゲン化率よりも高いハロゲン化率を得て、水を順次添加することにより、所望のハロゲン化率を有するカルボン酸ジハロゲン化物を得ることが可能となる。このカルボン酸ジハロゲン化物をジアミンと反応させることにより、得られるポリイミド前駆体の分子量を制御することが可能になる。かかる方法によれば、所望のハロゲン化率を得るための合成条件の詳細な検討を行わなくとも、簡便にポリイミド前駆体の分子量を制御することができる。
【0026】
本開示において、ハロゲン化率は下記方法により求める。
ハロゲン化率の測定対象となるカルボン酸ジハロゲン化物に過剰のアニリンを作用させてカルボン酸ハロゲン化物をアニリド誘導体に変換し、アニリド誘導体に対してHPLC測定を実施し、得られたクロマトグラムからジアニリド変換体のピーク面積を、モノアニリド変換体とジアニリド変換体のピーク面積の合計で除して100を乗ずることによって算出する。
HPLCの測定条件としては、例えば、溶離液としてアセトニトリル/0.1質量%リン酸水溶液=60/40(v/v)を用い、流速を1mL/minとし、測定波長を254nmとする。
以下、各工程の詳細を説明する。
【0027】
<1.カルボキシ基を2つ以上有する化合物をハロゲン化剤でハロゲン化して、カルボン酸ジハロゲン化物を得る工程>
本工程では、カルボキシ基を2つ以上有する化合物をハロゲン化剤でハロゲン化して、カルボン酸ジハロゲン化物を得る。
【0028】
(カルボキシ基を2つ以上有する化合物)
カルボキシ基を2つ以上有する化合物は、特に制限されず、カルボキシ基を2つ有する化合物が好ましい。カルボキシ基を2つ以上有する化合物としては、テトラカルボン酸ジエステル等が挙げられる。カルボキシ基を2つ以上有する化合物は、ピロメリット酸二無水物のエステル化物及び4,4’-オキシジフタル酸二無水物のエステル化物からなる群より選択される少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0029】
一態様において、カルボキシ基を2つ以上有する化合物は、下記式(1)で表される化合物を含んでもよい。
【0030】
【0031】
式(1)において、Xは、4価の有機基を表し、R1及びR2は、それぞれ独立に、水素原子、下記式(2)で表される基、又は炭素数1~4の脂肪族炭化水素基を表し、R1及びR2の少なくとも一方は、下記式(2)で表される基である。
【0032】
【0033】
式(2)中、R3~R5は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~3の脂肪族炭化水素基を表し、qは1~10の整数を表す。
【0034】
式(1)において、Xで表される4価の有機基は、炭素数が4~25であることが好ましく、4~13であることがより好ましく、6~12であることがさらに好ましい。
Xで表される4価の有機基は、芳香環を含んでもよい。Xで表される4価の有機基が芳香環を含む場合、芳香環としては、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環等が挙げられる。これらの中でも、ポリイミド前駆体であるポリアミック酸エステルの紫外領域における光透過性を向上する観点から、ベンゼン環が好ましい。
Xで表される4価の有機基が芳香環を含む場合、各芳香環は、置換基を有していてもよいし、無置換であってもよい。芳香環の置換基としては、アルキル基、フッ素原子、ハロゲン化アルキル基、水酸基、アミノ基等が挙げられる。
Xで表される4価の有機基がベンゼン環を含む場合、Xで表される4価の有機基は1個~4個のベンゼン環を含むことが好ましく、1個~3個のベンゼン環を含むことがより好ましく、1個又は2個のベンゼン環を含むことがさらに好ましい。
Xで表される4価の有機基が2個以上のベンゼン環を含む場合、各ベンゼン環は、単結合により連結されていてもよいし、アルキレン基、ハロゲン化アルキレン基、カルボニル基、スルホニル基、エーテル結合(-O-)、スルフィド結合(-S-)、シリレン結合(-Si(RA)2-;RAは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基又はフェニル基を表す。)シロキサン結合(-O-(Si(RB)2-O-)n;RBは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基又はフェニル基を表し、nは1又は2以上の整数を表す。)等の連結基、これら連結基を少なくとも2つ組み合わせた複合連結基などにより結合されていてもよい。また、2つのベンゼン環が単結合及び連結基の少なくとも一方により2箇所で結合されて、2つのベンゼン環の間に連結基を含む5員環又は6員環が形成されていてもよい。
【0035】
式(1)において、-COOR1基と-COOH基とが同じ芳香環に結合している場合、両者は互いにオルト位置にあることが好ましい。同様に、-COOR2基と-COOH基とが同じ芳香環に結合している場合、両者は互いにオルト位置にあることが好ましい。
【0036】
Xで表される4価の有機基の具体例としては、下記式(A)~下記式(E)で表される基を挙げることができるが、本開示の実施形態は下記具体例に限定されるものではない。
【0037】
【0038】
式(D)において、A及びBは、それぞれ独立に、単結合、メチレン基、ハロゲン化メチレン基、カルボニル基、スルホニル基、エーテル結合(-O-)、スルフィド結合(-S-)又はシリレン結合(-Si(RA)2-;RAは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基又はフェニル基を表す。)を表し、A及びBの両方が単結合となることはない。
式(E)において、Cは、単結合、又は、アルキレン基、ハロゲン化アルキレン基、カルボニル基、スルホニル基、エーテル結合(-O-)、スルフィド結合(-S-)、シリレン結合(-Si(RA)2-;RAは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基又はフェニル基を表す。)、シロキサン結合(-O-(Si(RB)2-O-)n;RBは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基又はフェニル基を表し、nは1又は2以上の整数を表す。)若しくはこれらを少なくとも2つ組み合わせた2価の基を表す。また、Cは、下記式(C1)で表される構造であってもよい。
【0039】
【0040】
式(E)におけるCで表されるアルキレン基としては、炭素数が1~10のアルキレン基が好ましく、炭素数が1~5のアルキレン基がより好ましく、炭素数が1又は2のアルキレン基がさらに好ましい。
式(E)におけるCで表されるアルキレン基の具体例としては、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基等の直鎖状アルキレン基;メチルメチレン基、1,1-ジメチルエチレン基、1-メチルトリメチレン基、2-メチルトリメチレン基、エチルエチレン基、1-メチルテトラメチレン基、2-メチルテトラメチレン基、1-エチルトリメチレン基、2-エチルトリメチレン基、1,1-ジメチルトリメチレン基、1,2-ジメチルトリメチレン基、2,2-ジメチルトリメチレン基、1-メチルペンタメチレン基、2-メチルペンタメチレン基、3-メチルペンタメチレン基、1-エチルテトラメチレン基、2-エチルテトラメチレン基、1,1-ジメチルテトラメチレン基、1,2-ジメチルテトラメチレン基、2,2-ジメチルテトラメチレン基、1,3-ジメチルテトラメチレン基、2,3-ジメチルテトラメチレン基、1,4-ジメチルテトラメチレン基等の分岐鎖状アルキレン基などが挙げられる。これらの中でも、メチレン基が好ましい。
【0041】
式(E)におけるCで表されるハロゲン化アルキレン基としては、炭素数が1~10のハロゲン化アルキレン基が好ましく、炭素数が1~5のハロゲン化アルキレン基がより好ましく、炭素数が1~3のハロゲン化アルキレン基がさらに好ましい。
式(E)におけるCで表されるハロゲン化アルキレン基の具体例としては、上述の式(E)におけるCで表されるアルキレン基に含まれる少なくとも1つの水素原子がフッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子で置換されたアルキレン基が挙げられる。これらの中でも、フルオロメチレン基、ジフルオロメチレン基、ヘキサフルオロジメチルメチレン基等が好ましい。
【0042】
上記シリレン結合又はシロキサン結合に含まれるRA又はRBで表されるアルキル基としては、炭素数が1~5のアルキル基が好ましく、炭素数が1~3のアルキル基がより好ましく、炭素数が1又は2のアルキル基がさらに好ましい。RA又はRBで表されるアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基等が挙げられる。
【0043】
式(D)におけるA及びBの組み合わせは特に限定されず、メチレン基とエーテル結合との組み合わせ、メチレン基とスルフィド結合との組み合わせ、カルボニル基とエーテル結合との組み合わせ等が好ましい。
式(E)におけるCとしては、単結合、エーテル結合、カルボニル基等が好ましい。
【0044】
式(1)におけるR1及びR2で表される脂肪族炭化水素基の炭素数は、1~4であり、1又は2であることが好ましい。R1及びR2で表される脂肪族炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基等が挙げられる。
【0045】
式(2)におけるR3~R5で表される脂肪族炭化水素基の炭素数は1~3であり、1又は2であることが好ましい。R3~R5で表される脂肪族炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基等が挙げられ、メチル基が好ましい。
【0046】
式(2)におけるR3~R5の組み合わせとしては、R3及びR4が水素原子であり、R5が水素原子又はメチル基の組み合わせが好ましい。
【0047】
式(2)におけるqは1~10の整数であることが好ましく、2~5の整数であることがより好ましく、2又は3であることがさらに好ましい。
【0048】
式(1)においては、R1及びR2の少なくとも一方は前記式(2)で表される基であり、R1及びR2の両方が前記式(2)で表される基であることが好ましい。
【0049】
カルボキシ基を2つ以上有する化合物が式(1)で表される化合物を含む場合、ポリイミド前駆体の架橋性を高める観点からは、反応系中の式(1)で表される化合物全体に占める、R1及びR2の両方が式(2)で表される基である化合物の割合は、60%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。ポリイミド前駆体の硬化物の現像性の観点からは、反応系中の式(1)で表される化合物全体に占める、R1及びR2の両方が式(2)で表される基である分子の割合は、99%以下であってもよく、96%以下であってもよい。
反応系中の式(1)で表される化合物全体に占める、R1及びR2の両方が式(2)で表される基である分子の割合は、HPLCのピーク面積の割合から得ることができる。
【0050】
式(1)で表されるカルボキシ基を2つ以上有する化合物は、如何なる製法を経て得られたものであってもよい。
式(1)で表されるカルボキシ基を2つ以上有する化合物は、例えば、下記式(4)で表されるテトラカルボン酸二無水物に対して、モノアルコール化合物を作用させて得られたものであってもよい。この場合、モノアルコール化合物は、(メタ)アクリロイル基を有するモノアルコール化合物を含むことが好ましい。
【0051】
【0052】
式(4)において、Xは、式(1)におけるXと同様であり、具体例及び好ましい例も同様である。
【0053】
モノアルコール化合物としては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、4-ヒドロキシブチルメタクリレート、グリセロールジアクリレート、1-(アクリロイルオキシ)-3-(メタクリロイルオキシ)-2-プロパノール、グリセロールジメタクリレート、ペンタエリトリトールトリアクリレート、ペンタエリトリトールトリメタクリレート等が挙げられる。
【0054】
式(4)で表されるテトラカルボン酸二無水物としては、ピロメリット酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5,6-ピリジンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、m-ターフェニル-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物、p-ターフェニル-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス{4’-(2,3-ジカルボキシフェノキシ)フェニル}プロパン二無水物、2,2-ビス{4’-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル}プロパン二無水物、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2,2-ビス{4’-(2,3-ジカルボキシフェノキシ)フェニル}プロパン二無水物、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2,2-ビス{4’-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル}プロパン二無水物、4,4’-オキシジフタル酸二無水物、4,4’-スルホニルジフタル酸二無水物、9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二無水物等が挙げられる。
式(4)で表されるテトラカルボン酸二無水物は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0055】
式(4)で表されるテトラカルボン酸二無水物に対してモノアルコール化合物を作用させて式(1)で表されるカルボキシ基を2つ以上有する化合物を得る場合、式(4)で表されるテトラカルボン酸二無水物1モルに対して、少なくとも2モル以上のモノアルコール化合物を塩基性触媒存在下で作用させることが好ましい。未反応のモノアルコール化合物の量を抑制する観点からは、モノアルコール化合物の使用量は、式(4)で表されるテトラカルボン酸二無水物1モルに対して、2.0モル~2.5モルであることが好ましく、2.0モル~2.3モルであることがより好ましく、2.0モル~2.2モルであることがさらに好ましい。
【0056】
式(4)で表されるテトラカルボン酸二無水物にモノアルコール化合物を作用させる際に用いる塩基性触媒としては、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ-5-エン等を用いることができる。
【0057】
原料として、2種類以上の式(4)で表されるテトラカルボン酸二無水物を用いる場合、それぞれのテトラカルボン酸二無水物を別々に式(1)で表されるカルボキシ基を2つ以上有する化合物に導き、これらカルボキシ基を2つ以上有する化合物を混合して用いてもよい。また、予め2種類以上のテトラカルボン酸二無水物を混合した後、一括して式(1)で表されるカルボキシ基を2つ以上有する化合物の混合物に導いてもよい。
【0058】
(ハロゲン化剤)
ハロゲン化剤としては、塩素化剤、ヨウ素化剤等が挙げられ、反応性、取り扱い性等の観点からは、塩素化剤が好ましい。ハロゲン化剤としては、塩化チオニル、塩化オキサリル等が挙げられる。
【0059】
ハロゲン化剤の使用量は、カルボキシ基を2つ以上有する化合物に対して、当量比で2.00倍以上添加されることが好ましい。また、ハロゲン化剤の使用量は、作用させるカルボキシ基を2つ以上有する化合物の量に対して過剰量となる量であることが好ましい。一態様において、ハロゲン化剤は、カルボキシ基を2つ以上有する化合物に対して、当量比で2.00倍を超えて添加されてもよく、2.05倍以上添加されてもよく、2.10倍以上添加されてもよく、2.20倍以上添加されてもよく、2.30倍以上添加されてもよく、2.40倍以上添加されてもよく、2.50倍以上添加されてもよく、2.60倍以上添加されてもよい。ハロゲン化物の添加量が、上記範囲であると、ハロゲン化率が十分に高まり、その後の水の添加によるハロゲン化率の調節の幅が広がる。また、一態様において、未反応のハロゲン化剤を抑える観点からは、ハロゲン化剤は、カルボキシ基を2つ以上有する化合物に対して、当量比で5.00倍以下添加されてもよく、4.00倍以下添加されてもよく、3.00倍以下添加されてもよく、2.80倍以下添加されてもよい。かかる観点から、ハロゲン化剤は、カルボキシ基を2つ以上有する化合物に対して、当量比で2.05倍~5.00倍添加されてもよく、2.05倍~4.00倍添加されてもよく、2.05倍~3.00倍添加されてもよく、2.05倍~2.80倍添加されてもよい。
【0060】
ハロゲン化剤によるハロゲン化によって、カルボキシ基を2つ以上有する化合物のハロゲン化率は、例えば90%以上となってもよく、95%以上となってもよく、96%以上となってもよく、97%以上となってもよく、98%以上となってもよい。ハロゲン化率が100%に近いほど、その後の水添加によるハロゲン化率の調整の幅が広がる。
【0061】
(カルボン酸ジハロゲン化物)
カルボン酸ジハロゲン化物は、上述のカルボキシ基を2つ以上有する化合物をハロゲン化剤でハロゲン化することにより生成する化合物である。カルボン酸ジハロゲン化物は、-COX(Xはハロゲン原子)で表される基を2つ有する。一態様において、上述の式(1)で表される化合物をハロゲン化剤でハロゲン化することにより、下記式(3)で表される化合物が得られる。
【0062】
【0063】
式(3)において、Xは、4価の有機基を示し、R1及びR2は、それぞれ独立に、水素原子、下記式(2)で表される基、又は炭素数1~4の脂肪族炭化水素基であり、R1及びR2の少なくとも一方は、下記式(2)で表される基であり、X11及びX12は、それぞれ独立に、ハロゲン原子を表す。
【0064】
【0065】
式(2)中、R3~R5は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~3の脂肪族炭化水素基を表し、qは1~10の整数を表す。
【0066】
式(3)中のX、R1、及びR2の詳細は式(1)のX、R1、及びR2の詳細と同じである。X11及びX12は、それぞれ独立に、塩素原子であることが好ましい。
【0067】
〔反応条件〕
カルボキシ基を2つ以上有する化合物に対してハロゲン化剤を作用させる際の温度は、0℃~20℃であってもよく、副反応を制御する観点から0℃~15℃であってもよく、0℃~10℃であってもよい。
カルボキシ基を2つ以上有する化合物に対してハロゲン化剤を作用させる時間は、0.5時間~8時間であってもよく、副反応制御の観点から0.5時間~6時間であってもよく、0.5時間~3時間であってもよい。
【0068】
本開示のポリイミド前駆体の製造方法では、少なくとも2種類のカルボキシ基を2つ以上有する化合物の混合物に対してハロゲン化剤を作用させて、少なくとも2種類のカルボン酸ジハロゲン化物の混合物を得てもよい。
【0069】
<2.カルボン酸ジハロゲン化物に水を反応させる工程>
本工程では、反応系に水を添加して、上記のハロゲン化で得られたカルボン酸ジハロゲン化物に水を反応させる。上記のハロゲン化で得られた系に水を添加することによって、カルボキシ基を2つ以上有する化合物のハロゲン化率を徐々に低下させることができ、所望のハロゲン化率を得ることができる。
【0070】
水の添加量は、後続のジアミンとの反応に供するために所望のハロゲン化率が得られる量とすることが好ましい。例えば、ポリイミド前駆体の分子量を抑えて好適な範囲とする観点からは、ハロゲン化率が98%未満、97%未満、96%未満、又は95%未満となるように水の添加量を調節してもよい。ポリアミド前駆体の分子量を増加させて好適な範囲とする観点からは、ハロゲン化率が85%以上、90%以上、93%以上、又は94%以上となるように水の添加量を調節してもよい。
かかる観点から、ハロゲン化率が85%以上98%未満、90%以上97%未満、93%以上96%未満、又は94%以上95%未満となるように水の添加量を調節してもよい。
【0071】
同様の観点から、水の添加量は、反応に供したカルボキシ基を2つ以上有する化合物1モルに対して、0.02モル以上であってもよく、0.04モル以上であってもよく、0.06モル以上であってもよく、0.08モル以上であってもよい。また、水の添加量は、反応に供したカルボキシ基を2つ以上有する化合物1モルに対して、0.30モル以下であってもよく、0.25モル以下であってもよく、0.20モル以下であってもよい。
【0072】
一態様において、水の添加量とカルボン酸ジハロゲン化物のハロゲン化率との間の相関関係を決定してもよい。発明者の検討により、水の添加量とカルボン酸ジハロゲン化物のハロゲン化率との間に相関関係が存在することが見出された。本開示の実施形態を限定するものではないが、カルボキシ基を2つ以上有する化合物をハロゲン化させた系に水を添加し、順次添加量を増量させると、暫くはカルボン酸ジハロゲン化物のハロゲン化率は変化しないが、その後ハロゲン化率が一次関数的に低下することが見出されている。したがって、かかる相関関係を決定し、水の添加量を予測することで、所望のハロゲン化率を精度高く得ることができると考えられる。
【0073】
<3.カルボン酸ジハロゲン化物にジアミンを反応させる工程>
カルボン酸ジハロゲン化物に水を反応させた後、当該カルボン酸ジハロゲン化物にジアミンを反応させて、ポリイミド前駆体を得る。上述の通り、水の添加によってカルボン酸ジハロゲン化物のハロゲン化率を調整することができるため、ジアミンとの反応により得られるポリイミド前駆体の分子量を調節することができる。
【0074】
(ジアミン)
ジアミンは1分子中に2つのアミノ基を有する化合物であれば特に制限されない。ジアミンとしては、脂肪族ジアミン、芳香族ジアミン等が挙げられ、耐熱性の観点から芳香族ジアミンが好ましい。ジアミンは、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0075】
芳香族ジアミンとしては、下記式(F)~下記式(G)で表される化合物が挙げられる。
【0076】
【0077】
式(F)又は式(G)において、Rは、それぞれ独立に、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン化アルキル基、カルボキシ基、又はフェニル基を表し、nは、それぞれ独立に、0~4の整数を表す。
式(G)において、Dは、単結合、又は、アルキレン基、ハロゲン化アルキレン基、カルボニル基、スルホニル基、エーテル結合(-O-)、スルフィド結合(-S-)、シリレン結合(-Si(RA)2-;RAは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基又はフェニル基を表す。)、シロキサン結合(-O-(Si(RB)2-O-)n;RBは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基又はフェニル基を表し、nは1又は2以上の整数を表す。)若しくはこれらを少なくとも2つ組み合わせた2価の基を表す。また、Dは、上記式(C1)で表される構造であってもよい。式(G)におけるDの具体例は、式(E)におけるCの具体例と同様である。
【0078】
式(F)又は式(G)におけるRで表されるアルキル基としては、炭素数が1~10のアルキル基であることが好ましく、炭素数が1~5のアルキル基であることがより好ましく、炭素数が1又は2のアルキル基であることがさらに好ましい。
式(F)又は式(G)におけるRで表されるアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基等が挙げられる。
【0079】
式(F)又は式(G)におけるRで表されるアルコキシ基としては、炭素数が1~10のアルコキシ基が好ましく、炭素数が1~5のアルコキシ基がより好ましく、炭素数が1又は2のアルコキシ基がさらに好ましい。
式(F)又は式(G)におけるRで表されるアルコキシ基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、s-ブトキシ基、t-ブトキシ基等が挙げられる。
【0080】
式(F)又は式(G)におけるRで表されるハロゲン化アルキル基としては、炭素数が1~5のハロゲン化アルキル基が好ましく、炭素数が1~3のハロゲン化アルキル基がより好ましく、炭素数が1又は2のハロゲン化アルキル基がさらに好ましい。
式(F)又は式(G)におけるRで表されるハロゲン化アルキル基の具体例としては、式(F)又は式(G)におけるRで表されるアルキル基に含まれる少なくとも1つの水素原子がフッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子で置換されたアルキル基が挙げられる。これらの中でも、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基等が好ましい。
【0081】
式(F)又は式(G)におけるnは、0~2であることが好ましく、0又は1であることがより好ましく、0であることがさらに好ましい。
【0082】
さらに、Dは、下記式(D1)又は(D2)で表される2価の基であってもよい。
-Q-Ar-Q- (D1)
-Q-Ar-Q-Ar-Q- (D2)
式(D1)又は式(D2)において、Arは、置換又は非置換のフェニレン基又はナフチレン基を表す。Qは、各々独立に、単結合、又は、アルキレン基、ハロゲン化アルキレン基、カルボニル基、スルホニル基、エーテル結合(-O-)、スルフィド結合(-S-)、シリレン結合(-Si(RA)2-;RAは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基又はフェニル基を表す。)、シロキサン結合(-O-(Si(RB)2-O-)n;RBは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基又はフェニル基を表し、nは1又は2以上の整数を表す。)若しくはこれらを少なくとも2つ組み合わせた2価の基を表す。
式(D1)及び(D2)において、各Arに結合する2つのQの位置関係は、オルト位であってもメタ位であってもパラ位であってもよい。
Arで表されるフェニレン基又はナフチレン基が有してもよい置換基の具体例は、一般式(F)又は一般式(G)におけるRで表される基と同様である。Arで表されるフェニレン基又はナフチレン基が有してもよい置換基の数は、特に限定されない。
【0083】
芳香族ジアミンの具体例としては、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ジフルオロ-4,4’-ジアミノビフェニル、3,5-ジアミノ安息香酸、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、p-キシリレンジアミン、m-キシリレンジアミン、1,5-ジアミノナフタレン、ベンジジン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、2,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2,2’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、2,4’-ジアミノジフェニルスルホン、2,2’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、2,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、2,2’-ジアミノジフェニルスルフィド、o-トリジン、o-トリジンスルホン、4,4’-メチレンビス(2,6-ジエチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(2,6-ジイソプロピルアニリン)、2,4-ジアミノメシチレン、1,5-ジアミノナフタレン、4,4’-ベンゾフェノンジアミン、ビス-{4-(4’-アミノフェノキシ)フェニル}スルホン、2,2-ビス{4-(4’-アミノフェノキシ)フェニル}プロパン、2,2-ビス{4-(4’-アミノフェノキシ)フェニル}ヘキサフルオロプロパン、4,4’-(m-フェニレンジイソプロピリデン)ジアニリン、4,4’-(p-フェニレンジイソプロピリデン)ジアニリン、1,7-ビス(4-アミノフェノキシ)ナフタレン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、ビス{4-(3’-アミノフェノキシ)フェニル}スルホン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル等が挙げられる。
【0084】
脂肪族ジアミンとしては、直鎖状脂肪族ジアミン、分岐状脂肪族ジアミン、脂環族ジアミン等が挙げられる。さらには、脂肪族ジアミンとして、炭素原子、水素原子及び窒素原子以外のその他の原子を含むヘテロ原子含有脂肪族ジアミンも挙げられる。
【0085】
直鎖状脂肪族ジアミンに含まれる炭素数は、1~20であることが好ましく、1~15であることがより好ましく、1~10であることがさらに好ましい。
直鎖状脂肪族ジアミンの具体例としては、1,4-ジアミノブタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、1,11-ジアミノウンデカン、1,12-ジアミノドデカン等が挙げられる。
【0086】
分岐状脂肪族ジアミンに含まれる炭素数は、1~20であることが好ましく、1~15であることがより好ましく、1~10であることがさらに好ましい。
分岐状脂肪族ジアミンの具体例としては、2-メチル-1,5-ジアミノペンタン、2-メチル-1,6-ジアミノヘキサン、2-メチル-1,7-ジアミノヘプタン、2-メチル-1,8-ジアミノオクタン、2-メチル-1,9-ジアミノノナン、2-メチル-1,10-ジアミノデカン等が挙げられる。
【0087】
脂環族ジアミンに含まれる炭素数は、3~10であることが好ましく、3~6であることがより好ましい。
脂環族ジアミンの具体例としては、1,4-シクロヘキサンジアミン、1,3-シクロヘキサンジアミン等が挙げられる。
【0088】
ヘテロ原子含有脂肪族ジアミンとしては、分子中にポリアルキレンオキサイド構造を有するアルキレンオキサイド変性ジアミン、分子中にポリシロキサン構造を有するシロキサン変性ジアミン等が挙げられる。
【0089】
アルキレンオキサイド変性ジアミンに含まれるポリアルキレンオキサイド構造を有する2価の基に含まれる単位構造としては、炭素数1~10のアルキレンオキサイド構造が好ましく、炭素数1~8のアルキレンオキサイド構造がより好ましく、炭素数1~4のアルキレンオキサイド構造がさらに好ましい。なかでも、ポリアルキレンオキサイド構造としてはポリエチレンオキサイド構造又はポリプロピレンオキサイド構造が好ましい。アルキレンオキサイド構造中のアルキレン基は直鎖状であっても分岐状であってもよい。ポリアルキレンオキサイド構造中の単位構造は1種類でもよく、2種類以上であってもよい。
【0090】
シロキサン変性ジアミンに含まれるポリシロキサン構造を有する2価の基としては、ポリシロキサン構造中のケイ素原子が水素原子、炭素数1~20のアルキル基又は炭素数6~18のアリール基と結合しているポリシロキサン構造を有する2価の基が挙げられる。
ポリシロキサン構造中のケイ素原子と結合する炭素数1~20のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基、n-ドデシル基等が挙げられる。これらの中でも、メチル基が好ましい。
ポリシロキサン構造中のケイ素原子と結合する炭素数6~18のアリール基は、無置換でも置換基で置換されていてもよい。アリール基が置換基を有する場合の置換基の具体例としては、ハロゲン原子、アルコキシ基、ヒドロキシ基等が挙げられる。炭素数6~18のアリール基の具体例としては、フェニル基、ナフチル基、ベンジル基等が挙げられる。これらの中でも、フェニル基が好ましい。
炭素数1~20のアルキル基又は炭素数6~18のアリール基は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0091】
塩素化剤を用いてカルボン酸ジクロライドを得て、当該カルボン酸ジクロライドに対してジアミンを作用させる場合には、塩基性化合物を併用してもよい。塩基性化合物は、カルボン酸ジクロライドとジアミンとが反応した際に発生する塩化水素を捕捉する目的で用いられる。
塩基性化合物としては、ピリジン、4-ジメチルアミノピリジン、トリエチルアミン等を用いることができる。塩基性化合物の使用量は、得られるポリイミド前駆体の分子量を高くし、硬化後の応力を向上させる観点から、塩素化剤1モルに対して、1.5モル~2.5モルであることが好ましく、1.7モル~2.4モルであることがより好ましく、1.8モル~2.3モルであることがさらに好ましい。
【0092】
(ポリイミド前駆体)
上述のようにして得られたカルボン酸ジハロゲン化物にジアミンを反応させることで、ポリイミド前駆体が製造される。
【0093】
本開示のポリイミド前駆体の製造方法により製造されたポリイミド前駆体のポリスチレン換算での重量平均分子量は、10,000~100,000であることが好ましく、15,000~100,000であることがより好ましく、20,000~85,000であることがさらに好ましく、30,000~60,000であることが特に好ましく、37,000~43,000であることが極めて好ましい。
硬化後の応力を十分に低下させる観点から、ポリイミド前駆体の重量平均分子量は10,000以上であることが好ましい。また、ポリイミド前駆体の溶剤への溶解性及びポリイミド前駆体溶液の取り扱い性を向上する観点から、ポリイミド前駆体の重量平均分子量は100,000以下であることが好ましい。
重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法によって測定することができ、標準ポリスチレン検量線を用いて換算することによって求めることができる。
【0094】
≪硬化物の製造方法≫
本開示の硬化物の製造方法は、上述の本開示の製造方法によりポリイミド前駆体を得ることと、前記ポリイミド前駆体と光重合開始剤とを反応させて光重合物を得ることと、前記光重合物を加熱することと、を含む。光重合開始剤、及び必要に応じて用いられる重合性モノマー、カップリング剤、溶剤、熱重合開始剤、増感剤、安定剤、界面活性剤、レベリング剤、防錆剤等の成分は、本分野で一般的に用いられるものを用いることができる。
【0095】
光重合開始剤は、活性光線照射によりラジカルを発生しうる化合物であれば特に制限はない。光重合開始剤としては、ベンゾフェノン;N,N’-テトラメチル-4,4’-ジアミノベンゾフェノン(ミヒラーケトン)、N,N’-テトラエチル-4,4’-ジアミノベンゾフェノン、4-メトキシ-4’-ジメチルアミノベンゾフェノン、4-クロロベンゾフェノン、4,4’-ジメトキシベンゾフェノン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、o-ベンゾイル安息香酸メチル、4-ベンゾイル-4’-メチルジフェニルケトン、ジベンジルケトン、フルオレノン等のベンゾフェノン誘導体;アセトフェノン;2,2-ジエトキシアセトフェノン、3’-メチルアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等のアセトフェノン誘導体;チオキサントン;2-メチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、2-クロロチオキサントン、ジエチルチオキサントン等のチオキサントン誘導体;ベンジル;ベンジルジメチルケタール、ベンジル-β-メトキシエチルアセタール等のベンジル誘導体;ベンゾイン;ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインフェニルエーテル、メチルベンゾイン、エチルベンゾイン、プロピルベンゾイン等のベンゾイン誘導体;1-フェニル-1,2-ブタンジオン-2-(O-メトキシカルボニル)オキシム、1-フェニル-1,2-プロパンジオン-2-(O-メトキシカルボニル)オキシム、1-フェニル-1,2-プロパンジオン-2-(O-エトキシカルボニル)オキシム、1-フェニル-1,2-プロパンジオン-2-(O-ベンゾイル)オキシム、1-フェニル-1,2-プロパンキシムジオン-2-(O-ベンゾイル)オキシム、1,3-ジフェニルプロパントリオン-2-(O-エトキシカルボニル)オキシム、1-フェニル-3-エトキシプロパントリオン-2-(O-ベンゾイル)オキシム、1,2-オクタンジオン,1-[4-(フェニルチオ)フェニル]-,2-(O-ベンゾイルオキシム)、エタノン,1-[9-エチル-6(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-,1-(O-アセチルオキシム)等のオキシム誘導体;N-フェニルグリシン等のN-アリールグリシン類;ベンゾイルパークロライド等の過酸化物類;2-(2-クロロフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール二量体、2-(2-クロロフェニル)-4,5-ジ(メトキシフェニル)イミダゾール二量体、2-(2-フルオロフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール二量体、2-(2-又は4-メトキシフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール二量体等の芳香族ビイミダゾール類;2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド誘導体等が挙げられる。光重合開始剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせてもよい。
これらのなかでも、金属元素を含まず、かつ反応性が高く高感度である観点からオキシム誘導体が好ましい。
【0096】
光重合開始剤の量は、ポリイミド前駆体100質量部に対して、0.1質量部~20質量部であることが好ましく、1質量部~15質量部であることがより好ましく、2質量部~12質量部であることがさらに好ましい。
【0097】
光重合物は、本開示のポリイミド前駆体と、光重合開始剤と、必要に応じて他の任意の成分と、を含む感光性樹脂組成物を露光することにより得られる。
照射する活性光線としては、i線等の紫外線、可視光線、放射線などが挙げられ、i線が好ましい。
露光装置としては、平行露光機、アライナー、投影露光機、ステッパ、スキャナ露光機等を用いることができる。
【0098】
基板上に付与した感光性樹脂組成物に対して、フォトマスク等を介してパターン露光を行ってもよい。露光後、現像することで、パターン形成された樹脂膜(パターン樹脂膜)を得ることができる。一般的に、ネガ型感光性樹脂組成物を用いた場合には、未露光部を現像剤で除去する。現像剤としては、感光性樹脂膜の良溶媒を単独で、又は良溶媒と貧溶媒を適宜混合して用いることができる。
【0099】
光重合物を加熱処理することにより、硬化物を得ることができる。ポリイミド前駆体が、加熱処理工程によって脱水閉環反応を起こし、ポリイミド樹脂となる。
【0100】
加熱処理の温度は、380℃以下であることが好ましく、250℃~350℃であることがより好ましく、270℃~320℃であることがさらに好ましい。加熱処理の温度が上記範囲内であることにより、基板又はデバイスへのダメージを小さく抑えることができ、デバイスを歩留りよく生産することが可能となり、プロセスの省エネルギー化を実現することができる。
【0101】
加熱処理の時間は、5時間以下であることが好ましく、30分間~3時間であることがより好ましい。加熱処理の時間が上記範囲内であることにより、架橋反応又は脱水閉環反応を十分に進行することができる。
加熱処理の雰囲気は大気中であっても、窒素等の不活性雰囲気中であってもよく、パターン樹脂膜の酸化を防ぐことができる観点から、窒素雰囲気下であることが好ましい。
【0102】
加熱処理に用いられる装置としては、石英チューブ炉、ホットプレート、ラピッドサーマルアニール、縦型拡散炉、赤外線硬化炉、電子線硬化炉、マイクロ波硬化炉等が挙げられる。
【0103】
硬化物は、層間絶縁膜、カバーコート層、表面保護膜等として用いることができる。さらには、硬化物は、パッシベーション膜、バッファーコート膜等として用いることができる。
上記パッシベーション膜、バッファーコート膜、層間絶縁膜、カバーコート層、及び表面保護膜等からなる群より選択される1以上を用いて、信頼性の高い、半導体装置、多層配線板、各種電子デバイス、マルチダイファンアウトウエハレベルパッケージ等の積層デバイスなどの電子部品を製造することができる。
【0104】
≪カルボン酸ジハロゲン化物の製造方法≫
本開示のカルボン酸ジハロゲン化物の製造方法は、カルボキシ基を2つ以上有する化合物をハロゲン化剤でハロゲン化して、カルボン酸ジハロゲン化物を得ることと、前記カルボン酸ジハロゲン化物に水を反応させることと、を含む。本開示のカルボン酸ジハロゲン化物の製造方法の各工程の詳細は上述の通りである。
【実施例】
【0105】
次に本開示の実施形態を実施例により具体的に説明するが、本開示の実施形態はこれらの実施例に限定されない。
【0106】
〔ピロメリット酸-ヒドロキシエチルメタクリレートジエステルの合成〕
0.5リットルのポリ瓶中に、160℃の乾燥機で24時間乾燥させたピロメリット酸二無水物35.7g(164mmol)と、2-ヒドロキシエチルメタクリレート45.0g(346.1mmol)と、ハイドロキノン0.18g(1.6mmol)と、をN-メチル-2-ピロリドン387.9gに溶解し、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エンを0.25g(1.6mmol)添加後、室温下(25℃)で24時間撹拌し、エステル化を行うことで、ピロメリット酸-ヒドロキシエチルメタクリレートジエステル溶液を得た。この溶液をPMDA(HEMA)溶液とする。
【0107】
〔4,4’-オキシジフタル酸-ヒドロキシエチルメタクリレートジエステルの合成〕
0.5リットルのポリ瓶中に、160℃の乾燥機で24時間乾燥させた4,4’-オキシジフタル酸二無水物50.9g(164mmol)と、2-ヒドロキシエチルメタクリレート45.0g(346.1mmol)と、ハイドロキノン0.18g(1.6mmol)と、をN-メチル-2-ピロリドン387.9gに溶解し、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エンを0.75g(4.9mmol)添加後、室温下(25℃)で48時間撹拌し、エステル化を行い、4,4’-オキシジフタル酸-ヒドロキシエチルメタクリレートジエステル溶液を得た。この溶液をODPA(HEMA)溶液とする。
【0108】
〔ハロゲン化(酸クロライド化)〕
撹拌機及び温度計を備えた0.5リットルのフラスコ中に上記で得られたPMDA(HEMA)溶液195.6gとODPA(HEMA)溶液58.6gを入れ、その後、氷冷下で塩化チオニルを表1に記載の量で反応溶液温度が10℃以下に保たれるように滴下漏斗を用いて滴下した。塩化チオニルの滴下が終了した後、氷冷下で2時間反応を行いPMDA(HEMA)とODPA(HEMA)の酸クロライドの溶液を得た。
【0109】
以下の方法で、得られたPMDA(HEMA)とODPA(HEMA)の酸クロライド化物のハロゲン化率(酸クロライド化率)を求めた。
30mLのスクリュー管に5質量%のアニリンのN-メチル-2-ピロリドン溶液を11mL秤量し、酸クロライド溶液を0.5mL加えて攪拌することによって、酸クロライドをアニリド誘導体に変換した。得られたアニリド誘導体溶液20滴を、溶離液3mLで希釈した溶液を用いて、以下に示す条件でHPLC測定を実施した。
酸クロライド化率(%)=(ジアニリド誘導体のピーク面積)/(モノアニリド変換体のピーク面積+ジアニリド変換体のピーク面積)×100
【0110】
HPLC条件
装置:株式会社島津製作所 Prominence
カラム:株式会社ワイエムシィ YMC-Pack ODS-AM
溶離液:アセトニトリル/0.1質量%リン酸水溶液=60/40(v/v)
流速 :1mL/min.
測定波長:254nm
サンプル調製:反応溶液0.5mLを11gの5質量%アニリンのN-メチル-2-ピロリドン溶液に添加し、20滴のアニリン溶液を9gの溶液に添加
【0111】
〔水の添加〕
次に、得られたPMDA(HEMA)とODPA(HEMA)の酸クロライドの溶液に対して、表1に示す量で徐々に水を添加した。
【0112】
ハロゲン化及び水の添加は、ロットの異なる5つのサンプル(サンプルA~E:ピロメリット酸二無水物と4,4’-オキシジフタル酸二無水物のエステル化物の混合物)を用いて行った。水を添加したときの水の添加量と酸クロライド化率との関係を表1に示す。表1において、塩化チオニル(SOCl2)量は、ピロメリット酸二無水物及び4,4’-オキシジフタル酸二無水物の合計1モルに対する塩化チオニルのモル数で示されている。水の添加量は、ピロメリット酸二無水物及び4,4’-オキシジフタル酸二無水物の合計1モルに対する水のモル数で示されている。
【0113】
【0114】
表1に示される水の添加量と酸クロライド化率をプロットした結果を
図1に示す。
図1より、水を増量させていくと、初期には酸クロライド化率は殆ど変化しないが、その後、水の添加量に対して一次関数的に酸クロライド化率が減少することがわかった。これは、初期には水分子が系中に残存する酸化チオニルと反応するため酸クロライド化率を変化させないが、その後、水が酸クロライド化物と反応して加水分解を起こさせ、酸クロライド化率を低下させるためと推測された。
【0115】
〔ポリイミド前駆体(ポリアミック酸エステル)の合成〕
サンプルA及びサンプルBを用いて上記方法で得られたPMDA(HEMA)とODPA(HEMA)の酸クロライド化物の溶液を用いて、以下の方法でポリアミック酸エステルを合成した。
【0116】
滴下漏斗を用いて、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル29.2g(91.0mmol)、ピリジン32.5g(410.1mmol)、及びハイドロキノン0.07g(0.6mmol)のN-メチル-2-ピロリドン83.0g溶液を、氷冷化で反応溶液の温度が10℃を超えないように注意しながら酸クロライド化後のサンプルA又はサンプルBの280.7gに滴下した。
反応液の粘度を以下の方法で測定した。反応後30分経過した溶液から、反応液を2mL採取しCPE-41のスピンドルを取り付けたBROOKFIELD製DV-II+Pro粘度計を用いて、測定温度25℃、回転数100回転/分(rpm)の条件で測定開始3分後の粘度を読み取った。
反応液を蒸留水に滴下し、沈殿物をろ別して集め、減圧乾燥することによってポリアミック酸エステルを得た。
【0117】
参照例として、サンプルA及びサンプルBについて、それぞれ酸クロライド化後に水を添加しなかった以外は上記と同様にして、ポリアミック酸エステルを合成した。
【0118】
塩化チオニル添加量、水添加前の酸クロライド化率(初期酸クロライド化率)、水添加量、水添加後の酸クロライド化率、及びジアミン添加後の反応液の粘度を表2に示す。表2において、塩化チオニル(SOCl2)量は、ピロメリット酸二無水物及び4,4’-オキシジフタル酸二無水物の合計1モルに対する塩化チオニルのモル数で示されている。水の添加量は、ピロメリット酸二無水物及び4,4’-オキシジフタル酸二無水物の合計1モルに対する水のモル数で示されている。反応液の粘度は、各サンプルを用いた参照例と実施例とでジアミン添加量が同一となる条件で比較した。ジアミン(2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル)量は、ピロメリット酸二無水物及び4,4’-オキシジフタル酸二無水物の合計とジアミンとのモル比が1:1となる場合のジアミンの量を100モル%としたときのモル%で表されている。
【0119】
【0120】
水の添加により酸クロライド化率を調整した実施例においても、ジアミンを徐々に添加したときの増粘挙動は、水を添加しなかった場合と大きく変化しなかった。増粘挙動はポリアミック酸エステルの分子量の増加挙動の指標となる。このことから、水の添加によってカルボン酸ジハロゲン化物のハロゲン化率を調整することによって、ジアミンと反応して得られるポリイミド前駆体の分子量が簡便に調節可能であると考えられる。