(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】透過電子顕微鏡観察用試料およびその作製方法、並びに、透過電子顕微鏡観察方法
(51)【国際特許分類】
G01N 1/28 20060101AFI20241112BHJP
【FI】
G01N1/28 F
(21)【出願番号】P 2021025420
(22)【出願日】2021-02-19
【審査請求日】2023-10-20
(31)【優先権主張番号】P 2020057007
(32)【優先日】2020-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 誠
【審査官】外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-132001(JP,A)
【文献】特開2019-164119(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を、透過電子顕微鏡の試料ホルダーに装填可能なシートメッシュの孔部へ挿入可能なサイズへトリミングする工程と、
前記トリミングされた試料を前記シートメッシュの孔部に挿入し、シートメッシュとトリミングされた試料との間へ充填剤を充填する工程と、
前記充填剤を硬化させて、前記試料が前記シートメッシュの孔部に固定された硬化試料を得る工程と、
前記硬化試料のシートメッシュの側面がイオンガンに相対するようにイオンミリング加工装置へ装填する工程と、
前記シートメッシュおよび前記シートメッシュに固定されている前記試料へ、アルゴン、ガリウム、キセノンから選択される1種以上のイオンビームを照射して、前記試料を透過電子顕微鏡による観察に適した厚みまでに薄片化する工程とを有する、ことを特徴とする透過電子顕微鏡観察用試料の作製方法。
【請求項2】
前記試料がシート状または鱗片状を有している、ことを特徴とする請求項1に記載の透過電子顕微鏡観察用試料の作製方法。
【請求項3】
前記シートメッシュの孔部が、1スロットまたは単孔であることを特徴とする請求項1または2に記載の透過電子顕微鏡観察用試料の作製方法。
【請求項4】
前記シートメッシュの厚さが10μm以上50μm以下である、ことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の透過電子顕微鏡観察用試料の作製方法。
【請求項5】
前記硬化試料が孔部に固定された、円盤状の前記シートメッシュへ、所定の方向からアルゴン、ガリウム、キセノンから選択される1種以上のイオンビームを照射した後、前記円盤状のシートメッシュを時計回り(または、反時計回り)に所望の角度をもって回転し、前記回転した硬化試料へアルゴン、ガリウム、キセノンから選択される1種以上のイオンビームを照射する、ことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の透過電子顕微鏡観察用試料の作製方法。
【請求項6】
前記イオンビームが、アルゴンイオンビームである、ことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の透過電子顕微鏡観察用試料の作製方法。
【請求項7】
前記充填剤が液体またはゲル状であり、前記シートメッシュとトリミングされた試料との間へ充填された後、常温硬化、加熱硬化、またはUV硬化のいずれかにより硬化する樹脂である、ことを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の透過電子顕微鏡観察用試料の作製方法。
【請求項8】
前記充填剤がエポキシ樹脂である、ことを特徴とする請求項7に記載の透過電子顕微鏡観察用試料の作製方法。
【請求項9】
円盤状のシートメッシュの孔部へ挿入可能なサイズにトリミングされた試料が前記孔部に固定されている、透過電子顕微鏡の試料ホルダーに装填可能な
前記円盤状のシートメッシュ
が、その側面をイオンミリング加工装置のイオンガンに相対するように、前記イオンミリング加工装置へ装填され、
前記円盤状のシートメッシュにおける両底面の中心を結ぶ線を回転軸として、前記円盤状のシートメッシュが回転することで、前記イオンガンから前記円盤状のシートメッシュおよび前記試料への、アルゴン、ガリウム、キセノンから選択される1種以上のイオンビーム照射を、二以上の複数方向から受けた透過電子顕微鏡による観察に適した厚みを有するシート状試料が
、前記円盤状のシートメッシュの孔部に固定されている、ことを特徴とする透過電子顕微鏡観察用試料。
【請求項10】
請求項9に記載の透過電子顕微鏡観察用試料を用いて、透過電子顕微鏡観察を行うことを特徴とする透過電子顕微鏡観察方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透過電子顕微鏡観察用試料およびその作製方法、並びに、透過電子顕微鏡観察方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エレクトロニクス産業の発達により、当該分野で使用される各種の材料について、その物性、変化の状態等について精密な情報が求められるようになった。こうした情報を得る手段として透過電子顕微鏡観(本発明において「TEM」と記載する場合がある。)による観察は有効な手段であると考えられている。
【0003】
ここで、シート状や鱗片状をはじめとする各種形状を有し、各種の材質からなる材料をTEMにより観察する際には、当該材料をTEM観察用の試料とすることが求められる。
当該TEM観察用試料の作製方法として、特許文献1等に提案されている方法について、
図14を参照しながら説明する。尚、
図14は、従来の技術に係るTEM観察用試料の作製方法を示す斜視図であって、(a)は、積層体の製造過程を示し、(b)は、積層体および切り出される切片の位置を示し、(c)は、試料チップを示す。
【0004】
まず、(a)に示すように、基板101の上に接着剤を塗布し、当該基板101の上に試料21を両側から挟むようにスペーサー104を配置して接着させる。尚、試料21は、金属箔23に被観察対象である金属酸化物を含む塗布体22が設けられたシート状のものである。
当該接着された試料21とスペーサー104の上に接着剤103を塗布して保護膜106を貼り付けて、(b)に示す積層体107となす。接着剤103の硬化後にカッタで前記積層体107の切片を所定の厚み(おおよそ100μm)に切り出し切片108を得る。当該切片108を研磨して(c)に示す試料チップ109を作製する。作製された試料チップ109をイオンミリング加工装置(本発明において「IM」と記載する場合がある。)を用いて薄片化して薄片部を得、TEM観察用試料を作製するという操作を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら本発明者の検討によると、上述した従来の技術には以下のような課題があった。
1.IMによる試料の加工が、当該試料の断面方向からの加工に限定される。この為、試料がシート状や鱗片状の場合には、当該試料内のごく狭い領域の部分にTEM観察用の薄片部を作製しなければならず、IMの加工が非常に困難なものとなる(IM加工を早く停止すると目的とする試料部分の薄片部の厚みが厚くてTEM観察に不向きなものとなる。一方、IM加工停止が遅い場合は、当該試料における被観察部分がIMによる加工によって消失してしまう。)。
2.接着剤硬化後の積層体を所定の厚み(おおよそ100μm)に切り出す際、割れ/欠けが発生し易い。
3.IM加工後の試料を、例えばC型の補強リングに貼付する際、当該試料における薄片部が破損し易い。
4.TEM観察においては、方位のあった試料が必要な場合がある。このような場合、薄片部に広い観察エリアが求められる為、試料チップを多数用意して対応しなければならいとう課題があった。
【0007】
本発明は上述の状況の下で為されたものであり、その解決しようとする課題は、試料がシート状または鱗片状であっても、TEMへ容易に装着出来、TEMによる観察/測定に適した厚みと視野面積とを有する薄片部を備える試料を簡便に作製出来る、TEM観察用試料の作製方法、TEM観察用試料、および、当該TEM観察用試料を用いたTEM観察方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の課題を解決する為、本発明者らは研究を行った。そして、試料をTEMへ装填させる為に用いるシートメッシュへ試料を固定した後、当該試料を固定したシートメッシュへIM加工を行う構成に想到し、上述の課題を解決した。
【0009】
即ち、上述の課題を解決する為の第1の発明は、
試料を、透過電子顕微鏡の試料ホルダーに装填可能なシートメッシュの孔部へ挿入可能なサイズへトリミングする工程と、
前記トリミングされた試料を前記シートメッシュの孔部に挿入し、シートメッシュとトリミングされた試料との間へ充填剤を充填する工程と、
前記充填剤を硬化させて、前記試料が前記シートメッシュの孔部に固定された硬化試料を得る工程と、
前記硬化試料のシートメッシュの側面がイオンガンに相対するようにイオンミリング加工装置へ装填する工程と、
前記シートメッシュおよび前記シートメッシュに固定されている前記試料へ、アルゴン、ガリウム、キセノンから選択される1種以上のイオンビームを照射して、前記試料を透過電子顕微鏡による観察に適した厚みまでに薄片化する工程とを有する、ことを特徴とする透過電子顕微鏡観察用試料の作製方法である。
第2の発明は、
前記試料がシート状または鱗片状を有している、ことを特徴とする第1の発明に記載の透過電子顕微鏡観察用試料の作製方法である。
第3の発明は、
前記シートメッシュの孔部が、1スロットまたは単孔であることを特徴とする第1または第2の発明に記載の透過電子顕微鏡観察用試料の作製方法である。
第4の発明は、
前記シートメッシュの厚さが10μm以上50μm以下である、ことを特徴とする第1から第3の発明のいずれかに記載の透過電子顕微鏡観察用試料の作製方法である。
第5の発明は、
前記硬化試料が孔部に固定された、円盤状の前記シートメッシュへ、所定の方向からアルゴン、ガリウム、キセノンから選択される1種以上のイオンビームを照射した後、前記円盤状のシートメッシュを時計回り(または、反時計回り)に所望の角度をもって回転し、前記回転した硬化試料へアルゴン、ガリウム、キセノンから選択される1種以上のイオンビームを照射する、ことを特徴とする第1から第4の発明のいずれかに記載の透過電子顕微鏡観察用試料の作製方法である。
第6の発明は、
前記イオンビームが、アルゴンイオンビームである、ことを特徴とする第1から第5の発明のいずれかに記載の透過電子顕微鏡観察用試料の作製方法である。
第7の発明は、
前記充填剤が液体またはゲル状であり、前記シートメッシュとトリミングされた試料との間へ充填された後、常温硬化、加熱硬化、またはUV硬化のいずれかにより硬化する樹脂である、ことを特徴とする第1から第6の発明のいずれかに記載の透過電子顕微鏡観察用試料の作製方法である。
第8の発明は、
前記充填剤がエポキシ樹脂である、ことを特徴とする第7の発明に記載の透過電子顕微鏡観察用試料の作製方法である。
第9の発明は、
透過電子顕微鏡の試料ホルダーに装填可能なシートメッシュに、前記シートメッシュと共に薄片化され、前記透過電子顕微鏡による観察に適した厚みを有するシート状試料が固定されている、ことを特徴とする透過電子顕微鏡観察用試料である。
第10の発明は、
第9の発明に記載の透過電子顕微鏡観察用試料を用いて、透過電子顕微鏡観察を行うことを特徴とする透過電子顕微鏡観察方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、透過電子顕微鏡へ容易に装着出来、透過電子顕微鏡による観察に適した厚みと視野面積とを有する薄片部を備える試料を、簡便に作製出来る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】1スロットの孔部を有するシートメッシュの斜視図である。
【
図3】トリミングされた被観察対象である試料例の斜視図である。
【
図4】シートメッシュのスロットにトリミングされた試料を挿入した際の断面図である。
【
図7】硬化試料へアルゴンイオンビームを照射している際の斜視図である。
【
図8】硬化試料へアルゴンイオンビームを照射している際の断面図である。
【
図9】アルゴンイオンビーム照射後における硬化試料の斜視図である。
【
図10】アルゴンイオンビーム照射後における硬化試料の断面図である。
【
図11】180°回転させた硬化試料へアルゴンイオンビームを照射している際の斜視図である。
【
図12】90°回転させた硬化試料へアルゴンイオンビームを照射している際の斜視図である。
【
図13】TEMの試料ホルダーに設置したアルゴンイオンビーム照射後の硬化試料の正面図である。
【
図14】従来の技術に係るTEM観察用試料の作製方法を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明を実施する為の形態について、1.被観察対象である試料、2.シートメッシュ、3.充填剤、4.硬化試料の作製および加工、5.IMによる加工、6.TEMへの装填および分析の順に、図面を参照しながら説明する。
【0013】
1.被観察対象である試料
本発明は、多様な材質からなる試料へ幅広く適用可能である。例えば、金属、合金、酸化物、炭化物、フッ化物、塩化物、硼化物、硫化物、窒化物、有機物、これらの2種類以上の複合物等の、多様な材質へ幅広く適用可能である。
また本発明は、様々な形状を有する試料に適用可能であるが、従来の技術ではTEM観察用試料の作製が面倒であったシート状や鱗片状の形状を有する試料に対しても、好ましく適用出来る。
【0014】
2.シートメッシュ
シートメッシュは、本来、被観察対象である試料を載せてTEM内に装填される小さな円形の金網である。材質や網目の形状について様々なものが市販されている。
シートメッシュのサイズとしては、外径3mmφのものが、後述するTEMの試料ホルダーに装填する観点から便宜である。また、シートメッシュの厚みは10μm以上50μm以下であることが、機械的強度および後述するIMによる加工のし易さの観点から便宜である。
【0015】
本発明では、孔部を有するシートメッシュを用いる。シートメッシュにおける孔部の数、孔部のサイズや形状は、試料のサイズや形状等に合わせて任意に選択出来る。尤も、後工程であるIM加工を容易に行う観点から、一般的には、単孔または1スロットを有する円盤状のシートメッシュを用いることが好ましい。
【0016】
孔部として、1個のスロット13を有する円盤状のシートメッシュ11の斜視図を、
図1に示す。
1スロットのシートメッシュの場合、スロット13のサイズは1mm×2mm程度であることが好ましい。単孔のシートメッシュの場合、中央部に設けられた孔の径が0.3~0.8mmφ、さらには1mmφであることが好ましい。これは、後述する試料のトリミングが容易となる場合が多く、後述するTEMによる観察の際の視野確保、等の観点から便宜であることによる。
【0017】
シートメッシュの材質に関しては銅がもっとも普通であるが、ニッケル、金、モリブデン、銅、等の金属の他、炭素、高分子材料、等の材質を有するものもある。シートメッシュの材質は、後述するTEMによる観察の際、試料から発生するX線のスペクトルと重複しないスペクトルを有するものを選択すること以外は、特に制限はない。
【0018】
3.充填剤
試料をシートメッシュの穴部に固定する為の充填剤としては、シートメッシュと試料との間への充填時における雰囲気下においては液体もしくはゲル状であり、充填後には硬化してシートメッシュの孔部に試料を固定出来る、常温硬化、加熱硬化型の樹脂や接着剤、UV照射により硬化するUV樹脂等が好ましく使用出来る。
これらの樹脂や接着剤の種類は特に限定されず、TEM観察において支障がない強度を有し、試料へ化学的な作用を及ぼさないものであれば良い。中でも、作業の容易性から加熱硬化型樹脂であるエポキシ樹脂が好ましい。
【0019】
4.硬化試料の作製
硬化試料の作製について、金属箔の上に金属酸化物を含む塗布体が設けられたシート状の試料において、当該金属箔上の塗布体(金属酸化物)を、被観察対象とする場合を例として説明する。尚、本発明の適用範囲が、当該構成を有するシート状の試料や、被観察対象に限定されないことは、勿論である。
【0020】
図2に示す被観察対象である試料21は、金属箔23(灰色で示す。)の上に金属酸化物を含む塗布体22(黒色で示す。)が設けられたシート状の試料である。試料21を、トリミングナイフ等によりシートメッシュの孔部に挿入できるサイズにトリミングし、
図3に示すトリミングされた試料24を作製する。トリミングされた試料24の試料形状は任意でよいが、スロット13の形状に近いことが好ましい。
【0021】
試料21を、シートメッシュ11の孔部に挿入する操作について、シートメッシュのスロットにトリミングされた試料を挿入した際の断面図である
図4を参照しながら説明する。
トリミングされた試料24をスロット13に挿入する際、シリコーン製シート33の上へ、まずシートメッシュ11を載置する。次に、トリミングされた試料24をスロット13内に設置する。このとき、試料24における塗布体22が、シートメッシュ11の孔部内から突出するのを回避する観点から、シートメッシュ11の下面とトリミングされた試料24における塗布体22の上面とが平面状に並べ、塗布体22の面がシリコーン製シート33に接する向きで設置して、面合わせすることが好ましい。
そして、スロット13の内壁と、トリミングされた試料24との隙間に充填剤を充填し、適宜な方法で充填剤を硬化させて硬化試料を得る。
尚、この際、吸着性のあるシリコーン製シート33を用い、シートメッシュ11とトリミングされた試料24における塗布体22との両方を、シリコーン製シート33に吸着させた上で、充填剤を充填し硬化させることが好ましい。
【0022】
図5は硬化試料31の斜視図であり、
図6はその断面図である。
円盤状のシートメッシュ11のスロット13内にはトリミングされた試料24が挿入され、スロット13の内壁とトリミングされた試料24との隙間には、充填剤32が充填され硬化している。
ここで上述したように、吸着性のあるシリコーン製シートを用い、シートメッシュ11とトリミングされた試料24における塗布体22との両方を、シリコーン製シートに吸着させた上で、充填剤を充填し硬化させたことにより、トリミングされた試料24が充填剤32中で浮き上がる事態を回避出来ると共に、
図6に示すようにシートメッシュ11の下面とトリミングされた試料24における塗布体22の上面とが平面状に並び、後工程であるIMによる加工の際に最適な状態が得られるからである。
【0023】
充填剤32が硬化したら、シリコーン製シート33と硬化試料31とを分離するが、一般的な充填剤32はシリコーン製シート33と接着しないので、シリコーン製シート33と硬化試料31とは容易に分離することが出来る。
【0024】
5.IMによる加工
IMを用いた硬化試料31の加工について
図7~10を参照しながら説明する。
尚、IMを用いた円盤状の硬化試料31の加工は、アルゴン、ガリウム、キセノンから選択される1種以上のイオンビームを用いて実施されるが、本発明明細書においては、便宜の為、アルゴンイオンビームを用いた場合を例として説明する。尚、以下の説明は、イオンビームとして、ガリウムやキセノンのイオンビームを使用した場合も同様である。
【0025】
まず、硬化試料のIMへの装填と、硬化試料へアルゴンイオンビームを照射している際の斜視図である
図7と、その断面図である
図8を参照しながら説明する。
円盤状の硬化試料31をIMに装填する際、硬化試料31におけるシートメッシュ11の側面がIMのイオンガンに相対するように、IMへ装填する。一方、IMに装備されている遮蔽板は使用しない。
【0026】
そして、
図7、8に示すように、イオンガンからアルゴンイオンビーム41を、硬化試料31およびシートメッシュ11へ照射する。すると、シートメッシュ11のイオンガン側の符号12で示す部分およびトリミングされた試料24がアルゴンイオンビーム41により切削され、薄片化される。このとき、シートメッシュ11の下面とトリミングされた試料24における塗布体22の上面とが平面状に並んで面合わせされているので、当該符号12で示す部分が遮蔽板の機能を代替する。この結果、塗布体22がアルゴンイオンビーム41にて照射開始時から大きく切削され、滅失してしまうことを回避出来るという観点より好ましい。
このとき、イオンガンを、シートメッシュ11の中心を中心とする円周上で適宜往復運動(首振り)させる、あるいは、シートメッシュ11を偏心回転運動させる。この運動により、
図8に示すように、試料24へアルゴンイオンビーム41が入射する際の入射角の変動範囲であるθの値の範囲内において変動させながら、試料24へアルゴンイオンビーム41を照射することが出来る。尚、アルゴンイオンビーム41が、試料24へ入射する際の変動範囲θの値は0°~20°、好ましくは0.5°~5°程度の範囲である。
【0027】
アルゴンイオンビームによる薄片化が完了した時点における硬化試料について、アルゴンイオンビーム照射後における硬化試料の斜視図である
図9と、その断面図である
図10を参照しながら説明する。
トリミングされた試料24の塗布体22は、シートメッシュ11のイオンガン側の部分による遮蔽板の機能を受けながらアルゴンイオンビームにより薄片化される結果、膜厚が0.005~0.1μmにまで薄片化され、中央部は穿孔25されて、TEM観察用試料として適した厚みとなる。さらに当該薄片化された塗布体22の部分は0.5×1mm程度の領域を有し、TEM観察用試料として十分な視野面積を提供できる。
【0028】
さらに、硬化試料31へ、ナイフによる切断等の機械的加工を加えることなく、IMによる加工を実施するので、作業が容易で生産性が高く、且つ、トリミングされた試料24に対して機械的ダメージを与える可能性を回避できた。
一方、トリミングされた試料24のイオンガン側の塗布体22は、アルゴンイオンビーム41の照射を受けて薄片化している為、非常に脆化する。しかし、当該部分はシートメッシュ11のスロット内に形成されるので、当該部分に殆ど機械的衝撃を与えることなく、硬化試料31を容易に取り扱うことが出来る。
【0029】
また、硬化試料31を薄片化加工している際に、シートメッシュ11のイオンガン側の符号12で示す部分がスパッタされてしまい、シートメッシュとしての強度はあるものの、遮蔽板としての機能は消失する場合がある。このような場合は、一方向からアルゴンイオンビーム41の照射を行うのみでなく、二以上の複数方向からアルゴンイオンビーム41の照射を行うことで、薄片化加工を継続すれば良い。
このような場合の対応を、例えば、180°回転させた硬化試料31へ、アルゴンイオンビームを照射している際の斜視図である
図11、90°回転させた硬化試料31へ、アルゴンイオンビームを照射している際の斜視図である
図12を参照しながら説明する。
IM内に設置され、アルゴンイオンビーム41の照射を受けた円盤状の硬化試料31を、
図11、
図12に示すように、時計回り(または、反時計回り)に、所望の角度をもって回転させ、再び、アルゴンイオンビーム41を照射する。
この結果、硬化試料31から見れば、当初のアルゴンイオンビームの照射の方向から、所望の角度(例えば180°は、薄片化の効率の観点から好ましく用いられる)をもって、異なった方向からのアルゴンイオンビーム41を、照射されることになる。
尚、本発明において時計回り(または、反時計回り)とは、円盤状の硬化試料31を円柱形と考えたとき、当該円柱形における両底面の中心を結ぶ線を回転軸として、右回転(または、左回転)させることである。
当該IM内に設置された硬化試料31を所望の角度をもって回転させることは、硬化試料31の外形が円盤状であることと、試料24がシートメッシュ11のスロット内にあることにより容易、且つ、所望回数実施することが出来る。
【0030】
6.TEMへの装填および分析
図13は、TEMの試料ホルダーに設置したアルゴンイオンビーム照射後の硬化試料の正面図である。
図13に示すように、IMによる加工が完了した硬化試料31をTEMの試料ホルダー61に装填する。
トリミングされた試料24の塗布体22はシートメッシュ11に周囲を囲まれているので、当該部分に殆ど機械的衝撃を与えることなく、硬化試料31は、このままの状態でTEMの試料ホルダー61に装填される。
尚、アルゴンイオンビームに薄片化されたシートメッシュ11のイオンガン側の部分から蒸発した金属元素が、トリミングされた試料24のイオンガン側の部分に付着していることも考えられる。そこで、シートメッシュ11の材質として、被観察対象である粉末試料が有するX線のスペクトルと重複しないスペクトルを有するものを選択しておくことで、この問題を回避することが出来る。
【0031】
上述したように、トリミングされた試料24における薄片化された塗布体22の膜厚はTEM観察用試料として適したものであり、且つ、十分な視野を提供できる領域を有している。従って、所望により十分な観察を精密に行うことが出来る。
【0032】
一方、上述の観察の結果、トリミングされた試料24において観察方位が合わない、薄膜の膜厚が厚すぎる等の理由によって、観察可能な場所がなかった場合や、追加工が必要となった場合は、硬化試料31をTEMから取り出してIMに設置する。そして、例えば
図11、
図12に示すように、前回のアルゴンイオンビーム41の照射の際から、時計回り(または、反時計回り)に所望の角度をもって回転させた位置から(例えば、前回の照射の際から90°回転あるいは180°回転)、アルゴンイオンビーム41の照射を行っても良い。そして、アルゴンイオンビーム41の照射後、再び、硬化試料31をTEMに設置して観察することを、容易、且つ、所望回数実施することが出来る。
【実施例】
【0033】
実施例を参照しながら本発明を具体的に説明する。但し、本発明は当該具体例に限定される訳ではない。
(実施例1)
1.被観察対象であるシート状の試料
試料(シート状の試料)として、金属箔(厚さ約10μm)上に、遷移金属の酸化物粉末と導電助剤等とが厚さ約10μmで塗布されて被観察対象である塗布体となっているものを準備した。
2.充填剤
充填剤として、Gatan,Inc.製:エポキシ樹脂(G2)を準備した。
3.シートメッシュ
シートメッシュとして応研商事(株)製(#09-1059)を準備した。これは、被観察対象である試料とEDSスペクトルが重複しないモリブデン(Mo)製のシートメッシュであって、1スロット(スロットサイズ:1mm×2mm)を有するシートメッシュである。
【0034】
4.硬化試料の作製
(1)シリコーン製シート((株)大創産業製、キッチンシリコーンC008)を準備し、当該シリコーン製シート上へ、シートメッシュを吸着させた。尚、シリコーン製シート上で作業するのは、作業中におけるシートメッシュおよび試料の固定が容易であり、作業完了時には、得られた硬化試料を容易に剥離可能であること、他による。
(2)試料(シート状の試料)を、シートメッシュのスロット孔に入るサイズ(縦0.9mm×横1.7mmの長八角形)へ、トリミングナイフを用いてトリミングした。尚、試料のトリミングは長八角形に限定されるものでないが、シートメッシュのスロット孔へ試料を挿入する観点からは、好ましい形状である。
(3)トリミングされた試料の長辺とシートメッシュのスロット孔とを合わせて、試料をシートメッシュのスロット孔へ挿入し、両者をシリコーン製シート上に吸着させて固定した。このとき、試料21の被観察面(塗布体側)がシリコーン製シート上に吸着される向きで、試料をシートメッシュのスロット孔へ設置した。
(4)トリミングされた試料とシートメッシュのスロット孔壁との隙間へ充填剤を充填し、125℃で15分間、ホットプレートで加熱して充填剤を硬化させた。
(5)充填剤が硬化したらシートメッシュをトリミングされたシリコーン製シートから剥離させて、硬化試料を得た。
【0035】
5.IMによる加工
得られた硬化試料をIM(日本電子(株)製、イオンスライサIB09060CIS)に設置した。このとき装置に付属の遮蔽板は使用せず、シートメッシュのイオンガンに対向している部分に遮蔽板の作用を代替させた。
そして、IMのイオンガンより硬化試料へアルゴンイオンビーム照射を行い、トリミングされた試料の塗布体および金属箔を薄片化した。
【0036】
6.TEMへの装填および分析
IMによる薄片化が完了した硬化試料をTEMの試料ホルダー61に装填し、TEM(日本電子(株)製、JEM-ARM200F)に設置した。
アルゴンイオンビームによる薄片化を受けたトリミングされた試料の上方側部分における塗布体の膜厚は、TEM観察用試料として適したものであり、且つ、十分な視野を提供できる領域を有していたので、被観察対象である試料(シート状の試料)について精密な観察を行うことが出来た。
【符号の説明】
【0037】
11.シートメッシュ
12.シートメッシュのイオンガン側の部分
13.スロット
21.試料
22.塗布体
23.金属箔
24.トリミングされた試料
25.穿孔
31.硬化試料
32.充填剤
33.シリコーン製シート
41.アルゴンイオンビーム
61.TEM試料ホルダー
101.基板
103.接着剤
104.スペーサー
106.保護膜
107.積層体
108.切片
109.試料チップ
θ.アルゴンイオンビームが試料へ入射する際の入射角の変動範囲の値