(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法
(51)【国際特許分類】
C22B 23/00 20060101AFI20241112BHJP
C22B 3/08 20060101ALI20241112BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
C22B23/00 102
C22B3/08
C22B3/44 101B
(21)【出願番号】P 2021039457
(22)【出願日】2021-03-11
【審査請求日】2023-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】中村 真一郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 勝輝
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-070918(JP,A)
【文献】特開2020-114936(JP,A)
【文献】特開2005-281733(JP,A)
【文献】特開2009-197298(JP,A)
【文献】特開2014-205901(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00 - 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料鉱石であるニッケル酸化鉱石を浸出することにより得られる浸出液からニッケル及びコバルトを含む硫化物を生成させるニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法であって、
前記ニッケル酸化鉱石から鉱石スラリーを調製する調製工程と、
前記鉱石スラリーを反応容器内に装入し、硫酸を添加して高温高圧下で浸出処理を施し、ニッケル及びコバルトを含む浸出液を得る浸出工程と、
前記浸出液に含まれる亜鉛を硫化して除去する脱亜鉛工程と、
前記脱亜鉛工程での処理を経て得られる反応終液に硫化剤を添加してニッケル及びコバルトの混合硫化物を得るニッケル回収工程と、を含み、
前記調製工程では、前記ニッケル酸化鉱石にニッケル及びコバルトの混合硫化物を添加配合し、前記鉱石スラリー中の炭素品位と硫黄品位との合計が0.28質量%以上0.63質量%以下となるように調製
し、
前記浸出工程では、酸化還元電位(銀/塩化銀電極基準)を350mV以上520mV以下に制御して浸出処理を施し、
前記浸出処理により得られ、前記脱亜鉛工程における処理に供される前記浸出液中の2価の鉄濃度が1.0g/L以上である、
ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法。
【請求項2】
原料鉱石である前記ニッケル酸化鉱石の炭素品位が0.05質量%以上0.20質量%以下である、
請求項
1に記載のニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法。
【請求項3】
前記浸出工程では、酸化剤として高圧空気を供給し、該高圧空気の供給量を、前記鉱石スラリーに含に含まれる炭素と硫黄の合計量1トン当たり100~1000[Nm
3-Air/t]とする、
請求項1
又は2に記載のニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法。
【請求項4】
前記ニッケル回収工程にて得られるニッケル及びコバルトの混合硫化物の一部を、前記調製工程において前記ニッケル酸化鉱石に添加する前記ニッケル及びコバルト混合硫化物として繰り返し用いる、
請求項1乃至
3のいずれかに記載のニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル酸化鉱石から高温高圧下で硫酸を用いてニッケルを浸出させる高圧酸浸出法を用いたニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法として、硫酸を用いた高圧酸浸出(HPAL:High Pressure Acid Leaching)法を用いた方法がある。この方法は、従来の一般的なニッケル酸化鉱石の製錬方法である乾式製錬法と異なり、還元及び乾燥工程を含まず、一貫した湿式工程からなるため、エネルギー的及びコスト的に有利である。また、ニッケル品位を50質量%程度まで上昇させたニッケル及びコバルトを含む硫化物(以下、「ニッケルコバルト混合硫化物」ともいう)を得ることができるという利点を有している。
【0003】
具体的に、高圧酸浸出法によるニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法は、下記工程を含む。
(a)ニッケル酸化鉱石のスラリーに硫酸を添加し、高温高圧下で浸出処理を施して、ニッケル及びコバルトと共に不純物元素を含む浸出液を得る浸出工程
(b)浸出液に中和剤を添加してpHを調整して中和スラリーを得る中和工程
(c)中和スラリーに対し、多段洗浄や中和剤添加によるpH調整を行いながら、ニッケル及びコバルトと不純物を含む中和終液と残渣とに固液分離する浄液工程
(d)ニッケル及びコバルトを含む中和終液に硫化水素ガスを添加することで、亜鉛硫化物を主とする脱亜鉛残渣を形成し、その脱亜鉛残渣とニッケル及びコバルトを含むニッケル回収用母液とを分離する脱亜鉛工程
(e)ニッケル及びコバルトを含むニッケル回収用母液に硫化水素ガスを添加することで、ニッケルコバルト混合硫化物を形成して分離回収するニッケル回収工程
【0004】
さて、上述したニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法において、脱亜鉛工程では、浸出工程での処理を経て得られる浸出液中(浸出液に対する中和処理後の中和終液中)の2価の鉄(Fe2+)濃度が低い場合、ニッケル回収用母液中の亜鉛濃度が上昇することが知られている。これは、亜鉛の硫化による固定化(下記反応式[1])が阻害されて、脱亜鉛残渣中の硫化亜鉛の酸化(下記反応式[2]及び[3])による亜鉛の再溶解の影響が相対的に大きくなるためと考えられる。
Zn2++FeS → ZnS+Fe2+ ・・・[1]
2Fe(OH)3+ZnS+6H+ = Zn2++2Fe2++S0+6H2O
・・・[2]
Fe(OH)3+ZnS+H2O = Zn2++Fe2++SO4
2-+5H++7e
・・・[3]
【0005】
脱亜鉛工程での反応終液中の亜鉛濃度が上昇すると、ニッケル回収工程で得られるニッケル及びコバルト混合硫化物(以下「MS」と省略して記すこともある)中の亜鉛品位が上昇し、品質不良の原因となる。このため、脱亜鉛工程を経て得られる反応終液中の亜鉛濃度を更に低下させるべく、硫化水素ガス等の硫化剤の添加量を増加させることや硫化反応を強化させることが必要となる。ところが、硫化水素ガス等の硫化剤の添加量の増加や硫化反応の強化は、薬剤コストの増加のみならず、硫化亜鉛残渣中へのニッケルの共沈が生じてニッケルロス量の増大を招き、経済的に操業を妨げる原因となる。
【0006】
このことから、脱亜鉛工程での反応終液中の亜鉛濃度上昇を抑制するために、脱亜鉛工程での処理に供する中和終液中のFe2+濃度管理が必要となる。
【0007】
中和終液中のFe2+濃度は、浸出工程での浸出処理の酸化還元雰囲気に大きく依存する。これは、ニッケル酸化鉱石の主要成分であるFe(主にFeOOH(ゲーサイト)として存在)が酸浸出により酸化分解されて一旦は溶液中に溶出(下記反応式[4])し、高温下での加水分解によりヘマタイトとして固定(下記反応式[5])されるが、ニッケル酸化鉱石に含まれる植物性由来の炭素が高温高圧下で還元剤として作用して酸化還元電位(ORP)を低下させるため、溶液中に溶け出したFe3+の硫酸塩は還元されてFe2+の硫酸塩を生成(下記反応式[6])するためである。
2FeOOH+3H2SO4 → Fe2(SO4)3+4H2O ・・・[4]
Fe2(SO4)3+3H2O → Fe2O3+3H2SO4 ・・・[5]
2Fe2(SO4)3+C+2H2O → 4FeSO4+CO2+2H2SO4
・・・[6]
【0008】
よって、中和終液のFe2+濃度の管理のためには、浸出液のORPの調整が必要であるが、鉱石中の炭素品位は鉱区の採掘場所の状態によって大きく変動する。そのため、低炭素品位のニッケル酸化鉱石を処理する際には、中和終液のFe2+濃度が低下してしまい、その結果、脱亜鉛工程を経て得られる反応終液(ニッケル回収用母液)中の亜鉛濃度が上昇して、亜鉛品位規格値を超えたMSが産出されるという問題があった。
【0009】
なお、例えば、特許文献1には、上工程である浸出工程での浸出処理において、鉱石中の炭素品位やオートクレーブの酸素濃度を制御することによって、得られる浸出液中のFe2+濃度を調整することが開示されている。しかしながら、低炭素品位の鉱石処理時のORP上昇を抑制方法については、開示も示唆もない。
【0010】
また、特許文献2では、脱亜鉛工程での亜鉛の再溶解に対して、前工程である中和工程において中和終液のpHを3.1~3.2になるように調整することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2014-205901号公報
【文献】特開2010-37626号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法において、脱亜鉛工程での処理における亜鉛の再溶解を防止して、亜鉛品位を低減した品質の高いニッケルコバルト混合硫化物を得る方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、浸出処理対象であるニッケル酸化鉱石にニッケルコバルト混合硫化物(MS)を配合し、炭素品位と硫黄品位とを特定の範囲として鉱石スラリーを調製することで、その鉱石スラリーに対する浸出処理を経て得られる浸出液中のFe2+濃度の低下を抑えることができることがわかった。そして、それにより、脱亜鉛工程での処理における亜鉛の再溶解を防止して、亜鉛品位が低減した高品質なニッケル硫化物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
(1)本発明の第1の発明は、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石を浸出することにより得られる浸出液からニッケルを含む硫化物を生成させるニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法であって、前記ニッケル酸化鉱石から鉱石スラリーを調製する調製工程と、前記鉱石スラリーを反応容器内に装入し、硫酸を添加して高温高圧下で浸出処理を施し、ニッケル及びコバルトを含む浸出液を得る浸出工程と、前記浸出液に含まれる亜鉛を硫化して除去する脱亜鉛工程と、前記脱亜鉛工程での処理を経て得られる反応終液に硫化剤を添加してニッケル及びコバルトの混合硫化物を得るニッケル回収工程と、を含み、前記調製工程では、前記ニッケル酸化鉱石にニッケル及びコバルトの混合硫化物を配合し、前記鉱石スラリー中の炭素品位と硫黄品位との合計が0.28質量%以上0.63質量%以下となるように調製する、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法である。
【0015】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記浸出処理により得られ、前記脱亜鉛工程における処理に供される前記浸出液中の2価の鉄濃度が1.0g/L以上である、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法である。
【0016】
(3)本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明において、原料鉱石である前記ニッケル酸化鉱石の炭素品位が0.05質量%以上0.20質量%以下である、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法である。
【0017】
(4)本発明の第4の発明は、第1乃至第3のいずれかの発明において、前記浸出工程では、酸化還元電位(銀/塩化銀電極基準)を350mV以上520mV以下に制御して浸出処理を施す、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法である。
【0018】
(5)本発明の第5の発明は、第1乃至第4のいずれかの発明において、前記浸出工程では、酸化剤として高圧空気を供給し、該高圧空気の供給量を、前記鉱石スラリーに含に含まれる炭素と硫黄の合計量1トン当たり100~1000[Nm3-Air/t]とする、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法である。
【0019】
(6)本発明の第6の発明は、第1乃至第5のいずれかの発明において、前記ニッケル回収工程にて得られるニッケル及びコバルトの混合硫化物の一部を、前記調製工程において前記ニッケル酸化鉱石に添加する前記ニッケル及びコバルト混合硫化物として繰り返し用いる、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、脱亜鉛工程での処理における亜鉛の再溶解を防止して、亜鉛品位を低減した品質の高いニッケルコバルト混合硫化物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法の流れの一例を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。なお、本明細書において、「X~Y」(X、Yは任意の数値)との表記は、「X以上Y以下」の意味である。
【0023】
≪1.ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法の概要≫
本実施の形態に係るニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法(以下、単に「湿式製錬方法」ともいう)は、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石に対して浸出処理を施すことで得られる浸出液から、ニッケル及びコバルト混合硫化物(MS)を生成させる製錬方法である。
【0024】
具体的に、この湿式製錬方法は、ニッケル酸化鉱石から鉱石スラリーを調製する調製工程と、鉱石スラリーに硫酸を添加し高温高圧下で浸出処理を施してニッケル及びコバルトを含む浸出液を得る浸出工程と、浸出液に含まれる亜鉛を硫化して除去する脱亜鉛工程と、脱亜鉛工程での処理を経て得られる反応終液(ニッケル回収用母液)に硫化剤を添加してニッケル及びコバルトの混合硫化物を得るニッケル回収工程と、を含む。また、浸出液に対して中和処理を施して不純物を除去する中和工程を設けることができる。
【0025】
ここで、浸出工程での処理を経て得られる浸出液中(浸出液に対する中和処理後の中和終液中)において2価の鉄(Fe2+)濃度が低い場合、脱亜鉛工程を経て得られる反応終液中の亜鉛濃度が上昇することが知られている。これは、亜鉛の硫化による固定化が阻害され、脱亜鉛残渣中の亜鉛の再溶解の影響による。そして、ニッケル回収用母液であるその反応終液中の亜鉛濃度が上昇すると、生成するニッケル及びコバルト混合硫化物中の亜鉛品位が上昇し、品質不良の原因となる。
【0026】
そのため、脱亜鉛工程を経て得られるニッケル回収用母液中の亜鉛濃度上昇を抑制するためには、脱亜鉛処理に供される浸出液におけるFe2+濃度の管理が必要となる。そして、上述したように、浸出液中のFe2+濃度は、浸出工程における浸出処理の酸化還元雰囲気に大きく依存することから、Fe2+濃度の管理のためには浸出液の酸化還元電位(ORP)の調整が必要となる。
【0027】
本発明者らにより鋭意検討の結果、下記表1の試験結果に示されるように、浸出処理においては、処理対象の鉱石スラリーの組成や炭素品位、硫黄品位等によって、浸出液の酸化還元電位(銀/塩化銀電極基準)が大きく変化することが分かった。浸出液の酸化還元電位が上昇すると、オートクレーブ等の加圧反応容器や撹拌機等に使用する耐食材の耐食能の劣化はなく、鉄のヘマタイトへの固定化も促進されるが、ORPがおよそ530mV以上となると、浸出液のFe2+濃度が1.0g/L未満にまで低下し、脱亜鉛工程での処理で亜鉛の再溶解が発生する。
【0028】
なお、表1に結果を示す試験は、ニッケル酸化鉱石350gに下記表1に示す炭素品位、硫黄品位となるようにニッケル及びコバルト混合硫化物(MS:Mix Sulfide)を添加して調製した鉱石スラリーをオートクレーブに装入し、硫酸を鉱石100gに対して250gの割合で添加して行った。また、オートクレーブの運転温度は250℃、滞留時間は200分、オートクレーブの運転圧力は4.0MPaとして設定した。
【0029】
表1中の「亜鉛除去率」とは、脱亜鉛工程での処理において脱亜鉛残渣と反応終液(ニッケル回収用母液)とに分離した後のその反応終液中の亜鉛濃度を「A」とし、ニッケル回収工程での始液中の亜鉛濃度を「B」としたときに、『(1-B)÷A』の百分率で表されるものである。例えば、亜鉛除去率が負の値となった場合は、亜鉛硫化物が再溶解していることを示す。
【0030】
【0031】
そこで、本実施の形態に係る湿式製錬方法では、鉱石スラリーを調製する調製工程において、ニッケル酸化鉱石にニッケル及びコバルト混合硫化物(MS)を添加配合する。これにより、固形分の炭素品位及び硫黄品位が特定の範囲となる鉱石スラリーを調製することを特徴としている。
【0032】
より具体的には、鉱石スラリー中の炭素品位と硫黄品位との合計が0.28質量%以上0.63質量%以下となるようにする。また、好ましくは、その合計品位が0.30質量%以上0.50質量%以下となるようにする。
【0033】
鉱石スラリー中の炭素品位は、原料のニッケル酸化鉱石に含まれる炭素成分により調整することができる。また、炭素品位については、必要に応じて、例えば炭素質還元剤等の炭素成分を添加して調整してもよい。また、鉱石スラリー中の硫黄品位は、ニッケル及びコバルト混合硫化物に温まれる硫黄成分により調整することができる。
【0034】
鉱石スラリーの組成調整、特に硫黄品位の調整において添加するニッケル及びコバルト混合硫化物は、当該ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにおいてニッケル回収工程を経て回収される硫化物を用いることができる。ニッケル及びコバルト混合硫化物は、硫化物であることから硫黄品位の調整に好適であり、またニッケル及びコバルトを含む化合物であるため、プロセス内に入っても不純物成分とはならず、ニッケル及びコバルトの回収率を高めることもできる。
【0035】
また、湿式製錬プロセスのニッケル回収工程を経て回収されるニッケル及びコバルト混合硫化物の一部を繰り返して用いるようにすることで、鉱石スラリーの硫黄品位を適切に調整できるだけでなく、経済的に効率性の高い操業を実現できる。なお、再利用するニッケル及びコバルト混合硫化物は、湿式製錬プロセスを経て得られたものであれば有効に用いることができ、例えば所定の規格を満たさないいわゆる規格外品であってもよく、さらには硫化反応槽の壁面等に付着した硫化物からなるスケールであってもよい。
【0036】
このように、原料のニッケル酸化鉱石に、ニッケル及びコバルト混合硫化物(MS)を配合して炭素品位及び硫黄品位の合計が0.28質量%以上0.63質量%以下となる鉱石スラリーし、その鉱石スラリーに対して浸出処理を施すことで、浸出液のORP(銀/塩化銀電極基準)を350mV以上520mV以下の範囲に制御することができる。
【0037】
浸出液のORPを350mV以上520mV以下の範囲に制御して浸出処理を施すことによって、得られる浸出液中のFe2+濃度を1.0g/L以上として適切に管理することができる。これにより、その浸出液を用いた脱亜鉛処理を経て得られる反応終液において亜鉛硫化物が再溶解することを抑制することができ、亜鉛品位が低減した高品質なニッケル及びコバルト混合硫化物を得ることができる。
【0038】
なお、浸出液のORPは、380mV以上であることが好ましく、400mV以上であることがより好ましい。特に、ORPが400mV以上であることで、浸出処理で使用するオートクレーブの耐食材の劣化を防ぐことができ、また、鉄のヘマタイトとしての固定化を促進させて、不純物品位の高まりを抑制できる。
【0039】
そして特に、この湿式製錬方法は、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石中の炭素品位が低い場合に好適となる。すなわち、ニッケル酸化鉱石中の炭素品位は、例えば鉱区の採掘場所の状態等によって大きく変動することから、例えば低炭素品位のニッケル酸化鉱石を処理するような場合には、浸出液のFe2+濃度が低下しやすくなる。この点、本実施の形態に係る湿式製錬方法によれば、低炭素品位のニッケル酸化鉱石を原料鉱石とする場合であっても、炭素品位及び硫黄品位の合計が特定の範囲の鉱石スラリーを用いるように調製しているため、浸出処理における酸化還元雰囲気を適切に制御でき、亜鉛品位が低減した高品質なニッケル硫化物を良好に得ることができる。
【0040】
≪2.湿式製錬方法の各工程について≫
以下では、より具体的に、本実施の形態に係る湿式製錬方法の各工程について詳細に説明する。
図1は、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法の流れの一例を示す工程図である。
【0041】
図1に示すように、本実施形態に係るニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法は、鉱石スラリーを調製する調製工程S1と、鉱石スラリーに硫酸を添加して浸出処理を施す浸出工程S2と、浸出液に対して中和処理を施して不純物を除去する中和工程S3と、中和スラリーから中和終液と残渣とに固液分離する浄液工程(固液分離工程)S4と、中和終液に含まれる亜鉛を硫化して除去する脱亜鉛工程S5と、脱亜鉛後に得られるニッケル回収用母液(脱亜鉛終液)に含まれるニッケル及びコバルトを硫化してニッケル及びコバルト混合硫化物(MS)を得るニッケル回収工程S6と、を含む。
【0042】
(1)鉱石スラリーの調製工程
[調製工程での処理の概要について]
調製工程S1は、浸出処理を施す浸出工程S2の前処理工程であって、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石をスラリー化して、浸出処理に供する鉱石スラリーを調製する工程である。具体的に、調製工程S1では、ニッケル酸化鉱石を粉砕して所定の大きさにし、所定の分級点で分級してオーバーサイズの鉱石粒子を除去した後に、アンダーサイズの鉱石のみを使用して、それらと水とを混合することでスラリー化して鉱石スラリーを得る。
【0043】
原料粉末であるニッケル酸化鉱石は、主としてリモナイト鉱及びサプロライト鉱等のいわゆるラテライト鉱である。ラテライト鉱のニッケル含有量は、通常、0.8重量%~2.5重量%であり、水酸化物又はケイ苦土(ケイ酸マグネシウム)鉱物として含有される。また、鉄の含有量は、10重量%~50重量%であり、主として3価の水酸化物(ゲーサイト)の形態であるが、一部の2価の鉄がケイ苦土鉱物に含有される。
【0044】
特に、本実施の形態に係る湿式製錬方法では、詳しくは後述するが、炭素品位が0.05質量%以上0.20質量%以下のような有機成分を少量しか含まない、いわゆる低炭素品位のニッケル酸化鉱石を原料として用いることができる。なお、ニッケル酸化鉱石に含まれる炭素品位は、例えば、公知の炭素硫黄分析装置を用いて、酸素気流中で高周波燃焼させる赤外線吸収法に基づいて測定することができる。
【0045】
なお、ニッケル酸化鉱石としては、1種類のものを用いてもよく、あるいは産地等によりニッケル品位の異なる複数種を混合して用いてもよい。複数種のニッケル酸化鉱石を用いる場合には、所定のニッケル品位、不純物品位となるように混合する。
【0046】
調製工程S1で調製する鉱石スラリーのスラリー濃度(固形分濃度)としては、特に限定されないが、概ね25質量%~45質量%程度に調製する。スラリー濃度が25質量%未満であると、次工程の浸出工程S2での浸出処理の際に、同じ滞留時間を得るために大きな設備が必要となり、酸の添加量も増加する。また、浸出液のニッケル濃度も低くなる可能性がある。また、スラリー濃度が45質量%を超えると、設備の規模は小さくできるものの、スラリー自体の粘性(降伏応力)が高くなり、搬送が困難(管内閉塞の頻発、エネルギーを要する等)という問題が生じる。
【0047】
[ニッケル及びコバルト混合硫化物の添加配合について]
ここで、本実施の形態に係る湿式製錬方法では、調製工程S1において、ニッケル酸化鉱石に、ニッケル及びコバルト混合硫化物を添加して混合し、得られる鉱石スラリー中の固形分の炭素品位及び硫黄品位が特定の範囲となるようにして鉱石スラリーを調製する。具体的には、固形分の炭素品位と硫黄品位の合計が0.28質量%以上0.63質量%以下の範囲となるように鉱石スラリーを調製することを特徴とする。
【0048】
このような調製処理を行うことで、次工程の浸出工程S2での浸出処理における酸化還元電位の上昇を抑えて処理雰囲気を適切に制御でき、その浸出処理から得られる浸出液中のFe2+濃度の低下を抑えることができる。そしてこれにより、脱亜鉛工程S5での処理における亜鉛の再溶解を抑制して、亜鉛品位が低減した高品質なニッケル及びコバルト混合硫化物を得ることができる。
【0049】
また、ニッケル酸化鉱石中の炭素品位は採掘場所の状態等によって大きく変動し、例えば低炭素品位のニッケル酸化鉱石を処理するような場合には、浸出液中のFe2+濃度が低下しやすくなる。この点、調製工程S1における調製処理を行うことで、低炭素品位(例えば炭素品位が0.05質量%以上0.20質量%以下)のニッケル酸化鉱石を原料鉱石とする場合であっても、浸出処理における酸化還元電位の上昇を抑え、得られる浸出液中のFe2+濃度の低下を抑えることができる。
【0050】
配合するニッケル及びコバルト混合硫化物については、特に限定されないが、当該ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスをへて得られる混合硫化物(ニッケル回収工程から回収される混合硫化物)の一部を繰り返して用いることができる。このように、湿式製錬プロセスを経て回収されたニッケル及びコバルト混合硫化物の一部を再利用することで、経済的にも効率的な操業を行うことができる。また、再利用する混合硫化物は、例えば所定の規格を満たさないいわゆる規格外品であってもよく、さらには硫化反応槽の壁面等に付着した硫化物からなるスケールであってもよい。
【0051】
また、ニッケル及びコバルト混合硫化物を配合するとともに、炭素品位の調整のために、炭素質還元剤を別に添加するようにしてもよい。炭素質還元剤としては、例えば、石炭、コークス、木炭、有機物(木屑、藁屑など)、アルコール、油脂等が挙げられ、入手及び取り扱いの容易性で石炭が特に好ましい。
【0052】
調製する鉱石スラリー中の炭素品位及び硫黄品位に関して、炭素品位と硫黄品位の合計が0.28質量%以上0.63質量%以下の範囲となるようにすることで、浸出処理に際して、酸化還元電位(ORP:銀/塩化銀電極基準)を適切な範囲に制御できる。炭素品位が0.28質量%を下回ると、浸出処理時におけるORPが上昇し、得られる浸出液中のFe2+濃度が低下し、後の脱亜鉛工程S5での処理における亜鉛の再溶解が発生する。なお、炭素品位と硫黄品位の合計が0.63質量%を超えると、ORPの低下によって、浸出処理に使用するオートクレーブのTiライニング等の酸化被膜(耐食材)の劣化が生じることがあり、設備へのダメージが発生する可能性がある。また、浸出処理における鉄のヘマタイトとしての固定化が進まず、不純物品位が増加する可能性がある。
【0053】
また、炭素品位と硫黄品位に関しては、その合計が、0.30質量%以上0.50質量%以下の範囲となるように、ニッケル及びコバルト混合硫化物を配合することがより好ましい。
【0054】
ニッケル及びコバルト混合硫化物の配合量としては、予め鉱石スラリー中の固形分の炭素品位及び硫黄品位を分析し、その分析値に応じて適宜決定することが好ましい。例えば、調製される鉱石スラリー中の炭素品位と硫黄品位(調製前の鉱石であるため主には炭素品位となる)の合計が0.15質量%である場合は、オートクレーブに供給する鉱石スラリー重量(dry-t)に、炭素品位及び硫黄品位の管理値である0.28質量%と分析値である0.15質量%との差分を掛け合わすことで、添加配合するニッケル及びコバルト混合硫化物の適切な配合量を計算することができる。
【0055】
[調製工程における篩分けについて]
調製工程S1では、上述したように浸出処理に供する鉱石スラリーを調製するが、浸出処理における処理効率を高める観点から、鉱石スラリーを構成するニッケル酸化鉱石としては所定の粒径以下のものであることが好ましい。そのため、調製工程S1では、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石に対して粉砕処理を施し、分級装置(篩機)により所定の分級点でのアンダーサイズの鉱石粒子のみを分級して用いる。「アンダーサイズ」とは、分級装置の篩目開きよりも小さな寸法を有し、その篩目を通過した篩下物である鉱石粒子を意味する。なお、「オーバーサイズ」とは、分級装置の篩目開きよりも大きな寸法を有し、篩目を通過せずに篩上に残った篩上物である鉱石粒子を意味する。
【0056】
分級処理においては、先ず、粉砕処理が施されたニッケル酸化鉱石が第1篩機に装入され、例えば篩目開き150mmで篩分け処理されて、粒子サイズが150mm以下のアンダーサイズの鉱石粒子が回収される。次に、回収されたアンダーサイズの鉱石粒子は、ドラムウォッシャー等に装入され、ドラム内にて供給される水と混合されて湿式法による粉砕処理が施される。
【0057】
具体的に、ドラムウォッシャーは、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石と水とを混合し、その鉱石粒子に対して粉砕処理を施す湿式粉砕装置である。ドラムウォッシャーでは、処理対象投入口からニッケル酸化鉱石(篩機を通過したアンダーサイズの鉱石粒子)が投入されるとともに、水供給口から所定量の水が供給される。ドラムウォッシャーでは、そのドラム内において、ニッケル酸化鉱石と供給水とがドラムの回転に伴って混合撹拌され、それによりニッケル酸化鉱石が粉砕される。また、この混合撹拌により、複数の鉱石粒子が凝集・固結して形成された塊(凝集塊)に対する解砕も同時になされる。なお、粉砕の程度(度合い)は、ドラムの回転速度によって調節できる。
【0058】
このようにしてドラムウォッシャーにより粉砕されたニッケル酸化鉱石は、次に、第2篩機に装入され、例えば篩目開き25mmで篩分け処理されて、粒子サイズが25mm以下のアンダーサイズの鉱石粒子が回収される。
【0059】
次に、第2篩機から回収されたアンダーサイズの鉱石粒子は、続いて第3篩機に装入され、例えば篩目開き1.4mmで篩分け処理されて、粒子サイズが1.4mm以下のアンダーサイズの鉱石粒子が回収される。このようにして回収されたアンダーサイズ(1.4mm以下)の鉱石粒子が、鉱石スラリーを構成する鉱石として用いられる。つまり、そのアンダーサイズの鉱石粒子と例えば工業用水とが混合されてスラリー化し、鉱石スラリーとなり、次工程の浸出工程S2での処理に使用されるオートクレーブに装入される。
【0060】
なお、第3篩機の目開き、すなわち調製する鉱石スラリーを構成する鉱石粒子を篩分けて回収する篩機の目開きに関しては、上述の説明では1.4mmを例示したがこれに限定されない。第3篩機の目開きとしては、0.5mm~2.0mm程度であることが好ましく、0.8mm~1.6mmであることがより好ましく、1.4mm程度であることが特に好ましい。篩目開きを0.5mm未満とした場合、ドラムウォッシャー等での粉砕に時間やコストが掛かってしまう。また、篩目開きが2.0mmを超える場合、浸出工程S2での処理に使用するオートクレーブ内での反応速度が遅くなり、好ましくない。なお、篩機としては振動篩を用いることが特に好ましく、有効である。
【0061】
[ニッケル及びコバルト混合硫化物の添加タイミングについて]
調製工程S1では、上述したように原料鉱石であるニッケル酸化鉱石に、ニッケル及びコバルト混合硫化物(以下、単に「混合硫化物」ともいう)を添加して配合し、調製される鉱石スラリー中の固形分の炭素品位と硫黄品位の合計が0.28質量%以上0.63質量%以下の範囲となるようにする。このとき、ニッケル及びコバルト混合硫化物については、特に限定されないが、例えば、上述した篩分け処理に用いる第1篩機に、ニッケル酸化鉱石と共に直接投入することができる。そして、第1篩機から得られる篩下物(アンダーサイズ)、つまりニッケル及びコバルト混合硫化物を含む篩下物を、続いてドラムウォッシャーに投入し、そのドラムウォッシャー内においてニッケル酸化鉱石の粒子と混合硫化物とを接触させることで、その混合硫化物を細かく粉砕するようにする。
【0062】
このように、ニッケル及びコバルト混合硫化物をニッケル酸化鉱石に添加して配合させるに際し、例えば篩分け処理において使用する第1篩機に投入し、その後、ニッケル酸化鉱石との接触による粉砕処理が施されるようにすることで、粒子径をほぼ均一に揃えることができる。これにより、浸出工程S2における処理での還元反応速度を効果的に高めることができる。また、添加するニッケル及びコバルト混合硫化物に対して別途の粉砕処理を施す必要性を無くすことができ、効率的な処理を行うことが可能となる。
【0063】
ドラムウォッシャーから得られるニッケル酸化鉱石と混合硫化物との混合粉については、続いて第2篩機と第3篩機とに順次投入していき、篩目開き以下のアンダーサイズの鉱石粒子(篩下物)を回収し、鉱石スラリーを調製する。このように、鉱石スラリーの調製に際し、ニッケル酸化鉱石と混合硫化物との混合粉であって、粒子径がほぼ均一に揃えられ、また均一に混合された混合物を、鉱石スラリーの原料として用いることができる。
【0064】
(2)浸出工程
浸出工程S2は、オートクレーブ等の反応容器を使用し、調製した鉱石スラリーに硫酸を添加して高温高圧下で浸出処理を施し、ニッケルを含む浸出液と、ヘマタイト(Fe2O3)を含む浸出残渣とからなる浸出スラリーを得る工程である。
【0065】
具体的に、浸出工程S2における浸出処理では、下記式(i)~(iii)で表される浸出反応と下記式(iv)、(v)で表される高温加水分解反応によって、ニッケル、コバルト等の硫酸塩としての浸出と、浸出された硫酸鉄のヘマタイトとしての固定化が行われる。
【0066】
「浸出反応」
MO+H2SO4⇒MSO4+H2O ・・・(i)
(なお、式中Mは、Ni、Co、Fe、Zn、Cu、Mg、Cr、Mn等を表す。)
2FeOOH+3H2SO4⇒Fe2(SO4)3+4H2O ・・・(ii)
FeO+H2SO4⇒FeSO4+H2O ・・・(iii)
「高温加水分解反応」
2FeSO4+H2SO4+1/2O2⇒Fe2(SO4)3+H2O ・・・(iv)
Fe2(SO4)3+3H2O⇒Fe2O3+3H2SO4 ・・・(v)
【0067】
ここで、浸出工程S2における浸出処理では、酸化剤としては高圧空気を供給することにより、浸出処理における酸化還元電位(ORP:銀/塩化銀電極基準)を所定の範囲に制御する。具体的には、鉱石スラリーに対して高圧空気を供給することで、ORPを350mV~520mVの範囲に制御して浸出処理を施すことを特徴とする。また、特に、酸化剤として高圧空気のみを供給し、その他の酸化剤を供給しない態様とすることで、より適切にORPを制御することができる。
【0068】
ORPが350mV未満であると、設備の金属ライニングの酸化被膜が減少して設備へのダメージが発生することがある。また、鉄の高温加水分解反応が抑制されて浸出液中に多量の鉄が残留し、次工程の中和工程S3での薬剤の使用量や、ニッケル及びコバルトの共沈量が上昇してニッケル及びコバルトの浸出率の低下を招く。また、ORPが520mVを超えると、後工程の脱亜鉛工程S5において、中和工程S3を経て得られる中和終液中のFe2+濃度が低下し、分離後のニッケル及びコバルトを含むニッケル回収用母液中の亜鉛濃度が上昇する。
【0069】
上述したように、本実施の形態に係る湿式製錬方法では、鉱石スラリーを調製する調製工程S1において、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石にニッケル及びコバルト混合硫化物を配合して、鉱石スラリー中の固形分の炭素品位と硫黄品位の合計が0.28質量%以上0.63質量%以下となるように調製している。このように、浸出処理対象である鉱石スラリーの炭素品位及び硫黄品位を管理していることにより、酸化剤として高圧空気のみの供給で浸出液のORPを上記の範囲に適切に制御することが可能となる。
【0070】
また、鉱石スラリーの炭素品位及び硫黄品位の管理を行って、浸出液のORPを上記の範囲内に制御していくことで、脱亜鉛工程S5での処理に供される浸出液中(中和処理後の中和終液中)のFe2+濃度の低下を効果的に抑制できる。その脱亜鉛工程S5を経て得られるニッケル回収用母液に含まれる亜鉛濃度の上昇を防ぐことができる。
【0071】
具体的には、鉱石スラリーの炭素品位の管理とともに、酸化還元電位の上記の範囲内の制御を行うことで、脱亜鉛工程S5での処理に供される浸出液中(中和処理後の中和終液中)のFe2+濃度を1.0g/L以上、好ましくは1.1g/L以上に制御できる。なお、浸出液中のFe2+濃度の上限値としては、特に限定されないが、20g/L以下であることが好ましく、10g/L以下であることがより好ましく、3.5g/L以下であることが特に好ましい。
【0072】
酸化剤としての高圧空気の供給量としては、特に限定されないが、鉱石スラリーに含まれる炭素と硫黄の合計量1トン当たり100~1000[Nm3-Air/t]とすることが好ましい。なお、高圧空気の供給量が、当該範囲から外れると、浸出処理におけるORPを上述した所望の範囲に制御することが難しくなることがある。浸出処理では、浸出液のORPをモニタリングしながら、そのORPが350mV以上520mV以下の範囲に制御されるように、高圧空気の供給量を適宜調整することが好ましい。
【0073】
浸出処理における温度条件としては、特に限定されないが、220℃~280℃程度とすることが好ましく、240℃~270℃程度とすることがより好ましい。このような温度範囲で反応を行うことで、より効率的に鉄をヘマタイトとして固定化できる。温度が220℃未満であると、高温加水分解反応の速度が遅くなって浸出液中に鉄が溶存して残り、鉄を除去するために次の中和工程S3での処理負荷が増加し、ニッケルとの分離が困難となる。また、温度が280℃を超えると、高温加水分解反応自体は促進されるものの、高温高圧浸出に用いる容器(オートクレーブ等)の材質の選定が困難になるだけでなく、温度上昇にかかる高圧水蒸気のコストが上昇する。
【0074】
浸出処理における温度の制御は、例えば、反応容器内に高圧水蒸気を供給して行うことができる。また、反応容器内の圧力条件としては、例えば、3MPaG~6MPaG程度に加圧条件下とすることが好ましい。反応容器内の圧力は、高圧空気と共に、上述した高圧水蒸気の供給により制御できる。なお、このような温度、圧力の条件で行う浸出処理においては、反応容器としてオートクレーブ等の加圧反応容器が好適に用いられる。
【0075】
浸出処理に用いる硫酸の添加量としては、特に限定されないが、例えば、乾燥鉱石1トン当たり200~250[kg-H2SO4/t-dry(Solid)]程度とすることが好ましい。乾燥鉱石1トン当たりの硫酸添加量が多すぎると、硫酸の使用に伴うコストが上昇し、また後工程の中和工程S3での中和剤使用量が多くなる可能性がある。
【0076】
また、得られる浸出液のpHは、生成したヘマタイトを含む浸出残渣を分離するための濾過性の観点から、0.1~1.0の範囲とすることが好ましい。
【0077】
(3)中和工程
中和工程S3は、浸出工程S2を経て得られた浸出液に中和処理を行う工程である。具体的には、浸出液に中和剤を添加してpHを調整し、不純物元素を含む中和澱物と中和終液とからなる中和スラリーを得る。このような中和処理により、ニッケル、コバルト等の金属は中和終液に含まれるようになり、アルミニウムをはじめとした不純物の大部分が中和澱物となる。
【0078】
中和処理に用いる中和剤としては、公知のもの使用することができる。例えば、石灰石、消石灰、水酸化ナトリウム等が挙げられる。また、中和処理においては、分離された浸出液の酸化を抑制しながら、pHを1~4の範囲に調整することが好ましく、pHを1.5~2.5の範囲に調整することがより好ましい。pHが1未満であると、中和が不十分となり、中和終液と中和澱物とを効果的に分離できない可能性がある。また、pHが4を超えると、アルミニウムをはじめとした不純物のみならず、ニッケル等の有価金属も共沈して中和澱物に含まれてしまう可能性がある。
【0079】
(4)浄液工程(固液分離工程)
浄液工程S4は、中和工程S3を経て得られた中和スラリーを洗浄するとともに、中和終液と中和澱物とに固液分離する工程である。
【0080】
浄液工程S4では、中和スラリーを洗浄液と混合した後、シックナー等の固液分離装置を用いて固液分離処理を施す。具体的には、先ず、中和スラリーが洗浄液により希釈され、次に、中和スラリー中の中和澱物がシックナーの沈降物として濃縮される。これにより、中和澱物に付着するニッケル分をその希釈の度合いに応じて減少させることができる。
【0081】
なお、浄液工程S4における浄液処理では、上述した機能を有するシックナーを多段に連結して用い多段洗浄することが好ましい。また、洗浄液としては、湿式製錬プロセスにおけるニッケル回収工程S6から得られる硫化終液(貧液)を循環させて用いてもよい。
【0082】
(5)脱亜鉛工程
脱亜鉛工程S5は、上述した浸出工程S2での浸出処理を経て得られた浸出液に硫化剤を添加し、その浸出液に含まれる亜鉛を硫化物として分離除去する工程である。なお、処理対象の浸出液とは、中和工程3での中和処理を経て得られた中和終液の意味も含む。
【0083】
浸出液(中和工程S3を経て得られた中和終液)には、湿式製錬方法における回収対象であるニッケルやコバルトが含まれるとともに、不純物成分としての亜鉛が含まれている。脱亜鉛工程S5では、浸出液からニッケルを回収するに先立ち、所定の条件で硫化反応を生じさせることで亜鉛の硫化物を生成させ、それを分離除去することによって、ニッケルを含むニッケル回収用母液を得る。
【0084】
具体的に、脱亜鉛工程S5では、例えば、加圧された反応容器(硫化反応槽)内に浸出液を供給し、その浸出液に、硫化水素ガス、硫化ナトリウム、水素化硫化ナトリウム等の硫化剤を添加することで、亜鉛をニッケルに対して選択的に硫化し、亜鉛硫化物と脱亜鉛終液(ニッケル回収用母液)とからなる脱亜鉛スラリーを生成させる。そして、得られた脱亜鉛スラリーを固液分離することにより、亜鉛を分離したニッケル回収用母液を得る。
【0085】
なお、次工程のニッケル回収工程S6においても、硫化水素ガス等の硫化剤を添加することで硫化反応を生じさせてニッケルを含む硫化物を生成させるが、そのニッケル等の硫化処理に先立って行う脱亜鉛工程S5における処理では、硫化反応の条件として、ニッケルに対する硫化反応条件よりも緩和させた条件で行う。これにより、浸出液に含まれる亜鉛を選択的に硫化させることができる。
【0086】
ここで、本実施の形態に係る湿式製錬方法では、浸出処理に供する鉱石スラリーの炭素品位と硫黄品位の合計を特定の範囲に調整している。このような方法によれば、浸出工程S2での浸出処理において浸出液のORPを適切に制御でき、浸出液中のFe2+濃度の低下を効果的ン抑え、具体的にはFe2+濃度を1.0g/L以上とすることができる。
【0087】
したがって、脱亜鉛工程S5において、そのような浸出液に対して脱亜鉛処理を施すことで、硫化された亜鉛の再溶解を効果的に防止して、ニッケル回収用母液に含まれる亜鉛量を低減させることができる。
【0088】
(6)ニッケル回収工程
ニッケル回収工程S6は、脱亜鉛工程S5における処理を経て亜鉛が除去されたニッケル回収用母液に硫化剤を添加してニッケルの硫化物と、硫化終液とを得る工程である。
【0089】
具体的に、ニッケル回収工程S6では、ニッケル回収用母液に対して、硫化水素ガス、硫化ナトリウム、水素化硫化ナトリウム等の硫化剤を添加し、不純物成分の少ないニッケル硫化物と、ニッケル等の濃度を低い水準で安定させた硫化終液とを生成させる。なお、得られたニッケル硫化物を含むスラリーについては、シックナー等の沈降分離装置を用いて固液分離処理し、ニッケル硫化物をシックナーの底部より分離回収する一方で、水溶液成分である硫化終液はオーバーフローさせて回収する。
【0090】
上述したように、ニッケル回収工程S6での硫化処理に供されるニッケル回収用母液は、亜鉛がほとんど含まれない溶液である。したがって、このようなニッケル回収用母液を用いて硫化処理を施すことで、亜鉛品位を有効に低減させた高品質なニッケル硫化物を得ることができる。
【実施例】
【0091】
以下に、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0092】
[実施例、比較例]
炭素品位が低いニッケル酸化鉱石(原料鉱石)に、ニッケル及びコバルト混合硫化物(MS:Mix Sulfide)を添加して鉱石スラリーを調製し、浸出処理に供して、浸出液の酸化還元電位(ORP:銀/塩化銀電極基準)値を測定する試験を行った。
【0093】
具体的には、まず、ニッケル酸化鉱石約350gに、MSを5g(実施例1)と1g(比較例1)を添加し配合した2つの鉱石スラリーを調製し、内容量3リットルのステンレス製のオートクレーブ反応容器にそれぞれ装入した。表2に、各試験例での鉱石スラリーの組成を示す。また、表3に、使用したニッケル酸化鉱石の組成とMSの組成を示す。なお、比較例2では、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石にMSを添加しなかった。
【0094】
【0095】
【0096】
浸出処理の試験条件として、オートクレーブの運転温度を250℃、滞留時間を200分、オートクレーブの運転圧力を4.0MPaとして設定した。また、鉱石スラリーに硫酸を、鉱石100gに対して250gの割合で添加して浸出処理を行った。
【0097】
[結果]
下記表4に、浸出処理の結果として、浸出液のORP値と、浸出液中のFe2+濃度の測定値を示す。なお、表4には、浸出処理に供した鉱石スラリーの炭素品位、硫黄品位、及び炭素品位と硫黄品位との合計(合計品位)を併せて示す。
【0098】
【0099】
表4に示す結果と、上で説明した表1に示す結果とを踏まえ、原料鉱石にニッケル及びコバルト混合硫化物(MS)を添加配合し、炭素品位と硫黄品位の合計値を特定の範囲とした鉱石スラリーを調製し、これを浸出処理に供することで、その浸出処理においてORPを適切に制御することができ、得られる浸出液中のFe2+濃度を1.0g/L以上とすることができることがわかった。
【0100】
このように、浸出液のFe2+濃度の低下を効果的に抑制できたことから、その浸出液に対する脱亜鉛工程を経て得られる脱亜鉛終液において亜鉛硫化物の再溶解を抑制できることが予測される。そして、ニッケル回収工程を経て、高品質なニッケル及びコバルト混合硫化物を生成することが可能となる。
【0101】
一方、ニッケル酸化鉱石にMSを添加配合したものの、炭素品位と硫黄品位の合計値が0.28質量%未満であった比較例1では、浸出液中のFe2+濃度が0.5g/Lにまで低下した。また、MSを添加配合しなかった比較例2では、Fe2+濃度が0g/Lであった。これらの比較例では、表1の結果も参照すると、脱亜鉛工程を経て得られる脱亜鉛終液において亜鉛硫化物の再溶解が発生し、十分に亜鉛を除去できないことが予測される。