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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 23/00 20060101AFI20241112BHJP
   C22B 3/06 20060101ALI20241112BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20241112BHJP
   C22B 3/22 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
C22B23/00 102
C22B3/06
C22B3/44 101B
C22B3/22
C22B3/44 101A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021050601
(22)【出願日】2021-03-24
(65)【公開番号】P2022148784
(43)【公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】中川 英一
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-157236(JP,A)
【文献】特開2019-049020(JP,A)
【文献】特開2017-145454(JP,A)
【文献】特開2017-201056(JP,A)
【文献】特開2019-077928(JP,A)
【文献】特開2018-090889(JP,A)
【文献】特開2010-037626(JP,A)
【文献】特開2021-031698(JP,A)
【文献】特開2015-061951(JP,A)
【文献】特開2020-132982(JP,A)
【文献】特開2019-085617(JP,A)
【文献】特開2019-000834(JP,A)
【文献】特開2005-350766(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 23/00
C22B 3/06
C22B 3/44
C22B 3/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル酸化鉱石に対して酸を添加して浸出処理を施し、得られた浸出液からニッケル及びコバルトの硫化物を得るニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法であって、
前記浸出処理を施して得られた浸出スラリーに対して、シックナーを多段に設けた固液分離装置を用いて多段洗浄しながら固液分離処理を施し、浸出液と浸出残渣とを得る固液分離工程と、
前記浸出液に中和剤を添加して中和処理を施し、不純物を含む中和殿物とニッケル及びコバルトを含む中和終液とを得る中和工程と、を含み、
前記中和工程では、
前記固液分離工程で分離した前記浸出残渣のスラリーを、中和処理に供される前記浸出液に、中和処理に供される前記浸出液の流量に対して、5.0体積%以上及び8.0体積%以下の添加量で添加して中和処理を施し、
前記中和処理により生成する前記中和殿物のスラリーを、前記固液分離工程に繰り返す処理を含み、
前記中和殿物のスラリーを前記固液分離工程に繰り返すに際しては、該スラリーを、前記固液分離装置において多段に設けたシックナーの最上流に位置する第1段目のシックナーに移送する、
ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法。
【請求項2】
前記固液分離工程では、
前記シックナーを4段~7段の多段に設けた固液分離装置を用いて処理を行う、
請求項1に記載のニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法。
【請求項3】
前記固液分離工程では、
前記第1段目のシックナーにおける上澄み液の濁度及び粘度を定期的に測定してモニタリングし、前記固液分離処理にて添加する凝集剤の添加量を調整する、
請求項1又は2に記載のニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法。
【請求項4】
前記固液分離工程では、
前記第1段目のシックナーにおける上澄み液の濁度が00NTU未満となるように調整する、
請求項3に記載のニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法に関するものであり、ニッケルの回収ロスを効果的に低減することができる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケルはステンレスの原料として幅広く用いられており、その原料となる硫化鉱石の資源枯渇傾向に伴い、低品位の酸化鉱石を精製する技術が開発され、実用化されている。
【0003】
具体的には、リモナイトやサプロライト等のニッケル酸化鉱石を、硫酸溶液と共にオートクレーブ等の加圧装置に入れ、240℃~260℃程度の高温高圧下でニッケルを浸出する高温加圧酸浸出(HPAL:High Pressure Acid Leach)」法と呼ばれる製造プロセスが実用化されている。
【0004】
具体的に、HPAL法によるニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスでは、まず、数種類の低品位ニッケル酸化鉱石を所定のニッケル品位、不純物品位となるように混合し、それらを水と混合してスラリー化したものを篩にかけ、所定のアンダーサイズ(篩下)の鉱石のみを使用する(鉱石スラリー調製工程S11)。次に、鉱石スラリーをオートクレーブ等の加圧反応装置に装入して高温加圧下で硫酸を添加してニッケルを浸出させる(浸出工程S12)。次に、浸出スラリーに含まれる残留遊離酸を中和処理により除去する(予備中和工程S13)。予備中和処理後のスラリーをシックナー等の固液分離装置に移送して、多段洗浄しながら浸出液と浸出残渣とに分離する(固液分離工程S14)。なお、固液分離された浸出残渣は、最終中和工程S17にて重金属類を所定濃度まで除去したのちテーリングダム(残渣ダム)へと移送される。
【0005】
続いて、固液分離して得られた浸出液(貴液)に対して中和剤を添加して不純物を除去する中和処理を施したのち(中和工程S15)、ニッケル回収用母液である中和終液に硫化水素ガス等の硫化剤を供給してニッケル及びコバルトの混合硫化物(以下「ニッケル硫化物」ともいう)を生成させて回収する(硫化工程S16)。硫化工程にてニッケル硫化物を分離回収した後の貧液については、最終中和工程S17へと移送して無害化する。なお、貧液の一部は、予備中和工程S13後の固液分離工程S14での処理にて再利用される。
【0006】
ここで、例えば中和工程S15における処理では、浸出液に石灰石や消石灰等のスラリーを中和剤として添加して中和処理を施すことで、不純物金属元素に水酸化物や石膏を主成分とする沈殿物(中和殿物)が生成する。中和殿物を含むスラリーは、シックナー等の固液分離装置に移送されて固液分離される。また、その中和殿物スラリーの一部は、殿物中のニッケルの回収ロスを低減させるために、固液分離工程S14へと繰り返されて浸出スラリーと共に固液分離される(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
このような沈殿物を含むスラリーにおいては、その液中にニッケルを高濃度で含むため、固液分離工程での処理における洗浄悪化の要因となる。そのため、沈殿物を含むスラリー中の液量は極力少なくすることが望まれている。
【0008】
従来、例えば中和工程での固液分離の改善等が行われている(例えば、特許文献2~4参照)。しかしながら、これらの従来技術は、主として上澄み液の清澄性向上を主目的とするものであり、プロセスに繰り返すスラリー中の液量の低減効果は大きくない。また、繰り返すスラリー中の液量を低減させる、すなわちスラリーの固体濃度を上昇させるには限度があるため、さらなるニッケルロス低減方法の開発が必要とされている。
【0009】
例えば、特許文献5には、ニッケルの回収ロスを低減させるために、中和工程後の中和殿物スラリーの一部を固液分離工程S14へと繰り返すことが開示されている。そのとき、シックナーでの殿物負荷の増加を抑制する観点から、多段洗浄のうち後段側のシックナーに中和殿物スラリーを移送することが好ましいとしている。
【0010】
しかしながら、固液分離処理において殿物負荷を低減させながら、ニッケルの回収ロスを低減させる方法としては十分なものではなく、さらに有効なニッケルロス低減方法の開発が必要とされていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2005-350766号公報
【文献】特開2004-225120号公報
【文献】特開2017-145454号公報
【文献】特開2017-201056号公報
【文献】特開2019-049020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法において、固液分離工程での処理における殿物負荷を低減するとともに、ニッケルの回収ロスを効果的に低減することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、中和工程における処理において、固液分離工程で分離した浸出残渣のスラリーを、中和処理に供される浸出液に添加して中和処理を施すようにするとともに、中和処理により生成する中和殿物のスラリーを、固液分離工程に繰り返す処理を行い、そして、中和殿物のスラリーを繰り返すに際しては、固液分離装置において多段に設けたシックナーの最上流に位置する第1段目のシックナーに移送することによって、上述した課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
(1)本発明の第1の発明は、ニッケル酸化鉱石に対して酸を添加して浸出処理を施し、得られた浸出液からニッケル及びコバルトの硫化物を得るニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法であって、前記浸出処理を施して得られた浸出スラリーに対して、シックナーを多段に設けた固液分離装置を用いて多段洗浄しながら固液分離処理を施し、浸出液と浸出残渣とを得る固液分離工程と、前記浸出液に中和剤を添加して中和処理を施し、不純物を含む中和殿物とニッケル及びコバルトを含む中和終液とを得る中和工程と、を含み、前記中和工程では、前記固液分離工程で分離した前記浸出残渣のスラリーを、中和処理に供される前記浸出液に添加して中和処理を施し、前記中和処理により生成する前記中和殿物のスラリーを、前記固液分離工程に繰り返す処理を含み、前記中和殿物のスラリーを前記固液分離工程に繰り返すに際しては、該スラリーを、前記固液分離装置において多段に設けたシックナーの最上流に位置する第1段目のシックナーに移送する、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法。
【0015】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記固液分離工程では、前記シックナーを4段~7段の多段に設けた固液分離装置を用いて処理を行う、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法である。
【0016】
(3)本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記固液分離工程では、前記第1段目のシックナーにおける上澄み液の濁度及び粘度を定期的に測定してモニタリングし、前記固液分離処理にて添加する凝集剤の添加量を調整する、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法である。
【0017】
(4)本発明の第4の発明は、第3の発明において、前記固液分離工程では、前記第1段目のシックナーにおける上澄み液の濁度が200NTU以下となるように調整する、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法において、固液分離工程での処理における殿物負荷を低減するとともに、ニッケルの回収ロスを効果的に低減することができる方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスの流れの一例を示す工程図である。
図2】シックナーを多段に連結させてCCD法を行う固液分離装置の構成の一例を示す図である。
図3】固液分離装置の各段を構成するシックナー(1段のみ)の構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。本明細書において、「X~Y」(X、Yは任意の数値)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」であることを意味する。
【0021】
≪1.概要≫
本実施の形態に係るニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法は、ニッケル酸化鉱石に対して酸を添加して浸出処理を施し、得られた浸出液からニッケルを含む硫化物を得る方法である。なお、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにおいては、浸出液に基づいて硫化処理を施すことによって、ニッケルと共に浸出液中に浸出されたコバルトとを含む、ニッケルコバルト混合硫化物が得られるが、「ニッケルを含む硫化物(ニッケル硫化物)」とはそのニッケルコバルト混合硫化物の意味を含む。
【0022】
具体的に、この方法は、浸出処理を施して得られた浸出スラリーに対して、シックナーを多段に設けた固液分離装置を用いて多段洗浄しながら固液分離処理を施して浸出液と浸出残渣とを得る固液分離工程と、浸出液に中和剤を添加して中和処理を施して不純物を含む中和殿物とニッケル及びコバルトを含む中和終液とを得る中和工程と、を含む。そして、中和工程では、固液分離工程で分離した浸出残渣のスラリーを、中和処理に供される浸出液に添加して中和処理を施すようにする。
【0023】
また、この方法では、中和工程において、中和処理により生成する中和殿物のスラリーを、固液分離工程に繰り返す処理を含み、中和殿物のスラリーを繰り返すに際しては、そのスラリーを、固液分離装置において多段に設けたシックナーの最上流に位置する第1段目のシックナーに移送する。
【0024】
このような方法によれば、固液分離工程での処理における殿物負荷を増大させることなく、ニッケルの回収ロスを効果的に低減することができる。
【0025】
≪2.ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセス≫
まず、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスの各工程について詳細に説明する。
【0026】
図1は、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスの流れの一例を示す工程図である。図1に示すように、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスは、原料のニッケル酸化鉱石のスラリーに硫酸を添加して高温高圧下で浸出処理を施す浸出工程S1と、浸出スラリーから浸出残渣を分離してニッケルを含む浸出液を得る固液分離工程S2と、浸出液のpHを調整して浸出液中の不純物を中和殿物として分離して中和終液を得る中和工程S3と、中和終液に硫化剤を添加することでニッケルの硫化物を生成させる硫化工程S4と、を有する。
【0027】
(1)浸出工程
浸出工程S1では、オートクレーブ等の高温加圧反応槽を用い、ニッケル酸化鉱石のスラリー(以下、「鉱石スラリー」ともいう)に硫酸を添加して、例えば温度230℃~270℃程度、圧力3MPa~5MPa程度の条件下で撹拌して浸出処理を施す。これにより、浸出液と浸出残渣とからなる浸出スラリーを生成する。
【0028】
原料のニッケル酸化鉱石としては、主としてリモナイト鉱及びサプロライト鉱等のいわゆるラテライト鉱が挙げられる。ラテライト鉱のニッケル含有量は、通常、0.8重量%~2.5重量%であり、水酸化物又はケイ酸マグネシウム鉱物として含有される。また、鉄の含有量は10重量%~50重量%であり、主として3価の水酸化物の形態であるが、一部2価の鉄がケイ苦土鉱物に含有される。また、浸出工程S1では、このようなラテライト鉱のほかに、ニッケル、コバルト、マンガン、銅等の有価金属を含有する酸化鉱石、例えば深海底に賦存するマンガン瘤等を用いることができる。
【0029】
浸出処理では、例えば下記式[1]~[5]で表される浸出反応と高温加水分解反応が生じ、ニッケル、コバルト等の硫酸塩としての浸出と、浸出された硫酸鉄のヘマタイトとしての固定化が行われる。ただし、鉄イオンの固定化は完全には進行しないため、通常、得られる浸出スラリーの液部分には、ニッケル、コバルト等の他に2価と3価の鉄イオンが含まれる。なお、浸出処理では、次工程の固液分離工程S2で分離されるヘマタイトを含む浸出残渣の濾過性の観点から、得られる浸出液のpHが0.1~1.0にとなるように調整することが好ましい。
【0030】
・浸出反応
MO+HSO→MSO+HO ・・[1]
(なお、式中Mは、Ni、Co、Fe、Zn、Cu、Mg、Cr、Mn等を表す)
2Fe(OH)+3HSO→Fe(SO+6HO ・・[2]
FeO+HSO→FeSO+HO ・・[3]
・高温加水分解反応
2FeSO+HSO+1/2O→Fe(SO+HO ・・[4]
Fe(SO+3HO→Fe+3HSO ・・[5]
【0031】
なお、鉱石スラリーを装入したオートクレーブへの硫酸の添加量としては、特に限定されないが、鉱石中の鉄が浸出されるような過剰量が用いられる。例えば、鉱石1トン当り300kg~400kgの割合とする。
【0032】
(2)固液分離工程
固液分離工程S2では、浸出工程S1で生成した浸出スラリーを多段洗浄しながら、ニッケル等の有価金属を含む浸出液と浸出残渣とを分離する固液分離処理を行う。
【0033】
固液分離工程S2では、シックナーを多段に連結させて設けた固液分離装置を用い、浸出スラリーを洗浄液と混合した後、浸出液と浸出残渣とに固液分離する処理を施す。具体的には、先ず、浸出スラリーが洗浄液により希釈され、次に、浸出スラリー中の浸出残渣がシックナーの沈降物として濃縮される。これにより、浸出残渣に付着するニッケル分をその希釈度合に応じて減少させることができる。また、このようにシックナーを多段に連結して用いて多段洗浄しながら固液分離することで、洗浄液、すなわち浸出液へのニッケル回収率の向上を図ることができる。
【0034】
ここで、固液分離工程S2において、次工程の中和工程S3における処理で得られる中和殿物のスラリーの少なくとも一部が移送され、浸出スラリーと共に固液分離される。これにより、ニッケル回収ロスを低減することができる。
【0035】
固液分離処理における多段洗浄方法としては、例えば、ニッケルを含まない洗浄液で向流に接触させる連続向流洗浄法(CCD法)を用いる。洗浄液としては、特に限定されないが、ニッケルを含まず、工程に影響を及ぼさないものを用いることができる。その中でも、pHが1~3の水溶液を用いることが好ましい。洗浄液のpHが高いと、浸出液中にアルミニウムが含まれる場合には嵩の高いアルミニウム水酸化物が生成され、シックナー内での浸出残渣の沈降不良の原因となる。また、洗浄液としては、好ましくは、後工程である硫化工程S4で得られる低pH(pHが1~3程度)の貧液を繰り返して利用することができる。これにより、系内に新たに導入する洗浄液を削減できるとともに、ニッケル及びコバルトの回収率を高めることができる。
【0036】
固液分離装置としては、例えば、周縁部に上澄み液を排出するオーバーフロー部と、中心部に垂直に配設された筒状のフィードウェルとを有する沈降分離槽と、撹拌槽とを備えたシックナーを有するものを用いることができる。固液分離装置においては、シックナーを多段に連結させて設け、処理対象となる浸出スラリーを多段洗浄しながら固形分である浸出残渣を分離除去する。
【0037】
このような固液分離処理により分離された浸出液は、次工程の中和工程S3における中和処理に供される。一方で、分離された浸出残渣のスラリーは、その一部が後工程の中和工程S3で中和処理に供される浸出液に添加され、残部には適宜排水処理が施される。
【0038】
なお、固液分離装置やその装置を用いた多段洗浄しながら処理する具体的な操作については、後で詳述する。
【0039】
(3)中和工程
中和工程S3では、浸出液の酸化を抑制しながら、得られた浸出液に中和剤を添加してpHを所定の範囲に調整し、不純物元素を含む中和殿物とニッケル回収用母液となる中和終液とを生成させる。このような中和処理を施すことで、得られる中和終液中の不純物含有量を低減させて、その中和終液に対して硫化処理(硫化工程S4)を施して得られるニッケル硫化物(製品)の品質を高めることができる。
【0040】
具体的に、中和工程S3では、浸出液に中和剤を添加してpHを調整することで、中和終液と、不純物元素として例えば3価の鉄を含む中和殿物のスラリーとを生成する。このようにして浸出液に対する中和処理を施すことで、浸出工程S1での浸出処理で用いた過剰の酸を中和して中和終液を生成させるとともに、溶液中に残留する鉄イオンやアルミニウムイオン等の不純物元素を中和殿物として除去する。
【0041】
ここで、本実施の形態に係る方法では、この中和処理において、固液分離工程S2にて浸出スラリーを固液分離して得られた浸出残渣のスラリーを、中和処理に供される浸出液に対して所定の割合で添加する。このように、浸出液に浸出残渣スラリーを添加することで、得られる中和終液の濁度を有効に低減できるとともに、ニッケルの回収ロスを低減することができる。
【0042】
また、中和処理により得られる中和殿物スラリーは、少なくともその一部が固液分離工程S2に繰り返され、浸出スラリーと共に固液分離処理が施される。このとき、本実施の形態に係る方法においては、中和処理に供される浸出液に対して所定の割合で浸出残渣スラリーを添加していることから、中和殿物スラリーの過度な増加を防ぎ、固液分離工程S2での処理における殿物負荷を低減しながら、ニッケルの回収ロスを低減できる。
【0043】
(4)硫化工程
硫化工程(ニッケル回収工程)S4では、ニッケル回収用母液である中和終液を硫化反応始液とし、その硫化反応始液に対して硫化水素ガス等の硫化剤を添加することによって硫化反応を生じさせ、不純物成分の少ないニッケルを含む硫化物(ニッケル硫化物)と、ニッケルの濃度を低い水準で安定させた貧液である硫化反応終液とを生成させる。
【0044】
なお、中和終液に亜鉛が含まれる場合には、硫化物としてニッケルを分離するに先立って、亜鉛を硫化物として選択的に分離することができる。
【0045】
硫化工程S4における硫化処理は、硫化反応槽等を用いて行うことができ、硫化反応槽に導入した硫化反応始液に対して、例えばその反応槽内の気相部分に硫化水素ガスを吹き込み、溶液中に移動した硫化水素ガスによって緩やかに硫化反応を生じさせることができる。この硫化処理により、ニッケルを硫化物として固定化する。
【0046】
硫化反応の終了後においては、得られたニッケル硫化物を含むスラリーをフィルタープレス等の濾過装置に装入して濾過処理を施し、濾布上にその硫化物を捕集する。また、濾布を通過した水溶液成分は、貧液として回収する。濾過装置への通液量を低減するために、スラリーを予めシックナー等の沈降濃縮装置に装入して、上澄み液を貧液として除去しておくのがよい。
【0047】
≪3.固液分離工程における固液分離処理について≫
ここで、上述した湿式製錬プロセスにおける固液分離工程S2での処理に用いる固液分離装置及びその装置を用いた具体的な処理操作について、より詳細に説明する。
【0048】
上述したように、固液分離工程S2では、シックナーを多段に連結させて構成した固液分離装置を用いて、浸出工程S1での浸出処理により得られた浸出スラリーに対し、ニッケルを含まない洗浄液を向流で接触させる連続向流洗浄法(CCD法)による多段洗浄を行いながら、浸出スラリーに含まれる固形分(浸出残渣)を分離し、固形分が除去された粗硫酸ニッケル水溶液(浸出液)を得る。
【0049】
<3-1.固液分離装置(シックナー)の構成と多段洗浄>
図2は、シックナーを多段に連結させてCCD法を行う固液分離装置の一例を示す構成図である。図2に示す固液分離装置1では、シックナーを5段連結させた構成例を示しており、連結段数としてはこれに限定されないが、4段~7段のシックナーを設けた固液分離装置であることが好ましい。
【0050】
CCD法では、固液分離処理が行われる沈降分離槽と、撹拌槽と、の組合せからなるシックナーを1段として、このシックナーが複数段、例えば4段~7段、直列に連結させた固液分離装置1を用いる。固液分離装置1では、最上流(図2中のA側)に位置する第1段目のシックナーに浸出工程S1にて得られた浸出スラリーが装入され、最下流側(図2のB側)に位置する最終段目(第5段目)のシックナーに、例えば工業用水等の洗浄水、もしくは製錬廃液(貧液)が装入される。
【0051】
そして、固液分離装置1では、装入された浸出スラリーと洗浄液とが装置内において向流で接触し、同時に最上流(A側)から装入される浸出スラリーに対して凝集剤を添加することで、スラリー中の固形分を凝集させて固液分離を促進させる。
【0052】
(各段のシックナー及び撹拌槽について)
図3に、図2に示した固液分離装置1の各段を構成するシックナー(1段のみ)の構成図を示す。上述したように、固液分離装置1は、複数のシックナーが多段に連結されており、シックナー10は、撹拌槽11と、沈降分離槽12とから構成されている。
【0053】
撹拌槽11は、その内部に撹拌軸や撹拌羽根等の撹拌部材を備えた槽である。撹拌槽11では、浸出スラリーと、後段のシックナーから流送されたオーバーフロー液とが、それぞれ装入されて撹拌混合される。なお、最終段目(図2の例では第5段目)のシックナーの撹拌槽11には、オーバーフロー液ではなく、製錬廃液(貧液)もしくは新規の洗浄水が装入される。このような撹拌槽11において、浸出スラリーとオーバーフロー液とが撹拌混合されることで浸出スラリーが洗浄され、固形分に付着した付着液が洗い流される。
【0054】
沈降分離槽12は、例えば円筒形状の処理槽であり、その内部に浸出スラリーが装入されて、浸出スラリー中の固形分を沈降分離させる。沈降分離槽12には、その内部に、垂直に配設された筒状のフィードウェル13が備えられている。フィードウェル13は、例えば沈降分離槽12が円筒形状の場合には、その沈降分離槽12と略同心円状に設けられる。フィードウェル13は、撹拌槽11から供給された浸出スラリーを沈降分離槽12内に送り込む(フィードする)送路となっている。
【0055】
また、沈降分離槽12には、その槽上部の周縁部に浸出スラリー中の固形分を沈降分離させて得られた上澄み液である浸出液をオーバーフロー(OF)させて排出するためのオーバーフロー部14が設けられている。オーバーフロー部14は、例えば樋のような形状となっており、後段のシックナーからのオーバーフロー液を撹拌槽11に流送させるための流路が接続されている。
【0056】
なお、沈降分離槽12において、オーバーフローした溶液(以下、「オーバーフロー液」ともいう)は、上述のように前段の撹拌槽11に流送され、一方で、それ以外の固形分を含めたスラリーは、沈降分離槽12の下部から取り出されて、ポンプ15によって後段の撹拌槽11に送液される。
【0057】
(多段洗浄の基本的な流れ)
次に、固液分離装置1(図2)によって、浸出スラリーを多段洗浄する際の基本的な流れを説明する。図2中の矢印は、浸出スラリーやオーバーフロー液の流れを示している。
【0058】
先ず、第1段目のシックナーでは、その撹拌槽11内に、浸出工程S1での浸出処理により得られた浸出スラリーと、後段の第2段目のシックナーの沈降分離槽12からのオーバーフロー液とが装入され、それらが撹拌混合される。第1段目のシックナーにおける撹拌槽11内では、浸出スラリー中の固形分に付着している付着液がオーバーフロー液によって洗浄され、その後、撹拌槽からフィードウェル13を介して、洗浄された浸出スラリーが沈降分離槽12内に装入される。
【0059】
このとき、第1段目のシックナーにおいては、フィードウェル13を介して、浸出スラリーと共に、スラリー中の固形分を凝集させるための凝集剤が添加される。そして、装入された沈降分離槽12内で浸出スラリーと凝集剤とが混合され、スラリー中の固形分が凝集沈殿して分離される。
【0060】
また、詳しくは後述するが、本実施の形態に係る方法では、第1段目のシックナーにおいて、フィードウェル13を介し、中和工程S3での中和処理により生成した中和殿物のスラリーが移送されて添加される。このように、本実施の形態に係る方法では、中和殿物のスラリーを固液分離工程S2の繰り返すようにしており、特に、複数段でシックナーが連結され構成される固液分離装置1における第1段目のシックナーに添加されることを特徴としている。
【0061】
分離した固形分を含むスラリーは、沈降分離槽12の下部から抜き出されてポンプを介して後段の第2段目のシックナーの撹拌槽11に移送される。一方で、沈降分離槽12からオーバーフロー部14を経由してオーバーフローした上澄み液は、湿式製錬プロセスにおける次工程の中和工程S3に供給される。
【0062】
次に、第2段目のシックナーでは、その撹拌槽11内に、前段の第1段目のシックナーの沈降分離槽12の下部から抜き出された固形分が装入されるとともに、後段の第3段目のシックナーの沈降分離槽12からのオーバーフロー液が装入されて、固形分に付着した水分がオーバーフロー液によって洗い流される。そして、撹拌槽11内で洗浄されて得られたスラリーは、フィードウェル13を介して沈降分離槽12内に装入され、スラリー中の固形分が凝集沈殿して分離される。分離した固形分を含むスラリーは、沈降分離槽12の下部から抜き出されてポンプを介して後段の第3段目のシックナーの撹拌槽11に移送される。一方で、沈降分離槽12からオーバーフロー部14を経由してオーバーフローしたオーバーフロー液は、前段の第1段目のシックナーの撹拌槽11に接続された配管等を経由して、その撹拌槽11内に装入される。
【0063】
以後、第3段目のシックナー、第4段目のシックナーにおいても、同様の手順によって固形分を含むスラリーがオーバーフロー液と向流で接触することで、多段洗浄される。
【0064】
そして、最下流側に位置する最終段である第5段目のシックナーでは、その撹拌槽11内に、前段の第4段目のシックナーの沈降分離槽12の下部から抜き出された固形分が装入されるとともに、新規の洗浄水(例えば、湿式製錬プロセスにおける低ニッケル濃度のプロセス液)が装入されて、固形分に付着した水分が洗浄水によって洗い流される。撹拌槽11内で洗浄されて得られたスラリーは、フィードウェル13を介して沈降分離槽12内に装入され、スラリー中の固形分が凝集沈殿して分離される。
【0065】
分離した固形分を含むスラリーは、沈降分離槽12の下部からポンプで抜き取られ、浸出残渣(CCD残渣)として残渣処理される。一方で、沈降分離槽12からオーバーフロー部14を経由してオーバーフローしたオーバーフロー液は、前段の第4段目のシックナーの撹拌槽11に接続された配管等を経由して、その撹拌槽11内に装入される。
【0066】
なお、このようにして、浸出スラリーに対して多段洗浄を行いながら固液分離処理を施すことによって、新規の洗浄水としては最終段のシックナーのみに装入すればよいため、その最終段以外の各段のシックナーには新規の洗浄水が不要となる。これにより、洗浄水を大幅に節約することが可能となる。
【0067】
<3-2.固液分離処理の具体的な操作>
各段のシックナーからのオーバーフロー液について、ニッケルやコバルト等の有価金属の含有量としては、最終段(図2では第5段目)のシックナーからのオーバーフロー液が最も少ない。このことは、前々段(図2では第3段目)のシックナーの撹拌槽11において、既に有価金属が洗浄されている点が一つの理由として挙げられる。また、前段(図2では第4段目)のシックナーで固液分離されたスラリーと新規の洗浄水とがオーバーフローし、さらにその前段(図2では第4段目)の撹拌槽11に装入されて撹拌、洗浄されたスラリーが、最終段のシックナーに装入される点も理由として挙げられる。
【0068】
一方で、最終段の前段(図2では第4段目)からのオーバーフロー液は、最終段に比べて固形分に付着している付着液中に有価金属分が多く、順次、最終段から離れるに従って有価金属分は多くなり、第1段目のシックナーからのオーバーフロー液で有価金属の含有量が最大となる。一般的には、ニッケル及びコバルトの回収率が90%以上となるようなオーバーフロー液である粗硫酸ニッケル水溶液(浸出液)を回収するように操業される。
【0069】
また、第1段目のシックナーからのオーバーフロー液は、各段のシックナーにおいて固液分離作用を受けており、微粒子の沈降も進んでいる。そのため、第1段目のシックナーからのオーバーフロー液は、その濁度が最も低く(透明度が最も高く)なっている。具体的に、その濁度としては、200NTU以下となるように操業される。
【0070】
本実施の形態に係る方法では、固液分離工程S2で分離した浸出残渣のスラリーを、次工程の中和工程S3における中和処理に供される浸出液に添加して中和処理を施すようにするとともに、中和処理により生成する中和殿物のスラリーを、固液分離工程に繰り返す処理を含んでいる。また、中和殿物のスラリーを固液分離工程S2に繰り返すに際しては、そのスラリーを、最上流に位置する第1段目のシックナーに移送する。このような方法によれば、固液分離処理における殿物負荷を低減しながら、ニッケルの回収ロスを抑えることができる。
【0071】
ここで、固液分離処理においては、浸出スラリーを収容したシックナーに対して、適切な量の凝集剤を添加している。このとき、本実施の形態に係る方法では、最上流に位置する第1段目のシックナーにおける上澄み液(オーバーフロー液、浸出液)の濁度及び粘度を定期的に測定してモニタリングし、そのモニタリング結果に基づいて、固液分離処理にて添加する凝集剤の添加量を調整することが好ましい。
【0072】
浸出液(粗硫酸ニッケル水溶液)に基づいて回収されるニッケル及びコバルトの回収率は、その浸出液の濁度と相関関係があることが知られている。このことから、実操業におけるニッケル及びコバルトの回収率は、得られた浸出液の濁度で管理することができる。具体的に、その値としては、濁度計(例えば、HACH社製2100P型散乱光式濁度計)による測定数値で、200NTU以下である。このことは、浸出液の透明度が高いほど(濁度が低いほど)、固形分の凝集が進行し、また付着液の洗浄が十分に行われていることを意味し、良好な相関関係が成立している。
【0073】
したがって、上澄み液(オーバーフロー液)の濁度を定期的に測定してモニタリングし、その経時変化に基づいて凝集剤の添加量を調整することで、浸出スラリー中の固形分に対して凝集剤を効率的に添加することができ、より効果的に固液分離が進行する。これにより、第1段目のシックナーからの上澄み液の濁度を効果的に低下させ、清澄度を高めることができる。
【0074】
具体的には、上澄み液の濁度が所定の値(例えば200NTU)よりも高い場合には、凝集剤の添加量を増加させて清澄度を回復させるようにする。一方で、上澄み液の濁度が所定の値よりも低い場合には、凝集剤の添加量を減少させる。これにより過度な凝集剤の使用を抑えて効率的な処理を行うことが可能となる。
【0075】
ただし、濁度が低くなった場合に、凝集剤添加量を減少させた後に清澄度が急激に悪化することが生じ得る。そのため、定期的に濁度測定を行ってモニタリングしていくことで、凝集剤の添加量を制御していくことが好ましい。
【0076】
また、急激な清澄度の悪化を防ぐ観点から、上澄み液(オーバーフロー液)の粘度についても定期的に測定してモニタリングすることが好ましい。上澄み液の粘度は、一定量の上澄み液の濾過時間をパラメーターとして測定することができる。具体的に、濾過時間については、例えば、第1段目のシックナーからの上澄み液を、メッシュサイズ0.45μmのメンブレンフィルターで所定の液量を吸引濾過するのに要した時間として測定することができる。
【0077】
例えば、凝集剤の濃度が低減されると、それにつれて、第1段目のシックナーからの上澄み液の濾過時間は減少する。これは、凝集剤溶液の濃度が低減されることにより、凝集剤成分同士の凝集が抑制され、上澄み液の粘度が低下したものと推認される。このことから、上澄み液の粘度の下限値を設定しておき、定期的な粘度の測定結果のモニタリングから、その上澄み液の粘度が設定下限値以下とならないように、凝集剤の添加量を維持するように制御することで、その上澄み液の清澄度を維持することができる。
【0078】
このように、好ましくは、第1段目のシックナーにおける上澄み液(オーバーフロー液、浸出液)の濁度及び粘度を定期的に測定してモニタリングし、固液分離処理にて添加する凝集剤の添加量を調整することで、中和工程S3から中和殿物のスラリーを繰り返し装入した場合(言い換えると、殿物による処理負荷の変動が生じた場合)でも、その殿物負荷をより効果的に低減することができる。そして、中和殿物を繰り返し装入して浸出スラリーと共に固液分離処理を施すことによる、ニッケル回収ロスを低減させる効果をより効果的に実現することができる。
【0079】
過剰な凝集剤の添加を抑制することもでき、結果として凝集剤の使用量を有効に減少させることができ、効率的な処理が可能となる。
【0080】
≪4.中和工程における中和処理について≫
本実施の形態に係るニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法では、中和工程S3での中和処理において、処理対象である浸出液に対して中和剤を添加して所定のpHに調整する。このとき、浸出スラリーを固液分離して得られた浸出残渣のスラリーを、その中和処理に供される浸出液に対して所定の割合で添加する。
【0081】
(pH調整について)
中和処理においては、浸出液に中和剤を添加することによって、得られる中和終液のpHが2.5~3.5の範囲となるように調整することが好ましい。中和終液のpHが2.5未満となるように調整すると、浸出液中に含まれる不純物元素を十分に水酸化物等の沈殿物にすることができないことがある。それにより、得られる中和終液の不純物含有量が高まり、硫化工程S4にて生成するニッケルを含む硫化物の不純物量が上昇してしまう。一方で、中和終液のpHが3.5を超えるように調整すると、沈降性の悪い微粒子が発生して濁度が高くなりやすくなる。また、後工程で亜鉛を硫化物として除去する際に、ニッケル及びコバルトの一部も析出してしまう。
【0082】
中和剤としては、特に限定されず、例えば水酸化マグネシウムや炭酸カルシウム等の水酸化アルカリ金属塩や炭酸アルカリ金属塩の水溶液あるいはスラリーを用いることができる。なお、工業的には、安価な炭酸カルシウムのスラリーを用いることが好ましい。
【0083】
(浸出残渣スラリーの添加)
中和処理においては、中和剤を添加するとともに、浸出スラリーを固液分離して得られた浸出残渣のスラリーを添加する。これにより、得られる中和終液の濁度を有効に低減することができる。これにより、その中和終液に対して硫化処理を施して得られるニッケルの硫化物に含まれる不純物含有量をより効果的に低減させることができ、ニッケルの硫化物の品質を向上させることができる。
【0084】
ここで、浸出残渣スラリーは、湿式製錬プロセスの浸出工程S1にて生成した浸出スラリーを、固液分離工程S2で固液分離して得られる浸出残渣のスラリーである。浸出残渣は、ヘマタイト(Fe)が主成分(通常50質量%~70質量%)として含まれるものであり、比重が大きい。また。浸出残渣には、浸出工程S1での浸出処理により、浸出液中に移行せずに沈殿物となったニッケルを微量含んでいる。
【0085】
浸出液に対する中和処理において、浸出残渣のスラリーを添加して中和処理を施すことによって、比重の大きな浸出残渣を核として中和殿物が凝集形成されるようになり、その結果として中和殿物の沈降性を高めることができ、得られる中和終液の濁度を低減させることができる。そして、濁度を有効に低減させた中和終液(ニッケル回収用母液)を、この硫化工程S4における硫化反応始液として用いることによって、極めて不純物含有量の少ないニッケル硫化物を生成させることができる。
【0086】
また、上述したように、浸出残渣にはニッケルが微量含まれていることから、浸出残渣のスラリーを浸出液に添加して再度プロセス系内に戻すことで、ニッケルの回収ロスを低減させることができる。
【0087】
浸出液に対する浸出残渣スラリーの添加量は、特に限定されないが、中和処理に供される浸出液の流量に対して、好ましくは5.0体積%以上、より好ましくは6.0体積%以上の比率となる流量で添加する。また、浸出液の流量に対して、好ましくは8.0体積%以下、より好ましくは7.5体積%以下の比率となる流量で浸出残渣スラリーを添加する。このように、浸出液に対して上述した範囲の流量で浸出残渣スラリーを添加していくことで、得られる中和終液の濁度を、例えば100NTU未満、好ましくは70NTU未満にまで低減できる。また一方で、中和殿物スラリーが過度に増加することを防ぐことができ、殿物負荷を抑えながら、湿式製錬プロセスを経て得られるニッケルの回収率の低下を有効に抑えることができる。
【0088】
浸出残渣スラリーの添加量に関して、浸出液の流量に対して5体積%未満であると、中和殿物が析出可能な核が不足して濁度が高くなりやすく、後工程で不純物含有量が増えてしまう。一方で、浸出液の流量に対して8体積%を超えると、生成する中和殿物の量が過多となってしまい、ニッケル回収率の低下が生じる。すなわち、詳しは後述するように、生成した中和殿物は、固液分離工程S2を実行する処理槽に移送され、浸出スラリーと共に固液分離処理が施されるが、中和殿物スラリーが過多となると、中和殿物中のニッケルが固液分離により分離される浸出残渣に移行してしまい、固液分離工程S2での処理における殿物負荷が高まるとともに、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスを経て得られるニッケル回収率が低下する。
【0089】
浸出残渣のスラリーとしては、固液分離工程S2において多段洗浄による固液分離で得られたものであることが好ましく、このように多段洗浄して得られた浸出残渣は、酸やアルカリの付着が少ない。このため、中和処理において浸出液全体のpH制御の妨げになることを防ぐことができる。また、添加した浸出残渣の近傍の局所的なpHもバルクのpHの変化に追随することから、中和殿物の析出速度や粒子径の制御が容易となる。さらに、多段洗浄による固液分離により得られた浸出残渣は、水との比重分離性や濾過分離性に優れており、このような性質の特に強い浸出残渣(例えば、シックナーの最底部や初期沈殿)を選んで使用することで、中和殿物をさらに容易に分離することができ、中和終液の濁度をより効果的に低減することができる。
【0090】
浸出残渣のスラリーとしては、スラリー濃度が1.5t/m~1.7t/mの範囲のものを用いることが好ましい。このようなスラリー濃度の浸出残渣スラリーを用いることで、中和終液の濁度をより効果的に低減することができる。
【0091】
中和処理に供する浸出液に浸出残渣スラリーを添加するに際しては、凝結剤を併せて添加することが好ましい。一般的に、水酸化物沈殿等の中和殿物は、沈降性が悪いことが知られており、凝集の母体となる浸出残渣スラリーを添加するとともに凝結剤を添加することで、比重の大きな浸出残渣スラリーと水酸化物沈殿等の中和殿物とを凝結させて、より沈降性を促進させることができる。凝結剤としては、例えば、ポリアミン、ポリダドマック、ポリエチレンイミン、ポリアクリルアミド等を使用することができる。
【0092】
なお、中和処理に供する浸出液の流量が増減した場合、浸出残渣スラリーの添加量もそれに応じて増減させるのが好ましい。ただし、浸出残渣スラリーの添加流量を増加させる場合には、徐々に増加させていくことが望ましい。浸出残渣は、中和殿物と凝結してはじめて効果を奏することから、中和殿物の組成や凝結剤の添加量によっては、添加量を増加させても中和殿物の沈降が促進せず、滞留時間の観点では不利になる可能性があるためである。
【0093】
≪5.中和工程の中和殿物スラリーの固液分離工程への繰り返しについて≫
また、本実施の形態に係る方法では、上述したように、中和工程S3で得られる中和殿物スラリーの少なくとも一部を、固液分離工程S2に繰り返す処理を含む。このように、中和殿物スラリーを固液分離工程S2に繰り返し、その固液分離工程S2にて浸出スラリーと共に中和殿物スラリーに対する固液分離処理を行うことで、中和殿物スラリーからニッケルを回収でき、ニッケル回収ロスを有効に低減することができる。
【0094】
中和殿物へのニッケルロスは、中和殿物の付着液と中和殿物表面での局所反応によるニッケル水酸化物の付着に起因するものであり、両者とも完全には防ぐことができない。これに対して、中和殿物スラリーを低pHで操業される固液分離工程S2への処理へ繰り返すことによって、多段洗浄による固液分離処理における浸出残渣の洗浄と同時に、局所反応したニッケル水酸化物の溶解を促進させることが可能となる。
【0095】
中和工程S3からの中和殿物のスラリーを固液分離工程S2での処理に移送すると、その固液分離工程S2では、浸出スラリーと共に固液分離処理を施す。固液分離処理に中和殿物のスラリーを移送するに際しては、そのスラリーを、固液分離設備1(図2参照)において多段に設けたシックナーの最上流に位置する第1段目のシックナーに移送する。これにより、より効果的にニッケル回収ロスを低減することができる。
【0096】
また、上述したように、好ましくは第1段目のシックナーにおける上澄み液の濁度及び粘度を定期的に測定してモニタリングし、固液分離処理にて添加する凝集剤の添加量を調整するようにすることで、中和殿物のスラリーを、固液分離処理における第1段目のシックナーに移送した場合でも、殿物負荷をより効果的に低減することができる。
【実施例
【0097】
以下に、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0098】
[実施例1]
ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法(図1参照)において、中和工程では、固液分離工程で分離した浸出残渣のスラリーを、中和処理に供される浸出液に添加して中和処理を施した。また、その中和工程では、中和処理により生成した中和殿物のスラリーを、固液分離工程に繰り返す処理を行った。
【0099】
固液分離工程での固液分離処理は、シックナーを7段連結させて構成される固液分離装置(図2にて概要を参照)を用い、処理対象の浸出スラリーに対してニッケルを含まない洗浄液を向流で接触させる連続向流洗浄法(CCD法)による多段洗浄を行いながら、固形分である浸出残渣を分離し、固形分が除去された浸出液を上澄み液(オーバーフロー液)として回収するようにした。
【0100】
中和処理により生成した中和殿物のスラリーを、固液分離工程での固液分離処理に移送するに際しては、そのスラリーを、固液分離装置における最上流に位置する第1段目のシックナーに移送した。また、固液分離処理では、第1段目のシックナーからの上澄み液(オーバーフロー液)の濁度及び粘度を定期的に測定してモニタリングすることによって、凝集剤の添加量を制御するようにし、これによりその上澄み液の清澄度を管理しながら処理を行った。
【0101】
このような処理の結果、固液分離工程でのニッケルロス率は2.92%であった。
【0102】
なお、ニッケルロス率は、湿式製錬プロセスに供される鉱石スラリーに含まれるニッケル量に対する、固液分離処理を経て最終中和工程に払い出されるスラリー液中に含まれるニッケル量の百分率で表される。
【0103】
[比較例1]
比較例1では、中和処理により生成した中和殿物のスラリーを、固液分離工程での固液分離処理に移送するに際して、そのスラリーを、固液分離装置における第1段目に続いて連結されている第2段目のシックナーに移送した。また、最上流に位置する第1段目のシックナーからの上澄み液の清澄度について管理せずに処理を行った。それ以外は、実施例1と同様の条件とした。
【0104】
このような処理の結果、固液分離工程でのニッケルロス率は3.10%であった。実施例1と比べて、ニッケルロスが増加してしまった。
図1
図2
図3