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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 23/00 20060101AFI20241112BHJP
   C22B 3/08 20060101ALI20241112BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
C22B23/00 102
C22B3/08
C22B3/44 101A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021053440
(22)【出願日】2021-03-26
(65)【公開番号】P2022150719
(43)【公開日】2022-10-07
【審査請求日】2023-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】栗本 広大
(72)【発明者】
【氏名】土岐 典久
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-222989(JP,A)
【文献】特開2014-173136(JP,A)
【文献】特開2013-194283(JP,A)
【文献】特開2010-180439(JP,A)
【文献】特開2021-031698(JP,A)
【文献】特開2020-076129(JP,A)
【文献】特開2021-008654(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00 - 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル酸化鉱石を浸出して得られる浸出スラリーから、ニッケルコバルト混合硫化物を製造するニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法であって、
前記ニッケル酸化鉱石に硫酸を添加して浸出処理を施す浸出工程と、
前記浸出処理により得られる前記浸出スラリーに中和剤を添加して中和処理を施し、該浸出スラリーに含まれる遊離酸を除去する予備中和工程と、を含み、
前記予備中和工程では、前記中和剤としてニッケルコバルト混合水酸化物を用い、
前記予備中和工程では、直列に設けられた2槽以上の反応槽を使用して連続的に多段階の中和処理を行い、少なくとも、最上流に位置する第1槽目の反応槽に中和剤Aとして前記ニッケルコバルト混合水酸化物を添加し、
前記第1槽目の反応槽に続けて設けられている第2槽目以降の反応槽には、中和剤Bとして前記ニッケルコバルト混合水酸化物とは異なる中和剤を添加し、
前記第1槽目の反応槽での中和後の溶液のpHが2.0以上2.5以下となるように、前記中和剤Aを添加し、
最下流に位置する反応槽での中和後の溶液のpHが2.8以上3.2以下となるように、前記第2槽目以降の反応槽に前記中和剤Bを添加する、
ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法。
【請求項2】
前記ニッケルコバルト混合水酸化物としては、前記浸出スラリーを原料とする製造プロセスを経て製造されるものを利用する、
請求項1に記載のニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法。
【請求項3】
前記中和剤Bは石灰石スラリーである、
請求項に記載のニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法。
【請求項4】
前記浸出スラリーに含まれる前記遊離酸の濃度は30g/L~60g/Lである、
請求項1乃至のいずれかに記載のニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法。
【請求項5】
前記浸出スラリーに含まれるニッケルの濃度は5g/L~10g/Lであり、鉄の濃度は3g/L~10g/Lである、
請求項1乃至のいずれかに記載のニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法。
【請求項6】
前記浸出スラリーのスラリー濃度は30質量%~50質量%である、
請求項1乃至のいずれかに記載のニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法。
【請求項7】
前記2槽以上の反応槽内の前記浸出スラリーのpH又はpHのバラつきを経時的に測定し、その測定結果に基づいて、前記2槽以上の反応槽のそれぞれに添加される前記中和剤A及び中和剤Bの添加量をフィードバック制御する請求項1乃至6のいずれかに記載のニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケルコバルト混合硫化物を製造するニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケルはステンレスの原料として幅広く用いられており、その原料となる硫化鉱石の資源枯渇傾向に伴い、低品位の酸化鉱石を精製する技術が開発され、実用化されている。
【0003】
具体的には、リモナイトやサプロライト等のニッケル酸化鉱石を、硫酸溶液と共にオートクレーブ等の加圧装置に入れ、240℃~260℃程度の高温高圧下でニッケルを浸出する高温加圧酸浸出(HPAL:High Pressure Acid Leach)」法と呼ばれる製造プロセスが実用化されている。
【0004】
HPAL法に基づく製造プロセスにおいて、ニッケルを硫酸溶液中に浸出させたのち、中和剤の添加により余剰の酸が中和され、次いで固液分離することで浸出残渣と分離される。その後、浸出液中のニッケルは、不純物が分離され、水酸化物や硫化物等の形態の中間原料として回収される。そして、その中間原料をさらに製錬することにより、ニッケルメタルやニッケル塩化合物等が製造される(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
例えば、その中間原料として、ニッケルコバルト混合水酸化物(MHP)が回収される。ニッケルコバルト混合水酸化物は、ニッケル塩類、特に硫酸ニッケルの製造原料として使用されている。ニッケル塩類は、一般電解めっきのほか、ハードディスク用の無電解めっき等のめっき原料、触媒、電池材料等として使用されているが、近年、より高純度なニッケル塩類が市場から求められるようになっている。
【0006】
また、中間原料としてのニッケルコバルト混合硫化物(MS)は、高純度の電気ニッケルや硫酸ニッケルまで精製するための原料として用いられている。ここで、「高純度」とは、亜鉛をはじめとする不純物の含有量が所定レベル以下に管理された品質をいう。したがって、低亜鉛品位、すなわち所定規格(亜鉛品位≦250重量ppm)の範囲に品質保証されたニッケルコバルト混合硫化物が求められている。
【0007】
ところが、最終製品市場の需要変動により、上述した中間原料であるニッケルコバルト混合水酸化物やニッケルコバルト混合硫化物の需給バランスが崩れると、余剰に中間原料が発生する等、生産コストアップの原因になっていた。
【0008】
さて、HPAL法に基づく製造プロセスにおいて、ニッケル酸化鉱石に対して浸出処理を施して得られた浸出スラリーに対しては、続く予備中和工程にてpHの調整を行って中和処理を施すことで、スラリー中の遊離酸を除去している。このとき、予備中和工程における中和処理では、不純物である鉄の沈殿を促進させるために、浸出スラリーのpHを極力高く維持している。また、調整する浸出スラリーpHによっては、予備中和工程に続いて設けられている固液分離工程でのシックナー等の固液分離装置から得られるオーバーフロー液(浸出液)の濁度上昇を引き起こす。
【0009】
そのため、予備中和工程では、調整する浸出液のpHとして、鉄の沈殿を促進するために高めに維持し、且つ、シックナーオーバーフロー液の濁度の上昇を生じさせることのない範囲に調整することが求められている。
【0010】
しかしながら、従来の予備中和工程における中和処理では、pHのばらつきが大きくなることがあり、その結果、オーバーフロー液の濁度を上昇させる原因にもなっていた。オーバーフロー液の濁度の上昇は、最終的に得られるニッケルコバルト混合硫化物の実収率にも影響する。そのため、予備中和工程での中和処理において、pHのばらつきを抑えて安定的に処理を行えるようにすることが求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2016-6233号公報
【文献】特開2016-222989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上述したような実情に鑑みてなされたものであり、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法における予備中和の処理において、pHのばらつきを抑えて安定的な処理を行うことができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法における予備中和工程において、中和剤としてニッケルコバルト混合水酸化物(MHP)を用いることで、上述した課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
(1)本発明の第1の発明は、ニッケル酸化鉱石を浸出して得られる浸出スラリーから、ニッケルコバルト混合硫化物を製造するニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法であって、前記ニッケル酸化鉱石に硫酸を添加して浸出処理を施す浸出工程と、前記浸出処理により得られる前記浸出スラリーに中和剤を添加して中和処理を施し、該浸出スラリーに含まれる遊離酸を除去する予備中和工程と、を含み、前記予備中和工程では、前記中和剤としてニッケルコバルト混合水酸化物を用いる、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法である。
【0015】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記ニッケルコバルト混合水酸化物としては、前記浸出スラリーを原料とする製造プロセスを経て製造されるものを利用する、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法である。
【0016】
(3)本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記予備中和工程では、直列に設けられた2槽以上の反応槽を使用して連続的に多段階の中和処理を行い、少なくとも、最上流に位置する第1槽目の反応槽に中和剤Aとして前記ニッケルコバルト混合水酸化物を添加する、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法である。
【0017】
(4)本発明の第4の発明は、第3の発明において、前記第1槽目の反応槽に続けて設けられている第2槽目以降の反応槽には、中和剤Bとして前記ニッケルコバルト混合水酸化物とは異なる中和剤を添加する、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法である。
【0018】
(5)本発明の第5の発明は、第4の発明において、前記中和剤Bは石灰石スラリーである、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法である。
【0019】
(6)本発明の第6の発明は、第4又は第5の発明において、前記第1槽目の反応槽での中和後の溶液のpHが2.0以上2.5以下となるように前記中和剤Aを添加し、最下流に位置する反応槽での中和後の溶液のpHが2.8以上3.2以下となるように、前記第2槽目以降の反応槽に前記中和剤Bを添加する、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法である。
【0020】
(7)本発明の第7の発明は、第1乃至第6のいずれかの発明において、前記浸出スラリーに含まれる前記遊離酸の濃度は30g/L~60g/Lである、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法である。
【0021】
(8)本発明の第8の発明は、第1乃至第7のいずれかの発明において、前記浸出スラリーに含まれるニッケルの濃度は5g/L~10g/Lであり、鉄の濃度は3g/L~10g/Lである、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法である。
【0022】
(9)本発明の第9の発明は、第1乃至第8のいずれかの発明において、前記浸出スラリーのスラリー濃度は30質量%~50質量%である、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法における予備中和の処理において、pHのばらつきを抑えて安定的な処理を行うことができる方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスの流れの一例を示す工程図である。
図2】遊離酸除去設備の構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。
【0026】
≪1.概要≫
本実施の形態に係るニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法は、ニッケル酸化鉱石に対して高温高圧下で硫酸等の酸による浸出処理を施し、得られる浸出スラリーからニッケルコバルト混合硫化物(MS)を製造するものである。
【0027】
具体的に、この方法は、ニッケル酸化鉱石に硫酸を添加して浸出処理を施す浸出工程と、浸出処理により得られる浸出スラリーに中和剤を添加して中和処理を施して浸出スラリーに含まれる遊離酸を除去する予備中和工程と、を含む。そして、その中和工程では、中和剤としてニッケルコバルト混合水酸化物(MHP)を用いることを特徴としている。
【0028】
ここで、浸出スラリーに含まれる遊離酸を除去する予備中和工程における処理(予備中和処理)を経て、その後固液分離を行うことで得られる浸出液(オーバーフロー液)の濁度上昇に関しては、その予備中和処理において浸出スラリーのpHが高めに振れた際に発生する。一方で、浸出スラリーに含まれる鉄の沈殿を促進させるためには、浸出スラリーのpHを高めに調整する必要がある。そのため、固液分離して得られるオーバーフロー液の濁度の上昇を防ぐとともに、鉄を十分に沈殿物化させて除去するためには、浸出スラリーのpHが過度に高めに振れることを抑える必要があり、pHのばらつきを抑制して、所望とするpH範囲に安定的に調整することが好ましくなる。
【0029】
本発明者による検討の結果、浸出スラリーに対する予備中和処理において、中和剤としてニッケルコバルト混合水酸化物を用いることで、浸出スラリーのpHのばらつきを効果的に抑えることができ、浸出スラリーのpHが過度に高く振れることを抑制できることを見出した。
【0030】
したがって、このような方法によれば、pHのばらつきを抑えながら安定的に予備中和処理を行うことができ、浸出スラリーに含まれる鉄を有効に沈殿物としながら、固液分離を経て回収されるオーバーフロー液(浸出液)の濁度上昇を抑制することができる。そしてこのことにより、最終的に得られるニッケルコバルト混合硫化物の実収率の低下を抑えて、効率的にかつ効果的な操業を行うことが可能となる。
【0031】
しかも、中和剤として用いるニッケルコバルト混合水酸化物は、ニッケル酸化鉱石に対して浸出処理を施して得られた浸出スラリーを原料として、公知のニッケルコバルト混合水酸化物の製造プロセスを経て製造することができるものであり、そのようなニッケルコバルト混合水酸化物を中和剤として利用することで、余剰の中間原料を活用した効率的な操業が可能となり、生産効率を向上させることができる。
【0032】
さらに、ニッケルコバルト混合水酸化物は、ニッケル及びコバルトを含むものであるため、ニッケルコバルト混合硫化物を製造するプロセスに中和剤として添加しても、不純物成分とはならず、ニッケルコバルト混合硫化物の生産量の増加にもつながる。
【0033】
≪2.ニッケル酸化鉱石の製錬プロセスについて≫
まず、上述した予備中和処理を行う工程(予備中和工程)を含むニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスについて説明する。ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスでは、原料であるニッケル酸化鉱石からニッケル及びコバルトを浸出させ、その浸出液からニッケル及びコバルトの混合硫化物(ニッケルコバルト混合硫化物)を製造する方法である。なお、以下では、ニッケル酸化鉱石を高温高圧下で硫酸により浸出させるHPLA法に基づくプロセスについて説明する。
【0034】
図1は、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスの流れの一例を示す工程図である。図1に示すように、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスは、ニッケル酸化鉱石のスラリーに硫酸を添加して高温高圧下で浸出処理を施す浸出工程S1と、浸出スラリーのpHを所定範囲に調整して予備中和を行う予備中和工程S2と、pH調整された浸出スラリーを多段洗浄しながら残渣を分離してニッケル及びコバルトと共に不純物元素を含む浸出液を得る固液分離工程S3と、浸出液のpHを調整して中和処理を行う中和工程S4と、中和終液に硫化剤を添加することでニッケルコバルト混合硫化物を生成させる硫化工程S5と、を有する。また、固液分離工程S3にて分離された浸出残渣や硫化工程S5にて排出された貧液を回収して無害化する最終中和工程S6を有する。
【0035】
(1)浸出工程
浸出工程S1では、オートクレーブ等の高温加圧反応槽を用い、ニッケル酸化鉱石のスラリー(鉱石スラリー)に硫酸を添加して、230℃~270℃程度の温度、3MPa~5MPa程度の圧力の条件下で撹拌する浸出処理を施し、浸出液と浸出残渣とからなる浸出スラリーを生成する。
【0036】
ニッケル酸化鉱石としては、主としてリモナイト鉱及びサプロライト鉱等のいわゆるラテライト鉱が挙げられる。ラテライト鉱のニッケル含有量は、通常、0.8質量%~2.5質量%程度であり、水酸化物又はケイ酸マグネシウム鉱物として含有される。また、鉄の含有量は、10質量%~50質量%程度であり、主として3価の水酸化物の形態であるが、一部2価の鉄がケイ苦土鉱物に含有される。
【0037】
浸出処理では、例えば下記式(a)~(e)で表される浸出反応と高温熱加水分解反応が生じ、ニッケル、コバルト等の硫酸塩としての浸出と、浸出された硫酸鉄のヘマタイトとしての固定化が行われる。ただし、鉄イオンの固定化は完全には進行しないため、通常、得られる浸出スラリーの液部分には、ニッケル、コバルト等の他に2価と3価の鉄イオンが含まれる。
【0038】
・浸出反応
MO+HSO→MSO+HO ・・(a)
(なお、式中Mは、Ni、Co、Fe、Zn、Cu、Mg、Cr、Mn等を表す)
2Fe(OH)+3HSO→Fe(SO+6HO ・・(b)
FeO+HSO→FeSO+HO ・・(c)
・高温熱加水分解反応
2FeSO+HSO+1/2O→Fe(SO+HO ・・(d)
Fe(SO+3HO→Fe+3HSO ・・(e)
【0039】
浸出処理における硫酸の添加量としては、特に限定されないが、鉱石中の鉄が浸出されるような過剰量が用いられる。例えば、鉱石1トン当り300kg~400kgとする。また、後工程の固液分離工程S3で生成されるヘマタイトを含む浸出残渣の濾過性の観点から、得られる浸出液のpHが0.1~1.0となるように調整することが好ましい。
【0040】
(2)予備中和工程
予備中和工程S2では、浸出処理により得られた浸出スラリーのpHを所定範囲に調整する。浸出処理では、浸出率を向上させる観点から過剰の硫酸を添加しているため、浸出スラリーには浸出反応に関与しなかった余剰の硫酸、すなわち遊離酸が含まれており、そのpHは低い。予備中和工程S2では、浸出スラリーに中和剤を添加してpHを所定範囲に調整することによって遊離酸を除去する。
【0041】
ここで、中和処理の対象である浸出スラリー関して、特に限定はされないが、スラリー濃度は30質量%~50質量%程度である。また、浸出スラリーに含まれる遊離酸の濃度は30g/L~60g/L程度である。また、浸出スラリーに含まれるニッケルの濃度は5g/L~10g/Lであり、鉄の濃度は3g/L~10g/Lである。
【0042】
詳しくは後述するが、予備中和工程S2での予備中和処理においては、中和剤としてニッケルコバルト混合水酸化物(MHP)を用いる。このような予備中和処理によれば、pHのばらつきを抑えながら安定的に中和処理を行うことができ、浸出スラリーに含まれる鉄を有効に沈殿物としながら、固液分離を経て回収されるオーバーフロー液(浸出液)の濁度上昇を抑制することができる。
【0043】
予備中和処理においては、直列に設けられた2槽以上の反応槽を使用して連続的に多段階の中和処理を行うようにすることができる。そして、少なくとも、最上流に位置する第1槽目の反応槽に中和剤Aとしてニッケルコバルト混合水酸化物を添加する。また、第1槽目の反応槽に続けて設けられている第2槽目以降の反応槽には、中和剤Bとしてニッケルコバルト混合水酸化物とは異なる中和剤、例えば石灰石スラリーを添加する。
【0044】
複数の反応槽を用いて多段階の中和処理を行う場合、第1槽目の反応槽は、中和後の溶液のpHが2.0以上2.5以下となるように浸出スラリーに中和剤Aであるニッケルコバルト混合水酸化物を添加する。また、第2槽目以降の反応槽では、最下流に位置する反応槽での中和後の溶液のpHが2.8以上3.2以下となるように中和剤Bを添加する。
【0045】
このようにすることで、浸出スラリーのpHのばらつきをより効果的に抑えることができ、中和処理の安定性を高めることができる。そしてこれにより、浸出スラリー中の鉄の沈殿を促進させるとともに、次工程の固液分離工程S3で得られる、シックナー等の固液分離装置からのオーバーフロー液の濁度上昇を効果的に抑えることができる。また、オーバーフロー液の濁度上昇を抑制できることにより、次工程以降での処理を効率的に行うことができ、ニッケルコバルト混合硫化物の実収率の低下も防ぐことができる。
【0046】
(3)固液分離工程
固液分離工程S3では、シックナー等の固液分離装置を用いて、予備中和工程S2にてpH調整を行った浸出スラリーを多段で洗浄しながら、ニッケルやコバルト等の有価金属を含む浸出液と浸出残渣とに分離する固液分離処理を施す。
【0047】
具体的には、先ず、浸出スラリーが洗浄液により希釈され、次に、浸出スラリー中の浸出残渣がシックナーの沈降物として濃縮される。これにより、浸出残渣に付着するニッケル分をその希釈度合に応じて減少させることができる。実操業では、このような機能を持つシックナーを多段に連結して用いることにより、ニッケルやコバルトの回収率の向上を図ることができる。なお、洗浄液としては、工程に影響を及ぼさないものであって、pHが1~3の水溶液を用いることが好ましく、例えば硫化工程S5で得られる低pHの貧液を繰り返して利用することができる。
【0048】
シックナー等の固液分離装置から得られるオーバーフロー液は、浸出液として回収されて、次工程に移送される。本実施の形態においては、上述した予備中和工程S2においてニッケルコバルト混合水酸化物を中和剤として用いた処理を行っているため、オーバーフロー液の濁度の上昇を抑えることができる。
【0049】
(4)中和工程
中和工程S4では、固液分離工程S3で分離回収された浸出液の酸化を抑制しながら、酸化マグネシウムや炭酸カルシウム等の中和剤を添加して中和処理を施し、3価の鉄を含む中和殿物スラリーとニッケル回収用母液である中和終液とを得る。
【0050】
具体的に、中和工程S4では、浸出液の酸化を抑制しながら、得られる中和終液のpHが4.0以下、好ましくは3.0~3.5、より好ましくは3.1~3.2になるように、浸出液に炭酸カルシウム等の中和剤を添加し、ニッケル及びコバルト回収用の母液となる中和終液と、不純物元素として3価の鉄を含む中和殿物スラリーとを形成する。
【0051】
なお、中和終液は、中和処理により得られたスラリー(中和殿物スラリー)を固液分離することによって回収される。中和終液は、上述したように、浸出工程S1において原料のニッケル酸化鉱石に対して硫酸による浸出処理を施して得られた浸出液に基づく溶液であって、ニッケル及びコバルトを含む硫酸酸性溶液である。
【0052】
(5)硫化工程
硫化工程S5では、ニッケル及びコバルト回収用母液である中和終液を硫化反応始液とし、その硫化反応始液に対して硫化水素ガス等の硫化剤を添加することで硫化反応を生じさせ、不純物成分の少ないニッケル及びコバルトの混合硫化物と、ニッケル及びコバルトの濃度を低い水準で安定させた貧液とを生成させる。なお、中和終液中に亜鉛が含まれる場合には、硫化物としてニッケルやコバルトを分離するに先立って、亜鉛を硫化物として選択的に分離することができる。
【0053】
硫化工程S5における硫化処理は、硫化反応槽等を用いて行うことができ、硫化反応槽に装入した硫化反応始液に対して、例えばその反応槽内の気相部分に硫化水素ガスを吹き込み、溶液中に硫化水素ガスを溶解させることで硫化反応を生じさせる。このような硫化処理により、硫化反応始液中に含まれるニッケル及びコバルトを混合硫化物として固定化する。硫化反応の終了後、生成したニッケルコバルト混合硫化物を含むスラリーをシックナー等の沈降分離装置に装入して沈降分離処理を施し、ニッケルコバルト混合硫化物のみをシックナーの底部より分離回収する。
【0054】
本実施の形態においては、以上のような各処理工程を経ることによって、ニッケルコバルト混合硫化物を製造することができる。特に、本実施の形態においては、予備中和工程S2において、中和剤としてニッケルコバルト混合水酸化物を用いた予備中和処理を行うようにしているため、浸出スラリーのpHのバラつきを効果的に抑えることができる。これにより、より効果的に鉄の沈殿を促進させて浸出液中における鉄の濃度を減少させることができるとともに、固液分離を経て得られたオーバーフロー液、すなわち浸出液の濁度上昇を抑えることができ、次工程以降の処理を効率的に行うことができる。また、ニッケルコバルト混合硫化物の実収率の低下を防ぐことができる。
【0055】
なお、硫化工程S5を経て分離された水溶液成分は、シックナーの上部からオーバーフローさせて貧液として回収する。回収した貧液は、ニッケル等の有価金属濃度の極めて低い溶液であり、硫化されずに残留した鉄、マグネシウム、マンガン等の不純物元素を含む。この貧液は、最終中和工程S6に移送されて無害化処理される。
【0056】
(6)最終中和工程
最終中和工程S6では、上述した固液分離工程S3における固液分離処理により分離された浸出残渣や、硫化工程S5にて回収された、鉄、マグネシウム、マンガン等の不純物元素を含む貧液等に対して、排出基準を満たす所定のpH範囲に調整する中和処理(無害化処理)が施される。pHの調整方法としては、特に限定されないが、例えば炭酸カルシウムスラリー等の中和剤を添加することによって所定の範囲に調整することができる。
【0057】
≪3.予備中和工程での処理(予備中和処理)について≫
ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスでは、上述したように、予備中和工程S2において、浸出スラリーのpHを調整して、浸出処理での反応に関与しなかった余剰の硫酸、すなわち遊離酸を除去する処理(予備中和処理)を行う。
【0058】
具体的に、予備中和処理では、得られた浸出スラリーのpHを極力高めに維持するように調整する。浸出スラリーのpHが低すぎると、次工程以降で使用する処理設備を耐酸性とする必要が生じてコストがかかるだけでなく、浸出スラリーに含まれる不純物である鉄の沈殿物化が進行せず、浸出液中の鉄の含有量が多くなる。そのため、予備中和処理によってpHを高めに調整することで、例えば、その浸出スラリーを固液分離して得られる浸出残渣の鉄品位が40質量%~55質量%となるように鉄の沈殿を促進させる。
【0059】
一方で、浸出スラリーのpHによっては、予備中和工程S2の続く固液分離工程S3でのシックナー等の固液分離装置からのオーバーフロー液(浸出液)の濁度上昇を引き起こすことが知られている。オーバーフロー液の濁度上昇は、次工程以降の処理効率を低下させ、延いては、ニッケルコバルト混合硫化物の実収率を低下させる。
【0060】
オーバーフロー液の濁度上昇は、予備中和処理を経て得られる浸出スラリーのpHが高めに振れた際に発生することが見出されている。上述したように、浸出工程S1を経て得られた浸出スラリーに含まれる鉄の沈殿を促進させるためには、浸出スラリーのpHを高めに調整する必要がある。ところが一方で、次工程の固液分離工程S3の処理で得られるオーバーフロー液の濁度の上昇を防ぐためには、その浸出スラリーのpHが過度に高めに振れることを抑える必要があり、pHのばらつきを抑制して、所望とするpH範囲に安定的に調整できることが望ましい。
【0061】
本発明者は、予備中和処理において用いる中和剤について検討した結果、特定の中和剤を用いることで、pHのばらつきを抑えて安定的に中和処理を行うことができることを見出した。具体的に、本実施の形態に係る方法では、予備中和処理において中和剤としてニッケルコバルト混合水酸化物(MHP)を用いることを特徴としている。このようにニッケルコバルト混合水酸化物を中和剤として用いて処理することで、pHのばらつきを抑えながら効果的に遊離酸を除去することができ、浸出スラリーのpHが過度に高めに振れることを抑えることができる。
【0062】
より具体的に、予備中和処理について説明する。予備中和処理では、例えば遊離酸除去設備を用いて行う。図2は、遊離酸除去設備の構成の一例を示す図である。遊離酸除去設備は、上述したように、ニッケル酸化鉱石を高圧酸浸出して得られる浸出スラリー中の遊離酸を除去する設備である。
【0063】
図2に示すように、遊離酸除去設備1は、浸出スラリーに対して連続的に処理するための2槽以上の反応槽11と、処理対象である浸出スラリーに中和剤を添加する薬剤添加部12と、薬剤添加部を介した中和剤の添加量を制御する制御部13と、を備える。なお、予備中和処理は、図2に示すような2槽以上の反応槽を用いた多段階の処理を行うことに限られず、単一槽の反応槽でもって処理を行うようにしてもよい。
【0064】
[反応槽]
反応槽11では、浸出処理により得られた浸出スラリー、すなわち浸出液と浸出残渣との混合スラリーが収容され、pH調整に基づく予備中和処理が行われる。遊離酸除去設備1においては、2槽以上の反応槽11(11(1),11(2))が直列に設けられており、浸出スラリーに対する中和処理が連続的に多段階で行われる。
【0065】
具体的には、まず、最上流に位置して最初に処理される反応槽である第1槽目の反応槽11(1)に浸出スラリーが収容されて中和剤の添加により中和処理が行われる。次に、反応槽11(1)での処理後の浸出スラリーが、続けて設けられている第2槽目の反応槽11(2)に移送され、その反応槽11(2)にて中和剤の添加による中和処理が行われる。なお、反応槽が3槽以上設けられている場合には、以降同様にして連続的な多段階の中和処理が行われる。本明細書では、第nの反応槽を「反応槽11(n)」と符号表記し、図2に一例を示す構成図では第1槽目の反応槽11(1)(最上流の反応槽)と、第2槽目の反応槽11(2)(最下流の反応槽)との2槽からなる設備の構成を示す。
【0066】
[薬剤添加部]
薬剤添加部12は、浸出スラリーを収容した反応槽11に対して所定量の中和剤を添加する。薬剤添加部12を介した浸出スラリーに対する中和剤の添加により、反応槽11に収容された浸出スラリーに対する中和処理が行われる。
【0067】
薬剤添加部12は、2槽以上の反応槽11(11(1),11(2))のそれぞれに個別に設けられるようにすることができ、それぞれの薬剤添加部12を介して、対応する反応槽11に所定量の中和剤を添加することができる。
【0068】
本実施の形態に係る方法では、上述したように、中和剤としてニッケルコバルト混合水酸化物を用いる。そして、図2に示すような複数の反応槽11が連続的に設けられている遊離酸除去設備においては、少なくとも、最上流に位置する第1槽目の反応槽11(1)に中和剤Aとしてニッケルコバルト混合水酸化物(MHP)を添加する。また、好ましくは、第1槽目の反応槽11(1)に続けて設けられている第2槽目以降の反応槽11(2),には、中和剤Bとしてニッケルコバルト混合水酸化物とは異なる中和剤を添加する。
【0069】
中和剤に関して、上述した中和剤Aであるニッケルコバルト混合水酸化物(MHP)を用いることで、浸出スラリーのpHのばらつきを抑え、過度に高めに振れることを抑制でき、安定的な中和処理を行うことができる。また、ニッケルコバルト混合水酸化物は、ニッケル酸化鉱石に対して浸出処理を施して得られた浸出スラリーを原料として、公知のニッケルコバルト混合水酸化物の製造プロセスを経て製造することができるものであり、そのようなニッケルコバルト混合水酸化物を中和剤として利用することで、余剰の中間原料を活用した効率的な操業が可能となり、新規な中和剤の使用量を削減しながら、生産効率を向上させることができる。
【0070】
さらに、ニッケルコバルト混合水酸化物は、ニッケル及びコバルトを含むものであるため、ニッケルコバルト混合硫化物を製造するプロセスに中和剤として添加しても不純物成分とはならず、ニッケル原料として活用でき、ニッケルコバルト混合硫化物の生産量の増加につながる。
【0071】
中和剤Bとしては、特に限定されないが、石灰石スラリーであることが好ましい。石灰石スラリーは、取り扱いが容易であり、また安価な中和剤であり、例えば浸出スラリーをpH2.8~3.2程度の範囲に調整するのに特に適している。中和剤Bとして石灰石スラリーを用いた場合、その濃度としては特に限定されないが、20質量%以上35質量%以下であることが好ましく、25質量%以上30質量%以下であることがより好ましい。石灰石スラリーの濃度が20質量%未満であると、石灰石スラリーの量が増えるため、石灰石スラリーを添加した後の浸出スラリーの量が増加する、すなわち、処理する工程液の量が増加するため好ましくない。一方で、石灰石スラリーの濃度が35質量%を超えると、その石灰石スラリーと浸出スラリーとの反応性が低下するため好ましくない。
【0072】
上述したように、複数の反応槽11が連続的に設けられている遊離酸除去設備にて予備中和処理を行う場合には、少なくとも、最上流に位置する第1槽目の反応槽11(1)に中和剤Aとしてニッケルコバルト混合水酸化物(MHP)を添加し、第2槽目以降の反応槽11(2),に中和剤Bとして石灰石スラリー等を添加する。具体的には、第1槽目の反応槽11(1)での中和後の溶液のpHが2.0以上2.5以下となるように中和剤Aであるニッケルコバルト混合水酸化物を添加し、最下流に位置する反応槽11(2)での中和後の溶液のpHが2.8以上3.2以下となるように第2槽目以降の反応槽11(2)に中和剤Bを添加することが好ましい。
【0073】
なお、例えば中和剤Bとして石灰石スラリーを用いた場合、石灰石の中和反応はそれほど速いものではないため、第2槽目以降の反応槽11(2)に石灰石スラリーを多量に添加すると、後工程の固液分離工程S3での処理においてシックナーの上澄み液部でも反応による発泡が生じ、濁度低減の点で好ましくない。そのため、第1槽目の反応槽11(1)の中和後の設定pHを2.0以上2.5以下とすることで、ある程度、第1槽目の反応槽11(1)で中和反応を完了させることが好ましい。
【0074】
一方、浸出スラリーに含まれる鉄の沈殿物化を促進する観点からすると、固液分離に供される浸出スラリーのpHが2.8以上3.2に調整することが好ましくなる。この点、上述したように、第1槽目の反応槽11(1)にニッケルコバルト混合水酸化物を添加し、第2槽目以降の反応槽11(2)に石灰石スラリー等のニッケルコバルト混合水酸化物以外の中和剤を添加して予備中和処理を行うようにすることで、より効果的に、鉄の沈殿物化を促進させることができるとともに、pHのばらつきを抑えて、浸出スラリーを固液分離して回収されるオーバーフロー液(浸出液)の濁度上昇を抑制することができる。
【0075】
なお、薬剤添加部12を介した中和剤A,Bの添加は、上述した反応槽11(11(1),11(2))に対して直接添加してもよく、その反応槽11に浸出スラリーを導入する配管や樋等に添加してもよい。いずれの添加態様であっても、「反応槽に添加する」との意味に含まれる。
【0076】
[制御部]
制御部13は、薬剤添加部12からの中和剤A,Bの添加及びその添加量を制御する。制御部13は、例えば、薬剤添加部12が2槽以上の反応槽11(11(1),11(2))のそれぞれに対応するように2つ以上設けられており、それぞれの薬剤添加部12に電気的な信号を送信できるように接続される。そして、制御部13からの制御信号に基づいて、薬剤添加部12から反応槽11に対する中和剤A,Bの添加量が制御される。
【0077】
なお、それぞれの反応槽11にpH計14を設けるようにし、反応槽11内の浸出スラリーのpHを経時的に測定して、その測定結果に関する信号を制御部13に送信するようにしてもよい。制御部13では、pHの測定結果に基づいて、薬剤添加部12を介してそれぞれの反応槽11に添加される中和剤の添加量をフィードバック制御する。また、制御部13では、pHの測定結果に基づいて等分散検定を行うようにし、pHのバラつきを測定することによって、中和剤の添加量をフィードバック制御するようにしてもよい。
【0078】
本実施の形態に係る方法では、例えば上述したような遊離酸除去設備1を用いて予備中和処理を行う。そして、中和剤としてニッケルコバルト混合水酸化物を用いることを特徴としている。
【0079】
このように、ニッケルコバルト混合水酸化物を中和剤として用いて予備中和処理を行うことで、浸出スラリーのpHのばらつきを抑え、過度に高めに振れることを抑制でき、浸出スラリーを固液分離して回収されるオーバーフロー液(浸出液)の濁度上昇を抑制することができる。また、ニッケルコバルト混合水酸化物は、ニッケル酸化鉱石に対して浸出処理を施して得られた浸出スラリーを原料とし、公知のニッケルコバルト混合水酸化物の製造プロセスを経て製造することができるものである。そのようなニッケルコバルト混合水酸化物を中和剤として利用することで、余剰の中間原料を活用した効率的な操業が可能となり、新規な中和剤の使用量を削減して、生産効率を向上させることができる。さらに、ニッケルコバルト混合水酸化物は、ニッケル及びコバルトを含むためニッケル原料として活用でき、ニッケルコバルト混合硫化物の生産量の増加につなげることができる。
【0080】
また、図2に例示したような、直列に設けられた2槽以上の反応槽を使用して連続的に多段階の中和処理を行う場合には、少なくとも、最上流に位置する第1槽目の反応槽11(1)に中和剤Aとしてニッケルコバルト混合水酸化物を添加する。また、第1槽目の反応槽11(1)に続けて設けられている第2槽目以降の反応槽11(2)には、中和剤Bとしてニッケルコバルト混合水酸化物とは異なる中和剤を添加する。このようにすることで、より効果的に、鉄の沈殿物化を促進させることができるとともに、pHのばらつきを抑えて、オーバーフロー液(浸出液)の濁度上昇を抑制することができる。
【実施例
【0081】
以下に、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0082】
[実施例1]
ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにおける予備中和工程において(図1参照)、中和剤としてニッケルコバルト混合水酸化物(MHP)を用いた予備中和処理を行った。ニッケルコバルト混合水酸化物については、ニッケル酸化鉱石に対して浸出処理を行って得られた浸出スラリーを原料として、公知のニッケルコバルト混合水酸化物の製造工程から発生した余剰中間原料を利用した。下記表1に、実施例にて用いたニッケルコバルト混合水酸化物の化学組成の分析値を示す。
【0083】
【表1】
【0084】
予備中和処理においては、図2に示したような、2槽の反応槽が直列に設けられた設備を用いて行った。実施例1では、上流側の第1槽目の反応槽に、浸出工程を経て得られた浸出スラリー(pH0.8)を装入し、その反応槽にニッケルコバルト混合水酸化物を添加し溶解させて中和処理を行った。なお、中和剤として添加したニッケルコバルト混合水酸化物から、99.8%のニッケルが溶解した。
【0085】
[比較例1]
比較例1では、実施例1と同様の設備を用いて予備中和処理を行い、上流側の第1槽目に中和後の溶液のpHが3.0となるように石灰石スラリーを添加して中和処理を行い、その後、第2槽目において第1槽目から移送された溶液に対してニッケルコバルト混合水酸化物を添加し溶解させて中和処理を行った。そのこと以外は、実施例1と同様である。なお、第2槽目の反応槽に添加したニッケルコバルト混合水酸化物から、1.7%のニッケルが溶解した。
【0086】
[評価]
下記表2に、ニッケルコバルト混合水酸化物を添加し溶解させた直後の溶液の分析値を示す。
【0087】
【表2】
【0088】
実施例1及び比較例1の処理結果から分かるように、予備中和工程第1槽目の反応槽(pH0.8)にニッケルコバルト混合水酸化物を中和剤として投入し、溶解中和を行うことで、余剰中間原料となったニッケルコバルト混合水酸化物からニッケル及びコバルトが有効に溶解し、ニッケルコバルト混合硫化物の製造原料として有効活用できることがわかった。これにより、生産量の向上が期待でき、また中和剤として従来のような新規な薬剤の使用量の削減も期待できる。
図1
図2