(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】静電チャック部材及び静電チャック装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/683 20060101AFI20241112BHJP
H02N 13/00 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
H01L21/68 R
H02N13/00 D
(21)【出願番号】P 2021057180
(22)【出願日】2021-03-30
【審査請求日】2023-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100206999
【氏名又は名称】萩原 綾夏
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 良樹
【審査官】杢 哲次
(56)【参考文献】
【文献】特開平4-236449(JP,A)
【文献】特開2001-308164(JP,A)
【文献】特表2007-505504(JP,A)
【文献】国際公開第2005/091356(WO,A1)
【文献】特表平9-512418(JP,A)
【文献】特開2002-26113(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
H02N 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を有する板状試料を吸着保持する静電チャック部材であって、
セラミックス誘電体を材料とし、一主面が前記板状試料を載置する載置面である基体と、
前記基体の前記載置面とは反対側、または前記基体の内部に設けられた静電電極と、
前記静電電極と電気的に接続する給電部と、を有し、
前記基体は、前記載置面のうち平面視で前記静電電極が存在する領域において、第1領域と、前記第1領域よりも前記板状試料を速く吸着する第2領域とが設定され、
前記給電部と前記板状試料の間に電圧を印加した際に、前記基体と、前記静電電極と、前記給電部と、前記板状試料とで形成される回路において、
前記第1領域の前記回路の時定数τ1は1ミリ秒以上60秒以下であり、
前記第2領域の前記回路の時定数τ2は前記時定数τ1の0.1倍未満であり、
前記静電電極は、第1導電部と、
第2導電部と、
平面視で前記第1導電部と前記第2導電部との間に、前記第1導電部と連続して設けられた第3導電部と、を有し、
前記第3導電部の体積抵抗率は、前記第1導電部の体積抵抗率および第2導電部の体積抵抗率よりも大きく、
平面視で前記第1導電部と重なる領域は、前記第1領域であり、
平面視で前記第2導電部と重なる領域は、前記第2領域であ
る静電チャック部材。
【請求項2】
導電性を有する板状試料を吸着保持する静電チャック部材であって、
セラミックス誘電体を材料とし、一主面が前記板状試料を載置する載置面である基体と、
前記基体の前記載置面とは反対側、または前記基体の内部に設けられた静電電極と、
前記静電電極と電気的に接続する給電部と、を有し、
前記基体は、前記載置面のうち平面視で前記静電電極が存在する領域において、第1領域と、前記第1領域よりも前記板状試料を速く吸着する第2領域とが設定され、
前記給電部と前記板状試料の間に電圧を印加した際に、前記基体と、前記静電電極と、前記給電部と、前記板状試料とで形成される回路において、
前記第1領域の前記回路の時定数τ1は1ミリ秒以上60秒以下であり、
前記第2領域の前記回路の時定数τ2は前記時定数τ1の0.1倍未満であり、
前記静電電極は、第1導電部と、
前記第1導電部よりも小さい体積抵抗率を有する第2導電部と、を有し、
前記給電部は前記第2導電部に接続されており、
平面視で前記第1導電部と重なる領域は、前記第1領域であり、
平面視で前記第2導電部と重なる領域は、前記第2領域であ
る静電チャック部材。
【請求項3】
導電性を有する板状試料を吸着保持する静電チャック部材であって、
セラミックス誘電体を材料とし、一主面が前記板状試料を載置する載置面である基体と、
前記基体の前記載置面とは反対側、または前記基体の内部に設けられた静電電極と、
前記静電電極と電気的に接続する給電部と、を有し、
前記基体は、前記載置面のうち平面視で前記静電電極が存在する領域において、第1領域と、前記第1領域よりも前記板状試料を速く吸着する第2領域とが設定され、
前記給電部と前記板状試料の間に電圧を印加した際に、前記基体と、前記静電電極と、前記給電部と、前記板状試料とで形成される回路において、
前記第1領域の前記回路の時定数τ1は1ミリ秒以上60秒以下であり、
前記第2領域の前記回路の時定数τ2は前記時定数τ1の0.1倍未満であり、
前記静電電極は、第1導電部と、
前記第1導電部よりも小さい体積抵抗率を有する第2導電部と、を有し、
前記給電部は、前記静電電極の下面と電気的に接続された給電用電極を有し、
前記給電用電極は、少なくとも前記第1導電部及び前記第2導電部と電気的に接続され、
平面視で前記第1導電部と重なる領域は、前記第1領域であり、
平面視で前記第2導電部と重なる領域は、前記第2領域であ
る静電チャック部材。
【請求項4】
導電性を有する板状試料を吸着保持する静電チャック部材であって、
セラミックス誘電体を材料とし、一主面が前記板状試料を載置する載置面である基体と、
前記基体の前記載置面とは反対側、または前記基体の内部に設けられた静電電極と、
前記静電電極と電気的に接続する給電部と、を有し、
前記基体は、前記載置面のうち平面視で前記静電電極が存在する領域において、第1領域と、前記第1領域よりも前記板状試料を速く吸着する第2領域とが設定され、
前記給電部と前記板状試料の間に電圧を印加した際に、前記基体と、前記静電電極と、前記給電部と、前記板状試料とで形成される回路において、
前記第1領域の前記回路の時定数τ1は1ミリ秒以上60秒以下であり、
前記第2領域の前記回路の時定数τ2は前記時定数τ1の0.1倍未満であり、
前記静電電極の体積抵抗率は、前記給電部との接続箇所から平面視で遠ざかる方向に漸増す
る静電チャック部材。
【請求項5】
請求項1から
4のいずれか1項に記載の静電チャック部材を備える静電チャック装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電チャック部材及び静電チャック装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマ工程を実施する半導体製造装置では、簡単に導電性を有する板状試料(ウエハ)を固定することができる静電チャック装置が用いられている。静電チャック装置は、静電チャック部材と称される試料台を備え、プラズマ処理中のウエハを保持している。
【0003】
静電チャック部材は、一主面がウエハを載置する載置面である基体と、載置面に載置したウエハとの間に静電気力(クーロン力)を発生させる静電電極(以下、単に「電極」と称することがある)と、を備えている。静電チャック部材は、電極に電圧を印加して板状試料と電極との間で発生させたクーロン力により、載置面にウエハを吸着保持している。
【0004】
このような静電チャック装置として、独立して制御可能な複数の電極を有し、クーロン力の発生タイミングを調整しながらウエハを吸着保持する構成のものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
特許文献1に記載の静電チャック装置では、例えば中央が下に凸となる反りを有するウエハを吸着保持する場合、載置面の中央部に面する電極に印加した後、載置面の中央部から周縁部に向けて配置されている各電極に順に印加する。これにより、静電チャック装置では、クーロン力が載置面の中央部から周縁部に向けて広がり、反りを有するウエハを良好に吸着保持することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の静電チャック装置は、複数の電極の間が絶縁されており、クーロン力が発生しない。そのため、絶遠された領域の直上は、電極が配置された領域の直上と比べ吸着力が低く、処理にムラが生じるおそれがある。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、良好な板状試料の吸着を実現可能な新規な静電チャック部材を提供することを目的とする。また、上記静電チャック部材を有する静電チャック装置を提供することを併せて目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明の一態様は、以下の態様を包含する。
【0010】
[1]導電性を有する板状試料を吸着保持する静電チャック部材であって、セラミックス誘電体を材料とし、一主面が前記板状試料を載置する載置面である基体と、前記基体の前記載置面とは反対側、または前記基体の内部に設けられた静電電極と、前記静電電極と電気的に接続する給電部と、を有し、前記基体は、前記載置面のうち平面視で前記静電電極が存在する領域において、第1領域と、前記第1領域よりも前記板状試料を速く吸着する第2領域とが設定され、前記給電部と前記板状試料の間に電圧を印加した際に、前記基体と、前記静電電極と、前記給電部と、前記板状試料とで形成される回路において、前記第1領域の前記回路の時定数τ1は1ミリ秒以上60秒以下であり、前記第2領域の前記回路の時定数τ2は前記時定数τ1の0.1倍未満である静電チャック部材。
【0011】
[2]前記静電電極は、第1導電部と、第2導電部と、平面視で前記第1導電部と前記第2導電部との間に、前記第1導電部と連続して設けられた第3導電部と、を有し、前記第3導電部の体積抵抗率は、前記第1導電部の体積抵抗率および第2導電部の体積抵抗率よりも大きく、平面視で前記第1導電部と重なる領域は、前記第1領域であり、平面視で前記第2導電部と重なる領域は、前記第2領域である[1]に記載の静電チャック部材。
【0012】
[3]前記静電電極は、第1導電部と、前記第1導電部よりも小さい体積抵抗率を有する第2導電部と、を有し、前記給電部は前記第2導電部に接続されており、平面視で前記第1導電部と重なる領域は、前記第1領域であり、平面視で前記第2導電部と重なる領域は、前記第2領域である[1]に記載の静電チャック部材。
【0013】
[4]前記静電電極は、第1導電部と、前記第1導電部よりも小さい体積抵抗率を有する第2導電部と、を有し、前記給電部は、前記静電電極の下面と電気的に接続された給電用電極を有し、前記給電用電極は、少なくとも前記第1導電部及び前記第2導電部と電気的に接続され、平面視で前記第1導電部と重なる領域は、前記第1領域であり、平面視で前記第2導電部と重なる領域は、前記第2領域である[1]に記載の静電チャック部材。
【0014】
[5]前記静電電極の体積抵抗率は、前記給電部との接続箇所から平面視で遠ざかる方向に漸増する[1]に記載の静電チャック部材。
【0015】
[6][1]から[5]のいずれか1項に記載の静電チャック部材を備える静電チャック装置。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、良好な板状試料の吸着を実現可能な新規な静電チャック部材を提供することができる。また、上記静電チャック部材を有する静電チャック装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、第1実施形態の静電チャック部材100の概略斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1の線分II-IIにおける矢視断面図である。
【
図3】
図3は、板状試料を載置面11aに載置したときの静電チャック部材100を示す等価回路である。
【
図4】
図4は、第2実施形態の静電チャック部材110を示す概略斜視図である。
【
図6】
図6は、第3実施形態の静電チャック部材120を示す概略斜視図である。
【
図7】
図7は、
本実施形態の静電チャック装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[第1実施形態]
以下、
図1~
図3を参照しながら、本発明の第1実施形態に係る静電チャック部材について説明する。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の寸法や比率などは適宜異ならせてある。
【0019】
図1は、本実施形態の静電チャック部材100の概略斜視図、
図2は、
図1の線分II-IIにおける矢視断面図である。
【0020】
図1,2に示すように、静電チャック部材100は、載置板11と、支持板12と、載置板11と支持板12との間に設けられた静電電極13と、載置板11と支持板12との間に設けられ静電電極13の周囲を絶縁する絶縁材層14と、給電部15とを有している。静電チャック部材100は、載置板11の上面の載置面11aの法線方向から見て円形の部材である。静電チャック部材100は、導電性を有する板状試料Wを吸着保持する。
【0021】
以下の説明では、載置面11aの法線方向から見た視野を「平面視」と称することがある。
本明細書において「絶縁性」とは、体積抵抗率が1×1013Ω・cm以上であることを指す。「絶縁性」の材料とは、体積抵抗率が1×1013Ω・cm以上の材料である。
また、本明細書において「導電性」とは、体積抵抗率が1×1013Ω・cm未満であることを指す。「導電性」の材料とは、体積抵抗率が1×1013Ω・cm未満の材料である。
【0022】
載置板11及び支持板12は、本発明における「基体」に該当する。
【0023】
載置板11、支持板12、静電電極13及び絶縁材層14を含めた全体の厚み、即ち、静電チャック部材100の厚みは、一例として0.7mm以上かつ5.0mm以下である。
【0024】
例えば、静電チャック部材100の厚みが0.7mmを下回ると、静電チャック部材100の機械的強度を確保することが難しくなる。静電チャック部材100の厚みが5.0mmを上回ると、静電チャック部材100の熱容量が大きくなり過ぎ、板状試料Wの面内温度を制御しにくくなる。なお、ここで説明した各部の厚さは一例であって、前記範囲に限るものではない。
【0025】
載置板11及び支持板12は、重ね合わせた面の形状を同じくする円板状の部材である。載置板11及び支持板12は、腐食性ガス及び腐蝕性ガスのプラズマに対する耐久性を有するセラミックス焼結体(誘電体材料)を材料とする。
【0026】
載置板11および支持板12の形成材料としては、酸化アルミニウム-炭化ケイ素(Al2O3-SiC)複合焼結体、酸化アルミニウム(Al2O3)焼結体、窒化アルミニウム(AlN)焼結体、酸化イットリウム(Y2O3)焼結体など一般的に静電チャックに使用される材料を挙げることができる。
【0027】
また、
図2では載置板11と支持板12との間に静電電極13が存在する構成を示しているが、これに限らない。例えば、支持板12に替えて、静電電極13の表面に樹脂等の絶縁性材料で形成する層を配置する構造としてもよい。
【0028】
載置板11の上面は、半導体ウエハ等の板状試料Wを載置する載置面11aである。載置板11の載置面11aには、直径が板状試料Wの厚みより小さい複数の突起部11bが所定の間隔で形成されている。突起部11bは、載置面11aに載置された板状試料Wを支える。静電チャック部材100の載置面11aは、載置板11の上面において最外周に位置する突起部11bの頂面をつないだ仮想面である。
【0029】
突起部11bの間には、ヘリウム(He)等の冷却ガスを流動させることとしてもよい。
【0030】
静電電極13は、電荷を発生させて静電吸着力で板状試料Wを固定するための静電チャック用電極として用いられる。静電電極13は、形状及び大きさを適宜調整することができる。
【0031】
静電チャック部材100で吸着させることができる板状試料Wとしては、シリコンウエハ、炭化ケイ素ウエハ、導電膜付きガラス、導電性フィルムなどの導電性を有する板状試料Wが挙げられる。
【0032】
静電電極13は、導電性複合焼結体で形成されることが好ましい。導電性複合焼結体としては、酸化アルミニウム-炭化タンタル(Al2O3-TaC)、酸化アルミニウム-タングステン(Al2O3-W)、酸化アルミニウム-炭化ケイ素(Al2O3-SiC)、窒化アルミニウム-タングステン(AlN-W)、窒化アルミニウム-タンタル(AlN-Ta)、酸化イットリウム-モリブデン(Y2O3-Mo)、酸化アルミニウム-酸化チタン(Al2O3-TiO2)、酸化イットリウム-酸化セリウム(Y2O3-CeO2)、窒化アルミニウム-酸化ユウロピウム(AlN-Eu2O3)等が挙げられる。
【0033】
導電性複合焼結体は、体積抵抗率を調整するため、上述した各材料の名称に挙げられている2種の成分の他に第3の成分を添加してもよい。「2種の成分」とは、例えば酸化アルミニウム-炭化タンタルであれば、「酸化アルミニウム」と「炭化タンタル」とを指す。
【0034】
また、導電性複合焼結体を材料とする静電電極13よりも低抵抗な電極とする場合、静電電極13の材料として、タングステン(W)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)等の高融点金属を使用することもできる。
【0035】
静電電極13の厚みは、特に限定されるものではないが、例えば、0.1μm以上かつ500μm以下の厚みを選択することができ、50μm以上かつ200μm以下の厚みがより好ましい。また、厚みは面内で一定であることが好ましい。
【0036】
静電電極13の厚みが0.1μm以上であると、充分な導電性を確保できる。また、静電電極13の厚みが0.1μm以上であると、抵抗値を所望の値にすることが容易となる。静電電極13の厚みが500μm以下であると、静電電極13と載置板11及び支持板12との接合界面において、静電電極13と載置板11及び支持板12との間の熱膨張率差に起因したクラックが入り難い。
【0037】
静電チャック部材100は、載置面11aに板状試料Wを載置し静電電極13に印加したとき、載置面11aの位置に応じて板状試料Wを吸着する速さが異なる。載置面11aでは、板状試料Wを吸着する速さが互いに異なる第1領域AR1、第2領域AR2、第3領域AR3が設定されている。
【0038】
第1領域AR1は、載置面11aにおいて、板状試料Wを最も遅く吸着する領域である。
第2領域AR2は、載置面11aにおいて、板状試料Wを最も早くを吸着する領域である。
第3領域AR3は、載置面11aにおいて、第1領域AR1よりも早く且つ第2領域AR2よりも遅く板状試料Wを吸着する領域である。
【0039】
第1領域AR1、第2領域AR2、第3領域AR3の配置は、静電チャック部材100の使用目的、静電チャック部材100によって吸着させる板状試料Wの形状、複数の板状試料Wの間における形状のばらつき等に応じて適宜設定することができる。載置板11においては、板状試料Wにおいて最も遅れて吸着させるべき箇所に対応して第1領域AR1を設定し、板状試料Wにおいて最も早く吸着させるべき箇所に対応して第2領域AR2を設定する。静電チャック部材100においては、第1領域AR1と第2領域AR2との間に第3領域AR3を設定する。
【0040】
静電チャック部材100では、上述のように設定した第1領域AR1、第2領域AR2、第3領域AR3の関係を満たすように、抵抗値を制御した静電電極13を設ける。その際、本実施形態の静電チャック部材100では、第1領域AR1の時定数τ1および第2領域AR2の時定数τ2が所望の値となるように、各導電部に使用する材料の体積抵抗率、導電部の厚さや面積などの形状を適宜決めて静電チャック部材を作製する。
【0041】
静電電極13は、第1導電部131、第2導電部132及び第3導電部133を有する。第1導電部131、第2導電部132及び第3導電部133は、円形の載置板11の中心と同じ中心の同心円状に設けられている。第2導電部132が最も中心側に位置し、外側に向かって第3導電部133、第1導電部131の順に連続して並んでいる。
【0042】
平面視で第1導電部131と重なる領域は第1領域AR1であり、平面視で第2導電部132と重なる領域は第2領域AR2であり、平面視で第3導電部133と重なる領域は第3領域AR3である。
【0043】
すなわち、静電チャック部材100において、第1領域AR1と第2領域AR2とは、円形の載置板11の中心と同じ中心の同心円状に設定されている。第2領域AR2は、載置面11aの中心に設定された円形の領域である。第2領域AR2の外側に第3領域AR3が円環状に設定されている。さらに、第3領域AR3の外側には、円環状の第1領域AR1が設定されている。
【0044】
各導電部の抵抗値を所定の値とするために、各導電部に用いる材料として、それぞれ異なる体積抵抗率を有する材料を使用することが好ましい。
【0045】
第1導電部131の体積抵抗率は、第2導電部132と同じであってもよく、第3導電部133と同じであってもよい。第1導電部131の体積抵抗率は、第3導電部133の体積抵抗率よりも小さい(第3導電部133の体積抵抗率は、第1導電部131の体積抵抗率よりも大きい)ことが好ましい。
【0046】
また、第2導電部132の体積抵抗率は、第3導電部133と同じであってもよいが、第3導電部133の体積抵抗率よりも小さいことが好ましい。
【0047】
第1導電部131の体積抵抗率は、第3導電部133の体積抵抗率の0.01倍以下であることが好ましく、0.0001倍以下であることがより好ましい。第1導電部131の体積抵抗率を前記値にすることで第1領域AR1上での時定数τ1が第3導電部133の抵抗値で略決まるようになるため、板状試料Wの吸着を容易に調整することができる。
【0048】
第2導電部132の体積抵抗率は第3導電部133の体積抵抗率の0.01倍以下であることが好ましく、0.0001倍以下であることがより好ましい。第2導電部132の体積抵抗率を前記値にすることで、第2領域AR2上の時定数τ2を第1領域AR1上の時定数τ1の0.1倍未満に制御しやすくなる。
【0049】
第3導電部133の体積抵抗率は所望の時定数を得るために適宜選定することができるが、104Ω・cm以上1013Ω・cm未満であることが好ましく、106Ω・cm以上1011Ω・cm以下であることがより好ましい。第3導電部133の体積抵抗率を前記値にすることで第1領域AR1上の時定数τ1を所望の値に調整することが容易になる。
【0050】
このような静電電極13は、上述の導電性複合焼結体を構成するセラミックス粉末をスクリーン印刷で塗工した後、焼結させることで形成可能である。
【0051】
また、第1導電部と第2導電部の体積抵抗率を作り分けるためには、それぞれの導電性複合焼結体に用いる材料や配合を変える方法や、ジョンセン・ラーベック力型静電チャックの誘電層材料の体積抵抗率を作り分けるための方法などを適宜使用することが出来る。
【0052】
絶縁材層14は、載置面11aの法線方向から見て、静電電極13の周囲(外周)を取り囲む。絶縁材層14は、腐食性ガス及び腐食ガスのプラズマから静電電極13を保護する。さらに絶縁材層14は、平面視における静電チャック部材100の周縁部において、載置板11及び支持板12のそれぞれと接合し、一体化する。
【0053】
絶縁材層14は、載置板11及び支持板12を構成する材料と同一組成の絶縁材料、又は載置板11及び支持板12を構成する材料と主成分が同一の絶縁材料を材料とする。「主成分」とは、材料全体に対する含有率(体積割合)が60%以上である成分のことを指す。
【0054】
絶縁材層14の体積抵抗率は1013Ω・cm以上であることが好ましく、1014Ω・cm以上であることがより好ましい。絶縁材層14の体積抵抗率を前記値にすることで、絶縁層に流れる電荷を小さくすることが出来、電圧切った後の板状試料Wの脱離を容易にすることが出来、絶縁層の耐電圧を向上させることができる。
【0055】
給電部15は、静電電極13に直流電圧を印加する。給電部15は、支持板12を貫通して設けられ、支持板12と接合一体化している。また、給電部15は、静電電極13の第1導電部131に電気的に接続している。なお、「電気的に接続」とは、給電部15と第1導電部131とが導通していることを指す。この意味において、給電部15と第1導電部131とは直接接していてもよく、導電ペースト等の公知の導電材を挟持していてもよい。
【0056】
給電部15の形成材料は、特に制限されないが、熱膨張係数が支持板12の形成材料の熱膨張係数、及び静電電極13の形成材料の熱膨張係数に近似した材料が好ましい。このような材料として、例えば、支持板12を構成する材料の主成分に炭化ケイ素、炭化ニオブ、炭化タンタル、炭化モリブデン、炭化タングステン、タングステン、タンタル、モリブデン等の導電性材料を複合化した導電性セラミック材料を挙げることができる。
【0057】
なお、静電チャック部材100は、静電チャック部材100の内部又は支持板12側の下面又は支持板12の内部に、ヒータ電極を有してもよい。静電チャック部材100においては、ヒータ電極に通電して加熱し、載置面の温度調節に利用することができる。
【0058】
静電チャック部材100について、さらに詳述する。
第1領域AR1、第2領域AR2の面積は静電電極の面積に対して板状試料Wの反りや静電チャックを使用する目的などに応じて任意に設定することができる。静電電極13の面積に対する第1領域AR1、第2領域AR2それぞれの面積の割合を1%から99%の範囲で設定することが好ましく、5%から95%の範囲で設定することがより好ましい。
静電電極13の面積に対する第1領域AR1、第2領域AR2それぞれの面積の割合を前記の範囲にすることで、板状試料Wを均一に吸着することができる。
【0059】
第1領域AR1と第2領域AR2を合計した面積に対する第1領域AR1の面積の割合(以下、割合A)は、1%以上99%以下であることが好ましく、5%以上95%以下であることがより好ましい。割合Aを上述の範囲にすることで、各領域において板状試料Wを均一に吸着することができる。
【0060】
第3領域AR3の面積は、後述する第3領域AR3の幅と第3領域AR3の位置により決まる。静電電極13の面積に対する第3領域AR3の面積の割合(以下、割合B)は、0.1%以上50%以下であることが好ましく、1%以上10%以下であることがより好ましい。割合Bを上述の範囲にすることで、静電電極13への電圧印加を終了後、板状試料Wの脱離を容易にすることが出来る。
【0061】
また、第1領域AR1、第2領域AR2の形状は載置板11と同心円状としてもよく、載置板11内の特定の部位を取り囲む形状にしてもよく、特定の部位を覆う形状にしてもよい。
【0062】
反りを有する板状試料W、すなわち板状試料Wが一方の主面側が凸状となるように湾曲している場合、第1領域AR1及び第2領域AR2の形状が載置板11と同心円状であるとよい。この場合、板状試料Wを載置板11側が凸となるように載置することで、同心円の中心から外側に向けて板状試料Wの反りを戻しながら、板状試料Wを吸着させることができる。
【0063】
また、載置板11に厚さ方向に貫通するガス穴などの貫通孔が設けられ、その上部の板状試料Wを確実に吸着させたい場合、貫通孔(特定の部位)を取り囲む位置に第2領域AR2を設けるとよい。このような構成とすると、貫通孔の上部の板状試料を確実に吸着させることができる。
【0064】
また、「特定の部位」は上述の貫通孔に限らない。載置板11に設けられている給電用端子など、電力印加時に吸着力が弱くなりやすい部位について、当該部位の上部の板状試料Wを確実に吸着させたい場合であっても同様に、当該部位(特定の部位)を取り囲む位置に第2領域AR2を設けるとよい。
【0065】
第1領域AR1および第2領域AR2の幅は5mm以上であることが好ましく10mm以上であることが好ましく30mm以上であることが好ましい。第1領域AR1、第2領域AR2の幅が5mm以下であると、領域の幅が5mm以下の場所での吸着力が不足するためである。
【0066】
第3領域AR3の幅は1mm以上であることが好ましく3mm以上であることが好ましく5mm以上であることが好ましい。第3領域AR3の幅を1mm以上とすることで、第3領域AR3の抵抗値を調整することが容易になる。
【0067】
なお、各領域の「幅」とは、各領域の配列方向における長さを指す。静電チャック部材100においては、第1領域AR1~第3領域AR3が同心円状に設けられていることから、各領域の幅とは、各領域についての載置板11の径方向の長さを指す。
【0068】
第1領域AR1及び第2領域AR2は、給電部15と、載置板11(基体)に載置した板状試料Wとの間に電圧を印加した際に、載置板11と、静電電極13と、給電部15と、載置板11で吸着される板状試料Wと、で形成される回路における時定数τが異なっている。
【0069】
ここで「時定数τ」とは、「載置面に載置した板状試料Wに、載置面に静電吸着するための電荷が蓄積されるまでの時間」であり、具体的には、板状試料Wに蓄積される電荷の最大値に対して、63%蓄積されるまでの時間を指す。
【0070】
時定数τは、静電電極13、載置板11、板状試料Wで構成される回路に含まれる、コンデンサの容量Cと、抵抗Rとの関数で表される。また、コンデンサの容量Cは、載置板11の誘電率εと載置板11の厚さdと、静電電極の面積Sとの関数である。抵抗Rは、静電電極13の体積抵抗率、静電電極13の形状および配置により定まる値である。抵抗Rは、静電電極13の通電方向と直交する断面の面積、および静電電極13の通電方向の長さの関数である。そのため、時定数τは、全体として抵抗R、載置板11の厚さd、静電電極の面積S、静電電極13の体積抵抗率、静電電極の断面積、長さおよび配置からなる関数である。
【0071】
静電電極13の「配置」には、給電端子と静電電極13との間の導電経路の距離が挙げられる。例えば、各領域が同心円状に配置されている場合、給電端子が各領域の中心位置に配置されている構成と、給電端子が各領域の中心位置から偏心している構成とでは、時定数が異なる。また、静電電極13が無い位置において静電チャック部材100に貫通孔が開いている場合、給電端子と静電電極13との間の導電経路の距離が異なり、時定数が異なることがある。
【0072】
第1領域AR1の時定数τ1は、1ミリ秒以上60秒以下に設定されている。
また、第2領域AR2の時定数τ2は、時定数τ1の0.1倍未満に設定されている。
【0073】
時定数τ1及び時定数τ2が上記関係を満たせば、第1領域AR1上の板状試料Wに吸着力が大きくなる前に第2領域AR2上の板状試料Wに十分な吸着力を発生させることができる。そのため、板状試料Wが反っていて、吸着前には板状試料Wと第2領域AR2上面との間に空間がある場合であっても、第2領域AR2上の板状試料Wが十分に吸着した後に第1領域AR1上の板状試料Wを吸着することができる。
【0074】
時定数τ1は、10ミリ秒以上が好ましく、50ミリ秒以上がより好ましく、100ミリ秒以上がさらに好ましく、300ミリ秒以上がよりさらに好ましい。第1領域AR1の時定数τ1が第1領域AR1の内部において一定とならない場合は、第1領域AR1内の時定数の最小値が上述の範囲に含まれることが好ましい。
【0075】
時定数τ1は、60秒以下が好ましく、10秒以下がさらに好ましく、1秒以下がよりさらに好ましい。第1領域AR1の時定数が領域の面内において一定とならない場合は領域内の時定数の最大値が前記の範囲に入っていることが好ましい。時定数τ1の上限値が上記値であれば、静電電極13への印加を止めた後に吸着力が消失するまでの時間が短く好ましい。
【0076】
第2領域AR2の時定数τ2は、時定数τ1の0.01倍未満に設定されることが好ましい。第2領域AR2の時定数τ2が第2領域AR2の内部において一定とならない場合は、第2領域AR2内の時定数の最大値が上述の範囲に含まれることが好ましい。
【0077】
第3領域AR3の時定数は、第1領域AR1と第2領域AR2の間の値となる。第3領域内を細分化して細分化した領域毎に時定数を測定した場合では連続的に変化した値となる。
【0078】
時定数τ1、τ2は、第1領域AR1、第2領域AR2と同じ平面視形状を有する時定数測定用の板状試料を用い、時定数測定用の板状試料を載置板11に載置し、電圧を印加して板状試料に電荷が蓄積される時間を測定することで求めることができる。
【0079】
測定においては、電圧を印加するための電源には内部抵抗値が第2導電部132の抵抗値よりも十分に小さいものを用いる。測定に使用する電源の内部抵抗値は、第2導電部132の内部抵抗値の0.01倍よりも小さい抵抗値であることが好ましい。
【0080】
時定数特定用の板状試料には、厚さ方向の抵抗値が第1導電部131の抵抗値及び測定に用いる電源の内部抵抗値よりも小さいものを用いる。
【0081】
電流値から電荷が蓄積される量を換算して時定数を求める場合は、電源に給電部と分割された板状試料W全てを接続し、電圧を印加して各領域上の板状試料Wに流れる電流値を測定する。時定数を求める板状試料Wに電圧を印加してから電荷が63%蓄積されるまでの時間が時定数として求まる。
【0082】
また、板状試料Wに作用する吸着力を測定し、吸着力から時定数を測定することもできる。吸着力は板状試料Wに蓄積される電荷の二乗に比例するため、電圧を印加してから吸着力が40%に到達する時間が時定数として求まる。
【0083】
また、載置板11を挟み前記分割された板状試料Wと静電電極13との間で構成されるコンデンサおよび第1導電部131、第2導電部132、給電部15とで構成される抵抗とで形成されるRC回路の等価回路から近似して計算することでも求めることが出来る。
計算には回路シミュレーターなどのシミュレーションソフトなどを用いることもできる。
【0084】
簡易的には、以下の式(a)~(c)を全て満たせば、時定数τ1及び時定数τ2が上記関係を満たすこととなる。そのため、下記式(a)~(c)を満たす積載板は、本実施形態の積載板であると確認できる。
(R1max+R2max+R3max)×(C1+C2+C3)≦60秒 …(a)
R3min×C1≧1ミリ秒 …(b)
R2max×(C1+C2+C3)≦0.1×R3min×C1 …(c)
【0085】
式(a)~(c)に示す各文字は、以下の値を示す。
R1max:第1導電部131内の任意の2点間で測定して得られる抵抗値のうち、最も大きい抵抗値(単位:Ω)
R2max:給電部15と第2導電部132内の任意の点の間で測定して得られる抵抗値のうち、最も大きい抵抗値(単位:Ω)
R3max:第3導電部133内の任意の2点間で測定して得られる抵抗値のうち、最も大きい抵抗値(単位:Ω)
R3min:第3導電部133と第1導電部131の境界と、第3導電部133と第2導電部132の境界との間の抵抗値(単位:Ω)
C1:第1領域AR1において導電部と載置板11との間に形成されるコンデンサの静電容量(単位:F)
C2:第2領域AR2において導電部と載置板11との間に形成されるコンデンサの静電容量(単位:F)
C3:第3領域AR3において導電部と載置板11との間に形成されるコンデンサの静電容量(単位:F)
【0086】
R1maxは、第1導電部131内の任意の2点間で測定して得られる抵抗値のうち、最も大きい抵抗値である。そのため、R1maxは、等価回路における第1導電部の抵抗値R1の値を厳密に計算して求めた場合よりも大きい値となる。
R2maxは、給電部15と第2導電部132内の任意の点の間で測定して得られる抵抗値のうち、最も大きい抵抗値である。そのため、R2maxは、等価回路における第2導電部の抵抗値R2の値を厳密に計算して求めた場合よりも大きい値となる。
R3maxは、第3導電部133内の任意の2点間で測定して得られる抵抗値のうち、最も大きい抵抗値であるの。そのため、R3maxは、で等価回路における第3導電部の抵抗値R3の値を厳密に計算して求めた場合よりも大きい値となる。
R3minは、第3導電部133と第1導電部131の境界と、第3導電部133と第2導電部132の境界との間の抵抗値である。そのため、R3minは、等価回路における第3導電部の抵抗値R3の値を厳密に計算して求めた場合と同じ値または小さい値となる。
【0087】
なお、シミュレーションソフトを用いた計算など、上記式(a)~(c)よりも厳密な計算を行った場合、上記式(a)~(c)を満たさない積載板であっても本実施形態の積載板であると確認できる。
【0088】
以下、第3導電部の抵抗値R3が、第1導電部の抵抗値R1および第2導電部の抵抗値R2に比べて十分に大きい場合の計算例を以下に示す。なお、抵抗値R3が抵抗値R1および抵抗値R2の抵抗値の100倍以上であれば、抵抗値R3は抵抗値R1および抵抗値R2に比べて十分に大きいとみなすことができる。
【0089】
図3は、板状試料Wを載置面11aに載置したときの静電チャック部材100を示す等価回路である。
【0090】
図3(a)の等価回路は、各領域に対応するコンデンサの電荷が、各領域下部の導電層全てを経由してからコンデンサへ流れると仮定した等価回路である。この等価回路では、最も電荷の蓄積に時間がかかる場合を想定した計算ができ、実際の時定数はこの等価回路より求まる値よりも小さくなる。
【0091】
図3(b)の等価回路は、各領域に対応するコンデンサの電荷が、各領域下部の導電層を経由することなくコンデンサへ流れると仮定した等価回路である。この等価回路では、最も電荷の蓄積に時間が早い場合を想定した計算ができ、実際の時定数はこの等価回路より求まる値よりも大きくなる。
【0092】
図3(a)、
図3(b)両方の等価回路を考えることで時定数の範囲が求まる。作製したい時定数の範囲に作製したい時定数が入るように導電部の抵抗値などを調整すれば、実際の時定数の値も作製したい時定数となる。具体的な時定数の設定方法は後述する。
【0093】
図3に示すように、載置面11aに板状試料Wを載置した静電チャック部材100では、載置板(基体)11と、静電電極13と、載置面11aに載置した板状試料WとでRC回路を形成する。電源Vから静電電極13に印加することとする。
【0094】
等価回路において、静電電極13と板状試料Wとはコンデンサを構成する。詳しくは板状試料Wのうち、第1導電部131を板状試料Wへ正射影した領域を試料W1とすると、試料W1と第1導電部131とは、載置板11を挟んでコンデンサC1を構成する。
【0095】
コンデンサC1の静電容量はLCRメーターやインピーダンスアナライザで測定することもでき、基板に使用する材料や形状から計算して求めることもできる。コンデンサC1の静電容量は、載置板11の誘電率、載置板11の厚さ、第1導電部131及び試料W1の面積の関数となる。
【0096】
同様に、板状試料Wのうち第2導電部132を板状試料Wへ正射影した領域である試料W2と、第2導電部132とは、載置板11を挟んでコンデンサC2を構成する。
板状試料Wのうち第3導電部133を板状試料Wへ正射影した領域である試料W3と、第3導電部133とは、載置板11を挟んでコンデンサC3を構成する。
コンデンサC2およびコンデンサC3の静電容量も上記コンデンサC1の静電容量と同様に測定又は計算で求めることが出来る。
【0097】
また、等価回路において、第1導電部131の抵抗をR1、第2導電部132の抵抗をR2、第3導電部133の抵抗をR3とする。
抵抗R2の抵抗値は給電部の外周部から第2導電部132と第3導電部133の境界までの抵抗値となる。
抵抗R3の抵抗値は第1導電部131と第3導電部133の境界から第2導電部132から第3導電部133の境界までの抵抗値となる。
抵抗R1の抵抗値は第1導電部131と第3導電部133の境界から第1導電部131と絶縁材層14の境界までの抵抗値となる。
【0098】
時定数はこれらの静電容量と抵抗値から決まる値であるため、載置板11の誘電率、載置板11の厚さ、第1導電部および第2導電部の体積抵抗率と厚さおよび各部位の形状、配置を調整することで制御可能である。
【0099】
静電チャック部材100においては、第1導電部131、第2導電部132、第3導電部133の各面積と、各体積抵抗率とを調整することで、時定数を所望の値に制御している。
【0100】
具体的には、例えば次のように計算する。
【0101】
まず、時定数τ1の値が60秒以下となるようにするための、回路内のコンデンサC1,C2,C3および抵抗R1、R2,R3の値を求める。
【0102】
図3(a)の等価回路図において、コンデンサC1に電荷が蓄積される時定数τ1
Aを計算する。抵抗R2が抵抗R1および抵抗R3に比べて十分に大きければ、計算上、抵抗R1、R3を捨象して考えることができる。時定数τ1
Aは抵抗R3、コンデンサC1,C3の各値から求まる。
【0103】
実際に第1領域AR1の回路に電荷が蓄積される時定数τ1は時定数τ1Aよりも小さくなる。すなわち、時定数τ1と時定数τ1Aとは下記式(1)の関係を満たす。式(1)中、R3は抵抗R3の値、C1,C3はコンデンサC1,C3の各値を示す。
τ1<τ1A≒R3×(C1+C3) …(1)
【0104】
そのため、コンデンサC1、C3の容量の和と抵抗R3の積を60秒以下にすれば、時定数τ1の値が60秒以下となる。
【0105】
次に、時定数τ1の値が1ミリ秒以上となるようにするための回路内のコンデンサC1,C2,C3および抵抗R1、R2,R3の値を求める。
【0106】
図3(b)の等価回路図において、コンデンサC1に電荷が蓄積される時定数τ1
Bを計算する。抵抗R2が抵抗R1及び抵抗R3に比べて十分に大きければ、計算上、抵抗R1及び抵抗R3を捨象して考えることができる。そのため、時定数τ1
Bは抵抗R3、コンデンサC1の各値から求まる。
【0107】
実際に第1領域AR1の回路に電荷が蓄積される時定数τ1はτ1Bよりも大きくなる。すなわち、時定数τ1と時定数τ1Bとは下記式(2)の関係を満たす。式(2)中、R3は抵抗R3の値、C1はコンデンサC1の値を示す。
τ1>τ1B≒R3×C1 …(2)
【0108】
そのため、コンデンサC1の容量と抵抗R3の積を1ミリ秒以上にすれば、時定数τ1の値が1ミリ秒以上となる。
【0109】
次に、時定数τ2が時定数τ1の0.1倍よりも小さい値となるようにするための回路内のコンデンサC1,C2,C3および抵抗R1、R2,R3の値を求める。
【0110】
図3(a)の等価回路図において、コンデンサC2に電荷が蓄積される時定数τ2
Aを計算する。
抵抗R3が抵抗R1に比べて十分に大きければ、コンデンサC2へ電荷が蓄積されるために流れる電流は、抵抗R3を流れる電流に比べて十分に大きくなる。そのため、時定数τ2
Aは抵抗R2、コンデンサC2から求まる。実際に第2領域AR2の回路に電荷が蓄積される時定数τ2は時定数τ2
Aよりも小さくなる。すなわち、時定数τ2と時定数τ2
Aとは下記式(3)の関係を満たす。式(3)中、R2は抵抗R2の値、C2はコンデンサC2の値を示す。
τ2<τ2
A≒R2×C2 …(3)
【0111】
そのため、時定数τ2を時定数τ1の0.1倍よりも小さい値となるようにするためには、抵抗R2とコンデンサC2の容量の積を、抵抗R2とコンデンサC3の容量の積の0.1倍よりも小さい値にすればよいことが求まる。
【0112】
すなわち、抵抗R3の値が抵抗R1の値および抵抗R2の値に比べて十分に大きい場合、以下の式(a1)~(c1)を満たす積載板は、本実施形態の積載板であるとみなすことができる。式(a1)~(c1)は、上述の式(a)~(c)を各値の条件に則して変形させたものである。
なお、抵抗R3の値が抵抗R1の値および抵抗R2の値の抵抗値の100倍以上であれば、抵抗値R3は抵抗値R1および抵抗値R2に比べて十分に大きいとみなすことができる。
R3×(C1+C3)≦60秒 …(a1)
R3×C1 ≧1ミリ秒 …(b1)
R2×C2 ≦0.1×R3×C1 …(c1)
【0113】
上述の式(a)~(c)と、式(a1)~(c1)とを比べると
R3×(C1+C3)≦(R1max+R2max+R3max)×(C1+C2+C3)
R3×C1 ≧R3min×C1
R2×C2 ≦R2max×(C1+C2+C3)
0.1×R3min×C1≦0.1×R3×C1
である。そのため、式(a)~(c)の条件を満たせば、式(a1)~(c1)の条件も満たすことがわかる。
【0114】
静電チャック部材100においては、静電電極13(第1導電部131、第2導電部132及び第3導電部133)の抵抗を制御することで、上述の関係を満たす時定数を実現している。
【0115】
具体的な設計例として以下のような静電チャック部材を作ることが出来る。
「設計例」
積載板 比誘電率εr:10、厚さd1:0.3mm
第2導電部 半径r1:200mm、体積抵抗率ρ1:5×10-3Ω・cm
第3導電部 半径r2:210mm、体積抵抗率ρ2:1×108Ω・cm
第1導電部 半径r3:300mm、体積抵抗率ρ3:5×10-3Ω・cm
導電層の厚さd2:100μm
給電部半径r0:5mm
【0116】
なお、上述の各導電部の半径は、静電電極13の中心から各導電部の外周までの半径を指す。
【0117】
上記の静電チャックの物性値から計算すると、以下のように計算される。
τ1B=R3×C1= 7.8×107Ω×11nF = 0.83秒
τ1A=R3×(C1+C3)=7.8×107Ω×(11nF+0.95nF)
=0.93秒
τ2A=R2×C2=0.24Ω×9.3nF=2.2ナノ秒
【0118】
上記計算結果から、上記設計例の静電チャック部材は、時定数τ1が1ミリ秒以上60秒以下であり、時定数τ2が時定数τ1の0.1倍より小さいことがわかる。
このような計算を体積抵抗率や誘電率、電極の形状などを変えて計算することで吸着させる板状試料Wや装置の目的に合わせた設計を行うことが出来る。
【0119】
このような静電チャック部材100において、静電電極13に印加すると、各時定数の差に起因して、静電電極13と板状試料Wとの間に生じるクーロン力が載置面の中央部から周縁部に向けて広がる。これにより、第2領域AR2は、第1領域AR1よりも早く板状試料Wを吸着する。言い換えると、静電チャック部材100では、載置面11aに板状試料Wを載置し静電電極13に印加したとき、まず第2領域AR2において板状試料Wを吸着し、次いで第3領域AR3において板状試料Wを吸着する。さらに、第1領域AR1では、第3領域AR3とほぼ同時、または第3領域AR3から遅れて板状試料Wを吸着する。
【0120】
例えば、静電チャック部材100と異なり、静電電極が第1導電部と同程度の体積抵抗率である単一材料で形成され一様な抵抗値を有する場合、静電電極に印加すると、静電チャック部材は載置面の全面に一斉にクーロン力を生じ、板状試料Wの全面を一斉に吸着する。そのため、このような静電チャック部材が歪みを有する板状試料Wを吸着保持する場合、静電チャック部材は、板状試料Wの歪みを保持したまま載置面に吸着することとなる。
【0121】
対して、静電チャック部材100は、第2領域AR2において板状試料Wを吸着し、その後周囲に吸着箇所を広げていくことから、板状試料Wが歪みを有する場合にも歪みを伸ばしながら吸着することが可能となる。また、吸着する際の板状試料Wと積載面との擦れを減らすことが出来るため、パーティクルの発生を減らすことが出来る。
【0122】
また、静電電極が複数の電極で構成され、複数の電極をそれぞれ制御してクーロン力を発生させるタイミングを調整する構成の静電チャック部材の場合、複数の電極間で電気的な影響が生じないよう、電極間は絶縁されている。その場合、電極間の領域と重なる載置面ではクーロン力が発生せず、板状試料Wを吸着できない。
【0123】
対して、静電チャック部材100では、第3領域AR3においてもクーロン力が生じ、好適に板状試料Wを吸着可能である。
【0124】
以上のような構成の静電チャック部材100によれば、良好な板状試料Wの吸着を実現可能な新規な静電チャック部材となる。
【0125】
なお、本実施形態においては、静電電極13が第3導電部133を有し、第3領域AR3が設定されていることとしたが、第2導電部の抵抗値は第1導電部の抵抗値よりも小さくし、第3領域AR3を設定しなくてもよい。この場合、第1領域AR1は、静電電極13における第2導電部132と第3導電部133とをあわせた領域とすることができる。
【0126】
このような構成の静電電極を有する静電チャック部材であっても、静電電極に印加したとき、まず第2領域AR2において板状試料Wを吸着し、次いで第1領域AR1において板状試料Wを吸着する。そのため、このような静電チャック部材は、例えば中央が下に凸となる反りや歪みを有する板状試料Wを良好に吸着保持することができる。
【0127】
これらの効果は、静電チャック部材100に接続される電源の回路、電源の制御などを複雑にすることなく、従来の静電チャックと同様の電源を使っても得ることが出来る。そのため、従来の静電チャック装置が用いられる半導体製造装置から、本実施形態の静電チャック部材を備える静電チャック装置に置き換えるだけで、上記効果を有する半導体製造装置とすることができる。
【0128】
また、本実施形態においては、給電部15が第2導電部132に接続されることとしたが、これに限らない。給電部15は、第2導電部132に接続される構成とすることもできる。給電部15が静電電極13の中心部に接続する構成としたが、これに限らない。給電部15は、静電電極13の外周部に接続される構成とすることもできる。
【0129】
このような静電チャック部材においては、
図1において、第2導電部の位置が第1導電部、第2領域AR2の位置が第1領域AR1、第1導電部の位置が第2導電部、第1領域AR1の位置が第2領域AR2となり、給電部15は静電電極の外周部に位置する第2導電部132に接続される。
【0130】
なお、この場合、
図3を用いて説明した計算に用いる第1導電部の抵抗値R1は、第1導電部と第3導電部の境界と、第1導電部の中心との間の抵抗値となる。第2導電部132と重なる領域が第1領域AR1、第1導電部131と重なる領域が第2領域AR2、第3導電部133と重なる領域が第3領域AR3である。
【0131】
第1領域AR1は、載置板11と、静電電極13と、載置面11aに載置した板状試料Wとで形成されるRC回路の時定数τ1が、1ミリ秒以上60秒以下に設定されている。
【0132】
また、第2領域AR2は、載置板11と、静電電極13と、載置面11aに載置した板状試料Wとで形成されるRC回路の時定数τ2が、時定数τ1の0.1倍未満に設定されている。
【0133】
このような構成の静電チャック部材の静電電極に印加すると、各時定数の差に起因して、静電電極13と板状試料Wとの間に生じるクーロン力が載置面の周縁部から中央部に向けて広がる。これにより、まず載置面の外周部に設けられた第2導電部(第2領域AR2)において板状試料Wを吸着し、次いで第3領域AR3において板状試料Wを吸着する。さらに、第1領域AR1では、第3領域AR3とほぼ同時、または第3領域AR3から遅れて板状試料Wを吸着する。
【0134】
このような静電チャック部材は、例えば中央が上に凸となる反りや歪みを有する板状試料Wを良好に吸着保持することができる。
【0135】
さらに、突起部11bの間にヘリウム(He)等の冷却ガスを流動させる場合、板状試料Wの外周部を先に吸着させることで、冷却ガスの漏出量を減らすことができる。
【0136】
また、本実施形態においては第2導電部132に給電部15を接続することとしたが、第1導電部131に電気的に接続する端子をさらに設けてもよい。第1導電部131に接続する端子は、放電時の導通経路として用いることができる。
【0137】
また、第1導電部131に接続する端子は、上述した発明の効果を損なわない範囲で給電に用いてもよい。この場合、処理をする板状試料Wの形状により、第2導電部132に接続した給電部15と第1導電部131に接続する端子のどちらから給電するかを使い分けてもよい。
【0138】
[第2実施形態]
図4,5は、本発明の第2実施形態に係る静電チャック部材110の説明図である。以下の実施形態の説明において、既出の構成要素については同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0139】
図4は、本実施形態の静電チャック部材110を示す概略斜視図であり、
図1に対応する図である。
図5は、
図4の線分V-Vにおける矢視断面図であり、
図2に対応する図である。
【0140】
図4,5に示すように、静電チャック部材110は、載置板11と、支持板12と、載置板11と支持板12との間に設けられた静電電極23と、絶縁材層14と、給電部15とを有している。静電チャック部材110は、平面視で矩形の部材である。
【0141】
静電電極23は、第1導電部231、第2導電部232、第3導電部233、第4導電部234及び第5導電部235を有する。第1導電部231、第2導電部232、第3導電部233、第4導電部234及び第5導電部235、平面視でそれぞれ同方向に延在する帯状又は矩形に形成されている。
【0142】
静電電極23を構成する導電部は、静電チャック部材110の長辺に沿って、第2導電部232、第5導電部235、第4導電部234、第3導電部233、第1導電部231の順に配列している。
【0143】
第2導電部232は、第5導電部235よりも小さい体積抵抗率を有する。すなわち、第5導電部235の体積抵抗率は、第2導電部232の体積抵抗率よりも大きい。
第4導電部234の体積抵抗率は、第5導電部235の体積抵抗率よりも小さい。
第3導電部233の体積抵抗率は、第4導電部234の体積抵抗率よりも大きい。
第1導電部231の体積抵抗率は、第3導電部233の体積抵抗率よりも小さい。
なお、第4領域AR4と第1領域AR1の時定数の差を大きくするためには、第3導電部233の体積抵抗率は第5導電部235の体積抵抗率よりも大きくすることが好ましい。
【0144】
本実施形態においては、第1導電部231、第2導電部232及び第4導電部234は、体積抵抗率が等しく、第5導電部235の体積抵抗率は第3導電部233の体積抵抗率よりも小さいものとする。
【0145】
また、第1導電部231及び第2導電部232の平面視面積は等しく、第3導電部233及び第5導電部235の平面視面積は等しいものとする。
【0146】
このような静電電極23は、上述の導電性複合焼結体を構成するセラミックス粉末をスクリーン印刷で塗工した後、焼結させることで形成可能である。
【0147】
絶縁材層14は、平面視で静電電極23の周囲(外周)を取り囲む。
給電部15は、静電電極23の第2導電部232に電気的に接続している。
【0148】
このような静電チャック部材110においては板状試料Wを吸着させる際に、最後に吸着される領域が第1導電部231と重なる第1領域AR1であり、最初に吸着させる領域が第2導電部232と重なる領域が第2領域AR2である。第1領域AR1と隣り合い、第3導電部233と重なる領域が第3領域AR3であり、第4導電部234と重なる領域が第4領域AR4、第5導電部235と重なる領域が第5領域AR5、である。
【0149】
第1領域AR1は、載置板11と、静電電極23と、載置面11aに載置した板状試料Wとで形成されるRC回路の時定数τ1が、1ミリ秒以上60秒以下に設定されている。
【0150】
また、第2領域AR2は、載置板11と、静電電極23と、載置面11aに載置した板状試料Wとで形成されるRC回路の時定数τ2が、時定数τ1の0.1倍未満に設定されている。
【0151】
第3領域AR3,第4領域AR4、第5領域AR5の時定数は第1領域AR1の時定数τ1と第2領域AR2の時定数τ2の間の値になる。
【0152】
静電チャック部材110の載置面に板状試料Wを載置し、静電電極23に印加すると、各時定数の差に起因して、静電電極23と板状試料Wとの間に生じるクーロン力が第2領域AR2から第1領域AR1に向けて広がる。これにより、まず第2導電部232(第2領域AR2)において板状試料Wを吸着し、次いで第5領域AR5において板状試料Wを吸着する。さらに、第4領域AR4で、第5領域AR5とほぼ同時、または第5領域AR5から遅れて板状試料Wを吸着する。
【0153】
さらに、第4領域AR4と第1領域AR1との間においては、まず第4領域AR4において板状試料Wを吸着し、次いで第3領域AR3および第1領域AR1において板状試料Wを吸着するという吸着タイミングの差が生じる。第1領域AR1では、第3領域AR3とほぼ同時、または第3領域AR3から遅れて板状試料Wを吸着する。
【0154】
そのため、静電チャック部材110は、例えば上に凸となる反りや歪みを有する板状試料Wを良好に吸着保持することができる。また、順に吸着させる領域を細かく分割しているため、液晶用ガラスのような大型の板状試料Wや、樹脂製のフィルムなど剛性の低い板状試料Wにおいても良好に吸着保持することができる。
【0155】
以上のような構成の静電チャック部材110によっても、良好な板状試料Wの吸着を実現可能な新規な静電チャック部材となる。
【0156】
[第3実施形態]
図6は、本発明の第3実施形態に係る静電チャック部材120を示す概略断面図であり、
図2に対応する図である。
【0157】
図6に示すように、静電チャック部材120は、載置板11と、支持板12と、載置板11と支持板12との間に設けられた静電電極33と、絶縁材層14と、給電部25を有している。
【0158】
静電電極33は、第1導電部331及び第2導電部332を有する。第1導電部331は、第2導電部332よりも大きい体積抵抗率の材料で構成される。第1導電部331の材料は、上述の第3導電部133と同様の材料を用いることができる。第2導電部332の材料は、上述の第2導電部132と同様の材料を用いることができる。また、第1導電部331及び第2導電部332は、同じ厚さである。
【0159】
給電部25は、給電用電極251と給電端子252とを有する。
【0160】
給電用電極251は、静電電極33と平面的に重なり、静電電極33の下面に接する。給電用電極251は、少なくとも第1導電部331及び第2導電部332と電気的に接続されている。
【0161】
給電端子252は、給電用電極251の下面に接続されている。
【0162】
給電用電極251及び給電端子252は、上述の給電部15と同じ材料を用いて形成できる。また、給電用電極251は第2導電部と同じ材料を用いてもよい。
【0163】
このような静電チャック部材120においては、第2導電部332と重なる領域が第2領域AR2、第1導電部331と重なる領域が第1領域AR1である。
【0164】
第1領域AR1は、上述の時定数τ1が、1ミリ秒以上60秒以下に設定されている。時定数τ1は、第2導電部332と板状試料Wと載置板11とで構成されるコンデンサの容量と、第2導電部332の厚さ方向の抵抗値との積である。
【0165】
また、第2領域AR2は、上述の時定数τ2が、時定数τ1の0.1倍未満に設定されている。時定数τ2は、第1導電部331と板状試料Wと載置板11とで構成されるコンデンサの容量と、第1導電部331の厚さ方向の抵抗値との積である。
【0166】
静電チャック部材120の載置面に板状試料Wを載置し、静電電極33に印加すると、静電電極33の下面から一斉に電荷が注入される。その際、第1領域AR1及び第2領域AR2においては、時定数の差に起因して、第2領域AR2にクーロン力が生じた後、第1領域AR1にクーロン力が生じる。
【0167】
そのため、静電チャック部材120は、例えば上に凸となる反りや歪みを有する板状試料Wを良好に吸着保持することができる。
【0168】
また、静電チャック部材120では、静電電極33に対する給電の経路が下面からのみであるため、静電電極33の面内において第2導電部332の配置の自由度が高く、時定数の設定が容易となる。
【0169】
以上のような構成の静電チャック部材120によっても、良好な板状試料Wの吸着を実現可能な新規な静電チャック部材となる。
【0170】
なお、本実施形態の静電チャック部材120においては、静電電極33が第1導電部331と第2導電部332とに明確に分かれていたが、これに限らない。例えば、静電電極として、静電電極の体積抵抗率が、給電部との接続箇所から平面視で遠ざかる方向に漸増する(体積抵抗率がグラデーションを有する)構成としても、上述の静電チャック部材120と同様に、良好な板状試料Wの吸着を実現可能な新規な静電チャック部材となる。
【0171】
[静電チャック装置]
以下、
図7を参照しながら、上述の静電チャック部材を有する静電チャック装置について説明する。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の寸法や比率などは適宜異ならせてある。
【0172】
図7は、本実施形態の静電チャック装置を示す断面図である。本実施形態の静電チャック装置1は、一主面(上面)側を載置面とした平面視円板状の静電チャック部2と、この静電チャック部2の下方に設けられて静電チャック部2を所望の温度に調整する厚みのある平面視円板状のベース部3と、を備えている。また、静電チャック部2とベース部3とは、静電チャック部2とベース部3の間に設けられた接着剤層8を介して接着されている。
以下、順に説明する。
【0173】
(静電チャック部)
静電チャック部2は、上述した静電チャック部材を採用することができる。
【0174】
(温度調節用ベース部)
ベース部3は、静電チャック部2を所望の温度に調整する機能を有する。以下、ベース部3を単に「ベース部3」と称する。
【0175】
ベース部3は、平面視円板状の部材である。ベース部3は、例えば、内部に冷媒を循環させる流路3Aが形成された液冷ベースを好適に用いることができる。
【0176】
ベース部3の材料としては、熱伝導性、導電性、加工性に優れた金属、又はこれらの金属を含む複合材であれば特に制限はない。ベース部3の材料としては、例えば、アルミニウム(Al)、アルミニウム合金、銅(Cu)、銅合金、ステンレス鋼(SUS)等が好適に用いられる。ベース部3の表面のうち、少なくともプラズマに曝される面は、アルマイト処理が施されているか、アルミナ等の絶縁膜が成膜されていることが好ましい。
【0177】
ベース部3の上面側には、接着層6を介して絶縁板7が接着されている。
接着層6はポリイミド樹脂、シリコン樹脂、エポキシ樹脂等の耐熱性、及び、絶縁性を有するシート状又はフィルム状の接着性樹脂からなる。接着層は例えば厚み5~100μm程度に形成される。
【0178】
絶縁板7は、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂などの耐熱性を有する樹脂を材料として用いる。絶縁板7は、薄板、シート又はフィルムのいずれの形態も採用可能である。
【0179】
なお、絶縁板7は、樹脂シートに代え、絶縁性のセラミック板でもよく、またアルミナ等の絶縁性を有する溶射膜でもよい。
【0180】
接着剤層8は、耐熱性および絶縁性を有する樹脂を形成材料とすることができる。接着剤層8の形成材料としては、ポリイミド樹脂、シリコン樹脂、エポキシ樹脂などを挙げることができる。
【0181】
(フォーカスリング)
フォーカスリング10は、ベース部3の周縁部に載置される平面視円環状の部材である。フォーカスリング10は、例えば、載置面に載置されるウエハと同等の電気伝導性を有する材料を形成材料とする。静電チャック装置1は、フォーカスリング10を有することにより、ウエハの中央部と周縁部とでプラズマ処理の差や偏りを低減できる。
なお、静電チャック装置1は、フォーカスリング10を有さない構成であってもよい。
【0182】
(その他の部材)
給電部15は、ベース部3、接着剤層8、支持板12を厚み方向に貫通する貫通孔16の内部に挿入されている。給電部15の外周側には、絶縁性を有する碍子15aが設けられ、この碍子15aにより金属製のベース部3に対し給電部15が絶縁されている。
【0183】
図では、給電部15を一体の部材として示しているが、複数の部材が電気的に接続して給電部15を構成していてもよい。給電部15は、熱膨張係数が互いに異なるベース部3及び支持板12に挿入されているため、例えば、ベース部3及び支持板12に挿入されている部分について、それぞれ異なる材料で構成することとするとよい。
【0184】
給電部15のうち、ベース部3に挿入されている部分は、例えば、タングステン(W)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、コバール合金等の金属材料からなる。
【0185】
これら2つの部材は、柔軟性と耐電性を有するシリコン系の導電性接着剤で接続するとよい。
【0186】
静電チャック部2の下面側には、ヒータエレメント5が設けられている。ヒータエレメント5は、一例として、厚みが0.2mm以下、好ましくは0.1mm程度の一定の厚みを有する非磁性金属薄板を材料とする。非磁性金属薄板としては、例えばチタン(Ti)薄板、タングステン(W)薄板、モリブデン(Mo)薄板が挙げられる。
【0187】
ヒータエレメント5は、厚みの均一な耐熱性及び絶縁性を有するシート状又はフィルム状のシリコン樹脂又はアクリル樹脂からなる接着層4により支持板12の底面に接着・固定されている。
【0188】
ヒータエレメント5には、ヒータエレメント5に給電するための給電用端子17が接続されている。給電用端子17を構成する材料は先の給電部15を構成する材料と同等の材料を用いることができる。給電用端子17は、それぞれベース部3に形成された貫通孔3bを貫通するように設けられている。貫通孔3bの内周部には筒状の碍子18が設けられている。
【0189】
なお、静電チャック装置1は、ヒータエレメント5を有さない構成であってもよい。この場合、給電用端子17は不要であり、貫通孔3b及び碍子18も不要となる。
【0190】
さらに、静電チャック装置1は、ベース部3から載置板11までをそれらの厚さ方向に貫通するように設けられたガス穴28を有している。ガス穴28の内周部には筒状の碍子29が設けられている。
【0191】
このガス穴28には、ガス供給装置(冷却手段)27が接続される。ガス供給装置27からは、ガス穴28を介して板状試料Wを冷却するための冷却ガス(伝熱ガス)が供給される。冷却ガスは、ガス穴を介して載置板11の上面において複数の突起部11bの間に形成される溝に供給され、板状試料Wを冷却する。
【0192】
さらに、静電チャック装置1は、ベース部3から載置板11までをそれらの厚さ方向に貫通するように設けられた不図示のピン挿通孔を有している。ピン挿通孔は、例えばガス穴28と同様の構成を採用することができる。ピン挿通孔には、板状試料離脱用のリフトピンが挿通される。
静電チャック装置1は、以上のような構成となっている。
【0193】
以上のような構成の静電チャック装置1によれば、上述した静電チャック部材を有するため、良好な板状試料Wの吸着を実現可能である。
【0194】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計や仕様に基づき種々変更可能である。
【符号の説明】
【0195】
1…静電チャック装置、11…載置板(基体)、11a…載置面、13,23,33…静電電極、15,25…給電部、100,110,120…静電チャック部材、131,231,331…第1導電部、132,232,332…第2導電部、133,233…第3導電部、251…給電用電極、AR1…第1領域、AR2…第2領域