(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】フッ素の測定方法及び装置
(51)【国際特許分類】
G01N 27/416 20060101AFI20241112BHJP
【FI】
G01N27/416 351K
(21)【出願番号】P 2021112934
(22)【出願日】2021-07-07
【審査請求日】2024-03-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000217686
【氏名又は名称】電源開発株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】谷津 愛和
(72)【発明者】
【氏名】安達 恒康
(72)【発明者】
【氏名】船岡 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】栃谷 智
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-181161(JP,A)
【文献】特開昭61-023960(JP,A)
【文献】特開昭58-211644(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0199816(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26-27/49
B01D 21/01
C02F 1/52-1/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料水にイオン強度調整剤を添加した後加温する、または、予め加温した試料(希釈した試料を含む)とイオン強度調整剤を混合し所定時間保持し、その後、フッ素イオン電極によりフッ素濃度を測定するフッ素の測定方法
であって、
前記試料水中の妨害物質濃度に応じて加温温度を調整するフッ素の測定方法。
【請求項2】
前記イオン強度調整剤は少なくともクエン酸を含む請求項1のフッ素の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中のフッ素濃度を測定するフッ素の測定方法及び装置に係り、特に、フッ素イオン電極を用いたフッ素の測定方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
排水中のフッ素濃度を測定する方法として、測定範囲の広さ、測定濃度範囲の変更のし易さ、測定の簡易さなどからイオン電極法が用いられている。
【0003】
イオン電極法での測定では、水中に存在する鉄イオンやアルミニウムイオン、SSや、攪拌状態の変化、温度変化などが、測定値に影響を及ぼし、誤差要因となる。特許文献1,2には、夾雑物やSS(懸濁固形物)を除いた後、希釈および妨害イオンに対するマスキング剤、イオン強度調整剤を添加して測定する方法が記載されている。
【0004】
特許文献3には、フッ素イオンがアルミニウムイオンと錯体を形成し誤差要因となる場合に、pH10以上のアルカリ性でクエン酸塩とアルミニウムを反応させ、アルミニウムをマスキングした後、pHを4~7に戻し、フッ素イオン電極で測定する方法が記載されている。
【0005】
特許文献3の実施例及び
図1には、試料水にマスキング剤としてクエン酸ナトリウムを添加してpH10以上とした後、緩衝液を添加してpHを5~6に調整し、その後、フッ素イオン電極でフッ素濃度を測定することが記載されている。特許文献3の実験例では、フッ素イオン電極での測定温度は25℃である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭61-23960号公報
【文献】特開2008-177408号公報
【文献】特開平3-51754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
排水は、アルミニウムイオンや、鉄などの重金属イオンを含むことが多い。アルミニウムイオンや鉄イオンは、少量でもフッ素測定値に誤差を生じさせる。また、鉄などの重金属イオンを含む排水は、特許文献3のようにアルカリ性にすると水酸化物の析出物が生じ、測定系統内の汚染・閉塞を招きやすい。また、排水がカルシウムを含む場合も、アルカリ性にすると炭酸カルシウムスケールが析出・成長し、同様に閉塞などが生じやすくなる。
【0008】
アルミニウムや鉄などを含む排水について、フッ素イオン電極を用いてフッ素濃度測定を行う場合、アルミニウムや鉄などの金属がフッ化物イオンと錯体を形成するため、フッ素濃度測定値に誤差が生じる。
【0009】
アルミニウムや鉄などが共存するフッ素含有排水に、クエン酸や酒石酸などを添加すると、これらがアルミニウムなどの金属イオンと錯体を形成し、同時に、先に錯体を形成していたフッ化物イオンを遊離させる。これにより、フッ素イオン電極によるフッ素測定の精度が向上する。
【0010】
アルミニウムや鉄と、クエン酸などとの反応は遅く、一般的な方法である室温条件で行う流通式のフッ素濃度測定では、マスキング効果が十分得られない。
【0011】
特許文献3において、アルミニウムイオン等に対するクエン酸塩のマスキング反応(フッ素の遊離を含む)は遅い。また、pH10以上からpH4~7に戻す時に、析出した金属化合物の再溶解反応に時間を要するため、pH4~7とするのに時間及び手間がかかる。
【0012】
本発明は、pH操作(アルカリ性でマスキング後、中和)のような煩雑な操作なしに、アルミニウムなどのフッ素濃度測定への妨害を抑制し、フッ素濃度測定誤差を低減することができるフッ素の測定方法及び装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のフッ素の測定方法では、試料水にイオン強度調整剤を添加した後、加温する、または予め加温した試料水とイオン強度調整剤を混合し所定時間保持することで、フッ素濃度測定の阻害を及ぼす金属とイオン強度調整剤に含まれる金属マスキングの反応を促進し、その後、フッ素イオン電極によりフッ素濃度を測定する。
【0014】
本発明の一態様では、前記イオン強度調整剤は少なくともクエン酸又はクエン酸塩を含む。
【0015】
本発明の一態様では、前記試料水中の妨害物質濃度に応じて加温温度を調整する。
【0016】
本発明のフッ素濃度測定装置は、試料水にイオン強度調整剤を添加する添加手段と、該添加手段からの試料水を加温する加温手段と、該加温手段で加温された試料水のフッ素濃度を測定するフッ素イオン電極とを有する。
【発明の効果】
【0017】
試料水にイオン強度調整剤を添加した後、加温すると、マスキング反応を促進し、フッ素濃度測定精度を高めることができる。
【0018】
また、フッ素と錯体を形成する金属の濃度に応じて、加温温度を変化させることで、(測定装置内の流路を大幅に変更することなしに)マスキング反応を促進させ、イオン電極法でのフッ素濃度連続測定の測定精度を確保できる。そのため、本発明によると、フッ素と錯体を形成する金属(アルミニウム等)が試料水中に存在する場合でも、煩雑な前処理なしに、フッ素イオン電極を用いてフッ素濃度を精度良く測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施の形態に係るフッ素測定装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。
図1は実施の形態に係るフッ素測定装置の構成を示すものである。
【0021】
試料水は、必要に応じて、あらかじめSS除去や、必要に応じて希釈するが、これらの操作は必須ではない。試料水は配管1から計測槽2に導入される。計測槽2にフッ素濃度測定用のイオン電極3が設置されている。計測槽2内からの測定廃液は配管6から排出される。
【0022】
配管1の途中で、配管4からイオン強度調整剤の水溶液が添加される。
図1(a)のように配管1,4の合流点aから計測槽4導入部bまでの間又は、
図1(b)のように合流点よりも上流側に加温手段装置5が設けられており、イオン強度調整剤添加試料水が加温されるよう構成されている。
【0023】
加温手段としては、配管にリボンヒーターを巻き付ける;撹拌機能付き容器をジャケットで加温する;容器内に浸漬ヒーターを入れる;などのいずれでもよく、またこれに限定されない。
【0024】
イオン強度調整剤の水溶液は、クエン酸又はクエン酸塩(クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸水素アンモニウム、クエン酸アンモニウム等)など、アルミニウムをマスキングする成分(マスキング剤)を含有することが好ましい。本発明の一態様では、イオン強度調整剤の水溶液はクエン酸又はクエン酸塩の水溶液であり、この場合、クエン酸又はクエン酸塩の濃度はクエン酸として1~30wt%程度が好ましい。
【0025】
イオン強度調整剤は、クエン酸又はクエン酸塩などのマスキング剤が試料中のフッ素の遊離に十分な量が存在するように添加される。
【0026】
本発明の一態様では、イオン強度調整剤の水溶液はクエン酸又はクエン酸塩などのマスキング剤成分を含まない。この場合のイオン強度調整剤の水溶液は、酢酸ナトリウムの水溶液などが用いられる。イオン強度調整剤としてアルミニウム等をマスキングする成分を含まないものを用いる場合は、イオン強度調整剤とは別に、クエン酸又はクエン酸塩などのマスキング剤を添加することが好ましい。
【0027】
なお、排煙脱硫排水のアルミニウム濃度は通常数mg/L程度であるため、JISに記載する(JIS K0102 34.2)もので、通常は十分である。排煙脱硫排水でも脱硫方式や発電所の運用形態によって、排水中にアルミニウム濃度を数10mg/L含む場合がある。
【0028】
試料水がアルミニウムなどの妨害物質を含む場合は、妨害物質濃度が低濃度であってもフッ素濃度測定誤差が生じる。そのため、試料水がアルミニウムなどの妨害物質を含む場合は、クエン酸又はクエン酸塩などのマスキング剤を試料水に添加し、アルミニウムなどの妨害をマスキングする。一般に、マスキング反応(アルミニウムとクエン酸の反応等)の反応は遅いため、加温手段で加温することにより反応を促進する。
【0029】
フッ素と錯体を形成する金属濃度に応じ、試料水がa-b間を通過する時間(滞留時間)内に、マスキング反応が行われるように加温温度を設定する。加温温度は30~50℃特に30~35℃が好ましい。該滞留時間は、短いほど測定結果を得るまでの時間を短くできるが、60~300secに設定されることが多い。フッ素測定の遅れ時間が許せばこの範囲に限らない。
【0030】
計測槽2の温度は、特に制限はないが、室温付近であることが、加熱冷却にエネルギーを要せず経済的であり、好ましい。なお、JISのフッ素濃度測定(JIS K0102 34.2)では25℃とされている。
【0031】
本発明の一態様では、電極での測定温度ごとにフッ素濃度測定の検量線を作成する。
【実施例】
【0032】
<実施例1,2>
フッ素濃度20mg/L(JIS K0102 34.1(公定法)で測定)、アルミニウムイオン濃度20mg/Lを含む試料水のフッ素濃度を、
図1に示す装置で測定した。本実施例では、試料水にイオン強度調整剤を混合後、
図1中a-b間(滞留時間=180sec)で加温手段装置5としてリボンヒーターを用いて30℃(実施例1)又は40℃(実施例2)に加温後、計測槽2に導入した。
【0033】
イオン強度調整剤としては、クエン酸3ナトリウム二水和物の30重量%水溶液を用い、添加率は試料水に対し15重量%とした。フッ素濃度測定結果を表1に示す。
【0034】
<比較例1>
実施例1において、リボンヒーターによる試料水の加温を行わず、室温(25℃)のまま計測槽2に導入したこと以外は同一条件で測定を行った。フッ素濃度測定結果を表1に示す。
【0035】
【0036】
表1の通り、比較例1では、公定分析値(20mg/L)との誤差は8mg/L(40%)であった。これに対し、実施例1,2の通り、加温温度が高くなるほど、測定値は公定分析値に近づき誤差が小さくなることが認められ、加温温度を30℃以上とすることにより、誤差を20%以下とすることが可能であることが認められた。
【0037】
<実施例3>
図1の測定装置において、フッ素濃度(公定法による濃度)20mg/L、アルミニウム濃度10mg/Lの試料水Aを流通させ、a-b間を流れる時間(滞留時間)を180sec又は300secとした。フッ素イオン電極の測定フッ素濃度の誤差が10%以下となる加温温度を求めた。結果を表2に示す。また、誤差10%以内とするために必要な加温温度と加温時間との関係を求め、結果を
図2に示した。
【0038】
<実施例4>
実施例3において、フッ素濃度20mg/Lでアルミニウム濃度が20mg/Lである試料水Bを用いたこと以外は実施例3と同一条件の試験を行った。結果を表2及び
図2に示す。
【0039】
<実施例5>
実施例3において、フッ素濃度20mg/Lでアルミニウム濃度が30mg/Lである試料水Cを用いたこと以外は実施例3と同一条件の試験を行った。結果を表2及び
図2に示す。
【0040】
【0041】
<考察>
図1に示す流通式測定装置では、構成上、試料とイオン強度調整剤の混合から、電極での測定までの時間は一定時間とされることが多い。表2及び
図2に示されるように、室温付近での測定では、試料中にアルミニウムが10mg/Lなど低濃度で含まれる場合でも、現実的な反応時間である300sec以内に許容誤差10%以下とするのは困難である。測定値を精度良く得るためには、室温(25℃程度)よりも高い温度設定が必要であり、30℃以上が好ましいと考えられる。
【0042】
<実験例1>
図3はイオン強度調整剤として緩衝液(例えばクエン酸ナトリウム水溶液)を添加した後の、フッ素濃度指示値の経時変化を調べるための装置であり、
図1の計測槽にスターラーを設けたものである。
【0043】
図4は、
図3の装置を用いて、試料水中にアルミニウムイオンが共存する場合における指示値の経時変化の一例を示す模式的なグラフである。
図4に示されるように、アルミニウムイオンが共存する試料水のフッ素濃度測定では、フッ素の濃度指示値は、イオン強度調整剤を添加後、徐々に上昇し、真の濃度に近づく挙動を示す。
【符号の説明】
【0044】
2 計測槽
3 フッ素イオン電極