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特許7586012シリコンインゴットの表面処理方法、加工方法、シリコンブロックの保管方法、シリコンウェーハの製造方法及びシリコンインゴット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】シリコンインゴットの表面処理方法、加工方法、シリコンブロックの保管方法、シリコンウェーハの製造方法及びシリコンインゴット
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20241112BHJP
【FI】
H01L21/304 601S
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021118563
(22)【出願日】2021-07-19
(65)【公開番号】P2023014554
(43)【公開日】2023-01-31
【審査請求日】2023-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】木村 明浩
【審査官】湯川 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開昭54-005378(JP,A)
【文献】特開2013-131588(JP,A)
【文献】特開平06-166600(JP,A)
【文献】特開2013-074066(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0303199(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒研削前のシリコンインゴットの表面を物理衝撃処理して、前記シリコンインゴットの前記表面にRzが50μm以上、300μm以下の凹凸を形成することを特徴とするシリコンインゴットの表面処理方法。
【請求項2】
前記物理衝撃処理はブラスト処理であることを特徴とする請求項1に記載のシリコンインゴットの表面処理方法。
【請求項3】
前記シリコンインゴットをCZ法又はFZ法により製造し、前記シリコンインゴットが種結晶により保持された状態で前記物理衝撃処理を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載のシリコンインゴットの表面処理方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のシリコンインゴットの表面処理方法により処理された前記シリコンインゴットの円筒研削を行うことを特徴とするシリコンインゴットの加工方法。
【請求項5】
請求項4に記載のシリコンインゴットの加工方法による前記シリコンインゴットの円筒研削を行ってから、所定の長さのブロックに切断して保管することを特徴とするシリコンブロックの保管方法。
【請求項6】
請求項5に記載のシリコンブロックの保管方法により保管された前記シリコンブロックをスライスしてシリコンウェーハを製造することを特徴とするシリコンウェーハの製造方法。
【請求項7】
シリコンインゴットであって、
直胴部の表面の全面が、Rzが50μm以上、300μm以下の凹凸を有する物理衝撃処理面であることを特徴とするシリコンインゴット。
【請求項8】
前記物理衝撃処理面がブラスト面であることを特徴とする請求項7に記載のシリコンインゴット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンインゴットの表面処理方法、加工方法、シリコンブロックの保管方法、シリコンウェーハの製造方法及びシリコンインゴットに関する。
【背景技術】
【0002】
金属不純物であるCuは、シリコンウェーハにさまざまな欠陥を誘起することが知られている。例えば、特許文献1、2にはOSF(Oxidation-Induced Stacking Fault)の経時変化について記載されている。その対策として、特許文献1には、シリコン単結晶インゴット又はブロックを保管する際は低温貯蔵するか、早期に切断加工することが記載されている。特許文献2には、シリコン単結晶を製造する際に用いる石英ガラスルツボのAl濃度及びCu濃度を規定するか、シリコン単結晶を製造する際にAlをドープすることが記載されている。また、特許文献3には、シリコンウェーハ中のホウ素濃度と酸素ドナー濃度がほぼ同じ場合に「偏在LPD」が検出されるため、その対策として、50日以内にウェーハを切り出すか、50日を超えてウェーハを切り出した場合には300℃以上の熱処理を施すことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平5-58800号公報
【文献】特開平8-73293号公報
【文献】特開2017-200878号公報
【文献】特開昭54-5378号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】「Si基板に対するCu及びNi拡散量の調査」、営業技術部、DISCO Technical Review Nov. 2018
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載されるような低温貯蔵する方法では、コストが掛かるという問題があり、ウェーハへの切り出しに日数制限を設ける方法ではブロック在庫に制約を設けた生産管理をする必要があり、効率的な製造が困難となる。また、特許文献2に記載されるような石英ガラスルツボのAl濃度やCu濃度でシリコン単結晶の製造条件(Alドープの有無)を変える方法や、特許文献3に記載されるようなウェーハ切り出しまでの日数によってウェーハ製造工程(300℃熱処理の有無)を変える方法も、煩雑な工程管理が必要となり、間違いを招くリスクを抱えることとなる。
【0006】
また、特許文献4には、結晶成長中に導入される不純物との記載しかないため、どのような不純物を意図しているのかは不明だが、不純物が積層欠陥の発生を促進するため、その対策としてシリコン単結晶インゴットに格子歪を与えた後、アニールを行い、表面層をエッチング処理して格子歪及びシリコン破砕層を除去する方法が記載されている。格子歪の導入方法としては、「インゴットを研削して、その外型を成型すると共に格子歪を導入する」とあるように、要するに円筒研削により格子歪を導入している。しかしこの方法では不純物を十分に除去しきれないため、特許文献1~3のような新たな方法が提案されてきた。
【0007】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、簡便かつ低コストでインゴット内部のCu濃度を低減可能であり、インゴットを切断したブロックをウェーハに加工する前に長期保管しても製造するシリコンウェーハにおけるOSFの経時変化の発生が抑制されたシリコンインゴットとするためのシリコンインゴットの処理方法、及び、インゴット内部のCu濃度が低減され、長期保管しても製造するシリコンウェーハにおけるOSFの経時変化の発生が抑制されたシリコンインゴットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、円筒研削前のシリコンインゴットの表面を物理衝撃処理して、前記シリコンインゴットの前記表面にRzが50μm以上の凹凸を形成するシリコンインゴットの表面処理方法を提供する。
【0009】
このようなシリコンインゴットの表面処理方法によれば、簡便かつ低コストでインゴット内部のCu濃度が低減可能である。また、インゴットを切断したブロックを長期保管しても製造するシリコンウェーハにおけるOSFの経時変化の発生が抑制されたシリコンインゴットを得ることができる。
【0010】
このとき、前記物理衝撃処理はブラスト処理であるシリコンインゴットの表面処理方法とすることができる。
【0011】
これにより、極めて容易にインゴット表面に凹凸を形成することができ、インゴット全体にわたって、より均一に安定してインゴット内部のCu濃度を低減することができる。
【0012】
このとき、前記シリコンインゴットをCZ法(チョクラルスキー法)又はFZ法(浮遊帯域溶融法)により製造し、前記シリコンインゴットが種結晶により保持された状態で前記物理衝撃処理を行うシリコンインゴットの表面処理方法とすることができる。
【0013】
種結晶によりインゴットを保持した状態であれば、インゴットを容易に回転させられるため、さらに容易に安定してインゴット外表面全体に満遍なく凹凸を形成して歪を与えることができる。
【0014】
また、本発明は、上記のシリコンインゴットの表面処理方法により処理された前記シリコンインゴットの円筒研削を行うシリコンインゴットの加工方法を提供する。
【0015】
これにより、シリコンインゴットの表面の歪層にゲッタリングされたCuをインゴット外に除去して、Cu濃度が低減されたインゴットを得ることができる。
【0016】
また、本発明は、前記シリコンインゴットの加工方法による前記シリコンインゴットの円筒研削を行ってから、所定の長さのブロックに切断して保管するシリコンブロックの保管方法を提供する。
【0017】
このような保管方法であれば、歪層にゲッタリングされたCuが除去されているので、保管中にブロック内にCuが拡散することを防止することができる。
【0018】
また、本発明は、上記のシリコンブロックの保管方法により保管された前記シリコンブロックをスライスしてシリコンウェーハを製造するシリコンウェーハの製造方法を提供する。
【0019】
これにより、Cu濃度が低減されたシリコンウェーハを得ることができる。
【0020】
また、本発明は、シリコンインゴットであって、直胴部の表面の全面が、Rzが50μm以上の凹凸を有する物理衝撃処理面であるシリコンインゴットを提供する。
【0021】
これにより、インゴット内部のCu濃度が低減され、長期保管しても製造するシリコンウェーハにおけるOSFの経時変化の発生が抑制され、製造するシリコンウェーハの品質が劣化しないシリコンインゴットとなる。
【0022】
このとき、前記物理衝撃処理面がブラスト面であるシリコンインゴットとすることができる。
【0023】
これにより、インゴット全体にわたって、より均一に安定してインゴット内部のCu濃度が低減されたものとなる。
【発明の効果】
【0024】
以上のように、本発明のシリコンインゴットの表面処理方法によれば、インゴット内部のCu濃度が容易に低減可能である。また、インゴットを切断したブロックをウェーハに加工する前に長期保管しても製造するシリコンウェーハにおけるOSFの経時変化の発生が抑制され、製造するシリコンウェーハの品質が劣化しないシリコンインゴットを得ることが可能となる。本発明のシリコンインゴットによれば、インゴット内部のCu濃度が低減され、シリコンインゴットを切断したブロックを長期保管しても製造するシリコンウェーハにおけるOSFの経時変化の発生が抑制され、製造するシリコンウェーハの品質が劣化しないものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明に係るシリコンインゴットの一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0027】
上述のように、インゴットを切断したブロックをウェーハに加工する前に長期間保管してもOSFの経時変化が抑制されたシリコンインゴットであって、簡便かつ低コストでインゴット内部のCu濃度を低減可能であり、インゴットを切断したブロックをウェーハに加工する前に長期保管しても製造するシリコンウェーハにおけるOSFの経時変化の発生が抑制されたシリコンインゴットとするためのシリコンインゴットの処理方法、及び、インゴット内部のCu濃度が低減され、シリコンインゴットを切断したブロックを長期保管しても製造するシリコンウェーハにおけるOSFの経時変化の発生が抑制されたシリコンインゴットを提供することが求められていた。
【0028】
本発明者は、上記課題を解決するための方策を鋭意検討し、生産管理上の制約を設けることなく、また、ウェーハ毎ではなくインゴットの状態で処理して一括で簡便に処理する方法として、円筒研削前のインゴット表面に歪を与えることにより、この歪層にCuをゲッタリングさせ、円筒研削によりCuをシリコンインゴット外へ除去することに想到した。そして、このような方法であれば、低温貯蔵のような大きなコストアップもなく、スライス加工までの日数制限も不要となるため生産管理上の制約もなく、用いる石英ルツボの品質に応じた製造条件の変更や、ウェーハ切り出しまでの日数に応じた製造条件の変更も不要となり、この点でも生産管理上の制約もなく、簡便かつ容易にCuに起因した結晶欠陥が抑制されたシリコンウェーハを製造することができることを見出した。
【0029】
すなわち、円筒研削前のシリコンインゴットの表面を物理衝撃処理して、前記シリコンインゴットの前記表面にRzが50μm以上の凹凸を形成するシリコンインゴットの表面処理方法により、簡便かつ低コストでインゴット内部のCu濃度が低減可能となる。また、インゴットを切断したブロックをウェーハに加工する前に長期保管しても製造するシリコンウェーハにおけるOSFの経時変化の発生が抑制され、製造するシリコンウェーハの品質が劣化しないシリコンインゴットを得ることが可能となることを見出し、本発明を完成した。
【0030】
本発明者は、また、シリコンインゴットであって、直胴部の表面の全面が、Rzが50μm以上の凹凸を有する物理衝撃処理面であるシリコンインゴットにより、インゴット内部のCu濃度が低減され、シリコンインゴットを切断したブロックを長期保管しても製造するシリコンウェーハにおけるOSFの経時変化の発生が抑制され、製造するシリコンウェーハの品質が劣化しないものとなることを見出し、本発明を完成した。
【0031】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0032】
(シリコンインゴット)
まず、本発明に係るシリコンインゴットの表面処理方法を行うシリコンインゴットについて説明する。表面処理を行うシリコンインゴットは、最終的にはスライスなどの加工工程を経てシリコンウェーハとなるものであり、その製造方法は特に限定されない。本発明に係るシリコンインゴットの表面処理方法は、CZ法、MCZ法、FZ法等、インゴット(結晶)の製造方法にかかわらず適用できる。
【0033】
(シリコンインゴットの表面処理方法)
次に、本発明に係るシリコンインゴットの表面処理方法について説明する。準備したシリコンインゴットに対し、円筒研削を行う前にシリコンインゴットの表面を物理衝撃処理して、シリコンインゴットの表面にRz(最大高さ)が50μm以上の凹凸を形成し物理衝撃処理面とする。このような凹凸を形成することで、円筒研削前のインゴット表面の近傍には歪層が形成され、この歪層にインゴット中のCuをゲッタリングさせることができる。
【0034】
図1に、本発明に係るシリコンインゴットの一例を示す。本発明に係るシリコンインゴット10は、直胴部1の表面の全面が、Rz(最大高さ)が50μm以上の凹凸を有する物理衝撃処理面である。ここで、物理衝撃処理面とは、物理的衝撃により処理した状態の面を指す。直胴部1の表面の全面が、Rzが50μm以上の凹凸を有する物理衝撃処理面2であるシリコンインゴットは、物理衝撃処理面近傍の歪層にCuがゲッタリングされるため、物理衝撃処理面近傍を除くシリコンインゴット内部のCu濃度が極めて低いものとなっている。このようなシリコンインゴットを切断したブロックは、特に長期間の保管性に優れ、長期間保管した後にスライスしてシリコンウェーハとした場合でも、Cuを原因とする各種欠陥、特にOSFが形成されないものである。
【0035】
一方、直胴部1の表面の全面が物理衝撃処理面であったとしても、Rzが50μmより小さい凹凸を有するものである場合には、特に長期保管性に劣るものとなる。これは、シリコンインゴット内部のCu濃度の低減効果が十分でないためであり、例えば保管期間が長くなるにつれインゴットから作製したシリコンウェーハにOSFが発生するようになる経時的な変化の問題が生じる。
【0036】
物理衝撃処理面はどのような面であっても良いが、特にブラスト処理で形成されるブラスト面であることが好ましい。ブラスト面は容易に広い範囲に形成可能であり、安定してCuをゲッタリング可能な歪層を備えたものとなる。
【0037】
物理衝撃処理面の凹凸(粗さ)はRzが50μm以上であれば特に限定されないが、好ましくは75μm以上、より好ましくは100μm以上とすることができる。また上限値は特に限定されないが、例えばRzが300μm以下、より好ましくは200μm以下とすることができる。
【0038】
なお、物理衝撃処理面とされる面はどのような面であってもよい。インゴットを育成した直後のアズグロウン(As-Grown)の状態の面でもよく、他の表面処理、表面加工を行った後の面であってもよい。また、シリコンインゴットと種結晶が繋がったままの状態であれば、インゴットが冷却する前の高温の状態で物理衝撃処理を行うこともできるので好ましいが、本発明に係るシリコンインゴット10はコーン部3やテール部4が除去されていてもよい。コーン部3やテール部4を備えているシリコンインゴット10の場合、直胴部1だけでなく、さらにコーン部3、テール部4の表面が物理衝撃処理面となっていてもよい。
【0039】
例えば、シリコン基板(厚さ725μm)の片面に塗布したCuは、350℃/1hの熱処理で、反対面へ拡散されることが知られている(非特許文献1)。これほど拡散しやすいCuは、上記のような物理衝撃処理面を形成したインゴットであれば、室温でも十分に歪層にゲッタリングされる。
【0040】
このとき、物理衝撃処理としては、ブラスト処理、バレル処理等が挙げられるが、特にブラスト処理が簡便で好ましい。ブラスト処理は、インゴット表面の広い範囲にわたってより容易に安定して凹凸を形成することができる。ブラスト処理としては、ショットブラスト、グリットブラスト等が挙げられる。
【0041】
また、シリコンインゴットをCZ法、MCZ法、FZ法により製造したときに、シリコンインゴットが種結晶により保持された状態で物理衝撃処理を行うことが好ましい。種結晶とインゴットとが繋がったままの、種結晶によりインゴットを保持した状態であれば、インゴットを容易に回転させられるため、さらに容易にインゴットの表面全体に満遍なく歪を与えることができる。
【0042】
(シリコンインゴットの加工方法)
本発明に係るシリコンインゴットの加工方法は、上記のシリコンインゴットの表面処理方法により処理されたシリコンインゴットの円筒研削を行う加工方法である。円筒研削により、歪層にゲッタリングされたCuはインゴット外に排除される。円筒研削加工を行ったシリコンインゴットは、Cu濃度が極めて低くなっている。このとき、物理衝撃処理を行ってから円筒研削するまでの時間は、インゴット内部から歪層までのCuの拡散やOSF発生の実績を考慮して適宜決定することができる。
【0043】
(インゴットを切断したブロックの保管方法)
なお、インゴットを切断したブロックの保管は、物理衝撃処理を行った後であればどのような状態でも可能である。円筒研削前、円筒研削後のいずれでもよいが、特には、円筒研削後の方がより好ましい。円筒研削後であれば、歪層にゲッタリングされたCuが除去されているので、保管中にブロック内にCuが拡散することを防止することができる。
【0044】
(シリコンウェーハの製造方法)
本発明に係るシリコンウェーハの製造方法は、上述のシリコンインゴットを切断して保管したブロックの保管方法により保管されたブロックをスライスしてシリコンウェーハを製造するシリコンウェーハの製造方法である。シリコンインゴットの表面を物理衝撃処理して所定の大きさの凹凸を形成して歪を与え、円筒研削によりインゴットからCuを除去した後は、スライス工程を含む通常のシリコンウェーハ製造工程を行い、シリコンウェーハを製造することができる。例えば、シリコンインゴットを種結晶から切り離し、冷却した後、上述の円筒研削、コーン部及びテール部の除去、ブロック切断、直胴部のスライス加工、スライスウェーハのラップ、面取り、エッチング、研磨、等を行う。このようにして製造されるシリコンウェーハに含まれるCuの濃度は従来に比べて極めて低いため、Cuを原因とする各種欠陥の形成が抑制される。
【0045】
このように、本発明に係るシリコンインゴットの表面処理を行ったシリコンインゴットを切断したブロックであれば、スライス加工を行う前に長期間保管しておいてもOSFの発生等の問題が抑制される。しかも、新たに追加される工程は、サンドブラスト等の物理衝撃処理でインゴットの表面に歪を与える工程のみであり、僅かなコストアップかつ簡便な方法で、Cu濃度を低減したシリコンウェーハの製造を行うことが可能である。
【実施例
【0046】
以下、実施例を挙げて本発明について具体的に説明するが、これは本発明を限定するものではない。
【0047】
(実施例)
MCZ法で、直径300mm、長さ150cmのシリコン単結晶インゴットを130本引き上げた。この時使用した石英ルツボの内表面からの深さ方向におけるAl濃度は、内表面から30μmの範囲で平均濃度40ppmw未満であり、シリコン単結晶インゴットの製造時にAlはドープしていない。
【0048】
引上機からシリコン単結晶インゴットを取り出す際に、種結晶によりインゴットが保持された状態で、インゴットを6rpmで回転させながらサンドブラスト装置を用いてサンドブラスト処理を行い、インゴット外周表面全体に凹凸を形成した。サンドブラストに用いた研磨剤は、ガラスビーズ、番手は120とした。サンドブラストの空気圧力は0.5~0.7MPa、吹付距離は30~50cm、吹付角度は90±30°、インゴット全体への処理時間は10分とした。
【0049】
その後、シリコン単結晶インゴットを種結晶から切り離し、冷却した後、円筒研削、ブロック切断を行った。円筒研削前にインゴット表面の粗さを表面粗さ測定機(ミツトヨ製、サーフテストSJ-210)で10ヶ所測定したところ、Rzは55~65μmであった。
【0050】
ブロックの保管期間を1ヶ月おきに、0ヶ月(放置日数3日)から12ヶ月までとして、各月にシリコン単結晶インゴットを10本ずつ、スライス加工、ラップ、面取り、エッチング、研磨、等を行い、シリコンウェーハを作製した。50枚おきにシリコンウェーハを抜き取り、1150℃/100min.の熱処理条件で熱処理を行い、OSF発生の有無を確認したところ、保管期間に依らずOSFが発生したシリコンウェーハは1枚も無かった。
【0051】
(比較例1)
サンドブラストの際に用いた研磨剤のガラスビーズの番手を150としたこと以外は、実施例と同様にシリコン単結晶インゴットの表面処理、加工、シリコンウェーハの製造、評価を行った。この時の円筒研削前のシリコン単結晶インゴット表面の粗さはRzで35~45μmであった。ブロック保管期間が0ヶ月(放置日数3日)~3ヶ月ではOSF発生は無かったが、4ヶ月以降は80%以上のシリコンウェーハでOSFが発生した。
【0052】
(比較例2)
MCZ法で、直径300mm、長さ150cmのシリコン単結晶インゴットを130本引き上げた。この時使用した石英ルツボの内表面からの深さ方向におけるAl濃度は、内表面から30μmの範囲で平均濃度40ppmw未満であり、シリコン単結晶製造時にAlはドープしていない。
【0053】
シリコン単結晶インゴットを種結晶から切り離し、冷却した後、円筒研削、ブロック切断を行った。円筒研削前にインゴット表面の粗さを表面粗さ測定機(ミツトヨ製サーフテストSJ-210)で10ヶ所測定したところ、Rzは5~15μmであった。
【0054】
ブロックの保管期間を1ヶ月おきに、0ヶ月(放置日数3日)から12ヶ月までとして、各月にシリコン単結晶インゴットを10本ずつ、スライス加工、ラップ、面取り、エッチング、研磨、等を行い、シリコンウェーハを作製した。50枚おきにシリコンウェーハを抜き取り、1150℃/100min.の熱処理条件で熱処理を行い、OSF発生の有無を確認した。保管期間が0ヶ月、1ヶ月ではOSF発生はなかったが、2ヶ月以降は80%以上のシリコンウェーハでOSFが発生した。
【0055】
以上のとおり、本発明の実施例によれば、簡便かつ低コストでシリコンインゴット中のCu濃度を低減することができ、インゴットを切断したブロックの長期保管性を向上させることができた。
【0056】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0057】
1…直胴部、 2…物理衝撃処理面、 3…コーン部、 4…テール部、
10…シリコンインゴット。
図1