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7586075樹脂組成物、電子部品、及び、樹脂膜の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】樹脂組成物、電子部品、及び、樹脂膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 45/00 20060101AFI20241112BHJP
   C08L 79/08 20060101ALI20241112BHJP
   C08K 5/1515 20060101ALI20241112BHJP
   C08G 59/40 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
C08L45/00
C08L79/08 C
C08K5/1515
C08G59/40
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021526891
(86)(22)【出願日】2020-06-18
(86)【国際出願番号】 JP2020024042
(87)【国際公開番号】W WO2020262205
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2023-05-15
(31)【優先権主張番号】P 2019121029
(32)【優先日】2019-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100174001
【弁理士】
【氏名又は名称】結城 仁美
(72)【発明者】
【氏名】藤村 誠
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/065351(WO,A1)
【文献】特開2018-124502(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
C08G59/00-59/72
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロトン性極性基を有する重合体(A)と、下式(1)で表される化合物を含む架橋剤(B)と、を含有する樹脂組成物であって、前記プロトン性極性基を有する重合体(A)が、
プロトン性極性基を有する環状オレフィン重合体(A-1)を含み、且つ、プロトン性極性基を有する単量体単位の占有比率が、51モル%以上であること、及び、
プロトン性極性基を有するポリアミドイミド樹脂(A-2)を含むこと、
の少なくとも一方を満たし
前記プロトン性極性基を有するポリアミドイミド樹脂(A-2)は、分岐型構造を有するポリアミドイミドである、
樹脂組成物。
【化1】
・・・(1)
〔式(1)中、複数のRは、それぞれ独立して、炭素数1~6のアルキル基、及び炭素数1~6のアルコキシ基の何れかを示し、複数のRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、及び炭素数1~6のアルコキシ基の何れかを示し、m、n、p、及びqは、0~4の整数をそれぞれ示す。〕
【請求項2】
フェノール系酸化防止剤(C)を更に含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
記プロトン性極性基を有する重合体(A)100質量部に対する、前記フェノール系酸化防止剤(C)の含有量が、0.3質量部以上15質量部以下である、請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記プロトン性極性基を有する重合体(A)が、カルボキシル基を有する環状オレフィン重合体である、請求項1~3の何れかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記プロトン性極性基を有する重合体(A)が、前記プロトン性極性基を有する環状オレフィン重合体(A-1)であり、
前記プロトン性極性基を有する環状オレフィン重合体(A-1)が開環重合体である、請求項1~4の何れかに記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記プロトン性極性基を有する重合体(A)100質量部に対する、前記架橋剤(B)の含有量が、5質量部以上160質量部以下である、請求項1~5の何れかに記載の樹脂組成物。
【請求項7】
アルコキシメチル基を2つ以上有する化合物及びメチロール基を2つ以上有する化合物の少なくとも一方を更に含有する、請求項1~6の何れかに記載の樹脂組成物。
【請求項8】
感放射線化合物(D)を更に含有する、請求項1~7の何れかに記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記感放射線化合物(D)が、キノンジアジド化合物である、請求項8に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1~9の何れかに記載の樹脂組成物からなる樹脂膜を備える、電子部品。
【請求項11】
請求項1~9の何れかに記載の樹脂組成物を用いて形成した塗膜を100℃以上で加熱する工程を含む、樹脂膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、電子部品、及び、樹脂膜の製造方法に関するものである。特に、本発明は、電子部品に用いられる絶縁膜などの形成に好適に使用し得る樹脂組成物、当該樹脂組成物からなる樹脂膜を備える電子部品、及び、かかる樹脂膜を製造するための製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置、有機EL表示装置、集積回路素子、固体撮像素子などの電子部品には、平坦化膜、保護膜、絶縁膜等として種々の樹脂膜が設けられている。
【0003】
例えば、特許文献1では、永久膜を形成するために用いられる感光性樹脂組成物であって、環状オレフィン構造単位を有するポリマーを含み、特定の条件下で測定されるPED(Post Exposure Delay)が10%以下であり、特定の条件(B)により測定される膨潤率が20%以下であるような、感光性樹脂組成物が提案されている。特許文献1にかかる感光性樹脂組成物は、永久膜を備える電子装置の製造に用いた場合に、製造安定性を高めることができる。さらに、特許文献1にかかる感光性樹脂組成物は、任意で、エポキシ化合物等の架橋剤を含有しうる。
【0004】
また、特許文献2では、犠牲膜を形成するために用いられる感光性樹脂組成物であって、所定のアルカリ可溶性樹脂と、感光剤とを含み、感光性樹脂組成物を115℃、3分の条件で加熱処理して、樹脂膜を形成した時に、樹脂膜に対する水の静的接触角が76°以上95°以下となるような、感光性樹脂組成物が提案されている。さらに、特許文献2にかかる感光性樹脂組成物は、任意で、エポキシ化合物等の架橋剤を含有しうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2015/141525号
【文献】特開2017-111447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、多様な用途に応用されている透明電極の一種であるITO(Indium Tin Oxide)電極について、性能を向上すべく、改良が進められている。ここで、ITO電極の性能を向上させるためには、ITO電極に備えられたITO膜にしわが無い又は少ないことが好ましい。ITO膜にしわが寄れば、積層体の光透過性が劣化し、ITO電極の性能低下につながる虞がある。そこで、ITO膜に対して隣接又は近接して設けられる樹脂膜には、表面にITO膜を形成した場合に、ITO膜の表面にしわが生じることを抑制する性能を発揮可能であることが望ましい。以下、本明細書において、「ITO膜の表面にしわが生じることを抑制する」という性能を、「ITOしわ抑制性能」と称する。
【0007】
また、樹脂組成物を用いて樹脂膜を形成するにあたり、一般的に、種々の薬液を使用する。このような薬液に対して、樹脂膜が適度な耐性、即ち耐薬品性を有していれば、設計通りの樹脂膜を形成することが可能となる。従って、樹脂膜には、耐薬品性に優れることが求められている。
【0008】
さらにまた、近年、ITO電極を形成する際におけるITO膜を形成する工程において、優れた性能を呈し得るITO膜を得る目的で、高温条件下で、ITO膜を成膜すること及び加熱することが検討されている。そこで、樹脂膜には、高温条件下における膜の減量が少ないこと、即ち、耐熱性に優れることが求められている。
【0009】
このように、近年、樹脂膜には、「ITOしわ抑制性能」、「耐薬品性」、及び、「耐熱性」の全てに優れていることが求められている。しかし、上記従来の樹脂組成物を用いて形成した樹脂膜には、これらの属性をバランス良く高めるという点で改善の余地があった。
【0010】
そこで、本発明は、ITOしわ抑制性能、耐薬品性、及び耐熱性に優れる樹脂膜を形成可能な、樹脂組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、本発明の樹脂組成物を用いて形成された樹脂膜を備える高性能な電子部品を提供することを目的とする。
さらにまた、本発明は、本発明の樹脂組成物を用いて本発明の樹脂膜を効率的に製造し得る樹脂膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を行った。そして、本発明者は、所定の組成を満たす、プロトン性極性基を有する重合体(A)と、所定の架橋剤(B)とを含有する樹脂組成物によれば、ITOしわ抑制性能、耐薬品性、及び耐熱性に優れる樹脂膜を形成することが可能になることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の樹脂組成物は、プロトン性極性基を有する重合体(A)と、下式(1)で表される化合物を含む架橋剤(B)と、を含有する樹脂組成物であって、前記プロトン性極性基を有する重合体(A)が、プロトン性極性基を有する環状オレフィン重合体(A-1)を含み、且つ、プロトン性極性基を有する単量体単位の占有比率が、51モル%以上であること、及び、プロトン性極性基を有するポリアミドイミド樹脂(A-2)を含むこと、の少なくとも一方を満たすことを特徴とする。
【化1】
〔式(1)中、複数のRは、それぞれ独立して、炭素数1~6のアルキル基、及び炭素数1~6のアルコキシ基の何れかを示し、複数のR1は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、及び炭素数1~6のアルコキシ基の何れかを示し、m、n、p、及びqは、0~4の整数をそれぞれ示す。〕
このように、樹脂組成物に、プロトン性極性基を有する所定の重合体(A)と、上記所定の構造を満たす架橋剤(B)とを含有させれば、ITOしわ抑制性能、耐薬品性、及び耐熱性に優れる樹脂膜を形成することが可能となる。
【0013】
ここで、本発明の樹脂組成物が、フェノール系酸化防止剤(C)を更に含むことが好ましい。樹脂組成物がフェノール系酸化防止剤(C)を更に含んでいれば、得られる樹脂膜の光透過性を高めることができる。
【0014】
また、本発明の樹脂組成物において、前記プロトン性極性基を有する重合体(A)100質量部に対する、前記フェノール系酸化防止剤(C)の含有量が、0.3質量部以上15質量部以下であることが好ましい。重合体(A)に対する、酸化防止剤(C)の含有量が上記範囲内であれば、得られる樹脂膜の光透過性を一層高め、且つ、ITOしわ抑制性能を一層高めることができるとともに、得られる樹脂膜にて酸化防止剤(C)がブリードアウトし易くなることを抑制することができる。
【0015】
また、本発明の樹脂組成物において、前記プロトン性極性基を有する重合体(A)が、カルボキシル基を有する環状オレフィン重合体であることが好ましい。樹脂組成物にカルボキシル基を有する環状オレフィン重合体を含有させることにより、得られる樹脂膜のITOしわ抑制性能を一層高めることができる。
【0016】
また、本発明の樹脂組成物において、前記プロトン性極性基を有する重合体(A)が、前記プロトン性極性基を有する環状オレフィン重合体(A-1)であり、前記プロトン性極性基を有する環状オレフィン重合体(A-1)が、開環重合体であることが好ましい。プロトン性極性基を有する重合体(A)が開環重合体であれば、得られる樹脂膜の加工性を向上させることができる。
【0017】
また、本発明の樹脂組成物において、前記プロトン性極性基を有する重合体(A)100質量部に対する、前記架橋剤(B)の含有量が、5質量部以上160質量部以下であることが好ましい。架橋剤(B)の含有量が上記所定の範囲内であれば、得られる樹脂膜のITOしわ抑制性能、耐薬品性、及び光透過性を向上させることができる。
【0018】
更に、本発明の樹脂組成物が、アルコキシメチル基を2つ以上有する化合物及びメチロール基を2つ以上有する化合物の少なくとも一方を更に含有することが好ましい。樹脂組成物に、アルコキシメチル基を2つ以上有する化合物及びメチロール基を2つ以上有する化合物の少なくとも一方を更に含有させれば、得られる樹脂膜の耐薬品性を一層高めることができる。
【0019】
更にまた、本発明の樹脂組成物が、感放射線化合物(D)を更に含有していても良い。樹脂組成物が感放射線化合物(D)を含有していれば、樹脂膜をパターニングすることにより所望のパターンを有する樹脂膜を良好に形成することができる。ここで、前記感放射線化合物(D)が、キノンジアジド化合物であることが好ましい。
【0020】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の電子部品は、上述した何れかの樹脂組成物からなる樹脂膜を備えることを特徴とする。上述した樹脂組成物を用いて形成される樹脂膜は、ITOしわ抑制性能、耐薬品性、及び耐熱性に優れるため、当該樹脂膜を備える電子部品は、所期の機能を十分に発揮することができるため、高性能である。
【0021】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の樹脂膜の製造方法は、樹脂組成物を用いて形成した塗膜を100℃以上で加熱する工程を含むことを特徴とする。上述した何れかの樹脂組成物を用いて形成した塗膜を100℃以上で加熱することにより、効率的に、ITOしわ抑制性能、耐薬品性、及び耐熱性に優れる樹脂膜を製造することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、ITOしわ抑制性能、耐薬品性、及び耐熱性に優れる樹脂膜を形成可能な、樹脂組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、本発明の樹脂組成物を用いて形成された樹脂膜を備える高性能な電子部品を提供することができる。
さらにまた、本発明によれば、本発明の樹脂組成物を用いて本発明の樹脂膜を効率的に製造し得る樹脂膜の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。本発明の樹脂組成物は、樹脂膜の形成に用いることができる。そして、かかる樹脂膜は、ITO電極を備える電子部品に好適に備えられうる。そして、本発明の電子部品は、本発明の樹脂組成物を用いて得られる樹脂膜を備えるものである。また、かかる樹脂膜は、本発明の樹脂組成物を用いた本発明の樹脂膜の製造方法に従って効率的に製造することができる。
【0024】
(樹脂組成物)
本発明の樹脂組成物は、後述する所定の条件を満たすプロトン性極性基を有する重合体(A)と、下式(1)で表される化合物を含む架橋剤(B)と、を含有することを特徴とする。
【化2】
〔式(1)中、複数のRは、それぞれ独立して、炭素数1~6のアルキル基、及び炭素数1~6のアルコキシ基の何れかを示し、複数のR1は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、及び炭素数1~6のアルコキシ基の何れかを示し、m、n、p、及びqは、0~4の整数をそれぞれ示す。〕
さらに、本発明の樹脂組成物は、任意で、フェノール系酸化防止剤(C)、アルコキシメチル基を2つ以上有する化合物及びメチロール基を2つ以上有する化合物の少なくとも何れか、並びに、その他の添加剤を更に含有し得る。
【0025】
なお、本発明の樹脂組成物は、所定の条件を満たす、プロトン性極性基を有する重合体(A)、及び、上記所定の構造を満たす架橋剤(B)を含有しているので、ITOしわ抑制性能、耐薬品性、及び耐熱性に優れる。これは、樹脂膜中において、所定の条件を満たす、重合体(A)に含まれるプロトン性極性基が架橋剤(B)により架橋されてなる架橋構造が存在することが、樹脂膜のガラス転移温度を高めること、高温環境下における樹脂膜の弾性率を高めること、高温環境下における樹脂膜の引張強度を高めること、及び薬品に対して浸漬された場合に樹脂膜が過度に膨潤し易くなることを抑制すること、等に寄与するためであると推察される。
【0026】
<プロトン性極性基を有する重合体(A)>
プロトン性極性基を有する重合体(A)は、プロトン性極性基を有する環状オレフィン重合体(A-1)を含み、且つ、プロトン性極性基を有する単量体単位の占有比率が、51モル%以上であること、及び、プロトン性極性基を有するポリアミドイミド樹脂(A-2)を含むこと、の少なくとも一方を満たすことを特徴とする。
【0027】
プロトン性極性基を有する重合体(A)とは、骨格となる構造に対してプロトン性極性基が結合してなる重合体である。ここで、「プロトン性極性基」とは、周期律表の第15族又は第16族に属する原子に水素が直接結合している原子を含む基をいう。水素が直接結合する原子は、好ましくは周期律表の第15族又は第16族の第2周期若しくは第3周期に属する原子であり、より好ましくは酸素原子、窒素原子又は硫黄原子であり、特に好ましくは酸素原子である。
【0028】
このようなプロトン性極性基の具体例としては、水酸基、カルボキシル基(ヒドロキシカルボニル基)、スルホン酸基、リン酸基等の酸素原子を有する極性基;第一級アミノ基、第二級アミノ基、第一級アミド基、第二級アミド基(イミド基)等の窒素原子を有する極性基;チオール基等の硫黄原子を有する極性基;等が挙げられる。これらの中でも、酸素原子を有するものが好ましく、より好ましくはカルボキシル基である。
本発明において、プロトン性極性基を有する重合体(A)に結合しているプロトン性極性基の数に特に限定はなく、また、相異なる種類のプロトン性極性基が含まれていてもよい。
【0029】
プロトン性極性基を有する重合体(A)の骨格は、(1)主鎖に、環状オレフィン単量体に由来する環状構造(脂環又は芳香環)を有する重合体、及び、(2)ポリアミドイミドの何れかである。なお、繰り返し単位にアミド結合及びイミド結合を有する、所謂「ポリアミドイミド樹脂」と称されうる重合体であっても、主鎖に環状オレフィン単量体に由来する環状構造を有する重合体は、上記(1)に記載した、「主鎖に、環状オレフィン単量体に由来する環状構造(脂環又は芳香環)を有する重合体」に該当するものとする。
【0030】
さらに、得られる樹脂膜のITOしわ抑制性能を一層高める観点から、プロトン性極性基を有する重合体(A)として、骨格が、(1)主鎖に、環状オレフィン単量体に由来する環状構造(脂環又は芳香環)を有する重合体を少なくとも用いること、換言すれば、プロトン性極性基を有する重合体(A)が、環状オレフィン重合体を少なくとも含むことが好ましい。以下、プロトン性極性基を有する重合体(A)としての、環状オレフィン重合体を「環状オレフィン重合体(A-1)」と称し、プロトン性極性基を有するポリアミドイミド樹脂を、「ポリアミドイミド樹脂(A-2)」と称することがある。なお、プロトン性極性基を有する重合体(A)としては、一種の重合体を単独で用いても良いし、複数種の重合体を組み合わせて用いても良い。より具体的には、プロトン性極性基を有する重合体(A)として、一種若しくは複数種の環状オレフィン重合体(A-1)又は一種若しくは複数種のポリアミドイミド樹脂(A-2)をそれぞれ用いても良いし、一種若しくは複数種の環状オレフィン重合体(A-1)と、一種若しくは複数種のポリアミドイミド樹脂(A-2)とを併用しても良い。中でも、上述のように、プロトン性極性基を有する重合体(A)が環状オレフィン重合体(A-1)を少なくとも含むことが好ましく、プロトン性極性基を有する重合体(A)が環状オレフィン重合体(A-1)であることがより好ましい。
【0031】
<<環状オレフィン重合体(A-1)>>
環状オレフィン重合体(A-1)としては、1又は2以上の環状オレフィン単量体の重合体、又は、1又は2以上の環状オレフィン単量体と、これと共重合可能な単量体との共重合体が挙げられるが、本発明においては、環状オレフィン重合体(A-1)を形成するための単量体として、少なくともプロトン性極性基を有する環状オレフィン単量体(a)を用いることが好ましい。
【0032】
プロトン性極性基を有する環状オレフィン単量体(a)(以下、単に「環状オレフィン単量体(a)」とも称することがある。)としては、特に限定されることなく、プロトン性極性基を有する環状オレフィン単量体(a)(以下、適宜、「単量体(a)」という。)の具体例としては、2-ヒドロキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン、2-メチル-2-ヒドロキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン、2-カルボキシメチル-2-ヒドロキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン、2,3-ジヒドロキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン、2-ヒドロキシカルボニル-3-ヒドロキシカルボニルメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン、3-メチル-2-ヒドロキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン、3-ヒドロキシメチル-2-ヒドロキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン、2-ヒドロキシカルボニルトリシクロ[5.2.1.02,6]デカ-3,8-ジエン、4-ヒドロキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-9-エン、4-メチル-4-ヒドロキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-9-エン、4,5-ジヒドロキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-9-エン、4-カルボキシメチル-4-ヒドロキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-9-エン、N-(ヒドロキシカルボニルメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド、N-(ヒドロキシカルボニルエチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド、N-(ヒドロキシカルボニルペンチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド、N-(ジヒドロキシカルボニルエチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド、N-(ジヒドロキシカルボニルプロピル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド、N-(ヒドロキシカルボニルフェネチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド、N-(2-(4-ヒドロキシフェニル)-1-(ヒドロキシカルボニル)エチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド、N-(ヒドロキシカルボニルフェニル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド等のカルボキシル基含有環状オレフィン;2-(4-ヒドロキシフェニル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン、2-メチル-2-(4-ヒドロキシフェニル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン、4-(4-ヒドロキシフェニル)テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-9-エン、4-メチル-4-(4-ヒドロキシフェニル)テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-9-エン、2-ヒドロキシビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン、2-ヒドロキシメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン、2-ヒドロキシエチルビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン、2-メチル-2-ヒドロキシメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン、2,3-ジヒドロキシメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン、2-(ヒドロキシエトキシカルボニル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン、2-メチル-2-(ヒドロキシエトキシカルボニル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン、2-(1-ヒドロキシ-1-トリフルオロメチル-2,2,2-トリフルオロエチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン、2-(2-ヒドロキシ-2-トリフルオロメチル-3,3,3-トリフルオロプロピル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン、3-ヒドロキシトリシクロ[5.2.1.02,6]デカ-4,8-ジエン、3-ヒドロキシメチルトリシクロ[5.2.1.02,6]デカ-4,8-ジエン、4-ヒドロキシテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-9-エン、4-ヒドロキシメチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-9-エン、4,5-ジヒドロキシメチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-9-エン、4-(ヒドロキシエトキシカルボニル)テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-9-エン、4-メチル-4-(ヒドロキシエトキシカルボニル)テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-9-エン、N-(ヒドロキシエチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド、N-(ヒドロキシフェニル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド、等の水酸基含有環状オレフィン等を挙げることができる。中でも、得られる樹脂膜のITOしわ抑制性能を一層高める観点から、カルボキシル基含有環状オレフィンが好ましく、4-ヒドロキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-9-エンが特に好ましい。なお、環状オレフィン単量体(a)としては、一種又は複数種の単量体を用いることができる。
【0033】
環状オレフィン重合体(A-1)中における、環状オレフィン単量体(a)に由来する単位の含有割合は、環状オレフィン重合体(A-1)を構成する全繰り返し単位を100モル%として、51モル%以上が好ましく、55モル%以上がより好ましく、99モル%以下が好ましく、90モル%以下がより好ましく、80モル%以下が更に好ましく、75モル%以下が更により好ましい。なお、上記環状オレフィン単量体(a)に由来する単位の含有割合が、100モル%であっても良い。環状オレフィン単量体(a)に由来する単位の含有割合を上記範囲とすることにより、得られる樹脂膜のITOしわ抑制性能、耐薬品性、及び耐熱性を一層バランスよく高めることができる。
【0034】
また、本発明で用いる環状オレフィン重合体(A-1)は、プロトン性極性基を有する環状オレフィン単量体(a)と、これと共重合可能な単量体(b)とを共重合して得られる共重合体であってもよい。このような共重合可能な単量体としては、プロトン性極性基以外の極性基を有する環状オレフィン単量体(b1)、極性基を持たない環状オレフィン単量体(b2)、及び環状オレフィン以外の単量体(b3)(以下、適宜、「単量体(b1)」、「単量体(b2)」、「単量体(b3)」という。)が挙げられる。ここで単量体(b1)~(b3)は、特性に影響が無い範囲で使用可能である。そして、環状オレフィン重合体(A-1)は、単量体(a)と、単量体(b1)とから構成されることが好ましい。さらに、下記に列挙する単量体(b1)の中でも、N-置換イミド基を有する環状オレフィンである、N-(2-エチルヘキシル)-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミドを用いることが好ましい。
【0035】
プロトン性極性基以外の極性基を有する環状オレフィン単量体(b1)が有する、プロトン性極性基以外の極性基の具体例としては、エステル基(アルコキシカルボニル基及びアリーロキシカルボニル基を総称していう。)、N-置換イミド基、エポキシ基、ハロゲン原子、シアノ基、カルボニルオキシカルボニル基(ジカルボン酸の酸無水物残基)、アルコキシ基、カルボニル基、第三級アミノ基、スルホン基、アクリロイル基等が挙げられる。中でも、プロトン性極性基以外の極性基としては、エステル基、N-置換イミド基及びシアノ基が好ましく、エステル基及びN-置換イミド基がより好ましく、N-置換イミド基が特に好ましい。
【0036】
そして、単量体(b1)の具体例としては、以下のような環状オレフィンが挙げられる。
エステル基を有する環状オレフィンとしては、例えば、5-アセトキシビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、5-メトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、5-メチル-5-メトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、9-アセトキシテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-メトキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-エトキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-n-プロポキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-イソプロポキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-n-ブトキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-メチル-9-メトキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-メチル-9-エトキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-メチル-9-n-プロポキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-メチル-9-イソプロポキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-メチル-9-n-ブトキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-(2,2,2-トリフルオロエトキシカルボニル)テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-メチル-9-(2,2,2-トリフルオロエトキシカルボニル)テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン等が挙げられる。
N-置換イミド基を有する環状オレフィンとしては、例えば、N-フェニルビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド、N-(2-エチルヘキシル)-1-イソプロピル-4-メチルビシクロ[2.2.2]オクト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド、N-(2-エチルヘキシル)-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド、N-[(2-エチルブトキシ)エトキシプロピル]-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド、N-(エンド-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジイルジカルボニル)アスパラギン酸ジメチル等が挙げられる。
シアノ基を有する環状オレフィンとしては、例えば、9-シアノテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-メチル-9-シアノテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、5-シアノビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン等が挙げられる。
ハロゲン原子を有する環状オレフィンとしては、例えば、9-クロロテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-メチル-9-クロロテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン等が挙げられる。
これらのプロトン性極性基以外の極性基を有する環状オレフィン単量体(b1)は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
極性基を持たない環状オレフィン単量体(b2)の具体例としては、ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン(「ノルボルネン」ともいう。)、5-エチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、5-ブチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、5-エチリデン-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、5-メチリデン-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、5-ビニル-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ-3,8-ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、テトラシクロ[10.2.1.02,114,9]ペンタデカ-4,6,8,13-テトラエン、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン(「テトラシクロドデセン」ともいう。)、9-メチル-テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-エチル-テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-メチリデン-テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-エチリデン-テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-ビニル-テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-プロペニル-テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、ペンタシクロ[9.2.1.13,9.02,10.04,8]ペンタデカ-5,12-ジエン、シクロペンテン、シクロペンタジエン、9-フェニル-テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、テトラシクロ[9.2.1.02,10.03,8]テトラデカ-3,5,7,12-テトラエン、ペンタシクロ[9.2.1.13,9.02,10.04,8]ペンタデカ-12-エン等が挙げられる。
これらの極性基を持たない環状オレフィン単量体(b2)は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
環状オレフィン以外の単量体(b3)の具体例としては、鎖状オレフィンが挙げられる。鎖状オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、4-エチル-1-ヘキセン、3-エチル-1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン等の炭素数2~20のα-オレフィン;1,4-ヘキサジエン、4-メチル-1,4-ヘキサジエン、5-メチル-1,4-ヘキサジエン、1,7-オクタジエン等の非共役ジエン等が挙げられる。
これらの環状オレフィン以外の単量体(b3)は、それぞれ単独で、又は、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0039】
環状オレフィン重合体(A-1)は、環状オレフィン単量体(a)を単独重合するか、所望により単量体(b1)~(b3)から選ばれる1種以上の単量体と共に重合することにより得られる。重合方法は、特に限定されることなく、あらゆる重合方法を採用することができる。中でも、開環重合法を採用することが好ましい。プロトン性極性基を有する重合体(A)としての、環状オレフィン重合体(A-1)が開環重合体であれば、得られる樹脂膜の加工性を向上させることができる。より具体的には、環状オレフィン重合体(A-1)が下式(RO-COP)に従う構造を含む開環重合体であることが好ましい。
【化3】
〔上記式(RO-COP)において、R1及びR2は、水素又は上記した各単量体(a)、(b1)、(b2)に対応する基又は構造を示す。なお、R1とR2が共に環構造を形成していても良い。〕
【0040】
さらに、重合により得られた重合体を更に水素化してもよい。本明細書では、水素添加された重合体も、プロトン性極性基を有する環状オレフィン重合体(A-1)に含むものとする。なお、環状オレフィン重合体(A-1)が水素添加された重合体である場合には、主鎖及び主鎖以外に含まれる炭素-炭素二重結合の95.0%以上が水素添加されてなる重合体であることが好ましく、97.0%以上が水素添加されてなる重合体であることがより好ましく、99.0%以上が水素添加されてなる重合体であることがさらに好ましい。
【0041】
環状オレフィン重合体(A-1)は、プロトン性極性基を有しない環状オレフィン重合体に、公知の変性剤を利用してプロトン性極性基を導入し、所望により水素添加を行なう方法によっても得ることができる。ここで、水素添加は、プロトン性極性基導入前の重合体に対して行なってもよい。
また、環状オレフィン重合体(A-1)は、プロトン性極性基を有する環状オレフィン重合体に、更にプロトン性極性基を導入する方法によって得てもよい。
【0042】
なお、環状オレフィン重合体(A-1)が上記式(RO-COP)に従う構造を含む開環重合体に対して、水素添加して得られた重合体である場合には、環状オレフィン重合体(A-1)が下式に従う構造を含むことが好ましい。
【化4】
〔上記式において、R1及びR2は、水素又は上記した各単量体(a)、(b1)、(b2)に対応する基若しくは構造又はこれらの水素化物を示す。なお、R1とR2が共に環構造を形成していても良い。〕
【0043】
[重合体(A-1)におけるプロトン性極性基を有する単量体単位の占有比率]
重合体(A-1)におけるプロトン性極性基を有する単量体単位の占有比率が、51モル%以上であれば、架橋剤(B)とプロトン性極性基との間における反応が充分な頻度で生じて、十分な頻度で架橋構造が形成されるため、得られる樹脂膜のITOしわ抑制性能、耐薬品性、及び耐熱性をバランスよく高めることができる。さらに、重合体(A-1)における、プロトン性極性基を有する単量体単位の占有比率が、55モル%以上であることが好ましく、100モル%以下であることが好ましく、80モル%以下であることがより好ましく、75モル%以下であることが更に好ましい。重合体(A-1)における、プロトン性極性基を有する単量体単位の占有比率が、55モル%以上であれば、得られる樹脂膜のITOしわ抑制性能、耐薬品性、及び耐熱性を一層バランスよく高めることができる。また、重合体(A-1)における、プロトン性極性基を有する単量体単位の占有比率が上記上限値以下であれば、得られる樹脂膜の引張強度及び引張伸び性能をバランスよく高めることができる。
【0044】
<<ポリアミドイミド樹脂(A-2)>>
プロトン性極性基を有する重合体(A)としての、「ポリアミドイミド樹脂(A-2)」は、繰り返し単位にアミド結合及びイミド結合を有する重合体(即ち、ポリアミドイミド樹脂)であって、プロトン性極性基を有する重合体である。なお、ポリアミドイミド樹脂(A-2)は、プロトン性極性基を有しないポリアミドイミドに、公知の変性剤を利用してプロトン性極性基を導入する方法によっても得ることができる。また、ポリアミドイミド樹脂(A-2)は、プロトン性極性基を有するポリアミドイミドに、更にプロトン性極性基を導入する方法によって得てもよい。よって、下記列挙に係る各種ポリアミドイミドのうち、プロトン性極性基を有するものは、そのまま、或いは更に変性してプロトン性極性基を導入して用いることができ、プロトン性極性基を有さないものは、公知の変性剤を利用する等して変性してプロトン性極性基を導入してから、用いることができる。
【0045】
ポリアミドイミド樹脂(A-2)としては、分岐型構造を有するポリアミドイミド及び直鎖型構造を有するポリアミドイミドが挙げられる。中でも、ポリアミドイミドとしては、分岐型構造を有するポリアミドイミドが好ましい。ポリアミドイミド樹脂(A-2)が分岐型構造を有するポリアミドイミドであれば、樹脂組成物の耐薬品性を向上させることができる。
【0046】
分岐型構造を有するポリアミドイミドとしては、例えば、下式(2)で表される構造単位と下式(3)で表される構造単位を有し、且つ、下記構造式(α)、(β)及び(γ)で表される末端構造のいずれか1個以上を有する化合物、下式(4)で表される化合物、分岐型構造を有するポリアミドイミド樹脂(DIC株式会社製、ユニディックEMG‐793)、分岐型構造を有するポリアミドイミド樹脂(DIC株式会社製、ユニディックEMG‐1015)、などが挙げられる。
【0047】
【化5】
〔但し、上記式(2)中、R1は炭素数6~13の環式脂肪族構造を有する有機基を表す。〕
【0048】
【化6】
〔但し、上記式(3)中、R1は炭素数6~13の環式脂肪族構造を有する有機基を表し、R2は数平均分子量が700~4500の線状炭化水素構造を表す。〕
【0049】
【化7】
【0050】
【化8】
【0051】
【化9】
【0052】
【化10】
〔ただし、式(4)中、nは2以上200以下の整数である。〕
【0053】
上記式(4)で表される構造を有する、プロトン性極性基を有するポリアミドイミド樹脂は、例えば、下式(5)で表されるイソホロンジイソシアネートイソシアヌレート体と、無水トリメット酸とを反応させることにより得ることができる。
【化11】
【0054】
かかる反応において、水酸基を2個以上含有する多官能ポリオールを連鎖移動剤として添加して、上記式(4)の一部構造にウレタン構造を有する部位を導入してもよい。ウレタン構造を有する部位を上記式(4)の一部構造に導入することにより、分岐型構造を有するポリアミドイミドの物性をコントロールすることができる。ウレタン構造を有する部位としては、例えば、下式(6)で表される部位が挙げられる。
【0055】
【化12】
〔但し、上記式(6)中、R1は炭素数6~13の環式脂肪族構造を有する有機基を表し、R2は数平均分子量が700~4500の線状炭化水素構造を表す。〕
【0056】
また、直鎖型構造を有するポリアミドイミドとしては、例えば、下式(7)で表される化合物、などが挙げられる。
【0057】
【化13】
〔但し、上記式(7)中、nは2以上400以下の整数である。〕
【0058】
上記式(7)で表される化合物は、無水トリメット酸とイソホロンジイソシアネートとを反応させることにより得られる。
【0059】
<架橋剤(B)>
架橋剤(B)は、樹脂膜中に架橋構造を形成することにより、樹脂膜のITOしわ抑制性能、耐薬品性、及び耐熱性を高めるように作用する化合物である。架橋剤(B)は、下式(1)で表される化合物を含むことを特徴とする。架橋剤(B)が下式(1)で表される化合物を含むことで、架橋剤として従来汎用されてきたようなエポキシ樹脂と比較して、高い耐熱性を樹脂膜に付与することが可能となる。さらに、架橋剤(B)は、下式(1)で表される化合物に加えて、下式(1)で表される化合物の二量体、及びその他の多量体を含有していても良い。
【化14】
〔式(1)中、複数のRは、それぞれ独立して、炭素数1~6のアルキル基、及び炭素数1~6のアルコキシ基の何れかを示し、複数のR1は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、及び炭素数1~6のアルコキシ基の何れかを示し、m、n、p、及びqは、0~4の整数をそれぞれ示す。〕
【0060】
ここで、R及びR1に含まれうる炭素数1~6のアルキル基としては、特に限定されないが、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等の直鎖、分岐鎖又は環状構造を有するアルキル基が挙げられる。この中でも、炭素数1~6のアルキル基としては、メチル基、エチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
また、R及びR1に含まれうる炭素数1~6のアルコキシ基としては、特に限定されないが、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペントキシ基、ヘキソキシ基等の直鎖、分岐鎖又は環状構造を有するアルコキシ基が挙げられる。この中でも、炭素数1~6のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基が好ましく、メトキシ基がより好ましい。
ここで、得られる樹脂膜の耐熱性を一層高める観点から、m,n,p、及びqが全て「0」である、換言すれば、式(1)で表される化合物が置換基を有さないことが好ましい。この場合、上記式(1)において「R」が結合しうる位置に全て水素原子が結合している。
また、R1は、すべて水素原子であることが好ましい。
【0061】
さらに、式(1)を満たす化合物が、置換基を有さず、且つ、3つのグリシジルエーテル基が所定の位置に結合してなる、下記構造(1-α)を満たす化合物であることが好ましい。なお、架橋剤(B)が、下記構造(1-α)を満たす化合物を含む場合に、かかる架橋剤(B)が、下記構造(1-α)を満たす化合物の二量体である、下記構造(1-β)を満たす化合物を含んでいても良い。そのような架橋剤(B)は、プリンテック社製、「Techmore VG3101L」として市販されている。
【化15】
【0062】
<<架橋剤(B)の含有量>>
そして、樹脂組成物における、プロトン性極性基を有する重合体(A)100質量部に対する、架橋剤(B)の含有量は、5質量部以上であることが好ましく、15質量部以上であることがより好ましく、25質量部以上であることが更に好ましく、160質量部以下であることが好ましく、140質量部以下であることがより好ましく、55質量部以下であることが更に好ましい。プロトン性極性基を有する重合体(A)に対する架橋剤(B)の含有量が上記下限値以上であれば、得られる樹脂膜のITOしわ抑制性能、耐薬品性、光透過性を高めることができる。また、プロトン性極性基を有する重合体(A)に対する架橋剤(B)の含有量が上記上限値以下であれば、得られる樹脂膜のITOしわ抑制性能及び耐薬品性を一層高めることができる。なお、架橋剤(B)が、式(1)で表される化合物及び式(1)で表される化合物の2量体の双方を含有する場合には、これらの合計含有量が、上記好適範囲を満たすことが好ましい。
【0063】
<フェノール系酸化防止剤(C)>
フェノール系酸化防止剤(C)としては、従来公知のものが使用できる。例えば、フェノール系酸化防止剤(C)としては、2-t-ブチル-6-(3-t-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルベンジル)-4-メチルフェニルアクリレート、2,4-ジ-t-アミル-6-[1-(3,5-ジ-t-アミル-2-ヒドロキシフェニル)エチル]フェニルアクリレートなどのアクリレート系化合物;2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-4-エチルフェノール、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2’-メチレン- ビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデン-ビス(6-t -ブチル-m-クレゾール)、4,4’-チオビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、ビス(3-シクロヘキシル-2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)メタン、3,9-ビス〔2-[3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ]-1,1-ジメチルエチル〕-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン、ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]、トリエチレングリコール ビス[3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート]、トコフェロールなどのアルキル置換フェノール系化合物;6-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルアニリノ)-2,4-ビス-オクチルチオ-1,3,5-トリアジン、6-(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルアニリノ)-2,4-ビス-オクチルチオ-1,3,5-トリアジン、6-(4-ヒドロキシ-3-メチル-5-t-ブチルアニリノ)-2,4-ビス-オクチルチオ-1,3,5-トリアジン、2-オクチルチオ-4,6-ビス-(3,5-ジ-t-ブチル-4-オキシアニリノ)-1,3,5-トリアジンなどのトリアジン基含有フェノール系化合物;などを用いることができる。中でも、アルキル置換フェノール系化合物が好ましく、ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]を用いることがより好ましい。なお、フェノール系酸化防止剤(C)としての化合物は、アルコキシメチル基を2つ以上有さないし、メチロール基を2つ以上有さない。
【0064】
<<フェノール系酸化防止剤(C)の含有量>>
そして、樹脂組成物における、プロトン性極性基を有する重合体(A)100質量部に対する、フェノール系酸化防止剤(C)の含有量は、0.3質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましく、15質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましく、8質量部以下が更に好ましい。プロトン性極性基を有する重合体(A)に対するフェノール系酸化防止剤(C)の含有量が上記下限値以上であれば、得られる樹脂膜の光透過性を高めることができる。また、プロトン性極性基を有する重合体(A)に対するフェノール系酸化防止剤(C)の含有量が上記上限値以下であれば、得られる樹脂膜のITOしわ抑制性能を一層高めることができるとともに、得られる樹脂膜にて酸化防止剤(C)がブリードアウトし易くなることを抑制することができる。
【0065】
<アルコキシメチル基を2つ以上有する化合物及びメチロール基を2つ以上有する化合物>
アルコキシメチル基を2つ以上有する化合物及びメチロール基を2つ以上有する化合物は、得られる樹脂膜のITOしわ抑制性能を一層高めるように作用しうる成分である。さらに、樹脂組成物にアルコキシメチル基を2つ以上有する化合物及びメチロール基を2つ以上有する化合物を配合することで、樹脂膜の耐薬品性を高め得る。こういった効果を一層良好に発揮する観点から、樹脂組成物が、少なくともアルコキシメチル基を2つ以上有する化合物を含有することが好ましい。
【0066】
<<アルコキシメチル基を2つ以上有する化合物>>
アルコキシメチル基を2つ以上有する化合物としては、例えば、2つ以上のアルコキシメチル基が芳香環に直接結合してなるフェノール化合物、アミノ基が2つ以上のアルコキシメチル基で置換されてなるメラミン化合物、2つ以上のアルコキシメチル基で置換されてなるウレア化合物が挙げられる。
【0067】
2つ以上のアルコキシメチル基が芳香環に直接結合してなるフェノール化合物としては、例えば、2,6-ジメトキシメチル-4-t-ブチルフェノール、2,6-ジメトキシメチル-p-クレゾールなどのジメトキシメチル置換フェノール化合物;3,3’,5,5’-テトラメトキシメチル-4,4’-ジヒドロキシビフェニル(例えば、商品名「TMOM-BP」、本州化学工業社製)、1,1-ビス[3,5-ジ(メトキシメチル)-4-ヒドロキシフェニル]-1-フェニルエタンなどのテトラメトキシメチル置換ビフェニル化合物;4,4’,4”-(エチリジン)トリス[2,6-ビス(メトキシメチル)フェノール](例えば、商品名「HMOM-TPHAP-GB」、本州化学工業社製)などのヘキサメトキシメチル置換トリフェニル化合物;が挙げられる。
【0068】
アミノ基が2つ以上のアルコキシメチル基で置換されてなるメラミン化合物としては、例えば、N,N’-ジメトキシメチルメラミン、N,N’,N”-トリメトキシメチルメラミン、N,N,N’,N”-テトラメトキシメチルメラミン、N,N,N’,N’,N”-ペンタメトキシメチルメラミン、N,N,N’,N’,N”,N”-ヘキサメトキシメチルメラミン(例えば、商品名「ニカラックMW-390LM」、商品名「ニカラックMW-100LM」、何れも三和ケミカル社製)、あるいはこれらの重合体などが挙げられる。
【0069】
2つ以上のアルコキシメチル基で置換されてなるウレア化合物としては、例えば、商品名「ニカラックMX270」、商品名「ニカラックMX280」、商品名「ニカラックMX290」(何れも三和ケミカル社製)が挙げられる。
【0070】
<<メチロール基を2つ以上有する化合物>>
メチロール基を2つ以上有する化合物としては、例えば、2つ以上のメチロール基が芳香環に直接結合してなるフェノール化合物が挙げられる。
そして、2つ以上のメチロール基が芳香環に直接結合してなるフェノール化合物としては、2,4-ジヒドロキシメチル-6-メチルフェノール、2,6-ビス(ヒドロキシメチル)-p-クレゾール、4-ターシャリーブチル-2,6-ビス(ヒドロキシメチル)フェノール、ビス(2-ヒドロキシ-3-ヒドロキシメチル-5-メチルフェニル)メタン(商品名「DM-BIPC-F」、旭有機材社製)、ビス(4-ヒドロキシ-3-ヒドロキシメチル-5-メチルフェニル)メタン(商品名「DM-BIOC-F」、旭有機材社製)、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジヒドロキシメチルフェニル)プロパン(商品名「TM-BIP-A」、旭有機材社製)などが挙げられる。
【0071】
上述したアルコキシメチル基を2つ以上有する化合物及びメチロール基を2つ以上有する化合物の中でも、反応性が高いという点より、アルコキシメチル基を2つ以上有する化合物の一種である、N,N,N’,N’,N”,N”-ヘキサメトキシメチルメラミンが好ましい。
【0072】
<<アルコキシメチル基を2つ以上有する化合物及びメチロール基を2つ以上有する化合物の含有量>>
樹脂組成物がアルコキシメチル基を2つ以上有する化合物及びメチロール基を2つ以上有する化合物の双方又は何れか一方を含む場合における、これらの合計含有量は、プロトン性極性基を有する重合体(A)100質量部あたり、1質量部以上100質量部以下とすることが好ましい。アルコキシメチル基を2つ以上有する化合物及びメチロール基を2つ以上有する化合物の合計含有量が上記範囲内であれば、樹脂膜のITOしわ抑制性能を一層高めることができる。特に、アルコキシメチル基を2つ以上有する化合物及びメチロール基を2つ以上有する化合物の合計含有量が上記上限値以下であれば、100℃以上といった高温条件下での硬化工程における減膜を抑制することができ、樹脂膜の耐熱性を一層高めることができる。
【0073】
<その他の添加剤>
本発明の樹脂組成物は、任意で、上記以外のその他の添加剤を含有していても良い。かかるその他の添加剤としては、上述した架橋剤(B)とは構造の異なる多官能エポキシ化合物、シランカップリング剤、界面活性剤、上述したフェノール系酸化防止剤(C)とは異なる酸化防止剤、及び、感放射線化合物(D)等が挙げられる。
【0074】
<<架橋剤(B)とは構造の異なる多官能エポキシ化合物>>
架橋剤(B)とは構造の異なる多官能エポキシ化合物の具体例としては、例えば、ジシクロペンタジエンを骨格とするエポキシ化合物(商品名「HP-7200」、DIC社製)、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1-ブタノールの1,2-エポキシ-4-(2-オキシラニル)シクロヘキサン付加物(シクロヘキサン骨格及び末端エポキシ基を有する15官能性の脂環式エポキシ樹脂、商品名「EHPE3150」、ダイセル社製)、エポキシ化3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸ビス(3-シクロヘキセニルメチル)修飾ε-カプロラクトン(脂肪族環状3官能性のエポキシ樹脂、商品名「エポリードGT301」、ダイセル社製)、ブタンテトラカルボン酸テトラ(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)修飾ε-カプロラクトン(脂肪族環状4官能性のエポキシ樹脂、商品名「エポリードGT401」、ダイセル社製)、3,4-エポキシシクロヘキセニルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキセンカルボキシレート(商品名「セロキサイド2021」、「セロキサイド2021P」、ダイセル社製)、ε-カプロラクトン変性3’,4’-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(商品名「セロキサイド2081」、ダイセル社製)、1,2:8,9-ジエポキシリモネン(商品名「セロキサイド3000」、ダイセル社製)等の脂環構造を有するエポキシ化合物;及び、ビスフェノールA型エポキシ化合物(商品名「jER825」、「jER827」、「jER828EL」、「jERYL980」、三菱化学社製、商品名「EPICLON840」、「EPICLON850」、DIC社製)、ビスフェノールF型エポキシ化合物(商品名「jER806」、「jER807」、「jERYL983U」、三菱化学社製、商品名「EPICLON830」、「EPICLON835」、DIC社製)、水添ビスフェノールA型エポキシ化合物(商品名「jERYX8000」、「jERYX8034」三菱化学社製、商品名「ST-3000」新日鉄住金社製、商品名「リカレジンHBE-100」新日本理化社製、商品名「エポライト4000」共栄化学社製)、長鎖ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名「EXA-4816」、「EXA-4850-150」、「EXA-4850-1000」DIC社製)、EO変性ビスフェノールA型エポキシ化合物(商品名「アデカレジンEP-4000L」、「アデカレジンEP-4010L」、ADEKA社製)、フェノールノボラック型多官能エポキシ化合物(商品名「jER152」、三菱化学社製)、1,6-ビス(2,3-エポキシプロパン-1-イルオキシ)ナフタレンなどのナフタレン骨格を有する多官能エポキシ化合物(商品名「HP-4032D」、DIC社製)、ジシクロペンタジエンジメタノールジグリシジルエーテル(商品名「アデカレジンEP-4000L」、「アデカレジンEP-4088L」、ADEKA社製)、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(商品名「jER630」、三菱化学社製、商品名「TETRAD-C」、「TETRAD-X」、三菱ガス化学社製)、鎖状アルキル多官能エポキシ化合物(商品名「SR-TMP」、阪本薬品工業社製)、多官能エポキシポリブタジエン(商品名「エポリードPB3600」、ダイセル社製)、(商品名「エポリードPB4700」、ダイセル社製)、グリセリンのグリシジルポリエーテル化合物(商品名「SR-GLG」、阪本薬品工業社製)、ジグリセリンポリグリシジルエーテル化合物(商品名「SR-DGE」、阪本薬品工業社製)、ポリグリセリンポリグリシジルエーテル化合物(商品名「SR-4GL」、阪本薬品工業社製)、下記式(X)で示される構造を有するエポキシ化合物(日本化薬社製「WHR-991S」)等の脂環構造を有さないエポキシ化合物;などを挙げることができる。なお、これらは、一種単独で、或いは複数種を組み合わせて用いることができる。中でも、脂環構造を有するエポキシ化合物、すなわち、脂環式エポキシ化合物が好ましい。樹脂組成物に脂環式エポキシ化合物を配合することで、得られる樹脂膜の透明性を高めることができる。
【0075】
【化16】
【0076】
樹脂組成物中における、架橋剤(B)とは構造の異なる多官能エポキシ化合物の含有量は、プロトン性極性基を有する重合体(A)100質量部あたり、100質量部以下であることが好ましい。エポキシ基含有化合物の含有量が100質量部以下であれば、樹脂膜の耐薬品性を効率的に高めることができる。なお、樹脂組成物が、上述した所定の架橋剤(B)に加えて、架橋剤(B)とは構造の異なる多官能エポキシ化合物を含有する場合には、架橋剤(B)及び架橋剤(B)とは構造の異なる多官能エポキシ化合物の合計含有量が、<<架橋剤(B)の含有量>>の項目にて上述した、樹脂組成物におけるプロトン性極性基を有する重合体(A)100質量部に対する架橋剤(B)の含有量の好適範囲を満たすことが好ましい。
【0077】
<<シランカップリング剤、界面活性剤、及び酸化防止剤>>
シランカップリング剤は、本発明の樹脂組成物を用いて得られる樹脂膜と、当該樹脂膜が形成された基材との間の密着性を高めるように機能する。そして、シランカップリング剤としては、特に限定されることなく、公知のものを用いることができる(例えば、特開2015‐94910号参照)。より具体的には、シランカップリング剤としては、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のアルコキシシラン類を好適に用いることができる。
また、シランカップリング剤の含有量は、通常、プロトン性極性基を有する重合体(A)100質量部あたり、0.01質量部以上10質量部以下である。
【0078】
界面活性剤は、本発明の樹脂組成物の塗工性を向上させうる成分である。界面活性剤としては、特に限定されることなく、公知のシリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、ポリオキシアルキレン系界面活性剤、メタクリル酸共重合体系界面活性剤、及びアクリル酸共重合体系界面活性剤等を用いることができる(例えば、国際公開第2017/163981号参照)。中でも、界面活性剤としては、オルガノシロキサンポリマー等のシリコーン系界面活性剤を好適に用いることができる。
また、界面活性剤の含有量は、通常、プロトン性極性基を有する重合体(A)100質量部あたり、0.01質量部以上1質量部以下である。
【0079】
上述したフェノール系酸化防止剤(C)とは異なる酸化防止剤は、本発明の樹脂組成物の安定性を高め得る成分である。酸化防止剤としては、特に限定されることなく、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、ラクトン系酸化防止剤のような、公知の酸化防止剤を用いることができる(例えば、国際公開第2017/163981号参照)。
【0080】
なお、シランカップリング剤、界面活性剤、及び上述したフェノール系酸化防止剤(C)とは異なる酸化防止剤は、それぞれ、一種単独で、或いは、2種以上を組み合わせて用いることができる。また、樹脂組成物に配合するシランカップリング剤、界面活性剤、及び上述したフェノール系酸化防止剤(C)とは異なる酸化防止剤の量は、任意に調整し得る。
【0081】
<<感放射線化合物(D)>>
感放射線化合物(D)は、放射線が照射されると化学反応を引き起こすことができる化合物である。ここで、放射線としては、特に限定されることなく、例えば、可視光線;紫外線;X線;g線、h線、i線等の単一波長の光線;KrFエキシマレーザー光、ArFエキシマレーザー光等のレーザー光線;電子線等の粒子線;などが挙げられる。感放射線化合物(D)としては、特に限定されることなく、アセトフェノン化合物、トリアリールスルホニウム塩、及び、アジド化合物を用いることができる。中でも、キノンジアジド化合物等のアジド化合物を好適に用いることができる。感放射線化合物(D)は、一種を単独で、或いは、2種以上を組み合わせて用いることができる。また、樹脂組成物に配合する感放射線化合物(D)の量は、任意に調整し得る。樹脂組成物が感放射線化合物(D)を含有していれば、樹脂膜をパターニングすることにより所望のパターンを有する樹脂膜を良好に形成することができる。
【0082】
<溶剤>
本発明の樹脂組成物が任意に含有し得る溶剤としては、特に限定されることなく、樹脂組成物の溶剤として公知の溶剤を用いることができる。そのような溶剤としては、例えば、直鎖のケトン類、アルコール類、アルコールエーテル類、エステル類、セロソルブエステル類、プロピレングリコール類、ジエチレングリコールエチルメチルエーテルなどのジエチレングリコール類、飽和γ-ラクトン類、ハロゲン化炭化水素類、芳香族炭化水素類、並びに、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド及びN-メチルアセトアミドなどの極性溶媒などが挙げられる(例えば、国際公開第2015/033901号参照)。
なお、これらの溶剤は、一種単独で、或いは、2種以上を混合して用いることができる。
そして、樹脂組成物中の溶剤の量は、特に限定されることなく、プロトン性極性基を有する重合体(A)100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、好ましくは10000質量部以下、より好ましくは5000質量部以下、さらに好ましくは1000質量部以下である。
【0083】
<樹脂組成物の製造方法>
本発明の樹脂組成物は、上述した成分を既知の方法により混合し、任意にろ過することで、調製することができる。ここで、混合には、スターラー、アジテーター、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、顔料分散機、らい潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、フィルミックスなどの既知の混合機を用いることができる。また、混合物のろ過には、フィルター等のろ材を用いた一般的なろ過方法を採用することができる。
【0084】
(樹脂膜の製造方法)
本発明の樹脂組成物からなる樹脂膜は、上述した本発明の樹脂組成物を用いて形成した塗膜を100℃以上で加熱する工程(硬化工程)を含む、本発明の樹脂膜の製造方法により、製造することができる。本発明の樹脂膜の製造方法は、さらに、樹脂膜を形成する基板上に本発明の樹脂組成物を使用して塗膜を形成する工程(塗膜形成工程)を含んでいても良い。さらに、本発明の樹脂組成物として、感放射線化合物(D)を含む樹脂組成物を用いて、パターン化樹脂膜を形成することも可能である。この場合に、塗膜を形成する際に塗膜をパターニングする操作を実施し、さらに、塗膜形成工程の後、硬化工程の前に、ブリーチング工程を実施することがある。
【0085】
<塗膜形成工程>
樹脂膜を形成する基板上への塗膜の配設は、特に限定されることなく、塗布法やフィルム積層法等の既知の方途に従って行うことができる。
塗布法による塗膜の形成は、樹脂組成物を基板上に塗布した後、加熱乾燥(プリベーク)することにより行うことができる。なお、樹脂組成物を塗布する方法としては、例えば、スプレーコート法、スピンコート法、ロールコート法、ダイコート法、ドクターブレード法、バー塗布法、スクリーン印刷法、インクジェット法等の各種の方法を採用することができる。加熱乾燥条件は、樹脂組成物に含まれている成分の種類や配合割合に応じて異なるが、加熱温度は、通常、30~150℃、好ましくは60~120℃であり、加熱時間は、通常、0.5~90分間、好ましくは1~60分間、より好ましくは1~30分間である。
【0086】
また、フィルム積層法による塗膜の形成は、樹脂組成物を樹脂フィルムや金属フィルム等のBステージフィルム形成用基材上に塗布し、加熱乾燥(プリベーク)することによりBステージフィルムを得た後、次いで、このBステージフィルムを基板上に積層することにより行うことができる。なお、Bステージフィルム形成用基材上への樹脂組成物の塗布及び樹脂組成物の加熱乾燥は、上述した塗布法における樹脂組成物の塗布及び加熱乾燥と同様にして行うことができる。また、積層は、加圧ラミネータ、プレス、真空ラミネータ、真空プレス、ロールラミネータ等の圧着機を用いて行なうことができる。
【0087】
任意操作である塗膜のパターニングは、例えば、パターニング前の塗膜に放射線を照射して潜像パターンを形成した後、潜像パターンを有する塗膜に現像液を接触させてパターンを顕在化させる方法などの公知のパターニング方法を用いて行うことができる。
【0088】
ここで、放射線としては、感放射線化合物(D)に化学反応を引き起させることにより放射線照射部の現像液に対する溶解性を向上させることができるものであれば特に限定されることなく、任意の放射線を用いることができる。具体的には、例えば、可視光線;紫外線;X線;g線、h線、i線等の単一波長の光線;KrFエキシマレーザー光、ArFエキシマレーザー光等のレーザー光線;電子線等の粒子線;などを用いることができる。なお、これらの放射線は、一種単独で、或いは、2種以上を混合して用いることができる。
【0089】
また、現像液としては、アルカリ性化合物の水性溶液等の既知のアルカリ現像液を用いることができる。
そして、塗膜に現像液を接触させる方法及び条件としては、特に限定されることなく、既知の方法及び条件を採用することができる。
【0090】
さらに、必要に応じて、樹脂組成物に含有させた感放射線化合物(D)を失活させるために、ブリーチング工程を実施しても良い。ブリーチング工程では、塗膜全面に対して、任意の放射線を照射することもできる。放射線の照射には、上記潜像パターンの形成に例示した方法を利用することができる。さらに、放射線の照射と同時に、又は照射後に樹脂膜を加熱してもよい。ブリーチング工程にて、感放射線化合物(D)を失活させることにより、得られる樹脂膜の透明性を一層高めることができる。
【0091】
<硬化工程>
硬化工程では、塗膜を100℃以上の温度で加熱(ポストベーク)して硬化させる。
【0092】
塗膜の加熱は、特に限定されることなく、例えば、ホットプレート、オーブン等を用いて行なうことができる。なお、加熱は、必要に応じて不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。不活性ガスとしては、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、キセノン、クリプトン等が挙げられる。これらの中でも窒素とアルゴンが好ましく、特に窒素が好ましい。
【0093】
ここで、硬化工程にて塗膜を加熱する際の温度は、100℃以上である必要があり、150℃以上であることが好ましく、200℃以上であることがより好ましく、250℃以上であることが更に好ましい。本発明の樹脂組成物を使用すれば、塗膜を加熱する際の温度が100℃以上と高温である場合にも、良好に成膜することができる。さらに、硬化工程にて塗膜を加熱する際の温度の上限は特に限定されないが、400℃以下であることが好ましい。
なお、硬化工程にて塗膜を加熱する時間は、塗膜の面積や厚さ、加熱に使用する機器等に応じて適宜選択することができるが、例えば、10~120分間とすることができる。
【0094】
そして、かかる硬化工程を経た樹脂膜は、波長400nmの光の透過率が95%以上であることが好ましい。なお、「透過率」は、実施例に記載した方法に従って測定することができる。
【0095】
(電子部品)
本発明の電子部品は、上述した本発明の樹脂組成物からなる樹脂膜を備える。そして、本発明の電子部品は、本発明の樹脂組成物から形成された、ITOしわ抑制性能、耐薬品性、及び耐熱性に優れる樹脂膜を備えているため、高性能である。
【0096】
<電子部品の種類>
本発明の電子部品の種類は、特に限定されない。例えば、本発明の樹脂組成物からなる樹脂膜が、ITOしわ抑制性能、耐薬品性、及び耐熱性に優れたものであることから、本発明の電子部品は、本発明の樹脂組成物から成る樹脂膜の表面上にITO膜が配置されてなる、ITO電極を備える電子部品でありうる。また、例えば、本発明の樹脂膜は、半導体デバイスに備えられる再配線層の層間絶縁膜であっても良い。
【実施例
【0097】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、特に断らない限り、質量基準である。また、圧力はゲージ圧である。
実施例及び比較例において、樹脂膜のITOしわ抑制性能、耐薬品性、耐熱性(加熱減量)、及び、光線透過率は、それぞれ以下の方法を使用して評価した。
【0098】
<ITOしわ抑制性能>
ガラス基板(コーニング社製、コーニング1737)上に実施例、比較例で得た樹脂組成物をスピンコート法により塗布し、ホットプレートを用いて120℃で2分間加熱乾燥(プリベーク)して、塗膜を形成した。次いで、オーブンを用いて、窒素雰囲気下、30℃から10℃/分で250℃まで昇温後、250℃で60分間加熱するポストベークを行うことで、膜厚2μmの樹脂膜を形成した。この樹脂膜上に、ITO透明電極をスパッタリング装置(芝浦エレテック社製、「i-Miller CFS-4EP-LL」、ステージ温度30℃)により40nmの膜厚で形成した。得られたITO透明電極付きの積層体のガラス基板を1.5cm角に切断して試験片を作製した。作製した試験片のガラス基板側を200℃で加熱したホットプレート上に5分置いた後、室温まで冷却した。次いで、試験片のITO透明電極側表面を光学顕微鏡(100倍)で観察し、しわ部分の面積の、樹脂膜表面の全面積(1.5cm×1.5cm)に対する割合を算出し、以下の基準で評価した。なお、しわ部分の面積は、光学顕微鏡で得られた画像を二値化処理して抽出した。
A:樹脂膜の表面にしわの発生なし。
B:樹脂膜の表面にしわの発生はあるが、しわ部分の面積が樹脂膜表面の全面積の1/4未満。
C:樹脂膜の表面にしわの発生はあるが、しわ部分の面積が樹脂膜表面の全面積の1/4以上。
<耐薬品性>
ガラス基板(コーニング社製、コーニング1737)上に実施例、比較例で得た樹脂組成物をスピンコート法により塗布し、ホットプレートを用いて120℃で2分間加熱乾燥(プリベーク)して、塗膜を形成した。次いで、オーブンを用いて、窒素雰囲気下、30℃から10℃/分で250℃まで昇温後、250℃で60分間加熱するポストベークを行うことで、膜厚2μmの樹脂膜を得て、厚みT1を測定した。得られた樹脂膜を40℃のモノエタノールアミン-ジメチルスルホキシド混合液(混合比:モノエタノールアミン:ジメチルスルホキシド=7:3、東京応化工業社製、「TOK106」)中に2分間浸漬した後、純水で30秒間リンスし、厚みT2を測定した。測定したT1及びT2の値から、膨潤率(%):(T2-T1)/T1×100を算出し、以下の基準に従って評価した。
A:膨潤率が3%以下。
B:膨潤率が3%超8%以下。
C:膨潤率が8%超。
<耐熱性(加熱減量)>
スパッタリング装置(芝浦エレテック社製、「i-Miller CFS-4EP-LL」)を用いて、アルミニウム薄膜が100nmの膜厚で形成されたシリコンウェハ上に、実施例、比較例で得た樹脂組成物をスピンコートした後、ホットプレートを用いてシリコンウェハを120℃で2分間加熱した(塗膜形成工程)。次いで、窒素雰囲気下、30℃から10℃/分で250℃まで昇温後、250℃で60分間の条件で熱処理させることで樹脂膜を得て、膜厚10μmの樹脂膜を片面に備える積層体を得た(硬化工程)。
得られた積層体を0.5mol/Lの塩酸水溶液に浸漬し、シリコンウェハと樹脂膜の間に位置するアルミニウム薄膜を塩酸水溶液にて溶解させることで樹脂膜をシリコンウェハから剥離した。次いで剥離した樹脂膜を水洗し、乾燥した。乾燥後の樹脂膜を示差熱熱重量同時測定装置(セイコーインスツル社製、TG/DTA6200)を用いて、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分の条件で300℃まで到達させ、300℃で1時間保持した際の、300℃到達時の試料の質量W0及び300℃の保持終了時の試料の質量W1をそれぞれ測定して、それらの値から加熱減量の値:(W0-W1)/W0×100(%)を算出し、以下の基準で評価した。加熱減量が少ないほど、樹脂膜が耐熱性に優れることを意味する。
A:300℃における加熱減量が4%未満。
B:300℃における加熱減量が4%以上8%未満。
C:300℃における加熱減量が8%以上。
<光線透過率>
ガラス基板(コーニング社製、コーニング1737)上に実施例、比較例で得た樹脂組成物をスピンコート法により塗布し、ホットプレートを用いて120℃で2分間加熱乾燥(プリベーク)して、膜厚2μmの塗膜を形成した(塗膜形成工程)。次いで、オーブンを用いて、窒素雰囲気下、30℃から10℃/分で250℃まで昇温後、250℃で60分間加熱するポストベークを行うことで、樹脂膜とガラス基板とからなる積層体を得た(硬化工程)。
得られた積層体について、分光光度計V‐560(日本分光社製)を用いて波長400nmの光における光線透過率(%)を測定した。
さらに、上記で得られた積層体を、大気雰囲気下、250℃で1時間加熱(追加加熱)してから、上記と同様にして波長400nmの光における光線透過率(%)を測定した。
なお、樹脂膜の光線透過率(%)は、樹脂膜が付いていないガラス基板をブランクとして、樹脂膜の厚みを2μmとした場合の換算値で算出し、以下の基準で評価した。
A:光線透過率が96%以上。
B:光線透過率が93%以上96%未満。
C:光線透過率が93%未満。
【0099】
(合成例1:プロトン性極性基を有する環状オレフィン重合体(a-1)の合成)
プロトン性極性基を有する環状オレフィン重合体(a-1)として、プロトン性極性基を有する単量体単位の占有比率が60モル%である重合体を得た。
N-置換イミド基を有する環状オレフィンとしてのN-(2-エチルヘキシル)-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド40モル%、及びプロトン性極性基を有する環状オレフィンとしての4-ヒドロキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-9-エン60モル%からなる単量体混合物100部、1,5-ヘキサジエン2部、(1,3-ジメシチルイミダゾリン-2-イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド(Org.Lett.,第1巻,953頁,1999年 に記載された方法で合成した)0.02部、及びジエチレングリコールエチルメチルエーテル200部を、窒素置換したガラス製耐圧反応器に仕込み、攪拌しつつ80℃にて4時間反応させて重合反応液を得た。
そして、得られた重合反応液をオートクレーブに入れて、150℃、水素圧4MPaで、5時間攪拌して水素化反応を行い、プロトン性極性基を有する環状オレフィン重合体(a-1)としての水添重合体を含む重合体溶液を得た。得られた環状オレフィン重合体(a-1)の重合転化率は99.7%、ポリスチレン換算重量平均分子量は7,150、数平均分子量は4,690、分子量分布は1.52、水素添加率は、99.7%であった。また、得られた環状オレフィン重合体(a-1)の重合体溶液の固形分濃度は34.4質量%であった。
【0100】
(合成例2:プロトン性極性基を有する環状オレフィン重合体(a-2)の合成)
プロトン性極性基を有する環状オレフィン重合体(a-2)として、プロトン性極性基を有する単量体単位の占有比率が70モル%である重合体を得た。
重合反応に用いる単量体混合物中における、N-置換イミド基を有する環状オレフィンとしてのN-(2-エチルヘキシル)-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド、及びプロトン性極性基を有する環状オレフィンとしての4-ヒドロキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-9-エンの配合比率を変更して、得られる重合体(a-2)における4-ヒドロキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-9-エン由来の単量体単位の占有比率が70モル%となるようにし、1,5-ヘキサジエンの配合量を2.7部とした以外は、上記合成例1と同様にして、環状オレフィン重合体(a-2)を得た。得られた環状オレフィン重合体(a-2)の重合転化率は99.7%、ポリスチレン換算重量平均分子量は5,390、数平均分子量は3,480、分子量分布は1.55、水素添加率は、99.7%であった。また、得られた環状オレフィン重合体(a-2)の重合体溶液の固形分濃度は34.4質量%であった。
【0101】
(合成例3:プロトン性極性基を有する環状オレフィン重合体(a-3)の合成)
プロトン性極性基を有する環状オレフィン重合体(a-3)として、プロトン性極性基を有する単量体単位の占有比率が50モル%である重合体を得た。
重合反応に用いる単量体混合物中における、N-置換イミド基を有する環状オレフィンとしてのN-(2-エチルヘキシル)-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド、及びプロトン性極性基を有する環状オレフィンとしての4-ヒドロキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-9-エンの配合比率を変更して、得られる重合体(a-3)における4-ヒドロキシカルボニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-9-エン由来の単量体単位の占有比率が50モル%となるようにし、1,5-ヘキサジエンの配合量を2.7部とした以外は、上記合成例1と同様にして、環状オレフィン重合体(a-3)を得た。得られた環状オレフィン重合体(a-3)の重合転化率は99.7%、ポリスチレン換算重量平均分子量は4,310、数平均分子量は2,890、分子量分布は1.49、水素添加率は、99.7%であった。また、得られた環状オレフィン重合体(a-3)の重合体溶液の固形分濃度は34.4質量%であった。
【0102】
(合成例4:プロトン性極性基を有さない環状オレフィン重合体(a-4)の合成)
テトラシクロ[6.5.0.1 2,5.0 8,13]トリデカ-3,8,10,12-テトラエン(MTF)80モル部、N-(4-フェニル)-(5-ノルボルネン-2,3-ジカルボキシイミド)(NBPI)20モル部、1-ヘキセン 6モル部、アニソール590モル部及びルテニウム系重合触媒として4-アセトキシベンジリデン(ジクロロ)(4,5-ジブロモ-1,3-ジメシチル-4-イミダゾリン-2-イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウム(C1063、和光純薬社製)0.015モル部を、窒素置換した耐圧ガラス反応器に仕込み、攪拌下に80℃で1時間の重合反応を行って開環重合体の溶液を得た。この溶液について、ガスクロマトグラフィーを測定したところ、実質的に単量体が残留していないことが確認され、重合転化率は99%以上であった。
次いで、窒素置換した攪拌機付きオートクレーブに、得られた開環重合体の溶液を仕込み、150℃、水素圧7MPaで、5時間攪拌させて水素添加反応を行った。得られた水素化反応溶液を濃縮して、プロトン性極性基を有さない環状オレフィン重合体(a-4)の溶液(固形分濃度55.5%)を得た。得られたプロトン性極性基を有さない環状オレフィン重合体(a-4)の重量平均分子量は50,000、数平均分子量は20,000、水素添加率は97%であった。
【0103】
(実施例1)
合成例1で得られたプロトン性極性基を有する環状オレフィン重合体(a-1)の溶液291部(プロトン性極性基を有する単量体単位の占有比率が51モル%以上である環状オレフィン重合体(A-1)として100部)、下式(1-α)を満たす化合物と、下式(1-β)を満たす化合物との混合物である架橋剤(B)としての化合物(プリンテック社製、「Techmore VG3101L」、式(1-α)の化合物:式(1-β)の化合物=9:1(質量基準))10部、界面活性剤としてのオルガノシロキサンポリマー(信越化学社製、製品名「KP-341」)0.1部、酸化防止剤としてのペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート](商品名「Irganox1010FF」、BASF社製)2部、シランカップリング剤としてのグリシドキシプロピルトリメトキシシラン(XIAMETER社製、製品名「OFS-6040」)2部、並びに、溶剤としてのジエチレングリコールエチルメチルエーテル(東邦化学社製、製品名「EDM-S」)41部を混合し、溶解させた後、孔径0.45μmのポリテトラフルオロエチレン製フィルターでろ過して、樹脂組成物を調製した。
そして、得られた樹脂組成物を用いて形成した樹脂膜について、上記に従って各種評価を行った。結果を表1に示す。
【化17】
【0104】
(実施例2~3、7~9)
架橋剤(B)の配合量、及び溶剤の配合量をそれぞれ表1に示す通りに変更した以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物を調製した。
そして、得られた樹脂組成物を用いて、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0105】
(実施例4)
架橋剤(B)の配合量、及び溶剤の配合量をそれぞれ表1に示す通りに変更し、さらに、アルコキシメチル基を2つ以上有する化合物としてN,N,N’,N’,N”,N”-ヘキサメトキシメチルメラミン(製品名「ニカラックMW-100LM」、三和ケミカル社製)15部を配合した以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物を調製した。
そして、得られた樹脂組成物を用いて、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0106】
(実施例5)
プロトン性極性基を有する単量体単位の占有比率が51モル%以上である環状オレフィン重合体(A-1)として、上記合成例2で合成した、プロトン性極性基を有する単量体単位の占有比率が70モル%である重合体(a-2)を用い、架橋剤(B)及び溶剤の配合量をそれぞれ表1に示す通りに変更した以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物を調製した。
そして、得られた樹脂組成物を用いて、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0107】
(実施例6)
所定の環状オレフィン重合体(A-1)に代えて、プロトン性極性基を有するポリアミドイミド樹脂(A-2)を用いた。ポリアミドイミド樹脂(A-2)として、分岐型構造を有するポリアミドイミド樹脂のプロピレングリコールメチルエーテルアセタート及びn-ブタノール混合溶液229部(DIC社製、ユニディックEMG‐793、カルボキシル基を有する分岐型ポリアミドイミド樹脂(a-5)として100部)を用い、架橋剤(B)及び溶剤の配合量をそれぞれ表1に示す通りに変更した以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物を調製した。
そして、得られた樹脂組成物を用いて、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0108】
(実施例10~11)
架橋剤(B)の配合量、酸化防止剤(C)、及び溶剤の配合量をそれぞれ表1に示す通りに変更した以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物を調製した。
そして、得られた樹脂組成物を用いて、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0109】
(実施例12)
感放射線化合物(D)としての、4,4’-[1-[4-[1-[4-ヒドロキシフェニル]-1-メチルエチル]フェニル]エチリデン]ビスフェノールと6-ジアゾ-5,6-ジヒドロ-5-オキソ-1-ナフタレンスルホン酸クロライド(1,2-ナフトキノンジアジド-5-スルホン酸クロリド)とのエステル体(2.0モル体)(美源スペシャリティケミカル社製、製品名「TPA-520」)20部を配合し、架橋剤(B)及び溶剤の配合量をそれぞれ表1に示す通りに変更した以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物を調製した。
そして、得られた樹脂組成物を用いて、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0110】
(実施例13)
酸化防止剤(C)を配合せず、架橋剤(B)及び溶剤の配合量をそれぞれ表1に示す通りに変更した以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物を調製した。
そして、得られた樹脂組成物を用いて、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0111】
(実施例14)
プロトン性極性基を有する重合体(A)として、表1に示す配合量比で、所定の環状オレフィン重合体(A-1)及び所定のポリアミドイミド樹脂(A-2)を用いた。さらに、溶剤の配合量を表1に示す通りに変更した。これらの点以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物を調製した。
そして、得られた樹脂組成物を用いて、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0112】
(実施例15)
架橋剤(B)の配合量、及び溶剤の配合量をそれぞれ表1に示す通りに変更し、さらに、アルコキシメチル基を2つ以上有する化合物としてN,N,N’,N’,N”,N”-ヘキサメトキシメチルメラミン(製品名「ニカラックMW-100LM」、三和ケミカル社製)15部を配合し、感放射線化合物(D)としての、4,4’-[1-[4-[1-[4-ヒドロキシフェニル]-1-メチルエチル]フェニル]エチリデン]ビスフェノールと6-ジアゾ-5,6-ジヒドロ-5-オキソ-1-ナフタレンスルホン酸クロライド(1,2-ナフトキノンジアジド-5-スルホン酸クロリド)とのエステル体(2.0モル体)(美源スペシャリティケミカル社製、製品名「TPA-520」)20部を配合した以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物を調製した。
そして、得られた樹脂組成物を用いて、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0113】
(比較例1)
架橋剤(B)を配合せず、これに代えて、架橋剤(B)とは構造の異なる多官能エポキシ化合物である、ブタンテトラカルボン酸テトラ(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)修飾ε-カプロラクトン(ダイセル社製、製品名「エポリードGT401」)30部を配合し、さらに、溶剤の配合量を表1に示す通りに変更した以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物を調製した。
そして、得られた樹脂組成物を用いて、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0114】
(比較例2)
架橋剤(B)を配合せず、これに代えて、架橋剤(B)とは構造の異なる多官能エポキシ化合物である、ビスフェノールA型エポキシ化合物(三菱ケミカル社製、「jER828EL」)30部を配合し、さらに、溶剤の配合量を表1に示す通りに変更した以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物を調製した。
そして、得られた樹脂組成物を用いて、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0115】
(比較例3)
所定の環状オレフィン重合体(A-1)の溶液に代えて、プロトン性極性基を有する単量体単位の占有比率が50モル%である、上記合成例3に従って得た重合体(a-3)の溶液(重合体(a-3)として100部)を用い、架橋剤(B)及び溶剤の配合量をそれぞれ表1に示す通りに変更した以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物を調製した。
そして、得られた樹脂組成物を用いて、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0116】
(比較例4)
所定の環状オレフィン重合体(A-1)の溶液に代えて、上記合成例4に従って得られたプロトン性極性基を有さない環状オレフィン重合体(a-4)の溶液(重合体(a-4)として100部)を用い、所定の構造を有する架橋剤(B)の配合量を30部に変更し、さらに、溶剤をアニソール310部に変更した以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物を調製した。
そして、得られた樹脂組成物を用いて、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0117】
【表1】
【0118】
表1より、プロトン性極性基を有する所定の重合体(A)と、特定の構造を満たす架橋剤(B)とを含有する実施例1~15の樹脂組成物によれば、ITOしわ抑制性能、耐薬品性、及び耐熱性に優れた樹脂膜を形成することができたことが分かる。また、表1より、特定の構造を満たす架橋剤(B)を含有しない樹脂組成物を用いた比較例1~2の場合には、ITOしわ抑制性能、耐薬品性、及び耐熱性の全てが高いレベルで並立された樹脂膜を形成することができなかったことが分かる。さらにまた、表1より、プロトン性極性基を有する単量体単位の占有比率が51モル%未満である環状オレフィン重合体を用いた比較例3、及び、プロトン性極性基を有さない環状オレフィン重合体を用いた比較例4では、得られた樹脂膜の耐熱性は優れていたが、ITOしわ抑制性能及び耐薬品性が低かったことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明の樹脂組成物によれば、ITOしわ抑制性能、耐薬品性、及び耐熱性に優れる樹脂膜を形成することができる。
また、本発明によれば、本発明の樹脂組成物を用いて形成された樹脂膜を備える高性能な電子部品を提供することができる。
さらにまた、本発明によれば、本発明の樹脂組成物を用いて本発明の樹脂膜を効率的に製造し得る樹脂膜の製造方法を提供することができる。