(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】導電性組成物、導電性ペースト、電子部品、及び積層セラミックコンデンサ
(51)【国際特許分類】
C08L 51/00 20060101AFI20241112BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20241112BHJP
C08L 1/00 20060101ALI20241112BHJP
C08L 33/00 20060101ALI20241112BHJP
C08L 29/14 20060101ALI20241112BHJP
C08K 3/08 20060101ALI20241112BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20241112BHJP
H01B 1/22 20060101ALI20241112BHJP
H01G 4/30 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
C08L51/00
C08L101/00
C08L1/00
C08L33/00
C08L29/14
C08K3/08
C08K3/22
H01B1/22 A
H01G4/30 516
H01G4/30 201D
(21)【出願番号】P 2021548467
(86)(22)【出願日】2020-09-25
(86)【国際出願番号】 JP2020036471
(87)【国際公開番号】W WO2021060540
(87)【国際公開日】2021-04-01
【審査請求日】2023-07-11
(31)【優先権主張番号】P 2019175455
(32)【優先日】2019-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100185018
【氏名又は名称】宇佐美 亜矢
(74)【代理人】
【識別番号】100134441
【氏名又は名称】廣田 由利
(72)【発明者】
【氏名】林 勲
(72)【発明者】
【氏名】久下 武範
(72)【発明者】
【氏名】舘 祐伺
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/043671(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/117562(WO,A1)
【文献】特開2014-29845(JP,A)
【文献】特開2016-219600(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
H01B
H01G
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性粉末、及び分散剤を含有する導電性組成物であって、
前記分散剤は、第1の酸系分散剤と、第2の酸系分散剤とを含み、
前記第1の酸系分散剤は、平均分子量が500を超え2000以下であり、かつ、主鎖に対して炭化水素基からなる分岐鎖を1つ以上有する
、ポリカルボン酸を主鎖とする炭化水素系グラフト共重合体であり、
前記第2の酸系分散剤は、前記第1の酸系分散剤以外で、カルボキシル基を有する酸系分散剤である、導電性組成物。
【請求項2】
前記第2の酸系分散剤は、直鎖の酸系分散剤である、請求項1に記載の導電性組成物。
【請求項3】
前記第2の酸系分散剤は、分岐鎖を有し、かつ、分子量が250以上1400以下の酸系分散剤である、請求項1に記載の導電性組成物。
【請求項4】
前記第1の酸系分散剤が、カルボキシル基を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の導電性組成物。
【請求項5】
前記第1の酸系分散剤を、前記導電性粉末100質量部に対して、0.2質量部以上2質量部以下含有し、前記第2の酸系分散剤を、前記導電性粉末100質量部に対して、0.3質量部以上2質量部以下含有する請求項1~
4のいずれか一項に記載の導電性組成物。
【請求項6】
前記導電性粉末は、Ni、Pd、Pt、Au、Ag、Cu及びこれらの合金から選ばれる少なくとも1種の金属粉末を含有する請求項1~
5のいずれか一項に記載の導電性組成物。
【請求項7】
前記導電性粉末は、平均粒径が0.05μm以上1.0μm以下である請求項1~6のいずれか一項に記載の導電性組成物。
【請求項8】
前記請求項1~
7のいずれか一項に記載の導電性組成物と、バインダー樹脂及び有機溶剤とを含有する導電性ペースト。
【請求項9】
さらに、セラミック粉末を含有する請求項
8に記載の導電性ペースト。
【請求項10】
前記セラミック粉末がペロブスカイト型酸化物を含有する請求項9に記載の導電性ペースト。
【請求項11】
前記セラミック粉末が、平均粒径が0.01μm以上0.5μm以下である請求項
9又は
10に記載の導電性ペースト。
【請求項12】
前記バインダー樹脂が、セルロース系樹脂、アクリル系樹脂及びブチラール系樹脂のうち少なくとも1つを含有する請求項
8~
11のいずれか一項に記載の導電性ペースト。
【請求項13】
積層セラミック部品の内部電極用である請求項
8~
12のいずれか一項に記載の導電性ペースト。
【請求項14】
請求項
8~
12のいずれか一項に記載の導電性ペーストを用いて形成された電子部品。
【請求項15】
誘電体層と内部電極とを積層した積層体を少なくとも有し、
前記内部電極が、請求項
13に記載の導電性ペーストを用いて形成された積層セラミックコンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性組成物、導電性ペースト、電子部品、及び積層セラミックコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やデジタル機器などの電子機器の小型化および高性能化に伴い、積層セラミックコンデンサなどを含む電子部品についても小型化および高容量化が望まれている。積層セラミックコンデンサは、複数の誘電体層と複数の内部電極層とが交互に積層した構造を有し、これらの誘電体層及び内部電極層を薄膜化することにより、小型化及び高容量化を図ることができる。
【0003】
積層セラミックコンデンサは、例えば、次のように製造される。まず、チタン酸バリウム(BaTiO3)などの誘電体粉末及びバインダー樹脂を含有する誘電体グリーンシートの表面上に、内部電極用の導電性ペーストを所定の電極パターンで印刷(塗布)し、乾燥して、乾燥膜を形成する。次に、乾燥膜とグリーンシートとが交互に重なるように積層して積層体を得る。次に、この積層体を加熱圧着して一体化し、圧着体を形成する。この圧着体を切断し、酸化性雰囲気または不活性雰囲気中にて脱有機バインダー処理を行った後、焼成を行い、焼成チップを得る。次いで、焼成チップの両端部に外部電極用ペーストを塗布し、焼成後、外部電極表面にニッケルメッキなどを施して、積層セラミックコンデンサが得られる。
【0004】
一般的に、内部電極層の形成に用いられる導電性ペーストは、導電性粉末、セラミック粉末、バインダー樹脂及び有機溶剤を含む。また、導電性ペーストは、導電性粉末などの分散性を向上させるために分散剤を含むことがある。近年の内部電極層の薄膜化に伴い、導電性粉末も小粒径化する傾向がある。導電性粉末の粒径が小さい場合、その粒子表面の比表面積が大きくなるため、導電性粉末(金属粉末)の表面活性が高くなり、分散性の低下や、粘度特性の低下が生じる場合がある。
【0005】
そこで、導電性ペーストの経時的な粘度特性の改善の試みがなされている。例えば、特許文献1には、少なくとも金属成分と、酸化物と、分散剤と、バインダー樹脂とを含有する導電性ペーストであって、金属成分は、その表面組成が、特定の組成比を有するNi粉末であり、分散剤の酸点量は、500~2000μmol/gであり、バインダー樹脂の酸点量は、15~100μmol/gである導電性ペーストが記載されている。そして、特許文献2によれば、この導電性ペーストは、良好な分散性と粘度安定性を有するとされている。
【0006】
また、特許文献2には、導電性粉末、樹脂、有機溶剤、BaTiO3を主とするセラミックス粉末の共材、および凝集抑制剤からなる内部電極用導電ペーストであって、前記凝集抑制剤の含有量が0.1重量%以上5重量%以下であり、前記凝集抑制剤が、特定の構造式で示される3級アミン又は2級アミンである内部電極用導電ペーストが記載されている。特許文献2によれば、この内部電極用導電ペーストは、共材成分の凝集を抑制し、長期保管性に優れ、積層セラミックコンデンサの薄膜化を可能とできるとされている。
【0007】
一方、内部電極層を薄膜化する際、誘導体グリーンシート表面上に内部電極用の導電性ペーストを印刷して、乾燥させて得られる乾燥膜の密度が高いことが要求される。例えば、特許文献3には、有機溶媒と、界面活性剤と、金属超微粒子とを含有する金属超微粉スラリーであって、前記界面活性剤がオレオイルサルコシンであり、前記金属超微粉スラリー中に、前記金属超微粉を70質量%以上95質量%以下含有し、前記界面活性剤を前記金属超微粉100質量部に対して0.05質量部超2.0質量部未満含有する金属超微粉スラリーが提案されている。特許文献3によれば、超微粒子の凝集を防止することで凝集粒子が存在しない、分散性及び乾燥膜密度に優れる金属超微粉スラリーが得られるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2015-216244号公報
【文献】特開2013-149457号公報
【文献】特開2006-063441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年の電極パターンや誘電体層の薄膜化に伴い、各電極パターン間のクリアランスを精度良く維持するために、導電性粉末が凝集した粗大粒子などによる表面荒れ等のない、従来以上に、より平滑な電極表面や、より緻密な電極密度を有する内部電極層が要求されている。
【0010】
本発明は、このような状況に鑑み、導電性粉末の分散性に優れ、電極密度の基礎となる乾燥膜密度が高い導電性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の態様では、導電性粉末、及び分散剤を含有する導電性組成物であって、分散剤は、第1の酸系分散剤と、第2の酸系分散剤とを含み、第1の酸系分散剤は、平均分子量が500を超え2000以下であり、かつ、主鎖に対して炭化水素基からなる分岐鎖を1つ以上有する酸系分散剤であり、第2の酸系分散剤は、第1の分散剤以外で、カルボキシル基を有する酸系分散剤である、導電性組成物が提供される。
【0012】
また、第2の酸系分散剤は、直鎖の酸系分散剤であってもよい。また、第2の酸系分散剤は、分岐鎖を有し、かつ、分子量が250以上1400以下の酸系分散剤であってもよい。また、第1の酸系分散剤が、カルボキシル基を有することが好ましい。また、第1の酸系分散剤が、ポリカルボン酸を主鎖とする炭化水素系グラフト共重合体であることが好ましい。また、第1の酸系分散剤を、導電性粉末100質量部に対して、0.2質量部以上2質量部以下含有し、第2の酸系分散剤を、導電性粉末100質量部に対して、0.3質量部以上2質量部以下含有することが好ましい。また、導電性粉末は、Ni、Pd、Pt、Au、Ag、Cu及びこれらの合金から選ばれる少なくとも1種の金属粉末を含有することが好ましい。また、導電性粉末は、平均粒径が0.05μm以上1.0μm以下であることが好ましい。
【0013】
本発明の第2の態様では、上記の導電性組成物と、バインダー樹脂及び有機溶剤とを含有する、導電性ペーストが提供される。
【0014】
導電性ペーストは、さらに、セラミック粉末を含有することが好ましい。また、セラミック粉末がペロブスカイト型酸化物を含有することが好ましい。また、セラミック粉末が、平均粒径が0.01μm以上0.5μm以下であることが好ましい。また、バインダー樹脂が、セルロース系樹脂、アクリル系樹脂及びブチラール系樹脂のうち少なくとも1つを含有することが好ましい。また、積層セラミック部品の内部電極用であることが好ましい。
【0015】
本発明の第3の態様では、上記導電性ペーストを用いて形成された電子部品が提供される。
【0016】
本発明の第4の態様では、誘電体層と内部電極とを積層した積層体を少なくとも有し、内部電極は、上記導電性ペーストを用いて形成された、積層セラミックコンデンサが提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明の導電性組成物(導電性ペースト)によれば、導電性粉末の分散性に優れるため、高い乾燥膜密度を有する。また、本発明の導電性ペーストを用いて形成される積層セラミックコンデンサなどの電子部品の電極パターンは、薄膜化した電極を形成する際も導電性ペーストの印刷性に優れ、精度良く均一な幅及び厚みを有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、実施形態に係る積層セラミックコンデンサを示す斜視図及び断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[導電性組成物、及び、導電性ペースト]
本実施形態に係る導電性組成物は、導電性粉末及び分散剤を含む。また、本実施形態に係る導電性ペーストは、上記導電性粉末及び分散剤と、バインダー樹脂及び有機溶剤とを含有する。また、導電性ペーストは、さらに、セラミック粉末を含んでもよい。以下、導電性粉末、又は、導電性ペーストに含まれる各成分について詳細に説明する。
【0020】
(導電性粉末)
導電性粉末は、特に限定されず、金属粉末を用いることができ、例えば、Ni、Pd、Pt、Au、Ag、Cu、およびこれらの合金から選ばれる1種以上の粉末を用いることができる。これらの中でも、導電性、耐食性及びコストの観点から、Ni、またはその合金の粉末(以下、両者をまとめて「Ni粉末」と称する場合がある)が好ましい。Ni合金としては、例えば、Mn、Cr、Co、Al、Fe、Cu、Zn、Ag、Au、PtおよびPdからなる群より選択される少なくとも1種以上の元素とNiとの合金が用いることができる。Ni合金におけるNiの含有量は、例えば、50質量%以上、好ましくは80質量%以上である。また、Ni粉末は、脱バインダー処理の際、バインダー樹脂の部分的な熱分解による急激なガス発生を抑制するために、数百ppm程度の元素Sを含んでもよい。
【0021】
導電性粉末の平均粒径は、好ましくは0.05μm以上1.0μm以下であり、より好ましくは0.1μm以上0.5μm以下である。導電性粉末の平均粒径が上記範囲である場合、薄膜化した積層セラミックコンデンサ(積層セラミック部品)の内部電極用ペーストとして好適に用いることができ、例えば、乾燥膜の平滑性及び乾燥膜密度が向上する。平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察から求められる値であり、SEMで倍率10,000倍にて観察した画像から、複数の粒子一つ一つの粒径を測定して、得られる平均値である。
【0022】
導電性粉末の含有量は、導電性ペースト全量に対して、好ましくは30質量%以上70質量%未満であり、より好ましくは40質量%以上60質量%以下である。導電性粉末の含有量が上記範囲である場合、導電性及び分散性に優れる。
【0023】
(セラミック粉末)
セラミック粉末としては、特に限定されず、例えば、積層セラミックコンデンサの内部電極用ペーストである場合、適用する積層セラミックコンデンサの種類により適宜、公知のセラミック粉末が選択される。セラミック粉末としては、例えば、Ba及びTiを含むペロブスカイト型酸化物が挙げられ、好ましくはチタン酸バリウム(BaTiO3)である。
【0024】
セラミック粉末としては、チタン酸バリウムを主成分とし、酸化物を副成分として含むセラミック粉末を用いてもよい。酸化物としては、Mn、Cr、Si、Ca、Ba、Mg、V、W、Ta、Nbおよび1種類以上の希土類元素の酸化物が挙げられる。また、セラミック粉末としては、例えば、チタン酸バリウム(BaTiO3)のBa原子やTi原子を他の原子、例えば、Sn、Pb、Zrなどで置換したペロブスカイト型酸化物強誘電体のセラミック粉末を用いてもよい。
【0025】
内部電極用ペーストとして用いる場合、セラミック粉末は、積層セラミックコンデンサ(電子部品)のグリーンシートを構成する誘電体セラミック粉末と同一組成の粉末を用いてもよい。これにより、焼結工程における誘電体層と内部電極層との界面での収縮のミスマッチによるクラック発生が抑制される。このようなセラミック粉末としては、上記以外に、例えば、ZnO、フェライト、PZT、BaO、Al2O3、Bi2O3、R(希土類元素)2O3、TiO2、Nd2O3などの酸化物が挙げられる。なお、セラミック粉末は、1種類を用いてもよく、2種類以上を用いてもよい。
【0026】
セラミック粉末の平均粒径は、例えば、0.01μm以上0.5μm以下であり、好ましくは0.01μm以上0.3μm以下の範囲である。セラミック粉末の平均粒径が上記範囲であることにより、内部電極用ペーストとして用いた場合、十分に細く薄い均一な内部電極を形成することができる。平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察から求められる値であり、SEMで倍率50,000倍にて観察した映像から、複数の粒子一つ一つの粒径を測定して、得られる平均値である。
【0027】
セラミック粉末の含有量は、導電性粉末100質量部に対して、好ましくは1質量部以上30質量部以下であり、より好ましくは3質量部以上30質量部以下である。
【0028】
セラミック粉末の含有量は、導電性ペースト全量に対して、好ましくは1質量%以上20質量%以下であり、より好ましくは5質量%以上20質量%以下である。導電性粉末の含有量が上記範囲である場合、導電性及び分散性に優れる。
【0029】
(バインダー樹脂)
バインダー樹脂としては、特に限定されず、公知の樹脂を用いることができる。バインダー樹脂としては、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、ニトロセルロースなどのセルロース系樹脂、アクリル系樹脂、ポリビニルブチラールなどのブチラール系樹脂などが挙げられる。中でも、溶剤への溶解性、燃焼分解性の観点などからエチルセルロースを含むことが好ましい。また、内部電極用ペーストとして用いる場合、グリーンシートとの接着強度を向上させる観点からブチラール系樹脂を含む、又は、ブチラール系樹脂を単独で使用してもよい。バインダー樹脂は、1種類を用いてもよく、又は、2種類以上を用いてもよい。また、バインダー樹脂は、セルロース系の樹脂とブチラール系樹脂との混合物を用いることが、各種特性の改善の点から、好ましい。また、バインダー樹脂の分子量は、例えば、20000~200000程度である。
【0030】
バインダー樹脂の含有量は、導電性粉末100質量部に対して、好ましくは1質量部以上20質量部以下であり、より好ましくは1質量部以上15質量部以下である。
【0031】
バインダー樹脂の含有量は、導電性ペースト全量に対して、好ましくは0.5質量%以上10質量%以下であり、より好ましくは1質量%以上6質量%以下である。バインダー樹脂の含有量が上記範囲である場合、導電性及び分散性に優れる。
【0032】
(有機溶剤)
有機溶剤としては、特に限定されず、上記バインダー樹脂を溶解することができる公知の有機溶剤を用いることができる。有機溶剤としては、例えば、ジヒドロターピニルアセテート、イソボルニルアセテート、イソボルニルプロピネート、イソボルニルブチレート及びイソボルニルイソブチレート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテートなどのアセテート系溶剤、ターピネオール、ジヒドロターピネオールなどのテルペン系溶剤、トリデカン、ノナン、シクロヘキサンなどの炭化水素系溶剤などが挙げられる。中でもターピネオールなどのテルペン系溶剤を用いるのが好ましい。なお、有機溶剤は、1種類を用いてもよく、2種類以上を用いてもよい。
【0033】
有機溶剤の含有量は、導電性粉末100質量部に対して、好ましくは40質量部以上100質量部以下であり、より好ましくは65質量部以上95質量部以下である。有機溶剤の含有量が上記範囲である場合、導電性及び分散性に優れる。
【0034】
有機溶剤の含有量は、導電性ペースト全量に対して、20質量%以上60質量%以下が好ましく、35質量%以上55質量%以下がより好ましい。有機溶剤の含有量が上記範囲である場合、導電性及び分散性に優れる。
【0035】
(分散剤)
本発明者らは、導電性組成物に用いる分散剤について、種々の分散剤を検討した結果、炭化水素基からなる分岐鎖を1つ以上、好ましくは複数有し、かつ平均分子量が500を超え2000以下の酸系分散剤を含有する第1の分散剤と、上記第1の酸系分散剤以外で、カルボキシル基を有する第2の酸系分散剤を用いることにより、導電性粉末の分散性が特に向上し、乾燥膜密度が向上することを見出した。以下、本実施形態に係る分散剤について、さらに詳細に説明する。
【0036】
(第1の酸系分散剤)
本実施形態で用いられる第1の酸系分散剤は、平均分子量が500を超え2000以下であり、かつ、主鎖に対して炭化水素基からなる分岐鎖を1つ以上有する酸系分散剤である。本実施形態に係る導電性組成物は、第1の酸系分散剤を含むことにより、第1の酸系分散剤を含まない従来の導電性組成物と比較して、高い乾燥膜密度を有し、かつ、乾燥膜表面の平滑性が向上する。
【0037】
この理由の詳細は不明であるが、主鎖に対して炭化水素基からなる分岐鎖を1つ以上有することにより、効果的に立体障害を形成して、粉末材料の凝集を抑制できると考えられる。また、第1の分散剤の平均分子量を上記範囲とすることにより、導電性組成物の用途に応じて、ペーストにした際に好適な粘度に維持することができる。なお、上記の理論(理由)によって本発明は拘束されるものではない。
【0038】
また、第1の酸系分散剤は、カルボキシル基を有することが好ましく、ポリカルボン酸を主鎖とする炭化水素系グラフト共重合体であることがより好ましい。また、ポリカルボン酸はエステル構造を有することが好ましい。
【0039】
また、第1の酸系分散剤の分岐鎖である炭化水素基は、鎖状構造を有することが好ましい。炭化水素基は、アルキル基であってもよい。また、アルキル基は、炭素及び水素のみで構成されてもよく、アルキル基を構成する水素の一部が置換基で置換されてもよい。また、主鎖及び炭化水素基は、環構造を有さないことが好ましい。
【0040】
(第2の酸系分散剤)
第2の酸系分散剤は、前記第1の分散剤以外で、カルボキシル基を有する酸系分散剤である。本実施形態に係る導電性組成物は、第1の酸系分散剤とともに第2の酸系分散剤を用いることにより、乾燥膜密度をより向上させることができる。
【0041】
また、第2の酸系分散剤は、直鎖の酸系分散剤であってもよい。すなわち、第2の酸系分散剤は、直鎖構造を有し、主鎖に対して炭化水素基からなる分岐鎖を有さなくてもよい。この場合、第2の酸系分散剤は、分子量が5000以下であることが好ましく、250以上1400以下であってもよい。また、第2の酸系分散剤は、炭素数10以上20以下のアルキル基又は炭素数10以上20以下のアルケニル基を含有することが好ましい。また、第2の酸系分散剤は、第1の酸系分散剤よりも分子量が小さいことが好ましい。第1の酸系分散剤とともに、上記のような第2の酸系分散剤を用いることにより、乾燥膜密度を上昇させるとともに、乾燥膜表面の平滑性をより向上させることができる。
【0042】
また、第2の酸系分散剤は、分岐鎖を有する酸系分散剤であってもよい。この場合、第2の酸系分散剤は、分子量が250以上1400以下の酸系分散剤であることが好ましい。また、第2の酸系分散剤は、ジカルボン酸であってもよい。また、分岐鎖を有する第2の酸系分散剤は、炭素数15以上100以下のアルキル基又は炭素数15以上100以下のアルケニル基を含有することが好ましく、炭素数15以上50以下のアルキル基又は炭素数15以上50以下のアルケニル基を含有することがより好ましく、炭素数15以上25以下のアルキル基又は炭素数15以上25以下のアルケニル基を含有することがさらに好ましい。また、第2の酸系分散剤は、第1の酸系分散剤よりも分子量が小さいことが好ましい。第1の酸系分散剤とともに、上記のような第2の酸系分散剤を用いることにより、乾燥膜密度を上昇させるとともに、乾燥膜表面の平滑性をより向上させることができる。
【0043】
各酸系分散剤は、例えば、市販の製品から、上記特性を満たすものを選択して用いることができる。また、酸系分散剤は、従来公知の製造方法を用いて、上記特性を満たすように製造してもよい。
【0044】
(分散剤の含有割合)
第1の酸系分散剤は、導電性粉末100質量部に対して、例えば、0.2質量部以上2質量部以下含有され、第2の酸系分散剤は、導電性粉末100質量部に対して、例えば、0.01質量部以上2質量部以下含有される。分散剤の含有量が上記範囲である場合、第1の酸系分散剤を単独で同量含む場合と比較して、導電性粉末の分散性が向上し、塗布後の乾燥電極表面の平滑性がより優れ、かつ、乾燥膜密度もより向上し、導電性ペーストの粘度も適切な範囲に調整することができる。また、シートアタックやグリーンシートの剥離不良を抑制することができる。
【0045】
また、第1の酸系分散剤の含有量は、上記範囲内において、1質量部以下であってもよく、0.5質量部以下であってもよい。第1の酸系分散剤の含有量が少量であっても、第2の酸系分散剤を併用することにより、高い分散性を有することができる。また、分散剤の残留に起因するシートアタックやグリーンシートの剥離不良がより抑制される。
【0046】
また、第2の酸系分散剤の含有量の下限は、導電性粉末100質量部に対して、好ましくは0.3質量部以上であり、0.5質量部以上であってもよい。第2の分散剤の含有量の下限が上記範囲である場合、乾燥膜表面の平滑性をより向上させることができる。また、第2の酸系分散剤の含有量の上限は、より高い乾燥膜密度を有し、かつ、分散剤の残留に起因するシートアタックやグリーンシートの剥離不良をより抑制するとの観点から、1.5質量部以下であってもよく、1.2質量部以下であってもよい。また、第2の分散剤の含有量は、乾燥膜密度をより向上させるという観点から、第1の分散剤の含有量よりも多くてもよい。
【0047】
また、酸系分散剤の総量は、導電性ペースト全量に対して、好ましくは3質量%以下含有される。分散剤の含有量の上限は、好ましくは、2質量%以下であり、より好ましくは1質量%以下である。分散剤の含有量の下限は、特に限定されないが、例えば、0.01質量%以上であり、好ましくは0.05質量%以上である。分散剤の含有量が上記範囲である場合、導電性ペーストの粘度を適切な範囲に調整することができ、また、シートアタックやグリーンシートの剥離不良を抑制することができる。
【0048】
なお、導電性ペーストは、上記の酸系分散剤以外の分散剤を、本発明の効果を阻害しない範囲で含んでもよい。上記以外の分散剤としては、例えば、高級脂肪酸、高分子界面活性剤などを含む酸系分散剤、塩基系分散剤、両性界面活性剤、及び高分子系分散剤などなどを含んでもよく、塩基系分散剤を含有させるのがより好ましい。また、これらの分散剤は、1種または2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0049】
酸系分散剤以外の分散剤を含有させる場合は、主に添加する酸系分散剤と合わせた、分散剤全体の含有量(総含有量)が、前記導電性粉末100質量部に対して、0.01質量部以上3質量部以下であることが好ましく、2.5質量部以下であってもよく、2.0質量部以下であってもよく、1.5質量部以下であってもよい。
【0050】
(導電性ペースト)
本実施形態に係る導電性ペーストは、上記それぞれの材料を混合(攪拌・混練)して、製造することができる。具体的には、上記の各成分を用意し、ミキサーで攪拌・混練することにより製造することができる。
【0051】
上記の各材料は、同時に混合してもよいが、例えば、予め、導電性粉末と、分散剤と、有機溶剤とを混合して、導電性粉末スラリーを作製してもよい。これにより、導電性粉末表面に予め分散剤を塗布することができる。導電性粉末表面に予め分散剤が塗布されていると、他の材料と混合して導電性ペーストを製造する際にも、導電性粉末が凝集することなく十分に分散した状態を維持し、均一な導電性ペーストを得やすい。
【0052】
導電性粉末スラリー(/導電性粉末表面への分散剤の塗付)は、例えば、導電性粉末100質量部に対して、分散剤を0.01質量部以上5質量部未満、好ましくは0.1質量部以上3質量部以下で混合して作製(/塗布)する。
【0053】
また、例えば、予め、セラミック粉末と、分散剤と、有機溶剤とを混合して、セラミック粉末スラリーを作製してもよい。これにより、セラミック粉末に予め分散剤を塗布することができる。セラミック粉末表面に予め分散剤が塗布されていると、他の材料と混合して導電性ペーストを製造する際にも、セラミック粉末が凝集することなく十分に分散した状態を維持し、均一な導電性ペーストを得やすくなる。
【0054】
セラミック粉末スラリー(/セラミック粉末への分散剤の塗付)は、例えば、導電性粉末100質量部に対して、分散剤を0.01質量部以上10質量部以下、好ましくは0.1質量部以上5質量部以下で混合して作製(/塗布)する。
【0055】
また、バインダー樹脂をビヒクル用の有機溶剤に溶解させ、有機ビヒクルを作製し、ペースト用の有機溶剤へ、導電性粉末、セラミック粉末、有機ビヒクル及び分散剤を添加し、ミキサーで攪拌・混練し、導電性ペーストを作製してもよい。
【0056】
また、有機溶剤中、ビヒクル用の有機溶剤としては、有機ビヒクルの馴染みをよくするため、導電性ペーストの粘度を調整するペースト用の有機溶剤と同じものを用いることが好ましい。ビヒクル用の有機溶剤の含有量は、導電性粉末100質量部に対して、例えば、5質量部以上80質量部以下である。また、ビヒクル用の有機溶剤の含有量は、導電性ペースト全体量に対して、好ましくは10質量%以上40質量%以下である。
【0057】
導電性ペーストは、導電性ペーストの製造24時間経過後の粘度が、10Pa・s以上50Pa・s以下であるのが好ましい。なお、導電性ペーストの粘度は、ブルックフィールド社製B型粘度計を用いて10rpm(ずり速度=4sec-1)の条件で測定することができる。
【0058】
また、導電性ペーストをスクリーン印刷した後、乾燥して得られる乾燥膜の乾燥膜密度(DFD)は、5.0g/cm3を超えるのが好ましく、5.5g/cm3を超えるのがさらに好ましく、5.6g/cm3以上であるのが特に好ましい。なお、乾燥膜密度の上限は、特に限定されず、例えば、6.5g/cm3以下であってもよい。また、乾燥膜密度の上限は、用いた導電性粉末の真密度(例、金属ニッケルの場合:9.8g/cm3)を超えない。
【0059】
また、導電性ペーストをスクリーン印刷し、大気中120℃で1時間乾燥させることにより、20mm角、膜厚1~3μmの乾燥膜を作製した際の表面粗さRa(算術平均粗さ)は、0.045μm以下であることが好ましく、0.04μm以下であることがより好ましい。なお、表面粗さRa(算術平均粗さ)の下限は、表面は平らであるのが好ましく特に限定されないが、0を超える値であって小さい値であるほど好ましい。
【0060】
また、上記の乾燥膜のRt(最大断面高さ)は、0.4μm以下であることが好ましい。なお、表面粗さRa(算術平均粗さ)の下限は、表面は平らであるのが好ましく特に限定されないが、0を超える値であって小さい値であるほど好ましい。
【0061】
導電性ペーストは、積層セラミックコンデンサなどの電子部品に好適に用いることができる。積層セラミックコンデンサは、誘電体グリーンシートを用いて形成される誘電体層及び導電性ペーストを用いて形成される内部電極層を有する。
【0062】
積層セラミックコンデンサ(電子部品)は、誘電体グリーンシートに含まれる誘電体セラミック粉末と導電性ペーストに含まれるセラミック粉末とが同一組成の粉末であることが好ましい。本実施形態の導電性ペーストを用いて製造される積層セラミックデバイスは、誘電体グリーンシートの厚さが、例えば3μm以下である場合でも、シートアタックやグリーンシートの剥離不良が抑制される。
【0063】
[電子部品]
以下、本発明の電子部品等の実施形態について、図面を参照しながら説明する。図面においては、適宜、模式的に表現することや、縮尺を変更して表現することがある。また、部材の位置や方向などを、適宜、
図1などに示すXYZ直交座標系を参照して説明する。このXYZ直交座標系において、X方向およびY方向は水平方向であり、Z方向は鉛直方向(上下方向)である。
【0064】
本実施形態の電子部品は、上記した本実施形態の導電性ペーストを用いて形成される。
図1A及びBは、実施形態に係る電子部品の一例である、積層セラミックコンデンサ1を示す図である。積層セラミックコンデンサ1は、誘電体層12及び内部電極層11を交互に積層した積層体10と外部電極20とを備える。積層セラミックコンデンサ1は、上記した本実施形態の導電性ペーストを用いて形成される。
【0065】
以下、上記導電性ペーストを使用した積層セラミックコンデンサの製造方法について説明する。まず、セラミックグリーンシートからなる誘電体層上に、導電性ペーストを印刷して、乾燥し、乾燥膜を形成する。この乾燥膜を上面に有する複数の誘電体層を、圧着により積層させて積層体を得た後、積層体を焼成して一体化することにより、内部電極層11と誘電体層12とが交互に積層したセラミック積層体10を作製する。その後、セラミック積層体10の両端部に一対の外部電極を形成することにより積層セラミックコンデンサ1が製造される。以下に、より詳細に説明する。
【0066】
まず、未焼成のセラミックシートであるセラミックグリーンシートを用意する。このセラミックグリーンシートとしては、例えば、チタン酸バリウム等の所定のセラミックの原料粉末に、ポリビニルブチラール等の有機バインダーとターピネオール等の溶剤とを加えて得た誘電体層用ペーストを、PETフィルム等の支持フィルム上にシート状に塗布し、乾燥させて溶剤を除去したもの等が挙げられる。なお、セラミックグリーンシートからなる誘電体層の厚みは、特に限定されないが、積層セラミックコンデンサの小型化の要請の観点から、0.05μm以上3μm以下が好ましい。
【0067】
次いで、このセラミックグリーンシートの片面に、スクリーン印刷法等の公知の方法によって、上述の導電性ペーストを印刷(塗布)して乾燥し、乾燥膜を形成したものを複数枚、用意する。なお、印刷後の導電性ペースト(乾燥膜)の厚みは、内部電極層11の薄層化の要請の観点から、乾燥後1μm以下とすることが好ましい。
【0068】
次いで、支持フィルムから、セラミックグリーンシートを剥離するとともに、セラミックグリーンシートからなる誘電体層とその片面に形成された乾燥膜とが交互に配置されるように積層した後、加熱・加圧処理により積層体を得る。なお、積層体の両面に、導電性ペーストを塗布していない保護用のセラミックグリーンシートを更に配置する構成としても良い。
【0069】
次いで、積層体を所定サイズに切断してグリーンチップを形成した後、当該グリーンチップに対して脱バインダー処理を施し、還元雰囲気下において焼成することにより、セラミック積層体10を製造する。なお、脱バインダー処理における雰囲気は、大気またはN2ガス雰囲気にすることが好ましい。脱バインダー処理を行う際の温度は、例えば200℃以上400℃以下である。また、脱バインダー処理を行う際の、上記温度の保持時間を0.5時間以上24時間以下とすることが好ましい。また、焼成は、内部電極層に用いる金属の酸化を抑制するために還元雰囲気で行われ、また、積層体の焼成を行う際の温度は、例えば、1000℃以上1350℃以下であり、焼成を行う際の、温度の保持時間は、例えば、0.5時間以上8時間以下である。
【0070】
グリーンチップの焼成を行うことにより、グリーンシート中の有機バインダーが完全に除去されるとともに、セラミックの原料粉末が焼成されて、セラミック製の誘電体層12が形成される。また乾燥膜中の有機ビヒクルが除去されるとともに、ニッケル粉末またはニッケルを主成分とする合金粉末が焼結もしくは溶融、一体化されて、内部電極が形成され、誘電体層12と内部電極層11とが複数枚、交互に積層された積層セラミック焼成体が形成される。なお、酸素を誘電体層の内部に取り込んで信頼性を高めるとともに、内部電極の再酸化を抑制するとの観点から、焼成後の積層セラミック焼成体に対して、アニール処理を施してもよい。
【0071】
そして、作製した積層セラミック焼成体に対して、一対の外部電極20を設けることにより、積層セラミックコンデンサ1が製造される。例えば、外部電極20は、外部電極層21及びメッキ層22を備える。外部電極層21は、内部電極層11と電気的に接続する。なお、外部電極20の材料としては、例えば、銅やニッケル、またはこれらの合金が好適に使用できる。なお、電子部品は、積層セラミックコンデンサ以外の電子部品を用いることもできる。
【実施例】
【0072】
以下、本発明を実施例と参考例に基づき詳細に説明するが、本発明は実施例によって何ら限定されるものではない。
【0073】
[評価方法]
(乾燥膜密度)
作製した導電性ペーストをPETフィルム上に載せ、幅50mm、隙間125μmのアプリケータで長さ約100mmに延ばした。得られたPETフィルムを120℃、40分乾燥させて、乾燥体を形成した後、この乾燥体を2.54cm(1インチ)角に4枚切断し、PETフィルムをはがした上で各4枚の乾燥膜の厚み、重量を測定して、乾燥膜密度(平均値)を算出した。
【0074】
(表面粗さ)
2.54cm(1インチ)角の耐熱強化ガラス上に、作製した導電性ペーストをスクリーン印刷し、大気中120℃で1時間乾燥させることにより、20mm角、膜厚1~3μmの乾燥膜を作製した。作製した乾燥膜の表面粗さRa(算術平均粗さ)、Rt(最大断面高さ)を、JIS B0601-2001の規格に基づいて測定した。
【0075】
[使用材料]
(導電性粉末)
導電性粉末としては、Ni粉末(SEM平均粒径0.2μm)を使用した。
【0076】
(バインダー樹脂)
バインダー樹脂としては、エチルセルロース樹脂(EC樹脂)、及び、ポリビニルブチラール樹脂(PVB樹脂)を使用した。なお、導電性スラリーを作製する際は、あらかじめバインダー樹脂(EC樹脂とPVB樹脂を、2:1で混合したもの)12質量部を、ターピネオール88質量部に溶解させた有機ビヒクルとして準備したものを用いた。
【0077】
(分散剤)
第1の酸系分散剤として、(i)ポリカルボン酸を主鎖とする炭化水素系グラフト共重合体で平均分子量が800である酸系分散剤A、および(ii)ポリカルボン酸を主鎖とする炭化水素系グラフト共重合体で平均分子量が1500である酸系分散剤Bを用いた。
【0078】
また、第2の酸系分散剤として、(i)カルボキシル基を有する直鎖の分散剤で平均分子量が350である酸系分散剤C、(ii)カルボキシル基を有する直鎖の分散剤で均分子量が290である酸系分散剤D、(iii)カルボキシル基を2つ有し、かつ、主鎖に対して分岐鎖を有する分散剤で平均分子量が370である酸系分散剤Fを用いた。
【0079】
また、第2の酸系分散剤として(iv)実施例12では、ポリカルボン酸を主鎖とする炭化水素系グラフト共重合体で平均分子量が1500である酸系分散剤B(第1の分散剤に相当)を用い、(v)実施例13では、カルボキシル基を2つ有し、かつ、主鎖に対して分岐鎖を有する酸系分散剤で平均分子量が230である酸系分散剤Eを用いた。
【0080】
(有機溶剤)
有機溶剤としては、ターピネオール(テルペン系溶剤)を使用した。
【0081】
(実施例1)
導電性粉末(Ni粉末)100質量部に対して、EC樹脂とPVB樹脂を2:1で配合したバインダー樹脂を含む有機ビヒクルを50質量部、第1の酸系分散剤として酸系分散剤Aを0.5質量部、および、第2の酸系分散剤として酸系分散剤Cを1質量部となる割合で混合し、これらの混合材料が85.5質量%となる様に、有機溶剤を添加して評価用の導電性ペーストを作製した。導電性ペーストに用いた分散剤の種類を表1に示す。
【0082】
また、得られた導電性ペーストを用いて、上記評価方法に記載の方法で乾燥膜を作製し、乾燥膜密度、乾燥膜の表面粗さを上記方法で評価した。評価結果を表1に示す。
【0083】
(実施例2~13)
分散剤を、表1に記載した種類及び含有量の組み合わせとした以外は、実施例1と同様の条件で導電性ペーストを作製した。その導電性ペーストを用いて作製した乾燥膜の乾燥膜密度、乾燥膜の表面粗さを上記方法で評価した。使用した酸系分散剤の種類および含有量と共に評価結果を表1に示す。
【0084】
(参考例1~3)
分散剤を、表1に記載した種類および含有量の組み合わせにした以外は、実施例1と同様の条件で導電性ペーストを作製した。導電性ペーストを用いて作製した乾燥膜の乾燥膜密度、乾燥膜の表面粗さを上記方法で評価した。使用した酸系分散剤の種類および含有量と共に評価結果を表1に示す。
【0085】
【0086】
(評価結果)
表1の結果から、実施例1、実施例4~13の第1の酸系分散剤と第2の酸系分散剤を含む導電性ペーストは、第1の酸系分散剤の含有量が等しく、第2の酸系分散剤を含有しない参考例1の導電性ペーストと比較して、乾燥膜密度が高く、かつ、乾燥膜表面粗さが小さく、より平滑であることが確認された。
【0087】
また、第1の酸系分散剤の含有量を0.2質量部又は2.0質量部に変更した以外は実施例1と同様の条件で製造された実施例2、3の導電性ペーストでも、他の実施例と同様に、乾燥膜密度が高く、乾燥膜表面粗さ(Ra及びRt)が小さかった。
【0088】
また、第2の酸系分散剤の含有量を0.01質量部~2.0質量部の範囲で変更した実施例4~7を比較した場合、特に第2の酸系分散剤の含有量が0.3質量部以上の実施例6、7の導電性ペーストでは、乾燥膜の表面粗さ(Ra及びRt)がさらに減少し、高い平滑性を有する(すなわち、Ra:0.045μm以下、およびRt:0.4μm以下を満たす)ことが確認された。
【0089】
一方、第1の酸系分散剤のみの含有量を実施例1、8~10の分散剤全体と同量(1.5質量部)とした参考例2の導電性ペーストでは、乾燥膜密度は向上したものの、これらの実施例よりも乾燥膜密度が低く、平滑性の改善(特にRtの減少)も十分でなかった。
【0090】
また、第2の酸系分散剤のみの含有量を実施例1、8~10の分散量全体と同量(1.5質量部)とした参考例3の導電性ペーストでは、参考例2と同様、乾燥膜密度は向上したものの、これらの実施例よりも乾燥膜密度が低く、平滑性の改善(特にRtの減少)も十分でなかった。
【0091】
なお、第2の分散剤として、分岐鎖を有し、かつ、分子量が1400を超える、又は、分子量が250未満の分散剤を用いた実施例12、13の導電性ペーストは、比較例2と比較して、乾燥膜密度は向上するものの、他の実施例と比較して、乾燥膜表面粗さ(Ra及びRt)の減少が十分でなかった。よって、平滑性をより向上させるという観点からは、第2の酸系分散剤としては、実施例1等のように、直鎖構造を有する酸系分散剤、又は、実施例10、11のように、分子量が250以上1400以下であり、かつ、分岐鎖を有する酸系分散剤を用いることが好ましい。
【0092】
なお、本発明の技術範囲は、上述の実施形態などで説明した態様に限定されるものではない。例えば、電子部品に電極や配線等を印刷するための導電性ペーストは、実施例で作製した上記導電性ペーストをそのまま使用することもできるが、更に、誘電体層との密着性を高めるためにセラミック粉末を含有させてもよい。セラミック粉末の含有が、上記導電性ペーストの分散性を阻害しないことは確認している。よって、本実施形態に係る導電性ペーストは、積層セラミックコンデンサの内部電極用などの電極用の導電性ペーストにも活用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本実施形態に係る導電性ペーストは、分散性に優れるため、塗布後の乾燥膜密度、及び、乾燥膜表面平滑性に非常に優れており、特に携帯電話やデジタル機器などの小型化が進む電子機器のチップ部品である積層セラミックコンデンサの内部電極用の原料として好適に用いることができる。
【0094】
なお、上述の実施形態などで説明した要件の1つ以上は、省略されることがある。また、上述の実施形態などで説明した要件は、適宜組み合わせることができる。また、法令で許容される限りにおいて、上述の実施形態などで引用した全ての文献の開示を援用して本文の記載の一部とする。また、法令で許容される限りにおいて、日本特許出願である特願2019-175455の内容を援用して本文の記載の一部とする。
【符号の説明】
【0095】
1 積層セラミックコンデンサ
10 セラミック積層体
11 内部電極層
12 誘電体層
20 外部電極
21 外部電極層
22 メッキ層