(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】波長可変レーザ
(51)【国際特許分類】
H01S 5/14 20060101AFI20241112BHJP
H01S 5/026 20060101ALI20241112BHJP
H01S 5/065 20060101ALI20241112BHJP
H01S 5/0687 20060101ALI20241112BHJP
H01S 5/125 20060101ALI20241112BHJP
H01S 5/22 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
H01S5/14
H01S5/026 618
H01S5/026 650
H01S5/065
H01S5/0687
H01S5/125
H01S5/22 610
(21)【出願番号】P 2022570810
(86)(22)【出願日】2020-12-22
(86)【国際出願番号】 JP2020047874
(87)【国際公開番号】W WO2022137330
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-03-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【氏名又は名称】小池 勇三
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121669
【氏名又は名称】本山 泰
(72)【発明者】
【氏名】鶴谷 拓磨
(72)【発明者】
【氏名】松尾 慎治
(72)【発明者】
【氏名】瀬川 徹
(72)【発明者】
【氏名】相原 卓磨
【審査官】大和田 有軌
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0310918(US,A1)
【文献】特開2005-327881(JP,A)
【文献】国際公開第2020/166615(WO,A1)
【文献】特開2020-136360(JP,A)
【文献】国際公開第2020/166648(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/162451(WO,A1)
【文献】特開2019-140308(JP,A)
【文献】特開2019-140304(JP,A)
【文献】特開2019-140303(JP,A)
【文献】特開2019-140183(JP,A)
【文献】特開2019-062036(JP,A)
【文献】国際公開第2018/207422(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/147307(WO,A1)
【文献】特開2018-113302(JP,A)
【文献】特開2018-010047(JP,A)
【文献】特開2017-175009(JP,A)
【文献】特開2017-161830(JP,A)
【文献】特開2016-178283(JP,A)
【文献】国際公開第2014/115330(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/114577(WO,A1)
【文献】特開2011-253930(JP,A)
【文献】特開2009-059729(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0231808(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0143461(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第106785900(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0014544(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0127007(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00 - 5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
出力される光の波長を変化可能な波長可変レーザであって、
周回構造を有する周回型導波路と、
前記周回型導波路と一の領域で結合する第1の結合導波路と、
前記周回型導波路と他の領域で結合する第2の結合導波路とを備え、
前記第1の結合導波路の、前記光が出力される側に、第1の反射領域が接続され、
前記第2の結合導波路の、前記光が出力される側に、順に、活性領域と、第2の反射領域とが接続され、
前記第1の結合導波路と前記周回型導波路と前記第2の結合導波路とにおいて、前記第1の反射領域と前記第2の反射領域との間で形成される共振器構造で前記光が共振し、前記周回型導波路の少なくとも一部の屈折率が変調されることにより前記周回型導波路で共振する光の波長が変化し、前記共振器構造で共振する光の波長が前記周回型導波路で共振する光の波長を追従して変化
し、
前記第1の結合導波路の前記光が導波する領域の少なくとも一部の屈折率と、前記第2の結合導波路の前記光が導波する領域の少なくとも一部の屈折率とが、略同一の信号で変調され、
前記周回型導波路の屈折率が、前記略同一の信号とは異なる信号で変調され、
前記異なる信号で変調される屈折率の変調量のみが、前記略同一の信号で変調される屈折率の変調量に伴う位相の変化量が0とπとの2値で切り替えられながら、変化されることを特徴とする波長可変レーザ。
【請求項2】
出力される光の波長を変化可能な波長可変レーザであって、
周回型導波路と、
一の導波路が2本の導波路に分岐し、前記2本の導波路が他の導波路に結合する、結合導波路と、
前記一の導波路において、前記分岐する箇所から前記光が出力される側に向かって、順に、活性領域と、反射領域とを備え、
前記2本の導波路のうち一方の第1の結合導波路が、前記周回型導波路と一の領域で結合し、
前記2本の導波路のうち他方の第2の結合導波路が、前記周回型導波路と他の領域で結合し、
前記一の導波路と前記第1の結合導波路と前記周回型導波路と前記第2の結合導波路とにおいて、前記周回型導波路と前記反射領域との間で形成される共振器構造で前記光が共振し、前記周回型導波路の少なくとも一部の屈折率が変調されることにより前記周回型導波路で共振する光の波長が変化し、前記共振器構造で共振する光の波長が前記周回型導波路で共振する光の波長を追従して変化
し、
前記第1の結合導波路の前記光が導波する領域の少なくとも一部の屈折率と、前記第2の結合導波路の前記光が導波する領域の少なくとも一部の屈折率とが、略同一の信号で変調され、
前記周回型導波路の屈折率が、前記略同一の信号とは異なる信号で変調され、
前記異なる信号で変調される屈折率の変調量のみが、前記略同一の信号で変調される屈折率の変調量に伴う位相の変化量が0とπとの2値で切り替えられながら、変化されることを特徴とする波長可変レーザ。
【請求項3】
出力される光の波長を変化可能な波長可変レーザであって、
周回構造を有する周回型導波路と、
前記周回型導波路と一の領域で結合する第1の結合導波路と、
前記周回型導波路と他の領域で結合する第2の結合導波路とを備え、
前記第1の結合導波路の、前記光が出力される側に、第1の反射領域が接続され、
前記第2の結合導波路の、前記光が出力される側に、順に、活性領域と、第2の反射領域とが接続され、
前記第1の結合導波路と前記周回型導波路と前記第2の結合導波路とにおいて、前記第1の反射領域と前記第2の反射領域との間で形成される共振器構造で前記光が共振し、前記周回型導波路の少なくとも一部の屈折率が変調されることにより前記周回型導波路で共振する光の波長が変化し、前記共振器構造で共振する光の波長が前記周回型導波路で共振する光の波長を追従して変化し、
前記第1の結合導波路の前記光が導波する領域の一部の屈折率と、前記第2の結合導波路の前記光が導波する領域の少なくとも一部の屈折率とが、前記周回型導波路の一部の屈折率と略同一の信号で変調され、
前記第1の結合導波路の前記光が導波する領域の前記一部以外の部分の屈折率が、前記略同一の信号とは異なる信号で変調され、
前記周回型導波路の共振波長が前記略同一の信号の変調によりシフトする量と、前記共振器構造の縦モードの共振波長が前記略同一の信号および前記異なる信号との変調によりシフトする量とが等しいことを特徴とす
る波長可変レーザ。
【請求項4】
出力される光の波長を変化可能な波長可変レーザであって、
周回型導波路と、
一の導波路が2本の導波路に分岐し、前記2本の導波路が他の導波路に結合する、結合導波路と、
前記一の導波路において、前記分岐する箇所から前記光が出力される側に向かって、順に、活性領域と、反射領域とを備え、
前記2本の導波路のうち一方の第1の結合導波路が、前記周回型導波路と一の領域で結合し、
前記2本の導波路のうち他方の第2の結合導波路が、前記周回型導波路と他の領域で結合し、
前記一の導波路と前記第1の結合導波路と前記周回型導波路と前記第2の結合導波路とにおいて、前記周回型導波路と前記反射領域との間で形成される共振器構造で前記光が共振し、前記周回型導波路の少なくとも一部の屈折率が変調されることにより前記周回型導波路で共振する光の波長が変化し、前記共振器構造で共振する光の波長が前記周回型導波路で共振する光の波長を追従して変化し、
前記第1の結合導波路の前記光が導波する領域の一部の屈折率と、前記第2の結合導波路の前記光が導波する領域の少なくとも一部の屈折率とが、前記周回型導波路の一部の屈折率と略同一の信号で変調され、
前記第1の結合導波路の前記光が導波する領域の前記一部以外の部分の屈折率が、前記略同一の信号とは異なる信号で変調され、
前記周回型導波路の共振波長が前記略同一の信号の変調によりシフトする量と、前記共振器構造の縦モードの共振波長が前記略同一の信号および前記異なる信号との変調によりシフトする量とが等しいことを特徴とする波長可変レーザ。
【請求項5】
N台の請求項1から請求項
4のいずれか一項に記載の波長可変レーザを備えることを特徴とする波長可変レーザ。
【請求項6】
前記活性領域が、基板上の酸化膜上のInP系薄膜に前記基板に対して平行な方向から電流が注入されるメンブレン構造を有することを特徴とする請求項1から請求項
5のいずれか一項に記載の波長可変レーザ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロリング共振器と分布ブラッグ反射器とを備える波長可変レーザに関する。
【背景技術】
【0002】
波長可変レーザダイオード(Tunable Laser Diode;TLD)、すなわち、発振波長を外部からの制御信号によってチューニング可能なレーザダイオードは、波長分割多重(Wavelength Division Multiplexing;WDM)方式の情報伝送において欠かせないコンポーネントである。一般にTLDは活性領域への電流注入用の端子の他に、発振波長制御用の端子を有し、加熱やキャリア注入などによる導波路の屈折率変化を利用することで発振波長の制御を可能としている。
【0003】
TLDの構成として最も基本的なものは、活性領域、および屈折率変調用の電極を有した分布ブラッグ反射器(Distributed Bragg Reflector;DBR)から構成される2電極DBR-TLDと呼ばれるものである。また、これに加えて位相調整用の電極も具備した3電極DBR-TLDも広く知られている。これらDBR-TLDでは、キャリア注入や抵抗加熱などによってDBR領域の屈折率を変調し、DBRのブラッグ波長を変化させてストップバンド位置を掃引する。これによって閾値利得が最小となる縦モード、すなわち発振モードがストップバンドに引き摺られる形で掃引されていき、発振波長のチューナビリティが得られる。
【0004】
他のタイプのTLDとしては、(1)わずかに共振器の縦モード間隔(Free Spectral Range;FSR)の異なる2つのフィルタを組み合わせ、それらの間のバーニャ効果を利用することで非常に広い範囲での発振波長変化を可能にしたもの(非特許文献1)、(2)発振波長の異なる分布帰還型(Distributed Feedback;DFB)LDをアレイ化し、その上で動作温度を調整することで各LDの発振波長を微調整して広帯域のカバーを可能にしたもの(非特許文献2)、(3)DFB-LDにおいて、活性領域と屈折率制御領域とを交互に並べることで位相条件を自動的に満たしてモードホップフリーなチューニングを可能としたもの(非特許文献3)などが挙げられる。
【0005】
DBR-TLDと比較すると、上記(1)は、波長可変域では優れているものの、2つのフィルタおよび位相の複雑な調整が必要であり、制御容易性の観点でDBR-TLDが優れる。上記(2)では、LDそれ自体は発振波長制御用の端子を有さず、活性領域ごとLDを加熱する必要があるため、活性領域と熱源との分離という点でDBR-TLDが優れる。上記(3)は、位相調整不要でモードホップフリーという特長が際立つが、緻密な共振器設計および活性領域と屈折率制御領域と交互に配置される複雑な構造の作製が必要であり、実現容易性という点でDBR-TLDが優れる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】T. Segawa, S. Matsuo, T. Kakitsuka, T. Sato, Y. Kondo, and R. Takahashi,“Semiconductor Double-Ring-Resonator-Coupled Tunable Laser for Wavelength Routing” , in IEEE Journal of Quantum Electronics, vol. 45, no. 7, pp. 892-899, 2009.
【文献】H. Ishii, K. Kasaya, and H. Oohashi, “Spectral Linewidth Reduction in Widely Wavelength Tunable DFB Laser Array”, in IEEE Journal of Selected Topics in Quantum Electronics, vol. 15, no. 3, pp. 514-520, 2009.
【文献】N. Nunoya, H. Ishii, Y. Kawaguchi, R. Iga, T. Sato, N. Fujiwara, and H. Oohashi, “Tunable Distributed Amplification (TDA-) DFB Laser with Asymmetric Structure”, IEEE J. Sel. Top.in Quantum Electron., Vol.17, No.6, pp.1505-1512, 2011.
【文献】N. Fujiwara, T. Kakitsuka, M. Ishikawa, F. Kano, H. Okamoto, Y. Kawaguchi, Y. Kondo, Y. Yoshikuni, and Y. Tohmori, “Inherently mode-hop-free distributed Bragg reflector (DBR) laser array” , in IEEE Journal of Selected Topics in Quantum Electronics, vol. 9, no. 5, pp. 1132-1137, 2003.
【文献】H. Arimoto, T. Kitatani, T. Tsuchiya, K. Shinoda, A. Takei, H. Uchiyama, M. Aoki, and S. Tsuji., “Wavelength-Tunable Short-Cavity DBR Laser Array With Active Distributed Bragg Reflector”, in Journal of Lightwave Technology, vol. 24, no. 11, pp. 4366-4371, 2006.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般にDBR-LDは、シングルモード性を得るために、DBRのストップバンド幅が共振器の縦モード間隔(Free Spectral Range;FSR)程度以下である、という条件を満たす必要がある。この条件を満たさない場合、DBRのストップバンド内に複数の縦モードが位置し、それらが同程度の閾値利得を有することになるため、マルチモード発振や頻繁なモードホップなどの問題が生じてしまう。DBRにおいてストップバンド幅を狭く保ちながら十分な反射率を確保するには、結合定数κ(ブラッグ反射を起こすための周期的な屈折率変調の強さを表す定数)を小さくした上で、DBR全体の長さLDBR(以下、DBR長と呼ぶ)を長く設定する必要がある。
【0008】
ここで、DBR-TLDでは、DBR領域全体の屈折率を一様に変調する必要があり、その領域全体へのキャリア注入や抵抗加熱が行われる。このことは、DBR長に比例して、屈折率変調に要される電力が増大していくことを意味しており、その消費電力は低電力性が要求される短距離通信用途などで大きな問題となり得る。
【0009】
具体例として、非特許文献4では、活性領域長を50μm、フロントDBR長を200μm、リアDBR長を450μmとしており、4.5nmの波長シフトを得るために合計100mAの電流をDBR領域に注入している。また、非特許文献5では、活性領域長を35μm、フロントDBR長を200μm、リアDBR長を300μmとしており、4.8nmの波長シフトを得るために合計150mAの電流をDBR領域に注入している。これらの電流量は、数十μm 長の活性領域に要される注入電流量に比して大きな値であり、TLD総消費電力の大部分を占めて低電力化のボトルネックとなる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述したような課題を解決するために、本発明に係る波長可変レーザは、出力される光の波長を変化可能な波長可変レーザであって、周回構造を有する周回型導波路と、前記周回型導波路と一の領域で結合する第1の結合導波路と、前記周回型導波路と他の領域で結合する第2の結合導波路とを備え、前記第1の結合導波路の、前記光が出力される側に、第1の反射領域が接続され、前記第2の結合導波路の、前記光が出力される側に、順に、活性領域と、第2の反射領域とが接続され、前記第1の結合導波路と前記周回型導波路と前記第2の結合導波路とにおいて、前記第1の反射領域と前記第2の反射領域との間で形成される共振器構造で前記光が共振し、前記周回型導波路の少なくとも一部の屈折率が変調されることにより前記周回型導波路で共振する光の波長が変化し、前記共振器構造で共振する光の波長が前記周回型導波路で共振する光の波長を追従して変化し、前記第1の結合導波路の前記光が導波する領域の少なくとも一部の屈折率と、前記第2の結合導波路の前記光が導波する領域の少なくとも一部の屈折率とが、略同一の信号で変調され、前記周回型導波路の屈折率が、前記略同一の信号とは異なる信号で変調され、前記異なる信号で変調される屈折率の変調量のみが、前記略同一の信号で変調される屈折率の変調量に伴う位相の変化量が0とπとの2値で切り替えられながら、変化されることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る波長可変レーザは、出力される光の波長を変化可能な波長可変レーザであって、周回型導波路と、一の導波路が2本の導波路に分岐し、前記2本の導波路が他の導波路に結合する、結合導波路と、前記一の導波路において、前記分岐する箇所から前記光が出力される側に向かって、順に、活性領域と、反射領域とを備え、前記2本の導波路のうち一方の第1の結合導波路が、前記周回型導波路と一の領域で結合し、前記2本の導波路のうち他方の第2の結合導波路が、前記周回型導波路と他の領域で結合し、前記一の導波路と前記第1の結合導波路と前記周回型導波路と前記第2の結合導波路とにおいて、前記周回型導波路と前記反射領域との間で形成される共振器構造で前記光が共振し、前記周回型導波路の少なくとも一部の屈折率が変調されることにより前記周回型導波路で共振する光の波長が変化し、前記共振器構造で共振する光の波長が前記周回型導波路で共振する光の波長を追従して変化し、前記第1の結合導波路の前記光が導波する領域の少なくとも一部の屈折率と、前記第2の結合導波路の前記光が導波する領域の少なくとも一部の屈折率とが、略同一の信号で変調され、前記周回型導波路の屈折率が、前記略同一の信号とは異なる信号で変調され、前記異なる信号で変調される屈折率の変調量のみが、前記略同一の信号で変調される屈折率の変調量に伴う位相の変化量が0とπとの2値で切り替えられながら、変化されることを特徴とする。
また、本発明に係る波長可変レーザは、出力される光の波長を変化可能な波長可変レーザであって、周回構造を有する周回型導波路と、前記周回型導波路と一の領域で結合する第1の結合導波路と、前記周回型導波路と他の領域で結合する第2の結合導波路とを備え、前記第1の結合導波路の、前記光が出力される側に、第1の反射領域が接続され、前記第2の結合導波路の、前記光が出力される側に、順に、活性領域と、第2の反射領域とが接続され、前記第1の結合導波路と前記周回型導波路と前記第2の結合導波路とにおいて、前記第1の反射領域と前記第2の反射領域との間で形成される共振器構造で前記光が共振し、前記周回型導波路の少なくとも一部の屈折率が変調されることにより前記周回型導波路で共振する光の波長が変化し、前記共振器構造で共振する光の波長が前記周回型導波路で共振する光の波長を追従して変化し、前記第1の結合導波路の前記光が導波する領域の一部の屈折率と、前記第2の結合導波路の前記光が導波する領域の少なくとも一部の屈折率とが、前記周回型導波路の一部の屈折率と略同一の信号で変調され、前記第1の結合導波路の前記光が導波する領域の前記一部以外の部分の屈折率が、前記略同一の信号とは異なる信号で変調され、前記周回型導波路の共振波長が前記略同一の信号の変調によりシフトする量と、前記共振器構造の縦モードの共振波長が前記略同一の信号および前記異なる信号との変調によりシフトする量とが等しいことを特徴とする。
また、本発明に係る波長可変レーザは、出力される光の波長を変化可能な波長可変レーザであって、周回型導波路と、一の導波路が2本の導波路に分岐し、前記2本の導波路が他の導波路に結合する、結合導波路と、前記一の導波路において、前記分岐する箇所から前記光が出力される側に向かって、順に、活性領域と、反射領域とを備え、前記2本の導波路のうち一方の第1の結合導波路が、前記周回型導波路と一の領域で結合し、前記2本の導波路のうち他方の第2の結合導波路が、前記周回型導波路と他の領域で結合し、前記一の導波路と前記第1の結合導波路と前記周回型導波路と前記第2の結合導波路とにおいて、前記周回型導波路と前記反射領域との間で形成される共振器構造で前記光が共振し、前記周回型導波路の少なくとも一部の屈折率が変調されることにより前記周回型導波路で共振する光の波長が変化し、前記共振器構造で共振する光の波長が前記周回型導波路で共振する光の波長を追従して変化し、前記第1の結合導波路の前記光が導波する領域の一部の屈折率と、前記第2の結合導波路の前記光が導波する領域の少なくとも一部の屈折率とが、前記周回型導波路の一部の屈折率と略同一の信号で変調され、前記第1の結合導波路の前記光が導波する領域の前記一部以外の部分の屈折率が、前記略同一の信号とは異なる信号で変調され、前記周回型導波路の共振波長が前記略同一の信号の変調によりシフトする量と、前記共振器構造の縦モードの共振波長が前記略同一の信号および前記異なる信号との変調によりシフトする量とが等しいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、低消費電力で動作する波長可変レーザを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る波長可変レーザの構成を示す概要図である。
【
図2】
図2は、本発明の第1の実施の形態の変形例に係る波長可変レーザの構成を示す概要図である。
【
図3】
図3は、本発明の第1の実施の形態の変形例に係る波長可変レーザの構成を示す概要図である。
【
図4A】
図4Aは、本発明の第1の実施の形態に係る波長可変レーザにおける素子特性を示す図である。
【
図4B】
図4Bは、本発明の第1の実施の形態に係る波長可変レーザにおける素子特性を示す図である。
【
図4C】
図4Cは、本発明の第1の実施の形態に係る波長可変レーザにおける素子特性を示す図である。
【
図4D】
図4Dは、本発明の第1の実施の形態に係る波長可変レーザにおける素子特性を示す図である。
【
図5A】
図5Aは、本発明の第1の実施の形態の変形例に係る波長可変レーザにおける素子特性を示す図である。
【
図5B】
図5Bは、本発明の第1の実施の形態の変形例に係る波長可変レーザにおける素子特性を示す図である。
【
図5C】
図5Cは、本発明の第1の実施の形態の変形例に係る波長可変レーザにおける素子特性を示す図である。
【
図6A】
図6Aは、本発明の第1の実施の形態に係る波長可変レーザの特性を示す図である。
【
図6B】
図6Bは、本発明の第1の実施の形態に係る波長可変レーザの特性を示す図である。
【
図7A】
図7Aは、本発明の第1の実施の形態の変形例に係る波長可変レーザの特性を示す図である。
【
図7B】
図7Bは、本発明の第1の実施の形態の変形例に係る波長可変レーザの特性を示す図である。
【
図8】
図8は、本発明の第2の実施の形態に係る波長可変レーザの構成を示す概要図である。
【
図9】
図9は、本発明の第2の実施の形態の変形例に係る波長可変レーザの構成を示す概要図である。
【
図10A】
図10Aは、本発明の第2の実施の形態に係る波長可変レーザの特性を示す図である。
【
図10B】
図10Bは、本発明の第2の実施の形態に係る波長可変レーザの特性を示す図である。
【
図11A】
図11Aは、本発明の第2の実施の形態の変形例に係る波長可変レーザの特性を示す図である。
【
図11B】
図11Bは、本発明の第2の実施の形態の変形例に係る波長可変レーザの特性を示す図である。
【
図12】
図12は、本発明の第3の実施の形態に係る波長可変レーザの構成を示す概要図である。
【
図13A】
図13Aは、本発明の第3の実施の形態に係る波長可変レーザの動作を説明するための図である。
【
図13B】
図13Bは、本発明の第3の実施の形態に係る波長可変レーザの動作を説明するための図である。
【
図14A】
図14Aは、本発明の第3の実施の形態に係る波長可変レーザの動作を説明するための図である。
【
図14B】
図14Bは、本発明の第3の実施の形態に係る波長可変レーザの動作を説明するための図である。
【
図15】
図15は、本発明の第4の実施の形態に係る波長可変レーザの構成を示す概要図である。
【
図16A】
図16Aは、本発明の第4の実施の形態に係る波長可変レーザの動作を説明するための図である。
【
図16B】
図16Bは、本発明の第4の実施の形態に係る波長可変レーザの動作を説明するための図である。
【
図17A】
図17Aは、本発明の第4の実施の形態に係る波長可変レーザの特性を示す図である。
【
図17B】
図17Bは、本発明の第4の実施の形態に係る波長可変レーザの特性を示す図である。
【
図18】
図18は、本発明の第5の実施の形態に係る波長可変レーザの構成を示す概要図である。
【
図19】
図19は、本発明の第5の実施の形態に係る波長可変レーザの動作を説明するための図である。
【
図20】
図20は、本発明の第5の実施の形態に係る波長可変レーザの構成を示す概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<第1の実施の形態>
本発明の第1の実施の形態について
図1~
図7Bを参照して説明する。
【0015】
<波長可変レーザの構成>
本実施の形態に係る波長可変レーザ10は、
図1に示すように、マイクロリング共振器(Micro Ring Resonator、以下「MRR」という。)とDBRと活性領域とを備える。以下、この波長可変レーザを「MRR-DBR-TLD」ともいう。
【0016】
ここで、MRRは、上面形状が正円である場合に限らず、楕円や多角形状などの導波光が周回する形状の導波路であればよく、以下、「周回型導波路」ともいう。
【0017】
波長可変レーザ10は、MRRと、MRRと方向性結合する2本の導波路(以下、「結合導波路」という。)からなるMRRフィルタを有し、そのフィルタと接続された活性領域が2つのDBRによって囲まれた共振器構造を有する。詳細には、波長可変レーザ10は、順に、第1のDBR(第1の反射領域)101と、第1の結合導波路102と、MRR(周回型導波路)103と、第2の結合導波路104と、活性領域105と、第2のDBR(第2の反射領域)106とを備える。
【0018】
ここで、第1の結合導波路102と第2の結合導波路104は、それぞれMRR103と結合する。本実施の形態ではそれぞれの導波路102、104は、MRR103において対向する領域で結合するが、これに限らず、MRR103において異なる領域で結合すればよい。
【0019】
また、MRR103と第1または第2の結合導波路102、104との間との隙間(間隔)は、100~200nm程度であり、MRR103と結合導波路102、104との間で光結合できる間隔であればよい。ここで、MRR103と第1の結合導波路102とのパワー結合定数はK1、であり、MRR103と第2の結合導波路104とのパワー結合定数はK2 である。また、MRR103と第1または第2の導波路102、104とは接触していても、波長可変レーザは動作できる。
【0020】
また、第1の結合導波路102の、光の導波方向に、第1の反射領域101が接続され、第2の結合導波路104の、光の導波方向に、順に、活性領域105と、第2の反射領域106とが接続される。
【0021】
波長可変レーザ10において、第1のDBR101の長さはLDBR、1であり、第2のDBR106の長さはLDBR、2であり、活性領域105の長さはLaである。また、MRR103の半径はrである。
【0022】
また、第1の結合導波路102において、第1のDBR101との境界からMRR103との結合部までの長さ、すなわち、第1の結合導波路102において、光が導波する領域の長さがLp、1である。
【0023】
また、第2の結合導波路104において、活性領域105との境界からMRR103との結合部までの長さ、すなわち、第2の結合導波路104において、光が導波する領域の長さがLp、2である。
【0024】
また、第2のDBRの幅は1.5μm、活性領域の幅は800nmである。また、第2の結合導波路104の幅は、活性領域との接続部からMRR103と結合するまで領域で、1.5μmから500nmに変化し、導波光がシングルモードでMRR103に結合するように設定される。また、第1のDBRと第1の結合導波路102とMRR103との導波路の幅は500nm程度であり、導波光がシングルモードで導波できるように設定される。
【0025】
波長可変レーザ10の層構造は、活性領域以外の部分(第1のDBRと、第1の結合導波路102と、MRR103と、第2の結合導波路104と、第2のDBR)では、Si基板上のSiO2上に導波路層としてInP層が形成される。または、順にSiO2、InP(導波路)、SiO2が積層されてよい。また、導波路層は、長波長帯(1.3μm、1.55μmなど)の光を導波できる化合物半導体やSiなどの材料で構成されればよい。
【0026】
図1における縦横の格子状パターンで示される領域は、抵抗加熱やキャリア注入などによって屈折率が変調される領域を示す。このように、本実施の形態に係る波長可変レーザにおける共振器構造では、MRR103の屈折率を変調することにより、発振波長のチューナビリティを発現させ、レーザ発振における波長可変を実現する。
【0027】
本実施の形態に係る波長可変レーザ10では、共振器構造を一般化するために2つのDBRの双方から光が出力される例を示したが、一方のDBR長を十分に長く、他方のDBR長を適当に短く設計することで、前者をリアDBR、後者をフロントDBRとして、フロント側のみから光を出力させることも可能である。
【0028】
<第1の実施の形態の変形例>
第1の実施の形態の変形例に係る波長可変レーザ20は、
図2に示すように、波長可変レーザ10と同様に、MRR203とDBR(反射領域)206と活性領域205を備えるが、MRR203と方向性結合する対称なY分岐導波路202を有する。Y分岐導波路202は、基端部から第1の導波路と第2の導波路に分岐する。それぞれの導波路が、MRR203において対向する領域で結合する。ここで、それぞれの導波路は、MRR203において異なる領域で結合すればよい。
【0029】
また、Y分岐導波路202の基端の、光の導波方向に、順に、活性領域205と、反射領域206とが接続される。ここで、第1のDBR206の長さはLDBR、1であり、Y分岐導波路202それぞれの導波路において、活性領域205との境界からMRR203との結合部までの長さがLpである。
【0030】
その結果、Y分岐導波路202の一方からMRR203に入射した進行波がY分岐導波路202の他方からの後退波として反射してくるため、MRR自体が反射鏡(反射領域)として振る舞う。
【0031】
このMRRミラーおよびDBRによって活性領域を囲むことで共振器を形成している。DBRの透過率およびMRRの透過率を適当に設計することで、DBR側とMRR側のうち任意の方向へと光を出力させることができる。
【0032】
本変形例に係る波長可変レーザ20では、第1の実施の形態に係る波長可変レーザ10と同様に、MRR203の屈折率を変調することにより、発振波長のチューナビリティを発現させる。
【0033】
また、
図3に示す波長可変レーザ20_2のように、波長可変レーザ10におけるリア側のDBR(第1のDBR)をループミラー201で置き換え、DBRによる反射波長選択をフロント側(第2のDBR)でのみ行ってもよい。
【0034】
このように、本実施の形態では、DBR以外にもMRRやループミラーを反射領域として用いることができる。
【0035】
本実施の形態および変形例では、MRR(周回型導波路)の全域で屈折率を変調する構成の一例を示したが、MRR(周回型導波路)の一部で屈折率を変調してもよい。ここで、屈折率を変調する領域が大きいほど波長可変域が大きくなるので、波長可変域の拡大の観点からは、MRR(周回型導波路)の全域で屈折率を変調する方が望ましい。
【0036】
<波長可変レーザの動作>
以下、本実施の形態に係る波長可変レーザの動作について、波長可変レーザ10、20を例として説明する。
【0037】
波長可変レーザ10、20には、SiO2などの低屈折率な酸化膜上にInP系薄膜が形成されたメンブレン構造を用いる。ここで、InP系薄膜は、InP薄膜やInP基板上に結晶成長されるInGaAs、InGaAsP、InGaAlAs等の結晶からなる薄層を含む。
【0038】
メンブレン構造では、順に、SiO2などの低屈折率材料、InP系薄膜、低屈折率材料を備え、InP系薄膜の厚さは250nm~350nm程度である。InP系薄膜における強い光閉じ込めが得られる。ここで、InP系薄膜の上方の低屈折率材料には空気も含む。
【0039】
とくに、活性領域には、SiO2などの低屈折率な酸化膜上にInP/InGaAsPやInP/InGaAlAsなど層構造から構成されるInP系薄膜が形成されたメンブレン構造を用いる(S. Matsuo, T. Fujii, K. Hasebe, K. Takeda, T. Sato, and T. Kakitsuka, "Directly modulated buried heterostructure DFB laser on SiO2/Si substrate fabricated by regrowth of InP using bonded active layer," Opt. Express 22, 12139-12147 (2014).)。
【0040】
また、メンブレン構造を有する活性層領域では、電流は横方向に注入される(図中、電流注入用の電極は図示せず。)。ここで、活性層領域でも電流が、横方向に限らず縦方向(基板に対して垂直方向)に注入される構成でもよい。
【0041】
また、活性層への電流注入構造は、埋め込み再成長技術によりInGaAsP系やInGaAlAs系の活性層をInP薄膜中に形成し、ドーパント注入によりp型InP、活性層、n型InPを形成することにより実現できる。この電流注入構造では活性層がコアとして機能する。
【0042】
一方、結合導波路やDBR、MRRなどのパッシブな素子は、反応性イオンエッチングなどを用いてInP薄膜を適当な幅(細線構造)の導波路形状に加工することで実現できる。DBRは回折格子が表面に形成されてもよく、導波路の側壁に形成されてもよい。または、反射領域として、DBRに置き換えて、導波路内にフォトニック結晶を形成してもよい。
【0043】
これらの活性領域およびパッシブ素子(領域)はともに、InP、InGaAsP、InGaAlAsなどInP系材料からなるため、テーパ構造などを用いず直接的に接続することが可能であり、全体としてコンパクトなアクティブ光デバイスを実現できる。
【0044】
MRRの屈折率変調は、メンブレン構造の場合、SiO2などのオーバークラッド上での抵抗加熱を配置することで容易に実現可能である。
【0045】
本実施の形態および変形例に係る波長可変レーザを、DBRの屈折率変調を行わずに動作させる場合、DBRの結合定数κは、そのストップバンド幅BDBRが、概ね式(1)を満足する値とする。
【0046】
【0047】
ここで、max{ΔλMRR}はMRRの共振波長の最大可変幅、FSRMRRはMRRの共振ピークの間隔(Free Spectral Range;FSR)である。
【0048】
この関係が成り立つとき、DBRのストップバンド内にMRRの共振ピークが一つのみ存在すること、かつ、MRRの共振波長の可変範囲全域に渡ってそのピークがDBRのストップバンドから外れることがないことというTLD特性にとって良好な条件が満たされる。
【0049】
一例として、max{ΔλMRR}~10nm、MRR半径r~4μm程度の場合、上記の条件を満たすκは概ね500cm-1~1000cm-1程度となる。
【0050】
メンブレン構造では、光閉じ込めが強いため、MRRの曲げ半径を数μmにまで低減しても曲げ損失が低く保たれ、このような微小なMRRを形成しても良好な特性が得られる。
【0051】
また、メンブレン構造では、埋め込み活性領域とパッシブ導波路領域とをコンパクトに一体化でき、共振器を短尺化できる。
【0052】
また、DBRの形成においては、InP導波路の表面をエッチングするなどして表面回折格子を形成すると、その強い光閉じ込めに起因して強い屈折率変調が起こり、数百cm-1~1000cm-1程度の大きな結合定数が容易に得られる(E. Kanno, K. Takeda, T. Fujii, K. Hasebe, H. Nishi, T. Yamamoto, T. Kakitsuka, and S. Matsuo, "Twin-mirror membrane distributed-reflector lasers using 20-μm-long active region on Si substrates," Opt. Express 26, 1268-1277 (2018).)。
【0053】
一方、MRRのみならずDBRも屈折率変調し、前者の共振波長と後者のブラッグ波長とが常に一致するように動作させることも可能である。この場合、MRRの共振ピークは常にDBRのストップバンドの中心に位置するため、DBRのストップバンド内にMRRの共振ピークが一つのみ存在するには、式(1’)を満足すればよい。ここで、DBRの屈折率を変調するために、DBR領域の表面に電極を設けて電流を注入する。または、ヒータ、ペルチェ素子等の温度調整機構を設けて、温度を変化させてもよい。
【0054】
【0055】
これによって、式(1)のケースと比較して、DBRのストップバンド幅の上限、もしくは、MRRのFSRの下限が拡張される。
【0056】
<波長可変レーザの特性>
本実施の形態および変形例に係る波長可変レーザ10、20の特性を、
図4A~
図5Cを参照して説明する。
【0057】
波長可変レーザ10、20の特性の計算において、導波路の等価屈折率neqおよびその波長分散dneq/dλは、メンブレンデバイスの典型的な値を用いた。以下、λは、本発明に係る波長可変レーザの発振波長である。
【0058】
初めに、
図4A~
図5Cそれぞれに示すDBRの振幅反射率r
DBR、MRRのフィルタ特性を示す振幅透過率t
drop、光が共振器を一周するときの振幅利得係数t
roundを説明する。
【0059】
波長可変レーザ10、20の共振器特性として、DBRの振幅反射率rDBRは、式(2)によって求まる。
【0060】
【0061】
ここで、Δβ=(2πneq(λ))/λ-a/π(a はブラッグ回折格子のピッチ)、 γ=√(κ2-(Δβ)2) である。
【0062】
また、MRRにおける入力ポートからドロップポートへの振幅透過率(すなわち、MRRのフィルタ特性)tdropは、式(3)によって求まる。
【0063】
【0064】
ここで、K1、K2はMRRと導波路とのパワー結合定数であり、0から1までの実数値を取り得る。βring=(2πneq、ring(λ))/λ、Lring=2πrは、各々MRRの伝搬定数、周長である。また、αは、MRRの導波損失を表す定数である。
【0065】
波長可変レーザ10の共振器構造では、これらの素子(波長可変レーザの構成要素)特性rDBR1、rDBR2、tdropおよび導波路領域での伝搬を表す振幅係数e-j(βaLa+βp、1Lp、1+βp、2Lp、2)を用いることで、光が共振器を一周(round-trip)した際の振幅利得係数troundが、式(4)に示すように求まる。
【0066】
【数5】
同様に、波長可変レーザ20の共振器構造では、式(5)に示すように求まる。
【0067】
【0068】
ここで、Cは、Y分岐部分におけるパワー損失を表す係数である。光が共振器を一周するとき、波長可変レーザ10の共振器構造では光がMRRフィルタを二度通過するのに対して、波長可変レーザ10の共振器構造ではMRRフィルタの通過は一度のみであり、この差異がtdropの指数に表れている。
【0069】
ここで、共振器のパッシブな特性を議論するために活性領域は透明条件とし、βaは実数とした。
【0070】
表1、2それぞれに、波長可変レーザ10、20の共振器特性の計算に用いたデバイスパラメータを示す。なお、本発明の実施の形態に係る波長可変レーザの特性の計算において、MRRの特性を決定する4つのパラメータr、α、 K1、K2に、表1に記載された値を用いた。
【0071】
【0072】
【0073】
図4A~Dに、それぞれ波長可変レーザ10のr
DBR1、r
DBR2、t
drop、t
roundを示す。また、
図5A~Cは、同様に、波長可変レーザ20のr
DBR、t
drop、t
roundを示す。
【0074】
図4A、B、
図5Aでは、MRRのFSRに比べてDBRのストップバンド幅がわずかに狭くなっており、式(1)の関係が満たされている。ここで、波長可変レーザ10、20の構造によってMRRの屈折率変調を変調した際、その共振波長のシフト量は式(6)で与えられる。
【0075】
【0076】
Δneq、ring、ng、ringは、MRRを成す導波路の等価屈折率の変化量および群屈折率である。抵抗加熱での昇温による屈折率変化を用いる場合、InP導波路では単位昇温あたりの等価屈折率変化量は、Δneq/ΔT~2×10-4K-1程度であるため、例えば導波路の温度を100K上昇させた場合には、Δneq~0.02程度の等価屈折率変化が得られる。
【0077】
本実施の形態における計算例では、ng、ring=3.66、λ=1550nmを用いた場合、100K昇温時のMRRの共振波長シフト量は、ΔλMRR~8.5nmと概算される。波長可変レーザ10、20では、1000cm-1、800cm-1という大きな結合定数によって、この波長可変幅を実現するために十分なストップバンド幅が得られており、式(1)の関係が満たされている。
【0078】
図4D、
図5Cでは、光が共振器を一周するときの振幅利得係数がプロットされている。光の共振条件は、arg[t
round]=0で与えられるため、振幅利得係数の位相(偏角)を表す破線がゼロとなる波長が、共振器全体の縦モードの共振波長となる。この共振条件を満たす点は複数存在するが、それらのうち閾値利得が最小となるモードが発振する。
【0079】
このとき、DBRストップバンド内での位相の波長特性に着目すると、MRRの共振ピーク周辺で位相が急激に回転(変化)していることがわかる。これは、MRRの有効長がその共振波長において特異的に長くなること、すなわち、共振波長では光がMRR内を何度も周回することに起因する。その結果、上記の共振条件を満たす点がMRRの共振ピーク周辺に必ず一つ現れることになる。
【0080】
このことは、MRRの屈折率変調によってそのMRRの共振ピーク波長を掃引すると、縦モードの共振波長がMRRの共振ピーク波長を追従して自動的に掃引されるので、縦モードの位相調整を行うことなく発振波長のチューナビリティが得られることを意味する。
【0081】
また、共振条件を満たす点同士の波長間隔、すなわち縦モードのFSRがMRRの共振ピーク線幅に比べて十分に広く、鋭いパスバンドを有するフィルタであるMRRを用いることで、良好なシングルモード性が得られる。
【0082】
次に、波長可変レーザ10、20の特性について、
図6A~
図7Bを参照して説明する。
活性領域長Laとして、La=20μm、50μm、80μmについて計算した。活性領域長以外のパラメータには、表1、2に記載の値を用いた。ここでは、TLDの発振閾値性の指標として、式(7)に示す性能指標Q
cavΓ
zを用いる。
【0083】
【0084】
ここで、添え字iは共振器を構成する各パートを表し、Σは全パートについての総和を取ることを意味する。Leff、iはパートiの有効長である。また、Qcavは共振器のQ値、Γzは光軸方向の活性領域の光閉じ込め係数である。
【0085】
図6Aに示すレーザ発振波長については、共振条件を満たす複数の波長の中で、最も低い閾値利得である波長、すなわち式(7)によりQ
cavΓ
zが最大となるものを計算した。また、
図6Bに示すQ
cavΓ
zについては、式(7)により計算した。
【0086】
波長可変レーザにおいて、z方向は光軸方向(導波光の進行方向)、y方向は基板に対して垂直方向、x方向は、z方向とy方向に垂直な方向である。
【0087】
LDの閾値利得は、Q値と光閉じ込め係数の積に反比例するため、この指標によって共振器特性に由来する発振閾値性を議論できる。メンブレン構造では、上述のように導波路断面(x-y平面)での光閉じ込めが強く、Γxyが大きい。例えば、QcavΓzが1、000程度以上であることを低閾値発振する目安としてもよい。
【0088】
発振波長のチューナビリティについて、
図6Aにおいて、L
a=20μmでは6.4nmにも及ぶホップフリー可変幅が得られている。L
a=20μmから活性領域長を増加させると、縦モードFSRの短縮に伴いホップフリー可変幅が狭くなるが、L
a=80μmにおいてもnmオーダー(2.1nm)の十分広いホップフリー可変幅が得られている。
【0089】
この良好なホップフリー特性は、共振器全体の短尺化が可能であり、縦モードFSRを広く保つことができるというメンブレン構造の特長を活かすことで実現可能となったものである。
【0090】
Q
cavΓ
zのチューニング特性について、
図6Bでは、Q
cavΓ
zはホップフリー可変域の中心付近で極大値を示し、モードホップが起こる波長で極小値を示す。これは、縦モードの共振波長とMRRの共振波長との離調が、縦モードFSRに対応した周期で変化することに起因する。
【0091】
また、式(7)より、QcavΓzの値が活性領域長にほぼ比例するので、発振閾値性の観点では活性領域が長いほうが有利である。
【0092】
一方、波長可変レーザ20では、
図7A、Bに示すように、定性的には波長可変レーザ10と同様の傾向を示すが、ホップフリー可変幅は、波長可変レーザ10のそれよりも狭く、波長可変レーザ20自らのモードホップ幅よりも狭くなっている。
【0093】
これは、波長可変レーザ10の構造では光がMRRフィルタを往復するためMRRによる急激な位相回転が2πであるのに対し、波長可変レーザ20の構造ではMRRを一度通過するのみであるため位相回転がπに留まり、波長可変レーザ10の構造に比較して共振波長の追従性が劣るためである。
【0094】
<効果>
本実施の形態および変形例に係る波長可変レーザによれば、半径が数μm程度の非常にコンパクトなMRRのみの屈折率変調により、位相調整を行うことなく、nmオーダーのホップフリー可変幅を有する発振波長チューナビリティが得られる。
【0095】
さらに、上述の発振波長チューナビリティにより、屈折率変調に要される消費電力をDBR-TLDよりも低く抑え、総消費電力の低いTLDを実現できる。
【0096】
また、一般に煩雑な制御が要される位相調整の手間を省き、活性領域用電極と波長制御用電極との2電極構成による制御容易なホップフリーチューニングを実現できる。
【0097】
<第2の実施の形態>
本発明の第2の実施の形態に係る波長可変レーザを
図8~
図11を参照して説明する。本実施の形態に係る波長可変レーザは、第1の実施の形態に係る波長可変レーザと比較して、モードホップフリー可変幅をさらに拡大できる。
【0098】
<波長可変レーザの構成>
本実施の形態に係る波長可変レーザ30は、
図8に示すように、第1の実施の形態に係る波長可変レーザ10の構成において、結合導波路に、屈折率変調機構を有する領域(以下、「変調領域」という。)を備える。
【0099】
第1の変調領域307は、第1の結合導波路302において、第1のDBR301との境界からMRR303との結合部までの間に配置され、その長さはLp、1である。すなわち、第1の変調領域307は、第1の結合導波路302において、光が導波する領域に配置される。
【0100】
また、第2の変調領域308は、第2の結合導波路304において、活性領域305との境界からMRR303との結合部までの間に配置され、その長さはLp、2である。すなわち、第2の変調領域308は、第2の結合導波路304において、光が導波する領域に配置される。
【0101】
このように、第1の変調領域307、第2の変調領域308はMRR303と結合する。
【0102】
また、本実施の形態の変形例として、波長可変レーザ40は、
図9に示すように、第1の実施の形態の変形例に係る波長可変レーザ20において、さらにY分岐変調領域を備える。
【0103】
Y分岐変調領域407は、Y分岐導波路402において、活性領域405との境界から、それぞれの導波路のMRR403との結合部までの間に配置され、その長さはそれぞれLpである。すなわち、Y分岐変調領域407は、Y分岐導波路402において、光が導波する領域に配置される。
【0104】
波長可変レーザ30において、第1の変調領域307と第2の変調領域308用の電極は、MRR用の電極と短絡させ、同一の電極、略同一の制御信号により屈折率を変調する。
【0105】
また、波長可変レーザ40において、Y分岐変調領域407用の電極は、MRR用の電極と短絡させ、同一の電極、略同一の制御信号により屈折率を変調する。
【0106】
本実施の形態および変形例では、MRR(周回型導波路)の全域で屈折率を変調する構成の一例を示したが、MRR(周回型導波路)の一部で屈折率を変調してもよい。ここで、屈折率を変調する領域が大きいほど波長可変域が大きくなるので、波長可変域の拡大の観点からは、MRR(周回型導波路)の全域で屈折率を変調する方が望ましい。
【0107】
また、それぞれの変調領域307、308、407は、それぞれMRRと結合する導波路(結合導波路またはY分岐導波路)において、光が導波する全領域に配置される例を示したが、それぞれMRRと結合する導波路において、光が導波する領域の一部で屈折率を変調してもよい。ここで、屈折率を変調する領域が大きいほど波長可変域が大きくなるので、波長可変域の拡大の観点からは、光が導波する全領域で屈折率を変調する方が望ましい。
【0108】
また、本実施の形態および変形例では、それぞれの変調領域とMRRには同一の電極を設けなくても、それぞれの電極を電気配線等により電気的に接続して、略同一の制御信号により屈折率を変調されてもよい。
【0109】
または、それぞれの電極が電気的に接続されていなくとも、略同一の制御信号により屈折率を変調されてもよい。ここで、略同一の制御信号は、電流量変化と時間変化とが略同一でもよく、少なくても時間変化が略同一であればよい。
【0110】
ここで、屈折率は、注入電流による制御信号だけでなく、温度等による制御信号により変調されてもよい。
【0111】
このように、変調領域とMRRそれぞれの屈折率は略同時に変調されればよい。
以下、「略同一」、「略同時」とは、完全同一を含み、本実施の形態に係る波長可変レーザを動作できる程度の若干の差異がある場合も含む。
【0112】
<波長可変レーザの動作>
以下、波長可変レーザ30、40の動作を説明する。波長可変レーザ30における共振器全体の縦モードの共振波長シフト量は、式(8)で与えられる。
【0113】
【0114】
同様に、波長可変レーザ40では、式(9)で与えられる。
【0115】
【0116】
したがって、MRRと併せてパッシブ導波路部分も屈折率変調することで、縦モードの共振波長がMRRのそれと同じく長波長側へとシフトして、MRRの共振ピーク波長に対する縦モードの共振波長の追従性が向上する。
【0117】
<波長可変レーザの特性>
図10A、Bそれぞれに、波長可変レーザ30の特性として、発振波長とQ
cavΓ
zを示す。また、
図11A、Bそれぞれに、波長可変レーザ40の特性として、発振波長とQ
cavΓ
zを示す。パッシブ導波路の屈折率変調の有無以外は、第1の実施の形態および変形例と同一条件である。
【0118】
波長可変レーザ30、40のモードホップ幅は、波長可変レーザ10、20の場合(
図6A~
図7B)と同程度である。一方、ホップフリー可変幅は、波長可変レーザ10、20(
図6A~
図7B)と比較して大幅に拡大している。このように、MRRとともにパッシブ導波路を屈折率変調することにより、ホップフリー可変幅が拡大する。
【0119】
<効果>
以上のように、MRR用と同一電極、同一制御信号にて、活性領域とMRRの間のパッシブ導波路領域も併せて屈折率変調することにより、モードホップフリー可変幅が拡大し、カバーできる波長域が向上する。
【0120】
また、同一電極、同一制御信号を用いるため、2電極構成として動作させることができ、容易に制御できる。
【0121】
<第3の実施の形態>
本発明の第3の実施の形態に係る波長可変レーザを、
図12~
図14Bを参照して説明する。本実施の形態に係る波長可変レーザ50は、第1の実施の形態に係る波長可変レーザ10と比較して、さらに縦モードの位相調整領域を備える。縦モードの位相はホップフリー可変域およびモードホップ域の絶対位置を決定するので、その絶対波長の制御性が要求される場合に、波長可変レーザ50は有効である。
【0122】
<波長可変レーザの構成>
波長可変レーザ50において、
図12Aに示すように、第1の位相調整領域509は、第1の結合導波路502において、第1のDBR501との境界からMRR503との結合部までの間に配置され、その長さはL
Φ、1である。すなわち、第1の位相調整領域509は、第1の結合導波路502において、光が導波する領域に配置される。
【0123】
また、第2の位相調整領域510は、第2の結合導波路504において、活性領域505との境界からMRR503との結合部までの間に配置され、その長さはLΦ、2である。すなわち、第2の位相調整領域510は、第2の結合導波路504において、光が導波する領域に配置される。
【0124】
このように、第1の位相調整領域509、第2の位相調整領域510はMRR503と結合する。
【0125】
波長可変レーザ50において、第1の位相調整領域509と第2の位相調整領域510は、MRR503と独立に屈折率変調する。そのために、第1の位相調整領域509、第2の位相調整領域510、MRR503には別個に電極を設け、異なる制御信号でそれぞれの屈折率を変調する。ここで、異なる制御信号として、少なくとも時間変化が異なる信号を用いればよい。
【0126】
このように、波長可変レーザ50は、活性領域505とMRR503と位相調整領域509、510とに電極を設ける3電極構成の構造を備える。
【0127】
ここで、第1の位相調整領域509と第2の位相調整領域510とは、電気的に接続して、略同一の制御信号で屈折率が変調される。この場合、第1の位相調整領域509と第2の位相調整領域510との屈折率は、略同時に変調される。または、第1の位相調整領域509と第2の位相調整領域510とは、電気的に接続せずに、異なる制御信号で屈折率が変調されてもよい。ここで、第1の位相調整領域509と第2の位相調整領域510とが電気的に接続される構成の方が、波長可変レーザ50の動作において容易に制御できる。
【0128】
ここで、屈折率は、注入電流による制御信号だけでなく、温度等を制御信号に用いて変調されてもよい。
【0129】
本実施の形態および変形例では、MRR(周回型導波路)の全域で屈折率を変調する構成の一例を示したが、MRR(周回型導波路)の一部で屈折率を変調してもよい。ここで、屈折率を変調する領域が大きいほど波長可変域が大きくなるので、波長可変域の拡大の観点からは、MRR(周回型導波路)の全域で屈折率を変調する方が望ましい。
【0130】
また、第1の位相調整領域509、第2の位相調整領域510は、それぞれ第1の結合導波路502、第2の結合導波路504において、光が導波する全領域に配置される例を示したが、それぞれ第1の結合導波路502、第2の結合導波路504において、光が導波する領域の一部で屈折率を変調してもよい。ここで、屈折率を変調する領域が大きいほど波長可変域が大きくなるので、波長可変域の拡大の観点からは、光が導波する全領域で屈折率を変調する方が望ましい。
【0131】
<波長可変レーザの動作>
波長可変レーザ50の動作について説明する。
図13A~
図14Bに、波長可変レーザ50の特性を示す。この特性は、表3に記載のデバイスパラメータを用いて計算された。
【0132】
【0133】
波長可変レーザ50は、発振波長の制御について2つの方法により動作する。
【0134】
初めに、第1の制御方法を、
図13A、Bを参照して説明する。第1の制御方法では、縦モードの共振波長とMRRの共振波長とが常に一致するように、位相調整用の屈折率変調量Δn
eq、phaseとMRR用の屈折率変調量Δn
eq、ringとを一定の比率で同時に掃引する。
【0135】
図13Aに、波長可変レーザ50の特性における発振波長を、Δn
eq、phaseとΔn
eq、ringの2変数関数として表す。発振波長が1558nmに近い領域が白く示され、1544nmに近い領域が黒く示される。図中の点線矢印で示すように、FSRごと周期的に、発振波長を一定に維持して、位相調整用の屈折率変調量Δn
eq、phaseとMRR用の屈折率変調量Δn
eq、ringとを増加させて波長掃引できる。
【0136】
図13Bに、波長可変レーザ60の特性におけるQ
cavΓ
zを、Δn
eq、phaseとΔn
eq、ringの2変数関数として表す。Q
cavΓ
zが極大値に近い領域が白く示され、極小値に近い領域が黒く示される。図中の点線矢印で示すように、FSRごと周期的に、Q
cavΓ
zが常に極大値を維持しながら発振波長が掃引されている。
【0137】
第1の制御方法では、一周期の変調につき縦モードの1FSR当たりの可変域をカバーする必要があり、式(10)を満たす必要がある。
【0138】
【0139】
ここで、LΦ=LΦ、1+LΦ、2である。例えば、max{Δneq、phase}=0.02(およそ、+100Kの昇温に相当)の場合、必要な位相調整長はLΦ~40μmとなる。
【0140】
なお、縦モードの1FSR当たりの可変域を経るごとに、位相調整量をリセットして、隣接する次の縦モードに移る必要があるが、本発明の実施の形態では上述のように共振器全体の短尺化が可能なメンブレン構造を採用しているため、FSRがnmオーダーの大きな値を有し、リセットの頻度を少なく抑えることができる。
【0141】
次に、第2の制御方法を、
図14A、Bを参照して説明する。第2の制御方法では、Δn
eq、ringのみを掃引した際に生じてしまうモードホップ域を埋めるために、縦モードの位相調整量を0とする場合(Δn
eq、phase=0)と、πとする場合[Δn
eq、phase=λ/(4L
Φ)、
図14中のΔn
eq、phase=0.01]との2値で切り替え動作する。
【0142】
図14A、Bに、
図13A、Bと同様に、波長可変レーザ60の特性における発振波長とQ
cavΓ
zを、Δn
eq、phaseとΔn
eq、ringの2変数関数として表す。
図14Aの図中の点線矢印で示すように、FSRごと周期的に、位相調整量を0とする場合(Δn
eq、phase=0)と、πとする場合(Δn
eq、phase=0.01)との2値で切り替えながら、Δn
eq、ringのみを変化させて、波長掃引できる。
【0143】
ここで、
図14Bにおいて、図中の点線矢印で示すように波長を掃引する時には、Q
cavΓ
zの値は変動する。その反面、Δn
eq、phaseとΔn
eq、ringとの同時制御は不要である。
【0144】
また、必要な位相調整量の条件は、式(11)で示すように緩和される。
【0145】
【0146】
第2の制御方法において、MRRの共振波長の可変域全域を隙間なくカバーするには、ホップフリー可変域がモードホップ域よりも広い、という条件を満たす必要がある。
【0147】
本実施の形態では、波長可変レーザ10を基本構造として位相調整を行う例を示したが、波長可変レーザ20、20_2、30、40の構造においても、同様にパッシブ導波路部分を屈折率変調することで位相を調整できる。
【0148】
<効果>
以上のように、本実施の形態に係る波長可変レーザによれば、位相を2π回転(変化)させることにより、縦モードの共振波長とMRRの共振波長とを常に一致させることができる。この制御方法により、メンブレン構造の共振器全体が短尺であるため、縦モードのFSRが大きく、位相2π回転一周期あたりの発振波長変化幅が大きくできる。その結果、位相をリセットする頻度を低減でき、3電極構成を比較的容易に制御できる。
【0149】
また、位相を回転させない状態とπだけ回転させる状態との2値での切り替え動作も可能である。この制御方法により、位相の最大回転量がπで動作できるので、位相を2π回転させる場合と比較して、位相調整に要される消費電力を低く抑えることができる。
【0150】
<第4の実施の形態>
本発明の第4の実施の形態に係る波長可変レーザを
図15~
図17Bを参照して説明する。
【0151】
上述の通り、第3の実施の形態に係る波長可変レーザ50において、縦モードの共振波長とMRRの共振波長とを常に一致させ続けるには、Δneq、phaseとΔneq、ringとを同時に制御する必要がある。また、位相調整量リセットも頻度は少ないが必要である。このように、波長可変レーザ50の制御は煩雑になる。
【0152】
本実施の形態に係る波長可変レーザ60は、発振動作の安定性と制御の容易性とのトレードオフを解消できる。
【0153】
<波長可変レーザの構成>
本実施の形態に係る波長可変レーザ60は、第1の実施の形態に係る波長可変レーザ10と比較して、さらに変調領域と縦モードの位相調整領域を備える。
【0154】
波長可変レーザ60において、
図15に示すように、位相調整領域609と第1の変調領域607とが、第1の結合導波路602に配置される。ここで、第1の変調領域607は、位相調整領域609との境界からMRR603との結合部までの間に配置される。すなわち、第1の変調領域607は、第1の結合導波路602において、光が導波する領域に配置される。位相調整領域609と第1の変調領域607それぞれの長さはL
Φ、1、L
p、1である。
【0155】
また、第2の変調領域608が、第2の結合導波路604において、活性領域605との境界からMRR603との結合部までの間に配置され、その長さはLp、2である。すなわち、第2の変調領域608は、第2の結合導波路604において、光が導波する領域に配置される。
【0156】
このように、第1の変調領域607、第2の変調領域608は、MRR603と結合する。
【0157】
また、MRR603のうち長さLring、Aの部分603aと、第1の変調領域607と、第2の変調領域608とに同一の電極を設けて、略同一の制御信号により屈折率を変調する。これにより、MRR603のうち長さLring、Aの部分603aのみを選択的に屈折率変調し、略同時に、第1の変調領域607と第2の変調領域608も併せて屈折率変調する。
【0158】
また、位相調整領域609に、上述の電極(MMR603aと第1の変調領域607と第2の変調領域608)と別個の電極を設けて、位相調整領域609を独立に屈折率変調して位相を調整する。
【0159】
本実施の形態では、MRR(周回型導波路)において屈折率を変調する部分が、第1および第2の結合導波路との結合部分を含む構成の一例を示したが、MRR(周回型導波路)の屈折率を変調する部分は結合導波路との結合部分を含まなくてもよい。ここで、MRRの屈折率変調部が、結合導波路との結合部分を含む構成の方が、後述するように、容易にMRRと結合導波路に同一の電極を配置できる。
【0160】
また、第1の変調領域607と第2の変調領域608は、それぞれ第1の結合導波路602、第2の結合導波路604において、光が導波する全領域に配置される例を示したが、それぞれ第1の結合導波路602、第2の結合導波路604において、光が導波する領域の一部で屈折率を変調してもよい。
【0161】
本実施の形態では、MRR603と第1の変調領域607と第2の変調領域608それぞれにおいて屈折率を変調する領域がΔλMRR=Δλcavを満たすように設定されればよい。
【0162】
また、本実施の形態では、それぞれの変調領域とMRRの一部に同一の電極を設けなくとも、それぞれの電極を電気配線等により電気的に接続して、略同一の制御信号により屈折率を変調されてもよい。
【0163】
または、それぞれの電極が電気的に接続されていなくとも、略同一の制御信号により屈折率を変調されてもよい。ここで、略同一の制御信号は、電流量変化と時間変化とが略同一でもよく、少なくとも時間変化が略同一であればよい。
【0164】
ここで、屈折率は、注入電流による制御信号だけでなく、温度等による制御信号により変調されてもよい。
【0165】
このように、MRR603のうち長さLring、Aの部分603aと、第1の変調領域607と、第2の変調領域608それぞれの屈折率は略同時に変調されればよい。
【0166】
上述の構成において、式(3)で示していたMRRのフィルタ特性は、式(12)に書き換えられる。
【0167】
【0168】
ここで、Lring、A+Lring、B=Lringである。屈折率変調時に、式(12)におけるβring、Aのみが変化を受けることになる。
【0169】
その結果として、共振波長のシフト量が、式(13)になり、MRR全体を屈折率変調する場合のLring、A/Lring倍に制限される。
【0170】
【0171】
一方で、同じくΔneq、ringを変化させた際の縦モードの共振波長シフト量は、式(14)で与えられる。
【0172】
【0173】
したがって、MRRの屈折率変調領域の割合Lring、A/Lringを適当に調整することで、両者のシフト量が完全に一致する条件であるΔλMRR=Δλcav、すなわち、式(15)が成り立つ。
【0174】
【0175】
このとき、位相調整領域の屈折率変調量Δneq、phaseは固定され、MRR用の電極のみの掃引時にこの完全一致条件が自動的に満たされることに注意を要する。
【0176】
<波長可変レーザの特性>
本実施の形態に係る波長可変レーザ60の特性の一例として、
図16A、Bに、発振波長とQ
cavΓ
zを、Δn
eq、phaseとΔn
eq、ringの2変数関数としてプロットしたものを示す。ここで、図中の点線矢印は、波長掃引を示す。また、
図17A、Bに、発振波長とQ
cavΓ
zを、Δn
eq、phase固定下でのΔn
eq、ringの関数としてプロットしたものを示す。
【0177】
表4に、この特性の計算に用いた各種デバイスパラメータを示す。
【0178】
【0179】
図16A~
図17Bより、波長可変レーザ60では、Δn
eq、phaseの値を固定しながらΔn
eq、ringを掃引することで、Q
cavΓ
zの値が大きく変動することなく、発振波長が完全モードホップフリーで変化する。
【0180】
そのシフト量は式(12)で与えられ、MRR領域の屈折率変調量に対して線形にシフトしていく。Δneq、phaseは任意の値に設定してもよいが、QcavΓzを最大化して発振閾値を極力低減するために、縦モードの共振波長がMRRの共振波長に一致するように設定するのが望ましい。
【0181】
このとき、Δneq、phase=0における縦モードの位相がランダムであるとすると、あらゆるケースにおいてこの一致条件を満たせるようにするには、式(10)を満たして最大2πの位相調整量を確保する必要がある。したがって、波長可変レーザ60の動作方式は以下の通りになる。
【0182】
1.Δneq、phase=Δneq、ring=0における縦モードの共振波長とMRRの共振波長との離調を測定し、その離調を補償して両者を一致させるだけの位相調整Δneq、phase=Δn_(eq、phase、0)を乗じる。
【0183】
2.位相調整量をΔneq、phase=Δneq、ring、0に固定した上で、式(16)に基づいてΔneq、ringの値を設定し、所望の発振波長λlasingを得る。
【0184】
【0185】
ここで、λlasing、0は、Δneq、phase=Δneq、ring、0、Δneq、ring=0における発振波長である。式(14)の完全一致条件が満たされる場合、式(15)で表されるように、発振波長は完全モードホップフリーで線形にチューニング可能となる。このことは、制御の容易性という観点で望ましい。
【0186】
このとき、QcavΓzは、常にMRRの共振ピークに対応した極大値を有し、低発振閾値性、シングルモード性に優れた特性が得られる。
【0187】
<効果>
本実施の形態に係る波長可変レーザ60における3電極構成により、以下の効果が得られる。
【0188】
1.屈折率を変調していない際の縦モードとMRRとの離調を補うだけの位相オフセット調整を一度行えば、それ以降位相調整量はその値で固定してよく、MRR用の単一電極の掃引のみによって発振波長のチューナビリティが得られる。これは3電極構成の制御方法としては非常に容易なものである。
【0189】
2.発振波長は完全モードホップフリーとなり、屈折率変調量に対して線形にチューニングできる。
【0190】
3.縦モードとMRRとは共振波長が常に一致しており、チューニングレンジ全域に渡って低発振閾値性、シングルモード性に優れた特性が得られる。
【0191】
<第5の実施の形態>
本発明の第5の実施の形態に係る波長可変レーザを、
図18~
図20を参照して説明する。
【0192】
第1~第4の実施の形態では、波長可変レーザ(MRR-DBR-TLD)単体の例を示したが、実際の利用形態においては、発振波長が異なる複数個のMRR-DBR-TLDをアレイ化することで、WDM伝送用の送信機として利用でき、広帯域の波長範囲を連続的にカバーする波長可変光源として利用できる。
【0193】
ここで、各MRR-DBR-TLDがカバーする波長範囲を系統的に変化させるには、式(17)に基づいて各々のMRRの半径を設定すればよい。
【0194】
【0195】
ここで、λMRR、iはi番目のMRR-DBR-TLDにおけるMRRの共振波長、mは所望の共振波長に対応する適当な共振モード次数、riはi番目のMRR-DBR-TLDにおけるMRRの半径である。
【0196】
式(17)より、例えば等間隔な波長グリッドで各MRR-DBR-TLDの発振波長を配置する場合、各々のMRRの半径を等間隔に設定すればよい。
【0197】
第1の実施の形態および第2の実施に係る波長可変レーザ(
図1、
図8)のように、位相調整を伴わないタイプの共振器構造を用いる場合、モードホップ域の存在が問題となる場合が考えられる。すなわち、各波長可変レーザにおける波長域内において、モードホップ域に対応する波長域が局所的なギャップとして存在するので、対象の全波長域を隙間なく連続的にカバーすることが不可能となってしまう場合である。
【0198】
本実施の形態に係る波長可変レーザ70は、上述のモードホップ域に関する課題を解決し、対象の全波長域を隙間なく連続的にカバーできる。
【0199】
<波長可変レーザの構成>
波長可変レーザ70は、
図18に示すように、2台のMRR-DBR-TLD71、72を備える。MRR-DBR-TLD71、72は、第1の実施の形態に係る波長可変レーザ10と略同様の構成を有するが、第1の導波路の長さが異なる。MRR-DBR-TLD72の第1の導波路の長さが、MRR-DBR-TLD71の第1の導波路の長さより、δL
p=λ
i/(4n
eq、p)長い。MRR-DBR-TLD71、72における第1の導波路の構造パラメータは全て同一である。
【0200】
この長さの差分δLpは、縦モードの位相に換算するとπの位相差に相当する。そこで、短いTLDを「TLD(λi、0)」、長いTLDを「TLD(λi、π)」とする。
【0201】
このとき、両者は縦モードの位相がπだけ異なるため、
図19に示すように、波長特性において、ホップフリー波長域およびモードホップ域が交互に配置される。
【0202】
図19では、λ
1からλ
Nまでのそれぞれ波長域で、TLD(λ
i、0)とTLD(λ
i、π)それぞれホップフリー波長域(図中、両矢印)が交互に示される。
【0203】
このように、各々の波長域において縦モード位相がπだけ異なる2つのTLDを具備することにより、位相調整用の電極を用いることなく、λ1からλNまでの全波長域を隙間なく連続的にカバーすることが可能となる。
【0204】
上述の構成では、2台のMRR-DBR-TLDを用いたが、複数のMRR-DBR-TLDを用いれば、さらなる広域での波長可変が可能になる。
図20に、複数(N個)のMRR-DBR-TLDをWDMのMUX回路に接続する波長可変レーザの構成例を示す。
【0205】
この構成の波長可変レーザによれば、この全波長域内における任意の波長の光を出力することが可能な広帯域連続波長可変光源として動作させることができる。
【0206】
本実施の形態では、第1の実施の形態に係る波長可変レーザに基づく構成を各MRR-DBR-TLDに用いる例を示したが、他の実施の形態に係る波長可変レーザに基づく構成を各MRR-DBR-TLDに用いてもよい。
【0207】
<効果>
本実施の形態に係る波長可変レーザ70によれば、以下の効果が得られる。
【0208】
1.2つのMRR-DBR-TLDを備えることにより、位相調整を行うことなくモードホップ域をカバーすることができ、制御の容易性と発振波長の連続可変性を両立することができる。
【0209】
2.複数のMRR-DBR-TLDを備えるWDM構成により、例えばC帯全域などの非常に広い波長域を連続的にカバーすることができる。このとき、各MRR-DBR-TLDにおける位相調整が不要となるので、制御容易性、低消費電力性に優れた広帯域WDM光源を実現できる。
【0210】
本発明の実施の形態では、MRRと結合する2本の導波路が平行である例を示したが、これに限らず、MRRと結合する2本の導波路が平行でなくともよい。
【0211】
本発明の実施の形態では、波長可変レーザの構成、製造方法などにおいて、各構成部の構造、寸法、材料等の一例を示したが、これに限らない。波長可変レーザの機能を発揮し効果を奏するものであればよい。
【産業上の利用可能性】
【0212】
本発明は、波長分割多重方式の光伝送システムおよびそのシステムに用いる光素子に適用することができる。
【符号の説明】
【0213】
10 波長可変レーザ
101 第1の反射領域(第1のDBR)
102 第1の結合導波路
103 周回型導波路(MRR)
104 第2の結合導波路
105 活性領域
106 第2の反射領域(第2のDBR)