(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】バンパーフェイシア及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B60R 19/04 20060101AFI20241112BHJP
【FI】
B60R19/04 B
(21)【出願番号】P 2022579307
(86)(22)【出願日】2021-02-08
(86)【国際出願番号】 JP2021004654
(87)【国際公開番号】W WO2022168324
(87)【国際公開日】2022-08-11
【審査請求日】2023-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【氏名又は名称】河原 肇
(74)【代理人】
【識別番号】100165995
【氏名又は名称】加藤 寿人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 正広
(72)【発明者】
【氏名】大谷 和男
(72)【発明者】
【氏名】高橋 信行
【審査官】林 政道
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-254718(JP,A)
【文献】実開昭62-153160(JP,U)
【文献】国際公開第2020/256038(WO,A1)
【文献】特開2020-199899(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂材を有する第1樹脂部材と、
熱可塑性樹脂材を有する第2樹脂部材と、
前記第1樹脂部材の前記熱可塑性樹脂材及び前記第2樹脂部材の前記熱可塑性樹脂材の少なくとも1つに積層された1層又は複数層のプライマー層と
を備えるバンパーフェイシアであって、
前記第1樹脂部材が補強リブ及び/又はブラケットであり、
前記第2樹脂部材がバンパーフェイシア本体であり、
前記第1樹脂部材と前記第2樹脂部材とが前記プライマー層を介して溶着されており、
前記プライマー層の少なくとも1層が、現場重合型組成物を前記熱可塑性樹脂材の上で重合させて形成された現場重合型組成物層である、バンパーフェイシア。
【請求項2】
前記現場重合型組成物層が、前記熱可塑性樹脂材に直接に接する層である、請求項1に記載のバンパーフェイシア。
【請求項3】
前記現場重合型組成物が、下記(1)~(7)の少なくとも一種を含有する、請求項1又は2のいずれかに記載のバンパーフェイシア。
(1)2官能イソシアネート化合物とジオールの組み合わせ
(2)2官能イソシアネート化合物と2官能アミノ化合物の組み合わせ
(3)2官能イソシアネート化合物と2官能チオール化合物の組み合わせ
(4)2官能エポキシ化合物とジオールの組み合わせ
(5)2官能エポキシ化合物と2官能カルボキシ化合物の組み合わせ
(6)2官能エポキシ化合物と2官能チオール化合物の組み合わせ
(7)単官能ラジカル重合性モノマー
【請求項4】
前記現場重合型組成物が、下記(1)~(7)の少なくとも一種を含有する組成物と、無水マレイン酸変性ポリプロピレン又は変性ポリフェニレンエーテルと、を含む組成物である、請求項1又は2のいずれかに記載のバンパーフェイシア。
(1)2官能イソシアネート化合物とジオールの組み合わせ
(2)2官能イソシアネート化合物と2官能アミノ化合物の組み合わせ
(3)2官能イソシアネート化合物と2官能チオール化合物の組み合わせ
(4)2官能エポキシ化合物とジオールの組み合わせ
(5)2官能エポキシ化合物と2官能カルボキシ化合物の組み合わせ
(6)2官能エポキシ化合物と2官能チオール化合物の組み合わせ
(7)単官能ラジカル重合性モノマー
【請求項5】
前記現場重合型組成物が、下記(1)~(7)の少なくとも一種を含有する組成物と、前記熱可塑性樹脂材を構成する熱可塑性樹脂とは異種の熱可塑性樹脂と、を含む組成物である、請求項1又は2のいずれかに記載のバンパーフェイシア。
(1)2官能イソシアネート化合物とジオールの組み合わせ
(2)2官能イソシアネート化合物と2官能アミノ化合物の組み合わせ
(3)2官能イソシアネート化合物と2官能チオール化合物の組み合わせ
(4)2官能エポキシ化合物とジオールの組み合わせ
(5)2官能エポキシ化合物と2官能カルボキシ化合物の組み合わせ
(6)2官能エポキシ化合物と2官能チオール化合物の組み合わせ
(7)単官能ラジカル重合性モノマー
【請求項6】
前記現場重合型組成物が、下記(1)~(7)の少なくとも一種を含有する組成物と、無水マレイン酸変性ポリプロピレン又は変性ポリフェニレンエーテルと、前記熱可塑性樹脂材を構成する熱可塑性樹脂とは異種の熱可塑性樹脂と、を含む組成物である、請求項1又は2のいずれかに記載のバンパーフェイシア。
(1)2官能イソシアネート化合物とジオールの組み合わせ
(2)2官能イソシアネート化合物と2官能アミノ化合物の組み合わせ
(3)2官能イソシアネート化合物と2官能チオール化合物の組み合わせ
(4)2官能エポキシ化合物とジオールの組み合わせ
(5)2官能エポキシ化合物と2官能カルボキシ化合物の組み合わせ
(6)2官能エポキシ化合物と2官能チオール化合物の組み合わせ
(7)単官能ラジカル重合性モノマー
【請求項7】
前記現場重合型組成物が、前記(4)を含有し、かつ、前記(4)のジオールが2官能フェノール化合物である、請求項3~6のいずれか1項に記載のバンパーフェイシア。
【請求項8】
前記プライマー層が、前記現場重合型組成物層と前記熱可塑性樹脂材との間に硬化性樹脂を含む組成物から形成された硬化性樹脂層を有する、請求項1、3~7のいずれか1項に記載のバンパーフェイシア。
【請求項9】
前記硬化性樹脂が、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、及び不飽和ポリエステル樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項8に記載のバンパーフェイシア。
【請求項10】
前記第1樹脂部材及び前記第2樹脂部材の両方
に前記プライマー層
が積層されており、前記第1樹脂部材
に積層された前記プライマー層と前記第2樹脂部材
に積層された前記プライマー層とが溶着されている、請求項1~9のいずれか1項に記載のバンパーフェイシア。
【請求項11】
前記第2樹脂部材の前記熱可塑性樹脂材を構成する熱可塑性樹脂を構成する単量体において、最大含有量を占める単量体と、前記第1樹脂部材の前記熱可塑性樹脂材を構成する熱可塑性樹脂を構成する単量体において、最大含有量を占める単量体とが同一であり、該単量体の含有量がいずれも70質量%以上である、請求項1~10のいずれか1項に記載のバンパーフェイシア。
【請求項12】
前記第1樹脂部材の高さと厚さのアスペクト比(高さ/厚さ)が5以上であり、前記第2樹脂部材の厚さに対する前記第1樹脂部材の高さの比が5以上である、請求項1~11のいずれか1項に記載のバンパーフェイシア。
【請求項13】
前記第1樹脂部材又は前記第2樹脂部材の前記熱可塑性樹脂材が、ポリプロピレンと、タルク、ガラス繊維、及び炭素繊維からなる群より選ばれる少なくとも1種の補強材とを含み、前記第1樹脂部材又は前記第2樹脂部材が引張強度40MPa以上及びヤング率3GPa以上の特性を有する、請求項1~12のいずれか1項に記載のバンパーフェイシア。
【請求項14】
前記第1樹脂部材又は前記第2樹脂部材の前記熱可塑性樹脂材が、ポリエーテルイミドと、タルク、ガラス繊維、及び炭素繊維からなる群より選ばれる少なくとも1種の補強材とを含み、前記第1樹脂部材又は前記第2樹脂部材が引張強度90MPa以上及びヤング率3GPa以上の特性を有する、請求項1~12のいずれか1項に記載のバンパーフェイシア。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか1項に記載のバンパーフェイシアの製造方法であって、前記プライマー層を加熱し、加熱された前記プライマー層が前記第1樹脂部材と前記第2樹脂部材の間に介在するように前記第1樹脂部材と前記第2樹脂部材を圧着することにより、前記第1樹脂部材と前記第2樹脂部材を溶着することを含む、バンパーフェイシアの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、自動車の車体前後部に設けられるバンパーフェイシア及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、製品の軽量化及び低コスト化等の観点より、自動車部品を樹脂化して樹脂成形品とすることが頻繁に行われている。車体の前後部に必ず取り付けられるバンパーについても例外ではなく、樹脂化による軽量化が行われている。
【0003】
特許文献1(特開2012-166634号公報)は、車両用バンパー及びその成形方法を開示している。この車両用バンパーでは、射出成形の際に複数のゲートが集中するバンパーセンターの板厚を小さく設定する一方、前記バンパーサイドの板厚を大きく設定して異なる板厚分布とすることで、バンパーの全体的な軽量化と、ウエルドラインの発生による外見低下の回避との両立を図ることができる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のバンパーフェイシアのように、バンパーセンターの板厚を小さくした場合には、本来バンパーに要求される剛性を実現できないおそれがある。また、近年ではバンパーについて軽量化のみならず良好な外観を実現することも要請されている。しかし、極端に板厚の小さい部分が存在する場合には、剛性を高める目的でバンパーフェイシアの内側に補強リブなどを射出成形などにより一体成形すると、射出成形された樹脂が冷却時に収縮することにより生じる内部応力により、バンパーフェイシアの外装面にヒケと呼ばれる外観不良を生ずるおそれもある。
【0006】
さらに、別体で成形した補強リブをバンパーフェイシアの内側に接着剤を用いて接着する方法では、樹脂面のフレーム処理、プラズマ処理などの下地処理、プライマー塗工、接着剤塗布、接着剤硬化などの複数の工程を複雑な形状を有する接着面に対して実施する必要があり、コストの点で不利であった。
【0007】
本開示は、軽量化を図った場合であっても所望の剛性を実現するととともに、良好な外観を実現し得るバンパーフェイシア、及びそのようなバンパーフェイシアを安価に製造することのできる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は以下の態様を包含する。
【0009】
〔1〕 熱可塑性樹脂材を有する第1樹脂部材と、
熱可塑性樹脂材を有する第2樹脂部材と、
前記第1樹脂部材の前記熱可塑性樹脂材及び前記第2樹脂部材の前記熱可塑性樹脂材の少なくとも1つに積層された1層又は複数層のプライマー層と
を備えるバンパーフェイシアであって、
前記第1樹脂部材が補強リブ及び/又はブラケットであり、
前記第2樹脂部材がバンパーフェイシア本体であり、
前記第1樹脂部材と前記第2樹脂部材とが前記プライマー層を介して溶着されており、
前記プライマー層の少なくとも1層が、現場重合型組成物を前記熱可塑性樹脂材の上で重合させて形成された現場重合型組成物層である、バンパーフェイシア。
〔2〕 前記現場重合型組成物層が、前記熱可塑性樹脂材に直接に接する層である、〔1〕に記載のバンパーフェイシア。
〔3〕 前記現場重合型組成物が、下記(1)~(7)の少なくとも一種を含有する、〔1〕又は〔2〕のいずれかに記載のバンパーフェイシア。
(1)2官能イソシアネート化合物とジオールの組み合わせ
(2)2官能イソシアネート化合物と2官能アミノ化合物の組み合わせ
(3)2官能イソシアネート化合物と2官能チオール化合物の組み合わせ
(4)2官能エポキシ化合物とジオールの組み合わせ
(5)2官能エポキシ化合物と2官能カルボキシ化合物の組み合わせ
(6)2官能エポキシ化合物と2官能チオール化合物の組み合わせ
(7)単官能ラジカル重合性モノマー
〔4〕 前記現場重合型組成物が、下記(1)~(7)の少なくとも一種を含有する組成物と、無水マレイン酸変性ポリプロピレン又は変性ポリフェニレンエーテルと、を含む組成物である、〔1〕又は〔2〕のいずれかに記載のバンパーフェイシア。
(1)2官能イソシアネート化合物とジオールの組み合わせ
(2)2官能イソシアネート化合物と2官能アミノ化合物の組み合わせ
(3)2官能イソシアネート化合物と2官能チオール化合物の組み合わせ
(4)2官能エポキシ化合物とジオールの組み合わせ
(5)2官能エポキシ化合物と2官能カルボキシ化合物の組み合わせ
(6)2官能エポキシ化合物と2官能チオール化合物の組み合わせ
(7)単官能ラジカル重合性モノマー
〔5〕 前記現場重合型組成物が、下記(1)~(7)の少なくとも一種を含有する組成物と、前記熱可塑性樹脂材を構成する熱可塑性樹脂とは異種の熱可塑性樹脂と、を含む組成物である、〔1〕又は〔2〕のいずれかに記載のバンパーフェイシア。
(1)2官能イソシアネート化合物とジオールの組み合わせ
(2)2官能イソシアネート化合物と2官能アミノ化合物の組み合わせ
(3)2官能イソシアネート化合物と2官能チオール化合物の組み合わせ
(4)2官能エポキシ化合物とジオールの組み合わせ
(5)2官能エポキシ化合物と2官能カルボキシ化合物の組み合わせ
(6)2官能エポキシ化合物と2官能チオール化合物の組み合わせ
(7)単官能ラジカル重合性モノマー
〔6〕 前記現場重合型組成物が、下記(1)~(7)の少なくとも一種を含有する組成物と、無水マレイン酸変性ポリプロピレン又は変性ポリフェニレンエーテルと、前記熱可塑性樹脂材を構成する熱可塑性樹脂とは異種の熱可塑性樹脂と、を含む組成物である、〔1〕又は〔2〕のいずれかに記載のバンパーフェイシア。
(1)2官能イソシアネート化合物とジオールの組み合わせ
(2)2官能イソシアネート化合物と2官能アミノ化合物の組み合わせ
(3)2官能イソシアネート化合物と2官能チオール化合物の組み合わせ
(4)2官能エポキシ化合物とジオールの組み合わせ
(5)2官能エポキシ化合物と2官能カルボキシ化合物の組み合わせ
(6)2官能エポキシ化合物と2官能チオール化合物の組み合わせ
(7)単官能ラジカル重合性モノマー
〔7〕 前記現場重合型組成物が、前記(4)を含有し、かつ、前記(4)のジオールが2官能フェノール化合物である、〔3〕~〔6〕のいずれかに記載のバンパーフェイシア。
〔8〕 前記プライマー層が、前記現場重合型組成物層と前記熱可塑性樹脂材との間に硬化性樹脂を含む組成物から形成された硬化性樹脂層を有する、〔1〕、〔3〕~〔7〕のいずれかに記載のバンパーフェイシア。
〔9〕 前記硬化性樹脂が、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、及び不飽和ポリエステル樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種である、〔8〕に記載のバンパーフェイシア。
〔10〕 前記第1樹脂部材及び前記第2樹脂部材の両方に前記プライマー層が積層されており、前記第1樹脂部材に積層された前記プライマー層と前記第2樹脂部材に積層された前記プライマー層とが溶着されている、〔1〕~〔9〕のいずれかに記載のバンパーフェイシア。
〔11〕 前記第2樹脂部材の前記熱可塑性樹脂材を構成する熱可塑性樹脂を構成する単量体において、最大含有量を占める単量体と、前記第1樹脂部材の前記熱可塑性樹脂材を構成する熱可塑性樹脂を構成する単量体において、最大含有量を占める単量体とが同一であり、該単量体の含有量がいずれも70質量%以上である、〔1〕~〔10〕のいずれかに記載のバンパーフェイシア。
〔12〕 前記第1樹脂部材の高さと厚さのアスペクト比(高さ/厚さ)が5以上であり、前記第2樹脂部材の厚さに対する前記第1樹脂部材の高さの比が5以上である、〔1〕~〔11〕のいずれかに記載のバンパーフェイシア。
〔13〕 前記第1樹脂部材又は前記第2樹脂部材の前記熱可塑性樹脂材が、ポリプロピレンと、タルク、ガラス繊維、及び炭素繊維からなる群より選ばれる少なくとも1種の補強材とを含み、前記第1樹脂部材又は前記第2樹脂部材が引張強度40MPa以上及びヤング率3GPa以上の特性を有する、〔1〕~〔12〕のいずれかに記載のバンパーフェイシア。
〔14〕 前記第1樹脂部材又は前記第2樹脂部材の前記熱可塑性樹脂材が、ポリエーテルイミドと、タルク、ガラス繊維、及び炭素繊維からなる群より選ばれる少なくとも1種の補強材とを含み、前記第1樹脂部材又は前記第2樹脂部材が引張強度90MPa以上及びヤング率3GPa以上の特性を有する、〔1〕~〔12〕のいずれかに記載のバンパーフェイシア。
〔15〕 〔1〕~〔14〕のいずれかに記載のバンパーフェイシアの製造方法であって、前記プライマー層を加熱し、加熱された前記プライマー層が前記第1樹脂部材と前記第2樹脂部材の間に介在するように前記第1樹脂部材と前記第2樹脂部材を圧着することにより、前記第1樹脂部材と前記第2樹脂部材を溶着することを含む、バンパーフェイシアの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、軽量化を図った場合であっても所望の剛性を実現するととともに、良好な外観を実現し得るバンパーフェイシアを提供することができ、そのようなバンパーフェイシアを安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、車両におけるバンパーフェイシア(点線部分であって、フロントバンパーに限る)の位置を示す車両正面図である。
【
図2】
図2は、バンパーフェイシアの各構成要素を示す概略図である。
【
図3】
図3は、バンパーフェイシア本体に他の構成要素を接合した状態を示すバンパーフェイシアの概略図である。
【
図4】
図4は、一実施形態の第1樹脂部材において、熱可塑性樹脂材に1層のプライマー層が積層された状態を示す概略断面図である。
【
図5】
図5は、他の実施形態の第1樹脂部材において、熱可塑性樹脂材に複数層のプライマー層が積層された状態を示す概略断面図である。
【
図6】
図6は、第1樹脂部材と第2樹脂部材とが溶着された状態の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本開示の実施形態について図面を参照して以下に説明する。
【0013】
本開示において、接合とは、物と物を繋ぎ合わせることを意味し、接着及び溶着はその下位概念である。接着とは、テープ、接着剤などの有機材料(硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等)を介して、2つの被着材(接着しようとするもの)を接合状態とすることを意味する。溶着とは、被着材である熱可塑性樹脂等の表面を熱によって溶融し、接触加圧と冷却により分子拡散による絡み合いと結晶化で接合状態とすることを意味する。
【0014】
本開示において、「(メタ)アクリル」とは、アクリル又はメタクリルを意味し、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート又はメタクリレートを意味する。
【0015】
[バンパーフェイシア]
図1は、車両におけるバンパーフェイシア10(点線部分であって、フロントバンパーに限る)の位置を示す車両正面図である。バンパーフェイシアとは、バンパーを構成する部品のうち、車体の最も外側に位置する部品であって、車両外観として視認できる部品(アウターパネル)である。
【0016】
図2は、バンパーフェイシア10の各構成要素を示す概略図であり、
図3は、バンパーフェイシア本体12に他の構成要素を接合した状態を示すバンパーフェイシアの概略図である。なお、これらのいずれの図においても、バンパーフェイシア本体12は車体内側の面を示している。これらの図に示すように、バンパーフェイシア10は、バンパーフェイシア本体12と、バンパーフェイシア本体12の薄肉中央部分を補強するための補強リブ14と、バンパーフェイシア本体12の両外側部分に接合され、車両前方にある障害物を検知するためのセンサー等を収容するブラケット16と、を含む。
【0017】
補強リブ14については、その重量が過度に大きくなければよく、例えば
図2、3に示すようにバンパーフェイシア本体12の長手方向に沿って延びる幹部14aと、幹部14aの両側に延びて幹部14aの長手方向において互いに等間隔で存在する複数の枝部14bとを含む。補強リブ14の存在により、バンパーフェイシア本体12の中央部分が薄肉化されていても、バンパーフェイシア10としての所望の剛性を実現することができる。
【0018】
以下では、補強リブ14及び/又はブラケット16を「第1樹脂部材1」とも記載し、バンパーフェイシア本体12を「第2樹脂部材4」とも記載する。
【0019】
[第1樹脂部材1]
一実施形態の第1樹脂部材1は、
図4に示すように、熱可塑性樹脂材2と、前記熱可塑性樹脂材に積層された1層又は複数層のプライマー層3とを有する積層体である。
図4において、前記プライマー層3の少なくとも1層は、現場重合型組成物を熱可塑性樹脂材2の上で重合させて形成された現場重合型組成物層3aである。
【0020】
本開示において、現場重合型組成物とは、特定の2官能の化合物の組み合わせを、現場、すなわち各種の材料上で、触媒存在下で重付加反応することにより、あるいは、特定の単官能のモノマーのラジカル重合反応により、熱可塑構造、すなわち、リニアポリマー構造を形成する組成物を意味する。現場重合型組成物は、重合すると架橋構造による3次元ネットワークを構成する硬化性樹脂とは異なり、架橋構造による3次元ネットワークを構成せず、熱可塑性を有する。
【0021】
前記現場重合型組成物層3aは、現場重合型フェノキシ樹脂を含む組成物から形成される層であることが好ましい。現場重合型フェノキシ樹脂とは、熱可塑性エポキシ樹脂、現場硬化型フェノキシ樹脂、現場硬化型エポキシ樹脂等とも呼ばれる樹脂であり、2官能エポキシ樹脂と2官能フェノール化合物とが触媒存在下で重付加反応することにより、熱可塑構造、すなわち、リニアポリマー構造を形成する。
【0022】
本開示において、プライマー層3とは、後述する
図6に示すように、第1樹脂部材1の熱可塑性樹脂材2と、もう一方の接合対象物である、熱可塑性樹脂材を有する第2樹脂部材4とを接合一体化してバンパーフェイシア10(樹脂-樹脂接合体)を得る際に、第1樹脂部材1の熱可塑性樹脂材2と第2樹脂部材4の熱可塑性樹脂材との間に介在し、第1樹脂部材1の熱可塑性樹脂材2と第2樹脂部材4の熱可塑性樹脂材との接合強度を向上させる層を意味する。
【0023】
本開示によれば、第2樹脂部材4が、熱可塑性樹脂材2を構成する熱可塑性樹脂と同種の熱可塑性樹脂からなる熱可塑性樹脂材を有する場合に、第1樹脂部材1と第2樹脂部材4とを強固に溶着することができる。第2樹脂部材4が、熱可塑性樹脂材2を構成する熱可塑性樹脂とは異種の熱可塑性樹脂からなる熱可塑性樹脂材を有する場合、一般に、第1樹脂部材1の熱可塑性樹脂材2と第2樹脂部材4の熱可塑性樹脂材のSP値は離れていることが多いが、本開示によれば、そのような異種の熱可塑性樹脂材を強固に溶着することもできる。
【0024】
本開示において、「同種の熱可塑性樹脂」とは、熱可塑性樹脂を構成する単量体において、最大含有量を占める単量体が同一であり、該単量体の含有量がいずれも70質量%以上である熱可塑性樹脂を意味する。「異種の熱可塑性樹脂」とは、「同種の熱可塑性樹脂」以外の熱可塑性樹脂を意味し、具体的には、共通する単量体が存在しない熱可塑性樹脂、熱可塑性樹脂を構成する単量体において、最大含有量を占める単量体が異なる熱可塑性樹脂、又は最大含有量を占める単量体が同一であり、かつ少なくとも一方の最大含有量を占める単量体の含有量が70質量%未満である熱可塑性樹脂を意味する。
【0025】
<熱可塑性樹脂材2>
熱可塑性樹脂材2を構成する熱可塑性樹脂は特に限定されるものではない。
【0026】
熱可塑性樹脂として、例えば、ポリプロピレン(PP、SP値:8.0(J/cm3)1/2)、ポリアミド6(PA6、SP値:12.7~13.6(J/cm3)1/2)、ポリアミド66(PA66、SP値:13.6(J/cm3)1/2)、ポリイミド(PI)、変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)、ポリフェニレンスルファイド(PPS、SP値:19.8(J/cm3)1/2)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリカーボネート(PC、SP値:9.7(J/cm3)1/2)、ポリブチレンテレフタレート(PBT、SP値:20.5(J/cm3)1/2)等が挙げられる。
【0027】
本開示において、溶解パラメータ(SP値)とは、ヒルデブランドによって導入された正則溶液論により定義された、材料間の相互作用の程度の数値予測を提供する値(δ)である。
【0028】
SP値の算出法は種々提案されているが、例えば、Fedors(Polym.Eng.Sci.1974年、14巻、p.147)によって提案された手法に従い、下記式(1)を用いて求めることができる。
δ=(ΣEcoh/ΣV)1/2 ・・・(1)
ここで、δは溶解パラメータ(J0.5/cm1.5)、Ecohは凝集エネルギー密度(J/mol)、Vはモル分子容(cm3/mol)を表し、Σは原子団ごとに与えられているこれらの数値を、モノマーを構成する原子団すべてについて和を取る意味である。原子団ごとのEcoh及びVの数値は、例えば“Properties of Polymers, Third completely revised edition”のTable7.3等に挙げられている。
【0029】
熱可塑性樹脂材2は、フィラー及び繊維からなる群より選ばれる少なくとも1種を更に含んでもよい。例えば、熱可塑性樹脂材2は、上記熱可塑性樹脂と、タルク、ガラス繊維、及び炭素繊維からなる群より選ばれる少なくとも1種の補強材とを含む高剛性タイプであってもよい。熱可塑性樹脂がポリプロピレンである実施形態において、タルク含有ポリプロピレンとしては、例えば、サンアロマー株式会社製商品名TRC104Nが挙げられ、ガラス繊維含有ポリプロピレンとしては、例えば、ダイセルミライズ株式会社製商品名PP-GF40-01 F02が挙げられ、炭素繊維含有ポリプロピレンとしては、例えば、ダイセルミライズ株式会社製商品名PP-CF40-11 F008が挙げられる。
【0030】
ガラス繊維含有熱可塑性樹脂材は、ガラス繊維強化樹脂(GFRP)の一種であり、炭素繊維含有熱可塑性樹脂材は、炭素繊維強化樹脂(CFRP)の一種である。ガラス繊維、炭素繊維などの補強繊維を含む熱可塑性樹脂材は、シートモールディングコンパウンド(SMC)、バルクモールディングコンパウンド(BMC)などの成形体の形態であってもよい。SMCとは、熱可塑性樹脂、低収縮剤、充填剤などを混合した樹脂組成物を、ガラス繊維、炭素繊維などの補強繊維に含浸させることによって得られるシート状成形体である。
【0031】
<プライマー層3>
プライマー層3は、熱可塑性樹脂材2の上に積層される。
【0032】
〔現場重合型組成物層3a〕
プライマー層3の少なくとも1層は、現場重合型組成物を熱可塑性樹脂材2の上で重合させることにより形成される現場重合型組成物層3aである。
【0033】
現場重合型組成物層3aは、溶剤に溶解した現場重合型組成物を熱可塑性樹脂材2の表面に塗布し、溶剤の浸透により膨潤した熱可塑性樹脂材2の表層に現場重合型組成物を浸透させ、溶剤を揮発させ、現場重合型組成物を重合させて得ることができる。現場重合型組成物層3aは、現場重合型組成物を含むエマルジョン又は現場重合型組成物を含む粉体塗料を熱可塑性樹脂材2の上に塗布し、熱可塑性樹脂材2の上で現場重合型組成物を重合させて得ることもできる。現場重合型組成物層3aは、溶剤に溶解した現場重合型組成物を離型フィルム上に乾燥後の厚さが1~100μmのフィルム状になるように塗布し、室温~40℃の環境下で放置し溶剤を揮発させながら反応をわずかに進めBステージ化し、得られたフィルムの離型フィルムとは反対側の面を熱可塑性樹脂材2の上に配置し、Bステージ化したフィルムから離型フィルムを剥がした後、40~150℃で1~30分間加熱反応を行い、Bステージ化したフィルムを重合させて得ることもできる。
【0034】
粉体塗料については、Bステージ化したフィルムを粉砕したものを熱可塑性樹脂材2の上に厚さが1~100μmとなるように積層することにより、そのまま粉体塗料状プライマーとして使用することができる。エマルジョンについては、粉体塗料状プライマーを、乳化剤を用いて後乳化し、それを熱可塑性樹脂材2の上に厚さが1~100μmとなるように塗布すればエマルジョン化(水系化)プライマーとして使用することができる。
【0035】
現場重合型組成物層3aは現場重合型組成物を重合させることにより生成する現場重合型樹脂を50~100質量%含むことが好ましく、70~100質量%含むことがより好ましい。
【0036】
前記現場重合型組成物は、下記(1)~(7)の少なくとも一種を含有することが好ましく、下記(4)を含有することがより好ましく、2官能エポキシ樹脂と2官能フェノール化合物の組み合わせを含有することが更に好ましい。
(1)2官能イソシアネート化合物とジオールの組み合わせ
(2)2官能イソシアネート化合物と2官能アミノ化合物の組み合わせ
(3)2官能イソシアネート化合物と2官能チオール化合物の組み合わせ
(4)2官能エポキシ化合物とジオールの組み合わせ
(5)2官能エポキシ化合物と2官能カルボキシ化合物の組み合わせ
(6)2官能エポキシ化合物と2官能チオール化合物の組み合わせ
(7)単官能ラジカル重合性モノマー
【0037】
(1)における2官能イソシアネート化合物とジオールとの配合量比は、水酸基に対するイソシアネート基のモル当量比が、0.7~1.5となるように設定されることが好ましく、より好ましくは0.8~1.4、更に好ましくは0.9~1.3とする。
【0038】
(2)における2官能イソシアネート化合物と2官能アミノ化合物との配合量比は、アミノ基に対するイソシアネート基のモル当量比が、0.7~1.5となるように設定されることが好ましく、より好ましくは0.8~1.4、更に好ましくは0.9~1.3とする。
【0039】
(3)における2官能イソシアネート化合物と2官能チオール化合物との配合量比は、チオール基に対するイソシアネート基のモル当量比が、0.7~1.5となるように設定されることが好ましく、より好ましくは0.8~1.4、更に好ましくは0.9~1.3とする。
【0040】
(4)における2官能エポキシ化合物とジオールとの配合量比は、水酸基に対するエポキシ基のモル当量比が、0.7~1.5となるように設定されることが好ましく、より好ましくは0.8~1.4、更に好ましくは0.9~1.3とする。
【0041】
(5)における2官能エポキシ化合物と2官能カルボキシ化合物との配合量比は、カルボキシ基に対するエポキシ基のモル当量比が、0.7~1.5となるように設定されることが好ましく、より好ましくは0.8~1.4、更に好ましくは0.9~1.3とする。
【0042】
(6)における2官能エポキシ化合物と2官能チオール化合物との配合量比は、チオール基に対するエポキシ基のモル当量比が、0.7~1.5となるように設定されることが好ましく、より好ましくは0.8~1.4、更に好ましくは0.9~1.3とする。
【0043】
前記現場重合型組成物として、例えば、下記現場重合型組成物(A)~(D)を例示することができる。
現場重合型組成物(A):前記(1)~(7)の少なくとも一種を含有する組成物。
現場重合型組成物(B):前記(1)~(7)の少なくとも一種を含有する組成物と、無水マレイン酸変性ポリプロピレン又は変性ポリフェニレンエーテルと、を含む組成物。
現場重合型組成物(C):前記(1)~(7)の少なくとも一種を含有する組成物と、熱可塑性樹脂材2を構成する熱可塑性樹脂とは異種の熱可塑性樹脂と、を含む組成物。
現場重合型組成物(D):前記(1)~(7)の少なくとも一種を含有する組成物と、無水マレイン酸変性ポリプロピレン又は変性ポリフェニレンエーテルと、熱可塑性樹脂材2を構成する熱可塑性樹脂とは異種の熱可塑性樹脂と、を含む組成物。
【0044】
熱可塑性樹脂材2上に、プライマー層3として現場重合型組成物層3aが積層されていることにより、熱可塑性樹脂材2と、同種の熱可塑性樹脂材又は異種の熱可塑性樹脂材とを強固に溶着することができる。特に、現場重合型組成物層3aは、熱可塑性樹脂材2に直接に接する層であることが好ましい。
【0045】
前記現場重合型組成物としては、熱可塑性樹脂材2を構成する熱可塑性樹脂と同種又は類似の熱可塑性樹脂を含む組成物を選択することが好ましい。例えば、熱可塑性樹脂材2がポリオレフィンの場合、無水マレイン酸変性ポリオレフィンを含む現場重合型組成物を用いることにより、より強固な溶着が可能となる。熱可塑性樹脂材2が変性ポリフェニレンエーテルの場合、変性ポリフェニレンエーテルを含む現場重合型組成物を用いることにより、より強固な溶着が可能となる。
【0046】
プライマー層3を、現場重合型組成物層3aを含む複数層で構成することもできる。プライマー層3が複数層からなる場合、必須となる現場重合型組成物層3aが、熱可塑性樹脂材2と反対側の最表面となるように積層することが好ましい。この場合、現場重合型組成物は、熱可塑性樹脂材2の表面ではなく、現場重合型組成物層3aの直下となる層の表面上で重合されることになる。
【0047】
(現場重合型組成物層A)
現場重合型組成物層Aは、前記現場重合型組成物(A)の重合物から形成される。
【0048】
現場重合型組成物層Aは、前記(1)~(6)の少なくとも一種を含有する組成物を触媒存在下で重付加反応させて得ることができる。重付加反応のための触媒としては、例えば、トリエチルアミン、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等の3級アミン、及びトリフェニルホスフィン等のリン系化合物が好適に用いられる。前記重付加反応は、組成物の組成にもよるが、常温~200℃で、5~120分間加熱して行うことが好ましい。
【0049】
具体的には、現場重合型組成物層Aは、前記(1)~(6)の少なくとも一種を含有する組成物を溶剤に溶解して熱可塑性樹脂材2の上に塗布した後、適宜溶剤を揮発させ、その後、加熱して重付加反応を行うことにより、より強固に結合した現場重合型組成物層を形成することができる。現場重合型組成物層Aは、前記(1)~(6)の少なくとも一種を含有する組成物をBステージ化したフィルムを熱可塑性樹脂材2上に配置し、前記フィルムを加熱して重付加反応させることにより形成することもできる。
【0050】
現場重合型組成物層Aは、前記(7)の単官能ラジカル重合性モノマーを含有する組成物をラジカル重合反応させて得ることもできる。前記ラジカル重合反応は、組成物の組成にもよるが、常温~200℃で、5~90分間加熱して行うことが好ましい。光硬化の場合は紫外線又は可視光を照射して重合反応を行う。
【0051】
具体的には、現場重合型組成物層Aは、前記(7)の単官能ラジカル重合性モノマーを含有する組成物を溶剤に溶解して熱可塑性樹脂材2の上に塗布した後、加熱又は光照射してラジカル重合反応を行うことにより、より強固に結合した現場重合型組成物層を形成することができる。現場重合型組成物層Aは、前記(7)の単官能ラジカル重合性モノマーを含有する組成物をBステージ化したフィルムを熱可塑性樹脂材2上に配置し、前記フィルムを加熱又は光照射してラジカル重合反応させることにより形成することもできる。
【0052】
(2官能イソシアネート化合物)
前記2官能イソシアネート化合物は、イソシアナト基を2個有する化合物であり、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、2,4-若しくは2,6-トリレンジイソシアネート(TDI)又はその混合物、p-フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)等のジイソシアネート化合物が挙げられる。前記2官能イソシアネート化合物は、プライマーの強度の観点から、TDI及びMDIが好ましい。
【0053】
(ジオール)
前記ジオールは、ヒドロキシ基を2個有する化合物であり、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,6-ヘキサンジオール等の脂肪族グリコール、及びビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS等のビスフェノール類が挙げられる。前記ジオールは、プライマーの強靭性の観点から、プロピレングリコール、及びジエチレングリコールが好ましい。
【0054】
(2官能アミノ化合物)
前記2官能アミノ化合物は、アミノ基を2個有する化合物であり、例えば、2官能の脂肪族ジアミン、及び芳香族ジアミンが挙げられる。脂肪族ジアミンとしては、エチレンジアミン、1,2-プロパンジアミン、1,3-プロパンジアミン、1,4-ジアミノブタン、1,6-ヘキサメチレンジアミン、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジアミン、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、ビス(4-アミノ-3-メチルシクロヘキシル)メタン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、N-アミノエチルピペラジン等が挙げられる。芳香族ジアミンとしては、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルプロパン等が挙げられる。前記2官能アミノ化合物は、プライマーの強靭性の観点から、1,3-プロパンジアミン、1,4-ジアミノブタン、及び1,6-ヘキサメチレンジアミン等が好ましい。
【0055】
(2官能チオール化合物)
前記2官能チオール化合物は、分子内にメルカプト基を2つ有する化合物であり、例えば、2官能2級チオール化合物の1,4-ビス(3-メルカプトブチリルオキシ)ブタン(例えば、昭和電工株式会社製「カレンズMT(登録商標)BD1」)が挙げられる。
【0056】
(2官能エポキシ化合物)
前記2官能エポキシ化合物は、1分子中に2個のエポキシ基を有する化合物である。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型2官能エポキシ樹脂等の芳香族エポキシ樹脂、及び1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル等の脂肪族エポキシ化合物が挙げられる。
【0057】
前記2官能エポキシ化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0058】
具体的には、三菱ケミカル株式会社製「jER(登録商標)828」、同「jER(登録商標)834」、同「jER(登録商標)1001」、同「jER(登録商標)1004」、同「jER(登録商標)YX-4000」等が挙げられる。その他2官能であれば特殊な構造のエポキシ化合物も使用可能である。
【0059】
(2官能カルボキシ化合物)
前記2官能カルボキシ化合物は、カルボキシ基を2つ有する化合物であり、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等が挙げられる。前記2官能カルボキシ化合物は、プライマーの強度又は強靭性の観点から、イソフタル酸、テレフタル酸、及びアジピン酸が好ましい。
【0060】
(単官能ラジカル重合性モノマー)
前記単官能ラジカル重合性モノマーは、エチレン性不飽和結合を1個有するモノマーである。例えば、スチレンモノマー、スチレンのα-、o-、m-又はp-アルキル、ニトロ、シアノ、アミド又はエステル誘導体、クロロスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン等のスチレン系モノマー;及び(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフリル、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。前記単官能ラジカル重合性モノマーは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。前記単官能ラジカル重合性モノマーは、プライマーの強度又は強靭性の観点から、スチレン、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、又はフェノキシエチル(メタ)アクリレート、及びこれらの2種以上の組み合わせが好ましい。
【0061】
ラジカル重合反応を十分に進行させ、所望の現場重合型組成物層を形成させるため、溶剤、及び必要に応じて着色剤等の添加剤を含んでいてもよい。この場合、前記ラジカル重合性組成物の溶剤以外の含有成分中、前記単官能ラジカル重合性モノマーが主成分であることが好ましい。前記主成分とは、前記単官能ラジカル重合性モノマーの含有率が50~100質量%であることを意味する。前記含有率は、好ましくは60質量%以上、より好ましくは80質量%以上である。
【0062】
ラジカル重合反応のための重合開始剤としては、例えば、公知の有機過酸化物、光開始剤等が好適に用いられる。有機過酸化物にコバルト金属塩又はアミンを組み合わせた常温ラジカル重合開始剤を使用してもよい。有機過酸化物としては、ケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアリルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、又はパーオキシジカーボネートに分類されるものが挙げられる。光開始剤としては、紫外線から可視線の波長範囲内で重合が開始できるものを使用することが望ましい。
【0063】
ラジカル重合反応は、反応化合物等の種類にもよるが、常温~200℃で、5~90分間加熱して行うことが好ましい。光硬化の場合は紫外線又は可視光を照射して重合反応を行う。具体的には、前記組成物を塗布した後、加熱又は光照射してラジカル重合反応を行うことにより、前記ラジカル重合性化合物から現場重合型組成物層を形成することができる。
【0064】
(現場重合型組成物層B)
現場重合型組成物層Bは、前記現場重合型組成物(B)の重合物から形成される。
【0065】
現場重合型組成物層Bは、無水マレイン酸変性ポリプロピレン又は変性ポリフェニレンエーテルの溶液中で、前記(1)~(6)の少なくとも一種を触媒存在下で重付加反応させて得ることができる。重付加反応のための触媒としては、例えば、トリエチルアミン、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等の3級アミン、及びトリフェニルホスフィン等のリン系化合物が好適に用いられる。前記重付加反応は、組成物の組成にもよるが、常温~200℃で、5~120分間加熱して行うことが好ましい。
【0066】
具体的には、現場重合型組成物層Bは、無水マレイン酸変性ポリプロピレン又は変性ポリフェニレンエーテルと、前記(1)~(6)の少なくとも一種を含有する組成物とを溶剤に溶解して熱可塑性樹脂材2の上に塗布した後、適宜溶剤を揮発させ、その後、加熱して重付加反応を行うことにより形成することができる。現場重合型組成物層Bは、無水マレイン酸変性ポリプロピレン又は変性ポリフェニレンエーテルと、前記(1)~(6)の少なくとも一種を含有する組成物との混合物をBステージ化したフィルムを熱可塑性樹脂材2上に配置し、前記フィルムを加熱して重付加反応させることにより形成することもできる。
【0067】
現場重合型組成物層Bは、前記(7)の単官能ラジカル重合性モノマーを含有する組成物を、無水マレイン酸変性ポリプロピレン又は変性ポリフェニレンエーテルの溶液中でラジカル重合反応させて得ることもできる。前記ラジカル重合反応は、組成物の組成にもよるが、常温~200℃で、5~90分間加熱して行うことが好ましい。光硬化の場合は紫外線又は可視光を照射して重合反応を行う。
【0068】
具体的には、現場重合型組成物層Bは、無水マレイン酸変性ポリプロピレン又は変性ポリフェニレンエーテルと、前記(7)の単官能ラジカル重合性モノマーを含有する組成物とを溶剤に溶解して熱可塑性樹脂材2の上に塗布した後、加熱又は光照射してラジカル重合反応を行うことにより形成することができる。現場重合型組成物層Bは、無水マレイン酸変性ポリプロピレン又は変性ポリフェニレンエーテルと、前記(7)の単官能ラジカル重合性モノマーを含有する組成物との混合物をBステージ化したフィルムを熱可塑性樹脂材2上に配置し、前記フィルムを加熱又は光照射してラジカル重合反応させることにより形成することもできる。
【0069】
(無水マレイン酸変性ポリプロピレン)
前記無水マレイン酸変性ポリプロピレンは、無水マレイン酸でグラフト変性されたポリプロピレンである。例えば、化薬アクゾ社製カヤブリッド002PP、002PP-NW、003PP、003PP-NW、三菱ケミカル株式会社製Modicシリーズ等が挙げられる。無水マレイン酸で機能化させたポリプロピレン添加剤としてBYK社製SCONA TPPP2112GA、TPPP8112GA、又はTPPP9212GAを併用してもよい。
【0070】
(変性ポリフェニレンエーテル)
前記変性ポリフェニレンエーテルとしては公知のものが使用できる。変性ポリフェニレンエーテルは、ポリフェニレンエーテルにポリスチレン、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリプロピレン等をブレンドしたものであり、例えば、SABIC社製NORYLシリーズ(PPS/PS):731、7310、731F、7310F、旭化成ケミカルズ株式会社製ザイロンシリーズ(PPE/PS、PP/PPE、PA/PPE、PPS/PPE、PPA/PPE)、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製エピエースシリーズ、レマロイシリーズ(PPE/PS、PPE/PA)等が挙げられる。
【0071】
前記現場重合型組成物層Bを得る際に使用する前記(1)~(7)の合計量は、無水マレイン酸変性ポリプロピレン又は変性ポリフェニレンエーテルを100質量部としたとき、5~100質量部であることが好ましく、5~60質量部であることがより好ましく、20~40質量部であることが更に好ましい。
【0072】
(現場重合型組成物層C)
現場重合型組成物層Cは、前記現場重合型組成物(C)の重合物から形成される。
【0073】
現場重合型組成物層Cは、熱可塑性樹脂材2を構成する熱可塑性樹脂とは異種の熱可塑性樹脂を含む溶液中で、前記(1)~(6)の少なくとも一種を触媒存在下で重付加反応させて得ることができる。重付加反応のための触媒としては、例えば、トリエチルアミン、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等の3級アミン、及びトリフェニルホスフィン等のリン系化合物が好適に用いられる。前記重付加反応は、組成物の組成にもよるが、常温~200℃で、5~120分間加熱して行うことが好ましい。
【0074】
具体的には、現場重合型組成物層Cは、熱可塑性樹脂材2を構成する熱可塑性樹脂とは異種の熱可塑性樹脂と、前記(1)~(6)の少なくとも一種を含有する組成物とを溶剤に溶解して熱可塑性樹脂材2の上に塗布した後、適宜溶剤を揮発させ、その後、加熱して重付加反応を行うことにより形成することができる。現場重合型組成物層Cは、熱可塑性樹脂材2を構成する熱可塑性樹脂とは異種の熱可塑性樹脂と、前記(1)~(6)の少なくとも一種を含有する組成物との混合物をBステージ化したフィルムを熱可塑性樹脂材2上に配置し、前記フィルムを加熱して重付加反応させることにより形成することもできる。
【0075】
現場重合型組成物層Cは、前記(7)の単官能ラジカル重合性モノマーを含有する組成物を、熱可塑性樹脂材2を構成する熱可塑性樹脂とは異種の熱可塑性樹脂を含む溶液中でラジカル重合反応させて得ることもできる。前記ラジカル重合反応は、組成物の組成にもよるが、常温~200℃で、5~90分間加熱して行うことが好ましい。光硬化の場合は紫外線又は可視光を照射して重合反応を行う。
【0076】
具体的には、現場重合型組成物層Cは、熱可塑性樹脂材2を構成する熱可塑性樹脂とは異種の熱可塑性樹脂と、前記(7)の単官能ラジカル重合性モノマーを含有する組成物とを溶剤に溶解して熱可塑性樹脂材2の上に塗布した後、加熱又は光照射してラジカル重合反応を行うことにより形成することができる。現場重合型組成物層Cは、熱可塑性樹脂材2を構成する熱可塑性樹脂とは異種の熱可塑性樹脂と、前記(7)の単官能ラジカル重合性モノマーを含有する組成物との混合物をBステージ化したフィルムを熱可塑性樹脂材2上に配置し、前記フィルムを加熱又は光照射してラジカル重合反応させることにより形成することもできる。
【0077】
(現場重合型組成物層D)
現場重合型組成物層Dは、前記現場重合型組成物(D)の重合物から形成される。
【0078】
現場重合型組成物層Dは、無水マレイン酸変性ポリプロピレン又は変性ポリフェニレンエーテルの溶液中で、前記(1)~(6)の少なくとも一種を触媒存在下で重付加反応させた後、熱可塑性樹脂材2を構成する熱可塑性樹脂とは異種の熱可塑性樹脂と混合して得ることができる。熱可塑性樹脂材2を構成する熱可塑性樹脂とは異種の熱可塑性樹脂を含む溶液中で、前記(1)~(6)の少なくとも一種を触媒存在下で重付加反応させた後、無水マレイン酸変性ポリプロピレン又は変性ポリフェニレンエーテルと混合して得ることもできる。無水マレイン酸変性ポリプロピレン又は変性ポリフェニレンエーテルと、熱可塑性樹脂材2を構成する熱可塑性樹脂とは異種の熱可塑性樹脂と、前記(1)~(6)の少なくとも一種を触媒存在下で重付加反応させて得ることもできる。重付加反応のための触媒としては、例えば、トリエチルアミン、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等の3級アミン、及びトリフェニルホスフィン等のリン系化合物が好適に用いられる。前記重付加反応は、組成物の組成にもよるが、常温~200℃で、5~120分間加熱して行うことが好ましい。
【0079】
具体的には、現場重合型組成物層Dは、無水マレイン酸変性ポリプロピレン又は変性ポリフェニレンエーテルと、熱可塑性樹脂材2を構成する熱可塑性樹脂とは異種の熱可塑性樹脂と、前記(1)~(6)の少なくとも一種を含有する組成物とを溶剤に溶解して熱可塑性樹脂材2の上に塗布した後、適宜溶剤を揮発させ、その後、加熱して重付加反応を行うことにより形成することができる。現場重合型組成物層Dは、無水マレイン酸変性ポリプロピレン又は変性ポリフェニレンエーテルと、熱可塑性樹脂材2を構成する熱可塑性樹脂とは異種の熱可塑性樹脂と、前記(1)~(6)の少なくとも一種を含有する組成物との混合物をBステージ化したフィルムを熱可塑性樹脂材2上に配置し、前記フィルムを加熱して重付加反応させることにより形成することもできる。
【0080】
現場重合型組成物層Dは、前記(7)の単官能ラジカル重合性モノマーを含有する組成物を、無水マレイン酸変性ポリプロピレン又は変性ポリフェニレンエーテルと、熱可塑性樹脂材2を構成する熱可塑性樹脂とは異種の熱可塑性樹脂を含む溶液中でラジカル重合反応させて得ることもできる。前記ラジカル重合反応は、組成物の組成にもよるが、常温~200℃で、5~90分間加熱して行うことが好ましい。光硬化の場合は紫外線又は可視光を照射して重合反応を行う。
【0081】
具体的には、現場重合型組成物層Dは、無水マレイン酸変性ポリプロピレン又は変性ポリフェニレンエーテルと、熱可塑性樹脂材2を構成する熱可塑性樹脂とは異種の熱可塑性樹脂と、前記(7)の単官能ラジカル重合性モノマーを含有する組成物とを溶剤に溶解して熱可塑性樹脂材2の上に塗布した後、加熱又は光照射してラジカル重合反応を行うことにより形成することができる。現場重合型組成物層Dは、無水マレイン酸変性ポリプロピレン又は変性ポリフェニレンエーテルと、熱可塑性樹脂材2を構成する熱可塑性樹脂とは異種の熱可塑性樹脂と、前記(7)の単官能ラジカル重合性モノマーを含有する組成物との混合物をBステージ化したフィルムを熱可塑性樹脂材2上に配置し、前記フィルムを加熱又は光照射してラジカル重合反応させることにより形成することもできる。
【0082】
なお、前記現場重合型組成物層を形成する際に生じる反応の仕方は、無水マレイン酸変性ポリプロピレン又は変性ポリフェニレンエーテルと2官能エポキシ樹脂の反応、無水マレイン酸変性ポリプロピレン又は変性ポリフェニレンエーテルと2官能フェノール化合物との反応など、多岐にわたり、かつ、その組み合わせに基づく具体的態様を包括的に表現することもできない。よって、前記現場重合型組成物層を構造又は特性により直接特定することは不可能又は非実際的といえる。
【0083】
〔硬化性樹脂層3b〕
プライマー層3を、現場重合型組成物層3aを含む複数層で構成する場合、
図5に示すように、プライマー層3は、現場重合型組成物層3aと熱可塑性樹脂材2との間に、硬化性樹脂を含む組成物から形成された硬化性樹脂層3bを含むこともできる。
【0084】
前記硬化性樹脂を含む組成物は、前記硬化性樹脂の硬化反応を十分に進行させ、所望の硬化性樹脂層を形成させるため、溶剤、及び必要に応じて着色剤等の添加剤を含んでいてもよい。この場合、前記組成物の溶剤以外の含有成分中、前記硬化性樹脂が主成分であることが好ましい。前記主成分とは、前記硬化性樹脂の含有率が40~100質量%であることを意味する。前記含有率は、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上である。
【0085】
前記硬化性樹脂としては、例えば、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、及び不飽和ポリエステル樹脂が挙げられる。
【0086】
硬化性樹脂層3bは、これらの樹脂のうちの1種で形成されていてもよく、2種以上が混合されて形成されていてもよい。硬化性樹脂層3bを複数層で構成し、各層を異なる種類の硬化性樹脂を含む組成物で形成することもできる。
【0087】
前記硬化性樹脂のモノマーを含む組成物により、硬化性樹脂層3bを形成するコーティング方法は、特に限定されるものではないが、例えば、スプレー塗布法、浸漬法等が挙げられる。
【0088】
本開示において、硬化性樹脂は、広く、架橋硬化する樹脂を意味し、加熱硬化タイプに限られず、常温硬化タイプ及び光硬化タイプも包含する。前記光硬化タイプは、可視光又は紫外線の照射によって短時間での硬化も可能である。前記光硬化タイプを、加熱硬化タイプ及び/又は常温硬化タイプと併用してもよい。前記光硬化タイプとしては、例えば、昭和電工株式会社製「リポキシ(登録商標)LC-760」、同「リポキシ(登録商標)LC-720」等のビニルエステル樹脂が挙げられる。
【0089】
(ウレタン樹脂)
前記ウレタン樹脂は、通常、イソシアネート化合物のイソシアナト基とポリオール化合物の水酸基との反応によって得られる樹脂であり、ASTM D16において、「ビヒクル不揮発成分10重量%以上のポリイソシアネートを含む塗料」と定義されるものに該当するウレタン樹脂が好ましい。前記ウレタン樹脂は、一液型であっても、二液型であってもよい。
【0090】
一液型ウレタン樹脂としては、例えば、油変性型(不飽和脂肪酸基の酸化重合により硬化するもの)、湿気硬化型(イソシアナト基と空気中の水との反応により硬化するもの)、ブロック型(ブロック剤が加熱により解離し再生したイソシアナト基と水酸基が反応して硬化するもの)、ラッカー型(溶剤が揮発して乾燥することにより硬化するもの)等が挙げられる。これらの中でも、取り扱い容易性等の観点から、湿気硬化型一液ウレタン樹脂が好適に用いられる。具体的には、昭和電工株式会社製「UM-50P」等が挙げられる。
【0091】
二液型ウレタン樹脂としては、例えば、触媒硬化型(イソシアナト基と空気中の水等とが触媒存在下で反応して硬化するもの)、ポリオール硬化型(イソシアナト基とポリオール化合物の水酸基との反応により硬化するもの)等が挙げられる。
【0092】
前記ポリオール硬化型におけるポリオール化合物としては、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、フェノール樹脂等が挙げられる。
【0093】
前記ポリオール硬化型におけるイソシアナト基を有するイソシアネート化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、テトラメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート等の脂肪族イソシアネート;2,4-若しくは2,6-トリレンジイソシアネート(TDI)又はその混合物、p-フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)又はその多核体混合物であるポリメリックMDI等の芳香族イソシアネート;イソホロンジイソシアネート(IPDI)等の脂環族イソシアネート等が挙げられる。
【0094】
前記ポリオール硬化型の二液型ウレタン樹脂における前記ポリオール化合物と前記イソシアネート化合物の配合比は、水酸基/イソシアナト基のモル当量比が0.7~1.5の範囲であることが好ましい。
【0095】
前記二液型ウレタン樹脂において使用されるウレタン化触媒としては、例えば、トリエチレンジアミン、テトラメチルグアニジン、N,N,N’,N’-テトラメチルヘキサン-1,6-ジアミン、ジメチルエーテルアミン、N,N,N’,N’’,N’’-ペンタメチルジプロピレン-トリアミン、N-メチルモルフォリン、ビス(2-ジメチルアミノエチル)エーテル、ジメチルアミノエトキシエタノール、トリエチルアミン等のアミン系触媒;ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズチオカルボキシレート、ジブチルスズジマレエート等の有機スズ系触媒等が挙げられる。
【0096】
前記ポリオール硬化型においては、一般に、前記ポリオール化合物100質量部に対して、前記ウレタン化触媒が0.01~10質量部配合されることが好ましい。
【0097】
(エポキシ樹脂)
前記エポキシ樹脂は、1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する樹脂である。前記エポキシ樹脂の硬化前のプレポリマーとしては、例えば、エーテル系ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ポリフェノール型エポキシ樹脂、脂肪族型エポキシ樹脂、エステル系の芳香族エポキシ樹脂、環状脂肪族エポキシ樹脂、エーテル・エステル系エポキシ樹脂等が挙げられる。これらの中でも、ビスフェノールA型エポキシ樹脂が好適に用いられる。エポキシ樹脂は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0098】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、具体的には、三菱ケミカル株式会社製「jER(登録商標)828」、同「jER(登録商標)1001」等が挙げられる。
【0099】
ノボラック型エポキシ樹脂としては、具体的には、ザ・ダウ・ケミカル・カンパニー製「D.E.N.(登録商標)438(登録商標)」等が挙げられる。
【0100】
前記エポキシ樹脂に使用される硬化剤としては、例えば、脂肪族アミン、芳香族アミン、酸無水物、フェノール樹脂、チオール類、イミダゾール類、カチオン触媒等の公知の硬化剤が挙げられる。前記硬化剤を、長鎖脂肪族アミン又は/及びチオール類と併用することにより、伸び率が大きく、耐衝撃性に優れる硬化性樹脂層を形成することができる。
【0101】
前記チオール類の具体例としては、後述する官能基含有層を形成するためのチオール化合物として例示したものと同じ化合物が挙げられる。これらの中でも、硬化性樹脂層の伸び率及び耐衝撃性の観点から、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)(例えば、昭和電工株式会社製「カレンズMT(登録商標)PE1」)が好ましい。
【0102】
(ビニルエステル樹脂)
前記ビニルエステル樹脂は、ビニルエステル化合物を重合性モノマー(例えば、スチレン等)に溶解したものである。エポキシ(メタ)アクリレート樹脂とも呼ばれるが、本開示において、前記ビニルエステル樹脂には、ウレタン(メタ)アクリレート樹脂も包含される。
【0103】
前記ビニルエステル樹脂としては、例えば、「ポリエステル樹脂ハンドブック」(日刊工業新聞社、1988年発行)、「塗料用語辞典」(色材協会、1993年発行)等に記載されているものも使用することができる。具体的には、昭和電工株式会社製「リポキシ(登録商標)R-802」、同「リポキシ(登録商標)R-804」、同「リポキシ(登録商標)R-806」等が挙げられる。
【0104】
前記ウレタン(メタ)アクリレート樹脂としては、例えば、イソシアネート化合物とポリオール化合物とを反応させた後、水酸基含有(メタ)アクリルモノマー(及び必要に応じて水酸基含有アリルエーテルモノマー)を反応させて得られるラジカル重合性不飽和基含有オリゴマーが挙げられる。具体的には、昭和電工株式会社製「リポキシ(登録商標)R-6545」等が挙げられる。
【0105】
前記ビニルエステル樹脂は、有機過酸化物等の触媒存在下での加熱によるラジカル重合で硬化させることができる。
【0106】
前記有機過酸化物としては、特に限定されるものではないが、例えば、ケトンパーオキサイド類、パーオキシケタール類、ハイドロパーオキサイド類、ジアリルパーオキサイド類、ジアシルパーオキサイド類、パーオキシエステル類、パーオキシジカーボネート類等が挙げられる。これらをコバルト金属塩等と組み合わせることにより、常温での硬化も可能となる。
【0107】
前記コバルト金属塩としては、特に限定されるものではないが、例えば、ナフテン酸コバルト、オクチル酸コバルト、水酸化コバルト等が挙げられる。これらの中でも、ナフテン酸コバルト及びオクチル酸コバルトが好ましい。
【0108】
(不飽和ポリエステル樹脂)
前記不飽和ポリエステル樹脂は、ポリオール化合物と不飽和多塩基酸(及び、必要に応じて飽和多塩基酸)とのエステル化反応による縮合生成物(不飽和ポリエステル)を重合性モノマー(例えば、スチレン等)に溶解したものである。
【0109】
前記不飽和ポリエステル樹脂としては、「ポリエステル樹脂ハンドブック」(日刊工業新聞社、1988年発行)、「塗料用語辞典」(色材協会、1993年発行)等に記載されているものも使用することができる。具体的には、昭和電工株式会社製「リゴラック(登録商標)」等が挙げられる。
【0110】
前記不飽和ポリエステル樹脂は、前記ビニルエステル樹脂と同様の触媒存在下での加熱によるラジカル重合で硬化させることができる。
【0111】
〔プライマー層3の作用〕
プライマー層3は、熱可塑性樹脂材2の表面に、又は熱可塑性樹脂材2の表面及び表層に形成される。
【0112】
熱可塑性樹脂材2の表面のプライマー層3とは、プライマー層3を形成する組成物を溶剤に溶解したものを熱可塑性樹脂材2の表面に塗布し、熱可塑性樹脂材2の表面で前記溶剤を揮発させて形成したものを意味する。
【0113】
熱可塑性樹脂材2の表層のプライマー層3とは、プライマー層3を形成する組成物を溶剤に溶解したものを熱可塑性樹脂材2の表面に塗布し、前記溶剤の浸透により膨潤した熱可塑性樹脂材2の表層に、プライマー層3を形成する組成物を浸透させ、前記溶剤を揮発させて形成したものを意味する。
【0114】
プライマー層3によって、接合対象である第2樹脂部材4との優れた接合性が付与され得る。数ヶ月間の長期にわたって、前記の接合性を維持し得る第1樹脂部材1を得ることもできる。また、プライマー層3により熱可塑性樹脂材2の表面が保護され、汚れの付着、酸化等の変質を抑制することができる。
【0115】
[第2樹脂部材4]
第2樹脂部材4の熱可塑性樹脂材を構成する熱可塑性樹脂は、第1樹脂部材1の熱可塑性樹脂材2を構成する熱可塑性樹脂と同種であってもよく、異種であってもよい。強固に溶着する観点から、これらの熱可塑性樹脂は同種であることが好ましい。
【0116】
2つの熱可塑性樹脂材を接合しようとする場合、一方の熱可塑性樹脂材を構成する熱可塑性樹脂と、他方の熱可塑性樹脂材を構成する熱可塑性樹脂とが同種であっても、一方又は双方の熱可塑性樹脂にフィラー又は繊維が含有されていたり、該熱可塑性樹脂が他の熱可塑性樹脂とのブレンドであったりすると、従来技術によれば、2つの熱可塑性樹脂材間の接合強度が不十分となる場合がある。本開示によれば、これらの場合であっても、第1樹脂部材1と第2樹脂部材4とを(第1樹脂部材1に含まれる)プライマー層3を介して強固に溶着することができる。
【0117】
第1樹脂部材1の熱可塑性樹脂材2を構成する熱可塑性樹脂と第2樹脂部材4の熱可塑性樹脂材を構成する熱可塑性樹脂とが同種である場合、熱可塑性樹脂を構成する単量体において、最大含有量を占める単量体の割合は、いずれも70質量%以上であり、好ましくは70~100質量%、より好ましくは80~100質量%、更に好ましくは85~100質量%である。
【0118】
第1樹脂部材1の熱可塑性樹脂材2及び/又は第2樹脂部材4の熱可塑性樹脂材がフィラー及び繊維からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する場合、その含有量は、好ましくは5~50質量%、より好ましくは5~40質量%、更に好ましくは5~30質量%である。前記含有量が前記範囲内であると第1樹脂部材1と第2樹脂部材4との接合強度を高めることができる。
【0119】
第1樹脂部材1の熱可塑性樹脂材2を構成する熱可塑性樹脂及び/又は第2樹脂部材4の熱可塑性樹脂材を構成する熱可塑性樹脂が、主たる熱可塑性樹脂と従たる熱可塑性樹脂のブレンドである場合、従たる熱可塑性樹脂の含有率は、好ましくは5~40質量%、より好ましくは5~30質量%、更に好ましくは5~20質量%である。前記含有率が前記範囲内であると第1樹脂部材1と第2樹脂部材4との接合強度を高めることができる。
【0120】
前記含有率は下記式により求めることができる。
含有率(質量%)=[B/(A+B)]×100
(式中、Aは第1樹脂部材1の熱可塑性樹脂材2を構成する熱可塑性樹脂及び/又は第2樹脂部材4の熱可塑性樹脂材を構成する熱可塑性樹脂のうち主たる熱可塑性樹脂の質量(g)であり、Bは第1樹脂部材1の熱可塑性樹脂材2を構成する熱可塑性樹脂及び/又は第2樹脂部材4の熱可塑性樹脂材を構成する熱可塑性樹脂のうち従たる熱可塑性樹脂の質量(g)である。)
【0121】
本開示によれば、第2樹脂部材4の熱可塑性樹脂材を構成する熱可塑性樹脂と第1樹脂部材1の熱可塑性樹脂材2を構成する熱可塑性樹脂とが異種である場合でも、第2樹脂部材4と第1樹脂部材1とを強固に溶着することができる。更に、第2樹脂部材4の熱可塑性樹脂材を構成する熱可塑性樹脂のSP値と、第1樹脂部材1の熱可塑性樹脂材2を構成する熱可塑性樹脂のSP値とが離れている場合でも、第2樹脂部材4と第1樹脂部材1とを強固に溶着することができる。
【0122】
[バンパーフェイシア10(樹脂-樹脂接合体)]
図6は、第1樹脂部材1と第2樹脂部材4とが溶着された状態の概略断面図であり、例えば、
図3の丸囲み部分Aを示す図である。バンパーフェイシア10(樹脂-樹脂接合体)は、第1樹脂部材1と第2樹脂部材4とを(第1樹脂部材1に含まれる)プライマー層3を介して溶着させることにより形成される。
【0123】
図6に示すように、バンパーフェイシア10では、バンパーフェイシア本体4(12)の熱可塑性樹脂材と、補強リブ1(14)の熱可塑性樹脂材2及びブラケット1(16)の熱可塑性樹脂材2とが、(補強リブ1及びブラケット1に含まれる)プライマー層3を介して溶着されている。
【0124】
上述したように、補強リブ14(1)の存在により、バンパーフェイシア本体12(4)の中央部分が薄肉化されていても、バンパーフェイシア10としての所望の剛性を実現することができる。また、本実施形態のバンパーフェイシア10は、バンパーフェイシア本体4(12)に補強リブ14(1)等を射出成形せずに、上述の方法(即ちプライマー層(3)を介する接合)によって製造されるものであるため、得られたバンパーフェイシア10の外装面にヒケと呼ばれる外観不良は存在しない。さらに、本実施形態のバンパーフェイシア10は、別体で成形した補強リブをバンパーフェイシアの内側に接着剤を用いて接着する場合とは異なり、複数の工程(樹脂面のフレーム処理、プラズマ処理などの下地処理、プライマー塗工、接着剤塗布、接着剤硬化など)を経ずに上述の方法によって製造されるものであるため、安価に製造することができる。
【0125】
以上により、本実施形態では、軽量化を図った場合であっても所望の剛性を実現するととともに、良好な外観を実現し得るバンパーフェイシアを提供することができるとともに、そのようなバンパーフェイシアを安価で製造することができる。
【0126】
一実施形態では、第1樹脂部材1の高さと厚さのアスペクト比(高さ/厚さ)が5以上であり、第2樹脂部材4の厚さに対する第1樹脂部材1の高さの比が5以上である。
【0127】
第1樹脂部材1又は第2樹脂部材4の熱可塑性樹脂材が、ポリプロピレンと、タルク、ガラス繊維、及び炭素繊維からなる群より選ばれる少なくとも1種の補強材とを含み、第1樹脂部材1又は第2樹脂部材4が引張強度40MPa以上及びヤング率3GPa以上の特性を有することが好ましい。
【0128】
第1樹脂部材1又は第2樹脂部材4の熱可塑性樹脂材が、ポリエーテルイミドと、タルク、ガラス繊維、及び炭素繊維からなる群より選ばれる少なくとも1種の補強材とを含み、第1樹脂部材1又は第2樹脂部材4が引張強度90MPa以上及びヤング率3GPa以上の特性を有することが好ましい。
【0129】
プライマー層3の厚さ(乾燥後の厚さ)は、第1樹脂部材1及び第2樹脂部材4の材質及び接合部分の接触面積にもよるが、優れた接合強度を得る観点から、1μm~500μmであることが好ましく、より好ましくは3μm~100μm、更に好ましくは5μm~70μmである。現場重合型組成物層3aの厚さ(乾燥後の厚さ)は、好ましくは1~60μmである。プライマー層3が複数層の場合、プライマー層3の厚さ(乾燥後の厚さ)は、各層合計の厚さとする。
【0130】
バンパーフェイシア10(樹脂-樹脂接合体)を製造する方法としては、第1樹脂部材1のプライマー層3に、超音波溶着法、振動溶着法、電磁誘導法、高周波法、レーザー法、熱板溶着法及び熱プレス法からなる群より選ばれる少なくとも1種の方法で、第2樹脂部材4を溶着する方法、及び第1樹脂部材1のプライマー層3の上に、射出成形によって第2樹脂部材4の熱可塑性樹脂材を成形する方法が挙げられる。
【0131】
製造装置への要求の軽減、製造工程の簡略化、及び樹脂部材の設計自由度の観点から、バンパーフェイシア10(樹脂-樹脂接合体)は、熱プレス法により製造されることが有利である。具体的には、プライマー層3を加熱し、加熱されたプライマー層3が第1樹脂部材1と第2樹脂部材4の間に介在するように第1樹脂部材1と第2樹脂部材4を圧着することにより、バンパーフェイシア10(樹脂-樹脂接合体)を製造することができる。加熱時のプライマー層の加熱温度は、接合させる樹脂の融点、軟化点に依存し、100℃~350℃であることが好ましい。例えば樹脂がナイロン6である場合、加熱温度は230℃であることが好ましい。また、融点を持つプライマー層は、加熱温度を融点±5℃とすることが好ましく、軟化点を持つプライマー層は、加熱温度を軟化点±15℃にすることが好ましい。圧着時の圧力は、0.01MPa~10MPaであることが好ましい。
【0132】
別の実施形態では、第1樹脂部材1ではなく、第2樹脂部材4が、熱可塑性樹脂材に積層された1層又は複数層のプライマー層を有してもよい。第2樹脂部材4のプライマー層3’として、上述したプライマー層3と同様のものを使用することができる。この実施形態において、第1樹脂部材1と第2樹脂部材4の溶着は、上述の「第1樹脂部材1」をこの実施形態における「第2樹脂部材4」に、上述の「第2樹脂部材4」をこの実施形態における「第1樹脂部材1」と読み替えることより、実施することができる。
【0133】
更に別の実施形態では、第1樹脂部材1及び第2樹脂部材4の両方に上述のプライマー層3、3’が積層されており、第1樹脂部材1に積層されたプライマー層3と第2樹脂部材4に積層されたプライマー層3’とが溶着されている。この実施形態において、第1樹脂部材1の熱可塑性樹脂材2を構成する熱可塑性樹脂と、第2樹脂部材4の熱可塑性樹脂材を構成する熱可塑性樹脂とは、同種であってもよく、異種であってもよい。この実施形態において、バンパーフェイシア10(樹脂-樹脂接合体)は、超音波溶着法、振動溶着法、電磁誘導法、高周波法、レーザー法、及び熱プレス法からなる群より選ばれる少なくとも1種の方法、好ましくは熱プレス法を用いて、第1樹脂部材1に積層されたプライマー層3と第2樹脂部材4に積層されたプライマー層3’とを溶着することによって製造することができる。
【0134】
本発明のいくつかの実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で様々に変更可能である。
【実施例】
【0135】
本発明に関連した実施試験例及び比較試験例を以下に示すが、本発明は下記実施試験例に限定されるものではない。
【0136】
<試験片用熱可塑性樹脂材>
以下に示す表1の条件で、射出成形機(住友重機械工業株式会社製 SE100V)を使用して、引張試験のための試験片用熱可塑性樹脂材(幅10mm、長さ45mm、厚さ3mm):タルク入りPP樹脂、ガラス繊維入りPA6樹脂、ガラス繊維入りPA66樹脂、m-PPE樹脂、PPS樹脂、PEI樹脂、PC樹脂、及びガラス繊維入りPBT樹脂を得た。
【0137】
【0138】
<試験片の作製:実施試験例1~3、及び比較試験例1>
(プライマー層形成用の現場重合型組成物-1の作製)
2官能エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製jER(登録商標)1001)(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、分子量約900):100g、ビスフェノールS:6.2g、トリエチルアミン:0.4gを、トルエン197g中に溶解して現場重合型組成物-1(現場重合型熱可塑性エポキシ樹脂組成物)を得た。
【0139】
(プライマー層の形成)
次に、前記試験片用熱可塑性樹脂材のPBT、PC、PEI、又はPPSの片側の表面に乾燥後の厚さが80μmになるように現場重合型組成物-1をスプレー法にて塗布した。空気中に常温で30分間放置することによって溶剤(トルエン)を揮発させた後、150℃の炉中に30分間放置して重付加反応を行い、常温まで放冷して、熱可塑性エポキシ樹脂をプライマー層として有する試験片PBT-1、PC-1、PEI-1、及びPPS-1を得た。
【0140】
以下、試験片においてプライマー層を形成した面をプライマー面、プライマー層を形成していない面をプライマー無し面という。また、下記表2~4及び6において、プライマー層を有する面を(有)、プライマー層を有さない面を(無)と表記する。
【0141】
<実施試験例1>
(溶着)
PPS-1のプライマー面とPEI-1のプライマー面とを接合部が重なり長さ5mm、幅10mmとなるように重ね合わせた状態で、精電舎電子工業株式会社製超音波溶着機SONOPET-JII430T-M(28.5KHz)を使用して超音波溶着し、試験片1(樹脂-樹脂接合体)を得た。ここで接合部とは、試験片用熱可塑性樹脂材を重ね合わせた箇所を意味する。
【0142】
(引張りせん断強度)
試験片1について、常温で1日間放置後、ISO19095 1-4に準拠して、引張試験機(株式会社島津製作所製万能試験機オートグラフ「AG-IS」、ロードセル10kN、引張速度10mm/min、温度23℃、50%RH)にて、引張りせん断強度試験を行い、接合強度を測定した。測定結果を下記表2に示す。
【0143】
<実施試験例2>
(溶着)
PBT-1のプライマー面とPC-1のプライマー面とを実施試験例1と同様の手順で超音波溶着し、試験片2(樹脂-樹脂接合体)を得た。
【0144】
(引張りせん断強度)
試験片2について、実施試験例1と同じ手法で引張りせん断強度試験を行った。測定結果を下記表2に示す。
【0145】
<実施試験例3>
(溶着)
PBT-1のプライマー面とPC-1のプライマー無し面とを実施試験例1と同様の手順で超音波溶着し、試験片3(樹脂-樹脂接合体)を得た。
【0146】
(引張りせん断強度)
試験片3について、実施試験例1と同じ手法で引張りせん断強度試験を行った。測定結果を下記表2に示す。
【0147】
<実施試験例4>
(溶着)
PBT-1のプライマー面とPPS-1のプライマー無し面とを実施試験例1と同様の手順で超音波溶着し、試験片4(樹脂-樹脂接合体)を得た。
【0148】
(引張りせん断強度)
試験片4について、実施試験例1と同じ手法で引張りせん断強度試験を行った。測定結果を下記表2に示す。
【0149】
<比較試験例1>
PBT-1のプライマー無し面とPPS-1のプライマー無し面とを実施試験例1と同様の手順で超音波溶着を試みたが溶着できなかった。
【0150】
【0151】
<試験片の作製:実施試験例5~7、及び比較試験例2~3>
(プライマー層形成用の現場重合型組成物-2の作製)
ジフェニルメタンジイソシアネート(東ソー株式会社製ミリオネートMT):100g、プロピレングリコール:54.7g、4,4’-ジアミノジフェニルメタン:15.8gを、アセトン287g中に溶解して現場重合型組成物-2(現場重合型ウレタン樹脂組成物)を得た。
【0152】
(プライマー層の形成)
次に、前記試験片用熱可塑性樹脂材のPA6、PA66、PBT、又はPCの片側の表面に乾燥後の厚さが90μmになるように現場重合型組成物-2をスプレー法にて塗布した。空気中に常温で30分間放置することによって溶剤(アセトン)を揮発させた後、150℃の炉中に30分間放置して重付加反応を行い、常温まで放冷して、ウレタン樹脂をプライマー層とする試験片PA6-1、PA66-1、PBT-2、及びPC-2を得た。
【0153】
<実施試験例5>
(溶着)
PA6-1のプライマー面とPBT-2のプライマー面とを接合部が重なり長さ5mm、幅10mmとなるように重ね合わせた状態で、精電舎電子工業株式会社製超音波溶着機SONOPET-JII430T-M(28.5KHz)を使用して超音波溶着し、試験片5(樹脂-樹脂接合体)を得た。
【0154】
(引張りせん断強度)
試験片5について、実施試験例1と同じ手法で引張りせん断強度試験を行い、接合強度を測定した。測定結果を下記表3に示す。
【0155】
<実施試験例6及び7>
実施試験例5と同様にして、下記表3に記載の組み合わせで、各試験片の作成、及び引張りせん断強度試験を行った。結果を下記表3に示す。
【0156】
<比較試験例2>
PA6-1のプライマー無し面とPBT-2のプライマー無し面とを実施試験例5と同様の手順で超音波溶着を試みたが溶着できなかった。
【0157】
<比較試験例3>
PA66-1のプライマー無し面とPC-2のプライマー無し面とを実施試験例5と同様の手順で超音波溶着を試みたが溶着できなかった。
【0158】
【0159】
<試験片:実施試験例8~10、及び比較試験例4~5>
(プライマー層形成用の現場重合型組成物-3の作製)
無水マレイン酸変性ポリプロピレン(三菱ケミカル株式会社製Modic(登録商標)ER321P):5g、エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製jER(登録商標)1001):1.01g、ビスフェノールA:0.24gを熱キシレン:95gに溶解した後、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール:0.006gを加えて急冷し、現場重合型組成物-3(現場重合型無水マレイン酸含有エポキシ樹脂組成物)を得た。
【0160】
(プライマー層形成用の現場重合型組成物-4の作製)
変性ポリフェニレンエーテル(SABIC社製NOLYL731):3.77g、2官能エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製jER(登録商標)1001):1.0g、ビスフェノールA:0.22gを熱キシレン:95gに溶解した後、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール:0.005gを加えて急冷し、現場重合型組成物-4(現場重合型変性ポリフェニレンエーテル含有エポキシ樹脂組成物)を得た。
【0161】
(プライマー層の形成)
次に、前記試験片用熱可塑性樹脂材のPP(タルク30質量%)、又はPBTの片側の表面に乾燥後の厚さが80μmになるように現場重合型組成物-3をスプレー法にて塗布した。空気中に常温で30分間放置することによって溶剤(キシレン)を揮発させた後、150℃の炉中に30分間放置して重付加反応を行い、常温まで放冷して、無水マレイン酸含有熱可塑性エポキシ樹脂をプライマー層とする試験片PP-1、及びPBT-3を得た。
【0162】
次に、前記試験片用熱可塑性樹脂材のm-PPEの片側の表面に乾燥後の厚さが80μmになるように現場重合型組成物-4をスプレー法にて塗布した。空気中に常温で30分間放置することによって溶剤(キシレン)を揮発させた後、150℃の炉中に30分間放置して重付加反応を行い、常温まで放冷して、変性ポリフェニレンエーテル含有エポキシ樹脂をプライマー層とする試験片m-PPE-1を得た。
【0163】
<実施試験例8>
(溶着)
PP-1のプライマー面とm-PPE-1のプライマー面とを接合部が重なり長さ5mm、幅10mmとなるように重ね合わせた状態で、精電舎電子工業株式会社製超音波溶着機SONOPET-JII430T-M(28.5KHz)を使用して超音波溶着し、試験片8(樹脂-樹脂接合体)を得た。
【0164】
(引張りせん断強度)
試験片8について、実施試験例1と同じ手法で引張りせん断強度試験を行い、接合強度を測定した。測定結果を下記表4に示す。
【0165】
<実施試験例9及び10>
実施試験例8と同様にして、下記表4に記載の組み合わせで、各試験片の作成、及び引張りせん断強度試験を行った。結果を下記表4に示す。
【0166】
<比較試験例4>
PP-1のプライマー無し面とPBT-3のプライマー無し面とを実施試験例8と同様の手順で超音波溶着を試みたが溶着できなかった。
【0167】
<比較試験例5>
m-PPE-1のプライマー無し面と前記試験片用熱可塑性樹脂材のPCの片面(プライマー無し面)とを実施試験例8と同様の手順で超音波溶着を試みたが溶着できなかった。
【0168】
【0169】
<試験片:実施試験例11>
プライマー付き熱可塑性樹脂材PC-1、PBT-1、PEI-1、PPS-1、PA6-1、PA66-1、m-PPE-1、又はPP-1を射出成形用金型にインサートして、それらのプライマー面に表5に記載の夫々異種の熱可塑性樹脂を表1と同一条件で射出成形して、前記プライマー面と射出成型された熱可塑性樹脂との接合部が重なり長さ5mm、幅10mmとなる試験片(8種)を得た。
【0170】
(引張りせん断強度)
各試験片について、実施試験例1と同じ手法で引張りせん断強度試験を行った。測定結果を下記表5に示す。
【0171】
【産業上の利用可能性】
【0172】
本発明は、バンパーフェイシア及びその製造方法に利用可能である。
【符号の説明】
【0173】
1 第1樹脂部材
2 熱可塑性樹脂材
3 プライマー層
3a 現場重合型組成物層
3b 硬化性樹脂層
4 第2樹脂部材
10 バンパーフェイシア(樹脂-樹脂接合体)
12 バンパーフェイシア本体
14 補強リブ
14a 幹部
14b 枝部
16 ブラケット
A 丸囲み部分