(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】位相シフトマスクブランクス、その製造方法及び位相シフトマスク
(51)【国際特許分類】
G03F 1/26 20120101AFI20241112BHJP
【FI】
G03F1/26
(21)【出願番号】P 2023053683
(22)【出願日】2023-03-29
(62)【分割の表示】P 2020024108の分割
【原出願日】2020-02-17
【審査請求日】2023-04-04
(31)【優先権主張番号】P 2019067113
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019111054
(32)【優先日】2019-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼坂 卓郎
【審査官】今井 彰
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-239546(JP,A)
【文献】特開2002-040625(JP,A)
【文献】特開2018-031840(JP,A)
【文献】特開2018-159961(JP,A)
【文献】特開平07-134392(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0243491(US,A1)
【文献】特開2020-204760(JP,A)
【文献】特開2002-303967(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/00-1/86、7/20-7/24、9/00-9/02
H01L 21/027、21/30
C23C 14/00-14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板上に、ケイ素と窒素とを含み、遷移金属を含まない材料で形成された位相シフト膜を有するフォトマスクブランクスであって、
露光光がKrFエキシマレーザー光であり、
上記位相シフト膜が、
(A)透明基板と離間する側の最表面部の層である表面酸化層と、
(B)露光光に対する、屈折率nが2.55以上、消衰係数kが0.4~0.7である層と
からなる複数層で構成され、
上記位相シフト膜の、露光光に対する、位相差が170~190°、透過率が4~8%であり、膜厚が85nm以下であることを特徴とする位相シフトマスクブランクス。
【請求項2】
上記消衰係数kが0.4~0.6であることを特徴とする請求項1記載の位相シフトマスクブランクス。
【請求項3】
上記位相シフト膜の透過率が4.5~8%であることを特徴とする請求項1又は2記載の位相シフトマスクブランクス。
【請求項4】
上記(B)層の、ケイ素と窒素の合計の含有率(原子%)に対する窒素の含有率(原子%)であるN/(Si+N)が0.43以上0.53以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の位相シフトマスクブランクス。
【請求項5】
上記(B)層が、ケイ素と窒素からなる材料で形成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の位相シフトマスクブランクス。
【請求項6】
上記位相シフト膜の膜厚が79nm以下であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の位相シフトマスクブランクス。
【請求項7】
上記表面酸化層の酸素含有率が20原子%以上であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載の位相シフトマスクブランクス。
【請求項8】
上記位相シフト膜の膜厚が50nm以上であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項記載の位相シフトマスクブランクス。
【請求項9】
上記表面酸化層の厚さが1nm以上10nm以下であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項記載の位相シフトマスクブランクス。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項記載の位相シフトマスクブランクスを製造する方法であって、
ケイ素を含むターゲットと、窒素ガスとを用いた反応性スパッタで上記位相シフト膜を形成する工程を含み、
該工程において設定する窒素ガス流量を、窒素ガスの流量を低流量から高流量に変化させたときに得られる、位相シフト膜の露光光に対する屈折率nが最も高くなる流量の、-20%から+20%の範囲内で一定とする又は連続的若しくは段階的に変化させることを特徴とする位相シフトマスクブランクスの製造方法。
【請求項11】
請求項1乃至9のいずれか1項記載の位相シフトマスクブランクスを用いて形成されたことを特徴とする位相シフトマスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体集積回路などの製造などに用いられる位相シフトマスクブランクス及びその製造方法並びに位相シフトマスクに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体技術で用いられているフォトリソグラフィ技術において、解像度向上技術のひとつとして、位相シフト法が用いられている。位相シフト法は、例えば、基板上に位相シフト膜を形成したフォトマスクを用いる方法で、フォトマスク基板である露光光に対して透明な基板上に、位相シフト膜を形成していない部分を透過した露光光、つまり、位相シフト膜の厚さと同じ長さの空気を通過した露光光に対する、位相シフト膜を透過した光の位相の差が概ね180°である位相シフト膜パターンを形成し、光の干渉を利用してコントラストを向上させる方法である。これを応用したフォトマスクのひとつとしてハーフトーン位相シフトマスクがある。ハーフトーン位相シフトマスクは、石英などの露光光に対して透明な基板の上に、位相シフト膜を形成しない部分を透過した光との位相差を概ね180°とし、実質的に露光に寄与しない程度の透過率を有するハーフトーン位相シフト膜のマスクパターンを形成したものである。これまで、位相シフトマスクの位相シフト膜としては、モリブデン及びケイ素を含む膜が主に用いられていた(特開平7-140635号公報(特許文献1))。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平7-140635号公報
【文献】特開2007-33469号公報
【文献】特開2007-233179号公報
【文献】特開2007-241065号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
モリブデン及びケイ素を含む膜を用いた位相シフトマスクでは、露光光がKrFエキシマレーザー(波長248nm)の場合、一般には、6%の透過率、180°前後の位相差で、膜厚が100nm程度の位相シフト膜が用いられている。近年、露光光にArFエキシマレーザー(波長193nm)を用いる位相シフト膜では、膜の薄膜化や、耐洗浄性及び耐光性を高めることを目的として、窒化ケイ素の位相シフト膜が多く使用されるようになってきている。KrFエキシマレーザーを露光光とする場合においても、ArFエキシマレーザーを露光光とする場合ほどではないが、耐洗浄性や耐光性が高く、ヘイズが発生し難い位相シフト膜が求められている。
【0005】
窒化ケイ素でKrFエキシマレーザーを露光光とする場合、KrFエキシマレーザーで所定の位相差及び透過率を満たす膜とするために、その波長に合わせて窒素とケイ素の組成比を調整する必要がある。また、位相シフトマスクへの加工の際のパターンの倒れや、パターンの断面形状を考慮すると、なるべく薄く、組成が均一な膜が望まれる。露光光がArFエキシマレーザーの場合、窒化ケイ素は、窒素をより多く含有させた方が、屈折率nは大きく、消衰係数kは小さくなるため、窒素含有率を可能な限り高くした位相シフト膜が提案されている。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、露光光が波長248nmのKrFエキシマレーザーである場合にも、パターンの微細化に対応できる位相シフト膜として、必要な位相差及び透過率を確保した上で、パターン形成や、三次元効果の低減などにおいて有利な、膜厚が薄い位相シフト膜を有する位相シフトマスクブランクス及びその製造方法並びに位相シフトマスクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、露光光がKrFエキシマレーザーの場合、ArFエキシマレーザーとは異なり、窒化ケイ素は、その組成比(原子%)がSi:N=53:47前後の組成で、屈折率nが最も高くなり、膜の薄膜化は、窒素含有率を単に高くしても達成できず、露光光がKrFエキシマレーザーの場合の窒化ケイ素について、波長248nmのKrFエキシマレーザー露光用の位相シフトマスクブランクスにおいて、位相シフト膜を、ケイ素と窒素とを含み、遷移金属を含まない組成とし、屈折率nと消衰係数kを所定範囲とすること、又はケイ素と窒素の比率を所定範囲とすることにより、露光光に対する、位相差(位相シフト量)が170~190°であり、特に、透過率が4~8%で、膜厚が85nm以下である、より薄い位相シフト膜を有する位相シフトマスクブランクス及び位相シフトマスクになることを見出し、本発明をなすに至った。
【0008】
従って、本発明は、以下の位相シフトマスクブランクス、位相シフトマスクブランクスの製造方法及び位相シフトマスクを提供する。
1.透明基板上に、ケイ素と窒素とを含み、遷移金属を含まない材料で形成された位相シフト膜を有するフォトマスクブランクスであって、
露光光がKrFエキシマレーザー光であり、
上記位相シフト膜が、
(A)透明基板と離間する側の最表面部の層である表面酸化層と、
(B)露光光に対する、屈折率nが2.55以上、消衰係数kが0.4~0.7である層と
からなる複数層で構成され、
上記位相シフト膜の、露光光に対する、位相差が170~190°、透過率が4~8%であり、膜厚が85nm以下である位相シフトマスクブランクス。
2.上記消衰係数kが0.4~0.6である位相シフトマスクブランクス。
3.上記位相シフト膜の透過率が4.5~8%である位相シフトマスクブランクス。
4.上記(B)層の、ケイ素と窒素の合計の含有率(原子%)に対する窒素の含有率(原子%)であるN/(Si+N)が0.43以上0.53以下である位相シフトマスクブランクス。
5.上記(B)層が、ケイ素と窒素からなる材料で形成されている位相シフトマスクブランクス。
6.上記位相シフト膜の膜厚が79nm以下である位相シフトマスクブランクス。
7.上記表面酸化層の酸素含有率が20原子%以上である位相シフトマスクブランクス。
8.上記位相シフト膜の膜厚が50nm以上である位相シフトマスクブランクス。
9.上記表面酸化層の厚さが1nm以上10nm以下である位相シフトマスクブランクス。
10.上記位相シフトマスクブランクスを製造する方法であって、
ケイ素を含むターゲットと、窒素ガスとを用いた反応性スパッタで上記位相シフト膜を形成する工程を含み、
該工程において設定する窒素ガス流量を、窒素ガスの流量を低流量から高流量に変化させたときに得られる、位相シフト膜の露光光に対する屈折率nが最も高くなる流量の、-20%から+20%の範囲内で一定とする又は連続的若しくは段階的に変化させることを特徴とする位相シフトマスクブランクスの製造方法。
11.上記位相シフトマスクブランクスを用いて形成されたことを特徴とする位相シフトマスク。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、KrFエキシマレーザーを露光光とする位相シフト膜として必要な位相差と、透過率とが確保され、フォトマスクパターンの加工や露光において有利な、薄い位相シフト膜を備える位相シフトマスクブランクス及び位相シフトマスクを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の位相シフトマスクブランクス及び位相シフトマスクの一例を示す断面図である。
【
図2】本発明の位相シフトマスクブランクスの他の例を示す断面図である。
【
図3】実施例1における窒素ガス流量に対する屈折率nをプロットしたグラフである。
【
図4】実施例1における窒素ガス流量に対する消衰係数kをプロットしたグラフである。
【
図5】実施例1におけるN/(Si+N)に対する屈折率nをプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について更に詳しく説明する。
本発明の位相シフトマスクブランクスは、石英基板などの透明基板上に形成された位相シフト膜を有する。また、本発明の位相シフトマスクは、石英基板などの透明基板上に形成された位相シフト膜のマスクパターン(フォトマスクパターン)を有する。
【0012】
本発明において、透明基板は、例えば、SEMI規格において規定されている、6インチ角、厚さ0.25インチの6025基板と呼ばれる透明基板が好適であり、SI単位系を用いた場合、通常、152mm角、厚さ6.35mmの透明基板と表記される。
【0013】
図1(A)は、本発明の位相シフトマスクブランクスの一例を示す断面図であり、この位相シフトマスクブランクス100は、透明基板10と、透明基板10上に形成された位相シフト膜1とを備える。また、
図1(B)は、本発明の位相シフトマスクの一例を示す断面図であり、この位相シフトマスク101は、透明基板10と、透明基板10上に形成された位相シフト膜パターン11とを備える。位相シフトマスクは、位相シフトマスクブランクスを用い、その位相シフト膜のパターンを形成することにより得ることができる。
【0014】
本発明の位相シフト膜は、所定の膜厚において、KrFエキシマレーザー(波長248nm)の露光光に対し、所定の位相差(位相シフト量)と、所定の透過率とを与える膜である。本発明において、位相シフト膜は、ケイ素と窒素とを含み、遷移金属を含まない材料で形成される。膜の洗浄耐性を向上させるためには、位相シフト膜に酸素を含有させることが効果的であるため、ケイ素と窒素とを含み、遷移金属を含まない材料は、ケイ素及び窒素以外に、酸素を含んでいてもよいが、酸素を含有させることで、膜の屈折率nが低下するため、膜厚が厚くなる傾向がある。そのため、ケイ素と窒素とを含み、遷移金属を含まない材料は、ケイ素と窒素からなる材料(不可避不純物を除き、実質的にこれら2種の元素で構成されている材料)が好ましい。
【0015】
位相シフト膜は、位相シフト膜として必要な位相差及び透過率を満たすようにすればよく、単層で構成しても複数層で構成してもよい。単層及び複数層のいずれの場合においても、単層又は複数層を構成する各々の層は、単一組成層(組成が厚さ方向に変化しない層)であっても、組成傾斜層(組成が厚さ方向に変化する層)であってもよい。
【0016】
本発明の位相シフト膜は、単層又は複数層を構成する各々の層において、露光光に対する屈折率nが2.5以上、特に2.55以上であることが好ましい。屈折率nの上限は、通常2.7以下である。また、本発明の位相シフト膜は、単層又は複数層を構成する各々の層において、露光光に対する消衰係数kが0.4以上、特に0.5以上で、1以下、特に0.8以下であることが好ましい。
【0017】
本発明の位相シフト膜は、位相シフト膜を単層で構成する場合は、単層の少なくとも一部、特に単層全体において、位相シフト膜を複数層で構成する場合は、複数層を構成する層の少なくとも一部の層、特に各々の層(全ての層)において、ケイ素と窒素の合計の含有率(原子%)に対する窒素の含有率(原子%)であるN/(Si+N)が0.43以上、特に0.45以上で、0.53以下、特に0.5以下であることが好ましい。また、組成傾斜層とする場合は、組成の傾斜範囲が上記範囲内であることが好ましい。なお、単層又は複数層の各層が酸素を含む場合、酸素の含有率は30原子%以下、特に10原子%以下、とりわけ5原子%以下であることが好ましい。
【0018】
本発明の位相シフト膜の露光光に対する位相差は、位相シフト膜が存在する部分(位相シフト部)と、位相シフト膜が存在しない部分との境界部において、それぞれを通過する露光光の位相差によって露光光が干渉して、コントラストを増大させることができる位相差であればよく、位相差は170°以上で190°以下であればよい。一方、本発明の位相シフト膜の露光光に対する透過率は、4%以上で8%以下とすることができる。本発明の位相シフト膜の場合、KrFエキシマレーザー(波長248nm)に対する位相差及び透過率を上記範囲内とすることができる。
【0019】
本発明の位相シフト膜の全体の厚さは、薄いほど微細なパターンを形成しやすく、85nm以下、好ましくは80nm以下とすることができる。一方、位相シフト膜の膜厚の下限は、露光光に対し、必要な光学特性が得られる範囲で設定され、特に制限はないが、一般的には50nm以上となる。
【0020】
本発明の位相シフト膜は、公知の成膜手法を適用して成膜することができるが、均質性に優れた膜が容易に得られるスパッタ法により成膜することが好ましく、DCスパッタ、RFスパッタのいずれの方法をも用いることができるが、マグネトロンスパッタがより好ましい。ターゲットとスパッタガスは、層構成や組成に応じて適宜選択される。ターゲットとしては、ケイ素ターゲット、窒化ケイ素ターゲット、ケイ素と窒化ケイ素の双方を含むターゲットなどのケイ素を含むターゲットを使用すればよい。窒素の含有率は、スパッタガスに、反応性ガスとして、窒素ガスを用い、導入量を適宜調整して反応性スパッタすることで、調整することができる。更に、スパッタガスには、希ガスとして、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガスなどを用いることもできる。
【0021】
本発明の位相シフト膜を、ケイ素を含むターゲットと、窒素ガスとを用いた反応性スパッタで形成する際、設定する窒素ガス流量を、位相シフト膜の露光光に対する屈折率nが最も高くなる流量の-20%から+20%の範囲内として、特に、位相シフト膜の露光光に対する屈折率nが最も高くなる流量として形成することが好ましい。このようにすることで、位相差が170~190°、透過率が4~8%である位相シフト膜を、より薄い膜厚で形成することができる。位相シフト膜の露光光に対する屈折率nが最も高くなる流量は、予め、窒素ガスの流量を低流量から高流量に変化させたときに得られる窒化ケイ素の屈折率nの変化を確認して決定すればよい。この際、窒素ガスの流量以外のスパッタ条件(ターゲットへの印加電力、他のスパッタガスの流量、スパッタ圧力など)は固定(一定と)する。なお、膜を実際に形成する際に設定する流量は、一定とすることも、連続的又は段階的に変化させることもできる。
【0022】
位相シフト膜を複数層とした場合、位相シフト膜の膜質変化を抑えるために、その表面側(透明基板と離間する側)の最表面部の層として、表面酸化層を設けることができる。この表面酸化層の酸素含有率は20原子%以上であってよく、更には50原子%以上であってもよい。表面酸化層を形成する方法として、具体的には、大気酸化(自然酸化)による酸化の他、強制的に酸化処理する方法としては、スパッタにより形成した膜をオゾンガスやオゾン水により処理する方法や、酸素ガス雰囲気などの酸素存在雰囲気中で、オーブン加熱、ランプアニール、レーザー加熱などにより、300℃以上に加熱する方法などを挙げることができる。この表面酸化層の厚さは10nm以下、特に5nm以下、とりわけ3nm以下であることが好ましく、通常、1nm以上で酸化層としての効果が得られる。表面酸化層は、スパッタ工程で酸素量を増やして形成することもできるが、欠陥がより少ない層とするためには、前述した大気酸化や、酸化処理により形成することが好ましい。
【0023】
本発明の位相シフトマスクブランクスの位相シフト膜の上には、単層又は複数層からなる第2の層を設けることができる。第2の層は、通常、位相シフト膜に隣接して設けられる。この第2の層として具体的には、遮光膜、遮光膜と反射防止膜との組み合わせ、位相シフト膜のパターン形成においてハードマスクとして機能する加工補助膜などが挙げられる。また、後述する第3の層を設ける場合、この第2の層を、第3の層のパターン形成においてエッチングストッパーとして機能する加工補助膜(エッチングストッパー膜)として利用することもできる。第2の層の材料としては、クロムを含む材料が好適である。
【0024】
このような位相シフトマスクブランクスとして具体的には、
図2(A)に示されるものが挙げられる。
図2(A)は、本発明の位相シフトマスクブランクスの一例を示す断面図であり、この位相シフトマスクブランクス100は、透明基板10と、透明基板10上に形成された位相シフト膜1と、位相シフト膜1上に形成された第2の層2とを備える。
【0025】
本発明の位相シフトマスクブランクスには、位相シフト膜の上に、第2の層として、遮光膜又は位相シフト膜にパターンを形成するためのハードマスクとして機能するエッチングマスク膜を設けることができる。また、第2の層として、遮光膜と反射防止膜とを組み合わせて設けることもできる。遮光膜を含む第2の層を設けることにより、位相シフトマスクに、露光光を完全に遮光する領域を設けることができる。この遮光膜及び反射防止膜は、エッチングにおける加工補助膜としても利用可能である。遮光膜及び反射防止膜の膜構成及び材料については多数の報告(例えば、特開2007-33469号公報(特許文献2)、特開2007-233179号公報(特許文献3)など)があるが、好ましい遮光膜と反射防止膜との組み合わせの膜構成としては、例えば、クロムを含む材料の遮光膜を設け、更に、遮光膜からの反射を低減させるクロムを含む材料の反射防止膜を設けたものなどが挙げられる。遮光膜及び反射防止膜は、いずれも単層で構成しても、複数層で構成してもよい。遮光膜や反射防止膜のクロムを含む材料としては、クロム単体、クロム酸化物(CrO)、クロム窒化物(CrN)、クロム炭化物(CrC)、クロム酸化窒化物(CrON)、クロム酸化炭化物(CrOC)、クロム窒化炭化物(CrNC)、クロム酸化窒化炭化物(CrONC)等のクロム化合物などが挙げられる。なお、ここで、クロムを含む材料を表す化学式は、構成元素を示すものであり、構成元素の組成比を意味するものではない(以下のクロムを含む材料において同じ。)。
【0026】
第2の層が遮光膜、又は遮光膜と反射防止膜との組み合わせである場合、遮光膜のクロム化合物中のクロムの含有率は40原子%以上、特に60原子%以上で、100原子%未満、特に99原子%以下、とりわけ90原子%以下であることが好ましい。酸素の含有率は60原子%以下、特に40原子%以下であることが好ましく、1原子%以上であることがより好ましい。窒素の含有率は、50原子%以下、特に40原子%以下であることが好ましく、1原子%以上であることがより好ましい。炭素の含有率は20原子%以下、特に10原子%以下であることが好ましく、エッチング速度を調整する必要がある場合は1原子%以上であることがより好ましい。この場合、クロム、酸素、窒素及び炭素の合計の含有率は95原子%以上、特に99原子%以上、とりわけ100原子%であることが好ましい。
【0027】
また、第2の層が遮光膜と反射防止膜との組み合わせである場合、反射防止膜はクロム化合物であることが好ましく、クロム化合物中のクロムの含有率は30原子%以上、特に35原子%以上で、70原子%以下、特に50原子%以下であることが好ましい。酸素の含有率は60原子%以下であることが好ましく、1原子%以上、特に20原子%以上であることがより好ましい。窒素の含有率は50原子%以下、特に30原子%以下であることが好ましく、1原子%以上、特に3原子%以上であることがより好ましい。炭素の含有率は20原子%以下、特に5原子%以下であることが好ましく、エッチング速度を調整する必要がある場合は1原子%以上であることがより好ましい。この場合、クロム、酸素、窒素及び炭素の合計の含有率は95原子%以上、特に99原子%以上、とりわけ100原子%であることが好ましい。
【0028】
第2の層が遮光膜、又は遮光膜と反射防止膜との組み合わせである場合、第2の層の膜厚は、通常20~100nm、好ましくは40~70nmである。また、露光光に対する位相シフト膜と第2の層との合計の光学濃度が2.0以上、特に2.5以上、とりわけ3.0以上となるようにすることが好ましい。
【0029】
本発明の位相シフトマスクブランクスの第2の層の上には、単層又は複数層からなる第3の層を設けることができる。第3の層は、通常、第2の層に隣接して設けられる。この第3の層として具体的には、第2の層のパターン形成においてハードマスクとして機能する加工補助膜、遮光膜、遮光膜と反射防止膜との組み合わせなどが挙げられる。第3の層の材料としては、ケイ素を含む材料が好適であり、特に、クロムを含まないものが好ましい。
【0030】
このような位相シフトマスクブランクスとして具体的には、
図2(B)に示されるものが挙げられる。
図2(B)は、本発明の位相シフトマスクブランクスの一例を示す断面図であり、この位相シフトマスクブランクス100は、透明基板10と、透明基板10上に形成された位相シフト膜1と、位相シフト膜1上に形成された第2の層2と、第2の層2上に形成された第3の層3とを備える。
【0031】
第2の層が遮光膜、又は遮光膜と反射防止膜との組み合わせである場合、第3の層として、第2の層のパターン形成においてハードマスクとして機能する加工補助膜(エッチングマスク膜)を設けることができる。また、後述する第4の層を設ける場合、この第3の層を、第4の層のパターン形成においてエッチングストッパーとして機能する加工補助膜(エッチングストッパー膜)として利用することもできる。この加工補助膜は、第2の層とエッチング特性が異なる材料、例えば、クロムを含む材料のエッチングに適用される塩素系ドライエッチングに耐性を有する材料、具体的には、SF6やCF4などのフッ素系ガスでエッチングできるケイ素を含む材料とすることが好ましい。ケイ素を含む材料として具体的には、ケイ素単体、ケイ素と、窒素及び酸素の一方又は双方とを含む材料、ケイ素と遷移金属とを含む材料、ケイ素と、窒素及び酸素の一方又は双方と、遷移金属とを含む材料等のケイ素化合物などが挙げられ、遷移金属としては、モリブデン、タンタル、ジルコニウムなどが挙げられる。
【0032】
第3の層が加工補助膜である場合、加工補助膜はケイ素化合物であることが好ましく、ケイ素化合物中のケイ素の含有率は20原子%以上、特に33原子%以上で、95原子%以下、特に80原子%以下であることが好ましい。窒素の含有率は50原子%以下、特に30原子%以下であることが好ましく、1原子%以上であることがより好ましい。酸素の含有率は70原子%以下、特に66原子%以下であることが好ましく、エッチング速度を調整する必要がある場合は1原子%以上であることがより好ましく、20原子%以上であることが更に好ましい。遷移金属は含有していても、含有していなくてもよいが、遷移金属を含有する場合、その含有率は35原子%以下、特に20原子%以下であることが好ましい。この場合、ケイ素、酸素、窒素及び遷移金属の合計の含有率は95原子%以上、特に99原子%以上、とりわけ100原子%であることが好ましい。
【0033】
第2の層が遮光膜、又は遮光膜と反射防止膜との組み合わせ、第3の層が加工補助膜である場合、第2の層の膜厚は、通常20~100nm、好ましくは40~70nmであり、第3の層の膜厚は、通常1~30nm、好ましくは2~15nmである。また、露光光に対する位相シフト膜と第2の層との合計の光学濃度が2.0以上、特に2.5以上、とりわけ3.0以上となるようにすることが好ましい。
【0034】
また、第2の層が加工補助膜である場合、第3の層として、遮光膜を設けることができる。また、第3の層として、遮光膜と反射防止膜とを組み合わせて設けることもできる。この場合、第2の層は、位相シフト膜のパターン形成においてハードマスクとして機能する加工補助膜(エッチングマスク膜)であり、第3の層のパターン形成においてエッチングストッパーとして機能する加工補助膜(エッチングストッパー膜)として利用することもできる。加工補助膜の例としては、特開2007-241065号公報(特許文献4)で示されているようなクロムを含む材料で構成された膜が挙げられる。加工補助膜は、単層で構成しても、複数層で構成してもよい。加工補助膜のクロムを含む材料としては、クロム単体、クロム酸化物(CrO)、クロム窒化物(CrN)、クロム炭化物(CrC)、クロム酸化窒化物(CrON)、クロム酸化炭化物(CrOC)、クロム窒化炭化物(CrNC)、クロム酸化窒化炭化物(CrONC)等のクロム化合物などが挙げられる。
【0035】
第2の層が加工補助膜である場合、第2の層のクロム化合物中のクロムの含有率は40原子%以上、特に50原子%以上で、100原子%以下、特に99原子%以下、とりわけ90原子%以下であることが好ましい。酸素の含有率は60原子%以下、特に55原子%以下であることが好ましく、エッチング速度を調整する必要がある場合は1原子%以上であることがより好ましい。窒素の含有率は50原子%以下、特に40原子%以下であることが好ましく、1原子%以上であることがより好ましい。炭素の含有率は20原子%以下、特に10原子%以下であることが好ましく、エッチング速度を調整する必要がある場合は1原子%以上であることがより好ましい。この場合、クロム、酸素、窒素及び炭素の合計の含有率は95原子%以上、特に99原子%以上、とりわけ100原子%であることが好ましい。
【0036】
一方、第3の層の遮光膜及び反射防止膜は、第2の層とエッチング特性が異なる材料、例えば、クロムを含む材料のエッチングに適用される塩素系ドライエッチングに耐性を有する材料、具体的には、SF6やCF4などのフッ素系ガスでエッチングできるケイ素を含む材料とすることが好ましい。ケイ素を含む材料として具体的には、ケイ素単体、ケイ素と、窒素及び酸素の一方又は双方とを含む材料、ケイ素と遷移金属とを含む材料、ケイ素と、窒素及び酸素の一方又は双方と、遷移金属とを含む材料等のケイ素化合物などが挙げられ、遷移金属としては、モリブデン、タンタル、ジルコニウムなどが挙げられる。
【0037】
第3の層が遮光膜、又は遮光膜と反射防止膜との組み合わせである場合、遮光膜及び反射防止膜はケイ素化合物であることが好ましく、ケイ素化合物中のケイ素の含有率は10原子%以上、特に30原子%以上で、100原子%未満、特に95原子%以下であることが好ましい。窒素の含有率は50原子%以下、特に40原子%以下、とりわけ20原子%以下であることが好ましく、エッチング速度を調整する必要がある場合は1原子%以上であることがより好ましい。酸素の含有率は60原子%以下、特に30原子%以下であることが好ましく、エッチング速度を調整する必要がある場合は1原子%以上であることが好ましい。遷移金属の含有率は35原子%以下、特に20原子%以下であることが好ましく、1原子%以上であることがより好ましい。この場合、ケイ素、酸素、窒素及び遷移金属の合計の含有率は95原子%以上、特に99原子%以上、とりわけ100原子%であることが好ましい。
【0038】
第2の層が加工補助膜、第3の層が遮光膜、又は遮光膜と反射防止膜との組み合わせである場合、第2の層の膜厚は、通常1~20nm、好ましくは2~10nmであり、第3の層の膜厚は、通常20~100nm、好ましくは30~70nmである。また、露光光に対する位相シフト膜と第2の層と第3の層との合計の光学濃度が2.0以上、特に2.5以上、とりわけ3.0以上となるようにすることが好ましい。
【0039】
本発明の位相シフトマスクブランクスの第3の層の上には、単層又は複数層からなる第4の層を設けることができる。第4の層は、通常、第3の層に隣接して設けられる。この第4の層として具体的には、第3の層のパターン形成においてハードマスクとして機能する加工補助膜などが挙げられる。第4の層の材料としては、クロムを含む材料が好適である。
【0040】
このような位相シフトマスクブランクスとして具体的には、
図2(C)に示されるものが挙げられる。
図2(C)は、本発明の位相シフトマスクブランクスの一例を示す断面図であり、この位相シフトマスクブランクス100は、透明基板10と、透明基板10上に形成された位相シフト膜1と、位相シフト膜1上に形成された第2の層2と、第2の層2上に形成された第3の層3と、第3の層3上に形成された第4の層4とを備える。
【0041】
第3の層が遮光膜、又は遮光膜と反射防止膜との組み合わせである場合、第4の層として、第3の層のパターン形成においてハードマスクとして機能する加工補助膜(エッチングマスク膜)を設けることができる。この加工補助膜は、第3の層とエッチング特性が異なる材料、例えば、ケイ素を含む材料のエッチングに適用されるフッ素系ドライエッチングに耐性を有する材料、具体的には、酸素を含有する塩素系ガスでエッチングできるクロムを含む材料とすることが好ましい。クロムを含む材料として具体的には、クロム単体、クロム酸化物(CrO)、クロム窒化物(CrN)、クロム炭化物(CrC)、クロム酸化窒化物(CrON)、クロム酸化炭化物(CrOC)、クロム窒化炭化物(CrNC)、クロム酸化窒化炭化物(CrONC)等のクロム化合物などが挙げられる。
【0042】
第4の層が加工補助膜である場合、第4の層中のクロムの含有率は40原子%以上、特に50原子%以上で、100原子%以下、特に99原子%以下、とりわけ90原子%以下であることが好ましい。酸素の含有率は60原子%以下、特に40原子%以下であることが好ましく、エッチング速度を調整する必要がある場合は1原子%以上であることがより好ましい。窒素の含有率は50原子%以下、特に40原子%以下であることが好ましく、エッチング速度を調整する必要がある場合は1原子%以上であることがより好ましい。炭素の含有率は20原子%以下、特に10原子%以下であることが好ましく、エッチング速度を調整する必要がある場合は1原子%以上であることがより好ましい。この場合、クロム、酸素、窒素及び炭素の合計の含有率は95原子%以上、特に99原子%以上、とりわけ100原子%であることが好ましい。
【0043】
第2の層が加工補助膜、第3の層が遮光膜、又は遮光膜と反射防止膜との組み合わせ、第4の層が加工補助膜である場合、第2の層の膜厚は、通常1~20nm、好ましくは2~10nmであり、第3の層の膜厚は、通常20~100nm、好ましくは30~70nmであり、第4の層の膜厚は、通常1~30nm、好ましくは2~20nmである。また、露光光に対する位相シフト膜と第2の層と第3の層との合計の光学濃度が2.0以上、特に2.5以上、とりわけ3.0以上となるようにすることが好ましい。
【0044】
第2の層及び第4の層のクロムを含む材料で構成された膜は、クロムターゲット、クロムに酸素、窒素及び炭素から選ばれるいずれか1種又は2種以上を添加したターゲットなどを用い、Ar、He、Neなどの希ガスに、成膜する膜の組成に応じて、酸素含有ガス、窒素含有ガス、炭素含有ガスなどから選ばれる反応性ガスを適宜添加したスパッタガスを用いた反応性スパッタにより成膜することができる。
【0045】
一方、第3の層のケイ素を含む材料で構成された膜は、ケイ素ターゲット、窒化ケイ素ターゲット、ケイ素と窒化ケイ素の双方を含むターゲット、遷移金属ターゲット、ケイ素と遷移金属との複合ターゲットなどを用い、Ar、He、Neなどの希ガスに、成膜する膜の組成に応じて、酸素含有ガス、窒素含有ガス、炭素含有ガスなどから選ばれる反応性ガスを適宜添加したスパッタガスを用いた反応性スパッタにより成膜することができる。
【0046】
本発明の位相シフトマスクは、位相シフトマスクブランクスから、常法により製造することができる。例えば、位相シフト膜の上に、第2の層として、クロムを含む材料の膜が形成されている位相シフトマスクブランクスでは、例えば、下記の工程で位相シフトマスクを製造することができる。
【0047】
まず、位相シフトマスクブランクスの第2の層上に、電子線レジスト膜を成膜し、電子線によるパターン描画を行った後、所定の現像操作によってレジストパターンを得る。次に、得られたレジストパターンをエッチングマスクとして、酸素を含有する塩素系ドライエッチングにより、第2の層にレジストパターンを転写して、第2の層のパターンを得る。次に、得られた第2の層のパターンをエッチングマスクとして、フッ素系ドライエッチングにより、位相シフト膜に第2の層のパターンを転写して、位相シフト膜パターンを得る。ここで、第2の層の一部を残す必要がある場合は、その部分を保護するレジストパターンを、第2の層の上に形成した後、酸素を含有する塩素系ドライエッチングにより、レジストパターンで保護されていない部分の第2の層を除去する。そして、レジストパターンを常法により除去して、位相シフトマスクを得ることができる。
【0048】
また、位相シフト膜の上に、第2の層として、クロムを含む材料の遮光膜、又は遮光膜と反射防止膜との組み合わせが形成され、第2の層の上に、第3の層として、ケイ素を含む材料の加工補助膜が形成されている位相シフトマスクブランクスでは、例えば、下記の工程で位相シフトマスクを製造することができる。
【0049】
まず、位相シフトマスクブランクスの第3の層の上に、電子線レジスト膜を成膜し、電子線によるパターン描画を行った後、所定の現像操作によってレジストパターンを得る。次に、得られたレジストパターンをエッチングマスクとして、フッ素系ドライエッチングにより、第3の層にレジストパターンを転写して、第3の層のパターンを得る。次に、得られた第3の層のパターンをエッチングマスクとして、酸素を含有する塩素系ドライエッチングにより、第2の層に第3の層のパターンを転写して、第2の層のパターンを得る。次に、レジストパターンを除去した後、得られた第2の層のパターンをエッチングマスクとして、フッ素系ドライエッチングにより、位相シフト膜に第2の層のパターンを転写して、位相シフト膜パターンを得ると同時に、第3の層のパターンを除去する。次に、第2の層を残す部分を保護するレジストパターンを、第2の層の上に形成した後、酸素を含有する塩素系ドライエッチングにより、レジストパターンで保護されていない部分の第2の層を除去する。そして、レジストパターンを常法により除去して、位相シフトマスクを得ることができる。
【0050】
一方、位相シフト膜の上に、第2の層として、クロムを含む材料の加工補助膜が形成され、第2の層の上に、第3の層として、ケイ素を含む材料の遮光膜、又は遮光膜と反射防止膜との組み合わせが形成されている位相シフトマスクブランクスでは、例えば、下記の工程で位相シフトマスクを製造することができる。
【0051】
まず、位相シフトマスクブランクスの第3の層の上に、電子線レジスト膜を成膜し、電子線によるパターン描画を行った後、所定の現像操作によってレジストパターンを得る。次に、得られたレジストパターンをエッチングマスクとして、フッ素系ドライエッチングにより、第3の層にレジストパターンを転写して、第3の層のパターンを得る。次に、得られた第3の層のパターンをエッチングマスクとして、酸素を含有する塩素系ドライエッチングにより、第2の層に第3の層のパターンを転写して、位相シフト膜を除去する部分の第2の層が除去された第2の層のパターンを得る。次に、レジストパターンを除去し、第3の層を残す部分を保護するレジストパターンを、第3の層の上に形成した後、得られた第2の層のパターンをエッチングマスクとして、フッ素系ドライエッチングにより、位相シフト膜に第2の層のパターンを転写して、位相シフト膜パターンを得ると同時に、レジストパターンで保護されていない部分の第3の層を除去する。次に、レジストパターンを常法により除去する。そして、酸素を含有する塩素系ドライエッチングにより、第3の層が除去された部分の第2の層を除去して、位相シフトマスクを得ることができる。
【0052】
更に、位相シフト膜の上に、第2の層として、クロムを含む材料の加工補助膜が形成され、第2の層の上に、第3の層として、ケイ素を含む材料の遮光膜、又は遮光膜と反射防止膜との組み合わせが形成され、更に、第3の層の上に、第4の層として、クロムを含む材料の加工補助膜が形成されている位相シフトマスクブランクスでは、例えば、下記の工程で位相シフトマスクを製造することができる。
【0053】
まず、位相シフトマスクブランクスの第4の層の上に、電子線レジスト膜を成膜し、電子線によるパターン描画を行った後、所定の現像操作によってレジストパターンを得る。次に、得られたレジストパターンをエッチングマスクとして、酸素を含有する塩素系ドライエッチングにより、第4の層にレジストパターンを転写して、第4の層のパターンを得る。次に、得られた第4の層のパターンをエッチングマスクとして、フッ素系ドライエッチングにより、第3の層に第4の層のパターンを転写して、第3の層のパターンを得る。次に、レジストパターンを除去し、第3の層を残す部分を保護するレジストパターンを、第4の層の上に形成した後、得られた第3の層のパターンをエッチングマスクとして、酸素を含有する塩素系ドライエッチングにより、第2の層に第3の層のパターンを転写して第2の層のパターンを得ると同時に、レジストパターンで保護されていない部分の第4の層を除去する。次に、第2の層のパターンをエッチングマスクとして、フッ素系ドライエッチングにより、位相シフト膜に第2の層のパターンを転写して、位相シフト膜パターンを得ると同時に、レジストパターンで保護されていない部分の第3の層を除去する。次に、レジストパターンを常法により除去する。そして、酸素を含有する塩素系ドライエッチングにより、第3の層が除去された部分の第2の層と、レジストパターンが除去された部分の第4の層を除去して、位相シフトマスクを得ることができる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例及び比較例を示して、本発明を具体的に説明するが、本発明は、下記の実施例に制限されるものではない。
【0055】
[実施例1]
スパッタ装置のチャンバー内に、152mm角、厚さ6.35mmの6025石英基板を設置し、スパッタターゲットとしてケイ素ターゲット、スパッタガスとしてアルゴンガス、窒素ガスを用い、放電電力を1.9kW、アルゴンガス流量を28sccm(固定)とし、窒素ガス流量を19から40sccmまでの間で設定し、SiNからなり、組成が異なる単層の位相シフト膜を8種成膜した。
【0056】
これら膜のKrFエキシマレーザ(波長248nm)に対する光学定数である、屈折率n及び消衰係数kを求めた。窒素ガス流量に対する屈折率n及び消衰係数kの値をプロットしたグラフを、各々、
図3及び
図4に示す。また、これらの膜の組成をXPS(X線光電子分光分析法、以下同じ)で測定した。N/(Si+N)の値(原子比)に対する屈折率nの値をプロットしたグラフを
図5に示す。
図5から、屈折率nが最も高くなる流量が、N/(Si+N)の値が0.47前後であることがわかった。
【0057】
次に、スパッタ装置のチャンバー内に、152mm角、厚さ6.35mmの6025石英基板を設置し、スパッタターゲットとしてケイ素ターゲット、スパッタガスとしてアルゴンガス、窒素ガスを用い、放電電力を1.9kW、アルゴンガス流量を28sccm、窒素ガス流量を27sccmに設定して、SiNからなる単層の位相シフト膜を成膜した。
【0058】
この位相シフト膜のKrFエキシマレーザー(波長248nm)に対する、屈折率nは2.60、消衰係数kは0.70であり、位相差は177°、透過率は4.5%で、厚さは79nmであった。また、この膜の組成をXPSで測定したところ、N/(Si+N)の値(原子比)は0.49であった。
【0059】
[実施例2]
スパッタ装置のチャンバー内に、152mm角、厚さ6.35mmの6025石英基板を設置し、スパッタターゲットとしてケイ素ターゲット、スパッタガスとしてアルゴンガス、窒素ガスを用い、放電電力を1.9kW、アルゴンガス流量を17sccm(固定)とし、窒素ガス流量を10から30sccmまでの間で設定し、SiNからなり、組成が異なる単層の位相シフト膜を8種成膜した。
【0060】
これら膜のKrFエキシマレーザ(波長248nm)に対する光学定数である、屈折率n及び消衰係数kを求め、また、これらの膜の組成をXPSで測定し、実施例1と同様にして確認したところ、屈折率nが最も高くなる流量が、N/(Si+N)の値が0.47前後であることがわかった。
【0061】
次に、スパッタ装置のチャンバー内に、152mm角、厚さ6.35mmの6025石英基板を設置し、スパッタターゲットとしてケイ素ターゲット、スパッタガスとしてアルゴンガス、窒素ガスを用い、放電電力を1.9kW、アルゴンガス流量を17sccm、窒素ガス流量を27sccmに設定して、SiNからなる単層の位相シフト膜を成膜した。
【0062】
この位相シフト膜のKrFエキシマレーザー(波長248nm)に対する、屈折率nは2.60、消衰係数kは0.60であり、位相差は179°、透過率は6.7%で、厚さは80nmであった。また、この膜の組成をXPSで測定したところ、N/(Si+N)の値(原子比)は0.50であった。
【0063】
[実施例3]
スパッタ装置のチャンバー内に、152mm角、厚さ6.35mmの6025石英基板を設置し、スパッタターゲットとしてケイ素ターゲット、スパッタガスとしてアルゴンガス、窒素ガス、酸素ガスを用い、放電電力を1.9kW、アルゴンガス流量を28sccm、窒素ガス流量を26sccm、酸素ガス流量を1.5sccmに設定して、SiONからなる単層の位相シフト膜を成膜した。
【0064】
この位相シフト膜のKrFエキシマレーザー(波長248nm)に対する、屈折率nは2.52、消衰係数kは0.56であり、位相差は178°、透過率は7.3%で、厚さは83nmであった。また、この膜の組成をXPSで測定したところ、N/(Si+N)の値(原子比)は0.49であり、酸素の含有率は2原子%であった。
【0065】
[比較例1]
スパッタ装置のチャンバー内に、152mm角、厚さ6.35mmの6025石英基板を設置し、スパッタターゲットとしてケイ素ターゲット、スパッタガスとしてアルゴンガス、窒素ガスを用い、放電電力を1.9kW、アルゴンガス流量を28sccm、窒素ガス流量を19sccmに設定して、SiNからなる下層(厚さ27nm)と、窒素ガス流量を35sccmに設定して、SiNからなる上層(厚さ64nm)の2層からなる位相シフト膜を成膜した。
【0066】
この位相シフト膜のKrFエキシマレーザー(波長248nm)に対する、屈折率nは、下層が2.45、上層が2.38、消衰係数kは、下層が1.5、上層が0.07であり、位相差は177°、透過率は6.2%であったが、厚さは91nmと厚かった。また、この膜の組成をXPSで測定したところ、N/(Si+N)の値(原子比)は、下層が0.40、上層が0.53であった。
【0067】
[比較例2]
スパッタ装置のチャンバー内に、152mm角、厚さ6.35mmの6025石英基板を設置し、スパッタターゲットとしてケイ素ターゲット、スパッタガスとしてアルゴンガス、窒素ガスを用い、放電電力を1.9kW、アルゴンガス流量を28sccm、窒素ガス流量を19から45sccmまで連続的に変化させることで、組成が厚さ方向に連続的に変化するSiNからなり、光学特性が厚さ方向に連続的に変化する組成傾斜層からなる単層の位相シフト膜を成膜した。
【0068】
この位相シフト膜のKrFエキシマレーザー(波長248nm)に対する、屈折率nは、石英基板に接する側の下面部で2.45、石英基板から離間する側の上面部で2.33、消衰係数kは、石英基板に接する側の下面部で1.5、石英基板に接する側の下面部で0.05であり、位相差は177°、透過率は6.0%であったが、厚さ87nmと厚かった。また、この膜の組成をXPSで測定したところ、N/(Si+N)の値(原子比)は、石英基板に接する側の下面部で0.40、石英基板から離間する側の上面部で0.53であった。
【0069】
[比較例3]
スパッタ装置のチャンバー内に、152mm角、厚さ6.35mmの6025石英基板を設置し、スパッタターゲットとしてモリブデンケイ素(MoSi)ターゲットとケイ素ターゲット、スパッタガスとしてアルゴンガス、窒素ガス、酸素ガスを用い、MoSiターゲットの放電電力を1.2kW、ケイ素ターゲットの放電電力を8kW、アルゴンガス流量を5sccmとし、窒素ガス流量を65sccm、酸素ガス流量を2.5sccmとすることで、MoSiONからなる単層の位相シフト膜を成膜した。
【0070】
この位相シフト膜のKrFエキシマレーザー(波長248nm)に対する、屈折率nは2.25、消衰係数kは0.52であり、位相差は175°、透過率は6.2%であったが、厚さは99nmと厚かった。また、この膜の組成をXPSで測定したところ、モリブデンが14原子%含まれており、N/(Si+N)の値(原子比)は0.56であった。
【符号の説明】
【0071】
1 位相シフト膜
2 第2の層
3 第3の層
4 第4の層
10 透明基板
11 位相シフト膜パターン
100 位相シフトマスクブランクス
101 位相シフトマスク