(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】ネットワーク選択システム、装置、方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
H04W 48/16 20090101AFI20241112BHJP
H04W 36/32 20090101ALI20241112BHJP
H04W 8/02 20090101ALI20241112BHJP
H04W 76/10 20180101ALI20241112BHJP
H04W 88/14 20090101ALI20241112BHJP
【FI】
H04W48/16 134
H04W36/32
H04W8/02
H04W76/10
H04W88/14
(21)【出願番号】P 2023500216
(86)(22)【出願日】2021-02-18
(86)【国際出願番号】 JP2021006112
(87)【国際公開番号】W WO2022176102
(87)【国際公開日】2022-08-25
【審査請求日】2023-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】小野 央也
(72)【発明者】
【氏名】坂上 裕希
(72)【発明者】
【氏名】阿部 拓也
【審査官】松野 吉宏
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-517651(JP,A)
【文献】国際公開第2008/053954(WO,A1)
【文献】特開2008-011573(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/24 - 7/26
H04W 4/00 - 99/00
3GPP TSG RAN WG1-4
SA WG1-4
CT WG1、4
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
各ユーザ端末の接続先のネットワークを選択するネットワーク選択装置を備えるネットワーク選択システムにおいて、
ユーザ端末の位置情報に応じた互いに異なるエリアを管轄する複数のネットワーク選択装置を備え、
各ネットワーク選択装置が、自装置の管轄するエリア内に存在するユーザ端末に対して、当該ユーザ端末から通知される位置情報に基づき、当該ユーザ端末の移動先のエリアを管轄するネットワーク選択装置のネットワーク上のアドレスを通知
し、
各ネットワーク選択装置は、ユーザ端末の移動先のエリアを管轄するネットワーク選択装置に、前記アドレスを通知したユーザ端末の端末情報を転送し、
ユーザ端末の移動先のエリアを管轄するネットワーク選択装置は、前記端末情報を取得し、通知された前記アドレスに基づくユーザ端末からの問い合わせに応じて、取得した前記端末情報を用いて、自装置の管轄するエリア内において当該ユーザ端末と接続するネットワークを決定する、
ネットワーク選択システム。
【請求項2】
各ユーザ端末の接続先のネットワークを選択するネットワーク選択装置を備えるネットワーク選択システムにおいて、
前記ネットワーク選択システムは、ユーザ端末の位置情報に応じた互いに異なるエリアを管轄する複数のネットワーク選択装置を備え、
各ネットワーク選択装置が、自装置の管轄するエリア内に存在するユーザ端末に対して、当該ユーザ端末から通知される位置情報に基づき、当該ユーザ端末の移動先のエリアを管轄するネットワーク選択装置のネットワーク上のアドレスを通知
し、
各ネットワーク選択装置は、ユーザ端末の移動先のエリアを管轄するネットワーク選択装置に、前記アドレスを通知したユーザ端末の端末情報を転送し、
ユーザ端末の移動先のエリアを管轄するネットワーク選択装置は、前記端末情報を取得し、通知された前記アドレスに基づくユーザ端末からの問い合わせに応じて、取得した前記端末情報を用いて、自装置の管轄するエリア内において当該ユーザ端末と接続するネットワークを決定する、
ネットワーク選択方法。
【請求項3】
ユーザ端末の接続先のネットワークを選択するネットワーク選択装置であって、
ユーザ端末の位置情報に応じて予め定められたエリアを管轄し、
自装置の管轄するエリア内に存在するユーザ端末が、他のエリアを管轄する他のネットワーク選択装置のエリア内に移動する場合、
自装置の管轄するエリア内に存在するユーザ端末に対して、当該ユーザ端末から通知される位置情報に基づき、当該ユーザ端末の移動先のエリアを管轄する
他のネットワーク選択装置のネットワーク上のアドレスを通知
し、
ユーザ端末の移動先のエリアを管轄する他のネットワーク選択装置に、移動先のエリアを管轄する他のネットワーク端末の前記アドレスを通知したユーザ端末の端末情報を転送し、
他のエリアを管轄する他のネットワーク装置のエリア内に存在するユーザ端末が、自装置の管轄するエリア内に移動する場合、
他のエリアを管轄する他のネットワーク装置から、当該他のネットワーク装置により移動先の自装置のネットワーク上のアドレスを通知されるユーザ端末の端末情報を取得し、
通知された自装置の前記アドレスに基づくユーザ端末からの問い合わせに応じて、取得した当該ユーザ端末の前記端末情報を用いて、自装置の管轄するエリア内において当該ユーザ端末と接続するネットワークを決定する、
ネットワーク選択装置。
【請求項4】
請求項
3に記載のネットワーク選択装置に備わる各機能部としてコンピュータを実現するためのネットワーク選択プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクセスネットワークの選択方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ユーザ端末がネットワークサービスを利用するとき、通信キャリアの提供する通信回線を利用することがある。利用できるものとして、光回線や無線通信回線など様々なアクセス手段およびネットワーク(以下、NWを表記する場合がある。)が存在する。例えば、光回線の場合、IEEE 802.3(イーサネット)(イーサネットは登録商標)や ITU-T G.983/G.984/G.987/G.989等の通信規格が存在する。無線通信回線の場合、3GPP 36Series(LTE,5G)やIEEE802.11(無線LAN)、IEEE 802.16(WiMAX)等の通信規格が存在する。
【0003】
ユーザ端末は、複数の通信規格や通信回線を使い分けて通信ができる。例えば、スマートホンは、LTEと無線LAN、Bluetoothのどれを利用するかユーザ端末が選択することができる。また、eSIMなどを利用して、同一の通信規格を利用した異種キャリアの回線を使い分けることも可能である。(例えば、非特許文献1を参照。)
【0004】
非特許文献1では、各アクセスネットワークは帯域や遅延等の通信品質が異なっているため、これらをアプリケーションに応じて適切に使い分けることで、利用アプリケーションの品質を向上させることが可能となる。しかしながら、多くの場合で適切なアクセス手段選択は行われていない。その原因として、ユーザ端末がアクセスネットワーク毎の特徴を理解できておらず、不適切なNW選択を実施してしまうことや、複数ユーザ端末の偏ったアクセス手段・NW選択によって、ユーザ端末間の干渉が生じていることが挙げられる。以上のことから、複数のアクセス手段を持つにもかかわらず、系全体での通信資源の有効利用やユーザ端末の満足度向上が達成できない課題がある。
【0005】
非特許文献1の課題問題の解決手法として、
図1に示すようなユーザ端末92と接続されるNW81#1~81#3の上位にオーバーレイNW82及びインターネット83が接続されているネットワークシステムにおいて、ユーザ端末92が利用するアクセス手段をオーバーレイNW82等に存在する最適化エンジンが集中管理し、最適に選択させる手法が提案されている(例えば、非特許文献2及び3参照。)。この方法は、NW81#1~81#3に関するユーザの理解度に依存しない自動選択制御であるとともに、複数ユーザ端末間のNW選択の競合が起きないようにするなど、ユーザ端末92と接続するNW81#1~81#3を最適化できることが期待されている。
【0006】
本技術を通じてアクセスNWの選択を行うことを想定すると、必要な処理は大まかに4つのステップに分けられる。
初めに、ユーザ端末から最適化エンジンへ、最適化に必要な情報を通知するステップであり、ここではユーザ端末から見た周辺アクセス手段の電波環境や、ユーザ端末自身の位置情報などが最適化エンジンへ送付される。
次の2つ目のステップでは、最適化エンジンが、ユーザ端末群が接続すべき最適なNWを導出する。ここでは最適化エンジンが最適化する変数は、ユーザ端末群の接続先組み合わせである。
3つ目のステップでは最適化エンジンが、各ユーザ端末の最適接続NWを、ユーザ端末群へ送付する。
最後に、最適接続NWの通知を受けたユーザ端末は必要に応じて該当のアクセスNWへ切替処理を行う。
【0007】
本技術はユーザ端末群のアクセス手段を集中管理するものであり、2つ目のステップにおいて、最適化エンジンは組み合わせ最適化問題を解く必要がある。一般的に、組み合わせ最適化問題を解くには、必要な演算量が膨大となる。このことから、一つの最適化エンジンが管理できる物理的なエリアサイズは制限されることが想定され、各最適化エンジンはそれぞれ管理できる物理的なエリアが決まってしまう。
【0008】
ユーザ端末はその位置情報に応じて、そのエリアを管轄する適切な最適化エンジンと前記2つ目のステップを実行する必要がある。しかしながら、ユーザ端末の位置情報を基に、管轄エリアの分かれた複数の最適化エンジンから適切なものを選択・通信する仕組みは提案されていない。また、その実現手法は、ユーザ端末の移動に対して、NW処理・端末処理負荷を抑えつつも短時間で該当最適化エンジンを発見・切り替えできるものであることが望ましい。
【0009】
例えば、ユーザ端末が多数の最適化エンジンのIPアドレスをすべて記憶しておき通信可能な最適化エンジンをNW上で探索しようとすると、ユーザ端末負荷やNW負荷が増大してしまう。また、最適化エンジンの数が少なく、その発見が素早く行えたとしても、新たな最適化エンジンとの通信は再び1つ目のステップから開始されることとなるため、エリア移動を伴わない場合と比べて接続NWが最適化されるまでの所要時間は長くなることが懸念され、効率的なハンドオーバーではない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【文献】“Implementing eSIM” https://source.android.google.cn/devices/tech/connect/esim-overview
【文献】小野, “ベイズ最適化を用いたマルチアクセス環境における最適ユーザ収容アルゴリズムの検討”, 電子情報通信学会 総合大会2020, B6-26, 2020年3月https://www.ieice-taikai.jp/2020general/jpn/webpro/_html/cs.html
【文献】I. B. Dhia, “Optimization of Access Points Selection and Resource Allocation in Heterogeneous Wireless Network”, 28 th Annual International Symposium on Personal Indoor Mobile Radio Communications(PIMRC), 2017, Montreal , QC, Canada
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本開示は、ユーザ端末毎に適切な最適化エンジンによる接続先選択処理の実行を可能とし、広範囲なネットワークにおける接続先の最適化を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示のネットワーク選択システム及びネットワーク選択方法は、
各ユーザ端末の接続先のネットワークを選択するネットワーク選択装置を備えるネットワーク選択システムにおいて、
ユーザ端末の位置情報に応じた互いに異なるエリアを管轄する複数のネットワーク選択装置を備え、
各ネットワーク選択装置が、自装置の管轄するエリア内に存在するユーザ端末に対して、当該ユーザ端末から通知される位置情報に基づき、当該ユーザ端末の移動先のエリアを管轄するネットワーク選択装置のネットワーク上のアドレスを通知する。
【0013】
本開示のネットワーク選択装置は、
ユーザ端末の接続先のネットワークを選択するネットワーク選択装置であって、
ユーザ端末の位置情報に応じて予め定められたエリアを管轄し、
自装置の管轄するエリア内に存在するユーザ端末に対して、当該ユーザ端末から通知される位置情報に基づき、当該ユーザ端末の移動先のエリアを管轄するネットワーク選択装置のネットワーク上のアドレスを通知する。
【0014】
本開示のネットワーク選択プログラムは、本開示に係るネットワーク選択装置に備わる各機能部としてコンピュータを実現させるためのプログラムであり、本開示に係るネットワーク選択装置が実行するネットワーク選択方法に備わる各ステップをコンピュータに実行させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、ユーザ端末毎に適切な最適化エンジンによる接続先選択処理を実行することができ、広範囲なネットワークにおける接続先の最適化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図3】本開示のネットワーク選択システムにおける機能ブロックの一例を示す。
【
図4】ユーザ端末がエリアの移動を行うときの制御の一例を示すフローチャートである。
【
図5】最適化エンジンがユーザ端末の位置情報から管轄エリア内であるか否かを判別する方法の説明図である。
【
図7】最適化エンジンの管轄エリアが重なっている場合の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本開示は、以下に示す実施形態に限定されるものではない。これらの実施の例は例示に過ぎず、本開示は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0018】
(本開示のポイント)
本開示のネットワーク選択システムは、
図1に示すように、ユーザ端末92と接続可能なNW81#1~NW81#3を備え、NW81#1~NW81#3の上位にオーバーレイNW82が接続されている。オーバーレイNW82の上位には、インターネット83が接続されていてもよい。オーバーレイNW82に最適化エンジン91が配置される。
【0019】
図2に、本開示の概略を示す。本開示のネットワーク選択システムは、エリアごとに最適化エンジン91が備わる。例えば、ユーザ端末92が最適化エンジン91#1の管轄するエリア#1から最適化エンジン91#2の管轄するエリア#2に移動する。このように、接続先の最適化エンジン91が分散配置されているとき、ユーザ端末92の位置移動に伴って、移動先エリアを管轄する最適化エンジン91#2のネットワーク上のアドレスを通知することで、適切な最適化エンジン91とのNW選択シーケンス実行を可能とする。具体的には、以下のような方法が例示できる。
【0020】
最適化エンジン91は、自身の管轄エリアを示す位置座標を保持しておき、ユーザ端末92が通知する端末情報内にある位置情報が、その管轄エリアを逸脱していた場合は、そのユーザ端末92の位置座標をカバーする最適化エンジン91に、NW選択シーケンスを実行するようを指示する。
【0021】
最適化エンジン91#1は、自身の管轄するエリア#1に隣接するエリア#2を管轄する最適化エンジン91#2を、その管轄エリアと併せて記憶しておき、ユーザ端末92から通知された端末情報に基づいて、新たにユーザ端末92がやり取りすべき最適化エンジン91#2を決定する。
【0022】
この時、過去にやり取りしていた最適化エンジン91#1はユーザ端末92の最適接続NW導出を行わず、新たにやり取りする最適化エンジン91#2のアドレスのみをユーザ端末92に通知する。
【0023】
また、ユーザ端末92からすでに取得した端末情報は、新たにユーザ端末92とやり取りする最適化エンジン91#2へ転送し、端末情報を新たに受け取った最適化エンジン91#2が、ユーザ端末92の最適NWを導出する。
【0024】
また、移動先エリアを管轄する最適化エンジン91#2は、移動元を管轄する最適化エンジン91#1から、ユーザ端末92の最新のIPアドレスを取得しておき、最適接続NW導出後にユーザ端末92へ即座に通知可能とする。
【0025】
(本開示による効果)
接続先の最適化エンジン91を分散配置してもNW選択シーケンスを矛盾なく実行させるとともに、最適化エンジン91のスケールアウトの規模に依存せず、軽量処理によって通信先の最適化エンジン91の変更を実現する。これにより、広範囲で動的な利用NW最適化が実現でき、付随してアプリケーション品質の向上を実現することができる。
【0026】
図2及び以下の実施形態では、本開示の一例として、ネットワーク選択システムが2つの最適化エンジン91を備える例を示すが、最適化エンジン91の数は2以上の任意の数でありうる。以下の説明においては、最適化エンジン91#1及び91#2を区別する必要のない場合には、最適化エンジン91と記載する。
【0027】
図3に、本開示のネットワーク選択システムにおける機能ブロックの一例を示す。
本実施形態におけるユーザ端末92は、本開示の通信装置として機能し、端末情報通知機能部21、ネットワーク選択機能部22、及び利用エンジン記憶部23を備える。ユーザ端末92はコンピュータとプログラムによっても実現でき、プログラムを記録媒体に記録することも、ネットワークを通して提供することも可能である。
【0028】
端末情報通知機能部21は、端末情報を最適化エンジン91へ通知する。ここで、端末情報は、最適化エンジン91が利用可能な任意の情報であり、ユーザ端末92の位置情報を含む。端末情報は、ユーザ端末92の周辺の電波環境情報、ユーザ端末92の利用アプリケーション、ユーザ端末92の利用可能なアクセス手段を含んでいてもよい。
ネットワーク選択機能部22は、最適化エンジン91からの指示を受けて、自装置の利用するネットワーク81を切り替える。
利用エンジン記憶部23は、最適アクセス手段を問い合わせる最適化エンジン91のネットワーク上のアドレスを記憶する。ネットワーク上のアドレスは、ネットワーク上において最適化エンジン91を特定可能な任意の識別情報であり、例えば、IPアドレス又はDNS(Domain Name System)アドレスが含まれる。
【0029】
本実施形態における最適化エンジン91は、本開示のネットワーク選択装置として機能し、情報集約機能部11、エリア移動通知機能部12、管轄エリアフィルタ13、探索候補選択機能部14、品質推定機能部15、目的関数評価機能部16、評価結果判断機能部17、最適ネットワーク通知機能部18を備える。最適化エンジン91はコンピュータとプログラムによっても実現でき、プログラムを記録媒体に記録することも、ネットワークを通して提供することも可能である。
【0030】
情報集約機能部11は、ユーザ端末92の端末情報通知機能部21からの端末情報や、隣接する最適化エンジン91からの最適化エンジン情報を集約する。最適化エンジン情報は、最適化エンジン91の位置情報、ネットワーク上のアドレス、最適化エンジン91の管轄エリア、を含む。
管轄エリアフィルタ13は、自身の管轄エリアを記憶し、ユーザ端末92の位置情報から管轄エリア内のユーザ端末92と管轄エリア外のユーザ端末92を分別する。
エリア移動通知機能部12は、自身の管轄エリア外のユーザ端末92について、ユーザ端末92への最適化エンジン91の変更通知を行い、隣接する最適化エンジン91に端末情報の引継ぎを行う。
探索候補選択機能部14は、実現しうるユーザ端末92の接続パターンの中から候補となる接続パターンを抽出する。
品質推定機能部15は、候補となる接続パターンについて、品質のシミュレーションもしくは推定を行う。
目的関数評価機能部16は、各ユーザ端末92の通信品質などを基に、目的関数の値を導出する。
評価結果判断機能部17は、再度選択肢の探索を行うか、或いは終了するか、を判断する。
最適ネットワーク通知機能部18は、導出した最適なネットワーク81をユーザ端末92へ通知する。
【0031】
図4は、ユーザ端末92が最適化エンジンの管轄エリア移動を行うときの制御の一例をフローチャート化したものである。例として、最適化エンジン91#1がエリア#1を管轄し、最適化エンジン91#2がエリア#2を管轄している状況を考える。ユーザ端末92Aはエリア#1から#2へ移動した直後であるとし、ユーザ端末92Bは直前の状態と同様にエリア#2内に存在するものとして、双方における制御フローを示した。
【0032】
ユーザ端末92A及び92Bは、それぞれ、自身が直前まで接続NWを問い合わせていた最適化エンジン91#1及び91#2に対して、位置情報、電波環境情報、利用アプリケーション情報、利用可能NWといった端末情報を通知する(S111及びS121)。
位置情報は緯度・経度を基にした2次元情報であっても、高度を含めた3次元情報でもよい。また、その位置情報を取得したタイムスタンプを加えても良い。
電波環境情報は、IEEE 802.11無線LANを例に挙げるとSSID(Service Set Identifier)のようなネットワーク名や、無線アクセスの場合にはビーコン信号の受信電波強度(RSSI)といった情報を含む。
【0033】
各最適化エンジン91#1及び91#2は、端末情報の位置情報を基に、そのユーザ端末(例えばユーザ端末92A)が自身の管轄エリア内(例ではエリア#1)に存在するか否かを検知し、管轄エリア内に存在しないユーザ端末92を抽出する(S131、S141)。ユーザ端末92Aがエリア#1に存在しない場合、最適化エンジン91#1は、管轄エリア内に存在しないユーザ端末92Aについては、位置情報を内包するエリアを管轄する最適化エンジン(例では最適化エンジン91#2)に端末情報(例ではユーザ端末92Aの情報)を転送するとともに、そのユーザ端末92Aに対しては移動先エリア(例ではエリア#2)を管轄する最適化エンジン91#2のネットワーク上のアドレスを通知する。管轄エリアの判断方法については、後述する。
【0034】
新たな最適化エンジン91のネットワーク上のアドレスを取得したユーザ端末92の利用エンジン記憶部23は、取得したアドレスを記憶する(S112)。
次回の制御フローの際には、新たに記憶した最適化エンジン91のアドレスへ、接続すべきネットワークを問い合わせる。
各最適化エンジン91は、自身の管轄エリア内のユーザ端末92について、NW選択シーケンスの実行を開始し、最適なNW接続パターンを導出する(S132、S142)。これにより、ユーザ端末92と接続するネットワークが決定される。
【0035】
最適パターン導出については、探索候補選択機能部14、品質推定機能部15、目的関数評価機能部16、評価結果判断機能部17のループ処理によって実現される。その具体的な手法は限定しないが、具体例を説明する。
探索候補選択機能部14は、ベイズ最適化のような数理最適化アルゴリズムによって実現されうる。
品質推定機能部15は、基地局のNW帯域と接続台数等が変数の数理モデルを用いた予測や、NWシミュレーション、機械学習モデルによる予測によって実現されうる。
目的関数評価機能部16では、ユーザ端末92毎で得られる予想スループットの平均値や、スループットや遅延などを元に導出したアプリケーションの体感品質(QoE: Quality of Experience)の平均値などを設定する。最適化エンジン91では、この目的関数が最大化となる、もしくは十分大きくなるような接続パターンが選ばれる。
評価結果判断機能部17は、最適化実行に対して許容できる時間や、最適化ループ回数、および実行中の目的関数の暫定評価値を閾値とするなどして、最適化プログラムを終了するか否かを判断する。
【0036】
最適化エンジン91は、管轄エリア内の各ユーザ端末92に対して、最適な接続NWを通知する(S133、S143)。この機能は、3GPPで標準化されているANDSF(Access Network Discovery and Selection Function)のメッセージフォーマットを用いて通知するなどの方法によって実現できる。
ユーザ端末92は、最適化エンジン91からの通知を受けて接続NWを切り替える(S113、S114、S123、S124)。これにより、NW選択シーケンスの実行が完了する。既存のスマートホンなどには、3GPP回線と無線LAN回線を切り替える機能や、その実現のための開発用APIが存在するため、実現可能である。
【0037】
NW選択シーケンスでは、NWの切り替えに関わる任意の最適化エンジン91及びユーザ端末92がステップを実行する。例えば、最適化エンジン91#1がユーザ端末92#Aに接続NWの切り替えを通知する場合、NW選択シーケンスでは最適化エンジン91#1がステップS132及びS133を実行し、ユーザ端末92#AがステップS113及びS114を実行する。
【0038】
図5を参照しながら、最適化エンジン91がユーザ端末92の位置情報から管轄エリア内であるか否かを判別する方法について、具体例を記述する。最適化エンジン91の管轄エリアを2次元座標における四角形で分割する状況を考える。最適化エンジン91#1の管轄エリアA
1は
【数1】
であるから、ユーザ端末92が管轄エリア内にいるか否かは、ユーザ端末92の座標を(x
user,y
user)として
【数2】
となるかによって判断できる。
【0039】
最適化エンジン91は、自身の管轄エリア端点のx,y座標(x1,x2,y1,y2)を記憶するとともに、x及びy軸の正負双方向に隣接するエリアの最適化エンジン91に関するネットワークアドレスを記憶する。
【0040】
記憶するべき配列の要素数は隣接するエリアの個数で考えると高々8つである。また、ユーザ端末92の移動速度に対して単一の最適化エンジン91のカバーエリアが小さく、短時間で複数エリアをまたぐ移動が発生しうる場合は、自身の管轄エリアから2エリア分以上離れた最適化エンジン91の位置情報やIPアドレスなどの最適化エンジン情報を記憶し、ユーザ端末92への通知に用いても良い。周囲のnエリア分離れた最適化エンジン91のIPアドレスや管轄エリアを記憶する際には、(2n+1)2-1個の最適化エンジン91の最適化エンジン情報を記憶する必要がある。
【0041】
ユーザ端末92の移動距離が非常に大きく、位置情報が最適化エンジン91の記憶する周辺のエリアを逸脱してしまうような場合には、そのユーザ端末92が存在する方向のエリアを管轄する最適化エンジン91を暫定的に管轄する最適化エンジン91とし、暫定的な最適化エンジン91は、そのユーザ端末92が存在する方向のエリアを管轄する最適化エンジン91を新たな暫定的な最適化エンジ91とする。このようにして管轄エリア間をホップすることで、ユーザ端末92の位置情報が急激に変化したような場合でも、最終的にユーザ端末92の位置情報に適した最適化エンジン91が通知される。
【0042】
また、最適化エンジン91が記憶する他の最適化エンジン91のIPアドレス、位置情報は必ずしも隣接エリアのものでなくてもよい。例えば
図6のように、最適化エンジン91#1が隣接する8つのエリアA
21~A
28を管轄する最適化エンジン情報を記憶するとともに、著しく距離の離れたエリアA
51~A
54を管轄する最適化エンジン91の情報を記憶しても良い。このように配置することで、ユーザ端末92の位置と管轄最適化エンジン91の突合をするために必要なハンドオーバー回数が抑制できる。
【0043】
仮に各最適化エンジン91が隣接する8つのエリアの最適化エンジン情報のみを保持している場合、
図6の最適化エンジン91#1の管轄するエリアA
1からユーザ端末92と該当エリアの最適化エンジン91の通信を実現させるまでに3回のハンドオーバーが必要である。一方で、最適化エンジン91#1がエリアA
1から離れたエリアA
51~A
54の最適化エンジン情報を保持している場合は、ユーザ端末92と距離の近い最適化エンジン91へのハンドオーバーを利用して2回のハンドオーバーで実現可能となる。例えば、ユーザ端末92の電源が長時間にわたってOFFの状態となっており、その間に大幅な位置の移動が行われた場合には、電源ON時のエリアは過去の最適化エンジン91の管轄エリアと大きく乖離している場合があり、そのような状況でユーザ端末92と最適化エンジン91の突合を短時間で行うことができる。また、機内モードのように長時間通信不可能な状態が続いた後に通信可能となった場合にも、本方式は適用できる。
【0044】
次に、
図7を参照して、最適化エンジン91の管轄エリアが重なっている例について説明する。この場合には、自身の管轄エリアA
1の端点の座標(
図7のx
1,x
2)を記憶するとともに、隣接する管轄エリアA
えの端点の座標(
図7のx
3,x
4)を記憶する。Y座標についても同様である。
【0045】
ユーザ端末92が複数の管轄エリアの重複部分に存在することが分かった場合、端末情報に含まれているユーザ端末92の移動速度情報を基にして帰属する最適化エンジン91を選択する方法が考えられる。例えば、ユーザ端末92の過去の位置情報を記憶しておき、過去と現在のx方向の位置変化が正の方向であった場合、最適化エンジン91#2に帰属するようハンドオーバー処理を行う。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本開示は情報通信産業に適用することができる。
【符号の説明】
【0047】
11:情報集約機能部
12:エリア移動通知機能部
13:管轄エリアフィルタ
14:探索候補選択機能部
15:品質推定機能部
16:目的関数評価機能部
17:評価結果判断機能部
18:最適ネットワーク通知機能部
21:端末情報通知機能部
22:ネットワーク選択機能部
23:利用エンジン記憶部
81:ネットワーク
82:オーバーレイネットワーク
83:インターネット
91:最適化エンジン
92:ユーザ端末