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特許7586299温度推定方法、温度推定プログラムおよび温度推定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】温度推定方法、温度推定プログラムおよび温度推定装置
(51)【国際特許分類】
   G01K 13/20 20210101AFI20241112BHJP
【FI】
G01K13/20 361C
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023516889
(86)(22)【出願日】2021-04-27
(86)【国際出願番号】 JP2021016729
(87)【国際公開番号】W WO2022230039
(87)【国際公開日】2022-11-03
【審査請求日】2023-07-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 勇三
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121669
【弁理士】
【氏名又は名称】本山 泰
(72)【発明者】
【氏名】田中 雄次郎
(72)【発明者】
【氏名】松永 大地
【審査官】岩本 太一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/245909(WO,A1)
【文献】特開昭64-043734(JP,A)
【文献】特開平06-189914(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0008149(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 1/00-19/00
A61B 5/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体の表面の温度を第1の温度センサによって計測する第1のステップと、
前記被検体から遠ざかる位置の温度を第2の温度センサによって計測する第2のステップと、
前記第1、第2の温度センサの計測結果に基づいて前記被検体の内部温度を算出する第3のステップと、
前記内部温度の確率分布を一定時間毎に算出する第4のステップと、
前記第4のステップで算出した確率の代表値が第1の閾値を超えた場合のみ、前記一定時間における前記内部温度のうち確率が前記代表値となる内部温度を正しい内部温度推定値として採用する第5のステップとを含むことを特徴とする温度推定方法。
【請求項2】
請求項1記載の温度推定方法において、
前記内部温度推定値の、直前の内部温度推定値に対する変化率が第2の閾値を超えたときから、前記確率の代表値が前記第1の閾値以下になる直前までの補正対象区間における前記内部温度推定値のそれぞれを補正対象値とする第6のステップと、
前記変化率が前記第2の閾値を最初に超えた時の直前の内部温度推定値と前記変化率が前記第2の閾値を超えた最初の補正対象値との温度差に基づいて、前記被検体の熱抵抗を算出する第7のステップと、
前記熱抵抗に基づいて前記補正対象値のそれぞれを補正した値を、正しい内部温度推定値として採用する第8のステップとをさらに含むことを特徴とする温度推定方法。
【請求項3】
請求項2記載の温度推定方法において、
前記第7のステップは、前記温度差と、前記変化率が前記第2の閾値を超えた最初の時刻の前記第1、第2の温度センサの計測結果と、前記最初の補正対象値とに基づいて、前記熱抵抗を算出するステップを含むことを特徴とする温度推定方法。
【請求項4】
請求項2または3記載の温度推定方法において、
前記第8のステップは、前記補正対象区間における各時刻の前記被検体の内部温度を、その時刻の前記第1、第2の温度センサの計測結果と、前記熱抵抗とに基づいて前記補正対象値の時刻毎に再計算し、再計算した内部温度からそれぞれ前記温度差を減じた値を、正しい内部温度推定値として採用するステップを含むことを特徴とする温度推定方法。
【請求項5】
請求項1記載の第3乃至第5のステップをコンピュータに実行させることを特徴とする温度推定プログラム。
【請求項6】
請求項2乃至4のいずれか1項に記載の第3乃至第8のステップをコンピュータに実行させることを特徴とする温度推定プログラム。
【請求項7】
被検体の表面の温度を計測するように構成された第1の温度センサと、
前記被検体から遠ざかる位置の温度を計測するように構成された第2の温度センサと、
前記第1、第2の温度センサの計測結果に基づいて前記被検体の内部温度を算出するように構成された温度算出部と、
前記内部温度の確率分布を一定時間毎に算出するように構成された確率分布算出部と、
前記確率分布算出部によって算出された確率の代表値が第1の閾値を超えた場合のみ、前記一定時間における前記内部温度のうち確率が前記代表値となる内部温度を正しい内部温度推定値として採用するように構成された第1の外乱検出部とを備えることを特徴とする温度推定装置。
【請求項8】
請求項7記載の温度推定装置において、
前記内部温度推定値の、直前の内部温度推定値に対する変化率が第2の閾値を超えたときから、前記確率の代表値が前記第1の閾値以下になる直前までの補正対象区間における前記内部温度推定値のそれぞれを補正対象値とするように構成された第2の外乱検出部と、
前記変化率が前記第2の閾値を最初に超えた時の直前の内部温度推定値と前記変化率が前記第2の閾値を超えた最初の補正対象値との温度差に基づいて、前記被検体の熱抵抗を算出するように構成された熱抵抗算出部と、
前記熱抵抗に基づいて前記補正対象値のそれぞれを補正した値を、正しい内部温度推定値として採用するように構成された温度補正部とをさらに備えることを特徴とする温度推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体等の被検体の内部温度を推定する温度推定方法、温度推定プログラムおよび温度推定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生体の深部体温を推定する方法として、特許文献1に開示された生体内温度推定方法が知られている。特許文献1に開示された方法は、図7に示すように生体100とセンサ101の熱等価回路モデルを用いて、生体100の深部体温Tcbtを推定するものである。生体100の深部体温Tcbtは、生体100の表面に、熱抵抗Rsensorを有するセンサ101を置いたとき、生体100と接するセンサ101の表面側の温度Tskinと、生体100と接する面と反対側のセンサ101の上面の温度Ttopとから、式(1)を用いて推定できる。
cbt=Tskin+Rbody×Hskin ・・・(1)
【0003】
ここで、Hskinは生体100の皮膚表面の熱流束であり、式(2)で表される。
skin=(Tskin-Ttop)/Rskin ・・・(2)
bodyは生体100の熱抵抗、Rskinはセンサ101の熱抵抗である。
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された方法では、外気への熱の輸送を定常と仮定するため、生体100に風が当たったり、生体100が走ったり、生体100が温かい場所から急に冷たい場所に移動したりした場合には、深部体温Tcbtの推定に過渡的な誤差が生じるという課題があった。
【0005】
扇風機で生体100に風を当てたときに、特許文献1に開示された方法で推定した深部体温Tcbt図8Aに示し、鼓膜温度計によって計測した真の深部体温(鼓膜温)Ttrue図8Bに示す。推定した深部体温Tcbtに誤差が生じる理由は、生体100に風が当たったときに、センサ101の上面の温度Ttopと生体100の皮膚表面の温度Tskinとがそれぞれ定常状態に落ち着く迄の時間に差があるためである。また、風が絶えず変化しているような状態では温度が定常状態に落ち着くことが期待できない。
さらに、生体100の姿勢が変化して血流が過渡的に変化すると、生体100の熱抵抗Rbodyも揺らぐため、深部体温Tcbtの推定に誤差が生じるという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2020-003291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、生体等の被検体の内部温度の推定誤差を低減することができる温度推定方法、温度推定プログラムおよび温度推定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の温度推定方法は、被検体の表面の温度を第1の温度センサによって計測する第1のステップと、前記被検体から遠ざかる位置の温度を第2の温度センサによって計測する第2のステップと、前記第1、第2の温度センサの計測結果に基づいて前記被検体の内部温度を算出する第3のステップと、前記内部温度の確率分布を一定時間毎に算出する第4のステップと、前記第4のステップで算出した確率の代表値が第1の閾値を超えた場合のみ、前記一定時間における前記内部温度のうち確率が前記代表値となる内部温度を正しい内部温度推定値として採用する第5のステップとを含むことを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明の温度推定方法の1構成例は、前記内部温度推定値の、直前の内部温度推定値に対する変化率が第2の閾値を超えたときから、前記確率の代表値が前記第1の閾値以下になる直前までの補正対象区間における前記内部温度推定値のそれぞれを補正対象値とする第6のステップと、前記変化率が前記第2の閾値を最初に超えた時の直前の内部温度推定値と前記変化率が前記第2の閾値を超えた最初の補正対象値との温度差に基づいて、前記被検体の熱抵抗を算出する第7のステップと、前記熱抵抗に基づいて前記補正対象値のそれぞれを補正した値を、正しい内部温度推定値として採用する第8のステップとをさらに含むことを特徴とするものである。
また、本発明の温度推定プログラムは、第3乃至第5のステップをコンピュータに実行させることを特徴とするものである。
また、本発明の温度推定プログラムは、第3乃至第8のステップをコンピュータに実行させることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明の温度推定装置は、被検体の表面の温度を計測するように構成された第1の温度センサと、前記被検体から遠ざかる位置の温度を計測するように構成された第2の温度センサと、前記第1、第2の温度センサの計測結果に基づいて前記被検体の内部温度を算出するように構成された温度算出部と、前記内部温度の確率分布を一定時間毎に算出するように構成された確率分布算出部と、前記確率分布算出部によって算出された確率の代表値が第1の閾値を超えた場合のみ、前記一定時間における前記内部温度のうち確率が前記代表値となる内部温度を正しい内部温度推定値として採用するように構成された第1の外乱検出部とを備えることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の温度推定装置の1構成例は、前記内部温度推定値の、直前の内部温度推定値に対する変化率が第2の閾値を超えたときから、前記確率の代表値が前記第1の閾値以下になる直前までの補正対象区間における前記内部温度推定値のそれぞれを補正対象値とするように構成された第2の外乱検出部と、前記変化率が前記第2の閾値を最初に超えた時の直前の内部温度推定値と前記変化率が前記第2の閾値を超えた最初の補正対象値との温度差に基づいて、前記被検体の熱抵抗を算出するように構成された熱抵抗算出部と、前記熱抵抗に基づいて前記補正対象値のそれぞれを補正した値を、正しい内部温度推定値として採用するように構成された温度補正部とをさらに備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、内部温度の確率分布を一定時間毎に算出し、確率の代表値が第1の閾値を超えた場合のみ、一定時間における内部温度のうち確率が代表値となる内部温度を正しい内部温度推定値として採用することにより、風による被検体の内部温度の過渡的な揺らぎを除去することができ、被検体の内部温度の推定誤差を低減することができる。
【0013】
また、本発明では、補正対象区間を検出し、被検体の熱抵抗を算出して、熱抵抗に基づいて補正対象値のそれぞれを補正した値を正しい内部温度推定値として採用することにより、風による被検体の内部温度の過渡的な揺らぎを除去するだけでなく、生体の姿勢の変化等による血流の変化による誤差を除去することができ、被検体の内部温度の推定誤差を更に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の実施例に係る温度推定装置の構成を示すブロック図である。
図2図2は、本発明の実施例に係る温度推定装置の動作を説明するフローチャートである。
図3図3は、本発明の実施例に係る温度推定装置の動作を説明するフローチャートである。
図4A図4Aは、生体に当たる風の強さや風の有無を変えたときに従来の方法で推定した深部体温を示す図である。
図4B図4Bは、生体に当たる風の強さや風の有無を変えたときに本発明の実施例に係る温度推定装置で推定した深部体温を示す図である。
図4C図4Cは、生体に当たる風の強さや風の有無を変えたときに鼓膜温度計によって計測した真の深部体温を示す図である。
図5A図5Aは、生体に当たる風の強さや風の有無を変えながら生体の姿勢を変えたときに従来の方法で推定した深部体温を示す図である。
図5B図5Bは、生体に当たる風の強さや風の有無を変えながら生体の姿勢を変えたときに本発明の実施例に係る温度推定装置で推定した深部体温を示す図である。
図5C図5Cは、生体に当たる風の強さや風の有無を変えながら生体の姿勢を変えたときに鼓膜温度計によって計測した真の深部体温を示す図である。
図6図6は、本発明の実施例に係る温度推定装置を実現するコンピュータの構成例を示すブロック図である。
図7図7は、生体とセンサの熱等価回路モデルを示す図である。
図8A図8Aは、生体に風を当てたときに従来の方法で推定した深部体温を示す図である。
図8B図8Bは、生体に風を当てたときに鼓膜温度計によって計測した真の深部体温を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[発明の原理]
人の深部体温は、通常36.5℃から37.5℃ぐらいで上下する。人の深部体温は、日中は朝から夕方に向けて高くなっていき、夜から朝にかけて低くなっていくというリズムがあり、緩やかに変化する。
【0016】
人の皮膚と接触させたセンサの、深部体温の推定値が急激に1℃を超えて変化する原因は、風や人の血流などの外乱による応答と考えられる。これら外乱に由来する深部体温推定値の揺らぎは、過渡的で、かつ本来の深部体温を中心に揺らいでいる。そのため、深部体温推定値のヒストグラム(確率分布)を考えた場合、外乱の影響を受けている区間では、本来の深部体温になる確率が小さくなる。そこで、前述の確率が適当な閾値を超えた場合にのみ深部体温推定値を出力すれば、過渡的な揺らぎを除去することができる。
【0017】
一方、人の血流について考えると、人の睡眠時の姿勢が一定時間維持される場合、血流も一定時間変化が維持したままの状態、つまり人の熱抵抗Rbodyが変化したままの状態と考えられる。したがって、ある時刻において深部体温の推定値が急激に変化し、変化後の値のまま維持されることになる。この状態では、深部体温の推定値が急激に変化するが、確率は前述の閾値を超える。人の熱抵抗Rbodyが変化したままの区間では、深部体温が緩やかにしか変化しないことから区間を容易に検出できる。つまり、深部体温推定値の時間微分dTcbt_est/dtが適当な閾値Dthを超えた時に人の熱抵抗Rbodyが変化したと検出できる。
【0018】
人の熱抵抗Rbodyが変化した状態でも深部体温推定値の確率が閾値を超えている区間では深部体温推定値の変化のトレンドは一定の誤差を持った状態で本来の深部体温に追従している。この一定の誤差は、人の熱抵抗Rbodyが変化した状態が発生したときの深部体温推定値とその直前の深部体温推定値との差として求められるため、深部体温推定値を容易に補正できる。補正の大きさ(前記の一定の誤差の大きさ)により、人の姿勢変化等によってずれた熱抵抗Rbodyも再計算することができ、深部体温の推定精度を向上させることができる。
【0019】
[実施例]
以下、本発明の実施例について図面を参照して説明する。図1は本発明の実施例に係る温度推定装置の構成を示すブロック図である。温度推定装置は、生体100(人体などの被検体)の皮膚表面の温度Tskinを計測する温度センサ1と、生体100から遠ざかる位置の温度Ttopを計測する温度センサ2と、温度センサ1と温度センサ2とを保持する断熱材3と、データの記憶のための記憶部4と、生体100の深部体温Tcbt(内部温度)を算出する温度算出部5と、時間を計測する時計部6と、深部体温Tcbtの確率分布を一定時間毎に算出する確率分布算出部7と、確率の代表値が第1の閾値を超えた場合のみ、一定時間における深部体温Tcbtのうち確率が前記代表値となる深部体温Tcbtを正しい深部体温推定値Tcbt_estとして採用する外乱検出部8と、深部体温推定値Tcbt_estの代表値を算出する代表値算出部9と、深部体温推定値Tcbt_estの代表値を表示する推定結果出力部10と、深部体温推定値Tcbt_estの代表値を外部端末15に送信する通信部11とを備えている。
【0020】
また、温度推定装置は、深部体温推定値Tcbt_estの、直前の深部体温推定値Tcbt_estに対する変化率が第2の閾値を超えたときから、確率の代表値が第1の閾値以下になる直前までの補正対象区間における深部体温推定値Tcbt_estのそれぞれを補正値対象値Tcbt_est_cとする外乱検出部12と、変化率が第2の閾値を最初に超えた時の直前の深部体温推定値Tcbt_estと変化率が第2の閾値を超えた最初の補正値対象値Tcbt_est_cとの温度差ΔTに基づいて、生体100の熱抵抗Rbodyを算出する熱抵抗算出部13と、熱抵抗Rbodyに基づいて補正値対象値Tcbt_est_cのそれぞれを補正した値を、正しい深部体温推定値Tcbt_estとして採用する温度補正部14とを備えている。
【0021】
温度推定装置は、断熱材3が生体100の皮膚と接触するように配置される。温度センサ1は、断熱材3の生体側の面に設けられる。温度センサ2は、断熱材3の生体側の面と反対側の面に、空気と触れるように設けられる。断熱材3は、温度センサ1と温度センサ2とを保持し、且つ温度センサ1に流入する熱に対する抵抗体となる。
【0022】
図2図3は本実施例の温度推定装置の動作を説明するフローチャートである。温度センサ1は、生体100の皮膚表面の温度Tskinを計測する。温度センサ2は、生体100から遠ざかる位置の温度Ttopを計測する(図2ステップS100)。温度センサ1,2の計測データは記憶部4に格納される。温度センサ1,2の計測データには、時計部6が出力する時刻tのデータが付加される。
【0023】
温度算出部5は、計測された温度Tskin,Ttopに基づいて生体100の皮膚表面の熱流束Hskinを式(2)により算出し、時刻tにおける生体100の深部体温Tcbtを式(1)により算出する(図2ステップS101)。断熱材3の熱抵抗Rskinと生体100の熱抵抗Rbodyとは、記憶部4に予め記憶されている。温度算出部5は、算出した深部体温Tcbtのデータを、この深部体温Tcbtの算出に使用した温度Tskin,Ttopのデータに付加されていた時刻tのデータと共に記憶部4に格納する。
【0024】
なお、生体100の皮膚表面の熱流束Hskinは、Tskin-Ttopで代用することも可能である。生体100の熱抵抗Rbodyは、温度推定装置の動作開始前に、温度Tskin,Ttopを計測し、さらに鼓膜式の温度計など別のセンサを用いて深部体温Tcbtの値を計測することで、式(1)より算出することができる。
【0025】
次に、計測開始から一定時間τが経過したとき(図2ステップS102においてYES)、確率分布算出部7は、時間τの区間において算出された深部体温Tcbtの確率分布を算出する(図2ステップS103)。本実施例では、温度Tskin,Ttopの測定間隔および深部体温Tcbtの算出間隔を例えば1s程度とし、時間τを例えば5~10min程度とする。
【0026】
続いて、外乱検出部8は、算出された確率分布のうちの確率の最大値Pmax(代表値)が所定の閾値Pth(第1の閾値)を超えたかどうかを判定する(図2ステップS104)。本実施例では、温度センサ1,2の温度分解能を例えば0.01℃程度とし、この温度分解能に対して閾値Pthを例えば0.05~0.1程度とする。
【0027】
本実施例では、確率の最大値Pmaxが閾値Pthを超えない場合、時間τの区間において算出された深部体温Tcbtが、風等による突発的な外乱の影響を受けていると判断する。外乱検出部8は、確率の最大値Pmaxが閾値Pthを超えない場合、時間τの区間において算出された深部体温Tcbtを正しい推定値として採用せず破棄する。
【0028】
代表値算出部9は、確率の最大値Pmaxが閾値Pthを超えないと判定された場合(ステップS104においてNO)、記憶部4に記憶されている深部体温推定値Tcbt_estのデータのうち直近の所定数のデータの代表値Tcbt_aveを算出する(図2ステップS105)。データの代表値としては、例えば移動平均値もしくは移動中央値がある。
【0029】
推定結果出力部10は、代表値算出部9によって算出された代表値Tcbt_aveを深部体温の推定結果として表示する(図2ステップS106)。また、通信部11によって深部体温の推定値Tcbt_aveを外部端末15に送信するようにしてもよい。この場合、PC(Personal Computer)やスマートフォン等からなる外部端末15は、温度推定装置から受信した深部体温の値を表示する。
こうして、時間τ毎に深部体温Tcbtの確率分布が算出され、ステップS104の判定処理が行われる。
【0030】
外乱検出部8は、確率の最大値Pmaxが閾値Pthを超えた場合(ステップS104においてYES)、時間τの区間において算出された深部体温Tcbtのうち、確率が最大値Pmaxの深部体温Tcbtを深部体温推定値Tcbt_estとして記憶部4に格納する(図2ステップS107)。つまり、外乱検出部8は、確率の最大値Pmaxが閾値Pthを超えた場合のみ深部体温Tcbtを正しい推定値として採用する。外乱検出部8は、深部体温推定値Tcbt_estのデータを、確率が最大値Pmaxの深部体温Tcbtのデータに付加されていた時刻tのデータと共に記憶部4に格納する。
【0031】
次に、外乱検出部12は、外乱検出部8によって採用された最新の深部体温推定値Tcbt_estの、直前の時刻tpreの深部体温推定値Tcbt_estに対する変化率dTcbt_est/dtが、所定の閾値Dth(第2の閾値)を超えたかどうかを判定する(図2ステップS108)。本実施例では、閾値Dthを例えば1℃/hとする。
【0032】
変化率dTcbt_est/dtが閾値Dthを超えない場合(ステップS108においてNO)、ステップS105に進む。つまり、時間τの区間において算出された深部体温Tcbtが、生体100の姿勢の変化等による血流の変化の影響を受けていないと判断する。
【0033】
外乱検出部12は、変化率dTcbt_est/dtが閾値Dthを超えた場合(ステップS108においてYES)、外乱検出部8によって採用された最新の深部体温推定値Tcbt_estを、補正対象値Tcbt_est_cとして記憶部4に格納する(図2ステップS109)。つまり、外乱検出部12は、時間τの区間において算出された深部体温Tcbtが、生体100の姿勢の変化等による血流の変化の影響を受けていると判断して補正対象に加える。このとき、変化率dTcbt_est/dtが閾値Dthを超えた最初の深部体温推定値Tcbt_estの時刻tをt_startとする。
【0034】
図3のステップS110~S113の処理は、ステップS100~S103の処理と同じである。
外乱検出部12は、確率分布算出部7によって算出された確率分布のうちの確率の最大値Pmaxが閾値Pthを超えたかどうかを判定する(図3ステップS114)。
【0035】
外乱検出部12は、確率の最大値Pmaxが閾値Pthを超えた場合(ステップS114においてYES)、最新の時間τの区間において算出された深部体温Tcbtのうち、確率が最大値Pmaxの深部体温Tcbtを補正対象値Tcbt_est_cとして記憶部4に追加格納する(図3ステップS115)。つまり、外乱検出部12は、最新の時間τの区間において算出された深部体温Tcbtが、生体100の姿勢の変化等による血流の変化の影響を継続して受けていると判断して補正対象に加える。
こうして、時間τ毎に深部体温Tcbtの確率分布が算出され、ステップS114の判定処理が行われる。
【0036】
確率の最大値Pmaxが閾値Pthを超えなかった場合(ステップS114においてNO)、ステップS116に進む。つまり、深部体温Tcbtが生体100の姿勢の変化等による血流の変化の影響を継続的に受けていた区間が終わったと判断する。
【0037】
熱抵抗算出部13は、確率の最大値Pmaxが閾値Pthを超えなかった場合、ステップS108において変化率dTcbt_est/dtが閾値Dthを超えた時の直前の時刻tpreの深部体温推定値Tcbt_estと変化率dTcbt_est/dtが閾値Dthを超えた最初の時刻t_startの補正対象値Tcbt_est_cとの温度差ΔT=Tcbt_est-Tcbt_est_cを算出する(図3ステップS116)。
【0038】
熱抵抗算出部13は、温度差ΔTと、時刻t_startにおいて温度センサ1によって計測された温度Tskin_startと、時刻t_startにおいて温度センサ2によって計測された温度Ttop_startと、時刻t_startの深部体温Tcbt_start(補正対象値Tcbt_est_c)とに基づいて、深部体温Tcbtが生体100の姿勢の変化等による血流の変化の影響を継続的に受けていた区間の生体100の熱抵抗Rbodyを次式により算出する(図3ステップS117)。
body=(-Tskin_start+Tcbt_start-ΔT)/Hskin_start・・(3)
【0039】
生体100の皮膚表面の熱流束Hskin_startは、時刻t_startにおいて温度センサ1によって計測された温度Tskin_startと、時刻t_startにおいて温度センサ2によって計測された温度Ttop_startとに基づいて式(2)により算出できる。上記のとおり、断熱材3の熱抵抗Rskinは既知の値である。また、熱流束Hskin_startは、Tskin_start-Ttop_startで代用することも可能である。
【0040】
温度補正部14は、ステップS108において変化率dTcbt_est/dtが閾値Dthを最初に超えた時からステップS114において確率の最大値Pmaxが閾値Pth以下になる直前までの補正対象区間における各時刻tの深部体温Tcbt_tを、その時刻tの温度Tskin_t,Ttop_tと熱抵抗算出部13によって算出された熱抵抗Rbodyとに基づいて補正対象値Tcbt_est_cの時刻t毎に再計算する(図3ステップS118)。
cbt_t=Tskin_t+Rbody×Hskin_t ・・・(4)
【0041】
熱流束Hskin_tは、温度Tskin_t,Ttop_tに基づいて式(2)により算出できる。上記と同様に、熱流束Hskin_tは、Tskin_t-Ttop_tで代用することも可能である。
【0042】
温度補正部14は、再計算した各深部体温Tcbt_tからそれぞれ温度差ΔTを減じた値を、補正後の深部体温推定値Tcbt_est_addとする(図3ステップS119)。そして、温度補正部14は、補正後の深部体温推定値Tcbt_est_addを、深部体温推定値Tcbt_estとして記憶部4に追加格納する(図3ステップS120)。
【0043】
なお、変化率dTcbt_est/dtが閾値Dthを超えた最初の時刻t_startの補正対象値Tcbt_est_cは、ステップS107の処理で深部体温推定値Tcbt_estとして記憶部4に既に格納されている。したがって、温度補正部14は、時刻t_startの深部体温推定値Tcbt_estについては、時刻t_startの補正後の深部体温推定値Tcbt_est_addで上書きすることになる。
【0044】
次に、温度補正部14は、記憶部4に格納されている補正対象値Tcbt_est_cと深部体温推定値Tcbt_est_addとを削除して(図3ステップS121)、ステップS105に進む。ステップS105,S106の処理は上記のとおりである。
以上のようにして、本実施例では、深部体温の推定誤差を低減することができる。
【0045】
生体100に当たる風の強さや風の有無を変えたときに、特許文献1に開示された方法(本実施例の温度算出部5)で推定した深部体温Tcbt図4Aに示し、本実施例の温度推定装置で推定した深部体温推定値Tcbt_est図4Bに示し、鼓膜温度計によって計測した真の深部体温(鼓膜温)Ttrue図4Cに示す。従来の方法では、生体100に突発的に風が当たったり、風の強さが変わったりしたときにノイズが急激に生じたり、ノイズの強度が変化したりしている。一方、本実施例によれば、ノイズが抑制され、鼓膜温に近い推定結果が得られていることが分かる。
【0046】
生体100に当たる風の強さや風の有無を変えながら生体100の姿勢を変えたときに、特許文献1に開示された方法で推定した深部体温Tcbt図5Aに示し、本実施例の温度推定装置で推定した深部体温推定値Tcbt_est図5Bに示し、鼓膜温度計によって計測した真の深部体温Ttrue図5Cに示す。従来の方法では、風によるノイズが生じ、さらに生体100の姿勢変化で熱抵抗Rbodyが変化したことによる一定の誤差が生じている。一方、本実施例によれば、ノイズが抑制されると共に誤差が補正され、鼓膜温に近い推定結果が得られていることが分かる。
【0047】
本実施例で説明した記憶部4と温度算出部5と時計部6と確率分布算出部7と外乱検出部8と代表値算出部9と推定結果出力部10と通信部11と外乱検出部12と熱抵抗算出部13と温度補正部14とは、CPU(Central Processing Unit)、記憶装置及びインタフェースを備えたコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。このコンピュータの構成例を図6に示す。
【0048】
コンピュータは、CPU200と、記憶装置201と、インタフェース装置(I/F)202とを備えている。I/F202には、温度センサ1,2、推定結果出力部10のハードウェア、通信部11のハードウェア等が接続される。このようなコンピュータにおいて、本発明の温度推定方法を実現させるための温度推定プログラムは、フレキシブルディスク、CD-ROM、DVD-ROM、メモリカードなどの記録媒体に記録された状態で提供される。CPU200は、記録媒体から読み込んだプログラムを記憶装置201に書き込み、記憶装置201に格納されたプログラムに従って本実施例で説明した処理を実行する。また、温度推定プログラムをネットワークを通して提供することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、生体等の被検体の内部温度を推定する技術に適用することができる。
【符号の説明】
【0050】
1,2…温度センサ、3…断熱材、4…記憶部、5…温度算出部、6…時計部、7…確率分布算出部、8…外乱検出部、9…代表値算出部、10…推定結果出力部、11…通信部、12…外乱検出部、13…熱抵抗算出部、14…温度補正部、15…外部端末。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
図6
図7
図8A
図8B