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7586301着色樹脂組成物の分離方法及び樹脂リサイクル方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】着色樹脂組成物の分離方法及び樹脂リサイクル方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 11/08 20060101AFI20241112BHJP
   C09B 67/54 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
C08J11/08 ZAB
C09B67/54 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023517471
(86)(22)【出願日】2022-04-21
(86)【国際出願番号】 JP2022018352
(87)【国際公開番号】W WO2022230741
(87)【国際公開日】2022-11-03
【審査請求日】2023-04-06
(31)【優先権主張番号】P 2021074932
(32)【優先日】2021-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【弁理士】
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】安井 健悟
【審査官】岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-522444(JP,A)
【文献】特開2000-038470(JP,A)
【文献】特開2018-016741(JP,A)
【文献】特表2020-513458(JP,A)
【文献】国際公開第2020/213032(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 11/08
C09B 67/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
縮合多環系有機顔料及び/又はカーボンブラックを含有する着色ポリ塩化ビニル樹脂組成物から、
0.1MPa以上1.0MPa以下の圧力で、気体ジメチルエーテルを液化して、液体ジメチルエーテルを主成分として含む液化溶剤を生成する工程と、
前記液化溶剤と前記着色ポリ塩化ビニル樹脂組成物を接触させて、前記着色ポリ塩化ビニル樹脂組成物中から、ポリ塩化ビニル樹脂を前記液化溶剤に溶かし出す工程と、
縮合多環系有機顔料及び/又はカーボンブラックと、前記ポリ塩化ビニル樹脂が溶け出した液化溶剤を分離回収する工程と、
回収した前記ポリ塩化ビニル樹脂が溶け出した液化溶剤を圧力開放下で、前記ポリ塩化ビニル樹脂が溶け出した液化溶剤に含まれる液体ジメチルエーテルを気化することにより、前記ポリ塩化ビニル樹脂を残留させる工程と、
を有する、前記縮合多環系有機顔料及び/又はカーボンブラックと前記樹脂とを分離する、着色樹脂組成物の分離方法。
【請求項2】
前記縮合多環系有機顔料が、フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、ジオキサジン系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、イソインドリノン系顔料、イソインドリン系顔料、チオインジゴ系顔料、アントラキノン系顔料、キノフタロン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料及び金属錯体系顔料から選択される1種又は2種以上で構成される、請求項1に記載の着色樹脂組成物の分離方法。
【請求項3】
前記液体ジメチルエーテルを気化することにより得られた気体ジメチルエーテルを還流して、前記液化溶剤を作製する工程における液体ジメチルエーテルを用いる、請求項1又は2に記載の着色樹脂組成物の分離方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の着色樹脂組成物の分離方法で得られた樹脂を用いて新たな樹脂組成物を作製する、樹脂リサイクル方法。
【請求項5】
前記新たな樹脂組成物が、着色樹脂組成物である、請求項4に記載の樹脂リサイクル方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着色樹脂組成物の分離方法及び樹脂リサイクル方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック素材などの樹脂のリサイクルは、マテリアルリサイクル、ケミカルリサイクル、サーマルリサイクルなどの方法で進められている。このうちサーマルリサイクルは容易な方法であるが、炭酸ガスを発生させるため、カーボンニュートラルな材料でなければ、地球温暖化の要因となる。ケミカルリサイクルでは、高効率で原料マテリアルに戻す必要があるが、エネルギーを付与して化石燃料から基礎化学品、更には高分子へと変換したものを、更にエネルギーを付与して基礎化学品に戻すことになり、エネルギー消費として無駄が多い。このため、上記3つの方法の中ではマテリアルリサイクルが最も効率的な方法と考えられるが、各種製品で使用されているプラスチックは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリスチレン、(メタ)アクリル樹脂、ABS樹脂等、多岐に亘るため、分別することが必要である。また、それ以前に、プラスチック素材を回収する社会インフラや社会システムの構築が必要である。
【0003】
また、分別回収されたプラスチック素材であっても、プラスチック素材は無色なものだけでなく、様々に着色されたプラスチック素材がある。プラスチック素材に色を付ける方法としては、プラスチック塗料で表面を着色するものと、成形時や成型前にプラスチック素材に顔料を練り込んで着色する方法がある。前者の方法では表面の塗膜を除去することができればマテリアルとしてのプラスチック素材を回収できるが、後者の方法ではプラスチック素材に練り込まれた着色顔料を取り除くことは困難である。着色顔料がプラスチック素材に残ると、プラスチック素材をリサイクルする度に着色顔料が濃縮され、着色顔料が濃縮されていくに従ってプラスチック素材の物性が低下することが懸念される。
【0004】
また、着色顔料がプラスチック素材に残っていると、プラスチック素材をリサイクルする際に様々な複数の色が混合され、その結果混色減法によって黒色に近づき、製品の意匠性を低下させる要因となる。明度の低い黒色のプラスチック素材から彩度の高い色のプラスチック素材を作り上げることは難しく、当然無色或いは透明なプラスチック素材にすることはできないことから、着色されたプラスチック素材はリサイクルし難いという問題がある。
【0005】
従来、有機顔料の製造方法として、粗製有機顔料と液化ジメチルエーテルとを接触させて有機顔料を得る方法が開示されている(特許文献1)。
【0006】
また、窒素原子の3個の結合手のそれぞれに炭素原子が結合している水溶性アミド化合物及び水溶性ラクトン化合物よりなる群から選ばれた化合物を主成分とする溶媒、又は上記化合物と炭素数5~8の水溶性グリコールエーテル系化合物を主成分とする溶媒を用いて、ポリスチレン系樹脂及びポリエチレンテレフタレートより成る群から選ばれた少なくとも1種の樹脂とポリオレフィン樹脂とを含む混合物を処理すると、ポリスチレン系樹脂及びポリエチレンテレフタレートはこの溶媒に溶解しポリオレフィン樹脂は溶解せず、両者を分離できることが開示されている。(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2018-016741号公報
【文献】特許第3972516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1では、有機顔料を得るために粗製有機顔料と液化ジメチルエーテルとを接触させることが開示されているが、着色樹脂組成物を着色顔料と樹脂に分離する方法に関する知見は無い。
特許文献2では、水溶性アミド化合物及び水溶性ラクトン化合物よりなる群から選ばれた化合物を含む有機溶媒を用いて、相異なる樹脂種、すなわちポリスチレン系樹脂又はポリエチレンテレフタレートと、ポリオレフィン樹脂とを分離することが開示されているが、着色樹脂組成物を着色顔料と樹脂に分離する方法に関する知見は無い。
【0009】
本発明は、着色樹脂組成物を着色顔料と樹脂に容易に分離することができ、省エネルギー化及び効率的なマテリアルリサイクルを実現することができる着色樹脂組成物の分離方法及び樹脂リサイクル方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、液体ジメチルエーテルや液体プロパンを含む液化溶剤を用いて、縮合多環系有機顔料及び/又はカーボンブラックを含有する着色樹脂組成物と液化溶剤を混合すると、着色樹脂組成物中の樹脂が溶け出し、一方縮合多環系有機顔料及び/又はカーボンブラックは溶け出さないことから、縮合多環系有機顔料及び/又はカーボンブラックと樹脂とを容易に分離できることを見出した。また、着色樹脂組成物を含有する液化溶剤の圧力を開放するか或いは常圧下で加温することにより、液化溶剤中の液体ジメチルエーテルや液体プロパンが容易に気化されることから、有機溶剤と樹脂の分離が容易であり、かつ、有機溶剤を、エネルギーをかけて蒸留回収する必要がなくなり、省エネルギー化を実現できることを見出した。
【0011】
また、気化したジメチルエーテルやプロパンを回収して加圧或いは冷却することで、簡単に液体ジメチルエーテルや液体プロパンが得られるため、液体ジメチルエーテルや液体プロパンを液化溶剤として容易に再利用できることを見出した。また、分離された樹脂には縮合多環系有機顔料やカーボンブラックが含まれないため、得られた樹脂を樹脂組成物のマテリアル素材としてそのまま再利用可能となり、低コスト、省エネルギーで、効率的なマテリアルリサイクルを実現できることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明は以下の構成を提供する。
[1]縮合多環系有機顔料及び/又はカーボンブラックを含有する着色樹脂組成物から、液体ジメチルエーテル、液体プロパン及び液体ブタンのうちの1種又は2種以上を含む液化溶剤に樹脂を溶かし出して、前記縮合多環系有機顔料及び/又はカーボンブラックと前記樹脂とを分離する、着色樹脂組成物の分離方法。
【0013】
[2]前記縮合多環系有機顔料が、フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、ジオキサジン系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、イソインドリノン系顔料、イソインドリン系顔料、チオインジゴ系顔料、アントラキノン系顔料、キノフタロン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料及び金属錯体系顔料から選択される1種又は2種以上で構成される、上記[1]に記載の着色樹脂組成物の分離方法。
【0014】
[3]加圧下で気体ジメチルエーテル及び気体プロパンのうちのいずれか又は双方を液化して、液体ジメチルエーテル及び液体プロパンのうちのいずれか又は双方を主成分として含む前記液化溶剤を生成する工程と、
前記液化溶剤と前記着色樹脂組成物を接触させて、前記着色樹脂組成物中の前記樹脂を前記液化溶剤に溶かし出す工程と、
圧力開放下で、前記樹脂が溶け出した液化溶剤に含まれる液体ジメチルエーテル及び液体プロパンのうちのいずれか又は双方を気化することにより、前記樹脂を残留させる工程と、
を有する、上記[1]又は[2]に記載の着色樹脂組成物の分離方法。
【0015】
[4]前記液化溶剤が、液体ジメチルエーテル及び液体プロパンのうちのいずれか又は双方で構成される、上記[1]~[3]のいずれかに記載の着色樹脂組成物の分離方法。
【0016】
[5]0.1MPa以上1.0MPa以下の圧力で前記液化溶剤を生成する、上記[4]に記載の着色樹脂組成物の分離方法。
【0017】
[6]前記液体ジメチルエーテル、前記液体プロパン及び前記液体ブタンのうちの1種又は2種以上を気化することにより得られた気体ジメチルエーテル、気体プロパン及び気体ブタンのうちの1種又は2種以上を還流して、前記液化溶剤を作製する工程における液体ジメチルエーテル、液体プロパン及び液体ブタンのうちの1種又は2種以上として用いる、上記[1]~[5]のいずれかに記載の着色樹脂組成物の分離方法。
【0018】
[7]上記[1]~[6]のいずれかに記載の着色樹脂組成物の分離方法で得られた樹脂を用いて新たな樹脂組成物を作製する、樹脂リサイクル方法。
【0019】
[8]前記新たな樹脂組成物が、着色樹脂組成物である、上記[7]に記載の樹脂リサイクル方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、着色樹脂組成物を着色顔料と樹脂に容易に分離することができ、省エネルギー化及び効率的なマテリアルリサイクルを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本実施形態に係る着色樹脂組成物の分離方法を実行するための分離装置の一例を示す概略図である。
図2図2は、本実施形態で用いられる液化溶剤の一例であるジメチルエーテルの飽和蒸気圧曲線を示すグラフである。
図3図3は、図1の分離装置の変形例を示す概略図である。
図4図4は、図1の分離装置の他の変形例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。
【0023】
<着色樹脂組成物の分離方法>
本実施形態に係る着色樹脂組成物の分離方法は、縮合多環系有機顔料及び/又はカーボンブラックを含有する着色樹脂組成物から、液体ジメチルエーテル、液体プロパン及び液体ブタンのうちの1種又は2種以上を含む液化溶剤(以下、単に液化溶剤ともいう)に樹脂を溶かし出して、前記縮合多環系有機顔料及び/又はカーボンブラックと前記樹脂とを分離する。
【0024】
図1は、本実施形態に係る着色樹脂組成物の分離方法を実行するための分離装置の一例を示す概略図である。本実施形態では、液化溶剤として液体ジメチルエーテル又は液体プロパンを用いる場合を例に挙げて説明する。
図1に示すように、分離装置1Aは、液体ジメチルエーテル又は液体プロパンで構成される液化溶剤S1を後述する処理部に供給する供給部10と、処理対象である着色樹脂組成物Cを収容すると共に、供給部10から供給された液化溶剤S1で着色樹脂組成物Cを処理する処理部20と、処理部20から供給された樹脂含有液化溶剤S2を回収する回収部30とを有する。
【0025】
供給部10では、加圧下で気体ジメチルエーテル又は気体プロパンを液化して、液体ジメチルエーテル又は液体プロパンで構成される液化溶剤S1を生成する。供給部10は、処理部20と気密・液密に連通された状態で、処理部20の前段に設けられることが好ましい。供給部10では、供給部10内の設定温度(加熱温度)に応じた加圧条件で、装置構成外部より供給される気体ジメチルエーテルにポンプPで圧力を加えることにより、ジメチルエーテルを液化させる。ポンプPとしては、公知の加圧ポンプ等を用いることができる。
【0026】
供給部10は、金属製などの耐圧容器であるのが好ましいが、液化溶剤の組成に応じて、例えば20MPa以下、好ましくは10MPa以下の内部圧力に耐えうる性能を有していればよい。また、ポンプPは、供給部10で生成された液体ジメチルエーテル又は液体プロパンを、処理部20に送液する。
【0027】
供給部10で液体ジメチルエーテル及び液体プロパンのいずれか又は双方で構成される液化溶剤S1を生成する場合、例えば0.1MPa以上1.0MPa以下の圧力で液化溶剤S1を生成するのが好ましい。これにより、高分子等の他の有機溶剤や、超臨界二酸化炭素などで構成される液化溶剤と比較して、溶剤を低圧で液化することができる。加圧方法は特に限定されるものではなく、ポンプPとしては公知慣用の加圧ポンプ等を用いることができる。また、液体ジメチルエーテル及び液体プロパンのいずれか又は双方で構成される液化溶剤S1を生成する際、常温以外の温度条件で行うなどの他の条件に応じて、上記圧力範囲外の圧力で液化溶剤S1を生成してもよい。
【0028】
処理部20では、液化溶剤S1と着色樹脂組成物Cを接触させて、着色樹脂組成物C中の樹脂を液化溶剤S1に溶かし出す。供給部10と処理部20とは気密・液密に連通されており、同様の加温、加圧条件となる。そのため、供給部10で液化されたジメチルエーテル又はプロパンは、処理部20内における着色樹脂組成物Cとの接触の際にも、液体状態を維持できる。
【0029】
処理部20は、金属製などの耐圧容器であるのが好ましいが、供給部10と同様、液化溶剤の組成に応じて、例えば20MPa以下、好ましくは10MPa以下の内部圧力に耐えうる性能を有していればよい。処理部20の導入側にはフィルター21a、排出側にはフィルター21bがそれぞれ設けられるのが好ましく、これにより、液化溶剤が各フィルターを通過する際に当該液化溶剤から不純物等を除去することができる。
【0030】
処理部20で処理を行う場合、例えば処理部20の内部に着色プラスチック製品などの着色樹脂組成物Cを配置した後、処理部20内を密閉し、バルブV1を開、バルブV2を閉にして供給部10から液化溶剤S1を処理部20に供給し、処理部20内に液化溶剤S1が充填されたらバルブV1を閉にする。そして所定時間経過後、バルブV1,V2を共に開にして樹脂含有液化溶剤S2を処理部20から回収部30に供給する。
【0031】
例えば、液化溶剤S1が液体ジメチルエーテルで構成される場合、液体ジメチルエーテルと着色樹脂組成物Cとを接触させる際の温度や圧力の条件は、ジメチルエーテルが液体の状態であれば、特に制限されるものではない。上記した液体ジメチルエーテルの液化曲線によれば、例えば、温度10~85℃、圧力0.3~2.7MPaの範囲から選択することが、加熱不要ないしは比較的軽微な加熱でかつ耐圧性がそれほど高くない処理容器で処理できる点でより好ましい。なかでも温度10~40℃かつ圧力0.3~0.9MPaの範囲から選択することが、上記メリットに加えて、省エネルギーや温度圧力制御などの簡便性にも優れる点で特に好ましい。
【0032】
また、液化溶剤S1が液体ジメチルエーテルで構成される場合の液体ジメチルエーテルの使用量は、着色樹脂組成物Cから樹脂を分離できる範囲であれば特に制限されないが、着色樹脂組成物Cの質量換算1部当たり、10~1000部とすることができ、また、10~500部とすることができる。
【0033】
液化溶剤S1が液体ジメチルエーテルで構成される場合の液化溶剤S1と着色樹脂組成物Cとの接触時間は、特に制限されないが、例えば0.5~48.0時間とすることができ、また、1.0~24.0時間とすることができる。勿論、必要量の液体ジメチルエーテルを分割使用して、着色樹脂組成物Cに対して液体ジメチルエーテルを少しずつ用いて複数回に亘って接触させることもできるし、必要量よりも過剰の液体ジメチルエーテルを使用して、一定量の着色樹脂組成物Cに対してより多量の液体ジメチルエーテルを接触させることで、上記時間を更に短縮することもできる。
【0034】
処理部20内に残留する残留物では、着色樹脂組成物Cと比較して、縮合多環系有機顔料及び/又はカーボンブラックが濃縮されている。この残留物から縮合多環系有機顔料及び/又はカーボンブラックを抽出することにより、新たに製造される着色樹脂組成物の顔料として再利用することができる。
【0035】
回収部30では、圧力開放下で、前記樹脂が溶け出した液化溶剤、すなわち樹脂含有液化溶剤S2に含まれる液体ジメチルエーテル又は液体プロパンを気化することにより、樹脂Rを残留させる。処理部20と回収部30とは気密・液密に連通されており、処理部20で生成された樹脂含有液化溶剤S2は、回収部30内に供給される際に液体状態を維持できる。
【0036】
回収部30は、金属製などの耐圧容器であるのが好ましいが、液化溶剤の組成に応じて、例えば20MPa以下、好ましくは10MPa以下の内部圧力に耐えうる性能を有していればよい。
【0037】
回収部30で回収を行う場合、例えばバルブV2を開、バルブV3を閉とし、回収部30内に樹脂含有液化溶剤S2を供給し、その後、バルブV2を閉、バルブV3を開とする。そして、例えば回収部30内を常温、常圧とすることにより、樹脂含有液化溶剤S2中の液体ジメチルエーテル又は液体プロパンが気化する。気化したジメチルエーテル又はプロパンは、バルブV3を介して回収部30の外部に排出される。一方、樹脂含有液化溶剤S2中の樹脂は、樹脂Rとして回収部30内に堆積する。回収部30内で堆積した樹脂Rには、縮合多環系有機顔料又はカーボンブラックが含まれておらず、樹脂Rは、着色樹脂組成物Cの原料に用いられる樹脂と同等の組成を有している。
【0038】
したがって、樹脂リサイクル方法として、上述の着色樹脂組成物の分離方法で得られた樹脂Rを用いて新たな着色樹脂組成物を作製することができる。上述の着色樹脂組成物の分離方法で得られた樹脂Rは無着色であるため、得られた樹脂Rを用いて、彩度の高い新たな着色樹脂組成物を作製することができ、更に、同色の着色樹脂組成物に限らず、異色の新たな着色樹脂組成物を作製することができる。更に、樹脂Rには縮合多環系有機顔料がほぼ含まれないため、樹脂Rの再利用を繰り返しても、新たに製造される着色樹脂組成物の強度等の物性低下を防止することができる。このため、得られた樹脂Rをリサイクルして、様々な色で良好な品質の着色樹脂組成物を製造することができる。
【0039】
[着色樹脂組成物]
本実施形態で用いられる着色樹脂組成物は、樹脂と、縮合多環系有機顔料及び/又はカーボンブラックとを含有する。着色樹脂組成物は、着色剤として縮合多環系有機顔料のみを含有していてもよいし、カーボンブラックのみを含有してもよいし、縮合多環系有機顔料とカーボンブラックの双方を含有していてもよい。
【0040】
(縮合多環系有機顔料)
本発明に用いる縮合多環系有機顔料は、有機顔料の中でもベンゼン環や複素環を持った環状構造の有機顔料を意味する。縮合多環系有機顔料は、本発明で用いる液化溶剤に溶け難く、分離工程の際に樹脂と容易に分離することができる。
前記縮合多環系有機顔料は、例えば、フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、ジオキサジン系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、イソインドリノン系顔料、イソインドリン系顔料、チオインジゴ系顔料、アントラキノン系顔料、キノフタロン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料及び金属錯体系顔料から選択される1種又は2種以上で構成される。
【0041】
上記縮合多環系有機顔料の具体例としては、以下が挙げられる。
C.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー15:1、C.I.ピグメントブルー15:2、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー15:4、C.I.ピグメントブルー15:5、C.I.ピグメントブルー15:6、C.I.ピグメントブルー16、C.I.ピグメントブルー17、C.I.ピグメントブルー75、C.I.ピグメントブルー79、C.I.ピグメントグリーン7、C.I.ピグメントグリーン36、C.I.ピグメントグリーン58、C.I.ピグメントグリーン59、C.I.ピグメントグリーン62、C.I.ピグメントグリーン63などのフタロシアニン系顔料;
C.I.ピグメントバイオレット19、C.I.ピグメントバイオレット42、C.I.ピグメントバイオレット55、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド202、C.I.ピグメントレッド206、C.I.ピグメントレッド207、C.I.ピグメントレッド209、C.I.ピグメントオレンジ48、C.I.ピグメントオレンジ49などのキナクリドン系顔料;
C.I.ピグメントバイオレット23、C.I.ピグメントバイオレット34、C.I.ピグメントバイオレット35、C.I.ピグメントバイオレット37、C.I.ピグメントブルー80などのジオキサジン系顔料;
C.I.ピグメントレッド123、C.I.ピグメントレッド149、C.I.ピグメントレッド178、C.I.ピグメントレッド179、C.I.ピグメントレッド190、C.I.ピグメントレッド224、C.I.ピグメントバイオレット29、C.I.ピグメントブラック31、C.I.ピグメントブラック32などのペリレン系顔料;
C.I.ピグメントオレンジ43、C.I.ピグメントレッド194などのペリノン系顔料;
C.I.ピグメントイエロー109、C.I.ピグメントイエロー110、C.I.ピグメントイエロー173、C.I.ピグメントイエロー179、C.I.ピグメントオレンジ61、C.I.ピグメントブラウン38などのイソインドリノン系顔料;
C.I.ピグメントイエロー139、C.I.ピグメントイエロー185、C.I.ピグメントオレンジ66、C.I.ピグメントオレンジ69、C.I.ピグメントレッド260などのイソインドリン系顔料;
C.I.ピグメントレッド88、C.I.ピグメントレッド181、C.I.ピグメントレッド279、C.I.ピグメントバイオレット36、C.I.ピグメントバイオレット38などのチオインジゴ系顔料;
C.I.ピグメントレッド83、C.I.ピグメントレッド89、C.I.ピグメントレッド168、C.I.ピグメントレッド177、C.I.ピグメントレッド182、C.I.ピグメントレッド216、C.I.ピグメントレッド226、C.I.ピグメントレッド251、C.I.ピグメントレッド263、C.I.ピグメントブルー60、C.I.ピグメントイエロー24、C.I.ピグメントイエロー99、C.I.ピグメントイエロー108、C.I.ピグメントイエロー123、C.I.ピグメントイエロー199、C.I.ピグメントバイオレット31、C.I.ピグメントオレンジ40、C.I.ピグメントオレンジ51、C.I.ピグメントバイオレット5:1、C.I.ピグメントブラック20などのアントラキノン系顔料;
C.I.ピグメントイエロー138、C.I.ピグメントイエロー231などのキノフタロン系顔料;
C.I.ピグメントオレンジ71、C.I.ピグメントオレンジ73、C.I.ピグメントオレンジ81、C.I.ピグメントレッド254、C.I.ピグメントレッド255、C.I.ピグメントレッド264、C.I.ピグメントレッド270、C.I.ピグメントレッド272などのジケトピロロピロール系顔料;
C.I.ピグメントイエロー117、C.I.ピグメントイエロー129、C.I.ピグメントイエロー150、C.I.ピグメントイエロー153、C.I.ピグメントオレンジ65、C.I.ピグメントオレンジ68、C.I.ピグメントレッド257、C.I.ピグメントレッド271、C.I.ピグメントグリーン8、C.I.ピグメントグリーン10などの金属錯体系顔料。
【0042】
縮合多環系有機顔料は、市販品であってもよいし、公知の方法で製造された物であってもよい。また、縮合多環系有機顔料の製造後に適宜公知の処理が施された物であってもよく、例えば、顔料誘導体処理、界面活性剤処理、ロジン処理、樹脂処理が施された物であってもよい。さらに、印刷インキ、塗料、着色成形品、文具、捺染、トナー、カラーフィルター、インクジェット用インク、化粧品用に、顔料粒子サイズや粒子の形態、粒子表面電荷の調整、制御等が施された縮合多環系有機顔料であってもよい。
【0043】
(カーボンブラック)
カーボンブラックは、無機顔料の一種であり、必要に応じて単独又は上記縮合多環系有機顔料と共に上記樹脂に含有される。カーボンブラックは、市販品であってもよいし、酸化法、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法等の公知の方法で製造された物であってもよい。
【0044】
(液化溶剤)
液化溶剤は、液体ジメチルエーテル及び液体プロパンのいずれか又は双方で構成されるのが好ましいが、液体ジメチルエーテル及び液体プロパンのいずれか又は双方を主成分として含んでいてもよい。また、液化溶剤は、本発明の目的を逸脱しない範囲で、液体ジメチルエーテル及び液体プロパンのいずれか又は双方を含んでいてもよい。主成分とは、液化溶剤の全体質量を100%とした場合に、液体ジメチルエーテル及び液体プロパンの合計質量が50%よりも多いことを意味する。
また、液化溶剤は、液体ジメチルエーテル、液体プロパン及び液体ブタンの1種又は2種以上で構成されるのが好ましいが、液体ジメチルエーテル、液体プロパン及び液体ブタンの1種又は2種以上を含んでいてもよいし、これらを主成分として含んでいてもよい。主成分とは、液体溶剤の全体質量を100%とした場合に、液体ジメチルエーテル、液体プロパン及び液体ブタンの合計質量が50%よりも多いことを意味する。
これにより、液体ジメチルエーテル、液体プロパン又は液体ブタンに溶け難い樹脂を含有する着色樹脂組成物を処理する場合であっても、液化溶剤への樹脂の溶解度を高めることができ、様々な樹脂を含む着色樹脂組成物を処理可能となり、汎用性、利便性を高めることができる。
【0045】
図2は、本実施形態で用いられる液化溶剤の一例であるジメチルエーテルの飽和蒸気圧曲線を示すグラフである。
図2に示すように、座標上、温度をX軸にとり、温度を変化させて、ジメチルエーテルが液化される圧力をY軸にプロットすると、下記式1で表されるジメチルエーテルの液化曲線が得られる。図2中、液化曲線を挟んで座標上方がジメチルエーテルが液体である領域である。
【0046】
【数1】
【0047】
出典:Wu J, Zhou Y, Lemmon EW. An equation of state for the thermodynamic properties of dimethyl ether. J. Phys. Chem. Ref. Data, 2011;40:023104.
【0048】
ジメチルエーテルは、常圧下における沸点が-25.1℃、液化状態での比重(20℃/4℃)が0.66である化合物であって、常温常圧下では気体として存在する。一方、25℃において、約0.6MPaという低圧で液化する特性を有する。有機化合物としての分子量や分子占有半径もかなり小さい。これらの特異性を活かし、本発明ではジメチルエーテルが液体として存在し得る条件下において、着色樹脂組成物と、液体ジメチルエーテルとを接触させることで、液体ジメチルエーテルに樹脂を溶かし出し、有機顔料と樹脂とを分離する。
【0049】
ジメチルエーテルは、毒性がほぼ無い、過酸化物をほぼ産生しない、加圧による液化及び減圧による気化が容易、更にそれ自体の製造が容易等といった点という、通常の有機溶剤に無い際立った特性を有する。また、液体ジメチルエーテルには、樹脂は溶解するが、有機顔料又はカーボンブラックは殆ど溶解しない。本発明者は、これらの特性に着目し、着色樹脂組成物を分離する際にジメチルエーテルを用いることを想起した。加えて、ジメチルエーテルを液体の状態で用いること、並びに、当該液体ジメチルエーテルと、着色樹脂組成物とを接触させるのみで当該着色樹脂組成物中の樹脂が液体ジメチルエーテルに容易に溶解し、有機顔料と樹脂を良好に分離できることを初めて見出した。
【0050】
低分子量のアルカンであるプロパンは、常圧下における沸点が-42.1℃、液化状態での比重が0.51である化合物であって、常温常圧下では気体として存在する。一方、プロパンは、25℃において、約0.86MPaという低圧で液化する特性を有する。また、液体プロパンには樹脂は溶解するが、有機顔料又はカーボンブラックは殆ど溶解しない。よって、低分子量のアルカンを液化した液体プロパンを上記液化溶剤として用いることができる。
【0051】
液化溶剤の主成分としては、液体ジメチルエーテル、液体プロパンのいずれであってもよいが、樹脂の溶解度の観点からは、液体ジメチルエーテルが好ましい。但し、液化溶剤は、液体ジメチルエーテル及び/又は液体プロパンに限らず、常温での加圧或いは常圧下での加熱によって気体になり、且つ樹脂を溶かし易いが有機顔料或いはカーボンブラックを溶かし難い性質を有していれば、他の液化溶剤を用いてもよい。
【0052】
例えば、低分子量の他のアルカンであるn-ブタンは、常圧下における沸点が-0.5℃、液化状態での比重が0.58である化合物であって、常温常圧下では気体として存在する。一方、n-ブタンは、25℃において、約0.18MPaという低圧で液化する特性を有する。
イソブタンは、常圧下における沸点が-11.7℃、液化状態での比重が0.56である化合物であって、常温常圧下では気体として存在する。一方、イソブタンは、25℃において、約0.25MPaという低圧で液化する特性を有する。
また、液体n-ブタン又は液体イソブタンには樹脂は溶解するが、有機顔料又はカーボンブラックは殆ど溶解しないと考えられる。よって、プロパンと同様、液体ブタン(液体n-ブタン及び/又は液体イソブタン)を上記液化溶剤として用いることができる。
【0053】
このように、液体プロパン及び液体ブタンのうちの1種又は2種を主成分として含む液化溶剤を用いることもできる。換言すれば、炭素数3又は4の炭化水素を主成分とする液化石油ガスを上記液化溶剤として用いることができる。
【0054】
本実施形態では、液化溶剤として液体ジメチルエーテル、液体プロパン及び/又は液体ブタンのみを用いることが好ましいが、必要に応じて、その他の有機溶剤を併用することも出来る。この様な有機溶剤としては、例えば、アルコール類、ケトン類、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素類、グリコールエーテル類、ハロゲン化炭化水素、含窒素化合物などを挙げることが出来る。ジメチルエーテルと均一に混合し得る有機溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、クロロベンゼン、ニトロベンゼン、テトラヒドロフラン、エタノールアミン、アニリン、ピリジン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、酢酸セロソルブ、酢酸ブチル、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤、メタノール、エタノール、ブタノール、プロパノール、イソプロパノール等のアルコール系溶剤、エチレングリコール、ジエチレングリコール等のグリコール系溶剤、エチレングリコールモノアルキルエーテル、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル、トリエチレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、ジプロピレングリコールモノアルキルエーテルなどのグリコールモノアルキルエーテル類、軽油、動植物油等を使用できる。液体ジメチルエーテル及び/又は液体ジメチルエーテルと併用する上記有機溶剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。上記したその他の有機溶剤としては、ジメチルエーテル及び又はプロパンと均一混合し得る有機溶剤を用いることが好ましい。
【0055】
本実施形態では、留去のし易さの観点から、併用する有機溶剤はできるだけ低沸点であるのが好ましい。併用する有機溶剤は、ジメチルエーテル及び/又はプロパンとの沸点の差を利用し、例えば蒸留等により、分離回収や再利用をすることができる。中でも、ジメチルエーテル及び/又はプロパンとの分離が容易で且つできるだけ低沸点であることがより好ましい。
【0056】
(樹脂)
縮合多環系有機顔料は、用途に応じて各種樹脂に添加することができる。着色樹脂組成物に含有される樹脂は、特に制限は無く、公知の樹脂の1種又は2種以上とすることができる。
例えば、縮合多環系有機顔料を印刷インキに用いる場合、印刷インキは、バインダー樹脂、溶媒、顔料、各種添加剤等を含有することができる。
バインダー樹脂には、例えばニトロセルロース樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂が挙げられる。
縮合多環系有機顔料を着色剤として塗料とする場合、塗料として使用される樹脂としては、例えばアクリル樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、フェノール樹脂などが挙げられる。
着色プラスチック成形物として利用される場合、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS樹脂)、ポリスチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂)、ニトリルゴムなどがある。
【0057】
本実施形態に係る着色樹脂組成物の分離方法において、液体ジメチルエーテル、液体プロパン及び液体ブタンのうちの1種又は2種以上を気化することにより得られた気体ジメチルエーテル、気体プロパン及び気体ブタンのうちの1種又は2種以上を還流して、上記液化溶剤を作製する工程における液体ジメチルエーテル、液体プロパン及び液体ブタンのうちの1種又は2種以上として用いてもよい。
【0058】
図3は、図1の分離装置1Aの変形例を示す概略図である。図3では、図1と同様、液化溶剤として液体ジメチルエーテル又は液体プロパンを用いる場合を例に挙げて説明する。
図3に示すように、分離装置1Bは、回収部30と供給部10とをバルブV3,V4を介して連結し、回収部30で生成された気体ジメチルエーテル又は気体プロパンで構成される気化溶剤Sを供給部10に送出する流路40を有している。回収部30と供給部10とは気密に連通されており、回収部30で生成された気化溶剤Sは、気体状態を維持して供給部10に送出される。回収部30で生成された気化溶剤Sは、その一部が流路40を通って供給部10に送出されてもよいし、その全てが流路40を通って供給部10に送出されてもよい。
【0059】
本変形例によれば、着色樹脂組成物Cの分離によって得られた気体ジメチルエーテル又は気体プロパンで構成される気化溶剤Sを還流して、本分離方法で使用される液化溶剤S1として用いるので、ジメチルエーテル又はプロパンを循環させてそのまま再利用することができる。このため、分離処理に必要な液化溶剤の量を少なくすることができ、また、液化溶剤を再利用するための前処理等が不要であり、更には廃棄物の量を低減することができ、簡便且つ低コストで環境負荷の小さい分離方法を実現することができる。
【0060】
図4は、図1の分離装置1Aの他の変形例を示す概略図である。図4では、図1と同様、液化溶剤として液体ジメチルエーテル又は液体プロパンを用いる場合を例に挙げて説明する。
図1の分離装置1Aにおける供給部10では、加圧下で気体ジメチルエーテル又は気体プロパンを液化するが、これに限らず、気体ジメチルエーテル又は気体プロパンを冷却して、液体ジメチルエーテル又は液体プロパンで構成される液化溶剤S1を生成してもよい。
【0061】
例えば、図4の分離装置1Cにおいて、供給部10に、常圧下で気体ジメチルエーテル又は気体プロパンを冷却する冷却部11が設けられてもよい。液化溶剤S1が液体ジメチルエーテル又は液体プロパンで構成される場合、冷却温度を-45~40℃とすることができる。この際、供給部10手前のポンプPにより加圧することで、液化のための冷却温度を高くすることが可能である。この場合、処理部20には、常圧下で気体ジメチルエーテル又は気体プロパンを冷却する冷却部22を設けることができる。また、回収部30には、常圧下で気体ジメチルエーテル又は気体プロパンを加温して常温に戻す加温部31を設けることができる。
【0062】
本変形例によっても、温度変化による状態変化を用いて、縮合多環系有機顔料及び/又はカーボンブラックを含有する着色樹脂組成物Cから、液体ジメチルエーテル又は液体プロパンで構成される液化溶剤S1で樹脂Rを溶かし出して、縮合多環系有機顔料及び/又はカーボンブラックと樹脂Rとを分離することができる。
【0063】
また、供給部10において、気体ジメチルエーテル又は気体プロパンを加圧且つ冷却して、液体ジメチルエーテル又は液体プロパンで構成される液化溶剤S1を生成してもよいし、処理部20において、加圧、冷却下で、液化溶剤S1と着色樹脂組成物Cを接触させて、着色樹脂組成物C中の樹脂Rを液化溶剤S1に溶かし出してもよい。これにより、気体ジメチルエーテル又は気体プロパンを確実に液化させた上で、縮合多環系有機顔料及び/又はカーボンブラックと樹脂Rとを分離することができる。
【実施例
【0064】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0065】
(参考例)
樹脂のジメチルエーテルへの溶解性を確認するため、顔料が練り込まれていない無色の樹脂ペレットを図1の円筒状の細管(カラム)20の中に充填した。ここにジメチルエーテルおよそ50mlを図1の供給部10より、10ml/ml程度の流速で供給した。カラム内での樹脂とのジメチルエーテルの滞留接触時間はおよそ30秒程度であった。圧力解放後にカラム内に残った樹脂の重量を測定し、接触前後の樹脂の重量変化を確認した。表1に幾つかの樹脂での結果を示す。
【0066】
【表1】
【0067】
ポリ塩化ビニルはジメチルエーテルを1回通液しただけで、大きな重量減少が確認された。その他樹脂についても溶解度に応じた通液回数(溶剤量)を設計すればよい。
【0068】
(実施例1)
ジメチルキナクリドン顔料(C.I.ピグメントレッド122)がポリ塩化ビニル樹脂に重量比0.5%で練り込まれた着色樹脂組成物4.2gを、上下にフィルターを配置した円筒状の細管(カラム)である耐圧容器内(処理部)に充填した。この耐圧容器の前後に、開閉可能なバルブV1及びバルブV2を設けて配管を行い、加圧ポンプを取り付けた、液体ジメチルエーテル供給のための耐圧容器(供給部)と、通過した液体ジメチルエーテルを回収するための耐圧容器(回収部)とを取り付けて実験装置を組み立て、バルブV1を開放して液体ジメチルエーテル供給のための耐圧容器(供給部)から、着色樹脂組成物が充填された耐圧容器(処理部)の下方に、液体ジメチルエーテルを供給した。総量300mLを1回当たりの通液量およそ50mLとなる様に分割して、6回に亘って液体ジメチルエーテルを耐圧容器(処理部)の下方から上方に向けて通液した。尚、上記液体ジメチルエーテルとしては、温度35℃、0.8MPaにて液化したジメチルエーテルを用い、各耐圧容器としては、超臨界二酸化炭素を扱う場合の様な高い耐圧性や強度を有しない容器を用いた。
【0069】
液体ジメチルエーテルの通液の都度、耐圧容器(供給部)と耐圧容器(処理部)の間のバルブV1を閉じ、一方で耐圧容器(処理部)と耐圧容器(回収部)の間のバルブV2は開け、耐圧容器(処理部)内の液体ジメチルエーテルが耐圧容器(回収部)に回収されたことを確認した。この操作を繰り返して行い、上記総量の通液が完了した後に、着色樹脂組成物が充填された耐圧容器(処理部)を含む装置内を常温常圧に戻し、左記耐圧容器からフィルターを外して、耐圧容器(処理部)から、ジメチルエーテルと接触させられた着色樹脂組成物の残留物を取り出した。処理部に残った残留物では、ジメチルキナクリドン顔料が着色樹脂組成物よりも濃縮されていることが確認できた。また、耐圧容器(回収部)で回収された液体ジメチルエーテルは、常温常圧に戻すことで気化させ、気体ジメチルエーテルを除去した。耐圧容器(回収部)内には固形のポリ塩化ビニル樹脂が残った。耐圧容器(回収部)に残った固形樹脂は、ほぼ着色しておらず、ジメチルキナクリドン顔料とポリ塩化ビニル樹脂をほぼ完全に分離することができた。
【0070】
(比較例1)
ジメチルキナクリドン顔料(C.I.ピグメントレッド122)に代えて、ジスアゾ顔料(C.I.ピグメントイエロー14)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして着色樹脂組成物の分離を行った。
その結果、耐圧容器(回収部)で回収された液体ジメチルエーテルは、常温常圧に戻すことで気化させ、気体ジメチルエーテルを除去することができた。しかし、耐圧容器(回収部)に残った固形樹脂は、ジスアゾ顔料が樹脂に溶け出して黄色に着色しており、ジスアゾ顔料とポリ塩化ビニル樹脂の分離が不十分であった。
【0071】
(比較例2)
特許第3972516号公報の実施例1を参考に、液体ジメチルエーテルに代えて混合有機溶剤(N-メチル-2-ピロリドン:N,N-ジメチルアセトアミド:ジエチレングリコールジメチルエーテル=45:45:10)を用い、ポリスチレン樹脂にジメチルキナクリドン顔料0.5%が練り込まれた着色樹脂組成物1.0gを、混合有機溶媒900mlを使用して室温で攪拌し、着色樹脂組成物の分離を行った。
その結果、着色樹脂組成物からポリスチレン樹脂の溶解分離はできるが、混合溶媒層は僅かに着色していた。更には、このポリスチレン樹脂溶液から樹脂を回収するのに、高沸点溶剤を蒸発させるのに必要なエネルギー量が実施例1よりも多く、実用性に劣った。加えて、混合溶剤を再利用するためには、溶剤を分留する精留塔も必要となり、より経済性に劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の着色樹脂組成物の分離方法は、着色樹脂組成物のリサイクルを効率的に行えることから、車両、エレクトロニクス、建材等の様々な分野で数多く用いられている着色プラスチック製品の分離方法として好適に用いることができる。
特に、平版インキ、グラビアインキ、フレキソインキ等の印刷インキ;ラッカー、焼き付け塗料等の塗料;ポリオレフィンや熱可塑性ポリエステル等の成形品;ジェットインキ、カラーフィルター、電子写真粉体トナー等のハイテク部品等の分離方法、樹脂リサイクル方法として極めて有用である。
【符号の説明】
【0073】
1A 分離装置
1B 分離装置
1C 分離装置
10 供給部
11 冷却部
20 処理部
21a フィルター
21b フィルター
22 冷却部
30 回収部
31 加温部
40 流路
図1
図2
図3
図4