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特許7586320量子計算装置、量子エラー抑制方法、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】量子計算装置、量子エラー抑制方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06N 10/70 20220101AFI20241112BHJP
【FI】
G06N10/70
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023527158
(86)(22)【出願日】2021-06-07
(86)【国際出願番号】 JP2021021570
(87)【国際公開番号】W WO2022259314
(87)【国際公開日】2022-12-15
【審査請求日】2023-10-23
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2020年10月8日にhttps://arxiv.org/abs/2010.03887v1及びhttps://arxiv.org/pdf/2010.03887v1.pdfにて公開 2020年11月23日にhttps://arxiv.org/abs/2010.03887v2及びhttps://arxiv.org/pdf/2010.03887v2.pdfにて公開 2021年3月9日にhttps://arxiv.org/abs/2010.03887v3及びhttps://arxiv.org/pdf/2010.03887v3.pdfにて公開 2021年3月23日にhttps://arxiv.org/abs/2010.03887v4及びhttps://arxiv.org/pdf/2010.03887v4.pdfにて公開
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004381
【氏名又は名称】弁理士法人ITOH
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100124844
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 隆治
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 傑
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 泰成
(72)【発明者】
【氏名】徳永 裕己
【審査官】千葉 久博
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-269105(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0175409(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0119748(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0010187(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06N 10/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子アルゴリズムの演算を行う演算部と、
前記演算部による演算中に、量子エラー訂正符号を用いて量子エラー訂正を行う量子エラー訂正部と、
前記量子エラー訂正において生じる復号エラーを、量子エラー抑制法によりキャンセルする量子エラー抑制部と、を備える量子計算装置であって、
前記量子エラー抑制部は、ゲートセットトモグラフィにより事前に作成された復号エラーのエラーマップに基づいて、前記量子エラー抑制法としての擬似確率法を用いて前記復号エラーをキャンセルする
量子計算装置。
【請求項2】
前記量子エラー抑制部は、Solovay-Kitaevアルゴリズムにより複数の量子ゲートからある量子ゲートを近似することにより生じる近似エラーを前記量子エラー抑制法によりキャンセルする
請求項1に記載の量子計算装置。
【請求項3】
前記量子エラー抑制部は、前記復号エラーをキャンセルする際に使用するゲート操作をメモリに保存し、量子プロセッサから得られる測定結果に対する事後処理に使用する
請求項1又は2に記載の量子計算装置。
【請求項4】
量子計算装置が実行する量子エラー抑制方法であって、
量子アルゴリズムの演算を行う演算ステップと、
前記演算ステップによる演算中に、量子エラー訂正符号を用いて量子エラー訂正を行う量子エラー訂正ステップと、
前記量子エラー訂正において生じる復号エラーを、量子エラー抑制法によりキャンセルする量子エラー抑制ステップと、を備える量子エラー抑制方法であり、
前記量子エラー抑制ステップにおいて、ゲートセットトモグラフィにより事前に作成された復号エラーのエラーマップに基づいて、前記量子エラー抑制法としての擬似確率法を用いて前記復号エラーをキャンセルする
量子エラー抑制方法。
【請求項5】
コンピュータを、請求項1ないしのうちいずれか1項に記載の量子計算装置における各部として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子情報処理における量子誤り耐性技術に関連するものである。
【背景技術】
【0002】
量子コンピュータや量子ネットワークの可能性が近年注目されている。その実現のためには量子誤り耐性技術が重要である。
【0003】
従来技術における量子誤り耐性計算は、量子エラー訂正を用いて、1論理量子ビットを複数の物理量子ビットを用いて表現し、冗長性を持たせることで計算エラーを減少させるというものである。量子エラー訂正は、冗長性を持たせるための物理量子ビットの物理エラーがある閾値を下回っていれば、スケーラブルに量子コンピュータのサイズを増大させることができることが知られている唯一の手法である(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Endo Suguru, Simon C. Benjamin, and Ying Li. "Practical quantum error mitigation for near-future applications." Physical Review X 8.3 (2018): 031027.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
量子エラー訂正はスケーラブルに量子コンピュータのサイズを拡大することができる手法である一方、非常に大きな量子ビット数がオーバヘッドとして生じる。例えば、現在実現されている量子ビットの10パーセントのエラーレートが実現できたとしても、古典コンピュータでシミュレートすることができない有用な問題を解くのに少なく見積もって数十万量子ビットが必要であるとされている。
【0006】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、誤り耐性量子計算に必要な量子ビット数を大幅に削減することを可能とする技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
開示の技術によれば、量子アルゴリズムの演算を行う演算部と、
前記演算部による演算中に、量子エラー訂正符号を用いて量子エラー訂正を行う量子エラー訂正部と、
前記量子エラー訂正において生じる復号エラーを、量子エラー抑制法によりキャンセルする量子エラー抑制部と、を備える量子計算装置であって、
前記量子エラー抑制部は、ゲートセットトモグラフィにより事前に作成された復号エラーのエラーマップに基づいて、前記量子エラー抑制法としての擬似確率法を用いて前記復号エラーをキャンセルする
量子計算装置が提供される。

【発明の効果】
【0008】
開示の技術によれば、誤り耐性量子計算に必要な量子ビット数を大幅に削減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施の形態における量子計算装置の構成図である。
図2】制御装置の機能構成図である。
図3】量子計算装置の動作を説明するためのフローチャートである。
図4】量子エラー抑制の概要を説明するための図である。
図5】パウリフレームの概要を説明するための図である。
図6】量子エラー抑制を取り入れたパウリフレームの概要を説明するための図である。
図7】制御装置のハードウェア構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態(本実施の形態)を説明する。以下で説明する実施の形態は一例に過ぎず、本発明が適用される実施の形態は、以下の実施の形態に限られるわけではない。
【0011】
例えば、以下の例では、復号エラー及び近似エラーをキャンセルするための量子エラー抑制法として擬似確率法を用いているが、擬似確率法以外の量子エラー抑制法(例:外挿法、対称性検証法、部分空間展開法など)を使用してもよい。
【0012】
(実施の形態の概要)
本実施の形態では、誤り耐性量子計算に必要な量子ビット数を大幅に削減するために、量子コンピュータが、量子エラー訂正法と量子エラー抑制法を組み合わせた誤り耐性量子計算を実行する。
【0013】
量子エラー抑制法は量子ビット数を増やさずに量子コンピュータのエラーを抑制する方法であるが、そのコストとして測定回数を増やさなくてはならない。その測定回数の増加は量子コンピュータ中で発生するエラーに対して指数関数的に増加するため、量子エラー抑制法はスケーラブルな手法ではないが、計算エラーが量子回路全体で1~2個の場合は測定回数の増加は許容範囲内であり、非常に有用である。
【0014】
本実施の形態では、量子エラー訂正によって、計算エラーを1~2回程度まで抑え、それ以上計算エラーを抑えるために量子エラー抑制を行うこととしている。これにより、誤り耐性量子計算を行うために必要な量子ビット数が劇的に削減できることが期待できる。
【0015】
更に、本実施の形態における誤り耐性量子計算において、任意の量子ゲートを実装するために、H、T、CNOTを複数使ってSolovay-Kitaevアルゴリズムを用いて近似する。その際、近似エラーが生じてしまうが、本実施の形態に係る手法によりその近似エラーも抑制することができる。なお、Solovay-Kitaevアルゴリズムについては、Nielsen, M. A., & Chuang, I. (2002). Quantum computation and quantum informationに記載されている。
【0016】
以下、本実施の形態に係る装置構成、及び装置動作について説明する。
【0017】
(装置全体構成)
図1に、本実施の形態における量子計算装置300の構成例を示す。「量子計算装置」を「量子コンピュータ」と呼んでもよい。
【0018】
図1に示すとおり、量子計算装置300は、制御装置100と量子プロセッサ200を備える。制御装置100は、量子プロセッサ200に制御信号を送信し、量子プロセッサ200から計算結果(測定結果)を取得することで、誤り耐性量子計算を行う。制御装置100は、例えば古典コンピュータにより実現できる。なお、以降、「コンピュータ」は「古典コンピュータ」を意味する。
【0019】
量子プロセッサ200は、物理量子ビットと呼ばれる量子2準位系を構成するとともに、物理量子ビットに対して、初期化、ゲート操作(ユニタリ変換)、測定などの物理演算を行う。物理量子ビットを実現するための物理系は特に限定はなく、どの物理系を使用してもよい。例えば、物理系として、超伝導回路、イオントラップ、光子、量子ドット等を使用することができる。これらの物理系については、Nielsen, M. A., & Chuang, I. (2002). Quantum computation and quantum informationに記載されている。
【0020】
以下では主に制御装置100の構成と動作について説明する。なお、制御装置100の動作において、物理的には、量子プロセッサ200に信号を送信し、量子プロセッサ200から情報を受信することで処理が進められるが、説明の便宜上、以下の説明においては、この物理的動作を明示的には示さず、制御装置100の動作に暗黙的に含まれるものとして説明を行う。例えば、制御装置100が「量子アルゴリズムの演算」を行うといった場合、「量子アルゴリズムの演算」には、量子プロセッサ200への信号送信と、量子プロセッサ200からの情報受信が含まれている。なお、後述するパウリフレームを使用する場合のように、物理的に量子プロセッサ200への操作を行うことなく量子演算を行う場合もある。
【0021】
(制御装置の構成)
図2に、制御装置100の機能構成例を示す。図2に示すように、制御装置100は、演算部110、量子エラー抑制部120、量子エラー訂正部130、エラーマップ作成部140、記憶部150を備える。各部の機能概要は下記のとおりである。
【0022】
量子エラー訂正部130は、スタビライザ符号等の量子エラー訂正符号の手法に従って、複数の量子ビットから論理量子ビットと呼ばれる擬似的な2準位系を構成し、量子ビットの符号化及び復号を行うことでエラー訂正(誤り訂正)を行う。
【0023】
演算部110は、論理量子ビットに適切な順番で論理演算を実行することにより、目的とする量子アルゴリズムの演算を行う。量子エラー訂正を行う場合の演算は、符号化された状態のまま、論理量子ビットに対する論理量子ゲートの操作により行われる。
【0024】
エラーマップ作成部140は、量子エラー訂正部130における復号エラーのエラーマップを作成し、当該エラーマップを記憶部150に格納する。更に、エラーマップ作成部140は、Solovay-Kitaevアルゴリズムにより量子ゲートを近似した場合に生じる近似エラーのエラーマップを算出し、当該エラーマップを記憶部150に格納する。
【0025】
量子エラー抑制部120は、演算部110による演算中、復号エラーのエラーマップに基づいて、量子エラー訂正部130における復号エラーをキャンセルするとともに、近似エラーのエラーマップに基づいて、近似エラーをキャンセルする。
【0026】
なお、図1図2の例では、量子計算装置300を、量子プロセッサ200と制御装置100とを有する構成として示しているが、これは例である。例えば、量子計算装置300が、量子プロセッサ200、演算部110、量子エラー抑制部120、量子エラー訂正部130、エラーマップ作成部140、記憶部150を備えるものであってもよい。また、量子プロセッサ200を含まない制御装置100を量子計算装置と呼んでもよい。
【0027】
(制御装置の動作)
以下、図3のフローチャートを参照して、制御装置100の動作例を説明する。
【0028】
<S1(ステップ1)>
S1において、エラーマップ作成部140が、量子エラー訂正部130により量子エラー訂正を行った時の、エラー訂正に失敗することによる残ったエラーである復号エラー(符号距離が不十分なことにより生じるエラー等)のエラーマップを算出する。ここでは、ゲートセットトモグラフィと呼ばれるエラー同定手法を用いてエラーマップを特徴付ける(作成する)。なお、エラーマップは、エラーの発生状態を識別できる情報であればどのような情報であってもよく、例えば、各操作についてのエラー発生の確率を用いた確率的情報であってもよい。
【0029】
ゲートセットトモグラフィは、量子状態トモグラフィと量子プロセストモグラフィとPOVMトモグラフィの実験をまとめて行い、得られた実験データから量子状態量子ゲート測定(POVM)の全てを同時に推定する、というアプローチにより、エラーの発生を調べる手法である。ゲートセットトモグラフィ自体は例えば非特許文献1に開示されているとおり既知の手法である。
【0030】
なお、復号エラーのエラー同定手法は、ゲートセットトモグラフィに限定されるわけではなく、他のエラー同定手法を用いてもよい。
【0031】
<S2>
演算部110は、Solovay-Kitaevアルゴリズムを用いることで、複数のH、T、CNOTから任意の量子ゲートを近似する。つまり、任意の量子ゲートの操作を、Solovay-Kitaevアルゴリズムを用いることで、複数の単純な量子ゲートの組み合わせで近似することができる。
【0032】
このため、近似エラーが発生する。そこで、S2では、エラーマップ作成部140が、予めSolovay-Kitaevアルゴリズムによって生じる論理単一ゲート操作のエラーマップを算出しておく。算出したエラーマップは記憶部150に格納する。近似エラーのエラーマップに関しては、目的とする量子ゲートの情報と、近似された量子ゲートの情報を用いて、事前に正確に算出することができる。
【0033】
<S3>
演算部110は、目的とする量子アルゴリズムの演算を開始する。演算中、量子エラー訂正部130による符号化及び復号によるエラー訂正がなされる。量子エラー訂正部130によるエラー訂正は、スタビライザ符号や魔法状態蒸留(magic-state distillation)により行われる。なお、スタビライザ符号や魔法状態蒸留などのエラー訂正手法については、Nielsen, M. A., & Chuang, I. (2002). Quantum computation and quantum informationに記載されている。
【0034】
<S4>
演算部110による演算中、量子エラー抑制部120は、S1で作成したエラーマップを用いて、量子エラー訂正部130によるエラー訂正中に発生する復号エラーをキャンセルする。
【0035】
より具体的には、量子エラー抑制部120は、量子エラー抑制手法の一つである擬似確率法を用いて復号エラーをキャンセルする。非特許文献1にquasi-probability decompositionとして開示されているように、擬似確率法自体は既存技術である。
【0036】
擬似確率法は、エラーマップの逆変換を、量子回路の操作と測定結果の事後処理により実効的に作用させることで、エラーをキャンセルする手法である。本実施の形態における擬似確率法では、復号エラーを打ち消す際、物理的に量子回路に操作を施す代わりに、パウリフレームと呼ばれる古典メモリを更新することにより、物理的に量子プロセッサを操作しなくても、古典処理のみによってエラーをキャンセルすることができる。なお、パウリフレームについては、L. Riesebos, X. Fu, S. Varsamopoulos, C. G. Almudever, and K. Bertels, Pauli frames for quantum computer architectures, in Proceedings of the 54th Annual Design Automation Conference 2017 (2017) pp. 1-6に記載されている。
【0037】
ここで、図4(a)、(b)を参照して、擬似確率法を想定した量子エラー抑制の概要を説明する。図4(a)は、(b)との比較のために、量子エラー抑制を行わない場合の量子計算を示している。
【0038】
図4(a)に示すように、量子回路の演算が多数回繰り返され、各回の測定結果が収集され、平均を計算する。量子エラー抑制を行わない場合、図4(a)の右端に示すように、量子回路の実装が不完全であるため、分布は理想値からはずれた分布になる。なお、理想値は、量子回路がエラーなく完全に実装されたとした場合に想定される期待値である。
【0039】
量子エラー抑制を行う場合、図4(b)に示すように、元の回路が、エラーキャンセルのための修正回路(modified circuit)に置き換えられる。各修正回路は乱数により決められ、乱数(修正回路)の分布は、前述のゲートセットトモグラフィにより測定されたエラーマップ(エラーモデル)に依存する。乱数の生成、修正回路による操作を繰り返すことで、エラーマップの逆変換を実効的に作用させることができる。図4(b)の右端の図は、エラーマップの逆変換を実効的に作用させたことで、測定結果の平均が理想値になったことを示している。
【0040】
パウリフレームの概要を図5図6を参照して説明する。図5は、説明のために、量子エラー抑制を含まない場合のパウリフレームの概要を示している。具体的には、スタビライザの測定結果であるシンドロームから推定されるエラー訂正用(リカバリ用)のパウリ操作(Recover)を作用させることを示している。ただし、当該リカバリ用の操作を物理的に量子プロセッサに適用せずに、パウリフレームと呼ばれる古典メモリに格納する。リカバリ操作は、ゲート操作の度に更新される。最後に、パウリフレームに格納されている操作に応じて、測定結果に事後処理が施される。
【0041】
図6は、図5に示したリカバリ操作に加えて、上述した擬似確率法で量子エラー抑制(QEM)を行う場合のパウリフレームの概要を示している。量子エラー抑制におけるエラーキャンセルのためのリカバリ操作がパウリ操作である場合、当該リカバリ操作を物理的に量子プロセッサに適用せずに、パウリフレーム(古典メモリ)に格納する。リカバリ操作は、ゲート操作の度に更新される。また、パリティも更新される。パウリフレームに格納されている操作、パリティ、量子エラー抑制コストに応じて、測定結果に事後処理が施される。なお、測定結果への事後処理は、後述するS7で行われる処理である。
【0042】
<S5>
S5において、演算部110による演算中、量子エラー抑制部120は、擬似確率法を用いて、S2で算出した近似エラーのエラーマップに基づき、近似エラーをキャンセルする。処理動作はS4でのキャンセル処理と同様である。
【0043】
<S6>
演算部110による演算中、S4とS5を繰り返す。演算部110による演算が終了したら、S7に進む。
【0044】
<S7>
S7において、例えば量子エラー抑制部120が、量子プロセッサ200から測定結果を読み出す。量子エラー抑制部120は、擬似確率法のプロセスと、パウリフレームの状態に従って、測定結果に事後処理を施し、その事後処理が施された測定結果を記憶部150に保存する。事後処理を施すとは、例えば、"1"を"0"に修正したり、"0"を"1"に修正したりすることである。
【0045】
<S8>
S3~S7を繰り返し、繰り返しが終了したらS9に進む。繰り返し回数は予め定めてもよいし、測定結果の平均値がある値に収束するまで繰り返すこととしてもよい。
【0046】
<S9>
例えば量子エラー抑制部120が、S3~S7の繰り返しにより得られた測定結果の平均値を、計算エラーが抑制された測定結果として出力する。また、量子エラー抑制部120は、計算エラーが抑制された測定結果を記憶部150に格納することとしてもよい。
【0047】
(制御装置の構成例)
制御装置100は、例えば、コンピュータにプログラムを実行させることにより実現できる。このコンピュータは、物理的なコンピュータであってもよいし、クラウド上の仮想マシンであってもよい。
【0048】
すなわち、制御装置100は、コンピュータに内蔵されるCPUやメモリ等のハードウェア資源を用いて、制御装置100で実施される処理に対応するプログラムを実行することによって実現することが可能である。上記プログラムは、コンピュータが読み取り可能な記録媒体(可搬メモリ等)に記録して、保存したり、配布したりすることが可能である。また、上記プログラムをインターネットや電子メール等、ネットワークを通して提供することも可能である。
【0049】
図7は、上記コンピュータのハードウェア構成例を示す図である。図7のコンピュータは、それぞれバスBSで相互に接続されているドライブ装置1000、補助記憶装置1002、メモリ装置1003、CPU1004、インタフェース装置1005、表示装置1006、入力装置1007、出力装置1008等を有する。
【0050】
当該コンピュータでの処理を実現するプログラムは、例えば、CD-ROM又はメモリカード等の記録媒体1001によって提供される。プログラムを記憶した記録媒体1001がドライブ装置1000にセットされると、プログラムが記録媒体1001からドライブ装置1000を介して補助記憶装置1002にインストールされる。但し、プログラムのインストールは必ずしも記録媒体1001より行う必要はなく、ネットワークを介して他のコンピュータよりダウンロードするようにしてもよい。補助記憶装置1002は、インストールされたプログラムを格納すると共に、必要なファイルやデータ等を格納する。
【0051】
メモリ装置1003は、プログラムの起動指示があった場合に、補助記憶装置1002からプログラムを読み出して格納する。CPU1004は、メモリ装置1003に格納されたプログラムに従って、制御装置100に係る機能を実現する。インタフェース装置1005は、ネットワークや量子プロセッサ200に接続するためのインタフェースとして用いられる。表示装置1006はプログラムによるGUI(Graphical User Interface)等を表示する。入力装置1007はキーボード及びマウス、ボタン、又はタッチパネル等で構成され、様々な操作指示を入力させるために用いられる。出力装置1008は演算結果を出力する。
【0052】
(実施の形態の効果)
量子エラー訂正において生じる復号エラーを減少させるには、本来符号化に用いる量子ビット数を増やさなければならないが、本実施の形態では、量子エラー抑制を用いて復号エラーをキャンセルするので、劇的に必要な量子ビットを削減できる。例えば、物理量子ビットのエラーレートがエラーの閾値の10%程度であり、もし実験者が復号エラーの10%の精度で復号エラーの推定を行うことができれば、符号距離が2程度削減できる。もし元の符号距離が11であれば、33%程度の量子ビット数が削減できる。
【0053】
(実施の形態のまとめ)
本明細書には、少なくとも下記各項の量子計算装置、量子エラー抑制方法、及びプログラムが開示されている。
(第1項)
量子アルゴリズムの演算を行う演算部と、
前記演算部による演算中に、量子エラー訂正符号を用いて量子エラー訂正を行う量子エラー訂正部と、
前記量子エラー訂正において生じる復号エラーを、量子エラー抑制法によりキャンセルする量子エラー抑制部と、
を備える量子計算装置。
(第2項)
前記量子エラー抑制部は、ゲートセットトモグラフィにより事前に作成された復号エラーのエラーマップに基づいて、前記量子エラー抑制法としての擬似確率法を用いて前記復号エラーをキャンセルする
第1項に記載の量子計算装置。
(第3項)
前記量子エラー抑制部は、Solovay-Kitaevアルゴリズムにより複数の量子ゲートからある量子ゲートを近似することにより生じる近似エラーを前記量子エラー抑制法によりキャンセルする
第1項又は第2項に記載の量子計算装置。
(第4項)
前記量子エラー抑制部は、前記復号エラーをキャンセルする際に使用するゲート操作をメモリに保存し、量子プロセッサから得られる測定結果に対する事後処理に使用する
第1項ないし第3項のうちいずれか1項に記載の量子計算装置。
(第5項)
量子計算装置が実行する量子エラー抑制方法であって、
量子アルゴリズムの演算を行う演算ステップと、
前記演算ステップによる演算中に、量子エラー訂正符号を用いて量子エラー訂正を行う量子エラー訂正ステップと、
前記量子エラー訂正において生じる復号エラーを、量子エラー抑制法によりキャンセルする量子エラー抑制ステップと、
を備える量子エラー抑制方法。
(第6項)
コンピュータを、第1項ないし第4項のうちいずれか1項に記載の量子計算装置における各部として機能させるためのプログラム。
【0054】
以上、本実施の形態について説明したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0055】
100 制御装置
110 演算部
120 量子エラー抑制部
130 量子エラー訂正部
140 エラーマップ作成部
150 記憶部
200 量子プロセッサ
300 量子計算装置
1000 ドライブ装置
1001 記録媒体
1002 補助記憶装置
1003 メモリ装置
1004 CPU
1005 インタフェース装置
1006 表示装置
1007 入力装置
1008 出力装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7