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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】金属膜片形成不織布およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06M 11/83 20060101AFI20241112BHJP
【FI】
D06M11/83
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022006352
(22)【出願日】2022-01-19
(65)【公開番号】P2023105493
(43)【公開日】2023-07-31
【審査請求日】2023-09-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000195029
【氏名又は名称】星和電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501241645
【氏名又は名称】学校法人 工学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(72)【発明者】
【氏名】堂浦 剛
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 光史
(72)【発明者】
【氏名】永井 裕己
【審査官】山下 航永
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0092739(US,A1)
【文献】特開平08-315811(JP,A)
【文献】特開2010-001581(JP,A)
【文献】特表2011-504210(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 10/00 - 23/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属錯体および金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種とアンモニアおよびアミンから選ばれる少なくとも1種との反応生成物を有する金属前駆体液と、有機還元剤と、が含有されてなる金属膜片形成用組成物に、不織布を浸漬した後、乾燥させることで、不織布を構成する各フィラメントの表面に、金属膜片分散状態で形成されてなり、
平面全ての2点間、表裏全ての2点間での電気抵抗が100MΩ以上となされ
30mm×30mmの大きさに切断し、殺菌処理した後、滅菌済みのシャーレに入れ、NBRC3972大腸菌をリン酸緩衝液で9×105~3×106cfu/mlの濃度に調製した試験菌液を0.1ml滴下し、35±1℃で24時間培養後、9.9mlのSCDLP培地を用いて十分に洗い出しを行った後、段階希釈により1:10000希釈水まで希釈し、各希釈菌液を寒天平板培養法により35±1℃で48時間培養した結果、得られる生菌数が0となされたことを特徴とする金属膜片形成不織布。
【請求項2】
金属がCuとなされた請求項1に記載の金属膜片形成不織布。
【請求項3】
不織布は、天然繊維または樹脂繊維からなる請求項1または2に記載の金属膜片形成不織布。
【請求項4】
金属錯体および金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種とアンモニアおよびアミンから選ばれる少なくとも1種との反応生成物を有する金属前駆体液と、有機還元剤と、が含有されてなる金属膜片形成用組成物に、不織布を浸漬する工程と、
当該浸漬後の不織布を乾燥させる工程と、
によって、不織布を構成する各フィラメントの表面に、金属膜片を分散状態で形成する金属膜片形成不織布の製造方法であって、
平面全ての2点間、表裏全ての2点間での電気抵抗が100MΩ以上となるように、不織布を構成する各フィラメントの表面に金属膜片を分散状態で形成するとともに、30mm×30mmの大きさに切断し、殺菌処理した後、滅菌済みのシャーレに入れ、NBRC3972大腸菌をリン酸緩衝液で9×105~3×106cfu/mlの濃度に調製した試験菌液を0.1ml滴下し、35±1℃で24時間培養後、9.9mlのSCDLP培地を用いて十分に洗い出しを行った後、段階希釈により1:10000希釈水まで希釈し、各希釈菌液を寒天平板培養法により35±1℃で48時間培養した結果、得られる生菌数が0となるように、浸漬時間、浸漬圧力、浸漬および乾燥回数を調整することを特徴とする金属膜片形成不織布の製造方法。
【請求項5】
1日間、大気圧下で1回の浸漬および乾燥を行う請求項4に記載の金属膜片形成不織布の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不織布に、金属を分散状態で付与してなる金属膜片形成不織布とその製造方法とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、不織布等の繊維にCuなどの金属を製膜することで、消臭や殺菌などの効果を奏するようになされた消臭性繊維シートや殺菌性フィルタが知られている(例えば、特許文献1~3参照)。
【0003】
従来より、このような不織布等の繊維に金属製膜を行う方法として専用の溶液に浸漬して乾燥させることで製膜することが行われており、電気伝導性および熱伝導性が良好となるように製膜することが行われていた(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭52-44458号公報
【文献】特開昭58-8530号公報
【文献】特開2006-14965号公報
【文献】特開2021-70873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来の製膜方法のように、電気伝導性および熱伝導性が良好となるように製膜すると、製膜した基材表面の金属膜中では、広範囲の金属膜中を電子が自由に行き来することができる。すなわち、上記従来の製膜方法で製膜した金属膜は、一価銅化合物の表面から電子が放出され空気中の酸素と反応して超酸化物が発生し、その超酸化物が空気中の水分と反応して活性酸素が発生し、その活性酸素が抗菌性を発揮することとなるが、金属製膜した殺菌性フィルタ全体が一つの導体となっているので、外的要因で金属膜の特定部位に電位差を生じるようなことがあると、自由電子の動きが制限されて電子の放出に偏りが生じやすくなり、当該金属膜全体が均等に抗菌作用を発揮し難くなってしまう。特に、金属製膜を行う基材が不織布のような厚みを有していて表面と内部とで全く環境が異なるものの場合、その現象が顕著となり、優れた抗菌性能が得られなくなってしまう。
【0006】
また、この金属製膜した殺菌性フィルタを各種流体の浄化フィルタとして使用するような場合、当該殺菌性フィルタを通過させた流体中のダストを、当該殺菌性フィルタによって捕獲して流体を浄化することに使用されるが、この際、殺菌性フィルタの厚み方向に均等にダストが捕獲されることはなく、流体が通過する上流側の面から捕獲されることが通常である。したがって、殺菌性フィルタは、当該殺菌性フィルタの下流側の面が綺麗でも、上流側の面が目詰まりを起こすほどダストが捕獲されているようなことになるため、1~数カ月単位の交換の目安が示されており、その都度、新品に交換して使用する使い捨てタイプのものが通常である。そのため、電気伝導性が良好となるように緻密な金属膜を製膜しても、金属膜による抗菌性の効果を使い果たす前に、殺菌性フィルタ自体を新しいものに交換しなければならず、電気伝導性を確保する緻密な金属膜を形成するための製造コストや、緻密に製膜した金属膜自体が無駄になってしまう。
【0007】
本発明は、係る実情に鑑みてなされたものであって、不織布のようにフィラメントが入り組んで構成された基材に対して金属製膜した場合であっても、良好な抗菌効果を得ることができ、しかも簡単かつ安価に製造することができる金属膜片形成不織布およびその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明の金属膜片形成不織布は、金属錯体および金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種とアンモニアおよびアミンから選ばれる少なくとも1種との反応生成物を有する金属前駆体液と、有機還元剤と、が含有されてなる金属膜片形成用組成物に、不織布を浸漬した後、乾燥させることで、不織布を構成する各フィラメントの表面に、金属膜片分散状態で形成されてなり、平面全ての2点間、表裏全ての2点間での電気抵抗が100MΩ以上となされ、30mm×30mmの大きさに切断し、殺菌処理した後、滅菌済みのシャーレに入れ、NBRC3972大腸菌をリン酸緩衝液で9×105~3×106cfu/mlの濃度に調製した試験菌液を0.1ml滴下し、35±1℃で24時間培養後、9.9mlのSCDLP培地を用いて十分に洗い出しを行った後、段階希釈により1:10000希釈水まで希釈し、各希釈菌液を寒天平板培養法により35±1℃で48時間培養した結果、得られる生菌数が0となされたものである。
【0010】
上記金属膜片形成不織布は、金属がCuとなされたものであってもよい。
【0011】
上記金属膜片形成不織布において、不織布は、天然繊維または樹脂繊維からなるものであってもよい。
【0012】
上記課題を解決する本発明の金属片形成不織布の製造方法は、金属錯体および金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種とアンモニアおよびアミンから選ばれる少なくとも1種との反応生成物を有する金属前駆体液と、有機還元剤と、が含有されてなる金属膜片形成用組成物に、不織布を浸漬する工程と、
当該浸漬後の不織布を乾燥させる工程と、によって、不織布を構成する各フィラメントの表面に、金属膜片を分散状態で形成する金属膜片形成不織布の製造方法であって、平面全ての2点間、表裏全ての2点間での電気抵抗が100MΩ以上となるように、不織布を構成する各フィラメントの表面に金属膜片を分散状態で形成するとともに、30mm×30mmの大きさに切断し、殺菌処理した後、滅菌済みのシャーレに入れ、NBRC3972大腸菌をリン酸緩衝液で9×105~3×106cfu/mlの濃度に調製した試験菌液を0.1ml滴下し、35±1℃で24時間培養後、9.9mlのSCDLP培地を用いて十分に洗い出しを行った後、段階希釈により1:10000希釈水まで希釈し、各希釈菌液を寒天平板培養法により35±1℃で48時間培養した結果、得られる生菌数が0となるように、浸漬時間、浸漬圧力、浸漬および乾燥回数を調整するものである。
【0014】
上記金属膜片形成不織布の製造方法は、1日間、大気圧下で1回の浸漬および乾燥を行うものであってもよい。
【0015】
[金属前駆体液]
上記金属前駆体液は、金属錯体および金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種と、アンモニアおよびアミンから選ばれる少なくとも1種と溶媒との混合液中で、金属錯体および金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種と、アンモニアおよびアミンから選ばれる少なくとも1種とを反応させて得られる。
【0016】
[金属錯体および金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種]
上記の金属錯体および金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種としては、1種または複数種類の金属錯体のみであってもよいし、1種または複数種類の金属塩のみであってもよいし、1種または複数種類の金属錯体と、1種または複数種類の金属塩との双方を含む混合物であってもよい。
【0017】
上記金属錯体としては、金属錯体を生成し得るNH配位子、RNH配位子(Rはアルキレン基を表す)、OH配位子、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等のジアミン由来の配位子を部分構造として有する化合物から選ばれる金属錯体形成用の化合物の1種以上と、金属イオンとの反応生成物であることが好ましい。金属錯体は、上記反応により予め生成された金属錯体を用いることができる。金属錯体における金属としては、形成される金属膜の目的に応じた金属を用いればよい。金属としては、例えば、銀(Ag)、銅(Cu)、リチウム(Li)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、コバルト(Co)等が挙げられる。金属錯体としては、具体的には、例えば、金属として銅(Cu)を含む、エチレンジアミン四酢酸銅、テトラアンミン銅等が好ましく挙げられる。
【0018】
上記金属塩としては、水を含む溶媒中で解離して金属イオンとなり、金属錯体を形成し得る機能を有する金属化合物である。上記金属塩は、25℃の水に可溶な金属塩を指す。25℃の水に可溶とは、25℃の水に対する溶解度が0.1質量%以上であることを指し、溶解度は1質量%以上であることが好ましい。金属塩が水に可溶であることで、金属塩は水を含む溶媒中で解離して金属イオンとなり、当該金属イオンが溶媒中に含まれるアミン類と反応して金属錯体が得られる。さらに、溶媒中に所望により後述の錯体形成用の化合物が含まれる場合には、当該金属イオンと錯体形成用の化合物とが反応して金属錯体が形成される場合がある。
【0019】
[アンモニアおよびアミンから選ばれる少なくとも1種]
上記のアンモニアおよびアミンから選ばれる少なくとも1種としては、1種または複数種類のアンモニアのみであってもよいし、1種または複数種類のアミンのみであってもよいし、1種または複数種類のアンモニアと、1種または複数種類のアミンとの双方を含む混合物であってもよい。これらは、塩化合物として含まれるものであってもよい。アミンとしては、第一級アミン、第二級アミン、および第三級アミンを包含する。具体的なアミンとしては、アルキルアミン等を挙げることができる。アミンに換えて、またはアミンに加えて、アンモニアを含むことができる。アンモニアとしては、アミンと同様に塩基性を有する各種のものを用いることができる。
【0020】
[溶媒]
上記溶媒としては、上記した金属錯体および金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種と、上記したアンモニアおよびアミンから選ばれる少なくとも1種とを溶解可能なものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、水、水とアルコールとの混合物などの水性溶媒を用いることができる。水は、不純物、特に金属イオン以外のイオンの含有量が少ないことが好ましく、そのような観点からは、精製水、イオン交換水、純水などを用いることが好ましい。アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-プロパノール、イソブタノール、n-ブタノール等の炭素数1~10の1価のアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン等の多価アルコールが挙げられる。
【0021】
溶解性およびハンドリング性の観点からは、水性溶媒として、水、または、水と炭素数1~5の1価のアルコールとの混合物が好ましく、水、または、水と、メタノール、エタノールおよびプロパノールから選ばれるアルコールと、の混合物がより好ましく、水がさらに好ましい。溶媒として、水とアルコールとの混合物を用いる場合の混合比率は目的に応じて適宜選択される。水とアルコールとの混合物を溶媒として用いる場合には、水とアルコールとの混合物全量に対するアルコールの含有量は1質量%~60質量%であることが好ましい。
【0022】
[金属前駆体液の調製]
上記金属前駆体液は、溶媒中に、上記した金属錯体および金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種と、上記したアンモニアおよびアミンから選ばれる少なくとも1種とを含有させ、十分に撹拌して混合することで調製することができる。
【0023】
混合は、常温で行ってもよく、溶解を促進する目的で、溶媒を40℃~60℃に加温して行ってもよい。撹拌方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、混合した溶液を容器に入れ、マグネチックスターラー等の回転子を用いて撹拌する方法、パドル等の回転式撹拌翼を備える撹拌装置にて撹拌する方法、密閉し得る容器に溶液を入れて、容器を振とうさせて撹拌する方法、超音波を照射する方法等、公知の撹拌方法を適用することができる。
【0024】
簡易な方法としては、撹拌翼を備えた撹拌装置を用いる方法が挙げられる。回転翼の回転速度は、300rpm(回転/分:以下同様)~800rpmとすることができ、400rpm~600rpmが好ましい。撹拌は、上記した金属錯体および金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種と、上記したアンモニアおよびアミンから選ばれる少なくとも1種との反応が十分に進行するまで行うことが好ましく、上記した、常温で回転翼を備えた撹拌装置で撹拌する場合には、30分間~90分間程度撹拌することが好ましく、50分間~80分間程度撹拌することがより好ましい。例えば、銅錯体を含む金属前駆体液を調製する場合、十分に撹拌された金属前駆体液は、銅イオンに起因して青色を呈する。
【0025】
上記した金属前駆体液の調製は、公知の分子プレカーサー法を適用して、得るものであってもよい。また、金属前駆体液の調製は、既述のように公知のプレカーサー法を適用することができるが、より純度の高い金属前駆体を得ることができるという観点から、以下の電解工程を含むことが好ましい。すなわち、この電解工程は、金属イオンを透過させず、水素イオンを透過させ得るフィルタを備えた流路を介して連結された一対の電解液槽を備える反応装置において、当該一対の電解液槽のそれぞれにアミンを含む電解液を貯留させ、かつ、金属製の一対の電極を、この電解液に少なくとも一部が接触する位置に配置し、この一対の電極間を、直流電源を介して接続する工程、および、一対の前記電極間に直流電源により電圧を印加して、陽極(アノード)となる電極が浸漬された電解液槽内において、電極である金属由来の金属イオンと電解液とを反応させて金属前駆体液を得る工程である。
【0026】
[有機還元剤]
上記有機還元剤としては、カルボキシ基を有する化合物から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。有機還元剤として、分子内にカルボキシ基を有し、還元剤としての機能を有する有機カルボン酸化合物から適宜選択して用いることが好ましい。
【0027】
有機還元剤としては、例えば、アスコルビン酸、クエン酸、シュウ酸、ギ酸、および3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸等から選ばれる少なくとも1種が挙げられ、金属膜片の形成性がより良好であるという観点からは、アスコルビン酸、クエン酸、および3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、アスコルビン酸およびクエン酸から選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。有機還元剤としてアスコルビン酸を含むことが、金属膜片形成用組成物の好ましい態様の一つとして挙げられる。
【0028】
有機還元剤は水溶液として用いられることが好ましい。水溶液の調製に用いられる水は、金属イオンを含まないか、或いは、金属イオン濃度ができるだけ低いことが、得られる金属膜の均一性の観点から好ましく、したがって、水溶液の調製に用いられる水は、精製水、イオン交換水、純水などを用いることが好ましい。有機還元剤を水に溶解する際には、溶解性を向上させる目的で、溶媒である水を30℃~60℃に加温してもよく、35℃~45℃に加温することが好ましい。溶解は、撹拌しながら行ってもよく、撹拌方法は、既述の金属錯体の溶液の調整方法の項で挙げた撹拌方法を同様に適宜、適用することができる。 有機還元剤の水溶液における特定還元剤の含有量は、10質量%~40質量%の範囲が好ましく、10質量%~30質量%の範囲であることがより好ましい。水溶液全量に対する有機還元剤の含有量が10質量%以上であることで、水溶液に反応に十分な有機還元剤が含まれることになり、含有量が40質量%以下であることで、水溶液の安定性がより良好となる。
【0029】
[金属膜片形成用組成物の調製]
金属膜片形成用組成物は、金属前駆体液と有機還元剤とを混合して得られるが、この際、金属前駆体液と有機還元剤との混合比については、特に限定されるものではなく、目的とする金属に応じて適宜選択することができる。金属膜片形成用組成物に含まれる有機還元剤100質量部に対し、金属前駆体液に含まれる金属イオンが50質量部~400質量部とすることができ、なかでも、得られる金属膜片形成用組成物の金属膜片の形成性がより良好となるという観点からは、有機還元剤100質量部に対し、金属前駆体液に含まれる金属イオンが100質量部~350質量部であることが好ましく、有機還元剤100質量部に対し、金属前駆体液に含まれる金属イオンが150質量部~350質量部とすることがより好ましい。
【0030】
有機還元剤に対する金属イオンの含有量の範囲を上記好ましい範囲とすることで、不織布を構成する各フィラメントの表面により効率よく、金属膜片を形成することができる。有機還元剤100質量部に対する金属前駆体液の混合比が50質量部未満の場合、金属の析出が速やかに行われ難くなり、400質量部を超えると金属イオンの還元性が不足することとなる。
金属膜片形成用組成物の調製における金属前駆体液の含有量は、金属前駆体液を調製する際の、金属錯体の種類と含有量、または、上記した金属前駆体液の調製時の電解工程における電解液の種類、電解液の濃度、直流電流の印加エネルギー、印加時間などを調整することで制御することができる。
【0031】
一般に、金属膜片形成用組成物全量に対する特定の金属化合物の含有量を測定することは困難である。しかし、金属膜片形成用組成物により形成される金属膜片の物性は、金属膜片形成用組成物における金属の含有量に依存する。安定した金属膜片を形成するという観点からは、金属膜片形成用組成物全量に対する金属の含有量は、0.5質量%~10質量%の範囲であることが好ましく、1質量%~8質量%の範囲であることがより好ましい。 金属の含有量が上記範囲であることで、金属膜片形成用組成物により形成される金属膜片の組織がより均一となり、安定した金属膜片を形成することができる。
【0032】
金属膜片形成用組成物中の金属の含有量は、例えば、「錯体化学の基礎 ウェルナー錯体と有機金属錯体」(KS化学専門書:講談社、1989年)に記載の方法で測定することができる。
【0033】
金属膜片形成用組成物における特定還元剤の含有量は、例えば、以下の方法により測定することができる。まず、金属膜片形成用組成物を乾燥させて粉末を作製する。得られた粉末を、熱重量示差熱分析装置(Thermogravimeter-Differential Thermal Analyzer:TG-DTA)を用いて分析することで、特定還元剤の含有量を測定することができる。
【0034】
金属膜片形成用組成物の常温(25℃)におけるpHは6~8が好ましく、pH7.5近傍の中性域がより好ましい。pHは、公知のpHメーターにて測定することができる。
【0035】
[不織布]
不織布としては、シート状に形成されたものであれば、特に限定されるものではなく、目的に応じて適宜選択したものを使用することができる。不織布としては、シルク、コットン、セルロース、麻、などの各種天然繊維をフィラメントとして用いたものであってもよいし、PET、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)等のポリエチレン、ポリカーボネート(PC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート(PMMA)などのアクリル樹脂、ナイロン6などのポリアミド、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂などの各種樹脂繊維をフィラメントとして用いたものであってもよいし、カーボン繊維をフィラメントとして用いたものであってもよいし、ガラス繊維をフィラメントとして用いたものであってもよいし、これらの中から選択される1種または複数種類のフィラメントを混合して構成したものであってもよい。また、不織布を構成する各フィラメントの長さや太さは同じであっても良いし、異なった長さや太さのフィラメントによって構成されたものであってもよい。また、異なった長さや太さのフィラメントを複数種類組み合わせて構成された不織布であってもよい。不織布の目付としては、特に限定されるものではなく、20g/m以上200g/m以下の範囲のものは特に好ましい。また、不織布の厚みとしては、シート状のものであれば、特に限定されるものではなく、50μm以上5mm以下、特に140μm以上760μm以下の範囲のものを使用することが好ましい。
【0036】
[金属膜片形成不織布の製造]
上記金属膜片形成不織布は、上記金属膜片形成用組成物に、不織布を浸漬し、乾燥することによって、不織布を構成する各フィラメントの表面に、金属膜片を分散して形成した状態に製造される。この際、浸漬時間、浸漬圧力、浸漬および乾燥回数は、完成された金属膜片形成不織布の平面の2点間、表裏の2点間での電気抵抗が100MΩ以上の非導電性となるように、不織布を構成する各フィラメントの表面に金属膜片を分散状態で形成することができる条件であれば、特に限定されるものではなく、浸漬時間、浸漬圧力、浸漬および乾燥回数についてそれぞれバッチ試験を行い、該当する条件を満たした浸漬時間、浸漬圧力、浸漬および乾燥回数を採用することができる。浸漬時間としては、例えば、常温(25℃)においては、6時間以上であることが好ましく、12時間以上であることがより好ましい。膜厚を厚くしようとする場合には、浸漬時間または貯留時間は、24時間以上とすることができる。
【0037】
浸漬時間の上限には特に制限はないが、生産性の観点からは、120時間以下とすることができ、90時間以下が好ましい。この際、金属膜片形成用組成物の温度等を、常温以上、例えば、30℃以上、好ましくは40℃以上とすることで、反応速度が上昇し、より短い貯留時間にて金属膜片を形成することができる。温度は、金属膜片形成用組成物に影響を与え難いという観点から、80℃以下が好ましい。例えば、雰囲気温度を35℃とした場合の貯留時間は、4時間以上が好ましく、8時間以上がより好ましい。貯留時間の上限は、常温の場合と同様である。
【0038】
浸漬圧力は、通常雰囲気下の圧力で行うものであってもよいし、減圧下または加圧下で行うものであってもよい。また、フィラメント間に入り込んだ気泡を脱気せずに浸漬するものであってもよいし、脱気させて浸漬するものであってもよい。脱気させる場合は、物理的に不織布表面を押圧してもよいし、浸漬圧力を変更して行うものであってもよい。
【0039】
乾燥は、一般的に行われている自然乾燥、加熱乾燥、送風乾燥などの常法により行うことができる。自然乾燥する場合には、室温にて60分間~5時間静置すればよい。加熱乾燥する場合には、公知の加熱手段を適宜選択して適用することができる。加熱方法としては、例えば、基材裏面からプレート状ヒーター、ヒートロール等の加熱手段を接触させる方法、電気炉等の加熱ゾーンを通過させる方法、赤外線、マイクロ波等のエネルギー線を照射する方法、温風を吹き付ける方法等が挙げられる。加熱乾燥の際の加熱温度には特に制限はない。乾燥効率および基材に対する影響の抑制等を考慮すれば、加熱温度は30℃以上100℃未満の範囲とすることができ、30℃~60℃の範囲とすることが好ましい。加熱乾燥する際の乾燥時間は、生産性の観点から、10秒間~20分間の範囲であることが好ましい。送風乾燥する場合は、環境雰囲気下の空気を送風乾燥するものであっても良いし、前記したように熱風を吹きつけることによって送風乾燥するものであってもよい。
【0040】
金属膜片形成用組成物による金属膜片を構成する金属の付着量としては、特に限定されるものではないが、実際、金属膜片形成不織布は、流体濾過のフィルタとして使用する場合、不織布として本来の目的のために設定されている寿命があるので、1~数カ月、1~数年といった交換期間を有するのが一般的である。したがって、電気抵抗が100MΩ未満の導電性を有するような緻密な金属膜を形成したとしても、フィルタ自体の寿命があるので、緻密に形成したぶんだけ、金属膜を構成する金属が無駄になってしまうことが多い。そのため、フィルタの寿命の間に効率良く抗菌効果を得ることができるだけの、できるだけ少ない量の金属の付着量で金属膜を形成することが、金属膜片形成不織布としては最も効率的である。具体的には、浸漬時間が短く、浸漬圧力が常圧に近く、浸漬および乾燥回数が少なければ、この条件(金属膜片形成不織布の平面の2点間、表裏の2点間での電気抵抗が100MΩ以上)を容易に満たすことができるので、後述する実施例に係る金属膜片形成用組成物の場合、普通に1回の浸漬および乾燥を行うだけで達成することができる。
【0041】
不織布を構成する各フィラメントの表面に形成された金属膜片の分散状態としては、金属膜片形成不織布の平面の2点間、表裏の2点間での電気抵抗が100MΩ以上の非導電性となっていることで確認することができるが、理想的には不織布の表面から内部まで、当該不織布を構成する各フィラメントに対して均等に分散状態となって形成されていることが好ましい。不織布を金属膜片形成用組成物に浸漬する場合、不織布の表面から内部まで、当該不織布を構成する各フィラメントの表面全体に均等に金属膜片形成用組成物を接触させることができるので、上記した均等な分散状態を容易に得ることができる。
【0042】
なお、抗菌効果は、形成された金属膜片を構成する金属分子の自由電子が自由に移動できることが重要だが、図2(a)に示すように、電気伝導性が確保されて金属膜bが不織布cの全体に形成された金属膜形成不織布aのように一つの導体となってしまうと、図2(b)に示すように、当該金属膜形成不織布aの一部が電位差を生じるような環境に置かれた場合、金属膜bを構成する金属分子dの周囲の自由電子eの動きが阻害されてしまい、抗菌効果を発揮できなくなることが懸念されるが、図1(a)に示す金属膜片形成不織布1のように、不織布2を構成する各フィラメントの表面に金属膜片3が分散して形成された状態であれば、分散した各金属膜片3の形成領域では、電気伝導性が独立しているので、各金属膜片3を構成する金属分子31の周囲の自由電子32の動きが確保される。そのため、図1(b)に示すように、当該金属膜片形成不織布1の金属膜片3を形成した一部の領域が、電位差を受けて自由電子32の動きが阻害されるような環境に置かれたとしても、金属膜片3を形成した他の各領域では、金属膜片3を構成する金属分子31の周囲の自由電子32の動きが阻害されることはなく、抗菌効果を発揮することができることとなる。したがって、不織布2を構成する各フィラメントの表面に金属膜片3を分散状態で形成することができていれば、優れた抗菌性が得られることとなる。金属膜片形成不織布1の一部の領域が電位差を受ける環境としては、例えば、この金属膜片形成不織布1を取り付ける筐体やこの筐体を止めている金属製ビスが、金属膜片形成不織布1と電位が異なる電気伝導体によって構成されていて、金属膜片形成不織布1の一部に接触している場合等が考えられる。
【0043】
抗菌効果は、後述する実施例に係る金属膜片形成用組成物の場合、普通に1回の浸漬および乾燥を行った最低限の処理を行っただけでも、所定の抗菌力試験において生菌数0の金属膜片形成不織布を構成することができることが確認できている。この金属膜片形成不織布の性能については、所定の抗菌力試験において生菌数0となるようにバッチ試験を行って浸漬時間、浸漬圧力、浸漬および乾燥回数を決定することで、当該所定の抗菌力試験において生菌数0となる金属膜片形成不織布の製造条件を見い出すことができる。したがって、このバッチ試験から得られる浸漬時間、浸漬圧力、浸漬および乾燥回数等から、当該所定の抗菌力試験において生菌数0となる金属膜片形成不織布を製造することができる。
【0044】
このようにして構成される本発明の金属膜片形成不織布は、当該金属膜片形成不織布の平面の2点間、表裏の2点間での電気抵抗が100MΩ以上となるように、不織布を構成する各フィラメントの表面に金属膜片を分散状態で形成しているだけなので、例えば、金属膜片形成用組成物に不織布を1回浸漬して乾燥させただけの簡単な製法で製造でき、しかも、1回浸漬して乾燥させるだけで、金属膜片を形成する際に使用する金属の量も少ないので、安価に製造することができる。
【0045】
また、金属膜片形成不織布は、不織布を構成する各フィラメントの表面に金属膜片を分散状態で形成することで、各金属膜片の形成領域で金属分子の自由電子の動きが確保されるので、優れた抗菌性が得られる。
【0046】
また、金属膜片形成不織布は、不織布を構成する各フィラメントの表面に金属膜片を分散状態で形成しているので、不織布の素材が本来有している柔軟性や可撓性等の性質を阻害することなく使用することができる。
【0047】
なお、上記の説明では、金属膜片形成用組成物に不織布を浸漬しているが、金属膜片形成用組成物を不織布に付着させる方法としては、特に浸漬する方法に限定されるものではなく、ロールコート、フローコート、スプレーコートなどによって塗布するものであってもよい。ただし、これらの塗布方法の場合、不織布の表面には塗布され易いが、内部には塗布され難くなるため、不織布の表面および内部の全てにおいて、当該不織布を構成する各フィラメントの表面に金属膜片を分散状態で形成することが困難になることが懸念される。しかし、仮にそのようなことになったとしても、金属膜片形成不織布の平面の2点間、表裏の2点間での電気抵抗が100MΩ以上で、かつ、所定の抗菌力試験において生菌数0の金属膜片形成不織布が得られることが確認できれば、金属膜片は、必要な分散状態で形成されていると判断することができる。
【発明の効果】
【0048】
以上述べたように、本発明によると、金属錯体および金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種とアンモニアおよびアミンから選ばれる少なくとも1種との反応生成物を有する金属前駆体液と、有機還元剤と、が含有されてなる金属膜片形成用組成物に、不織布を浸漬した後、乾燥させることで、当該不織布を構成する各フィラメントに金属膜片を分散状態で形成し、平面全ての2点間、表裏全ての2点間での電気抵抗が100MΩ以上となされ、30mm×30mmの大きさに切断し、殺菌処理した後、滅菌済みのシャーレに入れ、NBRC3972大腸菌をリン酸緩衝液で9×105~3×106cfu/mlの濃度に調製した試験菌液を0.1ml滴下し、35±1℃で24時間培養後、9.9mlのSCDLP培地を用いて十分に洗い出しを行った後、段階希釈により1:10000希釈水まで希釈し、各希釈菌液を寒天平板培養法により35±1℃で48時間培養した結果、得られる生菌数が0となされているので、不織布を構成する各フィラメントに付着した各金属分子同士が電気的に導通した一つの膜となるのを防止することができる。したがって、不織布を構成する各フィラメントに付着した各金属分子は、金属膜片単位で個々に電子のやり取りを行うことができることとなるので、この金属膜片を形成した金属膜片形成不織布全体は、当該金属膜片形成不織布の如何なる部位でも均等に優れた抗菌作用を発揮することができることとなる。しかも、この金属膜片形成不織布に形成した金属膜片は、電気伝導性を確保するような緻密な金属膜ではないので、コストもかからず、簡単に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1】(a)は金属膜片形成不織布の全体構成の概略を示す部分断面図、(b)は同金属膜片形成不織布における電子の動きを説明する部分拡大図である。
図2】(a)は従来の金属膜形成不織布の全体構成の概略を示す部分断面図、(b)は同金属膜形成不織布における電子の動きを説明する部分拡大図である。
図3】光電比色計による吸収係数とNBRC3972(Escherchia coli)大腸菌の菌濃度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0050】
[実施例1,2]
(1.銅錯体水溶液の調製)
純水25gに、金属塩であるギ酸銅四水和物2.54gと25質量%アンモニア水4.56gとを加え、室温にて、500rpmの条件で1時間撹拌し、金属前駆体液を得た。得られた金属前駆体の溶液は、目視による観察で深青色を呈していた。
【0051】
(2.アスコルビン酸水溶液の調製)
純水72gと、有機還元剤としてのアスコルビン酸18gとを混合し、液温40℃にて10分間撹拌し、無色透明のアスコルビン酸水溶液を得た。
【0052】
(3.金属膜片形成用組成物の調製)
(1.)で得た金属前駆体液と、(2.)で得たアスコルビン酸水溶液とを、アスコルビン酸100質量部に対し、金属前駆体の溶液中の銅の含有量が300質量部となる比率で混合し、室温にて20分間撹拌混合して金属膜片形成用組成物を得た。混合した直後は、混合液は深緑色を呈していたが、混合を継続したところ、20分後には、得られた金属形成用組成物は黄色に変化した。得られた金属膜片形成用組成物のpHをpH計(PICCOLO+、HANNA Instruments社製)を用いて測定したところ、25℃における金属膜片形成用組成物のpHは7.5であった。
【0053】
(4.金属膜片形成用組成物の基材への付与)
ポリスチレン製プラスチックシャーレ(直径90mm、深さ15mm)に、十分に洗浄したポリエチレン製不織布(長さ:50mm×幅:50mm×厚さ:0.14mm、目付20.0g/m)を配置した。
プラスチックシャーレに、上記で得た金属膜片形成用組成物を30g注入し、不織布を金属膜片形成用組成物に浸漬し、室温にて、1日間静置した。1日後に不織布をプラスチックシャーレから取り出し、純水で5回洗浄した後、室温にて乾燥させ、不織布を構成する各フィラメントの表面に銅が付着された金属膜片形成不織布を得た。
【0054】
[銅の評価]
(1.付着状況について)
上記で得られた金属膜片形成不織布を切断し、当該切断面を元素分析付き電子顕微鏡で観察を行った。電子顕微鏡は、JSM-6010LA(日本電子株式会社製)を用い、加速電圧15Vスポットサイズ60とし、50倍に拡大して2500×1875μmのサイズで断面の元素分析を行ったところ、Cuが定性的に検出された。
【0055】
(2.導電性の評価)
デジタルマルチメータ(Keysight Technologies 社製34401A)を用いて金属膜片形成不織布の平面の2点間、および表裏面の2点間のそれぞれの抵抗値の測定を行った。その結果、測定限界の100MΩを超えてしまう高抵抗を示し、導電性は得られなかったことが確認できた。
【0056】
(3.抗菌性の評価)
上記実施例1で得られた金属膜片形成不織布は、以下の抗菌力試験を行った。
比較対象として銅を付着する前の不織布(比較例1)を用いて同じ抗菌力試験を行った。
抗菌力試験の試験菌としては、独立行政法人製品評価技術基盤機構から入手したNBRC3972(Escherchia coli)大腸菌を用いた。菌液の濃度は、9×10~3×10cfu/mlとなるように、リン酸緩衝液を用いて調製した。これまでの実績から、光電比色計(株式会社アペレ社製AP-120)を用いて測定した吸収係数(Abs)と、菌濃度(cfu/ml)との間には、図3に示すような結果が得られている。したがって、吸収係数が0.065および0.170となるように調製し(9×10~3×10cfu/ml)、これを1/100にすることで、9×10~3×10cfu/mlの菌液を調製した。
金属膜片形成不織布を30mm×30mmの大きさに切断し、紫外線照射により両面の殺菌処理を行った。この殺菌処理した試験片を、滅菌済のシャーレに入れ、この試験片に、上記9×10~3×10cfu/mlの濃度に調製した試験菌液を0.05mlの量で2回の合計0.1mlを滴下した。
35±1℃で24時間培養した後、試験片を滅菌済のストマッカー袋に入れ、9.9mlのSCDLP培地(日本製薬株式会社製)を用いて、十分に洗い出しを行った。
生菌数の確認は、寒天平板培養法により行い、段階希釈により、1:10000希釈水まで確認した。各希釈液をΦ90mmの滅菌シャーレに1mlずつ取り出し、48℃前後に調製した標準寒天培地(日本製薬株式会社製)を注ぎ、撹拌してから固化後、インキュベータ内で35℃±1℃の温度で48時間培養した。
各希釈率の中から、測定に適したシャーレ(発育したコロニー数が約30~300cfu程度)を選定し、コロニー数の測定を行った。
結果を表1に示す。
【0057】
[実施例3,4、比較例1]
ポリエチレン製不織布の厚さを0.40mm、目付を70.0g/mに変更した以外は、上記実施例1と同様にして金属膜片形成不織布を構成し、同様の試験を行った。また、ポリエチレン製不織布の厚さを0.40mm、目付を70.0g/mに変更し、金属膜片を形成しなかったものを比較例1とし、同様の試験を行った。
結果を表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
[実施例5~10、比較例2]
上記実施例1のポリエチレン不織布製フィルタを、厚さ0.17mm、目付20.0g/mのポリプロピレン不織布製フィルタ、厚さ0.51mm、目付100.0g/mのポリプロピレン不織布製フィルタ、厚さ0.76mm、目付200.0g/mのポリプロピレン不織布製フィルタに変更した以外は、上記実施例1と同様にして金属膜片形成フィルタを構成し、同様の試験を行った。また、厚さ0.76mm、目付200.0g/mのポリプロピレン不織布製フィルタに金属膜片を形成しなかったものを比較例2とし、同様の試験を行った。
結果を表2に示す。
【0060】
【表2】
【0061】
表1および表2において、生菌数および抗菌活性値は、次式により算出した。
[生菌数]
N=C×D×V
N:生菌数、C:シャーレ内のコロニー数、D:希釈倍率、V:SCDLP培地量
【0062】
以上の結果から、各実施例に係る銅を付着させた金属膜片形成フィルタは、24時間培養後の生菌数が0の非常に優れた抗菌力を得ることができた。
【0063】
なお、本発明は、その精神または主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施することができる。そのため、上述の実施例はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示すものであって、明細書本文には、なんら拘束されない。さらに、特許請求の範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【符号の説明】
【0064】
1 金属膜片形成不織布
2 不織布
3 金属膜片
31 金属分子
32 自由電子
図1
図2
図3