(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】水硬性材料
(51)【国際特許分類】
C04B 7/14 20060101AFI20241112BHJP
C04B 18/14 20060101ALI20241112BHJP
C04B 22/08 20060101ALI20241112BHJP
C04B 22/06 20060101ALI20241112BHJP
C04B 22/10 20060101ALI20241112BHJP
C04B 18/10 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
C04B7/14
C04B18/14 Z
C04B22/08 A
C04B22/06 Z
C04B22/10
C04B18/10 Z
C04B18/14 A
C04B22/08 Z
(21)【出願番号】P 2021057275
(22)【出願日】2021-03-30
【審査請求日】2024-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091904
【氏名又は名称】成瀬 重雄
(72)【発明者】
【氏名】松島 正明
(72)【発明者】
【氏名】門田 浩史
(72)【発明者】
【氏名】吉田 友香
(72)【発明者】
【氏名】中川 昭人
(72)【発明者】
【氏名】下坂 建一
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-214317(JP,A)
【文献】特開2011-093738(JP,A)
【文献】特開2018-172260(JP,A)
【文献】国際公開第2019/172349(WO,A1)
【文献】特開2004-299922(JP,A)
【文献】特開2004-099425(JP,A)
【文献】特開2022-144509(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00 - 32/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉スラグ粉末、銅スラグ粉末及びアルカリ刺激剤を含
み、
前記高炉スラグ粉末及び前記銅スラグ粉末の合計質量100質量%に対する前記銅スラグ粉末の質量の比率が15%以上20%以下であり、
かつ、セメントを含まない
ことを特徴とする水硬性材料。
【請求項2】
前記高炉スラグ粉末及び前記銅スラグ粉末の合計質量100質量%に対する前記アルカリ刺激剤の質量の比率が外割で5%以上であることを特徴とする請求項
1に記載の水硬性材料。
【請求項3】
高炉スラグ粉末、銅スラグ粉末、フライアッシュ及びアルカリ刺激剤を含み、
前記高炉スラグ粉末、前記銅スラグ粉末及び前記フライアッシュの合計質量100質量%に対する前記銅スラグ粉末の質量の比率が
10%以上
30%以下であ
り
かつ、セメントを含まない
ことを特徴とす
る水硬性材料。
【請求項4】
前記高炉スラグ粉末、前記銅スラグ粉末及び前記フライアッシュの合計質量100質量%に対する前記アルカリ刺激剤の質量の比率が外割で5%以上であることを特徴とする請求項
3に記載の水硬性材料。
【請求項5】
前記高炉スラグ粉末の比表面積が3500cm
2/g以上であることを特徴とする請求項1~
4のいずれか1項に記載の水硬性材料。
【請求項6】
前記アルカリ刺激剤が、水酸化アルカリ、珪酸アルカリ、炭酸アルカリ、ホウ酸アルカリの内の一つ以上であることを特徴とする請求項1~
5のいずれか1項に記載の水硬性材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、セメントと高炉スラグとフライアッシュとアルカリとを含むセメント組成物に水を加えてモルタルを製造することが記載されている。
【0003】
ところで、セメントを製造するためにはセメント焼成工程が必要である。このセメント焼成工程からは多量の二酸化炭素が排出される。このため、下記特許文献1に記載の技術においては、セメントを製造する必要があるためにセメント焼成工程から多量の二酸化炭素を排出してしまうことになる。しかしながら、セメントを用いずに高強度のモルタルを製造することは難しいという問題もある。
【0004】
一方、銅スラグは、銅精錬に伴って産出される鉄を多く含有する副産物である。銅スラグは、国内では一部が重量コンクリート用の重量骨材やケーソン等への充填材料として用いられているものの、その大部分は海外に輸出され埋め立て処分されているのが現状である。そこで、銅スラグの有効活用および用途拡大方法の確立が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、セメントを用いずに銅スラグを用いて高強度のモルタルを製造する方法について研究を重ねた結果、高炉スラグ粉末、銅スラグ粉末及びアルカリ刺激剤を含む水硬性材料と水とを練り混ぜると高強度のモルタルを製造できるとの知見を得た。本発明は、このような知見に基づいてなされたものであって、セメントを用いずに銅スラグを用いて高強度のモルタルを製造可能な水硬性材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第一項目に係る水硬性材料は、高炉スラグ粉末、銅スラグ粉末及びアルカリ刺激剤を含むものである。第一項目によれば、セメントを用いずに銅スラグを用いて高強度のモルタルを製造することができる。なお、この点については後述する試験例で詳細に説明する。
【0008】
本発明の第二項目に係る水硬性材料は、前記高炉スラグ粉末及び前記銅スラグ粉末の合計質量100質量%に対する前記銅スラグ粉末の質量の比率が1%以上99%以下であるものである。ここで、この合計質量100質量%に対する前記アルカリ刺激剤の質量の比率は例えば外割で5%以上である。第二項目によれば、多量の銅スラグを用いて高強度のモルタルを製造することができる。なお、この点については後述する試験例で詳細に説明する。
【0009】
本発明の第一項目に係る水硬性材料にはフライアッシュが含まれていてもよい。本発明の第三項目に係る水硬性材料は、前記高炉スラグ粉末、前記銅スラグ粉末及び前記フライアッシュの合計質量100質量%に対する前記銅スラグ粉末の質量の比率が1%以上99%以下であるものである。ここで、この合計質量100質量%に対する前記アルカリ刺激剤の質量の比率は例えば外割で5%以上である。第三項目によれば、多量の銅スラグを用いて高強度のモルタルを製造することができる。なお、この点については後述する試験例で詳細に説明する。
【0010】
本発明の第四項目に係る水硬性材料は、前記高炉スラグ粉末の比表面積が3500cm2/g以上であるものである。第四項目によれば、さらに高強度のモルタルを製造することができる。
【0011】
なお、上記各項目において、アルカリ刺激剤としては、例えば、水酸化アルカリ、珪酸アルカリ、炭酸アルカリ、ホウ酸アルカリの内の一つ以上を使用することができる。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明によれば、セメントを用いずに銅スラグを用いて高強度のモルタルを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の第一実施形態に係る水硬性材料の実施例及び比較例における結果を示すグラフであって、銅スラグ粉末含有率とモルタルの圧縮強さとの関係を示している。
【
図2】
図2は、本発明の第二実施形態に係る水硬性材料の実施例及び比較例における結果を示すグラフであって、銅スラグ粉末含有率とモルタルの圧縮強さとの関係を示している。
【
図3】
図3は、本発明の第二実施形態に係る水硬性材料の実施例及び比較例における結果を示すグラフであって、銅スラグ粉末含有率とモルタルの圧縮強さとの関係を示している。
【
図4】
図4は、本発明の第二実施形態に係る水硬性材料の実施例及び比較例における結果を示すグラフであって、高炉スラグ粉末の比表面積とモルタルの圧縮強さとの関係を示している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の第一実施形態に係る水硬性材料について説明する。第一実施形態に係る水硬性材料は、高炉スラグ粉末と銅スラグ粉末とアルカリ刺激剤とを含んでいる。アルカリ刺激剤としては、例えば、水酸化アルカリ、珪酸アルカリ、炭酸アルカリ、ホウ酸アルカリの内の一つ以上を使用することができる。具体的には、アルカリ刺激剤として例えば水酸化ナトリウム又は水ガラスを使用することができるが、使用可能なアルカリ刺激剤の種類はこれらに制約されるものではない。
【0015】
第一実施形態に係る水硬性材料においては、高炉スラグ粉末と銅スラグ粉末との合計質量100質量%に対する銅スラグ粉末の質量の比率を1%以上99%以下とすることが好ましい。この比率を1%以上55%以下とすることがより好ましく、この比率を15%以上30%以下とすることがさらに好ましく、この比率を15%以上20%以下とすることが特に好ましい。このようにすると、多量の銅スラグを用いて高強度のモルタルを製造することができる。なお、この合計質量100質量%に対するアルカリ刺激剤の質量の比率については、例えば外割で5%以上、具体的には外割で10%にする。
【0016】
本発明の第二実施形態に係る水硬性材料について説明する。第二実施形態に係る水硬性材料は、上記第一実施形態で用いた高炉スラグ粉末と銅スラグ粉末とアルカリ刺激剤とに加えてフライアッシュをさらに含んでいる。
【0017】
高炉スラグ粉末と銅スラグ粉末とフライアッシュとの合計質量100質量%に対する銅スラグ粉末の質量の比率を1%以上99%以下とすることが好ましい。この比率を10%以上50%以下とすることがより好ましく、この比率を10%以上40%以下とすることがさらに好ましく、この比率を10%以上30%以下とすることが特に好ましい。このようにすると、多量の銅スラグを用いて高強度のモルタルを製造することができる。なお、この合計質量100質量%に対するアルカリ刺激剤の質量の比率については、例えば外割で5%以上、具体的には外割で10%にする。
【0018】
第一実施形態又は第二実施形態に係る水硬性材料を水と練り混ぜて高強度のモルタルを製造するためには、高炉スラグ粉末の比表面積が3500cm2/g以上であると好ましく、この比表面積が4000cm2/g以上(あるいは5000cm2/g以上)であるとより好ましく、この比表面積が7500cm2/g以上であるとさらに好ましく、この比表面積が7970cm2/g以上であると特に好ましい。なお、この明細書において、比表面積とは、ブレーン空気透過装置を用いて測定される比表面積を意味している。この比表面積の具体的な測定法は日本産業規格JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に規定されている。
【0019】
次に、本発明の第一実施形態に係る水硬性材料の実施例及びその比較例について説明する。これら実施例及び比較例においては、JIS R 5201「セメントの物理試験方法」を参考に、水硬性材料、細骨材および水の混練物から得られた供試体の圧縮強さを測定した。なお、細骨材としては、JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に規定される標準砂を用いた。
【0020】
具体的には次のように試験を行った。まず、水に溶解させたアルカリ刺激剤(具体的には水酸化ナトリウム)をホバート型ミキサー(ホバート・ジャパン株式会社製)に投入した。次に、粉体(水硬性材料を構成する材料のうちアルカリ刺激剤を除くもの)をホバート型ミキサーに投入して水硬性材料を作製した。
【0021】
そして、ホバート型ミキサーを30秒間低速モード(回転数:自転140rpm、公転62rpm)で運転することにより水硬性材料及び水の練り混ぜを行った。30秒間経過直後、ホバート型ミキサーを低速モードで運転した状態でホバート型ミキサーに細骨材を投入した。さらに、ホバート型ミキサーを30秒間中速モード(回転数:自転285rpm、公転125rpm)で運転することにより水硬性材料、細骨材及び水の練り混ぜを行った。30秒間経過後にホバート型ミキサーの運転を停止した。その後、ホバート型ミキサーのパドルに付着した混練物(水硬性材料、細骨材及び水の混練物)をパドルから掻き落として75秒間待機した。それから、ホバート型ミキサーを1分間中速モードで運転することにより水硬性材料、細骨材及び水の練り混ぜを行った。1分間経過後、ホバート型ミキサーの運転を停止してホバート型ミキサーから混練物を取り出した。
【0022】
さらに、三連型枠をテーブルバイブレーターに載置した。三連型枠における各型枠は、縦16cm横4cm高さ4cmの直方体に形成されている。また、各型枠においては、その上面のみが開口した構成となっている。次に、テーブルバイブレーターを振動させながら、三連型枠における各型枠に対して、さじを用いて、ホバート型ミキサーから取り出した混練物を型枠の高さ2cmまで15秒間で充填した。その後、引き続きテーブルバイブレーターを振動させた状態で15秒間待機した。15秒間経過後、三連型枠における各型枠に対して、さじを用いて、ホバート型ミキサーから取り出した混練物を型枠の高さ4cmまで15秒間で充填した。これにより、三連型枠における各型枠に充填された混練物は二層になった。それから、引き続きテーブルバイブレーターを振動させながら75秒間待機した。
【0023】
75秒間経過後、テーブルバイブレーターの振動を停止させた。その後、コテを用いて、三連型枠における各型枠の上面から上方にはみ出た混練物を削り取った。さらに、三連型枠における各型枠の上面を平板状プラスチック板により塞いだ。それから、この三連型枠に充填された混練物を20℃の環境において24時間養生した。そして、硬化した混練物を蒸気養生してから脱型してジオポリマー硬化体を得た。具体的に、蒸気養生については、硬化した混練物を、常温から80℃まで3時間かけて昇温させ、80℃の環境で5時間保持し、80℃から常温まで3時間かけて降温させた。さらに、このジオポリマー硬化体をオートクレーブ養生した。具体的に、オートクレーブ養生については、ジオポリマー硬化体を、常温から180℃まで3時間かけて昇温させ、180℃かつ10気圧の環境で5時間保持し、180℃から常温まで3時間かけて降温させた。オートクレーブ養生後のジオポリマー硬化体(供試体)の圧縮強さをJIS R 5201「セメントの物理試験方法」を参考に測定した。
【0024】
表1は、これら実施例又は比較例において使用した材料を示している。表1において、密度、比表面積とは、JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に準じて測定したものを示している。
【0025】
【0026】
表2は、実施例A1-A3及び比較例A1-A2における上記粉体の組成と上記供試体の圧縮強さとの関係を示している。実施例A1-A3においては、上記粉体として高炉スラグ粉末(表1に示すB2-8)と銅スラグ粉末(表1に示すC-5)とを用いた。比較例A1においては、上記粉体として銅スラグ粉末を用いずに上記高炉スラグ粉末のみを用いた。比較例A2においては、上記粉体として高炉スラグ粉末を用いずに上記銅スラグ粉末のみを用いた。
【0027】
【0028】
なお、実施例A1-A3及び比較例A1-A2においては、上記粉体の質量100質量%に対する上記アルカリ刺激剤の質量の比率を外割で10%にし、上記粉体の質量100質量%に対する上記細骨材及び上記水の質量の比率をそれぞれ300%、50%にした。
【0029】
図1は、表2に示す銅スラグ粉末含有率と上記供試体の圧縮強さとの関係を示すグラフである。
図1のプロットは、表2に示す実施例A1-A3及び比較例A1-A2に係るものである。
図1に示す破線は、比較例A1、A2に係るプロットを直線で結んだものである。この破線は、水硬性材料における銅スラグ粉末の質量の比率(すなわち、上記粉体における銅スラグ粉末含有率)から予測される上記供試体の強度を表している。また、
図1に示す実線は、比較例A1と実施例A1-A3と比較例A2とに係るプロットを順番に結んだものである。
【0030】
実施例A1-A3において高炉スラグ粉末と銅スラグ粉末との相乗効果がないと仮定すれば、
図1において上記破線と上記実線とが一致するはずである。しかし、
図1において、上記実線は上記破線よりも上方に位置している。つまり、実施例A1-A3においては、高炉スラグ粉末と銅スラグ粉末との相乗効果によって上記供試体の圧縮強さが高まったと考えられる。
【0031】
また、
図1に示すように、上記実線と上記破線とで示される圧縮強さの差は、銅スラグ粉末含有率が1%以上99%以下の範囲においては、銅スラグ粉末含有率が当該範囲の外にある場合よりも大きくなっている。さらに、この差は、銅スラグ粉末含有率が1%以上55%以下の範囲においてより大きくなっており、銅スラグ粉末含有率が15%以上30%以下の範囲においてさらに大きくなっており、銅スラグ粉末含有率が15%以上20%以下の範囲においては特に大きくなっている。なお、
図1に示すように、銅スラグ粉末含有率が45.3%以下であれば圧縮強さが60N/mm
2以上になる。
【0032】
次に、本発明の第二実施形態に係る水硬性材料における実施例及びその比較例について説明する。これら実施例及び比較例における試験内容は、下記で説明している箇所を除き、上述した本発明の第一実施形態に係る水硬性材料における実施例及び比較例と同様である。
【0033】
表3は、実施例B1-B5及び比較例B1-B2における上記粉体の組成と上記供試体の圧縮強さとの関係を示している。実施例B1-B5においては、上記粉体として実施例A1-A3で用いた高炉スラグ粉末及び銅スラグ粉末に加えてさらにフライアッシュ(表1に示すF1-5)を用いた。比較例B1においては、上記粉体として銅スラグ粉末を用いずに上記高炉スラグ粉末と上記フライアッシュとを用いた。比較例B2においては、上記粉体として高炉スラグ粉末とフライアッシュとを用いずに上記銅スラグ粉末のみを用いた。
【0034】
【0035】
図2は、表3に示す銅スラグ粉末含有率と上記供試体の圧縮強さとの関係を示すグラフである。
図2のプロットは、表3に示す実施例B1-B5及び比較例B1-B2に係るものである。
図2に示す破線は、比較例B1と比較例B2とに係るプロットを直線で結んだものである。この破線は、水硬性材料における銅スラグ粉末の質量の比率(すなわち、上記粉体における銅スラグ粉末含有率)から予測される上記供試体の強度である。また、
図2に示す実線は、比較例B1と実施例B1-B5と比較例B2とに係るプロットを順番に結んだものである。
【0036】
実施例B1-B5において高炉スラグ粉末と銅スラグ粉末との相乗効果がないと仮定すれば、
図2において上記破線と上記実線とが一致するはずである。しかし、
図2において、上記実線は上記破線よりも上方に位置している。つまり、実施例B1-B5においては、高炉スラグ粉末と銅スラグ粉末との相乗効果によって上記供試体の圧縮強さが高まったと考えられる。
【0037】
また、
図2に示すように、上記実線と上記破線とで示される圧縮強さの差は、銅スラグ粉末含有率が1%以上99%以下の範囲においては、銅スラグ粉末含有率が当該範囲の外にある場合よりも大きくなっている。さらに、この差は、銅スラグ粉末含有率が10%以上50%以下の範囲においてより大きくなっており、銅スラグ粉末含有率が10%以上40%以下の範囲においてさらに大きくなっており、銅スラグ粉末含有率が10%以上30%以下の範囲においては特に大きくなっている。なお、
図2に示すように、銅スラグ粉末含有率が54.4%以下であれば圧縮強さは60N/mm
2以上になる。
【0038】
表4は、実施例C1-C3及び比較例C1、B2における上記粉体の組成と上記供試体の圧縮強さとの関係を示している。比較例C1は、高炉スラグ粉末として表1に示すB2-4を使用した点においてのみ比較例B1と異なっている。実施例C1、C2は、それぞれ高炉スラグ粉末として表1に示すB2-4を使用した点においてのみ実施例B1、B2と異なっている。実施例C3は、上記粉体における高炉スラグ含有率とフライアッシュ含有率と銅スラグ粉末含有率とにおいてのみ実施例C1、C2と異なっている。
【0039】
【0040】
図3は、表4に示す銅スラグ粉末含有率と上記供試体の圧縮強さとの関係を示すグラフである。
図3のプロットは、表4に示す実施例C1-C3及び比較例C1、B2に係るものである。
図3に示す破線は、比較例C1、B2に係るプロットを直線で結んだものである。また、
図3に示す実線は、比較例C1と実施例C1-C3と比較例B2とに係るプロットを順番に結んだものである。
【0041】
実施例C1-C3において高炉スラグ粉末と銅スラグ粉末との相乗効果がないと仮定すれば、
図3において上記破線と上記実線とが一致するはずである。しかし、
図3において、上記実線は上記破線よりも上方に位置している。つまり、実施例C1-C3においては、高炉スラグ粉末と銅スラグ粉末との相乗効果によって上記供試体の圧縮強さが高まったと考えられる。
【0042】
また、
図3に示すように、上記実線と上記破線とで示される圧縮強さの差は、銅スラグ粉末含有率が1%以上99%以下の範囲においては、銅スラグ粉末含有率が当該範囲の外にある場合よりも大きくなっている。そして、この差は、銅スラグ粉末含有率が5%以上50%以下の範囲においてより大きくなっており、銅スラグ粉末含有率が5%以上40%以下の範囲においてさらに大きくなっており、銅スラグ粉末含有率が5%以上30%以下の範囲においては特に大きくなっている。なお、
図3に示すように、銅スラグ粉末含有率が22.6%以下であれば圧縮強さは60N/mm
2以上になる。
【0043】
表5は、実施例D1-D3において、上記粉体に含まれる高炉スラグ粉末の比表面積と上記供試体の圧縮強さとの関係を示している。実施例D1-D3においては、上記粉体として高炉スラグ粉末とフライアッシュと銅スラグ粉末とを用いた。なお、実施例D1-D3において、上記フライアッシュ及び上記銅スラグ粉末としては実施例B1-B5と同様のものを使用した。また、実施例D1-D3においては、上記高炉スラグ粉末としてそれぞれ表1に示すB2-5、B2-8及びB1-10を使用した。さらに、実施例D1-D3において、上記粉体における高炉スラグ粉末含有率は60%、上記粉体におけるフライアッシュ含有率は30%、上記粉体における銅スラグ粉末含有率は10%である。
【0044】
【0045】
なお、実施例D1-D3においては、上記粉体の質量に対する上記アルカリ刺激剤の質量の比率を10%にし、上記粉体の質量に対する上記水の質量の比率を50%にした。
【0046】
図4は、表5に示す高炉スラグ粉末の比表面積と上記供試体の圧縮強さとの関係を示すグラフである。
図4のプロットは、表5に示す実施例D1-D3に係るものである。
【0047】
図4において、上記比表面積が5000cm
2/g以上であると上記圧縮強さが65N/mm
2程度まで高まり、上記比表面積が7500cm
2/g以上であると上記圧縮強さが90N/mm
2程度まで高まり、上記比表面積が7970cm
2/g以上であると上記圧縮強さが90N/mm
2超える。
【0048】
以上により次の結論を導出することができる。
図1に示す結果から分かるように、高炉スラグ粉末と銅スラグ粉末とアルカリ刺激剤とを含む水硬性材料によれば、水硬性材料における銅スラグ粉末の質量の比率から予測されるモルタルの強度に比較して、実際に製造されるモルタルの強度を高炉スラグ粉末と銅スラグ粉末との相乗効果によって高めることができる。
【0049】
また、
図1に示す結果から分かるように、高炉スラグ粉末と銅スラグ粉末との合計質量100質量%に対する銅スラグ粉末の質量の比率が1%以上99%以下であると、モルタルの強度を高炉スラグ粉末と銅スラグ粉末との相乗効果によってさらに高めることができる。
【0050】
さらに、
図2及び
図3に示す結果から分かるように、高炉スラグ粉末とフライアッシュと銅スラグ粉末とアルカリ刺激剤とを含む水硬性材料によれば、水硬性材料における銅スラグ粉末の質量の比率から予測されるモルタルの強度に比較して、実際に製造されるモルタルの強度を高炉スラグ粉末と銅スラグ粉末との相乗効果によって高めることができる。
【0051】
また、
図2及び
図3に示す結果から分かるように、高炉スラグ粉末と銅スラグ粉末とフライアッシュとの合計質量100質量%に対する銅スラグ粉末の質量の比率が1%以上99%以下であると、モルタルの強度を高炉スラグ粉末と銅スラグ粉末との相乗効果によってさらに高めることができる。
【0052】
さらに、
図4に示す結果から分かるように、高炉スラグ粉末の比表面積が5000cm
2/g以上であると、さらに高強度のモルタルを製造することができる。ただし、高炉スラグ粉末の比表面積が3500cm
2/g以上であれば、モルタルの強度を50N/mm
2程度まで高めることができると推測することができ、十分に高強度であるモルタルを製造することができると考えられる。